(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120282
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】強化コンクリート構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/20 20060101AFI20220810BHJP
E04C 3/34 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
E04B1/20 A
E04C3/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017080
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504167436
【氏名又は名称】日本コンクリート技術株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】池野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】宇野 州彦
(72)【発明者】
【氏名】篠田 佳男
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 修一
【テーマコード(参考)】
2E163
【Fターム(参考)】
2E163FA02
2E163FD01
2E163FD02
2E163FD42
(57)【要約】
【課題】従来のRC構造物に替わる安全且つ効率的に施工可能な強化コンクリート構造物の提供。
【解決手段】強化コンクリート構造物1は、コンクリート2内に互いに間隔をおいて一定の長さを有する複数の引張補強部材3,3…が埋設され、引張補強部材3,3は、細長平板状のウェブ部4と、ウェブ部4の両側部よりウェブ部4の表面及び裏面と交差する方向に張り出したフランジ部5,5と、ウェブ部4とコンクリート2とを付着させる付着強化手段6、6…とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート内に互いに間隔をおいて配置された一定の長さを有する複数の引張補強部材が埋設された強化コンクリート構造物において、
前記引張補強部材は、細長平板状のウェブ部と、該ウェブ部の両側部より該ウェブ部の表面及び/又は裏面と交差する方向に張り出したフランジ部と、前記ウェブ部と前記コンクリートとを付着させる付着強化手段とを備えていることを特徴とする強化コンクリート構造物。
【請求項2】
前記引張補強部材は、設計で想定される曲げモーメントが作用する方向に弱軸側を向けて前記コンクリート内に配置されている請求項1に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項3】
前記付着強化手段は、前記ウェブ部の表面及び/又は裏面に突設された複数の棒状部材を備えている請求項1又は2に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項4】
前記棒状部材は、外周面に付着強化用凹部が形成されている請求項3に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項5】
前記棒状部材は、頭部に拡径部を備えている請求項3又は4に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項6】
前記棒状部材は、ウェブ部の表面又は裏面に対し千鳥状に配置されている請求項3~5の何れか一に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項7】
前記フランジ部は、前記ウェブ部のポアソン効果によって生じる圧縮力が有効に作用する幅に形成され、
前記棒状部材は、前記引張補強部材の軸方向降伏引張力から前記ウェブ部のポワソン効果により前記フランジ部と前記コンクリートとの間に生じる摩擦力による負担分と、を除いた分のせん断力を負担可能な本数となっている請求項3~6の何れか一に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項8】
互いに間隔をおいて配置された複数の前記引張補強部材が連結部材によって連結されてなる補強部材群を備えている請求項1~7の何れか一に記載の強化コンクリート構造物。
【請求項9】
前記補強部材群が前記コンクリート内に互いに間隔をおいて配置され、前記補強部材群間が群体連結部材によって連結されている請求項8に記載の強化コンクリート構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に橋脚や梁、桁、フーチング等の基礎のように大断面を有する強化コンクリート構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、圧縮力に高い耐性を備える反面、引張力に弱いという性質を有していることから、コンクリート構造物では、引張力に高い耐性を有する鉄筋等の引張補強部材をコンクリート内に埋設したRC構造(Reinforced Concrete)が広く用いられている。
【0003】
従来、この種のRC構造物では、構造物の断面形状、要求される曲げ耐力及びせん断耐力、その他の諸条件に基づいて鉄筋の径や本数、配置が決定されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
特に、橋脚の基礎構造物等のような大断面のコンクリート構造物では、要求される曲げ耐力及びせん断耐力が大きくなるため、多くの鉄筋量が必要とされ、その分、鉄筋の本数及び鉄筋径が増大する場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、巨大化する地震への対応のため耐震設計に関する基準類が改訂されていることから高い曲げ耐力及びせん断耐力が求められる場合が多くなっており、その場合の過密鉄筋が問題となっている。
【0007】
このような過密配筋では、大量の太径の鉄筋が小ピッチ(例えば、100~150mmピッチ)で配置されるため、鉄筋の組み立て作業や検査作業が煩雑であることによる作業効率の低下や、作業スペースが制限されるため作業員の安全性を損なうおそれがあった。
【0008】
また、過密配筋では、打設時におけるコンクリートの充填性等に懸念があり、鉄筋コンクリート構造物の品質低下の原因となるおそれがあった。
【0009】
一方、この種のRC構造物20では、例えば、
図6に示す構造物のように、コンクリート21内に互いに間隔をおいて配置された複数の鉄筋22,22…からなる主鉄筋群が構造物の鉄筋軸直角断面において互いに間隔をおいて上下又は左右で複数段に亘って配置される場合がある。
【0010】
この種の主鉄筋群をユニット化する場合、通常鉄筋は、結束線で相互に結束されるため、予め工場等で上下複数段の鉄筋群を組み立てた状態として施工現場に運搬し、設置することが困難である。
【0011】
そのため、鉄筋群のプレファブ化は困難であり、上下複数段の鉄筋を配筋する際には、施工現場において下段の鉄筋群を組み立てた後、予め鋼材によって製作された架台(所謂ウマ架台)を設置し、この架台に支持させて上段の鉄筋群を組み立てており、作業効率が悪いという問題があった.
