(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120525
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】木造建築物の補強構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/26 20060101AFI20220810BHJP
E04B 1/18 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
E04B1/26 F
E04B1/18 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017474
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】519448588
【氏名又は名称】藤崎 早苗男
(71)【出願人】
【識別番号】521057040
【氏名又は名称】藤崎 伊知子
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 早苗男
(57)【要約】 (修正有)
【課題】木造建築物の接合部を補強する木造建築物の補強構造であって、耐震性や施工性を高めることが可能な補強構造を提供する。
【解決手段】木造建築物のコンクリート製の基礎2もしくは木材に挿入されて接着剤で固定される複数のアンカーボルト10と、複数のアンカーボルト10と複数の位置で連結される補強板20とを有する。補強板は、鉛直部と水平部と傾斜部を有し、鉛直部と水平部と傾斜部との間には空洞が形成される。補強板と木造建築物との間にはシール部材が配置され、シール部材のアンカーボルトの外周面に該当する位置には、接着剤11を逃がすための穴が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の補強構造であって、
木造建築物のコンクリート製の基礎もしくは木材に挿入されて接着剤で固定される複数のアンカーボルトと、
前記複数のアンカーボルトと複数の位置で連結される補強板と、を有し、
前記補強板は、少なくとも、鉛直方向に向けて配置される鉛直部と水平方向に向けて配置される水平部とを有する形状を有し、
前記補強板は、前記鉛直部の少なくとも2カ所において前記木材に固定された前記アンカーボルトおよび前記コンクリート製の基礎に固定された前記アンカーボルトに連結され、
前記補強板は、前記水平部の少なくとも1カ所において前記木材に固定された前記アンカーボルトに連結され、
前記補強板は、前記鉛直部上の前記アンカーボルトが連結される位置と前記水平部上の前記アンカーボルトが連結される位置とを結ぶ傾斜部をさらに有し、
前記鉛直部と前記水平部と前記傾斜部との間には空洞が形成され、
前記補強板と前記木造建築物との間にはシール部材が配置され、
前記シール部材には、前記アンカーボルトを挿通するための切り込みが形成され、
前記シール部材の前記アンカーボルトの外周面に該当する位置には、接着剤を逃がすための穴が形成されていることを特徴とする。
【請求項2】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記鉛直部と前記水平部と前記傾斜部とは、一枚の板で形成されていることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記空洞は三角形であることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記鉛直部の前記木材に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部と、前記鉛直部の前記コンクリート製の基礎に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部とが、互いに直交することを特徴とする。
【請求項5】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記水平部は、少なくとも2カ所において前記木材に固定された前記アンカーボルトと連結され、
前記鉛直部の前記木材に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部と、前記鉛直部の前記コンクリート製の基礎に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部とを結んだ形状が正方形であることを特徴とする。
【請求項6】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記鉛直部と前記水平部が交わる部分において、前記補強板が前記アンカーボルトに連結されることを特徴とする。
