(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120844
(43)【公開日】2022-08-18
(54)【発明の名称】揚重機能を有する運搬構造体及び運搬システム
(51)【国際特許分類】
B60P 1/54 20060101AFI20220810BHJP
B66C 23/44 20060101ALI20220810BHJP
【FI】
B60P1/54 B
B66C23/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022017155
(22)【出願日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2021017035
(32)【優先日】2021-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】509200613
【氏名又は名称】株式会社横河NSエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】野島 昌芳
(72)【発明者】
【氏名】原田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】武野 正和
(72)【発明者】
【氏名】竹内 大輔
(72)【発明者】
【氏名】本多 克行
【テーマコード(参考)】
3F205
【Fターム(参考)】
3F205AA08
3F205CA05
3F205CA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】道路工事にあたって使用環境による制限がより少なくなる、揚重機能を有する運搬構造体を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、揚重機能を有する運搬構造体が提供される。この運搬構造体は、基台31と、揚重機構とを備える。運搬構造体を牽引又は搬送する車両2の運転者を中心に上下前後左右を定義すると、基台31は、前後に延在することで、その上に運搬物を積載可能に構成される。車両2に牽引又は搭載されることで、前方への移動を可能とする。揚重機構は、基台31に設けられる。ブーム46と、吊下機構47と、第1の変位機構とを備える。ブーム46は、前後に延在する。吊下機構47は、ブーム46に設けられ、運搬物を吊るして揚重可能に構成される。第1の変位機構は、ブームの水平姿勢を維持したまま吊下機構の上下及び前後の位置を可変させるように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚重機能を有する運搬構造体であって、
基台と、揚重機構とを備え、
前記運搬構造体を牽引又は搬送する車両の運転者を中心に上下前後左右を定義すると、
前記基台は、
前後に延在することで、その上に運搬物を積載可能に構成され、
前記車両に牽引又は搭載されることで、前方への移動を可能とし、
前記揚重機構は、
前記基台に設けられ、
ブームと、吊下機構と、第1の変位機構とを備え、
前記ブームは、前後に延在し、
前記吊下機構は、前記ブームに設けられ、前記運搬物を吊るして揚重可能に構成され、
前記第1の変位機構は、前記ブームの水平姿勢を維持したまま前記吊下機構の上下及び前後の位置を可変させるように構成される、もの。
【請求項2】
請求項1に記載の運搬構造体において、
前記第1の変位機構は、アームを備え、
前記アームは、前記ブームを左右の何れか一方から支持する片持ち式アームである、もの。
【請求項3】
請求項2に記載の運搬構造体において、
前記揚重機構は、フレームをさらに備え、
前記フレームは、
前記基台上に搭載され、
左右で対となるアーム取付部を備え、
前記アームは、
前記アーム取付部を介して、前記フレームに接続可能に構成され、
前記アームを接続する前記アーム取付部の左右のうち一方を選択することによって、前記ブームを支持する側を左右に変更可能に構成される、もの。
【請求項4】
請求項1~請求項3の何れか1つに記載の運搬構造体において、
前記第1の変位機構は、アームを備え、
前記アームは、前記基台上の支軸を中心として上下及び前後によって規定される面上を旋回可能に構成され、
前記基台と前記アームとがなす角により、前記吊下機構の上下及び前後の位置が決定されるように構成される、もの。
【請求項5】
