IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特開2022-120454電動アシスト車に対する制御装置及び電動アシスト車
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120454
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】電動アシスト車に対する制御装置及び電動アシスト車
(51)【国際特許分類】
   B62M 6/45 20100101AFI20220810BHJP
   B62K 5/10 20130101ALI20220810BHJP
   B62J 45/412 20200101ALI20220810BHJP
   B62J 45/413 20200101ALI20220810BHJP
   B62J 45/421 20200101ALI20220810BHJP
【FI】
B62M6/45
B62K5/10
B62J45/412
B62J45/413
B62J45/421
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017360
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼岡 太一
(72)【発明者】
【氏名】白川 弘和
(72)【発明者】
【氏名】保坂 康夫
【テーマコード(参考)】
3D011
【Fターム(参考)】
3D011AA02
3D011AA04
3D011AA05
3D011AA06
3D011AD11
3D011AD19
(57)【要約】
【課題】3輪以上の電動アシスト車において、その車体の傾斜制限及びその解除を自動的に行う。
【解決手段】本制御装置は、(A)前輪と後輪で3以上の車輪を有する電動アシスト車に備えられるペダルの回転状態を検出する検出部と、(B)電動アシスト車の車体の傾斜制限を行うか又は当該傾斜制限を解除する機構に対して、検出部により検出されたペダルの回転状態に基づき、車体の傾斜制限と当該傾斜制限の解除とを切り替えさせる指示を行う制御部とを有する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪で3以上の車輪を有する電動アシスト車に備えられるペダルの回転状態を検出する検出部と、
前記電動アシスト車の車体の傾斜制限を行うか又は当該傾斜制限を解除する機構に対して、前記検出部により検出された前記ペダルの回転状態に基づき、前記車体の傾斜制限と当該傾斜制限の解除とを切り替える指示を行う制御部と、
を有する制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ペダルの回転状態が、前記ペダルが逆回転中であることを示している場合に、前記機構に対して、前記車体の傾斜制限を行うように指示する
請求項1記載の制御装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記ペダルが逆回転中であることを、逆方向におけるペダル回転角度又ペダル回転速度に基づき検出する
請求項2記載の制御装置。
【請求項4】
前記検出部は、さらに前記電動アシスト車の車速を検出し、
前記制御部は、前記検出部により検出された前記車速が一定値以下で且つ前記ペダルの回転状態が逆回転中であることを示している場合に、前記機構に対して、前記車体の傾斜制限を行うように指示する
請求項1記載の制御装置。
【請求項5】
前記一定値が、前記ペダルを正回転させている場合における前記傾斜制限の解除のための前記車速の閾値より大きい値である
請求項4記載の制御装置。
【請求項6】
前記検出部は、さらに前記電動アシスト車の車速を検出し、
前記制御部は、
前記検出部により検出された前記車速が、前記車体の傾斜制限を行わせるための第1の閾値を超えており且つ前記傾斜制限の解除のための第2の閾値未満であって、且つ、前記ペダルの正回転が所定の条件を満たす場合に、前記機構に対して、前記傾斜制限の解除を行うように指示する
請求項1記載の制御装置。
【請求項7】
前記所定の条件が、
前記ペダルの回転位置が、1又は複数回、下死点に達したことを検出したこと、
前記ペダルの回転位相角が、1又は複数の所定位相角を経たこと、又は、
前記ペダルの回転継続時間が、一定時間以上となったこと、
である請求項6記載の制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記電動アシスト車に逆回転の駆動を指示するためのスイッチがオンになったことを検出すると、前記機構に対して、前記車体の傾斜制限を行うように指示する
請求項1乃至7のいずれかに記載の制御装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つに記載された制御装置を有し、
前輪と後輪で3以上の車輪を有する電動アシスト車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3輪以上の電動アシスト車における車体の傾斜を制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、少なくとも一対の車輪を有しつつ車体を傾斜させて旋回可能で、かつ、車体の傾斜制限またはその解除を自動的に行うことができる鞍乗型車両が開示されている。具体的には、鞍乗型車両は、一対の車輪を車体に対して上下動可能に支持する支持機構と、支持機構に接続して一対の車輪の上下動を制限する傾斜制限機構と、スロットル開度センサと、車速センサと、ブレーキセンサと、これらのセンサの検出結果に基づいて傾斜制限機構を制御する制御部とを備えている。このように、制御部は、上記センサによる検出結果に基づいて傾斜制限機構を自動的に制御するため、傾斜制限機構の動作に関して搭乗者は特別な操作をしなくてもよく、傾斜制限またはその解除を的確に行わせることができる、とされる。
【0003】
なお、車体を傾けるというのは、車体が地面におおよそ垂直に立つ状態から、進行方向から見て左側又は右側に傾けることである。また、車体の傾斜制限は、車体の少なくとも一部を、運転者が傾けようとしても、地面におおよそ垂直に立つ形に制限させることであり、傾斜制限の解除は、そのような制限を解除させることである。
【0004】
しかしながら、本特許文献は、3輪以上の電動アシスト車を対象としたものではなく、人力に応じた電動駆動を行う電動アシスト車では、どのような条件で、自動的に、人や荷物を載せる部分である車体の傾斜制限を行ったり、その傾斜制限を解除することが適切であるかは明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-286266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、一側面によれば、3輪以上の電動アシスト車において、その車体の傾斜制限及びその解除を自動的に行うための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る制御装置は、(A)前輪と後輪で3以上の車輪を有する電動アシスト車に備えられるペダルの回転状態を検出する検出部と、(B)電動アシスト車の車体の傾斜制限を行うか又は当該傾斜制限を解除する機構に対して、検出部により検出されたペダルの回転状態に基づき、車体の傾斜制限と当該傾斜制限の解除とを切り替える指示を行う制御部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