【請求項7】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記アンカーボルトは、前記補強板に設けられた固定穴に途中まで挿入された状態で前記固定穴の残りの部分を溶接で塞ぐことにより、前記補強板と前記アンカーボルトとが連結されることを特徴とする。
【請求項8】
請求項1に記載の木造建築物の補強構造であって、
前記シール部材に形成された前記切り込みは放射状の形状を有し、
前記穴は、前記切り込み上に形成されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の補強構造に関する。特に木造軸組工法の建築物の耐震性強度を向上させるための補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地震等で木造建築物に強い荷重が加わることにより、木造建築物が損傷したり倒壊したりという事故が発生する。2016年の熊本地震において被害の激しい地域では、1981年の新耐震基準に適合した建築物であっても、多くの木造建築物が倒壊した。倒壊した建築物においては、柱、桁、梁、土台、基礎等の接合部が分離もしくは破壊してしまう例が多く見られた。耐震性向上のためには、接合部を強固に固定するための補強構造が必要である。
【0003】
本願発明者は、上記のような事情を鑑み、特許文献1に開示される木造建築物の補強構造を開発した。上記補強構造においては、接着剤を用いて複数のアンカーボルトを木造建築物に固定し、その複数のアンカーボルトに補強板を連結することによって、木造建築物の接合部を強固に補強している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、複数のアンカーボルトを補強板と連結することで木造建築物の接合部を補強するという基本思想を開示しているものの、補強板の形状やアンカーボルトと補強板の連結構造等についてはさらなる改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明は、複数のアンカーボルトを補強板と連結することで木造建築物の接合部を補強する木造建築物の補強構造であって、より耐震性や施工性を高めることが可能な補強構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、木造建築物の補強構造であって、木造建築物のコンクリート製の基礎もしくは木材に挿入されて接着剤で固定される複数のアンカーボルトと、前記複数のアンカーボルトと複数の位置で連結される補強板と、を有し、前記補強板は、少なくとも、鉛直方向に向けて配置される鉛直部と水平方向に向けて配置される水平部とを有する形状を有し、前記補強板は、前記鉛直部の少なくとも2カ所において前記木材に固定された前記アンカーボルトおよび前記コンクリート製の基礎に固定された前記アンカーボルトに連結され、前記補強板は、前記水平部の少なくとも1カ所において前記木材に固定された前記アンカーボルトに連結され、前記補強板は、前記鉛直部上の前記アンカーボルトが連結される位置と前記水平部上の前記アンカーボルトが連結される位置とを結ぶ傾斜部をさらに有し、前記鉛直部と前記水平部と前記傾斜部との間には空洞が形成されることを特徴とする。
上記のように構成された補強構造では、接着剤で固定されたアンカーボルトと補強板とで木造建築物の基礎と木材との接合部を強力に固定することにより、木造建築物の耐震性を大きく向上させることが可能である。また、補強板を鉛直部、水平部、傾斜部により構成して間に空洞を形成することにより、荷重に対する補強板の変形を抑制することができる。
【0008】
上記構成において、前記補強板と前記木造建築物との間にはシール部材が配置され、前記シール部材には、前記アンカーボルトを挿通するための切り込みが形成され、前記シール部材の前記アンカーボルトの外周面に該当する位置には、接着剤を逃がすための穴が形成されている構成とすることが好ましい。
上記のように構成された補強構造では、シール部材により補強板と木造建築物との密着性を向上することができるため、接合部の固定をより強固に行うことができる。また、アンカーボルトをシール部材の切り込みに挿入した状態で木造建築物に形成されたボルト穴に挿入すると、ボルト穴から接着剤があふれ出てくるが、シール部材におけるアンカーボルトの外周面に該当する位置には予め穴が形成されているので、あふれ出た接着剤を穴からシール部材の外側へ逃すことができる。
【0009】
前記構成において、前記鉛直部と前記水平部と前記傾斜部とは、一枚の板で形成されている構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、補強板を一枚の板で形成するため、補強板の製造コストを低く抑えられるとともに、補強板の強度を確保しやすい。
