IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図1
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図2
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図3
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図4
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図5
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図6
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図7
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図8
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図9
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図10
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図11
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図12
  • 特開-ゴルフクラブヘッド 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120711
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】ゴルフクラブヘッド
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20220810BHJP
【FI】
A63B53/04 A
A63B53/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017793
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】松永 聖史
【テーマコード(参考)】
2C002
【Fターム(参考)】
2C002AA02
2C002AA03
2C002CH01
(57)【要約】
【課題】 耐久性を損ねることなくスイートスポットを低くし、主たる打撃位置での反発性能を向上させたゴルフクラブヘッドを提供する。
【解決手段】 フェース部2を有するゴルフクラブヘッド1である。フェース部2は、ボールを打撃するための面であるフェース21と、その反対側の面であるフェース裏面22とを有する。フェース部2には、フェース裏面22を凹ませることで、第1薄肉領域24が形成されている。フェース21と直交する方向から見たフェース正面図において、第1薄肉領域24は、スイートスポットSSよりも上側かつトウ側の領域であるトウ上部領域A1に形成されている。第1薄肉領域24は、スイートスポットSSを中心とする半径5mmの領域A2よりも外側に形成されている。第1薄肉領域24の面積は、トウ上部領域の面積に対して一定の割合を有する。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部を有するゴルフクラブヘッドであって、
前記フェース部は、ボールを打撃するための面であるフェースと、その反対側の面であるフェース裏面とを有し、
前記フェース部には、前記フェース裏面を凹ませることで、第1薄肉領域が形成されており、
前記フェースと直交する方向から見たフェース正面図において、
前記第1薄肉領域は、スイートスポットよりも上側かつトウ側の領域であるトウ上部領域に形成されており、
前記第1薄肉領域は、前記スイートスポットを中心とする半径5mmの領域よりも外側に形成されており、
前記第1薄肉領域の面積は、前記トウ上部領域の面積の15%~70%である、
ゴルフクラブヘッド。
【請求項2】
前記第1薄肉領域の肉厚が0.5~2.0mmの範囲である、請求項1に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項3】
前記第1薄肉領域は、前記スイートスポットを中心とする半径10mmの領域よりも外側に形成されている、請求項1又は2に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項4】
前記第1薄肉領域は、前記フェース部の中で最も小さい肉厚を有する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項5】
前記フェース部が、フェースプレートと、前記フェースプレートの周縁部をヘッド後方から支持する支持面を有するフェース受け部とを含んで構成されており、
前記フェース正面図において、前記第1薄肉領域の一部は、前記支持面に重なり、
