(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120284
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】基準器及び模型眼
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20220810BHJP
G09B 23/28 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A61B3/10 100
G09B23/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017087
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】新田 将
【テーマコード(参考)】
2C032
4C316
【Fターム(参考)】
2C032CA00
4C316AA01
4C316AA09
4C316AA10
4C316AB03
4C316AB11
4C316AB16
4C316FA14
(57)【要約】
【課題】生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置を評価するための新たな技術を提供する。
【解決手段】例示的な態様に係る基準器(600)は、予め設定されたスキャン条件に基づき生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置(眼科装置1)の評価情報を取得するために用いられる。この基準器(600)には、少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターン(601、602)が形成されている。
【選択図】
図6A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定されたスキャン条件に基づき生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置の評価情報を取得するための基準器であって、
少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成された、基準器。
【請求項2】
前記パターンは、少なくとも第1の方向に沿った第1の周期的パターンを含む、
請求項1の基準器。
【請求項3】
前記パターンは、前記第1の方向と異なる第2の方向に沿った第2の周期的パターンを更に含む、
請求項2の基準器。
【請求項4】
前記パターンは、グリッドパターンである、
請求項3の基準器。
【請求項5】
前記パターンの少なくとも一部は、表面又は内部に形成された凹部及び/又は凸部である、
請求項1~4のいずれかの基準器。
【請求項6】
前記パターンの少なくとも一部は、光特性の異なる2以上の材料によって形成されている、
請求項1~5のいずれかの基準器。
【請求項7】
前記光特性は、散乱特性を含む、
請求項6の基準器。
【請求項8】
生体眼をスキャンしてデータを収集する眼科スキャン装置の評価情報を取得するための基準器であって、
周期的パターンが形成された、基準器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかの基準器を摸擬眼底とした模型眼。
【請求項10】
前記基準器の表面の少なくとも一部は、曲面として形成されており、
前記パターンは、前記曲面又はその内部に形成されている、
請求項9の模型眼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基準器及び模型眼に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野では、検査装置、測定装置、撮影装置など様々な装置が用いられる。医療装置は精密機器であり、その性能を十分に発揮させるためには、厳密な評価に基づく調整や校正(較正)が必要である。医療装置の評価には様々な方法があるが、基準器を用いた方法が広く行われている。基準器は標準器(standard、etalon)などとも呼ばれる。
【0003】
医療装置の評価に用いられる基準器は、典型的には生体の組織や器官のモデル(シミュレーター)であり、放射線診断装置を評価するためのファントムや眼科装置を評価するための模型眼などとして使用されている。基準器は、評価される医療装置の方式、規格、仕様、性能、評価項目などに応じて設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-357868号公報
【特許文献2】特開2013-188314号公報
【特許文献3】特開2011-053462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の目的は、生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置を評価するための新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例示的な態様に係る基準器は、予め設定されたスキャン条件に基づき生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置の評価情報を取得するために用いられる。この基準器には、少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成されている。
【発明の効果】
【0007】
幾つかの例示的な態様によれば、模型眼を用いた眼科装置の評価作業の容易化を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図2】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図3A】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図3B】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4A】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4B】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4C】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4D】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図4E】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置の構成の一例を表す概略図である。
【
図5】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置を評価するための模型眼の構成の一例を表す概略図である。
【
図6A】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置を評価するための基準器の構成の一例を表す概略図である。
【
図6B】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置を評価するための基準器の構成の一例を表す概略図である。
【
図7A】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置を評価するための基準器のスキャンの一例を表す概略図である。
【
図7B】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置を評価するための基準器のスキャンの一例を表す概略図である。
【
図8】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置を評価するための基準器のスキャンで取得された輝度プロファイルの一例を表す概略図である。
【
図9】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表すフローチャートである。
【
図10】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表すフローチャートである。
【
図11】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置により生成されるデータの幾つかの例を表す。
【
図12】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置により生成される可視化情報の一例を表す。
【
図13】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置により生成される可視化情報の一例を表す。
【
図14】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を表すフローチャートである。
【
図15】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置が実行可能な動作の一例を説明するための図である。
【
図16】実施形態の例示的な態様に係る眼科装置により生成される可視化情報の一例を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態の幾つかの例示的な態様について説明する。以下に詳述する例示的な態様では、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)装置と眼底カメラとを組み合わせた眼科装置の評価を扱っているが、実施形態に係る評価を適用可能な装置(又はシステム)はこれに限定されない。
【0010】
幾つかの態様は、生体眼をスキャンしてデータを収集する眼科スキャン装置を評価することができる。眼科スキャン装置は、OCT装置の他、走査型レーザー検眼鏡(SLO)などの眼科検査装置(眼科撮影装置、眼科測定装置など)がある。また、幾つかの態様は、生体認証用の装置(網膜スキャナーなど)を評価することができる。
【0011】
更に、幾つかの態様は、眼科以外の診療科の装置を評価することができる。例えば、幾つかの態様は、放射線科、皮膚科、又は歯科において使用される装置の評価を行うことができる。具体的な装置の種類として、X線コンピューター断層撮影(CT)スキャナー、超音波スキャナー、OCTスキャナー、レーザースキャナーなどがある。
【0012】
このように、実施形態に係る評価が適用される対象は、任意の医療スキャン装置であってよい。一般に、医療スキャン装置は、生体の複数の位置から順次にデータ(情報)を取得する検査装置(撮影装置、測定装置など)であり、典型的には、事前に設定されたスキャン条件に基づき生体をスキャンしてデータを収集するように構成される。
【0013】
スキャン条件は、スキャンに関する任意の条件(パラメータ、選択肢など)であってよく、その例として、スキャンパターン(スキャン軌跡形状)、スキャンエリア形状、スキャン寸法(長さ、面積、体積、深さ、径、周長)、スキャン空間間隔(スキャン空間密度)、スキャン時間間隔、スキャンパターン反復時間間隔などがある。なお、スキャン条件はこれらに限定されない。
【0014】
実施形態に係る評価パラメータは、いずれかのスキャン条件に相当する評価パラメータであってもよいし、いずれかのスキャン条件に関連する任意の評価パラメータであってよい。スキャン条件に関連するパラメータは、例えば、そのスキャン条件に影響を与える任意の評価パラメータであってよい。
【0015】
本明細書に開示された要素の機能の少なくとも一部は、回路構成(circuitry)又は処理回路構成(processing circuitry)を用いて実装される。回路構成又は処理回路構成は、開示された機能の少なくとも一部を実行するように構成及び/又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、従来の回路構成、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかを含む。プロセッサは、トランジスタ及び/又は他の回路構成を含む、処理回路構成又は回路構成とみなされる。本開示において、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、開示された機能の少なくとも一部を実行するハードウェア、又は、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されたハードウェアであってよく、或いは、記載された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラム及び/又は構成された既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが或るタイプの回路構成とみなされ得るプロセッサである場合、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、このソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサを構成するために使用される。
【0016】
例示的な態様の眼科装置を
図1に示す。本例の眼科装置1は、OCT装置と眼底カメラとの複合機である。このOCT装置の方式はスペクトラルドメインOCTであるが、スウェプトソースOCTであってもよい。スペクトラルドメインOCTは、低コヒーレンス光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光のスペクトル分布を分光器で検出し、検出されたスペクトル分布にフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。一方、スウェプトソースOCTは、波長可変光源からの光を測定光と参照光とに分割し、被検物からの測定光の戻り光を参照光と重ね合わせて干渉光を生成し、この干渉光をバランスドフォトダイオード等の光検出器で検出し、波長の掃引及び測定光のスキャンに応じて収集された検出データにフーリエ変換等を施して画像を形成する手法である。このように、スペクトラルドメインOCTは空間分割でスペクトル分布を取得するOCT手法であり、スウェプトソースOCTは時分割でスペクトル分布を取得するOCT手法である。
【0017】
本態様では、特に言及しない限り、「画像データ」と、それに基づき生成される可視化情報である「画像」とを区別しない。また、特に言及しない限り、被検眼の部位(器官、組織など)と、それに対応するファントム(基準器、模型眼など)の部分とを区別しない。更に、特に言及しない限り、被検眼の部位と、それに対応するデータ(画像など)とを区別せず、また、ファントム(基準器、模型眼など)の部分と、それに対応するデータ(画像など)とを区別しない。眼以外の部位(器官、組織など)をスキャンする場合にも同様であってよい。
【0018】
