(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120886
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/18 20060101AFI20220812BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B23Q15/18
G05B19/404 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021017914
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000133593
【氏名又は名称】株式会社ツガミ
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 翔吾
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA05
3C001KB01
3C001TA01
3C001TB01
3C001TB10
3C269AB02
3C269BB03
3C269CC01
3C269EF10
3C269MN16
3C269MN28
(57)【要約】
【課題】熱変位補正量の精度を高めることができる工作機械を提供する。
【解決手段】工作機械は、温度検出部と、スライド44と、スライド44を移動させるスライド移動機構と、スライド位置検出部47と、熱変位が基準状態でスライド位置検出部47によりスライド44の接触が検出されたときのスライド44の位置を基準位置として記憶するメモリと、熱変位が生じた状態において基準位置と検出位置の差分をずれ量として取得するずれ量取得部と、スライド44の位置に応じた位置補正係数を取得する位置補正係数取得部と、検出された温度に応じた温度補正係数を取得する温度補正係数取得部と、ずれ量、位置補正係数及び温度補正係数に基づき熱変位補正量を取得する熱変位補正量取得部と、熱変位補正量を加味してスライド44を移動させることによりワークの加工を行う加工処理部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を検出する温度検出部と、
ワークに対して相対的に移動可能に形成されるスライドと、
前記スライドを工具とともに前記ワークに対して相対的に移動させる移動機構と、
前記スライドの接近又は接触を検出するスライド位置検出部と、
熱変位が基準状態で前記スライド位置検出部により前記スライドの接近又は接触が検出されたときの前記スライドの位置を基準位置として記憶するメモリと、
前記基準状態に対して熱変位が生じた状態において前記基準位置と前記スライド位置検出部が前記スライドの接近又は接触を検出する検出位置の差分をずれ量として取得するずれ量取得部と、
前記スライドの位置に応じた位置補正係数を取得する位置補正係数取得部と、
前記温度検出部により検出された温度に応じた温度補正係数を取得する温度補正係数取得部と、
それぞれ取得された前記ずれ量、前記位置補正係数及び前記温度補正係数に基づき熱変位補正量を取得する熱変位補正量取得部と、
取得された前記熱変位補正量を加味して前記移動機構を介して前記スライドを前記ワークに対して相対的に移動させることにより前記ワークの加工を行う加工処理部と、を備える、
工作機械。
【請求項2】
前記移動機構は、
前記スライドの移動方向に沿って延びるボールねじと、
前記ボールねじの第1端部の伸びを吸収する吸収部と、
前記ボールねじの第2端部の伸びを規制する規制部と、
前記ボールねじの外周に嵌合されるナットと、
前記ボールねじを回転させることにより前記ナットとともに前記スライドを移動させる駆動部と、を備え、
前記位置補正係数取得部は、前記ワークを加工する際の前記スライドの位置が前記第1端部に近いほど取得する前記位置補正係数の値を大きくする、
請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記ワークを把持しつつ回転する主軸と、
前記工具を有し、前記スライドとともに移動する工具ユニットと、を備え、
前記移動機構は、前記主軸により把持された前記ワークの回転軸に対して交わる方向に前記スライドを移動させ、
前記基準位置は、前記交わる方向に沿って延びる前記ボールねじの前記主軸から遠い前記第1端部に対応して位置する、