請求項1~請求項4の何れか1つに記載の運搬構造体において、
前記揚重機構は、第2の変位機構をさらに備え、
前記第2の変位機構は、前記吊下機構の左右の位置を可変させるように構成される、もの。
【請求項6】
請求項5に記載の運搬構造体において、
前記第2の変位機構は、前記ブームの向きを、前後及び左右によって規定される面上で変化させ、これにより前記吊下機構の左右の位置を可変させるように構成される、もの。
【請求項7】
請求項1~請求項6の何れか1つに記載の運搬構造体において、
アウトリガーをさらに備え、
前記アウトリガーは、
前記基台の左右に非突出である構造を有し、
地盤と接地するように構成される、もの。
【請求項8】
請求項7に記載の運搬構造体において、
前記アウトリガーは、前後に配置された一対のアウトリガーであり、
前記一対のアウトリガーは、脚部と、桁部とを、2対1でそれぞれ備え、
2つの前記脚部は、
左右に配置され、且つ1つの前記桁部に接続され、
前記桁部が前記地盤と接地するように、前記桁部の上下の位置を可変とする、もの。
【請求項9】
請求項1~請求項8の何れか1つに記載の運搬構造体において、
前記運搬構造体は、トレーラ又はトラックの荷台である、もの。
【請求項10】
揚重機能を有する運搬システムであって、
運搬構造体と、車両とを備え、
前記運搬構造体は、請求項1~請求項9の何れか1つに記載の運搬構造体であり、
前記車両は、前記運搬構造体を牽引又は搬送するように構成される、もの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚重機能を有する運搬構造体及び運搬システムに関する。
【背景技術】
【0002】
道路用床版の架設等、道路工事を行う際に、クレーン等の揚重機能を有する装置を用いることがある。例えば、車両化した移動式クレーンや、設置式の橋形クレーン等が使用されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、単車線道路やトンネル内等、特許文献1に記載されるようなクレーン等を使用しづらい環境が存在する。すなわち、使用環境の制限が少ない揚重機能を有する装置が求められている。
【0005】
本発明では上記事情を鑑み、道路工事にあたって使用環境による制限がより少なくなる、揚重機能を有する運搬構造体を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、揚重機能を有する運搬構造体が提供される。この運搬構造体は、基台と、揚重機構とを備える。運搬構造体を牽引又は搬送する車両の運転者を中心に上下前後左右を定義すると、基台は、前後に延在することで、その上に運搬物を積載可能に構成される。車両に牽引又は搭載されることで、前方への移動を可能とする。揚重機構は、基台に設けられる。ブームと、吊下機構と、第1の変位機構とを備える。ブームは、前後に延在する。吊下機構は、ブームに設けられ、運搬物を吊るして揚重可能に構成される。第1の変位機構は、ブームの水平姿勢を維持したまま吊下機構の上下及び前後の位置を可変させるように構成される。
【0007】
このような態様によれば、道路工事にあたって使用環境による制限をより少なくすることができる。例えば、単車線道路やトンネル内等でこのような運搬構造体を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】運搬システム1の外観を示す右側面図である。
【
図4】運搬システム1の外観を示す右側面図である。
【
図5】アーム42を取り付ける側を左右から選択可能な態様を示す説明図である。
【
図6】
図1の部分拡大図であって、アーム42を回転させるためのシリンダ44に着目した図である。
【
図7】道路床版の張替え方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。
【0010】
1.基本構成
本節では、本実施形態に係る運搬システム1の基本構成について説明する。
図1及び
図2は、運搬システム1の外観を示す正面図である。
図3及び
図4は、運搬システム1の外観を示す右側面図である。
【0011】
この運搬システム1は、揚重機能を有するシステムである。基本構成として、運搬システム1は、車両2と、運搬構造体とを備える。以下、本実施形態に説明に際して、運搬構造体を牽引又は搬送する車両2の運転者を中心に上下前後左右を定義する。さらに、運搬構造体が車両2に牽引されるトレーラ3である場合を例に説明するものとする。
