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  • 特開-塗装被膜鋼材の製造装置及び製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022012076
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】塗装被膜鋼材の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 19/06 20060101AFI20220107BHJP
   B05C 9/14 20060101ALI20220107BHJP
   B05C 9/06 20060101ALI20220107BHJP
   B05C 9/10 20060101ALI20220107BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20220107BHJP
   B05C 13/02 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 1/06 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 1/32 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20220107BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
B05C19/06
B05C9/14
B05C9/06
B05C9/10
B05C11/10
B05C13/02
B05D1/06 K
B05D1/32 B
B05D7/14 P
B05D7/24 301A
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020113619
(22)【出願日】2020-06-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】591051553
【氏名又は名称】株式会社川熱
(74)【代理人】
【識別番号】100090158
【弁理士】
【氏名又は名称】藤巻 正憲
(72)【発明者】
【氏名】川崎 一郎
【テーマコード(参考)】
4D075
4F042
【Fターム(参考)】
4D075AA09
4D075AA35
4D075AA62
4D075AB09
4D075AB15
4D075AD09
4D075AE12
4D075BB18Z
4D075BB23X
4D075BB35X
4D075BB35Y
4D075CB00
4D075DA10
4D075DA20
4D075DB02
4D075DC05
4D075EA02
4D075EB01
4D075EB19
4D075EB35
4F042AA18
4F042AB03
4F042BA08
4F042BA19
4F042BA25
4F042CA08
4F042CB26
4F042DA06
4F042DA09
4F042DB21
4F042DC01
4F042DF03
4F042DF04
4F042DF07
4F042DF17
4F042DG04
4F042DG15
4F042EC01
4F042EC02
4F042EC07
4F042EC09
4F042ED02
(57)【要約】
【課題】耐食性又は耐候性を高めるための被膜を鋼管柱等の長尺鋼材の周面に形成する際に、容易に且つ簡素な処理で、その形成領域を美麗に区画することができ、被膜の境界が明確に区画され、優れた美観の外観をもつ長尺鋼材を得ることができる塗装被膜鋼材の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】
長尺の被塗装鋼管1aの周面に遮蔽シート5を巻き付けて、取り外し自在に取着する。塗装装置11が支持棒10b側から支持棒10a側に移動する間に、加熱部15が鋼管1aを高周波誘導加熱し、塗装部14が粉体塗料を鋼管1aの周面に吹き付けて粉体塗装する。この粉体塗料の吹付は遮蔽シート5の上で停止し、その後、遮蔽シート5を取り外す。これにより、塗料が非塗装領域側に飛散したり、はみ出したりしていない美麗な外観を有する被膜付き鋼管を得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の被塗装鋼材の両端部に係合して前記被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する支持装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能の塗装装置と、
前記長尺の被塗装鋼材の周面の一部を取外し自在に覆う遮蔽シートと、
前記塗装装置の塗装処理を制御する制御装置と、
を有し、
前記塗装装置は、
前記被塗装鋼材を誘導加熱する加熱部と、
前記被塗装鋼材に粉体塗料を吹き付ける塗装部と、
前記被塗装鋼材を冷却する冷却部と、
を有し、
前記遮蔽シートは、
非磁性金属製の第1層と、
シリコン又は樹脂製の第2層と、
を積層したものであって、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして前記被塗装鋼材に巻き付けられて取り外し可能に取り付けられており、
前記制御装置は、
前記塗装装置を移動させる間に、
前記加熱部、塗装部及び冷却部を駆動して、前記被塗装鋼材を加熱し、前記被塗装鋼材の表面に粉体塗料を吹き付けて粉体塗装した後、前記被塗装鋼材を冷却する塗装処理を実施し、前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を開始することを特徴とする塗装被膜鋼材の製造装置。
【請求項2】
長尺の被塗装鋼材の両端部に係合して前記被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する支持装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能であって前記被塗装鋼材を誘導加熱する加熱装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能であって前記被塗装鋼材に粉体塗料を吹き付ける粉体塗料塗布装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能であって前記被塗装鋼材を冷却する冷却装置と、
前記長尺の被塗装鋼材の周面の一部を取外し自在に覆う遮蔽シートと、
前記加熱装置、前記粉体塗料塗布装置及び前記冷却装置の塗装処理を制御する制御装置と、
を有し、
前記遮蔽シートは、
非磁性金属製の第1層と、
シリコン又は樹脂製の第2層と、
