(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120962
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】バレル槽
(51)【国際特許分類】
B24B 31/02 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
B24B31/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018042
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 賢一
(72)【発明者】
【氏名】堀井 貴行
(72)【発明者】
【氏名】伊東 稔
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AB01
3C158AB06
3C158CB03
3C158CB05
(57)【要約】
【課題】缶体に対する耐摩耗部材の着脱作業を行い易いバレル槽を提供する。
【解決手段】バレル槽Aは、箱状をなし、開口部14を有する缶体11と、箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部35Eを有し、開口部14から缶体11に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材35と、耐摩耗部材35に一体的に設けられ、缶体11に対して弾性的に係合する係合部42とを備えている。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
箱状をなし、開口部を有する缶体と、
箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部を有し、前記開口部から前記缶体に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材と、
前記耐摩耗部材に一体的に設けられ、前記缶体に対して弾性的に係合する係合部と、
を備えていることを特徴とするバレル槽。
【請求項2】
前記投入部は、前記開口部の内面を覆う基部と、前記基部に連続し、前記開口部及び前記缶体の外面を覆うように外向きに折り返された折返し部と、を有し、
前記係合部は、前記基部の外面と、前記折返し部の内面と、に一体的に繋がっていることを特徴とする請求項1に記載のバレル槽。
【請求項3】
箱状をなし、開口部を有する缶体と、
箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部を有し、前記開口部から前記缶体に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材と、を備え、
前記投入部は、前記開口部の内面を覆う基部と、前記基部に連続し、前記開口部及び前記缶体の外面を覆うように外向きに折り返された折返し部と、を有し、
前記基部と前記折返し部が前記缶体を挟み込むことを特徴とするバレル槽。
【請求項4】
前記折返し部は、前記缶体の外面に密着し、
前記耐摩耗部材が前記缶体から離脱した状態では、前記折返し部の内形寸法は、前記缶体の前記開口部の外形寸法よりも小さいことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のバレル槽。
【請求項5】
前記開口部は、多角形状をなし、
前記投入部は、前記開口部の多角形状に対して相似形の多角形状をなし、
前記係合部は、前記投入部の多角形状を構成する各辺に一以上設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のバレル槽。
【請求項6】
前記缶体内に収容された前記耐摩耗部材において、前記投入部の周縁であって、前記開口部の先端を覆う覆い部は、前記投入部を塞ぐ蓋が当接する当接部として形成されており、