眼科装置1は、眼底カメラユニット2、OCTユニット100、及び演算制御ユニット200を含む。眼底カメラユニット2には、被検眼Eの正面画像を取得するための光学系や機構と、被検眼EにOCTスキャンを適用するための光学系や機構とが設けられている。OCTユニット100には、OCTスキャンを実行するための光学系や機構が設けられている。演算制御ユニット200は、各種の処理(演算、制御等)を実行するように構成された1以上のプロセッサを含んでいる。
【0019】
眼科装置1は、OCTスキャンが適用される部位を切り替えるためのレンズユニット400を備えている。レンズユニット400は、対物レンズ22と被検眼Eとの間に配置可能である。レンズユニット400が光路に挿入することで、OCTスキャンの適用部位が眼底Efから前眼部に切り替えられる。
【0020】
眼底カメラユニット2には、被検眼E(眼底Ef及び前眼部)を撮影するための光学系が設けられている。取得されるデジタル画像は、観察画像、撮影画像等の正面画像である。典型的には、観察画像は近赤外領域の連続光を用いた動画撮影で取得され、撮影画像は近赤外領域又は可視領域のフラッシュ光を用いた静止画像で取得される。
【0021】
眼底カメラユニット2は、照明光学系10と撮影光学系30とを含む。照明光学系10は、被検眼Eに照明光を投射する。撮影光学系30は、被検眼Eに投射された照明光の戻り光を検出する。OCTユニット100からの測定光は、眼底カメラユニット2内の光路を通じて被検眼Eに導かれる。被検眼Eに投射された測定光の戻り光は、眼底カメラユニット2内の同じ光路を通じてOCTユニット100に導かれる。
【0022】
照明光学系10の観察光源11から出力された光(観察照明光)は、凹面鏡12により反射され、集光レンズ13を経由し、可視カットフィルタ14を透過して近赤外光となる。更に、観察照明光は、撮影光源15の近傍にて一旦集束し、ミラー16により反射され、リレーレンズ系17、リレーレンズ18、絞り19、及びリレーレンズ系20を経由して孔開きミラー21に導かれる。そして、観察照明光は、孔開きミラー21の周辺部(孔部の周囲の領域)にて反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eを照明する。観察照明光の被検眼Eからの戻り光は、対物レンズ22により屈折され、ダイクロイックミラー46を透過し、孔開きミラー21の中心領域に形成された孔部を通過し、ダイクロイックミラー55を透過し、撮影合焦レンズ31を経由し、ミラー32により反射される。更に、この戻り光は、ハーフミラー33Aを透過し、ダイクロイックミラー33により反射され、結像レンズ34によりイメージセンサー35の受光面に結像される。イメージセンサー35は、所定のフレームレートで戻り光を検出する。撮影光学系30のフォーカスは、眼底Ef若しくはその近傍に合致するように調整可能であり、且つ、前眼部若しくはその近傍に合致するように調整可能である。
【0023】
撮影光源15から出力された光(撮影照明光)は、観察照明光と同様の経路を通って眼底Efに投射される。被検眼Eからの撮影照明光の戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってダイクロイックミラー33まで導かれ、ダイクロイックミラー33を透過し、ミラー36により反射され、結像レンズ37によりイメージセンサー38の受光面に結像される。
【0024】
液晶ディスプレイ(LCD)39は固視標(固視標画像)を表示する。LCD39から出力された可視光束は、その一部がハーフミラー33Aに反射され、ミラー32に反射され、撮影合焦レンズ31及びダイクロイックミラー55を経由し、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22により屈折されて、眼底Efに投射される。固視標は、典型的には、視線の誘導及び固定に利用される。被検眼Eの視線が誘導(及び固定)される方向、つまり被検眼Eの固視が促される方向は、固視位置と呼ばれる。LCD39の画面上における固視標画像の表示位置を変更することで固視位置を変更することができる。眼科装置1は、固視位置の変更操作を行うためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を提供可能であってよい。
【0025】
アライメント光学系50は、被検眼Eに対する光学系のアライメントに用いられるアライメント指標を生成する。発光ダイオード(LED)51から出力されたアライメント光は、絞り52、絞り53、及びリレーレンズ54を経由し、ダイクロイックミラー55により反射され、孔開きミラー21の孔部を通過し、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。アライメント光の被検眼Eからの戻り光は、観察照明光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサー35に導かれる。その受光像(アライメント指標像)に基づいてマニュアルアライメントやオートアライメントを実行することができる。
【0026】
実施形態に適用可能なアライメント手法は、このようなアライメント指標を用いたものに限定されず、例えば、ステレオカメラを利用した手法、プルキンエ像を利用した手法、光テコを利用した手法、それらの任意の組み合わせなどであってもよい。
【0027】
フォーカス光学系60は、被検眼Eに対するフォーカス調整に用いられるスプリット指標を生成する。撮影光学系30の光路(撮影光路)に沿った撮影合焦レンズ31の移動に連動して、フォーカス光学系60は照明光学系10の光路(照明光路)に沿って移動される。反射棒67は、照明光路に対して挿脱される。フォーカス調整を行う際には、反射棒67の反射面が照明光路に傾斜配置される。LED61から出力されたフォーカス光は、リレーレンズ62を通過し、スプリット指標板63により2つの光束に分離され、二孔絞り64を通過し、ミラー65により反射され、集光レンズ66により反射棒67の反射面に一旦結像されて反射される。更に、フォーカス光は、リレーレンズ20を経由し、孔開きミラー21に反射され、ダイクロイックミラー46を透過し、対物レンズ22を介して被検眼Eに投射される。フォーカス光の被検眼Eからの戻り光は、アライメント光の戻り光と同じ経路を通ってイメージセンサー35に導かれる。その受光像(スプリット指標像)に基づいてマニュアルフォーカシングやオートフォーカシングを実行できる。
【0028】
孔開きミラー21とダイクロイックミラー55との間の撮影光路に、視度補正レンズ70及び71を選択的に挿入することができる。視度補正レンズ70は、強度遠視を補正するためのプラスレンズ(凸レンズ)である。視度補正レンズ71は、強度近視を補正するためのマイナスレンズ(凹レンズ)である。
【0029】
ダイクロイックミラー46は、眼底カメラ用光路とOCTスキャン用光路(測定アーム)とを合成する。ダイクロイックミラー46は、OCTスキャンに用いられる波長帯の光を反射し、眼底カメラに用いられる波長帯の光を透過させる。測定アームには、OCTユニット100側から順に、コリメータレンズユニット40、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナー44、及びリレーレンズ45が設けられている。
【0030】
リトロリフレクタ41は、これに入射する測定光LSの光路に沿って移動可能とされ、それにより測定アームの長さが変更される。測定アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0031】
分散補償部材42は、参照アームに配置された分散補償部材113(後述)とともに、測定光LSの分散特性と参照光LRの分散特性とを合わせるよう作用する。
【0032】
OCT合焦レンズ43は、測定アームのフォーカス調整を行うために測定アームに沿って移動される。なお、撮影合焦レンズ31の移動、フォーカス光学系60の移動、及びOCT合焦レンズ43の移動を連係的に制御することができる。
【0033】
光スキャナー44は、実質的に、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。光スキャナー44は、測定アームにより導かれる測定光LSを偏向する。光スキャナー44は、例えば、2次元走査が可能なガルバノスキャナーである。典型的には、光スキャナー44は、測定光を±x方向に偏向するための1次元スキャナー(x-スキャナー)と、測定光を±y方向に偏向するための1次元スキャナー(y-スキャナー)とを含む。この場合、一方の1次元スキャナーが瞳孔と光学的に共役な位置に配置されるか、或いは、2つの1次元スキャナーの間に瞳孔と光学的に共役な位置が配置される。
【0034】
図2に示す例示的なOCTユニット100には、スペクトラルドメインOCTのための光学系が設けられている。この光学系は干渉光学系を含む。この干渉光学系は、低コヒーレンス光源(広帯域光源)からの光を測定光と参照光とに分割し、被検眼Eに投射された測定光の戻り光を参照アームを経由した参照光に重ね合わせて干渉光を生成する。干渉光学系により生成された干渉光のスペクトル分布は分光器によって検出される。分光器からの出力(検出信号)は、演算制御ユニット200に送られる。
【0035】
光源ユニット101は、広帯域の低コヒーレンス光L0を出力する。低コヒーレンス光L0は、例えば、近赤外領域の波長帯(800nm~900nm程度)を含み、数十マイクロメートル程度の時間的コヒーレンス長を有する。なお、低コヒーレンス光L0は、人眼では視認できない波長帯、例えば1040~1060nm程度の中心波長を有する近赤外光であってもよい。光源ユニット101は、スーパールミネセントダイオード(SLD)、LED、半導体光増幅器(SOA)等の光出力デバイスを含む。
【0036】
スウェプトソースOCTが採用された態様では、光源ユニットは、例えば、出射光の波長を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。
【0037】
光源ユニット101から出力された低コヒーレンス光L0は、光ファイバ102により偏波コントローラ103に導かれてその偏光状態が調整される。偏光状態が調整された光L0は、光ファイバ104によりファイバカプラ105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
【0038】
ファイバカプラ105により生成された参照光LRは、光ファイバ110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、リトロリフレクタ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、測定アームに配置された分散補償部材42とともに、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。リトロリフレクタ114は、これに入射する参照光LRの光路に沿って移動可能であり、それにより参照アームの長さが変更される。参照アーム長の変更は、例えば、眼軸長に応じた光路長補正や、干渉状態の調整などに利用される。
【0039】
リトロリフレクタ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバ117に入射する。光ファイバ117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏光状態が調整され、光ファイバ119を通じてアッテネータ120に導かれてその光量が調整され、光ファイバ121を通じてファイバカプラ122に導かれる。
【0040】
一方、ファイバカプラ105により生成された測定光LSは、光ファイバ127を通じてコリメータレンズユニット40に導かれて平行光束に変換され、リトロリフレクタ41、分散補償部材42、OCT合焦レンズ43、光スキャナー44、及びリレーレンズ45を経由し、ダイクロイックミラー46により反射され、対物レンズ22により屈折されて被検眼Eに投射される。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。測定光LSの被検眼Eからの戻り光は、測定アームを逆向きに進行してファイバカプラ105に導かれ、光ファイバ128を経由してファイバカプラ122に到達する。
【0041】
ファイバカプラ122は、光ファイバ128を介して入射された測定光LSと、光ファイバ121を介して入射された参照光LRとを重ね合わせて干渉光LCを生成する。
【0042】
ファイバカプラ122により生成された干渉光LCは、光ファイバ123を通じて分光器130に導かれる。分光器130は、例えば、入射された干渉光LCを平行光束に変換するコリメータレンズと、平行光束に変換された干渉光LCをスペクトル成分に分解する回折格子と、分解されたスペクトル成分を検出するイメージセンサーとを含む。このイメージセンサーは、例えばラインセンサーであり、干渉光LCの複数のスペクトル成分を検出して電気信号(検出信号)を生成する。生成された検出信号は、演算制御ユニット200に送られる。
【0043】
スウェプトソースOCTが採用された態様では、測定光と参照光とを重ね合わせて生成された干渉光が所定の分岐比(例えば1:1)で分岐されて一対の干渉光を生成し、生成された一対の干渉光が光検出器に導かれる。光検出器は、例えばバランスドフォトダイオードを含む。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光をそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを含み、これらにより得られた一対の検出信号の差分を出力する。光検出器は、この出力(差分信号等の検出信号)をデータ収集システム(DAQ)に送る。データ収集システムには、光源ユニットからクロックが供給される。クロックは、光源ユニットにおいて、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。光源ユニットは、例えば、各出力波長の光を分岐して2つの分岐光を生成し、これら分岐光の一方を光学的に遅延させ、これら分岐光を合成し、得られた合成光を検出し、その検出信号に基づいてクロックを生成する。データ収集システムは、光検出器から入力される検出信号(差分信号)のサンプリングをクロックに基づいて実行する。このサンプリングで得られたデータが画像構築などの処理に供される。
【0044】
図1及び
図2に示す眼科装置1には、測定アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ41)と、参照アーム長を変更するための要素(例えば、リトロリフレクタ114、又は参照ミラー)との双方が設けられているが、幾つかの例示的な態様ではこれら要素のうちの一方のみが設けられる。測定アーム長と参照アーム長とを相対的に変化させることにより(つまり、測定アームと参照アームとの間の光路長差を変更することにより)、コヒーレンスゲート位置が変更される。光路長差を変更するための要素は本態様に開示された要素には限定されず、任意の要素(光学部材、機構など)であってよい。
【0045】
