(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120675
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置およびそれを備える鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20220810BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20220810BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20220810BHJP
B62M 25/08 20060101ALI20220810BHJP
B62K 23/04 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
F01N3/20 C
F01N11/00
F02D29/00 C
B62M25/08
B62K23/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017727
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 佑太
(72)【発明者】
【氏名】富井 亮
(72)【発明者】
【氏名】青山 達也
【テーマコード(参考)】
3D013
3G091
3G093
【Fターム(参考)】
3D013CH01
3G091AA03
3G091AB03
3G091BA33
3G091CB07
3G091CB09
3G091DB10
3G091DC03
3G091EA01
3G091EA06
3G091EA07
3G091EA34
3G091EA39
3G091EA40
3G091FA11
3G091FA16
3G091FC01
3G091HA36
3G091HA37
3G091HA42
3G093AA04
3G093BA10
3G093BA16
3G093BA20
3G093DB11
(57)【要約】
【課題】運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能な鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置を提供する。
【解決手段】触媒劣化判定装置は、エンジンと、変速機と、排出ガスを浄化する触媒とを有する鞍乗型車両に用いられる。触媒劣化判定装置においては、変速機のギア比、エンジンの吸気状態およびエンジンの回転速度の各々が運転状態として取得される。触媒劣化判定装置には、触媒の劣化状態の判定動作の実施が許容される複数の運転状態の条件が変速機のギア比とエンジンの吸気状態とエンジンの回転速度との関係に基づいて許容条件として予め記憶されている。取得された複数の運転状態が許容条件を満足するか否かが判定される。複数の運転状態が許容条件を満足する場合に劣化状態の判定動作が実施され、複数の運転状態が許容条件を満足しない場合に劣化状態の判定動作が実施されない。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンの動力を伝達する変速機と、前記エンジンからの排出ガスを浄化する触媒とを有する鞍乗型車両に用いられる触媒劣化判定装置であって、
前記変速機のギア比、前記エンジンの吸気状態および前記エンジンの回転速度の各々を運転状態として取得する運転状態取得部と、
触媒の劣化状態の判定動作の実施が許容される複数の運転状態の条件を、前記変速機のギア比と前記エンジンの吸気状態と前記エンジンの回転速度との関係に基づいて許容条件として予め記憶し、前記運転状態取得部により取得された複数の運転状態が前記許容条件を満足するか否かを判定する状態判定部と、
前記運転状態取得部により取得された複数の運転状態が前記許容条件を満足する場合に前記劣化状態の判定動作を実施し、前記運転状態取得部により取得された複数の運転状態が前記許容条件を満足しない場合に前記劣化状態の判定動作を実施しない判定実施部とを備える、鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置。
【請求項2】
前記運転状態取得部は、前記鞍乗型車両の走行速度を運転状態としてさらに取得し、
前記触媒の劣化状態の判定動作の実施を許容するための走行速度の許容範囲が前記変速機の複数のギア比の各々に対応するように定められ、
前記エンジンの吸気状態と前記エンジンの回転速度との関係をエンジン状態とし、前記エンジン状態について、触媒の劣化状態の判定動作の実施を許容するための許容領域が定められ、
前記状態判定部は、前記変速機の複数のギア比の各々に対応する許容範囲と、前記許容領域とを前記許容条件として予め記憶し、前記運転状態取得部により取得された走行速度が前記運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容範囲にありかつ前記運転状態取得部により取得されたエンジン状態が前記許容領域にあるときに前記複数の運転状態が前記許容条件を満足すると判定し、前記運転状態取得部により取得された走行速度が前記運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容範囲にないときに前記複数の運転状態が前記許容条件を満足しないと判定し、前記運転状態取得部により取得されたエンジン状態が前記許容領域にないときに前記複数の運転状態が前記許容条件を満足しないと判定する、請求項1記載の鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置。
【請求項3】
前記許容範囲は、対応するギア比が低くなるにつれて大きくなるように定められる、請求項2記載の鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置。
【請求項4】
前記エンジンの吸気状態と前記エンジンの回転速度との関係をエンジン状態とし、前記エンジン状態について、触媒の劣化状態の判定動作の実施を許容するための許容領域が前記変速機の複数のギア比の各々に対応するように定められ、
前記状態判定部は、前記変速機の複数のギア比の各々に対応する許容領域を前記許容条件として予め記憶し、前記運転状態取得部により取得されたエンジン状態が前記運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容領域にあるときに前記複数の運転状態が前記許容条件を満足すると判定し、前記運転状態取得部により取得された前記エンジン状態が前記運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容領域にないときに前記複数の運転状態が前記許容条件を満足しないと判定する、請求項1記載の鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置。
【請求項5】
前記鞍乗型車両は、アクセルグリップの操作に対してスロットルバルブの開度が第1の応答性で変化する第1の制御モードと、前記アクセルグリップの操作に対して前記スロットルバルブの開度が前記第1の応答性よりも低い第2の応答性で変化する第2の制御モードとで動作可能に構成され、
前記許容条件は、前記第1および前記第2の制御モードにそれぞれ対応する第1および第2の許容条件を含み、
前記状態判定部は、前記鞍乗型車両が前記第1の制御モードで動作している場合に前記運転状態取得部により取得された複数の運転状態が前記許容条件として前記第1の許容条件を満足するか否かを判定し、前記鞍乗型車両が前記第2の制御モードで動作している場合に前記運転状態取得部により取得された複数の運転状態が前記許容条件として前記第2の許容条件を満足するか否かを判定する、請求項1~4のいずれか一項に記載の鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置。
【請求項6】
前記判定動作が実施されることにより得られる判定結果を出力する出力部をさらに備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置。
【請求項7】
エンジンと、
前記エンジンの動力を伝達する変速機と、
前記エンジンからの排出ガスを浄化する触媒と、
請求項1~6のいずれか一項に記載の触媒劣化判定装置とを備える、鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置およびそれを備える鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンを備える車両の排気系には、エンジンから排出されるガス(排出ガス)を浄化するための触媒が設けられる。触媒は、使用期間が長くなるにつれて排出ガスの浄化能力が低下する。そこで、触媒の適切な交換時期を把握するために、触媒の劣化を判定する触媒劣化判定装置が用いられる。
【0003】
通常、エンジンに供給される混合気の空燃比は、目標空燃比に近づくようにフィードバック制御される。触媒劣化判定装置においては、例えば空燃比のフィードバック制御が行われた状態で、触媒による浄化前の排出ガスの酸素濃度と触媒による浄化後の排出ガスの酸素濃度とに基づいて触媒の劣化が判定される。
【0004】
自動車(自動四輪車:Automobile Car)の触媒劣化判定装置の一例として、特許文献1には、エンジンの排気系に上流側O2センサ、三元触媒および下流側O2センサがこの順で設けられた劣化診断装置が記載されている。
【0005】