前記当接部は、全体にわたって前記投入部に対する前記蓋の押圧方向に直交する平坦面を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のバレル槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バレル槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バレル研磨装置のバレル槽は、金属製の缶体の内面をゴムやウレタン等の耐摩耗性を有する部材をライニング(接着)することによって、ワークを研磨する際における缶体の摩耗を防止することが一般的である。しかし、長期間にわたってバレル槽を使用すると、缶体の内面に接着されたゴムやウレタンは摩耗する。この場合、ゴムやウレタンを新しいものに交換する必要がある。摩耗したゴムやウレタンは、バレル槽を加熱して焼いたり溶かしたりして除去する。その後、新しいゴムやウレタンをライニングする。しかし、この手法は、缶体を加熱するので缶体が熱によって変形してしまう。このため、ゴムやウレタンの交換を2~3回行うと缶体を新たに製作することになってしまう。さらに、ライニングを行う間、バレル槽は使用することができないため、この間は生産工程を停止させるか、予備のバレル槽を在庫しておいて、予備のバレル槽を用いて生産を継続する必要が生じてしまう。この場合、予備のバレル槽の費用や保管スペースを必要とする等のデメリットもある。こうした問題を解決するため、特許文献1には、内側ケース(ゴムやウレタン)と外側ケース(缶体)とをボルトを用いて固定する構成とし、ボルトを緩めることによって内側ケースを着脱する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のものは、内側ケースを外側ケースに対して着脱する作業において、ボルトを回転させるための工具を用いるという手間がかかる。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、缶体に対する耐摩耗部材の着脱作業を行い易いバレル槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明のバレル槽は、
箱状をなし、開口部を有する缶体と、
箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部を有し、前記開口部から前記缶体に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材と、
前記耐摩耗部材に一体的に設けられ、前記缶体に対して弾性的に係合する係合部と、
を備えていることを特徴とする。
【0007】
第2発明のバレル槽は、
箱状をなし、開口部を有する缶体と、
箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部を有し、前記開口部から前記缶体に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材と、を備え、
前記投入部は、前記開口部の内面を覆う基部と、前記基部に連続し、前記開口部及び前記缶体の外面を覆うように外向きに折り返された折返し部と、を有し、
前記基部と前記折返し部が前記缶体を挟み込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1発明のバレル槽は、耐摩耗部材に設けられた係合部が缶体に対して弾性的に係合する構成なので、工具を用いなくても着脱できる。また、部品点数を少なくすることができるので、着脱作業にかかる時間を短く、軽量で部品費用も抑えることができる。
【0009】
第2発明のバレル槽は、投入部の基部と折返し部によって缶体を挟み込む構成なので、缶体に対して耐摩耗部材を取り付けた状態を保持することができ、且つ工具を用いなくても着脱できる。また、部品点数を少なくすることができるので、着脱作業にかかる時間を短く、軽量で部品費用も抑えることができる。また、缶体の開口部と耐摩耗部材の投入部との隙間が折返し部によって塞がれ、折返し部の先端が、缶体の開口部から遠ざかった位置にあるので、缶体と耐摩耗部材との間にバレル槽の収容物である水、ワーク、及び研磨石等が入りこむ機会を減らすことができる。また、折返し部が缶体の外面を覆うようにされているので、投入部を蓋で覆う場合に、投入部が缶体内にずれて入り込むことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図12】実施例1のバレル槽のアーム部を板厚方向から見た側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1から
図12を参照して説明する。尚、以下の説明において、上下の方向については、
図1にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。平面視とは、対象物の上方から対象物を下向きに視ること、と定義する。また、バレル研磨時におけるバレル槽Aの回転中心軸を、軸線Pと定義する。