請求項2に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の工作機械は、ボールねじの回転により移動するスライド部の位置を測定するタッチスイッチを備え、予め測定されたスライド部の位置(基準位置)とワーク加工前に測定されたスライド部の位置との差から熱変位量を求め、この熱変位量に基づいて補正量を算出する。
また、例えば、特許文献2に記載の熱変位補正方法は、温度センサにより検出された温度変化を用いて工作機械を構成する構成要素の熱変位量を算出し、算出した熱変位量に基づき工作機械を構成する構成要素の熱変位を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5883264号公報
【特許文献2】特開平3-79256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の構成では、ボールねじの熱変位量に応じた補正量となるため、工作機械全体としての熱変位を補正量に加味させることができない。
また、上記特許文献2に記載の構成では、温度変化に応じて間接的に熱変位量が算出されるため、実際の熱変位量を直接的に補正量に加味させることができない。
よって、上記特許文献1及び2の構成では、熱変位の補正量の精度には改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、熱変位補正量の精度を高めることができる工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る工作機械は、温度を検出する温度検出部と、ワークに対して相対的に移動可能に形成されるスライドと、前記スライドを工具とともに前記ワークに対して相対的に移動させる移動機構と、前記スライドの接近又は接触を検出するスライド位置検出部と、熱変位が基準状態で前記スライド位置検出部により前記スライドの接近又は接触が検出されたときの前記スライドの位置を基準位置として記憶するメモリと、前記基準状態に対して熱変位が生じた状態において前記基準位置と前記スライド位置検出部が前記スライドの接近又は接触を検出する検出位置の差分をずれ量として取得するずれ量取得部と、前記スライドの位置に応じた位置補正係数を取得する位置補正係数取得部と、前記温度検出部により検出された温度に応じた温度補正係数を取得する温度補正係数取得部と、それぞれ取得された前記ずれ量、前記位置補正係数及び前記温度補正係数に基づき熱変位補正量を取得する熱変位補正量取得部と、取得された前記熱変位補正量を加味して前記移動機構を介して前記スライドを前記ワークに対して相対的に移動させることにより前記ワークの加工を行う加工処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、工作機械において、熱変位補正量の精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る工作機械の正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る工具ユニットが省略された状態での工作機械の平面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る工作機械の側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る工作機械の部分的な側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るスライドの被検出部が機械座標原点に位置するときの概略図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る加工処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係るずれ量取得処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る基準温度と上限設定温度に対する温度範囲を示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る機械座標原点、検出位置、基準位置及びストロークエンドのX軸方向の位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態に係る工作機械について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、旋盤である工作機械1は、工作機械1全体の台であるベッドSと、主軸11を有する主軸ユニット10と、スライド移動機構40と、工具ユニット50と、温度検出部80と、制御部300と、を備える。
