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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120379
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/40 20060101AFI20220810BHJP
【FI】
F02D41/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017234
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 謹
(72)【発明者】
【氏名】脇坂 佳史
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA02
3G301JA02
3G301LB11
3G301MA23
3G301PA16Z
3G301PB08Z
3G301PF03Z
(57)【要約】
【課題】副噴射由来の冷却損失を考慮して副噴射の最適な噴射量を設定する。
【解決手段】制御装置は、要求トルクを取得するステップ(S100)と、噴射圧と過給圧とを取得するステップ(S102)と、燃焼室の壁面における燃料の噴霧の先端の速度がしきい値以下となる主噴射後の副噴射量を設定するステップ(S104)と、副噴射量を用いて主噴射量を設定するステップ(S106)と、噴射制御を実行するステップ(S108)とを含む、処理を実行する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、前記気筒内の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置とを備えるエンジンの制御装置であって、
前記エンジンに要求される要求トルクを用いて1サイクルにおいて前記気筒に噴射される燃料噴射量を設定する設定部と、
設定された前記燃料噴射量が前記気筒に噴射されるように前記燃料噴射装置を制御する制御部とを備え、
前記燃料噴射量は、主噴射に対応する第1噴射量と、前記主噴射よりも後の副噴射に対応する第2噴射量とを含み、
前記設定部は、前記副噴射が終了した後に前記副噴射により噴射された燃料が前記燃焼室の壁面に到達するとともに、前記燃焼室の壁面に到達するときに前記燃料の噴霧の先端の速度が前記副噴射の終了に起因する低下状態になるように前記第2噴射量を設定する、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記燃焼室の壁面における前記燃料の噴霧の先端の速度がしきい値以下になるように前記第2噴射量を設定する、請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記設定部は、設定された前記第2噴射量を用いて前記第1噴射量を設定する、請求項1または2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記副噴射を前記主噴射よりも後に複数回行なう、請求項1~3のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの気筒内への燃料噴射の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの気筒内への燃料噴射に関し、燃費の改善や煤の低減を目的として、燃料の主噴射と、主噴射の後に行なう副噴射とに分割して燃料噴射を行なう技術が公知である。
【0003】
この副噴射の時期や噴射量の決定に関して、たとえば、特開2017-227169号公報(特許文献1)には、副噴射時期に対する排気中に含まれる煤の量と、燃料消費量を推定し、推定された煤の量および燃料消費量に基づいて副噴射の時期と噴射量とを決定する技術が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-227169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したエンジンにおいて燃費の改善を行なうためには、冷却損失を低減させることが望ましい。そのため、たとえば、上述の副噴射の噴射量を多くすることによって、主噴射由来の冷却損失が低減するため、燃費の向上が図れる。
【0006】
