(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120305
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】コンデンサマイクロホン
(51)【国際特許分類】
H04R 19/04 20060101AFI20220810BHJP
H04R 19/01 20060101ALI20220810BHJP
H04R 1/22 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
H04R19/04
H04R19/01
H04R1/22 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017117
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000145806
【氏名又は名称】株式会社小野測器
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】市川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】長沢 誠
【テーマコード(参考)】
5D018
5D021
【Fターム(参考)】
5D018BA01
5D021CC03
5D021CC18
(57)【要約】
【課題】振動膜のスティフネスを小さくしても静圧特性の悪化を抑えることのできるバックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンを提供する。
【解決手段】コンデンサマイクロホン10は、筒状の筐体11と、筐体11の筒端開口部15を塞ぐ振動膜12と、筐体11内において振動膜12に対向配置されるエレクトレット膜24を有する電極本体21と電極本体21から振動膜12の反対側に向かって延びるロッド部22とを有する背極13と、筐体11に固定され、筐体11の内周面とロッド部22の外周面との間に介在して背極13を支持する第1絶縁部材14と、を備える。振動膜12と第1絶縁部材14との間の空間を背気室35、測定可能な音波の周波数範囲を設計周波数とするとき、振動膜12と第1絶縁部材14との間隔である背気室長さHが設計周波数の上限値である上限周波数に対応する音波の半波長よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンであって、
筒状の筐体と、
前記筐体の筒端開口部を塞ぐ振動膜と、
前記筐体内において前記振動膜に対向配置されるエレクトレット膜を有する電極本体と前記電極本体から前記振動膜の反対側に向かって延びるロッド部とを有する背極と、
前記筐体に固定され、前記筐体の内周面と前記ロッド部の外周面との間に介在して前記背極を支持する絶縁部材と、を備え、
前記振動膜と前記絶縁部材との間の空間を背気室、測定可能な音波の周波数範囲を設計周波数とするとき、
前記振動膜と前記絶縁部材との間隔である背気室長さが前記設計周波数の上限値である上限周波数に対応する音波の半波長よりも大きい
コンデンサマイクロホン。
【請求項2】
前記絶縁部材が第1絶縁部材であり、
前記電極本体と前記第1絶縁部材との間に第2絶縁部材を有する
請求項1に記載のコンデンサマイクロホン。
【請求項3】
前記第2絶縁部材は、吸音性を有する
請求項2に記載のコンデンサマイクロホン。
【請求項4】
前記第2絶縁部材は、前記背気室を連通する2つ以上の空間に区画する反射板を含む
請求項2または3に記載のコンデンサマイクロホン。
【請求項5】
前記反射板は、
前記ロッド部に支持されて前記筐体の内周面に接するように設けられているとともに、当該反射板を貫通する連通孔を有し、
前記連通孔の孔径が前記上限周波数に対応する波長の1/10未満である
請求項4に記載のコンデンサマイクロホン。
【請求項6】
前記ロッド部は、
直線状に連結される複数の部分ロッドにより構成され、
前記反射板は、
前記ロッド部が内挿される貫通孔を有するとともに互いに連結される2つの部分ロッドによる挟持により前記ロッド部に支持されている
請求項4または5に記載のコンデンサマイクロホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンに関する。
【背景技術】
【0002】