その劣化診断装置においては、混合気の空燃比についてのフィードバック制御が行われる状態で、上流側O2センサの出力の反転周波数に対する下流側O2センサの出力の反転周波数の比が反転周波数比として算出される。特許文献1においては、反転周波数とは、所定時間(例えば、10秒)内に各O2センサの出力電圧が所定のしきい値(例えば、0.5V)を横切った回数である。その反転周波数比の値は、エンジンの運転状態に応じて変動する。そこで、上記の劣化診断装置には、エンジンの運転状態を区別するための複数の運転領域(低速・低負荷運転領域および高速・高負荷運転領域)が設定される。複数の運転領域は、エンジンの一サイクル当たりの吸気量情報とエンジン回転速度との関係を示すマップ上に定義される。また、触媒の劣化は、運転状態が低速・低負荷運転領域および高速・高負荷運転領域の各々にあるときに算出された反転周波数比を用いて個別に判定される。そのため、触媒の劣化を判定するための反転周波数比の算出時に運転状態が低速・低負荷運転領域と高速・高負荷運転領域との間を移行する場合、当該反転周波数比の算出処理はなかったものとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、鞍乗型車両のパワーウェイトレシオは、自動車のパワーウェイトレシオに比べて極めて小さいので、鞍乗型車両の運転状態は自動車の運転状態に比べて変化しやすい。したがって、仮に特許文献1の劣化診断装置を鞍乗型車両に設ける場合には、運転状態が複数の運転領域の間を頻繁に移行することにより、触媒の劣化を診断する機会が少なくなる傾向がある。
【0008】
触媒の劣化判定時には、混合気の空燃比について、触媒の劣化判定に適したフィードバック制御が行われる。このフィードバック制御時には、エンジンの動作に変化が生じる。上記のように鞍乗型車両のパワーウェイトレシオは小さく、鞍乗型車両は旋回走行時に傾斜する。さらに、鞍乗型車両においては、エンジンのトルク変動に起因するピッチングが発生しやすい。そのため、鞍乗型車両においては、エンジンの動作が変化することにより、運転者の乗り心地に変化が生じやすい。したがって、運転者の乗り心地を考慮すると、鞍乗型車両の触媒の劣化判定は、特定の運転領域のみで行われることが望ましい。しかしながら、このような触媒の劣化判定を行うための運転領域の制限は、触媒の劣化判定の機会をさらに少なくする。
【0009】
本発明の目的は、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能な鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置およびそれを備える鞍乗型車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)第1の発明に係る鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置は、エンジンと、エンジンの動力を伝達する変速機と、エンジンからの排出ガスを浄化する触媒とを有する鞍乗型車両に用いられる触媒劣化判定装置であって、変速機のギア比、エンジンの吸気状態およびエンジンの回転速度の各々を運転状態として取得する運転状態取得部と、触媒の劣化状態の判定動作の実施が許容される複数の運転状態の条件を、変速機のギア比とエンジンの吸気状態とエンジンの回転速度との関係に基づいて許容条件として予め記憶し、運転状態取得部により取得された複数の運転状態が許容条件を満足するか否かを判定する状態判定部と、運転状態取得部により取得された複数の運転状態が許容条件を満足する場合に劣化状態の判定動作を実施し、運転状態取得部により取得された複数の運転状態が許容条件を満足しない場合に劣化状態の判定動作を実施しない判定実施部とを備える。
【0011】
上記の触媒劣化判定装置においては、許容条件が少なくとも変速機のギア比に基づいて定まる。それにより、運転状態が触媒の劣化状態の判定動作に適しているか否かを、鞍乗型車両の変速機において設定可能なギア比ごとに適切に判定することができる。したがって、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化状態の判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0012】
(2)運転状態取得部は、鞍乗型車両の走行速度を運転状態としてさらに取得し、触媒の劣化状態の判定動作の実施を許容するための走行速度の許容範囲が変速機の複数のギア比の各々に対応するように定められ、エンジンの吸気状態とエンジンの回転速度との関係をエンジン状態とし、エンジン状態について、触媒の劣化状態の判定動作の実施を許容するための許容領域が定められ、状態判定部は、変速機の複数のギア比の各々に対応する許容範囲と、許容領域とを許容条件として予め記憶し、運転状態取得部により取得された走行速度が運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容範囲にありかつ運転状態取得部により取得されたエンジン状態が許容領域にあるときに複数の運転状態が許容条件を満足すると判定し、運転状態取得部により取得された走行速度が運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容範囲にないときに複数の運転状態が許容条件を満足しないと判定し、運転状態取得部により取得されたエンジン状態が許容領域にないときに複数の運転状態が許容条件を満足しないと判定してもよい。
【0013】
この場合、変速機の複数のギア比にそれぞれ対応する複数の許容領域を定める必要がない。それにより、変速機において設定可能なギア比が多数存在する場合でも、状態判定部に記憶される情報量を低減することができるとともに、複数の運転状態が許容条件を満足するか否かの判定処理を単純化することができる。その結果、判定処理に要する時間を短縮することができるので、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化状態の判定動作の実施の機会をさらに増やすことができる。
【0014】
(3)許容範囲は、対応するギア比が低くなるにつれて大きくなるように定められてもよい。この場合、変速機のギアポジションが高いときに、触媒の劣化状態の判定頻度が増加する。
【0015】
(4)エンジンの吸気状態とエンジンの回転速度との関係をエンジン状態とし、エンジン状態について、触媒の劣化状態の判定動作の実施を許容するための許容領域が変速機の複数のギア比の各々に対応するように定められ、状態判定部は、変速機の複数のギア比の各々に対応する許容領域を許容条件として予め記憶し、運転状態取得部により取得されたエンジン状態が運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容領域にあるときに複数の運転状態が許容条件を満足すると判定し、運転状態取得部により取得されたエンジン状態が運転状態取得部により取得されたギア比に対応する許容領域にないときに複数の運転状態が許容条件を満足しないと判定してもよい。
【0016】
この場合、変速機のギア比ごとに許容領域が設定されているので、運転状態が触媒の劣化状態の判定動作に適しているか否かを、鞍乗型車両の変速機のギア比ごとにより適切に判定することができる。したがって、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化状態の判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0017】
(5)鞍乗型車両は、アクセルグリップの操作に対してスロットルバルブの開度が第1の応答性で変化する第1の制御モードと、アクセルグリップの操作に対してスロットルバルブの開度が第1の応答性よりも低い第2の応答性で変化する第2の制御モードとで動作可能に構成され、許容条件は、第1および第2の制御モードにそれぞれ対応する第1および第2の許容条件を含み、状態判定部は、鞍乗型車両が第1の制御モードで動作している場合に運転状態取得部により取得された複数の運転状態が許容条件として第1の許容条件を満足するか否かを判定し、鞍乗型車両が第2の制御モードで動作している場合に運転状態取得部により取得された複数の運転状態が許容条件として第2の許容条件を満足するか否かを判定してもよい。
【0018】
鞍乗型車両の第1および第2の制御モードに共通の許容条件が設定された場合には、共通の許容条件は第1および第2の制御モードにより制限される。上記の構成によれば、鞍乗型車両の第1および第2の制御モードにそれぞれ対応する第1および第2の許容条件が設定されている。それにより、運転者の嗜好に応じた鞍乗型車両の操縦性を実現するとともに、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化状態の判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0019】
(6)触媒劣化判定装置は、判定動作が実施されることにより得られる判定結果を出力する出力部をさらに備えてもよい。この場合、運転者または鞍乗型車両のメンテナンスを行う作業者は、触媒の劣化状態を容易に把握することができる。
【0020】
(7)第2の発明に係る鞍乗型車両は、エンジンと、エンジンの動力を伝達する変速機と、エンジンからの排出ガスを浄化する触媒と、上記の触媒劣化判定装置とを備える。
【0021】
その鞍乗型車両は、上記の触媒劣化判定装置を備える。それにより、鞍乗型車両の運転者の乗り心地に与えられる影響が抑制されつつ触媒の劣化状態の判定動作の実施の機会が適切に確保される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒の劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1の実施の形態に係る自動二輪車の右側面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る自動二輪車の制御系を示すブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態に係るギアポジション-走行速度テーブルの一例を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る吸気量-エンジン回転速度テーブルの一例を示す図である。
【
図5】第1の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
【