しかしながら、副噴射の噴射量が多くなると副噴射による噴霧貫徹力が大きくなり、燃焼室の壁面に衝突する速度が大きくなる。その結果、燃料が燃焼室の壁面に沿って拡がることから、副噴射由来の冷却損失が大きくなり、燃料噴射全体における冷却損失が増加し、燃費が悪化する場合がある。そのため、副噴射由来の冷却損失を考慮して副噴射の最適な噴射量を設定することが求められる。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、副噴射由来の冷却損失を考慮して副噴射の最適な噴射量を設定するエンジンの制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に係るエンジンの制御装置は、気筒と、気筒内の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置とを備えるエンジンの制御装置である。この制御装置は、エンジンに要求される要求トルクを用いて1サイクルにおいて気筒に噴射される燃料噴射量を設定する設定部と、設定された燃料噴射量が気筒に噴射されるように燃料噴射装置を制御する制御部とを備える。燃料噴射量は、主噴射に対応する第1噴射量と、主噴射よりも後の副噴射に対応する第2噴射量とを含む。設定部は、副噴射が終了した後に副噴射により噴射された燃料が燃焼室の壁面に到達するとともに、燃焼室の壁面に到達するときに燃料の噴霧の先端の速度が副噴射の終了に起因する低下状態になるように第2噴射量を設定する。
【0009】
このようにすると、燃焼室の壁面に到達するときに燃料の噴霧の先端の速度が副噴射の終了に起因する低下状態になるため、壁面に衝突した燃料が壁面に沿って大きく拡がることが抑制され、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制することができる。
【0010】
ある実施の形態においては、設定部は、燃焼室の壁面における燃料の噴霧の先端の速度がしきい値以下になるように第2噴射量を設定する。
【0011】
このようにすると、壁面に衝突した燃料が壁面に沿って大きく拡がることを抑制して、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制することができる。
【0012】
さらにある実施の形態においては、設定部は、設定された第2噴射量を用いて第1噴射量を設定する。
【0013】
このようにすると、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制しつつ、要求トルクを満たすことができる。
【0014】
さらにある実施の形態においては、制御部は、副噴射を主噴射よりも後に複数回行なう。
【0015】
このようにすると、主噴射由来の冷却損失をさらに低減しつつ、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制することができるため、燃費の向上が図れる。
【発明の効果】
【0016】
この発明によると、副噴射由来の冷却損失を考慮して副噴射の最適な噴射量を設定するエンジンの制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態に係るエンジンの構成の一例を示す図である。
図2】主噴射と副噴射とを説明するための図である。
図3】主噴射後の副噴射が行なわれない場合の噴射された燃料の状態の一例を説明するための図である。
図4】主噴射後の副噴射が行なわれる場合の噴射された燃料の状態の一例を説明するための図である。
図5】制御装置で実行される処理の一例を示すフローチャートである。
図6】噴霧の先端速度の時間変化の一例を示す図である。
図7】冷却損失と副噴射量との関係を示す図である。
図8】複数の噴射量の各々に対応する壁面における先端速度をプロットした図である。
図9】各種冷却損失と副噴射量との関係を示す図である。
図10】熱効率と副噴射量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0019】
図1は、本実施の形態に係るエンジン1の構成の一例を示す図である。エンジン1は、たとえば、ディーゼルエンジンを代表例とする筒内噴射方式の内燃機関である。エンジン1は、たとえば、車両等の移動体に動力源として搭載される。
【0020】
図1に示すように、エンジン1は、気筒2と、ピストン4と、燃料噴射装置10と、吸気バルブ12と、排気バルブ14と、吸気通路16と、排気通路18と、コモンレール20と、制御装置100と、噴射圧センサ102と、過給圧センサ104と、アクセル開度センサ106とを備える。
【0021】