【0012】
<バレル槽A>
バレル槽Aは、バレル研磨機(図示省略)に用いられるものである。バレル槽Aの内部に図示しないマス(ワークや研磨石等)を投入した状態でバレル槽Aを自転させたり、遊星回転させたりすることで、ワークが研磨されるようになっている。
図1、2に示すように、バレル槽Aは、バレル本体10と、蓋47と、固定部材51とを備えて構成されている。
【0013】
図3に示すように、バレル本体10は、外形が概ね正六角柱状をなしており、上面が概ね正六角形の投入排出口として開放された角筒状をなしている。バレル本体10は、金属製の箱状をなした1つの缶体11と、ゴム製の箱状をなした1つの耐摩耗部材35とを備えて構成されている。
【0014】
<缶体11>
缶体11は、鉄やステンレス、アルミニウム等の金属材料からなる平面視正六角形の外筒部12を有する。外筒部12は、60°ピッチで配した略方形をなす6つの外壁部13からなる。6つの外壁部13は、概ね同じ形状をなし、周方向に連ねて一体化した形態である。外筒部12の軸線Pと直角に切断した平面視断面形状は、外筒部12の上端から下端に亘って同じ形状である。
【0015】
図4に示すように、缶体11の上面の全領域は、缶体11(外筒部12)の内部を外部へ開放する多角形状である正六角形をなした開口部14として開口している。つまり、缶体11は、開口部14を有している。缶体11の下面の全領域は、外筒部12の下端部に取り付けた正六角形の底板12Aによって塞がれている。6つの外壁部13の各々の上端部には、下向きに窪むように凹部13Aが形成されている(
図5参照)。これら凹部13Aは、外壁部13の各々の上端縁の中央部に形成されている。一の外壁部13に設けられた凹部13Aをこの外壁部13の板厚方向から見たときの凹部13Aの幅寸法は、下端に向かうにつれて徐々に大きくなっている(
図5参照)。つまり、凹部13Aの下端部における幅寸法は、上端部における幅寸法よりも大きい。
【0016】
平面視において、外筒部12は、周方向に隣合う2つの外壁部13の側縁部同士が鈍角をなして連なる6つの頂点部16を有している。頂点部16のうち外筒部12の内部空間に臨む部分を、頂点内周部17と定義する。
【0017】
外筒部12(缶体11)の外面には、2つの受け部材30が取り付けられている。各受け部材30は、互いに平行をなして対向する2つの外壁部13の外面に1つずつ配されている。各受け部材30は、自身が取り付けられた各外壁部13の周方向における中央部に位置している。各受け部材30の先端部には、下向きに突出する突起部30Aが設けられている(
図1参照)。
【0018】
外筒部12(缶体11)の外面には、2つの取手31が取り付けられている。各取手31は、一方の受け部材30が設けられた外壁部13の周方向の両側に隣接する外壁部13の各々の外面に1つずつ配されている。各取手31は、金属棒の両端部を同じ向きに互いに平行になるように屈曲させた形態をなしている(
図5参照)。
【0019】
図5に示すように、外筒部12(缶体11)の外面には、4つの案内部32が取り付けられている。これら案内部32は、蓋47をバレル本体10の上面に載置する際に、バレル本体10に対して蓋47を所定の位置に案内する機能を有する。各案内部32は、取手31が設けられた外壁部13の上端部に2つずつ配されている。各案内部32は、金属棒がL字状をなした形態である。各案内部32のL字状の一方の辺の上部は、外壁部13の上端よりも上方に突出している。
【0020】
<耐摩耗部材35>
耐摩耗部材35は、例えば、ゴム材料によって成型され、弾性を有する単一部品である。耐摩耗部材35は、伸縮自在である。耐摩耗部材35は、缶体11の開口部14から缶体11に対して着脱可能に収容される。
図6、7に示すように、耐摩耗部材35の上面には、その全領域に亘ってワークのみ、又はワークと研磨石を投入する投入部35Eが開口して形成されている。耐摩耗部材35は、平面視形状が正六角形の有底角筒状をなしている。耐摩耗部材35は、缶体11の開口部14の多角形状に対して相似形の多角形状をなした投入部35Eを有している。耐摩耗部材35を缶体11に取り付けた状態では、耐摩耗部材35の投入部35Eが、バレル本体10の投入排出口として機能する。耐摩耗部材35は、マス(ワークや研磨石)の摺接に起因して缶体11の内周面(外壁部13の内面)が傷付くことを防止する保護機能と、ワークが金属製の缶体11への摺接によって傷付くことを防止する保護機能とを兼ね備えている。
