(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120619
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/04 20100101AFI20220810BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20220810BHJP
【FI】
H01L33/04
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017635
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 賢吾
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA04
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA40
5F241CA49
5F241CA57
5F241CA65
5F241CA74
5F241CA92
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トンネル接合を利用した深紫外光を発する発光素子であって、トンネル接合を形成するn型層とp型層による光の吸収が抑えられた発光素子を提供する。
【解決手段】n型コンタクト層12と、深紫外光を発する発光層13と、Mgを含むAlGaInNからなるp型層15と、p型層15にトンネル接合する、n型半導体からなるn型コンタクト層16と、n型コンタクト層12に接続されたn電極18と、n型コンタクト層16に接続されたp電極17と、を備え、p型層15及びn型コンタクト層16のバンドギャップが、発光層13のバンドギャップより大きく、p型層15のn型コンタクト層16に接触する部分のMg濃度と、n型コンタクト層16のp型層15に接触する部分のドナー濃度が高い、発光素子1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のn型コンタクト層と、
前記第1のn型コンタクト層の上の、210nm以上、365nm以下の波長を有する光を発する発光層と、
前記発光層の上の、AlGaInNからなるp型層と、
前記p型層の上の、前記p型層にトンネル接合する、AlGaNからなる第2のn型コンタクト層と、
前記第1のn型コンタクト層に接続されたn電極と、
前記第2のn型コンタクト層に接続されたp電極と、
を備え、
前記p型層及び前記第2のn型コンタクト層のバンドギャップが、前記発光層のバンドギャップより大きく、
前記p型層が、前記第2のn型コンタクト層に接触するアクセプター高濃度層と、前記アクセプター高濃度層の下の、前記アクセプター高濃度層よりもアクセプター濃度が低いアクセプター低濃度層を有し、
前記第2のn型コンタクト層が、前記p型層に接触するドナー高濃度層と、前記ドナー高濃度層の上の、前記ドナー高濃度層よりもドナー濃度が低いドナー低濃度層を有し、
前記ドナー高濃度層のSi濃度が、3.0×1019cm-3cm-3以上、1.0×1021以下であり、
前記ドナー高濃度層のC濃度が4×1018cm-3以下であり、
前記ドナー低濃度層のドナー濃度が9.5×1018cm-3以上、4×1019cm-3以下であり、
前記ドナー低濃度層のC濃度が、前記ドナー低濃度層の前記ドナー濃度の10%以下と4×1018cm-3以下の少なくともいずれか一方を満たす、
発光素子。
【請求項2】
前記n型層に含まれるドナーがSiである、
請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記p型層に含まれるアクセプターがMgである、
請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記ドナー高濃度層と前記アクセプター高濃度層の合計厚さが5nm以上、100nm以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記ドナー高濃度層の厚さが2.5nm以上、40nm以下であり、
前記アクセプター高濃度層の厚さが3nm以上、50nm以下である、
請求項4に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル接合を利用した発光素子が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の発光素子においては、発光層の上のp型GaN層にn型InGaN層をトンネル接合させ、n型InGaN層をp側のコンタクト層としてp側電極を接続している。そのため、p側のコンタクト層とn側のコンタクト層の両方にn型半導体を用いることができ、それによってn側の電極とp側の電極を同じ材料から形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、GaNやInGaNは、それらのバンドギャップの大きさに起因して、深紫外領域の光を強く吸収する。そのため、特許文献1に記載の発光素子の構成を深紫外発光素子に適用すると、p型GaN層やn型InGaN層が発光層から発せられる光を強く吸収し、光取出効率が低くなる。
