(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120539
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】果房収穫量予測方法及び果房収穫量予測システム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20220810BHJP
G06Q 50/02 20120101ALI20220810BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017492
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】513088294
【氏名又は名称】株式会社オーガニックnico
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】中村 新
(72)【発明者】
【氏名】高屋 智久
(72)【発明者】
【氏名】米山 仰
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰子
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】日射量及び温度とともに葉面積を用いて、果菜類や果樹類の果房の収穫量を算出することができる果房収穫量予測方法及び果房収穫量予測システムを提供すること。
【解決手段】本発明の果房収穫量予測方法は、単位時間における日射量から植物が受ける受光量を算出する受光量算出ステップと、単位時間における温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出ステップと、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出する果実重量算出ステップとを有する果房収穫量予測方法であって、受光量算出ステップでは植物の葉面積を用い、植物の葉身が受ける葉受光量を受光量として算出することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位時間における日射量から植物が受ける受光量を算出する受光量算出ステップと、
前記単位時間における温度と前記受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出ステップと、
収穫時までの前記光合成産物量を加算するとともに、前記光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出する果実重量算出ステップと
を有する果房収穫量予測方法であって、
前記受光量算出ステップでは前記植物の葉面積を用い、前記植物の葉身が受ける葉受光量を前記受光量として算出する
ことを特徴とする果房収穫量予測方法。
【請求項2】
前記葉面積には、所定枚数の前記葉身が展開した後であって、前記葉面積が一定となるまで成長した前記葉身を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の果房収穫量予測方法。
【請求項3】
前記植物の品種に応じた標準葉面積と、前記標準葉面積を基準にした葉面積ランクとを設定し、
前記受光量算出ステップでは、前記葉面積ランクに応じた係数を用いて前記葉受光量を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の果房収穫量予測方法。
【請求項4】
前記果実重量算出ステップでは、前記植物の栽培密度を用いて前記果房収穫量を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の果房収穫量予測方法。
【請求項5】
前記受光量算出ステップでは、前記植物が栽培される環境の下での光線透過率を用いて前記受光量を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の果房収穫量予測方法。
【請求項6】
前記光合成産物量算出ステップでは、前記植物が栽培される前記環境の下での二酸化炭素濃度又は飽差を用いて前記光合成産物量を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の果房収穫量予測方法。
【請求項7】
前記果房の成熟時期を算出する成熟時期算出ステップを有し、
前記成熟時期算出ステップでは、前記植物の第1花が開花した後からの積算温度を用いて前記成熟時期を算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の果房収穫量予測方法。
【請求項8】
栽培する植物の品名、品種、及び葉面積を含む植物パラメータ、前記植物を栽培する施設における日射量及び温度を含む環境パラメータ、及び前記植物の栽培密度を含む植付パラメータを記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された前記植物パラメータ、前記環境パラメータ、及び前記植付パラメータを用いて前記植物の果房収穫量を算出する算出手段と