以下では、主軸11の回転軸に沿う軸線方向をZ軸方向と規定し、
図3に示すように、Z軸方向に直交する高さ方向(
図3の上下方向)に対して斜めに延びる方向をX軸方向と規定する。
【0010】
図1に示すように、主軸ユニット10は、ワークWを把持しつつ回転する主軸11と、主軸11を回転可能に支持する主軸台12と、を備える。主軸台12には、主軸11を回転させるワーク回転用モータ(図示せず)が内蔵されている。主軸ユニット10は、ベッドSに対して移動不能に構成される。
【0011】
図1に示すように、工具ユニット50は、主軸11により把持されたワークWを加工する。
工具ユニット50は、工具70を保持する工具保持部51と、工具保持部51を回転可能に支持する支持部52と、を備える。
工具保持部51は、タレットであり、外周に並ぶようにバイトである工具70を含む各種工具を保持可能に形成される。
支持部52は、工具保持部51をZ軸方向に沿って延びる回転軸51Cを中心に回転可能に支持する。支持部52には、工具保持部51を回転させるワーク回転用モータ(図示せず)が内蔵されている。
【0012】
スライド移動機構40は、工具ユニット50をX軸方向に移動させるX移動機構40Xと、工具ユニット50をZ軸方向に移動させるZ移動機構40Zと、を備える。
図4に示すように、X移動機構40Xは、駆動部41と、ボールねじ42と、ナット43と、スライド44と、スライドベース45と、回転支持部46a,46bと、カップリング部46cと、スライド位置検出部47と、エアブロー48と、保持部材49と、を備える。
【0013】
駆動部41は、モータであり、スライド44をX軸方向に移動させるためにボールねじ42を軸回転させる。駆動部41の出力軸41aは、ボールねじ42の両端のうち主軸11(
図3参照)から遠い第1端部E1にカップリング部46cを介して接続されている。カップリング部46cは、出力軸41aの回転をボールねじ42に伝達するとともにボールねじ42の伸びを吸収する継ぎ手である。カップリング部46cは、ボールねじ42の伸びに応じて弾性変形する弾性部材、例えば、図示しない板ばねを有している。
ボールねじ42は、X軸方向に沿って延び、回転支持部46a,46bを介してスライドベース45に軸回転可能に支持される。
ナット43は、ボールねじ42が軸回転することによりボールねじ42に沿って移動可能となるようにボールねじ42の外周に嵌合されている。
スライド44はナット43に固定され、ナット43とともにX軸方向に沿って移動可能に形成される。スライド44には工具ユニット50の支持部52が固定される。スライド44は、スライド位置検出部47に接触可能に、スライド位置検出部47に対向する側面に柱状に形成される被検出部44aを備える。スライド44及び工具ユニット50は、ボールねじ42の熱変位に伴いX軸方向に移動する。
【0014】
回転支持部46a,46bは、スライドベース45に収容され、ボールねじ42の両端を回転可能に支持する。回転支持部46aは、ボールねじ42の両端のうち主軸11(
図3参照)に近い第2端部E2の周囲に設けられる軸受を有する。回転支持部46bは、ボールねじ42の主軸11から遠い第1端部E1の周囲に設けられる軸受を有する。回転支持部46bは、ボールねじ42の第1端部E1が伸びても変位しないようにスライドベース45に固定されている。ボールねじ42の第1端部E1は、ボールねじ42の第2端部E2よりもベッドS(
図3参照)から離れた位置に設けられる。
回転支持部46aはボールねじ42のX軸方向の伸びを規制する。カップリング部46cはボールねじ42のX軸方向の伸びを吸収する。これにより、ボールねじ42は、
図4の矢印J1に示すように、温度上昇により駆動部41に向かって伸びる。従って、温度上昇によるボールねじ42の第1端部E1のX軸方向の変位は、第2端部E2のX軸方向の変位に比べて大きくなる。
【0015】
図4に示すように、保持部材49は、回転支持部46bの上部に固定されており、スライド位置検出部47及びエアブロー48を保持する。保持部材49は、温度上昇によるボールねじ42の熱変位に関わらず変位しない。
図5に示すように、保持部材49には、スライド位置検出部47の設置作業を容易とするためにスライド位置検出部47に対応する部位に凹部49aが形成されている。凹部49aは、スライド44の被検出部44aに対向するように形成される。
【0016】
スライド位置検出部47は、本例ではタッチスイッチである。スライド位置検出部47は、スライド44が接触したことを検出した検出信号を制御部300(