前記第1薄肉領域は、ヘッド前後方向において、前記支持面から離隔している、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項6】
前記フェース裏面の上側及び/又は下側に、トウ・ヒール方向にのびる溝が形成されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項7】
前記フェース部の前記溝が設けられた部分の肉厚は、前記第1薄肉領域の肉厚よりも大きい、請求項6に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項8】
前記溝は、前記第1薄肉領域とは離隔している、請求項6又は7に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項9】
前記溝のトウ側は、前記第1薄肉領域に連通している、請求項7に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項10】
前記フェース部が、フェースプレートと、前記フェースプレートの周縁部をヘッド後方から支持する支持面を有するフェース受け部とを含んで構成されており、
前記フェース正面図では、前記溝の少なくとも一部が前記支持面に重なり、
前記溝は、ヘッド前後方向において、前記支持面とは離隔している、請求項6ないし9のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【請求項11】
アイアン型である、請求項1ないし10のいずれか1項に記載のゴルフクラブヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、良好な打球感を提供しうるアイアン型ゴルフクラブヘッドを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-284155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アイアン型、フェアウエイウッド又はハイブリッドといったゴルフクラブヘッドは、芝生の上に直接置かれたゴルフボールを打撃する機会が多い。このため、この種のゴルフクラブヘッドでは、フェースの最下端から上方へ約15mm程度の位置で頻繁にボールを打撃する傾向がある。
【0005】
一方、フェースにおいて、反発が最も高くなる位置はスイートスポット付近であるが、上述のゴルフクラブヘッドの場合、通常、スイートスポットは、フェースの最下端から上方へ約20~22mm付近に位置する。このため、この種のゴルフクラブヘッドは、主たる打撃位置と反発の高い位置とが一致せず、ひいては、打球の飛距離の向上についてさらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、耐久性を損ねることなくスイートスポットを低くし、主たる打撃位置での反発性能を向上させることができるゴルフクラブヘッドを提供することを主な目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フェース部を有するゴルフクラブヘッドであって、前記フェース部は、ボールを打撃するための面であるフェースと、その反対側の面であるフェース裏面とを有し、前記フェース部には、前記フェース裏面を凹ませることで、第1薄肉領域が形成されており、前記フェースと直交する方向から見たフェース正面図において、前記第1薄肉領域は、スイートスポットよりも上側かつトウ側の領域であるトウ上部領域に形成されており、前記第1薄肉領域は、前記スイートスポットを中心とする半径5mmの領域よりも外側に形成されており、前記第1薄肉領域の面積は、前記トウ上部領域の面積の15%~70%である。
【0008】
本発明の他の態様では、前記第1薄肉領域の肉厚が0.5~2.0mmの範囲であっても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記第1薄肉領域は、前記スイートスポットを中心とする半径10mmの領域よりも外側に形成されても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記第1薄肉領域は、前記フェース部の中で最も小さい肉厚を有しても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記フェース部が、フェースプレートと、前記フェースプレートの周縁部をヘッド後方から支持する支持面を有するフェース受け部とを含んで構成されており、前記フェース正面図において、前記第1薄肉領域の一部は、前記支持面に重なり、前記第1薄肉領域は、ヘッド前後方向において、前記支持面から離隔しても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記フェース裏面の上側及び/又は下側に、トウ・ヒール方向にのびる溝が形成されても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記フェース部の前記溝が設けられた部分の肉厚は、前記第1薄肉領域の肉厚よりも大きくても良い。
【0014】