【0010】
前記構成において、前記空洞は三角形である構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、補強板全体がトラス構造のような形状を形成するため、補強板の強度を効率的に確保することができる。
【0011】
前記構成において、前記鉛直部の前記木材に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部と、前記鉛直部の前記コンクリート製の基礎に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部とが、互いに直交する構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、2つの傾斜部が互いに直交しているため、補強板の強度を向上させることができる。
【0012】
前記構成において、前記水平部は、少なくとも2カ所において前記木材に固定された前記アンカーボルトと連結され、前記鉛直部の前記木材に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部と、前記鉛直部の前記コンクリート製の基礎に固定された前記アンカーボルトが連結される位置から形成された前記傾斜部とを結んだ形状が正方形である構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、傾斜部を結んだ形状が正方形であるため、補強板の強度を向上させることができる。
【0013】
前記構成において、前記鉛直部と前記水平部が交わる部分において、前記補強板が前記アンカーボルトに連結される構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、鉛直部と水平部が交わる部分においてもアンカーボルトと補強板が連結されるため、基礎と木材との連結をより強固に行うことができる。
【0014】
前記構成において、前記アンカーボルトは、前記補強板に設けられた固定穴に途中まで挿入された状態で前記固定穴の残りの部分を溶接で塞ぐことにより、前記補強板と前記アンカーボルトとが連結される構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、ナットを使用せずにアンカーボルトと補強板とを連結することができるため、壁材や外装材の施工性を損ないにくく、木造建築物の意匠性を損ないにくい。
【0015】
前記構成において、前記シール部材に形成された前記切り込みは放射状の形状を有し、前記穴は前記切り込み上に形成される構成としてもよい。
上記のように構成された補強構造では、様々な径のアンカーボルトの対して同じシール部材を使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数のアンカーボルトを補強板と連結することで木造建築物の接合部を補強する木造建築物の補強構造であって、より耐震性や施工性を高めることができる補強構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】木造建築物の基礎と下柱の間に補強構造を装着した例を示す断面図である。
【
図3】木造建築物の下柱と上柱の間に補強構造を装着した例を示す断面図である。
【
図7】溶接により補強板をアンカーボルトに固定した状態を示す断面図である。
【
図8】ナットにより補強板をアンカーボルトに固定した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、一例として示す図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、木造建築物1に本発明の補強構造を装着する際の装着位置の例を示す図である。
図1のA、Bに示す位置において、本発明の補強構造は、木造建築物1の基礎2と下柱(1階柱)3の間に装着される。このとき、基礎2と下柱3の間もしくは近傍に配置される土台5や筋交6にも同時に装着することができる。また、
図1のC、Dに示す位置において、本発明の補強構造は、木造建築物1の下柱3と上柱(2階柱)4との間に装着される。このとき、下柱3と上柱4との間もしくは近傍に配置される桁(もしくは梁)7や筋交6にも同時に装着することができる。なお、上記で説明した装着位置は例示にすぎず、本発明の補強構造は、木造建築物において2以上の部材が連結される任意の場所に装着可能であり、特に3以上の部材が連結される場所に装着すると有効である。ここで、基礎2はコンクリート製であり、下柱3、上柱4、土台5、筋交6、桁7は木材である。
【0019】
