(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120521
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】抽出装置及び抽出方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
B01D 11/02 20060101AFI20220810BHJP
B02C 7/08 20060101ALI20220810BHJP
B02C 7/14 20060101ALI20220810BHJP
B02C 7/17 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
B01D11/02 A
B02C7/08
B02C7/14
B02C7/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017466
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】北村 豊
【テーマコード(参考)】
4D056
4D063
【Fターム(参考)】
4D056AB14
4D056AB18
4D056AB20
4D056AC06
4D056BA03
4D056CA02
4D056CA03
4D056CA14
4D056CA33
4D056CA34
4D056CA36
4D056CA37
4D056CA40
4D056DA01
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4D056DA05
4D056DA10
4D063DD02
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4D063GA10
4D063GB04
4D063GC05
4D063GC14
4D063GC29
4D063GC36
4D063GD04
4D063GD12
4D063GD17
4D063GD19
4D063GD22
(57)【要約】
【課題】有機素材の機能性成分を含んだ高濃度の抽出液を、短時間かつ高収率に製造できる装置を提供することを目的とする。
【解決手段】抽出装置100は、材料及び溶媒を供給する供給部10と、溶媒と材料を混合および粉砕する粉砕部20と、粉砕部20を通過した溶媒と材料との混合物を貯留する容器部30と、容器部30の混合物を供給部10に戻す循環部40と、溶媒の供給量および粉砕部20の処理速度を制御する制御部50と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料及び溶媒を供給する供給部と、
前記溶媒と前記材料を混合および粉砕する粉砕部と、
前記粉砕部を通過した前記溶媒と前記材料との混合物を貯留する容器部と、
前記容器部の前記混合物を前記供給部に戻す循環部と、
前記溶媒の供給量および前記粉砕部の処理速度を制御する制御部と、
を備える、
抽出装置。
【請求項2】
前記材料は硬質有機素材である、
請求項1に記載の抽出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つに基づいて、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度を制御する、
請求項1又は2に記載の抽出装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度のうちの少なくとも1つと、の最適な関係を表すデータを記憶もしくは外部記憶手段からの送信により取得し、
前記制御部は、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、前記データと、に基づいて、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度を制御する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の抽出装置。
【請求項5】
前記抽出作業時の前記材料の状態を検知するセンサ部を備え、
前記制御部は、前記センサ部が検知する材料の状態に基づいて、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度を制御する、
請求項3又は4に記載の抽出装置。
【請求項6】
前記容器部と前記循環部とは、
前記容器部の底部に沈殿した前記混合物を運搬する第1通路と、
前記容器部の上部に浮遊した前記混合物を運搬する第2通路と、
によって接続されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載の抽出装置。
【請求項7】