気筒2は、エンジン1のシリンダブロックに形成される。気筒2は、エンジン1のシリンダブロックに複数個形成されてもよい。気筒2内には、ピストン4が摺動可能に収納される。気筒2の頂部3には、吸気通路16の一方端部と、排気通路18の一方端部とが接続される。気筒2の頂部3とピストン4の上面と気筒2の側面の内壁とによって燃焼室6が形成される。燃焼室6において、気筒2内に供給された空気と燃料との混合気が燃焼する。空気は、吸気通路16の他方端部である吸気口(図示せず)から流通し、燃料は、燃料噴射装置10によって気筒2内に直接噴射される。ピストン4の上面には、凹部5が形成されている。
【0022】
燃料噴射装置10は、気筒2の頂部3に設けられ、先端が気筒2内に突出するように設けられる。燃料噴射装置10は、制御装置100からの制御信号に基づいて燃料を噴射する動作を行なう。燃料噴射装置10は、ピストン4の上面の凹部5の壁面に向けて燃料を噴射する。
【0023】
燃料噴射装置10は、たとえば、噴孔が形成されたボディと、ボディ内部に設けられ、噴孔を開閉するニードルとを有するインジェクタによって構成される。燃料噴射装置10は、コモンレール20を介して燃料ポンプおよび燃料タンク(いずれも図示せず)に接続される。燃料ポンプは、制御装置100からの制御信号に応じて燃料タンク12内の燃料をコモンレール20内に圧送する。制御装置100は、コモンレール20内の燃料の圧力が所定の圧力になるように燃料ポンプを制御する。燃料噴射装置10は、制御装置100からの制御信号に応じてニードルが動作して、噴孔を開状態(すなわち、噴孔とコモンレール20とを連通状態)にすることによってコモンレール20内の燃料を気筒2内の燃焼室6に供給する。
【0024】
制御装置100は、たとえば、エンジン1の運転状態や要求出力に基づいて燃料噴射装置10において1サイクル中に噴射される燃料噴射量を決定する。制御装置100は、決定された燃料噴射量に対応する制御指令値を生成し、生成された制御指令値を用いて燃料噴射装置10を制御する。制御指令値は、たとえば、燃料噴射装置10からの燃料の噴射期間(より具体的には、噴孔が開状態となる期間)を示す値である。
【0025】
気筒2の頂部3と吸気通路16の一方端部との接続部分には、吸気バルブ12が設けられる。吸気バルブ12は、出力軸であるクランク軸(図示せず)の回転に同期して回転する吸気用カムを用いて1サイクル中の期間のうちの所定期間(たとえば、吸気行程)に開状態になり、その他の期間に閉状態になるように動作する。吸気口から吸入された空気は、吸気バルブ12が開状態であるときに気筒2に流通する。
【0026】
ピストン4は、コネクティングロッド(図示せず)を介してエンジン1の出力軸であるクランク軸に連結されている。ピストン4が上死点(TDC:Top Dead Center)に到達するクランク軸の回転角度(以下、クランク角とも記載する)を含む所定のクランク角度区間において燃料噴射装置10を用いて噴射動作が行なわれると、燃焼室6内に形成される空気と燃料との混合気は、圧縮行程において圧縮され、自着火により燃焼する。そして、膨張行程において、混合気の燃焼によって生じる燃焼圧(圧力波)によってピストン4が押し下げられるようにピストン4が動作する。ピストン4の上下動作は、クランク軸において回転動作に変換されることによって、ピストン4に作用する燃焼圧が出力トルクとしてクランク軸に作用してクランク軸が回転する。
【0027】
気筒2と排気通路18の一方端部との接続部分には、排気バルブ14が接続される。排気バルブ14は、クランク軸の回転に同期して回転する排気用カムを用いて1サイクル中の期間のうちの所定期間(たとえば、排気行程)に開状態になり、その他の期間に閉状態になるように動作する。気筒2の燃焼室6内で燃焼した気体は、排気バルブ14が開状態であるときに排気として排気通路18に排出される。
【0028】
排気通路18には、排気処理装置(図示せず)が設けられる。排気処理装置により排気に含まれる所定の成分(たとえば、窒素酸化物等)が浄化される。排気通路18を流通する排気は、排気処理装置を経由して排気通路18の他方端部から外部に排出される。
【0029】
吸気通路16と排気通路18とには、ターボチャージャー(図示せず)が設けられる。ターボチャージャーは、吸気通路16に設けられるコンプレッサと、排気通路18に設けられるタービン(いずれも図示せず)とを含む。コンプレッサには、回転自在に支持されるコンプレッサブレードが設けられる。タービンには、コンプレッサブレードにシャフトを介して連結され、回転自在に支持されるタービンブレードが設けられる。そのため、気筒2から排気通路18にあるタービンに供給される排気エネルギーによってタービンブレードが回転させられると、シャフトを介してコンプレッサブレードが回転し、吸入空気がコンプレッサにおいて圧縮される。このようにして圧縮(過給)された吸入空気は、インタークーラ(図示せず)において冷却されて吸気通路16から気筒2に供給される。