図2は、木造建築物1の基礎2と下柱3の間に補強構造を装着した例を示す断面図である。つまり、
図1のAもしくはBの位置に補強構造を装着した例である。基礎2、下柱3、土台5のうちの複数の位置に、アンカーボルト10を挿入するためのボルト穴が設けられる。ボルト穴の形成位置について詳しくは後述する。本実施例において、アンカーボルト10は、直径が16~20mm、全長が80~200mmのものを使用している。アンカーボルト10はボルト穴に水平方向から挿入され、木造建築物1の壁面に対して垂直に配置される。アンカーボルト10とボルト穴との間には接着剤11が注入され、接着剤11によりアンカーボルト10は基礎2、下柱3、土台5に強固に固定される。接着剤11には、エポキシ樹脂モルタルであるHiltiCorporation製のHIT-RE500V3が使用される。基礎2、下柱3、土台5に一端を固定されたアンカーボルト10は、他端側で補強板20もしくは補強板30と連結される。補強板20(30)は、複数のアンカーボルト10と複数の位置で連結される。アンカーボルト10と補強板20(30)との連結方法については後述する。
【0020】
図3は、木造建築物1の下柱3と上柱4の間に補強構造を装着した例を示す断面図である。つまり、
図1のCもしくはDの位置に補強構造を装着した例である。下柱3、上柱4、桁7のうちの複数の位置に、アンカーボルト10を挿入するためのボルト穴が設けられる。アンカーボルト10はボルト穴に水平方向から挿入され、木造建築物1の壁面に対して垂直に配置される。アンカーボルト10とボルト穴との間には接着剤11が注入され、接着剤11によりアンカーボルト10は下柱3、上柱4、桁7に強固に固定される。下柱3、上柱4、桁7に一端を固定されたアンカーボルト10は、他端側で補強板20もしくは補強板30と連結される。
【0021】
図4は、補強板の一例として、補強板20を示す平面図である。補強板20は、
図1のAもしくはCの位置、つまり横方向において端部でない位置(左右両側に土台や桁がある位置)に使用される。補強板20は、所定の厚み(本実施例では9mm)を有する一枚の鋼板(一枚の板)である。補強板20は、鉛直方向に向けて配置される鉛直部21、水平方向に向けて配置される水平部22、鉛直部21の端部と水平部22の端部とを結ぶ傾斜部23を有している。鉛直部21と水平部22と傾斜部23は、それぞれ所定の幅(本実施例では70mm)を有する直線状に形成されており、鉛直部21と水平部22とが中央で直交している。補強板20全体としては、鉛直部21と水平部22の4つの端部を4つの傾斜部23が結んだ略正方形の外形形状を有する。なお、
図4に示すように正方形の角部は若干直線状に切り落とされており、厳密には八角形の形状となっているが、このような形状も含め本願では正方形の外形形状と言う。鉛直部21と水平部22と傾斜部23との間には、補強板20を厚み方向に貫通する三角形(直角二等辺三角形)の空洞24が4つ形成されている。
【0022】
鉛直部21の下端部付近には、補強板20を厚み方向に貫通する固定穴21Aが設けられている。鉛直部21の上端部付近には、補強板20を厚み方向に貫通する固定穴21Bが設けられている。水平部22の左右両端部付近には、補強板20を厚み方向に貫通する固定穴22A、22Bが設けられている。水平部22の中央付近には、補強板20を厚み方向に貫通する固定穴22Cが設けられている。固定穴22Cは、鉛直部21と水平部22が交わる部分に形成されていると言うこともできる。鉛直部21には鉛直方向に直線状に3つの貫通孔21A、22C、21Bが形成され、水平部22には水平方向に直線状に3つの貫通孔22A、22C、22Bが形成されていると言うこともできる。なお、傾斜部23は、鉛直部21上のアンカーボルト10が連結される位置(貫通孔21A、21B)と水平部22上のアンカーボルト10が連結される位置(貫通孔22A、22B)とを結んでいる。本実施例において、傾斜部23は、鉛直部21および水平部22に対して45°傾斜している。これにより、貫通孔21Aの位置から形成された傾斜部23と、貫通孔21Bの位置から形成された傾斜部23とが互いに直交する。さらに、貫通孔21Aの位置から形成された2つの傾斜部23と、貫通孔21Bの位置から形成された2つの傾斜部23とを結んだ形状が正方形となる。固定穴23Cは省略することも可能であるが、固定穴23Cを設けることにより、固定の強度を向上することが可能である。鉛直方向における貫通孔の距離(貫通孔21Aと貫通孔22Cとの距離、貫通孔22Cと貫通孔21Bとの距離)および水平方向における貫通孔の距離(貫通孔22Aと貫通孔22Cとの距離、貫通孔22Cと貫通孔22Bとの距離)は全て同一であり、本実施例では187.5mmとしている。この距離は変更することが可能であるが、180mm以上とすることが好ましい。
