IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小林 博の特許一覧

特開2022-120727鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊して厚みが薄い扁平粉とし、該扁平粉の扁平面同士をシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法
<>
  • 特開-鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊して厚みが薄い扁平粉とし、該扁平粉の扁平面同士をシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120727
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊して厚みが薄い扁平粉とし、該扁平粉の扁平面同士をシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/21 20170101AFI20220810BHJP
   B22F 9/30 20060101ALI20220810BHJP
   B22F 7/08 20060101ALI20220810BHJP
   C22C 1/10 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C01B32/21
B22F9/30 Z
B22F9/30 A
B22F7/08 C
C22C1/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017820
(22)【出願日】2021-02-05
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4G146
4K017
4K018
4K020
【Fターム(参考)】
4G146AA02
4G146AB05
4G146AB07
4G146AC02B
4G146AC03B
4G146AC22B
4G146AD17
4G146AD20
4G146AD22
4G146AD26
4G146CB03
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB19
4G146CB26
4G146CB34
4K017AA03
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA05
4K017BA06
4K017BA10
4K017CA08
4K017EK05
4K018AB07
4K018AD20
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA10
4K018BA20
4K018BB05
4K018JA36
4K018KA04
4K018KA33
4K020AA24
4K020AC01
4K020AC04
4K020AC05
4K020AC06
4K020AC07
4K020BB29
(57)【要約】      (修正有)
【課題】形状と大きさと厚みとが自在に変えられる黒鉛シートの製造方法を提供する。
【解決手段】表面同士で重なり合った鱗片状黒鉛粒子の集まりをメタノールに浸漬し、圧縮して厚みが薄い扁平粉とし、次いで、熱分解で金属を析出する金属化合物を加えて攪拌し、扁平粉の集まりを金属化合物のメタノール分散液に浸漬させ、さらに、扁平面同士をメタノール分散液を介して重ね合わせ、この後、金属化合物を熱分解して金属微粒子の集まりを一斉に析出させ、さらに、扁平粉の集まりを圧縮し、金属微粒子を塑性変形させ、塑性変形した金属微粒子同士が摩擦熱で接合し、また、塑性変形した金属微粒子が摩擦熱で扁平粉に接合し、扁平面同士が結合された扁平粉の集まりが、容器の底面に該底面の形状として作成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、該鱗片状黒鉛粒子の厚みより厚みが薄い扁平粉を作成し、該扁平粉の扁平面同士をシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法は、
鱗片状黒鉛粒子の集まりと、該鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量の3倍を超える重量からなるメタノールとを第一の容器に投入し、該容器に前後、左右、上下からなる3方向の衝撃加速度を順番に繰り返し加え、前記鱗片状黒鉛粒子の表面が上を向いて、該鱗片状黒鉛粒子の表面同士で該鱗片状黒鉛粒子を重ね合わせ、該重なり合った前記鱗片状黒鉛粒子の集まりが前記メタノール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する第一の工程と、前記第一の懸濁液を覆う板材を被せ、次いで該板材を圧縮し、前記第一の懸濁液中の前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに圧縮応力を加え、該鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、前記鱗片状黒鉛粒子を厚みが薄い扁平粉とし、該扁平粉の集まりが前記メタノール中に浸漬した第二の懸濁液を作成し、その後、前記板材を取り除く第二の工程と、熱分解で金属を析出する金属化合物を、前記メタノールの重量の1/12より少ない重量として前記第一の容器に加えて攪拌し、該金属化合物が前記メタノール中に分子状態で均一に分散した該金属化合物のメタノール分散液を作成するとともに、前記扁平粉の集まりが前記金属化合物のメタノール分散液に浸漬した第三の懸濁液を作成する第三の工程と、該第三の懸濁液を、前記第一の容器の底面の形状と異なる底面の形状を持つ第二の容器に移し、該第二の容器内にホモジナイザー装置を配置させて該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記金属化合物のメタノール分散液を介して前記扁平粉の集まりに衝撃を繰り返し加え、該扁平粉の集まりを、前記金属化合物のメタノール分散液を介して1枚1枚の前記扁平粉に分離させ、該扁平粉の全てが前記金属化合物のメタノール分散液で覆われた第四の懸濁液を作成し、この後、前記ホモジナイザー装置を前記第二の容器から取り出す第四の工程と、前記第二の容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記扁平粉の扁平面同士が前記金属化合物のメタノール分散液を介して重なり合った該扁平粉の集まりを、前記第二の容器の底面に該底面の形状として作成する第五の工程と、前記第二の容器を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温し、前記金属化合物を熱分解して金属微粒子の集まりを一斉に析出させ、前記扁平粉の扁平面同士が前記金属微粒子の集まりを介して重なり合った該扁平粉の集まりを作成する第六の工程と、該扁平粉の集まりを覆う板材を被せ、次いで該板材を圧縮し、前記扁平粉の集まりに圧縮応力を加え、前記金属微粒子を塑性変形させ、該塑性変形した金属微粒子同士が互いに接触する部位で摩擦熱によって接合するとともに、該塑性変形した金属微粒子が、前記扁平粉と接触する部位で摩擦熱によって該扁平粉に接合し、該摩擦熱で接合した前記金属微粒子の集まりを介して前記扁平粉の扁平面同士が結合された該扁平粉の集まりを、前記第二の容器の底面に該底面の形状として作成し、この後、前記板材を取り除き、さらに、前記第二の容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、前記扁平粉の集まりを、前記第二の容器から引き離し、該扁平粉の集まりを前記第二の容器から取り出す第七の工程からなり、これら7つの工程を連続して実施することで、鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、該鱗片状黒鉛粒子の厚みより厚みが薄い扁平粉の扁平面同士がシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートを製造し、該黒鉛シートを基材または部品の表面に圧着させる方法は、
請求項1に記載した黒鉛シートを製造する方法において、第一に、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状と厚みとを有する該黒鉛シートを形成するのに必要な鱗片状黒鉛粒子の使用量を用い、第二に、請求項1に記載した第二の容器の底面が、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状を有し、これら2つの条件を遵守し、請求項1に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて黒鉛シートを作成し、該黒鉛シートを基材または部品の表面に圧着させる部位に配置させ、さらに、該黒鉛シートの表面を覆う板材を被せ、次いで該板材を、請求項1に記載した第七の工程で加えた圧縮応力より大きな圧縮応力で圧縮し、前記黒鉛シートの裏面の金属微粒子を塑性変形させ、該塑性変形した金属微粒子が、前記基材または前記部品の表面に摩擦熱で接合し、該摩擦熱で接合した前記金属微粒子の集まりを介して前記黒鉛シートを前記基材または前記部品に圧着させる方法。
【請求項3】
請求項1に記載した黒鉛シートを製造する製造方法は、
請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子または無機物のイオンが配位子となって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩で構成された無機金属化合物であり、該無機金属化合物を、請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、請求項1に記載した黒鉛シートを製造する製造方法に従って黒鉛シートを製造する、請求項1に記載した黒鉛シートを製造する製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載した黒鉛シートを製造する製造方法は、