図1参照)に出力する。
図4に示すように、スライド位置検出部47は、ボールねじ42の第1端部E1の径方向外側、本例では、上方向に位置する。
図5に示すように、スライド位置検出部47は、棒状の接触検出部材47aを備え、接触検出部材47aの先端に被検出部44aが接触することによりスライド44が接触したことを検出する。
エアブロー48は、スライド位置検出部47とスライド44の被検出部44aの間の切粉等の異物を吹き飛ばすエアを供給する。
図4に示すように、エアブロー48は、スライド位置検出部47よりもボールねじ42の第1端部E1の径方向外側、本例では、上方向に位置する。
【0017】
図1及び
図2に示すように、Z移動機構40Zは、X移動機構40Xと同様に、駆動部40Z1と、ボールねじ40Z2と、ナット40Z3と、回転支持部40Z5と、スライド40Z4と、を備える。さらに、Z移動機構40Zは、スライド40Z4がZ軸方向にスライド可能に嵌まる一対のレール40Z6を備える。一対のレール40Z6は、Z軸方向に沿って延び、平行をなすように並べられている。なお、
図2では、工具ユニット50の図示が省略されるとともに、スライド40Z4のレール40Z6に嵌まる部位のみが図示されている。
ボールねじ40Z2はZ軸方向に沿って延びる。スライド40Z4には、X移動機構40Xが搭載されている。駆動部40Z1がボールねじ40Z2を軸回転させると、ナット40Z3がスライド40Z4及びX移動機構40XとともにZ軸方向に移動する。
【0018】
図2に示すように、温度検出部80は、工作機械1の温度を検出し、この検出結果を制御部300に出力する。本例では、温度検出部80は、ベッドSに固定されている。より詳しくは、温度検出部80は、ベッドSの上面における工具ユニット50に高さ方向に対向する位置に設けられる。
【0019】
図1に示すように、制御部300は、主軸ユニット10、スライド移動機構40及び工具ユニット50を制御する。
制御部300は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、CPUによる処理の手順を定義したプログラム(例えば、後述する加工処理)を記憶するROM(Read Only Memory)等のメモリ301を備える。
メモリ301には、プログラムの他に、基準位置P1、位置補正係数A1~A8及び温度補正係数Bを求める後述する式(1)に関するデータ等が記憶されている。
【0020】
基準位置P1は、
図5に示すように、工作機械1に熱変位がない基準状態でスライド位置検出部47によりスライド44の接触が検出されるスライド44の位置をX軸方向の機械座標で示す。この基準状態とは、例えば、工作機械1の動作停止後に熱的な平衡状態となったときの状態を言う。
【0021】
基準位置P1の設定方法について説明する。この設定作業は、例えば、作業者及び作業者の操作により行われてもよいし、制御部300が自動で行ってもよい。
まず、制御部300は、工作機械1、特に、ボールねじ42に熱変位がない基準状態で、スライド移動機構40を介して、
図5に示すように、スライド44(正確には被検出部44a、以下同様)をX軸方向の機械座標原点P0に移動させる。機械座標原点P0は、スライド44のストロークエンドPzに到達しない位置である。
そして、スライド位置検出部47を被検出部44aの近傍に設置する。例えば、この際、スライド位置検出部47が被検出部44aにX軸方向に1mm程度離れた距離に設置される。
次に、制御部300は、エアブロー48を介してエアをスライド位置検出部47と被検出部44aの隙間に供給した後、スライド移動機構40を介してスライド44をスライド位置検出部47に向けて移動させる。この際、スライド44の移動速度は加工処理時(例えば、後述するステップS107の処理時)に比べて低速であり、スライド44の最大移動距離は、例えば、2mmである。そして、制御部300は、スライド位置検出部47からスライド44が接触したことを検出する検出信号を受けると、エアブロー48からのエアの供給とスライド44の移動を停止するとともに、このときのスライド44の機械座標を基準位置P1としてメモリ301に記憶する。
図9に示すように、基準位置P1は、X軸方向において機械座標原点P0とストロークエンドPzの間に位置する。なお、制御部300は、スライド位置検出部47から検出信号を受け取らなかったときには、エラーである旨を作業者に通知する。最後に、制御部300は、スライド44を機械座標原点P0に戻す。
以上で、基準位置P1の設定が終了となる。
【0022】