【0023】
以下、
図1のAの位置に補強板20を固定する場合について説明する。この場合、固定穴21Aには、基礎2に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。また、固定穴21Bには、下柱3に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。固定穴22A、22B、22Cには、土台4に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。つまり、貫通孔21Aの位置が、鉛直部21の基礎2に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となり、貫通孔21Bの位置が、鉛直部21の下柱3に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となる。以上のように、補強板20は、鉛直部21の少なくとも2カ所(貫通孔21A、21B)において下柱3(木材)に固定されたアンカーボルト10および基礎2(コンクリート)に固定されたアンカーボルト10に連結され、水平部22の少なくとも2カ所(貫通孔22A、22B)において土台5(木材)に固定されたアンカーボルト10に連結されている。
【0024】
以下、
図1のCの位置に補強板20を固定する場合について説明する。この場合、固定穴21Aには、下柱3に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。また、固定穴21Bには、上柱4に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。固定穴22A、22B、22Cには、桁7に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。つまり、貫通孔21Aの位置が、鉛直部21の下柱3に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となり、貫通孔21Bの位置が、鉛直部21の上柱4に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となる。
【0025】
図5は、補強板の別の例として、補強板30を示す平面図である。補強板30は、
図1のBもしくはDの位置、つまり横方向において端部の位置(左右のうち一方側にしか土台や桁がない位置)に使用される。補強板30は、補強板20と比較して左側の部分が省略された略直角二等辺三角形の形状を有する。以下の説明において特に説明のない部分については、補強板30は補強板20と共通の構造を有する。補強板30は、鉛直方向に向けて配置される鉛直部31、水平方向に向けて配置される水平部32、鉛直部31の端部と水平部32の端部とを結ぶ傾斜部33を有している。鉛直部31と水平部32と傾斜部33は、それぞれ所定の幅(本実施例では70mm)を有する直線状に形成されており、鉛直部31の中央から水平部32が延出している。補強板30全体としては、鉛直部31の上下端部と水平部32の右端部とを2つの傾斜部33が結んだ略二等辺三角形の外形形状を有する。なお、
図5に示すように直角二等辺三角形の角部は若干直線状に切り落とされており、厳密には六角形の形状となっているが、このような形状も含め本願では二等辺三角形の外形形状と言う。鉛直部31と水平部32と傾斜部33との間には、補強板20を厚み方向に貫通する三角形(直角二等辺三角形)の空洞34が2つ形成されている。
【0026】
鉛直部31の下端部付近には、補強板30を厚み方向に貫通する固定穴31Aが設けられている。鉛直部31の上端部付近には、補強板30を厚み方向に貫通する固定穴31Bが設けられている。水平部32の右端部付近には、補強板30を厚み方向に貫通する固定穴32Aが設けられている。水平部32の左端部付近、つまり鉛直部31の中央付近には、固定穴32Bが設けられている。固定穴32Bは、鉛直部31と水平部32が交わる部分に形成されていると言うこともできる。鉛直部31には鉛直方向に直線状に3つの貫通孔31A、32B、31Bが形成され、水平部32には水平方向に直線状に2つの貫通孔32A、32Bが形成されていると言うこともできる。なお、傾斜部33は、鉛直部31上のアンカーボルト10が連結される位置(貫通孔31A、31B)と水平部32上のアンカーボルト10が連結される位置(貫通孔32A)とを結んでいる。本実施例において、傾斜部33は、鉛直部31および水平部32に対して45°傾斜している。これにより、貫通孔31Aの位置から形成された傾斜部33と、貫通孔31Bの位置から形成された傾斜部33とが互いに直交する。固定穴32Bは省略することも可能であるが、固定穴32Bを設けることにより、固定の強度を向上することが可能である。