演算制御ユニット200は、眼科装置1の各部の制御を実行する。また、演算制御ユニット200は、各種の演算を実行する。例えば、演算制御ユニット200は、分光器130により取得されたスペクトル分布にフーリエ変換等の信号処理を施すことによって、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算制御ユニット200は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することによって画像データを形成する。そのための演算処理は、従来のスペクトラルドメインOCTと同様である。
【0046】
演算制御ユニット200は、例えば、プロセッサ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスクドライブ、通信インターフェイスなどを含む。ハードディスクドライブ等の記憶装置には各種のコンピュータープログラムが格納されている。演算制御ユニット200は、操作デバイス、入力デバイス、表示デバイスなどを含んでいてもよい。
【0047】
眼科装置1の処理系の構成の例を
図3A~
図4Eに示す。
図3Aは処理系全体の構成例を示す。
図3Aの眼科装置1は、制御部210、画像形成部220、及びデータ処理部230を含む。制御部210、画像形成部220、及びデータ処理部230は、例えば、演算制御ユニット200に設けられている。
図3Bはデータ処理部230の構成例を示す。
図3Bのデータ処理部230Aは、評価部250及び可視化情報生成部270を含む。
図4A~
図4Eは、評価部250の幾つかの構成例を示す。
【0048】
本態様では、評価対象の眼科装置1に評価部250及び可視化情報生成部270が設けられている。一方、幾つかの態様では、評価部250の少なくとも一部に相当する要素及び/又は可視化情報生成部270の少なくとも一部に相当する要素は、評価対象の装置(医療スキャン装置、眼科スキャン装置)の外部に設けられていてもよい。例えば、評価部250の少なくとも一部に相当する要素及び/又は可視化情報生成部270の少なくとも一部に相当する要素は、評価対象の装置に有線又は無線で接続された情報処理装置(コンピューター)に設けられていてもよい。また、評価対象の装置に有線又は無線で接続された第1の情報処理装置に評価部250の少なくとも一部に相当する要素を設けるとともに、第1の情報処理装置に有線又は無線で接続された第2の情報処理装置に可視化情報生成部270の少なくとも一部に相当する要素を設けてもよい。ここで、情報処理装置、第1の情報処理装置、及び第2の情報処理装置のそれぞれは、単一のコンピューターであってもよいし、2つ以上のコンピューターであってもよい。
【0049】
図3A~
図4Eの構成例のうちの少なくとも2つを組み合わせることができる。また、これら構成例のいずれか1つ又は2つ以上の組み合わせに対し、任意の公知技術及び/又はそれに均等な技術を組み合わせることができる。また、これら構成例のいずれか1つ又は2つ以上の組み合わせに対し、いずれかの構成例に均等な技術を組み合わせることができる。この「組み合わせ」は、付加、置換、省略などの任意の変形であってよい。なお、処理系以外の構成要素(本開示における任意の事項)についても同様である。
【0050】
制御部210は、プロセッサを含み、眼科装置1の各部を制御する。制御部210は、主制御部211と記憶部212とを含む。
【0051】
主制御部211は、プロセッサを含み、眼科装置1の各要素(
図1~
図4Eに示された要素を含む)を制御する。主制御部211は、例えば、回路を含むハードウェアと、制御ソフトウェアとの協働により実現される。
【0052】
撮影光路に配置された撮影合焦レンズ31と照明光路に配置されたフォーカス光学系60とは、主制御部211の制御の下に、図示しない撮影合焦駆動部によって、一体的に又は連係的に移動される。測定アームに設けられたリトロリフレクタ41は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部41Aによって移動される。測定アームに配置されたOCT合焦レンズ43は、主制御部211の制御の下に、OCT合焦駆動部43Aによって移動される。なお、OCT合焦レンズ43の移動を、撮影合焦レンズ31及びフォーカス光学系60の移動と連係的に行うことができる。参照アームに配置されたリトロリフレクタ114は、主制御部211の制御の下に、リトロリフレクタ(RR)駆動部114Aによって移動される。ここに例示した機構のそれぞれは、典型的には、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。測定アームに設けられた光スキャナー44は、主制御部211の制御の下に動作する。更に、主制御部211は、偏波コントローラ103、偏波コントローラ118、アッテネータ120、各種光源、各種光学要素、各種デバイス、各種機構など、眼科装置1に含まれる任意の要素を制御することができる。また、主制御部211は、眼科装置1に接続された任意の周辺機器(装置、機器、デバイス等)の制御や、眼科装置1によりアクセス可能な任意の装置、機器、デバイス等の制御を実行可能であってよい。
【0053】
移動機構150は、例えば、少なくとも眼底カメラユニット2を3次元的に移動する。典型的な例において、移動機構150は、±x方向(左右方向)に移動可能なx-ステージと、x-ステージを移動するx-移動機構と、±y方向(上下方向)に移動可能なy-ステージと、y-ステージを移動するy-移動機構と、±z方向(奥行き方向)に移動可能なz-ステージと、z-ステージを移動するz-移動機構とを含む。これら移動機構のそれぞれは、主制御部211の制御の下に動作するパルスモータ等のアクチュエータを含む。
【0054】
記憶部212は各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば、OCT画像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報などがある。被検眼情報は、患者IDや氏名などの被検者情報や、左眼/右眼の識別情報や、電子カルテ情報などを含む。
【0055】
更に、記憶部212は、データ処理部230によって生成されたデータを記憶することができる。例えば、後述の評価情報及び/又は後述の可視化情報が記憶部212に記憶される。また、記憶部212は、後述の基準器(模型眼)に関する情報を記憶することができる。例えば、後述の標準情報が記憶部212に記憶される。
【0056】
ユーザーインターフェイス240は、表示部241と操作部242とを含む。表示部241は、主制御部211の動作の下に情報を表示し、例えば表示装置3を含む。操作部242は、各種の操作デバイスや入力デバイスを含み、操作や入力に対応する信号を生成して主制御部211に送る。ユーザーインターフェイス240は、例えばタッチパネルのような表示機能と操作機能とが一体となったデバイスを含んでいてもよい。幾つかの例示的な態様に係る眼科装置は、ユーザーインターフェイスの少なくとも一部を含んでいなくてもよい。例えば、表示デバイス及び/又は操作デバイスは、眼科装置の周辺機器であってもよい。
【0057】
画像形成部220は、分光器130により取得されたデータに基づいてOCT画像データを形成する。画像形成部220は、プロセッサを含む。画像形成部220は、例えば、回路を含むハードウェアと、画像形成ソフトウェアとの協働により実現される。
【0058】
画像形成部220は、分光器130により取得されたデータに基づいて断面像データを形成する。この画像形成処理は、従来のスペクトラルドメインOCTと同様に、サンプリング(A/D変換)、ノイズ除去(ノイズ低減)、フィルタ処理、高速フーリエ変換(FFT)などの信号処理を含む。
【0059】
画像形成部220により形成される画像データは、OCTスキャンが適用されたエリアに配列された複数のAライン(z方向に沿うスキャンライン)における反射強度プロファイルを画像化することによって形成された一群の画像データ(一群のAスキャン画像データ)を含むデータセットである。
【0060】
画像形成部220により形成される画像データは、例えば、1以上のBスキャン画像データ、又は、複数のBスキャン画像データを単一の3次元座標系に埋め込んで形成されたスタックデータである。画像形成部220は、スタックデータにボクセル化処理を施してボリュームデータ(ボクセルデータ)を構築することも可能である。スタックデータ及びボリュームデータは、3次元座標系により表現された3次元画像データの典型的な例である。
【0061】
データ処理部230は、各種のデータ処理を実行する。例えば、データ処理部230は、OCT画像データに画像処理や解析処理を適用することや、観察画像データ又は撮影画像データに画像処理や解析処理を適用することが可能である。データ処理部230は、プロセッサを含む。データ処理部230は、例えば、回路を含むハードウェアと、データ処理ソフトウェアとの協働により実現される。
【0062】
データ処理部230は、画像形成部220により構築された3次元画像データを加工することができる。例えば、データ処理部230は、3次元画像データにレンダリングを適用して新たな画像データを構築することができる。レンダリングの手法としては、ボリュームレンダリング、最大値投影(MIP)、最小値投影(MinIP)、サーフェスレンダリング、多断面再構成(MPR)などがある。また、データ処理部230は、3次元画像データをz方向(Aライン方向、深さ方向)に投影してプロジェクションデータを構築することができる。同様に、データ処理部230は、3次元画像データの一部(3次元部分画像データ)をz方向に投影してシャドウグラムを構築することができる。ここで、3次元部分画像データは、例えば、3次元画像データにセグメンテーションを適用することによって設定される。このセグメンテーションは、例えば、閾値処理、エッジ検出などの画像解析(画像処理)を含んでいてもよいし、機械学習を用いたセマンティックセグメンテーションを含んでいてもよい。
【0063】
図3Bに示すデータ処理部230Aは、データ処理部230の例である。データ処理部230Aは、評価部250及び可視化情報生成部270を含む。なお、幾つかの態様のデータ処理部230は、評価部250のみを備えていてもよい。
【0064】
評価部250は、眼科装置1の評価情報を生成するように構成されている。評価部250は、後述の基準器(模型眼)をスキャンして収集されたデータに基づいて評価情報を生成する。より一般に、幾つかの態様の評価部250は、予め設定されたスキャン条件に基づき生体をスキャンしてデータを収集する装置(医療スキャン装置、眼科スキャン装置)の評価情報を、当該装置で基準器をスキャンして収集されたデータに基づいて生成するように構成される。評価情報は、対象装置に関する所定の品質を表す情報であり、例えば、動作の品質、機能の品質、制御の品質、得られたデータの品質、データ処理の品質などを表す。
【0065】
評価部250の幾つかの例を
図4A~
図4Eに示す。前述したように、評価部250は、例示的な評価部250A~250Eのいずれか2つ以上の組み合わせであってもよい。以下、評価部250の幾つかの例である評価部250A~250Eの概要についてまず説明した後に、評価部250を用いて実行可能な眼科装置1の評価の具体的な態様について説明する。
【0066】
図4Aの評価部250Aは、画像形成部220により構築された3次元画像データのプロジェクションデータに基づいて評価情報を生成するように構成されている。評価部250Aは、プロジェクション処理部251と、評価情報生成部252とを含んでいる。
【0067】
プロジェクション処理部251は、基準器の3次元領域を眼科装置1でスキャンして収集された3次元画像データからプロジェクションデータ(2次元画像データ)を構築するように構成されている。3次元画像データからプロジェクションデータを構築する処理(プロジェクション)は、例えば、3次元画像データを構成する各Aスキャン画像データに含まれる複数の画素の値をz方向に加算する演算を含む。xyz座標系で表現された3次元画像データのプロジェクションデータは、xy座標系で表現された2次元画像データである。
【0068】
評価情報生成部252は、プロジェクション処理部251により構築されたプロジェクションデータに基づいて評価情報を生成するように構成されている。
【0069】
評価部250(例えば評価部250A)は、眼科装置1で基準器をスキャンして収集されたデータとパターンの標準情報とに基づいて評価情報を生成するように構成されていてもよい。
【0070】
基準器には、所定のパターンが形成されている。評価部250により参照されるパターンの標準情報は、基準器に形成されたパターンの態様を表している。この標準情報が表すパターンの態様は、パターンに関する任意のパラメータであってよく、例えば、形状、寸法、分布、個数、間隔などであってよい。パターンの形状は、3次元形状、2次元形状、断面形状などであってよい。パターンが複数のサブパターン(基本パターン又はその組み合わせ)からなる場合、標準情報が表すパターンの形状は、サブパターンの形状であってもよいし、パターン全体の形状であってもよい。パターンの寸法は、長さ、幅、深さ、径、面積、体積などであってよい。パターンが複数のサブパターンからなる場合、標準情報が表すパターンの寸法は、サブパターンの寸法であってもよいし、パターン全体の寸法であってもよい。パターンの分布は、当該パターンを構成する複数のサブパターンの分布であってよい。分布は、例えば、密度であってもよいし、パターン部分の寸法と非パターン部分の寸法との比率であってもよいし、基準器の寸法とパターン部分との比率であってもよい。パターンの個数は、当該パターンを構成する複数のサブパターンの個数であってよい。パターンの間隔は、当該パターンを構成する複数のサブパターンのうち隣接する2つのサブパターンの間の距離であってよい。パターンが複数のサブパターンからなる場合、当該パターンの標準情報は、複数のサブパターンの少なくとも一部に基づき算出された統計量を含んでいてもよいし、個々のサブパターンについての値であってもよい。
【0071】
パターンの標準情報は、例えば、基準器の設計情報及び/又は基準器の測定データに基づいて、予め作成される。基準器の設計情報は、当該基準器にパターンを形成するために参照された情報である。設計情報は、眼科装置1が実行可能なOCTスキャンについての少なくとも1つのスキャン条件に基づき作成される。つまり、本態様の評価には、少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成された基準器が用いられる。一方、基準器の測定データは、当該基準器を実際に測定して取得されたデータであり、当該基準器に形成されたパターンについての情報を含んでいる。このようにして作成された標準情報は、例えば、記憶部212に保存され、及び/又は、眼科装置1がアクセス可能な記憶装置若しくは記録媒体に保存される。
【0072】
眼科装置1の評価において、眼科装置1は、基準器に対して所定のパターンのスキャンを適用することができる。このスキャンのパターンは、ラインスキャンを含み、例えばラスタースキャンである。ラスタースキャンは、互いに平行な複数のラインスキャンからなる。
【0073】