請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、請求項1に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、請求項1に記載した製造方法に従って黒鉛シートを製造する、請求項1に記載した黒鉛シートを製造する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、該鱗片状黒鉛粒子の厚みより厚みが薄い扁平粉を作成し、該扁平粉の扁平面同士を薄いシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法に係る。
すなわち、鱗片状黒鉛粒子は、厚みに対する表面積の比率である扁平率が30より大きく、黒鉛粒子の中で、最も扁平率が高い鱗状の扁平粉である。しかし、鱗片状黒鉛粒子の集まりは、大きさに広い分布を持つため、鱗片状黒鉛粒子の集まりは嵩密度が低い。このため、鱗片用黒鉛粒子同士を直接結合させることは困難である。また、鱗片状黒鉛粒子の集まりを圧縮しただけでは、内部に空隙が多数形成されるため、鱗片状黒鉛粒子の集まりは、空隙が起点になって崩れる。
このため、鱗片状黒鉛粒子を、黒鉛結晶の基底面の層間結合で破壊し、鱗片状黒鉛粒子を扁平粉とする。この扁平粉は、第一に、扁平粉の厚みの分布が鱗片状黒鉛粒子の大きさの分布より小さく、第二に、扁平粉の扁平率が鱗片状黒鉛粒子の扁平率より大きく、第三に、扁平粉の重量が鱗片状黒鉛粒子の重量より小さい。従って、扁平粉の扁平面同士を結合させることは、鱗片状黒鉛粒子の表面同士を直接結合させることより容易である。
本発明は、容器の底面に該底面の形状として、扁平粉の扁平面同士を金属微粒子の集まりを介して薄いシート状に結合し、扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを作成する。この黒鉛シートは、全ての扁平粉が扁平面、すなわち、基底面同士で結合するため、基底面に近い性質を持つ。また、容器の底面の形状を変えることで、黒鉛シートの形状と大きさとが自在に変えられる。さらに、鱗片状黒鉛粒子の使用量を変えることで、黒鉛シートの厚みが自在に変えられる。
【背景技術】
【0002】
鱗片状黒鉛粒子からなる黒鉛粒子は、天然の黒鉛結晶の塊を破砕し、黒鉛結晶からなる粒子を精製して選別する。このため、鱗片状黒鉛粒子は、最も安価な炭素原子のみからなる材料である。また、鱗片状黒鉛粒子は鱗状の扁平粉で、厚みに対する表面の面積の比率である扁平率は30より大きく、黒鉛粒子の中で最も扁平率が高い。さらに、鱗片状黒鉛粒子は、炭素原子が六角形の網目構造を2次元的に形成した基底面が、層状に積層された黒鉛の単結晶のみから構成され、黒鉛の結晶化率が100%進んだ、最も安価な炭素原子のみからなる材料である。また、黒鉛結晶からなる基底面で剥がれ易い機械的な異方性を持ち、この異方性によって優れた潤滑性を示す。さらに、炭素原子のみから構成されるため、導電性と熱伝導性とに優れる。また、窒素雰囲気での昇華点は3550℃と高く、極めて耐熱性に優れる。しかし、炭素原子のみから構成されるため、大気雰囲気では500℃付近から酸化、つまり、燃焼が始まる。さらに、酸とアルカリの双方と反応しない耐薬品性を持つ。いっぽう、精製した鱗片状黒鉛粒子の集まりに対し、粒子の大きさの選別をせず、最も安価な鱗片状黒鉛粒子の集まりでは、大きさが1-300ミクロンの分布に及ぶ。このため、鱗片状黒鉛粒子の集まりの嵩密度は、0.2-0.5g/cmと低い。これに対し、黒鉛の真密度は2.25g/cmである。
さらに、鱗片状黒鉛粒子は、炭素原子が六角形の網目構造を2次元的に形成した基底面が、層状に積層された構造からなる。この基底面は、様々な優れた性質を持つ。例えば、300°Kにおける熱伝導率は19.5W/Cmである。この値は、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率である4.3W/Cmの4.5倍に相当する。また、基底面に平行な方向の比抵抗は3.8×10-7Ωmであり、基底面に垂直な方向の比抵抗は7.6×10-3Ωmである。従って、基底面に平行な方向の比抵抗は銅の比抵抗の23倍に過ぎない。さらに、基底面のヤング率は1020GPaと非常に大きな値を持ち、ダイアモンドのヤング率1050GPaに近い。また、基底面に直交するせん断弾性率も440GPaという極めて大きな数値を持つ。このため、基底面は壊れにくい。これに対し、基底に垂直な方向のヤング率は36GPaであり、基底面に沿ったせん断弾性率は4.5GPaである。このため、基底面間の層間結合力は弱く、基底面が剥がれ易い異方性を持つ。
従って、鱗片状黒鉛粒子の基底面間の層間結合を破壊し、鱗片状黒鉛粒子の厚みより厚みが薄い扁平粉とすることは容易である。さらに、扁平粉の扁平面同士を、扁平面の面積より2桁小さい金属微粒子の集まりを介してシート状に結合し、黒鉛シートを形成すると、全ての扁平粉が扁平面同士、すなわち、基底面同士で結合するため、黒鉛シートは基底面に近い性質を持つ。いっぽう、金属微粒子の集まりは、黒鉛シートにおける熱伝導性、電気導電性、潤滑性を妨げない。このため、黒鉛シートを、熱伝導性、電気導電性、潤滑性、機械的強度に優れたシートとして用いることができる。この黒鉛シートは、金属のシートより軽量である。また、僅かな積層数の扁平粉で黒鉛シートを構成すれば、黒鉛シートを、導電性フィルムないしは放熱フィルムとして用いることができる。さらに、黒鉛シートの表面の段差が、1枚の扁平粉の厚みの違いで構成される。また、扁平粉の扁平面同士を、金属微粒子の集まりが結合する。このため、金属微粒子の集まりが圧縮応力を受けると、金属微粒子が僅かに塑性変形し、黒鉛シートの表面の段差を吸収する。従って、黒鉛シートをパッキンとして用いることができる。このように、黒鉛シートは、様々な用途に用いることができる可能性を持つ。
【0003】
特許文献1に、天然繊維、合成繊維、紙を含む基体、および基体の片面または両面上に設けられ、ポリマー、炭化ポリマー、および黒鉛からなる群から選択される少なくとも1種を含む被覆層を、1000-1400℃の不活性ガス雰囲気中で長時間加熱することで、基体および被覆層を炭化させ、黒鉛シートを製造する方法が記載されている。
いっぽう、基体および被覆層は安価な材料であるが、不活性ガスの高温下で長時間熱処理する炭化処理の費用は、基体および被覆層に比べると著しく高価になり、高価な黒鉛シートを使用する用途が限定される。従って、黒鉛の単結晶のみから構成され、黒鉛の結晶化率が100%進んだ、最も安価な炭素原子のみからなる材料である黒鉛粒子を、黒鉛シートの原料として用いることができれば、不活性ガスの高温下で長時間熱処理する炭化処理は不要になり、安価な黒鉛シートが製造できる。
【0004】
特許文献2に、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等を硫酸、硝酸等の混合溶液で処理し、水洗、乾燥後、膨張炉で約1000℃に膨張化処理させ、これをロール等で圧延によりシート化した膨張黒鉛シートを製造する方法が記載されている。
いっぽう、天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛と硫酸、硝酸と反応させ、水洗、乾燥後、膨張炉で約1000℃に膨張化処理する一連の処理費用が高価であり、膨張黒鉛が高価になり、高価な膨張黒鉛シートを使用する用途が限定される。従って、黒鉛の単結晶のみから構成され、黒鉛の結晶化率が100%進んだ、最も安価な炭素原子のみからなる材料である黒鉛粒子を、黒鉛シートの原料として用いることができれば、膨張化処理を伴う膨張黒鉛を用いる必要性がなくなり、安価な黒鉛シートが製造できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許6495456
【特許文献2】特許5688264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鱗片状黒鉛粒子を用いて、黒鉛シートが製造できれば、安価な黒鉛シートになる。つまり、鱗片状黒鉛粒子の表面は基底面で構成され、2段落で説明したように、優れた様々な性質を持つ。しかし、2段落に記載したように、鱗片状黒鉛粒子の大きさが幅広い分布を持つため、鱗片状黒鉛粒子の嵩密度は低い。このため、鱗片状黒鉛粒子の集まりを単純に圧縮しただけでは、鱗片状黒鉛粒子の表面同士を重ね合わせることができない。さらに、様々な大きさの空隙が内部に形成され、鱗片状黒鉛粒子の集まりは内部から崩れる。いっぽう、鱗片状黒鉛粒子の集まりを用いて、黒鉛シートを形成するには、鱗片状黒鉛粒子の表面同士を結合させる必要がある。しかしながら、鱗片状黒鉛粒子の大きさが幅広い分布を持つため、鱗片状黒鉛粒子の表面同士を直接結合させることは困難である。
これに対し、鱗片状黒鉛粒子を黒鉛結晶の基底面の層間結合で破壊し、鱗片状黒鉛粒子を厚みが薄い扁平粉とすれば、第一に、扁平粉の厚みの分布が、鱗片状黒鉛粒子の大きさの分布より小さく、第二に、扁平粉の扁平率が鱗片状黒鉛粒子の扁平率より大きく、第三に、扁平粉の重量が鱗片状黒鉛粒子の重量より小さくなる。従って、扁平粉の扁平面同士を結合させることは、鱗片状黒鉛粒子の表面同士を直接結合させるより容易である。このため、鱗片状黒鉛粒子の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第一の課題に、全ての鱗片状黒鉛粒子を、黒鉛結晶の基底面の層間結合で破壊し、厚みが薄い扁平粉とする処理方法を見出すことがある。また、鱗片状黒鉛粒子の集まりを用いて、黒鉛シートを形成するには、扁平粉の扁平面同士を重ね合わせる必要がある。従って、鱗片状黒鉛粒子の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第二の課題に、扁平粉の扁平面同士を重ね合わせる処理方法を見出すことがある。さらに、扁平粉の扁平面同士を重ね合わせた扁平粉の集まりを、黒鉛シートとして用いるには、扁平粉の扁平面同士を結合させる必要がある。従って、鱗片状黒鉛粒子の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第三の課題に、扁平粉の扁平面同士を結合させる処理方法を見出すことがある。また、扁平粉の扁平面同士を結合させても、扁平粉の集まりの内部に空隙があれば、扁平粉の集まりは空隙を起点にして内部から崩れる。従って、扁平粉の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第四の課題に、扁平粉の集積密度を高めて扁平面同士を重ね合わせる処理方法を見出すことがある。いっぽう、扁平粉の扁平面同士を結合させる媒体の大きさが、扁平面の面積の広さより2桁小さければ、扁平粉の扁平面同士を結合させ扁平粉の集まりは、扁平面の性質、つまり、基底面の性質が優勢になる。