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  • 特開-カチオン性クラゲコラーゲン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120596
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】カチオン性クラゲコラーゲン
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20220810BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220810BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220810BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20220810BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220810BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220810BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20220810BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20220810BHJP
【FI】
C07K14/78
A61P43/00 107
A61P17/00
A61K8/65
A61Q19/00
A61K38/17
C12N5/071
A23L33/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017582
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】511028135
【氏名又は名称】株式会社海月研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木平 孝治
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇行
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018MD69
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB19
4B065BB23
4B065CA24
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA50
4C083AD431
4C083AD432
4C083CC02
4C083EE12
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA51
4C084DA40
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB221
4C084ZB222
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA50
4H045EA01
4H045EA15
4H045EA20
4H045FA65
4H045GA01
4H045GA31
(57)【要約】
【課題】化学修飾工程や分離工程を行うことなく、カチオン性コラーゲンを効率よく簡便に製造できる手段を提供することを課題とする。
【解決手段】クラゲコラーゲンの熱変性処理物であって、生理的pH条件下でカチオン性を示すことを特徴とする、カチオン性クラゲコラーゲン、当該カチオン性クラゲコラーゲンを有効成分として含有する線維芽細胞増殖剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラゲコラーゲンの熱変性処理物であって、生理的pH条件下でカチオン性を示すことを特徴とする、カチオン性クラゲコラーゲン。
【請求項2】
前記カチオン性クラゲコラーゲンを構成する全アミノ酸中の酸性アミノ酸の含有量が15.0モル%以上で、かつ、塩基性アミノ酸の含有量が10.0モル%以上である、請求項1に記載のカチオン性クラゲコラーゲン。
【請求項3】
分子量が、100~140kDaである、請求項1又は2に記載のカチオン性クラゲコラーゲン。
【請求項4】
前記熱変性処理が、クラゲコラーゲンの熱変性温度を超える温度で行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン性クラゲコラーゲン。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のカチオン性クラゲコラーゲンを有効成分として含有する、線維芽細胞増殖剤。
【請求項6】
請求項5に記載の線維芽細胞増殖剤を含む、皮膚外用組成物。
【請求項7】
化粧品又は医薬部外品の形態である、請求項6に記載の皮膚外用組成物。
【請求項8】
医薬品の形態である、請求項6に記載の皮膚外用組成物。
【請求項9】
請求項5に記載の線維芽細胞増殖剤を含む、飲食品。
【請求項10】
クラゲコラーゲンを、その熱変性温度を超える温度で熱変性処理をすることを含む、カチオン性クラゲコラーゲンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン性クラゲコラーゲン及びそれを有効成分として含有する線維芽細胞増殖剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コラーゲンは、皮膚、毛髪、骨、関節、腱などの構成成分であり、美容と健康の増進を目的とした化粧品や健康食品などに広く利用されている。生体内に存在するコラーゲンは、3本のポリペプチド鎖がらせん構造をとった不溶性の繊維状タンパク質で、加熱によってゼラチンになり、さらに酵素分解等によりコラーゲンペプチドとなる。コラーゲンはウシ、ブタ、魚鱗などから抽出され、その由来や製造方法によって、分子量、アミノ酸組成が異なる。