本発明の他の態様では、前記溝は、前記第1薄肉領域とは離隔していても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記溝のトウ側は、前記第1薄肉領域に連通していても良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記フェース部が、フェースプレートと、前記フェースプレートの周縁部をヘッド後方から支持する支持面を有するフェース受け部とを含んで構成されており、前記フェース正面図では、前記溝の少なくとも一部が前記支持面に重なり、前記溝は、ヘッド前後方向において、前記支持面とは離隔していても良い。
【0017】
本発明の他の態様では、ゴルフクラブヘッドは、アイアン型のゴルフクラブヘッドであっても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明のゴルフクラブヘッドは、上記の構成を採用したことにより、耐久性を損ねることなくスイートスポットを低くし、主たる打撃位置での反発性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のゴルフクラブヘッドの正面図である。
図2】本実施形態のゴルフクラブヘッドの背面図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4】本実施形態のゴルフクラブヘッドの分解斜視図である。
図5】基準状態を説明するためのゴルフクラブヘッドの概略斜視図である。
図6】(A)はゴルフクラブヘッドの正面図、(B)はそのs1断面図である。
図7図1のVII-VII線断面図である。
図8】第1実施形態のフェース正面図である。
図9】フェース部の応力分布を示す線図である。
図10図8のX-X線断面図である。
図11】第2実施形態のフェース正面図である。
図12図11のXII-XII線断面図である。
図13】第3実施形態のフェース正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
以下に開示されるいくつかの実施形態は、いかなる方法においても限定することを意図するものではない。さらに、開示された実施形態は、単独で又は様々な組み合わせで使用することができる。さらに、本明細書を通して、同一又は共通する要素については、同一の符号が付されており、重複する説明は省略されている。
【0021】
図1~4は、それぞれ、本実施形態のゴルフクラブヘッド(以下、単に「ヘッド」ということがある。)1の正面図、背面図、図1のIII-III線断面図及び分解斜視図である。本発明は、芝生の上に直接置かれたゴルフボールを打撃する機会が多いヘッドに好適に実施され得る。本実施形態では、このようなヘッドとして、アイアン型ゴルフクラブヘッドが例示されている。他の形態では、ヘッド1は、例えば、フェアウエイウッドやユーティリティとして構成されても良い。
【0022】
ヘッド1は、例えば、フェース部2、トップ3、ソール4、トウ5、ヒール6及びホーゼル7を含む。
【0023】
フェース部2は、ボールを打撃するための面であるフェース21と、その反対側の面であるフェース裏面22とを有する。フェース21には、ボールとの摩擦を高める目的で複数のフェースライン8(図5参照)が形成されている。フェースライン8はトウ・ヒール方向に延びる溝である。図5以外の図面では、フェースライン8は省略されている。
【0024】
[基準状態]
図1~4において、ヘッド1は、基準状態とされている。本明細書において、ヘッド1の「基準状態」とは、図5に概念的に示されるように、ヘッド1のフェース21に形成されたフェースライン8が、水平面HPに平行とされた状態で、ヘッド1が水平面HP上に載置された状態である。基準状態では、ヘッド1のホーゼル7の中心軸線CL(クラブシャフトの軸線)が基準垂直面VP内に配される。基準垂直面VPは、水平面HPに対して垂直な平面である。この基準状態において、フェースライン8は、水平面H及び基準垂直面VPの双方に平行である。また、図5において、αはライ角、βはロフト角をそれぞれ示している。本明細書及び特許請求の範囲において、特に言及されていない場合、ヘッド1は、基準状態に置かれているものとして、各部の構成が説明されている。
【0025】
[ヘッドの各方向]
図5を参照して、ヘッド1の前側は、基準状態において、フェース21の側を意味する。ヘッド1の後側又は背面側は、フェース21の反対側を意味する。また、ヘッド前後方向は、図5において、基準垂直面VPと直交するx軸の方向である。また、ヘッド1のトウ・ヒール方向は、ヘッド前後方向と直交する水平なy軸の方向である。ヘッド1の上下方向は、x軸及びy軸にともに直交するz軸の方向であり、ヘッド1の「上側」及び「下側」は、それぞれ、基準状態での「上側」及び「下側」に相当する。
【0026】
[ヘッド各部の構造]
図1及び図3に示されるように、フェース21は、スイートスポットSSを含む。スイートスポットSSは、図3に示されるように、ヘッド重心CGからフェース21に立てた法線Nとフェース21との交点である。スイートスポットSSは、反発に優れる打点の一つである。