【0012】
(車両2)
車両2は、例えばトラクタヘッドである。車両2に関して、接続部21と、車輪22と、運転席23とが図示されている。接続部21は、車両2の後方に前後に延在するように設けられる。接続部21は、不図示のカプラを有し、車両2は、不図示のカプラを介してトレーラ3と接続されるとよい。接続された状態で、車両2は、トレーラ3を牽引するように構成される。
【0013】
車輪22は、車両2の下方に複数設けられ、地盤と接地するように構成される。
図1及び
図2では、車輪22として前方から後方に向かって、左方から視認可能な車輪22a,22b,22cが図示されている。もちろん、車両2には、車輪22a,22b,22cに対称性を有して対応する不図示の車輪22が車輪22a,22b,22cに対向するように設けられている。かかる不図示の車輪22は、車両2の右方から視認可能なものである。
【0014】
車輪22が車両2の有する不図示のエンジンから動力を受けることで、車輪22が駆動し、その結果、車両2が移動するように構成される。また、車両2の前方には、運転席23が設けられる。運転者は、運転席23に乗車して、車両2を操作、すなわち運転することで、トレーラ3とともに所望の場所へ車両2を移動させることができる。
【0015】
(トレーラ3)
トレーラ3は、車両2に不図示のカプラを介して接続されることで、牽引されるものである。すなわち、トレーラ3に運搬物を積載して、この運搬物を運搬することが可能となる。また本実施形態では、トレーラ3は、揚重機能を有する。さらに、トレーラ3は、基台31と、車輪32と、揚重機構4と、アウトリガー5とを備える。
【0016】
基台31は、前後に延在することで、その上に揚重物6となる運搬物を積載可能に構成される。揚重物6となる運搬物は、好ましくは、例えば、床版等の重量のある道路工事用の架設部品である。以後、運搬システム1を説明するにあたって、運搬物を道路に敷設する床版であるものとして説明し、運搬システム1を用いて行う運搬及び揚重の作業を、道路における床版の張替え工事であるものとして説明する。なお、あくまでも一例であり、運搬システム1の用途はこの限りではない。
【0017】
また、基台31は、車両2に牽引された場合に前方への移動を可能とする車輪32を有する。車輪32は、トレーラ3の下方に複数設けられ、地盤と接地するように構成される。
図1及び
図2では、車輪32として前方から後方に向かって、左方から視認可能な車輪32a,32b,32cが図示されている。また、
図3及び
図4に示されるように、トレーラ3は、車輪32a,32b,32cの内側に並列して設けられた3つの車輪32を有する、いわゆるダブルタイヤ方式が採用されている。もちろん、トレーラ3には、車輪32a,32b,32cに対称性を有して対応する車輪32(
図3~
図5参照)が車輪32a,32b,32cに対向するようにそれぞれ設けられている。かかる車輪32は、トレーラ3の右方から視認可能なものであるとともに、こちらについてもダブルタイヤ方式が採用されている。このようなダブルタイヤ方式を採用することで、車輪32の1つ当たりの荷重を分散させて、トレーラ3としての耐荷重性能を確保することができる。
【0018】
(揚重機構4)
揚重機構4は、基台31に設けられる。具体的には、揚重機構4は、フレーム40と、アーム取付部41と、アーム42と、ヒンジ43と、シリンダ44と、ヒンジ45と、ブーム46と、吊下機構47と、左右延在部48と、スライド機構49とを備える。特に、アーム42と、ヒンジ43と、シリンダ44と、ヒンジ45との組合せが、第1の変位機構の一例を構成しうる。また、スライド機構49は、第2の変位機構の一例である。
【0019】
ところで、本実施形態に係る揚重機構4は、第1の変位機構によって、前後に延在するブーム46及びブーム46の端部に設けられた吊下機構47の位置を変化させることができる。より具体的には、第1の変位機構は、ブーム46の水平姿勢を維持したまま吊下機構47の上下及び前後の位置を可変させるように構成される。これについては、後にさらに詳述する。
【0020】
フレーム40は、基台31上に搭載される。フレーム40は、左右で対となるアーム取付部41を備えている。アーム取付部41は、例えばヒンジ43を介してアーム42を回動可能に軸支する部品である。アーム42の端部に不図示の貫通孔を設け、これにアーム取付部41を挿通させて、アーム42を取り付けることができる。左右のアーム取付部41によるアーム42の選択的な取り付けについては、再度説明する。
