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特開2022-120447塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120447
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】塩化ビニル系樹脂組成物及び塩化ビニル系樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220810BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220810BHJP
   C08K 5/58 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C08L27/06
C08K5/098
C08K5/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017350
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平田 空
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 翔司
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB032
4J002BD041
4J002BD051
4J002DE238
4J002EG027
4J002EG057
4J002EZ046
4J002EZ066
4J002FD018
4J002FD036
4J002FD037
4J002FD040
4J002FD050
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD172
4J002FD200
4J002GG01
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】加熱成形時の熱安定性を高めることができ、金属の表面の腐食を抑制することができ、かつ、得られる成形体の耐熱性を高めることができる塩化ビニル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、有機錫系安定剤と、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩とを含み、塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、前記塩化ビニル系樹脂の含有量が、80重量%以上99重量%以下であり、前記有機錫系安定剤の含有量が、0.1重量%以上2.5重量%以下であり、かつ、前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量が、0.1重量%以上2.0重量%以下であり、塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量が、0.08重量%以上0.5重量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂と、有機錫系安定剤と、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩とを含む塩化ビニル系樹脂組成物であり、
前記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、前記塩化ビニル系樹脂の含有量が、80重量%以上99重量%以下であり、前記有機錫系安定剤の含有量が、0.1重量%以上2.5重量%以下であり、かつ、前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量が、0.1重量%以上2.0重量%以下であり、
前記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量が、0.08重量%以上0.5重量%以下である、塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩におけるナトリウム数が、2であり、
前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩における炭素数が、4以上16以下である、請求項1に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩が、アジピン酸二ナトリウムである、請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機錫系安定剤が、錫メルカプト系安定剤である、請求項1~3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
無機充填材を含まないか、又は、前記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、無機充填材を15重量%以下の含有量で含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
射出成形用塩化ビニル系樹脂組成物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の塩化ビニル系樹脂組成物の成形体である、塩化ビニル系樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を含む塩化ビニル系樹脂組成物に関する。また、本発明は、上記塩化ビニル系樹脂組成物を用いた塩化ビニル系樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は、機械的強度、耐候性、耐熱性及び耐薬品性に優れている。このため、上記塩化ビニル系樹脂は、パイプ、板及び容器等の各種の成形体に加工されており、多くの分野で使用されている。
【0003】