前記粉砕部には石臼を備えている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の抽出装置。
【請求項8】
前記石臼は上臼と下臼を備え、
前記上臼と前記下臼の間隔が調整可能である、
請求項7に記載の抽出装置。
【請求項9】
溶媒と材料とを混合および粉砕する粉砕部を用いた抽出方法であって、
前記溶媒と前記材料とを前記粉砕部に供給する供給工程と、
前記溶媒と前記材料とを前記粉砕部によって粉砕する粉砕工程と、
粉砕された前記溶媒と前記材料とを前記粉砕部に戻す循環工程と、
粉砕された前記溶媒と前記材料を抽出する抽出工程と、
を備え、
前記粉砕工程において、前記粉砕部への前記溶媒及び前記材料の供給量及び前記粉砕部の処理速度を、前記材料の特性及び前記溶媒と前記材料との混合物の状態に合わせて変更する、
抽出方法。
【請求項10】
前記粉砕工程では、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度のうちの少なくとも1つと、の最適な関係を表すデータと、に基づいて、前記粉砕部への前記溶媒及び前記材料の供給量及び前記粉砕部の処理速度を変更する、
請求項9に記載の抽出方法。
【請求項11】
材料と溶媒とを混合および粉砕する粉砕部と、前記粉砕部によって粉砕された前記材料と前記溶媒との混合物を、前記粉砕部に戻す循環部と、前記溶媒の供給量および前記粉砕部の処理速度を制御する制御部と、を備える抽出装置における前記制御部として、コンピュータを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出装置及び抽出方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
有機素材(例えばグレープシード)の細胞中から機能性成分を抽出する方法として、乾燥させた有機素材を粉砕した後に溶媒と混合し、浸軟抽出する方法が開示されている(特許文献1)。また、乾燥させた有機素材を粉砕した後に溶媒と混合し、超音波抽出する方法が開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】CRISTIANA Radulescu、Lavinia Claudia Buruleanu、Cristina Mihaela Nicolescu、Radu Lucian Olteanu、Marius Bumbac、Georgeta Carmen Holban、Jesus Simal-Gandara、「Phytochemical Profiles, Antioxidant and Antibacterial Activities of Grape (Vitis vinifera L.) Seeds and Skin from Organic and Conventional Vineyards」、Plants、MDPI、2020年10月30日公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の抽出方法は、乾燥させた有機素材を乾燥させた状態で粉砕した後、溶媒と混合して抽出する。しかしながら、乾燥した有機素材を粉砕するとき、摩擦熱によって有機素材の温度が上昇する。抽出する機能性成分が熱に弱い場合には、この温度上昇によって分解又は消失し、十分な収率及び機能性成分の性能が発揮できないことがある。更に、粉砕と抽出を別工程で行う事から、製造に長時間を要するという課題があった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、有機素材の機能性成分を含んだ高濃度の抽出液を、短時間かつ高収率に製造できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る抽出装置は、材料及び溶媒を供給する供給部と、前記溶媒と前記材料を混合および粉砕する粉砕部と、前記粉砕部を通過した前記溶媒と前記材料との混合物を貯留する容器部と、前記容器部の前記混合物を前記供給部に戻す循環部と、前記溶媒の供給量および前記粉砕部の処理速度を制御する制御部と、を備える。
【0008】
この発明によれば、粉砕部では、材料が溶媒と混合された状態で粉砕される。また、制御部では、粉砕部の処理速度に加え、特に溶媒の供給量を制御する。よって、最適な組成及び量の溶媒を用いて、材料の湿式粉砕を実施する。更に、循環部によって容器部の混合物を供給部に戻すことで、材料と溶媒の混合物を繰り返して粉砕する。
【0009】
これにより、乾燥した材料を粉砕した後に溶媒と混合する従来の方法と比較して、少なくとも乾燥の工程が不要となることから、抽出に要する時間を大幅に削減することができる。更に、材料と溶媒の混合物を繰り返して粉砕することで、より確実に材料を微細化し、抽出溶媒への接触効率を高め、目的成分を高濃度に含む抽出液を短時間で製造することができる。