【0030】
制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入力ポートおよび出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。CPUは、各種処理を実行する。メモリは、CPUが実行する各種処理を示すプログラムおよび各種処理の実行時に用いられるデータを記憶するROM(Read Only Memory)と、CPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)とを含む。入力ポートおよび出力ポートを介して、制御装置100と、制御装置100の外部の機器との情報のやり取りが行なわれる。入力ポートには、噴射圧センサ102と、過給圧センサ104と、アクセル開度センサ106とが接続される。
【0031】
噴射圧センサ102は、燃料噴射装置10により噴射される燃料圧力(以下、噴射圧と記載する)Pfを検出する。噴射圧センサ102は、検出した噴射圧Pfを示す信号を制御装置100に送信する。
【0032】
過給圧センサ104は、気筒2に供給される吸気の圧力(以下、過給圧と記載する)Ptを検出する。過給圧センサ104は、検出した過給圧Ptを示す信号を制御装置100に送信する。
【0033】
アクセル開度センサ106は、アクセルペダル(図示せず)の踏込量(以下、アクセル開度とも記載する)Aacを検出する。アクセル開度センサ106は、検出したアクセル開度Aacを示す信号を制御装置100に送信する。
【0034】
出力ポートには、制御対象となる各種電気機器(たとえば、燃料噴射装置10)が接続される。すなわち、制御装置100は、入力ポートに接続された各種センサから信号を受信し、受信した信号に基づく各種処理結果に従って制御信号を制御対象となる各種電気機器に送信して各種電気機器を制御する。
【0035】
本実施の形態おいて制御装置100は、設定部122と、噴射制御部124とを機能ブロックとして含む。設定部122と噴射制御部124とは、ソフトウェアとして構成されてもよいし、ハードウェアとして構成されてもよい。
【0036】
設定部122は、入力ポートからの各種信号に基づいてエンジン1に要求される要求トルクを取得し、取得された要求トルクを用いて1サイクルにおいて気筒2に噴射される燃料噴射量を設定する。
【0037】
噴射制御部124は、設定された燃料噴射量が気筒2に噴射されるように燃料噴射装置10を制御する。
【0038】
以上のような構成を有するエンジン1の燃料噴射装置10においては、燃費の改善や煤の低減を目的として、燃料の主噴射と、主噴射の前後で行なわれる副噴射とに分割して燃料噴射が行なわれる。
【0039】
図2は、主噴射と副噴射とを説明するための図である。図2の横軸は、クランク角CAを示す。図2の縦軸は、燃料噴射装置10の動作状態であるか非動作状態であるか(すなわち、噴孔が開弁状態であるか否か)を示す。制御装置100は、たとえば、TDC前において行なわれる主噴射よりも前に行なわれる副噴射(以下、パイロット噴射と記載する)と、主噴射と、主噴射の後に行なわれる副噴射との各々の噴射期間を設定する。制御装置100は、設定された噴射期間に沿って設定された噴射期間に噴射動作が行なわれるように燃料噴射装置10を制御する。
【0040】
図2には、TDCよりも前のクランク角CA(0)からCA(1)までの第1区間においてパイロット噴射が行なわれる例が示される。さらに、図2には、TDCよりも後のクランク角CA(2)からCA(3)までの第2区間において、主噴射が行なわれる例が示される。さらに、図2には、クランク角CA(5)からCA(6)までの第3区間において、主噴射の後の副噴射が行なわれる例が示される。さらに、図2には、主噴射後の副噴射が行なわれない場合に、クランク角CA(2)からCA(4)までの第4区間において、主噴射が行なわれる例が示される。なお、第4区間における第3区間よりも長い区間(すなわち、クランク角CA(3)からCA(4)までの区間)においては破線で示される。
【0041】
図2に示すように、主噴射と、主噴射後の副噴射とに燃料を分割して噴射することによって、主噴射後の副噴射が行なわれない場合と比較して、主噴射で噴射される燃料量が低減されるので、主噴射で噴射された燃料が燃焼室6の壁面に接触することにより生じる主噴射由来の冷却損失が低減されるため、燃費の改善が図られる。
【0042】
図3は、主噴射後の副噴射が行なわれない場合の噴射された燃料の状態の一例を説明するための図である。図4は、主噴射後の副噴射が行なわれる場合の噴射された燃料の状態の一例を説明するための図である。