防音対策や騒音計測などにおいて、音の大きさ(音圧)を正確に計測するために使用される検出器として計測用マイクロホンが知られている。こうした計測用マイクロホンとしては、例えば特許文献1のように、バックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンがある。
【0003】
バックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンは、筒状の筐体と、筐体の筒端開口部を塞ぐ振動膜と、筐体内に配置される背極と、を有する。背極は、振動膜に対向配置されるエレクトレット膜を有する電極本体と電極本体の中央部分から振動膜の反対側に向かって延びるロッド部とを有する。背極は、電極本体に対する振動膜の反対側において筐体に固定されて筐体の内周面とロッド部の外周面との間に介在する絶縁部材に支持される。コンデンサマイクロホンは、外部からの音圧によって振動膜が振動すると、振動膜とエレクトレット膜との間隔が変化し、それに応じて静電容量が変化する。そして、その静電容量の変化を検出することで音圧が計測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したバックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンの高感度化は、エレクトレット電位を上げるとともに振動膜の張力を小さくして振動膜のスティフネス(=振動膜の張力/振動膜の径)を小さくすることにより実現可能である。しかしながら、振動膜のスティフネスを小さくすると、振動膜と絶縁部材との間の空間(背気室)のスティフネス(=背気室の体積/背気室における空気の体積弾性率)の影響を無視できなくなる。具体的には気圧変動が生じると、背気室のスティフネスが変化するため、それに伴いコンデンサマイクロホンの感度が変化してしまう。つまり、コンデンサマイクロホンの静圧特性が悪化する。そのため、バックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンにおいては、振動膜のスティフネスを小さくしても静圧特性の悪化を抑えられる技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するバックエレクトレット型のコンデンサマイクロホンは、筒状の筐体と、前記筐体の筒端開口部を塞ぐ振動膜と、前記筐体内において前記振動膜に対向配置されるエレクトレット膜を有する電極本体と前記電極本体から前記振動膜の反対側に向かって延びるロッド部とを有する背極と、前記筐体に固定され、前記筐体の内周面と前記ロッド部の外周面との間に介在して前記背極を支持する絶縁部材と、を備える。前記振動膜と前記絶縁部材との間の空間を背気室、測定可能な音波の周波数範囲を設計周波数とするとき、前記振動膜と前記絶縁部材との間隔である背気室長さが前記設計周波数の上限値である上限周波数に対応する音波の半波長よりも大きい。
【0007】
上記構成によれば、背気室長さが上限周波数に対応する音波の半波長よりも大きいため、背気室長さが上限周波数に対応する音波の半波長以下である場合よりも背気室の容積を大きくすることができる。これにより、背気室のスティフネスが小さくなることから、振動膜のスティフネスを小さくしても静圧特性の悪化を抑えることができる。
【0008】
上記構成のコンデンサマイクロホンにおいて、前記絶縁部材が第1絶縁部材であり、前記電極本体と前記第1絶縁部材との間に通気性のある第2絶縁部材を有することが好ましい。
【0009】
振動膜に対して外部から音圧が作用すると、該音圧に起因した音波が背気室を伝播する。また、背気室長さを上限周波数に対応する音波の半波長よりも大きくすると、背気室を伝播する音波であって第1絶縁部材で反射した反射波の影響を受けて振動膜が共鳴しやすくなる(共鳴現象)。この点、上記構成によれば、電極本体と第1絶縁部材との間に、第2絶縁部材が配設されている。これにより、背気室を伝播する音波が第1絶縁部材に到達しにくくなるとともに第1絶縁部材で反射した反射波が振動膜に到達しにくくなることから、該反射波が振動膜の振動に与える影響を小さくすることができる。その結果、静圧特性の悪化を抑えつつ、反射波に起因した計測精度の悪化を抑えることができる。
【0010】
上記構成のコンデンサマイクロホンにおいて、前記第2絶縁部材は、吸音性を有することが好ましい。