【0021】
アーム42は、後述のブーム46を支持するように構成される。特に、
図1及び
図2に示されるように、アーム42は、トレーラ3の前方に設けられるアーム42fと、後方に設けられるアーム42rとから構成されうる。このように前後一対のアーム42f,42rによって、ブーム46を支持することで、後述のヒンジ43を介したアーム42の回動によらず、ブーム46の水平姿勢を維持することができる。
【0022】
好ましくは、
図3及び
図4に示されるように、第1の変位機構の一例であるアーム42は、ブーム46を左右の何れか一方から支持する片持ち式アームであるとよい。このように、アーム42を片持ち式とすることで、揚重物6である運搬物の幅の制限を広くすることができる。特に、道路の床版のような大型の揚重物6を運搬システム1を用いて運搬することが可能となる。
【0023】
また好ましくは、アーム42は、前述のアーム取付部41を介して、フレーム40に接続可能に構成されるとよい。さらに好ましくは、本実施形態では、アーム42を接続するアーム取付部41の左右のうち一方を選択することによって、ブーム46を支持する側を左右に変更可能に構成されるとよい。
図5は、アーム42を取り付ける側を左右から選択可能な態様を示す説明図である。
図5左側は、アーム42を左側のアーム取付部41Lを介してフレーム40に取り付けた態様が示されている。
図5右側は、アーム42を右側のアーム取付部41Rを介してフレーム40に取り付けた態様が示されている。
【0024】
前述の通り、アーム42が片持ち式アームであることから、このように、アーム42を取り付ける側を左右から選択できるようにすることで、作業に際して好ましい側の空間を空けることができる。これについて以下補足をする。例えば、日本国内では、左側通行が採用されている。そして、走行方向から見て左側に位置する走行車線と、右側に位置する追越車線とからなる片側2車線の道路床版を張り替える工事を考えるものとする。
【0025】
左側の車線である走行車線の床版を張り替える工事をする場合、アーム42を右側に取り付けることが好ましい。このような態様によれば、アーム42より左側の空間を、揚重する運搬物(吊荷とも言い、ここでは床版が該当する)を通過させる空間とすることができるとともに、右側の車線を通行する車両の安全性を担保することができる。
【0026】
同様に、右側の車線である追越車線の床版を張り替える工事をする場合、アーム42を左側に取り付けることが好ましい。このような態様によれば、アーム42より右側の空間を、吊荷を通過させる空間とすることができるとともに、左側の車線を通行する車両の安全性を担保することができる。さらに、通行車線とは反対側の空間を、吊荷を通過させる空間として利用することもできる。すなわち、単車線のみの規制下での工事が可能となる点に留意されたい。
【0027】
ヒンジ43は、フレーム40と、アーム42とを、アーム取付部41を介して接続する。アーム42は、ヒンジ43を支点又は支軸として回動可能に構成される。換言すると、第1の変位機構の一例であるアーム42は、基台31上の支軸であるヒンジ43を中心として上下及び前後によって規定される面P上を旋回可能に構成される。つまり、本実施形態では、基台31とアーム42とがなす角θにより、吊下機構47の上下及び前後の位置が決定されるように構成される。θの値は、例えば、0~180度であり、好ましくは、10~120度であり、さらに好ましくは、20~90度であり、具体的には例えば、0,5,10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60,65,70,75,80,85,90,95,100,105,110,115,120,125,130,135,140,145,150,155,160,165,170,175,180度であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0028】
例えば、
図1では、θが約30度の状態が示されており、ブーム46が前方且つ下方に寄った状態で支持されている。特に、運搬システム1が道路を走行している場合には、トンネル等の高さ制限を有する場所を通過する可能性があるため、θの値を小さくして、ブーム46の高さを低くすることが好ましい。また、走行中は作業半径をとる必要がないため、
