(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120334
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】撮像光学系、撮像デバイス及び車載カメラ装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/04 20060101AFI20220810BHJP
G02B 13/18 20060101ALN20220810BHJP
【FI】
G02B13/04 C
G02B13/04 D
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017170
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(71)【出願人】
【識別番号】521056674
【氏名又は名称】松尾 栄樹
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】松尾 栄樹
【テーマコード(参考)】
2H087
【Fターム(参考)】
2H087KA01
2H087LA03
2H087NA08
2H087PA04
2H087PA05
2H087PA06
2H087PA07
2H087PA17
2H087PA18
2H087PB05
2H087PB06
2H087PB07
2H087QA02
2H087QA03
2H087QA06
2H087QA07
2H087QA12
2H087QA19
2H087QA21
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA26
2H087QA32
2H087QA34
2H087QA37
2H087QA41
2H087QA42
2H087QA45
2H087QA46
2H087RA04
2H087RA05
2H087RA12
2H087RA13
2H087RA32
2H087RA42
2H087RA43
2H087RA44
(57)【要約】 (修正有)
【課題】車載カメラ装置に備えられることはもとより、他の装置にも好適に備えられる撮像光学系及びそれを含む撮像デバイスを提供する。
【解決手段】開口絞り7と、開口絞りよりも物体側に位置する前群L1~L3と、開口絞りよりも像側に位置する後群L4~L7と、を備え、異常分散レンズを含まない撮像光学系と、撮像光学系の通過光を取り込む撮像センサと、を備える撮像デバイスであって、各レンズの温度係数、各レンズのパワー、前群及び後群の各パワー、枠体自体の線膨張係数、比例定数、撮像センサにおけるピクセルサイズ、撮像光学系のFナンバ、撮像デバイス本体の焦点距離、所定範囲の温度、などに関する各値が所定の条件を満たしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口絞りと、前記開口絞りよりも物体側に位置する前群と、前記開口絞りよりも像側に位置する後群と、を備え、異常分散レンズを含まない撮像光学系と、
前記撮像光学系の通過光を取り込む撮像センサと、
を備える撮像デバイスであって、
「条件1」+「条件2」+「条件3」の絶対値が「条件4」の絶対値より小さくなることを特徴とする撮像デバイス、
「条件1」:前記前群を構成する各レンズiの温度係数χiと当該各レンズiのパワーφiとの積(i=1~n)を当該前群のパワーφFrontで除したものの総和となる値と、前記前群の光軸方向の変化に前記後群の縦倍率を乗じたもの値との積、
「条件2」:前記後群を構成する各レンズjの温度係数χjと当該各レンズjのパワーφjとの積(j=1~m)を後群のパワーφRearで除したものの総和となる値、
「条件3」:前記枠体自体の線膨張係数[ξ]と比例定数[α]との積、
「条件4」:前記撮像センサにおけるピクセルサイズと前記撮像光学系のFナンバとの積を、撮像デバイス本体の焦点距離と所定範囲の温度との積で除した値。
【請求項2】
前記後群の負レンズの温度係数が-4.0×10-6以上である、請求項1記載の撮像デバイス。
【請求項3】
前記後群の少なくとも1枚の正レンズの温度係数が-2.0×10-6以下である、請求項1記載の撮像デバイス。
【請求項4】
前記前群が正の焦点距離を有する場合、温度係数が3×10-6以上の負レンズを含むこと、又は、前記前群が負の焦点距離を有する場合、温度係数が3×10-6以上の正レンズを含むことを特徴とする請求項1記載の撮像デバイス。
【請求項5】
前記後群の正レンズと負レンズとの間のアッベ数比が0.7以下である、請求項1記載の撮像デバイス。
【請求項6】
前記後群の負レンズの部分分散比の偏差から正レンズの部分分散比の偏差を差し引いた差が0.02以下である、請求項1記載の撮像デバイス。
【請求項7】
前記後群の球面レンズの屈折率が1.65以上である、請求項1記載の撮像デバイス。
【請求項8】
請求項記載の撮像デバイスが搭載された装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像光学系、撮像デバイス及び車載カメラ装置に関し、特に、レンズ群を有する撮像光学系、撮像デバイス及び車載カメラ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全走行などを目的として、自動車内外に車載カメラ装置とも称されているカメラが搭載される機会が増えている。車載カメラ装置に要求されるものとしては、温度などの使用環境面からの耐候性、光学特性面からの解像力、夜間或いは雨天などの暗所でも歩行者を把握し易くするといったレンズの明るさ、車載カメラ装置の市場拡大面などからのコスト性がある。
【0003】
ここで、車載カメラ装置などに適用可能な撮像光学系(撮像レンズ)の中で、Fナンバで2.0以下というレンズの明るさが相対的に良好なものが開示されている幾つかの特許文献を列挙する。
【0004】
特許文献1には、レトロフォーカスタイプの撮像光学系として、第1レンズ群1Gは、物体側から順に、正の第1Fレンズ群と、負の第1Rレンズ群により構成され、第1Fレンズ群は、物体側に凸面を向けた正メニスカスレンズを有し、第1Rレンズ群は、物体側に凸面を向けた負メニスカスレンズと正レンズとからなり、第2レンズ群2Gは、物体側から順に、第2Fレンズ群と、第2Rレンズ群とからなり、第2Fレンズ群内に、像側に凸のメニスカスレンズ形状の正レンズ要素を有するという撮像光学系が開示されている。
【0005】
特許文献2には、物体側から順に、負の第1レンズL1、正の第2レンズL2、正の第3レンズL3、負の第4レンズL4、正の第5レンズL5、正の第6レンズL6および負の第7レンズL7から実質的に構成される撮像レンズであって、全系の焦点距離と、第2レンズL2と第3レンズL3との空気間隔と、第3レンズL3、第4レンズL4および第5レンズL5の合成焦点距離と、第1および第2レンズL2の焦点距離との関係が所定条件を満足するようにして、F値が小さくかつ高性能化が実現可能な撮像レンズが開示されている。なお、実施例から開口絞りは第3レンズと第4レンズの間に配置されている。
【0006】
特許文献3には、物体側から順に、負の屈折力を有する第1レンズL1、負の屈折率を有する第2レンズL2、正の屈折力を有する第3レンズL3、開口絞り、正の屈折力を有する第4レンズL4、負の屈折力を有する第5レンズL5、及び正の屈折力を有する第6レンズL6を有しており、第1レンズL1は物体側面と像側面の両方が凹面であり、第2レンズL2は物体側に凹面を向けているとともに、物体側面の曲率の絶対値が像側面の曲率の絶対値より大きく構成され、第3レンズL3は像側に凸面を向けているとともに像側面の曲率の絶対値は物体側面の曲率の絶対値より大きく構成され、第2レンズL2の像側面と第3レンズL3の物体側面は互いに接合させて、広画角で、Fナンバが小さく、小型で高性能な結像レンズが開示されている。
【0007】
特許文献4には、撮像レンズを、第1レンズL1と第2レンズL2とを有する第1レンズ群1G、開口絞り、及び第3レンズL3と第4レンズL4と第5レンズL5とを有する第2レンズ群2Gで構成し、第3レンズL3と第4レンズL4とを接合し、第5レンズL5の焦点距離と、全系の焦点距離と、第3レンズL3の物体側レンズ面の曲率半径と、第1レンズ群1Gの第2レンズL2の像側レンズ面から第2レンズ群2Gの第3レンズL3の物体側レンズ面までの光軸上の距離とが、所定条件を満足するようにして、小型かつ低コストであり、大口径で広画角でありながら、良好に収差を補正可能であり、高性能な撮像レンズが開示されている。