【0010】
また、前記材料は硬質有機素材であってもよい。
【0011】
この発明によれば、本発明に係る抽出装置における材料は硬質有機素材である。つまり、本発明に係る抽出装置によって、硬質有機素材の有する機能性成分が抽出される、ここで、硬質有機素材の有する機能性成分は熱に弱く、粉砕時の摩擦熱によって機能性成分が分解あるいは消失することがある。これに対し、材料と溶媒とを混合した状態で粉砕することで、粉砕時の摩擦熱を抑え、材料の温度上昇を防ぐことができる。よって、機能性成分の分解及び消失を防ぎ、抽出量を向上することができる。
【0012】
また、前記制御部は、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つに基づいて、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度を制御してもよい。
【0013】
この発明によれば、制御部は、材料の機能性成分、抽出作業時の温度、溶媒の組成のうちの少なくとも1つに基づいて、材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部の処理速度を制御する。抽出作業の対象である材料の機能性成分と、抽出作業時の状態に合わせて抽出作業を制御することで、材料の抽出効率を最適化することができる。
【0014】
また、前記制御部は、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度のうちの少なくとも1つと、の最適な関係を表すデータを記憶もしくは外部記憶手段からの送信により取得し、前記制御部は、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、前記データと、に基づいて、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度を制御してもよい。
【0015】
この発明によれば、制御部は、材料の機能性成分、抽出作業時の温度、溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、供給部による材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部の処理速度のうちの少なくとも1つと、の最適な関係について記憶したデータに基づいて制御を行う。
これにより、より抽出対象となる材料の特性に合わせた制御をすることができる。
【0016】
また、前記抽出作業時の前記材料の状態を検知するセンサ部を備え、前記制御部は、前記センサ部が検知する材料の状態に基づいて、前記供給部による前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度を制御してもよい。
【0017】
この発明によれば、抽出作業時の材料の状態を検知するセンサ部を備え、制御部は、センサ部が検知する材料の状態に基づいて、材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部の処理速度を制御する。
ここで、材料の状態とは、抽出作業時の材料及び溶媒の温度や、粉砕の進行度をいう。これらの状態をセンサ部によって感知し、これに合わせて抽出作業を制御することで、より材料の抽出効率を最適化することができる。
【0018】
また、前記容器部と前記循環部とは、前記容器部の底部に沈殿した前記混合物を運搬する第1通路と、前記容器部の上部に浮遊した前記混合物を運搬する第2通路と、によって接続されていてもよい。
【0019】
この発明によれば、容器部と循環部とは、容器部の底部に沈殿した混合物を運搬する第1通路と、容器部の上部に浮遊した混合物を運搬する第2通路と、によって接続されている。ここで、容器部の底部に沈殿した混合物は、比較的粉砕されていない状態である。このため固形物が多く、第1通路から循環部へ移動した沈殿物を供給部へ循環する際に、循環部に負担をかけることがある。これに対し、容器部の上部に浮遊した混合物は液状である。この浮遊した混合物を、第2通路を通して循環部に向けて移動させることで、循環部内を流れる混合物における固形物の割合を下げ、循環部にかかる負担を軽減することができる。更に、粉砕部に向けて沈殿した混合物と浮遊した混合物とを効率よく供給することができることから、より粉砕作業の効率を向上し、より効率的な機能性成分の抽出に寄与することができる。
【0020】
また、前記粉砕部には石臼を備えていてもよい。
【0021】
この発明によれば、粉砕部には石臼を備えている。これにより、材料と溶媒の混合物を石臼により粉砕することで、材料の粉砕時に混合物の温度が上昇することを防ぐことができる。よって、粉砕時に生じる熱等によって機能性成分が分解又は消失するといったことを防ぎ、より機能性成分の抽出量の向上に寄与することができる。