図1に示すように、制御部300は、機能ブロックとして、ずれ量取得部302と、位置補正係数取得部303と、温度補正係数取得部304と、熱変位補正量取得部305と、加工処理部306と、を備える。
この各機能ブロックの動作の説明とともに、制御部300により実行される加工処理について
図6のフローチャートに沿って説明する。制御部300は、メモリ301に登録されたNC(Numerical Control)プログラムに従って、この加工処理を実行する。
【0023】
まず、制御部300は、スライド移動機構40を介してスライド44を機械座標原点P0に移動させる(S101)。なお、このステップS101の処理は、後述するずれ量取得処理の最初に実行されてもよい。
また、制御部300は、工具保持部51に保持される複数の工具のうち何れかの工具70を選択し、選択した工具70に応じたオフセット量を補正するオフセット補正を行う(S102)。このオフセット補正は、工具70の形状又は工具70の取り付け位置等に応じたスライド44の位置補正である。
上記ステップS101,S102は、逆の順番で実行されてもよいし、同時に実行されてもよい。
【0024】
次に、ずれ量取得部302は、メモリ301に予め記憶される基準位置P1とスライド位置検出部47がスライド44の接触を検出する検出位置P2の差分からずれ量ΔFを取得する(S103)。
【0025】
このステップS103に係るずれ量取得処理について、
図7のサブフローチャートに沿って説明する。
まず、制御部300は、スライド44が機械座標原点P0に位置した状態で、エアブロー48を介してエアをスライド位置検出部47と被検出部44aの隙間に供給する(S103a)。このエアにより、切粉等の異物が飛ばされてスライド位置検出部47の検出精度が高まる。
【0026】
そして、ずれ量取得部302は、スライド移動機構40を介してスライド44を機械座標原点P0からスライド位置検出部47に向けて移動させる。(S103b)。この際、スライド44の移動速度は加工処理時(例えば、後述するステップS107の処理時)に比べて低速であり、スライド44の最大移動距離は、例えば、2mmである。
ずれ量取得部302は、スライド位置検出部47からスライド44が接触したことを検出する検出信号を受けると、スライド44の移動を停止し、このときのスライド44の機械座標を検出位置P2として取得する(S103c)。そして、ずれ量取得部302は、基準位置P1と検出位置P2のX軸方向の距離の差分(P1-P2)によりずれ量ΔFを取得し、取得したずれ量ΔFをメモリ301に記憶させる(S103d)。次に、制御部300は、エアブロー48を介してエアの供給を停止し(S103e)、スライド移動機構40を介してスライド44を機械座標原点P0に戻す(S103f)。以上で、ずれ量取得処理が終了となり、
図6のステップS104の処理に移行する。なお、ずれ量取得部302は、上記ステップS103cにおいて、スライド位置検出部47から検出信号を受け取らなかったときには、エラーである旨を作業者に通知する。
ここで、基準位置P1は、熱変位がない基準状態でスライド44がスライド位置検出部47に接触する位置であり、この基準状態では基準位置P1と検出位置P2は一致する。一方、この基準状態に対して熱変位が生じると、
図4の矢印J1に示すように、ボールねじ42がX軸方向に伸びる。このように、ボールねじ42に熱変位が生じた場合には、スライド44がスライド位置検出部47に近づき、この結果、
図9に示すように、検出位置P2は、基準位置P1から機械座標原点P0に近づくようにずれる。また、ボールねじ42の熱変位量が大きくなるにつれて検出位置P2は基準位置P1から離れてずれ量ΔFが大きくなる。
【0027】
次に、位置補正係数取得部303は、メモリ301に記憶される複数の位置補正係数A1~A8のうち工具切り込み方向であるX軸方向のスライド44の加工時の位置に応じた位置補正係数Axを取得する(S104)。位置補正係数Axは、メモリ301に予め記憶される複数の位置補正係数A1~A8のうち選択された何れか一つの位置補正係数である。また、このステップS104において、位置補正係数取得部303は、NCプログラムに含まれるワークWの加工径に係る指令に基づきスライド44の加工時の位置を認識する。
【0028】
図4に示すように、位置補正係数A1~A8は、ボールねじ42上におけるスライド44の位置に応じて異なる値に設定される。ボールねじ42の第1端部E1の伸びが吸収されるため、スライド44の位置がボールねじ42の第1端部E1に近いほど、スライド44の位置に対する熱変位の影響が大きくなる。このため、位置補正係数A1~A8は、1以下であって、スライド44の位置がボールねじ42の第1端部E1に近づくにつれて大きい数値に設定される。