【0008】
特許文献5には、物体側から像側へ向かって順に、像側に凹面を向け負の屈折力を有する第1レンズL1、物体側に凸面を向け正の屈折率を有する第2レンズL2、物体側に凹面を向け負の屈折力を有する第3レンズL3、像側に凸面を向け正の屈折力を有する第4レンズL4、物体側に凸面を向け正の屈折力を有する第5レンズL5を有し、第5レンズL5の像側に1枚のレンズが付加可能で、全体として6枚以下のレンズで構成され、d線におけるアッベ数と、d線における屈折率との関係が所定条件を満足するレトロフォーカス型の撮像光学系が開示されている。
【0009】
特許文献6には、物体側より順に、負の屈折力を有する第1レンズ群1G、開口絞り、正の屈折力を有する第2レンズ群2Gとからなり、第1レンズ群1Gは、物体側から順に、物体側面に凸形状を有する正レンズである第1レンズL1と、像側面に凹形状を有する負レンズである第2レンズ群2G(※出願人註:「第2レンズL2」の誤記であると思われる。)と、像側面に凹形状を有する負レンズである第3レンズL3と、物体側面に凸形状を有する正レンズである第4レンズL4から構成され、第2レンズ群2Gは、負レンズである第5レンズL5と正レンズである第6レンズL6との接合レンズおよび正レンズである第7レンズL7から構成される撮像光学系が開示されている。この撮像光学系は、低ディストーションでありながら、小型、高性能且つ半画角29°程度の広画角で、Fナンバ2程度の大口径で、7~8枚程度の研磨球面のみから構成された低コストの撮像光学系である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-169707号公報
【特許文献2】特開2016-062021号公報
【特許文献3】特開2017-156570号公報
【特許文献4】特開2017-156708号公報
【特許文献5】特開2017-219592号公報
【特許文献6】特開2017-125978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1~6に開示された撮像光学系は、レンズの明るさについては、車載用途の中でもFナンバが1.5~1.9という相対的に明るいレンズに分類されるものであるが、車載カメラ装置に要求されるその他の特性である、耐候性、解像力、コスト性という要素の全てを満足しているわけではない。例えば、対候性は良好であるものの、解像力とコスト性とが良好とはいえないものがあるなど、これらの撮像光学系には何らかの改善の余地がある。
【0012】
この点につき検討したところ、結果的には、車載カメラ装置を構成するレンズとして適切なものが選択されていなかったということになる。その原因は、撮像光学系の基本的仕様と温度変化のパラメータとの関係について十分に考察されていなかったことに原因があると考えられる。
【0013】
そこで、本発明は、撮像光学系の基本的仕様と温度変化のパラメータとの関係を考慮して、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てが優れた車載カメラ装置を提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明は、車載カメラ装置に備えられることはもとより、他の装置にも好適に備えられる撮像光学系及びそれを含む撮像デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題について本発明者が種々研究した結果、レンズ群とそれを収容する枠体との条件が所定条件を満たすものであれば、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てが優れたものとなることを見出した。
【0016】
本発明は、
開口絞りと、前記開口絞りよりも物体側に位置する前群と、前記開口絞りよりも像側に位置する後群と、を備え、異常分散レンズを含まない撮像光学系と、
前記撮像光学系の通過光を取り込む撮像センサと、
を備える撮像デバイスであって、
「条件1」+「条件2」+「条件3」の絶対値が「条件4」より小さくなることを特徴とする撮像デバイス、
「条件1」:前記前群を構成する各レンズiの温度係数χiと当該各レンズiのパワーφiとの積(i=1~n)を当該前群のパワーφFrontで除したものの総和となる値と、前記前群の光軸方向の変化に前記後群の縦倍率を乗じたもの値との積、
「条件2」:前記後群を構成する各レンズjの温度係数χjと当該各レンズjのパワーφjとの積(j=1~m)を後群のパワーφRearで除したものの総和となる値、
「条件3」:前記枠体自体の線膨張係数[ξ]と比例定数[α]との積、
「条件4」:前記撮像センサにおけるピクセルサイズと前記撮像光学系のFナンバとの積を、撮像デバイス本体の焦点距離と所定範囲の温度との積で除した値、である。
【0017】
前記後群の負レンズの温度係数が-4.0×10-6以上とすること、
前記後群の少なくとも1枚の正レンズの温度係数が-2.0×10-6以下とすること、
前記前群が正の焦点距離を有する場合、温度係数が3.0×10-6以上の負レンズを含むこと、
前記前群が負の焦点距離を有する場合、温度係数が3.0×10-6以上の正レンズを含むこと、
前記後群の正レンズと負レンズとの間のアッベ数比が0.7以下とすること、
前記後群の負レンズの部分分散比の偏差から正レンズの部分分散比の偏差を差し引いた差が0.02以下とすること、
前記後群の球面レンズの屈折率を1.65以上とすること、
の一つ以上を採用してもよい。
【0018】
また、本発明の装置は、上記撮像デバイスが搭載されたものである。
【発明の実施の形態】
【0019】
以下、図面及び表を参照して、本発明の実施形態及び実施例の撮像光学系、撮像デバイス及び車載カメラ装置について説明する。
【0020】
なお、本明細書における「撮像光学系」とはいわゆる前群及び後群とこれらの間に位置する絞りを備えるレンズ群を意味し、「撮像デバイス」とは撮像光学系とそれを収容する枠体と撮像センサとを備えるものを意味し、「車載カメラ装置」とは撮像デバイスを車載用途に用いたものを意味する。
【0021】
以下、本実施形態の車載カメラ装置において各レンズを選定する際の指針について順を数1~数4を用いて説明する。
【0022】
まず、数1~数2について説明する。
数1は、後掲の数3に含まれていて、前群を構成する各レンズ
iの温度係数χ
iと当該各レンズ
iのパワーφ
iとの積(i=1~n)を、前群のパワーφ
Frontで除したものの総和である「
」を示している。以下、数1に示すものを便宜上「前群の等価温度係数」と称する。同様に、
数2は、後掲の数3に含まれていて、後群を構成する各レンズ
jの温度係数χ
jと当該各レンズ
jのパワーφ
jとの積(j=1~m)を、後群のパワーφ
Rearで除したものの総和である「
」を示している。以下、数2に示すものを便宜上「後群の等価温度係数」と称する。
【0023】
【0024】
【0025】
つぎに、数3について説明する。数3は、数1に示す前群の等価温度係数[
]に前群の光軸方向の変化に後群の縦倍率[m
2
Rear]を乗じたものに、数2に示す後群の等価温度係数[
]を加えたものを示している。数3に示すものを便宜上「撮像光学系の等価温度係数[
]」と称する。
【0026】
【0027】
つぎに、数4について説明する。数4の左辺は、数3に示す撮像光学系の等価温度係数[
]に、撮像光学系が収容される枠体自体の線膨張係数[ξ]と比例定数[α]との積(以下、便宜上、「枠体の等価温度係数[αξ]」と称する)を加えたものの絶対値を示している。これを便宜上「撮像デバイスの等価温度係数[
]」と称する)。なお、比例定数[α]は一般的に光学系の基本構造に依存するもので、その基本構造ごとに例えばシミュレーションや近軸計算等で求めることができる。前群と後群との間隔が比較的小さく、後群の倍率も比較的小さい車載カメラに使用される基本構成の場合、比例定数[α]は1と考えて良い。
【0028】