を有する果房収穫量予測システムであって、
前記算出手段は、
単位時間における前記日射量から前記植物が受ける受光量を算出する受光量算出部と、
前記単位時間における前記温度と前記受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出部と、
収穫時までの前記光合成産物量を加算するとともに、前記光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて前記果房収穫量を算出する果実重量算出部と
を備え、
前記受光量算出部では前記葉面積を用い、前記植物の葉身が受ける葉受光量を前記受光量として算出し、
前記果実重量算出部では前記栽培密度を用いて前記果房収穫量を算出する
ことを特徴とする果房収穫量予測システム。
【請求項9】
前記記憶手段には、前記環境パラメータとして、前記植物が栽培される環境の下での光線透過率、二酸化炭素濃度、及び飽差を記憶し、
前記受光量算出部では、前記光線透過率を用いて前記受光量を算出し、
前記光合成産物量算出部では、前記二酸化炭素濃度及び前記飽差を用いて前記光合成産物量を算出する
ことを特徴とする請求項8に記載の果房収穫量予測システム。
【請求項10】
栽培中の前記植物について、前記植物の品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを入力できる入力手段を有し、
前記記憶手段には、前記植物パラメータとして、前記入力手段から入力された前記葉面積ランクを記憶し、
前記受光量算出部では、前記葉面積ランクに応じた係数を用いて前記葉受光量を算出する
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の果房収穫量予測システム。
【請求項11】
栽培中の前記植物について開花タイミングを入力できる入力手段と、
前記果房の成熟時期を算出する成熟時期算出部と
を有し、
前記記憶手段には、前記植物パラメータとして前記開花タイミングを記憶し、
前記成熟時期算出部では、前記開花タイミングからの積算温度を用いて前記成熟時期を算出する
ことを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の果房収穫量予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培管理状態を異にする複数の作付グループについての予測収穫量を時系列的に出力できる果房収穫量予測方法及び果房収穫量予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
農作物を栽培する生産者は、農作物がいつ頃どれだけの量が収穫可能であるかを予測することができると、作付け前の段階で、各種作業、出荷販売や設備投資の計画を効率よく的確に立案することができる。また、収穫が始まってからの短期的な収穫量予測ができると、その後の作業に関して効率的な人員配置の立案を行なえ、販売先に対して効果的な営業活動を行うことができる。また、農作物の仕入れ業者は、複数の生産者からその品目を購入しようとするときに、複数の生産者からいつ頃どれだけ出荷することができるかを事前に把握することで購入計画の立案などを行うことができる。
特許文献1は、収穫時期の予測方法について開示している。
特許文献2は、過去の予想収穫量と過去の実績収穫量との差分を基にニューラルネットワークで補正値を算出し、短期的な予測収穫量を正確に算出する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5853780号
【特許文献2】特開2002-136223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、有効積算温度と気象データの中の温度データを基に、いつ定植するといつ収穫できるのか、という予測を立てることができるが、収穫量の予測を立てることはできない。
特許文献2は、栽培スケジュールと作付面積を基に概略の予想収穫量をいったん求め、この予想収穫量と過去の実績収穫量の差分を基にニューラルネットワークを用いた推論を入れて補正するものである。この予想方式は、既にある程度の収穫実績がある場合、その延長線上の収穫量を予測するものであって、過去の実績データがない初めての土地、初めての圃場における予測はできない。また、トマトなど果菜類の収穫量はそもそも葉面積に大いに依存しており、たとえば高糖度トマトの栽培では、意図的に潅水量を少なくすることで作物にストレスをかけて高糖度を実現するが、ストレスをかけることで葉面積は小さくなり光合成量が減り、1株当たりの収穫量が減るが、栽植密度を上げることである程度圃場全体の収穫量をカバーすることができる。また、品種によって葉面積が異なり、それぞれに収穫量が最大となる栽植密度が異なるが、栽植密度の最適化は何年か栽培してみないとわからない、というのが実態であった。