【0021】
耐摩耗部材35は、内筒部36と、投入部35Eと、底壁部41と、係合部42とを有している。投入部35Eは、基部44と、覆い部43と、折返し部40とを有している。内筒部36、投入部35E、底壁部41、及び係合部42は、弾性を有している。内筒部36は、周方向において60°ピッチで配した6つの略方形をなす内壁部37からなる。6つの内壁部37は、同一形状であり、周方向に鈍角状に連ねて一体化された形態である。内筒部36の上端部は、投入部35Eとして機能する。
【0022】
図6、8に示すように、内筒部36の上端部の外面は、上端に向かうにつれて外向きに傾斜した形態とされている。内筒部36の内面は、上端から下端にわたって上下方向に平面状をなしている。つまり、内筒部36の上端部は、上向きに肉厚が増している。互いに平行をなし、対向する位置にある内筒部36の外面の間の寸法D1(すなわち、外形寸法D1)は、缶体11において対向する位置にある外壁部13の内面の間の寸法D2(
図3参照)(すなわち、内形寸法D2)よりも小さい。
【0023】
平面視において、内筒部36は、周方向に隣合う2つの内壁部37の側縁部同士が鈍角をなして連なり、内筒部36の外部空間に臨む部分を、頂点外周部39と定義する(
図7参照)。
【0024】
基部44は、内筒部36の上端部に相当する部分である。覆い部43は、基部44(内筒部36)の上端縁の全体から外向きに鍔状に張り出して設けられている。覆い部43の上部の全体は、投入部35Eを塞ぐ蓋47が当接する当接部Tとして形成されている。当接部Tの上面は、全体にわたって投入部35Eに対する蓋47の押圧方向Fに直交する平坦面Hである(
図1参照)。
【0025】
折返し部40は、覆い部43(投入部35E)の外周縁の全体に連続し、基部44(内筒部36)の外面に沿うように下向きに伸びて設けられている。折返し部40は、覆い部43を介して基部44に連続している。折返し部40の下端部の内面は、下端に向かうにつれて、基部44(内筒部36)の外面に近づく方向に傾斜している(
図8参照)。缶体11から離脱した状態(すなわち、缶体11に取り付けられていない状態)の耐摩耗部材35において、互いに平行をなし、対向する位置にある折返し部40の内面の下端部の間の寸法D3(
図6参照)(すなわち、内形寸法D3)は、缶体11において対向する位置にある外壁部13の外面の間の寸法D4(
図3参照)(すなわち、外形寸法D4)よりも小さい。折返し部40は、缶体11の開口部14の上端から下向きに遠ざかる方向に伸びている(
図1参照)。折返し部40は、投入部35Eに含まれる。したがって、投入部35Eの開口端は、覆い部43及び折返し部40によって延長されている。つまり、折返し部40は、投入部35Eが折り返された部分である。折返し部40の下端縁を、投入部35Eの開口端と定義する。耐摩耗部材35を缶体11に収容した状態において、折返し部40の下端は、缶体11の開口部14の上端よりも下方に位置する(
図1参照)。
【0026】
底壁部41は、内筒部36の下面を全領域に亘って閉塞する形態である(
図7参照)。底壁部41の平面視形状は、正六角形をなしている(
図7参照)。内筒部36の内面と底壁部41の上面とは、曲面Rを介して連続している(
図6参照)。
【0027】
係合部42は、投入部35Eの多角形状を構成する各辺(すなわち、内壁部37の各々の上端部)における中央部に一つずつ配置されて設けられている(
図7参照)。係合部42は、基部44の外面と、基部44の外面に対向する折返し部40の対向面との間に収容されるように設けられている。具体的には、係合部42は、基部44のうち缶体11の内面に対向する対向面(外面)と、折返し部40のうち缶体11の外面に対向する対向面(内面)と、覆い部43の下面と、に一体的に繋がって設けられている。つまり、係合部42は耐摩耗部材35の基部44(内筒部36)、折返し部40、及び覆い部43に一体成型されている。
【0028】
図9に示すように、一の内壁部37に設けられた係合部42をこの内壁部37の板厚方向から見たときの係合部42の幅寸法は、下端に向かうにつれて徐々に大きくなっている。つまり、係合部42の外形形状は、凹部13Aの外形形状と概ね同じである(
図5、
図9参照)。
【0029】
図1に示すように、耐摩耗部材35を缶体11に収容した状態では、内筒部36が缶体11の外筒部12の内面を全領域にわたって覆い、底壁部41が、缶体11の底板12Aの内面を全領域にわたって覆う。そして、6つの頂点外周部39の各々が、6つの頂点内周部17の各々に対応して配置される(