数4の右辺に含まれる変数は、詳細については後述するが、これに関連するものは以下のとおりである。
(1)撮像センサにおけるピクセルサイズ(δ)、
(2)撮像光学系のFナンバ(Fno)、
(3)撮像デバイスの焦点距離(fsystem)、
(4)所定の温度範囲(ΔT)。
なお、数4の右辺のΔθと、(1)のピクセルサイズδ及び(3)撮像デバイスの焦点距離fsystemとの間には、Δθ=δ/fsystemの関係が成立する。
【0029】
【0030】
ここで、数1,数2の各右辺には、各レンズの温度係数χi,χj、当該各レンズのパワーφi,φj、各レンズ群のパワーφFront,φRearの数値のみならず、それらの符号にも依存する。例えば、正のパワーを有する後群の負レンズは、その温度係数が正の場合には負に寄与する。同様に、正のパワーを有する後群の正レンズは、その温度係数が負の場合には負の寄与となる。
【0031】
本実施形態の車載カメラ装置は、この点も踏まえて、数4を満たすように各レンズを選定して、対候性、レンズの明るさ、解像力、コスト性の全てを満たすようにする、というものである。なお、各レンズの温度係数[
]は、数5(ここでは前群の場合)のように表される、レンズ群を構成する各レンズの温度係数の単純な和ではない点に留意されたい。なお、数5に含まれるγとは、空気の屈折率の温度依存性を線形近似したときの比例定数である。比例定数γは、車載カメラ装置を使用する温度範囲によって決定され、例えば0℃~70℃で線形近似した場合には、[-0.84068×10
-6]となる。D
i0、E
i0、β
iは、それぞれガラスのカタログに与えられるものであり、D
i0及びE
i0が屈折率の温度依存性の線型項、β
iが線膨張率に対応する。
【0032】
【0033】
数4に示す撮像デバイスの等価温度係数[
]は、数4から導出できるように、(1)のピクセルサイズが小さくなるほど、(2)のFナンバが小さくなるほど、(3)の焦点距離が長くなるほど、(4)の温度範囲が広くなるほど、小さくなるので、条件を満たす等価温度係数の実現のために選択できるガラスの種類がより限定されることになる。以下、これらの基本的仕様(1)~(4)について説明する。
【0034】
(1)ピクセルサイズ(δ)
撮像センサのピクセルサイズが大きいほど、撮像ピクセルで取り込む光量が多くなり、処理速度の向上、夜間など暗い環境への適応、ノイズ低減等、撮像には好適である。一方、画素数が同じ場合、ピクセルサイズが大きくなるにつれて、撮像センサがサイズアップし、レンズの大型化、コスト増を招くという問題がある。したがって、ピクセルサイズには適正範囲が存在する。本実施形態の車載カメラ装置では、撮像光学系に附随する撮像センサのピクセルサイズを、例えば各辺の長さを概ね1.5μm~4.0μm(例えば、2.8μm)とすることができる。
【0035】
(2)Fナンバ(Fno)
撮像光学系のFナンバが小さいほど取り込む光量が多くなるので、処理速度向上、夜間などの暗い環境での撮像には好適である。一方、Fナンバは、小さくなるにつれて、レンズの枚数が増加したり、各レンズがサイズアップしたり、これに付随してレンズ群がコストアップしたりするという問題がある。したがって、Fナンバには適正範囲が存在する。本実施形態の車載カメラ装置では、撮像光学系のFナンバを例えば概ね1.0~2.3(例えば、1.65)とすることができる。
【0036】
(3)撮像デバイスの焦点距離(fsystem)
撮像デバイスの焦点距離は、撮像センサの大きさが一定の場合、焦点距離が長くなるほど撮像できる範囲が狭くなって不利な反面、1ピクセル当たりの角度分解能は高くできる。車載用途では、高い角度分解能が必要となるところ、例えば100m先にある10cmの物体は、角度分解能で3.4分(0.001Radian)に相当する。これを白黒のペアとして判別するために、例えば2.8μmのピクセル2つで捉える場合、必要な焦点距離は[0.0028÷0.001×2=5.6mm]となる。焦点距離は従前3mm程度とすることが多かったが、近年5mm程度とするようにシフトしてきているため、将来のさらなる高解像化を踏まえたうえで、この辺を典型値と捉えることができる。数4では角度分解能Δθを用いているが、既述のとおり、ピクセルサイズδと撮像デバイスの焦点距離fsystemとの間は、Δθ=δ/fsystemの関係が成立するため、角度分解能の典型値としては1.7分~1.8分とすることができる。
【0037】
(4)所定の温度範囲(ΔT)
自動車の置かれる温度環境は、地域、季節、時間帯などによって様々であり、場合によっては、氷点下以下から100℃以上までの広い範囲となる。車載カメラ装置が高温環境に置かれた場合、典型的には、レンズは熱膨張し、レンズ群のレンズ間距離は変わり、枠体も熱膨張するので、撮像光学系に焦点変動をもたらす。このような焦点変動は、車載カメラ装置が低温環境に置かれた場合にも生じる。本実施形態の車載カメラ装置は、-30℃~120℃(例えば60℃)という広い範囲の温度環境でも、撮像デバイスの焦点変動が抑制できるように各レンズを選定する。
【0038】
以上をまとめると、本実施形態では、ピクセルサイズ[δ]と各レンズのFナンバ[Fno]との積を、撮像デバイスの焦点距離[f
system]と所定範囲の温度[ΔT]との積で除した値の絶対値|δ×Fno/(f×ΔT)|よりも、撮像光学系の等価温度係数[
]に枠体の等価温度係数[αξ]を加えた撮像デバイスの等価温度係数[
]が小さくなる条件のレンズと枠体との組み合わせを選定する。
【0039】
なお、撮像デバイスの等価温度係数[
]の上限値(Δθ×Fno/ΔT)は、既に提示した典型値を用いると[1.4×10
-5]と算出できる。ただし、全てを典型値とするは設計的、コスト的な観点からすれば得策とはいえない場合がある。そこで、設計の自由度、製品の位置付けの自由度から、各値が約10%程度増えた場合を考慮して、例えば当該上限値を[2.5×10
-5]以下とすることが好ましく、[2.0×10
-5]とするとより好ましい。
【0040】
ところで、撮像光学系を構成するレンズには多かれ少なかれ温度係数が正の値のものが含まれている。また、枠体として通常用いられる、アルミニウム、ガラス繊維入りのポリカーボネートなどの熱膨張しやすいものは温度係数が正の値である。正の温度係数は温度環境による焦点変動の原因となるので、撮像光学系を構成するレンズとして温度係数が負の値であるものを適宜選定することによって、この原因を払拭することにある。
【0041】
そうはいっても、選定するレンズによっては種々の収差が生じることになるので、負の温度係数のレンズであれば如何なるものを選定してよいわけではない。本実施形態では、レンズの焦点距離の変動を抑制することはもちろんのこと、収差補正も考慮してレンズを選定している。
【0042】
本実施形態に係る後群の正レンズは、そのほぼ全て(好ましくは全て)を、屈折率が例えば1.65以上、温度係数が例えば[-1.0×10-6]~[-2.0×10-5(好ましくは例えば[-3.0×10-6]~[-1.0×10-5])]、アッベ数が例えば35以上(好ましくは例えば50以上)のものを選定している。
【0043】
これは、温度係数が正の値となる負レンズが少ないという事情から、撮像光学系全体における温度環境による焦点変動を抑制する条件のレンズを選定し易くするためである。とりわけ、後群における正レンズは、温度係数が例えば[-3.0×10-6]~[-2.0×10-5]であるものを選定するとよい。
【0044】
一方、本実施形態に係る負レンズは、そのほぼ全て(好ましくは全て)を、温度係数が例えば[-4.0×10-6(好ましくは例えば[-3.0×10-6]以上)]、アッベ数が例えば35以下のものを選定している。なお、負レンズがこのような条件を満たさなくても良い理由としては、高屈折率かつ温度係数が大きな負の値を有するレンズ(例えば、S-LAL20)を用いればよいことが挙げられる。
【0045】
特に、一対の正レンズ・負レンズについては、負レンズのアッベ数を正レンズのガラスのアッベ数で除した値(以下、「アッベ数比」と称する。)が小さいほど、色収差はもちろんのこと、球面収差、コマ収差等の他の収差の制御も容易になる。一つの目安としては、アッベ数比が0.7以下、特に、後群におけるアッベ数比が0.6以下(好ましくは0.5以下)となるようにするとよい。