また、扁平面の面積の広さが分布を持っても、扁平面同士を結合させる媒体の大きさが、扁平面の面積の広さより2桁小さければ、媒体の集まりによって、全ての扁平面同士を結合させることができる。従って、扁平粉の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第五の課題に、数10ナノ程度の大きさの微粒子の集まりで、扁平粉の扁平面同士を結合させる方法を見出すことがある。さらに、扁平粉の集まりの内部に、空隙が多数存在すれば、扁平粉の集まりが衝撃力を受けた際に、空隙にクラックが入り、扁平粉の集まりは壊れる。従って、扁平粉の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第六の課題に、数10ナノ程度の大きさの微粒子の集まりが、扁平粉の扁平面同士を結合させる際に、扁平粉の集まりの内部に存在する空隙を埋め尽くすことがある。いっぽう、黒鉛シートの形状と大きさと厚みとが自在に変えられれば、用途に応じた黒鉛シートが作成できる。従って、扁平粉の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第七の課題に、作成する黒鉛シートの形状と大きさと厚みとが自在に変えられる作成方法を見出すことがある。さらに、扁平粉の集まりを、安価な材料を用い、安価な製法で黒鉛シートが形成できれば、安価な鱗片状黒鉛粒子を用いて、安価な黒鉛シートが製造できる。従って、扁平粉の集まりを用いて、黒鉛シートを作成する第八の課題に、安価な材料を用い、安価な製法で、扁平粉の扁平面同士を結合し、さらに、扁平粉の集まりの内部に存在する空隙を埋め尽くす方法を見出すことがある。
本発明の課題は、鱗片状黒鉛粒子の集まりを用いて黒鉛シートを作成するに当たり、前記した8つの課題が解決できる方法を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、該鱗片状黒鉛粒子の厚みより厚みが薄い扁平粉を作成し、該扁平粉の扁平面同士をシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法は、
鱗片状黒鉛粒子の集まりと、該鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量の3倍を超える重量からなるメタノールとを第一の容器に投入し、該容器に前後、左右、上下からなる3方向の衝撃加速度を順番に繰り返し加え、前記鱗片状黒鉛粒子の表面が上を向いて、該鱗片状黒鉛粒子の表面同士で該鱗片状黒鉛粒子を重ね合わせ、該重なり合った前記鱗片状黒鉛粒子の集まりが前記メタノール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する第一の工程と、前記第一の懸濁液を覆う板材を被せ、次いで該板材を圧縮し、前記第一の懸濁液中の前記鱗片状黒鉛粒子の集まりに圧縮応力を加え、該鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、前記鱗片状黒鉛粒子を厚みが薄い扁平粉とし、該扁平粉の集まりが前記メタノール中に浸漬した第二の懸濁液を作成し、その後、前記板材を取り除く第二の工程と、熱分解で金属を析出する金属化合物を、前記メタノールの重量の1/12より少ない重量として前記第一の容器に加えて攪拌し、該金属化合物が前記メタノール中に分子状態で均一に分散した該金属化合物のメタノール分散液を作成するとともに、前記扁平粉の集まりが前記金属化合物のメタノール分散液に浸漬した第三の懸濁液を作成する第三の工程と、該第三の懸濁液を、前記第一の容器の底面の形状と異なる底面の形状を持つ第二の容器に移し、該第二の容器内にホモジナイザー装置を配置させて該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記金属化合物のメタノール分散液を介して前記扁平粉の集まりに衝撃を繰り返し加え、該扁平粉の集まりを、前記金属化合物のメタノール分散液を介して1枚1枚の前記扁平粉に分離させ、該扁平粉の全てが前記金属化合物のメタノール分散液で覆われた第四の懸濁液を作成し、この後、前記ホモジナイザー装置を前記第二の容器から取り出す第四の工程と、前記第二の容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を繰り返し加え、前記扁平粉の扁平面同士が前記金属化合物のメタノール分散液を介して重なり合った該扁平粉の集まりを、前記第二の容器の底面に該底面の形状として作成する第五の工程と、前記第二の容器を前記金属化合物が熱分解する温度に昇温し、前記金属化合物を熱分解して金属微粒子の集まりを一斉に析出させ、前記扁平粉の扁平面同士が前記金属微粒子の集まりを介して重なり合った該扁平粉の集まりを作成する第六の工程と、該扁平粉の集まりを覆う板材を被せ、次いで該板材を圧縮し、前記扁平粉の集まりに圧縮応力を加え、前記金属微粒子を塑性変形させ、該塑性変形した金属微粒子同士が互いに接触する部位で摩擦熱によって接合するとともに、該塑性変形した金属微粒子が、前記扁平粉と接触する部位で摩擦熱によって該扁平粉に接合し、該摩擦熱で接合した前記金属微粒子の集まりを介して前記扁平粉の扁平面同士が結合された該扁平粉の集まりを、前記第二の容器の底面に該底面の形状として作成し、この後、前記板材を取り除き、さらに、前記第二の容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、前記扁平粉の集まりを、前記第二の容器から引き離し、該扁平粉の集まりを前記第二の容器から取り出す第七の工程からなり、これら7つの工程を連続して実施することで、鱗片状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶の基底面の層間結合を破壊し、該鱗片状黒鉛粒子の厚みより厚みが薄い扁平粉の扁平面同士がシート状に結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを製造する製造方法である。
【0008】
本製造方法は、以下に説明する極めて簡単な7つの工程を連続して実施し、摩擦熱で接合した金属微粒子の集まりを介して扁平粉の扁平面同士が結合された扁平粉の集まりが、容器の底面に該底面の形状として作成される。この扁平粉の集まりは、厚みが薄く、極めて軽量で、扁平率が高い扁平粉が、摩擦熱で接合した金属微粒子の集まりを介して、扁平面同士で結合したため、圧縮強度に優れる。また、扁平粉の集まりにおける空隙を、摩擦熱で接合した金属微粒子の集まりが埋めるため、扁平粉の集まりは、落下や振動に伴う衝撃力によってクラックが発生しない。
第一の工程は、鱗片状黒鉛粒子の集まりと、メタノールとを容器に投入し、容器に前後、左右、上下からなる3方向の衝撃加速度を順番に繰り返して加えるだけの処理である。第二の工程は、第一の懸濁液の表面全体を覆う板材を被せ、次いで板材を圧縮するだけの処理である。第三の工程は、熱分解で金属を析出する金属化合物を、容器に加えて攪拌するだけの処理である。第四の工程は、新たな容器に懸濁液を移し、新たな容器内でホモジナイザー装置を稼働させるだけの処理である。第五の工程は、新たな容器に再度、前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を順番に繰り返し加えるだけの処理である。第六の工程は、新たな容器を昇温し金属化合物を熱分解し、金属微粒子の集まりを析出させるだけの処理である。第七の工程は、板材を新たな容器に被せ、次いで板材を圧縮し、さらに、新たな容器に前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を加え、黒鉛シートを容器から引き離すだけの処理である。
これら極めて簡単な7つの工程を連続して実施すると、摩擦熱で接合した金属微粒子の集まりを介して扁平粉の扁平面同士が結合された扁平粉の集まりが、容器の底面に該底面の形状として作成される。従って、容器の底面の形状によって、黒鉛シートの形状と大きさとが自在に変えられる。また、鱗片状黒鉛粒子の使用量によって、黒鉛シートの厚みが自在に変えられる。いっぽう、鱗片状黒鉛粒子は安価な工業用素材で、メタノールは最も汎用的な有機溶剤で、金属化合物は汎用的な工業用の薬品である。従って、7つの工程からなる黒鉛シートを製造する方法は、6段落に記載した第七と第八の課題を解決する。
次に、各々の工程で起こる現象と、各々の処理がもたらす作用効果とを説明する。
第一の工程において、鱗片状黒鉛粒子の集まりと、鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量の3倍を超える重量からなるメタノールとを第一の容器に投入し、鱗片状黒鉛粒子の集まりをメタノール中に浸漬させる。この後、第一の容器に3方向の衝撃加速度を順番に、鱗片状黒鉛粒子の使用量に応じて、3-5回繰り返して加える。つまり、2段落で説明したように、鱗片状黒鉛粒子の大きさの分布が広いものは、1-300ミクロンの幅を持つ。また、鱗片状黒鉛粒子の嵩密度は、鱗片状黒鉛粒子の大きさの分布に応じて、0.2-0.5g/cmの幅を持つ。いっぽう、メタノールの密度は0.79g/cmで、黒鉛粒子の真密度は2.25g/cmである。従って、鱗片状黒鉛粒子の集まりに、鱗片状黒鉛粒子の集まりの重量の3倍を超える重量からなるメタノールを投入すると、全ての鱗片状黒鉛粒子がメタノール中に浸漬する。また、メタノールの粘度が20℃で0.59mPa秒と低い。さらに、鱗片状黒鉛粒子は、平面を有する扁平粉で、厚みに対する表面の面積の比率である扁平率が30より大きく、黒鉛粒子の中で最も扁平率が高い黒鉛粒子である。従って、鱗片状黒鉛粒子の集まりの大きさが、1-300μmの幅広い分布を持ったとしても、第一の容器に3方向の衝撃加速度を順番に加えると、扁平率が高い鱗片状黒鉛粒子が表面を上に向けてメタノール中を移動する。さらに、大きさが相対的に小さい鱗片状黒鉛粒子が、表面を上に向けて鱗片状黒鉛粒子の集まりの間隙に入り込む。従って、容器に3方向の衝撃加速度を繰り返して加えると、集積密度が高まった鱗片状黒鉛粒子の集まりが、表面を上に向けてメタノール中で重なり合う。なお、鱗片状黒鉛粒子の大きさが小さく、軽量であるため、鱗片状黒鉛粒子の重量に応じて、0.1-0.2Gの衝撃加速度を第一の容器に加える。