一側面によれば、3輪以上の電動アシスト車において、その車体の傾斜制限及びその解除をペダルの回転状態に基づき自動的に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態における電動アシスト自転車の外観を示す図である。
図2図2は、実施の形態における他の電動アシスト自転車の外観を示す図である。
図3図3は、2つの前輪を有する電動アシスト自転車の傾斜制限機構の一例を説明するための図である。
図4A図4Aは、傾斜制限機構の一例を説明するための図である。
図4B図4Bは、傾斜制限機構の一例を説明するための図である。
図4C図4Cは、傾斜制限機構の一例を説明するための図である。
図5図5(a)乃至(c)は、傾斜制限機構の一例による傾斜制限及びその解除による作用を説明するための図である。
図6図6は、2つの前輪を有する電動アシスト自転車の傾斜制限機構の他の例を説明するための図である。
図7A図7Aは、傾斜制限機構の他の例を説明するための図である。
図7B図7Bは、傾斜制限機構の他の例を説明するための図である。
図7C図7Cは、傾斜制限機構の他の例を説明するための図である。
図8図8は、2つの後輪を有する電動アシスト自転車の傾斜制限機構を説明するための図である。
図9図9(a)及び(b)は、2つの後輪を有する電動アシスト自転車の傾斜制限機構による傾斜制限及びその解除による作用を説明するための図である。
図10図10は、制御装置の構成例を示す図である。
図11図11は、演算部により実現される制御部の機能ブロック構成例を示す図である。
図12図12は、第1の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図13図13は、第2の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図14図14は、ペダル逆回転検出処理の一例の処理フローを示す図である。
図15図15は、ペダル逆回転検出処理の他の例の処理フローを示す図である。
図16図16は、第3の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図17図17は、進行方向とペダル回転方向の関係を説明するための図である。
図18図18(a)及び(b)は、ペダル回転位相角と入力トルクの時間変化の一例を示す図である。
図19図19は、第4の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図20図20は、第5の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図21図21は、操作パネルの一例を示す図である。
図22図22は、第6の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、電動アシスト車の一例である電動アシスト自転車の例をもって説明する。しかしながら、本発明の実施の形態は、電動アシスト自転車だけに適用対象を限定するものではなく、人力に応じて移動する移動体(例えば、台車など)のための制御装置についても適用可能である。
【0011】
[実施の形態1]
本発明の実施の形態では、2以上の前輪と1以上の後輪とを有する電動アシスト自転車や、1以上の前輪と2以上の後輪とを有する電動アシスト自転車を対象とする。例えば、図1に示すように、2つの前輪と1つの後輪とを有する電動アシスト自転車1aであっても、図2に示すように、1つの前輪と2つの後輪とを有する電動アシスト自転車1bであってもよい。
【0012】
図1に示した電動アシスト自転車1aは、傾斜制限機構と、制御装置102と、バッテリパック101と、トルクセンサ103と、ペダル回転センサ104と、モータ105と、操作パネル106と、ブレーキセンサ107とを有する。傾斜制限機構については、別図にて説明する。なお、図2に示した電動アシスト自転車1bについてもモータ105の個数が異なるが、その他は同様の構成を有する。
【0013】
バッテリパック101は、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル水素蓄電池などを含み、制御装置102を介してモータ105に対して電力を供給し、回生時には制御装置102を介してモータ105からの回生電力によって充電も行う。
【0014】
トルクセンサ103は、クランク軸周辺に取付けられたホイールに設けられており、運転者によるペダルの踏力を検出し、この検出結果を制御装置102に出力する。また、ペダル回転センサ104は、トルクセンサ103と同様に、クランク軸周辺に取付けられたホイールに設けられており、例えば回転に応じたパルス信号等を制御装置102に出力する。
【0015】
モータ105は、例えば周知の三相ブラシレスモータであり、例えば電動アシスト自転車1aの2つの前輪に装着されている。モータ105は、前輪を回転させるとともに、前輪の回転に応じてローターが回転するように、ローターが前輪に直接又は減速器などを介して連結されている。さらに、モータ105はホール素子等の回転センサを備えてローターの回転情報(例えばホール信号)を制御装置102に出力する。
【0016】
制御装置102は、モータ105の回転センサ、トルクセンサ103及びペダル回転センサ104等からの信号に基づき演算を行って、モータ105の駆動を制御し、モータ105による回生の制御も行う。なお、本実施の形態では、制御装置102は、傾斜制限機構の制御をも行うようになっている。
【0017】
操作パネル106は、例えばアシストの有無に関する指示入力(例えば電源スイッチのオン及びオフ)、アシスト有りの場合には希望アシスト比等の入力を運転者から受け付けて、当該指示入力等を制御装置102に出力する。また、操作パネル106は、制御装置102によって演算された結果である走行距離、走行時間、消費カロリー、回生電力量等のデータを表示する機能を有する場合もある。また、操作パネル106は、LED(Light Emitting Diode)などによる表示部を有している場合もある。これによって、例えばバッテリパック101の充電レベルや、オンオフの状態、希望アシスト比に対応するモードなどを運転者に提示する。後に述べる実施の形態では、モータ105に後退駆動を行うように指示するための後退スイッチをも有する。
【0018】
ブレーキセンサ107は、運転者のブレーキ操作を検出して、ブレーキ操作に関する信号を制御装置102に出力する。
【0019】