【0046】
また、本実施形態では、いわゆるEDレンズ、特殊低分散レンズ、異常分散レンズとも称される異常部分分散性を有するレンズを選定対象としない。具体的には、フッ素化合物、リン酸酸化物、ホウ素化合物などを含むレンズを選定対象としない。異常分散レンズは、以下の実施例でも言及するが、相対的に屈折率が低く、例えば後群の正レンズに用いる場合、収差を制御する上で不利となることが多く、また、そもそも一般的に高コストであるから、本発明の目的に沿わないためである。
【実施例0047】
以下、車載カメラ装置に搭載される場合に好適な撮像光学系の実施例について説明する。実施例1~6では、特許文献1~6に開示されている撮像光学系を基準として、各レンズの正負、Fナンバ、半画角、全群の焦点距離等の仕様を可能な限り変更することなく、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てを優れたものとした撮像光学系について説明する。
【0048】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1の撮像光学系の模式図である。
図1には、物体側から像側に向けて、第1レンズL1(正レンズ)、第2レンズL1(負レンズ)、第3レンズL3(正レンズ)、開口絞り、第4レンズL4(負レンズ)、第5レンズL5(正レンズ)、第6レンズL6(正レンズ)、第7レンズL7(正レンズ)、各種フィルタ、カバーガラスの順に各レンズ等が配置されている状態を示している。なお、
図1には、面番号1~18も付している。
【0049】
既述のように、各実施例では、対応する特許文献の基本的な仕様はそのまま踏襲している。ただし、各レンズ・各群の焦点距離は最適化により多少の変動がある(幾つかの実施例では意図的に変更している)。本実施例の場合、Fno1.92、焦点距離5.35mmである。また、前群焦点距離-36.59mm、後群焦点距離4.58mmとなっている。後群横倍率は、焦点距離と前群焦点距離の比で与えられ-0.15倍、したがって、後群縦倍率はその2乗の0.02倍となる。
【0050】
表1は、特許文献1の実施例1及び
図1に示す本発明の実施例1の撮像光学系のスペックを示す表である。表1の上段には、特許文献1の撮像光学系の「焦点距離」、「Fナンバ」、「半画角」、「前群焦点距離」・「後群焦点距離」、「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」・「全群等価温度係数」を示している。
【0051】
【0052】
ここで、「全群等価温度係数」とは、数3に示す撮像光学系の等価温度係数[
]のことをいい、「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」は、それぞれ、数1・数2に示す前群・後群それぞれの等価温度係数[
]・[
]をいう。
【0053】
まず、枠体については、アルミニウム製(線膨張係数:23×10-6)のものが多いので、これを用いる場合を想定して算出した。なお、ガラス繊維などをフィラーとして含有させたポリカーボネートなどの樹脂製の枠体少なくないが、線膨張係数についてはアルミニウムと同程度であるとみなして問題ないと思われる。
【0054】
つぎに、撮像光学系の等価温度係数の許容範囲の算出は、既述の数4に含まれる各要素のうちいずれか一つのみを既述の数値範囲内で適宜変更し、かつ、他の要素については典型的な固定値とすることによって算出する。
【0055】
すなわち、例えば、ピクセルサイズ(δ)を2.0μm、焦点距離(fsystem)を6.88mm、Fナンバ(Fno)を1.4という固定値にして、温度範囲(ΔT)を20℃、40℃、60℃、80℃と変更して、各温度での等価温度係数の最小値及び最大値を求める。この条件の場合、指数10-6を省略して前者はそれぞれ-43.36、-33.18、-29.79、-28.09となり、後者はそれぞれ-2.64、-12.82、-16.21、-17.91となる。
【0056】
同様に、例えば、ピクセルサイズ(δ)を2.0μm、焦点距離(fsystem)を6.88mm、温度範囲(ΔT)を60℃という固定値にして、Fナンバ(Fno)を2.0、1.8、1.6、1.4と変更して、各等価温度係数の最小値及び最大値を求める。この例では当該最小値はそれぞれ-32.70、-31.73、-30.76、-29.79となり、当該最大値はそれぞれ-13.30、-14.27、-15.24、-16.21となる。
【0057】
表1の「前群等価温度係数」、「後群等価温度係数」、「全群等価温度係数」は、それぞれ、数1、数2、数3に相当する撮像光学系としての値である。これらは、特許文献1で開示された構成データを基にして算出している。この「全群等価温度係数」に、「枠体の線膨張率ξ」を加えた数4が、既述の撮像デバイスの等価温度係数の上限値(2.5×10-5)、或いは、角度分解能(ピクセルの大きさと撮像デバイスの焦点距離都に基づいて算出される)、Fナンバ(Fno)、対応すべき温度変化とから直接算出した上限値以下となることが、温度補償の条件となる。
【0058】
表1の下段には、実施例1における、各レンズの「面(番号)」、「曲率半径」、「面間隔」、「ガラスの製品名」、「屈折率(d線)」、「アッベ数」、各レンズの焦点距離「f」、各レンズの温度係数「χ」を示している。なお、後掲の表2~表6も同じ項目でスペックを表記している。
【0059】
特許文献1の実施例1の撮像光学系は、以下の事項について改善することが考えられる。
(1)特許文献1の撮像光学系は、前群の焦点距離が大きな負の値を有する。この場合、前群が全群等価温度係数に及ぼす寄与は相対的に小さくなるが、後群のガラスの選定の自由度を増すためには、前群等価温度係数を負に近づける方がよい。第1レンズL1はこの点を考慮して選定する。
(2)特許文献1の撮像光学系は、「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」がいずれも正の値あるから、これらのうち少なくとも一方の温度係数が負になるようなレンズを選定する。
以下、表1の下段を見ながら、本発明の実施例1の撮像光学系において、具体的に選定したレンズについて説明する。
【0060】
第1レンズL1(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAH52Q」を用いた。当該製品は、正の温度係数を有するガラスである。
【0061】
第2レンズL2(負レンズ)のガラスは、特許文献1の第2レンズとして用いられている本出願人の製品「S-LAL18」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0062】
第3レンズL3(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-TIH6」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有するガラスである。
【0063】
第4レンズL4(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-NBH56」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0064】
第5レンズL5(正レンズ)のガラスは、特許文献1では第7レンズとして用いられている、本出願人の製品「S-LAL12」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有するガラスである。
【0065】
第6レンズL6及び第7レンズ(正レンズ)の各ガラスは、いずれも、特許文献1では第2レンズL2として用いている、本出願人の製品「S-LAL18」を用いた。当該製品は、負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0066】
図1及び表1に示す撮像光学系において工夫した点は以下のとおりである。まず.前群において工夫した点としては、前群の温度係数を負に近づけるため、第1レンズL1として、温度係数が大きな正の値の製品を選定したことが挙げられる。その結果、「前群等価温度係数」は[5.7×10