【0027】
本実施形態のアイアン型のヘッド1の場合、フェース21は、平面で形成される。したがって、アイアン型のヘッドの場合、フェース部2は、このような平面のフェース21を前面に備えた部分でる。
【0028】
一方、ヘッド1がフェアウエイウッドやハイブリッドの場合、フェース21は、例えば、ロール及び/又はバルジを有する曲面で形成され得る。この場合、フェース部2は、フェース21の周縁で囲まれた部分になる。本明細書において、フェース21の周縁は、次のように定義される。まず、図6(A)に示されるように、ヘッド重心CGとスイートスポットSSとを結ぶ法線Nを含む各断面s1、s2、s3…が特定される。そして、図6(B)に示されるように、前記各断面s1、s2、s3…において、ヘッド外面側の輪郭線Lfの曲率半径rがスイートスポットSS側からフェース外側に向かって初めて200mmとなる位置Peを求め、これらの位置Peを連ねたものがフェース21の周縁Eとされる。
【0029】
図3に示されるように、トップ3は、例えば、ヘッド1の上面部分を構成するように、フェース21の上縁からヘッド1の後方に延びている。トップ3は、クラウン又は「ヘッド上部」と呼ばれる場合がある。
【0030】
ソール4は、ヘッド1の下面部分を構成するように、フェース21の下縁からヘッド1の後方に延びている。ソール4は、「ヘッド下部」と呼ばれる場合がある。本実施形態では、ソール4の後方に、さらに、背壁部10が設けられている。背壁部10は、フェース裏面22から後方に離れた位置をヘッド上部側へと延びている。これにより、本実施形態のヘッド1は、フェース部2の後方にポケット状のキャビティiが形成されている。背壁部10は、ヘッド重心CGをより低く、かつ、より深く形成するのに役立つ。
【0031】
トウ5は、ヘッド1のトウ・ヒール方向において、ホーゼル7から最も離れた端部分であり、トップ3とソール4との間を滑らかに接続している。ヒール6は、ヘッド1のトウ・ヒール方向において、トウ5と反対側に位置する端部分であり、そこには、ホーゼル7が接続されている。
【0032】
ホーゼル7は、例えば、筒状に構成されており、図1に示されるように、クラブシャフト(図示省略)を受け入れるためのシャフト差込穴7aを有する。シャフト差込穴7aの中心軸線によって、ホーゼル7の中心軸線CLが画定される。
【0033】
図4に示されるように、本実施形態のヘッド1は、例えば、フェースプレート100と、ヘッド本体200とが接合されて構成されている。
【0034】
本実施形態では、フェースプレート100及びヘッド本体200は、互いに異なる金属材料で構成されている。フェースプレート100は、例えば、高い強度を有する金属材料が好適であり、例えば、チタン、チタン合金、ステンレス鋼、マレージング鋼等が採用され得る。ヘッド本体200は、例えば、ステンレス鋼、機械構造用炭素鋼等が好適である。
【0035】
本実施形態のフェースプレート100は、プレート形状を有し、前面101、裏面102、及び、側面103を有する。
【0036】
本実施形態において、フェースプレート100の前面101は、フェース21の主要部を構成することができる。
【0037】
本実施形態において、フェースプレート100の裏面102は、フェース裏面22の主要部を構成している。
【0038】
本実施形態において、フェースプレート100の側面103は、例えば、トップ3側の側面103a、ソール4側の側面103b、トウ5側の側面103c及びヒール6側の側面103dを有する。
【0039】
好ましい態様では、フェースプレート100の側面103のうち、トップ3側の側面103a、ソール4側の側面103b及びトウ5側の側面103cの少なくとも一つ、好ましくは複数、さらに好ましくは全てが、ヘッド外面に露出するように形成される。本実施形態では、図1及び図3に示されるように、フェースプレート100のトップ3側の側面103a、ソール4側の側面103b及びトウ5側の側面103cは、それぞれトップ3、ソール4及びトウ5のヘッド前側部分を構成するようにヘッド外面に露出している。このようなフェースプレート100は、フェース21のより広い範囲を形成し、高い反発性能を提供するのに役立つ。
【0040】
図4に示されるように、ヘッド本体200は、例えば、ヒール6、ホーゼル7、背壁部10、及び、フェース受け部201を備える。
【0041】
フェース受け部201は、例えば、ヘッド前後方向に貫通する開口部Oを画定するように環状に形成されており、トップ側受け部201a、ソール側受け部201b、トウ側受け部201c及びヒール側受け部201dを備える。トップ側受け部201a、ソール側受け部201b及びトウ側受け部201cは、それぞれ、ヘッド1のトップ3の後部、ソール4の後部及びトウ5の後部を形成している。これらの受け部は、フェース部2の周縁側に大きな重量を配分し、ヘッド1の慣性モーメントを大きくするのに役立つ。
【0042】