【0005】
本発明の目的は、トンネル接合を利用した深紫外光を発する発光素子であって、トンネル接合を形成するn型層とp型層による光の吸収が抑えられた発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[5]の発光素子を提供する。
【0007】
[1]第1のn型コンタクト層と、前記第1のn型コンタクト層の上の、210nm以上、365nm以下の波長を有する光を発する発光層と、前記発光層の上の、AlGaInNからなるp型層と、前記p型層の上の、前記p型層にトンネル接合する、AlGaNからなる第2のn型コンタクト層と、前記第1のn型コンタクト層に接続されたn電極と、前記第2のn型コンタクト層に接続されたp電極と、を備え、前記p型層及び前記第2のn型コンタクト層のバンドギャップが、前記発光層のバンドギャップより大きく、前記p型層が、前記第2のn型コンタクト層に接触するアクセプター高濃度層と、前記アクセプター高濃度層の下の、前記アクセプター高濃度層よりもアクセプター濃度が低いアクセプター低濃度層を有し、前記第2のn型コンタクト層が、前記p型層に接触するドナー高濃度層と、前記ドナー高濃度層の上の、前記ドナー高濃度層よりもドナー濃度が低いドナー低濃度層を有し、前記ドナー高濃度層のSi濃度が、3.0×1019cm-3cm-3以上、1.0×1021以下であり、前記ドナー高濃度層のC濃度が4×1018cm-3以下であり、前記ドナー低濃度層のドナー濃度が9.5×1018cm-3以上、4×1019cm-3以下であり、前記ドナー低濃度層のC濃度が、前記ドナー低濃度層の前記ドナー濃度の10%以下と4×1018cm-3以下の少なくともいずれか一方を満たす、発光素子。
[2]前記n型層に含まれるドナーがSiである、上記[1]に記載の発光素子。
[3]前記p型層に含まれるアクセプターがMgである、上記[1]又は[2]に記載の発光素子。
[4]前記ドナー高濃度層と前記アクセプター高濃度層の合計厚さが5nm以上、100nm以下である、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の発光素子。
[5]前記ドナー高濃度層の厚さが2.5nm以上、40nm以下であり、前記アクセプター高濃度層の厚さが3nm以上、50nm以下である、上記[4]に記載の発光素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トンネル接合を利用した深紫外光を発する発光素子であって、トンネル接合を形成するn型層とp型層による光の吸収が抑えられた発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る発光素子の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、発光素子におけるn型コンタクト層のドナー高濃度層のSi濃度を変化させたときの電流-電圧特性の変化を示すグラフである。
【
図3】
図3(a)は、n型コンタクト層のドナー高濃度層のSi濃度と、発光素子に350mAの電流を流すために要する順方向電圧との関係を示すグラフである。
図3(b)は、n型コンタクト層のドナー高濃度層のSi濃度と、発光素子に350mAの電流を流すときのドナー高濃度層のみの直列抵抗によって増加する電圧V
SRとの関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、n型コンタクト層のドナー高濃度層のSi濃度と、ドナー高濃度層の厚さ方向の電気抵抗率との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、p型層のアクセプター高濃度層とn型コンタクト層のドナー高濃度層の合計厚さと、発光素子に350mAの電流を流すために要する順方向電圧との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、発光素子のp型層のAl組成を50%から60%に変更したときの、電圧-電流特性及び電圧-出力特性の変化を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)は、発光素子1のMg、Si、CのSIMSプロファイルを示すグラフである。
図7(b)は、n型コンタクト層を50mbarの成長圧力で成長させた発光素子と、n型コンタクト層を100mbarの成長圧力で成長させた発光素子の電圧-電流特性を示すグラフである。
【
図8】