を積層したものであって、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして前記被塗装鋼材に巻き付けられて取り外し可能に取り付けられており、
前記制御装置は、
前記加熱装置、前記粉体塗料塗布装置及び前記冷却装置を移動させる間に、
前記加熱装置により前記被塗装鋼材を加熱し、前記粉体塗料塗布装置により前記被塗装鋼材の表面に粉体塗料を吹き付けて粉体塗装し、前記冷却装置により前記被塗装鋼材を冷却する塗装処理を実施し、前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を開始することを特徴とする塗装被膜鋼材の製造装置。
【請求項3】
長尺の被塗装鋼材をその長手方向に搬送する搬送装置と、
この被塗装鋼材の移動域の途中に配置された塗装装置と、
前記長尺の被塗装鋼材の周面の一部を取外し自在に覆う遮蔽シートと、
前記塗装装置の塗装処理を制御する制御装置と、
を有し、
前記塗装装置には、
前記被塗装鋼材の移動方向に静電流動塗装装置、高周波加熱装置及び無機質粗粒体吹付け装置が配置されており、
前記遮蔽シートは、
非磁性金属製の第1層と、
シリコン又は樹脂製の第2層と、
を積層したものであって、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして前記被塗装鋼材に巻き付けられて取り外し可能に取り付けられており、
前記制御装置は、
前記被塗装鋼材を移動させる間に、
前記被塗装鋼材に対し、静電流動塗布装置にて粉体塗料の流動槽内に浸漬し、高周波加熱装置にて高周波加熱コイルにより加熱し、無機質粗粒体吹付け装置にて無機質粗粒体吹付けガンにより無機質の粗粒体を鋼材周面に吹き付けて塗装処理し、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を開始することを特徴とする塗装被膜鋼材の製造装置。
【請求項4】
前記被塗装鋼材は、鋼管柱であり、前記粉体塗料は、熱可塑性のポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の塗装被膜鋼材の製造装置。
【請求項5】
長尺の被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する工程と、
空中に支持された前記被塗装鋼材に対し、その長手方向に塗装装置を移動させ、前記塗装装置の移動過程で、前記被塗装鋼材に対し、誘導加熱、粉体塗料の吹付及び冷却の処理をこの順に施す工程と、
を有し、
非磁性金属製の第1層とシリコン又は樹脂製の第2層とを積層した遮蔽シートを、前記被塗装鋼材に対し、その周面の一部を覆うようにして、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして取り外し可能に巻き付け、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を行うことを特徴とする塗装被膜鋼材の製造方法。
【請求項6】
長尺の被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する工程と、
空中に支持された前記被塗装鋼材に対し、誘導加熱する加熱装置、粉体塗料を吹き付ける粉体塗料塗布装置及び冷却装置を被塗装材の長手方向に移動させ、前記加熱装置、前記粉体塗料塗布装置及び前記冷却装置の移動過程で、前記被塗装鋼材に対し、加熱、粉体塗料の吹付及び冷却の処理をこの順に施す工程と、
を有し、
非磁性金属製の第1層とシリコン又は樹脂製の第2層とを積層した遮蔽シートを、前記被塗装鋼材に対し、その周面の一部を覆うようにして、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして取り外し可能に巻き付け、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を行うことを特徴とする塗装被膜鋼材の製造方法。
【請求項7】
長尺の被塗装鋼材をその長手方向に搬送する工程と、
この被塗装鋼材の移動域の途中にて、前記被塗装鋼材に対し、静電流動塗布装置にて粉体塗料の流動槽内に浸漬し、高周波加熱装置にて高周波加熱コイルにより加熱し、無機質粗粒体吹付け装置にて無機質粗粒体吹付けガンにより無機質の粗粒体を鋼材周面に吹き付けることにより、塗装処理する工程と、
を有し、
非磁性金属製の第1層とシリコン又は樹脂製の第2層とを積層した遮蔽シートを、前記被塗装鋼材に対し、その周面の一部を覆うようにして、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして取り外し可能に巻き付け、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を開始することを特徴とする塗装被膜鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記被塗装鋼材は、鋼管柱であり、前記粉体塗料は、熱可塑性のポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の塗装被膜鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信向け鋼管柱のような長尺の管又は棒の表面に、耐食性又は耐候性を高めるための被膜を形成する際に、その塗膜の形成域を、美麗に規定することができる塗装被膜鋼材の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信向けの鋼管柱は、その長手方向が鉛直になるようにして、地面に立設されるが、地中に埋設される側(元口側)の端部の直径が、地上先端の直径よりも大きく、このため、テーパ管ともいわれる。また、地面に立設された鋼管柱の地表の近傍の部分は、地際部といわれている。この地際部は他の部分に比べて特に腐食されやすいという環境にあるため、特にこの地際部から地中部については、耐食性を十分に図る必要がある。このため、鋼管柱は、少なくともその表面の地際部から元口側にかけて耐食性被膜を形成する必要があり、鋼管柱の製造時に、耐食性被膜の形成工程が設けられている。この耐食性被膜の形成工程においては、従来、樹脂の粉体塗装が利用されている。
【0003】
従来の鋼管柱の製造装置としては、特許文献1に開示されたものがある。この技術においては、テーパ管の鋼管柱を水平に支持し、この鋼管柱をその軸の周りに回転させながら、鋼管柱の周囲を夫々取り囲む加熱装置と粉体塗装装置とを、鋼管柱の軸方向に移動させて、鋼管柱の周面に塗装を実施する。このとき、地際部となる部分を加熱装置により加熱した後、塗装装置を地際部に移動させて地際部の塗装を行い、以降、加熱装置を元口側に移動させつつ、塗装装置を加熱装置に追従させて元口側に移動させることにより、鋼管柱の地際部から元口側端部までの塗工領域を塗装する。