フェース受け部201はまた、フェースプレート100の周縁部100eをヘッド後方から支持する支持面202を有する。本実施形態の支持面202は、トップ側受け部201a、ソール側受け部201b、トウ側受け部201c及びヒール側受け部201dを連続するように環状に形成されている。なお、フェースプレート100とヘッド本体200とは、支持面202とフェース裏面22とが互いに接触するように、例えば、溶接、ロウ付け、かしめ等、様々な接合方法で固着される。
【0043】
以上のように、本実施形態のヘッド1のフェース部2は、フェースプレート100とフェース受け部201との複合体として構成されるが、本発明のヘッド1は、このような態様に限定されるものではない。他の態様として、本発明のヘッド1は、鋳造又は鍛造等により一体形成されたワンピース構造であっても良い。
【0044】
図7は、図1のVII-VII線断面図である。図1及び図7に示されるように、フェース部2には、フェース裏面22を凹ませることで、第1薄肉領域24が形成されている。本実施形態の第1薄肉領域24は、フェースプレート100の裏面102を凹ませることにより形成されている。
【0045】
第1薄肉領域24は、例えば、肉厚t1の部分を含む。この肉厚t1は、フェース部2の中で相対的に小さい。本実施形態の第1薄肉領域24の肉厚t1は、フェース部2の肉厚分布の中で、最も小さく形成されている。
【0046】
[第1実施形態]
図8は、フェース21と直交する方向から見たフェース正面図である。図8に示されるように、第1実施形態の第1薄肉領域24は、スイートスポットSSよりも上側かつトウ側の領域であるトウ上部領域A1に形成されている。トウ上部領域A1は、前記フェース正面図において、スイートスポットSSを通る水平線L1よりも上側で、かつ、スイートスポットSSを通りかつ水平線L1と直交する垂直線L2よりもトウ5側の領域である。
【0047】
本実施形態の第1薄肉領域24は、閉じた輪郭を有した一つの領域であり、この輪郭がトウ上部領域A1からはみ出すことなく設けられている場合が示される。他の形態では、第1薄肉領域24は、トウ上部領域A1からはみ出しても良い。
【0048】
また、前記フェース正面図において、第1薄肉領域24は、スイートスポットSSを中心とする半径5mmの領域A2よりも外側に形成されている。換言すると、第1薄肉領域24は、領域A2には入り込んでいない。したがって、領域A2は、第1薄肉領域24の肉厚t1よりも大きい肉厚で形成される。
【0049】
さらに、前記フェース正面図において、第1薄肉領域24の面積は、トウ上部領域A1の面積の15%~70%とされている。ここで、トウ上部領域A1の面積は、フェース正面図において、直線L1、L2及びヘッド輪郭で囲まれる領域の面積である。
【0050】
[本実施形態の作用]
本実施形態のヘッド1は、トウ上部領域A1に第1薄肉領域24が形成されていることから、スイートスポットSSよりも上側の重量が低減し、ひいては、低いスイートスポットSSを提供することができる。したがって、本実施形態のヘッド1は、フェース21の比較的低い位置でボールを打撃したときの反発性能が向上する。すなわち、アイアン型、フェアウエイウッド、ハイブリッドといったヘッドの主たる打撃位置の反発性能が向上し、打球の飛距離が伸びる。好ましい態様では、第1薄肉領域24の面積及び/又は肉厚が調整されることで、スイートスポットSSは、水平面HPから19~21mmの範囲に位置し得る。
【0051】
また、発明者らは、アイアン型のヘッドについて、ボール打撃時のフェースの応力分布を調べた。ボール打撃位置は、フェースの最下端から上方へ15mm、かつ、フェースのトウ・ヒール方向の中心とした。図9には、その結果が示されており、応力が色の濃淡によって表されている。また、図9は、フェース部を裏面側から見た線図である。図9から明らかなように、打撃位置S1では最も大きな応力が生じているが、上述のトウ上部領域A1には、非常に小さい応力しか生じておらず、殆ど撓んでいない。
【0052】
本実施形態のヘッド1では、トウ上部領域A1に第1薄肉領域24を形成したことで、トウ上部領域A1が撓みやすく構成される。したがって、本実施形態のヘッド1は、ボール打撃時、これまで殆ど撓んでいなかったトウ上部領域A1の撓みを助長することにより、フェース21の撓み領域を拡大し、反発性をさらに向上させることができる。また、第1薄肉領域24を設けたことで、スイートスポットSSよりも上でボールを打撃したときにも、フェース21がたわみやすくなるため、上打点の反発性能をも高め、その結果、高反発エリアを拡大することもできる。
【0053】
なお、スイートスポットSS付近については、実際に打撃する可能性があることから、第1薄肉領域24は、スイートスポットSSを中心とする半径5mmの領域A2よりも外側に形成される。これにより、フェース部2の耐久性を損ねることなく、上記作用が発揮され得る。フェース部2の耐久性の悪化をさらに確実に抑制するために、第1薄肉領域24は、好ましくは、スイートスポットSSを中心とする半径10mmの領域A3の外側とされ、さらに好ましくは半径15mmの領域A4よりも外側に形成されても良い。
【0054】