更に、評価部250は、基準器に適用されたスキャンで収集されたデータに基づいて、ラインスキャンの真直度(線形性、線形度)を評価情報として求めるように構成されていてよい。ラインスキャンの軌跡は理想的には直線であるが、眼科装置1の構成や制御の誤差などによってラインスキャンの軌跡が直線から乖離する可能性がある。本例の評価部250は、眼科装置1のラインスキャンの軌跡を直線とみなすことができるか否か評価することができ、また、直線からの乖離の程度を評価することができる。
【0074】
ラインスキャンの真直度の評価に使用される基準器には、直線状パターンが形成されている。この直線状パターンは、例えば、直線状に形成された凹部(溝、谷)及び/又は凸部であってよい。溝の寸法は、ラインスキャンのスキャン条件に基づき設計されていてよい。例えば、溝の長さは、ラインスキャンの長さなどに基づき設計されてよい。また、溝の深さは、Aスキャンの長さ(深さ方向の画像化範囲、軸方向の画像化範囲)などに基づき設計されてよい。また、溝の幅は、測定光のビーム径、ラスタースキャンにおけるラインスキャン間隔などに基づき設計されてよい。凸部も同じ要領で設計することができる。
【0075】
眼科装置1は、このような直線状パターンが形成された基準器にスキャンを適用する。このスキャンは、直線状パターンに対して平行に設定された少なくとも1つのラインスキャンであってよく、典型的にはラスタースキャンであってよい。例えば、1つ以上のラインスキャンの少なくとも一部が直線状パターンの少なくとも一部に一致するように、スキャンの適用位置が設定される。評価部250は、このスキャンにより収集されたデータと、直線状パターンの標準情報とに基づいて、眼科装置1のラインスキャンの真直度を求めることができる。ここで、直線状パターンの標準情報は、上記したパターンの標準情報に含まれている。
【0076】
ラインスキャンの真直度を評価するための評価部250の構成例を
図4Bに示す。本例の評価部250Bは、プロジェクション処理部253と、位置データ生成部254と、真直度算出部255とを含む。本例において、眼科装置1は、直線状パターンが形成された基準器の3次元領域(直線状パターンの少なくとも一部を含む)に対してスキャンを適用する。このスキャンは、例えばラスタースキャンである。
【0077】
プロジェクション処理部253は、基準器の3次元領域に対するスキャンで収集されたデータ(3次元データ)からプロジェクションデータを構築するように構成されている。プロジェクション処理部253は、前述したプロジェクション処理部251と同様の処理を実行することにより、基準器の3次元領域に対するスキャンで収集された3次元画像データからプロジェクションデータを構築する。このプロジェクションデータは、例えば、xy座標系で表現された2次元画像データである。
【0078】
位置データ生成部254は、プロジェクション処理部253により構築されたプロジェクションデータに基づいて、直線状パターンの位置データを求めるように構成されている。この位置データは、プロジェクションデータ(2次元画像データ)に描出されている直線状パターンの像の位置情報を含む。位置データ生成部254は、プロジェクションデータを解析して、直線状パターンの像を検出する。この像検出は、セグメンテーションを含んでいてよい。このセグメンテーションは、例えば、閾値処理、エッジ検出などの画像解析(画像処理)を含んでいてもよいし、機械学習を用いたセマンティックセグメンテーションを含んでいてもよい。
【0079】
真直度算出部255は、位置データ生成部254により生成された位置データと、直線状パターンの標準情報とに基づいて、眼科装置1のラインスキャンの真直度を算出するように構成されている。この真直度は、幾何学的な直線に対するラインスキャン(その軌跡)の誤差を示す。
【0080】
本態様に係る評価の他の例を説明する。評価部250は、基準器に適用されたスキャンの位置に関する位置評価情報を評価情報として生成するように構成されていてもよい。本例で評価されるスキャンの位置は、基準器に対する当該スキャンの適用位置であってよい。位置評価されるスキャンが複数のサブスキャンからなる場合、つまり、そのスキャンパターンが複数のサブパターンからなる場合、本例で評価されるスキャンの位置は、基準器に適用された2以上のサブパターンの相対位置であってよく、また、基準器に対するサブスキャンの適用位置であってもよい。
【0081】
本例の基準器に形成されたパターンは、直線状パターン群を含んでいてよい。直線状パターン群は、2以上の直線状パターンを含む。眼科装置1は、この基準器に複数のラインスキャンを適用してデータを収集する。複数のラインスキャンは、例えばラスタースキャンであってよい。評価部250は、複数のラインスキャンで収集されたデータと、予め作成された直線状パターン群の標準情報とに基づいて、複数のラインスキャンの位置関係に関する評価情報を位置評価情報として生成することができる。ここで生成される位置評価情報を位置関係評価情報と呼ぶ。評価部250は、例えば、ラスタースキャンで基準器から収集されたデータ(3次元画像データ)からプロジェクションデータを構築する処理と、このプロジェクションデータを解析して各直線状パターンの像を検出する処理と、検出された直線状パターン群の像と直線状パターン群の標準情報とに基づき位置関係評価情報を生成する処理とを実行するように構成されていてよい。ここで、直線状パターン群の像を検出する処理は、任意のセグメンテーションを含んでいてよい。
【0082】
基準器に形成された直線状パターン群は、互いに平行な2つ(以上)の直線状パターンを含んでいてよい。この場合、眼科装置1は、スキャン間隔を評価することができる。つまり、これら2つのラインスキャンとの間の距離に関する評価を行うことができる。
【0083】
スキャン間隔を評価するための評価部250の構成例を
図4Cに示す。本例の評価部250Cは、間隔データ生成部256と、間隔評価情報生成部257とを含む。眼科装置1は、互いに平行な2つ(以上)の直線状パターンが形成された基準器に複数のラインスキャンを適用してデータを収集する。複数のラインスキャンは、例えばラスタースキャンであってよい。
【0084】
間隔データ生成部256は、この複数のラインスキャンで収集されたデータに基づいて、当該2つの直線状パターンの間隔(つまり、当該2つの直線状パターンの間の距離)を示すデータを生成するように構成されている。間隔データ生成部256により生成されるデータを間隔データと呼ぶ。例えば、間隔データ生成部256は、例えば、ラスタースキャンで基準器から収集されたデータ(3次元画像データ)からプロジェクションデータを構築する処理と、このプロジェクションデータを解析して各直線状パターンの像を検出する処理と、検出された2つの直線状パターン群の像の間の距離(間隔データ)を算出する処理とを実行するように構成されていてよい。ここで、直線状パターン群の像を検出する処理は、任意のセグメンテーションを含んでいてよい。
【0085】
間隔評価情報生成部257は、間隔データ生成部256により生成された間隔データと、予め作成された当該2つの直線状パターンの標準情報とに基づいて、2つの直線状パターンに対応する2つのラインスキャンの間隔に関する間隔評価情報を生成するように構成されている。生成された間隔評価情報は、位置関係評価情報の例である。
【0086】
基準器に形成された直線状パターン群は、互いに平行な複数の直線状パターンを含んでいてよい。この場合、眼科装置1は、オーバースキャンに関する評価を行うことができる。オーバースキャンは、スキャンが適用されたエリアの周辺部のデータを除いて画像構築を行う技術である。ガルバノスキャナーのように往復運動を行う光スキャナー44を用いてスキャンを行う場合、運動方向の切り替え前後の区間においてスキャナーの運動が不安定になる。例えば、当該区間においてスキャナーの運動速度の急激な変化(急減速及び急加速)が生じる。その結果、画像の歪みなどのアーティファクトが発生する。オーバースキャンは、このようなアーティファクトが発生する部分を除いて画像を構築する技術である。本態様では、例えば、光スキャナー44の性能や仕様からアーティファクト発生エリアを求めて標準情報を作成することができる。本例のオーバースキャンの評価は、例えば、アーティファクト発生エリアが適切に設定されているか否かについての情報を提供する手法を提供することができる。また、本例のオーバースキャンの評価は、オーバースキャンに関するアーティファクトの有無、程度、量、許容の可否などを提供することが可能であってもよい。
【0087】
オーバースキャンを評価するための評価部250の構成例を
図4Dに示す。本例の評価部250Dは、間隔データ生成部258と、間隔評価情報生成部259と、分布生成部260と、オーバースキャン評価情報生成部261とを含む。眼科装置1は、互いに平行な複数の直線状パターンが形成された基準器に複数のラインスキャンを適用してデータを収集する。複数のラインスキャンは、例えばラスタースキャンであってよい。
【0088】
間隔データ生成部258及び間隔評価情報生成部259は、それぞれ、
図4Cの間隔データ生成部256及び間隔評価情報生成部257と同様の構成を有し、同様の処理を実行する。互いに平行な複数の直線状パターンを、その配列順に、第1~第Nの直線状パターンと呼ぶ(Nは2以上の整数)。
【0089】
間隔データ生成部258は、第nの直線状パターンと第n+1の直線状パターンとの間隔データを求める(n=1、2、・・・、N-1)。つまり、間隔データ生成部258は、互いに隣接する任意の2つの直線状パターンについて、それらの間の距離を算出する。
【0090】
更に、間隔評価情報生成部259は、第nの直線状パターン及び第n+1の直線状パターンについて求められた間隔データと、第nの直線状パターン及び第n+1の直線状パターンについて予め作成された標準情報とに基づいて、第nの直線状パターン及び第n+1の直線状パターンについての間隔評価情報を生成する。これにより、N個の直線状パターンから得られるN-1個のペアにそれぞれ対応するN-1個の間隔評価情報が得られる。
【0091】
分布生成部260は、このようにして取得されたN-1個の間隔評価情報の分布を表す情報を生成するように構成されている。生成された情報を間隔評価情報分布と呼ぶ。例えば、分布生成部260は、N個の直線状パターンの配置(例えば、相対的配置、又は、基準器における配置)にしたがってN-1個の間隔評価情報のそれぞれの位置を決定することによって間隔評価情報分布を生成することができる。
【0092】
オーバースキャン評価情報生成部261は、分布生成部260により生成された間隔評価情報分布と、予め作成されたオーバースキャンの標準情報とに基づいて、オーバースキャンに関する評価情報(オーバースキャン評価情報)を生成するように構成されている。生成されたオーバースキャン評価情報は、位置関係評価情報の例である。
【0093】
本態様に係る評価の更に他の例を説明する。本例は、対象物の同一部位に対して複数回スキャンを適用する計測方式の評価(つまり、スキャンの再現性の評価)に使用可能である。そのような計測方式の例として、眼科分野では、被検眼の複数の画像の差分から血管部分を強調するOCTアンジオグラフィ(OCT血管造影)や、被検眼の複数の画像を加算平均してランダムノイズを除去する画像アベレージングや、被検眼の複数の画像から時系列データを生成する手法(例えば、OCT血流計測、モーション計測など)などがある。これらの計測方式では、高い精度で対象物(被検眼)の同じ領域を繰り返しスキャンする必要がある。本例は、このような反復的スキャンの位置再現性が十分であるか評価するものである。
【0094】
本例では、眼科装置1は、基準器に反復的スキャンを適用する。つまり、眼科装置1は、基準器の同一領域を目標とした同一パターンのスキャンを複数回実行する。これにより、同一パターンのスキャンで基準器から収集された複数のデータが得られる。
【0095】
なお、この複数のデータは、同一領域を目標とした複数のスキャンで収集されたものではあるが、実際に同一領域から収集されたとは限らない。スキャンの位置再現性が低い場合には複数のデータは実質的に異なる領域から収集されたものとなる。ここで、位置再現性が十分であるか否かを判定するための基準(閾値)は、計測方式の種類に応じて設定されてもよい。
【0096】
反復的スキャンの位置再現性を評価するための評価部250の構成例を
図4Eに示す。本例の評価部250Eは、再現性評価情報生成部262を含む。再現性評価情報生成部262は、反復的スキャンによって収集された複数のデータに基づいて、この反復的スキャンの位置再現性の評価情報(再現性評価情報)を生成する。生成された再現性評価情報は、位置評価情報の例である。
【0097】
次に、可視化情報生成部270について説明する。可視化情報生成部270は、評価部250により生成された評価情報から可視化情報を生成する。可視化情報は、評価情報の少なくとも一部又はそれから得られた情報を視覚的に表現した情報である。
【0098】
可視化情報生成部270に入力される評価情報は、基準器をスキャンして収集された任意の種類の評価情報であってよく、例えば、次の例示的な評価情報のいずれかであってよい:プロジェクションデータに基づく評価情報;基準器に形成されたパターンの標準情報に基づく評価情報;ラインスキャンの線形性(真直度)の評価情報;スキャン位置の評価情報(位置評価情報);複数のラインスキャンの位置関係の評価情報(位置関係評価情報);ラインスキャンの間隔の評価情報(間隔評価情報);オーバースキャンの評価情報(オーバースキャン評価情報);反復的スキャンの位置再現性の評価情報(再現性評価情報);以上の例のいずれか2つ以上の組み合わせである評価情報;以上の例のいずれかに類する評価情報;以上の例のいずれかに基づく評価情報。可視化情報の具体例については後述する。
【0099】
以上、評価部250の幾つかの例である評価部250A~250Eの概要について説明した。このような評価部250を用いて実行可能な眼科装置1の評価の幾つかの具体的態様について以下に説明する。
【0100】
幾つかの具体的態様では、例えば、眼科装置1の評価を行うために模型眼が用いられる。模型眼には基準器が設けられている。前述したように、基準器には、眼科装置1の1つ以上のスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成されている。基準器は、例えば、眼底に相当する模型眼の部分(摸擬眼底)として用いられる。基準器は、摸擬眼底に限定されず、眼の任意の部位に相当する模型眼の部分であってよい。基準器は、模型眼の一部である必要はなく、例えば基準器単体であってもよいし、摸擬眼底の一部として設けられてもよい。
【0101】
模型眼の例を
図5に示す。本例の模型眼500は、眼科装置1の性能評価のために、対物レンズ22の正面に配置される。例えば、模型眼500は、専用のアタッチメントを介して顔保持部(顎受け、額当てなど)に装着される。これにより、被検眼Eと同様な位置に模型眼500が配置される。眼科装置1のアライメント機能を利用して模型眼500に対する眼科装置1のアライメントを行うことができる。これにより、眼科装置1を評価する作業の容易化を図ることが可能となり、また、アライメントの品質評価を加味しつつ眼科装置1の評価を行うことが可能となる。
【0102】