【0043】
図3のR1は、主噴射後の副噴射が行なわれない場合において、主噴射により噴射された燃料の拡散領域の一例を示す。図3に示すように、主噴射により噴射された燃料は、凹部5の壁面に衝突し、壁面に沿って広がり、図3のR1に示す拡散領域が形成される。
【0044】
これに対して、図4のR2は、主噴射後の副噴射が行なわれる場合において、主噴射により噴射された燃料の拡散領域の一例を示す。さらに、図4のR3は、主噴射後に副噴射が行なわれる場合において、副噴射により噴射された燃料の拡散領域の一例を示す。
【0045】
図4に示すように、副噴射が行なわれない場合の主噴射による燃料の拡散領域R1(破線)と比較して、主噴射による燃料の噴射量が少なくなるため、図4のR2に示すように、凹部5の壁面に接触する面積が少なくなる。その結果、主噴射由来の冷却損失が低減されるため、燃費の改善が図られる。
【0046】
そのため、エンジン1において燃費の改善を行なうために、この副噴射の噴射量を多くすることによって主噴射由来の冷却損失がより低減するため、燃費の向上が図れる。
【0047】
しかしながら、副噴射の噴射量が多くなると副噴射による噴霧貫徹力が大きくなり、燃焼室の壁面に衝突する速度が大きくなる。その結果、副噴射による燃料が燃焼室の壁面に沿って拡がることから、副噴射由来の冷却損失が大きくなり、燃料噴射全体における冷却損失が増加し、燃費が悪化する場合がある。そのため、副噴射由来の冷却損失を考慮して副噴射の最適な噴射量を設定することが求められる。
【0048】
そこで、本実施の形態においては、制御装置100(より具体的には、設定部122)は、副噴射が終了した後に副噴射により噴射された燃料が燃焼室6の壁面に到達するとともに、燃焼室6の壁面に到達するときに燃料の噴霧の先端の速度が副噴射の終了に起因する低下状態になるように副噴射の噴射量を設定するものとする。
【0049】
このようにすると、燃焼室6の壁面に到達するときに燃料の噴霧の先端の速度が副噴射の終了に起因する低下状態になるため、壁面に衝突した燃料が壁面に沿って大きく拡がることが抑制され、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制することができる。
【0050】
以下、図5を参照して、制御装置100で実行される、制御処理の一例について説明する。図5は、制御装置100で実行される処理の一例を示すフローチャートである。制御装置100は、図5のフローチャートに示される処理を所定時間が経過する毎に実行する。
【0051】
ステップ(以下、ステップをSと記載する)100にて、制御装置100(すなわち、設定部122)は、エンジン1において要求されるトルク(以下、要求トルクと記載する)を取得する。制御装置100は、たとえば、アクセル開度センサ106によって検出されるアクセル開度Aacを用いて要求トルクを設定してもよいし、あるいは、アクセル開度Aacを用いてエンジン1において要求されるパワーを設定し、現在の移動速度で除算して算出される値を要求トルクとして設定してもよい。
【0052】
S102にて、制御装置100は、噴射圧Pfと過給圧Ptとを取得する。制御装置100は、たとえば、噴射圧センサ102による検出結果を用いて噴射圧Pfを取得する。さらに、制御装置100は、過給圧センサ104による検出結果を用いて過給圧Ptを取得する。
【0053】
S104にて、制御装置100は、主噴射後の副噴射の噴射量(以下、副噴射量とも記載する)を設定する。制御装置100は、たとえば、噴射圧Pfと過給圧Ptとを用いて噴射された燃料の噴霧の先端が燃焼室6の壁面に到達するまでの時間(以下、到達時間と記載する)を算出する。
【0054】
たとえば、噴射された燃料の噴霧の先端が燃焼室6の壁面に到達するまで噴射が継続された場合を想定すると、噴射が開始されてから燃料が液滴に分裂して噴霧化する分裂時間tbまでにおいては、たとえば、以下の式(1)の関係式(たとえば、新井,Proc.ICLASS 2015)が成立する。
【0055】
S=Kv×(2×ΔP/ρl)0.5×t・・・(1)
ここで、Sは、燃料の先端の到達距離を示し、Kvは、速度推定係数を示し、ΔPは、噴射圧Pfと過給圧Ptとの差分(Pf-Pt)を示し、ρlは、燃料密度を示し、tは、時間を示す。
【0056】
さらに、分裂時間tb以降においては、たとえば、以下の式(2)および式(3)の関係式が成立する。
【0057】
S=Kp×(Dn)0.5×(ΔP/ρa)0.25×t0.5・・・(2)
tb=Kbt×ρl×Dn/(ΔP×ρa)0.5・・・(3)
