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特開2022-120767再生ポリエステル樹脂及び再生ポリエステル樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120767
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】再生ポリエステル樹脂及び再生ポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/66 20060101AFI20220810BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20220810BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
C08G63/66
C08G63/78
D01F6/62 306D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118043
(22)【出願日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2021017512
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021112887
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅人
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 亘
(72)【発明者】
【氏名】種田 祐路
(72)【発明者】
【氏名】天満 悠太
(72)【発明者】
【氏名】冨森 康裕
【テーマコード(参考)】
4J029
4L035
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AA05
4J029AB02
4J029AB04
4J029AD02
4J029AD10
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029BA03
4J029BA05
4J029BF09
4J029CA02
4J029CA06
4J029CB06A
4J029EG07
4J029EG09
4J029HA01
4J029HB01
4J029JA061
4J029JA091
4J029JA181
4J029JB171
4J029JE162
4J029JF321
4J029JF361
4J029JF471
4J029JF571
4J029KA02
4J029KB02
4J029KB22
4J029KB23
4J029KD01
4J029KD02
4J029KD05
4J029KD07
4J029KE05
4J029KG01
4J029KG02
4J029LB10
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB89
4L035BB91
4L035DD19
4L035FF05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リサイクルポリエステル原料を原料とする共重合ポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】リサイクルポリエステル原料に由来する成分を含むポリエステル樹脂であって、下記の(1)~(5)を全て満足する。(1)全酸成分の70モル%以上がテレフタル酸であり、30モル%以下が脂肪族ジカルボン酸成分または脂肪族ラクトンであり、(2)ポリエステルを構成するグリコール成分がエチレングリコール、1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコールを含み、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールのモル比が80/20~30/70であり、(3)全グリコール成分のうち、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールの合計量が80~99モル%であり、ジエチレングリコールが0.5~4モル%であり、(4)カルボキシル末端基濃度が35当量/t以下であり、(5)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂であって、下記の(1)~(5)を全て満足することを特徴とする再生ポリエステル樹脂。
(1)全酸成分の合計量を100モル%とするとき、70モル%以上がテレフタル酸であり、30モル%以下が脂肪族ジカルボン酸成分または脂肪族ラクトンであり、
(2)ポリエステルを構成するグリコール成分がエチレングリコール、1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコールを含み、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールのモル比が80/20~30/70であり、
(3)全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールの合計量が80~99モル%であり、ジエチレングリコールが0.5~4モル%であり、
(4)カルボキシル末端基濃度が35当量/t以下であり、
(5)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
【請求項2】
融点が150~200℃である、請求項1記載の再生ポリエステル樹脂。
【請求項3】
請求項1又は2記載の再生ポリエステル樹脂を含有する成形品。
【請求項4】
請求項1又は2記載の再生ポリエステル樹脂を含有する繊維。
【請求項5】
a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(1)~(3)の工程を含むことを特徴とする再生ポリエステル樹脂の製造方法。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールを含む混合物に、前記原料を投入し、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.05~1.30となるように添加し、245~280℃の熱処理条件で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る工程、
(2)前記反応生成物を濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収する工程、
(3)前記濾液に、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトン、1,4-ブタンジオールを添加し、220~255℃の熱処理条件で解重合を行った後、重合触媒を添加し、温度220~255℃及び1.0hPa以下の減圧下で前記解重合体の重縮合反応を行う工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な再生ポリエステル樹脂及び再生ポリエステル樹脂の製造方法に関する。特に、本発明は、使用済ポリエステル製品に由来するリサイクルポリエステル原料のほか、ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルに由来するリサイクルポリエステル原料を用いて製造され、異物の混入量が少なく、バージンポリエステル樹脂と同様に各種の成形品に加工することができる再生ポリエステル樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略することがある)は、高融点で耐薬品性があり、また比較的低コストであるため、繊維、フィルム、ペットボトル等の成形品等に幅広く用いられている。これらのポリエステル製品は、製造段階又は加工段階で屑の発生が避けられず、また使用後に廃棄処分される場合が多い。ところが、焼却する場合には高熱が発生するため、焼却炉の傷みが大きく、寿命が短くなる。一方、焼却しない場合には、腐敗分解しないために半永久的に残ることになる。
【0003】
近年、一度使用されたポリエステル製品のうち、ゴミとして捨てられたプラスチック容器等が河川を経由して海洋へ流出し、波又は潮流の作用で細かく破砕されてマイクロプラスチックとして海洋生物の体内に蓄積、食物連鎖で濃縮され海洋生物の生態系に悪影響が出ていること、プラスチックが海洋汚染の一大原因となっていることが問題視されていることから、その使用量の削減、生分解性プラスチックへの切り替え等の動きが全世界的に起きている。
【0004】
このような環境上の問題の観点から、資源を再利用するリサイクルが様々な方法で行われている。PETに代表されるポリエステル製品に関しても、その製造工程で発生したポリエステル屑をリサイクルする方法に加え、一度市場に出回って廃棄された製品を回収し、それを原料として再使用する方法が検討されている。特に、近年においては、繊維製品について、一定のリサイクル率を達成することで認定されるエコマークを付与した製品が普及している。