図6】第2の実施の形態に係る自動二輪車の制御系を示すブロック図である。
【
図7】第2の実施の形態に係る第1、第2および第3のギアポジション-走行速度テーブルの一例を示す図である。
【
図8】第2の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
【
図9】第3の実施の形態に係る複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルの一例を示す図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
【
図11】第4の実施の形態に係る第1、第2および第3の吸気量-回転速度テーブル群の一例を示す図である。
【
図12】第4の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施の形態に係る鞍乗型車両用の触媒劣化判定装置およびそれを備える鞍乗型車両について図面を参照しつつ説明する。鞍乗型車両の一例として自動二輪車を説明する。
【0025】
1.第1の実施の形態
[1]自動二輪車の概略構成
図1は、第1の実施の形態に係る自動二輪車の右側面図である。
図1では、自動二輪車100が路面に対して垂直に起立した状態が示される。
図1の自動二輪車100は、金属製の車体フレーム1を備える。車体フレーム1は、ヘッドパイプ1hおよび複数のフレーム部材を含む。ヘッドパイプ1hは車両前部に位置し、複数のフレーム部材はヘッドパイプ1hから車両後方に向かって延びるように設けられている。
【0026】
ヘッドパイプ1hには、フロントフォーク2が左右方向に揺動可能に設けられている。フロントフォーク2の下端に前輪3が回転可能に支持されている。フロントフォーク2の上端には、ハンドル4およびメータユニット4mが設けられている。ハンドル4には、アクセルグリップ4gが運転者により操作可能に設けられている。
図1の吹き出し内に示すように、メータユニット4mは、車両の速度および燃料の残量等の複数の情報を表示する表示部(液晶表示部)を有する。また、メータユニット4mは、
図1の吹き出し内に白抜きの矢印で示すように、エンジンユニット5およびその補器類の異常を運転者に提示するための警告灯ALを有する。その異常には、三元触媒53の劣化が含まれる。したがって、本実施の形態に係る警告灯ALは、後述する劣化判定部15(
図2)による三元触媒53の劣化状態の判定において三元触媒53が劣化していると判定された場合に、警報を出力する。また、警告灯ALは、例えばエンジンユニット5およびその補器類に設けられる各種センサの故障時に、警報を出力する。
【0027】
車体フレーム1は、ヘッドパイプ1hよりも下方に位置するようにエンジンユニット5を支持する。また、車体フレーム1は、エンジンユニット5の上方かつヘッドパイプ1hの後方に位置するように燃料タンク8を支持する。さらに、車体フレーム1は、燃料タンク8の後方に位置するようにシート9を支持する。
【0028】
エンジンユニット5と燃料タンク8とシート9との間には、ECU(Electronic Control Unit;電子制御ユニット)10が設けられている。ECU10は、CPU(中央演算処理装置)10a(
図2)、ROM(リードオンリメモリ)10b(
図2)およびRAM(ランダムアクセスメモリ)10c(
図2)を含む。ROM10bは、例えば不揮発性メモリからなり、システムプログラムおよび触媒劣化判定プログラム等を記憶する。RAM10cは、例えば揮発性メモリからなり、CPU10aの作業領域として用いられるとともに、各種データを一時的に記憶する。CPU10aは、ROM10bに記憶された触媒劣化判定プログラムを実行することにより種々の機能を実現する。CPU10aにより実現される各種機能の詳細は後述する。なお、本実施の形態における触媒劣化判定プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納された形態で提供され、ROM10bまたはECU10に接続可能な記憶装置にインストールされてもよい。また、ECU10が通信網に接続可能である場合、ECU10が通信網に接続された状態で、その通信網に接続されたサーバから配信された触媒劣化判定プログラムがROM10bまたは記憶装置にインストールされてもよい。
【0029】
車両の前後方向における車体フレーム1の中央下部から後方に延びるように、リアアーム6が設けられている。リアアーム6は、図示しないピボット軸を用いて車体フレーム1に支持されている。リアアーム6の後端に後輪7が回転可能に支持されている。後輪7は、駆動輪としてエンジンユニット5から発生される動力により回転される。
【0030】
エンジンユニット5は、エンジン5aおよびトランスミッション5bを含む。
図1では、エンジン5aが太い点線で示され、トランスミッション5bが太い一点鎖線で示される。トランスミッション5bは、メイン軸(入力軸)およびドライブ軸(出力軸)を有する。トランスミッション5bは、エンジン5aからメイン軸に伝達されるトルクを、予め定められた複数のギア比(減速比)のうちいずれかのギア比でドライブ軸を通して後輪7に伝達する。
【0031】
トランスミッション5bには、図示しないシフトカムが、所定の回転軸周りで回転可能に設けられている。シフトカムには、その回転軸周りの複数の回転位置(回転角度)に、上記の複数のギア比にそれぞれ対応する複数のギアポジションが設定されている。本実施の形態では、複数のギアポジションとして、ニュートラルポジションおよび1速~6速のギアポジションが設定されている。運転者が図示しないシフト操作部(例えばシフトペダル)を操作することによりシフトカムが回転する。それにより、ギアポジションがニュートラルポジションおよび1速~6速のギアポジションの間で切り換えられる。このとき、トランスミッション5bは、切り替えられたギアポジションに対応するギア比でトルク伝達を行う。なお、複数のギアポジションとして、ニュートラルポジションおよび1速~5速のギアポジションが設定されてもよい。この場合、運転者が図示しないシフト操作部を操作することにより、ギアポジションがニュートラルポジションおよび1速~5速のギアポジションの間で切り換えられる。
【0032】
エンジン5aは、燃焼室内に混合気を供給するための吸気ポートおよび燃焼室から燃焼後のガスを排出するための排気ポートを有する。エンジン5aの吸気ポートには、吸気管60が接続される。吸気管60には、燃料噴射装置61(
図2)およびスロットルバルブ62(
図2)が設けられる。エンジン5aの排気ポートには、排気管51の一端が接続される。排気管51の他端にマフラー52が接続される。マフラー52の内部には、三元触媒53が配置されている。三元触媒53は、エンジン5aからの排出ガスを浄化する。なお、三元触媒53は、マフラー52に代えて排気管51の内部に設けられてもよい。
【0033】
背景技術において説明したように、三元触媒53は、使用期間が長くなるにつれてエンジン5aからの排出ガスの浄化能力が低下する。そこで、
図1の自動二輪車100においては、三元触媒53の劣化状態を判定するための触媒劣化判定動作が実施される。この触媒劣化判定動作においては、エンジン5aに供給される混合気の空燃比が制御される。
【0034】
本実施の形態に係る自動二輪車100においては、後述する複数のセンサにより検出される複数の運転状態が予め定められた許容条件を満足するか否かが判定される。それにより、複数の運転状態が許容条件を満足する場合に触媒劣化判定動作が実施され、複数の運転状態が許容条件を満足しない場合に触媒劣化判定動作が実施されない。以下の説明では、複数の運転状態が予め定められた許容条件を満足するか否かの判定を、許容条件判定と呼ぶ。
【0035】
[2]自動二輪車100の制御系
図2は、第1の実施の形態に係る自動二輪車100の制御系を示すブロック図である。
図2に示すように、第1の実施の形態に係る自動二輪車100は、制御系の構成として、ECU10、燃料噴射装置61、スロットルアクチュエータ63、スロットルセンサSE1、吸気圧センサSE2、上流酸素センサSE3、下流酸素センサSE4、クランクセンサSE5、シフトカムセンサSE6、車輪速度センサSE7、アクセルセンサSE8および警告灯ALを含む。本実施の形態においては、ECU10、上記の各種センサ(SE1~SE8)および警告灯ALを含む構成が、本発明の触媒劣化判定装置に相当する。
【0036】
スロットルアクチュエータ63は、スロットルバルブ62の開度を調整することにより、図示しないエアクリーナからからエンジン5aに導かれる空気の流量を調整する。燃料噴射装置61は、エンジン5aの燃焼室に混合気が導かれるように、エンジン5aの吸気ポートに燃料を噴射する。
【0037】
スロットルセンサSE1は、スロットルバルブ62の近傍に設けられる。スロットルセンサSE1は、スロットルバルブ62の開度(スロットル開度)を検出し、検出されたスロットル開度を示す電気信号を出力する。吸気圧センサSE2は、吸気管60におけるスロットルバルブ62よりも下流の部分に設けられる。吸気圧センサSE2は、エンジン5aの吸気状態として吸気管60内の圧力(吸気圧)を検出し、検出された吸気圧を示す電気信号を出力する。
【0038】
上流酸素センサSE3は、マフラー52における三元触媒53よりも上流の部分に設けられる。上流酸素センサSE3は、エンジン5aから排出されて三元触媒53により浄化される前の排出ガスの酸素濃度を検出し、検出された酸素濃度を示す電気信号を出力する。なお、上流酸素センサSE3は、マフラー52に代えて排気管51に設けられてもよい。
【0039】
下流酸素センサSE4は、マフラー52における三元触媒53よりも下流の部分に設けられる。下流酸素センサSE4は、エンジン5aから排出されて三元触媒53により浄化された後の排出ガスの酸素濃度を検出し、検出された酸素濃度を示す電気信号を出力する。
【0040】
上記のように、三元触媒53は、マフラー52に代えて排気管51に設けられてもよい。したがって、三元触媒53が排気管51に設けられる場合、上流酸素センサSE3および下流酸素センサSE4は、三元触媒53の上流の部分および下流の部分にそれぞれ位置するように排気管51に設けられてもよい。