このように、実際の栽培では、各種要因で葉面積が異なるが、従来の収穫量予測においては葉面積の概念が無いので正確な収穫量予測ができないという問題点があった。また、ハウス栽培では、窓の開閉による温度調整や、遮光カーテンの展開による日射量調整で、ある程度環境条件を人為的に変更することが可能であるが、公知の技術においてはこのような変更に対して収穫量がどのように変化するのかを予測することはできない。
【0005】
本発明は、日射量及び温度とともに葉面積を用いて、果菜類や果樹類の果房の収穫量を算出することができる果房収穫量予測方法及び果房収穫量予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の果房収穫量予測方法は、単位時間における日射量から植物が受ける受光量を算出する受光量算出ステップと、前記単位時間における温度と前記受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出ステップと、収穫時までの前記光合成産物量を加算するとともに、前記光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出する果実重量算出ステップとを有する果房収穫量予測方法であって、前記受光量算出ステップでは前記植物の葉面積を用い、前記植物の葉身が受ける葉受光量を前記受光量として算出することを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の果房収穫量予測方法において、前記葉面積には、所定枚数の前記葉身が展開した後であって、前記葉面積が一定となるまで成長した前記葉身を用いることを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の果房収穫量予測方法において、前記植物の品種に応じた標準葉面積と、前記標準葉面積を基準にした葉面積ランクとを設定し、前記受光量算出ステップでは、前記葉面積ランクに応じた係数を用いて前記葉受光量を算出することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の果房収穫量予測方法において、前記果実重量算出ステップでは、前記植物の栽培密度を用いて前記果房収穫量を算出することを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の果房収穫量予測方法において、前記受光量算出ステップでは、前記植物が栽培される環境の下での光線透過率を用いて前記受光量を算出することを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の果房収穫量予測方法において、前記光合成産物量算出ステップでは、前記植物が栽培される前記環境の下での二酸化炭素濃度又は飽差を用いて前記光合成産物量を算出することを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の果房収穫量予測方法において、前記果房の成熟時期を算出する成熟時期算出ステップを有し、前記成熟時期算出ステップでは、前記植物の第1花が開花した後からの積算温度を用いて前記成熟時期を算出することを特徴とする。
請求項8記載の本発明の果房収穫量予測システムは、栽培する植物の品名、品種、及び葉面積を含む植物パラメータ21、前記植物を栽培する施設における日射量及び温度を含む環境バラメータ22、及び前記植物の栽培密度を含む植付パラメータ23を記憶する記憶手段20と、前記記憶手段20に記憶された前記植物パラメータ21、前記環境バラメータ22、及び前記植付パラメータ23を用いて前記植物の果房収穫量を算出する算出手段30とを有する果房収穫量予測システムであって、前記算出手段30は、単位時間における前記日射量から前記植物が受ける受光量を算出する受光量算出部31と、前記単位時間における前記温度と前記受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出部32と、収穫時までの前記光合成産物量を加算するとともに、前記光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて前記果房収穫量を算出する果実重量算出部33とを備え、前記受光量算出部31では前記葉面積を用い、前記植物の葉身が受ける葉受光量を前記受光量として算出し、前記果実重量算出部33では前記栽培密度を用いて前記果房収穫量を算出することを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載の果房収穫量予測システムにおいて、前記記憶手段20には、前記環境バラメータ22として、前記植物が栽培される環境の下での光線透過率、二酸化炭素濃度、及び飽差を記憶し、前記受光量算出部31では、前記光線透過率を用いて前記受光量を算出し、前記光合成産物量算出部32では、前記二酸化炭素濃度及び前記飽差を用いて前記光合成産物量を算出することを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項8又は請求項9に記載の果房収穫量予測システムにおいて、栽培中の前記植物について、前記植物の品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを入力できる入力手段10を有し、前記記憶手段20には、前記植物パラメータ21として、前記入力手段10から入力された前記葉面積ランクを記憶し、前記受光量算出部31では、前記葉面積ランクに応じた係数を用いて前記葉受光量を算出することを特徴とする。