【0005】
リサイクルポリエステル原料として、製造工程で発生したポリエステル屑あるいは使用済みのポリエステル製品を回収したものを用いてリサイクルする方法としては、各種の方法が提案されている。例えば、PET屑にメタノールを添加してジメチレンテレフタレート(以下「DMT」と表記することがある。)とエチレングリコール(以下「EG」と表記することがある。)に分解する方法(特許文献1)、PET屑にEGを添加して解重合した後、メタノールを添加してDMTを回収する方法(特許文献2)、PET屑をEGで解重合してオリゴマーとし、これを重縮合反応に用いる方法(特許文献3)等が提案されている。
【0006】
ところで、一旦製品となったPETボトル等を再生する際に問題になる不純物としては、ポリエステル樹脂中に添加されている各種の添加剤のほか、ボトル本体に付属するものとして、a)キャップ(アルミニウム、ポリプロピレン、ポリエチレン)、b)中栓、c)ライナー(ポリプロピレン、ポリエチレン)、d)ラベル(紙、ポリスチレン等の樹脂、インク)、e)接着剤、f)印字用インク等がある。
【0007】
一般に、再生工程の前処理としては、回収されたPETボトルを振動ふるいにかけて砂、金属等を除去する。その後、PETボトルを洗浄し、着色ボトルを分離した上で、荒い粉砕を行う。そして、風力分離によりラベル等を取り除く。さらに、キャップ等に由来するアルミニウム片を除いて、PETボトル片を細かく粉砕する。高温アルカリ洗浄により接着剤、蛋白質、かび等の成分を除き、比重差によりポリプロピレン、ポリエチレン等の異種成分を分離する工程が行われる。
【0008】
しかしながら、これらの工程を経たとしても、特にポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の非ポリエステル樹脂をPET樹脂から完全に分離・除去することは困難である。
【0009】
例えば、特許文献1~4に記載のリサイクル方法で再生ポリエステル樹脂の製造を試みたとしても、非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えず、異物の混入量が十分に低減できたものとはいえず、バージンポリエステル樹脂同様の品質を有する製品を得ることは困難である。このように異物の混入量が十分に低減されていないと、紡糸工程又は製膜工程における濾過フィルターの昇圧速度が速く、長期の連続運転ができず、加工操業性が非常に悪くなる。しかも、特許文献1~3のような方法では、回収装置の設置、運転、維持等に多額のコストもかかり、実用性という点でも改善の余地がある。
【0010】
また、特許文献5には、エチレン-2,6-ナフタレート単位90~40モル%とエチレンイソフタレート単位10~60モル%とを含有する共重合ポリエルテル樹脂からなるダイレクトブロー中空成形品が記載されており、ガスバリヤー性や透明性に優れていることが示されている。しかしながら、このような共重合ポリエステル樹脂は、融点が高いため、低温での成形ができないものであり、また得られる成形品は柔軟性に乏しいものであった。さらには、このようなブロー成形品を形成するポリエステル樹脂として、リサイクル原料が使用されておらず、環境問題の観点からリサイクルポリエステル樹脂の使用が検討されている。
【0011】
さらに、ポリエステル樹脂を使用する用途として繊維があるが、まくらや寝装品用の詰め物、キルティングの詰め物、マットレスの詰め物等を構成する繊維を接着する目的で、ホットメルト型バインダー繊維が広く使用されている。このようなバインダー繊維には、共重合ポリエステル樹脂が広く使用されている。そして、主体となる繊維だけではなく、接着成分となるバインダー繊維においてもリサイクルポリエステル樹脂の使用が検討されている。
【0012】
このように、各種の成形品や繊維製品において、リサイクルポリエステル原料を使用し、かつ用途に応じた性能を有する共重合ポリエステル樹脂の要望は大きいが、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の除去が十分に行えており、バージンポリエステル樹脂と同様の高品位の各種の製品を得ることが可能となる共重合ポリエステル樹脂は未だに得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公昭42-8855号公報
【特許文献2】特開昭48-62732号公報
【特許文献3】特開昭60-248646号公報
【特許文献4】特開2005-171138号公報
【特許文献5】特開平5-008283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題点を解決し、使用済みポリエステル製品に由来するリサイクルポリエステル原料、あるいはポリエステル樹脂及び製品を製造する工程で発生する屑等に由来するリサイクルポリエステル原料を原料とする共重合ポリエステル樹脂であって、各種の形態のポリエステル製品の製造に利用できる低融点の再生ポリエステル樹脂を提供しようとするものである。また、このような本発明の再生ポリエステル樹脂を得ることができる製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、リサイクルポリエステル原料を用いて特定の製造方法を採用して得られるポリエステル樹脂が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、下記の再生ポリエステル樹脂及びその製造方法に係る。
1. a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂であって、下記の(1)~(5)を全て満足することを特徴とする再生ポリエステル樹脂
(1)全酸成分の合計量を100モル%とするとき、70モル%以上がテレフタル酸であり、30モル%以下が脂肪族ジカルボン酸成分または脂肪族ラクトンであり、
(2)ポリエステルを構成するグリコール成分がエチレングリコール、1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコールを含み、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールのモル比が80/20~30/70であり、
(3)全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、エチレングリコールと1,4-ブタンジオールの合計量が80~99モル%であり、ジエチレングリコールが0.5~4モル%であり、
(4)カルボキシル末端基濃度が35当量/t以下であり、
(5)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下である(ただし、平均昇圧速度は、下記の手順によって算出される値である:エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出する:
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
2. 融点が150~200℃である、前記項1記載の再生ポリエステル樹脂。
3. 前記項1又は2に記載の再生ポリエステル樹脂を含有する成形品。
4. 前記項1又は2に記載の再生ポリエステル樹脂を含有する繊維。
5. a)使用済ポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むポリエステル樹脂を製造する方法であって、下記(1)~(3)の工程を含むことを特徴とする再生ポリエステル樹脂の製造方法。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールを含む混合物に、前記原料を投入し、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.05~1.30となるように添加し、245~280℃の熱処理条件で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る工程、
(2)前記反応生成物を濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収する工程、
(3)前記濾液に、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトン、1,4-ブタンジオールを添加し、220~255℃の熱処理条件で解重合を行った後、重合触媒を添加し、温度220~255℃及び1.0hPa以下の減圧下で前記解重合体の重縮合反応を行う工程
【発明の効果】
【0017】
本発明の再生ポリエステル樹脂は、a)使用済みポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料を高比率で利用しつつ、異物の混入量が少なく、かつ、カルボキシル末端基濃度等が特定の範囲に制御されることにより、熱安定性に優れるものである。