【0029】
本例では、8つの位置補正係数A1~A8は、ボールねじ42の軸方向に8つに分割された領域C1~C8に割り当てられる。領域C1~C8は、ボールねじ42の第1端部E1に近づくにつれて位置補正係数が0.1ずつ増加するように位置補正係数A1~A8が設定される。領域C1~C8のうちボールねじ42の第1端部E1に最も近い領域C8には位置補正係数A8として0.8が割り当てられる。また、領域C1~C8のうちボールねじ42の第2端部E2に最も近い領域C1には位置補正係数A1として0.1が割り当てられる。上記ステップS104においては、位置補正係数取得部303は、スライド44が位置する領域C1~C8に応じて位置補正係数A1~A8の何れかを位置補正係数Axとして取得する。
【0030】
次に、温度補正係数取得部304は、温度検出部80により検出された温度に基づき温度補正係数Bを取得する(S105)。
温度補正係数Bは、工作機械1の温度変化と工具70の刃先位置との相関から温度変化に関わらず工具70の刃先位置を一定とするために設定される値であり、温度検出部80により検出された温度が高くなるほど値が大きくなるように設定されている。例えば、温度補正係数Bは、下記の式(1)から求められる。
B={Δx-Δz(n-0.125)}/0.125*Δz・・・・(1)
B:温度補正係数
Δx:基準温度Kと現在温度Gの差
Δz:基準温度Kと上限設定温度Hの差
n:温度区間(n=0.125,0.25,・・・,0.875,1)
基準温度Kは、工作機械1の周囲の温度に基づき予め設定される。
上限設定温度Hは、工作機械1を動作させた環境下でのサチレート(温度が上昇後に一定となる)する温度の上限に基づき設定される。
現在温度Gは、温度検出部80により検出される温度である。
図8に示すように、温度区分nは、現在温度Gが属する温度範囲I1~I8に応じて0.125~1の値に設定され、高温側の温度範囲I1になるほど値が小さく設定される。温度範囲I1は、基準温度K以下の温度に設定され、温度範囲I2~I8は、基準温度Kと上限設定温度Hの間に等温度間隔に設定されている。
【0031】
上記ステップS105において、温度補正係数取得部304は、温度検出部80により検出された現在温度Gが属する温度範囲I1~I8に応じた温度区分nを取得し、この現在温度Gと温度区分nを用いて上記式(1)から温度補正係数Bを取得する。
なお、温度範囲I1~I8及び温度区分nの数は適宜変更可能である。
【0032】
以下、温度補正係数Bの取得の一例について説明する。各数値は、例えば、以下のように設定される。
基準温度K:20℃
現在温度G:25℃
上限設定温度H:30℃
Δx(=G-K):25℃-20℃=5℃
Δz(=H-K):30℃-20℃=10℃
各温度範囲I2~I8〔Δz/(全区分数-1)〕:〔10℃/(8-1)〕=1.43℃
温度区分n:0.5
上記例において、上記式(1)を用いて温度補正係数Bを算出すると、温度補正係数Bは1となる。
【0033】
次に、
図6に示すように、熱変位補正量取得部305は、取得したずれ量ΔFに、温度補正係数B及び位置補正係数Axを乗算することにより熱変位補正量を取得する(S106)。
そして、加工処理部306は、取得した熱変位補正量を加味してスライド移動機構40を介してスライド44を移動させつつワークWの加工を行い(S107)、この加工処理を終了する。
例えば、このステップS107においては、加工処理部306は、主軸11により把持されたワークWを主軸11とともに軸回転させた状態で、X移動機構40Xを介して、熱変位補正量を加味してX軸方向にスライド44とともに工具70を移動させてワークWへの切り込み量を設定したうえで、Z移動機構40Zを介して、スライド44とともに工具70をワークWに対してZ軸方向に送る。これにより、ワークWの外径切削が行われる。
上述したステップS103~S106に係る熱変位量取得処理の実施頻度は、1つのワークWの加工毎に行われてもよいし、複数のワークWの加工毎に行われてもよいし、予め設定される設定時間の経過毎に行われてもよい。また、この熱変位量取得処理は、ステップS107に係るワークWの加工とは別のプログラムとして単独で実行されてもよい。
【0034】
(効果)
