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特開2022-120353鉄めっき浴、めっき皮膜形成方法、およびめっき皮膜
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  • 特開-鉄めっき浴、めっき皮膜形成方法、およびめっき皮膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120353
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】鉄めっき浴、めっき皮膜形成方法、およびめっき皮膜
(51)【国際特許分類】
   C25D 3/20 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
C25D3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017193
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000115072
【氏名又は名称】ユケン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】渡部 清彦
(72)【発明者】
【氏名】北田 敦
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA14
4K023BA08
4K023CA09
4K023DA02
4K023DA06
4K023DA07
4K023DA08
(57)【要約】
【課題】有機酸を含まず、低いpHにて好適な鉄めっきを形成可能な鉄めっき浴等を提供する。
【解決手段】
塩化鉄とハロゲン化物と水とを含み、ハロゲン化物のモル量に対する水のモル量の比率が10~200である鉄めっき浴を用いることで、有機酸を含まない鉄めっき浴によって、低いpHにてめっき皮膜を形成することができる。また、鉄めっき浴にホウ酸を含有することで、めっき皮膜へのクラックの発生を抑制することが可能となり、好適な鉄めっきを形成することができる。
【選択図】図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化鉄と、
ハロゲン化物と、
ホウ酸と、
水と
を含む鉄めっき浴であって、
前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、10~200であることを特徴とする鉄めっき浴。
【請求項2】
前記ハロゲン化物が、塩化物であることを特徴とする請求項1に記載の鉄めっき浴。
【請求項3】
前記ハロゲン化物が、塩化カルシウムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉄めっき浴。
【請求項4】
前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、15~40であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の鉄めっき浴。
【請求項5】
前記ホウ酸が、0.01~0.7mol/Lであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の鉄めっき浴。
【請求項6】
塩化鉄と、ハロゲン化物と、ホウ酸と、水とを含み、前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、10~200である鉄めっき浴を用いてめっき皮膜を形成することを特徴とするめっき皮膜形成方法。
【請求項7】
塩化鉄と、ハロゲン化物と、ホウ酸と、水とを含み、前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、10~200である鉄めっき浴を用いて形成されることを特徴とするめっき皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化鉄を含む鉄めっき浴等に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献に記載されているような従来の鉄めっき浴には、鉄の錯化、酸化防止を目的として有機酸が添加されている。このため、この有機酸に起因する有機不純物が結晶粒界中に多く含まれることで、従来の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜では、磁性材としての電磁波シールド性が不十分であった。ただし、有機酸を鉄めっき浴に添加しないと、水酸化鉄が早期に生成されやすくなり、浴寿命が極端に短くなるという問題がある。また、酸化抑制のためにめっき浴をpH2以下にすると、電析しなくなるといった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10204674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機酸を含まず、低いpHにて好適な鉄めっきを形成可能な鉄めっき浴等の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の鉄めっき浴は、塩化鉄と、ハロゲン化物と、ホウ酸と、 水とを含む鉄めっき浴であって、前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、10~200であることを特徴とする。