【0003】
これまで化粧品などに配合してコラーゲンの有する機能を十分に発揮するために、その構造やアミノ酸組成を改変することが行われている。例えば、肌や毛髪は負電荷を帯びているため、コラーゲンをカチオン化することによって肌や毛髪への吸着性を高めることが試みられている。特許文献1では、三重らせん構造を崩したシングルコラーゲン(ゼラチン)にカチオン性を付与することによって毛髪の損傷防止、毛髪の風合いの向上、良好なくし通り性が付与されることが開示されている。本方法では、カチオン化は、シングルコラーゲンとカチオン化剤(4級化剤)を接触させることに行われており、化学修飾工程が必要である。また、特許文献2には、ゼラチン及び/又はコラーゲンの分解物を含有した溶液を陰イオン交換樹脂に吸着させることによって調製したアスパラギン酸単位とグルタミン酸単位の合計の酸性アミノ酸単位が全アミノ酸量の15モル%~25モル%を含有するペプチド組成物が線維芽細胞の増殖効果を有することが開示されている。本方法では、その製造工程において所望のペプチド以外に不要な副産物が生じ、それを除去するための分離工程が必要であるため、操作が煩雑な上、収率が低下するという問題がある。また、酸性アミノ酸は生理的pH条件下では負電荷を有するため、酸性アミノ酸の含有量の多くしたコラーゲンはカチオン性を示さず、肌や毛髪に対する効果が満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-114633号公報
【特許文献2】特開2006-241013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、化学修飾工程や分離工程を行うことなく、カチオン性コラーゲンを効率よく簡便に製造できる手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、クラゲコラーゲンの熱変性物が、生理的pH条件下でカチオン性を示し、かつ、優れた線維芽細胞の増殖効果を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)クラゲコラーゲンの熱変性処理物であって、生理的pH条件下でカチオン性を示すことを特徴とする、カチオン性クラゲコラーゲン。
(2)前記カチオン性クラゲコラーゲンを構成する全アミノ酸中の酸性アミノ酸の含有量が15.0モル%以上で、かつ、塩基性アミノ酸の含有量が10.0モル%以上である、(1)に記載のカチオン性クラゲコラーゲン。
(3)分子量が、100~140kDaである、(1)又は(2)に記載のカチオン性クラゲコラーゲン。
(4)前記熱変性処理が、クラゲコラーゲンの熱変性温度を超える温度で行われる、(1)~(3)のいずれかに記載のカチオン性クラゲコラーゲン。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載のカチオン性クラゲコラーゲンを有効成分として含有する、線維芽細胞増殖剤。
(6)(5)に記載の線維芽細胞増殖剤を含む、皮膚外用組成物。
(7)化粧品又は医薬部外品の形態である、(6)に記載の皮膚外用組成物。
(8)医薬品の形態である、(6)に記載の皮膚外用組成物。
(9)(5)に記載の線維芽細胞増殖剤を含む、飲食品。
(10)クラゲコラーゲンを、その熱変性温度を超える温度で熱変性処理をすることを含む、カチオン性クラゲコラーゲンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、生理的pH条件下でカチオン性を示すため、負電荷を帯びた肌や毛髪への吸着性に優れ、線維芽細胞の増殖効果を増強又は促進することができる。また本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、煩雑な化学修飾工程や分離工程を行うことなく、簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1A(上端を陰極、下端を陽極として電圧を印加)及び図1B(上端を陽極、下端を陰極として電圧を印加)は、由来の異なるコラーゲンサンプル等のNative PAGEの結果を示す(レーン1、2:豚皮由来コラーゲン、レーン3、4:鯛鱗由来コラーゲン、レーン5、6:クラゲ(ミズクラゲ)由来コラーゲン、レーン7、8:ウシ血清アルブミン、レーン9、10:熱変性処理豚皮由来コラーゲン、レーン11、12:熱変性処理鯛鱗由来コラーゲン、レーン13、14:熱変性処理クラゲ(ミズクラゲ)由来コラーゲン)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、クラゲコラーゲンの熱変性処理物であって、生理的pH条件下でカチオン性を示す。ここで生理的pHとは、pH7.4を意味する。未変性のコラーゲンはその特徴的な構造として3重らせん構造を有するが、加熱することによって、3重らせん構造がほぐれて、それぞれのポリペプチド鎖がランダムコイル状となった熱変性物(ゼラチン)となる。
【0011】
本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、上記のような構造変化を起こす温度(熱変性温度)を超える温度で静置することによって製造できる。ここで、熱変性温度を超える温度とは、33℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。また、上限は、ゼラチンの状態となれば特に限定はされないが、100℃以下が好ましい。静置時間は、熱変性温度が低ければ長時間とし、熱変性温度が高ければ短時間とする反比例の関係に基づいて適時調整すればよいが、例えば5分~24時間程度とすることができる。ゼラチンの状態になったことは、例えば旋光計などを用いることで確認することができる。
