(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120710
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20220810BHJP
【FI】
A61K6/887
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017790
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤森 健輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 美樹
(72)【発明者】
【氏名】本多 弘輔
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA10
4C089BD01
4C089BD02
4C089BD03
4C089BE03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】湿潤環境下で経時的に強度が低下しない歯科用接着性組成物を提供する。
【解決手段】第1剤及び第2剤を含む2剤型の歯科用接着性組成物であって、前記第1剤は、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物、酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物、水、及び水溶性有機溶媒を含有し、前記第2剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、0~50質量%のフィラーを含有し、第1剤及び第2剤はいずれも、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを実質的に含有しない、歯科用接着性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1剤及び第2剤を含む2剤型の歯科用接着性組成物であって、
前記第1剤は、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物、酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物、水、及び水溶性有機溶媒を含有し、
前記第2剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、0~50質量%のフィラーを含有し、
第1剤及び第2剤はいずれも、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを実質的に含有しない、歯科用接着性組成物。
【請求項2】
前記第2剤中の前記多官能(メタ)アクリレート化合物は、分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物、及び、分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物を含有する、請求項1に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項3】
前記第2剤中の前記分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物の含有量に対する、前記分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の比率が、0.5~2である、請求項2に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項4】
前記第2剤中の前記分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物は、芳香族ジ(メタ)アクリレート化合物及び、脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物を含む、請求項1~3の何れか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項5】
前記第2剤中の前記分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物は、水酸基を含有するジ(メタ)アクリレート化合物である、請求項1~4の何れか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項6】
前記第2剤は、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物を実質的に含有しない、請求項1~5の何れか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項7】
前記第1剤のpHが1.2~2.0である、請求項1~6の何れか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【請求項8】
対象に前記第1剤を適用した後にエアブローを行い、さらに対象に前記第2剤を適用することにより使用される、請求項1~7の何れか1項に記載の歯科用接着性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
2剤型の歯科用接着性組成物は、歯質及びコンポジットレジンの何れに対しても、1剤型の歯科用接着性組成物に比べて良好な接着力を示すことが知られている。このような接着力は、対象に酸性化合物及び水を含む第1剤を適用し、対象を酸性エッチングした後、エアブローを行うことにより接着に関与しない水を除去した後に、重合性単量体及び光重合開始剤を含む第2剤を適用して、光照射することにより実現される。
【0003】
2剤型の歯科用接着性組成物として、例えば、酸性基を有する重合性単量体、水酸基を有する重合性単量体、及び水とからなるプライマー組成物と、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤と、重合性単量体とからなるボンディング組成物から構成される歯科用接着剤システムが開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の2剤型の歯科用接着性組成物は、湿潤環境下で経時的に強度が低下する問題がある。
【0006】