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のめっき皮膜形成方法は、塩化鉄と、ハロゲン化物と、ホウ酸と、水とを含み、前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、10~200である鉄めっき浴を用いてめっき皮膜を形成することを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のめっき皮膜は、塩化鉄と、ハロゲン化物と、ホウ酸と、水とを含み、前記ハロゲン化物のモル量に対する前記水のモル量の比率が、10~200である鉄めっき浴を用いて形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の鉄めっき浴によれば、ハロゲン化物のモル量に対する水のモル量の比率を10~200とすることで、有機酸を含まない鉄めっき浴によって、低いpHにてめっき皮膜を形成することができる。また、本発明の鉄めっき浴にホウ酸を含有することで、例えば、めっき皮膜へのクラックの発生を抑制することが可能となり、好適な鉄めっきを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1~10の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図2】実施例11~20の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図3】実施例21~30の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図4】実施例31~38の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図5】実施例39、40の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図6】実施例41、42の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図7】実施例43、44の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図8】実施例45、46の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図9】比較例1の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図10】比較例2~4の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図11】比較例5の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図12】比較例6の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図13】比較例7の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図14】比較例8の鉄めっき浴の組成を示す図である。
図15】鉄めっき浴により形成されためっき皮膜の炭素含有量を示す図である。
図16】実施例1~8及び比較例2の鉄めっき浴により形成されるめっき皮膜の膜厚(μm)を電流密度毎に示す図である。
図17】実施例11~18及び比較例3の鉄めっき浴により形成されるめっき皮膜の膜厚(μm)を電流密度毎に示す図である。
図18】実施例21~28及び比較例4の鉄めっき浴により形成されるめっき皮膜の膜厚(μm)を電流密度毎に示す図である。
図19】実施例31~38の鉄めっき浴により形成されるめっき皮膜の膜厚(μm)を電流密度毎に示す図である。
図20】実施例40,42,46,48の鉄めっき浴により形成されるめっき皮膜の膜厚(μm)を電流密度毎に示す図である。
図21】自由水量Nとホウ酸添加量とに応じた単位面積当たりのクラック長さを示す図である。
図22】ハロゲン化物の種類とホウ酸添加量とに応じた単位面積当たりのクラック長さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に記載の「鉄めっき浴」は、塩化鉄と、ハロゲン化物と、ホウ酸と、水とを含む鉄めっき浴であって、ハロゲン化物のモル量に対する水のモル量の比率が、10~200であることを特徴とする。
【0011】
ここで、ハロゲン化物のモル量に対する水のモル量の比率を自由水量Nと定義すると、その自由水量Nでの水のモル量は、鉄めっき浴を構成する水の総量のモル数であり、鉄めっき浴に投入される水だけでなく、塩化鉄などに含まれる水、水和物に含まれる水をも含む総量のモル数である。そして、自由水量Nを10~200とすることで、有機酸を含まない鉄めっき浴であっても、低いpHにてめっき皮膜を形成することができる。このように、有機酸を含まない鉄めっき浴により形成されためっき皮膜では、炭素含有量を少なくすることが可能となり、磁性材としての電磁波シールド性を充分に発揮することが可能となる。なお、自由水量Nは、10~200であればよいが、15~40であることが好ましい。さらに言えば、18~25であることが好ましい。
【0012】