以上、説明した一実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)工作機械1は、工作機械1の温度を検出する温度検出部80と、ワークWに対して相対的に移動可能に形成されるスライド44と、スライド44を工具70とともにワークWに対して相対的に移動させる移動機構の一例であるスライド移動機構40と、スライド44の接触を検出するスライド位置検出部47と、基準状態でスライド位置検出部47によりスライド44の接触が検出されたときのスライド44の位置を基準位置P1として記憶するメモリ301と、基準状態に対して熱変位が生じた状態において基準位置P1とスライド位置検出部47がスライド44の接触を検出する検出位置P2の差分をずれ量ΔFとして取得するずれ量取得部302と、スライド44の位置に応じた位置補正係数Axを取得する位置補正係数取得部303と、温度検出部80により検出された温度に応じた温度補正係数Bを取得する温度補正係数取得部304と、それぞれ取得されたずれ量ΔF、位置補正係数Ax及び温度補正係数Bに基づき熱変位補正量を取得する熱変位補正量取得部305と、取得された熱変位補正量を加味してスライド移動機構40を介してスライド44を移動させることによりワークWの加工を行う加工処理部306と、を備える。
この構成によれば、熱変位補正量は、ずれ量ΔF、位置補正係数Ax及び温度補正係数Bに基づき取得されるため、より精度の高いものとなる。よって、ワークWの加工を高精度で行うことができる。
【0035】
(2)スライド移動機構40は、スライド44の移動方向(例えば、X軸方向)に沿って延びるボールねじ42と、ボールねじ42の第1端部E1の伸びを吸収する吸収部の一例であるカップリング部46cと、ボールねじの第2端部E2の伸びを規制する規制部の一例である回転支持部46aと、ボールねじ42の外周に嵌合されるナット43と、ボールねじ42を回転させることによりナット43とともにスライド44を移動させる駆動部41と、を備える。位置補正係数取得部303は、ワークWを加工する際のスライド44の位置が第1端部E1に近いほど取得する位置補正係数Axの値を大きくすることにより位置補正を強くかける。
この構成によれば、ボールねじ42の伸び方向が規定されることにより、ボールねじ42に対するスライド44の位置に応じた熱変位の影響の度合いが明確となり、熱変位の影響に適した位置補正係数Axを実現することができる。よって、熱変位補正量、ひいては加工の精度を高めることができる。
【0036】
(3)工作機械1は、ワークWを把持しつつ回転する主軸11と、工具70を有し、スライド44とともに移動する工具ユニット50と、を備える。スライド移動機構40は、主軸11により把持されたワークWの回転軸に対して交わるX軸方向にスライド44を移動させる。基準位置P1は、X軸方向に沿って延びるボールねじ42の主軸11から遠い第1端部E1、すなわちスライド44のストロークエンドに対応して位置する。
この構成によれば、基準位置P1は、ボールねじ42において熱変位の影響が最も大きい位置となる。よって、僅かな熱変位に伴うずれ量ΔFも確実に取得することが可能となり、熱変位補正量、ひいては加工の精度を高めることができる。
【0037】
なお、本開示は以上の実施形態及び図面によって限定されるものではない。本開示の要旨を変更しない範囲で、適宜、変更(構成要素の削除も含む)を加えることが可能である。以下に、変形の一例を説明する。
【0038】
(変形例)
上記実施形態におけるスライド位置検出部47は、タッチスイッチであったが、スライド44の接近を検出する各種方式の非接触センサであってもよい。例えば、この非接触センサがスライド44との距離を計測可能であれば、制御部300は、機械座標原点P0から検出位置P2までスライド44を実際に移動させることなく、ずれ量ΔFを取得することができる。
上記実施形態におけるエアブロー48は省略可能である。
【0039】
上記実施形態においては、温度検出部80は、ベッドSに設けられていたが、温度検出部80の設置位置はこれに限らない。例えば、
図4の破線で示すように、温度検出部180は、例えば、ボールねじ42の周辺、例えば、ボールねじ42の第2端部E2の周辺のスライドベース45又は回転支持部46aに設けられてもよい。また、例えば、
図4の破線で示すように、温度検出部280は、工具ユニット50に設けられてもよい。さらに、例えば、
図2の破線で示すように、温度検出部380は、Z移動機構40Z、例えば、ボールねじ40Z2の端部を支持する部位に設けられてもよい。
【0040】