ここで、Sは、噴霧化した燃料の先端の到達距離を示し、Kpは、噴霧の貫徹力の評価係数を示し、Dnは、噴孔径を示し、ρaは、気筒2内のガス密度を示し、Kbtは、分裂時間の評価係数を示す。
【0058】
そのため、分裂時間tbから燃焼室6の壁面までの到達時間tspは、以下の式(4)の関係式(たとえば、稲垣,自動車技術会論文集,Vol.38,No.5,2017)により算出可能となる。
【0059】
tsp=(R/Kp)×Dn×(ρa/ΔP)0.5・・・(4)
ここで、Rは、燃料噴射装置10から燃焼室6の壁面までの長さを示す。燃焼室6の壁面は、燃料噴射装置10からの燃料の噴射方向にある燃焼室6の壁面(具体的には、ピストン4の上面の凹部5の壁面)を示す。各種係数Kv,Kp,Kbtは、実験的あるいは設計的に適合されて設定される予め定められた値である。
【0060】
制御装置100は、到達時間tsp以内で噴射可能な複数の噴射量を設定する。制御装置100は、たとえば、到達時間tsp以内で噴射可能な複数の噴射量の各々に対応する、燃料が壁面に到達するときの燃料の噴霧の先端の速度(以下、先端速度と記載する)Vを算出する。
【0061】
制御装置100は、噴射終了の時点までにおいては、たとえば、上述の式(1)および式(2)におけるSを時間微分することによって先端速度Vを算出する。一方、制御装置100は、噴射終了の時点以降においては、以下の式(5)の式を用いて先端速度Vを算出する。
【0062】
V=Vinj/((ψ×(t-tinj)×Vinj+1)・・・(5)
injは、噴射終了時点の先端速度を示し、tinjは、噴射期間を示し、φは、以下の式(6)を用いて算出される。
【0063】
φ=ρa×As×Cd/(2×M)・・・(6)
Asは、噴霧投影面積を示し、Cdは、抵抗係数を示し、Mは、噴霧質量を示す。噴霧投影面積Asおよび抵抗係数Cdは、実験的あるいは設計的に適合されて設定される予め定められた値である。さらに制御装置100は、たとえば、噴射された燃料の体積と燃料密度ρlとから噴霧質量Mを算出する。制御装置100は、設定された複数の噴射量の各々先端速度Vの時間変化を算出する。
【0064】
制御装置100は、複数の噴射量の各々に対応する壁面における複数の先端速度のうちのしきい値V(0)以下となる先端速度に対応する噴射量を特定する。しきい値V(0)は、予め定められた値であって、実験的あるいは設計的に適合されて設定される値である。なお、制御装置100は、特定された噴射量が複数ある場合には、それらの噴射量のうちの燃費改善効果の高い噴射量を主噴射後の副噴射量として設定する。
【0065】
図6は、噴霧の先端速度の時間変化の一例を示す図である。図6の縦軸は、先端速度を示す。図6の横軸は、時間を示す。図6のLN1(細線)は、副噴射量がA(n)である場合の先端速度の変化の一例を示す。図6のLN2(破線)は、副噴射量がA(n+1)(>A(n))である場合の先端速度の変化の一例を示す。図6のLN3(太線)は、副噴射量がA(n+2)(>A(n+1))である場合の先端速度の変化の一例を示す。A(n+1)とA(n)との差分およびA(n+2)とA(n+1)との差分は同じものとする。図6中の「X」は、燃焼室6内で燃料が噴射された場合に燃料の噴霧の先端が燃焼室6の壁面に接触した時点を示しており、当該時点以降の変化は、壁面がない場合を想定したときの上述の式(5)に従って算出される先端速度の変化が示されている。
【0066】
図6のLN1に示すように、副噴射量がA(n)の場合、先端速度は、時間が経過するとともに低下していき、副噴射が終了すると、時間t(0)における先端速度を変曲点として時間t(0)以降に急激に低下していく。これは噴霧元から噴霧先端に向けて噴霧を拡大させる力が噴射の動作が停止されることで弱まるためである。すなわち、先端速度は、変曲点以降に、副噴射の終了に起因する低下状態になる。そして、時間t(4)にて、燃料の噴霧の先端が燃焼室6の壁面に接触する。
【0067】
図6のLN2に示すように、副噴射量がA(n+1)の場合、先端速度は、図6のLN1と同様に、時間が経過するとともに低下していき、副噴射が終了すると時間t(1)における先端速度を変曲点として時間t(1)以降に急激に低下し、副噴射の終了に起因する低下状態になる。このとき、副噴射量がA(n+1)の場合は、噴射量がA(n)の場合よりも噴射期間が長いため、時間t(1)は、時間t(0)よりも後の時点となる。そして、時間t(3)にて、燃料の噴霧の先端が燃焼室6の壁面に接触する。副噴射の噴射量がA(n+1)の場合は、噴射量がA(n)の場合よりも先端速度が高い時間を有するため、時間t(3)は、時間t(4)よりも前の時点となる。
【0068】