しかしながら、塩化ビニル系樹脂を用いて成形体を得る場合に、塩化ビニル系樹脂の熱安定性が低く、加熱成形時に塩化水素が脱離することにより熱分解が発生しやすいため、安定的な成形が困難な場合がある。結果として、得られる成形体の機械的強度が低下したり、成形体が変色したりすることがある。
【0004】
また、塩化ビニル系樹脂の熱安定性を高めるために、塩化ビニル系樹脂とともに熱安定剤が用いられることがある。上記熱安定剤として、錫系安定剤、鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、及びバリウム-カドミウム系安定剤等が知られている。
【0005】
特許文献1には、塩化ビニル系共重合体と、23℃で液状の有機錫化合物とを含む塩化ビニル系樹脂組成物が開示されている。上記塩化ビニル系樹脂組成物に含まれる上記塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニルモノマーと、ポリアルキレングリコール基を有し、かつ片末端にアルキルエーテル骨格又は片末端にアリルエーテル骨格を有する第2のモノマーとの共重合体である。上記塩化ビニル系樹脂組成物では、上記塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、上記有機錫化合物の含有量が3重量部以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-165868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、有機錫化合物によって、塩化ビニル系樹脂の分解を抑制し、塩化ビニル系樹脂組成物の熱安定性をある程度高めることができる。
【0008】
しかしながら、有機錫化合物のみでは、加熱成形時に発生する塩化水素を十分に捕捉することができず、塩化ビニル系樹脂組成物の熱安定性が不十分であるという課題がある。また、該塩化水素により金型などの金属の表面が腐食することがある。結果として、塩化ビニル系樹脂組成物を用いた成形体の長期的な生産が困難であるという課題がある。さらに、有機錫系安定剤は、液状の物質であることが多いため、有機錫系安定剤の添加量によっては塩化ビニル系樹脂成形体の耐熱性が低下することがある。
【0009】
本発明の目的は、加熱成形時の熱安定性を高めることができ、金属の表面の腐食を抑制することができ、かつ、得られる成形体の耐熱性を高めることができる塩化ビニル系樹脂組成物を提供することである。また、本発明の目的は、上記塩化ビニル系樹脂組成物を用いた塩化ビニル系樹脂成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の広い局面によれば、塩化ビニル系樹脂と、有機錫系安定剤と、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩とを含む塩化ビニル系樹脂組成物であり、前記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、前記塩化ビニル系樹脂の含有量が、80重量%以上99重量%以下であり、前記有機錫系安定剤の含有量が、0.1重量%以上2.5重量%以下であり、かつ、前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量が、0.1重量%以上2.0重量%以下であり、前記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量が、0.08重量%以上0.5重量%以下である、塩化ビニル系樹脂組成物が提供される。
【0011】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物のある特定の局面では、前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩におけるナトリウム数が2であり、前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩における炭素数が、4以上16以下である。
【0012】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物のある特定の局面では、前記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩が、アジピン酸二ナトリウムである。
【0013】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物のある特定の局面では、前記有機錫系安定剤が、錫メルカプト系安定剤である。
【0014】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物のある特定の局面では、前記塩化ビニル系樹脂組成物は、無機充填材を含まないか、又は、前記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、無機充填材を15重量%以下の含有量で含む。
【0015】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物のある特定の局面では、前記塩化ビニル系樹脂組成物は、射出成形用塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0016】
本発明の広い局面によれば、上述した塩化ビニル系樹脂組成物の成形体である、塩化ビニル系樹脂成形体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、有機錫系安定剤と、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩とを含む。本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記塩化ビニル系樹脂の含有量が80重量%以上99重量%以下であり、上記有機錫系安定剤の含有量が0.1重量%以上2.5重量%以下であり、かつ、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量が0.1重量%以上2.0重量%以下である。本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量が0.08重量%以上0.5重量%以下である。本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、上記の構成が備えられているので、加熱成形時の熱安定性を高めることができ、金属の表面の腐食を抑制することができ、かつ、得られる成形体の耐熱性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