【0012】
本発明において、クラゲとは、刺胞動物門に属するクラゲをいい、例えば、ミズクラゲ、アカクラゲ、オワンクラゲ、エチゼンクラゲ、アンドンクラゲ、ビゼンクラゲ、ハブクラゲ等が挙げられる。本発明に用いるクラゲコラーゲンとしては、クラゲより調製されるコラーゲンであれば特に限定はされないが、ヒトや動物に対する安全性が確認されているクラゲであるミズクラゲ、エチゼンクラゲ、ビゼンクラゲ由来のコラーゲンが好ましい。
【0013】
本発明に用いるクラゲコラーゲンは、緩衝液又は海水程度の塩分を含む水溶液でクラゲを処理後、この処理液からクラゲコラーゲンを抽出する方法により調製することができる。抽出に用いるクラゲの部位は特に限定されるものではなく、例えば、表皮、口腕、胃体部、体液など、また凍結保存や常温による保存において生じた液体成分を用いることができる。抽出は、例えば、リン酸緩衝液又は0.2%程度の塩化ナトリウム溶液でクラゲを処理し、4℃程度の低温下で一晩放置することで行うことができる。抽出されたクラゲコラーゲンは、凍結乾燥やスプレードライ等の処理を行うことにより水分を取り除くことができる。また、クラゲコラーゲンを含む水溶液に対しては、硫酸アンモニウム等の無機塩を用いた塩析や、エタノール等のアルコールを用いた沈殿法等によりクラゲコラーゲンを沈殿させて、遠心分離や濾過等の方法を用いてクラゲコラーゲンを分離することもできる。これらのクラゲの部位を材料としてクラゲコラーゲンを含む抽出物を得る方法、ならびに得られた抽出物をエタノール沈殿、液体クロマトグラフィーなどのタンパク質の精製に通常用いられる手段によって精製する方法は、特許第5775221号(WO2014/030323)公報、特開2013-27381号公報の記載に従えばよい。
【0014】
例えば、特許第5775221号公報に記載の方法は、クラゲのムチンとコラーゲンを分別して抽出する方法であって、(i)クラゲを破砕してなる含水破砕物を固液分離して得られる液成分と炭素数1~4の水溶性アルコール(好ましくはエチルアルコール及びプロピルアルコール)とを、炭素数1~4の水溶性アルコールの濃度が全体に対して少なくとも50容量%になるように、混合して得られる混合物を固液分離することにより固形分を得るタンパク質分離工程と、(ii) 前記タンパク質分離工程で得られる固形分と10~40質量%のアルコール濃度である炭素数1~4の水溶性アルコール(好ましくはエチルアルコール及びプロピルアルコール)水溶液とを混合し、次いで固液分離操作を行うことによりムチン含有液成分とコラーゲン含有固形分とを別々に得る工程を含む。次に、得られたコラーゲン含有固形分を、公知の精製操作、例えばイオン交換クロマトグラフィー、及び乾燥操作、例えば凍結乾燥をすることにより単離することができる。クラゲコラーゲンは、アミノ酸分析により、グリシン(Gly)の含有量を定量することにより同定することができる。
【0015】
また、上記のようにして調製されたクラゲコラーゲン及びこれを含むクラゲ抽出物は、熱変性処理する前に、あらかじめエンドトキシンを含む病原性成分、抗原性成分、アレルギー源性成分を除去あるいは低減する処理をしておくことが好ましい。
【0016】
本発明に用いるクラゲコラーゲンは商業的に入手可能であり、JelliCollagen(登録商標)が好適に使用できる。
【0017】
本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、分子量が100~140kDaで、その構成アミノ酸組成中の酸性アミノ酸の含有量が15.0モル%以上で、かつ、塩基性アミノ酸の含有量が10.0モル%以上であるであることを特徴とする。本発明において、酸性アミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸を意味するが、アミド結合の加水分解によりアスパラギン酸になるアスパラギン、グルタミン酸になるグルタミンも包含される。また、塩基性アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジンを意味する。本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、上記の酸性アミノ酸と塩基性アミノ酸の量的関係を保持すれば、生理的pH条件下でカチオン性を示すので、適宜そのアミノ酸組成を改変することもできる。
【0018】
本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、粉末状、顆粒状及びペレット状等のいかなる形態にすることができ、あるいは、適当な溶媒に溶解させて溶液とすることもできる。カチオン性クラゲコラーゲンを溶解させる溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水、生理食塩水、リン酸緩衝液等の通常中性領域で用いられる溶媒や、塩酸、酢酸等の酸性溶媒などが使用できる。カチオン性クラゲコラーゲンを粉末状とした場合は、-20~10℃で保管することが好ましく、さらにシリカゲル等の乾燥剤と合わせて保管することが好ましい。また、カチオン性クラゲコラーゲンを溶液とした場合は、10℃以下で保管することが好ましい。
【0019】
本発明のカチオン性クラゲコラーゲンは、優れた線維芽細胞増殖活性を有するので、線維芽細胞増殖剤として使用できる。本発明の線維芽細胞増殖剤はそのまま用いることも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で通常皮膚外用組成物に用いられる任意の成分や添加物とともに皮膚外用組成物に配合して提供することが好ましい。本発明の皮膚外用組成物には、化粧品、医薬部外品、医薬品などが含まれる。本発明の皮膚外用組成物は、その種類、剤型、形状等に応じて常法に従って製造することができる。