【0012】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、従来のRC構造物に替わる安全且つ効率的に施工可能な強化コンクリート構造物の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、コンクリート内に互いに間隔をおいて一定の長さを有する複数の引張補強部材が埋設された強化コンクリート構造物において、前記引張補強部材は、細長平板状のウェブ部と、該ウェブ部の両側部より該ウェブ部の表面及び/又は裏面と交差する方向に張り出したフランジ部と、前記ウェブ部と前記コンクリートとの付着を強化する付着強化手段とを備えていることにある。
【0014】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記引張補強部材は、設計で想定される曲げモーメントが作用する方向に弱軸側を向けて前記コンクリート内に配置されていることにある。
【0015】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記付着強化手段は、前記ウェブ部の表面及び/又は裏面に突設された複数の棒状部材を備えていることにある。
【0016】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項3の構成に加え、前記棒状部材は、外周面に付着強化用凹部が形成されていることにある。
【0017】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項3又は4の構成に加え、前記棒状部材は、頭部に拡径部を備えていることにある。
【0018】
請求項6に記載の発明の特徴は請求項3~5の何れか一の構成に加え、前記棒状部材は、ウェブ部の表面又は裏面に対し千鳥状に配置されていることにある。
【0019】
請求項7に記載の発明の特徴は請求項3~6の何れか一の構成に加え、前記フランジ部は、前記ウェブ部のポアソン効果によって生じる圧縮力が有効に作用する幅に形成され、前記棒状部材は、前記引張補強部材の軸方向降伏引張力から前記ウェブ部のポアソン効果により前記フランジ部と前記コンクリートとの間に生じる摩擦力による負担分を除いた分のせん断力を負担可能な本数となっていることにある。
【0020】
請求項8に記載の発明の特徴は請求項1~7の何れか一の構成に加え、互いに間隔をおいて配置された複数の前記引張補強部材が連結部材によって連結されてなる補強部材群を備えていることにある。
【0021】
請求項9に記載の発明の特徴は請求項8の構成に加え、前記補強部材群が互いに間隔をおいて配置され、前記補強部材群間が群体連結部材によって連結されていることにある。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る強化コンクリート構造物は、請求項1の構成を具備することによって、従来の鉄筋コンクリート構造において複数の鉄筋が負担する引張力を一の引張補強部材によって負担することができ、従来の鉄筋コンクリート構造における鉄筋の数量に比べて引張補強部材の数量が少なくてよく、過密配筋を回避し、効率よく施工することができる。
【0023】
また、本発明において、請求項2の構成を具備することによって、コンクリートに対する引張補強部材の十分な有効高を確保することができるとともに、所定の有効高となるようにコンクリート断面を小さくすることもできる。
【0024】
また、本発明において、請求項3乃至5の構成を具備することによって、引張補強部材とコンクリートとのより高い付着強度を確保することができるとともに、コンクリートに生じるひび割れを分散させることができる。さらに、本発明において、請求項4乃至5の構成を具備することによって、棒状部材によってコンクリートにウェブ部に対し垂直方向の力(圧縮力)が作用し、ウェブ部のポアソン効果による両ウェブ部間の圧縮力ととともに、コンクリートに二軸方向の圧縮力が作用するので、コンクリートとウェブ部との間に高い摩擦力が生じ、引張補強部材とコンクリートとの間に高い摩擦力を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明において、請求項6の構成を具備することによって、コンクリートに生じるひび割れの発生の分散化を図ることができる。
