(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120786
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】魚介類乾燥システムと魚介類干物製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 17/00 20160101AFI20220810BHJP
F26B 25/00 20060101ALI20220810BHJP
F26B 21/04 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
A23L17/00 F
F26B25/00 B
F26B21/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021214021
(22)【出願日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2021017314
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594189279
【氏名又は名称】株式会社木原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】高森 弘志
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 新悟
(72)【発明者】
【氏名】木原 利昌
【テーマコード(参考)】
3L113
4B042
【Fターム(参考)】
3L113AA01
3L113AB02
3L113AC01
3L113AC51
3L113AC67
3L113AC78
3L113BA17
3L113CA08
3L113CA09
3L113CB01
3L113DA24
4B042AC06
4B042AC10
4B042AD05
4B042AG12
4B042AP02
4B042AP17
4B042AT05
(57)【要約】
【課題】天日干しと同等の品質の魚介類の干物を菌の発生を抑えながら、短時間かつ簡単に製造することが可能な魚介類乾燥システムを提供する。
【解決手段】魚介類乾燥システム1は、乾燥室2と、乾燥室2内の空気を加熱する加熱装置4と、乾燥室2内の空気を収容し冷却する冷却室5aを備えた冷却装置5と、乾燥室2内の空気を循環させる送風ファン6と、乾燥室2の循環口2aから空気を導入し送風ファン6と加熱装置4を経由して再び乾燥室2の吐出口2bへ送出するための第1の通気路3と、乾燥室2の冷却用吸気口2cから空気を導入し冷却装置5を経由して送風ファン6の上流側に位置する第1の通気路3にバルブ7を介して送出する第2の通気路8と、加熱装置4、冷却装置5、送風ファン6、及びバルブ7の動作を制御するための制御装置9と、この制御装置9に接続され、乾燥室2内の温度を計測する温湿度計測器2dを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥室と、この乾燥室内の空気を加熱する加熱装置と、前記乾燥室内の前記空気を冷却する冷却装置と、前記乾燥室内の前記空気を循環させる送風ファンと、前記乾燥室に外気を導入する外気吸気用バルブと、前記乾燥室の循環口から前記空気を導入し、前記外気吸気用バルブと前記送風ファンと前記加熱装置を経由して前記乾燥室の吐出口へ送出する第1の通気路と、前記乾燥室の冷却用吸気口から前記空気を導入し前記冷却装置を経由して前記送風ファンの上流側の前記第1の通気路にバルブを介して送出する第2の通気路と、前記加熱装置、前記冷却装置、前記送風ファン、前記バルブ、及び前記外気吸気用バルブの動作を制御する制御装置と、この制御装置に接続されて前記乾燥室内の温度と湿度を計測する温湿度計測器と、を備え、
前記制御装置は、前記乾燥室内の温度が、
30℃乃至50℃の温度範囲内で予め設定された第1の目標温度に第1の維持時間が経過するまでの間、維持されるように前記バルブを閉じた状態で前記外気吸気用バルブを開けながら前記加熱装置及び前記送風ファンの出力を制御する加熱工程を実行した後、
0℃乃至20℃の温度範囲内で予め設定された第2の目標温度に第2の維持時間が経過するまでの間、維持されるように前記バルブを開いた状態で前記外気吸気用バルブを閉じながら前記冷却装置及び前記送風ファンの出力を制御する冷却工程を実行することを特徴とする魚介類乾燥システム。
【請求項2】
前記冷却工程は、前記冷却装置及び前記送風ファンに前記加熱装置を加えて出力を制御し、前記第2の維持時間が経過するまでの間、前記冷却装置が前記第2の目標温度よりも予め所望に定める温度差ほど低い温度まで前記空気を冷却し、前記加熱装置が前記温度差ほど前記空気を加熱して前記乾燥室内の温度を前記第2の目標温度に戻すように実行されることを特徴とする請求項1記載の魚介類乾燥システム。
【請求項3】
前記制御装置が、前記第2の維持時間が経過するまでの間、前記冷却装置及び前記送風ファンの出力をゼロとする時間を設けることを特徴とする請求項1に記載の魚介類乾燥システム。
【請求項4】
前記制御装置が、予め設定した繰り返し回数に到達するまで前記加熱工程及び前記冷却工程を繰り返し実行することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の魚介類乾燥システム。
【請求項5】
互いに平行をなすように垂設されて前記乾燥室内を3つの区画に仕切る第1の多孔板及び第2の多孔板を備え、
前記区画は、
前記乾燥室の内壁と前記第1の多孔板の間に形成される第1の区画と、
前記乾燥室の前記内壁と前記第2の多孔板の間に形成される第2の区画と、
前記第1の多孔板と前記第2の多孔板の間に形成されて魚介類が保管される第3の区画と、からなり、
前記吐出口は、前記第1の区画に連通するように前記乾燥室の前記内壁に設けられ、
前記循環口及び前記冷却用吸気口は、前記第2の区画に連通するように前記乾燥室の前記内壁に設けられ、
前記第1の多孔板の開口率は、前記第2の多孔板の開口率より大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の魚介類乾燥システム。
【請求項6】
魚介類を乾燥室内に配置し乾燥させて干物を製造する方法であって、
前記乾燥室内の温度が、30℃乃至50℃の温度範囲内で予め設定された第1の目標温度に第1の維持時間が経過するまでの間維持され、外気が導入され前記乾燥室内の空気が排出されながら循環するように、加熱及び送風を制御する加熱工程と、
前記乾燥室内の温度が、0℃乃至20℃の温度範囲内で予め設定された第2の目標温度に第2の維持時間が経過するまでの間維持され、前記外気の導入と前記空気の排出がされることなく、前記乾燥室から前記空気が抽出されて前記第2の目標温度よりも予め所望に定める温度差ほど低い温度まで前記空気が冷却された後、前記空気が前記第2の目標温度まで加熱されて前記乾燥室内へ戻されて循環するように冷却、加熱及び送風を制御する冷却工程と、を有することを特徴とする魚介類干物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天日干しと同じ品質の魚介類の干物を、菌の発生を抑えながら簡単に製造することが可能な魚介類乾燥システムと魚介類干物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類、果実といった食品の干物を製造する方法として、屋外に食品を並べて乾燥・熟成させる「天日干し」が知られており、従来から広く干物の製造に用いられている。
このような天日干しによって作られる干物は、乾燥機を用いて乾燥させた干物と同様に長期保存が可能な商品ではあるが、昼夜の異なる温度・湿度の雰囲気に繰り返し曝されるという乾燥条件により、乾燥機で得られる干物にはない独特の旨味を有することも知られている。そのため、天日干しにより製造された干物は、乾燥機により乾燥された干物に比べて商品価値が高く、一般的に高値で取り引きされている。
【0003】
このような天日干しにより干物を製造する場合、乾燥時の温度、湿度、及び風の強さが干物の品質の良し悪しに大きく依存する。このため、我が国のように季節によって気温、湿度等が大きく異なる場合には、生産者は所望の品質の干物が得られる季節をまず決める必要があった。
なお、天日干しを行うのに好都合な季節としては、食品の種類にもよるが、高温多湿のため変色したり腐ったりする等の品質劣化が起こり易い夏は避けられることが多く、一般的に温度及び湿度が低く、品質劣化が起こり難い冬に天日干しが行われることが多い。
【0004】