図6のLN3に示すように、副噴射の噴射量がA(n+2)の場合、先端速度は、図6のLN1およびLN2と同様に、時間が経過するとともに低下していく。そして、副噴射の噴射量がA(n+2)の場合は、噴射量がA(n+1)の場合よりも噴射期間が長いため、副噴射が終了する時点よりも前の時間t(2)にて、燃料の噴霧の先端が燃焼室6の壁面に接触する。
【0069】
制御装置100は、たとえば、複数の噴射量A(n),A(n+1),A(n+2)の各々に対応する壁面における複数の先端速度のうちのしきい値V(0)以下となる先端速度に対応する噴射量A(n)を副噴射の噴射量として設定する。なお、図6においては、説明の便宜上、噴射量A(n),A(n+1),A(n+2)の3つの壁面における先端速度からしきい値V(0)以下となる噴射量を特定する場合を一例として説明したが、壁面における先端速度の算出対象となる噴射量の個数は、3つに限定されるものではなく、4つ以上の噴射量に対応する壁面における先端速度を算出してもよい。複数の噴射量は、たとえば、A(n)=A0+ΔA×nの式で設定されてもよい。A0およびΔAは、予め定められた値である。
【0070】
制御装置100は、たとえば、しきい値V(0)以下となる先端速度に対応する噴射量が複数個ある場合には、そのうちの最も多い噴射量を副噴射量として設定する。
【0071】
図7は、冷却損失と副噴射量との関係を示す図である。図7のLN4は、副噴射量の変化に対する気筒2に対する1回の燃料噴射による全体の冷却損失の変化を示す。
【0072】
図7に示すように、副噴射量が増加するほど全体の冷却損失が低下する。そのため、しきい値V(0)以下となる先端速度に対応する噴射量が複数個ある場合には、そのうちの最も多い噴射量が副噴射の噴射量として設定されることによって、冷却損失を低下させることが可能となる。
【0073】
図5に戻って、S106にて、制御装置100は、主噴射量を設定する。制御装置100は、たとえば、要求トルクを満たすように主噴射量を設定する。制御装置100は、たとえば、要求トルクと燃料噴射量との関係を示すマップと、要求トルクとを用いて気筒2に対する燃料噴射量を設定し、設定された燃料噴射量からパイロット噴射に相当する噴射量とS104にて設定された副噴射量とを減算した値を主噴射量として設定してもよい。要求トルクと燃料噴射量との関係を示すマップは、たとえば、要求トルクを満たしつつ、パイロット噴射等のトルクの発生に寄与しない燃料噴射量を含むように実験等によって適合され、予め設定されて制御装置100のメモリに記憶される。
【0074】
S108にて、制御装置100(すなわち、噴射制御部124)は、噴射制御を実行する。具体的には、制御装置100は、図示しないクランク角センサを用いてクランク角を検出し、検出したクランク角に応じて燃料噴射装置10を用いて燃料の噴射を行なう。制御装置100は、たとえば、第1タイミング(クランク角)でパイロット噴射を実行し、その後の第2タイミングで主噴射を実行し、さらにその後の第3タイミングで副噴射を実行する。なお、制御装置100は、たとえば、エンジン1の運転状態に応じて第1タイミング、第2タイミングおよび第3タイミングを設定する。
【0075】
以上のような構造およびフローチャートに基づく制御装置100の動作について説明する。
【0076】
エンジン1の動作中においては、アクセル開度Aacおよび移動速度に基づいて要求トルクが取得される(S100)。要求トルクが取得されると、噴射圧センサ102および過給圧センサ104を用いて噴射圧Pfと過給圧Ptとが取得される(S102)。
【0077】
取得された噴射圧Pfと過給圧Ptとを用いて副噴射として噴射され得る複数の噴射量の各々の燃料が噴射された場合に燃料が壁面に到達するときの先端速度が算出される。
【0078】
図8は、複数の噴射量の各々に対応する壁面における先端速度をプロットした図である。図8の縦軸は、先端速度Vを示す。図8の横軸は、噴射量を示す。各噴射量に対応する燃料が壁面に到達するときの先端速度の算出結果が図8のプロットとして示されている。
【0079】
算出された先端速度のうちのしきい値V(0)以下となる噴射量が特定され、特定された噴射量のうちの最も大きい噴射量(図8においては噴射量A(n))が副噴射量として設定される(S104)。そして、設定された副噴射量を用いて主噴射量が設定され(S106)、噴射制御が実行される(S108)。
【0080】
以上のようにして、本実施の形態に係るエンジンの制御装置によると、燃焼室6の壁面(ピストン4の上面の凹部の壁面)に到達するときに燃料の噴霧の先端の速度が副噴射の終了に起因する低下状態になるため、壁面に衝突した燃料が壁面に沿って大きく拡がることが抑制され、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制することができる。