次に、傾斜制限機構について図3乃至図9を用いて説明する。図1に示した電動アシスト自転車1aの場合、例えば図3に模式的に示すように、前輪付近に傾斜制限機構108を設けて、制御装置102と電線1081とで接続する構成が採用される。なお、図3の例では、点線Aで囲まれた部分が、走行中に傾けることができるようになる。この電動アシスト自転車1aの傾斜制限機構108に関連する部分を前方から見ると、図4Aに示すように、運転者により把持されるハンドルを含み且つおおよそT字形のハンドル部1601と、前輪1605a及び1605bをそれぞれ挟持し且つおおよそ逆U字形の傾斜支持部1603との組み合わせとなっている。ここで図4Bに示すように、ハンドル部1601は、電線1081に接続されるソレノイド1613と、プランジャー(可動鉄心)1615とを有している。また、図4Cに示すように、傾斜支持部1603には、例えば直径1乃至2cmを有する半円から所定直径より小さい直径を有する半円を除去したような形状を有する板状物であり、小孔1611aを有するディスク1611が設けられている。
【0020】
この傾斜制限機構108は、例えば、ソレノイド1613、プランジャー1615、ディスク1611を含む。例えば、傾斜制限を解除する場合には、制御装置102は、ソレノイド1613に電線1081を介して通電させる。そうすると、プランジャー1615が吸引されて、ディスク1611の小孔1611aからプランジャー1615が外れて、車体に対する傾斜制限が解除される。一方、制御装置102によってソレノイド1613への通電が停止されると、プランジャー1615がソレノイド1613外側に押し出されて元に戻り、ディスク1611の小孔1611aにはまることで、車体の傾斜が制限されるようになる。なお、傾斜支持部1603には、傾斜が許容される最大角度が決まっており、運転者は、傾斜制限が解除されていれば、その最大角度までは任意の角度まで自由に傾けることができる。
【0021】
図5(a)乃至(c)は、電動アシスト自転車1aを前方から見た場合の模式図を示しているが、図5(a)に示すように車体の傾斜制限がなされていれば、ハンドル部1601、傾斜支持部1603、前輪1605a及び1605b、及び後輪1605cは傾けることができず、地面におおよそ垂直に立つ形になる。このように車体の傾斜制限は、運転者が傾けようとしても、図3で点線Aで示す範囲に含まれるハンドル部1601、傾斜支持部1603、前輪1605a及び1605b、及び後輪1605c等を、地面におおよそ垂直に立つ形に制限させることである。一方、図5(b)及び図5(c)に示すように、傾斜制限が解除されていれば、ハンドル部1601のハンドルを把持している運転者が意図して、図5(b)に示すような前輪方向を正面とした右側、又は、図5(c)に示すような前輪方向を正面とした左側に、自由にその許容範囲内において傾けることができるようになる。
【0022】
図3乃至図4Cで示した傾斜制限機構だけではなく、例えば図6乃至図7Cに示すような傾斜制限機構109を採用しても良い。図1に示した電動アシスト自転車1aの場合、例えば図6に模式的に示すように、傾斜制限機構109は、前輪付近に設けた主要構成1091と、主要構成1091に接続されたワイヤ1092と、ワイヤ1092を引っ張るモータ1093とを有する。なお、図6の例では、点線Bで囲まれた部分が、走行中に傾けることができるようになる。この電動アシスト自転車1aの傾斜制限機構109に関連する部分を前方から見ると、図7Aに示すように、運転者により把持されるハンドルを含み且つおおよそT字形のハンドル部1701と、前輪1705a及び1705bをそれぞれ挟持し且つおおよそ逆U字形の傾斜支持部1703との組み合わせとなっている。ここで、図7Bに示すように、ハンドル部1701には、パッドを有するディスクブレーキ1702が設けられている。また、図7Cに示すように、傾斜支持部1703には、例えば所定直径を有する半円から所定直径より小さい直径を有する半円を除去したような形状を有する板状物であるディスク1711が設けられている。主要構成1091は、ディスクブレーキ1702及びディスク1711を含む。
【0023】
例えば、傾斜制限を行う場合には、制御装置102は、モータ1093にワイヤ1902を引っ張らせる。これによって、ディスクブレーキ1702のパッドでディスク1711が挟まれてロック状態となり、車体の傾斜制限がなされる。一方、傾斜制限を解除する場合には、制御装置102は、モータ1093にワイヤ1902を引っ張るのを止めさせる。そうすると、ディスクブレーキ1702によりディスク1711のロック状態が解除されるので、車体の傾斜制限が解除される。なお、傾斜支持部1703には、傾斜が許容される最大角度が決まっており、運転者は、傾斜制限が解除されていれば、その最大角度までは任意の角度まで自由に傾けることができる。なお、図5を用いて説明したように、車体の傾斜制限がなされていれば、運転者は電動アシスト自転車1a全体を左右に傾けることはできないが、傾斜制限が解除されていれば、運転者は自由に電動アシスト自転車1a全体を左右に傾けることができるようになる。
【0024】
なお、図2に示すような2つの後輪を有する電動アシスト自転車1bの場合には、図8に模式的に示すように、前輪、ハンドル部、サドル、サドル支持部、バッテリ101及び制御装置102等を含む点線Cで囲まれた部分を傾けることができるように、傾斜制限機構110を点線C内の後輪寄りの部分に設ける。傾斜制限機構110の構成については、図3乃至図7Cを用いて説明したような構成を採用すればよい。図9(a)及び(b)に模式的に後方から見た図を示すが、図9(a)に示すように車体の傾斜制限がなされていれば、ハンドル部1801、サドル1802、サドル支持部1803及び前輪1805aは、左右に傾けることができない。一方、図9(b)に模式的に示すように、車体の傾斜制限がなされていなければ、ハンドル部1801、サドル1802、サドル支持部1803及び前輪1805aを、運転者の意思により右側又は左側に傾けることができるようになる。なお、傾斜制限の有無に拘わらず、後輪1805b及び1805cについては、左右に傾けることはできない。
【0025】
ここまで傾斜制限機構の構成例を説明したが、これらの構成に限定されるものでは無く、制御装置102からの指示によって、車体の傾斜制限を行ったり、解除できるような構成であればどのような構成であっても良い。例えば、図4Aに示す例では、傾斜支持部1603で2つの前輪を支持しているが、傾斜制限が解除されると、左右の前輪を支持する部分のうち、車体を傾ける側の支持部分の長さを短くすることができるようにして、車体の傾斜を可能にするような構成であっても良い。
【0026】
車体の傾斜制限を行わせることで、例えば低速走行時はバランスがとりやすくなる。一方で、例えば通常走行時に旋回したり、左又は右に曲がろうとすると遠心力等の影響が発生するため、無理に曲がろうとすると2輪のうちの一方が浮いてしまってバランスを崩す可能性がある。また、バランスを保ったまま走行しようとすると、走行時の旋回半径が大きくなってしまう。そのため、例えば通常走行時には、傾斜制限を解除することで、傾斜制限機構のない通常の2輪自転車と同様の感覚、すなわち車体を傾斜させて旋回する感覚で走行できるようになる。具体的には、旋回時でも車体が傾斜することでバランスが取れ、安定走行を行うことができる。また、旋回半径をあまり大きくせずにすむという利点もある。なお、バランスを保ってより安定走行するという観点では、車速に着目するだけでは必ずしも十分ではない。