しかしながら、上述するように冬が天日干しに適した季節であるといっても、天日干しは自然乾燥で行われるため、天候によって食品の曝される温度、湿度等が常に変化し、これに伴い製造に要する時間も変化する。そのため、天日干しは一定品質の干物を安定して製造することが難しい製造方法であった。また、天日干しは食品を屋外で天日等に曝すことから、表面の乾燥状態を表裏均一にするため一定周期で食品を反転させたり、異物、雑菌並びにハエ等の害虫の付着を防止するための作業を行ったり、さらに雨天の際には濡れないよう食品を屋内に運び込んだりする必要もあり、製造過程において多大な労力を必要とする製造方法であった。
このように天日干しは必ずしも安定した製造に適した方法とは言えないが、近年では天日干しにより製造された高品質な干物の需要が増加してきている。このため、干物を製造するメーカーから、季節や天候によらず天日干しと同様の品質の干物を簡単に製造できる技術の確立を求める声が強くなってきている。
そのような中で、天日干しに対する上記課題を解決するための技術として、最近では特許文献1及び特許文献2に記載された発明が開示されている。
【0005】
特許文献1には「食品の熟成乾燥方法」という名称で、長い時間をかけずとも、天日干しのような熟成した味を有する食品を作ることが可能な乾燥方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、被乾燥物である食品に対して、少なくとも温風(35℃乃至45℃)を作用させる加熱乾燥工程と、この加熱乾燥工程に続いて常温以下の冷風(-5℃乃至15℃)に接触させる冷風乾燥工程とからなる乾燥サイクルを、複数回繰り返して行うものである。
上記構成の発明によれば、加熱乾燥工程において温風を作用させることによって被乾燥物の乾燥速度を早める操作と、冷風乾燥工程において冷風に接触させることによって被乾燥物の熟成度を高める操作とを組み合わせることで、被乾燥物である食品の熟成度を高めながら、短時間で効率的に食品を乾燥させることができる。加えて、被乾燥物として果物を乾燥させた場合であれば自然乾燥したものより甘味が増し、さらに魚及び家畜の肉の場合であれば旨味が増す効果があるとしている。
【0006】
また、特許文献2には「干し柿乾燥装置及びそれを用いたあんぽ柿の製造方法」という名称で、組み立て及び分解を簡易に行うことができ、分解した際にはコンパクトに収納できる廉価なあんぽ柿の製造装置と、その製造方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示されている発明は、同文献中の
図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、柿を乾燥させる乾燥室RDと、乾燥室RDの空気を循環させる空気循環ユニット20と、乾燥室RDから排出された循環空気に含まれる水分を除去することにより低減された湿度の冷却風を循環空気中へ戻すとともに、発生した熱を乾燥室RDの外部へ放出する排熱手段を備えた冷却除湿装置30と、排熱手段から排出される温風を乾燥室RDへ取り込むか、又はそのまま乾燥室RDの外部へ放出するかのいずれかに切り替える排熱温風切替装置50と、乾燥室RD内を加熱するための電気ヒータ40と、乾燥室RDの両側面に空気の流出入を面流出入とさせる面流出入装置MSと、乾燥室RDの温度及び湿度を検知して冷却除湿装置30及び電気ヒータ40の運転を制御して乾燥室RD内の温度及び湿度を制御する制御手段60とを備えた装置となる。
【0007】
そして、上記装置を用いて、排熱温風切替装置50及び冷却除湿装置30を共に駆動させて乾燥室RD内を34℃以下の温度範囲内に調整しつつ柿の水分率が所定の値になるまで乾燥を行う前乾燥工程と、その前乾燥工程に引き続き行われ、排熱温風切替装置50の運転を停止して、冷却除湿装置30及び電気ヒータ40を用いて乾燥室RD内を23℃乃至27℃の温度範囲内に調整しつつ3日乃至4日乾燥させることにより水分率が所定の値となるまでゆっくりと柿を乾燥させる熟成乾燥工程を順次行うという方法によってあんぽ柿を製造する。
このような特許文献2に開示される発明によれば、組み立て、分解が簡単に行うことができるとともに、分解後にはコンパクトに収納可能なあんぽ柿の製造装置を安価に提供することも可能となる。そして、このような製造装置を用いてあんぽ柿を製造することで、従来必要であった表面の乾燥歩合と内部の乾燥歩合とのバランスを図るために行う、手揉み工程も省略することが可能になるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003-225077号公報
【特許文献2】特開2007-105003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている発明の場合、乾燥室内において温風乾燥と冷風乾燥を組み合わせて食品を乾燥させることで、天日干しのような高い熟成度の干物を簡単に製造できると考えられる。しかしながら、この発明の場合、常に風が食品の表面に当てられるため、表面が乾燥により硬化し、かつ乾燥に伴う表面層での体積収縮により、表面が割れて外観不良を起こし易くなるという課題があった。また、被乾燥物が肉厚の食品であれば、上述した表面の硬化により内部の水分が一層表面へ移行し難くなるため、均一な乾燥が困難となるばかりか、表層部と内部とでの熟成度が不均一になり易くなるという課題もあった。
【0010】
一方、特許文献2に開示される発明であれば、確かに簡単な設備で天候に左右されず、安定してあんぽ柿の製造が可能になると考えられる。しかしながら、当該発明はあんぽ柿を対象としたものであるため、魚介類といった他の食品に対してはあんぽ柿と同様の処理を適用することが難しいという課題があった。また、当該発明では、前乾燥工程及び熟成乾燥工程において温風又は循環風があんぽ柿に当てられることから、上記特許文献1に開示された発明と同様に、食品の表面が乾燥により硬化し易くなる。このため、体積の収縮に伴って表面が割れて外観不良を起こしたり、表面の硬化により内部の水分が表面へ移行し難くなるため、均一な乾燥が困難となったりする等の課題もあると考えられる。加えて、特許文献2における乾燥は、菌の増殖する温度として知られる20℃乃至50℃の範囲内にある温度下において行われる。このため、当該発明を用いて干物を製造する場合には、菌の増殖に対する対策を別途採らなければならないという課題もあると考えられる。
【0011】
本願発明は上述する課題に対処してなされたものであり、その目的は天日干しでなくとも天日干しと同等の品質となる魚介類の干物を菌の増殖を抑えながら、しかも間欠運転によってコストも抑えて簡単に製造することができる魚介類乾燥システムと魚介類干物製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、第1の発明である魚介類乾燥システムは、乾燥室と、この乾燥室内の空気を加熱する加熱装置と、乾燥室内の空気を冷却する冷却装置と、乾燥室内の空気を循環させる送風ファンと、乾燥室に外気を導入する外気吸気用バルブと、乾燥室の循環口から空気を導入し、外気吸気用バルブと送風ファンと加熱装置を経由して乾燥室の吐出口へ送出する第1の通気路と、乾燥室の冷却用吸気口から空気を導入し冷却装置を経由して送風ファンの上流側の第1の通気路にバルブを介して送出する第2の通気路と、加熱装置、冷却装置、送風ファン、バルブ、及び外気吸気用バルブの動作を制御する制御装置と、この制御装置に接続されて乾燥室内の温度と湿度を計測する温湿度計測器と、を備え、制御装置は、乾燥室内の温度が、30℃乃至50℃の温度範囲内で予め設定された第1の目標温度に第1の維持時間が経過するまでの間、維持されるようにバルブを閉じた状態で外気吸気用バルブを開けながら加熱装置及び送風ファンの出力を制御する加熱工程を実行した後、0℃乃至20℃の温度範囲内で予め設定された第2の目標温度に第2の維持時間が経過するまでの間、維持されるようにバルブを開いた状態で外気吸気用バルブを閉じながら冷却装置及び送風ファンの出力を制御する冷却工程を実行することを特徴としている。
【0013】