-9]となった。
【0067】
この値は特許文献1のものよりは小さくなったがそれでも負の値にまでは至っていない。これは、第1レンズL1によって得られる焦点変動の抑制効果が、第3レンズL3によってやや打ち消されているからである。特許文献1に開示されている撮像光学系の仕様を可能な限り変更しないという制限を設けないならば、第3レンズL3として温度係数がより小さな「S-NBH56」を選定して、「前群等価温度係数」を負の値となるようにするとよい。
【0068】
つぎに、後群において工夫した点としては、第5レンズL5として「S-LAL12」という大きな負の温度係数を有する製品を選定したことである。第5レンズL5としてこの製品を用いると、大きな負の温度係数という特性を活かすことができた。
【0069】
第5レンズL5として「S-LAL12」を選定したので、これとの関係で部分分散比の偏差及びアッベ数比について利点を有する第4レンズL4を選定した。表1には示していないが、当該偏差の最大差は[0.0156]となり、アッベ数比は[0.45]となった。特許文献1における各対応値は[0.0217]及び[0.51]であるので、色消しによって色収差が良好に補正された。
【0070】
また、第6レンズL6及び第7レンズL7として「S-LAL18」を選定したことも工夫した点である。当該製品の温度係数及び屈折率によってペッツバール和が小さく保たれ、像面湾曲を小さくすることができた。この結果、「後群等価温度係数」は[-4.1×10-6]となった。
【0071】
そして、上記のような「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」によって、「全群等価温度係数」は[-4.1×10-6]となった。この値の場合、数1の第2項[χ+αξ]は[-4.1×10-6+23.0×10-6=1.9×10-5]であった。
【0072】
図2は、実施例1及び特許文献1の撮像光学系のMTF(Modulation Transfer Function)のシミュレーション結果を示す図である。横軸にはデフォーカス量、各縦軸にはコントラスト値を示している。MTFを求めるに際して、計算周波数は94lp/mmとし、枠体はアルミニウム製とすることを前提とした。
【0073】
図2(a)には20℃、
図2(b)には-30℃、
図2(c)には80℃の場合のMTF曲線をそれぞれ示しており、
図2(d)~
図2(f)はそれぞれ
図2(a)~
図2(c)に対応するものである。
【0074】
図2(a)~
図2(c)に示すMTF曲線を、
図2(d)~
図2(f)に示すMTF曲線とそれぞれ対比すると、像高ゼロ付近である中心部のコントラスト値はもとより、像高が増減した周辺部のコントラスト(解像力、レンズの明るさ)も良いことがわかる。
【0075】
また、
図2(a)~
図2(c)のMTF曲線のピークは、
図2(d)~
図2(f)のMTF曲線のピークの位置とは異なり、像高ゼロ付近にある。これは、温度環境による焦点変動が少ないことを意味する。
【0076】
したがって、実施例1の撮像光学系は、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てが優れていることがわかる。
【0077】
(実施例2)
図3は、本発明の実施例2の撮像光学系の模式図である。
図3には、物体側から像側に向けて、第1レンズL1(負レンズ)、第2レンズL1(正レンズ)、第3レンズL3(正レンズ)、開口絞り、第4レンズL4(負レンズ)、第5レンズL5(正レンズ)、第6レンズL6(正レンズ)、第7レンズL7(負レンズ)、各種フィルタ、カバーガラスの順に各レンズ等が配置されている状態を示している。なお、
図3には、面番号1~17も付している。Fno1.52、焦点距離5.05mm、前群焦点距離は正で4.95mm、後群焦点距離23.17mmとなっている。したがって、後群縦倍率1.04倍と前群の寄与が大きな例である。
【0078】
表2は、特許文献2の実施例9及び
図3に示す本発明の実施例2の撮像光学系のスペックを示す表である。
【0079】
【0080】
特許文献2の実施例9の撮像光学系は、以下の事項について改善することが考えられる。
(1)特許文献2の撮像光学系は、前群の第3レンズ及び後群の第6レンズとして異常分散系レンズ「S-PHM52」が用いられている。本発明の撮像光学系では、既述のとおり、異常分散レンズを選定対象から除外しているので、これらは異常分散レンズ以外のレンズを選定する。
(2)特許文献2の撮像光学系は、Fナンバ(Fno)が1.52と小さく、十分な明るさを有しているが、これに起因して、後述する
図4(d)~
図4(f)に示すMTF曲線から把握されるように、非点収差があり像面湾曲がある。したがって、解像力、レンズの明るさを向上させるために、これらを補正するレンズを選定する。
以下、表2の下段を見ながら、本発明の実施例2の撮像光学系において、具体的に選定したレンズについて説明する。
【0081】
第1レンズL1(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「L-BSL7」を用いた。当該製品は、3.3×10-6と大きな正の温度係数を有する相対的に低屈折率のガラスである。
【0082】
第2レンズL2(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAH95」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0083】
第3レンズL3(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAL18」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0084】
第4レンズL4(負レンズ)及び第7レンズL7(負レンズ)の各ガラスは、例えば本出願人の製品「S-NBH58」を用いた。当該製品は、相対的により小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0085】
第5レンズL5(正レンズ)及び第6レンズL6(正レンズ)の各ガラスは、例えば本出願人の製品「S-LAL12」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0086】
図3及び表2に示す撮像光学系において工夫した点は以下のとおりである。まず.前群において工夫した点としては、全てのレンズについて「前群等価温度係数」を負の値とすることに寄与する条件としたことが挙げられる。この結果、「前群等価温度係数」は[-3.2×10
-6]となった。
【0087】
特許文献2では、正のパワーを有する前群の正レンズに負の温度係数を有する異常分散ガラスを使用することで前群の等価温度係数を負としているが、本実施例では、前群の相対的パワーを大きくし、後群縦倍率を大きくすることで、前群の比重を高めたうえで適切なガラスを配置する。
【0088】
具体的には、負レンズL1に正の温度係数3.0×10-6以上、正レンズのL2及びL3に負の温度係数を有するレンズを選択している。これにより、異常分散ガラスを使用しなくても、前群の等価温度係数を-2.7×10-6から-3.2×10-6へと更に改善している。これが、後群のガラスの選定の自由度を広げることとなる。このように基本構成や仕様が同じでも各群のパワーを自由度として利用することも重要である。
【0089】
つぎに、後群において工夫した点としては、「後群等価温度係数」が負の大きな値を有するようなレンズを選定したことが挙げられる。具体的には、第4レンズL4及び第7レンズL7として、温度係数が可能な限り正に近く、かつ、部分分散比の偏差が相対的に小さなものを選定した。この結果、「後群等価温度係数」は[-2.9×10-5]となった。
【0090】
また、後群の全レンズには、部分分散の偏差の差が小さなガラスのレンズを選定した、これにより、2次スペクトルも相対的に小さくすることができる(後述するように、正レンズと負レンズの差は[0.01]である。)。
【0091】