図8(a)、(b)は、試料TJ1~TJ5及び試料PN1、PN2に印加される順方向電圧と電流密度との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、試料TJ5と試料PN2における電流密度と出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発光素子の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る発光素子1の垂直断面図である。発光素子1は、フリップチップ実装型の深紫外光を発するトンネルジャンクション発光ダイオード(LED)である。ここで、深紫外とは、210~365nmの波長域をいうものとする。
【0011】
発光素子1は、基板10と、基板10上のバッファ層11と、バッファ層11上のn型コンタクト層12と、n型コンタクト層12上の発光層13と、発光層13上の電子ブロック層14と、電子ブロック層14上のp型層15と、p型層15上のp型層15とトンネル接合するn型コンタクト層16と、n型コンタクト層16に接続されたp電極17と、n型コンタクト層12に接続されたn電極18と、を備える。
【0012】
なお、発光素子1の構成における「上」とは、
図1に示されるような向きに発光素子1を置いたときの「上」であり、基板10からp電極17に向かう方向を意味するものとする。
【0013】
基板10は、サファイアからなる成長基板である。基板10の厚さは、例えば、900μmである。基板10の材料として、サファイア以外にも、AlN、Si、SiC、ZnOなどを用いることができる。
【0014】
バッファ層11は、例えば、核層、低温バッファ層、高温バッファ層の3層を順に積層した構造を有する。核層は、低温で成長させたノンドープのAlNからなり、結晶成長の核となる層である。核層の厚さは、例えば、10nmである。低温バッファ層は、核層よりも高温で成長させたノンドープのAlNからなる層である。低温バッファ層の厚さは、例えば、0.3μmである。高温バッファ層は、低温バッファ層よりも高温で成長させたノンドープのAlNからなる層である。高温バッファ層の厚さは、例えば、2.7μmである。このようなバッファ層11を設けることで、AlNの貫通転位の密度低減を図っている。
【0015】
n型コンタクト層12は、Siをドナーとして含むn型のAlGaInNからなる。ここで、AlGaInNとは、III族元素であるAl、Ga、又はInとNとの化合物であり、AlGaInNにおいては、Al組成が高いほどバンドギャップが大きく、In組成が高いほどバンドギャップが小さくなる傾向にある。n型コンタクト層12の厚さは、例えば、500~2000nmである。
【0016】
発光層13は、AlGaInNからなり、好ましくは多重量子井戸(MQW)構造を有する。発光層13の組成(MQW構造を有する場合は井戸層の組成)は、深紫外領域(210~365nm)内の所望の発光波長に応じて設定され、例えば、発光層13がAlGaNからなり、発光波長が270~290nmである場合には、Al組成がおよそ40~50%に設定される。ここで、上記のAl組成のパーセンテージは、Gaの含有量とAlの含有量の合計値に対するAlの含有量の割合である。
【0017】
例えば、発光層13は、井戸層が2層のMQW構造、すなわち、第1障壁層、第1井戸層、第2障壁層、第2井戸層、第3障壁層の順に積層された構造を有する。第1井戸層及び第2井戸層は、n型のAlGaNからなる。第1障壁層、第2障壁層、及び第3障壁層は、第1井戸層及び第2井戸層よりもAl組成の高いn型のAlGaN(Al組成が100%のもの、すなわちAlNを含む)からなる。
【0018】
一例としては、第1井戸層及び第2井戸層のAl組成、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ40%、2.5nm、9.0×1018cm-3である。また、第1障壁層及び第2障壁層のAl組成、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、それぞれ55%、11nm、9.0×1018cm-3である。また、第3障壁層のAl組成、厚さ、ドーパントとしてのSiの濃度は、55%、5.5nm、5.0×1018cm-3である。
【0019】
電子ブロック層14は、n型コンタクト層16側への電子の拡散を抑制するための層であり、例えば、Mgをアクセプターとして含むp型のAlGaInNからなる。電子ブロック層14の厚さは、例えば、25nmである。
【0020】
p型層15は、Mgをアクセプターとして含むp型のAlGaInNからなる。p型層15の厚さは、例えば、50~500nmである。また、p型層15は、n型コンタクト層16に接触する特にMg濃度が高い層(アクセプター高濃度層)151と、層151の下に設けられた層151よりもMg濃度が低い層(アクセプター低濃度層)152から構成される。層151の厚さは、例えば、3~50nmである。
【0021】