(塩化ビニル系樹脂組成物)
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂と、有機錫系安定剤と、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩とを含む。本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記塩化ビニル系樹脂の含有量が、80重量%以上99重量%以下であり、上記有機錫系安定剤の含有量が、0.1重量%以上2.5重量%以下であり、かつ、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量が、0.1重量%以上2.0重量%以下である。本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量が、0.08重量%以上0.5重量%以下である。
【0020】
従来の塩化ビニル系樹脂組成物では、熱安定性が不十分であるという課題がある。また、塩化水素により金型などの金属の表面が腐食されることがあり、結果として、長期的な生産が困難であるという課題がある。さらに、有機錫系安定剤の添加量によっては塩化ビニル系樹脂組成物の耐熱性が低下することがある。
【0021】
本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、上述した構成が備えられているので、加熱成形時の熱安定性を高めることができる。結果として、得られる成形体の機械的強度を高め、成形体の変色を防ぐことができる。また、本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、金属の表面の腐食を抑制することができる。例えば、塩化ビニル系樹脂組成物の成形に用いる金型の表面の腐食を抑制することができる。結果として、塩化ビニル系樹脂成形体を長期的に生産することができる。さらに、塩化ビニル系樹脂組成物及び得られる塩化ビニル系樹脂成形体が金属に接したときに、金属の腐食を抑制することができる。さらに、本発明に係る塩化ビニル系樹脂組成物では、得られる成形体の耐熱性を高めることができる。
【0022】
上記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂成形体を得るために好適に用いられる。上記塩化ビニル系樹脂組成物は、射出型塩化ビニル系樹脂成形体を得るために好適に用いられる。上記塩化ビニル系樹脂組成物は、射出成形されることが好ましい。上記塩化ビニル系樹脂組成物は、射出成形用塩化ビニル系樹脂組成物であることが好ましい。
【0023】
以下、上記塩化ビニル系樹脂組成物に含まれる各成分等について説明する。
【0024】
<塩化ビニル系樹脂>
上記塩化ビニル系樹脂は、塩素原子を有する。上記塩化ビニル系樹脂は、塩素化塩化ビニル系樹脂であってもよく、塩素化されていない塩化ビニル系樹脂であってもよい。耐熱性を良好にする観点からは、上記塩化ビニル系樹脂は、塩素化塩化ビニル系樹脂であることが好ましい。上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂が塩素化された樹脂である。上記塩化ビニル系樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルモノマーの単独重合体、塩化ビニルモノマーと塩化ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0026】
上記塩化ビニルモノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及びビニルエーテル等のビニルエステル;アクリロニトリル等のシアノ基含有化合物;塩化ビニリデン、及びフッ化ビニル等のハロゲン化合物;エチレン、及びプロピレン等のオレフィン;イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸等のカルボキシル基含有化合物;無水マレイン酸等の非芳香族カルボン酸無水物;メタアクリル酸メチル、及びメタアクリル酸エチル等のアクリル酸エステル;並びにマレイミド等のイミド化合物等が挙げられる。上記ビニルモノマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0027】
上記塩化ビニルモノマーの重合方法、又は上記塩化ビニルモノマーと上記ビニルモノマーとの重合方法は特に限定されない。上記重合方法としては、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、及び沈殿重合法等が挙げられる。塩化ビニル系樹脂を効率的に得る観点からは、上記重合方法は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法又は沈殿重合法であることが好ましい。
【0028】
上記塩素化塩化ビニル系樹脂は、上記塩化ビニルモノマー、又は上記塩化ビニルモノマーと上記ビニルモノマーとを重合させて塩化ビニル系樹脂を得た後、該塩化ビニル系樹脂を塩素化することにより得られることが好ましい。
【0029】
上記塩化ビニル系樹脂の塩素化の方法は特に限定されない。上記塩化ビニル系樹脂の塩素化の方法としては、塩化ビニル系樹脂を水性溶媒中に入れて懸濁液を得た後、塩素を添加して該塩化ビニル系樹脂と塩素とを反応させる方法等が挙げられる。この塩素化反応は、加熱条件下又は光照射条件下により進行する。