図3参照)。耐摩耗部材35を缶体11に収容した状態において、内筒部36の外面と外筒部12の内面との間は、僅かに離隔して隙間S1が形成される。具体的には、缶体11に収容された耐摩耗部材35の6つの内壁部37の外面と、缶体11の外壁部13の内面との間には、全体にわたって隙間S1が形成され、非接触の位置関係で概ね平行に対向する(
図3参照)。底壁部41の外面(下面)と底板12Aの内面(上面)との間には隙間が形成されず、概ね全体にわたって接触する。
【0030】
缶体11に収容された状態の耐摩耗部材35において、耐摩耗部材35の内筒部36における投入部35Eの基部44は、缶体11の開口部14の内側(内面)に沿って重なり、開口部14の内面を覆うように配置される(
図11参照)。耐摩耗部材35の覆い部43は、開口部14の上端を覆う。投入部35Eである折返し部40は、缶体11の開口部14の外面を覆う。つまり、折返し部40は、缶体11の開口部14及び缶体11の外面を覆うように内筒部36に対して外向きに折り返された形態である。折返し部40の内面の下端部は、開口部14の外面の全体にわたって密着する。こうして、基部44と折返し部40は、缶体11の開口部14を弾性的に挟み込んでいる。投入部35Eは、折り返されて開口部14の先端部の外面と内面とを覆っている。折返し部40の下端は、開口部14の上端よりも下方に位置している。
【0031】
図10に示すように、各係合部42は、缶体11の外壁部13に形成された凹部13Aの各々に対して弾性的に係合して嵌合する。係合部42及び、凹部13Aは、下端に向かうにつれて、幅寸法が徐々に大きくなっている。このため、缶体11の開口部14を下向きにしても、凹部13Aに嵌合した係合部42は、凹部13Aから外れない。つまり、各係合部42が凹部13Aに勘合することによって、耐摩耗部材35が、缶体11から不用意に離脱して落下することを防止することができる。また、係合部42は、基部44と折返し部40との間に収容されるように設けられているので、係合部42と凹部13Aとの間にワークが入り込み難い(
図6、8参照)。
【0032】
<蓋47>
蓋47は、缶体11に収容された耐摩耗部材35の投入部35Eを全領域にわたって覆うことができる。
図2に示すように、蓋47は、金属板材48と、金属板材48の下面を覆うように金属板材48に取り付けられたゴムシート49とを有している。金属板材48の外形は、正六角形状をなしている。金属板材48の上面には、2つの取手48Aと、1つの突当て板48Bと、が設けられている。各取手48Aは、棒状をなした金属の材料の両端部を互いに平行になるように同じ向きに屈曲させた形態をなし、両端部の先端部の各々が金属板材48の上面に連結されている(
図1参照)。
【0033】
突当て板48Bは、長方形状をなした金属板である。
図1に示すように、突当て板48Bは、2つの取手48Aの間に配置されて、金属板材48の上面に一方の面を接触させ、連結されている。
【0034】
ゴムシート49は、金属板材48の下面に接触するゴムシート本体49Aと、ゴムシート本体49Aの外周縁から立ち上がって金属板材48の外周面を覆う覆い部49Bと、覆い部49Bの先端に連続して、金属板材48の上面に沿うように内向きに伸びて設けられた折返し部49Cとを有している。ゴムシート本体49Aの外形は、正六角形状をなしている(
図2参照)。覆い部49Bは、正六角形状をなすゴムシート本体49Aの各辺の全体にわたって連続して立ち上がっている。折返し部49Cは、覆い部49Bの先端の全体にわたって連続して内向きに伸びている。
【0035】
<固定部材51>
図1に示すように、固定部材51は、金属製の固定具52と、金属製の押圧用ボルト57とを備えて構成されている。固定具52は、平板状で長方形状をなす基部53と、基部53の長手方向の両端縁の各々に設けられた2つのアーム部55とを備えて構成された単一部品である。基部53の中心には板厚方向に貫通してネジ孔54が形成されている。ネジ孔54には、押圧用ボルト57がねじ込み状態で貫通して取り付けられている。
【0036】
2つのアーム部55は、平板状をなし、基部53に対して直交して下向きに延出した形態である。各アーム部55の下側には、溝56が形成されている。
図12に示すように、溝56は、アーム部55の上下方向に伸びる辺の一方側から他方側に向けて窪んで形成されている。溝56の入口の下側には、上向きに突出する突起部58が設けられている。