層151のMg濃度は、9.0×1019cm-3以上、2.0×1020cm-3以下である。また、層152のMg濃度は、1.0×1019cm-3以上、2.0×1020cm-3以下である。
【0022】
層151と層152のMg濃度を1.0×1019cm-3以上とするのは、p型層15の電気抵抗を下げるためである。なお、GaN、AlGaN中のMgの固溶限界はおよそ2.0×1019cm-3であり、Mg濃度がおよそ2.0×1019cm-3であるときにp型層15は最も抵抗が低くなる。
【0023】
Mg濃度が固溶限界である2.0×1019cm-3を超えると、Mgの凝集が生じて、部分的な極性の反転(インヴァージョンドメインの形成)が生じる。そして、Mg濃度が2.0×1020cm-3を超えると、層151と層152の極性が完全に+C面から-C面に変わってしまう。このため、層151と層152のMg濃度は、2.0×1020cm-3以下に設定される。
【0024】
n型コンタクト層16は、Siをドナーとして含むn型のAlGaInNからなる。n型コンタクト層16の厚さは、例えば、50~200nmであり、発光層13から発せられてn型コンタクト層16に直接入射する光とp電極17に反射されてn型コンタクト層16に入射する光との干渉効果によって決定される最適値がある。このため、n型コンタクト層16の厚さの最適値は、これらの光が干渉によって強め合うように、発光層13から発せられる光の波長、p電極17の反射率、発光層13とn型コンタクト層16の距離、及びp電極17とn型コンタクト層16の距離に応じて決定される。
【0025】
また、発光層13とp電極17の間の部分の厚さ、すなわち電子ブロック層14、p型層15、n型コンタクト層16の合計厚さが、発光層13から発せられる光とp電極17に反射された光が強め合う(定在波を形成する)厚さであることが好ましい。このためには、電子ブロック層14、p型層15、n型コンタクト層16の合計厚さdが、nd=λ/4(nは屈折率、λは光の波長)の条件を満たすように設定され、さらに、p電極17での反射の際の位相のずれを考慮して、屈折率nを消衰係数κを導入した複素屈折率N=n+iκで置き換えて計算したり、斜め光の強め合いを考慮して位相を180°分足し合わせて計算したりすることにより、発光層13から発せられる光とp電極17に反射された光がより強く強め合う厚さを算出することができる。なお、電子ブロック層14、p型層15、n型コンタクト層16の合計厚さdの制御は、電気抵抗率が最も低いp型層15の層152の厚さを調整することにより行うことが好ましい。
【0026】
n型コンタクト層16は、p型層15に接触する特にSi濃度が高い層(ドナー高濃度層)161と、層161の下に設けられた層161よりもSi濃度が低い層(ドナー低濃度層)162から構成される。層161の厚さは、例えば、2~50nmである。
【0027】
層161のSi濃度は、3.0×1019cm-3以上、1.0×1021cm-3以下である。また、層162のSi濃度は、9.5×1018cm-3以上、4.0×1019cm-3以下である。
【0028】
層162のSi濃度を9.5×1018cm-3以上、4.0×1019cm-3以下とすることにより、n型コンタクト層16のフェルミ準位と伝導帯が縮退し、p型層15とのトンネル確率を高めることができる。
【0029】
一方で、層162のSi濃度が3.0×1019cm-3を超えると、n型コンタクト層16の電気抵抗が増加し始める。これは、III族(AlとGa)空孔とSiとの複合欠陥が発生することによると考えられる。III族空孔とSiとの複合欠陥の詳細については未だ明らかになっていないが、一説によると、AlGaNの成長過程において生じるIII族空孔にSiが入らずに他の位置に留まった場合に、Siがドナーとして振る舞う(電子を放出する)ことができず、その状態に応じて1~3個の正孔が放出され、それによって電気抵抗が増加しているとされている。このため、層162のSi濃度は3.0×1019cm-3以下であることが好ましい。
【0030】
また、n型コンタクト層16の電気抵抗の増加を抑えるため、層161のC濃度が、4.0×1018cm-3以下であることが好ましい。また、層162のC濃度は、層162のSi濃度の10%以下と4.0×1018cm-3以下の少なくともいずれか一方を満たすことが好ましい。n型コンタクト層16中のCは、例えば、MOCVDで用いられるIII族原料に含まれるCが取り込まれたものである。n型のAlGaInN中のCは、アクセプターとして働き、電子を補償するため、n型コンタクト層16の電気抵抗を増加させる。n型コンタクト層16のC濃度は、例えば、n型コンタクト層16の成長圧力の調整により制御することができる。なお、Cがドナーとして働くZnOなど、Cがアクセプターとして働かない材料においては、Cが電子を補償するという問題は生じない。
【0031】