【0041】
クランクセンサSE5は、エンジン5aの近傍に設けられる。クランクセンサSE5は、エンジン5aのクランク軸の回転速度(エンジン回転速度)を検出し、検出されたエンジン回転速度を示す電気信号を出力する。シフトカムセンサSE6は、
図1のエンジンユニット5に設けられる。シフトカムセンサSE6は、トランスミッション5bのシフトカムの回転角度を検出し、検出した回転角度を示す電気信号を出力する。
【0042】
車輪速度センサSE7は、
図1のフロントフォーク2の下端近傍に設けられる。車輪速度センサSE7は、
図1の前輪3の回転速度を検出し、検出された回転速度を示す電気信号を出力する。なお、車輪速度センサSE7は、
図1のリアアーム6の後端近傍に設けられてもよい。この場合、車輪速度センサSE7は、
図1の後輪7の回転速度を検出し、検出された回転速度を示す電気信号を出力する。
【0043】
アクセルセンサSE8は、
図1のハンドル4に設けられる。アクセルセンサSE8は、運転者によるアクセルグリップ4gの操作量(アクセル開度)を検出し、検出されたアクセル開度を示す電気信号を出力する。
【0044】
ECU10は、CPU10a、ROM10bおよびRAM10cを含み、CPU10aは、機能部として、運転状態取得部11、走行制御部12、状態判定部13、判定実施部14、劣化判定部15および出力制御部16を含む。CPU10aのこれらの機能部は、CPU10aがROM10bに記憶された触媒劣化判定プログラムを実行することにより実現される。なお、ECU10の複数の機能部の一部または全てが電子回路等のハードウェアにより実現されてもよい。
【0045】
運転状態取得部11は、スロットルセンサSE1の出力を受けることによりスロットル開度を取得する。また、運転状態取得部11は、吸気圧センサSE2の出力を受けることにより、エンジン5aの一サイクル当たりに燃焼室に導かれる空気の量(吸気量)を、受け取った吸気圧に基づいて算出し、算出された吸気量を運転状態として取得する。また、運転状態取得部11は、上流酸素センサSE3の出力を受けることにより、三元触媒53により浄化される前の排出ガスの酸素濃度を取得する。さらに、運転状態取得部11は、下流酸素センサSE4の出力を受けることにより、三元触媒53により浄化された後の排出ガスの酸素濃度を取得する。
【0046】
また、運転状態取得部11は、クランクセンサSE5の出力を受けることによりエンジン回転速度を運転状態として取得し、シフトカムセンサSE6の出力を受けることにより検出されたシフトカムの回転角度に対応するギアポジション(ギア比)を運転状態として取得する。また、運転状態取得部11は、車輪速度センサSE7の出力を受けることにより前輪3(または後輪7)の回転速度に基づいて自動二輪車100の移動速度(走行速度)を算出し、算出された走行速度を運転状態として取得する。さらに、運転状態取得部11は、アクセルセンサSE8の出力を受けることによりアクセル開度を取得する。
【0047】
なお、運転状態取得部11は、スロットル開度とエンジン回転速度と吸気量との間の予め定められた関係を示すマップと、実際に取得したスロットル開度およびエンジン回転速度とに基づいて、上記の吸気量を算出してもよい。また、運転状態取得部11は、シフトカムセンサSE6の出力を受けることなく、ギアポジションを取得してもよい。この場合、運転状態取得部11は、例えば実際に取得したエンジン回転速度および算出した走行速度に基づいてトランスミッション5bのギア比(減速比)を算出することにより、ギアポジションを取得してもよい。
【0048】
ECU10のROM10bには、スロットル制御情報および目標空燃比情報が予め記憶されている。スロットル制御情報は、エンジン回転速度とスロットル開度とアクセル開度との間の予め定められた関係を示す情報を含む。目標空燃比情報は、エンジン回転速度とスロットル開度と目標空燃比との間の予め定められた関係を示す情報を含む。
【0049】
走行制御部12は、触媒劣化判定動作が実施されない状態で、スロットル制御情報と運転状態取得部11により取得された各種情報とに基づいてスロットルアクチュエータ63の動作を制御する。また、走行制御部12は、触媒劣化判定動作が実施されない状態で、目標空燃比情報と運転状態取得部11により取得された各種情報とに基づいて燃料噴射装置61における燃料噴射タイミングおよび燃料噴射時間を制御する。このようにして、スロットルバルブ62の開度が調整されるとともに、混合気の空燃比を目標空燃比に近づけるフィードバック制御が行われる。それにより、運転者によるアクセルグリップ4gの操作に応じて自動二輪車100の走行状態が調整される。
【0050】
本実施の形態に係る自動二輪車100においては、触媒劣化判定動作の実施を許容するための走行速度の許容範囲がトランスミッション5bの複数のギアポジション(予め定められた複数のギア比)の各々に対応するように定められている。ECU10のROM10bには、トランスミッション5bの複数のギアポジションにそれぞれ対応する複数の許容範囲を示す情報が、ギアポジション-走行速度テーブルとして予め記憶されている。
【0051】
図3は、第1の実施の形態に係るギアポジション-走行速度テーブルの一例を示す図である。
図3の例では、トランスミッション5bの1速~6速のギアポジションの各々について、10km/hごとに当該速度範囲が許容範囲であるか否かが示される。ハッチングの付された複数の範囲が複数の許容範囲となる。
【0052】
具体的には、
図3のギアポジション-走行速度テーブルにおいては、1速および2速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は存在しない。3速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、40km/h以上50km/h未満である。4速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、40km/h以上80km/h未満である。5速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、50km/h以上80km/h未満および100km/h以上120km/h未満である。6速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、60km/h以上130km/h未満である。
【0053】
走行速度の許容範囲は、実験またはシミュレーション等により自動二輪車100の種類ごとに定められる。例えば、実験者が許容範囲の設定対象となる種類の自動二輪車100に乗車し、トランスミッション5bの複数のギアポジションの各々について、触媒劣化判定動作が実施されている状態で走行速度を変化させる。このとき、実験者が乗り心地が低下していないと判断した走行速度範囲を当該ギアポジションについての走行速度の許容範囲とする。
【0054】
図3の例では、走行速度の許容範囲は、ギアポジションが高くなる(ギア比が低くなる)につれて大きくなるように定められている。この場合、トランスミッション5bのギアポジションが高いとき(ギア比が低いとき)に、触媒劣化判定動作を実施可能な機会が増加する。
【0055】
また、本実施の形態に係る自動二輪車100においては、触媒劣化判定動作の実施を許容するための情報として、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との間の許容された関係を示す許容領域が定められている。ECU10(
図2)のROM10bには、この許容領域を示す情報が、吸気量-エンジン回転速度テーブルとして予め記憶されている。
【0056】
図4は、第1の実施の形態に係る吸気量-エンジン回転速度テーブルの一例を示す図である。
図4の吸気量-エンジン回転速度テーブルにおいては、縦軸がエンジン回転速度を表し、横軸が吸気量を表す。また、ハッチングの付された領域が、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との許容された関係を示す許容領域となる。
【0057】
図4の許容領域は、吸気量が大きくなるにつれてエンジン回転速度がエンジン回転速度の全範囲のうち中程度に制限され、エンジン回転速度が高くなるにつれて吸気量が吸気量の全範囲のうち中程度よりもやや小さい量に制限されるように設定されている。許容領域は、触媒劣化判定動作による三元触媒53の劣化状態の判定結果について一定の信頼性が維持されるように、実験またはシミュレーション等により自動二輪車100の種類ごとに定められる。
【0058】
図2の状態判定部13は、許容条件判定を行う。具体的には、状態判定部13は、自動二輪車100に関する複数の運転状態が、予め定められた複数の許容条件を満たすか否かを判定する。複数の許容条件は、自動二輪車100の走行速度が設定されているギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にありかつエンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあることを含む。
【0059】
そこで、状態判定部13は、ギアポジション-走行速度テーブルに基づいて、走行速度が設定されているギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にあるか否かを判定する。また、状態判定部13は、吸気量-エンジン回転速度テーブルに基づいて、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かを判定する。
【0060】
また、複数の許容条件は、例えばエンジン5aが始動していること、エンジン5aが予め定められた時間継続して動作していること、エンジン5aの回転速度が予め定められた上限速度を超えていないこと、およびエンジン5aの吸気量が一定範囲内であること等をさらに含む。
【0061】