【0037】
<缶体11に耐摩耗部材35を取り付ける手順>
蓋47をバレル本体10から外した状態では、缶体11に耐摩耗部材35を取り付けることができる。耐摩耗部材35を取り付ける手順の一例としては、耐摩耗部材35を缶体11の開口部14から缶体11内に収容するには、6つの頂点外周部39を6つの頂点内周部17の内側に隣合わせる(
図3参照)。
【0038】
缶体11に耐摩耗部材35を挿入する。耐摩耗部材35の対向する内壁部37の外面同士の外形寸法D1は、缶体11の対向する外壁部13の内面同士の内形寸法D2よりも小さい(
図3参照)ので、耐摩耗部材35と缶体11との間に摩擦力が生じ難い。このため、耐摩耗部材35は、缶体11に対して容易に挿入することができる。
【0039】
次に、各係合部42を各凹部13Aに嵌合させる。缶体11に耐摩耗部材35を挿入する途中において、各係合部42は、弾性変形しつつ各凹部13Aに進入する。各係合部42は、元の形状に復元しつつ各凹部13Aへの進入が進む。各係合部42は、各凹部13Aへの進入が完了すると、元の形状に復元する。このとき、各係合部42は、各凹部13Aに対して嵌合した状態になる。これによって、缶体11と耐摩耗部材35を上下反転させても、耐摩耗部材35が缶体11から離脱して落下するおそれはない。このとき、覆い部43の下面が開口部14の上面に接触すると共に、底壁部41の下面が底板12Aの上面に接触する(
図1、11参照)。
【0040】
缶体11から離脱した状態の耐摩耗部材35の折返し部40の内形寸法D3は、缶体11の外形寸法D4よりも小さい(
図3、6参照)。このため、折返し部40の内面は、缶体11の開口部14の外面を覆うと共に、折返し部40の内面の下端部は、開口部14の外面に密着した状態になる。缶体11に耐摩耗部材35を取り付けると、6つの内壁部37と6つの外壁部13とが、個別に概ね平行をなし、且つ径方向に隙間S1を空けて対向した状態となる(
図1、3参照)。
【0041】
<バレル本体10に蓋47を取り付ける手順>
耐摩耗部材35を缶体11に取り付けた状態では、バレル本体10に蓋47を取り付けることができる。バレル本体10に蓋47を取り付ける際には、まず、蓋47をバレル本体10の上面に載置する。このとき蓋47の六角形状の外形の向きを投入部35Eの六角形状の外形の向きに合わせつつ、覆い部49Bの外面を覆い部43の上面よりも上方に突出する4つの案内部32の各々に沿わせる(
図2参照)。これにより、蓋47のゴムシート本体49Aの下面の外周縁部を、耐摩耗部材35の覆い部43の平坦面H(すなわち、当接部T)の全体にわたって接触させることができる(
図1参照)。
【0042】
次に、固定部材51を取り付ける。具体的には、基部53を蓋47の上方に配置して、2つのアーム部55を垂下させる向きにする。そして、2つのアーム部55の溝56の各々に缶体11の受け部材30が1つずつ進入するように固定部材51を横方向に移動させる。このとき、受け部材30の突起部30Aは、各アーム部55の外面よりも外側に配置された状態にする(
図1参照)。これと共に、受け部材30は、溝56の突起部58よりも奥側に配置された状態にする(
図12参照)。
【0043】
この後、基部53にねじ込まれた押圧用ボルト57を回転させ、押圧用ボルト57を基部53に対して下方へ相対変位させる。押圧用ボルト57の下端が蓋47の突当て板48Bの上面の中央部に当接した状態で、押圧用ボルト57をさらに回転させて締め付ける。すると、固定部材51が蓋47に対して上向きに相対変位し、2つのアーム部55の各々が、受け部材30に対して下方から押圧する。この押圧作用によって、押圧用ボルト57から蓋47に対して下向きに力を付与するので、蓋47は、バレル本体10に対して上から押し付けられ、耐摩耗部材35の投入部35Eを塞いだ状態で固定される(
図1参照)。このとき、蓋47が押圧用ボルト57から押圧される押圧方向Fは下向きである(
図1参照)。これにより、蓋47のゴムシート本体49Aの下面の外周縁部は、覆い部43の当接部Tである平坦面Hに満遍なく密着することができ(
図1参照)これらの間に、マスが進入することを良好に防止することができる。
【0044】
<バレル研磨工程>
バレル研磨の際には、耐摩耗部材35の内部でマスが互いに摺接し合いながら流動すると共に、マスが耐摩耗部材35の内筒部36や底壁部41に衝突する。この間、耐摩耗部材35には、内筒部36の内周面に作用する衝撃力により缶体11(外筒部12)に対して相対回転する方向の力が作用する。