【0018】
このため、例えば溶融紡糸により繊維を得る工程において、比較的長期にわたる連続運転が可能となり、生産性良く、バージンポリエステル樹脂を使用した場合と同等の特性値を有する繊維を製造することができる。
【0019】
そして、再生ポリエステル樹脂でありながら共重合成分を含む共重合ポリエステル樹脂であって、かつ低融点の樹脂であることから、透明性が求められるボトル等の成形品を低温で成形することが可能であり、また、接着性が求められる繊維用途にも好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の再生ポリエステル樹脂(本発明樹脂)は、a)使用済みポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含む。これらの成分が、本発明樹脂を構成するポリエステルの一部となっている。
【0021】
上記a)の使用済みポリエステル製品としては、例えば一度市場に出回り、使用後に回収されたポリエステル成形品(繊維を含む。)等が挙げられる。その代表例としては、PETボトル等のような容器又は包装材料が挙げられる。
【0022】
上記b)のポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルは、製品化に至らなかったポリエステルであり、例えば規格を外れた樹脂ペレット、成形時に不要になった材料、成形時に切断された断片、成形時、加工時等に発生した屑、銘柄変更時に発生する移行品の裁断物、試作品・不良品の裁断物等が挙げられる。
【0023】
上記a)及びb)は、その形態等は限定されず、必要に応じてさらに粉砕、切断等の加工を行うことによりペレット化されていても良いし、あるいは溶融してペレット化されていても良い。上記a)及びb)は、それぞれ単独で使用しても良いし、両者の混合物を用いても良い。
【0024】
また、上記a)及びb)のリサイクルポリエステル原料としては、結晶質又は非晶質のいずれのものであっても良い。従って、例えば熱処理を行っていない非晶質のポリエステル屑のペレット、熱処理を施した結晶質ペレット、結晶質ペレットと非晶質ペレットとの混合品等を使用することができる。本発明では、特に缶内への投入や解重合反応時にペレット同士の融着を防止する目的で結晶性のリサイクルポリエステル原料を用いることが好ましい。従って、上記a)又はb)の材料を熱処理により結晶化したもの(結晶化ペレット等)を好適に用いることができる。
【0025】
また、上記a)及びb)のリサイクルポリエステル原料の性状としては、限定的ではなく、上記a)及びb)の形態のままでも良いし、さらに裁断、粉砕等の加工を施して得られる裁断片、粉砕物(粉末)等のほか、これらを成形してなる成形体(ペレット等)等の固体の形態が挙げられる。より具体的には、ポリエステル屑の溶融物を冷却及び切断して得られるペレット、PETボトルのようなポリエステル成形品を細かく裁断した裁断片等が例示される。その他にも、上記のような裁断片、粉砕物(粉末)等を溶媒に分散又は溶解させて得られる液体の形態であっても良い。これらの原料を用いてポリエステル製品を製造する際には、必要に応じてこれらをその融点以上の温度で溶融させて融液として缶内へ投入することもできる。
【0026】
本発明の再生ポリエステル樹脂(本発明樹脂)は、a)使用済みポリエステル製品及びb)ポリエステル製品を製造する工程で発生する未採用ポリエステルの少なくとも1種のリサイクルポリエステル原料から由来する成分を含むが、前記成分の含有量は本発明樹脂中40質量%以上であることが好ましく、特に50質量%以上であることがより好ましい。前記含有量が40質量%未満であると、未採用ポリエステルのリサイクル率が低下する。上記含有量の上限については、特に限定するものではないが、後述する本発明の製造方法によれば、リサイクルポリエステル原料の含有量が40~80質量%の再生ポリエステル樹脂まで容易に得ることが可能である。
【0027】
本発明樹脂は、ポリエステルを構成する全酸成分の合計量を100モル%とするとき、70モル%以上がテレフタル酸であり、30モル%以下が脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンである。酸成分としては、テレフタル酸を主成分とし、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンを共重合成分とするものである。ただし、本発明樹脂は、酸成分として脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンを共重合成分として含有しないものも含む。
【0028】
脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンは、本発明樹脂の融点を低下させる効果を有する。脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンの共重合量は30モル%以下であり、中でも20モル%以下であることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンの共重合量が30モル%より多くなると、融点が低くなりすぎ(150℃未満)、耐熱性などが低下するため好ましくない。一方、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトンは、5モル%以上含まれて(共重合されて)いることが好ましく、5モル%未満であると、融点を低下させる効果に乏しくなる。
【0029】
脂肪族ジカルボン酸成分の具体例としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ヘキサデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。脂肪族ラクトンとしては、炭素数4~11のラクトン及びこれらの単独重合体又は2種以上の共重合体があり、特に好適な脂肪族ラクトンとして、ε-カプロラクトンやδ―バレルラクトンが挙げられる。
【0030】
本発明樹脂における、テレフタル酸と脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ラクトン以外の酸成分としては、フタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0031】
一方、本発明樹脂中のグリコール成分は、エチレングリコール(以下、EGと略記することがある。)、1,4-ブタンジオール(以下、BDと略記することがある。)及びジエチレングリコール(以下、DEGと略記することがある。)を含み、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、EGとBDの合計量が全グリコール成分の80~99モル%であり、中でも90モル%以上であることが好ましい。両成分の含有量が80モル%未満であると、得られるポリエステル樹脂の結晶性や耐熱性が劣るものとなる。
【0032】
そして、両者のモル比(EG/BD)は、80/20~30/70であり、中でも70/30~40/60であることが好ましい。この範囲を外れると、得られるポリエステル樹脂の融点が高く(200℃を超える)なる。また、ポリエステル樹脂の結晶性が悪くなったり、重縮合反応中にテトラヒドロフランが生成したり、ポリエステルの熱安定性の悪化を招く。このため、ブロー成形を低温で行うことができず、また、高温でブロー成形を行ったとしても、樹脂のドローダウンが生じ、成形が困難になったり、成形できたりしても厚みムラのある成形品となる。バインダー繊維とした場合も、融点が高いため、低温での熱処理では十分な熱接着性を得ることができず、一方、高温の熱処理を行うと熱分解が起こり、強度が低下する。
【0033】
また、本発明樹脂は、全グリコール成分の合計量を100モル%とするとき、ジエチレングリコールの含有量が0.5~4モル%であり、その中でも0.5~3モル%であることが好ましい。特に、本発明の製造方法により得られる本発明樹脂においては、エチレングリコールを原料の一つとして用いるが、その際の副生成物としてジエチレングリコールが生じ得る。本発明樹脂は、その副生するジエチレングリコールの量が少ないものであり、ジエチレングリコールの含有量が0.5~4モル%であることにより、熱安定性に優れた性能を有している。このため、繊維、射出成形体や各種のブロー成形体、シート、フィルム等の成形品を生産性良く得ることが可能となる。
【0034】
また、本発明樹脂における、全グリコール成分中のエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール以外のジオール成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールSのエチレンオキサイド付加体、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加体等を用いることができる。
【0035】