模型眼500は、角膜に相当する角膜部510(角膜相当レンズ)と、虹彩に相当する虹彩部520と、水晶体に相当する水晶体部550(水晶体相当レンズ)と、硝子体に相当する硝子体部560と、眼底に相当する眼底部570とを含む。模型眼500に含まれる要素の個数(例えば、レンズの枚数)は任意である。
【0103】
虹彩部520は、瞳孔に相当する開口540を形成する。また、虹彩部520は、開口540の大きさ(開口径)を変化させるための可変部530が設けられていてよい。可変部530は、例えば、虹彩部520に対して着脱可能であり、異なる開口径に対応する複数の部材が選択的に適用される。或いは、可変部530は、虹彩部520に対して移動可能に構成される。なお、開口540のサイズは固定であってもよい。硝子体部560には、例えば、オイル等の液体が充填されている。なお、硝子体部560に充填される物質は任意であり、例えば、任意の気体、任意の液体、及び任意の固体のいずれかであってよい。角膜部510と水晶体部550との間の空間には、典型的には、気体(空気)が存在する。なお、角膜部510と水晶体部550との間の空間に設けられる物質は任意であり、例えば、任意の気体、任意の液体、及び任意の固体のいずれかであってよい。
【0104】
眼底部570は、摸擬眼底であり、基準器を含む。基準器の詳細及び具体例については後述する。
【0105】
眼底部570は、人眼の眼底に応じた積層構造を備えていてもよい。例えば、眼底部570は、人眼の眼底の任意の組織に相当する1以上の層を備えていてよい。眼底の組織としては、内境界膜、神経線維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層、網膜色素上皮層、ブルッフ膜、脈絡膜、強膜などがある。眼底部570に形成された各層の厚さや屈折率は、対応する1又は2以上の組織の厚さや屈折率と同等であってよい。
【0106】
眼底部570の形状は、
図5のような平板形状には限定されず、曲面形状であってもよい。例えば、眼底部570の形状は、人眼の眼底の形状を模した、球面の一部の形状又は楕円面の一部の形状であってよい。
【0107】
眼底部570は、人眼の任意の部位や組織に相当する構造を備えていてよい。例えば、眼底部570は、黄斑部に相当する構造、視神経乳頭に相当する構造、血管に相当する構造などを備えていてよい。また、眼底部570は、任意の疾患や任意の病態や任意の病変に相当する構造を備えていてもよい。例えば、加齢黄斑変性状(AMD)に相当する構造(ドルーゼン等)、網膜剥離に相当する構造、出血に相当する構造、腫瘍に相当する構造、萎縮に相当する構造などを備えていてよい。
【0108】
模型眼500のパラメータの値は、人眼と同等又は類似の値に設計されていてよい。模型眼500のパラメータの値は、例えば、標準的な模型眼又は臨床データから得られる。標準的な模型眼としては、Gullstrand模型眼、Navarro模型眼、Liou-Brennan模型眼、Badal模型眼、Arizona模型眼、Indiana模型眼、任意の規格化模型眼、及び、これらのいずれかと同等の模型眼などがある。また、模型眼500は、強度近視などの疾患を有する眼に基づいて設計されてもよい。例えば、強度近視に対応する模型眼の眼底部(基準器)の曲率は、他の模型眼(例えば正常眼に対応する模型眼)の眼底部(基準器)の曲率よりも大きく設計される。また、模型眼500は、任意の疾患や任意の病態や任意の病変に相当する構造を備えていてもよい。例えば、模型眼500は、任意の角膜疾患、任意の水晶体疾患などに相当する構造を備えていてよい。また、模型眼500は、人工物に相当する構造を備えていてよい。例えば、模型眼500は、眼内レンズ(IOL)又はこれに相当する構造を備えていてもよい。
【0109】
角膜部510の前面の中心位置(角膜頂点に相当する位置)と眼底部570の前面との間の距離は、人眼の眼軸長に基づき設計されていてよい。また、角膜部510、水晶体部550、及び硝子体部560の全体としての焦点距離は、人眼の焦点距離と同等の値に設計されていてよい。例えば、水晶体部550と眼底部570との間の光学距離を変更するための手段(例えば、スペーサー)を有していてよい。これにより、模型眼500の屈折力を変化させることが可能となり、例えば、眼軸長が長い眼に対する撮影や測定の評価を行うことが可能になる。
【0110】
虹彩部520(可変部530)の前面(角膜部510側の面)の反射率は、人眼のそれと同等の反射率に設計されていてよい。この反射率は、例えば赤外波長の反射率であってよい。同様に、角膜部510の前面などについても、人眼のそれと同等の反射率に設計することが可能である。また、虹彩部520(可変部530、開口540)の入射瞳が、人眼の虹彩の入射瞳と同等の位置に配置されるように、模型眼500を設計してもよい。
【0111】
模型眼500のスキャンに用いられる光(本態様では、測定光LS)や、アライメントに用いられる光(本態様では、LED51から出力されたアライメント光)が模型眼500内において多重反射することを防止するために、レンズ等に反射防止膜を設けることや、内部部材に反射防止塗料を塗布することが可能である。
【0112】
ステレオカメラを用いたアライメントのように瞳孔を基準としたアライメントを行う場合、例えば、次のようなパラメータ値を設定することができる。まず、開口540の入射瞳は、角膜部510から略3.06ミリメートル離れた位置に配置されていてよい。更に、開口540の径は、2~10ミリメートルの範囲内の値に設定されていてよい。加えて、虹彩部520(可変部530)の赤外光反射率は、2.0~2.5パーセントの範囲内の値に設定されていてよい。このような設計により、人眼の瞳孔を基準としてアライメントを行う場合と同様に、開口540を基準として模型眼500に対するアライメントを行うことが可能になる。
【0113】
他のアライメント手法が用いられる場合においても、その手法に応じて模型眼500のパラメータ値が設定される。例えば、角膜反射像(プルキンエ像)を利用してアライメントを行う場合、角膜部510の曲率半径(角膜相当レンズの前面の曲率半径)は、略7.7ミリメートルに設定されてよい。また、光テコを利用してアライメントを行う場合も同様に、角膜部510の曲率半径(角膜相当レンズの前面の曲率半径)を略7.7ミリメートルに設定することができる。
【0114】
次に、基準器について説明する。本態様では基準器は模型眼500の一部(眼底部570)であるが、実施形態はこれに限定されず、例えば、幾つかの態様の基準器は、単体で評価に用いられてもよいし、眼科装置に内蔵されていてもよい。
【0115】
本態様の基準器の例を
図6A及び
図6Bに示す。
図6Aは本例の基準器600の正面図(上面図)であり、
図6Bは
図6AのA-A断面(xy断面)を表す断面図である。
【0116】
基準器600は、縦横に形成された複数の直線状パターンを有する。換言すると、基準器600には、碁盤目状(格子状、グリッド状)のパターンが形成されている。
【0117】
図6Bに示すように、本例のパターンは凹部(溝)によって形成されているが、幾つかの態様のパターンは凸部によって形成されていてもよい。また、幾つかの態様のパターンは、光特性の異なる2以上の材料によって形成されていてもよい。例えば、第1の散乱特性を有する第1の材料によってベース(基材、基板など)を作成するとともに、第1の散乱特性と異なる第2の散乱特性を有する第2の材料によってパターン部を形成することができる。或いは、溝の形成された基準器を第1の材料で作成するとともに、第2の材料を溝に配置することができる(例えば、第2の材料を溝に充填することができる)。なお、光特性は散乱特性に限定されず、吸収特性、反射特性、透過特性、偏光特性などの任意の光学特性であってよい。
【0118】
上記のように、基準器600にはグリッドパターンが形成されている。このグリッドパターンは、第1の方向に沿った複数の直線状パターン601と、第1の方向と異なる第2の方向に沿った複数の直線状パターン602とを含む。本例では、第1の方向と第2の方向とは互いに直交しているが、実施形態はこれに限定されず、例えば、幾つかの態様では、第1の方向と第2の方向とが互いに斜交していてもよい。
【0119】
眼科装置1を行うときには、第1の方向がy方向に略一致し、且つ、第2の方向がx方向に略一致するように、眼科装置1に対して基準器600(模型眼500)が配置される。このような構成及び配置は、例えば、x方向のラインスキャン、y方向のラインスキャン、クロススキャン、マルチクロススキャン、ラスタースキャンに対応したものである。
【0120】
第1の方向に沿った複数の直線状パターン601は、互いに略平行に、且つ、略等しい間隔Iで配置されている。換言すると、第1の方向に沿った複数の直線状パターン601は、その配列方向(第2の方向)において周期的に形成されている。また、複数の直線状パターン601の寸法は略等しい。
図6Bに示すように、複数の直線状パターン601において、幅Wは実質的に等しく、且つ、深さDは実質的に等しい。
【0121】
同様に、第2の方向に沿った複数の直線状パターン602は、互いに略平行に、且つ、略等しい間隔で配置されている。つまり、第2の方向に沿った複数の直線状パターン602は、その配列方向(第1の方向)において周期的に形成されている。ここで、複数の直線状パターン602の間隔は、複数の直線状パターン601の間隔Iと等しくてもよいし、異なっていてもよい。また、複数の直線状パターン602の寸法は略等しい。ここで、直線状パターン602の寸法(幅、深さなど)は、直線状パターン601の寸法(幅W、深さDなど)と等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0122】
複数の直線状パターン601のパラメータ(寸法、間隔など)と複数の直線状パターン602の当該パラメータとの間の関係は、眼科装置1の評価において用いられるスキャン条件に基づき設計されてよい。例えば、評価で使用されるラスタースキャンにおける複数のスキャン点(複数の格子点)のx方向の間隔とy方向の間隔とが等しい場合、複数の直線状パターン601の間隔Iと複数の直線状パターン602の間隔(I)とを互いに等しくすることができる。また、評価で使用されるラスタースキャンにおける複数のスキャン点(複数の格子点)のx方向の間隔とy方向の間隔とが異なる場合、複数の直線状パターン601の間隔Iと複数の直線状パターン602の間隔とを互いに相違させることができる。
【0123】
図6A及び
図6Bに示す基準器600では、その表面にパターンが形成されているが、実施形態はこれに限定されず、例えば、幾つかの態様では、内部にパターンが形成された基準器を準備することができる。
【0124】
本例の基準器600は平板状の部材であるが、実施形態はこれに限定されず、例えば、曲面状の表面を有する部材であってもよいし、曲板状の部材であってもよい。このような湾曲形状は、人眼の眼底の形状を模したものである。
【0125】
基準器600の素材(材料)は任意であってよく、例えばポーラスガラス(多孔質ガラス)であってよい。より一般に、基準器600の素材は、測定光LSの波長帯(近赤外光)において散乱特性を有する任意の素材であってよく、例えば、石英ガラス多孔体などであってもよい。
【0126】
図6Bの符号601aは、直線状パターン601の中心軸(中心位置)を示す。本態様では、例えば、中心軸601aを通過し且つz方向に延びる平面を対称面(データム面)とした場合の対称度が1パーセント以下となることを条件として、直線状パターン601の形状(幅W)が作成されている。
【0127】
眼科装置1の評価のために基準器600に適用されるスキャンの例を
図7A及び
図7Bに示す。
図7Aの符号700は、基準器600に対する本例のスキャンの適用エリア(外縁、輪郭)を示す。本例のスキャンは、スキャンエリア700によりxy方向の範囲が画定された基準器600の3次元領域に対して適用される3次元スキャンである。この3次元スキャンの例を
図7Bに示す。本例の3次元スキャンは、x方向に沿った複数のラインスキャン700-k(k=1、2、・・・、K:Kは正の整数)からなるラスタースキャンである。K個のラインスキャン700-1~700-Kは、互いに平行である。幾つかの態様では、y方向に沿った複数のラインスキャンからなるラスタースキャンを基準器600に適用することができる。なお、スキャンの態様(ラスタースキャンの態様、3次元スキャンの態様など)はこれらに限定されない。
【0128】
このようなスキャンを用いて得られる輝度プロファイルの例を
図8に示す。本例の輝度プロファイルは、ラスタースキャンによって基準器600の3次元領域から収集されたデータから3次元画像データを構築し、この3次元画像データをz方向に投影してプロジェクションデータを構築し、このプロジェクションデータのx方向に沿ったライン上における輝度分布を求めることによって生成される。
【0129】
図8の輝度プロファイルの横軸及び縦軸は、それぞれ、x座標(x方向の位置)及び輝度値を示している。各プロット点は、対応するx座標における輝度値を示している。グラフは、プロット点をスプライン曲線で補間したものである。縦軸に平行な各破線は、基準器600の溝(凹部、直線状パターン601)の重心(溝重心)の推定位置を示している。隣接する2つの溝重心の間の距離は、対応する2つの直線状パターン601の間隔の推定値である。
【0130】
このような基準器600及びラスタースキャン700-1~700-Kを利用した眼科装置1の評価について、幾つかの具体例を以下に説明する。
【0131】
評価の第1の具体例について、
図9を参照しつつ説明する。本例は、眼科装置1のラインスキャンの真直度の評価を実行するものである。まず、模型眼500(基準器600)が設置される(S1)。例えば、専用のアタッチメントを介して模型眼500が顎受けに装着される。模型眼500の装着態様はこれに限定されない。
【0132】
模型眼500が装着された後、眼科装置1は、模型眼500に対するアライメントを開始する(S2)。アライメントは、前述した例示的な方式のいずれかによって実行されてよい。
【0133】
アライメントが完了すると、眼科装置1は、模型眼500の基準器600に対してOCTスキャンを適用する(S3)。本例のOCTスキャンは、
図7A及び
図7Bに示すラスタースキャンである。
【0134】
次に、眼科装置1は、ステップS3のラスタースキャンで収集されたデータから3次元画像データを構築し(S4)、この3次元画像データからプロジェクションデータを構築する(S5)。
【0135】
更に、眼科装置1は、このプロジェクションデータから、
図8に示したものと同様の輝度プロファイルを作成する(S6)。輝度プロファイルは、少なくとも1つのラインについて作成される。輝度プロファイルが作成される当該少なくとも1つのラインは、x方向に沿ったライン、y方向に沿ったライン、及び、他の方向に沿ったラインのうちの少なくとも1つを含んでいてよい。典型的には、
図7Bに示すラインスキャン700-kに平行なライン(本例では、x方向に沿ったライン)について輝度プロファイルを作成することができる。これにより、ラインスキャン700-kの真直度を評価することができる。x方向と異なる方向に沿ったラインについて真直度を求める場合、2つ以上のラインスキャン700-kの配列状態(y方向におけるこれらの配列状態など)を評価することができる。
【0136】