【0027】
以下、
図1のBの位置に補強板30を固定する場合について説明する。この場合、固定穴31Aには、基礎2に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。また、固定穴31Bには、下柱3に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。固定穴32A、32Bには、土台4に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。つまり、貫通孔31Aの位置が、鉛直部21の基礎2に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となり、貫通孔31Bの位置が、鉛直部21の下柱3に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となる。以上のように、補強板30は、鉛直部31の少なくとも2カ所(貫通孔31A、31B)において下柱3(木材)に固定されたアンカーボルト10および基礎2に固定されたアンカーボルト10に連結され、水平部32の少なくとも1カ所(貫通孔32A)において土台5(木材)に固定されたアンカーボルト10に連結されている。
【0028】
以下、
図1のDの位置に補強板30を固定する場合について説明する。この場合、固定穴31Aには、下柱3に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。また、固定穴31Bには、上柱4に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。固定穴32A、32Bには、桁7に固定されたアンカーボルト10が挿通されて連結される。つまり、貫通孔31Aの位置が、鉛直部31の下柱3に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となり、貫通孔31Bの位置が、鉛直部31の上柱4に固定されたアンカーボルト10が連結される位置となる。
【0029】
図5において、補強板30は左側に鉛直部31が位置し、右側に2つの傾斜部33が
位置している。しかしながら、この配置は補強板30の配置の一例に過ぎない。補強板30を
図5の状態から180°回転させて、鉛直部31が右側に位置した状態で木造建築物1に補強板30を固定することも可能である。また、補強板30を
図5の状態から90°回転させて、鉛直部31を水平に、水平部32を鉛直に配置することも可能である。
【0030】
図6は、シール部材40の一例を示す平面図である。シール部材40は、補強板20または補強板30と木造建築物1との間に配置されるゴム製の部材である。シール部材40は、外形が正八角形のシート(薄板)状に形成されている。シール部材40の中央(中心)には、アンカーボルトを挿入して貫通させるための切り込み41が形成されている。シール部材40は、中央から8方向に45°間隔で均等に延びる放射状の形状を有している。切り込み41の中央にアンカーボルト10を挿通することにより、シール部材40の中央部分がアンカーボルト10の外径に合わせて折り返される。
【0031】
シール部材40の切り込み41上には、接着剤11を逃がすための穴42が形成されている。穴42は、シール部材を厚み方向に貫通する直径が3mm程度の円形の穴であり、アンカーボルト10の外周面に該当する位置に設けられている。ここで、外周面に該当する位置とは、シール部材40の中央にアンカーボルト10を挿入したときに、アンカーボルト10のネジ部分の外周面に接触する付近の位置であり、必ずしも外周面の位置と厳密に一致していることを意味していない。少なくとも穴42の一部がアンカーボルト1の外周面に該当する位置に接していればよい。穴42が設けられることにより、ボルト穴に対して必要量以上に接着剤11を挿入した場合でも、穴42を通じて接着剤11を外側(木造建築物1側から補強板20、30側)へ逃すことができる。このため、接着剤11の使用量を厳密に計測することなく接着剤11をボルト穴に注入することができるため、施工性が向上する。また、穴42がない場合には接着剤11を注入しすぎないようにという配慮から接着剤11の使用量が不足する恐れがあるが、穴42を設けることにより接着剤11が穴42から外側に排出されるまで十分に接着剤11を注入することができ、十分な接着性を確保することができる。
【0032】
図6において、穴42は1カ所のみに形成されているが、穴42の数はこれに限定されない。穴42は、シール部材40の複数の位置に設けられていても良い。穴42を複数の位置に設ける場合、シール部材の中央から同一距離(