また、本発明に記載の「ハロゲン化物」は、ハロゲンを含む化合物であり、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、アスタチン化物などが挙げられる。さらに具体的に言えば、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化マグネシウム、アスタチン化カルシウム、アスタチン化ナトリウム、アスタチン化カリウム、アスタチン化リチウム、アスタチン化マグネシウムなどが挙げられる。これら種々のハロゲン化物のうちの塩化物が本発明に記載の「ハロゲン化物」として好ましく、特に、塩化カルシウム及び塩化マグネシウムが好ましい。
【0013】
また、本発明に記載の「鉄めっき浴」での「ホウ酸」の含有量は限定されないが、鉄めっき浴への溶解を考慮すると、0.7mol/L以下であることが好ましい。また、ホウ酸を含有する鉄めっき浴を用いることで、めっき皮膜へのクラックの発生を抑制することが可能となる。そして、鉄めっき浴へのホウ酸の含有量が0.01mol/Lであっても、めっき皮膜へのクラックの発生を抑制することができる。このことから、鉄めっき浴へのホウ酸の含有量を、0.01~0.7mol/Lとすることで、めっき皮膜へのクラックの発生を適切に抑制することが可能となる。
【0014】
また、本発明に記載の「鉄めっき浴」での「塩化鉄」の濃度は、0.18~1.79mol/kg(HO)であることが好ましく、さらに言えば、0.53~1.43mol/kg(HO)であることが好ましく、特に、0.9~1.07mol/kg(HO)であることが好ましい。つまり、鉄イオン濃度は、10~100g/kg(HO)であることが好ましく、さらに言えば、30~80g/kg(HO)であることが好ましく、特に、50~60g/kg(HO)であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に記載の「鉄めっき浴」を用いてめっき皮膜を形成する際のpHは、2以下であることが好ましい。さらに言えば、1以下であることが好ましく、特に、0.5以下であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に記載の「鉄めっき浴」を用いてめっき皮膜を形成する際の浴温は、30~80℃であることが好ましい。さらに言えば、40~60℃であることが好ましく、特に、50℃であることが好ましい。
【0017】
また、本発明に記載の「鉄めっき浴」を用いてめっき皮膜を形成する際の電流密度の範囲は、0.1~10A/dmであることが好ましい。さらに言えば、0.5~8A/dmであることが好ましく、特に、2~4A/dmであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に記載の「鉄めっき浴」を用いてめっき皮膜を形成する際に液攪拌することで、浴温を均一にする観点からすれば、液攪拌することが好ましいが、液攪拌の有無に関わらず、形成されるめっき皮膜の膜特性に大差はない。このため、めっき皮膜形成時における液攪拌の有無は、何れでもよい。つまり、本発明に記載の「鉄めっき浴」であれば、バレル方式とラック方式との何れの方式であっても、適切にめっき皮膜を形成することができる。
【実施例0019】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0020】
図1図8に示す配合の各原料から、実施例1~46の鉄めっき浴を調整し、図9図14に示す配合の各原料から、比較例1~8の鉄めっき浴を調整した。なお、各原料の詳細は、下記の通りである。また、図において原料とともに、自由水量Nも記載している。
塩化鉄(II)四水和物:富士フィルム和光純薬株式会社製及び米山薬品工業株式会社
塩化カルシウム:富士フィルム和光純薬株式会社製及び株式会社トクヤマ
塩化ナトリウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
塩化カリウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
塩化リチウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
塩化マグネシウム:富士フィルム和光純薬株式会社製
ホウ酸:富士フィルム和光純薬株式会社製及びSearles Valley Minerals
【0021】
実施例1~46の鉄めっき浴の調整方法として、まず、水のpHを、塩酸等を用いて2以下にまで下げておき、pH2以下の水に塩化鉄(II)四水和物を投入して溶解させる。そして、塩化カルシウム,塩化ナトリウムなどのハロゲン化物を投入する。つまり、水に、塩化鉄(II)四水和物、ハロゲン化物の順に投入する。これば、水に塩化鉄(II)四水和物、ハロゲン化物の順に投入せずに、ハロゲン化物、塩化鉄(II)四水和物の順に投入すると、長時間攪拌しても、塩化鉄(II)四水和物が溶解しないためである。また、液にハロゲン化物を投入する際には、液を冷却しながら、ハロゲン化物を少量ずつ投入することが好ましい。これは、ハロゲン化物を液に一度に大量に投入すると、発熱が激しく水の沸点近くまで液温が上昇し、液に溶解している鉄が急速に酸化されることを防ぐためである。なお、液に溶解している鉄が酸化すると、液の色が薄い透明な緑色から透明な茶色に変化するため、鉄の酸化の有無を判断することができる。このように、水に塩化鉄(II)四水和物、ハロゲン化物が投入されると、塩化鉄(II)四水和物、ハロゲン化物が投入された液に、その液量に応じた量のホウ酸を投入する。この際、ホウ酸は常温において非常に溶けにくいため、液を30℃以上に加熱しながらホウ酸を溶かすことが好ましい。そして、全ての原料を投入した後に、十分な時間、攪拌することが好ましい。
【0022】