さらに、後群では、第4レンズL4(負レンズ)の「S-NBH58」のアッベ数は[24.8]で、第5レンズL5(正レンズ)の「S-LAL12」のアッベ数は[55.3]であるため、このアッベ数比は[0.45]となる。そのため、色消しによって色収差が良好に補正され、球面収差やコマ収差の制御も容易となる。
【0092】
また、全群通して工夫した点としては、全ての正レンズを高屈折率とし、全ての負レンズを温度係数の条件を満たし、かつ、相対的に低屈折率としたことが挙げられる。これにより、ペツバール和が小さく保たれ、像面湾曲を小さくすることができる。
【0093】
また、第4レンズL4及び第7レンズL7として「S-NBH58」を選定し、かつ、第5レンズL5及び第6レンズL6として「S-LAL12」を選定したことも工夫した点である。前者の部分分散比の偏差は[0.0054]であり、後者の部分分散比の偏差は[-0.0047]である。これらの差をより小さくすることによって、2次スペクトルをより小さくすることができる。
【0094】
そして、上記のような「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」によって、「全群等価温度係数」は[-3.3×10-5]となった。この値の場合、数1の第2項[χ+αξ]は[-1×10-5]であった。全群等価温度係数が負ということは、いわゆる補正過剰な状態である。これは、意図的に後群縦倍率を大きくして、前群の寄与を高めたことによる効果で、群のパワーの自由度を用いた優れた制御となっている。
【0095】
図4は、実施例2及び特許文献2の撮像光学系のMTFのシミュレーション結果を示す図であり、
図2に対応するものである。
図4(a)~
図4(c)に示すMTF曲線を、
図4(d)~
図4(f)に示すMTF曲線とそれぞれ対比すると、
図2の場合と同様の効果が認められる。加えて、実施例2では、部分分散の偏差、アッベ数比、ペッツバール和について適正化を図ることができたので、非点収差、色収差、像面湾曲補正も行うことができ、Fナンバが1.5クラスという明るさを維持しながら、解像力がより向上していることが分かる。
【0096】
したがって、実施例2の撮像光学系は、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てが優れていることがわかる。
【0097】
(実施例3)
図5は、本発明の実施例3の撮像光学系の模式図である。
図5には、物体側から像側に向けて、第1レンズL1(負レンズ)、第2レンズL1(負レンズ)、第3レンズL3(正レンズ)、開口絞り、第4レンズL4(正レンズ)、第5レンズL5(負レンズ)、第6レンズL6(正レンズ)、各種フィルタ及びカバーガラスの順に各レンズ等が配置されている状態を示している。なお、
図5には、面番号1~14も付している。Fno1.92、焦点距離5.35mm、前群焦点距離-14.83mm、後群焦点距離6.64mmとなる。また、後群縦倍率は0.14倍である。
【0098】
表3は、特許文献3の実施例1及び
図5に示す本発明の実施例3の撮像光学系のスペックを示す表である。
【0099】
【0100】
特許文献3の実施例1の撮像光学系は、以下の事項について改善することが考えられる。すなわち、特許文献3の撮像光学系は、「後群等価温度係数」が大きな正の値であるから、これを負の値となるように第4レンズL4を選定する。
【0101】
なお、表3に示したとおり、特許文献3の実施例1の撮像光学系の後群横倍率は[0.06]と小さい。このため、温度環境による焦点変動を抑制するために、後群のレンズとして所望のものを選定することは重要である。このことは他の後群倍率が小さな実施例の場合にも当てはまる。
以下、表3の下段を見ながら、本発明の実施例3の撮像光学系において、具体的に選定したレンズについて説明する。
【0102】
第1レンズL1(負レンズ)のガラスは、特許文献3の第1レンズとして用いられている本出願人の製品「S-BSL7」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0103】
第2レンズL2(負レンズ)のガラスは、特許文献3の第2レンズとして用いられている本出願人の製品「S-NBH56」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0104】
第3レンズL3(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAH99」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有するガラスである。
【0105】
第4レンズL4(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「L-LAM69」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有するガラスである。
【0106】
第5レンズL5(負レンズ)のガラスは、特許文献3の第5レンズとして用いられている本出願人の製品「S-NPH3」を用いた。当該製品は、相対的により小さな負の温度係数を有するガラスである。なお、当該製品に代えて同様の特性を有する本出願人の製品「S-NPH2」を用いることもできる。
【0107】
第6レンズL6(正レンズ)のガラスは、特許文献3の第6レンズとして用いられている本出願人の製品「L-BAL42」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する相対的に低屈折率のガラスである。
【0108】
図5及び表3に示す撮像光学系において工夫した点は以下のとおりである。後群において工夫した点としては、第4レンズL4を負の温度係数を有するものに変更したことが挙げられる。この結果、「後群等価温度係数」は[-4.8×10
-6]になった。
【0109】
なお、第4レンズL4及び第6レンズL6はいわゆる非球面レンズであるため、レンズ選定にあたり付加的な自由度が高い。例えば、第6レンズL6として用いる「L-BAL42」は、通常、相対的に低屈折率のものは選定しにくい。しかし、非球面による自由度があるからこそ、相対的に低屈折率のものも選定が可能になる。
【0110】
また、第4レンズL4及び第6レンズL6として非球面レンズを選定することは必須ではない点に留意されたい。球面ガラスを選定した場合には、第6レンズL6のガラスには、相対的に高屈折率(例えば1.65以上)のものを選定するとよい。
【0111】
なお.前群においてガラスを選定するにあたり工夫した点は特にない。第3レンズL3は特許文献3のものとは異なるが、特性に大差はない。ただし、前群のパワーを大きくすることで後群縦倍率が大きくなり、負の等価温度係数を有する前群の寄与が増加している。「前群等価温度係数」は[-3.5×10-7]となった。
【0112】
そして、上記のような「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」によって、「全群等価温度係数」は[-5.1×10-6]となった。この値の場合、数1の第2項[χ+αξ]は[1.8×10-5]であった。
【0113】
図6は、実施例3及び特許文献3の撮像光学系のMTFのシミュレーション結果を示す図であり、
図2に対応するものである。
図6(a)~
図6(c)に示すMTF曲線を、
図6(d)~
図6(f)に示すMTF曲線とそれぞれ対比すると、
図2の場合と同様の効果が認められる。とりわけ、
図6(b)~
図6(c)のMTF曲線のピークが、
図6(e)~
図6(f)のMTF曲線のピークの位置に比して像高ゼロ付近にあり、温度環境による焦点変動量が特に少ないこともわかる。
【0114】
したがって、実施例3の撮像光学系は、対候性、解像力、レンズの明るさ性、コスト性の全てが優れていることがわかる。
【0115】
(実施例4)
図7は、本発明の実施例4の撮像光学系の模式図である。
図7には、物体側から像側に向けて、第1レンズL1(負レンズ)、第2レンズL1(正レンズ)、開口絞り、第3レンズL3(負レンズ)、第4レンズL4(正レンズ)、第5レンズL5(正レンズ)、各種フィルタ及びカバーガラスの順に各レンズ等が配置されている状態を示している。なお、
図7には、面番号1~12も付している。Fno1.62、焦点距離6.12mm、前群焦点距離23.19mm、後群焦点距離9.77mm、後群縦倍率0.07倍である。