第二の工程において、第一の工程で作成した第一の懸濁液の表面を覆う板材を第一の懸濁液に被せ、一定の圧縮時間で板材を圧縮し、鱗片状黒鉛粒子の集まりに圧縮応力を継続して加え、鱗片状黒鉛粒子における黒鉛結晶の基底面の層間結合の破壊を進め、鱗片状黒鉛粒子を、鱗片状黒鉛粒子より厚みが薄く、さらに軽量で、さらに扁平率が高まった扁平粉とする。つまり、鱗片状黒鉛粒子を構成する黒鉛結晶の弾性率は異方性を持ち、基底面に直角な軸(C軸)に垂直な弾性率C11が116GPaと著しく大きく、基底面に直角な軸(C軸)に平行な弾性率C33が4.5GPaと小さく、さらに、基底面の層間の弾性率C44が僅かに0.23GPaである。このため、黒鉛結晶はC軸方向に圧縮されやすく、基底面に平行なせん断変形が極めて容易に起こる。従って、鱗片状黒鉛粒子の表面に圧縮応力を加え続けると、鱗片状黒鉛粒子における黒鉛結晶の基底面での破壊が容易に進む。つまり、第一の工程で、鱗片状黒鉛粒子が表面を上に向けて表面同士で重なり合い、メタノール中で集積密度を高めた鱗片状黒鉛粒子の集まりを第一の懸濁液として作成した。このため、鱗片状黒鉛粒子の集まりに圧縮応力を加えると、全ての鱗片状黒鉛粒子の表面に圧縮応力が加わり、表面に直角な方向に鱗片状黒鉛粒子が圧縮され、表面に平行なせん断変形、つまり、基底面での鱗片状黒鉛粒子の破壊が全ての鱗片状黒鉛粒子で容易に起こる。この圧縮応力を一定時間加え、鱗片状黒鉛粒子の基底面での破壊を進める。いっぽう、鱗片状黒鉛粒子の集まりは、扁平率が高い表面を上に向け、メタノール中で鱗片状黒鉛粒子同士が重なり合っていたため、鱗片状黒鉛粒子が基底面で破壊すると、鱗片状黒鉛粒子より厚みが薄く、さらに軽量で、さらに扁平率が高まった扁平粉となり、扁平粉の表面である基底面を上にしてメタノール中を移動し、基底面を上にして、基底面同士がメタノールを介して重なり合う。また、扁平粉の中で、大きさが相対的に小さい扁平粉は、基底面を上にして、扁平粉の集まりの間隙に入り込む。なお、鱗片状黒鉛粒子の集まりを圧縮することで、鱗片状黒鉛粒子の破壊が進むが、基底面の厚みが0.332nmと極めて薄く、鱗片状黒鉛粒子は1枚の基底面、すなわち、グラフェンまで破壊されない。また、基底面に平行な弾性率C11が116GPaと極めて大きく、基底面、すなわち、グラフェンは破壊されない。この結果、扁平粉同士が基底面を上にしてメタノールを介して重なり合った第二の懸濁液が、第一の容器内に作成される。なお、鱗片状黒鉛粒子の基底面でのせん断破壊が容易に起こるため、圧縮応力を加える時間は1分ないし2分程度と短い。なお、破壊した鱗片状黒鉛粒子の厚みは、用いる鱗片状黒鉛粒子の大きさの分布に依存し、0.1-0.4μmの厚みの分布を持つ。従って、扁平粉は、元の鱗片状黒鉛粒子より厚みが極めて薄く、元の鱗片状黒鉛粒子より極めて軽量で、元の鱗片状黒鉛粒子の表面よりさらに広い面積を持ち、厚みに対する面積の比率である扁平率が、元の鱗片状黒鉛粒子の扁平率よりさらに高い。こうした扁平粉が、メタノールを介して扁平面同士で重なり合う。これによって、6段落に記載した第一の課題が解決される。
第三の工程において、熱分解で金属を析出する金属化合物を、メタノールの重量の1/12より少ない重量として第一の容器に加えて攪拌し、金属化合物がメタノール中に分子状態で均一に分散した金属化合物のメタノール分散液に、扁平粉の集まりが浸漬した第三の懸濁液を作成する。つまり、第六の工程で金属化合物を熱分解し、金属微粒子の集まりを析出させ、扁平粉の扁平面同士が金属微粒子の集まりを介して重なり合った扁平粉の集まりを作成するため、メタノールに溶解せず、メタノールに分散する金属化合物を用いる。いっぽう、金属化合物がメタノールに溶解すると、金属化合物を構成する金属が金属イオンとなってメタノール中に溶出し、溶解した金属化合物は、溶解前の金属化合物に戻ることができない。従って、メタノールに溶解した金属化合物を熱分解しても、金属微粒子が析出しない。このため、金属微粒子の原料として、メタノールに溶解せず、メタノールに分散する金属化合物を用いる。これによって、金属化合物が熱分解すると、40-60nmの金属微粒子の集まりが析出する。また、第五の工程で、扁平粉の扁平面同士を、金属化合物のメタノール分散液を介して重ね合わせるため、全ての扁平粉は金属化合物のメタノール分散液で覆われている。この後、第六の工程で金属化合物を熱分解すると、全ての扁平粉が金属微粒子の集まりで覆われる。従って、扁平粉の表面を親水性に改質し、扁平粉に金属化合物のメタノール分散液を吸着させる処理は不要になる。これによって、扁平粉の扁平面同士が結合した該扁平粉の集まりからなる黒鉛シートが安価で製造できる。
第四の工程において、扁平粉の集まりが、金属化合物のメタノール分散液に浸漬した第三の懸濁液を、第一の容器の底面の形状と異なる底面の形状を持つ第二の容器に移す。つまり、第二の容器の底面に該底面の形状として、扁平粉の扁平面同士が結合された扁平粉の集まりからなる黒鉛シートを作成することで、黒鉛シートの形状と大きさとが、第二の容器の底面の形状で変えられる。また、第一の工程で、鱗片状黒鉛粒子の使用量を変えることで、黒鉛シートの厚みが変えられる。さらに、第二の容器内でホモジナイザー装置を稼働させ、金属化合物のメタノール分散液を介して扁平粉の集まりに衝撃を繰り返し加え、扁平粉の集まりを、金属化合物のメタノール分散液を介して1枚1枚の扁平粉に分離させ、全ての扁平粉の扁平面を金属化合物のメタノール分散液と接触させ、全ての扁平粉が金属化合物のメタノール分散液で覆われた第四の懸濁液を作成する。つまり、金属化合物のメタノール分散液に、ホモジナイザー装置によって衝撃を加えると、衝撃が金属化合物のメタノール分散液の全体に広がり、全ての扁平粉の扁平面に衝撃が加わる。扁平粉が極めて軽量であるため、扁平粉が衝撃によって移動し、金属化合物のメタノール分散液中で1枚1枚の扁平粉に確実に分離され、全ての扁平粉が金属化合物のメタノール分散液で覆われる。なお、ホモジナイザー装置として、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、扁平粉の表面よりさらに2桁以上小さい気泡が、莫大な数からなる気泡の発生と消滅とを、超音波の発生周期に応じて発生し、金属化合物のメタノール分散液中で、気泡の発生と消滅とが繰り返される(この現象をキャビテーションという)。この気泡がはじける際の衝撃波が、金属化合物のメタノール分散液の全体に継続して発生し、衝撃波が扁平粉に加えられると扁平粉が移動し、1枚1枚の扁平粉に分離する。従って、超音波方式のホモジナイザー装置は、超音波の発生周期に応じて、気泡の発生と消滅とが繰り返されるため、短時間で1枚1枚の扁平粉に分離される。この結果、扁平粉の全てが金属化合物のメタノール分散液で覆われる。この後、ホモジナイザー装置を第二の容器から取り出す。
第五の工程において、第二の容器に、前後、左右、上下の3方向の衝撃加速度を順番に複数回繰り返し加えると、鱗片状黒鉛粒子より厚みが薄く、鱗片状黒鉛粒子より重量が軽く、鱗片状黒鉛粒子の扁平率よりさらに扁平率が高い扁平粉が、扁平面を上に向けて金属化合物のメタノール分散液中で移動し、扁平粉の扁平面同士が金属化合物のメタノール分散液を介して重なり合う。さらに、相対的に大きさが小さい扁平粉が、扁平面を上にして扁平粉の集まりの間隙に入り込み、集積密度を高めた扁平粉の集まりが扁平面同士で重なり合う。これによって、扁平粉の全てが、金属化合物のメタノール分散液で覆われ、扁平粉が金属化合物のメタノール分散液を介して扁平面同士で重なり合う。なお、鱗片状黒鉛粒子を破壊し、破壊した鱗片状黒鉛粒子の扁平粉の数が、第一の懸濁液における鱗片状黒鉛粒子の数より多くなったため、容器に加える衝撃加速度は、第一の懸濁液を作成する際に加えた衝撃加速度より大きい0.2-0.3Gの衝撃加速度を加える。これによって、6段落に記載した第二の課題が解決される。
第六の工程において、第二の容器を金属化合物が熱分解する温度に昇温し、金属化合物を熱分解させ、40-60nmの大きさからなる粒状の金属微粒子の集まりを一斉に析出させ、扁平粉の扁平面同士が金属結合した金属微粒子の集まりを介して結合する。つまり、第五の工程において、扁平粉の扁平面同士を、金属化合物のメタノール分散液を介して重なり合わせた。このため、金属化合物の熱分解によって金属微粒子の集まりが一斉に析出すると、全ての扁平粉の表面が金属微粒子の集まりで覆われる。いっぽう、金属微粒子の集まりが一斉に析出する際に、金属微粒子が不純物を一切含まない真正な金属からなるため、隣接する金属微粒子同士が互いに接触する部位で金属結合する。このため、金属結合した金属微粒子の集まりを介して、扁平粉の扁平面同士が結合される。さらに、第五の工程において、扁平粉の扁平面同士を、金属化合物のメタノール分散液を介して重なり合わせたため、金属結合した金属微粒子の集まりが、扁平粉の扁平面同士の間隙を埋め尽くす。つまり、金属化合物は、熱分解温度に近づくと、最初に無機物の分子または有機物の分子と金属分子とに分解する。この際、第二の容器内に存在した水分や水酸化物や有機物からなる低沸点の不純物が気化する。次に、無機物の分子または有機物の分子が気化熱を奪って気化する。さらに、無機物の分子または有機物の分子の気化が完了した瞬間に、金属分子の集まりが、40-60nmの大きさからなる粒状の金属微粒子を形成して一斉に析出する。金属微粒子は、不純物を一切含まない真正な金属からなる。なお、メタノールの気化点と、無機物または有機物の気化点とは大きく異なるため、メタノールと無機物または有機物は、個別に回収機で回収し、再利用する。
第七の工程において、第六の工程で作成した扁平粉の集まりを覆う板材を被せ、次いで該板材を圧縮し、扁平粉の集まりに圧縮応力を加えると、扁平粉の表面を覆う真正な金属からなる金属微粒子の集まりが塑性変形する。つまり、接触部で金属結合した金属微粒子の集まりは、接触部の体積が僅かで、また、金属微粒子が積層して金属微粒子の集まりを形成している。こうした金属微粒子の集まりに圧縮応力が加わると、金属結合部が容易に破壊され、金属微粒子が移動しようとするが、全ての領域が金属微粒子で埋まっているため、金属微粒子は移動できず、圧縮応力によって真正な金属からなる金属微粒子が塑性変形する。金属微粒子の塑性変形は、短時間のうちに全ての金属微粒子に広がる。金属微粒子が塑性変形すると、金属微粒子同士が新たな接触部で互いに接触し、接触部位に摩擦熱が発生し、摩擦熱で真正な金属からなる金属微粒子同士が接合する。この際、塑性変形によって金属微粒子同士が接触する部位の体積は、金属微粒子が一斉に析出した際に、隣接する金属微粒子同士が互いに接触した部位の体積より大きいため、金属微粒子同士がより強固に摩擦熱で接合する。いっぽう、扁平粉と接触していた金属微粒子が圧縮応力を受けると、金属微粒子は扁平粉との接触部位で塑性変形し、扁平粉との接触部位に摩擦熱が発生し、摩擦熱で真正な金属からなる金属微粒子が扁平粉に接合する。なお、金属微粒子が扁平粉との接触部位で塑性変形することで、金属微粒子が扁平粉と接触する体積が増え、金属微粒子は強固に扁平粉に接合する。この結果、扁平粉の扁平面同士が結合された扁平粉の集まりが、第二の容器の底面に該底面の形状として作成される。なお、扁平粉の集まりに加える圧縮応力は、第二の工程で加えた圧縮応力と同等である。従って、第二の工程において、圧縮応力によって鱗片状黒鉛粒子が扁平粉に破壊されているため、扁平粉はさらに厚みが薄い扁平粉に破壊されない。この後、板材を取り除き、さらに、第二の容器に前後、左右、上下の3方向の振動加速度を加え、扁平粉の集まりを、第二の容器から引き離し、第二の容器の底面の形状からなる扁平粉の集まり、つまり、黒鉛シートを取り出す。これによって、6段落に記載した第三から第七の課題が解決される。これによって、6段落に記載した8つの課題の全てが解決された。