【0026】
さらにまた、本発明において、請求項7の構成を具備することによって、引張補強部材に引張力が作用した際、ウェブ部のポアソン効果によって対向するフランジ部間の距離が縮まることでフランジ部によってコンクリートを拘束し、フランジ部とコンクリートとの間の摩擦力が増加することに基づいて、棒状部材の負担を軽減し、棒状部材の本数を少なくすることができる。
【0027】
また、本発明において、請求項8乃至9の構成を具備することによって、引張補強部材を用いてプレファブ化することができ、補強部材群を陸上の工場等で予め組み立て、組み立てた状態で一括して運搬し、設置することができるので、施工現場における作業の省力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に係る強化コンクリート構造物の一例を示す断面図である。
【
図3】(a)は
図1中の引張補強部材を示す拡大断面図、(b)は同平面図、(c)は同他の一例を示す平面図、(d)は同引張補強部材の他の一例を示す拡大断面図である。
【
図4】(a)は同上の引張補強部材の棒状部材の設計手法を示すフローチャート、(b)は同フローチャート中の摩擦力の計算手法を示すフローチャートである。
【
図5】同上の引張補強部材群を組み立てた状態を示す斜視図である。
【
図6】従来の強化コンクリート構造物(RC構造物)の態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明に係る強化コンクリート構造物の実施態様を
図1~
図5に示した実施例に基づいて説明する。図中符号1は強化コンクリート構造物、符号20は従来の鉄筋コンクリート構造物である。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明する。
【0030】
また、本発明において、帯筋又はスターラップ筋等を使用する場合もあるが、本実施例では、本発明の内容を理解し易くするため便宜上図示を省略する。
【0031】
強化コンクリート構造物1は、コンクリート2内に互いに間隔をおいて複数の引張補強部材3,3…が埋設され、従来の鉄筋コンクリート構造物20に替わるRC構造を成している。
【0032】
ここで強化コンクリート構造とは、一般的な棒状鉄筋22,22…に替えて引張補強部材3,3を使用したRC構造のみならず、引張補強部材3,3…と棒状鉄筋22,22とを併用したRC構造も含むものとする。また、本発明においては、製作する構造物の形状や施工条件等に応じて、棒状鉄筋22を併用してもよい。
【0033】
引張補強部材3,3…は、
図3に示すように、H形鋼やI形鋼等の鋼材によって構成され、細平板状のウェブ部4と、ウェブ部4の両側部より表面及び裏面と交差する方向に張り出した細平板状のフランジ部5,5と、ウェブ部4とコンクリート2との付着を強化する付着強化手段とを備えている。
【0034】
ウェブ部4は、コンクリートとの有効定着長を満たす一定の長さL、例えば、ウェブ部4の幅Hの6倍の長さ以上の細長平板状に形成され、その両側部と一体にフランジ部5,5が形成されている。
【0035】
フランジ部5,5は、ウェブ部4の両側部の表面及び裏面より交差する方向、本実施例では表面及び裏面と垂直方向に張出し、フランジ部5,5とウェブ部4とによって断面I形状又はH形状を成すようになっている。
【0036】
このフランジ部5,5の片側幅Bにおける片側有効幅bは、ウェブ部4に引張力が作用した際のポアソン効果によって生じる圧縮力が有効に作用する幅であって、例えば、フランジ部5,5の板厚t2の2倍程度の幅に形成されている。
【0037】
よって、フランジ部5は、片側幅Bがウェブ部4の幅に対し短く、H形鋼に分類されるものであっても、断面はI字状を成している。
【0038】
尚、上述の実施例では、フランジ部5,5がウェブ部4の表面及び裏面側にそれぞれ張り出した形状について説明したが、
図3(d)に示すように、溝形鋼等のようにフランジ部5,5が表面又は裏面の何れか片側のみに張り出したものであってもよい。
【0039】
付着強化手段は、
図3に示すように、ウェブ部4の表面及び裏面に突設された複数の棒状部材6,6…を備え、この棒状部材6,6…がコンクリート2内に埋設されることによってウェブ部4とコンクリート2とが強固に付着されるようになっている。