【0004】
このとき、塗工領域の一方の端部(塗装境界部)は、鋼管柱が立設されたときの地際部の上端となる位置であるが、この塗工領域として、塗膜における地際部の上端に対応する位置は美麗に区画形成したいという要望が鋼管柱の使用者側にある。つまり、塗膜における地際部の上端に対応する位置にて、塗工がなされた塗工領域と塗工されていない非塗工領域とが直線状に美麗に区分けされており、非塗工領域への塗料のはみ出し及び飛散等がないことが塗工品質の重要な要素になっている場合がある。
【0005】
そこで、塗装工程においては、水平に配置された鋼管柱の塗装境界部に境界設定用基板を設け、この境界設定用基板を挟んで塗装装置の反対側にエアーブロージャケットを設け、このエアーブロージャケットから空気を境界設定用基板と鋼管柱との接触部又は近接部に向けて噴射することにより、粉体塗料が境界設定用基板よりも塗装装置の反対側にしみ出してしまうことを防止している。これにより、粉体塗装の塗工領域の塗装境界が規定されるようになっている。
【0006】
このような塗料を噴射することにより塗装する場合の塗工領域を規定する方法として、特許文献2には、H型鋼のような異形断面鋼材の表面に、その異形断面形状(H形状)に合わせて屈曲する金属製の保護部材をあてがった状態で、粉体塗料を鋼材に向けて噴射するものが開示されている。また、特許文献3には、鉄管塗工用のマスキング材として、帯状をなすシート状磁石であって鉄管表面の周方向にあてがわれる可撓性を有するものが開示されている。このマスキング材は、その巻き付け方向と直交する方向(鉄管軸方向)にN極とS極とが交互に出現するように磁気配向されており、鉄管の塗工時に鉄管周面に磁気的に取着される。更に、特許文献4には、管端継手部を相互に連結して移送される金属管の前記管端をマスキングする粉体塗装金属管の製造方法が開示されている。この方法においては、先行する金属管の後端部と後行する金属管の先端部に粘着テープを巻き付けて、所定の未塗装部を確保する。このマスキングテープは、相互に重なるように巻き付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4043037号公報
【特許文献2】特開2019-105054号公報
【特許文献3】特開2001-232252号公報
【特許文献4】特開昭61-38668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の熱可塑性粉体塗料の塗装装置においては、塗工領域を規定するために、塗装装置の近傍に境界設定用基板を設置し、更に、この境界設定用基板の更に外側にエアーブロージャケットを設置し、空気を境界設定用基板と鋼管柱との近接部に吹き付けるという処理を行っており、装置が大型及び複雑化するという問題点がある。また、特許文献2においては、塗料噴射のマスキングのために、金属製の保護部材を被塗工鋼材表面にあわせて配置するものであり、保護部材の形状を被塗工鋼材の表面にあわせて屈曲形成したとしても、金属製の被塗工鋼材と、金属製の保護部材との間の隙間には、噴射された塗料が入り込み、美麗な境界線を形成することはできない。更に、特許文献3は、マスキング材が可撓性を有するとはいえ、シート状の磁石であり、鉄管端部周面と湾曲したシート状磁石との間には、隙間が生じやすく、隙間への噴射塗料の侵入を確実に防止することはできない。更にまた、特許文献4は、粉体塗装金属管製造時の管端をマスキングする方法ではあるが、ポリアミド等の基材に天然ゴム系の架橋粘着剤等を塗布した粘着テープを鋼管の周面に接着することにより、鋼管の周面にテープを取り付けるものであり、300℃以上の高温になるような粉体塗装には、使用することができない。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、耐食性又は耐候性を高めるための被膜を鋼管柱等の長尺鋼材の周面に形成する際に、容易に且つ簡素な処理で、その形成領域を美麗に区画することができ、被膜の境界が明確に区画され、優れた美観の外面をもつ長尺鋼材を得ることができる塗装被膜鋼材の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願第1発明に係る塗装被膜鋼材の製造装置は、
長尺の被塗装鋼材の両端部に係合して前記被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する支持装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能の塗装装置と、
前記長尺の被塗装鋼材の周面の一部を取外し自在に覆う遮蔽シートと、
前記塗装装置の塗装処理を制御する制御装置と、
を有し、
前記塗装装置は、
前記被塗装鋼材を誘導加熱する加熱部と、
前記被塗装鋼材に粉体塗料を吹き付ける塗装部と、
前記被塗装鋼材を冷却する冷却部と、
を有し、
前記遮蔽シートは、
非磁性金属製の第1層と、
シリコン又は樹脂製の第2層と、
を積層したものであって、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして前記被塗装鋼材に巻き付けられて取り外し可能に取り付けられており、
前記制御装置は、
前記塗装装置を移動させる間に、
前記加熱部、塗装部及び冷却部を駆動して、前記被塗装鋼材を加熱し、前記被塗装鋼材の表面に粉体塗料を吹き付けて粉体塗装した後、前記被塗装鋼材を冷却する塗装処理を実施し、前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を開始することを特徴とする。
【0011】
本願第2発明に係る塗装被膜鋼材の製造装置は、
長尺の被塗装鋼材の両端部に係合して前記被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する支持装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能であって前記被塗装鋼材を誘導加熱する加熱装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能であって前記被塗装鋼材に粉体塗料を吹き付ける粉体塗料塗布装置と、
前記支持装置により支持された前記被塗装鋼材の長手方向に往復移動可能であって前記被塗装鋼材を冷却する冷却装置と、
前記長尺の被塗装鋼材の周面の一部を取外し自在に覆う遮蔽シートと、
前記加熱装置、前記粉体塗料塗布装置及び前記冷却装置の塗装処理を制御する制御装置と、
を有し、
前記遮蔽シートは、
非磁性金属製の第1層と、
シリコン又は樹脂製の第2層と、
を積層したものであって、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして前記被塗装鋼材に巻き付けられて取り外し可能に取り付けられており、