上記構成のように、第2絶縁部材が吸音性を有することにより、第1絶縁部材に到達する音波のみならず、第1絶縁部材で反射した反射波も減衰させることができる。その結果、反射波が振動膜の振動に与える影響を小さくすることができるので、振動膜の共鳴現象を抑制する効果がある。
【0011】
上記構成のコンデンサマイクロホンにおいて、前記第2絶縁部材は、前記背気室を連通する2つ以上の空間に区画する反射板を含むことが好ましい。
上記構成によれば、背気室を伝播する音波の一部を第1絶縁部材に到達する前に反射板で反射させることができる。これにより、背気室を伝播する音波のうち、第1絶縁部材で反射する音波の割合を減少させることができる。その結果、反射波が振動膜の振動に与える影響を小さくすることができる。さらには、第2絶縁部材が吸音材と反射板とを含むことによって、反射波が振動膜の振動に与える影響をより効果的に抑えることができる。
【0012】
上記構成のコンデンサマイクロホンにおいて、前記反射板は、前記ロッド部に支持されて前記筐体の内周面に接するように設けられているとともに、当該反射板を貫通する連通孔を有し、前記連通孔の孔径が前記上限周波数に対応する波長の1/10未満であることが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、反射板の第1絶縁部材側へと伝播する音波の伝播経路を連通孔に限定することができる。そして、該連通孔の孔径が上限周波数に対応する波長の1/10未満であることにより、反射波が振動膜の振動に与える影響をさらに効果的に抑えることができる。
【0014】
上記構成のコンデンサマイクロホンにおいて、前記ロッド部は、直線状に連結される複数の部分ロッドにより構成され、前記反射板は、前記ロッド部が内挿される貫通孔を有するとともに互いに連結される2つの部分ロッドによる挟持により前記ロッド部に支持されていることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、連結される2つの部分ロッド、および、反射板の位置を合わせた状態で2つの部分ロッドを連結することにより、背極のロッド部に対して反射板を組み付けることができる。そのため、第1絶縁部材を介して背極を筐体に支持させることにより、背気室の所定位置に対して容易に反射板を配設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】コンデンサマイクロホンの第1実施形態の概略構成を示す断面図。
【
図2】コンデンサマイクロホンの第2実施形態の概略構成を示す断面図。
【
図3】コンデンサマイクロホンの第3実施形態の概略構成を示す断面図。
【
図4】第3実施形態において、反射板を有する背極の組立方法を説明するための分解斜視図。
【
図5】変形例において、反射板の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1を参照して、コンデンサマイクロホンの第1実施形態について説明する。
図1に示すように、コンデンサマイクロホン(以下、単にマイクロホンという。)10は、筐体11、振動膜12、背極13、第1絶縁部材14を備える。
【0018】
筐体11は、略円筒状をなしている。筐体11は、例えば金属製である。筐体11には、各種の部材を取り付けるための取付部が設けられている。
振動膜12は、筐体11の第1端部において筒端開口部15を塞いでいる。振動膜12は、例えば金属製の薄い膜である。振動膜12は、外部から接触が防止されるように、筐体11の第1端部を覆うグリッド16によって保護されている。グリッド16には、外部からの音圧が振動膜12に正しく作用するように複数のグリッド貫通孔17が設けられている。
【0019】
背極13は、筐体11の内部に配設されている。背極13は、導電性を有する。背極13は、電極本体21とロッド部22とを有する。
電極本体21は、略円盤状をなしている。電極本体21は、その中心軸が筐体11の中心軸と一致するように、また、その外周面が筐体11の内周面から離れた位置に配置されている。
【0020】
電極本体21は、複数の本体貫通孔23を有する。複数の本体貫通孔23は、外部からの音圧に対して振動膜12が正確に振動するように、電極本体21と振動膜12との間の空気抵抗を小さくする。
【0021】