図1に示されるように、ブーム46の先端に設けられた吊下機構47が、前後方向において基台31の内側に位置しているとよい。このように、θの値を小さくした状態において、運搬システム1の高さが、道路交通法等で規定される所定の高さよりも低くなるように実施することが好ましい。
【0029】
また例えば、
図2では、θが約90度の状態が示されており、ブーム46が後方且つ上方に寄った状態で支持されている。特に、運搬システム1がその揚重機能を用いて道路工事を実施している場合には、揚重するための高さをとる必要があるため、θの値を90度とすることで、ブーム46の高さを高くすることが好ましい。また、
図1に示される場合に比べて、ブーム46が後方に位置することで、作業半径をとることができている。
【0030】
すなわち、アーム42の回転という動作だけで、ブーム46の高さと吊下機構47に係る作業半径の両方を調整することができ、調整効率の高い揚重機構4を実現することができる。
【0031】
また、アーム42を回転させるために、例えば、アーム42を押し引き可能に構成された油圧シリンダ、ロボットシリンダ又はエアシリンダ等のシリンダ44を用いるとよい。
図6は、
図1の部分拡大図であって、アーム42を回転させるためのシリンダ44に着目した図である。シリンダ44は、フレーム40上に設けられ、ロッド部441を伸縮可能に構成される。ロッド部441の一端は、ヒンジ442を介して前方のアーム42fと接続されている。
図1又は
図6の状態から、シリンダ44が
図6におけるA方向にロッド部441を縮ませることで、アーム42fが引っ張られて、角θが大きくなる。また、アーム42fと、アーム42rとがブーム46を支持しているため、アーム42fの動きがブーム46を介してアーム42rに伝達され、アーム42rの傾斜する角θがアーム42fの傾斜する角θに同期されるとよい。すなわち、アーム42と、ブーム46とをピン接合やボルト接合等で固定しておくことで、シリンダ44の駆動によりブーム46の上下及び前後の位置を可変させることができる。
【0032】
ヒンジ45は、アーム42と、左右延在部48とを接続する。ヒンジ45を介することにより、角θに伴う前後方向を回転軸とする、左右延在部48の自転をさせずに、左右延在部48を旋回させることができる。
【0033】
図3及び
図4に示されるように、ブーム46は、スライド機構49を介して左右延在部48に吊り下げられるように設けられる。スライド機構49は、ブーム46とともに左右延在部48を左右方向に移動可能に構成される。
図3及び
図4では、後方側のアーム42rに接続された左右延在部48及びスライド機構49が示されているが、前方側のアーム42fについても同様の構成を有するとよい。換言すると、第2の変位機構の一例であるスライド機構49は、吊下機構47の左右の位置を可変させるように構成される。より具体的には、第2の変位機構の一例であるスライド機構49は、ブーム46の向きを、前後及び左右によって規定される面Q(不図示)上で変化させ、これにより吊下機構47の左右の位置を可変させるように構成される。このような構成により、ブーム46の左右方向の位置を調整することや、前後及び左右によって規定される面Q上での、ブーム46の向きを微調整することができ、揚重に際しての細かい位置設定や作業半径の調整を実現することができる。このとき、アーム42と、ブーム46とをピン接合やボルト接合等の固定を解除しておくことで、シリンダ44の駆動によりブーム46の左右の位置を可変させることができる。
【0034】
吊下機構47は、例えばブーム46の後方側の端部に設けられ、運搬物である揚重物6を吊るして揚重可能に構成される。吊下機構47の機構は特に限定されず、例えばトロリー471と、ワイヤーロープ472と、スプレッダ473とを含む。例えば、トロリー471は、ドラム駆動モータにより正逆回転する不図示のドラムを備え、ドラムに掛け回されたワイヤーロープ472を介して、揚重物6を吊るすためのスプレッダ473を吊り下げるように構成されればよい。そして、トロリー471のドラムが正逆回転することにより、スプレッダ473が昇降可能に構成されている。
【0035】
(アウトリガー5)