図6の破線上)に複数の穴を設けても良いし、中央からの距離を少しずつずらして穴を形成してもよい。中央からの距離をずらすことにより、異なる径を有するアンカーボルト10を使用した場合でも、いずれかの穴がアンカーボルト1の外周面に位置する可能性が高まる。
【0033】
以下、本発明の補強構造を木造建築物1に装着する手順を説明する。補強板20を例に説明するが、補強板30の場合でも固定するボルトの数が異なるのみで手順は同様である。最初に、木造建築物1のアンカーボルト10を配置する位置に、アンカーボルト10を挿通するためのボルト穴を、ドリル等を使用して水平方向に向けて穿設する。ボルト穴の中心とシール部材40の中心とを合わせた状態で、シール部材40を木造建築物1にビス等で固定する。ボルト穴に接着剤11を挿入した後、アンカーボルト10の一端をシール部材40の外側からボルト穴に挿入する。シール部材40の中央部はアンカーボルト10の外径の位置で内側(木造建築物1側)へ折り返される。アンカーボルト10がボルト穴に挿入される際に、接着剤11はボルト穴の中から押し出され、穴42を経由して補強板20側へ排出される。十分な時間(3時間程度)が経過してボルト穴内部に注入された接着剤11が乾燥すると、アンカーボルト10がボルト穴に強固に固定される。なお、接着剤11が乾燥するのを待たずに次の工程へ進んでもよい。
【0034】
次に、補強板20をアンカーボルト10に連結(固定)する。補強板20の固定穴21A、21B、21C、22A、22B、22Cのいずれにおいてもアンカーボルト10への連結方法は同一であるため、以下では固定穴21Aにおいて補強板20をアンカーボルト10に連結する場合を例に説明する。
図7は、溶接により補強板20をアンカーボルト10に固定した状態を示す断面図である。一端側で木造建築物1に固定されたアンカーボルト10の他端側を、補強板20の固定穴21Aの板厚方向の途中(中間位置程度)まで挿入する。この状態で固定穴21Aの残り部分を溶接(アーク溶接)で塞ぐ。これにより、アンカーボルト10の他端側と補強板20の固定穴21Aとを連結し固定する。溶接により形成された部分を溶接部25と呼ぶ。
図7に示すように、溶接部25が固定穴21Aの残り半分を埋めた状態となる。これにより、ナットを使用せずにアンカーボルト10と補強板20とを連結し固定することができる。補強板20の外側にナットを露出させずに、アンカーボルト10と補強板20とを連結することができるため、壁材や外装材の施工性を損ないにくい。また、補強構造が木造建築物1の外側に露出する場合でも木造建築物1の意匠性を損ないにくい。
【0035】
補強板20、30とアンカーボルト10との別の固定方法の例を説明する。
図8は、ナット50により補強板20をアンカーボルト10に固定した状態を示す断面図である。一端側で木造建築物1に固定されたアンカーボルト10の他端側に補強板20を挿通する。このとき、補強板20の両側からナット50をアンカーボルト10に挿通し、ナット50をアンカーボルト10に形成されたネジ溝に螺合することにより、補強板20をアンカーボルト10に固定する。ナット50は、補強板20の両側に2つずつ配置されたダブルナットを使用することにより、補強板20をアンカーボルト10に強固に固定することができる。ナット50と補強板20との間には、ワッシャ等のシール部材51、52を挿入する。
【0036】
以上説明したように、本発明の補強構造においては、木造建築物の各部材の接合部、特にコンクリート製の基礎と下柱や土台等の木材とを、複数のアンカーボルトと補強板とで強固に補強することで、木造建築物の耐震性を大きく向上させることが可能である。外径が比較的大きなアンカーボルトを基礎や木材に接着剤で固定することにより、アンカーボルトを引き抜く方向に相当の力が加わってもアンカーボルトは容易には抜けない。また、高強度の補強板に複数のアンカーボルトを強固に連結しているため、各部材の接合部を引き離す方向に力が加わっても、補強板は変形しにくく各部材の接合を維持することができる。補強板が鉛直部、水平部、傾斜部を有することにより、木造建築物の様々な接合部に補強構造を設置可能としている。鉛直部と水平部と傾斜部との間には三角形(直角二等辺三角形)の空洞が形成されており、補強板全体がトラス構造のような形状を形成するため、空洞がない場合と比較して補強板を形成する板材の量(面積)が減少しているにも関わらず、荷重に対する補強板の変形を抑制することができる。
【0037】