前記制御装置は、
前記加熱装置、前記粉体塗料塗布装置及び前記冷却装置を移動させる間に、
前記加熱装置により前記被塗装鋼材を加熱し、前記粉体塗料塗布装置により前記被塗装鋼材の表面に粉体塗料を吹き付けて粉体塗装し、前記冷却装置により前記被塗装鋼材を冷却する塗装処理を実施し、前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を開始することを特徴とする。
【0012】
本願第3発明に係る塗装被膜鋼材の製造装置は、
長尺の被塗装鋼材をその長手方向に搬送する搬送装置と、
この被塗装鋼材の移動域の途中に配置された塗装装置と、
前記長尺の被塗装鋼材の周面の一部を取外し自在に覆う遮蔽シートと、
前記塗装装置の塗装処理を制御する制御装置と、
を有し、
前記塗装装置には、
前記被塗装鋼材の移動方向に静電流動塗装装置、高周波加熱装置及び無機質粗粒体吹付け装置が配置されており、
前記遮蔽シートは、
非磁性金属製の第1層と、
シリコン又は樹脂製の第2層と、
を積層したものであって、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして前記被塗装鋼材に巻き付けられて取り外し可能に取り付けられており、
前記制御装置は、
前記被塗装鋼材を移動させる間に、
前記被塗装鋼材に対し、静電流動塗布装置にて粉体塗料の流動槽内に浸漬し、高周波加熱装置にて高周波加熱コイルにより加熱し、無機質粗粒体吹付け装置にて無機質粗粒体吹付けガンにより無機質の粗粒体を鋼材周面に吹き付けて塗装処理し、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を開始することを特徴とする。
【0013】
これらの塗装被膜鋼材の製造装置において、例えば、
前記被塗装鋼材は、鋼管柱であり、前記粉体塗料は、熱可塑性のポリエステル樹脂である。
【0014】
本願第4発明に係る塗装被膜鋼材の製造方法は、
長尺の被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する工程と、
空中に支持された前記被塗装鋼材に対し、その長手方向に塗装装置を移動させ、前記塗装装置の移動過程で、前記被塗装鋼材に対し、誘導加熱、粉体塗料の吹付及び冷却の処理をこの順に施す工程と、
を有し、
非磁性金属製の第1層とシリコン又は樹脂製の第2層とを積層した遮蔽シートを、前記被塗装鋼材に対し、その周面の一部を覆うようにして、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして取り外し可能に巻き付け、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を行うことを特徴とする。
【0015】
本願第5発明に係る塗装被膜鋼材の製造方法は、
長尺の被塗装鋼材を空中に浮かせて支持する工程と、
空中に支持された前記被塗装鋼材に対し、誘導加熱する加熱装置、粉体塗料を吹き付ける粉体塗料塗布装置及び冷却装置を被塗装材の長手方向に移動させ、前記加熱装置、前記粉体塗料塗布装置及び前記冷却装置の移動過程で、前記被塗装鋼材に対し、加熱、粉体塗料の吹付及び冷却の処理をこの順に施す工程と、
を有し、
非磁性金属製の第1層とシリコン又は樹脂製の第2層とを積層した遮蔽シートを、前記被塗装鋼材に対し、その周面の一部を覆うようにして、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして取り外し可能に巻き付け、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を停止して塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料の吹付を開始して塗装処理を行うことを特徴とする。
【0016】
本願第6発明に係る塗装被膜鋼材の製造方法は、
長尺の被塗装鋼材をその長手方向に搬送する工程と、
この被塗装鋼材の移動域の途中にて、前記被塗装鋼材に対し、静電流動塗布装置にて粉体塗料の流動槽内に浸漬し、高周波加熱装置にて高周波加熱コイルにより加熱し、無機質粗粒体吹付け装置にて無機質粗粒体吹付けガンにより無機質の粗粒体を鋼材周面に吹き付けることにより、塗装処理する工程と、
を有し、
非磁性金属製の第1層とシリコン又は樹脂製の第2層とを積層した遮蔽シートを、前記被塗装鋼材に対し、その周面の一部を覆うようにして、前記第1層を被塗装鋼材の周面側にして取り外し可能に巻き付け、
前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を終了するか、又は前記遮蔽シートの上で前記粉体塗料による塗装処理を開始することを特徴とする。
【0017】
これらの塗装被膜鋼材の製造方法において、例えば、
前記被塗装鋼材は、鋼管柱であり、前記粉体塗料は、熱可塑性のポリエステル樹脂である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粉体塗料を被塗装鋼材に向けて吹き付ける際に、塗装領域と非塗装領域とを明確に区分けするために、この塗装領域と非塗装領域との境界を挟んで、非塗装領域側に遮蔽シートを配置する。そして、塗装部(請求項1)又は粉体塗料塗布装置(請求項2)が粉体塗料を長尺鋼材に向けて吹き付けつつ、長尺被塗装鋼材の長手方向に移動して、この長尺被塗装鋼材を粉体塗装する。そうすると、遮蔽シートに覆われた領域では、粉体塗料は鋼材の周面上に塗布されず、鋼材の集面上に非塗装領域が形成される。そして、この遮蔽シートの上で、粉体塗料の吹付を停止すれば、塗装部(請求項1)又は粉体塗料塗布装置(請求項2)が、その移動により遮蔽シートの上から離脱しても、長尺鋼材への粉体塗料の塗布は生じない。これにより、遮蔽シートの端縁で、塗装領域と非塗装領域とを区画することができ、この塗装領域と非塗装領域との境界は、遮蔽シートの端縁で規定されるから、極めて美麗な境界を形成することができる。しかも、粉体塗装の場合、鋼材を例えば300℃程度の高温に加熱して、高温の鋼材に対して粉体塗料を吹き付け、その後冷却することにより、耐食性又は耐候性被膜を形成する。このため、遮蔽シートは、このような高温に耐える必要がある。本発明においては、遮蔽シートとして非磁性金属製の第1層と、シリコン又は樹脂製の第2層との積層体を使用し、非磁性金属層からなる第1層を鋼材側にして遮蔽シートを鋼材に配置する。このため、加熱部(請求項1)又は加熱装置(請求項2)が鋼材を誘導加熱して前記鋼材を所定の高温度に加熱する際に、磁性体の鋼材は誘導加熱されるが、遮蔽シートの第1層は例えばアルミニウム又はオーステナイト系ステンレス鋼等の非磁性金属からなるので誘導加熱されることはない。また、第2層もシリコン又は樹脂製であるので、自ら昇温することはなく、鋼材からの熱伝達で加熱されるが、第2層と鋼材との間に第1層が介在しているので、第2層が鋼材の加熱温度まで加熱されることはなく、鋼材が例えば300℃まで昇温しても、第2層は高々250℃程度までしか昇温しない。よって、第2層としては、シリコン又は樹脂等の弾力を有するものを使用することができ、遮蔽シートを鋼材の周面に巻き付けた際の相互の縁部の気密性を高めることができる。このようにして、本発明によれば、遮蔽シートを鋼材に巻き付けて塗装領域と非塗装領域との境界に配置するだけで、前記境界を美麗に形成することができ、噴射塗料が非塗装領域に付着してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は本発明の第1実施形態を示す正面模式図、(b)は同じくその平面模式図である。