続いて、眼科装置1は、ステップS6で作成された輝度プロファイルから溝重心を検出する(S7)。溝重心を検出(推定)する方法は任意であってよい。例えば、
図8の輝度プロファイルを解析して局所的な最下端位置を特定し、特定された局所的最下端位置の近傍(両側)における局所的な最上端位置を特定し、これらの特定位置から溝重心の推定位置を求めることができる。
【0137】
次に、眼科装置1は、ステップS7で特定された各溝重心の座標を特定する(S8)。ここでは、溝重心のx座標が少なくとも特定される。これにより、輝度プロファイルが作成されたラインに交差する各直線状パターン601の座標(少なくともx座標)が得られる。換言すると、当該ラインにおける複数の直線状パターン601の重心位置の分布が取得される。
【0138】
次に、眼科装置1は、ステップS8で特定された複数の溝重心の座標から、溝重心の間隔を算出する(S9)。溝重心間隔の算出は、隣接する溝重心のペアそれぞれについて実行されてもよいし、これらのペアから選択されたペアについて実行されてもよい。また、2つ以上のペアについて溝重心間隔が算出された場合、得られた2つ以上の溝重心間隔の統計量(例えば、平均、最頻値、中央値、分散、標準偏差など)を算出してもよい。或いは、隣接しない2つの溝重心の距離を算出し、当該2つの溝重心の間に存在する他の溝重心の個数に1を加えた値で当該算出された距離を除算することによって、溝重心間隔を推定してもよい。
【0139】
続いて、眼科装置1は、ステップS8で特定された溝重心座標、ステップS9で算出された溝重心間隔、これらの少なくとも一方から得られる情報のうちの少なくとも1つに基づいて、評価情報を生成する(S10)。
【0140】
本例では、基準器600の標準情報が記憶部212に記憶されている。本例の標準情報は、溝重心位置(溝重心座標)の標準情報、溝重心間隔の標準情報、溝重心位置及び/又は溝重心間隔から得られるパラメータの標準情報などを含んでいる。眼科装置1は、ステップS8で特定された溝重心座標、ステップS9で算出された溝重心間隔、これらの少なくとも一方から得られる情報などを、このような標準情報と比較することによって、スキャンの線形性に関する評価情報を生成することができる。例えば、眼科装置1は、ステップS8で特定された溝重心座標と、標準情報に含まれる溝重心位置(座標)との差を算出し、算出された差(つまり、標準的な溝重心位置に対する実際に計測された溝重心座標の偏位)に基づいて、ラインスキャン700-kの線形性評価情報(真直度)を求めることができる。また、眼科装置1は、ステップS9で算出された溝重心間隔と、標準情報に含まれる溝重心間隔との差を算出し、算出された差(つまり、標準的な溝重心間隔に対する実際に計測された溝重心間隔の誤差)に基づいて、ラインスキャン700-kの線形性評価情報(真直度)を求めることができる。
【0141】
続いて、眼科装置1は、ステップS10で生成された評価情報から可視化情報を生成する(S11)。眼科装置1は、生成された可視化情報を表示部241に表示させることができる。可視化情報は、例えば、評価情報の分布を示すマップ(ヒートマップなど)、輝度プロファイル(グラフ、プロットなど)などであってよい。可視化情報の具体例については後述する。
【0142】
眼科装置1は、評価情報や可視化情報を外部装置に送信することができ、また、記録媒体に記録することができる。以上で、評価の第1の具体例の説明を終える(エンド)。
【0143】
評価の第2の具体例について、
図10を参照しつつ説明する。本例は、眼科装置1のラインスキャンの真直度の評価を実行するものである。ステップS21~S25は、それぞれ、第1の具体例のステップS1~S5と同じ要領で実行されてよい。
【0144】
更に、眼科装置1は、ステップS25で構築されたプロジェクションデータから、
図8に示したものと同様の輝度プロファイルを作成する。本例では、眼科装置1は、x方向に沿った少なくとも1つの輝度プロファイルと、y方向に沿った少なくとも1つの輝度プロファイルとを作成する(S26)。
【0145】
続いて、眼科装置1は、ステップS26で作成された各輝度プロファイルから溝重心を検出する(S27)。この処理は、第1の具体例のステップS7と同じ要領で実行されてよい。更に、眼科装置1は、ステップS27で特定された各溝重心の座標を特定する(S28)。ここでは、溝重心のx座標及びy座標(つまり、xy座標系における座標)が特定される。
【0146】
次に、眼科装置1は、ステップS28で特定された複数の溝重心のxy座標に基づき、所定の2次元座標系に各溝重心の位置をプロットすることによって、散布図を作成する(S29)。例えば、この2次元座標系の横軸及び縦軸は、それぞれ、x方向の距離及びy方向の距離である。距離の単位は、例えばマイクロメートルである。
【0147】
ステップS29で生成されるデータの幾つかの例を
図11に示す。符号800は、
図7Aのスキャンエリア700に対応する基準器の部分(スキャン適用エリア)を示す。符号801は、スキャン適用エリア800におけるx方向に沿った1つのラインを示し、符号802及び803は、y方向に沿った2つのラインを示す。符号811は、ライン801における複数の溝重心の位置をプロットすることで作成された散布図を示す。同様に、符号812は、ライン802における複数の溝重心の位置をプロットすることで作成された散布図を示し、符号813は、ライン803における複数の溝重心の位置をプロットすることで作成された散布図を示す。
【0148】
次に、眼科装置1は、ステップS29で作成された各散布図に対して多項式フィッティングを適用する(S30)。この多項式フィッティングに使用される多項式は、例えば、2次多項式、3次多項式、及び4次多項式の少なくとも1つであってよい。なお、多項式フィッティングの代わりに、又は多項式フィッティングに加えて、任意の曲線フィッティングを行ってもよい。
【0149】
続いて、眼科装置1は、ステップS30で行われた多項式フィッティングで得られた多項式の係数に基づいて、線形性評価情報(真直度)を生成する(S31)。より具体的には、眼科装置1は、多項式の係数の大きさに基づいて線形性評価情報を生成することができる。例えば、溝重心の偏位が小さく直線に近ければ係数がゼロになる性質を利用して予め生成された変換式にしたがって、係数の値を真直度の値に変換することができる。或いは、同性質を利用して予め生成された閾値に基づいて、係数の値から線形性の良否判定を行うことができる。
【0150】
更に、眼科装置1は、ステップS31で生成された評価情報から可視化情報を生成することができる。加えて、眼科装置1は、生成された可視化情報を表示部241に表示させることができる。また、眼科装置1は、評価情報や可視化情報を外部装置に送信することや、記録媒体に記録することができる。以上で、評価の第2の具体例の説明を終える(エンド)。
【0151】
評価の第3の具体例について、
図12を参照しつつ説明する。本例は、評価情報を視覚的に表現した可視化情報の例を提供する。本例の可視化情報は、
図11と同様のスキャン適用エリア800における溝重心間隔の分布を表現したものである。
【0152】
符号821は、スキャン適用エリア800の複数の位置におけるx方向の溝間隔を2次元的にマッピングした溝間隔マップである。例えば、或る位置におけるx方向の溝間隔805は、溝間隔マップ821の対応位置(矢印で示す位置)に表現される。
【0153】
同様に、符号822は、スキャン適用エリア800の複数の位置におけるy方向の溝間隔を2次元的にマッピングした溝間隔マップである。例えば、或る位置におけるy方向の溝間隔804は、溝間隔マップ822におけるその対応位置(矢印で示す位置)に表現されている。
【0154】
溝間隔マップ821及び822は、溝間隔の値の大きさを色の相違で表現したカラーマップであってよい。カラーマップとしての溝間隔マップ821の右側には、溝間隔の値と色との対応関係を示すカラーコードが配置されている。同様に、カラーマップとしての溝間隔マップ822の右側には、溝間隔の値と色との対応関係を示すカラーコードが配置されている。眼科装置1は、各位置の溝間隔の値に対し、カラーコードにおける対応する色を割り当てる。
【0155】
幾つかの態様において、溝間隔の値が大きくなるほど黄色に近づいていき、且つ、溝間隔の値が小さくなるほど青色に近づいていくように、カラーコードが設定されている。
【0156】
なお、溝間隔マップ821及び822の少なくとも一方は、カラーマップと異なる態様の可視化情報であってよい。例えば、溝間隔の値をコントラストや模様で表現したマップを用いることができる。また、溝間隔を数値で表現してもよい。
【0157】
本例では、隣接する2つの溝重心の間の距離として溝間隔が定義されるが、実施形態はこれに限定されない。例えば、幾つかの態様では、複数の溝間隔の代表値(平均値、最頻値、中央値など)に対する各溝間隔のズレ量(距離値、分散値、標準偏差値など)をとして溝間隔を定義してもよい。
【0158】
また、溝間隔に関する閾値を予め設定するとともに、各位置における溝間隔の値を当該閾値と比較することによって、各位置における溝間隔の良否判定を行うことができる。更に、この良否判定の結果を示す可視化情報を提供することができる。例えば、良否判定結果の分布を示すマップを提供することが可能である。
【0159】
評価の第4の具体例について、
図13を参照しつつ説明する。本例は、評価情報を視覚的に表現した可視化情報の例を提供する。本例の可視化情報は、
図11と同様のスキャン適用エリア800のオーバースキャン評価情報を視覚的に表現したものである。
【0160】
前述したように、オーバースキャンの評価は、例えば、アーティファクト発生エリアが適切に設定されているか否か、オーバースキャンに関するアーティファクトの有無・程度・量・許容の可否などを提供することが可能であってよい。
【0161】
本例では、眼科装置1は、前述した要領で、スキャン適用エリア(800)のx方向の端部領域における画像の状態を評価することができる。ここで、x方向は、各ラインスキャン700-kに沿った方向である。
【0162】
眼科装置1は、スキャン適用エリア(800)のx方向の端部領域において、隣接する一対のラインスキャン700-k及び700-(k+1)に対応する2つの画像の相対位置を求めることができる。例えば、眼科装置1は、これら2つの画像のy方向における距離(間隔)、及び、x方向における偏位の少なくとも一方を求めることができる。また、眼科装置1は、ラインスキャン700-kに対応する画像(Bスキャン画像データ)に含まれる複数のAスキャン画像データのx方向における間隔の一様度(均一度)を求めることができる。
【0163】
眼科装置1は、このようなオーバースキャン評価パラメータの情報に基づくオーバースキャン評価情報を視覚的に表現した可視化情報を生成することができる。
図13に示すオーバースキャンに関する可視化情報(オーバースキャン評価マップ)823は、
図11と同様のスキャン適用エリア800(特に、そのx方向の端部領域824及び825)における、オーバースキャン評価パラメータの情報の分布を表現したものである。
【0164】
オーバースキャン評価マップ823は、オーバースキャン評価パラメータの値の大きさを色の相違で表現したカラーマップであってよい。カラーマップとしてのオーバースキャン評価マップ823の右側には、オーバースキャン評価パラメータの値と色との対応関係を示すカラーコードが配置されている。眼科装置1は、各位置におけるオーバースキャン評価パラメータの値に対し、カラーコードにおける対応する色を割り当てる。第3の具体例と同様に、オーバースキャン評価マップ823は、カラーマップと異なる態様の可視化情報であってもよい。
【0165】
また、オーバースキャン評価パラメータに関する閾値を予め設定するとともに、各位置におけるオーバースキャン評価パラメータの値を当該閾値と比較することによって、各位置におけるオーバースキャン評価パラメータの良否判定を行うことができる。更に、この良否判定の結果を示す可視化情報を提供することができる。例えば、良否判定結果の分布を示すマップを提供することが可能である。
【0166】
評価の第5の具体例について説明する。本例は、OCTアンジオグラフィ、画像アベレージング、OCT血流計測、モーション計測などにおいて実行される反復的スキャンの位置再現性に関する評価情報及び可視化情報を提供する。再現性評価情報及びその可視化情報を生成するための処理の例を
図14に示す。ステップS41及びS42は、それぞれ、第1の具体例のステップS1及びS2と同じ要領で実行されてよい。
【0167】
ステップS42のアライメントが完了したら、眼科装置1は、模型眼500に反復的スキャンを適用する(S43)。つまり、眼科装置1は、基準器600の同一箇所を目標としたスキャンを複数回実行する。本例の反復的スキャンは、複数回のラスタースキャンである。
【0168】
反復的スキャンにおけるスキャンの反復回数は、2回以上の任意の回数であってよい。反復回数は、例えば、評価対象の計測方式の種類に応じて決定されてよい。幾つかの態様では、評価対象の計測方式がOCTアンジオグラフィである場合における反復的スキャンの反復回数は、OCTアンジオグラフィにおいて同一箇所を目標として実行されるスキャンの回数と同じ4回であってよい。他の計測方式を評価対象とする場合の反復回数も同じ要領で決定されてよい。本例では、基準器600の同一箇所(スキャン適用エリア800)を目的としたラスタースキャンが4回実行される。
【0169】
眼科装置1は、ステップS43の反復的スキャンで得られた4つの収集データセットのそれぞれから3次元画像データを構築する。これにより、4回のラスタースキャンにそれぞれ対応する4つの3次元画像データが得られる(S44)。更に、眼科装置1は、ステップS44で構築された各3次元画像データからプロジェクションデータを構築する。これにより、4回のラスタースキャンにそれぞれ対応する4つのプロジェクションデータが得られる(S45)。
【0170】
次に、眼科装置1は、ステップS45で得られた各プロジェクションデータから、
図8に示したものと同様の輝度プロファイルを作成する(S46)。本例では、眼科装置1は、例えば、x方向に沿った複数の輝度プロファイル、及び、y方向に沿った複数の輝度プロファイルの一方又は双方を作成する。これにより、4回のラスタースキャンにそれぞれ対応する4つの輝度プロファイル群が得られる。
【0171】
次に、眼科装置1は、ステップS46で作成された各輝度プロファイルから溝重心を検出する(S47)。この処理は、第1の具体例のステップS7と同じ要領で実行されてよい。これにより、4回のラスタースキャンにそれぞれ対応する4つの溝重心群が得られる。
【0172】
次に、眼科装置1は、ステップS47で特定された各溝重心の座標を特定する(S48)。本例では、溝重心のx座標及びy座標(つまり、xy座標系における座標)が特定される。これにより、4回のラスタースキャンにそれぞれ対応する4つの溝重心座標群が得られる。
【0173】
次に、眼科装置1は、基準器600の各点(反復的スキャンが適用された範囲内の各点;本例において以下同様)について、ステップS48で特定された4つの溝重心座標群から1つずつ、当該点に対応する溝重心座標を選択する。これにより、基準器600の各点に対して4つの溝重心座標が割り当てられる。つまり、基準器600の各点に対して4つの溝重心が関連付けられる。更に、眼科装置1は、基準器600の各点について、当該点に関連付けられた4つの溝重心の間における位置の誤差を算出する(S49)。