上述のように、p型層15とn型コンタクト層16はトンネル接合する。順方向バイアスを印加すると、p型層15とn型コンタクト層16の接合部分の空乏層幅が薄くなり、この薄くなった空乏層を電子が通りぬける(トンネリング)。また、n型コンタクト層16のp型層15と接触する部分である層161には、高濃度のSiドーピングによって、多数のIII族空孔とSiの複合欠陥が形成されている。一方で、p型層15のn型コンタクト層16と接触する部分である層151にも、高濃度のMgドーピングによって、空孔のような欠陥が形成されている。電子は、これらの欠陥の準位を介して伝導するため、これらの欠陥によって電子のトンネリング確率が高められる(欠陥によりトンネリングがアシストされている)。
【0032】
n型コンタクト層16のp型層15に接触する部分である層161のSi濃度を3.0×1019cm-3以上、1.0×1021以下とすることにより、バイアス印加時のp型層15とn型コンタクト層16の接合部分の空乏層幅をより薄くして、駆動電圧を小さくすることができる。
【0033】
n型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16による、発光層13から発せられる光の吸収を抑えるためには、n型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16のバンドギャップが発光層13のバンドギャップ(MQW構造を有する場合は井戸層のバンドギャップ)よりも大きいことが好ましい。例えば、n型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16、発光層13がAlGaNからなる場合は、n型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16のAl組成が発光層13のAl組成(MQW構造を有する場合は井戸層のAl組成)よりも高いことが好ましく、例えば、50%以上、70%以下の範囲内にあることが好ましい。この場合、理想的には、n型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16は、AlxGa1-xN(0.5≦x≦0.7)で表される組成を有する。
【0034】
AlGaNからなるn型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16のAl組成が50%以上であれば、270nm以上の波長を有する光に対して高い透過率を確保することができる。また、AlGaNからなるn型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16のAl組成が55%以上であれば、より高い透過率を確保することができ、60%以上であれば、さらに高い透過率を確保することができる。
【0035】
また、AlGaNの電気抵抗は、Al組成を増加させていったときに、70%まではほとんど一定であるが、70%を超えると増加し始める。このため、n型コンタクト層12、p型層15、n型コンタクト層16のAl組成を70%以下とすることにより、電気抵抗を低く抑えることができる。
【0036】
n型コンタクト層16表面の一部領域には溝が設けられている。溝はn型コンタクト層16、p型層15、及び発光層13を貫通し、n型コンタクト層12に達しており、この溝により露出したn型コンタクト層12の表面にn電極18が接続されている。
【0037】
発光素子1においては、n電極18が接続されるn型コンタクト層12と、p電極17が接続されるn型コンタクト層16が、ともにn型のAlGaNからなる。このため、n電極18のn型コンタクト層12に接触する部分と、p電極17のn型コンタクト層16に接触する部分の材料に、同じものを用いることができる。p電極17とn電極18がそれぞれ単一の材料からなる場合は、n電極18とp電極17の材料に同じものを用いることができる。
【0038】
このため、n電極18と同様に、p電極17にも深紫外光に対する反射率が高いアルミニウムを用いることができる。したがって、n電極18のn型コンタクト層12に接触する部分と、p電極17のn型コンタクト層16に接触する部分の材料に、アルミニウムを用いることが好ましい。
【0039】
p電極17及びn電極18は、例えば、V/Al/NiAuや、V/Al/Ru/Auからなる。なお、この場合、反射率を大きくするためVの層はできるだけ薄い方が好ましい。
【0040】
なお、p型のAlGaNには仕事関数が低いアルミニウムをオーミック接触させることができないため、従来の一般的な発光素子のように、p型のAlGaNからなるコンタクト層にp電極を接続する場合には、p電極の材料にアルミニウムを用いることはできない。
【0041】
なお、n型コンタクト層16に含まれるドナーとして、Siの代わりにO、Geなどを用いてもよい。また、p電極17に含まれるアクセプターの代わりにZnなどを用いてもよい。
【0042】
(発光素子の製造方法)