図2】本発明の第2実施形態を示す正面模式図である。
図3】(a)は本発明の遮蔽シートの構成を示す正面模式図、(b)は同じくその遮蔽シートを取り外した後の非塗装領域を示す正面模式図である。
図4】本発明の第3実施形態を示す正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施形態の塗装被膜鋼管の製造装置を示す模式図である。例えば、図1(b)に示すように、通信向け鋼管柱である鋼管1aがその長手方向に垂直の方向に搬送されて、本実施形態の被膜管製造装置に搬入される。この長尺の鋼管1aは、例えば、長さが8.5~11m、一方の端部の外径が約200mm、他方の端部の外径が350~500mmであり、正面視で円錐台状をなす。そして、この大径側を地中に埋めて、鋼管柱を地面に垂直に設置する。この鋼管柱は、雨風の天候に曝されて、厳しい腐食環境下にて使用されるため、その周面には、耐食性被膜を形成する必要がある。特に、地面のレベル(GL)の近傍の地際部では、腐食損耗を受けやすく、この部分は特に防食被膜を十分に形成する必要がある。よって、少なくともこの地際部には、飽和ポリエステル樹脂の粉体塗装を施すことが好ましい。この飽和ポリエステル樹脂としては、具体的に、熱可塑性ポリエステル(PET)樹脂がある。粉体塗料は、固形の粉末であり、揮発性有機化合物を全く含まないため、無公害であり、省資源及び省力化に優れている。また、飽和ポリエステル樹脂粉体塗装膜は、優れた耐塩害性及び耐酸性を有しており、海沿いの塩害地域及び重工業地帯の強酸性地域等の厳しい腐食環境下でも、長期的に防食性を発揮する。
【0021】
複数個の鋼管1aは、図1(b)に示すように、搬入部17にその軸方向を平行にして集積されており、鋼管1aが1本ずつ取り出され、塗装装置11が配置された塗工部18に送られる。塗装が終了した鋼管1aは、搬出部19に向けて、塗工部18から送り出される。この間、鋼管1aはその長手方向に垂直の方向に搬送される。そして、図1(a)に示すように、鋼管1aは、塗工部18にて、1対の支持装置10の配置位置に停止する。支持装置10には水平に延びる支持棒10a又は支持棒10bが設けられており、これらの1対の支持装置10の1対の支持棒10a、10bが相対するようにして配置されている。これらの支持棒10a、10bは、相互に接近するように水平に移動することにより、鋼管1aの端部の内部に進入し、端部内面に係合する。このようにして、1対の支持棒10a、10bが鋼管1aの端部に係合して、鋼管1aを空中に浮いた状態で支持する。また、鋼管1aを排出する際は支持棒10a、10bは相互に離反する方向に移動して、鋼管1aの係合を解除する。更に、支持棒10a、10bはその中心軸の周りに回転可能であり、この支持棒10a、10bを回転駆動することにより、鋼管1aがその中心軸の周りに回転駆動される。
【0022】
塗装装置11は、工場の床上に1対の支持棒10a、10bの対向方向に延びるように敷設されたレール(図示せず)の上を移動することができ、適宜の駆動装置(図示せず)に駆動されて、鋼管1aの長手方向に往復移動することができる。塗装装置11は、鋼管1aの搬入時は、一方の支持棒10aを嵌合するようにしてこの支持棒10a側に退避しており、鋼管1aが搬入されたときに、支持棒10a、10bにより鋼管1aが空中に支持された後、塗装装置11は支持棒10aから鋼管1aに向けて浸出して、鋼管1aを嵌合する。
【0023】
鋼管1aには、その被膜を塗装すべき塗装領域と、被膜を塗装しない非塗装領域との境界における非塗装領域側の位置に、遮蔽シート5が巻き付けられて、取り外し可能に固定されるようになっている。この遮蔽シート5は、非磁性金属からなる第1層と、シリコン又は樹脂製の第2層とを積層したものであり、非磁性第1層を鋼管1a側にして、鋼管1aに巻き付けられる。この遮蔽シート5は、取り外し可能に鋼管1aにその周面を覆うように配置される。具体的には、シリコンチューブ等により遮蔽シート5を鋼管1aに縛り付けることにより、遮蔽シート5を鋼管1aに固定することができる。遮蔽シート5の非磁性金属からなる第1層は、例えば、アルミニウム又はオーステナイト系ステンレス鋼等を使用することができる。非磁性金属としたのは、加熱部15による鋼管1aの加熱手段が、誘導加熱であり、遮蔽シート5自体が加熱部15による誘導磁場の印加で加熱されないようにするためである。非磁性金属としては、アルミニウム又はオーステナイト系ステンレス鋼を使用することができるが、アルミニウムの方が低廉で扱いやすい。第2層としては、塗装部14から噴射される粉体塗料をマスキングすることができるものを使用する。例えば、第2層としては、シリコン又は樹脂製のものがある。また、この第2層は、例えば、内層にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを配置し、外層に耐熱シート(例えば、株式会社大阪製作所製プロテックシート(製品名))を配置し、両者をステープラ等で相互に固定することにより得られる。これらの樹脂シート第2層の内層は、例えば、厚さが0.2mm、幅が150mm、長さが鋼管1aの周長であり、外層は、例えば、厚さが0.5mm、幅が200mm、長さが鋼管1aの周長+100mmである。そして、上述のアルミニウム等の非磁性金属第1層と2層樹脂層からなる第2層との積層体を、鋼管1aに巻き付け、その上からシリコンチューブ等により鋼管1aに縛り付けることにより、遮蔽シート5を鋼管1aに固定する。
【0024】
塗装装置11は、研磨部12と、冷却部13と、塗装部14と、加熱部15とを有し、研磨部12が支持棒10b側になるようにして、これらが、一体的に、鋼管1aの長手方向に沿って配置されている。そして、鋼管1aがその中心軸の周りに回転駆動された状態で、塗装装置11が支持棒10a側から支持棒10b側に移動し、この塗装装置11の移動の間に、鋼管1aは研磨部12による研磨を受ける。その後、塗装装置11が、支持棒10b側から支持棒10a側に移動し、この塗装装置11の移動の間に、鋼管1aは、加熱部15、塗装部14、及び冷却部13の通過を、この順に受ける。そして、鋼管1aは、その中心軸の周りに回転駆動されると共に、塗装装置11が支持棒10aに向けて移動する間に、鋼管1aは、加熱部15により加熱され、塗装部14により粉体塗装され、更に、冷却部13により冷却される。