上記実施形態においては、制御部300は、スライド44のX軸方向の移動について熱変位補正を行っていたが、これに限らず、スライド44のZ軸方向の移動について熱変位補正を行ってもよい。これは、特に、工具70がZ軸方向に切り込むドリル等である場合に有益である。この場合、制御部300は、温度検出部380により検出された温度に基づき温度補正係数Bを取得してもよい。
さらに、制御部300は、温度検出部80,180,280,380により検出された複数の温度に基づき温度補正係数Bを取得してもよい。
【0041】
上記実施形態においては、X軸方向が高さ方向(
図3の上下方向)に対して斜めに設定されていたが、これに限らず、X軸方向が高さ方向に対して直交する方向に設定され、Y軸方向が高さ方向に設定されてもよい。この場合、工作機械1は、X移動機構40X及びZ移動機構40Zに加えて、スライド44をY軸方向に移動させるY移動機構を備えてもよい。Y移動機構は、X移動機構40X及びZ移動機構40Zと同様に駆動部、ボールねじ及びナット等から構成されてもよい。この場合、制御部300は、スライド44のY軸方向の移動について熱変位補正を行ってもよい。
【0042】
また、制御部300は、ベッドSに対して移動不能に構成された主軸ユニット10の主軸台12についても熱変位補正を行ってもよい。
さらに、主軸ユニット10は、ベッドSに対して移動可能に構成されてもよい。この場合、例えば、工作機械1は、主軸ユニット10を移動させる主軸移動機構を備える。この主軸移動機構は、X移動機構40X及びZ移動機構40Zと同様に駆動部、ボールねじ、ナット及びスライド等から構成されてもよい。制御部300は、主軸ユニット10の主軸台12の移動についても熱変位補正を行ってもよい。
【0043】
上記実施形態においては、メモリ301に記憶される位置補正係数A1~A8の数は、8つであったが、8つ以外であってもよい。また、位置補正係数Axは、スライド44の位置に比例係数を乗算した数式により求められてもよい。
【0044】
上記実施形態においては、温度補正係数Bは、上記式(1)から求められていたが、これに限らず、温度検出部80により検出された温度が高くなるほど温度補正係数Bの値が大きくなるような式であれば、適宜変更可能である。
また、温度補正係数Bは、予め記憶されたデータテーブルを参照して、温度検出部80により検出された温度から取得されてもよい。
【0045】
上記実施形態においては、制御部300は、加工処理において、温度補正係数B及び位置補正係数Axの両方を取得していたが、温度補正係数B及び位置補正係数Axの何れか一方を取得して、この一方のみをずれ量ΔFに乗算してもよい。
また、上記実施形態においては、ボールねじ42の第1端部E1の伸びが吸収され、ボールねじ42の第2端部E2の伸びが規制されていたが、反対に、ボールねじ42の第2端部E2の伸びが吸収され、ボールねじ42の第1端部E1の伸びが規制されていてもよい。この場合、位置補正係数取得部303は、ワークWを加工する際のスライド44の位置が第1端部E1に近いほど取得する位置補正係数Axの値を小さくする。
【0046】
上記実施形態においては、工具ユニット50は、タレットを有する構成であったが、これに限らず、ツールスピンドルであってもよいし、刃物台であってもよい。
また、工具70は、バイトに限らず、ドリル、エンドミル等であってもよい。
上記実施形態においては、工作機械1は旋盤であったが、工作機械であれば旋盤以外のマシニングセンター、転造盤等の各種の工作機械であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…工作機械、10…主軸ユニット、11…主軸、12…主軸台、40…スライド移動機構、40X…X移動機構、40Z…Z移動機構、41,40Z1…駆動部、42,40Z2…ボールねじ、44,40Z4…スライド、40Z6…レール、41a…出力軸、43,40Z3…ナット、44a…被検出部、45…スライドベース、46a,46b,40Z5…回転支持部、46c…カップリング部、47…スライド位置検出部、47a…接触検出部材、48…エアブロー、49…保持部材、49a…凹部、50…工具ユニット、51…工具保持部、51C…回転軸、52…支持部、70…工具、80,180,280,380…温度検出部、300…制御部、301…メモリ、302…ずれ量取得部、303…位置補正係数取得部、304…温度補正係数取得部、305…熱変位補正量取得部、306…加工処理部、B…温度補正係数、C1~C8…領域、E1…第1端部、E2…第2端部、A1~A8,Ax…位置補正係数、I1~I8…温度範囲、P1…基準位置、P2…検出位置、S…ベッド、W…ワーク、n…温度区分