電極本体21は、振動膜12に対向配置されるエレクトレット膜24を有する。エレクトレット膜24においては、外部からの音圧によって振動膜12が振動すると、その振動膜12との間隔に応じて静電容量が変化する。
【0022】
ロッド部22は、電極本体21の中央部から振動膜12の反対側に向かって延びている。ロッド部22は、その中心軸が筐体11の中心軸と一致するように配設されている。ロッド部22は、端子取付部25と拡径部26とを有している。端子取付部25は、電極本体21とは反対側の端部に設けられている。端子取付部25には、エレクトレット膜24における静電容量を図示されない信号線に出力する出力端子27が取り付けられる。出力端子27は、例えば、端子取付部25に対するねじ接合により取り付けられる。拡径部26は、端子取付部25寄りの位置に設けられている。ロッド部22は、出力端子27と拡径部26とによって挟持される第1絶縁部材14と、後述するロックナット32と、を介して筐体11に支持される。
【0023】
第1絶縁部材14は、筐体11の内部に配設されている。第1絶縁部材14は、円環状の形状を有する。第1絶縁部材14は、電極本体21よりも大きな外径を有する。第1絶縁部材14は、その中央部に端子取付部25が貫通するロッド貫通孔28を有する。第1絶縁部材14は、ロッド貫通孔28に端子取付部25を貫通させた状態で、端子取付部25に出力端子27が取り付けられることにより、背極13に組み付けられる。
【0024】
第1絶縁部材14は、背極13に組み付けられた状態で筐体11に取り付けられる。換言すれば、背極13は、第1絶縁部材14および出力端子27がロッド部22に組み付けられた組付状態で筐体11に取り付けられる。
【0025】
筐体11には、第1絶縁部材14が嵌合する嵌合部31が形成されている。第1絶縁部材14は、筐体11に対し、振動膜12の反対側から背極13を電極本体21側から差し入れることにより嵌合部31に嵌合する。そして、第1絶縁部材14は、筐体11の内側に配設されるロックナット32により筐体11に組み付けられる。これにより、背極13は、ロッド部22の外周面と筐体11の内周面との間に第1絶縁部材14が介在した状態で筐体11に支持される。
【0026】
こうした構成のマイクロホン10においては、外部から音圧が作用することにより、その音圧に応じて振動膜12が振動する。振動膜12が振動すると、振動膜12とエレクトレット膜24との間隔に応じて、振動膜12とエレクトレット膜24との間の静電容量が変化する。そして、その静電容量の変化を検出することで音圧が計測される。ここで、マイクロホン10によって測定可能な音波の周波数範囲を設計周波数という。設計周波数のうち、測定可能な周波数の下限値を下限周波数f1、測定可能な周波数の上限値を上限周波数f2という。
【0027】
筐体11に背極13が組み付けられた状態において、振動膜12と第1絶縁部材14との間の空間を背気室35といい、振動膜12と第1絶縁部材14との間隔を背気室長さHという。背気室長さHは、上限周波数f2に対応する音波の半波長λ2よりも長い長さに設定されている。半波長λ2は、標準大気中における音速cを上限周波数f2で除算することにより求められる波長の半分の値である。
【0028】
(作用)
上述したマイクロホン10によれば、背気室長さHが上限周波数f2に対応する音波の半波長λ2よりも大きいため、背気室長さHが半波長λ2以下である場合よりも背気室35の容積を大きくすることができる。これにより、背気室のスティフネス(=背気室の体積/背気室における空気の体積弾性率)が小さくなる。その結果、振動膜12のスティフネス(=振動膜の張力/振動膜の径)を小さくしても静圧の影響度を小さくでき、静圧特性の悪化を抑えることができる。
【0029】
本発明者らは、背気室長さHが半波長λ2以下のマイクロホンを比較対象として感度に関する実験を行った。その実験結果によれば、背気室長さHが比較対象のマイクロホンの背気室長さの3倍程度であることにより、その比較対象と同等以上の感度を得つつ、静圧特性の悪化を抑えることができた。
【0030】
第1実施形態の効果について説明する。
(1-1)背気室長さHを上限周波数f2に対応する音波の半波長λ2よりも大きくすることにより、マイクロホン10の高感度化を図りつつ、静圧特性の悪化を抑えることができる。
【0031】