【0025】
研磨部12は、回転する鋼管1aの周面に研磨刃をあてがうことにより、研磨刃が鋼管周面を摺動して、鋼管周面を所定の深さにわたって研削する。これにより、鋼管周面が清浄化される。
【0026】
加熱部15には、高周波加熱コイルが設けられており、加熱部15は、この高周波加熱コイルにより、加熱部15が嵌合している部分の鋼管1aを所定の温度に加熱する。
【0027】
そして、この鋼管1aの加熱後の部分は、塗布装置11の移動により加熱部15に遅れてその次に移動してくる塗装部14により、飽和ポリエステル樹脂が塗装される。塗装部14は、飽和ポリエステル樹脂粉体を、鋼管1aの周面に塗装する。この飽和ポリエステル樹脂粉体の塗装方法としては、種々の方法があるが、例えば、流動浸漬法及び静電塗装法がある。流動浸漬法においては、多孔板の下方から孔を介して空気を多孔板の上方に吹き込み、粉体塗料を多孔板の上に供給して、粉体塗料を多孔板の上方で浮遊させる。このように粉体塗料が浮遊状態にある空間内に鋼管1aを通すことにより、中心軸の周りに回転する鋼管1aの周面に粉体塗料を均一に付着させる。実際は、粉体塗料が浮遊状態にある空間を鋼管1aに沿って移動させることにより、粉体塗料を鋼管1aの周面に均一に付着させる。これにより、粉体塗料は、鋼管1aの熱で溶融し、鋼管1aの周面に被膜が形成される。
【0028】
一方、静電塗装法においては、塗装部14に配置された静電ガンから粉体を鋼管1aの周面に吹き付けるが、この際、粉体塗料を帯電させ、粉体の吹き付け力に加えて、静電気力を付加して、鋼管1aの表面に粉体を衝突させて付着させる。これにより、粉体を回転する鋼管1aの周面に強固にかつ均一に付着させることができる。この鋼管1aの周面に衝突した粉体は、鋼管1aの熱により溶融し、鋼管1aの周面に被膜が形成される。このように、鋼管1aを加熱後、塗装処理することにより、例えば、150μm以上の厚い被膜を形成することができる。
【0029】
塗装後、鋼管1aは、塗装部14に続いて移動してくる冷却部13により、冷却水をスプレー噴射され、冷却される。この水冷により、鋼管1aの温度が低下し、その周面の被膜が固化する。
【0030】
鋼管1aを冷却した後、塗装装置11は、支持棒10a側まで移動し、鋼管1aから抜き出る。そして、この塗装装置11は、支持棒10aの水平部を嵌合する位置に退避する。支持棒10a、10bは鋼管1aから抜き出て、塗膜形成後の鋼管1aは、その軸方向に垂直の方向に排出され、搬出部19に一旦集積された後、次工程に送られる。これらの鋼管1aの搬送及び塗装処理は、制御装置により制御される。
【0031】
次に、このように構成された塗装被膜鋼材の製造装置の動作及び制御装置の制御態様について説明する。通信向け鋼管柱等の鋼管1aが、その長手方向に垂直の方向に移動するように駆動されて、塗装装置11の配置位置(塗工部18)に搬入される。そして、鋼管1aは、支持装置10間の位置に停止するように制御される。その後、支持装置10の支持棒10aが相互に接近する方向に移動し、鋼管1aの両端部に支持棒10aの先端部が進入し、支持棒10aにより鋼管1aが空中に浮遊した状態で支持される。その後、支持棒10aを嵌合していた塗装装置11が、鋼管1aを嵌合した状態で、支持棒10a側から支持棒10b側に向けて移動するように、駆動される。この塗装装置11の移動の間、支持棒10a、10bの水平軸周りの回転により、鋼管1aはその軸の周りに回転駆動されており、回転した状態で、鋼管1aは、研磨部12、冷却部13、塗装部14及び加熱部15がこの順に通過する。そして、鋼管1aは、先頭の研磨部12により研磨を受けて、その周面が清浄化される。その他の冷却部13,塗装部14及び加熱部15は動作しない。
【0032】
塗装装置11が支持棒10bに到達した後、図1(b)に示すように、鋼管1aにおける塗装領域と非塗装領域との境界に、遮蔽シート5を巻き付ける。そして、塗装装置11を、支持棒10b側から支持棒10a側に向けて移動させる。この塗装装置11の移動の間に、鋼管1aの遮蔽シート5よりも支持棒10b側の領域に塗装が施される。即ち、支持棒10b側から支持棒10a側に向けて塗装装置11が移動する間に、先ず、先頭の加熱装置15が鋼管1aを所定の温度に高周波誘導加熱して、鋼管1aを所定の温度に昇温させる。続いて到来する塗装部14が、鋼管1aに対し、流動浸漬法又は静電塗装法等の粉体塗装手段により、飽和ポリエステル樹脂を粉体塗装する。その後、後行する冷却部13が鋼管1aを冷却する。このようにして、塗装装置11が支持棒10b側から支持棒10a側に向けて移動する間に、鋼管1aにおける遮蔽シート5よりも支持棒10b側の領域が塗装される。そして、塗装部14が遮蔽シート5の上に移動してきたときに、塗装部14による粉体塗料の噴射を停止する。これにより、図(a)に示すように、遮蔽シート5を境にして、鋼管1aにおける支持棒10b側の部分は、例えば熱可塑性ポリエステル樹脂等の被膜2が形成されるが、遮蔽シート5に覆われている部分及び遮蔽シート5より支持棒10a側の部分には被膜2が形成されない。このとき、粉体塗料の噴射により被膜2を形成するので、この粉体塗料は遮蔽シート5上の一部にも塗布されてしまう。しかし、塗工後に、この遮蔽シート5を取り外すことにより、図3(b)に示すように、被膜2が形成された塗装領域と、被膜2が形成されていない非塗装領域とが明瞭に区分けされて形成される。即ち、この塗装領域と非塗装領域との境界は、明確に規定されており、非塗装領域に、塗料のはみ出し及び飛滴が存在することはない。従って、塗装装置11が支持棒10bから支持棒10aに向けて復路を移動する際に、鋼管1aにおける塗装領域と非塗装領域との境界から非塗装領域側の一部の部分に、遮蔽シート5を設けておくだけで、この境界を明瞭に規定することができ、非塗装領域には粉体塗料の付着がない美麗な被膜付き鋼管を得ることができる。
【0033】
このとき、塗装部14に先行する加熱部15が遮蔽シート5を通過するが、加熱部15による鋼管1aの加熱手段は、高周波誘導加熱であるので、遮蔽シート5の非磁性のアルミニウム製第1層は誘導加熱されない。このため、鋼管1aは例えば300℃以上に加熱されるが、その熱は、アルミニウム第1層により遮断されて樹脂製第2層には伝達されにくい。よって、加熱部15が通過するものの、遮蔽シート5は粉体塗装に必要な程度の高温にはならず、高温に曝されて劣化することはない。
【0034】