以下に、本発明の実施の形態に係る発光素子1の製造方法の一例について説明する。気相成長法による発光素子1の各層の形成においては、Ga原料ガス、Al原料ガス、N原料ガスとしては、例えば、それぞれトリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、アンモニアを用いる。また、n型ドーパントであるSiの原料ガス、p型ドーパントであるMgの原料ガスとしては、例えば、それぞれシランガス、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウムガスを用いる。また、キャリアガスとしては、例えば、水素ガスや窒素ガスを用いる。
【0043】
まず、基板10を用意し、その上にバッファ層11を形成する。バッファ層11の形成においては、まず、スパッタによってAlNからなる核層を形成する。成長温度は、例えば、880℃である。次に、核層上に、MOCVD法によってAlNからなる低温バッファ層、高温バッファ層を順に形成する。低温バッファ層の成長条件は、例えば、成長温度が1090℃、成長圧力が50mbarである。また、高温バッファ層の成長条件は、例えば、成長温度が1270℃、成長圧力が50mbarである。
【0044】
次に、バッファ層11上に、MOVPE法によってSiを含むAlGaNからなるn型コンタクト層12を形成する。n型コンタクト層12の成長条件は、例えば、成長温度が980℃、成長圧力が50~150mbarである。
【0045】
次に、n型コンタクト層12上に、MOVPE法によって発光層13を形成する。発光層13の形成は、第1障壁層、第1井戸層、第2障壁層、第2井戸層、第3障壁層の順に積層して行う。発光層13の成長条件は、例えば、成長温度が975℃、成長圧力が400mbarである。
【0046】
次に、発光層13上に、MOCVD法によって電子ブロック層14を形成する。電子ブロック層14の成長条件は、例えば、成長温度が975℃、成長圧力が400mbarである。
【0047】
次に、電子ブロック層14上に、MOCVD法によってp型層15を形成する。p型層15の成長条件は、例えば、成長温度が975℃、成長圧力が400mbarである。
【0048】
次に、p型層15上に、MOCVD法によってn型コンタクト層16を形成する。n型コンタクト層16の成長条件は、例えば、成長温度が980℃、成長圧力が50~150mbarである。
【0049】
次に、n型コンタクト層16表面の所定領域をドライエッチングし、n型コンタクト層12に達する深さの溝を形成する。
【0050】
次に、n型コンタクト層16上にp電極17、溝の底面に露出するn型コンタクト層12上にn電極18を形成する。p電極17及びn電極18は、スパッタや蒸着などによって形成する。
【0051】
(実施の形態の効果)
上記の本発明の実施の形態によれば、発光層13よりもバンドギャップが大きいp型層15とn型コンタクト層16をトンネル接合させ、n型コンタクト層16をp電極17のコンタクト層として用いることにより、p電極17の材料に仕事関数の低いアルミニウムなどの深紫外光に対する反射率が高い材料を用いることができる。
【0052】
したがって、発光層13から発せられてp電極17側へ向かう光の多くが、n型コンタクト層16に吸収されずに透過し、p電極17によって効率よく反射され、基板10側から取り出されるため、発光素子1は高い光取出効率を有する。
【実施例0053】
以下、上記の本実施の形態に係る発光素子1の種々の評価結果を示す。以下の表1に、本実施例に係る検証に用いた発光素子1の構成を示す。また、以下の表2に、本実施例に係る検証に比較例として用いた発光素子(発光素子Aとする)の構成を示す。なお、表2において、発光素子Aを構成する層には、対応する発光素子1を構成する層の符号を付す。
【0054】
【0055】
【0056】
図2は、発光素子1におけるn型コンタクト層16のp型層15に接触する部分である層161のSi濃度を変化させたときの電流-電圧特性の変化を示すグラフである。また、
図2は、比較例として、発光素子Aの電圧-電流特性を示す。なお、
図2に係る3つの発光素子1の層162の厚さはいずれも275nmであり、層151と層152のAl組成は60%である。また、
図2に係る発光素子Aの層151と層152のAl組成は50%である。
【0057】
図2中の「6.3×10
19cm
-3」、「1.3×10
20cm
-3」、「1.2×10
21cm
-3」は、それぞれ発光素子1におけるn型コンタクト層16の層161のSi濃度を示す。
【0058】
図2によれば、n型コンタクト層16の層161のSi濃度が1.3×10
20cm
-3であるときの発光素子1の立ち上がり電圧が最も小さくなった。一方で、Si濃度が最も高い1.2×10
21cm
-3であるときの立ち上がり電圧が最も大きくなった。これは、III族空孔とSiとの複合欠陥が発生して、n型コンタクト層16の電気抵抗が増加したことによると考えられる。
【0059】