【0027】
次に、制御装置102に関連する構成を図10に示す。制御装置102は、制御器1020と、FET(Field Effect Transistor)ブリッジ1030とを有する。FETブリッジ1030は、モータ105のU相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Suh)及びローサイドFET(Sul)と、モータ105のV相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)と、モータ105のW相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Swh)及びローサイドFET(Swl)とを含む。このFETブリッジ1030は、コンプリメンタリ型スイッチングアンプの一部を構成している。
【0028】
また、制御器1020は、演算部1021と、ペダル回転入力部1022と、モータ回転入力部1024と、可変遅延回路1025と、モータ駆動タイミング生成部1026と、トルク入力部1027と、ブレーキ入力部1028と、AD(Analog-Digital)入力部1029と、傾斜制限機構に対する指示部1023とを有する。
【0029】
演算部1021は、操作パネル106からの入力(例えばアシストのオン/オフなど。なお、他の実施の形態では後退スイッチのオン/オフなども含む)、ペダル回転入力部1022からの入力、モータ回転入力部1024からの入力、トルク入力部1027からの入力、ブレーキ入力部1028からの入力、AD入力部1029からの入力を用いて演算を行って、モータ駆動タイミング生成部1026及び可変遅延回路1025に対して出力を行う。なお、演算部1021は、メモリ10211を有しており、メモリ10211は、演算に用いる各種データ及び処理途中のデータ等を格納する。さらに、演算部1021は、プログラムをプロセッサが実行することによって実現される場合もあり、この場合には当該プログラムがメモリ10211に記録されている場合もある。また、メモリ10211は、演算部1021とは別に設けられる場合もある。
【0030】
ペダル回転入力部1022は、例えばペダル回転センサ104から信号から得られる、ペダルの回転位相角(クランクの回転位相角とも呼ぶ。なお、回転方向を表す信号を含む。)を、ディジタル化して演算部1021に出力する。モータ回転入力部1024は、モータ105が出力するホール信号からモータ105の回転(本実施の形態においては前輪の回転)に関する信号(例えば回転位相角、回転方向など)を、ディジタル化して演算部1021に出力する。トルク入力部1027は、トルクセンサ103からの踏力に相当する信号をディジタル化して演算部1021に出力する。ブレーキ入力部1028は、ブレーキセンサ107からのブレーキ有り又は無しを表す信号をディジタル化して演算部1021に出力する。AD入力部1029は、二次電池からの出力電圧をディジタル化して演算部1021に出力する。
【0031】
演算部1021は、演算結果として進角値を可変遅延回路1025に出力する。可変遅延回路1025は、演算部1021から受け取った進角値に基づきホール信号の位相を調整してモータ駆動タイミング生成部1026に出力する。演算部1021は、演算結果として例えばPWM(Pulse Width Modulation)のデューティー比に相当するPWMコードをモータ駆動タイミング生成部1026に出力する。モータ駆動タイミング生成部1026は、可変遅延回路1025からの調整後のホール信号と演算部1021からのPWMコードとに基づいて、FETブリッジ1030に含まれる各FETに対するスイッチング信号を生成して出力する。演算部1021の演算結果によって、モータ105は、力行駆動される場合もあれば、回生制御される場合もある。なお、モータ駆動の基本動作については、国際公開第2012/086459号パンフレット等に記載されており、本実施の形態の主要部ではないので、ここでは説明を省略する。
【0032】
本実施の形態では、演算部1021は、さらに、傾斜制限機構108等に対して、傾斜制限を行わせるのか、傾斜制限を解除するのかについての判断を行って、指示部1023に対して指示を行う。指示部1023は、演算部1021からの指示に応じて、傾斜制限機構108等に対して傾斜制限を行わせるための動作(例えばワイヤ1902をモータ1093に巻き上げさせたり、ソレノイド1613への通電を停止させる)、傾斜制限を解除させるための動作(例えばワイヤ1902の巻き上げをモータ1093に停止させたり、ソレノイド1613への通電を開始させる)のいずれかを実施させる。
【0033】
次に、図11に、演算部1021において実現される制御部3000に関連する機能ブロック構成例(本実施の形態に係る部分)を示す。本実施の形態に係る制御部3000は、検出部3100と、動作制御部3200とを有する。
【0034】
検出部3100は、ペダル回転入力部1022からのペダル回転のデータとモータ回転入力部1024からのモータ回転のデータとのうち少なくともいずれかを用いて、予め定められた状態の発生を検出する処理を行う。より具体的には、ペダルの回転方向を特定したり、モータ回転から車速の推定を行ったり、ペダル回転速度やペダル回転角度を特定したりする。なお、後の実施の形態では、トルク入力部1027からの入力トルクのデータに基づき、予め定められた状態の発生を検出する場合もある。動作制御部3200は、検出部3100により検出された状態に基づき、指示部1023に対して、傾斜制限を行わせる指示又は傾斜制限を解除させる指示を行う。なお、後の実施の形態では、動作制御部3200は、操作パネル106に設けられた後退スイッチのオン又はオフの信号に基づき、傾斜制限を行わせる指示又は傾斜制限を解除させる指示を行う場合もある。
【0035】
次に、制御部3000の動作について、図12を用いて説明する。なお、安全性確保のため、処理の開始前には、傾斜制限を指示した状態となっているものとする。また、ステップS1からステップS5までを制御周期毎に実施する。
【0036】
まず、検出部3100は、例えばモータ回転のデータから車速を算出して、車速が閾値TH1(例えば4km/h)以下であるか否かを判断する(ステップS1)。車速が閾値TH1以下であれば、検知部3100は、動作制御部3200に車速が閾値TH1以下であることを表す出力を行って、動作制御部3200は、この出力に応じて、傾斜制限の実施を、指示部1023に指示する(ステップS3)。制御部3000は、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であるか否かを判断し(ステップS5)、処理終了でなければ処理はステップS1に戻る。一方、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であれば、処理を終了する。
【0037】