本発明の課題は、湿潤環境下で経時的に強度が低下しない歯科用接着性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る歯科用接着性組成物は、第1剤及び第2剤を含む2剤型の歯科用接着性組成物であって、前記第1剤は、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物、酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物、水、及び水溶性有機溶媒を含有し、前記第2剤は、多官能(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、0~50質量%のフィラーを含有し、第1剤及び第2剤はいずれも、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを実質的に含有しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、湿潤環境下で経時的に強度が低下しない歯科用接着性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0010】
<歯科用接着性組成物>
本実施形態に係る歯科用接着性組成物は、第1剤及び第2剤を含む2剤型の歯科用接着性組成物である。
【0011】
<第1剤>
2剤型の歯科用接着性組成物において、第1剤は、前処理剤、又はプライマーとも呼ばれ、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物、酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物、水、及び水溶性有機溶媒を含有し、2-ヒドロキシエチルメタクリレートを実質的に含有しない。
【0012】
なお、本明細書において、(メタ)アクリレートとはアクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくともいずれかを示す。
【0013】
<酸基を有する(メタ)アクリレート化合物>
酸基を有する(メタ)アクリレート化合物としては、特に限定されないが、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、スルホン酸基を有する(メタ)アクリレート、ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0014】
リン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(以下、MDPと省略する場合がある)、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、初期接着性の点で、10-メタクリロイルオキシハイドロジェンホスフェート(MDP)が好ましい。
【0015】
ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、及びアンモニウム塩等、が挙げられる。
【0016】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸(以下、4-METと省略する場合がある)、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(以下、4-METAと省略する場合がある)、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸無水物、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等、が挙げられる。これらの中でも、初期接着性の点で、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物(4-META)が好ましい。
【0017】
チオリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート(以下、MDTPと省略する場合がある)、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルジハイドロジェンチオホスフェート、14-(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルジハイドロジェンチオホスフェート、15-(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、17-(メタ)アクリロイルオキシヘプタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、18-(メタ)アクリロイルオキシオクタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、19-(メタ)アクリロイルオキシノナデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、初期接着性の点で、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート(MDTP)が好ましい。
【0018】
スルホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等、が挙げられる。
【0019】
ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフォネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスフォノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスフォノプロ
ピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスフォノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスフォノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスフォノアセテート等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0020】
これらの酸基を有する(メタ)アクリレート化合物は、二種以上併用してもよい。
【0021】
第1剤中の酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して5~30質量%であり、好ましくは10~20質量%である。第1剤中の酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量が5~30質量%であると、歯科用接着性組成物の初期接着性が向上する。
【0022】
<酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物>
酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物は、特に限定されないが、例えば、ジ(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。ジ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロイルオキシプロパン、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール♯200ジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等の分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物が好ましい。これらの酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物は、二種以上併用してもよい。