本実施の形態では、許容条件のうち「自動二輪車100の走行速度が設定されているギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にありかつエンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあること」を除く複数の許容条件を他の許容条件と総称する。
【0062】
判定実施部14は、状態判定部13において複数の運転状態が全ての許容条件を満足すると判定された場合に触媒劣化判定動作を実施する。一方、判定実施部14は、状態判定部13において複数の運転状態の少なくとも一部が許容条件を満足しないと判定された場合に触媒劣化判定動作を実施しない。
【0063】
自動二輪車100の走行時には、基本的に、走行制御部12の制御に基づいて混合気の空燃比のフィードバック制御が行われる。それにより、混合気の空燃比が目標空燃比を基準としてリッチとリーンとの間で変動する。ここで、触媒劣化判定動作は、フィードバック制御による混合気の空燃比の変動周期および変動幅を、触媒劣化判定動作が実施されない場合に比べて強制的に大きくすることを含む。混合気の空燃比の変動周期および変動幅は、判定実施部14が燃料噴射装置61における燃料噴射タイミングおよび燃焼噴射時間等を変化させることにより調整される。
【0064】
運転状態取得部11は、触媒劣化判定動作中継続して所定周期で上流酸素センサSE3および下流酸素センサSE4から出力される酸素濃度を取得する。劣化判定部15は、触媒劣化判定動作中に上流酸素センサSE3および下流酸素センサSE4から出力されて運転状態取得部11により取得される酸素濃度の変化に基づいて三元触媒53が劣化しているか否かを判定する。
【0065】
その劣化状態の判定は、背景技術に記載された例のように、上流酸素センサSE3の出力の反転周波数に対する下流酸素センサSE4の出力の反転周波数の比を算出し、算出された反転周波数比を用いて行われてもよい。なお、反転周波数とは、所定時間内に各酸素センサ(SE3,SE4)の出力電圧が所定のしきい値を横切った回数である。または、その劣化状態の判定は、上流酸素センサSE3の出力波形と下流酸素センサSE4の出力波形とを比較することにより2つの出力波形の一致度を算出し、算出された一致度を用いて行われてもよい。あるいは、その劣化状態の判定は、燃料噴射装置61の動作と排出ガスの酸素濃度の変化との間の応答遅れの時間を算出し、算出された応答遅れの時間を用いて行われてもよい。
【0066】
出力制御部16は、劣化判定部15により三元触媒53が劣化していると判定された場合および図示しない異常判定装置により各種センサ等の補器類の異常が判定された場合に、警報を出力する。具体的には、出力制御部16は、例えば予め定められた一の発光色(赤色等)で点灯または点滅するように
図1の警告灯ALを制御する。
【0067】
一方、出力制御部16は、三元触媒53が劣化していると判定されない場合および図示しない異常判定装置により各種センサ等の補器類の異常が判定されない場合に、警報を出力しない。具体的には、出力制御部16は、他の発光色(黄色または緑色等)で点灯するかまたは消灯するように
図1の警告灯ALを制御する。
【0068】
上記のように、警告灯ALは、複数種類の異常について共通の警報を出力する。そのため、運転者または自動二輪車100のメンテナンスを行う作業者は、共通の警報が出力されたことを認識しても、自動二輪車100にどのような異常が発生しているのかを把握することができない。そこで、本実施の形態に係るECU10は、自動二輪車100における異常の種類を特定する自己診断機能(いわゆるオンボードダイアグノーシス)を有する。
【0069】
この自己診断機能によれば、警告灯ALによる警報の出力時に、車体に設けられる診断用ポートに専用の診断ツールが接続されることにより、実際に発生している異常の種類が特定される。また、特定された異常の種類が診断ツールから出力される。それにより、運転者または作業者は、警告灯ALから警報が出力された場合に、専用の診断ツールを用いて実際に発生している異常の種類を把握することができる。
【0070】
上記の自己診断機能の例に代えて、ECU10は、警告灯ALによる警報の出力時に、出力された警報に対応する異常の種類をさらに提示する機能(異常確認機能)を有してもよい。
【0071】
例えば、警告灯ALにより出力される警報に対応する複数種類の異常について、警告灯ALの発光色および点灯パターンがそれぞれ定められていてもよい。この場合、出力制御部16は、異常確認機能の実行が指令された場合に、出力されている警報に対応する異常の種類について予め定められた発光色および点灯パターンで警告灯ALを発光させる。それにより、運転者または作業者は、警告灯ALの発光状態を視認することにより、異常の種類を容易に把握することができる。
【0072】
あるいは、出力制御部16は、異常確認機能の実行が指令された場合に、メータユニット4mの表示部に、出力された警報に対応する異常の種類を示すエラーコード等のメッセージを表示してもよい。それにより、運転者または作業者は、メータユニット4mの表示部に表示されるメッセージに基づいて、異常の種類を容易に把握することができる。
【0073】
したがって、運転者または自動二輪車100のメンテナンスを行う作業者は、異常確認機能を使用することにより、三元触媒53の劣化状態を容易に把握することができる。
【0074】
なお、本実施の形態に係るメータユニット4mには、上記の警告灯ALに加えて、三元触媒53が劣化していることが判定された場合にのみ発光する他の警告灯が設けられてもよい。または、上記の警告灯ALは、三元触媒53が劣化していることが判定された場合にのみ特定の発光色および点灯パターンで駆動されてもよい。あるいは、メータユニット4mの表示部(液晶表示部)には、警告灯ALにおける警告の出力時に、出力された警告に対応する異常の種類を示すメッセージが表示されてもよい。これらの場合、ECU10が異常確認機能を有さない場合でも、運転者または作業者は、三元触媒53の劣化状態を容易に把握することができる。
【0075】
[3]触媒劣化判定処理
図5は、第1の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。触媒劣化判定処理は、自動二輪車100の電源がオンされること、またはエンジン5aが始動されることに応答して、ECU10のCPU10aが触媒劣化判定プログラムを実行することにより開始される。
【0076】
図5に示すように、触媒劣化判定処理が開始されると、運転状態取得部11は、各種センサ(SE1~SE8)からの出力に基づいて複数の運転状態を取得する(ステップS11)。取得される複数の運転状態には、スロットル開度、エンジン5aの吸気量、三元触媒53による浄化前の排出ガスの酸素濃度、および三元触媒53による浄化後の排出ガスの酸素濃度が含まれる。また、取得される複数の運転状態には、エンジン回転速度、トランスミッション5bのギアポジション(ギア比)および自動二輪車100の走行速度が含まれる。
【0077】
次に、状態判定部13は、ステップS11で取得された複数の運転状態が他の許容条件を満足しているか否かを判定する(ステップS12)。複数の運転状態が他の許容条件を満足しない場合、状態判定部13は処理をステップS11に戻す。それにより、複数の運転状態が再度取得される。一方、複数の運転状態が他の許容条件を満足する場合、状態判定部13は、ROM10bに記憶されたギアポジション-走行速度テーブルに基づいて、取得された走行速度が取得されたギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にあるか否かを判定する(ステップS13)。
【0078】
ステップS13において、走行速度が許容範囲にない場合、状態判定部13は処理をステップS11に戻す。それにより、複数の運転状態が再度取得される。一方、走行速度が許容範囲にある場合、状態判定部13は、吸気量-エンジン回転速度テーブルに基づいて、取得されたエンジン5aの吸気量と取得されたエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かを判定する(ステップS14)。
【0079】
ステップS14において、吸気量と取得されたエンジン回転速度との関係が許容領域にない場合、状態判定部13は処理をステップS11に戻す。それにより、複数の運転状態が再度取得される。一方、吸気量と取得されたエンジン回転速度との関係が許容領域にある場合、判定実施部14は、触媒劣化判定動作を開始する(ステップS15)。
【0080】
次に、劣化判定部15は、触媒劣化判定動作中に上流酸素センサSE3および下流酸素センサSE4から出力される酸素濃度の変化に基づいて三元触媒53が劣化しているか否かを判定する(ステップS16)。判定が完了すると、判定実施部14は、触媒劣化判定動作を停止する(ステップS17)。
【0081】
その後、出力制御部16は、
図1の警告灯ALを制御することにより三元触媒53の劣化状態の判定結果を出力し(ステップS18)、処理をステップS11に戻す。なお、本実施の形態に係る自動二輪車100においては、三元触媒53の劣化状態の判定結果を出力するための構成として、警告灯ALに加えて、劣化状態の判定結果を音声出力する音声出力装置が設けられてもよい。この場合、出力制御部16は、三元触媒53が劣化していると判定された場合に、音声出力装置を制御することにより三元触媒53の劣化を提示するための警報音を発生させてもよい。
【0082】
図5の触媒劣化判定処理においては、ステップS12,S13,S14の処理が行われる順は、上記の例に限定されない。ステップS12の処理は、ステップS13~S15の処理のうちいずれか2つの処理の間で行われてもよい。また、ステップS13の処理は、ステップS12の処理前またはステップS14の処理後に行われてもよい。さらに、ステップS14の処理は、ステップS11~S13の処理のうちいずれか2つの処理の間で行われてもよい。
【0083】
[4]第1の実施の形態の効果