【0022】
また、前記石臼は上臼と下臼を備え、前記上臼と前記下臼の間隔が調整可能であってもよい。
【0023】
この発明によれば、上臼と下臼の間隔が調整可能である。これにより、例えば、粉砕する材料が比較的固い場合及び大きい場合において、粉砕時に材料及び石臼にかかる負担を小さくすることができる。よって、機能性成分が分解又は消失するといったことを防ぎ、より機能性成分の抽出量の向上に寄与することができる。
【0024】
また、本発明に係る抽出方法は、溶媒と材料とを混合および粉砕する粉砕部を用いた抽出方法であって、前記溶媒と前記材料とを前記粉砕部に供給する供給工程と、前記溶媒と前記材料とを前記粉砕部によって粉砕する粉砕工程と、粉砕された前記溶媒と前記材料とを前記粉砕部に戻す循環工程と、粉砕された前記溶媒と前記材料を抽出する抽出工程と、を備え、前記粉砕工程において、前記粉砕部への前記溶媒及び前記材料の供給量及び前記粉砕部の処理速度を、前記材料の特性及び前記溶媒と前記材料との混合物の状態に合わせて変更する。
【0025】
また、前記粉砕工程では、前記材料の機能性成分、抽出作業時の温度、前記溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、前記材料の供給量、前記溶媒の組成及び前記粉砕部の処理速度のうちの少なくとも1つと、の最適な関係を表すデータと、に基づいて、前記粉砕部への前記溶媒及び前記材料の供給量及び前記粉砕部の処理速度を変更してもよい。
【0026】
また、本発明に係るプログラムは、材料と溶媒とを混合および粉砕する粉砕部と、前記粉砕部によって粉砕された前記材料と前記溶媒との混合物を、前記粉砕部に戻す循環部と、前記溶媒の供給量および前記粉砕部の処理速度を制御する制御部と、を備える抽出装置における前記制御部として、コンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、有機素材の機能性成分を含んだ高濃度の抽出液を、短時間かつ高収率に製造できる装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る抽出装置の正面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る抽出工程の模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る抽出法と従来の抽出法の比較図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る抽出法と従来の抽出法による抽出結果の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る抽出装置を説明する。
抽出装置100は、特に、硬質有機素材をはじめとした材料の細胞中から機能性成分を抽出するために用いられる。材料及び材料の有する機能性成分の組み合わせとしては、例えば、グレープシードのポリフェノール、ランブータンのゲレニイン、スターアニスのトランスアネソール、サケの鼻軟骨のプロテオグリカン、ブロッコリー種子のスルフォラファン、アカシア樹皮のプロアントシアニジンが挙げられる。これらの成分は、例えば、健康食品、化粧品、医薬品等に好適に用いられる。また、溶媒は、例えば、エタノール溶液が好適に用いられる。エタノール溶液の濃度は、材料の特性に合わせて適宜調整される。
【0030】
図1及び
図2に示すように、抽出装置100は、供給部10と、粉砕部20と、容器部30と、循環部40と、制御部50と、センサ部60と、第1通路70と、第2通路80と、循環ホース90と、を備える。
【0031】
供給部10は、材料及び溶媒を粉砕部20(後述する)に供給する。以下において、材料及び溶媒が混合されたものを、混合物Mと呼ぶことがある。
供給部10は、例えば、混合前の材料及び溶媒をそれぞれ貯留する貯留部と、循環ホース90(後述する)が接続される合流部と、材料、溶媒を粉砕部20へ供給する供給ポンプと、を備える。
供給部10による材料及び溶媒の投入は、以下のように行う。すなわち、抽出作業の開始前に、あらかじめ供給部10の貯留部に材料及び溶媒を投入しておく。そして、抽出作業の開始とともに制御部50(後述する)によって供給量を制御されながら、不図示の供給ポンプによって混合物Mとして粉砕部20に供給される。
【0032】
供給部10の合流部には循環ホース90が接続されている。これにより、循環ホース90から供給部10の合流部に循環された混合物Mも同時に粉砕部20に投入される。ここで、抽出工程の状況において、供給部10から粉砕部20に供給される混合物Mの量が、粉砕部20の処理速度を上回ることがある。この場合は、
図1に示すバイパス11に混合物Mがあふれ出る。バイパス11にあふれ出た材料は、粉砕部20を通らずに、容器部30(後述する)に移動する。