一方、車速が閾値TH1を超えている場合には、検出部3100は、さらに車速が閾値TH2(例えば5km/h)以上となったか否かを判断する(ステップS7)。車速が閾値TH2以上となっている場合には、検出部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH2以上であることを表す出力を行って、動作制御部3200は、この出力に応じて、傾斜制限の解除を、指示部1023に指示する(ステップS9)。そして処理はステップS5に移行する。
【0038】
一方、車速が閾値TH2未満である場合、すなわち閾値TH1<車速<閾値TH2という関係が成り立つ場合には、現在の制御を維持する(ステップS11)。すなわち、傾斜制限を実施している場合には傾斜制限を実施したままにし、傾斜制限を解除しているのであれば傾斜制限を解除したままにする。なお、本ステップは、動作制御部3200は何もしないので、点線ブロックで表されている。
【0039】
本実施の形態では、閾値TH1<閾値TH2の関係があり、このような2つの閾値を用いることにより、車速が1つの閾値付近で上下して傾斜制限と傾斜制限の解除との間で頻繁に動作が切り替わるのを防止することができる。これにより、車体ががたつくなどの現象(チャタリング)の発生を抑制できるようになる。
【0040】
また、閾値TH2以上の車速で走行中であれば、安定走行中であると推定されるため、運転者の意思に応じて車体を傾斜させても安全が確保できるので、傾斜制限を解除している。一方、閾値TH1未満の車速で走行中であれば、低速で走行が不安定になりやすいので、車体の傾斜制限を行って、安全性を確保するものである。
【0041】
このように、本実施の形態では、車速に基づき、傾斜制限機構108等に対して、傾斜制限の解除又は傾斜制限の実施を切り替えるものである。
【0042】
[実施の形態2]
電動アシスト自転車1(電動アシスト自転車1a又は1b)では、通常あまり行うことがない、ペダルを逆回転させるような場面で車体を傾斜させると、バランスを崩して走行が不安定になりやすい。本実施の形態では、この点に着目する。
【0043】
本実施の形態に係る制御部3000の動作を、図13乃至図15を用いて説明する。なお、安全性確保のため、処理の開始前には、傾斜制限を指示した状態となっているものとする。また、ステップS21からステップS27までを制御周期毎に実施する。
【0044】
まず、検出部3100は、ペダルの逆回転を検出するための処理(ペダル逆回転検出処理)を実行する(図13:ステップS21)。この処理の一例を、図14を用いて説明する。なお、図14の処理フローの開始前の初期の検出状態は、逆回転中とする。初期の検出状態が正回転中であるとすると、直ぐに傾斜制限が解除されることになり、発進時に車体がふらついてしまうためである。
【0045】
検出部3100は、ペダル回転の情報から算出されるペダル回転速度が負の閾値TH11(例えば車速換算で-5km/h。但し、単に回転速度[rpm]についての閾値であっても良い。)以下であるか否かを判断する(ステップS31)。本実施の形態では、ペダルを正方向に回転させている場合(電動アシスト自転車1を前進させる方向にペダル回転させている場合)には正のペダル回転速度が得られ、逆方向に回転させている場合には負のペダル回転速度が得られるものとする。
【0046】
ペダル回転速度が負の閾値TH11以下であれば、検出部3100は、ペダルが逆回転中であると判断する(ステップS33)。そして呼び出し元の処理に戻る。一方、ペダル回転速度が負の閾値TH11を超えていれば、検出部3100は、ペダル回転速度が閾値TH11より大きい正の閾値TH12(例えば車速換算で1km/h)以上であるか否かを判断する(ステップS35)。この条件を満たしている場合には、検出部3100は、ペダルが逆回転中ではないと判断する(ステップS37)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0047】
一方、ペダル回転速度が閾値TH12未満である場合、すなわち閾値TH11<ペダル回転速度<閾値TH12という関係が成り立つ場合、検出部3100は、前検出状態を維持する(ステップS39)。すなわち、ペダルが逆回転中であると判断している場合にはペダルが逆回転中であるという判断を維持し、そうでなければペダルが逆回転中ではないという判断を維持する。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0048】
このようにすれば、ペダル回転速度が0付近でふらつく場合に、頻繁に判断結果が切り替わるのを防ぐことができる。
【0049】
図13の処理の説明に戻って、検出部3100は、ステップS21の検出結果としてペダルが逆回転中であるか否かを判断する(ステップS23)。ペダルが逆回転中であれば、検出部3100は、動作制御部3200に、ペダルが逆回転中であることを出力する。動作制御部3200は、この出力に応じて、指示部1023に対して、傾斜制限を実施するように指示する(ステップS25)。そして、制御部3000は、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であるか否かを判断し(ステップS27)、処理終了でなければ処理はステップS21に戻る。一方、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であれば、処理を終了する。
【0050】
一方、ステップS21の検出結果としてペダルが逆回転中ではないと判断した場合、検出部3100は、動作制御部3200に、ペダルが逆回転中ではないことを出力する。動作制御部3200は、この出力に応じて、指示部1023に対して、傾斜制限を解除するように指示する(ステップS29)。そして処理はステップS27に移行する。
【0051】
以上のような処理を実行することで、ペダルの逆回転を検出すると、傾斜制限を実施させることで、走行が不安定になることを防止できるようになる。
【0052】
なお、図14に代わって図15の処理を行うようにしても良い。なお、初期の検出状態は、逆回転中とする。
【0053】
検出部3100は、前回処理時のペダルの回転位相角(ペダルの回転位置とも呼ぶ)と今回処理時のペダルの回転位相角との差からペダルの回転角度を算出して、当該ペダルの回転角度が負の閾値TH31(例えば-180°)以下であるか否かを判断する(ステップS41)。本実施の形態では、ペダルを正方向に回転させている場合(電動アシスト自転車1を前進させる方向にペダル回転させている場合)にはペダルの正の回転角度が得られ、逆方向に回転させている場合にはペダルの負の回転角度が得られるものとする。
【0054】
ペダルの回転角度が負の閾値TH31以下であれば、検出部3100は、ペダルが逆回転中であると判断する(ステップS43)。そして呼び出し元の処理に戻る。一方、ペダルの回転角度が負の閾値TH31を超えていれば、検出部3100は、ペダルの回転角度が閾値TH31より大きい正の閾値TH32(例えば+90°)以上であるか否かを判断する(ステップS45)。この条件を満たしている場合には、検出部3100は、ペダルが逆回転中ではないと判断する(ステップS47)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0055】