重縮合触媒としては、限定的ではないが、例えばゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物、コバルト化合物等の少なくとも1種を用いることができる。その中でも、特にチタン化合物及びゲルマニウム化合物の少なくとも1種を使用する。得られる再生ポリエステル樹脂の透明性を重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。上記の各化合物としては、ゲルマニウム、アンチモン、チタン、コバルト等の酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物等が例示される。
【0036】
重縮合触媒の使用量は、特に限定されないが、例えば生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対して2×10-5モル/unit以上とすることが好ましく、その中でも5×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。上記使用量の上限は、例えば5×10-4モル/unit程度とすることができるが、これに限定されない。
【0037】
なお、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒も、重縮合反応時に触媒として作用する場合もあるため、重縮合工程で重合触媒を添加する際には、リサイクルポリエステル原料中に含まれる重合触媒の種類及びその含有量を考慮することが好ましい。
【0038】
また、重縮合反応時には、必要に応じて、上記の重縮合触媒と併せて、溶融粘度を調整することができる脂肪酸エステル、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、樹脂の熱分解を抑制することができるリン化合物、白度を向上させるための酸化チタンを添加することもできる。
【0039】
脂肪酸エステルとしては、例えば蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレート等が挙げられる。中でも、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ジペンタエリスリトールヘキサステアレートが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0040】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、例えば2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0041】
リン化合物としては、例えば亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができる。これらは1種又は2種以上で用いることができる。
【0042】
酸化チタンは、ポリエステルの艶消し剤や白色顔料として一般的に使用されているが、本発明樹脂に適量の酸化チタンが添加されていることにより、繊維とした際の白度が向上し、良好な色調の織編物を得ることが出来る点で好ましい。酸化チタンの添加量としては、共重合ポリエステル100質量部に対して、0.05~5質量部であることが好ましい。
【0043】
本発明樹脂は、上記のような組成を有するとともに下記に示す特性値を有するものである。
(イ)カルボキシル末端基濃度が35当量/t以下
(ロ)平均昇圧速度が0.6MPa/h以下
これらの特性値を有する本発明樹脂は、後述する本発明の製造方法により得ることができる。
【0044】
本発明樹脂は(イ)の特性値として、カルボキシル末端基濃度が35当量/t以下であり、32当量/t以下であることが好ましく、中でも30当量/t以下であることが最も好ましい。カルボキシル末端基濃度が35当量/t以下とすることにより、耐熱性に優れた性能を有しており、各種の成形方法により耐熱性に優れた成形品を得ることが可能となる。なお、カルボキシル末端基濃度の下限値は、例えば5当量/t程度とすることができるが、これに限定されない。
【0045】
本発明樹脂は(ロ)の特性値として、次の方法により測定される平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり、0.5MPa/h以下であることが好ましく、中でも0.4MPa/h以下であることが好ましい。本発明における平均昇圧速度は、各種無機物に由来する異物や非ポリエステル樹脂に由来する異物の混入量の多さの指標となるものであり、平均昇圧速度が小さいほど異物の混入量が少ないことを示すものである。平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であることにより、異物の混入量の少ないポリエステル樹脂が得られ、ブロー成形や繊維の製造において、成形品や繊維を生産性よく得ることが可能となる。なお、平均昇圧速度の下限値は、例えば0.01MPa/h程度とすることができるが、これに限定されない。
【0046】
平均昇圧速度の測定方法は、エクストルーダー及び圧力センサを含む昇圧試験機を用い、エクストルーダーの先端にステンレス鋼製フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm)をセットし、ポリエステル樹脂をエクストルーダーにて300℃で溶融し、前記フィルターからの吐出量29.0g/分で当該溶融物を押し出した時の前記フィルターにかかる圧力値として、押し出し開始時の圧力値を「初期圧力値(MPa)」とし、その後連続して12時間押し出しをした時点の圧力値を「最終圧力値(MPa)」とした場合、それらの圧力値に基づいて下記計算式Aにより上記平均昇圧速度を算出するものである。
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12)・・・A)
【0047】
本発明樹脂は、後述する製造方法を採用することにより、各種無機物に由来する異物や非ポリエステル樹脂に由来する異物の混入量を低減することができるため、(ロ)の特性値である、昇圧試験機により測定した平均昇圧速度を0.6MPa/h以下にすることが可能である。
【0048】
さらに、本発明樹脂は(ハ)の特性として、融点が150~200℃であり、中でも150~190℃であることが好ましく、さらには150~175℃であることが好ましい。融点を上記範囲とすることで、バインダー繊維とした場合、通常のポリエステル樹脂よりも融点が低いため、接着をさせる際の熱処理の温度を低くすることができ、また、熱接着性も良好となる。ボトル等の成形品を得る場合においても、低温での成形が可能となる。
【0049】
次に、本発明樹脂の製造方法について説明する。本発明の製造方法においては、(1)~(3)の工程を含むものであるが、(1)~(3)に示す工程を順に行うことが重要である。
(1)エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールを含む混合物に、前記リサイクルポリエステル原料を投入し、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.05~1.30となるように添加し、245~280℃の熱処理条件で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る工程、
(2)前記反応生成物を濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収する工程、
(3)前記濾液に、脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトン、1,4-ブタンジオールを添加し、220~255℃の熱処理条件で解重合を行った後、重合触媒を添加し、温度220~255℃及び1.0hPa以下の減圧下で前記解重合体の重縮合反応を行う工程
【0050】
まず、(1)の解重合工程では、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールを含む混合物に、前記リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.05~1.30なるように添加し、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行うことにより解重合体を含む反応生成物を得る。
【0051】
エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールは、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。また、公知の製造方法によって製造することもできる。
【0052】
特に、エチレンテレフタレートオリゴマーとしては、例えばエチレングリコールとテレフタル酸とのエステル化反応物を好適に用いることができる。また、エチレンテレフタレートオリゴマーの数平均重合度は、限定的ではないが、例えば2~20程度とすることができる。