(1)三元触媒53の劣化状態の判定動作に適した許容条件は、トランスミッション5bのギアポジションごとに異なる。そのため、トランスミッション5bのギアポジションによらず設定する場合、その許容条件は、自動二輪車100の乗り心地を考慮することにより極めて狭い範囲内に制限される。これに対して、上記のECU10においては、触媒劣化判定動作の実施を許容する許容条件が少なくともギアポジションに基づいて定まる。それにより、複数の運転状態が三元触媒53の触媒劣化判定動作に適しているか否かを、トランスミッション5bのギアポジションごとに適切に判定することができる。したがって、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0084】
(2)ECU10においては、ROM10bに予めギアポジション-走行速度テーブルおよび吸気量-エンジン回転速度テーブルが記憶されている。また、ギアポジション-走行速度テーブルに基づいて、走行速度が取得されたギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にあるか否かが判定される。また、吸気量-エンジン回転速度テーブルに基づいて、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かが判定される。これらの判定結果に基づいて、触媒劣化判定動作を実施するか否かが判定される。
【0085】
この場合、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係について、トランスミッション5bの複数のギアポジションにそれぞれ対応する複数の許容領域を定める必要がない。それにより、トランスミッション5bのギアポジションが多数存在する場合でも、ROM10bに記憶される情報量を低減することができる。また、運転状態が許容条件を満足するか否かの判定処理を単純化することができる。その結果、判定処理に要する時間を短縮することができるので、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ三元触媒53の劣化状態の判定動作の実施の機会をさらに増やすことができる。
【0086】
2.第2の実施の形態
第2の実施の形態に係る自動二輪車100について、第1の実施の形態に係る自動二輪車100と異なる点を説明する。本実施の形態に係る自動二輪車100は、アクセルグリップ4gの操作に対してスロットルバルブ62の開度が第1、第2および第3の応答性でそれぞれ変化する第1、第2および第3の制御モードで動作可能に構成される。第1、第2および第3の応答性のうち第1の応答性は最も高く、第1、第2および第3の応答性のうち第3の応答性は最も低い。第2の応答性は、中程度であり、第1の応答性よりも低く、第3の応答性よりも高い。
【0087】
自動二輪車100が第1の制御モードで動作する場合には、例えばアクセルグリップ4gを操作可能な全操作領域においてエンジン5aのトルクが操作量に応じて変化する。一方、自動二輪車100が第2の制御モードで動作する場合には、例えばアクセルグリップ4gを操作可能な全操作領域のうち第1の部分領域においてのみエンジン5aのトルクが操作量に応じて変化する。他方、自動二輪車100が第3の制御モードで動作する場合には、例えばアクセルグリップ4gを操作可能な全操作領域のうち第1の部分領域よりも小さい第2の部分領域においてのみエンジン5aのトルクが操作量に応じて変化する。
【0088】
図6は、第2の実施の形態に係る自動二輪車100の制御系を示すブロック図である。
図6に示すように、第2の実施の形態に係る自動二輪車100は、制御系の構成として、第1の実施の形態に係る自動二輪車100の構成に加えて、走行モード選択スイッチSW1を含む。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、ECU10、各種センサ(SE1~SE8)および警告灯ALを含む構成が、本発明の触媒劣化判定装置に相当する。
【0089】
走行モード選択スイッチSW1は、例えば自動二輪車100のハンドル4に設けられ、運転者の操作により第1~第3の制御モードのいずれかを選択可能に構成される。
【0090】
本実施の形態に係るECU10のROM10bには、第1~第3の制御モードにそれぞれ対応するスロットル制御情報が予め記憶されている。ここで、運転者による走行モード選択スイッチSW1の操作により、第1~第3の制御モードのいずれかが選択されているものとする。この場合、走行制御部12は、触媒劣化判定動作が実施されない状態で、選択された制御モードに対応するスロットル制御情報に基づいてスロットルアクチュエータ63の動作を制御する。それにより、運転者は、所望の応答性で自動二輪車100を操縦することができる。
【0091】
また、本実施の形態においては、第1、第2および第3の制御モードにそれぞれ対応するように、触媒劣化判定動作の実施を許容するための走行速度の複数の許容範囲が、第1、第2および第3の許容条件として定められている。第1、第2および第3の制御モードにそれぞれ対応する複数の許容範囲を示す情報は、第1、第2および第3のギアポジション-走行速度テーブルとして予めROM10bに記憶されている。
【0092】
図7は、第2の実施の形態に係る第1、第2および第3のギアポジション-走行速度テーブルの一例を示す図である。
図7の第1、第2および第3のギアポジション-走行速度テーブルにおいては、
図3の例と同様に、ハッチングの付された複数の範囲が複数の許容範囲となる。
【0093】
図7の上段に示す第1のギアポジション-走行速度テーブルにおいては、1速~3速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は存在しない。4速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、40km/h以上50km/h未満である。5速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、50km/h以上80km/h未満である。6速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、60km/h以上80km/h未満および100km/h以上130km/h未満である。
図7の中段に示す第2のギアポジション-走行速度テーブルは、第1の実施の形態に係る
図3のギアポジション-走行速度テーブルと同じである。
【0094】
図7の下段に示す第3のギアポジション-走行速度テーブルにおいては、1速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は存在しない。2速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、40km/h以上50km/h未満である。3速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、40km/h以上80km/h未満である。4速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、40km/h以上80km/h未満である。5速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、50km/h以上120km/h未満である。6速のギアポジションに対応する走行速度の許容範囲は、60km/h以上130km/h未満である。
【0095】
上記のように、
図7の第1~第3のギアポジション-走行速度テーブルにおいては、対応する制御モードの応答性が低くなる程、走行速度の許容範囲が大きくなっている。
【0096】
本実施の形態に係る状態判定部13は、許容条件判定時に、第1、第2および第3のギアポジション-走行速度テーブルのうち選択されている制御モードに対応するギアポジション-走行速度テーブルをROM10bから読み込む。また、状態判定部13は、読み込んだギアポジション-走行速度テーブルに基づいて、車両速度が設定されているギアポジションに対応する許容範囲内にあるか否かを判定する。
【0097】
本実施の形態においては、第1の実施の形態と同様に、ROM10bには吸気量-エンジン回転速度テーブルが記憶されている。そこで、状態判定部13は、車両速度が設定されているギアポジションに対応する許容範囲内にあるか否かの判定に加え、
図4の吸気量-エンジン回転速度テーブルに基づいて、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かを判定する。さらに、状態判定部13は、自動二輪車100の複数の運転状態が第1の実施の形態に係る他の許容条件を満たすか否かを判定する。
【0098】
図8は、第2の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
図8の第2の実施の形態に係る触媒劣化判定処理においては、初期状態で第1~第3の制御モードのうちいずれか1つが選択されているものとする。
【0099】
図8に示すように、本実施の形態に係る触媒劣化判定処理において、ステップS21,S22,S24,S25,S26,S27,S28,S29の処理は、第1の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のうちステップS11,S12,S13,S14,S15,S16,S17,S18の処理とそれぞれ同じである。
【0100】
本実施の形態では、複数の運転状態が他の許容条件を満足していると判定された後、走行速度がギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にあるか否かを判定するステップS24の処理の前に、選択された制御モードに対応するギアポジション-走行速度テーブルを読み込む処理が行われる(ステップS23)。その後、ステップS24において、読み込まれたギアポジション-走行速度テーブルを用いて、走行速度が取得されたギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にあるか否かが判定される。
【0101】