【0030】
得られる塩素化塩化ビニル系樹脂の熱安定性を高める観点からは、上記塩素化反応は加熱条件下で行われることが好ましい。
【0031】
塩素化反応の効率を高める観点からは、上記加熱時の温度は、好ましくは80℃以上であり、好ましくは140℃以下である。
【0032】
上記塩化ビニル系樹脂の塩素含有率は、好ましくは56.8重量%以上、好ましくは72重量%以下である。上記塩化ビニル系樹脂の塩素含有率は、上記塩化ビニル系樹脂100重量%中の塩素原子の含有率である。上記塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が上記下限以上であると、得られる成形体の耐熱性をより一層高めることができる。上記塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が上記上限以下であると、成形性を良好にすることができ、得られる成形体の耐衝撃性及び表面平滑性を高めることができる。
【0033】
上記塩化ビニル系樹脂が塩素化塩化ビニル系樹脂である場合に、上記塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率は、好ましくは56.8重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは61.5重量%以上であり、好ましくは72重量%以下、より好ましくは67.5重量%以下である。上記塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が上記下限以上であると、得られる成形体の耐熱性をより一層高めることができる。上記塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が上記上限以下であると、成形性を良好にすることができ、得られる成形体の耐衝撃性及び表面平滑性を高めることができる。
【0034】
上記塩化ビニル系樹脂の塩素含有率(塩化ビニル系樹脂が塩素化塩化ビニル系樹脂である場合には、塩素化塩化ビニル系樹脂の塩素含有率)は、JIS K7229に準拠して、電位差滴定法にて求めることができる。
【0035】
上記塩化ビニル系樹脂の重合度は、好ましくは500以上、より好ましくは600以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1200以下である。上記重合度が上記下限以上であると、成形体の機械的強度を高めることができる。上記重合度が上記上限以下であると、成形時の温度を高温にする必要がなくなり、成形性を良好にすることができる。
【0036】
上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記塩化ビニル系樹脂の含有量は、80重量%以上99重量%以下である。上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記塩化ビニル系樹脂の含有量は、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは92重量%以上であり、好ましくは98.5重量%以下、より好ましくは98重量%以下、さらに好ましくは97重量%以下である。上記塩化ビニル系樹脂の含有量が上記下限以上であると、得られる成形体の接着強度及び機械的強度を高めることができる。上記塩化ビニル系樹脂の含有量が上記上限以下であると、成形時の温度を高温にする必要がなくなり、成形性を良好にすることができる。
【0037】
上記塩化ビニル系樹脂組成物に含まれる塩化ビニル系樹脂は粒子であることが好ましい。粒子である塩化ビニル系樹脂の体積平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上であり、好ましくは500μm以下である。上記体積平均粒子径が上記下限以上であると、取扱い性を高めることができる。上記体積平均粒子径が上記上限以下であると、成形性を良好にすることができる。
【0038】
上記塩化ビニル系樹脂の体積平均粒子径は、体積基準で測定される平均径であり、50%となるメディアン径(D50)の値である。上記体積平均粒子径は、レーザ回折・散乱法等により測定可能である。
【0039】
<有機錫系安定剤>
上記塩化ビニル系樹脂組成物は、有機錫系安定剤を含む。上記有機錫系安定剤は、塩化ビニル系樹脂の分解を抑制し、また、塩化ビニル系樹脂の分解時に発生する塩化水素を捕捉する。
【0040】
上記有機錫系安定剤は、有機錫系熱安定剤であることが好ましい。
【0041】
上記有機錫系安定剤としては、錫メルカプト系安定剤、錫マレート系安定剤、錫カルボキシレート系安定剤等が挙げられる。上記錫メルカプト系安定剤としては、モノアルキル錫メルカプト、ジアルキル錫メルカプト、モノアルキル錫メルカプトポリマー、ジアルキル錫メルカプトポリマー、モノアルキル錫メルカプトサルファイド、ジアルキル錫メルカプトサルファイド等が挙げられる。上記錫マレート系安定剤としては、モノアルキル錫マレート、ジアルキル錫マレート、モノアルキル錫マレートポリマー、ジアルキル錫マレートポリマー等が挙げられる。上記錫カルボキシレート系安定剤としては、モノアルキル錫カルボキシレート、ジアルキル錫カルボキシレート等が挙げられる。上記有機錫系安定剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
加熱成形時の熱安定性をより一層良好にし、得られる成形体の初期着色を防止する観点からは、上記有機錫系安定剤は、錫メルカプト系安定剤であることが好ましく、ジアルキル錫メルカプトであることが好ましく、ジオクチル錫メルカプトであることがより好ましい。
【0043】