請求項11記載の本発明は、請求項8又は請求項9に記載の果房収穫量予測システムにおいて、栽培中の前記植物について開花タイミングを入力できる入力手段10と、前記果房の成熟時期を算出する成熟時期算出部34とを有し、前記記憶手段20には、前記植物パラメータ21として前記開花タイミングを記憶し、前記成熟時期算出部34では、前記開花タイミングからの積算温度を用いて前記成熟時期を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、収穫量に大きな影響を与える植物の葉面積を用いて受光量を算出し、温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出し、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出するため、果菜類や果樹類の果房の収穫量を正確に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例における果房収穫量予測システムのブロック図
【
図2】本発明の一実施例における果房収穫量予測方法のフロー図
【
図3】栽培密度(株間)と収穫量との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による果房収穫量予測方法は、受光量算出ステップでは植物の葉面積を用い、植物の葉身が受ける葉受光量を受光量として算出するものである。本実施の形態によれば、収穫量に大きな影響を与える植物の葉面積を用いて受光量を算出し、温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出し、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出するため、果菜類や果樹類の果房の収穫量を正確に予測することができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による果房収穫量予測方法において、葉面積には、所定枚数の葉身が展開した後であって、葉面積が一定となるまで成長した葉身を用いるものである。本実施の形態によれば、全ての葉身の葉面積を計測することなく、特定の葉身を計測することで、正確な収穫量を予測することができる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による果房収穫量予測方法において、植物の品種に応じた標準葉面積と、標準葉面積を基準にした葉面積ランクとを設定し、受光量算出ステップでは、葉面積ランクに応じた係数を用いて葉受光量を算出するものである。本実施の形態によれば、品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを用いることで、計測の負担を軽減して収穫量の予測精度を維持することができる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれかの実施の形態による果房収穫量予測方法において、果実重量算出ステップでは、植物の栽培密度を用いて果房収穫量を算出するものである。本実施の形態によれば、葉面積と栽培密度との相関性を考慮した収穫量を算出できる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4のいずれかの実施の形態による果房収穫量予測方法において、受光量算出ステップでは、植物が栽培される環境の下での光線透過率を用いて受光量を算出するものである。本実施の形態によれば、より正確に植物が受ける受光量を算出できる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第5の実施の形態による果房収穫量予測方法において、光合成産物量算出ステップでは、植物が栽培される環境の下での二酸化炭素濃度又は飽差を用いて光合成産物量を算出するものである。本実施の形態によれば、より正確に光合成産物量を算出できる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第1から第6のいずれかの実施の形態による果房収穫量予測方法において、果房の成熟時期を算出する成熟時期算出ステップを有し、成熟時期算出ステップでは、植物の第1花が開花した後からの積算温度を用いて成熟時期を算出するものである。