【0116】
表4は、特許文献4の実施例1及び
図7に示す本発明の実施例4の撮像光学系のスペックを示す表である。
【0117】
【0118】
特許文献4の実施例1の撮像光学系は、以下の事項について改善することが考えられる。
(1)特許文献4の撮像光学系は、「前群等価温度係数」が正の値であるから、これが負の値となるように第1レンズL1を選定するが、「前群焦点距離」が正の値であるから、第1レンズL1として、正の温度係数を有する低屈折率のものを選定する。
(2)特許文献4の撮像光学系は、特許文献2の場合と同じく、後群の第4レンズに異常分散系レンズである「S-PHM52」が用いられている。本発明の撮像光学系では、異常分散レンズを選定対象から除外しているので、異常分散レンズ以外のレンズを選定する。
(3)特許文献4のものは、後群縦倍率が0.34倍と比較的高く、実施例2の場合と同様に、前群等価温度係数の比重が高い例である。本実施例では、ガラスを選定することに重要性に焦点を当てることとし、そのため、後群縦倍率を小さくし、前群の寄与を小さくしたうえで、前群の等価温度係数が負となるようなガラスを選定する。言い換えれば、後群縦倍率を特許文献4のものと同程度に維持したうえで、本実施例のようにガラスを選定すれば、更に全群等価温度係数を改善することが可能となる。
以下、表4の下段を見ながら、本発明の実施例4の撮像光学系において、具体的に選定したレンズについて説明する。
【0119】
第1レンズL1(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「L-BSL7」を用いた。当該製品は、温度係数が3.3×10-6と相対的に大きな正の温度係数を有する相対的に低屈折率のガラスである。
【0120】
第2レンズL2(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「L-LAM69」を用いた。当該製品は、温度係数が-4.1×10-6と相対的に大きな負の温度係数を有する非球面のガラスである。
【0121】
第3レンズL3(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-NBH56」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0122】
第4レンズL4(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAL12」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0123】
第5レンズL5(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「L-LAL13」を用いた。当該製品は、第3レンズL3と第4レンズL4との間の負の温度係数を有する非球面のガラスである。
【0124】
図7及び表4に示す撮像光学系において工夫した点は以下のとおりである。まず.前群において工夫した点としては、「前群等価温度係数」を負の値とするために、「前群焦点距離」が正の値であることを考慮して、第1レンズL1を正の温度係数を有し、像面湾曲補正に有利な低屈折率の製品を選定したことが挙げられる。さらに、第2レンズL2を、負の温度係数を有する非球面レンズを選定したことが挙げられる。この結果、後群縦倍率を0.07と小さくしたにも拘わらず、「前群等価温度係数」は[-1.3×10
-6]となった。
【0125】
つぎに、後群において工夫した点としては、特許文献4のものを基準とすると、第3レンズL3をより小さな負の温度係数を有するレンズに、第4レンズL4をより屈折率が高くて相対的に大きな負の温度係数を有するレンズに、第5レンズL5を相対的に大きな負の温度係数を有する非球面レンズに変更した。この結果、「後群等価温度係数」は[-7.8×10-6]となった。
【0126】
そして、上記のような「前群等価温度係数」・「後群等価温度係数」によって、「全群等価温度係数」は[-9.1×10-6]となった。この値の場合、数1の第2項[χ+αξ]は[1.4×10-5]であった。
【0127】
図8は、実施例4及び特許文献4の撮像光学系のMTFのシミュレーション結果を示す図であり、
図2に対応するものである。
図8(a)~
図8(c)に示すMTF曲線を、
図8(d)~
図8(f)に示すMTF曲線とそれぞれ対比すると、
図2の場合と同様の効果が認められる。また、
図8(a)~
図8(c)を
図8(d)~
図8(f)と対比して見ると、非点収差、像面湾曲が補正されていることもわかる。さらに、Fナンバが1.6クラスという明るさを維持しながら、解像力がより向上していることが分かる。
【0128】
したがって、実施例4の撮像光学系は、対候性、解像力、レンズの明るさ性、コスト性の全てが優れていることがわかる。
【0129】
(実施例5)
図9は、本発明の実施例5の撮像光学系の模式図である。
図9には、物体側から像側に向けて、第1レンズL1(負レンズ)、第2レンズL1(正レンズ)、開口絞り、第3レンズL3(負レンズ)、第4レンズL4(正レンズ)、第5レンズL5(正レンズ)、各種フィルタ及びカバーガラスの順に各レンズ等が配置されている状態を示している。なお、
図9には、面番号1~12も付している。Fno1.92、焦点距離5.35mm、前群焦点距離-18.63mm、後群焦点距離5.77mm、後群縦倍率0.09倍である。
【0130】
表5は、特許文献5の実施例1及び
図9に示す本発明の実施例5の撮像光学系のスペックを示す表である。
【0131】
【0132】
特許文献5の実施例1の撮像光学系は、以下の事項について改善することが考えられる。すなわち、特許文献5の撮像光学系は、特許文献2の場合と同様に、後群の第5レンズに異常分散系かつ非球面レンズである「S-FPM3」が用いられており、非常に高価である。本発明の撮像光学系では、異常分散レンズを選定対象から除外しているので、異常分散レンズ以外のレンズを選定する。
以下、表5の下段を見ながら、本発明の実施例5の撮像光学系において、具体的に選定したレンズについて説明する。
【0133】
第1レンズL1(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-BSL7」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する相対的に低屈折率のガラスである。
【0134】
第2レンズL2(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-NPH2」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。なお、当該製品に代えて、相対的に小さな正の温度係数のガラスを用いることもできる。
【0135】
第3レンズL3(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-NPH5」を用いた。当該製品は、第4レンズL4と第5レンズL5との間の負の温度係数を有するガラスである。
【0136】
第4レンズL4(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAL20」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0137】
第5レンズL5(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「L-BAL42」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する非球面のガラスである。なお、これに代えて、正の温度係数を有する非球面のガラスとしてもよい。
【0138】
図9及び表5に示す撮像光学系において工夫した点は以下のとおりである。まず.前群において工夫した点は、第1レンズL1として、像面湾曲補正に有利な屈折率のレンズを選定したことが挙げられる。なお、「S-BSL7」の屈折率は表1に示すように[1.5163]である。
【0139】