上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記有機錫系安定剤の含有量は、0.1重量%以上2.5重量%以下である。上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記有機錫系安定剤の含有量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.8重量%以上、さらに好ましくは1.0重量%以上であり、好ましくは2.4重量%以下、より好ましくは2.2重量%以下、さらに好ましくは2.0重量%以下である。上記有機錫系安定剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、熱安定性をより一層効果的に高め、得られる成形体の耐熱性をより一層高めることができる。
【0044】
上記塩化ビニル系樹脂組成物中の上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記有機錫系安定剤の含有量は、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは0.8重量部以上、さらに好ましくは1.0重量部以上であり、好ましくは2.4重量部以下、より好ましくは2.2重量部以下、さらに好ましくは2.0重量部以下である。上記有機錫系安定剤の含有量が、上記下限以上及び上記上限以下であると、熱安定性をより一層効果的に高め、得られる成形体の耐熱性をより一層高めることができる。
【0045】
上記塩化ビニル系樹脂組成物は、上記有機錫系安定剤以外の安定剤を含んでいてもよい。上記有機錫系以外の安定剤としては、鉛系安定剤、カルシウム-亜鉛系安定剤、バリウム-亜鉛系安定剤、及びバリウム-カドミウム系安定剤等が挙げられる。上記鉛系安定剤としては、三塩基性硫酸鉛、四塩基性硫酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、及び塩基性亜硫酸亜燐酸等が挙げられる。
【0046】
<脂肪族カルボン酸のナトリウム塩>
上記塩化ビニル系樹脂組成物は、脂肪族カルボン酸のナトリウム塩を含む。上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩は、ナトリウムを含む。具体的には、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩は、少なくとも1つのナトリウムを含む。上記脂肪族カルボン酸における脂肪族カルボン酸は、モノカルボン酸であってもよく、多価カルボン酸であってもよい。上記多価カルボン酸は、ニ価カルボン酸であってもよい。
【0047】
上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩は、塩化ビニル系樹脂の分解時に発生する塩化水素をナトリウムにより中和することで、塩化水素により金型等の金属の表面が腐食することを抑制する。結果として、塩化ビニル系樹脂成形体を長期的に生産することができる。
【0048】
上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩としては、アジピン酸二ナトリウム、セバシン酸二ナトリウム、アゼライン酸二ナトリウム、スベリン酸二ナトリウム、及びピメリン酸二ナトリウム等が挙げられる。上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0049】
金属の表面の腐食をより一層効果的に抑制する観点からは、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩におけるナトリウム数は、複数であることが好ましく、2であることがより好ましい。上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩におけるナトリウム数は、5以下であってもよく、4以下であってもよく、3以下であってもよい。
【0050】
加熱成形時の熱安定性をより一層良好にする観点からは、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩における炭素数は、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上であり、好ましくは16以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下である。
【0051】
上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の分散を良好にし、本発明の効果をより一層効果的に発揮するする観点からは、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩におけるCOONa基の数が2であり、かつ、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩における炭素数が6以上16以下であることが好ましい。加熱成形時の熱安定性をより一層良好にする観点からは、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩は、炭素数が2以上14以下の鎖式炭化水素骨格を有することが好ましい。
【0052】
上記の好ましい態様を有する脂肪族カルボン酸のナトリウム塩としては、アジピン酸二ナトリウム、セバシン酸二ナトリウム、アゼライン酸二ナトリウム、スベリン酸二ナトリウム、及びピメリン酸二ナトリウム等が挙げられる。金属の表面の腐食をより一層効果的に抑制し、加熱成形時の熱安定性をより一層良好にする観点からは、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩は、アジピン酸二ナトリウムであることが特に好ましい。
【0053】
上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量は、0.1重量%以上2.0重量%以下である。金属の表面の腐食をより一層効果的に抑制する観点からは、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量は、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上、さらに好ましくは1.0重量%以上であり、好ましくは1.8重量%以下、より好ましくは1.6重量%以下、さらに好ましくは1.5重量%以下である。