【0023】
第1剤中の酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して1~40質量%であり、好ましくは5~25質量%である。第1剤中の酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物の含有量が1~40質量%であると、歯科用接着性組成物の接着性が向上し、歯科用接着性組成物の硬化体の機械的強度が向上する。
【0024】
<水>
水としては、特に限定されないが、好ましくはイオン交換水又は蒸留水を使用する。第1剤が水を含むと、酸基を有する(メタ)アクリレートの酸基が解離し、歯面のスメアー層の溶解性、歯科用接着性組成物のプライマーとしての歯質脱灰性及び歯質への浸透性が向上する。このため、第1剤により歯面を前処理すると、歯科用接着性組成物のプライマーとしての歯質への浸透性が向上し、歯科用接着性組成物の接着性が向上する。
【0025】
歯科用組成物中の水の含有量は、特に限定されず、例えば、第1剤100質量%に対して1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがさらに好ましい。歯科用組成物中の水の含有量が1~50質量%であると、歯面のスメアー層の溶解性、歯科用接着性組成物のプライマーとしての歯質脱灰性及び歯質への浸透性が向上する。
【0026】
<水溶性有機溶媒>
水溶性有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブ、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの水溶性有機溶媒は、二種以上併用してもよい。これらの中でも、エタノール、アセトン、イソプロパノール、ブタノールが好ましい。
【0027】
第1剤中の水溶性有機溶媒の含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して10~50質量%であり、好ましくは20~40質量%である。歯科用接着性組成物中の水溶性有機溶媒の含有量が10質量%以上であると、歯科用組成物の均一性が向上し、50質量%以下であると、歯科用接着性組成物のプライマーとしての接着性が向上する。
【0028】
<その他の成分>
第1剤は、さらに、光重合開始剤、第3級アミン、重合禁止剤、及びフィラーを含有してもよい。
【0029】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、カンファーキノン等のα-ジケトン化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、アジド基を含む化合物等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、二種以上併用してもよい。
【0030】
第1剤中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して0.01~5質量%であり、好ましくは2~4質量%である。第1剤中の光重合開始剤の含有量が0.01~5質量%であると、歯科用接着性組成物の接着性が向上し、歯科用接着性組成物のプライマーとしての保存安定性が向上する。
【0031】
第3級アミンは、重合促進剤として機能し得る。第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル等の芳香族第3級アミン等が好ましい。第3級アミンを含有する場合、第1剤中の第3級アミンの含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して0.01~3質量%であり、好ましくは0.1~1質量%である。
【0032】
重合禁止剤は、特に限定されず、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、2,6-t-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。重合禁止剤を含有する場合、第1剤中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して0.01~3質量%であり、好ましくは0.1~1質量%である。
【0033】
フィラーは、特に限定されないが、無機フィラーが好ましく、例えば、コロイダルシリカ、表面が疎水化処理された微粒子シリカ、酸化アルミニウム等が挙げられる。フィラーを含有する場合、第1剤中のフィラーの含有量は、特に限定されないが、例えば、第1剤100質量%に対して0.01~30質量%であり、好ましくは0.1~10質量%である。
【0034】
<第1剤の除外成分>
【0035】
第1剤は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMAと省略する場合がある)を実質的に含有しない。本明細書において、「実質的に含有しない」とは、HEMA等の対象成分を意図的に配合しないことを意味する。なお「実質的に含有しない」対象成分は、不可避的に混入する不純物として含んでいてもよい。なお、不可避不純物として含まれている場合の対象成分の含有量は、好ましくは1%未満である。
【0036】
第1剤が2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を実質的に含有すると、歯科用接着性組成物の硬化層の強度が吸水により経時的に低下する。これに対して、本実施形態では、第1剤が2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を実質的に含有しないことで、歯科用接着性組成物の硬化層の強度が吸水により経時的に低下するのを抑制することができる。
【0037】
また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と同様の理由により、第1剤中には、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシル基を有する単官能(メタ)アクリレート化合物、及びN,N-ジエチルアクリルアミド等の単官能(メタ)アクリルアミドを実質的に含有しないことが好ましい。
【0038】
第1剤は、pHが1.2~2.0であることが好ましく、さらに好ましくは1.5~2.0である。第1剤のpHを1.2~2.0にすることで、歯面のスメアー層の溶解性及び歯質脱灰性が向上し、歯科用接着性組成物の接着性が向上する。