(1-2)背気室長さHが比較対象となるマイクロホンの背気室長さの3倍程度にすることにより、その比較対象と同等以上の感度を得つつ、静圧特性の悪化を抑えることができる。
【0032】
(第2実施形態)
図2を参照してマイクロホンの第2実施形態について説明する。第2実施形態のマイクロホンは、第1実施形態のマイクロホンと主要な構成は同じである。そのため、第2実施形態においては、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、第1実施形態と同様の部分については同様の符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0033】
第1実施形態のマイクロホン10においては、背気室長さHを上限周波数f2に対応する音波の半波長λ2よりも大きくすることで、静圧特性の悪化を抑えた。しかしながら、背気室長さHが半波長λ2よりも大きくなると、第1絶縁部材14で反射した反射波が振動膜12の振動に影響を与え、設計周波数内で共鳴現象が生じることが懸念される。第2実施形態のマイクロホン10は、静圧特性の悪化を抑えることに加えて、第1絶縁部材14で反射した反射波が振動膜12の振動に与える影響を抑える。
【0034】
図2に示すように、マイクロホン10は、背気室35に、第2絶縁部材を有する。第2絶縁部材は、吸音性に加えて通気性を有する吸音材41である。吸音材41は、電極本体21と第1絶縁部材14との間においてロッド部22の周囲に配設されている。吸音材41は、第1絶縁部材14寄りに位置することが好ましい。吸音材41は、ロッド部22や第1絶縁部材14に対して、例えば接着などにより固定することが可能である。こうした吸音材41の一例は、グラスウールである。吸音材41の他の例は、絶縁性および通気性を有するものであればよく、例えばポリウレタン製、ポリエステル製の吸音材等が挙げられる。
【0035】
(作用)
吸音材41は、振動膜12の振動に起因して背気室35内を伝播する音波、具体的には振動膜12から第1絶縁部材14に向かって伝播する音波のほか、第1絶縁部材14で反射した反射波を減衰させることができる。
【0036】
第2実施形態のマイクロホン10によれば、上記(1-1)に記載した効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(2-1)背気室35に吸音材41を配設することにより、振動膜12に到達する反射波の振幅が小さくなることから、該反射波が振動膜12の振動に与える影響を抑えることができる。その結果、反射波に起因した計測精度の低下を抑えることができる。
【0037】
(2-2)背気室35に配設される吸音材41が絶縁性を有することにより、吸音材41がロッド部22および筐体11に接触していたとしても、振動膜12とエレクトレット膜24との間隔に応じた静電容量の変化を正確に検出できる。
【0038】
(2-3)第2絶縁部材がグラスウールなどの吸音材41であることにより、反射波が振動膜12の振動に与える影響を簡易な構成のもとで抑えることができる。また、こうした吸音材41は、背極13を筐体11に組み付ける際に、ロッド部22や第1絶縁部材14に対して接着などにより固定したり、ロッド部22に巻き付けたりすればよい。このため、第2絶縁部材を容易に配設することもできる。
【0039】
(第3実施形態)
図3および
図4を参照してマイクロホンの第3実施形態について説明する。第3実施形態のマイクロホンは、第1実施形態のマイクロホンと主要な構成は同じである。そのため、第3実施形態においては、第1実施形態と異なる部分について詳細に説明し、第1実施形態と同様の部分については同様の符号を付すことで詳細な説明は省略する。
【0040】
第3実施形態のマイクロホン10においては、第2実施形態のマイクロホン10と同様に、静圧特性の悪化を抑えることに加えて、第1絶縁部材14で反射した反射波が振動膜12の振動に与える影響を抑える。
【0041】
図3に示すように、マイクロホン10は、第2絶縁部材として、反射板50を有する。反射板50は、背気室35を連通する2つの空間であってロッド部22の延在方向に並ぶ第1背気室51と第2背気室52とに区画する。反射板50は、円環状の形状を有する。反射板50は、その中央部がロッド部22に支持されているとともに、その外周縁部が筐体11の内周面に密接するように配設されている。反射板50の一例は、例えばサファイヤで形成される。反射板50は、絶縁性を有しているものであればよく、他の例としては、例えばセラミックス、ポリテトラフルオロエチレン、ガラスで形成される。また、反射板50は、反射板50での反射波の発生やその振幅を抑えるうえで、吸音性を有することが好ましい。これは、吸音性のある材料、例えばグラスウール等を反射板50表面に接着することで実現できる。