本実施の形態によれば、成熟時期を算出することで収穫タイミングを予測することができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態による果房収穫量予測システムは、算出手段が、単位時間における日射量から植物が受ける受光量を算出する受光量算出部と、単位時間における温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出部と、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出する果実重量算出部とを備え、受光量算出部では葉面積を用い、植物の葉身が受ける葉受光量を受光量として算出し、果実重量算出部では栽培密度を用いて果房収穫量を算出するものである。本実施の形態によれば、収穫量に大きな影響を与える植物の葉面積を用いて受光量を算出し、温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出し、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出するため、果菜類や果樹類の果房の収穫量を正確に予測することができる。また、本実施の形態によれば、葉面積と栽培密度との相関性を考慮した収穫量を算出できる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態は、第8の実施の形態による果房収穫量予測システムにおいて、記憶手段には、環境パラメータとして、植物が栽培される環境の下での光線透過率、二酸化炭素濃度、及び飽差を記憶し、受光量算出部では、光線透過率を用いて受光量を算出し、光合成産物量算出部では、二酸化炭素濃度及び飽差を用いて光合成産物量を算出するものである。本実施の形態によれば、より正確に植物が受ける受光量を算出でき、より正確に光合成産物量を算出できる。
【0018】
本発明の第10の実施の形態は、第8又は第9の実施の形態による果房収穫量予測システムにおいて、栽培中の植物について、植物の品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを入力できる入力手段を有し、記憶手段には、植物パラメータとして、入力手段から入力された葉面積ランクを記憶し、受光量算出部では、葉面積ランクに応じた係数を用いて葉受光量を算出するものである。本実施の形態によれば、品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを用いることで、計測の負担を軽減して収穫量の予測精度を維持することができる。
【0019】
本発明の第11の実施の形態は、第8又は第9の実施の形態による果房収穫量予測システムにおいて、栽培中の植物について開花タイミングを入力できる入力手段と、果房の成熟時期を算出する成熟時期算出部とを有し、記憶手段には、植物パラメータとして開花タイミングを記憶し、成熟時期算出部では、開花タイミングからの積算温度を用いて成熟時期を算出するものである。本実施の形態によれば、成熟時期を算出することで収穫タイミングを予測することができる。
【実施例0020】
以下に、本発明の果房収穫量予測システムの一実施例について説明する。
図1は本発明の一実施例における果房収穫量予測システムのブロック図である。
図1に示すように、本実施例における果房収穫量予測システムは、入力手段10と、記憶手段20と、算出手段30と、出力手段40とを有する。
【0021】
入力手段10では、栽培中の植物について、植物の品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランク、及び栽培中の植物について開花タイミングを入力できる。
記憶手段20には、栽培する植物の品名、品種、及び葉面積を含む植物パラメータ21、植物を栽培する施設における日射量及び温度を含む環境パラメータ22、及び植物の栽培密度を含む植付パラメータ23を記憶する。
入力手段10から入力された葉面積ランク及び開花タイミングは、植物パラメータ21として記憶される。
記憶手段20には、植物パラメータ21として、更に光合成産物量が果房に転流する転流率を記憶している。光合成産物の総量のうちの一定の比率が果実への転流量となるため、この比率を転流率としている。植物パラメータ21には、環境パラメータ22に応じた生育進行モデルを含んでいる。
【0022】
記憶手段20には、環境パラメータ22として、更に植物が栽培される環境の下での光線透過率、二酸化炭素濃度、及び飽差を記憶している。
環境パラメータ22は、例えば、アメダス(AMeDAS:Automated Meteorological Data Acquisition System)などの気象データ収集システムによる気象観測データを取り込むことができるが、栽培管理の対象となる実際の圃場やハウス内の計測データを取り込むこともできる。また、気象観測データに対してビニールハウスや保温トンネルなどの影響を加味した補正データを用いることもできる。
【0023】