図3(a)は、n型コンタクト層16の層161のSi濃度と、発光素子1に350mAの電流を流すために要する順方向電圧との関係を示すグラフである。なお、
図3(a)に係る4つの発光素子1のp型層15の層151のMg濃度はいずれも1.7×10
20cm
-3であり、層162の厚さはいずれも209nmであり、層151と層152のAl組成は60%である。
【0060】
図3(a)は、層161のSi濃度を増加させると、およそ2.0×10
20cm
-3までは発光素子1の動作電圧が減少することを示している。これは、Siのドーピングにより欠陥準位が多く形成され、その欠陥準位を利用した伝導によって、トンネリング確率が増加したことによると考えられる。なお、Si濃度が2.0×10
20cm
-3を超えると発光素子1の動作電圧が増加するが、例えば、1.0×10
21cm
-3以下であれば350mAの電流を流すために要する順方向電圧をおよそ13V以下に抑えることができる。次の表3に、
図3(a)のグラフの各プロット点の数値を示す。
【0061】
【0062】
図3(b)は、n型コンタクト層16の層161のSi濃度と、発光素子1に350mAの電流を流すときの層161のみの直列抵抗によって増加する電圧V
SRとの関係を示すグラフである。なお、
図3(b)に係る4つの発光素子1は、
図3(a)に係る4つの発光素子1と同じものである。
【0063】
図3(b)は、層161のSi濃度を増加させると、およそ2.0×10
20cm
-3を超えた辺りで層161の直列抵抗が急激に増加することを示している。これは、多くのIII族空孔とSiの複合欠陥が形成されたことによると考えられる。次の表4に、
図3(b)のグラフの各プロット点の数値を示す。
【0064】
【0065】
上記の
図3(a)、(b)の結果から、層161のSi濃度が2.0×10
20cm
-3以下であることが好ましいと言える。
【0066】
図4は、n型コンタクト層16の層161のSi濃度と、層161の厚さ方向の電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図3(b)の電圧V
SRは、
図4に示される電気抵抗率の値に基づいて算出されたものである(層161の厚さ×電気抵抗率×印加電流の値が、層161での電圧降下の値となる)。
【0067】
図5は、p型層15の層151とn型コンタクト層16の層161の合計厚さと、発光素子1に350mAの電流を流すために要する順方向電圧との関係を示すグラフである。
【0068】
ここで、
図5においてマーカー“*”でプロットされる4つの発光素子1(試料Iとする)、マーカー“◆”でプロットされる4つの発光素子1(試料IIとする)、及びマーカー“●”でプロットされる3つの発光素子1(試料IIIとする)は、それぞれ表1に示される発光素子1の構成に基づいて細部を調整したものである。試料Iは、層151のMg濃度が2.4×10
20cm
-3、層161のSi濃度が1.6×10
20cm
-3である。試料IIは、層151のMg濃度が1.7×10
20cm
-3、層161のSi濃度が1.2×10
20cm
-3である。試料IIIは、層151のMg濃度が2.4×10
20cm
-3、層161のSi濃度が1.2×10
20cm
-3である。また、試料I~IIIの層151と層152のAl組成はいずれも60%である。試料I~IIIの構成の表1に示される発光素子1の構成との相違点を次の表5に示す。
【0069】
【0070】
図5は、p型層15の層151とn型コンタクト層16の層161の合計厚さがおよそ10nmであるときに動作電圧が最小となり、この合計厚さを5nm以上、100nm以下とすることにより、発光素子1に350mAの電流を流すために要する順方向電圧をおよそ12V以下に抑えられ、10nm以上、100nm以下とすることにより、発光素子1に350mAの電流を流すために要する順方向電圧をおよそ11V以下に抑えられることを示している。次の表6に、
図5のグラフの各プロット点の数値を示す。
【0071】
【0072】
上記の
図5の結果から、p型層15の層151とn型コンタクト層16の層161の合計厚さが5nm以上、100nm以下であることが好ましく、10nm以上、100nm以下であることがより好ましいと言える。
【0073】
図6は、発光素子1のp型層15(層151と層152)のAl組成を50%から60%に変更したときの、電圧-電流特性及び電圧-出力特性の変化を示すグラフである。
図6中の点線は、p型層15のAl組成が50%であるときの特性を示し、実線は、p型層15のAl組成が60%であるときの特性を示している。
【0074】
図6は、p型層15のAl組成が50%と60%のいずれの場合でも、発光素子1がトンネルジャンクションLEDとして駆動することを示している。
【0075】
図7(a)は、発光素子1のMg、Si、Cの二次イオン質量分析法(SIMS)プロファイルを示すグラフである。