このような構成の第1の発明であれば、送風ファンはバルブが閉じた状態において乾燥室内の空気を循環口から排出させた後、この空気を第1の通気路内を通過させて再び乾燥室の吐出口から乾燥室内へ流入するように循環させるという作用を有する。また、送風ファンはバルブを開いた状態とすることで乾燥室内の空気を循環口とともに冷却用吸気口からも排出させ、この空気を第1の通気路と第2の通気路を通過させて再び乾燥室の吐出口から乾燥室内へ流入するように循環させるという作用も有する。そして、加熱装置は第1の通気路と乾燥室との間を循環する空気を加熱して乾燥室内の温度を上昇させるという作用を有する。また、冷却装置は、第2の通気路を通過する空気を冷却して乾燥室内の温度を低下させるという作用を有する。さらに、外気吸気用バルブは乾燥室内の空気を加熱する際に開閉させることで、必要に応じて外気を乾燥室内に取り込むことができる。そして、取り込まれた外気は乾燥室内を循環する空気と均一に混合された後循環する空気と置換されていくことで、乾燥室内の温度及び湿度を緩やかに調整することができる。なお、外気吸気用バルブの開閉時の開度は任意に調整可能であるが、乾燥室内の温度と湿度が変動しない程度に設定しておく必要がある。
【0014】
そして、制御装置は、温湿度計測器により計測される乾燥室内の温度が第1の目標温度となるよう昇温し、次いで第1の目標温度に第1の維持時間が経過するまで維持されるように、バルブを閉じ外気吸気用バルブを開けながら加熱装置及び送風ファンの出力を制御する(すなわち、加熱工程を実行する)。これにより、制御装置は外気吸気用バルブより乾燥した外気を取り込み乾燥室内の湿度を低減させながら、乾燥室内の被乾燥物である魚介類を第1の目標温度に第1の維持時間の間維持させるという作用を有する。
また、制御装置は、温湿度計測器により計測される乾燥室内の温度が、菌の増殖が抑えられる第2の目標温度になるよう降温させ、次いで第2の目標温度に第2の維持時間が経過するまで維持されるように、バルブを開け外気吸気用バルブを閉じながら冷却装置及び送風ファンの出力を制御する(すなわち、冷却工程を実行する)。これにより、制御装置は、乾燥室内の魚介類を第2の目標温度に第2の維持時間が経過するまでの間維持させるという作用を有する。
なお、上記加熱工程において、加熱装置及び送風ファンに対し、制御装置は一方の出力を固定しながら他方の出力に強弱を付けたり、両方の出力に強弱を付けたりするという制御を行う。また、この制御装置の制御の方法は、上記冷却工程においても同様である。これにより加熱工程又は冷却工程が実行されている間、魚介類は風速の大きな強い温風又は冷風だけでなく微弱な温風又は冷風に曝されることが可能となる。なお、出力にはゼロも含まれる。
加えて、制御装置は、冷却工程において乾燥室内の湿度に基づく露点を考慮しながら冷却装置及び送風ファンの出力を制御するようにしてもよい。
【0015】
第2の発明である魚介類乾燥システムは、上述する第1の発明において、冷却工程は、冷却装置及び送風ファンに加熱装置を加えて出力を制御し、第2の維持時間が経過するまでの間、冷却装置が第2の目標温度よりも予め所望に定める温度差ほど低い温度まで空気を冷却し、加熱装置が温度差ほど空気を加熱して乾燥室内の温度を第2の目標温度に戻すように実行されることを特徴とする。
このような第2の発明であれば、第1の発明と同じ作用に加えて、冷却工程において所望に定める温度差ほど低い温度まで空気を冷却することで空気に含まれる水分を結露させるように作用する。そして、その後に空気を加熱して第2の目標温度に戻すことで第2の目標温度においても相対湿度を下げて、被乾燥物である魚介類の乾燥を促進するように作用する。
【0016】
次に、第3の発明である魚介類乾燥システムは、上述する第1の発明において、制御装置が、第2の維持時間が経過するまでの間、冷却装置及び送風ファンの出力をゼロとする時間を設けることを特徴とする。
このような構成の第3の発明であれば、第1の発明と同じ作用に加えて、冷却工程において第2の目標温度で乾燥室内にある魚介類が冷風に曝されることのない時間を、第2の維持時間が経過するまでの間に設けることができ、魚介類の表面の過度な乾燥が抑えられるという作用を有する。
【0017】
そして、第4の発明である魚介類乾燥システムは、上述する第1乃至第3の発明において、制御装置が、予め設定した繰り返し回数に到達するまで加熱工程及び冷却工程を繰り返し実行することを特徴としている。
このような構成の第4の発明であれば、上述する第1乃至第3の発明と同じ作用に加えて、加熱工程と冷却工程を繰り返しながら魚介類が処理されるという作用を有する。
【0018】
また、第5の発明である魚介類乾燥システムは、上述する第1乃至第4の発明のいずれかの発明において、互いに平行をなすように垂設されて乾燥室内を3つの区画に仕切る第1の多孔板及び第2の多孔板を備え、区画は、乾燥室の内壁と第1の多孔板の間に形成される第1の区画と、乾燥室の内壁と第2の多孔板の間に形成される第2の区画と、第1の多孔板と第2の多孔板の間に形成されて魚介類が保管される第3の区画と、からなり、吐出口は、第1の区画に連通するように乾燥室の前記内壁に設けられ、循環口及び冷却用吸気口は、第2の区画に連通するように乾燥室の内壁に設けられ、第1の多孔板の開口率は、第2の多孔板の開口率より大きいことを特徴としている。
【0019】
このような構成の第5の発明であれば、上述する第1乃至第4の発明のいずれかの発明の作用に加えて、吐出口から空気が乾燥室内の第1の区画に入ることで、第1の区画内の空気が第1の多孔板の孔から第3の区画側に略均一に押し出されるという作用を有する。そして、第1の区画より第3の区画に押し出された空気は、第1の多孔板より開口率の小さな第2の多孔板に圧力を加えながら第2の多孔板を通過することで、第2の区画側に略均一に押し出されることができる。
そして、第2の区画に入った空気は、循環口又は冷却用吸気口により乾燥室内から第1又は第2の通気路に排出されるという作用を有する。加えて、第3の区画内に入る空気は、第1の多孔板及び第2の多孔板を通過することで、鉛直方向での流速に大きな差異を生じることなく第3の区画内を水平方向に流れるという作用を有する。
【0020】
さらに、第6の発明である魚介類干物製造方法は、魚介類を乾燥室内に配置し乾燥させて干物を製造する方法であって、乾燥室内の温度が、30℃乃至50℃の温度範囲内で予め設定された第1の目標温度に第1の維持時間が経過するまでの間維持され、外気が導入され乾燥室内の空気が排出されながら循環するように、加熱及び送風を制御する加熱工程と、乾燥室内の温度が、0℃乃至20℃の温度範囲内で予め設定された第2の目標温度に第2の維持時間が経過するまでの間維持され、外気の導入と空気の排出がされることなく、乾燥室から空気が抽出されて前記第2の目標温度よりも予め所望に定める温度差ほど低い温度まで空気が冷却された後、空気が第2の目標温度まで加熱されて乾燥室内へ戻されて循環するように冷却、加熱及び送風を制御する冷却工程と、を有することを特徴とする。
このような構成の第6の発明であれば、冷却工程において所望に定める温度差ほど低い温度まで空気を冷却することで空気に含まれる水分を乾燥室外で結露させるように作用する。そして、その後に空気を加熱して第2の目標温度に上げて乾燥室へ戻すことで第2の目標温度においても相対湿度を下げて、被乾燥物である魚介類の乾燥を促進するように作用する。
【発明の効果】
【0021】
上述するような第1の発明であれば、制御装置の制御により乾燥室を通過しながら循環する空気を加熱又は冷却させることが可能となり、乾燥室内の温度を変化させることができる。
また、制御装置が上述した加熱工程及び冷却工程を実行することで、乾燥室内の温度を予め設定した第1の目標温度及び第2の目標温度に所定の時間が経過するまで維持することができるようになる。このような制御装置の実行する処理では、加熱工程は日中の天日により魚介類を乾燥させる処理に、冷却工程は天日干しの際、夜間の冷気や寒風に曝して乾燥させる処理に対応することから、天日干しで行われる魚介類の処理と同様となる。すなわち、第1の発明である魚介類乾燥システムは、魚介類に対して天日干しと同様の処理を機械で自動的に行うことができるのである。
【0022】
加えて、外気から隔離された乾燥室内において魚介類の処理が行われることに加えて、冷却工程では魚介類の温度が菌の増殖し難い0℃乃至20℃の範囲内に維持されることから、天日干しに比べ外気に魚介類が曝されないため、魚介類に対する雑菌や埃の付着が抑えられるとともに菌の増殖も抑制でき、衛生面で優れるとともに生産管理も容易になる。
さらに、上述したように制御装置が加熱工程、冷却工程において行う制御は、加熱装置、冷却装置、送風ファンの出力に強弱を付けて行うことが可能である。このため、例えば乾燥により表面層が変質したり急激に体積収縮を起こしたりして表面がひび割れ易いデリケートな魚介類(魚卵等)を処理する場合、制御装置は魚介類を微弱な温風又は冷風を当てるように制御してひび割れを抑制させることもできる。
【0023】