補強板と木造建築物との間にシール部材を配置することにより、補強板とアンカーボルトとの密着性を向上することができるため、木造建築物の接合部の連結をより強固に行うことができる。また、シール部材が木造建築物の側に密着することにより、アンカーボルトと木造建築物との接合部分が外部に露出されにくくなり、当該接合部分を長期にわたって保護することができる。シール部材には切り込みを形成し、シール部材の切り込みにアンカーボルトを挿入した状態でアンカーボルトを木造建築物に形成されたボルト穴に挿入する。ボルト穴には接着剤が注入されており、アンカーボルトをボルト穴に挿入するとボルト穴から接着剤があふれ出てくる。ここで、シール部材におけるアンカーボルトの外周面に該当する位置には予め穴が形成されているので、余分な接着剤を穴から外側へ逃すことができる。このようにして、アンカーボルトをボルト穴に挿入するときに、接着剤を逃しやすくなり、アンカーボルトを十分深く挿入できるとともに、接着剤をボルト穴に十分に注入することができる。さらに、ボルト穴およびシール部材の穴から排出された接着剤がシール部材と木造建築物およびシール部材と補強板とを接着するのに役立ち、補強性能をより向上させることができる。
【0038】
前記実施例において、直径が16~20mm、全長が80~200mmのアンカーボルトを使用しているが、使用するアンカーボルトはこれに限られない。使用する部位や求められる補強強度に応じて直径や全長を適宜選択可能である。
【0039】
前記実施例において、エポキシ樹脂モルタルを接着剤として使用しているが、接着剤はこれに限られない。他の樹脂接着剤や樹脂接着剤以外の接着剤を使用することも可能である。例えば、サンコーテクノ株式会社製のARケミカルセッターEX350を接着剤として使用することも可能である。
【0040】
前記実施例において、補強板は、一枚の鋼板で形成されているが、複数の鋼板を組み合わせて鉛直部、水平部、傾斜部を形成してもよい。また、十分な強度を有する部材を使用する限り、鋼板以外の部材で補強板を形成することも可能である。
【0041】
前記実施例において、補強板の傾斜部は、鉛直部および水平部に対して45°傾斜しているが、傾斜角度はこれに限られない。また、2つの傾斜部は必ずしも互いに直交する必要はない。よって、補強板の外形が正方形や直角二等辺三角形でなくても、本発明は実現可能である。
【0042】
前記実施例において、鉛直部と水平部と傾斜部との間には、三角形(直角二等辺三角形)の空洞が形成されている。ここで、三角形(直角二等辺三角形)の空洞とは、空洞の概略形状が三角形(直角二等辺三角形)であることを意味する。よって、直角部分が厳密に直角でないもの、二等辺の長さが厳密に同一でないもの等も直角二等辺三角形に含まれるし、三角形の頂点が丸みを帯びているもの、三角形の各辺が湾曲しているもの、三角形の各辺の途中に膨らみや窪みを有するもの等も三角形に含まれる。また、補強板が鉛直部と水平部と傾斜部を有している限り、空洞の形状が三角形でなくても、本発明は実現可能である。
【0043】
前記実施例において、シール部材の外形が正八角形であり、シール部材の中央には放射状の切り込みが形成されているが、シール部材の形状はこれに限定されない。例えば、シール部材は円形形状であってもよい。また、切り込みを形成する位置は必ずしもシール部材の中央でなくてもよい。切り込みはアンカーボルトを貫通させることができる形状を有していればよく、切り込みの形状は放射状に限られない。切り込みは、直線状、円形状、矩形状等の形状を有していてもよい。
【0044】
前記実施例において、本発明の補強構造は、新築の木造建築物の建築途中で装着する前提で説明しているが、本発明の補強構造を建築済みの木造建築物に装着して耐震性を改善する手段とすることも可能である。
【0045】
なお、本発明は前記実施例に限られるものでないことは言うまでもない。当業者であれば言うまでもないことであるが、
・前記実施例の中で開示した相互に置換可能な部材および構成等を適宜その組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術であって前記実施例の中で開示した部材および構成等と相互に置換可能な部材および構成等を適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
・前記実施例の中で開示されていないが、公知技術等に基づいて当業者が前記実施例の中で開示した部材および構成等の代用として想定し得る部材および構成等と適宜置換し、またその組み合わせを変更して適用すること
は本発明の一実施例として開示されるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…木造建築物、2…基礎、3…下柱、4…上柱、5…土台、6…筋交、7…桁、10…アンカーボルト、11…接着剤、20…補強板、21…鉛直部、22…水平部、23…傾斜部、24…空洞、25…溶接部、30…補強板、31…鉛直部、32…水平部、33…傾斜部、34…空洞、40…シール部材、41…切り込み、42…穴、50…ナット。