【0042】
反射板50には、第1背気室51と第2背気室52とを連通する連通路として、反射板50を貫通する連通孔53を有する。連通孔53の孔径は、上限周波数f2に対応する波長の1/10未満であることが好ましい。
【0043】
ロッド部22は、互いに連結される部分ロッドである第1部分ロッド56と第2部分ロッド57とで構成されている。第1部分ロッド56および第2部分ロッド57は、直線状に連結されることによりロッド部22として機能する。反射板50は、第1部分ロッド56と第2部分ロッド57とに挟持されることでロッド部22に支持される。
【0044】
第1部分ロッド56は、電極本体21の中央部から振動膜12の反対側に向かって延びている。第1部分ロッド56は、電極本体21とは反対側の端部に、第2部分ロッド57が連結される第1連結部58を有する。第1連結部58は、本実施形態では雄ねじである。第1部分ロッド56は、電極本体21と第1連結部58との間に、反射板50の頂面50aに係合する拡径部59を有する。反射板50の中央部には、第1連結部58が内挿される貫通孔であるロッド挿通孔60が形成されている。第1部分ロッド56は、拡径部59に反射板50の頂面50aを係合させた状態において、第1連結部58が反射板50の底面50bから突出するように構成されている。振動膜12と反射板50との間隔である第1背気室長さH1は、上限周波数f2に対応する音波の半波長λ2以下であることが好ましい。
【0045】
第2部分ロッド57は、第1部分ロッド56とは反対側に、上述した端子取付部25および拡径部26を有する。第2部分ロッド57は、第1部分ロッド56側の端部に、第1部分ロッド56の第1連結部58と連結される第2連結部62を有する。第2連結部62は、本実施形態では雌ねじである。第2部分ロッド57は、第2連結部62において反射板50のロッド挿通孔60よりも大きな外径を有する。すなわち、第1連結部58に第2連結部62を連結すると、第2連結部62における端面が反射板50の底面50bに当接するように構成されている。
【0046】
図4を参照して、反射板50を有する背極13の組み立て方法について説明する。
図4に示すように、背極13は、第1部分ロッド56の第1連結部58を反射板50のロッド挿通孔60に挿通させた状態で第1連結部58に第2連結部62が連結される。これにより、背極13は、反射板50がロッド部22に取り付けられた状態として組み立てられる。そして、第1絶縁部材14および出力端子27がロッド部22に組み付けられた組付状態で筐体11に取り付けられる。
【0047】
(作用)
上述したマイクロホン10によれば、反射板50によって背気室35が連通する第1背気室51と第2背気室52とに区画されている。これにより、背気室35を伝播する音波が第1絶縁部材14に到達する前に反射板50で反射させることができる。これにより、背気室35を伝播する音波のうち、第1絶縁部材14で反射する音波の割合を減少させることができる。また、背気室35における気柱固有振動周波数を設計周波数の上限周波数f2以上に高めることができる。
【0048】
第3実施形態のマイクロホン10によれば、上記(1-1)に記載した効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(3-1)背気室35は、反射板50によって、連通する第1背気室51と第2背気室52とに区画されている。こうした構成によれば、第1絶縁部材14で反射する音波の割合を減少させつつ、背気室35における気柱固有振動周波数を設計周波数の上限周波数f2以上に高めることができる。これにより、反射波が振動膜12の振動に与える影響を抑えられ、その結果、反射波に起因した計測精度の悪化を抑えられる。
【0049】
(3-2)第1背気室長さH1が上限周波数f2に対応する音波の半波長λ2以下であることにより、反射板50における反射波が振動膜12の振動に与える影響を抑えることができる。
【0050】