また、過度に乾燥させて魚介類の表面の硬化を促進させた場合、その表面を構成する分子の運動性を低下させたり、分子のネットワーク構造を緻密化させたりしてしまい、表面層を水分が通過し難くなることも予想される。仮に魚介類の内部の水分が表面へ移行し難くなった場合、表面層と内部とで水分の含有量が一定ではなくなり、結果として場所によって熟成度が変わってしまう可能性もある。これはすなわち、高品質な商品の製造が困難になることに等しい。第1の発明では、このような影響のある過度の乾燥を抑えることで、魚介類の水分が場所によらず一定となるように乾燥させるという効果もあると考えられる。
【0024】
また、第2の発明であれば、第1の発明の効果に加えて、乾燥により表面層が変質したり急激に体積収縮を起こすことで表面がひび割れ易い被乾燥物である魚介類に対し、急冷させる冷却工程の間においても乾燥させることが可能であり、加熱工程と併せて常に乾燥させることで、被乾燥物に対して乾燥による全体的な負荷を抑制しながら緩やかに乾燥させることが可能であると同時に全体の乾燥時間としては短縮することができるという効果を有する。
【0025】
次に、第3の発明であれば、第1の発明の効果に加えて、冷却工程の際に冷風を魚介類に当てない時間を設けるため、魚介類を緩やかに乾燥させることができる。この結果、冷却工程における表面層の変質及び体積収縮が一層抑えられることになり、表面にひび割れが発生し易いデリケートな魚介類の乾燥処理も一層容易になる。
また、冷却工程の際に魚介類の乾燥が緩やかに行われることで、魚介類の表面の硬化が抑制され、内部の水分の表面への移行が大きく阻害されることがなくなる。そのため、水分が魚介類の内部に閉じ込められることなく乾燥され、干物の表面層と内部とで水分の含有量に差異が生じ難くなる。この結果、熟成の仕方が部位によらず一様となり、熟成度の一様な魚介類の干物を作製し易くなる。
【0026】
また、上述する第4の発明によれば、第1乃至第3の発明の効果に加えて、日中の魚介類を加熱する処理に対応する加熱工程と、夜間の冷気や寒風に曝して魚介類を冷却する処理に対応する冷却工程とを繰り返し行えるようになる。すなわち、天日干しを長期間に亘って行う必要のある魚介類の乾燥も、天日干しと同様の条件で自動的に行うことができるようになるのである。この結果、魚介類の種類や天候とは無関係に天日干しと同等品質の干物を自動的に作ることが可能となる。さらに、乾燥室内で魚介類の処理が行われるため、従来のように悪天候の場合には屋内に移動させるといった作業も不要になり、製造時の管理費及び人件費といった費用の削減にも繋がる。
【0027】
さらに、上述する第5の発明によれば、第1乃至第4のいずれかの発明の効果に加えて、第3の区画内に入る空気が第3の区画内を鉛直方向での流速が略均一となるように水平方向に流れるようになる。このため、第3の区画内において所定の間隔をあけて上下方向に配置された複数段の棚板に魚介類が載置されている場合には、棚板及び魚介類によって空気の流れが阻害され難くなる。この結果、第3の区画内では場所によらず温風又は冷風が略均一に通過するようになるため、乾燥室内における温度ムラの発生が抑制され、これに伴い魚介類の乾燥ムラの発生も抑制される。これにより、乾燥状態の悪い魚介類において菌が増殖するのを防止することができ、不良率が低減することで利益率の増加も可能となるのである。
【0028】
そして、第6の発明によれば、第2の発明と同様に、急激な乾燥に弱い被乾燥物であっても、急冷させる冷却工程の間においても乾燥させることが可能であり、加熱工程と併せて常に乾燥させることで、被乾燥物に対して乾燥による全体的な負荷を抑制しながら緩やかに乾燥させることが可能であると同時に全体の乾燥時間としては短縮することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第1及び第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムのシステム構成図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムにおいて実行される制御の概要を示すフローチャートである。
【
図3】
図2における加熱工程のフローチャートである。
【
図4】
図2における冷却工程のフローチャートである。
【
図5】魚介類を乾燥させる際の魚介類の温度と重量比の時間依存性を示すグラフであり、(a)は一般的に利用される乾燥システムによる場合であり、(b)は第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムによる場合である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムにおいて実行される冷却工程のフローチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムによる魚介類を乾燥させる際の魚介類の温度と重量比の時間依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの構成、作用並びに効果について、
図1乃至
図5を用いながら説明する。
【0031】
[1;第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの基本構成について]
[1-1;基本構成の構造について]
図1は本発明の実施形態に係る魚介類乾燥システムのシステム構成図である。なお、図中の白抜き矢印は空気の流れる方向を示しており、乾燥室の内部を把握し易くするため扉の記載は省略している。
図1に示す魚介類乾燥システム1の構成は例として挙げたものであり、上述する作用・効果が生じる範囲内であれば、使用者が任意に構成を追加したり省略したりしてもよく、構成の配置を変更することも可能である。例えば、魚介類の乾燥状態を精密にコントロールするために加湿器を乾燥室に設置し、これらを制御装置と接続して湿度を所望の値に調整したり、制御装置が乾燥室の湿度に基づいて魚介類乾燥システム1を制御したりするものであってもよい。
【0032】
図1に示すように、魚介類乾燥システム1は、乾燥室2と、この乾燥室2内の空気を加熱する加熱装置4と、乾燥室2内の空気を収容し冷却する冷却室5aを備えた冷却装置5と、乾燥室2内の空気を循環させる送風ファン6と、乾燥室2の循環口2aから空気を導入し送風ファン6と加熱装置4を経由して再び乾燥室2の吐出口2bへ送出するための第1の通気路3と、乾燥室2の冷却用吸気口2cから空気を導入し冷却装置5を経由して送風ファン6の上流側に位置する第1の通気路3にバルブ7を介して送出する第2の通気路8とを備えている。さらに、魚介類乾燥システム1は、加熱装置4、冷却装置5、送風ファン6、及びバルブ7の動作を制御するための制御装置9と、この制御装置9に接続され、乾燥室2内の温度を計測する温湿度計測器2dを備えている。
加えて、魚介類乾燥システム1では、
図1に示すように、循環口2aと送風ファン6との間の第1の通気路3上に箱体3aが設置されている。この箱体3aは、必要に応じて外気を取り込み乾燥室2内の温度及び湿度を調整するための外気吸気口3bと、この外気吸気口3bから外気を取り込む際に使用され、制御装置9の制御により開閉可能な外気吸気用バルブ3cが隣接して設置されている。なお、外気吸気用バルブ3cの代わりとしてダンパーが用いられていてもよい。
また、魚介類乾燥システム1内の換気を素早く行う必要がある場合を想定して、排気口2eと、この排気口2eから空気を排気する際に使用され、制御装置9の制御により開閉可能な排気用バルブ(図示せず)も設置されている。この排気用バルブ及び外気吸気用バルブ3cを開けることで、乾燥室2内の空気の置換が一層容易となり、乾燥室2内の温度及び湿度の調整も一層容易になる。なお、上記排気用バルブは、乾燥室2内への外気の侵入を防ぎ、制御装置9により制御されない逆止弁としてもよい。
【0033】
なお、本願明細書には記載していないが、乾燥室2の冷却用吸気口2cから空気を導入した後、冷却装置5と別の送風ファンのみを経由して再び乾燥室2に送出できるように、ここでの第2の通気路8は直接乾燥室2のみに繋げられたものであってもよい。このような第1の通気路3と繋がらない第2の通気路8を備えることでも、魚介類乾燥システム1と同じ作用及び効果を発揮することができる。
【0034】
また、詳細については後述するが、制御装置9は魚介類が予め設定された維持時間だけ加熱又は冷却処理されたりすることが可能なように、作業を繰り返し実行するための繰り返し回数をカウントするためのカウンター9aを備えるとともに、加熱又は冷却処理における温度、作業の繰り返し回数を制御装置9に入力するための入力部9bを備えている。なお、カウンター9aは、同時に複数の作業の行われた繰り返し回数をカウントできるものとする。