【0040】
棒状部材6,6…は、下端が溶接によってウェブ部4に固定された丸棒状の本体部6aと、本体部6aの頭部に一体に支持された拡径部6bとを備えている。
【0041】
この棒状部材6の固定手段は、溶接に限定されず、例えば、ウェブ部に孔を開けて嵌合させてもよく、ネジ止めする等してもよい。
【0042】
棒状部材6は、例えば、ウェブ部4の片側幅Bと略同じ高さに形成されている。尚、棒状部材6の高さは、本実施例に限定されず、任意の高さにすることができる。
【0043】
この棒状部材6,6…には、市場に流通する頭付きスタッドを利用することができる。尚、棒状部材6,6…は、頭部に拡径部6bを有しない所謂頭無しスタッドであってもよい。
【0044】
また、棒状部材6,6…は、上述の実施例に限定されず、特に図示しないが、異形鉄筋のように、外周面に付着強化用凹部が形成されたものであってもよく、付着強化用凹部を有する本体部6aの頭部に拡径部6bを有するものであってもよい。さらに、棒状部材6,6…は、ボルトやネジ等によっても代用することができる。
【0045】
この棒状部材6,6…は、
図3(b)に示すように、幅方向で隣り合う各棒状部材6,6…の位置をウェブ部4長手方向で揃えて整列させた配置(整列配置)としてもよく、
図3(c)に示すように、隣り合う各棒状部材6,6…の位置をウェブ部4長手方向に所定の間隔でずらし、各棒状部材6,6…を千鳥状に配置(千鳥配置)としてもよい。
【0046】
この棒状部材6,6…の本数は、
図4(a)に示すフローチャートの手順に基づいて決定されるが、ウェブ部4のポアソン効果によって対向したフランジ部5,5間の距離が縮まることでフランジ部5,5がコンクリートを拘束し、軸方向降伏引張力の一部を負担し、棒状部材6,6…の負担を軽減することができるので本数を抑えることができる。
【0047】
具体的には、先ず、単一の鋼材の引張降伏力fym×Amが対応する複数の鉄筋22の降伏引張力fys×Asより大きくなる鋼材を選定し(s1)、引張補強部材3の引張降伏力T=fym×Amを求める(s2)。ここで、fysは鉄筋の引張降伏強度、fymは鋼材の引張降伏強度、Amは単一の鋼材の断面積、Asは対応する複数の鉄筋の断面積である。
【0048】
次に、フランジ部5,5が負担できる摩擦力T1=τ×2b×L×2を求める(s3)。ここで、τはウェブ降伏時のフランジ部5,5の内側に作用する摩擦応力、bはフランジ部5,5の片側有効幅、Lはウェブ部4の有効定着長である。
【0049】
以下、フランジ部5が負担できる摩擦力T1の具体的な計算方法について、
図4(b)に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0050】
有効定着長Lは、実験等に基づいてL=6×Hと仮定し(s31)、これに基づいて軸方向引張力が作用した場合のポアソン効果による有効圧縮力Txを次式より計算する(s32)。
Tx=E・ν・εfw・Ae
=E・ν・Ae・Ty/(E・Aw)
=Ty・ν・Ae/Aw
【0051】
ここで、Eはヤング率、νはポアソン比、εfwはウェブ部4の降伏ひずみ、Aeはウェブ部4の有効定着断面積(Ae=t1×L)、Awはウェブ部4の断面積(Aw=t1×H)、Tyはウェブの降伏引張力である。
【0052】
次に、上記有効圧縮力Txと実験による経験則によって有効圧縮力が作用した際の片側フランジ部5,5の片側有効幅bをb=2×t2と仮定する(s33)。尚、t2はフランジ部5の板厚である。
【0053】
そして、対向するフランジ部5,5から内側のコンクリートへ向けて作用する圧縮応力σ=Tx/(b×L×2)を算出し、ウェブ降伏時のフランジ部5,5内側に作用する摩擦応力τ=σ×μを計算する(s34)。尚、μはコンクリートと鋼との摩擦係数である。
【0054】
以上の手順を経て、フランジ部5,5とコンクリート2との間に作用する摩擦力T1=τ×2b×L×2を求める。
【0055】
そして、上記手順を経て得られた引張補強部材3全体の軸方向降伏引張力Tとフランジ部5が負担できる摩擦力T1に基づいて棒状部材6,6…が負担すべきせん断力T2=T-T1を計算する(s4)。
【0056】