また、比較例2~8の鉄めっき浴では、実施例1~46の鉄めっき浴の調整方法と同様に、水に塩化鉄(II)四水和物、ハロゲン化物を、塩化鉄(II)四水和物、ハロゲン化物の順に投入することで鉄めっき浴を調整することができる。また、比較例1の鉄めっき浴は、従来からある周知の鉄めっき浴であるため、比較例1の鉄めっき浴の調整方法の説明は省略する。
【0023】
そして、上述した方法により調整された鉄めっき浴を用いて、下記の条件に従ってハルセル試験を実行し、電流密度10ASD(A/dm:Ampere per Squaere Decimeter),8ASD,6ASD,4ASD,3ASD,2ASD,1ASD,0.5ASDにおけるめっき皮膜の膜厚(μm)を測定した。
電流:2A
試験時間:10分
浴温:50℃
試験片:銅製ハルセル(65mm×100mm×0.2mm)
攪拌:有り
【0024】
上記条件で実行されためっき皮膜の膜厚(μm)の測定結果を、図15図19に示す。なお、実施例9,10,19,20,29,30の鉄めっき浴では、鉄めっき浴の調整の際にホウ酸を全て溶解させることができなかったため、めっき皮膜の膜厚(μm)の測定は行っていない。
【0025】
また、上記ハルセル試験での電流密度3ASDの箇所のめっき皮膜を、キーエンス社製ビデオマイクロスコープ(VHX-7000)の100倍拡大画面において確認し、2.22mm×3.00mm(=6.66mm)の範囲の全てのクラックの起点から終点までの距離を測定した。そして、その範囲で測定された全てのクラックの起点から終点までの距離を合計し、その合計値を、めっき皮膜でのクラック長さ(μm)として図20及び図21に示す。なお、図20では、自由水量N=10である比較例2、実施例1~8の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示し、自由水量N=20である比較例3、実施例11~18の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示し、自由水量N=30である比較例4、実施例21~28の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示している。また、図21では、ハロゲン化物として塩化カルシウムを用いた比較例3、実施例13,15の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示し、ハロゲン化物として塩化ナトリウムを用いた比較例5、実施例39,40の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示し、ハロゲン化物として塩化カリウムを用いた比較例6、実施例41,42の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示し、ハロゲン化物として塩化リチウムを用いた比較例7、実施例43,44の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示し、ハロゲン化物として塩化マグネシウムを用いた比較例8、実施例45,46の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜でのクラック長さを、ホウ酸の添加量(mol/L)毎に示している。
【0026】
また、上述した方法により調整された鉄めっき浴を用いて、下記の条件に従ってめっき皮膜を形成し、そのめっき皮膜に含まれる炭素含有量を測定した。
電流:2A
試験時間:10分
浴温:50℃
試験片:銅製ハルセル(65mm×100mm×0.2mm)
攪拌:有り
測定方法:JIS G 1211-3(炭素)
測定装置:HORIBA製 EMIA-Expert
【0027】
そして、自由水量N=10である実施例5の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜の炭素含有量(wt%)と、自由水量N=20である実施例15の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜の炭素含有量(wt%)と、自由水量N=30である実施例25の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜の炭素含有量(wt%)と、自由水量N=40である実施例31の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜の炭素含有量(wt%)と、比較例1の鉄めっき浴により形成されためっき皮膜の炭素含有量(wt%)とを図22に示す。なお、炭素含有量は、試験片から剥離しためっき皮膜に対して測定を2回実行して、2回の測定値の平均値である。
【0028】
まず、図22から分かるように、塩化鉄とハロゲン化物とホウ酸と水とを含む鉄めっき浴を用いることで、炭素含有量の少ないめっき皮膜を形成することができる。詳しくは、比較例1の鉄めっき浴は、従来からある周知の鉄めっき浴であり、有機酸を含んでおり、塩化鉄,ハロゲン化物等を含んでいない。そして、その比較例1の鉄めっき浴を用いて形成されためっき皮膜での炭素含有量は、0.7wt%である。一方、実施例5,15,25,31の鉄めっき浴は、塩化鉄とハロゲン化物とホウ酸と水とを含む鉄めっき浴であり、有機酸を含んでいない。そして、実施例5,15,25,31の鉄めっき浴を用いて形成されためっき皮膜での炭素含有量は、0.028~0.073wt%である。つまり、塩化鉄とハロゲン化物とホウ酸と水とを含む鉄めっき浴を用いることで、有機酸を含む鉄めっき浴と比較して、めっき皮膜の炭素含有量を概ね1/10以下にすることができる。また、炭素含有量の測定装置での炭素の検出限界は、0.01であり、塩化鉄とハロゲン化物とホウ酸と水とを含む鉄めっき浴を用いることで、炭素の測定装置の検出限界に近い値まで、めっき皮膜の炭素含有量を低減することが可能となる。