図7(a)のそれぞれの元素の点線で表されるプロファイルはn型コンタクト層16を50mbarの成長圧力で成長させた発光素子1のプロファイルであり、実線で表されるプロファイルはn型コンタクト層16を100mbarの成長圧力で成長させた発光素子1のプロファイルである。
【0076】
図7(a)の「151」、「152」で示される範囲は、それぞれp型層15の層151と層152に相当する範囲であり、「161」、「162」で示される範囲は、それぞれn型コンタクト層16の161と層162に相当する範囲であり、これらはAl、Si、Mgの濃度の変化により確認することができる。
【0077】
図7(a)によれば、50mbarの成長圧力で成長させたn型コンタクト層16の層161、層162のC濃度がそれぞれおよそ2×10
18cm
-3、3×10
18cm
-3であり、100mbarの成長圧力で成長させた層161、層162のC濃度がおよそ7×10
17cm
-3である。このことから、n型コンタクト層16の成長圧力によりC濃度を制御できることがわかる。
【0078】
図7(b)は、n型コンタクト層16を50mbarの成長圧力で成長させた発光素子1と、n型コンタクト層16を100mbarの成長圧力で成長させた発光素子1の電圧-電流特性を示すグラフである。
【0079】
図7(b)は、n型コンタクト層16を100mbarの成長圧力で成長させた場合、n型コンタクト層16を50mbarの成長圧力で成長させた場合よりも、発光素子1がより高い電流で動作できることを示している。これは、n型コンタクト層16を100mbarの成長圧力で成長させた場合の方が、n型コンタクト層16のC濃度が低いために、電子の補償が抑えられてn型コンタクト層16のキャリア濃度が増加したことで、n型コンタクト層16の層161とp型層15の層151をトンネリングする確率が高くなったことによると考えられる。
【0080】
図8(a)、(b)は、5種の発光素子1(試料TJ1~TJ5とする)に印加される順方向電圧と電流密度との関係を示すグラフである。また、
図8(a)、(b)は、比較例として、トンネル接合を形成しない通常のpn接合を有する2種の発光素子(試料PN1、PN2とする)に印加される順方向電圧と電流密度との関係も示す。
【0081】
ここで、試料TJ1~TJ5の構成は、表1に示される発光素子1の構成に基づいて細部を調整したものであり、試料PN1、PN2の構成は、表2に示される発光素子Aの構成に基づいて細部を調整したものである。試料TJ1~TJ5の構成の表1に示される発光素子1の構成との相違点、及び試料PN1、PN2の構成の表2に示される発光素子Aの構成との相違点を次の表7に示す。なお、試料TJ4、TJ5は、それぞれ
図6のグラフに係るp型層15のAl組成が50%である発光素子1と、p型層15のAl組成が60%である発光素子1と同一である。また、試料TJ1、TJ3は、それぞれ
図7のグラフに係るn型コンタクト層16を50mbarの成長圧力で成長させた発光素子1と、n型コンタクト層16を100mbarの成長圧力で成長させた発光素子1と同一である。
【0082】
【0083】
図8によれば、試料TJ3、TJ4の方が試料TJ1、TJ2よりも電圧-電流密度特性が優れている。これは、n型コンタクト層16の層161及び162におけるCの濃度が低く、キャリアの補償が抑えられていることによると考えられる。層161のSi濃度が1.0×10
21cm
-3以下である場合には、層161のC濃度が4×10
18cm
-3以下である場合に優れた電圧-電流密度特性が得られることが確認されている。また、層162のSi濃度が4.0×10
19cm
-3以下である場合には、層162のC濃度が層162のSi濃度の10%以下と4×10
18cm
-3以下の少なくともいずれか一方を満たす場合に優れた電圧-電流密度特性が得られることが確認されている。
【0084】
図9は、試料TJ5と試料PN2における電流密度と出力との関係を示すグラフである。
図9によれば、発光素子1の一例である試料TJ5の方が、比較例である発光素子Aの一例である試料PN2よりも電流密度に対する出力が小さいが、これは、試料PN2のn電極に反射電極が用いられ、試料TJ5のn電極に反射電極が用いていないことによる。試料TJ5のn電極に反射電極を用いる場合には、発光層から発せられる光を吸収するGaNを含む試料PN2の出力よりも試料TJ5の出力の方が大きくなることが期待できる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態及び実施例について説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態及び実施例の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0086】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。