なお、従来の塗装装置においては、塗装装置は停止状態で設置されており、この塗装装置に対して鋼管が移動する。これに対し、本実施形態においては、長尺の鋼管1aの搬入部17から搬出部19までの移動域は、鋼管1aの長手方向に垂直の方向であり、この移動域は鋼管1aの搬入部17から搬出部19までであり、鋼管1aは、塗装処理時には、回転軸の周りに回転しているだけで、平面的には停止した状態にある。よって、本実施形態においては、工場内における装置の配置及び鋼管の移動のためのスペースが小さくて足り、工場スペースが同一であれば、より大量の塗装被膜鋼材を製造することができる。
【0035】
図2は、本発明の第2の実施形態を示す模式図である。工場床面上に直線状のレール30が敷設されており、台車32a、32b、32cの車輪31がこのレール30上を転動することにより、台車32a、32b、32cが直線的に往復移動する。図1(b)に示す実施形態と同様に、鋼管1bは搬入部17に相互に平行に集積されており、この搬入部17から1本ずつ取り出され、鋼管1bの長手方向に垂直の方向に移動させて、図2に示す本実施形態の塗装部20に搬入される。塗装後の鋼管1bは塗装部20から鋼管1bの長手方向に垂直の方向に移動させて搬出される。
【0036】
この塗装部20においては、鋼管1bはその両端部に、図1に示す実施形態と同様に、支持部10の支持棒10a、10bが挿入されて、鋼管1bはその軸方向を水平にして空中に浮かんだ状態で支持されるようになっている。なお、鋼管1bは鋼管柱であり、その両端部は大径部と小径部となっている。レール30の上方には、レール30と平行に延びる懸垂レール35が配置されており、この懸垂レール35は空中に水平の状態で支持されている。
【0037】
台車32aの上には、2段の加熱装置21と研磨装置22が設置されており、台車32cの上には、3段の加熱装置24が設置されており、台車32bの上には、粉体塗料塗布装置23が設置されている。これらの加熱装置21、研磨装置22、加熱装置23m粉体塗料塗布装置23及び加熱装置24は、その内部を、鋼管1bが挿通するようになっており、加熱装置21,研磨装置22,粉末塗料塗布装置23及び加熱装置24は、鋼管1bを嵌合した状態で、台車32a、32b、32cの移動により、鋼管1bの長手方向に移動することができる。
【0038】
研磨装置22には、1対の研磨ブラシが鋼管1bを間に挟んでその通過域を開閉可能に設置されており、鋼管1bがその軸の周りに自転駆動されているときに、1対の研磨ブラシが鋼管1bに向けて接近する方向に移動する(閉方向に移動する)ことにより、研磨ブラシが鋼管1bの周面を研削して、清浄化する。加熱装置21及び加熱装置24は、例えば、その内部に高周波誘導加熱コイルが配置されており、その内部を通過する鋼管1bに対して、高周波誘導加熱する。更に、粉体塗料塗布装置23は、第1実施形態と同様にして、流動浸漬法又は静電塗装法により、その内部を通過する鋼管1bに対して、粉体塗料を塗布する。
【0039】
一方、懸垂レール35には、冷却装置25が、懸垂レール35の長手方向、即ち鋼管1bの長手方向に、移動可能に支持されている。この冷却装置25内には、冷却水噴出用のスペレーノズルが上下動可能に設置されており、冷却装置25が懸垂レール35に支持された状態で、スプレーノズルが下降してこの冷却装置25の直下の鋼管1bを冷却水噴射により冷却することができるようになっている。
【0040】
次に、上述の如く構成された本実施形態の動作について説明する。鋼管1bが集積された搬入部から、鋼管1bが1本ずつ取り出され、鋼管1bの軸方向に垂直の方向に送られて、塗装部20に搬入される。そして、鋼管1bの両端が支持装置10の支持棒10a、10bにより支持され、鋼管1bが空中に保持される。その後、支持棒10a、10b側に退避していた全ての台車32a、32b、32cが支持棒10a側に集まる。なお、遮蔽シート5はまだ取着していない。
【0041】
次に、鋼管1bがその軸の周りに回転を開始する。そして、上記加工開始位置から、先ず、台車32aが往路移動を開始し、図示の右側に向けて移動する。この台車32a上には加熱装置21と研磨装置22とが設置されており、台車32aの移動の間に、鋼管1bは加熱装置21により高周波誘導加熱され、所定の加工温度に加熱された後、研磨装置22により高温の鋼管1bの周面がブラシにより研削・研磨される。このようにして、鋼管1bは、先ず、加熱装置21により加熱されると共に、その直後に配置された研磨装置22により、第1実施例と同様にして鋼管1bの周面が研磨され、清浄化される。他の台車32b、32cも支持棒10b側に向けて移動し、支持棒10bの位置に退避する。これらの往路移動により、台車32b、32cは塗工開始位置に停止する。
【0042】
その後、研磨後の鋼管1bの所定位置(塗装領域と非塗装領域との間の境界から非塗装領域側に入った位置)に遮蔽シート5を巻き付け、この所定位置を遮蔽シート5で覆う。そして、台車32c、32bを支持棒10aに向けて移動を開始させる。台車32c上の加熱装置24は、この移動の間に鋼管1bを高周波誘導加熱し、台車32cに遅れて移動してくる台車32b上の粉体塗料塗布装置23が、鋼管1bに粉体塗料を噴射する。即ち、遮蔽シート5よりも支持棒10b側の鋼管1bの部分は、加熱装置24により所定の粉体塗装の温度まで加熱され、この高温の鋼管1bに対して粉体塗料塗布装置23から粉体塗料が吹き付けられる。そして、この粉体塗料の吹付は、遮蔽シート5の上で停止する。つまり、粉体塗料塗布装置23の例えば静電ガン等が遮蔽シート5の上に移動してきたときに、静電ガンからの粉体塗料の吹き付けを停止する。その後、台車32c、32bは加熱及び塗料の塗布をすることなく、支持棒10a側に移動していく。
【0043】
一方、冷却装置25は粉体塗料塗布装置23の移動に追従して、支持棒10a側に移動してくる。そして、粉体塗料塗布装置23の移動により、鋼管1bの大径側の部分であって被膜2が形成された部分の上方の空間が開く。そうすると、この部分に冷却装置25が移動してきて、冷却装置25の冷却水噴射ノズルが下降し、鋼管1bの近傍まで接近する。この冷却装置25の冷却水ノズルの下降は、粉体塗料塗布装置23が移動した後の鋼管1bに向けておこなわれるので、粉体塗料塗布装置23が干渉してしまうことがなく、鋼管1bの近傍まで冷却水ノズルを降下することができる。そして、鋼管1bの周面に飽和ポリエステル樹脂の粉体が付着し、鋼管1bの熱により上記粉体が溶融して、被膜2が形成された後の鋼管1bの周面に、冷却装置23から冷却水がスプレーされて、鋼管1bが強制冷却される。これにより、鋼管1bの周面に飽和ポリエステル樹脂被膜等の強固な耐食性被膜2が形成される。
【0044】