【0054】
金属の表面の腐食をより一層効果的に抑制する観点からは、上記塩化ビニル系樹脂組成物中の上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩の含有量は、好ましくは0.3重量部以上、より好ましくは0.7重量部以上、さらに好ましくは1.0重量部以上であり、好ましくは1.8重量部以下、より好ましくは1.6重量部以下、さらに好ましくは1.5重量部以下である。
【0055】
上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量は、0.08重量%以上0.5重量%以下である。金属の表面の腐食をより一層効果的に抑制する観点からは、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、ナトリウムの含有量は、好ましくは0.10重量%以上、より好ましくは0.15重量%以上、さらに好ましくは0.20重量%以上であり、好ましくは0.45重量%以下、より好ましくは0.40重量%以下、さらに好ましくは0.35重量%以下である。また、樹脂組成物中のナトリウムの含有量は、ICP発光分析、ICP質量分析、蛍光X線分析装置等を用いて測定することができる。
【0056】
なお、上記塩化ビニル系樹脂組成物は、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩以外のナトリウムを含む化合物(以下化合物(A)と記載することがある)を含んでいてもよい。上記塩化ビニル系樹脂組成物では、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩以外の化合物がナトリウムを含んでいてもよい。
【0057】
上記塩化ビニル系樹脂組成物に含まれるナトリウムが、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩に由来するナトリウムのみである場合を、場合(1)とする。上記場合(1)では、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中のナトリウムの含有量は、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩に由来するナトリウムの含有量を示す。上記塩化ビニル系樹脂組成物に含まれるナトリウムが、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩に由来するナトリウムと、上記化合物(A)に由来するナトリウムとの双方である場合を、場合(2)とする。上記場合(2)では、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中のナトリウムの含有量は、上記脂肪族カルボン酸のナトリウム塩に由来するナトリウムの含有量と上記化合物(A)に由来するナトリウムの含有量との合計を示す。
【0058】
<無機充填材>
上記塩化ビニル系樹脂組成物は、無機充填材を含まないか、又は、無機充填材を含む。上記塩化ビニル系樹脂組成物は、無機充填材を含んでいなくてもよく、無機充填材を含んでいてもよい。
【0059】
上記無機充填材としては、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、クレー、マイカ、ウォラストナイト、ゼオライト、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、炭化水素、及び金属繊維等が挙げられる。上記塩化ビニル系樹脂組成物及び得られる成形体の外観を良好にし、得られる成形体の機械的強度を高める観点からは、上記無機充填材は、炭酸カルシウムであることが好ましい。上記無機充填材は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
上記無機充填材は、無機粒子であることが好ましい。上記無機充填剤のアスペクト比は、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.2以下である。
【0061】
上記塩化ビニル系樹脂組成物が上記無機充填材を含む場合に、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、上記無機充填材の含有量は、好ましくは2重量%以上、より好ましくは4重量%以上であり、好ましくは30重量%以下、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下である。上記無機充填材の含有量が上記下限以上であると、得られる成形体の機械的強度を高めることができる。上記無機充填材の含有量が上記上限以下であると、上記塩化ビニル系樹脂組成物及び得られる成形体の外観を良好にすることができる。なお、上記無機充填剤の含有量は、0重量%(未使用)であってもよい。上記塩化ビニル系樹脂組成物は、無機充填材を含まないか、又は、上記塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中、無機充填材を15重量%以下で含むことが特に好ましい。
【0062】
上記塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、上記無機充填材の含有量は好ましくは2重量部以上、より好ましくは4重量部以上であり、好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下、さらに好ましくは15重量部以下である。上記無機充填材の含有量が上記下限以上であると、得られる成形体の機械的強度を高めることができる。上記無機充填材の含有量が上記上限以下であると、上記塩化ビニル系樹脂組成物及び得られる成形体の外観を良好にすることができる。なお、上記無機充填剤の含有量は、0重量%(未使用)であってもよい。