【0039】
<第2剤>
2剤型の歯科用接着性組成物において、第2剤は、ボンディング剤(又はボンド)とも呼ばれ、多官能(メタ)アクリレート化合物、光重合開始剤、及び、0~50質量%のフィラーを含有し、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を実質的に含有しない。
【0040】
<多官能(メタ)アクリレート化合物>
第2剤中の多官能(メタ)アクリレート化合物としては、特に限定されないが、好ましくは、ジ(メタ)アクリレート化合物であり、より好ましくは分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物及び、分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物を含有する。
【0041】
分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、分子量400以上の脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物、分子量400以上の芳香族ジ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0042】
分子量400以上の脂肪族ジ(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、例えば、1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,4,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、ポリエチレングリコール♯400ジメタクリレート、ポリエチレングリコール♯600ジメタクリレート、ポリエチレングリコール♯1000ジメタクリレート等が挙げられる。
【0043】
分子量400以上の芳香族ジ(メタ)アクリレート化合物の具体例としては、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0044】
分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物としては、特に限定されないが、好ましくは、分子量300未満のジ(メタ)アクリレート化合物である。
【0045】
分子量300未満のジ(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロイルオキシプロパン、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコール♯200ジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート等が挙げられる。これらの中でも、水酸基を含有する2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロイルオキシプロパンがより好ましい。
【0046】
第2剤中の多官能(メタ)アクリレート化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、第2剤100質量%に対して50~99質量%であり、好ましくは60~95質量%である。第2剤中の多官能(メタ)アクリレート化合物の含有量が50~99質量%であると、歯科用接着性組成物の接着性が向上し、歯科用接着性組成物の硬化体の機械的強度が向上する。
【0047】
第2剤中の分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物の含有量に対する、分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の比率は、任意であるが、0.5~2であることが好ましく、さらに好ましくは0.8~1.4である。第2剤中の分子量400以上のジ(メタ)アクリレート化合物の含有量に対する、分子量400未満のジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の比率を0.5~2にすることで、歯科用接着性組成物の接着性が向上する。
【0048】
<光重合開始剤>
第2剤中の光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、カンファーキノン等のα-ジケトン化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、アジド基を含む化合物等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、二種以上併用してもよい。
【0049】
第2剤中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、第2剤100質量%に対して0.01~8質量%であり、好ましくは3~6質量%である。第2剤中の光重合開始剤の含有量が0.01~8質量%であると、歯科用接着性組成物の接着性が向上し、歯科用接着性組成物のボンディング剤としての保存安定性が向上する。
【0050】
<フィラー>
第2剤は、フィラーを含有していてもよい。第2剤中のフィラーの含有量は0~50質量%であり、好ましくは0.1~20質量%である。すなわち、第2剤がフィラーを含有する場合は、50質量%を超えるフィラーを含有しない。
【0051】
第2剤中のフィラーの含有量が50質量%を超えると、操作性を害するとともに、重合成分が少なくなるため接着性が低下する可能性がある。これに対して、第2剤中のフィラーの含有量が50質量%以下であると、第2剤の分散性が向上し、歯科用接着性組成物のボンディング剤としての保存安定性が向上する。
【0052】
<その他の成分>
第2剤は、さらに、第3級アミン、及び重合禁止剤を含有してもよい。
【0053】
第2剤中の第3級アミンは、第1剤における場合と同様に、重合促進剤として機能し得る。第2剤中の第3級アミンとしては、特に限定されないが、例えば、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル等の芳香族第3級アミン等が好ましい。第3級アミンを含有する場合、第2剤中の第3級アミンの含有量は、特に限定されないが、例えば、第2剤100質量%に対して0.01~5質量%であり、好ましくは1~4質量%である。
【0054】
第2剤中の重合禁止剤は、特に限定されず、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、2,6-t-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。重合禁止剤を含有する場合、第2剤中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、第2剤100質量%に対して0.01~3質量%であり、好ましくは0.1~1質量%である。