一方、ペダルの回転角度が閾値TH32未満である場合、すなわち閾値TH31<ペダルの回転角度<閾値TH32という関係が成り立つ場合、検出部3100は、前検出状態を維持する(ステップS49)。すなわち、逆回転中を検出している場合には逆回転中を維持し、そうでなければ逆回転中ではないことを検出したものとする。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0056】
このようにペダルの回転角度を基にペダルが逆回転中であるか否かを判断しても良い。
【0057】
[実施の形態3]
より精緻な制御を行うために、車速及びペダル回転に基づき傾斜制限の実施と解除とを切り替えても良い。
【0058】
本実施の形態に係る制御部3000の動作について図16を用いて説明する。なお、安全性確保のため、処理の開始前には、傾斜制限を指示した状態となっているものとする。また、ステップS21からステップS27までを制御周期毎に実施する。
【0059】
まず、検出部3100は、ペダルの逆回転を検出するための処理(ペダル逆回転検出処理)を実行する(図16:ステップS51)。この処理は、例えば図14又は図15に示した処理である。
【0060】
そして、検出部3100は、ステップS51の検出結果としてペダルが逆回転中であるか否かを判断する(ステップS53)。ペダルが逆回転中であれば、検出部3100は、動作制御部3200に、ペダルが逆回転中であることを出力する。さらに、検出部3100は、車速が閾値TH41(例えば6km/h)以下であるか否かを判断する(ステップS55)。車速が閾値TH41以下であれば、検出部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH41以下であることを出力する。動作制御部3200は、この出力に応じて、指示部1023に対して、傾斜制限を実施するように指示する(ステップS57)。
【0061】
このように、ペダルが逆回転中である場合には、通常走行中であっても閾値TH41を超える車速でないと、走行が不安定になりやすいので、傾斜制限を実施するものである。
【0062】
その後、制御部3000は、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であるか否かを判断し(ステップS61)、処理終了でなければ処理はステップS51に戻る。一方、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であれば、処理を終了する。
【0063】
一方、車速が閾値TH41を超えている場合、検出部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH41を超えていることを出力するが、動作制御部3200は、傾斜制限について現在の制御を維持する(ステップS59)。このステップでは動作制御部3200は何もしないので、ステップS59は点線ブロックで表されている。閾値TH41を超える車速で走行していれば、ペダルの逆回転を行っていても安定走行できる可能性が高いので、傾斜制限が解除されているのであれば解除したままにし、傾斜制限が行われているのであれば傾斜制限したままにする。そして処理はステップS61に移行する。
【0064】
一方、ペダルが逆回転中ではない場合には、検出部3100は、車速が閾値TH42(例えば3km/h)以下であるか否かを判断する(ステップS63)。車速が閾値TH42以下であれば、検知部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH42以下であることを出力する。動作制御部3200は、この出力に応じて、傾斜制限を実施するように指示部1023に対して指示する(ステップS65)。そして処理はステップS61に移行する。このように、閾値TH42以下の低速走行であれば走行が不安定になりやすいので、傾斜制限を実施するものである。
【0065】
一方、車速が閾値TH42を超えている場合、検出部3100は、車速が閾値TH43(例えば5km/h)以上であるか否かを判断する(ステップS67)。車速が閾値TH43以上であれば、ペダルも正回転しており且つ通常走行中であると判断できる。よって、検出部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH43以上であることを出力し、動作制御部3200は、この出力に応じて、指示部1023に対して、傾斜制限の解除を指示する(ステップS69)。そして処理はステップS61に移行する。
【0066】
これに対して、車速が閾値TH43未満であれば、動作制御部3200は、何もせず、傾斜制限が解除されているのであれば解除したままにし、傾斜制限がなされているのであれば傾斜制限したままにする(ステップS59)。そして、処理はステップS61に移行する。
【0067】
このような処理を行うことにより、通常走行中であっても閾値TH41を超える車速を検出できれば、ペダルが逆回転中であっても傾斜制限を解除して旋回を容易にすることができる。安定走行できる可能性が高いためである。
【0068】
[実施の形態4]
本実施の形態では、運転者の意図までも加味して傾斜制限の実施と解除を切り替える。これは、明らかな通常走行中でなくても、これから継続した正方向のペダル回転を行って通常走行になるのであれば、早期に傾斜制限を解除することが適切な場合があるためである。
【0069】
本実施の形態に係る動作制御部3200の動作を図17乃至図19を用いて説明する。
【0070】
まず、図17乃至図19を用いてどのような状態を検出するのかについて説明する。図17は、電動アシスト自転車1の進行方向と、ペダルの回転位相角との関係を模式的に示している。すなわち、電動アシスト自転車1の進行方向が、紙面上右方向である場合に、例えば、紙面上真上に手前のクランクが向いている場合にペダルの回転位相角0°とし、曲線矢印のように時計回りにペダル回転を行うとペダルの回転位相角が増加する。手前のクランクが右に向いている場合にはペダルの回転位相角90°、手前のクランクが真下を向いている場合にはペダルの回転位相角180°となる。さらにペダルを回転させると、手前のクランクが左を向いている場合にはペダルの回転位相角270°となり、再度手前のクランクが真上を向くようになれば、ペダルの回転位相角360°=0°となる。
【0071】
このような前提の下、図18(a)は、ペダル回転センサ104からの信号によるペダル回転入力が表すペダルの回転位相角の時間変化を表し、図18(b)は、トルク入力部1027からの入力トルクの値の時間変化を示す。
【0072】
一般的に、ペダルを回転させると、図18(b)における曲線aに示すように入力トルクは変化する。本例では、ペダルの回転位相角が例えば45°から180°に変化する間に、入力トルクは一度増加した後減少に転じ、180°で図17における右足での極小となる(t=t1)。その後、さらにペダル回転を行って、ペダルの回転位相角が180°から360°に変化する間にも、入力トルクは一度増加した後減少に転じ、360°=0°で図17における左足での極小となる(t=t2)。以降は、同様で180°回転すると、入力トルクは極小となる。この入力トルクが極小となる部分を下死点と呼ぶ。下死点は、ペダルの回転位相角が0°と180°とに現れる。