さらに、上述した加湿器は、空気の温度と湿度が把握された状態で魚介類を乾燥させるという観点から、後述する第2の区画Bあるいは第1の区画Aの温湿度計測器の上流側に設置されることが望ましい。
【0035】
[1-2;基本構成における制御の概要について]
次に、上述する構成の魚介類乾燥システム1において、制御装置9が行う加熱工程と冷却工程における制御について、
図2乃至
図4を用いて詳細に説明する。
図2は本発明の実施の形態に係る魚介類乾燥システムにおいて、制御装置により実行される制御の概要を示すフローチャートである。なお、破線は加熱工程と冷却工程のそれぞれで実行される内容の範囲を示すものである。また、第1及び第2の目標温度、第1及び第2の維持時間(詳細は後述するが、繰り返し回数M,Nによって設定される時間である)、繰り返し回数Lについては、魚介類乾燥システム1により乾燥処理を開始する前に予め制御装置9に入力部9bから入力されているものとする。
【0036】
図2に示すように、魚介類乾燥システム1における制御装置9は、乾燥処理を開始させると、まずカウンター9aのカウント値Kを1に設定し(ステップS1)、その後に温湿度計測器2dと連携しながら破線に囲まれた加熱工程と冷却工程を順に実行する。
このうち加熱工程では、制御装置9は、まず乾燥室2内を30℃乃至50℃の範囲内で設定された第1の目標温度T
Hまで昇温させる(ステップS2)。そして、このステップS2により乾燥室2内の温度が第1の目標温度T
Hに到達した後、制御装置9は乾燥室2内を第1の目標温度T
Hに第1の維持時間が経過するまで維持しながら魚介類を乾燥させる(ステップS3)。このステップS3が完了するとともに加熱工程は完了し、次いで冷却工程に移行する。
続く冷却工程では、制御装置9は0℃乃至20℃の範囲内で設定された第2の目標温度T
Lまで乾燥室2内を降温させる(ステップS4)。そして、ステップS4により乾燥室2内の温度が第2の目標温度T
Lに到達した後、制御装置9は第2の目標温度T
Lに第2の維持時間が経過するまで維持しながら魚介類を乾燥させ(ステップS5)、このステップS5が実行されれば乾燥処理を終了させる。
【0037】
なお、引き続き魚介類を乾燥させたい場合には、予め制御装置9の入力部9bより所望の繰り返し回数Lを入力しておくことで、
図2に示すようにステップS5の完了時に制御装置9はカウンター9aのカウント値Kを1だけインクリメントする(ステップS6)。このとき、カウンター9aのカウント値Kが設定された繰り返し回数Lに到達していなければ、制御装置9はステップS2に戻ってカウント値Kが繰り返し回数Lに到達するまで乾燥処理が実行されるように制御する(ステップS7)。一方、カウンター9aのカウント値Kが繰り返し回数Lに到達した場合には、制御装置9は乾燥処理を終了させる(ステップS7)。
ここで、加熱工程及び冷却工程を繰り返し行う必要のない場合には、繰り返し回数Lは1として入力しておけばよい。また、干物を製造する際に繰り返し処理自体が無用であるということであれば、魚介類乾燥システム1はカウンター9aが省かれた制御装置9を有するものとしてもよい。この場合、
図2においてステップS1、ステップS6、ステップS7が省かれることは言うまでもない。
【0038】
[1-3;基本構成における制御の詳細について]
次に、上記加熱工程(ステップS2,S3)及び冷却工程(ステップS4,S5)において、制御装置9が行う制御の内容について、
図3及び
図4を用いながらより詳細に説明する。なお、既に説明した
図2に加えて
図3乃至
図5を用いて第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システム1による加熱工程と冷却工程の内容について説明することは、魚介類乾燥システム1による工程を魚介類干物製造方法として捉え、その実施の形態を説明することと同義である。
図3は本発明の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの加熱工程において、制御装置により実行される昇温工程及び第1の維持工程の制御の内容を示すフローチャートである。なお、破線は昇温工程(ステップS2)及び第1の維持工程(ステップS3)のそれぞれで実行される制御の内容の範囲を示している。
一方、
図4は本発明の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの冷却工程において、制御装置により実行される降温工程及び第2の維持工程の制御の内容を示すフローチャートである。なお、破線は降温工程(ステップS4)及び第2の維持工程(ステップS5)のそれぞれで実行される制御の内容の範囲を示している。
【0039】
加熱工程では、
図3に示すように、ステップS2が開始された際に制御装置9は初めカウンター9aのカウント値Iを1に設定し(ステップS21)、次いで制御装置9は外気吸気用バルブ3cを開けてバルブ7を閉じるように制御する(ステップS22)。そして、制御装置9は送風ファン6の出力を強とし、加熱装置4の出力をONにして(ステップS23)、乾燥室2内の温度Tが第1の目標温度T
Hとなるように昇温させていく。その後、制御装置9は乾燥室2内の温度Tが第1の目標温度T
Hより低い温度で予め設定された「下限値」に到達したかを判定し(ステップS24)、到達していれば第1の維持工程(ステップS3)に移り、到達していなければ引き続き昇温されるように制御する。
なお、第1の目標温度T
Hより低い温度で任意に設定される「下限値」は、乾燥室2内の温度Tが昇温時に第1の目標温度T
Hから大きくオーバーシュートしないようにするために設定される値であり、加熱装置4及び送風ファン6の仕様、昇温速度に応じて使用者が任意に決定することができる。
【0040】
そして、乾燥室2内の温度Tが第1の目標温度THの「下限値」に到達したと確認された場合(ステップS24)には、制御装置9は乾燥室2内の温度Tを第1の目標温度THに維持するように、第1の維持工程であるステップS3を開始する。このステップS3では、制御装置9は初め送風ファン6の出力を弱め、加熱装置4の出力を調整し(ステップS31)、乾燥室2内の温度Tが第1の目標温度THに維持されるように制御する。次いで、制御装置9はカウンター9aのカウント値Iを1だけインクリメントする(ステップS32)。そして、制御装置9は、ステップS32を所定の周期で、カウント値Iが繰り返し回数Nに到達するまで実行する(ステップS33)。なお、この繰り返し回数Nは、当該周期との積が第1の維持時間に相当するように設定されるものである。したがって、ステップS3において、乾燥室2内に保管された魚介類は第1の維持時間が経過するまでの間、第1の目標温度THに維持されることになる。
そして、制御装置9は、ステップS33においてカウント値Iが繰り返し回数Nに到達したと判定した場合には、加熱装置4の出力をOFFにして加熱工程を終了し(ステップS34)、次の冷却工程(ステップS4、ステップS5)に移行する。
【0041】
冷却工程では、
図4に示すように、制御装置9はステップS4が開始されると、まずカウンター9aのカウント値Jを1に設定し(ステップS41)、外気吸気用バルブ3cを閉じるとともにバルブ7を開ける(ステップS42)。そして、制御装置9は送風ファン6の出力を強とし、冷却装置5の出力をONとして(ステップS43)、乾燥室2内を第2の目標温度T
Lとなるように降温させる。その後、制御装置9は乾燥室2内の温度Tが第2の目標温度T
Lよりも高い温度で任意に設定された「上限値」に到達したかを判定し(ステップS44)、到達していれば第2の維持工程(ステップS5)に移り、到達していなければそのまま降温していくように制御する。
なお、第2の目標温度T
Lよりも高い温度で任意に設定される「上限値」は、上述した第1の目標温度T
Hの場合と同様に、乾燥室2内の温度Tが降温時に第2の目標温度T
Lから大きくオーバーシュートしないようにするために設定される値であり、冷却装置5及び送風ファン6の仕様、降温速度に応じて使用者が任意に決定することができる。
【0042】
ここで、ステップS43において、冷却装置5及び送風ファン6の出力が強過ぎる(急冷となる)場合には、乾燥室2内の湿度によっては結露が起こり、魚介類の表面が濡れてしまうことが想定される。このような事態を防ぐため、予め最適な第1の目標温度TH、第2の目標温度TL及び降温速度を決定しておく必要がある。
具体的には、第1の目標温度THのときに想定される相対湿度において、第2の目標温度TLまで降温させた場合にその相対湿度が100%とならないように、すなわち、第2の目標温度TLが露点温度とならないように設定する必要がある。予め第1の目標温度THとその際の相対湿度が想定可能であれば、予め第1の目標温度THと第2の目標温度TLをデータセットとして制御装置9において設定可能である。したがって、その場合にはその第1の目標温度THとなるように加熱工程では制御し、その第2の目標温度TLとなるように冷却工程では制御することになる。