【0174】
ステップS49で算出される誤差は、基準器600の同一領域を目標として順次に実行された4回のラスタースキャンの間におけるスキャン位置(スキャン範囲)のズレ量(偏位、バラツキ)を表している。これにより、基準器600(反復的スキャンが適用された範囲)におけるスキャン位置のズレ量の分布が得られる。ステップS49で算出される値は、例えば、4つの溝重心位置(座標)から算出される任意の量であってよく、例えば、標準偏差、最大誤差、平均誤差などであってよい。
【0175】
続いて、眼科装置1は、ステップS49で求められた溝重心位置の誤差分布に基づいて再現性評価情報を生成する(S50)。この処理は、例えば、ステップS49で求められた複数の誤差の少なくとも一部、又は、それに基づき得られる値を、既定の閾値と比較する処理(閾値処理)を含んでいてよい。
【0176】
更に、眼科装置1は、ステップS50で生成された再現性評価情報から可視化情報(再現性可視化情報)を生成する(S51)。再現性可視化情報の態様については、その例を後述する。加えて、眼科装置1は、生成された再現性可視化情報を表示部241に表示させることができる。また、眼科装置1は、再現性評価情報や再現性可視化情報を外部装置に送信することや、記録媒体に記録することができる。以上で、
図14に示す一連の処理の説明を終える(エンド)。
【0177】
図14に示す一連の処理の具体例について、
図15及び
図16を更に参照して説明する。本例では、
図15に示すように、4回のラスタースキャンに対応する4つのプロジェクションデータ831~834が得られる。
【0178】
まず、眼科装置1は、第1のプロジェクションデータ831の任意の位置(第1の位置)831aについて、この第1の位置831aに対応する第2のプロジェクションデータ832の位置(第2の位置)832aを決定する。
【0179】
例えば、眼科装置1は、第1のプロジェクションデータ831が定義されたxy座標系(第1のxy座標系)における第1の位置のxy座標(第1のxy座標)を特定し、第2のプロジェクションデータ832が定義されたxy座標系(第2のxy座標系)において第1のxy座標と同じx座標及びy座標を有する位置を特定し、この特定位置を第2の位置832aとすることができる。第1の位置831aに対応する第3のプロジェクションデータ833の位置(第3の位置)833aの決定、及び、第1の位置831aに対応する第4のプロジェクションデータ834の位置(第4の位置)834aの決定についても、同じ要領で実行することができる。なお、4つのプロジェクションデータ831~834において相互に対応する4つの位置を決定する方法は、これに限定されない。
【0180】
次に、眼科装置1は、
図16に示すように、第1の位置831a(及びその近傍)における第1のプロジェクションデータ831のデータP(1)と、第2の位置832a(及びその近傍)における第2のプロジェクションデータ833のデータP(2)と、第3の位置833a(及びその近傍)における第3のプロジェクションデータ833のデータP(3)と、第4の位置834a(及びその近傍)における第4のプロジェクションデータ834のデータP(4)とに基づいて、これら位置831a~834aから定義される位置(定義位置)における情報を生成する。
【0181】
例えば、データP(1)~P(4)は、それぞれ対応する第1~第4の位置831a~834aにおける画素情報であってもよいし、画素情報から生成されるデータであってもよい。また、データP(1)~P(4)は、それぞれ対応する第1~第4の位置831a~834aの近傍位置における画素情報を含んでいてもよいし、近傍位置における画素情報から生成されるデータを含んでいてもよい。また、定義位置は、第1~第4の位置831a~834aのいずれか(例えば、第1の位置831a)であってもよいし、第1~第4の位置831a~834aの少なくとも2つから決定される位置(例えば、平均位置)であってもよい。
【0182】
このようにして得られた情報を定義位置に割り当てることで、
図16の再現性可視化情報841が得られる。再現性可視化情報841では、x方向における溝重心のズレ量の分布を表すカラーマップである。再現性可視化情報841の位置(上記の定義位置)には、第1~第4の位置831a~834aにそれぞれ対応する4つのデータP(1)~P(4)から生成された情報(値)に対応する色が割り当てられている。このような処理を第1のプロジェクションデータ831の各点について実行することで、再現性評価情報としての分布を表現したマップである再現性可視化情報841が生成される。y方向における溝重心のズレ量を示すカラーマップである再現性可視化情報843についても、同じ要領で生成される。
【0183】
再現性評価情報を生成するための他の例を説明する。本例は、プロジェクションデータ(又は、3次元画像データ)のレジストレーションを利用する。眼科装置1は、第1~第4のプロジェクションデータ831~834に対してレジストレーションを提供する。このレジストレーションは、大域的なレジストレーションでもよいし、局所的なレジストレーションでもよい。
【0184】
大域的なレジストレーションは、第1~第4のプロジェクションデータ831~834のそれぞれの全体の位置合わせを目的とした画像処理である。例えば、眼科装置1は、第1のプロジェクションデータを基準データとし、この基準データに対して第2~第4のプロジェクションデータ832~834のそれぞれをレジストレーションする。レジストレーションの手法は任意であってよいが、例えば、各プロジェクションデータ831~834の特徴点を検出する処理と、検出された特徴点の位置の誤差に基づいて第1のプロジェクションデータ831に対する第2~第4のプロジェクションデータ832~834のそれぞれの偏位を求める処理とを含んでいてよい。この偏位がプロジェクションデータ間の位置ズレ量として採用される。
【0185】
局所的なレジストレーションは、プロジェクションデータ831~834の部分領域(局所領域)の位置合わせを目的とした画像処理である。例えば、眼科装置1は、まず、第1のプロジェクションデータを基準データとするとともに、第1のプロジェクションデータ831の局所領域(基準局所領域)を一つ設定する。基準局所領域の寸法や形状は任意であってよい。例えば、第1のプロジェクションデータ831の任意の点を指定し、この指定点の近傍領域を基準局所領域に設定することができる。次に、眼科装置1は、第2~第4のプロジェクションデータ832~834のそれぞれを解析することで、基準局所領域に相当する部分領域を特定する。これにより、第1のプロジェクションデータ831と第2~第4のプロジェクションデータ832~834のそれぞれとの間の局所的な位置ズレ量を求めることができる。例えば、第1のプロジェクションデータ831の任意の点(上記の指定点)と、第2~第4のプロジェクションデータ832~834のそれぞれの対応点との間の位置ズレ量を求めることができる。このような処理をプロジェクションデータ831の複数の点について実行することで、第1~第4のプロジェクションデータ831~834の間における位置ズレ量の分布を取得することが可能である。
【0186】
本態様の幾つかの特徴、幾つかの作用、及び幾つかの効果について説明する。以下に説明する複数の特徴は、それぞれ個別で本態様の特徴となり得るものであり、また、任意の2つ以上の組み合わせとしても本態様の特徴となり得るものである。なお、本開示が提供する特徴は上記したものに限定されない。
【0187】
本態様は、スキャンタイプの医療装置を評価するための基準器であって、医療装置のスキャン条件に応じたパターンが形成された基準器を提供する。より具体的には、本態様の基準器600は、予め設定されたスキャン条件に基づき生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置(眼科装置1)の評価情報を取得するための基準器であって、眼科装置1の少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成されている。このように医療スキャン装置のスキャン条件に応じたパターンが形成された基準器は新規であり、この基準器を用いることによって、スキャンの線形性の評価、スキャンの位置再現性の評価、モーションコントラストイメージング(OCTアンジオグラフィなど)に関する評価など、医療スキャン装置の新たな評価手法を行うことが可能になる。
【0188】
基準器600に形成されたパターンは、例えば、眼科装置1が実行するOCTスキャンにおける任意のスキャン条件に基づき設計されている。パターンの設計において参照されるスキャン条件は、例えば、スキャンパターン、スキャン寸法(長さ、面積、体積、径など)、スキャン間隔、スキャン密度、及びスキャン反復回数の少なくとも1つを含んでいてよく、また、本態様で例示した他のスキャン条件の少なくとも1つを含んでいてよい。
【0189】
本態様の基準器600に形成されているパターンは、少なくとも第1の方向に沿った第1の周期的パターンを含んでいてよい。本態様における複数の直線状パターン601及び複数の直線状パターン602のそれぞれは、このような第1の周期的パターンの例を提供している。このような態様によれば、例えば、第1の方向に沿った1つ以上のスキャンに関する評価を行うことができる。
【0190】
本態様の基準器600に形成されているパターンは、上記の第1の方向と異なる第2の方向に沿った第2の周期的パターンを更に含んでいてもよい。本態様では、複数の直線状パターン601及び複数の直線状パターン602の双方が基準器600に形成されており、複数の直線状パターン601と複数の直線状パターン602との組み合わせが、第1の周期的パターンと第2の周期的パターンとの組み合わせの例を提供している。つまり、複数の直線状パターン601及び複数の直線状パターン602の一方が第1の周期的パターンの例を提供するとともに、他方が第2の周期的パターンの例を提供している。また、複数の直線状パターン601と複数の直線状パターン602との組み合わせは、グリッドパターンの例を提供している。このような態様によれば、例えば、第1の方向に沿った1つ以上のスキャンに関する評価を行うことができるとともに、第2の方向に沿った1つ以上のスキャンに関する評価を行うこともできる。本態様では、ラスタースキャンに関する評価や、ラスタースキャンを構成する1つのラインスキャンの評価や、ラスタースキャンを構成する2つ以上のラインスキャンの評価や、複数回のラスタースキャンの評価などを行っている。なお、従来は十字パターンが形成されている基準器を用いてスキャンの長さの評価などを行っていたが、十字パターン上でしか評価を行えなかったため、例えば斜めスキャンの評価を行うことができず、また、スキャンの歪みを評価することもできなかった。このような不都合は本態様によって解消される。
【0191】
本態様の基準器600に形成されているパターンの少なくとも一部は、表面又は内部に形成された凹部(溝、谷)及び/又は凸部(山)であってもよい。
図6Bに示した例では、基準器600の表面に形成された凹部がパターンを構成している。図示は省略するが、基準器の表面に凸部を形成することでパターンを構成してもよいし、基準器の内部に凹部及び/又は凸部を形成することでパターンを構成してもよい。このような態様によれば、スキャンにより収集されるデータにパターンに関する情報を含めるための具体的な構成が提供される。
【0192】
本態様の基準器600に形成されているパターンの少なくとも一部は、光特性の異なる2以上の材料によって形成されていてもよい。例えば、図示は省略するが、特定の光特性について、第1の特性量を有する第1の材料によってベース(基材、基板など)を作成するとともに、第1の特性量と異なる第2の特性量を有する第2の材料によってパターン部を形成することができる。このような態様によれば、光スキャンにより収集されるデータにパターンに関する情報を含めるための具体的な構成が提供される。
【0193】
本態様の基準器600に形成されているパターンの少なくとも一部は、光散乱特性の異なる2以上の材料によって形成されていてもよい。このような態様によれば、OCTのように組織間の光散乱特性の違いを利用した計測法の光スキャンにより収集されるデータにパターンに関する情報を含めるための具体的な構成が提供される。
【0194】
本態様は、スキャンタイプの眼科装置を評価するための基準器であって、周期的パターンが形成された基準器を提供する。より具体的には、本態様の基準器600は、複数の直線状パターン601や複数の直線状パターン602のような、空間的に周期的に配列されたパターンを有している。周期的パターンは、1つの方向において周期的に配列されたパターンを含んでいてもよいし、2つ以上の方向において周期的に配列されたパターンを含んでいてもよい。このように周期的パターンが形成された眼科装置評価用の基準器は新規であり、この基準器を用いることによって、眼科装置のスキャンの線形性の評価、眼科装置のスキャンの位置再現性の評価、眼科装置のモーションコントラストイメージング(OCTアンジオグラフィなど)に関する評価など、眼科装置の新たな評価手法を行うことが可能になる。
【0195】
本態様は、上記した複数の特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有する基準器を摸擬眼底とした模型眼を提供する。より一般に、本態様が提供する模型眼は、本開示において説明された様々な構成のうちの少なくとも1つの構成を具備した基準器を摸擬眼底とした模型眼を提供する。なお、本態様が提供する模型眼はこのようなものに限定されず、例えば、基準器により摸擬する組織は、角膜、水晶体、虹彩、硝子体など、眼の任意の組織であってよい。
【0196】
本態様が提供する模型眼において、基準器の表面の少なくとも一部が曲面として形成されていてよい。更に、曲面又はその内部にパターンが形成されていてよい。このような態様によれば、眼底の形状を模した曲面状の表面を有する基準器を含む模型眼を用いて、眼科装置の評価を行うことが可能となる。これにより、生体眼に対して実際に適用されるスキャンの状態をより正確に再現して評価を実施することができるため、評価の品質向上を図ることが可能になる。
【0197】
本態様は、生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置の評価情報を取得するための新規な医療評価装置を提供する。この医療スキャン装置は、基準器と評価部とを含む。基準器には、医療スキャン装置の少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成されている。また、評価部は、この基準器をスキャンして収集されたデータに基づいて評価情報を生成する。例えば、上記した眼科装置1は、被検眼EにOCTスキャンを適用してデータを収集するものであり、眼科装置1の少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成されている基準器600と、評価部250(例えば、評価部250A~250Eの少なくとも1つ)とを含んでいる。