【0045】
しかし、耐摩耗部材35の各係合部42が缶体11(外筒部12)に形成した各凹部13Aに嵌合している(
図10参照)ので、耐摩耗部材35は、缶体11に対して周方向へ相対回転することはない。
【0046】
<蓋47をバレル本体10から外す手順>
蓋47をバレル本体10から外す際には、固定部材51を取り付けた手順と逆の手順を実行する。
【0047】
<缶体11から耐摩耗部材35を取り出す手順>
耐摩耗部材35の内筒部36や底壁部41が、長年の使用や厳しい研磨条件によって摩耗した場合は、摩耗した耐摩耗部材35を缶体11から取り出して新しい耐摩耗部材35と交換する。蓋47をバレル本体10から外すと、耐摩耗部材35を缶体11から取り出すことができる。耐摩耗部材35を取り出す際には、折返し部40に指を引っ掛けて耐摩耗部材35を缶体11に対して上向きに引き上げる。すると、耐摩耗部材35の係合部42が弾性変形しつつ、缶体11の凹部13Aから外れる。
【0048】
このとき、耐摩耗部材35の対向する内壁部37の外面同士の外形寸法D1は、缶体11の対向する外壁部13の内面同士の内形寸法D2よりも小さい(
図3参照)ので、耐摩耗部材35と缶体11との間に摩擦力が生じ難い。このため、耐摩耗部材35は、缶体11から容易に引き抜いて取り外すことができる。
【0049】
<実施例の作用及び効果>
上述のように本実施例のバレル槽Aは、箱状をなし、開口部14を有する缶体11と、箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部35Eを有し、開口部14から缶体11に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材35と、耐摩耗部材35に一体的に設けられ、缶体11に対して弾性的に係合する係合部42と、を備えている。この構成によれば、耐摩耗部材35に設けられた係合部42が缶体11に対して弾性的に係合する構成なので、工具を用いなくても着脱できる。また、部品点数を少なくすることができるので、着脱作業にかかる時間を短く、軽量で部品費用も抑えることができる。また、係合部42が耐摩耗部材35に一体的に設けられる構成なので、製造する手間を抑え易い。
【0050】
バレル槽Aの投入部35Eは、開口部14の内面を覆う基部44と、基部44に連続し、開口部14及び缶体11の外面を覆うように外向きに折り返された折返し部40と、を有し、係合部42は、基部44の外面と、折返し部40の内面と、に一体的に繋がっている。この構成によれば、係合部42が基部44の外面と折返し部40の内面とに一体的に繋がっているので、折返し部40がめくれることを防止することができる。
【0051】
バレル槽Aは、箱状をなし、開口部14を有する缶体11と、箱状をなし、ワークを投入する開口が形成された投入部35Eを有し、開口部14から缶体11に対して着脱可能に収容される耐摩耗部材35と、を備え、投入部35Eは、開口部14の内面を覆う基部44と、基部44に連続し、開口部14及び缶体11の外面を覆うように外向きに折り返された折返し部40と、を有し、基部44と折返し部40が缶体11を挟み込んでいる。この構成によれば、投入部35Eの基部44と折返し部40によって缶体11を挟み込む構成なので、缶体11に対して耐摩耗部材35を取り付けた状態を保持することができ、且つ工具を用いなくても着脱できる。また、部品点数を少なくすることができるので、着脱作業にかかる時間を短く、軽量で部品費用も抑えることができる。また、缶体11の開口部14と耐摩耗部材35の投入部35Eとの隙間が折返し部40によって塞がれ、折返し部40の先端が、缶体11の開口部14から遠ざかった位置にあるので、缶体11と耐摩耗部材35との間にバレル槽Aの収容物である水、ワーク、及び研磨石等が入りこむ機会を減らすことができる。また、折返し部40が缶体11の外面を覆うようにされているので、投入部35Eを蓋47で覆う場合に、投入部35Eが缶体11内にずれて入り込むことを抑制できる。
【0052】
バレル槽Aにおいて、折返し部40は、缶体11の外面に密着し、耐摩耗部材35が缶体11から離脱した状態では、折返し部40の内形寸法D3は、缶体11の開口部14の外形寸法D4よりも小さい。この構成によれば、折返し部40が缶体11の外面に密着するので、缶体11と耐摩耗部材35との間に水、ワーク、及び研磨石が入りこむ機会をより減らすことができる。
【0053】