【0073】
下死点付近において傾斜制限を解除すると、その時点でペダル回転を止めた場合車体が傾いて安定性を損ねることも考えられる。そこで、下死点を超えてペダル回転を継続していることが確認できた場合には、傾斜制限を解除する。すなわち、時刻t1よりも遅いタイミングで傾斜制限を解除するものとする。
【0074】
なお、2回以上下死点を確認できた後、例えば時刻t2よりも遅いタイミングで傾斜制限を解除するようにしても良い。この方が、より継続的なペダル回転が確認できている。
【0075】
なお、下死点を通過したことを確認できるのは、時刻t1より遅いタイミングで、ある程度入力トルクが増加しないと下死点があったことは確認できない。
【0076】
一方、ペダルの回転位相角を基準にするのであれば、例えば、ペダルの回転位相角が下死点に対応する180°を超えた例えば225°になったこと、又は、225°を超えた後さらに45°になったことを検出した場合に、継続的なペダル回転を確認できたとしても良い。
【0077】
本実施の形態に係る制御部3000の動作について図19を用いて説明する。なお、安全性確保のため、処理の開始前には、傾斜制限を指示した状態となっているものとする。また、ステップS71からステップS75までを制御周期毎に実施する。
【0078】
まず、検出部3100は、車速が閾値TH52(例えば3km/h)以下であるか否かを判断する(ステップS71)。車速が閾値TH52以下であれば、検出部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH52以下であることを出力する。そして、動作制御部3200は、この出力に応じて、指示部1023に対して傾斜制限の実施を指示する(ステップS73)。低速走行であれば、傾斜制限を実施する。
【0079】
その後、制御部3000は、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であるか否かを判断し(ステップS75)、処理終了でなければ処理はステップS71に戻る。一方、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であれば、処理を終了する。
【0080】
一方、車速が閾値TH52を超えている場合には、検出部3100は、この時点から下死点検出を試みる。但し、検出部3100は、車速が閾値TH51(例えば5km/h)以上であるか否かを判断する(ステップS77)。車速が閾値TH51以上となっていれば、傾斜制限の解除を行っても良いので、検出部3100は、動作制御部3200に、車速が閾値TH51以上であることを出力する。動作制御部3200は、この出力に応じて、指示部1023に対して、傾斜制限の解除を指示する(ステップS79)。傾斜制限の解除が行われれば下死点の検出は行われない。そして処理はステップS75に移行する。
【0081】
一方、車速が閾値TH51未満である場合、検出部3100は、車速が閾値TH52を超えた時点以降において、下死点を確認できるほどペダルを正回転させているか否かを判断する(ステップS81)。上でも述べたように、入力トルクの値が極小となったか否かは、ある程度入力トルクが増加した後でないと確認できない。よって、例えば、入力トルクの値が直近の最小値から一定割合(例えば25%)以上増加した場合に、例えば下死点を確認できたとする。なお、下死点を複数回確認できたことを条件にしてもよい。
【0082】
このような条件を満たしていると判断した場合、検出部3100は、動作制御部3200に、上記条件を満たしたことを出力する。そうすると、動作制御部3200は、その出力に応じて、指示部1023に、傾斜制限の解除を指示する(ステップS83)。その後処理はステップS75に移行する。
【0083】
一方、ステップS81の条件が満たされていない、すなわち車速が閾値TH52を超えていても、下死点が確認できていない場合には、検出部3100は、動作制御部3200に、上記条件を満たしていないことを出力する。動作制御部3200は、この出力に応じて、傾斜制限について現在の制御を維持する(ステップS85)。このステップでは動作制御部3200は何もしないので、ステップS85は点線ブロックで表されている。すなわち、傾斜制限が解除されているのであれば解除したままにし、傾斜制限がなされているのであれば傾斜制限したままにする。これは第1の実施の形態と同様にチャタリングを防止するためである。そして処理はステップS75に移行する。
【0084】
このように、車速が閾値TH51未満で閾値TH52を超えている場合には、運転者によるさらなるペダルの回転が確認できれば、ステップS81の条件を満たすことになるので、傾斜制限の解除がなされるようになる。これによって、早期に傾斜制限の解除がなされるようになる。
【0085】
なお、ステップS81の条件は、上でも述べたように、入力トルクの値に代わって、ペダルの回転位相角が下死点を超えたことを表す角度(例えば225°)となったことを確認できた場合、又は、ペダルの回転位相角が下死点を超えたことを表す位相角(例えば225°)から所定角度回転されたことを検出したこと、ペダルの回転位相角が下死点を超えたことを表す位相角(例えば225°)及びより回転が行われたことを表す次の位相角(例えば45°)とに至ったこと等に変更しても良い。
【0086】
[実施の形態5]
第4の実施の形態では、入力トルクの値やペダルの回転位相角から継続的なペダル回転を判断していたが、時間を用いてペダル回転の継続性を判断することも考えられる。
【0087】
本実施の形態に係る制御部3000の動作について図20を用いて説明する。この処理フローは、ほぼ図19と同じであるが、ステップS91がステップS73の後に追加されたこと、ステップS71で車速が閾値TH52を超えたことを検出した場合に、正方向のペダル回転の継続時間について計測を開始すること、ステップS81の代わりにステップS93を導入した点が異なる。
【0088】
ステップS91では、傾斜制限を実施することになったので、検出部3100は、正方向のペダル回転の継続時間計測をクリアする。すなわち、継続時間をゼロに設定する。
【0089】
また、ステップS71で車速が閾値TH52を超えたと判断されると、正方向のペダル回転の継続時間(ペダルの回転継続時間)を計測し始める。例えばペダルの回転位相角が増加し続けていれば、回転継続時間を増加させる。
【0090】
そして、ステップS93で、検出部3100は、ペダルの回転継続時間が閾値TH53(例えば3秒)以上となっているか否かを判断する。ペダルの回転継続時間が閾値TH53以上となっていれば、ステップS83に移行し、そうでなければ、ステップS85に移行する。
【0091】
このように継続的に正方向のペダル回転が検出できれば、車速が閾値TH51以上となっていなくても、早期に傾斜制限の解除を行うものである。
【0092】
[実施の形態6]