しかし、予め第1の目標温度THに対して想定される相対湿度が不明な場合には、第1の目標温度THにおける第1の維持時間において温湿度計測器2dによって測定される温度データと湿度データから、相対湿度が100%となる温度、すなわち露点温度を制御装置9において演算し、その露点温度以上の第2の目標温度TLを設定可能なようにするとよい。
【0043】
その場合には制御装置9に湿り空気線図データを格納しておき、温湿度計測器2dから収集される温度データと湿度データを用いて露点温度を演算可能としておく。そして、第1の目標温度THとしてはある程度安全側に設定してその温度となるように加熱工程で制御し、冷却工程では制御装置9で演算した露点温度以上となる第2の目標温度TLを0℃から20℃の間で設定し制御する。この温度の設定は、露点温度が0℃から20℃の間となる場合には、その値あるいは所望に定めた尤度を持たせた値として自動的に制御装置9によって設定されるようにしてもよい。
なお、後述する第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの制御方法では、冷却装置5による結露水をドレンから排水することについて記載しているが、第1の実施の形態のステップS43においても急冷に伴う結露水を冷却装置5で処理してもよいとも考えられる。しかし、急冷の場合には冷却装置5ですべての結露水を収集することが困難であるとも考えられ、被乾燥物の表面で結露する可能性があるため、上記のように制御装置9を用いた予めの第1の目標温度THと第2の目標温度TLのセットの設定や露点温度の演算が必要と考えられる。
また、降温速度が速いとオーバーシュートの可能性があり、その際に結露する可能性もあることから、降温速度を決定するにあたって、温湿度計測器2dによって乾燥室2内の温度Tとともに計測される湿度に基づき予測される露点温度を考慮して決定してもよい。これにより、確実に結露を起こし難くすることが可能となる。
【0044】
さらに、ステップS42では、外気吸気用バルブ3cを閉じるとともにバルブ7を開けているが、ステップS43でより急冷するために、循環口2aに循環口用バルブ(図示せず)を設けておき閉止あるいは開度を下げるようにしてもよい。これによって、乾燥室2から第1の通気路3へ冷却装置5を介さず流入する空気を止めるあるいは減少させることが可能であり、空気をより急速に冷却することが可能である。
また、同様に排気口2eにも排気口用バルブ(図示せず)を設けておいて閉止あるいは開度を下げるようにしてもよい。既に外気吸気用バルブ3cを閉じていることから排気口2eが開いていても外気が流入することはないと考えられるものの、魚介類乾燥システム1全体からの空気の微量な漏れに対して排気口2eから乾燥室2内の空気よりも高温あるいは多湿の外気の流入もないとは言えないので、排気口用バルブを設けておいて冷却された空気の排気を防止してもよい。
【0045】
次に、乾燥室2内の温度Tが第2の目標温度TLの「上限値」に到達したと確認された場合(ステップS44)、制御装置9は乾燥室2内の温度Tを第2の目標温度TLに維持するように、第2の維持工程であるステップS5を開始する。このステップS5では、制御装置9は送風ファン6の出力を弱め、冷却装置5の出力を調整し(ステップS51)、乾燥室2内の温度Tが第2の目標温度TLに維持されるように制御する。次いで、制御装置9はカウンター9aのカウント値Jを1だけインクリメントする(ステップS52)。
【0046】
そして、制御装置9は、ステップS52を所定の周期で、カウント値Jが繰り返し回数Mに到達するまで実行する(ステップS53)。なお、この繰り返し回数Mは、上述した繰り返し回数Nと同様に、ステップS52を繰り返す周期との積が第2の維持時間に相当するように設定されたものである。したがって、ステップS5では、乾燥室2内に保管された魚介類は第2の維持時間が経過するまでの間、第2の目標温度T
Lに維持されることになる。
そして、制御装置9は、ステップS53においてカウント値Jが繰り返し回数Mに到達したと判定した場合には、冷却装置5及び送風ファン6をOFFにして冷却工程を終了する(ステップS54)。なお、加熱工程と冷却工程を繰り返し行う場合には、
図2に示したように、ステップS54の後、ステップS6へと移行することになる。
【0047】
以上のような制御が行われる魚介類乾燥システム1において、乾燥処理される魚介類の温度と重量比が時間とともにどのように変化するかについて、
図5を用いながら説明する。
図5は、魚介類を乾燥させる際の魚介類の温度と重量比の時間依存性を示すグラフであり、
図5(a)は一般的な乾燥システムによる場合であり、
図5(b)は本実施の形態に係る魚介類乾燥システムによる場合である。
なお、図中にある重量比とは、乾燥前の魚介類の重量を100とした場合の乾燥処理過程における魚介類の重量の比率をパーセントで表示したものである。また、乾燥温度とは加熱工程で設定されている第1の目標温度T
Hを示すものであり、製品温度とは乾燥処理されている魚介類の温度である。さらに、
図5におけるグレーゾーンは菌の増殖する温度である20℃乃至50℃の領域を示している。
【0048】
図5(a)、
図5(b)ともに、魚介類の重量比及び乾燥温度の時間依存性は同じである。しかしながら、
図5(a)では製品温度が常にグレーゾーンの中にあるのに対し、
図5(b)では冷却工程時の製品温度が上述したグレーゾーンの中にはなく、20℃よりも低い温度に維持される。すなわち、
図5(b)に示す魚介類乾燥システム1の場合、
図5(a)に示す一般的な乾燥システムとは異なり、魚介類は乾燥処理の行われる時間の半分程度を、菌の増殖が起こり難い0℃乃至20℃の範囲内の温度下において緩やかに乾燥されることになる。
【0049】
[1-4;第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの作用・効果について]
以上のような魚介類乾燥システム1であれば、外気吸気用バルブ3cが開き、かつバルブ7が閉じた状態で送風ファン6を稼働させることで、乾燥室2内の湿った空気は循環口2aから排出された後、緩やかに外気吸気口3bから入る外気と置換されながら第1の通気路3内を通過して再び乾燥室2の吐出口2bから乾燥室2内へ流入するように循環するという作用を有する。また、外気吸気用バルブ3cが閉じて、かつバルブ7が開いた状態で送風ファン6を稼働させることで、乾燥室2内の空気を循環口2aとともに冷却用吸気口2cから排出させた後、第1の通気路3とともに第2の通気路8を通過させて再び乾燥室2の吐出口2bから乾燥室2内へ流入するように循環させるという作用も有する。そして、加熱装置4は第1の通気路3内と乾燥室2との間を循環する空気を加熱して乾燥室2内の温度Tを上昇させるという作用を有する。加えて、冷却装置5は、第2の通気路8を通過する空気を冷却させて乾燥室2内の温度Tを低下させるという作用を有する。
【0050】
また、制御装置9は、温湿度計測器2dにより計測された乾燥室2内の温度Tが第1の目標温度THに第1の維持時間が経過するまで外気吸気用バルブ3cを開けながらバルブ7を閉じて加熱装置4及び送風ファン6の出力を制御する加熱工程を実行する。この加熱工程が実行されることにより、乾燥室2内の魚介類が第1の目標温度THに第1の維持時間が経過するまで維持されるという作用を有する。
さらに、制御装置9は、温湿度計測器2dにより計測された乾燥室2内の温度Tが、菌の増殖の抑えられる第2の目標温度TLに第2の維持時間が経過するまで維持されるように、外気吸気用バルブ3cを閉じながらバルブ7を開けて冷却装置5及び送風ファン6の出力を制御する冷却工程を実行する。すなわち、乾燥室2内の魚介類は、第2の目標温度TLに第2の維持時間が経過するまで維持されるという作用を有する。
【0051】
加えて、制御装置9が加熱工程、冷却工程において行う制御は、加熱装置4、冷却装置5、送風ファン6の出力に強弱を付けるように調整しながら制御する。これにより加熱工程又は冷却工程が実行されている間、強い温風又は冷風だけでなく微弱な温風又は冷風を魚介類に当てることも可能となる。
なお、制御装置9は、冷却工程において乾燥室2内の温度と湿度のデータを温湿度計測器2dによりリアルタイムで収集し、上述したとおり、この温度と湿度に基づき演算される露点温度を考慮しながら冷却装置5及び送風ファン6の出力を制御するようにしてもよい。このような構成とすることで、魚介類乾燥システム1は、乾燥室2内に結露が発生しないように、そして適切な降温速度で乾燥室2内の温度Tを低下させることができるようになる。