つぎに、第2レンズL2については、温度環境による焦点変動を抑制するためには、正の温度係数を有するガラスを選定するとよいが、実施例5の構成の場合、後群縦倍率が小さく相対的に前群等価温度係数の寄与が小さい。そこで、第2レンズL2は、色収差補正及び像面湾曲補正に寄与する条件で、高屈折率でアッベ数の小さなものを選定した。なお、前群等価温度係数は[1.7×10-7]という僅かに正の値となったが、以下に説明するように特段の問題はない。
【0140】
つぎに、後群において工夫した点としては、第3レンズL3と第4レンズL4とを、アッベ数比を考慮して選定した点である。前者のアッベ数は[22.7]、後者のアッベ数は[51.1]であるため、このアッベ数比は[0.44]となる。
【0141】
また、第3レンズL3及び第4レンズL4については、温度係数も考慮した選定をした。第3レンズL3は温度係数をできるだけ小さく押さえたものとし、第4レンズL4は温度係数を大きな負の値を有するものとした。
【0142】
この結果、後群等価温度係数は[-6.2×10-6]となり、全群等価温度係数も[-6.0×10-6]となった。したがって、解像力、レンズの明るさの向上分を考えれば、前群等価温度係数が僅かに正の値となっても特段の問題はない。
【0143】
図10は、実施例5及び特許文献5の撮像光学系のMTFのシミュレーション結果を示す図であり、
図2に対応するものである。
図10(a)~
図10(c)に示すMTF曲線を、
図10(d)~
図10(f)に示すMTF曲線とそれぞれ対比すると、
図2の場合と同様の効果が認められる。
【0144】
したがって、実施例5の撮像光学系は、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てが優れていることがわかる。
【0145】
(実施例6)
図11は、本発明の実施例6の撮像光学系の模式図である。
図11には、物体側から像側に向けて、第1レンズL1(正レンズ)、第2レンズL1(負レンズ)、第3レンズL3(負レンズ)、第4レンズL4(正レンズ)、開口絞り、第5レンズL5(負レンズ)、第6レンズL6(正レンズ)、第7レンズL7(正レンズ)、各種フィルタ及びカバーガラスの順に各レンズ等が配置されている状態を示している。なお、
図11には、面番号1~16も付している。Fno1.91、焦点距離5.38mm、前群焦点距離-14.69mm、後群焦点距離4.56mm、後群縦倍率0.13倍である。
【0146】
表6は、特許文献6の実施例1及び
図11に示す本発明の実施例6の撮像光学系のスペックを示す表である。
【0147】
【0148】
特許文献6の実施例1の撮像光学系は、以下の事項について改善することが考えられる。
(1)特許文献6の撮像光学系は、「前群焦点距離」が負の大きな値である[-97.74]であるから、「全群等価温度係数」に対して大きな影響を及ぼさないが、「前群等価温度係数」は正の値であるため、これを負の値となるように前群の各レンズを選定するとともに前群の寄与を大きくするため、パワーを相対的に大きくする。
(2)特許文献6の撮像光学系は、後群の第5レンズ(負レンズ)の温度係数が正の値であり、第6レンズ(正レンズ)の温度係数が正の値である。このため、「後群等価温度係数」が大きな正の値となっているから、本実施例では、パワーの大きな第6レンズに大きな負の温度係数を有するレンズを選定する。
以下、表6の下段を見ながら、本発明の実施例6の撮像光学系において、具体的に選定したレンズについて説明する。
【0149】
第1レンズL1(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAH66」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。なお、これに代えて、相対的により小さな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスを用いることもできる。
【0150】
第2レンズL2(負レンズ)及び第3レンズL3(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-BSL7」を用いた。当該製品は、負の温度係数を有する相対的に低屈折率のガラスである。なお、これに代えて、更に大きな温度係数が低い本出願人の製品「L-BSL7」を用いることもできる。
【0151】
第4レンズL4(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-NBH56」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有するガラスである。
【0152】
第5レンズL5(負レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-NPH3」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0153】
第6レンズL6(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAL20」を用いた。当該製品は、相対的に大きな負の温度係数を有する相対的に低屈折率のガラスである。
【0154】
第7レンズL7(正レンズ)のガラスは、本出願人の製品「S-LAH55V」を用いた。当該製品は、相対的に小さな負の温度係数を有する相対的に高屈折率のガラスである。
【0155】
図11及び表6に示す撮像光学系において工夫した点は以下のとおりである。まず.前群において工夫した点としては、第2レンズL2及び第3レンズL3については、実施例5の場合と同じ理由で、像面湾曲補正に有利な屈折率のレンズを選定したことが挙げられる。第1レンズL1としては、高屈折率であって、かつ、可能な限り温度係数が正であり、仮に、困難であれば可能な限り小さな負の値を有するガラスを選定する。
【0156】
また、後群において工夫した点としては、第4レンズL4として、色消しを考慮して、アッベ数が小さく、温度係数が小さな負の値のものを選定する。なお、「S-NBH56」のアッベ数は[24.8]である。この結果、前群等価温度係数は[-4.5×10-7]となった。
【0157】
つぎに、後群において工夫した点としては、第6レンズL6を強い正のパワーを有するものを選定した。第5レンズL5は、第6レンズL6との関係でアッベ数比が小さくなるものを選定した。正レンズの「S-LAL20」のアッベ数は[51.1]、負レンズ「S-NPH3」のアッベ数は[17.5]であるため、このアッベ数比は[0.34]となる。
【0158】
また、第7レンズL7(正レンズ)は、第5レンズL5(負レンズ)のアッベ数が小さいので、高屈折率ガラスを選定した。この結果、後群等価温度係数は[-1.0×10-5]にとなり、全群等価温度係数は[-1.1×10-5]になった。
【0159】
図12は、実施例6及び特許文献6の撮像光学系のMTFのシミュレーション結果を示す図であり、
図2に対応するものである。
図12(a)~
図12(c)に示すMTF曲線を、
図12(d)~
図12(f)に示すMTF曲線とそれぞれ対比すると、
図2の場合と同様の効果が認められる。
【0160】
したがって、実施例6の撮像光学系は、対候性、解像力、レンズの明るさ、コスト性の全てが優れていることがわかる。
【0161】
本明細書における実施形態及び各実施例は、本発明の例示にしか過ぎない。本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の精神を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容されるべきである。
【0162】
また、本明細書では、主として、車載カメラ装置用の撮像光学系について説明したが、撮像光学系はそこを通過光が取り込まれる撮像センサとともに撮像デバイスを構成する。そして、撮像デバイスは、車載カメラ装置のみならず、例えば、車載ステレオカメラ、車載センシングカメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ドライブレコーダ、リアビューカメラ、サラウンドビューカメラ、車線検知装置、障害物検知装置、標識認知装置、信号認識装置、ICの位置などを含む監視カメラ等の各種装置にも適用することができる。