【0053】
エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールの混合物(以下、混合物Eと表記することがある)の量は、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂100質量%中20.0~80.0質量%程度とすることが好ましく、30.0~70.0質量%とすることがより好ましい。
【0054】
混合物Eの量が上記より少ない場合、リサイクルポリエステル原料を投入した際に、リサイクルポリエステル原料どうしがブロッキングを起こしやすくなり、攪拌機に過大な負荷がかかるため好ましくない。
一方、混合物Eの量が上記範囲より多い場合は解重合反応に特に問題は起きないが、最終的に得られる再生ポリエステル樹脂のリサイクル率が低くなり好ましくない。
【0055】
(1)の工程において、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール、リサイクルポリエステル原料を添加する割合としては、おおむね、下記の割合(合計で100質量部)で添加することが好ましい。エチレンテレフタレートオリゴマーは5~55質量部、エチレングリコールは1~15質量部、リサイクルポリエステル原料は40~80質量部とすることが好ましい
【0056】
中でもエチレングリコールの添加量は、解重合反応を十分に進行させるため、エチレンテレフタレートオリゴマーを100質量%に対して、2~18質量%とすることが好ましく、中でも3~17質量%とすることがより好ましい。エチレングリコールの添加量が18質量%を超えると、反応器内でエチレンテレフタレートオリゴマーが固化しやすくなり、以後の反応が継続できなくなる場合がある。
【0057】
エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールの混合に際しては、特に限定されないが、例えばエチレンテレフタレートオリゴマー中にエチレングリコールを添加することが好ましい。また、添加する際は、オリゴマーの固化を防ぐ目的で、攪拌機を回しながら内容物の温度を均一にし、添加することが好ましい。
【0058】
(1)の工程においてエチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールの混合物にリサイクルポリエステル原料を投入する際には、撹拌しながら全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.05~1.30となるようにして、245~280℃の熱処理条件下で解重合を行う。
【0059】
ポリエステル原料は、全グリコール成分/全酸成分のモル比が1.05~1.30となるように添加する。前記モル比は、特に1.10~1.28であることが好ましく、その中でも1.12~1.25であることが好ましい。全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外であると、得られる再生ポリエステル樹脂は、ジエチレングリコールの含有量が4モル%を超えたり、本発明で規定するカルボキシル末端基濃度を満足しないものとなり、また平均昇圧速度も高くなる。これは、解重合反応を行う際の全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲外である場合、各種の無機物及び非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われないため、ろ過工程でこれらの異物を効果的に濾過することができず、重縮合工程後に異物が析出しやすくなる結果、平均昇圧速度が高く、熱安定性に劣る(カルボキシル末端基濃度が高く、ジエチレングリコールの含有量が多い)再生ポリエステル樹脂となる。
【0060】
本発明の製造方法においては、この工程が重要である。つまり、リサイクルポリエステル原料を利用した従来の方法においては、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行っているのに対し、本発明においてはエチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコールを含む混合物の存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合反応を行い、かつ、オリゴマー、エチレングリコール及びリサイクルポリエステル原料の全ての成分を全グリコール成分/全酸成分のモル比が上記範囲内になるようにリサイクルポリエステル原料を投入し、解重合反応を行うものである。
【0061】
上記したような(1)の工程を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われるため、(2)のろ過工程において、これらの異物をもれなく濾過することができる。そして、(3)の工程の重縮合工程において、カルボキシル末端基濃度、ジエチレングリコールの含有量が特定量以下のものであり、かつ、異物の混入量が少ない再生ポリエステル樹脂を得ることが可能となる。
【0062】
さらには、エチレンテレフタレートオリゴマーとエチレングリコールの存在下でリサイクルポリエステル原料の解重合を行うことにより、リサイクルポリエステル原料のみを用いて解重合を行う場合に比べて、低温で解重合反応を進行させることが可能となる。これは、工業ベースで実施をする場合には大きなメリットとなる。
【0063】
なお、本発明の製造方法においては、上記の解重合反応により、リサイクルポリエステル原料はモノマーにまで分解されずに、繰り返し単位が5~20程度のオリゴマーまで分解されることが望ましい。このように解重合反応を制御することにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率良く行われる結果、より多くの異物を取り除くことが可能となる。
【0064】
本発明の製造方法で用いる反応器は、容量や攪拌翼の形状は、一般的に使用されているエステル化反応器で特に問題ないが、解重合反応を効率的に進めるため、脂肪族ジオールを系外に溜出させない蒸留塔を併設している構造となっていることが好ましい。
【0065】
リサイクルポリエステル原料を投入する際には、常圧下で撹拌しながら行うことが好ましく、少量の不活性ガス(一般的には窒素ガスを使用)でパージした状態で投入することがより好ましい。
【0066】
(1)の工程で行う解重合時の反応温度は、反応器の内温を245~280℃の範囲に設定して行うことが好ましく、その中でも255~275℃の範囲に設定して行うことがより好ましい。解重合時の反応温度が245℃未満になる場合には、反応物が固化し、操業性が悪化するとともに、再生ポリエステル樹脂が得られたとしても、カルボキシル末端基濃度が高くなりすぎる傾向となる。前記反応温度が280℃を超える場合は、得られる再生ポリエステル樹脂のカルボキシル末端基濃度やジエチレングリコールの量が高くなりすぎる。
【0067】
また、解重合の反応時間(リサイクルポリエステル原料の投入終了後からの反応時間)は、4時間以内が好ましく、ポリエステルの色調悪化を抑える観点から、2時間以内とすることがより好ましい。
【0068】
(2)の工程においては、(1)の工程で解重合反応を行った解重合体を含む反応生成物を、濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させて濾液を回収する。上記したように、(1)の工程の条件で解重合反応を行うことにより、各種の無機物のみならず、非ポリエステル樹脂由来の異物の析出が効率よく行われるため、濾過粒度10~25μmのフィルターを通過させることにより、析出した異物を濾過し、異物の混入量の少ない濾液を得ることができる。
【0069】
濾過粒度が25μmより大きいフィルターを使用すると、ポリマー中の異物を十分に除去できず、得られる再生ポリエステル樹脂中の異物が多くなる。このため、このような樹脂を用いて紡糸を行うと、ノズルパックの昇圧や切糸が生じる。一方、濾過粒度が10μmよりも小さいフィルターを使用すると、異物による目詰まりが生じやすく、フィルターライフが短くなることにより、コスト的に不利となり、また、操業性も悪化する。
【0070】
また、本発明の(2)の工程で使用できるフィルターとしては、一般的なもので特に問題ないが、スクリーンチェンジャー式フィルター、リーフディスクフィルター、キャンドル型焼結フィルターなどが挙げられる。
【0071】
そして、本発明の製造方法においては、上記の工程(2)を経て得られた濾液に、必要量の脂肪族ジカルボン酸または脂肪族ラクトン、1,4-ブタンジオールを添加し、反応温度220~255℃にて解重合反応を行う。つまり、本発明の製造方法では、工程(1)で解重合反応を行った後、工程(3)においても解重合反応を行うものである。
【0072】
1,4-ブタンジオールを添加後の解重合の温度は、220℃未満では、反応が遅くなるばかりであり、また、オリゴマーが固化してしまうおそれがある。また、255℃を超えると、1,4-ブタンジオールが反応中に分解してテトラヒドロフランとなり、所定のブタンジオールの比率のポリエステル樹脂が得られない。