また、第1薄肉領域24の面積は、トウ上部領域A1の面積の15~70%とされているため、トウ上部領域A1は、耐久性とボール打撃時の大きな撓みが両立される。すなわち、第1薄肉領域24の面積が、トウ上部領域A1の面積の15%未満になると、ボール打撃時のトウ上部領域A1の撓みが十分に得られず、ひいては低いスイートスポットSSや高反発エリアの増大効果が得られにくい傾向がある。逆に、第1薄肉領域24の面積が、トウ上部領域A1の面積の70%を超えると、フェース部2の耐久性が悪化するおそれがある。これらの諸性能をさらに高い次元で両立させるために、第1薄肉領域24の面積は、トウ上部領域A1の好ましくは面積の20%以上、より好ましくは25%以上とされる一方、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下とされても良い。
【0055】
[フェース部の厚さ]
本実施形態において、第1薄肉領域24の肉厚t1は、特に限定されるものではいが、耐久性を損ねないように、例えば0.5mm以上、好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは1.2mm以上とされる。また、第1薄肉領域24の肉厚t1は、スイートスポットSSを下げつつトウ上部領域A1を撓みやすくする効果をさらに高めるために、例えば2.0mm以下、好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.6mm以下とされる。
【0056】
フェース部2の基準となる肉厚t2(本実施形態では、フェースプレート100の最大の肉厚t2で、以下同様である。)は、特に限定されるものではいが、耐久性の悪化をより確実に抑制するために、肉厚t1よりも大きいのが好ましく、例えば1.0mm以上、好ましくは1.5mm以上、さらに好ましくは1.8mm以上とされても良い。また、フェース部2の肉厚t2は、さらに撓みやすくするために、例えば3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.2mm以下とされても良い。
【0057】
[第1薄肉領域の態様]
図8に示されるように、第1薄肉領域24は、トウ上部領域A1をより効果的に撓みやすくするために、フェース21の外周側に広く延在するように設けられても良い。例えば、図8のフェース正面図において、第1薄肉領域24の一部が、ヘッド本体200の支持面202の上に重なるように形成されても良い。
【0058】
一方、図10は、図8のX-X線断面図であるが、図10に示されるように、支持面202に重なる第1薄肉領域24は、ヘッド前後方向において、支持面202から離隔しているのが好ましい。このような態様では、ボール打撃時に撓みやすい第1薄肉領域24を、支持面202による制約を受けることなくフェース21の外周側に拡張することができ、ひいては、フェース21をさらに撓みやすく構成することができる点で好ましい。
【0059】
[第2実施形態]
図11には、第2実施形態のフェース正面図が示される。図11に示されるように、この実施形態のヘッド1は、フェース裏面22としてのフェースプレート100の裏面102(図4に示す)の上側及び/又は下側に、さらに、トウ・ヒール方向にのびる溝26が形成されている。
【0060】
本実施形態では、溝26は、トップ側の溝26aと、ソール側の溝26bとを含むが、いずれか一方のみでも良い。
【0061】
トップ側の溝26aは、スイートスポットSSよりも上側をトウ・ヒール方向に延びる。ソール側の溝26bは、スイートスポットSSよりも下側をトウ・ヒール方向に延びる。いずれの溝26a、26bも、フェース21の輪郭に沿って、垂直線L2を横切るように延びている。また、トップ側の溝26a及びソール側の溝26bのトウ側は、閉じた端部を有し、第1薄肉領域24とは離隔するように構成されている。
【0062】
図12は、図10のXII-XII線断面図である。図12に示されるように、フェース部2において溝26が設けられた部分は、薄肉化されており、肉厚t3を有する。この肉厚t3は、フェース部2の基準となる肉厚t2よりも小さい。したがって、この実施形態のヘッド1は、ボール打撃時、フェース21の上部及び/又は下部がさらに撓みやすくなることから、高反発エリアがさらに拡大する。
【0063】
好ましい態様では、図11に示されるように、溝26は、フェース部2をより大きく撓ませるために、フェース21のより外周側に位置するように設けられても良い。例えば、図11のフェース正面図において、溝26の一部(本実施形態では、ソール側の溝26b)が、ヘッド本体200の支持面202の上に重なるように形成されても良い。
【0064】
一方、図12に示されるように、支持面202に重なる溝26(この例では、ソール側の溝26b)は、ヘッド前後方向において、支持面202から離隔しているのが好ましい。このような態様では、ボール打撃時に撓みやすい溝26の部分を、支持面202による制約を受けることなくフェース21の外周側に位置させることができ、ひいては、フェース21をさらに撓みやすく構成することができる点で好ましい。
【0065】