以上に説明した方法で製造した黒鉛シートは、次の作用効果をもたらす。
第一に、製造する黒鉛シートは、形状と大きさと厚みの制約がない。つまり、黒鉛シートが第二の容器の底面に該底面の形状として作成されるため、黒鉛シートの形状と大きさは、第二の容器の底面の形状になる。また、黒鉛シートを製造する際の鱗片状黒鉛粒子の使用量に応じて、黒鉛シートの厚みが変わる。
第二に、黒鉛シートは、扁平粉の扁平面、すなわち、基底面に近い性質を持つ。つまり、基底面が2段落で説明したように、熱伝導性、電気導電性、機械的強度に優れるため、黒鉛シートはこうした性質を持つ。さらに、扁平粉の基底面がせん断応力で容易に剥がれるため、黒鉛シートの表面は優れた潤滑性を示す。いっぽう、黒鉛シートの最表面に、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりが現れると、金属微粒子が40-60nmからなる大きさの微粒子であるため、金属微粒子の集まりは平坦性に優れる。さらに、相手の摺動部品と金属微粒子の集まりが摺接する際に、金属微粒子が点接触に近い接触状態で相手と摺接するため、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりの摩擦係数は小さい。このため、金属微粒子の集まりは、扁平粉と同様に優れた潤滑性を示す。また、黒鉛シートの最表面に現れた摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりは、金属微粒子同士の結合部の体積が僅かであるため、せん断応力で剥ぎ取られ、黒鉛シートにおける潤滑性を妨げない。さらに、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりは、黒鉛シートにおける熱伝導性、電気導電性を妨げない。従って、黒鉛シートを、熱伝導性、電気導電性、潤滑性に優れたシートとして用いることができる。
第三に、黒鉛シートの性質に、扁平粉の扁平面同士を結合する金属微粒子の集まりの性質が反映する。従って、熱伝導性、電気導電性を重要視する黒鉛シートは、金属微粒子を銅またはアルミニウムで構成するのが良い。耐酸性を重要視する黒鉛シートは、金属微粒子を金で構成するのが良い。このように、黒鉛シートに要求される性質に応じて、金属微粒子を構成する金属を自在に選択する。
第四に、黒鉛シートを僅かな積層数の扁平粉で構成すると、黒鉛シートは、導電性フィルムないしは放熱フィルムとして用いることができる。つまり、破壊した鱗片状黒鉛粒子の扁平粉の厚みは、鱗片状黒鉛粒子の大きさの分布が最も広い場合でも、0.1-0.4μmの分布に及ぶ。従って、黒鉛シートを僅かな積層数の扁平粉で構成すると、1μm前後の厚みからなる黒鉛シートが製造できる。こうした厚みが薄い黒鉛シートは、導電性フィルムないしは放熱フィルムとして用いることができる。
第五に、黒鉛シートを、パッキンとして用いることができる。つまり、黒鉛シートの表面の段差は、1枚の扁平粉の厚みからなる。また、黒鉛シートは、扁平粉の扁平面同士を結合する金属微粒子の集まりで構成される。従って、黒鉛シートをパッキンとして用いると、黒鉛シートに圧縮応力が加わり、摩擦熱によって結合した金属微粒子の集まりの個々の層が僅かに弾性変形し、このわずかな弾性変形が加算されて、黒鉛シートの表面の1枚の扁平粉の厚みからなる段差を吸収し、黒鉛シートが接続される接続部のシール性が向上する。これによって、液体のシールが可能になる。つまり、摩擦熱によって結合した金属微粒子の集まりは、金属微粒子が積層している。積層した金属微粒子の集まりに圧縮応力が加わると、摩擦熱による金属微粒子同士の結合部の体積が僅かであるため、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりが僅かに弾性変形する。この金属微粒子の集まりの僅かな弾性変形が加算されると、金属微粒子の集まりの層の弾性変形が、黒鉛シートの表面の1枚の扁平粉の厚みからなる段差を吸収する。いっぽう、パッキンとしての黒鉛シートに圧縮応力が加わると、第一に、扁平紛の扁平面、すなわち、基底面に圧縮応力が加わる。基底面のヤング率は1020GPaと大きな値を持ち、基底面に直交するせん断弾性率も440GPaと大きな数値を持つため、基底面は破壊しなしない。第二に、金属微粒子の集まりが圧縮応力を受け、金属微粒子がさらに塑性変形し、更なる塑性変形によって、金属微粒子同士が接触する部位の体積が増え、摩擦熱による金属微粒子同士の結合力が増大する。従って、過大な圧縮応力を黒鉛シートが受けても、金属微粒子の塑性変形に留まり、黒鉛シートは破断しない。これによって、黒鉛シートを、部品同士をシールするパッキンとして用いることができる。また、接続部の形状とシール性とに応じて、黒鉛シートの大きさと形状と厚みが自在に変えられる。
第六に、黒鉛シートは金属シートより軽い。つまり、アルミニウムの密度が2.7g/cmであるのに対し、黒鉛の真密度は2.25g/cmである。従って、黒鉛シートは、アルミニウムシートより軽い。このため、金属シートより軽い黒鉛シートを、前記した第二から第五の用途に用いることができる。
第七に、黒鉛シートの耐熱性は、金属微粒子を構成する金属の耐熱性に近い耐熱性を持つ。また、黒鉛シートは大気雰囲気で燃焼しない。すなわち、黒鉛が炭素原子のみから構成されるため、大気雰囲気では500℃付近から酸化、つまり、燃焼が始まる。しかし、黒鉛シートの表面は、金属微粒子が積層した金属微粒子の集まりで覆われているため、大気雰囲気から遮断される。いっぽう、鱗片状黒鉛粒子は、酸素ガスが遮断された雰囲気では、耐熱性が金属の融点より高い。従って、黒鉛シートは、金属微粒子を構成する金属の耐熱性に近い耐熱性を持つ。
第八に、黒鉛シートは厚み方向の圧縮強度が高い。つまり、前記したように、基底面は壊れにくい物質であるため、黒鉛シートに圧縮応力が加わっても、基底面は破壊されない。いっぽう、黒鉛シートの表面に圧縮応力が加わると、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりは、扁平粉同士で挟まれているため、圧縮応力によって破壊されない。なお、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりに、直接圧縮応力が加わると、金属微粒子がさらに塑性変形を進め、金属微粒子同士の摩擦接合部の体積が増えるため、金属微粒子同士の結合力が増える。この結果、黒鉛シートは厚み方向の圧縮応力によって破壊されない。
第九に、黒鉛シートは潤滑性を持つため、厚み方向のせん断応力で破壊されない。つまり、2段落に記載したように、基底面間の層間結合力は弱い。従って、黒鉛シートの表面の扁平面にせん断応力が加わると、扁平粉の基底面が剥がれ落ちる。これによって、扁平粉は優れた潤滑性を示す。扁平粉の基底面の破壊が進むと、金属微粒子の集まりが、黒鉛シートの表面に現れる。金属微粒子の大きさが、扁平粉の扁平面の面積より2桁小さく、金属微粒子が点接触に近い接触状態で相手と摺接するため、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりの摩擦係数は小さく、金属微粒子の集まりも潤滑性を示す。金属微粒子がせん断応力で順次脱落し、この後、再度、黒鉛シートの表面に扁平粉が現れ、扁平粉が潤滑性を示す。この結果、厚み方向のせん断応力によって、黒鉛シートは潤滑作用を示し、黒鉛シートは破壊されない。
第十に、黒鉛シートは一定の機械的強度を持つ。つまり、扁平粉の扁平面同士の間隙と、扁平粉の集まりの空隙とが、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりで埋め尽くされるため、黒鉛シートの表面に応力が加わると、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりを介して、扁平粉に応力が順番に伝わる。この際、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりは、扁平粉で挟まれているため、更なる塑性変形が制約される。従って、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりは壊れない。いっぽう、扁平粉に応力が加わっても、扁平粉は摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりで拘束されているため、扁平粉の基底面の剥がれは起きない。このため、黒鉛シートは一定の機械的強度を持つ。
第十一に、黒鉛シートは、振動による衝撃力が加わっても、あるいは、落下による衝撃力が加わっても壊れにくい。つまり、扁平粉の集まりにおける全ての空隙が、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりで埋め尽くされ、さらに、空隙を埋めた金属微粒子は、扁平粉の扁平面同士を結合する金属微粒子と摩擦熱で合する。従って、黒鉛シートの内部に、40-60nmの大きさより大きい空隙が存在しない。このため、振動による衝撃力が加わっても、あるいは、落下に伴う衝撃力が加わっても、黒鉛シートは壊れにくい。つまり、黒鉛シートの内部に空隙が存在すると、衝撃力が加わった際に、空隙がクラックの起点になり、黒鉛シートが破壊する。
第十二に、極めて簡単な7つの工程を連続して実施して、黒鉛シートを容器の底面に該底面の形状として製造する。いっぽう、鱗片状黒鉛粒子は安価な工業用素材で、メタノールは最も汎用的な有機溶剤で、金属化合物は汎用的な工業用の薬品である。従って、形状と大きさと厚みとの制約を受けない黒鉛シートが安価に製造できる。