アウトリガー5は、揚重機構4におけるフレーム40に設けられ、地盤と接地するように構成される。アウトリガー5が地盤と接地していることによって、揚重機構4を用いた揚重の作業に際して、運搬システム1の安定性を確保することができる。ところで、アウトリガー5とは異なる一般的なアウトリガーは、車体から横方向にはみ出して、安定性を確保するものであるが、本実施形態では、アウトリガー5は、基台31の左右に非突出である構造を有する。このような構成によれば、アウトリガー5が対向車線にはみ出さないため、道路工事をすべき車線を規制するだけで、所望の道路工事、例えば床版の張替えを実施することができる。
【0036】
さらに好ましくは、
図1及び
図2に示されるように、アウトリガー5は、前後に配置された一対のアウトリガー5f,5rであるとよい。換言すると、アウトリガー5は、一般的なアウトリガーのように左右に分割されず、左右が一体化した構造を採用している点に留意されたい。このような態様によれば、床版下部にある主桁に直接アウトリガー5の反力を伝えることが可能となり、余分な敷き材を用意する必要がなくなる。
【0037】
また、
図3~
図5に示されるように、一対のアウトリガー5は、脚部53と、桁部54とを、2対1でそれぞれ備えるとよい。ここでは、1つの桁部54に対して、2つの脚部53である、脚部53Lと脚部53Rとが対応付けられている。2つの脚部53L,53Rは、左右に配置され、且つ1つの桁部54に接続される。脚部53は、桁部54が地盤と接地するように、桁部54の上下の位置を可変とする。例えば、脚部53Lと、脚部53Rとは、ジャッキ構造を有すればよい。
【0038】
図3の状態から、ジャッキ構造を有する脚部53Lと、脚部53Rとを伸ばすことによって、桁部54が地盤と接地し、特に前後方向の過重に対して運搬システム1を頑健に且つ安定化させることができる。工事に際しては、運搬システム1が該当する車線上に位置しながら床版の張替えを行うこととなるため、前後方向の加重に対する安定性が特に重要となることに留意されたい。すなわち、このような構成によって、使用環境の制限を抑えつつも、運搬システム1の安定性及び安全性を十分に担保することができる。
【0039】
2.運搬システム1を用いた床版の張替え方法
本説では、前述の運搬システム1を用いた道路床版の張替え方法について説明する。
図7は、道路床版の張替え方法の流れを示すフローチャートである。以下、
図7に示される各ステップに沿って説明をする。
【0040】
まず、工事現場、具体的には撤去したい旧床版が含まれる道路の車線の通行を規制する(ステップS001)。このとき、隣接する車線の通行規制をしないことが好ましい。
【0041】
続いて、新設したい新床版を基台31に搭載した運搬システム1を、新床版を生産する工場から工事現場へ出動させる(ステップS002)。このとき、アーム42の傾斜する角θを小さくして出動させることが好ましい。
【0042】
続いて、アーム42の傾斜する角θを可変させて、旧床版に合わせて、吊下機構47の高さと作業半径とを確保する(ステップS003)。このとき、アーム42の左右方向の位置又は向きを制御することで、吊下機構47の位置を微調整してもよい。
【0043】
続いて、吊下機構47を昇降させて、スプレッダ473に旧床版を吊るし、揚重によって道路から撤去するとともに、旧床版を基台31に積載する(ステップS004)。このとき、すでに積載されている新床版との物理的干渉を防止することが好ましい。
【0044】
続いて、再び、アーム42の傾斜する角θを可変させて、新床版に合わせて、吊下機構47の高さと作業半径とを確保する(ステップS005)。このとき、アーム42の左右方向の位置又は向きを制御することで、吊下機構47の位置を微調整してもよい。
【0045】
続いて、吊下機構47を昇降させて、スプレッダ473に新床版を吊るし、揚重によって基台31から所望する設置箇所の周辺に移動させるとともに、新床版を設置箇所に張り付ける(ステップS006)。
【0046】
最後に、撤去した旧床版を基台31に積載した運搬システム1を工事現場から工場に戻す(ステップS007)。
【0047】
以上のステップS002~S007を工事が可能な時間帯、例えば深夜の間に繰り返すことで、車線規制を抑制しつつ、複数の旧床版を新床版に張り替えるとよい。最後に、通行規制を解除して、その日の工事を終了する(ステップS008)。
【0048】