【0033】
粉砕部20は、溶媒と材料とを混合および粉砕する。粉砕部20は、材料の発熱を抑えて粉砕する機構を有する湿式粉砕機である。本実施形態において、粉砕部20には摩擦熱を生じにくい公知の石臼を用いる。粉砕部20は、上臼21と、下臼22と、を備える。
本実施形態において、材料が投入される投入穴を備える上臼21は固定され、下臼22に制御部50の有するモータが接続される。これにより、固定された上臼21に対して下臼22を回転させることで、混合物Mをすりつぶすように粉砕する。
上臼21と下臼22に備えられる溝は任意の形状を用いることができるが、粉砕後の混合物Mが排出されやすくするために、溝は上臼21及び下臼22の端部まで設けられていることが好ましい。
【0034】
ここで、粉砕する材料が比較的硬い場合及び大きい場合において、粉砕部20の石臼によって粉砕しようとすると、上臼21と下臼22との位置がずれることがある。また、材料が比較的熱に弱い場合において、粉砕部20の石臼の摩擦熱によって機能性成分が変質することがある。
これに対し、本実施形態の粉砕部20は、上臼21と下臼22の間隔が調整可能である。このため、硬い材料又は熱に弱い材料が投入されたとき、上臼21と下臼22の間隔を広げることで、少しずつ材料を粉砕する役割を有する。これにより、上臼21と下臼22との位置ずれ及び摩擦熱の発生を防ぐ。
【0035】
上臼21と下臼22が接する部位は、容器部30の上端よりも下側に設けられる。これにより、粉砕部20の石臼によって粉砕された混合物Mが、容器部30の外に飛散することを防ぐ。
また、下臼22の下端は、容器部30に貯留された混合物Mに接しないように設けられる。言い換えると、容器部30に貯留可能な混合物Mの量は、下臼22の下部に接しない高さまでである。
【0036】
容器部30は、粉砕部20の下部に設けられ、粉砕部20又はバイパス11を通過した混合物Mを貯留する。本実施形態において、容器部30は頂部を下に向けた円錐状である。容器部30に貯留された混合物Mは、容器部30内において、容器部30の底部に堆積する沈殿物と、容器部30の上部に残る上澄みとに分離する。沈殿物は、例えば、粉砕部20によって粉砕しきれなかった材料の破片である。上澄みは、例えば、溶媒と、粉砕部20によって粉砕され溶媒の中に溶けだした材料である。
【0037】
循環部40は、容器部30の混合物Mを供給部10に循環する。これにより、混合物Mは、粉砕部20によって繰り返し粉砕される。本実施形態において、循環部40は公知のポンプが好適に用いられる。容器部30と循環部40とは、第1通路70と、第2通路80と、によって接続されている(後述する)。
【0038】
制御部50は、材料、溶媒及び混合物Mの供給量および粉砕部20の処理速度を制御する。制御部50は、コンピュータによって形成される。制御部50は、例えば汎用コンピュータであってもよく、専用のコンピュータであってもよい。制御部50(コンピュータ)には、プログラムが記憶されている。プログラムは制御部50に記憶されている場合に限るものではなく、通信手段により外部のクライアント等の記憶手段から送信される形態でもよい。制御部50は、プログラムを実行することで、制御部50として機能する。
【0039】
制御部50は、供給部10と、粉砕部20と、循環部40と、を制御する。
制御部50は、供給部10を制御することで、粉砕部20への材料及び溶媒の供給量を調整する。具体的には、制御部50は、不図示の供給ポンプを制御する。供給ポンプは、供給部10の貯留部に貯留された材料及び溶媒を粉砕部20に移動させる。これにより、制御部50は、材料及び溶媒を粉砕部20へ供給する。
【0040】
また、制御部50は、粉砕部20への溶媒の供給量を調整することで、抽出装置100を循環する混合物Mにおける溶媒の組成を調整する。具体的には、センサ部60(後述する)によって、抽出装置100を循環する混合物Mにおける溶媒の組成を検知する。制御部50は、このセンサ部60から伝達される情報をもとに、溶媒の供給ポンプを制御する、これにより、制御部50は、混合物Mにおける溶媒の組成を調整する。
【0041】
制御部50は、粉砕部20を制御することで、粉砕部20による粉砕速度を調整する。具体的には、制御部50は、不図示のモータを制御する。モータは、下臼22を回転させる。これにより、制御部50は、粉砕部20の下臼22を回転させる。本実施形態において、粉砕部20の処理速度とは、石臼の回転速度である。
【0042】
制御部50は、循環部40を制御することで、抽出装置100における混合物Mの循環量を調整する。具体的には、制御部50は、循環部40のポンプを制御する。循環部40のポンプは、容器部30から移動した混合物Mを供給部10に移動させる。これにより、制御部50は、抽出装置100において混合物Mを循環させる。