【0073】
さらに重合触媒を添加し、温度220~255℃、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。
重合触媒は前記したようなものを使用することが好ましいが、これらの添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対し、5×10-5モル/unit以上とすることが好ましく、その中でも6×10-5モル/unit以上とすることがより好ましい。
【0074】
さらに、重縮合反応時には、上記の重合触媒と併せて、脂肪酸エステル、ヒンダードフェノール系抗酸化剤、リン化合物、酸化チタンを添加することもできる。
【0075】
そして、重縮合反応槽において、温度220~255℃、1.0hPa以下の減圧下で重縮合反応を行う。重縮合反応温度が220℃未満であったり、あるいは重縮合反応時の圧力が1.0hPaを超えたりすると、重縮合反応時間が長くなるため、生産性に劣るものとなる。
【0076】
重縮合反応温度が255℃を超えると、1,4-ブタンジオールが反応中に分解してテトラヒドロフランになり、所定の1,4-ブタンジオールの比率のポリエステル樹脂が得られない、同じく熱分解によりカルボキシル末端基濃度が高くなるため、好ましくない。
【0077】
上記の重縮合反応により得られる本発明の再生ポリエステル樹脂の極限粘度は、特に限定されないが、通常は0.44~0.80であることが好ましい。
【0078】
本発明樹脂には、その効果を損なわない範囲であれば、上記したような重合触媒、抗酸化剤、リン化合物等の添加剤以外の各種の添加剤を含有してもよい。
各種の添加剤としては、ポリエステル樹脂の熱分解による着色を抑制するために酢酸マンガン等のマンガン化合物、アントラキノン系染料化合物、銅フタロシアニン系化合物等の添加剤が含有されていても良い。
【0079】
本発明樹脂を用いて各種の製品を得ることが可能であり、例えば繊維、成形品、フィルム等に好適に用いることができる。
【0080】
本発明樹脂を含有する成形品の場合は、例えば本発明樹脂を含む原料を用いてプレス成形、押出成形、圧空成形、ブロー成形等の各種の成形方法を適用することにより製造することができる。これにより、容器をはじめ、各種の部品を提供することができる。本発明樹脂は、バージンのポリエステル樹脂に近い特性を有し、熱安定性に優れているという理由から、特にブロー成形品の製造に適している。従って、本発明樹脂を含む原料の溶融物からパリソンを得る工程及び前記パリソン内部に気体を吹き込む工程を含む成形体の製造方法を好適に採用することができる。これによって、容器等の成形体を製造することができる。
【0081】
本発明樹脂は前記したように、ジエチレングリコールの含有量、カルボキシル末端基濃度が特定量以下であることにより、熱安定性に優れている。このため、上記のような成形品を得る際には、厚さ斑などが生じにくく、均整度の高い成形品を操業性よく得ることができる。さらに、本発明樹脂は前記したように、平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり、異物の混入量が少ないものである。樹脂中に存在する異物としては、無機物や非ポリエステル樹脂由来の異物が想定されるが、これらの異物が少ないことによって、表面外観が良好で耐衝撃性や強度に優れた成形品を得ることができる。
また、本発明樹脂は、融点が150~200℃と低いことから、各種成形品を得る際に低温で成形が可能となり、コスト的にも有利である。
【0082】
成形品の場合は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.1~1.0質量%含有することで極限粘度の低下や成形後の色調悪化を防ぐことができる。
【0083】
本発明樹脂は、前記したように異物の含有量が比較的少なく、バージンポリエステル樹脂と同等の特性を有しているため、溶融紡糸、延伸・熱処理、巻取工程のいずれにおいても糸切れのトラブルが生じにくく、生産性良くポリエステル繊維を得ることができる。
【0084】
本発明樹脂を含有する本発明の繊維としては、例えばモノフィラメント、マルチフィラメント等のいずれであっても良く、また長繊維、短繊維等のいずれであっても良い。本発明樹脂を含有する繊維を製造するには、通常の溶融紡糸、延伸を行うことにより製造することができる。
【0085】
本発明樹脂は、融点が150~200℃と低いことから、バインダー繊維や熱融着性繊維として使用することが可能であり、本発明樹脂のみを用いた全融バインダー繊維のほか、本発明樹脂を鞘部にのみ用いた芯鞘型のバインダー繊維や熱融着性繊維であってもよい。また、サイドバイサイドで2成分を貼り合わせた複合繊維の一方にのみ本発明樹脂を用いたものであってもよい。なお、このような複合繊維とする際の他方の成分については、必要とされる繊維の特性や用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0086】
繊維の製造においては、一般的にマルチフィラメントを製造する方が困難度が高いが、本発明の繊維では、例えば単糸繊度0.3~30デシテックス、単糸数2~300、総繊度5~350、強度1~5cN/デシテックス、伸度10~400%の特性値を有するマルチフィラメントとすることができる。
【0087】
本発明繊維が短繊維の場合は、例えば単糸繊度0.5~25.0デシテックス、強度0.1~6.0cN/デシテックス、伸度20~600%の特性値を有するもの得ることができる。本発明樹脂は前記したように、カルボキシル末端基濃度が特定量以下であることにより、熱安定性に優れている。このため、上記のような短繊維を得る際には、紡糸、延伸工程での単糸融着が抑制され、単糸繊度のバラツキが生じにくく、均整度の高い繊維を操業性よく得ることができる。また、湿式不織布用途に用いられる短繊維の場合は、紡糸、延伸工程での単糸融着が抑制されるため、水中での単糸分散性が良好な繊維が得られる。
【0088】
さらに、本発明樹脂は前記したように、平均昇圧速度が0.6MPa/h以下であり、異物の混入量が少ないものである。樹脂中に存在する異物としては、無機物や非ポリエステル樹脂由来の異物が想定されるが、これらの異物が少ないことによって、本発明繊維をバインダー繊維として使用する際に得られる不織布等の製品の品位や強度が向上する。
【0089】
本発明繊維をバインダー繊維として使用する際に得られる不織布は乾式であっても、湿式であっても良く、不織布の目付は特に限定するものではない。不織布化の手法としては、本発明繊維を構成する低融点ポリエステル樹脂(本発明樹脂)が熱接着成分となって繊維同士が熱接着によって一体化するものであるが、熱接着前に構成繊維同士を三次元的に交絡させても良い。
【0090】
本発明繊維をバインダー繊維として使用して得られる不織布には、本発明繊維以外の繊維を含んでいてもよい。例えば、本発明樹脂よりも融点の高いポリエステル樹脂からなる繊維を含んだ不織布が挙げられる。
【0091】
乾式不織布の製造法について一例を挙げる。本発明繊維以外の他の繊維と混合する場合は、他の繊維を準備して任意の割合で計量する。混合する際の本発明繊維の割合は不織布の要求特性に応じて適宜選択すれば良く、10~90質量%程度が好ましい。計量した構成繊維となる繊維をカード機に投入し、解繊して乾式ウエブを作製する。得られたウエブを熱風処理がなされる連続熱処理機にて、低融点ポリエステル樹脂が融解または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化した乾式不織布を得る。
【0092】
湿式不織布の製造法としては、本発明繊維以外の他の繊維と混合する場合は、他の繊維を準備して任意の割合で計量する。混合する際の本発明繊維の割合は不織布の要求特性に応じて適宜選択すれば良く、10~90質量%程度が好ましい。計量したパルプ離解機を用いて攪拌、解繊工程を行った後、抄紙機にて湿式ウエブを作製する。得られたウエブを熱風処理がなされる連続熱処理機にて、低融点ポリエステル樹脂が融解または軟化する温度で熱接着処理を施し、構成繊維同士が熱接着により一体化した湿式不織布を得る。
【実施例0093】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度
得られた再生ポリエステル樹脂を用い、フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定するものである。
(b)ポリエステル樹脂の組成
得られたポリエステル樹脂を、重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比が1:11の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製JNM-ECZ400R/S1型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合成分の種類と含有量を求めた。