(3-3)一般的に、音波のような波が発生する回路において、その回路が分布定数回路ではなく集中定数回路として近似されるためには、その回路の回路寸法がその波の波長の数%~数十%であることが必要とされる。
【0051】
上記構成では、第1背気室51と第2背気室52とを連通する連通孔53の孔径が、上限周波数f2に対応する波長、すなわち測定可能な音波の波長のうちで最も小さい波長の1/10未満に設定されている。
【0052】
こうした構成によれば、連通孔53の部分を集中定数回路として近似することができる。これにより、マイクロホン10の設計時、連通孔53を集中定数回路として扱うことができることから、共鳴現象の発生が抑えられるような各種寸法値を容易に導き出すことができる。その結果、反射波が振動膜12の振動に与える影響をさらに効果的に抑えることができる。
【0053】
(3-4)反射板50は、第1部分ロッド56と第2部分ロッド57とに挟持されることによりロッド部22に支持されている。こうした構成によれば、背極13を筐体11に取り付けることにより、振動膜12に対する反射板50の位置決めを行うことができる。その結果、背気室35の所定位置に反射板50を容易に配設できる。
【0054】
上述した実施形態は、以下のように変更して実施できる。上述した実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・第3実施形態のマイクロホン10においては、複数の反射板50がロッド部22に支持されていてもよい。この場合、反射板50を電極本体21側から第n反射板(nは1以上の整数)とすると、ロッド部22は、n+1本の部分ロッドから構成される。また、n+1本の部分ロッドを電極本体21側から第kロッド部(kは1以上の整数)とすると、第kロッド部と第k+1ロッド部とが連結され、これら第kロッド部と第k+1ロッド部とによって第n反射板(このときのnはkと同じ)が挟持される。
【0055】
・第3実施形態のマイクロホン10において、反射板50に形成される連通孔53の数は、2以上であってもよい。
・第3実施形態のマイクロホン10において、反射板50は、該反射板50が区画する2つの空間を連通させる連通路を有していればよい。そのため、連通路は、反射板50を貫通する連通孔53に限らず、例えば、
図5に示すように、反射板50の外周縁部を厚さ方向に延びる連通凹部65であってもよい。この場合、断面方向における連通凹部65の最大長さが上限周波数f2に対応する波長の1/10未満であることが好ましい。最大長さは、例えば、連通凹部65が断面半円状である場合は、その直径である。
【0056】
・第3実施形態のマイクロホン10において、部分ロッドの連結方法はねじ接合に限られない。例えば、圧入やリベットなどを用いた他の機械的接合法が用いられてもよいし、例えばろう付けなどの冶金的接合法が用いられてもよい。
【0057】
・第3実施形態のマイクロホン10において、反射板50は、例えば、ロッド挿通孔60にロッド部22を挿通させることにより、ロッド部22に形成された係合凹部にスナップ係合することにより、ロッド部22に支持されてもよい。
【0058】
・第3実施形態のマイクロホン10において、第1背気室51および第2背気室52の少なくとも一方に吸音材41が配設されていてもよい。こうした構成によれば、反射波が振動膜12の振動に与える影響をさらに効果的に抑えることができる。
【0059】
・第2実施形態のマイクロホン10において、吸音材41は、電極本体21と第1絶縁部材14との間の空間に配設されていればよい。そのため、例えば、その空間全体を埋めるように吸音材41が配設される構成であってもよいし、その空間の所々に吸音材41が配設される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…コンデンサマイクロホン、11…筐体、12…振動膜、13…背極、14…第1絶縁部材、15…筒端開口部、16…グリッド、17…グリッド貫通孔、21…電極本体、22…ロッド部、23…本体貫通孔、24…エレクトレット膜、25…端子取付部、26…拡径部、27…出力端子、28…ロッド貫通孔、31…嵌合部、32…ロックナット、35…背気室、41…吸音材、50…反射板、50a…頂面、50b…底面、51…第1背気室、52…第2背気室、53…連通孔、56…第1部分ロッド、57…第2部分ロッド、58…第1連結部、59…拡径部、60…ロッド挿通孔、62…第2連結部。