【0055】
<第2剤の除外成分>
第2剤は、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を実質的に含有しない。第2剤がHEMAを実質的に含有すると、歯科用接着性組成物の硬化層の強度が吸水により経時的に低下する。これに対して、本実施形態では、第2剤がHEMAを実質的に含有しないことで、歯科用接着性組成物の硬化層の強度が吸水により経時的に低下するのを抑制することができる。
【0056】
また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と同様の理由により、第2剤中には、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシル基を有する単官能(メタ)アクリレート化合物、及びN,N-ジエチルアクリルアミド等の単官能(メタ)アクリルアミドを実質的に含有しないことが好ましい。
【0057】
第2剤は、酸基を有する(メタ)アクリレート化合物を実質的に含有しないことが好ましい。第2剤が酸基を有する(メタ)アクリレート化合物を実質的に含有すると、光重合開始剤の種類によっては劣化を引き起こすものもあり、重合性が低下する可能性がある。これに対して、第2剤が酸基を有する(メタ)アクリレート化合物を実質的に含有しないことで、第2剤中の光重合開始剤の保存安定性が向上し、歯科用接着性組成物における重合性の低下を抑制することができる。
【0058】
第2剤は、化学重合開始剤を実質的に含有しないことがさらに好ましい。第2剤が化学重合開始剤を含有すると、第2剤のボンディング剤としての保存安定性が低下する可能性がある。このような化学重合開始剤としては、例えば、バナジウムアセチルアセトネート等のバナジウム化合物が挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る歯科用接着性組成物は、上述のように、第1剤及び第2剤のいずれもが2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を実質的に含有しないため、湿潤環境下で経時的に強度が低下しにくい。そのため、本実施形態によれば、接着性を向上させ、硬化体の機械的強度を向上させる歯科用接着性組成物が得られる。
【0060】
<歯科用組成物の使用態様>
本実施形態に係る歯科用接着性組成物は、対象に上述の第1剤を適用した後にエアブローを行い、さらに対象に上述の第2剤を適用することにより使用される。ここで、対象は、歯質及び修復物(コンポジットレジンの補綴物等)のいずれでもよい。また、エアブローは、公知の方法により行うことができ、第1剤を適用した直後に行ってもよい。
【0061】
第1剤を適用する態様は、任意であり、例えば、公知の方法により対象に第1剤を塗布することができる。また、第2剤を適用する態様は任意であり、例えば、第1剤が塗布された対象に、公知の方法により対象に上述の第2剤を塗布することができる。
【0062】
本実施形態に係る歯科用接着性組成物は、このような使用態様で使用されることで、従来の2剤型の歯科用接着性組成物と同等に使用することができるため、2剤型の歯科用接着性組成物としての取り扱いが容易である。
【0063】
<歯科用接着性組成物の用途>
本実施形態の歯科用接着性組成物の用途は、特に限定されず、各種歯科材料に用いることができる。本実施形態の歯科用接着性組成物の用途としては、例えば、歯科用セメント、歯科用接着剤、歯科用仮封材、歯科用コート材、歯科用硬質レジン、歯科切削加工用レジン材料、歯科用暫間修復材、歯科用充填剤、歯磨剤などが挙げられる。これらの中でも、歯科用接着材に好適に用いられる。
【実施例0064】
以下、本発明について、さらに実施例および比較例を用いて説明する。なお、以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。また、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0065】
<試料(第1剤)>
2剤型の歯科用接着性組成物を構成する第1剤を、表1に示す配合で調製した。なお、表1で配合した第1剤は、pHが1.5であった。
【0066】
【0067】
なお、表1中の略称又は製品名で示される成分の仕様は、以下のとおりである。
【0068】
GDMA:2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロイルオキシプロパン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
AEROSIL(登録商標)R972:ジメチルジクロロシラン(DDS)で表面処理された微粒子シリカ(日本アエロジル社製)
4-META:4-メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
CQ:カンファーキノン
EPA:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
TPO:2,4,6-トリメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
【0069】
<試料(第2剤)>
2剤型の歯科用接着性組成物を構成する第2剤を、表2に示す配合で、調製した。
【0070】
【0071】
なお、表2中の略称又は製品名で示される成分の仕様は、以下のとおりである。
【0072】
Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
BPE-200:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
UDMA:1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,4,4-トリメチルヘキサン
GDMA:2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロイルオキシプロパン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
CQ:カンファーキノン
EPA:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
TPO:2,4,6-トリメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
AEROSIL(登録商標)RX50:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された微粒子シリカ(日本アエロジル社製)
AEROSIL(登録商標)R812:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された微粒子シリカ(日本アエロジル社製)
AEROSIL(登録商標)RX200:ヘキサメチルジシラザンで表面処理された微粒子シリカ(日本アエロジル社製)