【0081】
図9は、各種冷却損失と副噴射量との関係を示す図である。図9の縦軸は、冷却損失を示す。図9のLN6は、副噴射量の変化に対する気筒2に対する1回の燃料噴射による全体の冷却損失の変化を示す。図9のLN7は、副噴射量の変化に対する1回の燃料噴射における主噴射由来の冷却損失の変化を示す。図9のLN8は、副噴射量の変化に対する1回の燃料噴射における副噴射由来の冷却損失の変化を示す。
【0082】
副噴射量が多いほど、図9のLN8に示すように、副噴射由来の冷却損失が増加するものの、図9のLN7に示すように、副噴射由来の冷却損失の増加分以上に主噴射由来の冷却損失が減少する。その結果、図9のLN6に示すように、全体の冷却損失は減少する。
【0083】
一方、副噴射量が多くなり、噴射された燃料が終了する前に燃料の噴霧の先端に到達する噴射量になると、副噴射由来の冷却損失の増加分が主噴射由来の冷却損失の減少を超えて、全体の冷却損失が増加することになる。
【0084】
そのため、上述したように、燃料が燃焼室6の壁面に到達するときに燃料の噴霧の先端速度がしきい値V(0)よりも低く、かつ、最も大きい噴射量を副噴射量として設定するようにすると、全体の冷却損失が極小となる値付近の噴射量を副噴射量として設定することができる。そのため、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制しつつ、全体の冷却損失を低減し、燃費の向上が図れる。
【0085】
したがって、副噴射由来の冷却損失を考慮して副噴射の最適な噴射量を設定するエンジンの制御装置を提供することができる。
【0086】
さらに、設定された副噴射の噴射量を用いて主噴射の噴射量を設定するようにすると、副噴射由来の冷却損失の増加を抑制しつつ、要求トルクを満たす主噴射の噴射量を設定することができる。
【0087】
以下、変形例について記載する。
上述の実施の形態では、制御装置100は、噴射圧Pfと過給圧Ptとから各噴射量における先端速度を、上述の式を用いて算出するものとして説明したが、たとえば、噴射圧Pfと、過給圧Ptと、副噴射量との関係を示すマップを予め設定しておき、噴射圧センサ102を用いて検出された噴射圧Pfと、過給圧センサ104を用いて検出された過給圧Ptと、マップとから副噴射量を設定するようにしてもよい。マップは、先端速度がしきい値V(0)以下となり、かつ、選択可能な噴射量のうちの最も大きな噴射量となる副噴射量と、噴射圧Pfと、過給圧Ptとの関係を示すマップであって、実験等により設定され、予めメモリに記憶されるようにしてもよい。
【0088】
さらに上述の実施の形態では、制御装置100は、先端速度がしきい値V(0)以下となり、かつ、選択可能な噴射量のうちの最も大きな噴射量を副噴射量として設定するものとして説明したが、選択可能な噴射量のうちの最も熱効率が高い噴射量を副噴射量として設定してもよい。
【0089】
図10は、熱効率と副噴射量との関係を示す図である。図10の縦軸は、熱効率を示す。図10の横軸は、副噴射量を示す。
【0090】
図10に示すように、副噴射量がゼロである場合から副噴射量が多くなるほど熱効率は、上昇していく。そして、副噴射量がA1であるときに極大値E(0)となり、副噴射量がA1よりも多くなるほど熱効率は低下していく。
【0091】
そのため、制御装置100は、先端速度がしきい値V(0)以下となり、かつ、選択可能な噴射量のうちのA1に近い噴射量を副噴射量として設定してもよい。なお、A1は、予め定められた値であってもよいし、あるいは、エンジン1の運転状態に応じて設定される値であってもよい。
【0092】
さらに上述の実施の形態では、制御装置100は、主噴射よりも後に燃費の向上を図るための副噴射を1回実行するものとして説明したが、このような副噴射を2回以上実行してもよい。このようにすると、さらに燃費の改善が図れる。
【0093】
なお、上記した変形例は、その全部または一部を組み合わせて実施してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0094】
1 エンジン、2 気筒、3 頂部、4 ピストン、5 凹部、6 燃焼室、10 燃料噴射装置、12 吸気バルブ、14 排気バルブ、16 吸気通路、18 排気通路、20 コモンレール、100 制御装置、102 噴射圧センサ、104 過給圧センサ、106 アクセル開度センサ、122 設定部、124 噴射制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10