以上に説明したように、黒鉛シートは、様々な作用効果をもたらすシートとして、様々な用途に用いることができる。
【0009】
7段落に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートを製造し、該黒鉛シートを基材または部品の表面に圧着させる方法は、
7段落に記載した黒鉛シートを製造する方法において、第一に、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状と厚みとを有する該黒鉛シートを形成するのに必要な鱗片状黒鉛粒子の使用量を用い、第二に、7段落に記載した第二の容器の底面が、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状を有し、これら2つの条件を遵守し、7段落に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて黒鉛シートを作成し、該黒鉛シートを基材または部品の表面に圧着させる部位に配置させ、さらに、該黒鉛シートの表面を覆う板材を被せ、次いで該板材を、7段落に記載した第七の工程で加えた圧縮応力より大きな圧縮応力で圧縮し、前記黒鉛シートの裏面の金属微粒子を塑性変形させ、該塑性変形した金属微粒子が、前記基材または前記部品の表面に摩擦熱で接合し、該摩擦熱で接合した前記金属微粒子の集まりを介して前記黒鉛シートを前記基材または前記部品に圧着させる方法である。
【0010】
次の2つの条件を遵守し、7段落に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて黒鉛シートを作成すると、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートが、7段落に記載した第二の容器の底面に作成される。第一に、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状と厚みとを有する該黒鉛シートを形成するのに必要な鱗片状黒鉛粒子の使用量を用い、7段落に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて黒鉛シートを作成する。第二に、7段落に記載した黒鉛シートを形成する第二の容器の底面の形状が、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状を有する。これら2つの条件を遵守し、7段落に記載した黒鉛シートを製造する方法に準じて、黒鉛シートを作成する。これによって、第二の容器の底面に、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートが形成される。
次に、第二の容器の底面から黒鉛シートを引き剥がし、引き剥がした黒鉛シートを、基材または部品の圧着させる部位に配置させる。この後、黒鉛シートの表面を覆う板材を被せ、次いで板材を、7段落に記載した第七の工程で加えた圧縮応力より大きな圧縮応力で圧縮する。この際、黒鉛シートの裏面の金属微粒子の集まりに圧縮応力が加わり、金属微粒子の塑性変形が、7段落に記載した第七の工程における金属微粒子の塑性変形よりさらに進む。塑性変形が進んだ金属微粒子は、基材または部品の表面と接触する部位で、摩擦熱で基材または部品の表面に接合する。この結果、摩擦熱で接合した莫大な数からなる金属微粒子の集まりを介して、黒鉛シートが基材または部品の表面に強固に圧着する。また、黒鉛シートを構成する他の金属微粒子の集まりは、扁平面同士で挟まれている、あるいは、板材と接触されているため、黒鉛シートから脱落しないが、加えた圧縮応力が7段落に記載した第七の工程で加えた圧縮応力より大きいため、金属微粒子の塑性変形が、7段落に記載した第七の工程における金属微粒子の塑性変形よりさらに進み、金属微粒子同士の摩擦接合部の体積が増え、摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりは、7段落に記載した方法で製造した黒鉛シートにおける摩擦熱で結合した金属微粒子の集まりより、さらに破壊されにくくなる。また、扁平面を構成する基底面のヤング率は、1020GPaと非常に大きな値を持ち、基底面に直交するせん断弾性率も、440GPaという大きな数値を持つため、黒鉛シートに圧縮応力を加えても、扁平粉は破壊されない。さらに、扁平粉は、塑性変形した金属微粒子の集まりで囲まれているため、扁平粉の基底面は破壊されない。この結果、黒鉛シートが破壊されずに、基材または部品の表面に圧着される。また、黒鉛シートの厚みの如何に拘わらず、黒鉛シートを、基材または部品の表面に圧着できる。
以上に説明した方法で基材または部品の表面に圧着させた黒鉛シートは、基材または部品の表面に次の作用効果をもたらす。
第一に、7段落に記載した方法で製造する黒鉛シートは、形状と厚みの制約がないため、基材または部品の表面に圧着させる黒鉛シートの形状と厚みの制約がない。従って、様々な形状の基材または部品の表面に、様々な厚みからなる黒鉛シートが圧着できる。すなわち、7段落に記載した黒鉛シートを製造する際の鱗片状黒鉛粒子の量に制約がない。また、7段落に記載した第二の容器の形状に制約はない。このため、製造する黒鉛シートの形状と厚みの制約がない。
第二に、8段落で説明したように、黒鉛シートは、扁平粉の扁平面、すなわち、基底面に近い性質を持つ。また、8段落で説明したように、扁平粉同士を結合する金属微粒子の集まりは、黒鉛シートにおける熱伝導性、電気導電性、潤滑性を妨げない。このため、圧着した黒鉛シートは、基材または部品に、熱伝導性、電気導電性、潤滑性をもたらす。
第三に、8段落で説明したように、黒鉛シートは厚み方向の圧縮強度が高い。さらに、摩擦熱で接合した莫大な数からなる金属微粒子の集まりを介して、黒鉛シートが基材または部品の表面に圧着する。このため、黒鉛シートを基材または部品の表面に圧着する際に、黒鉛シートは破壊されない。
第四に、8段落で説明したように、黒鉛シートは厚み方向のせん断応力で破壊されない。さらに、摩擦熱で接合した莫大な数からなる金属微粒子の集まりを介して、黒鉛シートが基材または部品の表面に圧着する。このため、基材または部品の表面に圧着された黒鉛シートは、厚み方向のせん断応力によって、基材または部品の表面から剥離しない。
第五に、8段落で説明したように、黒鉛シートは一定の機械的強度を持つ。さらに、摩擦熱で接合した莫大な数からなる金属微粒子の集まりを介して、黒鉛シートが基材または部品の表面に圧着する。このため、基材または部品の表面に圧着された黒鉛シートは、一定の機械的強度を持つ。
第六に、8段落で説明したように、黒鉛シートは、振動による衝撃力が加わっても、あるいは、落下による衝撃力が加わっても壊れにくい。さらに、摩擦熱で接合した莫大な数からなる金属微粒子の集まりを介して、黒鉛シートが基材または部品の表面に圧着する。このため、基材または部品の表面に圧着された黒鉛シートは、振動による衝撃力が加わっても、あるいは、落下による衝撃力が加わっても、基材または部品の表面から剥離しない。
【0011】
7段落に記載した黒鉛シートを製造する製造方法は、
7段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、無機物の分子または無機物のイオンが配位子となって金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩で構成された無機金属化合物であり、該無機金属化合物を、7段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、7段落に記載した製造方法に従って黒鉛シートを製造する、7段落に記載した黒鉛シートを製造する製造方法である。
【0012】
無機物からなる分子または無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物を、還元雰囲気で熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、無機物と金属とに分解する。さらに昇温すると、無機物が気化熱を奪って気化し、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了して金属が析出する。従って、無機金属化合物は、7-8段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用いることができる。
すなわち、無機金属化合物を構成するイオンの中で、分子の中央に位置する金属イオンが最も大きく、金属イオンと配位子との距離が最も長い。この無機金属化合物を還元雰囲気で熱処理すると、金属イオンが配位子と結合する配位結合部が最初に分断され、金属と無機物とに分解する。さらに温度が上がると、無機物が気化熱を奪って気化し、無機物の気化が完了すると金属が析出し、熱分解を終える。金属が析出する温度は、無機物からなる分子または無機物からなるイオンが低分子で、無機塩が低分子量であるため、熱分解で金属が析出する温度は、金属化合物の中で最も低い。また、無機金属化合物は、メタノールに10重量%前後まで分散し、メタノールに溶解しない。このため、金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、7-8段落に記載した金属化合物として用いることができる。
すなわち、無機物からなる分子または無機物からなるイオンが配位子になって、金属イオンに配位結合する金属錯イオンは、他の金属錯イオンに比べて合成が容易である。このような金属錯イオンとして、アンモニアNHが配位子となって金属イオンに配位結合するアンミン金属錯イオン、水HOが配位子となって金属イオンに配位結合するアクア金属錯イオン、水酸基OHが配位子となって金属イオンに配位結合するヒドロキソ金属錯イオン、塩素イオンClが、または塩素イオンClとアンモニアNHとが配位子となって金属イオンに配位結合するクロロ金属錯イオンなどがある。これらの配位子は、いずれも低分子量である。さらに、このような金属錯イオンを有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩などの無機塩からなる無機金属化合物は、合成が容易で、無機塩の分子量が小さい。このため、180-220℃の温度範囲で無機物の気化が完了し金属を析出する。金属が析出する温度は、金属化合物の熱分解で金属を析出する温度の中で最も低い。こうした無機金属化合物は、汎用的な工業用の薬品である。