このように、本実施の形態においては、応答性を調整する複数の制御モードにそれぞれ対応する複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルを用いて許容条件判定が行われる。それにより、運転者の嗜好に応じた自動二輪車100の操縦性を実現するとともに、乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0102】
なお、
図8の触媒劣化判定処理においては、ステップS22の処理は、ステップS23~S26の処理のうちいずれか2つの処理の間で行われてもよい。また、ステップS23,S24の処理は、ステップS22の処理前またはステップS25の処理後に行われてもよい。さらに、ステップS25の処理は、ステップS21~S24の処理のうちいずれか2つの処理の間で行われてもよい。
【0103】
また、本実施の形態においては、自動二輪車100は、第1、第2および第3の制御モードで動作可能に構成されるが、自動二輪車100は複数の制御モードで動作可能に構成されればよい。この場合、自動二輪車100において動作可能な複数の制御モードにそれぞれ対応する複数のギアポジション-走行速度テーブルがROM10bに記憶される。
【0104】
例えば、自動二輪車100は、第1および第2の制御モードでのみ動作可能に構成されてもよい。この場合、ECU10のROM10bには、第1および第2の制御モードにそれぞれ対応する第1および第2のギアポジション-走行速度テーブルがROM10bに記憶される。あるいは、自動二輪車100は、第1~第4の制御モードで動作可能に構成されてもよい。この場合、ECU10のROM10bには、第1~第4の制御モードにそれぞれ対応する第1~第4のギアポジション-走行速度テーブルがROM10bに記憶される。許容条件判定時には、選択された制御モードに対応するギアポジション-走行速度テーブルが用いられる。
【0105】
3.第3の実施の形態
第3の実施の形態に係る自動二輪車100について、第1の実施の形態に係る自動二輪車100と異なる点を説明する。本実施の形態に係る自動二輪車100の制御系の構成は、基本的に第1の実施の形態に係る自動二輪車100の制御系の構成(
図2)と同じである。しかしながら、ECU10のROM10bには、第1の実施の形態に係るギアポジション-走行速度テーブルが記憶されない。ROM10bには、トランスミッション5bの複数のギアポジション(予め定められた複数のギア比)にそれぞれ対応する複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルが予め記憶されている。すなわち、本実施の形態では、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との間の許容された関係を示す許容領域が、トランスミッション5bの複数のギアポジションの各々に対応するように定められている。
【0106】
図9は、第3の実施の形態に係る複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルの一例を示す図である。
図9においては、1速~6速のギアポジションのうち3速~5速のギアポジションに対応する吸気量-回転速度テーブルの図示は省略している。
図9の各吸気量-回転速度テーブルにおいては、
図4の例と同様に、縦軸がエンジン回転速度を表し、横軸が吸気量を表す。また、ハッチングの付された領域が、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との許容された関係を示す許容領域となる。
【0107】
図9の例によれば、複数の吸気量-回転速度テーブルにおける複数の許容領域のサイズは、ギアポジションの高さによらずほぼ同じである。一方、各許容領域は、
図9に太い白抜きの点線矢印で示すように、対応するギアポジションが高い程、吸気量の範囲が高くなるように設定されている。
【0108】
本実施の形態に係る状態判定部13は、許容条件判定時に、1速~6速のギアポジションにそれぞれ対応する複数の吸気量-回転速度テーブルのうち設定されているギアポジションに対応する吸気量-回転速度テーブルを読み込む。また、状態判定部13は、読み込んだ吸気量-回転速度テーブルに基づいて、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かを判定する。さらに、状態判定部13は、自動二輪車100の複数の運転状態が第1の実施の形態に係る他の許容条件を満たすか否かを判定する。
【0109】
図10は、第3の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
図10の第3の実施の形態に係る触媒劣化判定処理においては、初期状態でトランスミッション5bのギアポジションが1速~6速のいずれか1つに設定されているものとする。
【0110】
図10に示すように、本実施の形態に係る触媒劣化判定処理において、ステップS31,S32,S34,S35,S36,S37,S38の処理は、第1の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のうちステップS11,S12,S14,S15,S16,S17,S18の処理とそれぞれ同じである。
【0111】
本実施の形態では、走行速度がギアポジションに対応する走行速度の許容範囲にあるか否かを判定する
図5のステップS13の処理が行われない。ステップS32において複数の運転状態が他の許容条件を満足していると判定された後、設定されているギアポジションに対応する吸気量-回転速度テーブルを読み込む処理が行われる(ステップS33)。その後、ステップS34において、読み込まれた吸気量-回転速度テーブルを用いて、取得されたエンジン5aの吸気量と取得されたエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かが判定される。
【0112】
このように、本実施の形態においては、複数のギアポジションにそれぞれ対応する複数の吸気量-回転速度テーブルを用いて許容条件判定が行われる。したがって、第1の実施の形態と同様に、複数の運転状態が三元触媒53の触媒劣化判定動作に適しているか否かが、トランスミッション5bのギアポジションごとに適切に判定される。その結果、運転者の乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0113】
なお、
図10の触媒劣化判定処理においては、ステップS32,S33の処理は、逆の順に行われてもよい。また、ステップS32の処理は、ステップS34の処理後に行われてもよい。
【0114】
4.第4の実施の形態
第4の実施の形態に係る自動二輪車100について、第3の実施の形態に係る自動二輪車100と異なる点を説明する。本実施の形態に係る自動二輪車100は、第2の実施の形態に係る自動二輪車100と同様に、第1、第2および第3の制御モードで動作可能に構成される。そのため、本実施の形態に係る自動二輪車100の制御系の構成は、基本的に第2の実施の形態に係る自動二輪車100の制御系の構成(
図6)と同じである。
【0115】
本実施の形態に係るECU10のROM10bには、複数のギアポジション(予め定められた複数のギア比)にそれぞれ対応する複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルからなる群が、複数の制御モードの各々に対応するように予め記憶されている。具体的には、ROM10bには、第1の制御モードに対応する複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルの群が、第1の吸気量-エンジン回転速度テーブル群として記憶されている。また、ROM10bには、第2の制御モードに対応する複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルの群が、第2の吸気量-エンジン回転速度テーブル群として記憶されている。さらに、ROM10bには、第3の制御モードに対応する複数の吸気量-エンジン回転速度テーブルの群が、第3の吸気量-エンジン回転速度テーブル群として記憶されている。
【0116】
図11は、第4の実施の形態に係る第1、第2および第3の吸気量-回転速度テーブル群の一例を示す図である。
図11に一点鎖線で示すように、第1、第2および第3の吸気量-回転速度テーブル群の各々は、1速~6速のギアポジションにそれぞれ対応する複数の吸気量-回転速度テーブルからなる。
図11に示される各吸気量-回転速度テーブルにおいては、
図4の例と同様に、縦軸がエンジン回転速度を表し、横軸が吸気量を表す。また、ハッチングの付された領域が、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との許容された関係を示す許容領域となる。
【0117】
図11の例によれば、一の吸気量-回転速度テーブル群を構成する複数の吸気量-回転速度テーブルの複数の許容領域のサイズは、ギアポジションの高さによらずほぼ同じである。しかしながら、第1、第2および第3の吸気量-回転速度テーブル群を比較すると、複数の吸気量-回転速度テーブルの複数の許容領域のサイズは、対応する制御モードの応答性が低くなる程、大きくなっている。
【0118】
本実施の形態に係る状態判定部13は、許容条件判定時に、第1、第2および第3の吸気量-回転速度テーブル群のうち選択されている制御モードに対応する吸気量-回転速度テーブル群を選択する。また、状態判定部13は、選択された吸気量-回転速度テーブル群のうち設定されているギアポジションに対応する吸気量-回転速度テーブルをROM10bから読み込む。また、状態判定部13は、読み込んだ吸気量-回転速度テーブルに基づいて、エンジン5aの吸気量とエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かを判定する。さらに、状態判定部13は、自動二輪車100の複数の運転状態が第1の実施の形態に係る他の許容条件を満たすか否かを判定する。
【0119】