【0063】
上記無機充填材の粒子径は、好ましくは10nm以上であり、好ましくは3μm以下である。上記無機充填材の粒子径は、平均粒子径であることが好ましく、数平均粒子径であることが好ましい。上記無機充填材の粒子径は、例えば、任意の無機充填材50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、各無機充填材の粒子径の平均値を算出することや、粒度分布測定装置を用いて求められる。電子顕微鏡又は光学顕微鏡での観察では、1個当たりの無機充填材の粒子径は、円相当径での粒子径として求められる。電子顕微鏡又は光学顕微鏡での観察において、任意の50個の無機充填材の円相当径での平均粒子径は、球相当径での平均粒子径とほぼ等しくなる。粒度分布測定装置では、1個当たりの無機充填材の粒子径は、球相当径での粒子径として求められる。上記無機充填材の平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて算出することが好ましい。
【0064】
<他の成分>
上記塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて、各種の添加剤を用いてもよい。上記添加剤としては、熱安定化助剤、滑剤、加工助剤、衝撃改質剤、耐熱向上剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、充填剤、顔料、難燃剤及び可塑剤等が挙げられる。上記添加剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0065】
上記熱安定化助剤としては特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、リン酸エステル、ポリオール、ハイドロタルサイト、及びゼオライト等が挙げられる。上記熱安定化助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0066】
上記滑剤としては、内部滑剤、及び外部滑剤が挙げられる。上記内部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂の流動粘度を下げ、摩擦発熱を防止する目的で使用される。上記内部滑剤としては特に限定されず、ブチルステアレート、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、エポキシ大豆油、グリセリンモノステアレート、ステアリン酸、及びビスアミド等が挙げられる。上記外部滑剤は、成形加工時の溶融樹脂と金属面との滑り効果を上げる目的で使用される。上記外部滑剤としては特に限定されず、パラフィンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス、及びモンタン酸ワックス等が挙げられる。上記滑剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0067】
上記加工助剤としては特に限定されず、アクリル系加工助剤等が挙げられる。上記アクリル系加工助剤としては、重量平均分子量が10万~200万であるアルキルアクリレート-アルキルメタクリレート共重合体等が挙げられ、具体的には、n-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート共重合体、及び2-エチルヘキシルアクリレート-メチルメタクリレート-ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。上記加工助剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0068】
上記衝撃改質剤としては特に限定されず、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、塩素化ポリエチレン、及びアクリルゴム等が挙げられる。上記衝撃改質剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0069】
上記耐熱向上剤としては特に限定されず、α-メチルスチレン系、及びN-フェニルマレイミド系樹脂等が挙げられる。上記耐熱向上剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0070】
上記酸化防止剤としては特に限定されず、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。上記酸化防止剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0071】
上記紫外線吸収剤としては特に限定されず、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、及びシアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。上記紫外線吸収剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0072】
上記光安定剤としては特に限定されず、ヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。上記光安定剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0073】
上記充填剤としては特に限定されず、炭酸カルシウム、及びタルクなどが挙げられる。上記充填剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0074】
上記顔料としては特に限定されず、有機顔料及び無機顔料が挙げられる。上記有機顔料としては、アゾ系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料、スレン系有機顔料、及び染料レーキ系有機顔料等が挙げられる。上記無機顔料としては、酸化物系無機顔料、クロム酸モリブデン系無機顔料、硫化物・セレン化物系無機顔料、及びフェロシアニン化物系無機顔料等が挙げられる。透明性をより一層高める観点からは、上記塩化ビニル系樹脂組成物は、上記顔料を含まないことが好ましい。