ここで、抽出作業における混合物Mの状態によって、好適とされる溶媒の濃度や粉砕部20の処理速度が異なることがある。これに対し、制御部50によって溶媒の供給量および粉砕部20の処理速度を変更する。
【0043】
例えば、材料の投入量が溶媒の投入量に対して多いときは、供給部10による溶媒の供給量を増やすことで混合物Mの比率を調整する。また、石臼の回転速度が速いことで上臼21と下臼22との間に摩擦熱が生じ、混合物Mの温度が上がった際には石臼の回転速度を下げる、等が挙げられる。
【0044】
センサ部60は、材料、溶媒、混合物Mの状態を検知する。混合物Mの状態とは、例えば、材料の粉砕状態、溶媒の組成、混合物Mの粘度及び温度等が挙げられる。センサ部60は、循環部40の内部に好適に設けられる。これにより、容器部30から循環部40に移動した材料、溶媒、混合物Mの状態を供給部10に移動させる前に把握し、把握した情報を制御部50に提供する。制御部50は、センサ部60から提供された情報をもとに上述の制御を行う。本実施形態において、センサ部60には、例えば、インライン粘度センサ、温度計、密度計、濁度計、糖度(Brix)計、流量計が用いられる。これらの計測装置を適宜組み合わせることにより、センサ部60とする。また、これらの計測装置は、循環部40の内部に限らず、抽出装置100においてそれぞれ最適な位置に分けて設けてもよい。
また、センサ部60によって材料が十分に粉砕されたことを検知し、制御部50にこれが伝達されることで、抽出作業の終了としてもよい。
【0045】
第1通路70は、容器部30の底部と、循環部40との間を接続する。これにより、容器部30内に貯留された混合物Mの沈殿物を循環部40に移動させる。
第2通路80は、容器部30の中間部と、循環部40との間を接続する。これにより、容器部30に貯留された混合物Mの上澄みを循環部40に移動させる。
循環ホース90は、循環部40と供給部10との間を接続する。これにより、循環部40に移動した混合物Mを、供給部10に移動させる。
【0046】
ここで、混合物Mの沈殿物は、比較的粉砕されていない状態である。このため固形物が多く、第1通路70から循環部40へ移動した沈殿物を供給部10へ循環する際に、循環部40に負担をかけることがある。これに対し、容器部30の上部に浮遊した混合物Mは液状である。この浮遊した混合物Mを、第2通路80を通して循環部40に向けて移動させることで、循環部40内を流れる混合物Mにおける固形物の割合を下げ、循環部40にかかる負担を軽減する。更に、粉砕部20に向けて沈殿した混合物Mと浮遊した混合物Mとを効率よく供給する。
【0047】
次に、
図3を用いて、抽出装置100を用いて材料の機能性成分を抽出する抽出方法の各工程について説明する。
上述のように、本実施形態の抽出作業においては、材料と溶媒との混合物Mが、循環部40によって繰り返し粉砕部20に供給されることで、繰り返して粉砕される。これにより、材料の微細化と溶媒への接触効率を高めることで、材料の機能性成分が溶媒へ溶け出しやすくする。
【0048】
また、抽出作業において、制御部50は、材料の機能性成分、抽出作業時の混合物Mの温度、溶媒の組成のうちの少なくとも1つに基づいて、材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部20の処理速度を制御する。ここで、材料の機能性成分、抽出作業時の混合物Mの温度、溶媒の組成を、入力パラメータという。材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部20の処理速度を、出力パラメータという。制御部50は、例えば、入力パラメータと、出力パラメータと、の最適な関係を表すデータを記憶している。本データは前記通信手段を用いて外部記憶手段から送信されたものを取得する形態でも良い。前記データは、入力パラメータと出力パラメータとの関係を表すレコードを多数有するテーブル(データベース)であってもよい。前記データは、入力パラメータと出力パラメータとの関係を表す関係式であってもよい。前記データは、例えば、事前試験やシミュレーション等により、予め求めておくことが可能である。あるいは設置後に最適条件になるように学習するシステムを含んでいても良い。
下記の各工程において、上記に加え必要な制御について記載する。
【0049】
<供給工程>
材料、溶媒、及び混合物Mを、供給部10を介して粉砕部20に供給する工程である。
図3に示すように、材料及び溶媒は、供給部10から、混合物Mは循環ホース90を介して供給部10で合流し、粉砕部20に供給される。
また、溶媒については、供給部10を介さずにあらかじめ容器部30に入れておき、抽出作業の開始時には溶媒のみ抽出装置100を循環させた状態で、供給部10の開口部から材料のみ投入してもよい。
【0050】