【0198】
幾つかの態様の医療評価装置は、医療スキャン装置と一体であってよい。例えば、幾つかの態様の医療評価装置は医療スキャン装置に組み込まれており、換言すると、この医療スキャン装置は自身を評価するための構成及び機能を有している。これに対し、幾つかの態様の医療評価装置は、医療スキャン装置と別体であってよい。例えば、幾つかの態様の医療評価装置は、評価部を含む情報処理装置(コンピュータ)と、基準器との組み合わせであってよい。このように、医療評価装置の実装形態は任意であってよい。
【0199】
幾つかの態様において、医療評価装置の基準器に形成されているパターンは、少なくとも第1の方向に沿った第1の周期的パターンを含んでいてよく、第1の方向と異なる第2の方向に沿った第2の周期的パターンを更に含んでいてもよい。例えば、医療評価装置の基準器に形成されているパターンは、グリッドパターンであってよい。
【0200】
幾つかの態様において、医療評価装置の基準器に形成されているパターンの少なくとも一部は、表面又は内部に形成された凹部及び/又は凸部であってよい。また、幾つかの態様において、医療評価装置の基準器のパターンの少なくとも一部は、光特性の異なる2以上の材料によって形成されていてよく、この光特性は散乱特性を含んでいてもよい。
【0201】
また、本態様は、生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置の評価情報を取得するための新規な医療評価装置を提供する。この医療スキャン装置は、基準器と評価部とを含む。この基準器には周期的パターンが形成されている。評価部は、この基準器をスキャンして収集されたデータに基づいて評価情報を生成する。例えば、上記した眼科装置1は、被検眼EにOCTスキャンを適用してデータを収集するものであり、眼科装置1が実行可能なラスタースキャンなどに対応した周期的パターンが形成されている基準器600と、評価部250(例えば、評価部250A~250Eの少なくとも1つ)とを含んでいる。医療評価装置の実装形態は任意であってよい。
【0202】
幾つかの態様において、医療スキャン装置の基準器は、模型眼の摸擬眼底であってよい。摸擬眼底としての基準器において、この基準器の表面の少なくとも一部は曲面として形成されていてよく、更に、この基準器に形成されているパターンは当該曲面又はその内部に形成されていてよい。
【0203】
幾つかの態様において、医療スキャン装置は、プロジェクションデータに基づき評価を行うように構成されていてよい。このような医療スキャン装置は、基準器の3次元領域に対してスキャンを適用することで、3次元データを収集する。評価部は、プロジェクション処理部と評価情報生成部とを含んでいる。プロジェクション処理部は、収集された3次元データからプロジェクションデータ(2次元データ)を構築するように構成されている。評価情報生成部は、構築されたプロジェクションデータに基づいて評価情報を生成するように構成されている。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、プロジェクションデータが表す2次元情報を利用して評価を行うことができ、収集された3次元情報を利用するよりも処理リソースや処理時間が少なくて済むという利点がある。例えば、上記した眼科装置1により実行される各種の評価においては、z座標の情報は必要ではなく、xy座標系で定義されたプロジェクションデータに次元を下げても特に問題は無いと言える。
【0204】
幾つかの態様において、医療スキャン装置の評価部は、基準器をスキャンして収集されたデータと基準器に形成されているパターンの標準情報とに基づいて評価情報を生成するように構成されていてよい。前述したように、パターンの標準情報は、例えば、基準器の設計情報及び/又は基準器の測定データに基づいて予め作成することができる。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、基準器に形成されている実際のパターンとこの基準器をスキャンして収集されたデータとの比較をより正確に行うことが可能となり、評価情報の品質向上を図ることが可能になる。
【0205】
幾つかの態様において、医療スキャン装置の評価部は、基準器に適用されたラインスキャンの真直度を求めるように構成されていてよい。真直度(線形性、線形度)は、評価情報の例である。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、医療スキャン装置が実行するラインスキャンの軌跡を直線とみなすことができるか否かを評価することが可能になり、また、ラインスキャンの軌跡の直線からの乖離の程度を評価することが可能になる。
【0206】
幾つかの態様において、医療スキャン装置の基準器のパターンは、直線状パターンを含んでいてよい。更に、評価部は、この基準器をスキャンして収集されたデータと直線状パターンの標準情報とに基づいてラインスキャンの真直度を求めるように構成されていてよい。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、ラインスキャンの真直度を評価するための具体的な構成が提供される。
【0207】
幾つかの態様において、医療スキャン装置の評価部は、プロジェクション処理部と、位置データ生成部と、真直度算出部とを含んでいてよい。プロジェクション処理部は、基準器の3次元領域をスキャンして収集された3次元データからプロジェクションデータを構築するように構成されている。位置データ生成部は、生成されたプロジェクションデータに基づいて、基準器に形成されている直線状パターンの位置データを求めるように構成されている。真直度算出部は、求められた位置データと直線状パターンの標準情報とに基づいてラインスキャンの真直度を算出するように構成されている。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、ラインスキャンの真直度を評価するための更に具体的な構成が提供される。
【0208】
幾つかの態様において、医療スキャン装置は、評価部により生成された評価情報から可視化情報を生成する可視化情報生成部を更に含んでいてもよい。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、医療スキャン装置の評価情報を視覚的に表現した可視化情報をユーザーに提供することが可能になる。
【0209】
本態様は、生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置のスキャンの位置に関する評価情報を取得するための新規な医療評価装置を提供する。この医療スキャン装置は、基準器と評価部とを含む。基準器には、医療スキャン装置の少なくとも1つのスキャン条件に基づき設計されたパターンが形成されている。評価部は、この基準器をスキャンして収集されたデータに基づいて、この基準器に適用されたスキャンの位置に関する位置評価情報を生成するように構成されている。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。医療評価装置の実装形態は任意であってよい。
【0210】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療評価装置の基準器に形成されているパターンは、少なくとも第1の方向に沿った第1の周期的パターンを含んでいてよく、第1の方向と異なる第2の方向に沿った第2の周期的パターンを更に含んでいてもよい。例えば、医療評価装置の基準器に形成されているパターンは、グリッドパターンであってよい。
【0211】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療評価装置の基準器に形成されているパターンの少なくとも一部は、表面又は内部に形成された凹部及び/又は凸部であってよい。また、幾つかの態様において、医療評価装置の基準器のパターンの少なくとも一部は、光特性の異なる2以上の材料によって形成されていてよく、この光特性は散乱特性を含んでいてもよい。
【0212】
本態様は、生体をスキャンしてデータを収集する医療スキャン装置のスキャンの位置に関する評価情報を取得するための新規な医療評価装置を提供する。この医療スキャン装置は、基準器と評価部とを含む。基準器には、周期的パターンが形成されている。評価部は、この基準器をスキャンして収集されたデータに基づいて、この基準器に適用されたスキャンの位置に関する位置評価情報を生成するように構成されている。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。医療評価装置の実装形態は任意であってよい。
【0213】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置の基準器は、模型眼の摸擬眼底であってよい。摸擬眼底としての基準器において、この基準器の表面の少なくとも一部は曲面として形成されていてよく、更に、この基準器に形成されているパターンは当該曲面又はその内部に形成されていてよい。
【0214】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置は、プロジェクションデータに基づき評価を行うように構成されていてよい。このような医療スキャン装置は、基準器の3次元領域に対してスキャンを適用することで、3次元データを収集する。評価部は、プロジェクション処理部と評価情報生成部とを含んでいる。プロジェクション処理部は、収集された3次元データからプロジェクションデータ(2次元データ)を構築するように構成されている。評価情報生成部は、構築されたプロジェクションデータに基づいて評価情報を生成するように構成されている。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、プロジェクションデータが表す2次元情報を利用してスキャンの位置に関する評価を行うことができ、収集された3次元情報を利用するよりも処理リソースや処理時間が少なくて済むという利点がある。
【0215】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置の評価部は、基準器をスキャンして収集されたデータと基準器に形成されているパターンの標準情報とに基づいて評価情報を生成するように構成されていてよい。前述したように、パターンの標準情報は、例えば、基準器の設計情報及び/又は基準器の測定データに基づいて予め作成することができる。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、基準器に形成されている実際のパターンとこの基準器をスキャンして収集されたデータとの比較をより正確に行うことが可能となり、スキャンの位置に関する評価情報の品質向上を図ることが可能になる。
【0216】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置の基準器に形成されているパターンは、直線状パターン群を含んでいてよい。更に、評価部は、この基準器に複数のラインスキャンを適用して収集されたデータと、直線状パターン群の標準情報とに基づいて、複数のラインスキャンの位置関係に関する位置関係評価情報を位置評価情報として生成するように構成されていてよい。複数のラインスキャンの位置関係は、例えば、ラインスキャンの間隔(例えば、ラスタースキャンの間隔、ラジアルスキャンの角度間隔など)であってよい。
【0217】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置の基準器に形成されている直線状パターン群は、互いに平行な2つの直線状パターンを含んでいてよい。更に、評価部は、間隔データ生成部と間隔評価情報生成部とを含んでいてよい。間隔データ生成部は、この基準器から収集されたデータに基づいて当該2つの直線状パターンの間隔データを求めるように構成されている。間隔評価情報生成部は、求められた間隔データと当該2つの直線状パターンの標準情報とに基づいて当該2つの直線状パターンに対応する2つのラインスキャンの間隔に関する間隔評価情報を生成するように構成されている。間隔評価情報は、位置関係評価情報の例である。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、医療スキャン装置が実行するラインスキャンの間隔を標準情報に照らして評価することが可能になる。
【0218】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置の基準器に形成されている直線状パターン群は、互いに平行な複数の直線状パターンを含んでいてよい。更に、評価部は、間隔データ生成部と、間隔評価情報生成部と、分布生成部と、オーバースキャン評価情報生成部とを含んでいてよい。間隔データ生成部は、この基準器から収集されたデータに基づいて複数の直線状パターンの間隔データを求めるように構成されている。間隔評価情報生成部は、求められた間隔データと複数の直線状パターンの標準情報とに基づいて複数の直線状パターンに対応する複数のラインスキャンの間隔に関する間隔評価情報を生成するように構成されている。分布生成部は、生成された間隔評価情報から、それらの分布を表す間隔評価情報分布を生成する。オーバースキャン評価情報生成部は、生成された間隔評価情報分布とオーバースキャンの標準情報とに基づいてオーバースキャン評価情報を生成するように構成されている。オーバースキャン評価情報は、位置関係評価情報の例である。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、医療スキャン装置が実行するオーバースキャンの状態を標準情報に照らして評価することが可能になる。
【0219】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置の評価部は、基準器に反復的スキャンを適用して収集された複数のデータに基づいて、この反復的スキャンの位置再現性に関する再現性評価情報を生成するように構成されている。再現性評価情報は、位置評価情報の例である。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、医療スキャン装置が実行する反復的スキャンの位置再現性を評価することが可能になる。例えば、このような態様によれば、OCTアンジオグラフィ、画像アベレージング、血流計測、モーション計測などのように反復的スキャンが使用されるモダリティの品質評価を行うことが可能になる。
【0220】
幾つかの態様において、スキャンの位置に関する評価情報を取得するための医療スキャン装置は、評価部により生成された評価情報から可視化情報を生成する可視化情報生成部を更に含んでいてもよい。上記した眼科装置1がこのような構成を具備していることは、当業者にとって明らかである。このような態様によれば、医療スキャン装置の評価情報を視覚的に表現した可視化情報をユーザーに提供することが可能になる。
【0221】
以上に説明した態様は、この発明の実施の例示に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0222】
1 眼科装置
500 模型眼
600 基準器