植付パラメータ23である植物の栽培密度は、株間、枝本数、条数、及び畝幅の少なくともいずれかで決定される。植付パラメータ23には、播種日、定植日、及び撤収日を含んでいる。植付パラメータ23は入力手段10によって入力され、播種日、定植日、及び撤収日は、予定日又は実施日が入力される。
【0024】
算出手段30は、記憶手段20に記憶された植物パラメータ21、環境パラメータ22、及び植付パラメータ23を用いて植物の果房収穫量を算出する。
算出手段30は、単位時間における日射量から植物が受ける受光量を算出する受光量算出部31と、単位時間における温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出する光合成産物量算出部32と、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出する果実重量算出部33と、果房の成熟時期を算出する成熟時期算出部34と、時系列に収穫量を算出する時系列収穫量算出部35とを備えている。
【0025】
受光量算出部31では、葉面積を用い、植物の葉身が受ける葉受光量を受光量として算出する。なお、入力手段10から入力された葉面積ランクに応じた係数を用いて葉受光量を算出することが好ましい。葉面積ランクは、最もシンプルには、品種に応じた標準葉面積と同じ葉面積を標準ランクとし、標準葉面積より小さい葉面積を小ランクとし、標準葉面積より大きい葉面積を大ランクとする3択とすることができる。
また受光量算出部31では、光線透過率を用いて受光量を算出する。
光合成産物量算出部32では、二酸化炭素濃度及び飽差の少なくとも一方を用いて光合成産物量を算出することが好ましい。
果実重量算出部33では栽培密度を用いて果房収穫量を算出することが好ましい。
成熟時期算出部34では、開花タイミングからの積算温度を用いて成熟時期を算出する。
時系列収穫量算出部35では、果実重量算出部33で算出した果実重量と、成熟時期算出部34で算出した成熟時期によって、何月何日に何kg収穫できるのかという、日単位で時系列の収穫量を算出する。
【0026】
出力手段40では、算出手段30で算出された収穫量を時系列的に出力する。
【0027】
このように、本実施例における果房収穫量予測システムは、収穫量に大きな影響を与える植物の葉面積を用いて受光量を算出し、温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出し、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出するため、果菜類や果樹類の果房の収穫量を正確に予測することができる。また、本実施例によれば、葉面積と栽培密度との相関性を考慮した収穫量を算出できる。
また、本実施例における果房収穫量予測システムは、光線透過率を用いて受光量を算出し、二酸化炭素濃度及び飽差を用いて光合成産物量を算出することで、より正確に植物が受ける受光量を算出でき、より正確に光合成産物量を算出できる。
また、本実施例における果房収穫量予測システムは、品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを用いることで、計測の負担を軽減して収穫量の予測精度を維持することができる。
また、本実施例における果房収穫量予測システムは、成熟時期を算出することで収穫タイミングを予測することができる。
【0028】
図2は本発明の一実施例における果房収穫量予測方法のフロー図である。
受光量算出ステップ(S1)では、隣接する株の葉身を含め、多層に重なった葉身の最上部での施設内の日射量から、多層に重なった個々の葉身に当たる光量を個々の葉身の葉面積と光線透過率を用いて、植物が受ける受光量を算出する。このように、受光量算出ステップ(S1)では、植物の葉面積を用い、植物の葉身が受ける葉受光量を受光量として算出する。
葉面積には、所定枚数の葉身が展開した後であって、葉面積が一定となるまで成長した葉身を用いることができる。全ての葉身の葉面積を計測することなく、特定の葉身を計測することで、正確な収穫量を予測することができる。
また、植物の品種に応じた標準葉面積と、標準葉面積を基準にした葉面積ランクとを設定し、受光量算出ステップ(S1)では、葉面積ランクに応じた係数を用いて葉受光量を算出することができる。このように、品種に応じた標準葉面積を基準にした葉面積ランクを用いることで、計測の負担を軽減して収穫量の予測精度を維持することができる。
なお、受光量算出ステップ(S1)では、植物が栽培される施設における環境の下での光線透過率を用いて受光量を算出することで、より正確に植物が受ける受光量を算出できる。
【0029】
光合成産物量算出ステップ(S2)では、受光量算出ステップ(S1)で算出した受光量と温度とを用いて光合成産物量を算出する。個々の葉身の光合成速度は温度にも依存する。従って、温度に対する関数を数式化した上で、個々の葉身の光合成産物量を算出する。