そして、この被膜2の形成のための塗料噴射は、遮蔽シート5の上まで行われるが、この遮蔽シート5上にはみ出した塗料は、遮蔽シート5を鋼管1bから取り外すことにより鋼管1bの周面から除去される。よって、被膜2の塗装領域と、非塗装領域とが明確に区分けされ、非塗装領域には塗料の飛散及びはみ出し等が存在しない美麗な塗装外観を得ることができる。また、本実施形態においても、遮蔽シート5は加熱装置24の通過を受けるが、遮蔽シート5の第1層はアルミニウム等の非磁性金属層であるので、この第1層が誘導加熱されることはない。また、鋼管1bからの熱は第1層で遮断されて第2層まで伝導しにくい。このため、遮蔽シート5が高温になって損耗してしまうことが防止される。
【0045】
本実施形態においても、被膜2の形成後の鋼管1bはその軸方向に垂直の方向に移動して、塗装部20から排出部まで移動する。このため、鋼管1bが移動する領域は狭く、また、粉体塗装に必要な種々の装置の配置領域も狭くて足りる。よって、設備の配置がコンパクトになり、高効率で鋼管1bを粉体塗装することができる。そして、本実施形態においては、研磨装置22と、加熱装置24と、粉体塗料塗布装置23と、冷却装置25とは、個別に移動することができる。このため、鋼管1bの研磨後に加熱するまでの期間と、加熱してから粉体塗料を吹き付けるまでの期間と、粉体塗装後冷却されるまでの期間とを、任意に調整することができる。よって、耐食性被膜の形成工程において、被膜の形成条件を最適化することができる。
【0046】
本発明は上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。例えば、鋼管1a、1bの研磨工程は、必ずしも設けなくてもよい。また、図1及び図2の実施形態においては、粉体塗料の吹付を、遮蔽シート5の上で終了することとしているが、これに限らず、遮蔽シート5の上で粉体塗料の吹付を開始し、鋼管1a、1bの大径側端部まで粉体塗料の吹付を継続することとしてもよい。この場合は、加熱部15と塗装部14との関係(図1)及び加熱装置24と粉体塗料塗布装置23との関係(図2)は、上記実施形態とは逆になる。本発明の要旨は、遮蔽シートの上で粉体塗料の吹付を停止するか、又は遮蔽シートの上で粉体塗料の吹付を開始して、塗装領域と非塗装領域との境界を明確にし、非塗装領域側に塗料の飛散又ははみ出しがないようにすると共に、遮蔽シートとして、誘導加熱されない非磁性金属層を被塗装鋼材側に配置することにより、粉体塗装時の誘導加熱において遮蔽シートが高温にならないようにすることにある。これにより、外観が美麗な鋼管柱を高効率で製造することができる。
【0047】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図4は本実施形態を示す模式図である。本実施形態においては、鋼管1cはコンベア41上を、鋼管1cの長手方向に搬送される。また、本実施形態においては、塗装装置40は、固定されており、鋼管1cがその長手方向に移動する間に、塗装装置40により鋼管1cの外面に粉体塗料が吹き付けられる。
【0048】
図4に示すように、この高耐久性防食鋼材の製造装置においては、鋼管1cを塗装装置40に搬入するコンベア41と、静電流動浸漬装置42と、高周波加熱装置43と、無機質粗粒体吹付け装置44と、鋼管1cを搬出するコンベア45とが、この順に配置されている。そして、鋼管搬入コンベア41及び鋼管搬出コンベア45により、鋼管1cがその長手方向に移動するように駆動される間に、鋼管1cが粉体塗料の流動槽42a内に浸漬され、高周波加熱コイル43aにより高周波加熱され、無機質粗粒体吹付けガン44aにより無機質の粗粒体が鋼管表面に吹き付けられた後、冷却室44b内で鋼管1cが冷却される。塗装後の鋼管1cは、鋼管搬出コンベア45により搬出され、集積場に運ばれる。
【0049】
静電流動浸漬装置42においては、鋼管1cの外周面に、例えば、PVB(ポリビニルブチラール)樹脂を主成分とする粉体塗料を付着させる。高周波加熱装置43においては、PVB樹脂の粉体塗料を付着した鋼管1cを高周波加熱コイルに通電することにより加熱し、例えば、PVB樹脂粉体塗料の溶融温度(約160℃)以上の200~300℃に加熱することにより、PVB樹脂粉体塗料を溶融して溶融状態の樹脂被膜を形成する。無機質粗粒体吹付け装置44においては、その無機質粗粒体吹付けガン44aが、予め加熱されている無機質粗粒体を、溶融状態の樹脂被膜を担持した鋼管1cの表面に吹き付ける。その後、冷却室44bにおいて、鋼管1cを冷却する。そうすると、溶融状態にあった樹脂被膜が固化して、吹き付けた無機質粗粒体が樹脂被膜で固定される。なお、無機質粗粒体は、樹脂被膜から一部が突出し、無数の凹凸を有する鋼管1cとなる。これにより、高耐食性防食被膜が形成された鋼管2が製造される。
【0050】
本実施形態においても、鋼管1cの表面の塗装領域と非塗装領域との境界に、遮蔽シート5を取り付ける。そして、鋼管1cにおける先方の部分の塗装が行われ、遮蔽シート5が流動槽42aに到達したときに、静電流動浸漬装置42、高周波加熱装置43及び無機質粗粒体吹付け装置44の動作を停止する。鋼管1cの先方への搬送は継続される。これにより、鋼管1cが塗装装置40を抜けた後は、鋼管1cの先方部分が塗装され、鋼管1cに取り付けられた遮蔽シート5の前部に塗料が付着しているが、後部には塗料の付着がなく、更に、遮蔽シート5よりも後方部分の鋼管1cには、塗装がなされていない状態となる。そこで、この遮蔽シート5を取り外すと、遮蔽シート5の前端縁で、塗装領域と非塗装領域とが明確に区分けされた鋼管柱を得ることができる。
【0051】
なお、本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変更が可能である。例えば、鋼管1cの先方部分は塗装せず、遮蔽シート5が塗装装置40に到達したときに、塗装を開始する。以後、鋼管1cの移動の間、塗装を継続する。これにより、遮蔽シート5の前側部は塗料が付着せず、後側部に塗料が付着するが、鋼管1cが塗装装置40を抜けた後に、遮蔽シート5を鋼管1cから取り外すことにより、非塗装領域と塗装領域との間の境界が明確に区画された鋼管柱を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、粉体塗料の吹き付け塗装による被膜の形成装置において、塗装領域と非塗装領域との境界が明確で、吹付塗料の飛散及びはみ出しがなく美麗な外観を有する塗装被膜鋼材の迅速な大量生産に著しく寄与する。
【符号の説明】
【0053】
1:鋼材
1a、1b、1c:鋼管
5:遮蔽シート
10:支持装置
10a、10b:支持棒
11:塗装装置
12:研磨部
13:冷却部
14:塗装部
15:加熱部
20:塗装部
21、24:加熱装置
22:研磨装置
23:粉体塗料塗布装置
25:冷却装置
32a、32b、32c:台車
40:塗装装置
42:静電流動浸漬装置
42a:流動槽
43:高周波加熱装置
43a:高周波加熱コイル
44:無機質粗粒体吹付け装置
44a:無機質粗粒体吹付けガン
44b:冷却室
図1
図2
図3
図4