溝26が設けられた部分の肉厚t3は、特に制限されないが、フェース部2の耐久性を確保する観点から、例えば、1.50~2.0mmの範囲とされるのが望ましい。とりわけ、溝26の肉厚t3は、第1薄肉領域24の肉厚t1よりも大きいのが望ましい。すなわち、フェース部2の肉厚は、t1<t3<t2とされるのが好ましい。
【0066】
溝26の幅w(図12に示す)は、例えば、0.5mm以上とされ、好ましくは1.0mm以上とされ、さらに好ましくは1.5mm以上とされるが、フェース部2の耐久性を維持する観点より、例えば、3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下とされる。
【0067】
なお、第2実施形態において、第1薄肉領域24と離れた溝26が存在し、この溝26の一部がトウ上部領域A1内を延びている場合、「第1薄肉領域24の面積」は、トウ上部領域A1内における第1薄肉領域24と溝26の合計面積として定義される。
【0068】
[第3実施形態]
図13には、第3実施形態のフェース正面図が示される。図13に示されるように、第3実施形態のヘッド1も、フェース裏面22としてのフェースプレート100の裏面102(図4に示す)の上側及び/又は下側に、トウ・ヒール方向にのびる溝26が形成されている。ただし、第3実施形態では、トップ側の溝26a及びソール側の溝26bのトウ側は、第1薄肉領域24と連通している点で第2実施形態と異なっている。このような態様は、第1薄肉領域24と溝26とが協働し、フェース21をさらに撓みやすく構成することができる点で好ましい。
【0069】
なお、第3実施形態において、第1薄肉領域24と連通する溝26が存在し、この溝26の一部がトウ上部領域A1内を延びている場合、「第1薄肉領域24の面積」は、トウ上部領域A1内における第1薄肉領域24と溝26の合計面積として定義される。
【0070】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例0071】
本発明の効果を確認するために、本発明のより詳細な実施例が説明される。ただし、本発明は、これらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0072】
図1ないし4に示した基本構造を備えたアイアン型ゴルフクラブヘッド(実施例)が、表1の仕様に基づいて試作され、それらの性能がテストされた(実施例)。また、比較のために、本発明外のゴルフクラブヘッド(比較例)についても同様にテストが行われた。比較例1は、一定厚さ(肉厚t2)のフェースプレートを備えるものである。主な共通仕様は、以下の通りである。
番手:I#6
ヘッド重量:260g
第1薄肉領域の肉厚t1:1.55mm
フェースプレートの基準となる肉厚t2:2.10mm
溝を有するヘッドについてその部分の肉厚t3:1.65mm
溝の幅w:2mm
【0073】
反発性能として、CORがコンピュータシミュレーションにより計算された。CORは、反発係数(Coefficient Of Restitution)を意味し、USGA(United States Golf Association:全米ゴルフ協会)で規定されている「Interim Procedure for Measuring the Coefficient of Restitution of an Iron Clubhead Relative to a Baseline Plate Revision 1.3 January 1, 2006」に基づいて計算された。CORの値が大きいほど、測定位置でのフェースの反発性が良いと評価することができる。COR値は、スイートスポットの位置(SS位置)と、フェースの最下端から上方へ15mmの位置かつトウ・ヒール方向の中間位置(下打撃位置)との2箇所で計算された。
【0074】
また、耐久性として、実打テストが行われた。このテストでは、各ゴルフクラブヘッドに同一のFRP製のクラブシャフトを装着してアイアン型ゴルフクラブ(全長38インチ)を試作し、それらをスイングロボットに取り付け、ヘッドスピードが39m/sとなるように調節してゴルフボールを各クラブで打撃し、フェース部に損傷が生じるまでの打球数が測定された(最大10000発打撃)。測定は、100球打撃毎に、目視により行われた。結果は、数値が大きいほど耐久性に優れることを示す。なお、損傷が生じなかった場合、「損傷なし」と表示している。
テストの結果が、表1に示される。
【0075】
【表1】
【0076】
テストの結果、実施例のヘッドは、耐久性を損ねることなく、スイートスポットの位置が低くなり、かつ、下打撃位置でのCORが向上していることが確認できた。
【符号の説明】
【0077】
1 ゴルフクラブヘッド
2 フェース部
5 トウ
6 ヒール
21 フェース
22 フェース裏面
24 第1薄肉領域
26 溝
100 フェースプレート
100e フェースプレートの周縁部
102 フェースプレートの裏面
200 ヘッド本体
201 フェース受け部
202 支持面
A1 トウ上部領域
SS スイートスポット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13