【0073】
<せん断接着強さ>
ISO29022(2013)に準拠した接着試験を参考にせん断接着強さを測定した。ウシ下顎前歯を常温重合レジンにて包埋した。次いで#120-SiC耐水研磨紙を用いて、エナメル質、象牙質を露出させた後、#400-SiC耐水研磨紙を用いて試験面を研磨した。試験面に対し、セルフエッチングプライマー(第1剤又は1液目)をアプリケータを用いて塗布し、10秒間静置した。次いで、ボンド(第2剤又は2液目)をアプリケータを用いて塗布した。ボンドを弱圧エアーで均一にした後、Φ2.38mmの穴の開いたプラスチック型を試験面に乗せ、型の上から光照射器(G-ライトプリマIIプラス、ジーシー社製)を用いて10秒間光照射を行い、ボンドを硬化させた。コンポジットレジン(クリアフィルAP-X、クラレノリタケデンタル社製)を穴の中に充填し、光照射器を用いて20秒間光照射を行った。試験体に負荷がかからないように型を取り外し、試験体を37℃の水中に24時間保管した。得られた試験体について寸法を測定した後、万能試験機(EZ-S、SHIMADZU社製)を用いてせん断接着試験を実施し(クロスヘッドスピード:1mm/min)、寸法とせん断接着試験で得られた応力の値から、せん断接着強さを算出した。なお、測定は、N=5で行った。せん断接着強さの評価は、エナメル質に対しては、優:35MPa以上、良:25MPa以上35MPa未満、不可:25MPa未満の基準で行い、対象牙質に対しては、優:45MPa以上、良:35MPa以上45MPa未満、不可:35MPa未満の基準で行った。結果を表3に示す。
【0074】
<重合率>
スライドガラスの上にOHPシート、Φ10mm、厚さ1.0mmのリングを置き、第2剤をリング内に気泡が入らないように過剰に充填した。次いでOHPシートをのせ、スライドガラスを用いて圧接した。光照射器(G-ライトプリマIIプラス、ジーシー社製)を用いて、中心1点の光照射を各10秒間裏表に対し実施し、ボンドを硬化させた。得られた硬化体について、作製5分後にFT-IR(NICOLET iS50、Thermo SCIENTIFIC社製)のATR法を用いて、重合後のピークを測定した。同様に硬化前のボンドをFT-IRにて測定し、重合前のピークを測定した。重合前後のピークを比較し、下記の式より重合率を算出した。なお、測定は、いずれもN=5で行った。重合率の評価は、優:75%以上、良:60%以上75%未満、不可:60%未満の基準で行った。結果を表3に示す。
【0075】
【0076】
<曲げ強度>
ISO4049(2019)に準拠した曲げ試験により、曲げ強度を測定した。金属板の上にガラス板、OHPシート下図の寸法の型を置き、ボンド(2液目)を充填した。OHPシート、ガラス板を用いて圧接し、ガラス板の上から光照射器(G-ライトプリマIIプラス、ジーシー社製)を用いて、9点の光照射を各10秒間裏表に対し実施し、ボンドを硬化させた。37℃の恒温槽で15分静置した後、型から試験体を取り外し#320-耐水研磨紙を用いてバリを取り、37℃の水中に24時間および1週間保管した。得られた試験体について寸法を測定した後、万能試験機(AG-IS、SHIMADZU社製)を用いて3点曲げ試験を実施し(クロスヘッドスピード:1mm/min)、寸法と3点曲げ試験で得られた応力の値から、3点曲げ強さを算出し、1日(24時間)後および1週間後の曲げ強度を測定した。測定は、いずれもN=5で行った。曲げ強さの評価は、優:120MPa以上、良:100MPa以上120MPa未満、不可:100MPa未満の基準で行った。結果を表3に示す。
【0077】
<曲げ強度の低下率>
上述の曲げ試験により得られた1日後の曲げ強度及び1週間後の曲げ強度から、下記の式より、曲げ強度の低下率を算出した。なお、曲げ強度の低下率がマイナスとなる場合は、歯科用接着性組成物の硬化体の吸水が抑制され、さらに重合性の低下が抑制されたことで、経時的に重合が進み、曲げ強度が増加したことを示している。結果を表3に示す。
【0078】
【0079】
<ビッカース硬さ>
ビッカース硬さ試験により、ビッカース硬さを測定した。スライドガラスの上にOHPシート、Φ15mm、厚さ1.5mmのリングを置き、ボンド(2液目)をリング内に気泡が入らないように過剰に充填した。次いでOHPシートをのせ、スライドガラスを用いて圧接した。光照射器(G-ライトプリマIIプラス、ジーシー社製)を用いて、中心1点、円周上8点の光照射を各10秒間裏表に対し実施し、ボンドを硬化させた。得られた硬化体を、SiC耐水研磨紙を用いて#1200、#2400、#4000で順次研磨し、37℃の水中に24時間および1週間保管した。得られた試験体について、マイクロビッカース試験機(HMV-G21D1、SHIMADZU社製)を用いて、1日(24時間)後および1週間後のビッカース硬さを測定した(HV0.2、保持時間10秒、試験体3枚、1枚当たりN=5で測定)。ビッカース硬さの評価は、優:25HV以上、良:20HV以上25HV未満、不可:20HV未満の基準で行った。結果を表3に示す。
【0080】
<ビッカース硬さの低下率>
上述のビッカース硬さ試験により得られた1日後のビッカース硬さ及び1週間後のビッカース硬さから、下記の式より、ビッカース硬さの低下率を算出した。結果を表3に示す。
【0081】
【0082】
<吸水量>
ISO4049(2019)に準拠した吸水量試験により、吸水量を測定した。スライドガラスの上にOHPシート、Φ15mm、厚さ1.0mmのリングを置き、ボンド(2液目)をリング内に気泡が入らないように過剰に充填した。次いでOHPシートを載せ、スライドガラスを用いて圧接した。光照射器(G-ライトプリマIIプラス、ジーシー社製)を用いて、中心1点、円周上8点の光照射を各20秒間裏表に対し実施し、ボンドを硬化させた。得られた硬化体を、37℃に設定した恒温器内でデシケータに試験片を保管した。質量減が24時間で0.1g以下になるまで繰り返し、恒量した試験片の体積(V)と重量(m1)を求めた。試験片をサンプル容器内の蒸留水に浸漬した状態で、37℃に設定した恒温器内に1週間放置した後、秤量した試験片の重量(m2)を求めた。下記の式より吸水量を算出した。測定は、N=5で行った。吸水量の評価は、優:50μg/mm3未満、良:50μg/mm3以上60μg/mm3未満、不可:60μg/mm3以上の基準で行った。結果を表3に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
表1~3より、実施例1~7の第2剤を用いた場合には、何れの項目も優又は良であり、良好な接着性を示しつつ、湿潤環境下で経時的に強度が低下しにくい接着用組成物であることが分かる。
【0086】
一方、第2剤にHEMAを配合した場合(比較例1、2)、HEMAとMDPを配合した場合(比較例3)には、水中浸漬1週間後に曲げ強度、ビッカース硬さが低下することが分かる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。