【0020】
本発明の線維芽細胞増殖剤を化粧品又は医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品又は医薬部外品は、本発明の線維芽細胞増殖剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、水(精製水、温泉水等)、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、ホホバ油、ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0021】
医薬部外品や化粧品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー、ヘアシャンプー、ヘアコンディショナー、頭皮用ローション、頭皮用クリーム、ヘアトニック、育毛剤等が挙げられる。
【0022】
本発明の線維芽細胞増殖剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて賦形剤、増粘剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、保存剤、分散剤、乳化剤、ゲル化剤、色素、香料等を用いることができる。本発明の医薬品に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤、マイクロニードルなどが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0023】
本発明の皮膚外用組成物は、その有効成分であるカチオン性クラゲコラーゲンが、優れた線維芽細胞増殖作用を有するので、線維芽細胞の増殖によって改善が認められる皮膚の障害や損傷の治療及び/又は予防に有効である。このような皮膚の障害や損傷としては、シワ、たるみ、シミ、くすみ、肌荒れ、皮膚の肥厚、ニキビ痕、瘢痕、ケロイド、皮膚創傷などが挙げられ、薄毛や脱毛などの頭皮や毛髪の損傷も含まれる。すなわち、本発明の皮膚外用組成物は、上記皮膚の障害や損傷を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
【0024】
本発明の皮膚外用組成物の有効成分は、天然物由来であるため、安全性が高く副作用がないため、前述の皮膚疾患の治療及び/又は予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して適用できる。
【0025】
本発明の線維芽細胞増殖剤を皮膚外用組成物に配合する場合、その含有量は上記の皮膚に対する効果を発揮できる量である限り特に限定はされないが、例えばカチオン性クラゲコラーゲンとして0.000001~1(w/v)%が好ましく、0.00001~0.1(w/v)%がさらに好ましく、0.0001~0.01(w/v)%が特に好ましい。上記の量はあくまで例示であって、皮膚外用組成物の種類や形態、一般的な使用量、効能・効果、及びコストなどを考慮して適宜設定・調整すればよい。
【0026】
また、本発明の線維芽細胞増殖剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、又は特定保健用食品を含む意味で用いられる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0027】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0028】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【実施例0029】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)カチオン性クラゲコラーゲンの製造
1.クラゲコラーゲンの調製
(例1)ミズクラゲ由来クラゲコラーゲン
以下の方法でミズクラゲからコラーゲンを調製した。
1) 冷蔵状態にあるクラゲ個体を水洗し、ストレーナーで固形物と液体とに分離した。
2) 分離された固形物を、破砕機にて細断した。細断して得られた細断片を試料とした。
3) 2)にて得られた試料と水とを、抽出撹拌槽に装填し、4℃で撹拌抽出を行った。
4) 3)における撹拌抽出により得られた水溶液を4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して液成分を得た。
5) 4)にて得られた液成分に、イソプロピルアルコール濃度が70容量%となるように、イソプロピルアルコールを投入するとゲル状の沈殿物が生じた。
6) 5)において得られたゲル状の沈殿物を含有する液を一晩中4℃に維持しつつ撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。
7) 6)で得られた固形分質量に対して3倍質量の60質量%濃度のイソプロピルアルコール水溶液を加えた。
8) 7)において生成する混合物を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。
9) 8)で得られた固形分につき、再度7)及び8)による洗浄操作を行った。
以上のようにして蛋白質分離工程を終えた。
10) 前記9)で得られた固形分質量に対して3倍質量の25質量%濃度のイソプロピルアルコール水溶液を加えた。
11) 10)で得られた溶液を4℃で5分間撹拌した後、4℃のまま10000Gで、10分間遠心分離して固形分を得た。