【0075】
上記可塑剤は、成形時の加工性を高める目的で添加されていてもよい。可塑剤の添加により成形品の耐熱性が低下することがあるため、可塑剤の添加量は少ない方が好ましい。上記可塑剤としては特に限定されず、ジブチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、及びジ-2-エチルヘキシルアジペート等が挙げられる。上記可塑剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0076】
(塩化ビニル系樹脂成形体)
上記塩化ビニル系樹脂成形体は、上記塩化ビニル系樹脂組成物を用いて形成される。上記塩化ビニル系樹脂組成物は、上記塩化ビニル系樹脂成形体を得るために用いることができる。上記塩化ビニル系樹脂成形体は、上記塩化ビニル系樹脂組成物を成形することにより得られる。上記塩化ビニル系樹脂成形体は、上記塩化ビニル系樹脂組成物の成形体である。
【0077】
上記塩化ビニル系樹脂成形体としては特に限定されず、例えば、パイプ、板及び容器等が挙げられる。上記塩化ビニル系樹脂成形体は、板状であることが好ましく、平板状であることが好ましい。上記塩化ビニル系樹脂成形体は、板状には、シート状及びフィルム状が含まれる。
【0078】
上記塩化ビニル系樹脂組成物の成形方法としては特に限定されず、例えば、押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法及びプレス成形法等が挙げられる。金属の表面の腐食をより一層効果的に抑制する観点からは、上記塩化ビニル系樹脂組成物の成型方法は、滞留時間の長い射出成形法であることが好ましい。
【0079】
上記塩化ビニル系樹脂成形体は、射出成形体であることが好ましい。
【0080】
成形に用いる成形機としては特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸異方向パラレル押出機、二軸異方向コニカル押出機、及び二軸同方向押出機等が挙げられる。上記成形機を用いて成形するとき、賦形する金型、樹脂温度等は、特に限定されない。
【0081】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0082】
以下の材料を用意した。
【0083】
(塩化ビニル系樹脂)
塩化ビニル系樹脂(徳山積水工業社製「TS-1000R」、塩素含有率56.8重量%、重合度1000)
【0084】
(有機錫系安定剤)
ジオクチル錫メルカプト(日東化成工業社製「TVS#8940」)
【0085】
(脂肪族カルボン酸のナトリウム塩)
A(アジピン酸二ナトリウム、TCI社製、ナトリウム数:2、炭素数:6)
B(ミリスチン酸ナトリウム、TCI社製、ナトリウム数:1、炭素数:14)
【0086】
(無機充填材)
炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「ホワイトンSB」)
【0087】
(滑剤)
ポリエチレンワックス(三井石油化学工業社製「ハイワックス220RKT」)
【0088】
(実施例1~7、及び比較例1~7)
配合成分の種類及び配合量を下記の表1,2に示すようにして、ヘンシェルミキサー(川田工業社製)に添加し、5分間混合して、塩化ビニル系樹脂組成物を得た。得られた塩化ビニル系樹脂組成物を、以下の条件で混錬して、厚み1.0mmのシートを得た。
【0089】
[条件]
ロール:安田製機製作所社製 ミキシングロール
ロール温度:190℃
ロール時間:3分(巻きつき後)
【0090】
(評価)
(1)熱安定性
得られたシートを、長さ30mm×幅30mmに切り出して、試験用サンプルAを得た。試験用サンプルAをギヤオーブン(エスペック社製)に入れ、槽内温度が190℃となるように加熱した。試験用サンプルAの黒変の有無を目視にて確認し、黒変が始まるまでの時間を10分間隔で測定した。熱安定性を以下の基準で判定した。
【0091】
[熱安定性の判定基準]
〇○:黒変が始まるまで100分を超える
〇:黒変が始まるまで80分を超え100分以下
×:黒変が始まるまで80分以下
【0092】
(2)金属の腐食抑制性
得られたシートを、以下の条件でプレスした。
【0093】
[条件]
プレス:東邦マシナリー社製 熱プレス成形機(プレス面の材質:SUS304)
プレス温度:200℃
プレス時間:予熱3分+加圧10分
プレス圧力:150kgf/cm
プレスサイズ:厚み3.0mm×長さ200mm×幅200mm
【0094】
プレス後に、熱プレス成形機のプレス面を目視で観察した。プレス面(金型)において、塩酸による腐食が発生しているか否かを、以下の基準で判定した。
【0095】
[金属の腐食抑制性]
○:プレス面が白変していない(腐食していない)
×:プレス面が白変している(腐食している)
【0096】
(3)成形体の耐熱性
得られたシートを、以下の条件でプレスした。
【0097】
[条件]
プレス:東邦マシナリー社製 熱プレス成形機
プレス温度:200℃
プレス時間:予熱3分+加圧2分
プレス圧力:150kgf/cm
プレスサイズ:厚み3.0mm×長さ200mm×幅200mm
【0098】
プレス後に、長さ30mm×幅30mmに切り出して、試験用サンプルB(成形体)を得た。試験用サンプルBについて、JIS K7206に準拠して、ビカット軟化温度を測定した。試験用サンプルB(成形体)の耐熱性を、以下の基準で判定した。
【0099】
[成形体の耐熱性]
○○:ビカット軟化温度が82℃以上
○:ビカット軟化温度が79℃以上82℃未満
×:ビカット軟化温度が79℃未満
【0100】
配合組成及び結果を下記の表1,2に示す。表1,2中、「重量%」で表される含有量は、塩化ビニル系樹脂組成物100重量%中での含有量を示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】