ここで、光合成産物量算出ステップ(S2)における光合成産物量の算出では、例えば1時間単位(単位時間)ごとに温度と日射量に基づいて行う。植物がトマトの場合では、個々の葉身からそれに対応した果房の転流率がおおよそ決まっているため、その転流率に基づいて果房ごとに分配される光合成産物量を求めることができ、予測精度が向上する。
更に、環境パラメータ22として日射量と温度だけでなく、二酸化炭素濃度や飽差に関しても、それぞれに関数を数式化した上で光合成産物量を求める計算式に組み込んでも良い。
光合成産物量算出ステップ(S2)では、植物が栽培される環境の下での二酸化炭素濃度又は飽差を用いて光合成産物量を算出することで、より正確に光合成産物量を算出できるとともに、二酸化炭素濃度制御や飽差制御という高度な制御を行う場合にも収穫量の予測を行える。
【0030】
果実重量算出ステップ(S3)では、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出する。このように、個々の葉身の光合成産物の総量のうち一定の比率を果実への転流量として収穫量を求めることができる。
【0031】
成熟時期算出ステップ(S4)では、植物の第1花が開花した後からの積算温度を用いて果房ごと果実ごとの成熟時期を算出する。
時系列収穫量算出ステップ(S5)では、果実重量算出部33で算出した果実重量と、成熟時期算出部34で算出した成熟時期によって、日単位で時系列の収穫量を算出する。
トマトの果実は一つの果房に数個、ミニトマトの果実は一つの果房に数十個である。これらは開花から成熟するまでの間、果房と果房の間、果房の中の果実と果実の間、それぞれに概ね積算温度に比例して成熟が進行していく。これらの関係を数式化することで、定植前後に第1果房の第1花が開花し、その後順次果房や果実の成熟が進行していく状態を、積算温度を基に算出することができる。これら成熟時期の計算はたとえば1時間単位(単位時間)の温度に基づいて行う。このように、成熟時期を算出することで収穫タイミングを予測することができる。
トマトの場合では、まず光合成産物の転流によって果実が肥大し、肥大がほぼ終わってしばらくして成熟、すなわち収穫時期を迎える。従って、例えば、1時間ごとの光合成産物の量と転流率に基づいて果実の肥大量を算出し、一方で積算温度に基づいて成熟時期を算出し、成熟時期に達した時点での肥大量によって果房収穫量を出力することができる。
【0032】
光合成産物量から果房収穫量を算出する果実重量算出ステップ(S3)と、果房ごと果実ごとの成熟時期を算出する成熟時期算出ステップ(S4)によって、日ごと、週ごとなどで、どれだけの収穫量が得られるかを予測でき、出力手段40で表示することができる。
【0033】
図3は、栽培密度(株間)と収穫量との関係を示すグラフである。
図3では、葉面積を大、中(標準)、小としたパラメータ1と、温度条件が一定で照度条件を変更したパラメータ2とし、それぞれに株間と栽培期間全体の総収穫量予測値との関係をグラフにしている。
図3に示すように、葉面積が小さい場合は株間が狭い(栽植密度が高い)ところで収穫量が最大となり、葉面積が大きいと株間が広い(栽植密度が低い)ところで収穫量が最大となる。これは、隣接する株の葉身同士の重なりがあるため、葉面積が大きい場合は隣接する株の葉身の重なりの影響が大きいことによる。また、照度を低くすると全体的に総収穫量が低下するとともに総収穫量が最大となる株間も広くなる。これは隣接する株の葉身同士が重なることによって、元々少ない光量がさらに下方の葉身に届きにくいことによる。
従って、果実重量算出ステップ(S3)では、植物の栽培密度を用いて果房収穫量を算出するので、葉面積と栽培密度との相関性を考慮した収穫量を算出できる。
【0034】
図4は、収穫量を時系列に出力したグラフである。
図4に示すように、出力手段40によって日単位で時系列の収穫量を表示することができる。
【0035】
以上のように、本実施例によれば、収穫量に大きな影響を与える植物の葉面積を用いて受光量を算出し、温度と受光量とを用いて光合成産物量を算出し、収穫時までの光合成産物量を加算するとともに、光合成産物量が果房に転流する転流率を用いて果房収穫量を算出するため、果菜類や果樹類の果房の収穫量を正確に予測することができる。
また、植物の栽培密度を用いて果房収穫量を算出することで、葉面積の異なるそれぞれの品種に対して、最も総収穫量が多くなるような栽植密度(枝本数、株間、条数、畝幅で決まる)を計画時点で予測できる。高糖度トマトの水切り栽培などの栽培管理を行う場合も同様である。さらに、日ごと週ごとなどの時系列の収穫量予測値を基に、効率的な作付け計画や作業計画、設備投資計画を立てることができるとともに、収穫前に的確な営業活動を行うことで効率よく販売することができる。
さらに、各果房の蕾や花や果実の数を計測した後の数週間という短期的な日単位、週単位での収穫量ならびに単果重、収穫果実数を予測することができるので、的確な営業活動だけでなく、精密な作業時間の予測ができ、的確な人員配置計画を立てることができ、人員の安定的確保や労使の信頼関係の向上に基づく安定的な経営を実現することができる。