12) 11)で得られた固形分につき10)及び11)の操作を更に2回行い、固形分と液成分とに分離した。
13) 12)で得られた固形分を水で懸濁した後に透析処理及び凍結乾燥を行って最終の固形分(コラーゲン)を得た。
【0031】
(例2)ビゼンクラゲ由来クラゲコラーゲン
以下の方法でビゼンクラゲからコラーゲンを調製した。
1) 冷蔵状態にあるクラゲ個体を水洗し、破砕機にて細断した。細断して得られた細断片を試料とした。
2) 試料を、イソプロピルアルコールで脱色脱水後、乾燥させて固形物を得た。
3) 固形物を0.1M NaOH水溶液と0.1M HCl水溶液で洗浄後、低温の希塩酸(pH3)中で固形物に対して2%(w/w)のペプシンと一晩反応させた。
4) 3)得られた水溶液をろ過して液成分を得た。
5) 4)にて得られた液成分を中和して得られたゲル状の沈殿物を回収した。
6) 5)において得られたゲル状の沈殿物を乾燥させて、最終の固形分(コラーゲン)を得た。
【0032】
2.熱変性処理
1.で得られたミズクラゲコラーゲン、ビゼンクラゲコラーゲンをイオン交換水に溶解した。続いて、このコラーゲン水溶液を37℃で保持することにより熱変性処理を行った。得られた熱変性処理ミズクラゲクラゲコラーゲン、熱変性処理ビゼンクラゲコラーゲンのアミノ酸組成の分析結果を表1、表2にそれぞれ示す。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表1に示すように、熱変性処理ミズクラゲクラゲコラーゲンの酸性アミノ酸の合計含有量は17.6mol%、塩基性アミノ酸の合計含有量は13.4mol%、表2に示すように、熱変性処理ビゼンクラゲコラーゲンの酸性アミノ酸の合計含有量は16.8mol%、塩基性アミノ酸の合計含有量は11.8mol%であった。
【0036】
(実施例2)クラゲコラーゲンのNative-PAGE解析
サンプルとして、ミズクラゲ由来コラーゲン(0.3%、中性)、豚皮由来コラーゲン(1%、中性)、鯛鱗由来コラーゲン(0.3%、中性)、ウシ血清アルブミン(0.2%)の各コラーゲンの未処理物または熱変性処理物(変性条件:100℃、5分)を用いて、以下の条件でNative-PAGEを行った。なお、クラゲ由来コラーゲンはJelliCollagen(海月研究所製)、豚皮由来コラーゲンはコラーゲンP(新田ゼラチン製)、鯛鱗由来コラーゲン由来はマリンジェンSP-03(新田ゼラチン)を用いた。
【0037】
Native-PAGEサンプルバッファー:SP-3022(アプロサイエンス)
泳動液:Native-PAGE泳動バッファーSP-3011(アプロサイエンス)pH8.3
サンプルアプライ量:5μL
ゲル:c-PAGEL CHR520L 5~20%(泳動液に一晩浸漬した後に使用)
泳動槽: AE-7300型コンパクトPAGE(ATTO)
電源:パワーパック Universal(Bio Rad)10mA/120min
CBB染色液:EzStain(ATTO)
【0038】
各サンプルのNative-PAGEの結果を図1A(上端を陰極、下端を陽極として電圧を印加)及び図1B(上端を陽極、下端を陰極として電圧を印加)に示す。クラゲコラーゲン(未処理、熱変性処理)は、陽極から陰極に電圧を印加した場合には泳動せず染色されたバンドが確認できない(図1Aのレーン5、6、13、14)一方で、陰極から陽極に電圧を印加した場合には泳動して染色されたバンドが確認できる(図1Bのレーン5、6、13、14)ことから、正に荷電していること、すなわちカチオン性であることが確認できた。その他のコラーゲンは陽極から陰極に電圧を印加したときのみ泳動が確認され(図1A及びBのレーン1、2、3、4、7、8、11、12)、カチオン性ではなかった。
【0039】
(実施例3)線維芽細胞の増殖試験
96ウェルプレートの各ウェルに線維芽細胞TIG-113(3.5×10cells/mL)を100μLずつ播種し、5%COインキュベーター(37℃)内で24時間培養した。培地はヒト正常線維芽細胞増殖用合成培地(コスメディウムH001、コスモバイオ)を用いた。培地を吸引した後、各ウェルにPBSを200μLずつ添加した。PBSを吸引した後、0.1μg/mLのクラゲコラーゲンを混合した培地及びクラゲコラーゲンを混合しない培地(コントロール)100μLを添加し、それぞれ5%COインキュベーター(37℃)内で培養した。なお、クラゲコラーゲンの熱変性温度は約33℃であるため、この時点でクラゲコラーゲンは本発明における熱変性処理物となる。24時間培養後、各ウェルにプレミックスWST-1溶液10μL添加した後、5%COインキュベーター(37℃)内で呈色反応を行い、450nm吸光度を測定した。クラゲコラーゲンを混合した培地及びクラゲコラーゲンを混合しない培地(コントロール)で培養した線維芽細胞の増殖率を下記表3に示す。結果はコントロールの吸光度を100%とした相対値を細胞増殖率として比較した。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示されるように、クラゲコラーゲンの熱変性処理物(カチオン化クラゲコラーゲン)は、顕著な線維芽細胞増殖活性を示した。一般に生細胞はアニオン性を有しているので、カチオン性の物質は生細胞との密着性が高まり生細胞への作用力が高いといえる。よって、本発明のクラゲコラーゲンの熱変性処理物は、カチオン性であること、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸(アスパラギンを含む)及びグルタミン酸(グルタミンを含む)の含有量が高いこと、という2つの要素により、線維芽細胞増殖に対して相乗的効果が得られたと考えらえる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、化粧料、医薬部外品、医薬品の製造分野において利用できる。
図1