【0029】
また、図15図19から分かるように、自由水量Nを10~200にすることで、塩化鉄とハロゲン化物とホウ酸と水とを含む鉄めっき浴により適切にめっき皮膜を形成することができる。ただし、自由水量Nが100以上になると(実施例35~38)、電流密度0.5ASDの付近、つまり、低電位部での付き回り性が大きく低下して、無めっきの面積増加が顕著となる。また、自由水量Nが10である場合(比較例2、実施例1~8)には、電流密度6~10ASDの付近、つまり、高電位部で焦げが発生している。このため、自由水量Nは15~100であることが好ましい。また、自由水量Nが50以上になると(実施例32~38)、自由水量Nの増加に伴ってめっき皮膜の膜厚が薄くなり、電流効率(めっき速度)が低下している。このことを考慮すると、自由水量Nは15~40であることが好ましい。さらに言えば、自由水量Nが20若しくは30である場合(比較例3,4、実施例11~18,21~28)に、適切な膜厚のめっき皮膜が形成されている。このため、自由水量Nは18~25であることが好ましい。
【0030】
また、めっき条件としては、電流密度は0.1~10ASDであることが好ましく、さらに言えば、0.5~8ASDであることが好ましく、特に、2~4ASDであることが好ましい。また、浴温は30~80℃であることが好ましく、さらに言えば、40~60℃であることが好ましく、特に、50℃であることが好ましい。また、pHは2以下であることが好ましく、さらに言えば、1以下であることが好ましく、特に、0.5以下であることが好ましい。また、上記めっき条件では、めっき形成時に鉄めっき浴は攪拌されているが、無攪拌でめっき皮膜を形成しても、攪拌時のめっき皮膜の膜厚と無攪拌時のめっき皮膜の膜厚とは大差がなかったため、攪拌時及び無攪拌時の何れにおいても、適切にめっき皮膜を形成することができる。
【0031】
また、ハロゲン化物として、塩化カルシウムを用いた鉄めっき浴(比較例2~4、実施例1~38)、塩化ナトリウムを用いた鉄めっき浴(実施例40)、塩化カリウムを用いた鉄めっき浴(実施例42)、塩化リチウムを用いた鉄めっき浴(実施例44)、塩化マグネシウムを用いた鉄めっき浴(実施例46)の何れにおいても、適切にめっき皮膜を形成することができる。ただし、塩化カルシウムを用いた鉄めっき浴(比較例2~4、実施例1~38)、塩化マグネシウムを用いた鉄めっき浴(実施例46)は、塩化ナトリウムを用いた鉄めっき浴(実施例40)、塩化カリウムを用いた鉄めっき浴(実施例42)、塩化リチウムを用いた鉄めっき浴(実施例44)と比較して、膜厚が厚いことから、電流効率(めっき速度)が高いことがわかる。
【0032】
また、図20から分かるように、自由水量Nに関わらず、鉄めっき浴にホウ酸を含有することで、めっき皮膜のクラックの発生を抑制することができる。詳しくは、自由水量Nが10,20,30の何れにおいても、ホウ酸を含有する鉄めっき浴(実施例1~28)を用いて形成されためっき皮膜では、ホウ酸を含有していない鉄めっき浴(比較例2~4)を用いて形成されためっき皮膜と比較して、クラック長さが短くなっており、クラックの発生が抑制されている。そして、ホウ酸含有量が増加するほど、クラック長さが短くなっており、クラックの発生が抑制されている。このことから、鉄めっき浴にホウ酸を含有することで、めっき皮膜のクラックの発生を抑制することができることは明らかである。なお、上述したように、実施例9,10,19,20,29,30の鉄めっき浴(ホウ酸含有量:0.75~1mol/L)では、鉄めっき浴の調整の際にホウ酸を全て溶解させることができなかったため、ホウ酸含有量は0.01~0.7mol/Lであることが好ましい。また、ホウ酸含有量が0.1mol/L以上であれば、自由水量Nが10である場合に、ホウ酸を含有する鉄めっき浴では、ホウ酸を含有していない鉄めっき浴と比較して、クラック長さを半分程度にすることができる。このため、ホウ酸含有量は0.1~0.7mol/Lであることが好ましい。また、ホウ酸含有量が0.2mol/L以上であれば、自由水量Nが30である場合に、ホウ酸を含有する鉄めっき浴では、ホウ酸を含有していない鉄めっき浴と比較して、クラック長さを半分程度にすることができる。このため、ホウ酸含有量は0.2~0.7mol/Lであることが好ましい。
【0033】
また、図21から分かるように、ハロゲン化物として、塩化物を用いることで、めっき皮膜のクラックの発生を抑制することができる。詳しくは、塩化カルシウムを用いた鉄めっき浴(比較例3、実施例13,15)、塩化ナトリウムを用いた鉄めっき浴(比較例5、実施例39,40)、塩化カリウムを用いた鉄めっき浴(比較例6、実施例41,42)、塩化リチウムを用いた鉄めっき浴(比較例7、実施例43,44)、塩化マグネシウムを用いた鉄めっき浴(比較例8、実施例45,46)の何れにおいても、ホウ酸を含有する鉄めっき浴(実施例13,15,39~46)を用いることで、ホウ酸を含有していない鉄めっき浴(比較例3,5~8)と比較して、クラック長さが短くなっており、クラックの発生が抑制されている。このため、ハロゲン化物として何れの塩化物を採用しても、クラックの発生を抑制する効果があることは明らかである。なお、塩化物以外のハロゲン化物も同様の効果があることは明らかである。
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