供給工程において、材料、溶媒、及び混合物Mの供給量が、粉砕部20の処理速度を上回ることがある。このとき、上述のように、バイパス11に混合物Mがあふれ出る。バイパス11にあふれ出た材料は、粉砕部20を通らずに、容器部30に移動する。この状態となると、粉砕部20による混合物Mの粉砕が行われず、粉砕作業(後述する)の効率が低下する。これを防ぐために、制御部50によって材料及び溶媒の供給量を制御する。
【0051】
<粉砕工程>
粉砕部20によって、供給部10から供給された混合物Mを粉砕する工程である。本実施形態において、粉砕部20によって粉砕された混合物Mは、容器部30に貯留される。
上述のように、粉砕工程は、粉砕部20の石臼によって混合物Mをすりつぶすように粉砕する。また、粉砕部20の処理速度とは、すなわち石臼の回転速度である。このため、粉砕部20の処理速度を上げることは、石臼の回転速度を上げることで可能である。しかしながら、石臼の回転速度を過度に上げると、上臼21と下臼22との摩擦によって熱が生じ、結果として混合物Mの温度を上昇させる原因となる。この温度上昇によって、材料の機能性成分が分解又は消失することがある。
【0052】
これを防ぐために、抽出対象となる材料の機能性成分における好適な温度を超えないように、制御部50によって粉砕部20の石臼の回転速度を制御する。この場合、前記入力パラメータに、抽出対象の温度を加えることも可能である。また、前記入力パラメータとは別のパラメータとして、抽出対象の温度に基づいて制御部50が回転速度を制御してもよい。また、上臼21と下臼22との間に微小な隙間を設けることで、粉砕時の摩擦を低減することで、温度上昇を防いでもよい。
【0053】
<循環工程>
粉砕部20によって粉砕された混合物Mを、粉砕部20に循環する工程である。すなわち、容器部30に貯留され、第1通路70及び第2通路80を介して循環部40に移動した混合物Mを、循環部40によって供給部10に移動させる工程である。これにより、材料を粉砕部20によってくり返し粉砕する。このことで材料をより微細化して溶媒への接触効率を高め、機能性成分を高濃度に含む抽出液を短時間で製造する。
【0054】
抽出作業の開始直後は、混合物Mには沈殿物と上澄みがあり、十分に粉砕し切れていない状態である。これに対し、十分に時間が経過すると、沈殿物が完全に粉砕され、混合物Mが全体的に均一になる。
循環工程において、センサ部60によってこれを感知して制御部50に伝達することで、循環工程を完了とするように制御する。
【0055】
ここで、材料によっては酸化に弱く、空気に触れると発泡してしまうといった特性を持つものがある。このような特性を持つ材料は、十分に粉砕された後はできるだけ早く機能性成分を抽出すべきである。上述の制御は、このような材料を抽出する際に好適に用いられる。
【0056】
<抽出工程>
粉砕された混合物Mから、機能性成分を抽出する作業である。すなわち、抽出装置100を循環する混合物Mを取り出してろ過することで、機能性成分を抽出する。
上述の循環工程において、混合物Mが十分に粉砕されたことを検知して、下記のように混合物Mを取り出す。例えば、循環部40又は循環ホース90に抽出用枝管を設け、これを開口することで混合物Mを取り出す。
上述の混合物Mの取出しは、抽出作業中に十分に粉砕された混合物Mを随時取り出すように行ってもよいし、混合物全体が完全に粉砕された後に、全ての混合物Mを一度に取り出すようにしてもよい。
【0057】
次に、
図4及び
図5を用いて、本発明に係る抽出法と、従来法との比較をする。なお、以下においては、ブドウ種子(グレープシード)を例に挙げて説明する。以下において、本実施形態における抽出法を、SMEP法(Simultaneous Milling and Extraction Process)と呼称することがある。
図4に示すように、従来法1及び従来法2は、原料を乾燥させてから乾式粉砕処理を行った後、粉砕された材料を溶媒と混合する。これに対し、SMEP法は、原料をあらかじめ溶媒と混合した状態で湿式粉砕する。
このため、本実施形態の抽出工程は、乾燥の工程が不要である。更に、粉砕の工程と材料と溶媒の混合を同時に行うことから、作業時間を大幅に削減することができる。
【0058】
図5に示すように、従来法1及び従来法2に要する製造時間はそれぞれ50時間程度であるのに対し、SMEP法に係る製造時間は0.5時間である。つまり、SMEP法によって、製造時間を1/100に短縮できることが確認された。
更に、有効成分の収率及び機能性成分の性能についても、大幅に向上することが確認された。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る抽出装置100によれば、粉砕部20では、材料が溶媒と混合された状態で粉砕される。また、制御部50では、粉砕部20の処理速度に加え、特に溶媒の供給量を制御する。よって、最適な組成及び量の溶媒を用いて、材料の湿式粉砕を実施する。更に、循環部40によって容器部30の混合物Mを供給部10に戻すことで、材料と溶媒の混合物Mを繰り返して粉砕する。