従って、安価な工業用素材である鱗片状黒鉛粒子と、最も汎用的な有機溶剤であるメタノールと、汎用的な工業用の薬品である無機金属化合物を用い、7段落に記載した極めて簡単な7つの工程を連続して実施することによって、7段落に記載した黒鉛シートが安価に製造される。
【0013】
7段落に記載した黒鉛シートを製造する製造方法は、
7段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物が、オクチル酸金属化合物であり、該オクチル酸金属化合物を、7段落に記載した熱分解で金属を析出する金属化合物として用い、7段落に記載した製造方法に従って黒鉛シートを製造する、7段落に記載した黒鉛シートを製造する製造方法である。
【0014】
オクチル酸金属化合物は、オクチル酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合し、金属イオンが最も大きいイオンで、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの距離が、他のイオン同士の距離より長い。こうした分子構造上の特徴を持つオクチル酸金属化合物を、大気雰囲気で熱処理すると、オクチル酸の沸点を超えると、カルボキシル基を構成する酸素イオンと金属イオンとの結合部が最初に分断され、オクチル酸と金属とに分離する。オクチル酸が飽和脂肪酸から構成され、炭素原子が水素原子に対して過剰となる不飽和構造を持たないため、オクチルが気化熱を奪って気化し、気化が完了すると金属が析出する。また、オクチル酸金属化合物は、メタノールに10重量%前後まで分散し、メタノールに溶解しない。このため、オクチル酸金属化合物は、7-8段落に記載した2つの特徴を兼備する金属化合物として用いることができる。
なお、オクチル酸金属化合物は、カルボン酸のカルボキシル基を構成する酸素イオンが金属イオンに共有結合する第一の特徴と、カルボン酸が飽和脂肪酸からなる第二の特徴とを兼備するカルボン酸金属化合物に属する有機金属化合物である。これら2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物の中で、オクチル酸の沸点は228℃と最も低く、大気雰囲気の290℃で熱分解が完了し、金属を析出する。いっぽう、2つの特徴を兼備するカルボン酸金属化合物として、オクチル酸金属化合物の他に、ラウリン酸金属化合物、ステアリン酸金属化合物などがある。なお、ラウリン酸の沸点は296℃で、ステアリン酸の沸点は376℃であり、オクチル酸の沸点より高いため、熱分解が完了して金属を析出する温度は、オクチル酸金属化合物より高い。従って、オクチル酸金属化合物は、有機金属化合物の中で最も低い温度で熱分解し、金属を析出する。
つまり、オクチル酸は、分岐構造の飽和脂肪酸であり、示性式がCH(CHCH(C)COOHで示され、CHでCH(CHとCとのアルカンに分岐され、CHにカルボキシル基COOHが結合する。分岐構造の飽和脂肪酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸より鎖の長さが短く、沸点が228℃と低い。これに対し、ラウリン酸とステアリン酸は、直鎖構造の飽和脂肪酸であり、沸点が分岐構造の飽和脂肪酸より高い。
なお、オクチル酸とカプリル酸(オクタン酸とも言う)とは、同一の分子式C16であるが、分子構造が異なる異性体である。つまり、オクチル酸は前記したように分岐構造を持つ脂肪酸である。いっぽう、カプリル酸は直鎖構造を持つ脂肪酸で、示性式はCH(CHCOOHである。すなわち、カプリル酸金属化合物は、カプリル酸が電離して生じるアニオンであるカルボキシラートアニオンに、金属イオンが配位結合する。このため、カプリル酸金属化合物は、大気雰囲気での熱分解で金属酸化物を析出する。つまり、カプリル酸金属化合物は、最も大きいイオンである金属イオンにカルボキシラートイオンが近づいて配位結合するため、金属イオンと、カルボキシラートイオンを構成する酸素イオンとの距離は短くなる。これによって、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの距離が最も長くなる。こうした分子構造を持つカプリル酸金属化合物は、カプリル酸の沸点を超えると、酸素イオンが金属イオンの反対側で共有結合するイオンとの結合部が最初に分断され、金属イオンと酸素イオンとの化合物である金属酸化物とカプリル酸とに分解する。さらに昇温すると、カプリル酸が気化熱を奪って気化し、カプリル酸の気化が完了した直後に、金属酸化物が析出する。
また、オクチル酸金属化合物は、容易に合成できる安価な工業用薬品である。すなわち、最も汎用的な有機酸であるオクチル酸を、強アルカリと反応させるとオクチル酸アルカリ金属化合物が生成され、オクチル酸アルカリ金属化合物を無機金属化合物と反応させると、様々な金属からなるオクチル酸金属化合物が合成される。従って、オクチル酸金属化合物は、最も安価な有機金属化合物である。このため、11-12段落で説明した無機金属化合物より熱処理温度が高いが、無機金属化合物より安価な有機金属化合物である。
従って、安価な工業用素材である鱗片状黒鉛粒子と、最も汎用的な有機溶剤であるメタノールと、汎用的な工業用の薬品であるオクチル酸金属化合物を用い、7段落に記載した極めて簡単な7つの工程を連続して実施することによって、7段落に記載した黒鉛シートが安価に製造される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】銅微粒子が積層された層と、破壊した鱗片状黒鉛粒子の扁平粉とが、交互に重なり合って結合された試料の側面の一部を拡大し、模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態1
本実施形態は、11-12段落に記載した無機物からなる分子または無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物に関わる。7段落に記載した金属化合物は、メタノールに分散し、メタノールに溶解しない第一の性質と、熱分解で金属を析出する第二の性質を兼備する。ここでは金属を銅とし、銅化合物を例にして説明する。
最初に、メタノールに分散する銅化合物を説明する。塩化銅、硫酸銅、硝酸銅などの無機銅化合物はメタノールに溶解し、銅イオンが溶出してしまい、多くの銅イオンが銅微粒子の析出に参加できなくなる。また、酸化銅、塩化銅、硫化銅などの無機銅化合物は、最も汎用的な溶剤であるメタノール類に分散しない。このため、これらの無機銅化合物は、メタノールに分散しない。
いっぽう、銅化合物は銅を析出する。銅化合物から銅が生成される化学反応の中で、最も簡単な化学反応に熱分解反応がある。さらに、銅化合物の熱分解温度が低ければ、熱処理費用が安価で済む。従って、熱分解温度が低い銅化合物は、銅微粒子の原料として公的である。このような銅化合物に、無機物からなる分子ないしは無機物からなるイオンが配位子となって銅イオンに配位結合する銅錯イオンを有する無機塩からなる無機銅化合物がある。つまり、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機銅化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解する温度は低い。さらに、こうした無機銅化合物は分子量が小さいため、他の銅錯イオンからなる銅化合物より合成が容易で安価である。
つまり、無機銅化合物を構成する分子の中で、銅イオンが最も大きい。ちなみに、銅原子の二重結合の共有結合半径は115pmで、窒素原子の単結合の共有結合半径の71pmで、酸素原子の単結合の共有結合半径は63pmである。このため、配位子が銅イオンに配位結合する配位結合部の距離が最も長い。従って、還元雰囲気で無機銅化合物を熱処理すると、最初に配位結合部が分断され、銅と無機物とに分解し、無機物の気化が完了した後に銅が析出する。
このような無機銅化合物からなる銅錯塩として、アンモニアNHが配位子となって銅イオンに配位結合するテトラアンミン銅イオン[Cu(NH2+やヘキサアンミン銅イオン[Cu(NH2+を有する銅錯塩や、塩素イオンClが配位子になって銅イオンに配位結合するテトラクロロ銅イオン[CuCl2-を有する銅錯塩は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銅錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうした銅錯イオンを有する無機銅化合物からなる銅錯塩は、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、180-200℃で銅を析出する。さらに、メタノールに10重量%前後の分散濃度まで分散する。このような銅錯塩に、テトラアンミン銅硝酸塩[Cu(NH](NOや、テトラアンミン銅硫酸塩[Cu(NH]SOがある。
さらに、熱分解でニッケルを析出する無機ニッケル化合物からなるニッケル錯体として、アンモニアNHが配位子となってニッケルイオンに配位結合するヘキサアンミンニッケルイオン[Ni(NH2+からなるニッケル錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他のニッケル錯イオンを有する錯体に比べて合成が容易で安価である。こうしたニッケル錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯塩は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると配位結合部位が最初に分断され、180-200℃でニッケルを析出する。また、メタノールに10重量%前後の分散濃度まで分散する。このようなニッケル錯塩として、例えば、ヘキサアンミンニッケル塩化物[Ni(NH]Clがある。
また、無機金化合物からなる銀錯体として、アンモニアNHが配位子となって銀イオンに配位結合するジアンミン銀イオン[Ag(NHを有する銀錯体と、シアン化物イオンCNが配位子となって銀イオンに配位結合するジシアノ銀イオン[Ag(CN)を有する銀錯体は、配位子が低分子量で、配位子の数が少ないため、他の銀錯イオンを有する銀錯体に比べて、合成が容易で安価に製造できる。こうした銀錯イオンを有する無機金属化合物からなる錯塩は、無機物の分子量が小さいため、還元性雰囲気で熱処理すると、配位結合部位が最初に分断され、180-200℃で銀が析出する。また、メタノールに10重量%前後の分散濃度まで分散する。このような銀錯塩として、例えば、テトラアンミン銅硝酸塩[Ag(NH]Cl、硫酸ジアンミン銀[Ag(NHSO、硝酸ジアンミン銀[Ag(NH]NOなどが存在する。