(c)カルボキシル末端基濃度
得られた再生ポリエステル樹脂0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
【0094】
(d)平均昇圧速度
得られたポリエステル樹脂を、エクストルーダーにて300℃で溶融し、エクストルーダーの先端にフィルターとして、ステンレス鋼製綾畳織フィルター(呼び寸法メッシュ:1400メッシュ、織り方:綾畳織、縦メッシュ:165メッシュ、横メッシュ:1400メッシュ、縦線径:0.07mm、横線径:0.04mm、濾過粒度:12μm、粘性抵抗係数(m-1):2.60×107、慣性抵抗係数:5.14×10、(株)上條精機製)をセットし、さらにその背面(下流側)に補強材(ステンレス製平織金網(呼び寸法メッシュ:40メッシュ、織り方:平織、線径:0.21mm(株)上條精機製)を積層した後、ポリマー吐出量を29.0g/分として、フィルター圧力を昇圧試験機;アサヒゲージ社製「MES-Y44D型」検出器を用いて測定する。前記の昇圧試験機を用いた昇圧試験を12時間連続して行い、昇圧試験を始める際の初期圧力値(MPa)(ポリエステル樹脂がフィルターを通り始めてから5~10分の間の圧力の最小値を初期圧力とする。)と、12時間経過時点の最終圧力値(MPa)の値から、下記計算式により平均昇圧速度を算出した。
平均昇圧速度(MPa/h)=(最終圧力値-初期圧力値)/12
(e)融点(Tm)
パーキンエルマー社製示差走査熱量計DSC-7型を用い、窒素気流中、温度範囲25~280℃、昇降温速度20℃/分で測定した。
【0095】
(f)成形性
得られた容器(サンプル数100本)の胴部の厚さを測定し、最厚部と最薄部の厚さの差が0.30mmまでのものを合格とした。このとき合格したサンプルの本数により、以下のように2段階で評価した。
〇:合格サンプル数が95本以上
×:合格サンプル数が94本以下
(g)ヘーズ
得られた容器から切り出してサンプル片(20個)を作成し、濁度を日本電色工業社製の濁度計 MODEL 1001DPで測定し(空気:ヘーズ0%)、n数20の平均値とした。この値が小さいほど透明性が良好であり、6%以下であれば透明性に優れていると判定した。
【0096】
(h)短繊維製造の操業性(切糸)
24時間連続して溶融紡糸を行った間の切糸回数が3回/(日・錘)以下であり、かつ延伸工程時の単糸密着がない場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」とした。
(i)短繊維の糸質(強度、伸度)
得られた短繊維を用い、JIS L-1015に従い、島津製作所製オートグラフAG-50KNIを用い、つかみ間隔20cm、引張速度20cmで強度および伸度を測定した。
(j)不織布強力
得られた不織布をMD方向150mm、CD方向50mmにサンプルを切り出し、オートグラフ(島津製作所製AG-50KNI)を用い、引張速度100mm/min、チャック間距離100mmの条件でMD強力を測定した。なおサンプル数はn=5とした。
得られた不織布の引張強度により下記の2段階で評価した。
○:引張強度1500cN以上
×:引張強度1500cN未満
【0097】
(k)長繊維製造の操業性(切糸)
24時間連続して溶融紡糸を行った間の1錘あたりの切糸回数が3回以下であり、かつその間の延伸工程における単糸密着がない場合を「○」とし、それ以外の場合を「×」とした。
(l)長繊維の糸質(強度、伸度)
得られた長繊維を用い、JIS L-1013に従い、島津製作所製オートグラフDSS-500を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cmで強度および伸度を測定した。
【0098】
実施例1
〔再生ポリエステル樹脂〕
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃及び圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を得た。
エチレンテレフタレートオリゴマー49.0質量部をエステル化反応器に仕込み、続いてエステル化反応器の撹拌機を回した状態で、エチレングリコール(EG)を6.0質量部投入した。エステル化反応器(以後「ES缶」と表記する。)の内温降下が止まったところより、45.0質量部のリサイクルポリエステル原料(ポリエステル樹脂を製造する工程で発生するポリエステル屑のペレット状のもの)をロータリーバルブを介して約2時間かけて定量投入した。
このとき、リサイクルポリエステル原料を、全グリコール成分/全酸成分のモル比(以下「G/A」と表記することがある。)が1.21となるように投入した。その後、260℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。そして、得られた解重合体を、エステル化反応器と重縮合反応器との間に目開き20μmのキャンドルフィルターをセットして重縮合反応器(以後PC缶と表記)へ圧送した後、1,4-ブタンジオール(1,4-BD)を60.7質量部、脂肪族ラクトンとして、ε-カプロラクトンを8.2質量部をPC缶に投入し、240℃の熱処理条件下で1時間解重合反応を行った。続いて、重合触媒としてテトラブチルチタネートを4.0×10-4mol/unitを添加し、PC缶を減圧にして60分後に最終圧力0.5hPa及び温度240℃で3時間、重縮合反応を行い、ポリエステル樹脂(極限粘度:0.60)を得た。
【0099】
〔ブロー成形品〕
得られたポリエステル樹脂をチップ化し、乾燥させた後、ダイレクトブロー成形機(タハラ社製)を用い、押出温度230℃で樹脂を押出して円筒形パリソンを形成し、パリソンが軟化状態にあるうちに金型で挟み、底部形成を行い、これをブローしてボトルを成形した。このとき、パリソン径3cmで、長さが25cmとなったところで底部形成を行い、ブロー成形して厚み胴部の平均肉厚1mm、内径3.5cm、高さ15cmの内容量150ccの中空容器(ダイレクトブロー成形品)を得た。
【0100】
〔短繊維の製造〕
極限粘度0.70のポリエチレンテレフタレートを芯部に、得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するよう、孔数560、孔径0.35mmの紡糸口金を用い、吐出量312g/分、芯鞘質量比率50/50とし、紡糸温度270℃、紡糸速度790m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、80ktexのトウとし、延伸温度60℃、延伸倍率3.5倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、繊度2.2dtexの熱接着性芯鞘型複合繊維を得た。
【0101】
〔乾式不織布の作製〕
ユニチカ社レギュラーポリエステル繊維<121>1.7T51mmを70質量%、得られた熱接着性芯鞘型複合繊維を30質量%の条件になるよう混綿し、熱処理後における不織布の目付が50g/mになるように、カード機(大和機工製SC-500DI3HC)に繊維を投入し、ウェブを作製した。その後、連続熱処理機(辻井染機工業製NFD-500E2)を用いて、風量57m/min、190℃×1minの条件にて熱処理し、乾式不織布を作製した。
【0102】
実施例2~8、比較例1~12
〔再生ポリエステル樹脂〕
解重合反応時(1回目)に添加する、エチレンテレフタレートオリゴマー、エチレングリコール、リサイクルポリエステル原料の添加量、G/A及び熱処理温度を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、解重合反応(1回目)を行った。
また、濾液を回収する工程におけるフィルターの濾過粒度、解重合反応時(2回目)に添加するε-カプロラクトン、1,4-BDの添加量及び熱処理温度、重縮合反応工程における熱処理温度を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を製造した。
〔ブロー成形品〕
得られたポリエステル樹脂を用い、ダイレクトブロー成形機の押出温度を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にしてブロー成形を行い、ブロー成形品を得た。
〔短繊維の製造〕
得られたポリエステル樹脂を鞘部に用いた以外は、実施例1と同様にして熱接着性芯鞘型複合繊維を得た。
〔乾式不織布の作製〕
得られた熱接着性芯鞘型複合繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を作製した。
【0103】
〔長繊維の製造〕
実施例9
実施例1で得られた再生ポリエステル樹脂を鞘部に、極限粘度0.74のポリエチレンテレフタレートを芯部に配するよう、孔数12ホールのノズルより紡糸温度285℃で樹脂を押出し、紡糸速度3000m/minで部分配向糸を採取した。得られた部分配向糸を第一ローラー温度70℃、熱セット温度130℃、延伸倍率1.84倍で延伸することで、26dtex12フィラメントの熱接着性芯鞘型複合マルチフィラメント(長繊維)を得た。