バレル槽Aの開口部14は、六角形状をなし、投入部35Eは、開口部14の六角形状に対して相似形の六角形状をなし、係合部42は、投入部35Eの六角形状を構成する各辺に一つ設けられている。投入部35Eの各辺は、直線状に形成されているので、めくれ易い。この構成によれば、投入部35Eや折返し部40がめくれることを防止することができる。
【0054】
バレル槽Aにおける、缶体11内に収容された耐摩耗部材35において、投入部35Eの周縁であって、開口部14の先端を覆う覆い部43は、投入部35Eを塞ぐ蓋47が当接する当接部Tとして形成されており、当接部Tは、全体にわたって投入部35Eに対する蓋47の押圧方向Fに直交する平坦面Hを有している。この構成によれば、当接部Tの平坦面Hが一方向に平坦に形成されているので、投入部35Eを蓋47で塞ぐ際、蓋47の押圧力によって当接部Tが偏って変形することを防止し、蓋47が当接部Tに対して良好に密着することができる。
【0055】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、係合部は、投入部の多角形状を構成する各辺に一つ設けられているが、係合部は、投入部の多角形状を構成する各辺に二以上設けられていてもよい。また、係合部を投入部の多角形状をなす頂点部に設けてもよい。また、係合部を設けない辺があってもよい。
(2)上記実施例では、係合部が基部(内筒部)と折返し部との間に設けられているが、係合部を内筒部の外面に設けてもよい。例えば、内筒部にインサート成型により一部が内筒部に埋設された形態の板バネを設ける構成が考えられる。この場合、板バネの先端部は、内筒部の外側において露出した形態である。耐摩耗部材を缶体に収納すると、板バネの先端部は弾性変形し、外筒部の内面を押圧した状態になり、これによって、耐摩耗部材が缶体から外れ難くすることができる。
(3)上記実施例では、係合部が、基部の外面と、折返し部の内面と、覆い部の下面と、に一体的に繋がって設けられている。しかし、これに限らず、係合部が、基部の外面、折返し部の内面、及び覆い部の下面、のいずれかのみに一体的に繋がって設けられている構成としてもよい。この場合、耐摩耗部材の覆い部及び折返し部を内壁部と面一になるように成型し、成型した後、覆い部及び折返し部を外向きに屈曲させて折返し部を折り返すことが考えられる。
(4)上記実施例では、缶体の外筒部と耐摩耗部材の内筒部の平面視形状を正六角形としたが、缶体の外筒部と耐摩耗部材の内筒部の平面視形状は、頂点部の数が5つ以下の多角形でもよく、頂点部の数が7つ以上の多角形でもよい。また、缶体の外筒部と耐摩耗部材の内筒部の平面視形状が、円形状であってもよい。
(5)上記実施例では、耐摩耗部材がゴムで成型されているが、ウレタンやエラストマー等の弾性を有する材料で成型されていてもよい。
(6)上記実施例では、缶体の外筒部と耐摩耗部材の内筒部との間に径方向の隙間を設けたが、缶体の外筒部と耐摩耗部材の内筒部との間に径方向の隙間を設けない形態としてもよい。
(7)上記実施例では、缶体の外筒部を構成する複数(6つ)の外壁部が、全て平板状をなしているが、複数の外壁部のうち少なくとも一部は、平面視において湾曲した板状をなしていてもよい。
(8)上記実施例では、耐摩耗部材の内筒部を構成する複数(6つ)内外壁部が、全て平板状をなしているが、複数の内壁部のうち少なくとも一部は、平面視において湾曲した板状をなしていてもよい。
(9)外筒部を構成する複数の外壁部のうち、少なくとも一部の外壁部に、軽量化のための窓孔を開口して形成してもよい。
(10)上記実施例では、缶体の軸線方向における一方の端部のみを着脱口として開口させたが、缶体の軸線方向における両端部を、耐摩耗部材を着脱させるための着脱口として開口させてもよい。
(11)上記実施例では、当接部は、全体にわたって投入部に対する蓋の押圧方向に直交する平坦面を有しているが、蓋が押圧されて投入部を閉鎖できればよく、当接部が押圧方向に対して傾いた平坦面を有していてもよい。
(12)上記実施例では、当接部は、平坦面を有しているが、当接部が互いに鈍角をなして連なる複数の平坦面を有していてもよい。この場合、蓋も平坦面に合わせて屈曲した形態にする。
【符号の説明】
【0056】
A…バレル槽
11…缶体
14…開口部
35…耐摩耗部材
35E…投入部
40…折返し部(投入部)
42…係合部
43…覆い部
44…基部(投入部)
47…蓋
D3…折返し部の内形寸法
D4…缶体の開口部の外形寸法
F…押圧方向
H…平坦面
T…当接部