例えば操作パネル106に、モータ105の後退駆動を指示するための後退スイッチを設ける場合がある。これをオンにすれば、制御装置102がゼロ付近の一定車速以下になった場合に後退駆動を行うことになるが、後退時に傾斜制限を解除すると、走行が不安定になる可能性がある。
【0093】
よって、本実施の形態では、後退スイッチがオンになれば、車速に無関係に傾斜制限を実施するものである。
【0094】
なお、図21に示すように、操作パネル106には、電源オンオフを表すLED1063と、2つの7セグメントLED1064と、前照灯を点灯又は消灯させるスイッチ1061と、電源オンオフ及びモード設定を行うためのスイッチ1062と、後退スイッチ(B)1065とが設けられる。
【0095】
そして、動作制御部3200は、図22のような処理を実行する。なお、ステップS101乃至S107は制御周期毎に実行される。
【0096】
すなわち、動作制御部3200は、後退スイッチ1065がオンになったか否かを判断する(ステップS101)。後退スイッチがオンになった、すなわち後退駆動が指示された場合、動作制御部3200は、指示部1023に、傾斜制限を指示する(ステップS103)。
【0097】
その後、制御部3000は、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であるか否かを判断し(ステップS107)、処理終了でなければ処理はステップS101に戻る。一方、電源断が指示されるなどの理由で処理終了であれば、処理を終了する。
【0098】
一方、後退スイッチ1065がオフであれば、動作制御部3200は、指示部1023に、傾斜制限の解除を指示する(ステップS105)。そして処理はステップS107に移行する。
【0099】
なお、例えば第1乃至第5の実施の形態の処理を併せて実行しているのであれば、ステップS105で傾斜制限の解除を行うのではなく、そちらの処理における制御に従うようにしても良い。後退スイッチのオンオフ以外の状態にも対処できるようになる。
【0100】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、目的に応じて、上で述べた各実施の形態における任意の技術的特徴を削除するようにしても良いし、他の実施の形態で述べた任意の技術的特徴を追加するようにしても良い。
【0101】
さらに、上で述べた機能ブロック図は一例であって、1の機能ブロックを複数の機能ブロックに分けても良いし、複数の機能ブロックを1つの機能ブロックに統合しても良い。処理フローについても、処理内容が変わらない限り、ステップの順番を入れ替えたり、複数のステップを並列に実行するようにしても良い。
【0102】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0103】
本実施の形態に係る制御装置は、(A)前輪と後輪で3以上の車輪を有する電動アシスト車に備えられるペダルの回転状態を検出する検出部(例えば検出部3100)と、(B)電動アシスト車の車体の傾斜制限を行うか又は当該傾斜制限を解除する機構に対して、検出部により検出されたペダルの回転状態に基づき、車体の傾斜制限と当該傾斜制限の解除とを切り替える指示を行う制御部(例えば動作制御部3200)とを有する。
【0104】
このように、電動アシスト車が備えるペダルの回転状態は、安定走行に影響があるため、当該ペダルの回転状態を検出して自動的に車体の傾斜制限と傾斜制限の解除とを切り替えて、安定走行を維持するものである。
【0105】
なお、上で述べた制御部は、上記ペダルの回転状態が、ペダルが逆回転中であることを示している場合に、上記機構に対して、車体の傾斜制限を行うように指示してもよい。ペダルを逆回転させている場合には、走行が不安定になりやすいので、上記のような制御を行うことで、安定走行を維持するものである。
【0106】
また、上で述べた検出部は、ペダルが逆回転中であることを、ペダルの逆方向の回転角度又は回転速度に基づき検出するようにしてもよい(例えば図14又は図15)。例えば、一定回転角度以上ペダルを逆回転させている場合、一定以上の逆方向のペダル回転速度が検出されれば、ペダルが逆回転中と判定してもよい。
【0107】
さらに、上で述べた検出部は、さらに電動アシスト車の車速を検出するようにしてもよい。この場合、上で述べた制御部は、検出部により検出された車速が一定値(例えば、TH41=6km/h)以下で且つ上記ペダルの回転状態がペダルが逆回転中であることを示している場合に、上記機構に対して、車体の傾斜制限を行うように指示してもよい。ペダルを逆回転させている場合には、通常走行中でも車速が上記一定値(例えばTH41=6km/h)以上でないと、バランスを崩して車体がふらふらし易く、安定走行に影響があるためである。逆に、車速が一定値以上であれば、ペダルを逆回転させていても、車体の傾斜制限を行わなくても、安定走行が維持できる可能性が高い。
【0108】
なお、上で述べた一定値は、例えば、ペダルを正回転させている場合における上記傾斜制限の解除のための車速の閾値(例えば、TH42=5km/h)より大きい値である。上でも述べたように、通常走行よりも条件を厳しくするものである。
【0109】
さらに、上で述べた検出部は、さらに電動アシスト車の車速を検出するようにしてもよい。この場合、上で述べた制御部は、検出部により検出された車速が、車体の傾斜制限を行わせるための第1の閾値(例えば、TH51=3km/h)を超えており且つ傾斜制限の解除のための第2の閾値(例えば、TH52=5km/h)未満であって、且つ、ペダルの正方向の回転が所定の条件を満たす場合に、上記機構に対して、上記傾斜制限の解除を行わせるように指示してもよい。車速の条件を満たしていない場合でも、ペダルの正回転に基づき、車体の傾斜制限を解除しても、安定走行を維持できる場合もあるためである。これによって、早期に車体の傾斜が可能となり、旋回などが容易になる。
【0110】
なお、上記所定の条件は、例えば、(a)ペダルの回転位置が、1回又は複数回、下死点に達したことを検出したこと、(b)ペダルの回転位相角が、1又は複数の所定位相角を経たこと(例えば225°を経たこと、又は、225°に達した後45°になったことなど)、(c)ペダルの回転継続時間が、一定時間以上となったことである。このように、ペダルの正回転がある程度継続して行われていることが検出でき、且つ上記のような車速の条件を満たしていれば、安定走行を維持できるためである。
【0111】
また、上で述べた制御部は、電動アシスト車に逆回転の駆動を指示するためのスイッチがオンになったことを検出すると、上記機構に対して、上記車体の傾斜制限を行わせるように指示してもよい。上記スイッチがオンになったことで、運転者が電動アシスト車の後退を意図していることがわかるので、安定走行を維持するため、車体の傾斜制限を行われるものである。
【0112】
このような構成は、実施の形態に述べられた事項に限定されるものではなく、実質的に同一の効果を奏する他の構成にて実施される場合もある。
【符号の説明】
【0113】
3000 制御部
3100 検出部
3200 動作制御部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22