【0104】
実施例10~12
実施例2~4で得られた再生ポリエステル樹脂を鞘部に用いた以外は、実施例9と同様にして長繊維を得た。
【0105】
実施例13
〔短繊維の製造〕
極限粘度0.70のポリエチレンテレフタレートを芯部に、実施例3で得られたポリエステル樹脂を鞘部に配するよう、孔数560、孔径0.35mmの紡糸口金を用い、吐出量312g/分、芯部と鞘部との質量比率を50/50とし、紡糸温度272℃、紡糸速度790m/分の条件で溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を収束し、50ktexのトウとし、延伸温度74℃、延伸倍率3.4倍の条件で延伸した。次いで、油剤を付与後、トウの水分率が約18質量%となるように絞り、ドラム式カッターで5mmの長さに切断し、繊度2.2dtexの熱接着性芯鞘型複合ショートカット繊維を得た。
〔湿式不織布の作製〕
次に、得られた熱接着性芯鞘型複合ショートカット繊維をバインダー繊維として用い、主体繊維として単繊維繊度が1.6dtex、長さが5mmのポリエチレンテレフタレートからなるショートカット繊維(ユニチカ社製<N801>1.6T5)を用い、バインダー繊維/主体繊維(質量比)=40/60として水中へ分散させ、円網抄紙機を用いて抄造ウエブを得た。その後、連続熱処理機(辻井染機工業製、NFD-500E2)を用いて、風量57m/min、200℃×1minの条件にて熱処理し、湿式不織布を作製した。
【0106】
実施例14
〔短繊維の製造法〕
実施例3で得られたポリエステル樹脂のみを用いて、孔数120、孔径0.6mmの紡糸口金を用い、吐出量210g/分、紡糸温度270℃、紡糸速度850m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、80ktexのトウとし、延伸温度60℃、延伸倍率4.0倍の条件で延伸した。次いで、押し込み式クリンパーで機械捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、繊度5.5dtexの熱接着性短繊維を得た。
〔乾式不織布の作製〕
得られた熱接着性短繊維をバインダー繊維として用いた以外は、実施例1と同様にして乾式不織布を作製した。
【0107】
実施例15
〔短繊維の製造法〕
実施例3で得られたポリエステル樹脂のみを用いて、孔数720、孔径0.25mmの紡糸口金を用い、吐出量350g/分、紡糸温度275℃、紡糸速度850m/分の条件で溶融紡糸を行った。
得られた未延伸糸を収束し、50ktexのトウとし、延伸温度50℃、延伸倍率3.8倍の条件で延伸した。次いで、油剤を付与後、トウの水分率が約18質量%となるように絞り、ドラム式カッターで5mmの長さに切断し、繊度1.7dtexの熱接着性ショートカット繊維を得た。
〔湿式不織布の作製〕
得られた熱接着性ショートカット繊維をバインダー繊維として用いた以外は、実施例13と同様にして湿式不織布を作製した。
【0108】
実施例1~8、比較例1~12で得られたポリエステル樹脂の特性値、ブロー成形品、短繊維の評価結果を表1に示す。また、実施例9~12で得られた長繊維の評価結果を表2に、実施例13~15で得られた短繊維および不織布の評価結果を表3に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
表1から明らかなように、実施例1~8で得られた再生ポリエステル樹脂は、本発明の製造方法により得られたものであるため、カルボキシル末端基量、ジエチレングリコールの含有量、平均昇圧速度が本発明で規定する範囲内のものであった。このため、バージンポリエステル樹脂と同様に操業性よくブロー成形品や短繊維を得ることができた。さらに、ブロー成形品はヘーズがなく品位の高いものであり、再生ポリエステル樹脂を鞘部に使用した熱接着性芯鞘型複合短繊維を用いて得られた不織布は強力が高いものであった。
【0113】
また、表2から明らかなように、実施例1~4で得られた再生ポリエステル樹脂を鞘部に使用し、熱接着性芯鞘型複合マルチフィラメント(長繊維)を操業性よく得ることができた。また、得られた長繊維は、強度、伸度ともに実用上問題ないものであった。
【0114】
また、表3から明らかなように、実施例13では再生ポリエステル樹脂を鞘部に使用し、熱接着性芯鞘型複合短繊維を操業性よく得ることができた。また、熱接着性芯鞘型複合短繊維を用いて得られた湿式不織布用は強力が高いものとなった。また。実施例14~15のように、再生ポリエステル樹脂を単一成分として使用した場合にも、熱接着性短繊維を操業性よく得ることができた。また、熱接着性短繊維を用いて得られた乾式不織布および湿式不織布用は強力が高いものとなった。
【0115】
一方、比較例1では、解重合反応時のG/Aが1.40と高かったため、ジエチレングリコールの含有量が多く、カルボキシル末端基濃度が高く、平均昇圧速度も高いものであった。そのため、繊維とした際に熱分解が生じ、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであり、不織布強力も低かった。また、成形品においても厚み斑が見られ、さらに異物が多くヘーズも悪かった。
比較例2では、解重合時の熱処理温度が290℃と高かったため、ジエチレングリコールの含有量とカルボキシル末端基濃度が高いものであった。そのため、繊維とした際に熱分解が生じ、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであり、不織布強力も低かった。また、成形品においても厚み斑が見られた。
比較例3では、ES缶とPC缶間に設けたキャンドルフィルターの濾過粒度が30μmと高かったため、異物の混入量が多く、平均昇圧速度が高いものとなった。そのため、繊維とした際にノズルパックの昇圧及び糸切れの多発により、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであった。また、成形品においても異物が多かったため、ヘーズが悪かった。
【0116】
比較例4では、脂肪族ラクトンの投入量が29.2質量部と多かったため、脂肪族ラクトンの含有量が35モル%と高くなり、ポリエステル樹脂の融点が132℃と低くなった。そのため、繊維とした際に熱分解が生じ、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであり、不織布強力も低かった。また、成形品においても、成形する際に熱分解が生じ、厚み斑が見られた。
比較例5では、1,4-ブタンジオールの投入量が187質量部と多かったため、1,4-ブタンジオールの含有量が73.2モル%と高く、樹脂の融点が200℃以上になり、不織布とした際に、熱接着が不十分で、不織布強度が低かった。また、ブロー成形時において、成形物の白化が見られ、ヘーズが悪かった。さらに、押出温度を高温で成形を行ったことで、樹脂の熱分解が起こり、成形品に厚み斑が見られた。
比較例6では、1,4-ブタンジオールの投入量が12.2質量部と少なかったため、1,4-ブタンジオールの含有量が17.7モル%と少なく、ポリエステル樹脂の融点が200℃以上になり、不織布とした際に、熱接着が不十分で、不織布強度が低かった。また、押出温度を高温で成形を行ったことで、樹脂の熱分解が起こり、成形品に厚み斑が見られた。
【0117】
比較例7では、(1)の工程における解重合反応時の熱処理温度が230℃と低かったため、反応物が固化し、ポリエステル樹脂を得ることができなかった。
比較例8では、重縮合反応における重縮合反応温度が210℃と低かったため、重縮合反応が進まずポリエステル樹脂を得ることができなかった。
比較例9では、(3)の工程における解重合反応時の熱処理温度が高すぎたため、ジエチレングリコールの含有量とカルボキシル末端基濃度が高いものであった。そのため、繊維とした際に熱分解が生じ、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであり、不織布強力も低かった。また、成形品において、厚み斑が見られた。
【0118】
比較例10では、解重合反応時のG/Aが1.02と低かったため、カルボキシル末端基濃度が高く、平均昇圧速度も高いものであった。そのため、繊維とした際に熱分解が生じ、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであり、不織布強力も低かった。また、成形品において、異物が多かったため、ヘーズが悪かった。
比較例11では、重縮合反応における反応温度が265℃と高かったため、ジエチレングリコールの含有量とカルボキシル末端基濃度が高いものであった。そのため、繊維とした際に熱分解が生じ、操業性が悪化し、得られた繊維の糸質が劣るものであり、不織布強力も低かった。また、成形品において、厚み斑が見られた。
比較例12では、ES缶とPC缶間に設けたキャンドルフィルターの濾過粒度が5μmと低かったため、目詰まりが生じて操業性が悪化し、ポリエステル樹脂を得ることができなかった。