このような方法によれば、撤去したい旧床版の揚重、積載及び運搬と、新設したい新床版の運搬、揚重及び張付けとを1つの運搬システム1を用いて実施することができ、橋型クレーンの設置と、運搬車両とを別々に使用するといった従来手法に比べて、作業効率が大幅に向上する。また、アーム42が片持ちアームであり、且つその左右の位置を可変させることで、所望する側の空間を確保することができ、作業性の高さを維持することができる。さらに、アウトリガー5が左右方向に非突出であるため、隣接する車線を制限することなく、所望する車線を限られた時間規制するだけで工事を実施することができ、使用環境による制限を小さくすることが可能となる。
【0049】
3.その他
本実施形態に係る運搬システム1を、次のような態様で実施してもよい。
【0050】
(1)本実施形態では、シリンダ44におけるロッド部441がアーム42fに接続されることで、アーム42fの傾斜する角θを可変としていたが、これがアーム42rに接続されることで、アーム42rの傾斜する角θを可変としてもよい。あるいは、2つのシリンダ44を採用し、かかる2つのシリンダ44の伸縮動作を同期させることによって、それぞれの角θを可変としてもよい。
【0051】
(2)アーム42を回転させるために、シリンダ44に代えて、ジャッキ又は減速機等を用いてもよい。
【0052】
(3)スライド機構49に代えて、ブーム46を前後及び左右によって規定される面Q上で旋回させるための不図示の旋回機構を備えてもよい。このような態様によっても、吊下機構47の位置を調整することができる。
【0053】
(4)トレーラ3は、運搬構造体の一例に過ぎず、これに代えて、例えば、トラックの荷台として実施してもよい。すなわち、車両2に相当する不図示のトラックが、運搬構造体の一例である荷台を搬送するように構成されるとよい。
【0054】
(5)車両2と、運搬構造体の一例であるトレーラ3とを一体化させた運搬システム1が提供されてもよい。
【0055】
さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記運搬構造体において、前記第1の変位機構は、アームを備え、前記アームは、前記ブームを左右の何れか一方から支持する片持ち式アームである、もの。
前記運搬構造体において、前記揚重機構は、フレームをさらに備え、前記フレームは、前記基台上に搭載され、左右で対となるアーム取付部を備え、前記アームは、前記アーム取付部を介して、前記フレームに接続可能に構成され、前記アームを接続する前記アーム取付部の左右のうち一方を選択することによって、前記ブームを支持する側を左右に変更可能に構成される、もの。
前記運搬構造体において、前記第1の変位機構は、アームを備え、前記アームは、前記基台上の支軸を中心として上下及び前後によって規定される面上を旋回可能に構成され、前記基台と前記アームとがなす角により、前記吊下機構の上下及び前後の位置が決定されるように構成される、もの。
前記運搬構造体において、前記揚重機構は、第2の変位機構をさらに備え、前記第2の変位機構は、前記吊下機構の左右の位置を可変させるように構成される、もの。
前記運搬構造体において、前記第2の変位機構は、前記ブームの向きを、前後及び左右によって規定される面上で変化させ、これにより前記吊下機構の左右の位置を可変させるように構成される、もの。
前記運搬構造体において、アウトリガーをさらに備え、前記アウトリガーは、前記基台の左右に非突出である構造を有し、地盤と接地するように構成される、もの。
前記運搬構造体において、前記アウトリガーは、前後に配置された一対のアウトリガーであり、前記一対のアウトリガーは、脚部と、桁部とを、2対1でそれぞれ備え、2つの前記脚部は、左右に配置され、且つ1つの前記桁部に接続され、前記桁部が前記地盤と接地するように、前記桁部の上下の位置を可変とする、もの。
前記運搬構造体において、前記運搬構造体は、トレーラ又はトラックの荷台である、もの。
揚重機能を有する運搬システムであって、運搬構造体と、車両とを備え、前記運搬構造体は、前記運搬構造体であり、前記車両は、前記運搬構造体を牽引又は搬送するように構成される、もの。
もちろん、この限りではない。
【0056】
最後に、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0057】
1 :運搬システム
2 :車両
3 :トレーラ
31 :基台
4 :揚重機構
40 :フレーム
41 :アーム取付部
42 :アーム
46 :ブーム
47 :吊下機構
49 :スライド機構
5 :アウトリガー
53 :脚部
54 :桁部
6 :揚重物