図12は、第4の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のフローチャートである。
図12の第4の実施の形態に係る触媒劣化判定処理においては、初期状態で第1~第3の制御モードのうちいずれか1つが選択されているものとする。また、初期状態でトランスミッション5bのギアポジションが1速~6速のいずれか1つに設定されているものとする。
【0120】
図12に示すように、本実施の形態に係る触媒劣化判定処理において、ステップS41,S42,S44,S45,S46,S47,S48の処理は、第3の実施の形態に係る触媒劣化判定処理のうちステップS31,S32,S34,S35,S36,S37,S38の処理とそれぞれ同じである。
【0121】
本実施の形態では、ステップS42において複数の運転状態が他の許容条件を満足していると判定された後、選択された制御モードに対応しかつ設定されているギアポジションに対応する吸気量-回転速度テーブルが読み込まれる(ステップS43)。より具体的には、ROM10bに記憶された第1、第2および第3のギアポジション-走行速度テーブル群から、選択された制御モードに対応するギアポジション-走行速度テーブル群が選択される。また、選択された吸気量-回転速度テーブル群のうち設定されているギアポジションに対応する吸気量-回転速度テーブルがROM10bから読み込まれる。
【0122】
その後、ステップS44において、読み込まれた吸気量-回転速度テーブルを用いて、取得されたエンジン5aの吸気量と取得されたエンジン回転速度との関係が許容領域にあるか否かが判定される。
【0123】
このように、本実施の形態においては、複数の制御モードおよび複数のギアポジションにそれぞれ対応する複数の吸気量-回転速度テーブルを用いて許容条件判定が行われる。したがって、第2の実施の形態と同様に、運転者の嗜好に応じた自動二輪車100の操縦性を実現するとともに、乗り心地に与える影響を抑制しつつ触媒劣化判定動作の実施の機会を適切に確保することが可能となる。
【0124】
なお、
図12の触媒劣化判定処理においては、ステップS42,S43の処理は、逆の順に行われてもよい。また、ステップS42の処理は、ステップS44の処理後に行われてもよい。また、本実施の形態においては、自動二輪車100は、第1、第2および第3の制御モードで動作可能に構成されるが、自動二輪車100は2または4以上の制御モードで動作可能に構成されてもよい。この場合、自動二輪車100において動作可能な複数の制御モードにそれぞれ対応するギアポジション-走行速度テーブル群がROM10bに記憶される。
【0125】
5.他の実施の形態
(1)第1および第2実施の形態においては、ニュートラルポジションを除く1速~6速のギアポジションの全てについて、走行速度の許容範囲またはその存在の有無が定められているが、本発明はこれに限定されない。1速~6速のギアポジションのうち2以上の一部のギアポジションのみについて、走行速度の許容範囲またはその存在の有無が定められてもよい。
【0126】
(2)第3および第4の実施の形態においては、ニュートラルポジションを除く1速~6速のギアポジションの全てについて、許容領域またはその存在の有無が定められているが、本発明はこれに限定されない。1速~6速のギアポジションのうち2以上の一部のギアポジションのみについて、許容領域またはその存在の有無が定められてもよい。
【0127】
さらに、ニュートラルポジションについても許容領域またはその存在の有無が定められてもよい。この場合、他の許容条件が満足されることにより、自動二輪車100が停止している状態で許容条件判定を行うことも可能になる。
【0128】
(3)第2の実施の形態においては、自動二輪車100の全ての制御モードにそれぞれ対応するように複数のギアポジション-走行速度テーブルがROM10bに記憶されるが、本発明はこれに限定されない。自動二輪車100の全ての制御モードのうち2以上の一部の制御モードにのみそれぞれ対応するように複数のギアポジション-走行速度テーブルがROM10bに記憶されてもよい。
【0129】
(4)第4の実施の形態においては、自動二輪車100の全ての制御モードにそれぞれ対応するように複数のギアポジション-走行速度テーブル群がROM10bに記憶されるが、本発明はこれに限定されない。自動二輪車100の全ての制御モードのうち2以上の一部の制御モードにのみそれぞれ対応するように複数のギアポジション-走行速度テーブル群がROM10bに記憶されてもよい。
【0130】
(5)第1~第4の実施の形態に係る触媒劣化判定処理においては、触媒劣化判定の処理(ステップS16,S27,S36,S46)中に、複数の運転状態を再度取得してもよい。この場合、取得された複数の運転状態が他の許容条件を満足しない場合に、触媒劣化判定動作が停止されてもよい。
【0131】
(6)第1~第4の実施の形態に係る出力制御部16は、触媒劣化判定動作時に、触媒劣化判定動作が行われていることを示すメッセージ等をメータユニット4mの表示部に表示させてもよい。
【0132】
(7)第1~第4の実施の形態に係る出力制御部16は、触媒劣化判定動作が許容される場合に、触媒劣化判定動作が許容されていることを示すメッセージ等をメータユニット4mの表示部に表示させてもよい。
【0133】
(8)第1~第4の実施の形態に係る運転状態取得部11は、各種センサ(SE1~SE8)からの出力を受けることにより複数の運転状態を取得するが、本発明はこれに限定されない。運転状態取得部11には、各種センサ(SE1~SE8)からの出力信号に変えて、例えば運転者等が入力装置を操作することにより入力される情報を運転情報として取得してもよい。
【0134】
(9)第2および第4の実施の形態に係る自動二輪車100は、第1~第3の制御モードで動作可能である。第1~第3の制御モードは、車両の応答性を段階的に変更するためのモードである。選択された制御モードに対応するスロットル制御情報に基づいてスロットルアクチュエータ63の動作が制御されることにより、選択された制御モードにおける車両の応答性が実現される。
【0135】
しかしながら、第1~第3の制御モードにおける車両の応答性は、スロットル制御情報以外の情報に基づいて実現されてもよい。例えば、自動二輪車100においては、第1~第3の制御モードにそれぞれ対応する複数の点火マップ(エンジン回転速度と、スロットル開度と、点火時期との間の予め定められた関係を示す情報)が定められていてもよい。この場合、選択された制御モードに対応する点火マップに基づいて点火時期が制御されることにより、選択された制御モードにおける車両の応答性が実現される。
【0136】
(10)第2および第4の実施の形態に係る自動二輪車100は、第1~第3の制御モード(3種類の制御モード)で動作可能であるが、本発明はこれに限定されない。第2および第4の実施の形態に係る自動二輪車100は、4種類以上の制御モードで動作可能に構成されていてもよい。例えば、自動二輪車100は、アクセルグリップ4gの操作に対してスロットルバルブ62の開度が第1、第2、第3、第4および第5の応答性でそれぞれ変化する第1、第2、第3、第4および第5の制御モードで動作可能に構成されてもよい。また、第1、第2、第3、第4および第5の応答性は、この順で低くなるように定められてもよい。この場合、運転者は、自己の嗜好に応じた制御モードを選択することにより、所望の乗り心地を得ることができる。
【0137】
(11)第1~第4の実施の形態においては、排出ガスを浄化するための構成として三元触媒53が用いられるが、本発明はこれに限定されない。三元触媒53の代わりに、例えば酸化触媒が用いられてもよく、還元触媒が用いられてもよい。
【0138】
(12)上記実施の形態は本発明を自動二輪車に適用した例であるが、これに限らず、自動四輪車、自動三輪車もしくはATV(All Terrain Vehicle;不整地走行車両)等の他の鞍乗型車両に本発明を適用してもよい。
【0139】
6.実施の形態の各部と請求項の各構成要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各構成要素との対応の例について説明する。上記の実施の形態においては、エンジン5aがエンジンの例であり、トランスミッション5bが変速機の例であり、三元触媒53が触媒の例であり、自動二輪車100が鞍乗型車両の例であり、ECU10、スロットルセンサSE1、吸気圧センサSE2、上流酸素センサSE3、下流酸素センサSE4、クランクセンサSE5、シフトカムセンサSE6、車輪速度センサSE7、アクセルセンサSE8および警告灯ALを含む構成が触媒劣化判定装置の例である。
【0140】
また、運転状態取得部11が運転状態取得部の例であり、状態判定部13が状態判定部の例であり、判定実施部14が判定実施部の例であり、アクセルグリップ4gがアクセルグリップの例であり、スロットルバルブ62がスロットルバルブの例であり、メータユニット4mの警告灯ALが出力部の例である。
【0141】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の構成要素を用いることもできる。
【符号の説明】
【0142】
1…車体フレーム,1h…ヘッドパイプ,2…フロントフォーク,3…前輪,4…ハンドル,4g…アクセルグリップ,4m…メータユニット,5…エンジンユニット,5a…エンジン,5b…トランスミッション,6…リアアーム,7…後輪,8…燃料タンク,9…シート,10…ECU,10a…CPU,10b…ROM,10c…RAM,11…運転状態取得部,12…走行制御部、13…状態判定部,14…判定実施部,15…劣化判定部,16…出力制御部,51…排気管,52…マフラー,53…三元触媒,60…吸気管,61…燃料噴射装置,62…スロットルバルブ,63…スロットルアクチュエータ,100…自動二輪車,AL…警告灯,SE1…スロットルセンサ,SE2…吸気圧センサ,SE3…上流酸素センサ,SE4…下流酸素センサ,SE5…クランクセンサ,SE6…シフトカムセンサ,SE7…車輪速度センサ,SE8…アクセルセンサ,SW1…走行モード選択スイッチ