最後に、得られた棒状部材6,6…が負担すべきせん断力T2を基に棒状部材6,6…の本数及び配置を決定する(s5)。
【0057】
棒状部材6,6…の本数及び配置の決定は、複合構造標準示方書や道路橋示方書等に記載されている一般的な頭付きスタッドを使用した設計手法等に基づいて行うことができる。
【0058】
このように構成された各引張補強部材3,3…は、
図1、
図2に示すように、設計で想定される曲げモーメントが作用する方向に弱軸側を向けて前記コンクリート内に配置されている。
【0059】
即ち、設計で想定される曲げモーメントが作用するコンクリート2の上下表面(以下、コンクリート表面)2a,2bに引張補強部材3の強軸側を向けて配置するとSRC構造と同様に断面の有効高が小さくなってしまうため、コンクリート表面2a,2bに対し弱軸側、即ちウェブ部4とコンクリート表面2a,2bとが平行となるように配置され、従来の鉄筋22,22…と同じ向きに長手方向を向けて埋設される。
【0060】
この引張補強部材3は、断面がI形状又はH形状に形成され、且つ、ウェブ部4の表面に棒状部材6,6…を備えることによって、棒状部材6によってコンクリート2にウェブ部4に対し垂直方向の力(圧縮力)が作用し、ウェブ部4とコンクリート2との間に高い摩擦力が生じる。
【0061】
また、この引張補強部材3では、ウェブ部4のポアソン効果による両ウェブ部5,5間の圧縮力によって、コンクリート2と両フランジ部5,5との間に高い摩擦力が生じる。
【0062】
即ち、この引張補強部材3は、引張補強部材3自体の付着力に加え、引張補強部材3の内側のコンクリート2に二軸方向の圧縮力が作用するので、コンクリート2とウェブ部4、コンクリート2とフランジ部5との間にそれぞれ高い摩擦力が生じ、引張補強部材3とコンクリート2との間に高い付着力を得ることができるようになっている。
【0063】
このように構成された強化コンクリート構造物1は、従来の鉄筋コンクリート構造物20における複数の鉄筋22,22…を一つの引張補強部材3で代替することができ、少ない引張補強部材3,3…で従来の鉄筋コンクリート構造物20と同等又はそれ以上の性能を発揮することができる。
【0064】
例えば、
図6に示す従来の鉄筋コンクリート構造物20に対し、2段に亘る複数の鉄筋22,22…を一つの引張補強部材3で負担することができる。
【0065】
よって、この強化コンクリート構造物1では、引張補強部材3,3…の組み立て作業や点検作業が大幅に省力化され、効率よく構築することができる。
【0066】
尚、この強化コンクリート構造物1では、各引張補強部材3,3…が一定の剛性を有しているので、
図5に示すように、互いに間隔をおいて配置された複数の引張補強部材3,3…が連結部材8,8によって連結されてなる補強部材群9,9を予め陸上の工場や製作ヤードで組立ててプレファブ化し、組み立てた状態で施工現場に搬入・設置することができる。尚、連結部材8,8の態様は、
図5に示す実施例に限定されず、連結部材8,8として引張補強部材3を用いてもよく、I形鋼、H形鋼、溝形鋼等の鋼材や鉄板等を用いてもよい。
【0067】
また、本実施例のように、コンクリート2内において補強部材群9,9が互いに間隔をおいて配置される場合には、上下の補強部材群9,9間を群体連結部材10,10によって連結し、上下の補強部材群9,9をプレファブ化することもできる。
【0068】
尚、上述の実施例では、付着強化手段として棒状部材6を使用した例について説明したが、付着強化手段の態様はこれに限定されるものではなく、例えば、棒状以外の形状の突起物をウェブ部4の表面及び/又は裏面に突設させてもよく、ウェブ部4の表面と裏面とで異なる径や形状の棒状部材6を用いてもよい。また、コンクリートの充填性及び付着強化のためウェブ部4に孔を有したもの(一般に孔あきジベルと呼ばれる)を形成してもよい。
【0069】
尚、本実施例では、橋脚部等を構成する構造を例に説明したが、本発明に基づく構造は本実施例に限定されるものではなく、コンクリート柱、コンクリートスラブ、フーチング、その他のあらゆるコンクリート構造物に適用できる。
【符号の説明】
【0070】
1 強化コンクリート構造物
2 コンクリート
3 引張補強部材
4 ウェブ部
5 フランジ部
6 棒状部材
8 連結部材
9 補強部材群
10 群体連結部材