【0052】
また、
図2に示すように、制御装置9がカウンター9aを動作させながら制御することで、魚介類乾燥システム1は加熱工程と冷却工程を繰り返し実行することができるという作用を有する。
【0053】
以上の作用を有する魚介類乾燥システム1であれば、以下の効果を有すると考えられる。すなわち、魚介類乾燥システム1は、制御装置9の制御により送風ファン6により乾燥室2を通過しながら循環する空気を加熱又は冷却させることで、乾燥室2内の温度Tを変化させることができる。また、魚介類乾燥システム1は、制御装置9が上述した加熱工程及び冷却工程を実行することで、乾燥室2内の温度Tを予め設定した第1の目標温度TH又は第2の目標温度TLに所定の時間(第1の維持時間又は第2の維持時間)が経過するまで維持することができる。このような制御装置9の実行する処理は、天日干しでの乾燥処理と同じものとなる。すなわち、加熱工程は日中の天日により魚介類を乾燥させる処理に、冷却工程は天日干しの際夜間の冷気や寒風に曝して乾燥させる処理に対応する。このように魚介類乾燥システム1は、天日干しと同様の魚介類の処理を、乾燥室2内で自動かつ簡単に行うことができる。
【0054】
加えて、外気から隔離された乾燥室2内において魚介類の乾燥処理が行われること、冷却工程では魚介類の温度が菌の増殖し難い0℃乃至20℃の範囲内に維持されることで、通常の天日干しに比べて外気に魚介類が曝されず外部からの雑菌や埃の付着が抑えられ、菌の増殖も抑制される。すなわち、衛生的な製造環境を構築することができ生産管理も容易になるため、不良率の低減にも寄与すると考えられる。
【0055】
さらに、制御装置9が加熱工程、冷却工程において行う制御は、上述したように加熱装置4、冷却装置5、送風ファン6の出力を調整しながら行われる。このため、乾燥室2内での結露が発生し難くなる効果もあると考えられる。加えて、乾燥により表面層が変質したり急激に体積収縮を起こしたりして表面にひび割れが起こり易いデリケートな魚介類(魚卵等)を対象とする場合には、加熱工程又は冷却工程において制御装置9は魚介類を微弱な温風又は冷風を当てるように制御し、魚介類がひび割れ等を起こさないように乾燥させることも可能となる。これにより、製品の不良率の低減にも繋げることができるようになる。
【0056】
また、過度に乾燥させて魚介類の表面の硬化を促進してしまうこともなくなるため、その表面を構成する分子の運動性を低下させたり分子のネットワーク構造を緻密化させたりして、この表面層を水分が通過し難くなることもない。このため、魚介類の内部の水分が表面へ移行し難くならないため、表層部と中心部とで水分の含有量は一定に維持され易くなり、場所により熟成度が変わらない高品質な商品の製造が可能となる。
【0057】
さらに、上述したように、冷却工程において制御装置9が温湿度計測器2dの計測する湿度に基づき演算される露点温度を考慮しながら冷却装置5及び送風ファン6の出力を制御するものでもよい。この場合、乾燥室2内の結露を一層発生し難くすることが可能となる。このような制御により、例えば、上述するステップS43において、結露が起こり魚介類の表面が濡れてしまうこともなくなる。この結果、追加の乾燥を行うことによる乾燥処理時間の延長、品質の低下を防ぐことが可能になると考えられる。
【0058】
また、魚介類乾燥システム1によれば、上述したように日中の天日により魚介類を加熱する処理に対応する加熱工程と、天日干しの際夜間の冷気や寒風に曝して冷却する処理に対応する冷却工程とを繰り返し行えるようになる。すなわち、天日干しを長期間に亘って行う必要のある魚介類(例えば肉厚の魚等)の乾燥を、天日干しと同様の条件で自動的に行うことが可能となる。この結果、長期に亘って天日干しを行う必要がある魚介類であっても、天候とは無関係に天日干しと同等の品質の干物を自動的に作ることができるようになる。また、悪天候の場合には屋内に移動させるといった手間も不要になるため、製造時の管理費・人件費といった費用の削減に繋げることができる。
【0059】
[2;第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの細部構造について]
[2-1;第2の維持工程(ステップS5)における制御について]
魚介類乾燥システム1では、制御装置9が、第2の維持時間が経過するまでの間、冷却装置5及び送風ファン6の出力をゼロとする時間を設けるものであってもよい。
このような場合であれば、第2の維持工程(ステップS5)において乾燥室2内にある魚介類が常に冷風に曝されることなく第2の目標温度TLに維持され、魚介類内部の水分の表面への拡散速度を上回る表面の乾燥を抑制するため、魚介類の表面は過度に乾燥することがなくなる。
なお、このような制御を実現するために、乾燥室2の断熱性を高めたり、制御装置9が冷却装置5及び送風ファン6を適宜制御したりしてもよい。
例えば、熱伝導性の低い材料である真空断熱材やグラスウールやロックウール等の無機繊維、硬質ウレタンフォームやポリスチレンフォーム等の発泡プラスチックを乾燥室2の周囲に断熱材として配置して断熱性を高め、乾燥室2内への熱の流入を抑えることで、乾燥室2内の温度Tが上昇し難くなり、魚介類が第2の目標温度TLに維持され易くなると考えられる。また、冷却装置5及び送風ファン6の出力をゼロとした後、熱の流入により乾燥室2内の温度Tが第2の目標温度TLから逸脱する場合には、制御装置9が冷却装置5及び送風ファン6の出力を再び上げるように制御してもよい。その場合、送風ファン6の出力はステップS4の際の出力よりも低くすることで、前述のとおり、魚介類内部の水分の表面への拡散速度を上回る表面の乾燥を抑制することが望ましい。そして、この制御により乾燥室2内の温度Tが再び第2の目標温度TLとなった場合には、制御装置9は冷却装置5及び送風ファン6の出力を再びゼロとするように制御する。これにより、断続的ではあるものの、魚介類が冷風に曝される時間が短くなり、魚介類の表面は過度に乾燥することがなくなる。
【0060】
一方、第2の維持工程(ステップS5)の間、制御装置9が冷却装置5の出力をゼロとし、かつ微風が発生されるように送風ファン6の出力を制御するものであってもよい。微風を発生させて空気を緩やかに循環させることで、魚介類乾燥システム1内に残る冷気を活用しながら、魚介類の表面を緩やかに乾燥させることができる。すなわち、冷却装置5及び送風ファン6の出力をゼロにした場合に近い乾燥処理を実現できるようになる。
さらに、加熱工程と冷却工程との間に、外気吸気口3b及び排気口2eを開けて乾燥室2内の空気を外気と置換させるという工程を加えてもよい(
図1を参照)。このような工程により、加熱工程の際に魚介類乾燥システム1に加えられた熱を僅かでも除去しておくことで、冷却工程での冷却効率を向上させ、第2の維持工程(ステップS5)の間に乾燥室2内の温度Tが徐々に上昇するのを抑えることが可能になると考えられる。
【0061】
以上の作用を有する場合、魚介類乾燥システム1は冷却工程において魚介類を緩やかに乾燥させることができる。この結果、冷却工程における魚介類の表面層の変質及び体積収縮が一層抑えられる。そして、上述したように表面にひび割れが発生し易いデリケートな魚卵等の乾燥処理も一層容易に行えるようになる。
また、冷却工程において魚介類の内部に存在する水分が表面へ移行し易くなるため、表層部と中心部といった場所に関わらず水分の含有量が一様となり、場所によらず熟成度の均一な魚介類の干物を作製し易くなる。
【0062】
[2-2;乾燥室内の風の向きについて]
図1に示すように、魚介類乾燥システム1の乾燥室2では、互いに平行をなすように垂設されて乾燥室2内を3つの区画に仕切る第1の多孔板2fと第2の多孔板2gを備え、3つの区画は乾燥室2の内壁2hと第1の多孔板2fの間に形成される第1の区画Aと、乾燥室2の内壁2hと第2の多孔板2gの間に形成される第2の区画Bと、第1の多孔板2fと第2の多孔板2gの間に形成されている第3の区画Cとからなっていてもよい。ここで、図示しないが、第1の多孔板2fの開口率は第2の多孔板の2gの開口率よりも大きいものとなる。また、第3の区画Cには魚介類を保管可能なように複数の棚板2iが上下方向に複数配置されている。なお、
図1には複数の棚板2iが設置されているが、煩雑化するため、一部の棚板2iにのみ符号を付している。
加えて、第1の通気路3と繋がる吐出口2bが、第1の区画Aに連通するように乾燥室2の内壁2hに設けられ、第1の通気路3と繋がる循環口2a及び第2の通気路8に繋がる冷却用吸気口2cが第2の区画Bに連通するように乾燥室2の内壁2hに設けられている。