【0060】
これにより、乾燥した材料を粉砕した後に溶媒と混合する従来の方法と比較して、少なくとも乾燥の工程が不要となることから、抽出に要する時間を大幅に削減することができる。更に、材料と溶媒の混合物Mを繰り返して粉砕することで、より確実に材料を微細化し、抽出溶媒への接触効率を高め、目的成分を高濃度に含む抽出液を短時間で製造することができる。
【0061】
また、本発明に係る抽出装置100における材料は硬質有機素材である。つまり、本発明に係る抽出装置100によって、硬質有機素材の有する機能性成分が抽出される、ここで、硬質有機素材の有する機能性成分は熱に弱く、粉砕時の摩擦熱によって機能性成分が分解あるいは消失することがある。これに対し、材料と溶媒とを混合した状態で粉砕することで、粉砕時の摩擦熱を抑え、材料の温度上昇を防ぐことができる。よって、機能性成分の分解及び消失を防ぎ、抽出量を向上することができる。
【0062】
また、制御部50は、材料の機能性成分、抽出作業時の温度、溶媒の組成のうちの少なくとも1つに基づいて、材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部20の処理速度を制御する。抽出作業の対象である材料の機能性成分と、抽出作業時の状態に合わせて抽出作業を制御することで、材料の抽出効率を最適化することができる。
【0063】
また、制御部50は、材料の機能性成分、抽出作業時の温度、溶媒の組成のうちの少なくとも1つと、供給部10による材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部20の処理速度のうちの少なくとも1つと、の最適な関係について記憶したデータに基づいて制御を行う。これにより、より抽出対象となる材料の特性に合わせた制御をすることができる。
【0064】
また、抽出作業時の材料の状態を検知するセンサ部60を備え、制御部50は、センサ部60が検知する材料の状態に基づいて、材料の供給量、溶媒の組成及び粉砕部20の処理速度を制御する。
ここで、材料の状態とは、抽出作業時の材料及び溶媒の温度や、粉砕の進行度をいう。これらの状態をセンサ部60によって感知し、これに合わせて抽出作業を制御することで、より材料の抽出効率を最適化することができる。
【0065】
また、容器部30と循環部40とは、容器部30の底部に沈殿した混合物Mを運搬する第1通路70と、容器部30の上部に浮遊した混合物Mを運搬する第2通路80と、によって接続されている。ここで、容器部30の底部に沈殿した混合物Mは、比較的粉砕されていない状態である。このため固形物が多く、第1通路70から循環部40へ移動した沈殿物を供給部10へ循環する際に、循環部40に負担をかけることがある。これに対し、容器部30の上部に浮遊した混合物Mは液状である。この浮遊した混合物Mを、第2通路80を通して循環部40に向けて移動させることで、循環部40内を流れる混合物Mにおける固形物の割合を下げ、循環部40にかかる負担を軽減することができる。更に、粉砕部20に向けて沈殿した混合物Mと浮遊した混合物Mとを効率よく供給することができることから、より粉砕作業の効率を向上し、より効率的な機能性成分の抽出に寄与することができる。
【0066】
また、粉砕部20には石臼を備えている。これにより、材料と溶媒の混合物Mを石臼により粉砕することで、材料の粉砕時に混合物Mの温度が上昇することを防ぐことができる。よって、粉砕時に生じる熱等によって機能性成分が分解又は消失するといったことを防ぎ、より機能性成分の抽出量の向上に寄与することができる。
【0067】
また、上臼21と下臼22の間隔が調整可能である。これにより、例えば、粉砕する材料が比較的固い場合及び大きい場合において、粉砕時に材料及び石臼にかかる負担を小さくすることができる。よって、機能性成分が分解又は消失するといったことを防ぎ、より機能性成分の抽出量の向上に寄与することができる。
【0068】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、制御部50の有するモータの動力を用いて、容器部30の中の混合物Mを攪拌しながら抽出作業を行ってもよい。
また、抽出作業における材料ごとの好適な温度を、データベースとして制御部50に記録していてもよい。
【0069】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 供給部
20 粉砕部
21 上臼
22 下臼
30 容器部
40 循環部
50 制御部
60 センサ部
70 第1通路
80 第2通路
100 抽出装置
M 混合物