以上に説明したように、無機物からなる分子または無機物からなるイオンが配位子となって、金属イオンに配位結合した金属錯イオンを有する無機塩からなる無機金属化合物は、配位子が低分子量で、配位子の数が少なく、無機金属化合物を形成する無機物の分子量が小さいため、熱分解温度が最も低く、合成が容易で最も安価な金属錯塩である。従って、無機金属化合物は、金属微粒子の原料として好適である。
【0017】
実施形態2
本実施形態は、13-14段落に記載したオクチル酸金属化合物の実施形態である。オクチル酸の大気圧での沸点は228℃であり、オクチル酸金属化合物は、大気雰囲気において290℃で熱分解が完了して金属が析出し、メタノールに10重量%前後まで分散する。こうした290℃で熱分解が完了して金属を析出するオクチル酸金属化合物として、銅を析出するオクチル酸銅Cu(C15COO)、ニッケルを析出するオクチル酸ニッケルNi(C15COO)、アルミニウムを析出するオクチル酸アルミニウムAl(C15COO)、鉄を析出するオクチル酸鉄Fe(C15COO)、亜鉛を析出するオクチル酸亜鉛Zn(C15COO)、コバルトを析出するオクチル酸コバルトCo(C15COO)、マンガンを析出するオクチル酸マンガンMn(C15COO)、錫を析出するオクチル酸錫Sn(C15COO)などの様々な金属からなるオクチル酸金属化合物がある。
【0018】
実施例1
本実施例は、7段落に記載した製造方法に従って、黒鉛シートを製造する。
鱗片状黒鉛粒子として、日本黒鉛工業株式会社のF#1を用いた。この鱗片状黒鉛粒子は、平均の粒子の大きさが350μmと大きく、鱗片状黒鉛粒子の中でも扁平率が高い。また、粒子が大きいため、見かけ密度も鱗片状黒鉛粒子の中では、0.53g/cmと高い。また、銅微粒子の原料として、オクチル酸銅(例えば、三津和化学薬品株式会社の製品)を用いた。なお、銅微粒子の原料として、16段落に記載したテトラアンミン銅硝酸塩やテトラアンミン銅硫酸塩を用いてもよい。
最初に、容器の内側が、長さが10cmで、幅が10cmで、深さが3cmからなる第一の容器に、鱗片状黒鉛粒子の25gと、メタノールの80gとを投入した。次に、第一の容器に、0.2Gからなる衝撃加速度を、前後、左右、上下からなる3方向について、順番に繰り返し3回ずつ加えた。さらに、第一の容器内の混合物の表面全体を覆う平板を被せ、次いで、平板の四隅の内側と、平板の中央部に、0.5kgの重りを合計で5個を載せ、2分ほど放置した。この後、重りと平板とを取り除いた。さらに、オクチル酸銅の6gを第一の容器に投入し、容器内の混合物を攪拌した。この後、混合物を、長さが20cmで、幅が20cmで、深さが1cmからなる第二の容器に移した。さらに、超音波式のホモジナイザー装置(例えば、ヤマト科学株式会社の製品LUH300)を第二の容器内で稼働させ、20kHzの超音波振動を混合物に2分間加えた。この後、ホモジナイザー装置を第二の容器から取り出し、さらに、0.3Gからなる衝撃加速度を、3方向に順番に繰り返し3回ずつ加えた。さらに、第二の容器を290℃まで昇温し、290℃に1分間放置した。この後、容器内の混合物の表面全体を覆う平板を被せ、次いで、平板の四隅の内側と、平板の中央部に、2kgの重りを合計で5個を載せ、2分ほど放置した。なお、第二の容器の底面積が、第一の容器の底面積の4倍である。このため、第二の容器に被せた平板に載せる重りの重量を、第一の容器に被せた平板に載せる重りの重量の4倍とし、第一の容器内の混合物に加える圧縮応力と、第二の容器内の混合物に加える圧縮応力とを同等にした。この後、重りと平板とを取り除いた。さらに、容器に3方向の0.3Gからなる衝撃加速度を加え、容器から試料を取り出した。こうした試料を3枚作製した。
最初に、複数の試料の表面の複数個所における表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。いずれも表面抵抗値は、1×10Ω/□であったため、金属に近い表面抵抗を有した。
さらに、複数の試料の表面の複数個所における熱伝導率を、レーザフラッシュ法に依る熱物性測定装置(例えば、京都電子工業株式会社の製品LFA-502)を用いて、熱伝導率を測定した。いずれも銀より高い熱伝導率を持った。
次に、試料を電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる。
最初に、複数の試料の表面の複数個所からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。複数の試料の表面はいずれも、40-60nmの大きさらなる粒状の微粒子の集まりで覆われていた。次に、複数の試料の表面の複数個所からの反射電子線の900-1000Vの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で微粒子の材質の違いを観察した。粒状微粒子には濃淡が認められず、同一の原子から構成されていた。さらに、複数の試料の表面の複数個所からの特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、微粒子を構成する元素の種類を分析した。微粒子は銅原子のみで構成されていたため、銅のナノ粒子である。
次に、複数の試料の側面の銅微粒子の集まりを剥ぎ落し、複数個所からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。側面に銅微粒子が残存していたが、4-5個の銅微粒子の集まりが積層した層と、厚みが0.1-0.3μmからなる物質の層とが交互に重なり合っていた。厚みが0.1-0.3μmからなる物質の特性X線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみ存在した。このため、厚みが0.1-0.3μmからなる物質は、破壊した鱗片状黒鉛粒子の扁平粉である。図1は、試料の側面の一部を、模式的に拡大した図である。1は銅微粒子で、2は破壊した鱗片状黒鉛粒子の扁平粉である。銅微粒子が積層した層と扁平粉とが、交互に重なり合って結合し、試料を構成した。
さらに、複数の試料の表面の複数個所における摩擦係数を、摩擦係数測定装置(例えば、島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS-X)を用いて測定した。静止摩擦係数が0.16±0.05で、動摩擦係数が0.13±0.03であった。いずれの摩擦係数も小さく、優れた摺動性を持つ。次に、複数の試料の表面の銅微粒子の集まりを剥ぎ落し、表面の摩擦係数を測定した。静止摩擦係数が0.13±0.03で、動摩擦係数が0.10±0.02であった。従って、試料の表面の銅微粒子の集まりを剥ぎ落し、表面を鱗片状黒鉛粒子の基底面に変えると、摩擦係数が下がったため、基底面の摺動性は、金属微粒子の集まりの摺動性より優れていることが分かった。
次に、複数の試料の四隅の内側と、試料の中央部に、3kgの重りを合計で5個を載せたが、試料は破壊しなかった。このため、試料は一定の圧縮強度を持ち、基材または部品に圧着させることができる。
また、複数の試料を1mの高さから5回自然落下させたが、試料は破断しなかった。このため、試料は一定の衝撃強度を持ち、基材または部品に圧着させる際に、落下させても破壊しない衝撃強度を持つことが分かった。
以上の結果から、7段落に記載した製造方法に従って、黒鉛シートを製造すると、鱗片状黒鉛粒子が、厚みが0.1-0.3μmからなる扁平粉の集まりとなり、40-60nmの大きさからなる銅微粒子が4-5個積層した銅微粒子の集まりが、扁平粉の扁平面を交互に結合した黒鉛シートが作成された。黒鉛シートは、金属に近い導電性と、銀より優れた熱伝導性と、優れた摺動性を持った。また、黒鉛シートは、一定の圧縮強度を持ったため、基材または部品に圧着させることができる。さらに、基材または部品に圧着させる際に、落下させても破壊しない衝撃強度を持った。
【0019】
実施例2
本実施例は、実施例1の条件で作成した黒鉛シートを、長さが20cmで、幅が20cmで厚みが0.5cmからなるフェノール樹脂の板に圧着させる実施例である。
実施例1の条件で黒鉛シートを作成し、長さが20cmで、幅が20cmで厚みが0.5cmからなるフェノール樹脂の板に被せ、さらに、黒鉛シートの上に、長さが20cmで、幅が20cmで厚みが1cmからなる平板を被せ、平板の四隅の内側と、平板の中央部に、3kgの重りを合計で5個を載せ、2分ほど放置した。
作成した試料における黒鉛シートのフェノール樹脂の板材への結合力を、JIS Z0237に規定された粘着力の試験方法に基づいて測定した結果、200gの荷重に耐えた。このため、黒鉛シートは、一定の結合力でフェノール樹脂の板材に圧着された。
次に、試料を1mの高さから5回自然落下させたが、黒鉛シートは、フェノール樹脂の板材から剥離せず、また破断もしなかった。このため、黒鉛シートは、一定の衝撃強度をもって、フェノール樹脂の板材に圧着された。
【0020】
実施例3
本実施例は、実施例1の条件で作成した黒鉛シートを、長さが20cmで、幅が20cmで厚みが0.5cmからなるアルミノケイ酸塩ガラスからなるガラス板に圧着させる実施例である。
実施例1の条件で黒鉛シートを作成し、長さが20cmで、幅が20cmで厚みが0.3cmからなるアルミノケイ酸塩ガラスからなるガラス板に被せ、さらに、黒鉛シートの上に、長さが20cmで、幅が20cmで厚みが1cmからなる平板を被せ、平板の四隅の内側と、平板の中央部に、3kgの重りを合計で5個を載せ、2分ほど放置した。
作成した試料における黒鉛シートのガラス板への結合力を、JIS Z0237に規定された粘着力の試験方法に基づいて測定した結果、200gの荷重に耐えた。このため、黒鉛シートは、一定の結合力でガラス板に圧着された。
次に、試料を1mの高さから5回自然落下させたが、黒鉛シートは、ガラス板から剥離せず、また破断もしなかった。このため、黒鉛シートは、一定の衝撃強度をもって、ガラス板に圧着された。
実施例2と実施例3の結果から、黒鉛シートが容易に基材に圧着できることが分かった。さらに、圧着された黒鉛シートは、一定の強度を持ち、実施例1で明らかにした黒鉛シートの様々な性質が、圧着された基材または部品に新たに付与されることが分かった。
【符号の説明】
【0021】
1 銅微粒子 2 破壊した鱗片状黒鉛粒子の扁平粉
図1