【0063】
このような構成の魚介類乾燥システム1であれば、吐出口2bから入った空気が乾燥室2内の第1の区画Aに入ることで、第1の区画A内の空気が第1の多孔板2fの孔から第3の区画C側に均一に押し出されるという作用を有する。そして、第1の区画Aより押し出された空気は、第1の多孔板2fより開口率の小さな第2の多孔板2gに圧力を加えながら第2の多孔板2gを通過するようになり、第2の区画B側に略均一に押し出されるという作用を有する。
そして、第2の区画B側に入った空気は、循環口2a又は冷却用吸気口2cにより乾燥室2内から第1の通気路3又は第2の通気路8に排出されるという作用を有する。また、第3の区画C内に入る空気は第1の多孔板2f及び第2の多孔板2gを通過することで、第3の区画C内を水平方向に流れる(横吹きになる)ようになる。
【0064】
以上の作用を有する魚介類乾燥システム1であれば、
図1に示すように、第3の区画C内に入った空気が第3の区画C内を水平方向に流れるため、第3区画C内において魚介類を載置する複数段の棚板2iが上下方向に配置されていても、棚板2i及び魚介類(図示せず)によって空気の流れは阻害され難くなる。この結果、第3の区画C内では場所によらず温風又は冷風が通過するようになり温度ムラの発生が抑制され、魚介類の乾燥ムラの発生を防いだり、予期せぬ菌の繁殖も防いだりすることが可能となる。そして、製造される干物の不良率が低減することで、利益率を増加させることも可能となる。
【0065】
[3;第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムについて]
本発明の第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの構成、作用並びに効果について、
図6及び
図7を用いながら説明する。なお、既に説明した
図2、
図3乃至
図5に加えて
図6及び
図7を用いて、第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システム1´が、第1の実施の形態の内容とは異なる冷却工程の内容について説明することは、魚介類乾燥システム1´による工程を魚介類干物製造方法として捉え、その実施の形態を説明することと同義である。
第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システム1´は、
図1に示されるとおり第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システムと同一である。また、
図3に示される第1の実施の形態に係る制御装置9による加熱工程、及び
図4に示される冷却工程のうちステップS4までの制御方法は同一であるものの、冷却工程のステップS5における制御方法が異なる。
図6は、本発明の第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムにおいて実行される冷却工程のフローチャートであり、
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムによる魚介類を乾燥させる際の魚介類の温度と重量比の時間依存性を示すグラフである。
第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システムの冷却工程では、
図4に示されるステップS44で制御装置9が乾燥室2内の温度Tが第2の目標温度T
Lよりも高い温度で任意に設定された「上限値」に到達したかを判定し、到達していれば、
図6のステップS5´に移り、到達していない場合にはそのまま降温していくように制御する。「上限値」の概念は第1の実施の形態におけるものと同一である。
ステップS5´では、制御装置9が乾燥室2内の温度Tを第2の目標温度T
Lに維持するように制御する。
【0066】
具体的には、ステップS51´では制御装置9は送風ファン6の出力を弱め、冷却装置5の出力に加えて、冷却装置5の下流側に設置されている加熱装置4の出力も調整する。第2の実施の形態においては、第2の目標温度TLよりもΔT℃低い温度となるように冷却装置5の出力を制御しつつ、その下流側の加熱装置4では逆にΔT℃ほど上昇するように出力を調整する。したがって乾燥室2へ供給される際には第2の目標温度TLとなるように制御されている。このようにして乾燥室2内の温度Tが第2の目標温度TLに維持されるように制御する。
ΔT℃は魚種等に応じて予め任意、所望に定めることが可能な温度差であるが、例えば2~3℃程度である。
このようにΔT℃を設けることで第2の目標温度TLで乾燥室2内の空気を循環させるよりも、冷却装置5で低温にすることで結露を促し、加熱装置4による加温と相俟って除湿によって空気を乾燥させることが可能である。
したがって、急冷後に菌の増殖する温度帯を抜けた低温状態でも乾燥させることが可能であり、加熱工程における乾燥と併せることで全体として乾燥時間の短縮を図ることが可能であり、被乾燥物である魚介類への負荷を低減しながら緩やかに乾燥させることが可能である。
なお、冷却装置5で発生する結露水はドレンを設けて集めて排出できるようにしておくとよい。また、制御装置9による制御のために、冷却装置5から出口温度のデータが入力部9bを介して制御装置9に送信される。
【0067】
次に、制御装置9はカウンター9aのカウント値Jを1だけインクリメントする(ステップS52´)。
そして、制御装置9は、ステップS52´を所定の周期で、カウント値Jが繰り返し回数Mに到達するまで実行する(ステップS53´)。なお、この繰り返し回数Mは、第1の実施の形態と同様のものであるので、ステップS5´でも乾燥室2内に保管された魚介類は第2の維持時間が経過するまでの間、第2の目標温度T
Lに維持されることになる。
そして、制御装置9は、ステップS53´においてカウント値Jが繰り返し回数Mに到達したと判定した場合には、冷却装置5、加熱装置4及び送風ファン6をOFFにして冷却工程を終了する(ステップS54´)。なお、加熱工程と冷却工程を繰り返し行う場合には、第1の実施の形態の説明で
図2に示したように、ステップS54´の後、ステップS6へと移行することになる。
第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システム1のステップS51の制御では、ΔT℃を設けることなく第2の目標温度T
Lで乾燥室2内の空気を循環させて結露しないので、ステップS5で乾燥させることができないが、第2の実施の形態ではこのように冷却工程のステップS5´を制御することで、ΔT℃を設けて冷却装置5で低温にすることで結露させてドレン排水を行いつつ、加熱装置4によって第2の目標温度T
Lまで加温することで除湿して空気を乾燥させることが可能である。
したがって、低温状態でも乾燥させることが可能であり、加熱工程における乾燥と併せて全体として乾燥時間の短縮を図ることが可能であり、間欠運転も相俟って乾燥コストを下げることも可能である。しかも、被乾燥物である魚介類への急激な乾燥を避けて緩やかに乾燥させることが可能であり、魚介類へのダメージを低減することも可能である。
なお、第2の実施の形態に係る魚介類乾燥システム1´と第1の実施の形態に係る魚介類乾燥システム1は同一であり、ステップS4までの制御方法は同一であることから、第2の実施の形態においても、ステップS42において循環口2aに循環口用バルブを設けておいて閉止あるいは開度を下げるようにしてもよいし、排気口2eにも排気口用バルブ(図示せず)を設けておいて閉止あるいは開度を下げるようにしてもよい。それらの効果も第1の実施の形態と同一である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明は魚介類を天日干しと同様の品質で乾燥させることが可能な乾燥システムに関するものであり、食品を乾燥させる技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1,1´…魚介類乾燥システム 2…乾燥室 2a…循環口 2b…吐出口 2c…冷却用吸気口 2d…温湿度計測器 2e…排気口 2f…第1の多孔板 2g…第2の多孔板 2h…内壁 2i…棚板 3…第1の通気路 3a…箱体 3b…外気吸気口 3c…外気吸気用バルブ 4…加熱装置 5…冷却装置 5a…冷却室 6…送風ファン 7…バルブ 8…第2の通気路 9…制御装置 9a…カウンター 9b…入力部 A…第1の区画 B…第2の区画 C…第3の区画 I,J,K…カウント値 M,N,L…繰り返し回数 TH…第1の目標温度 T…乾燥室内の温度 TL…第2の目標温度