(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022120991
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】脱調抑制装置、及び脱調抑制装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/18 20060101AFI20220812BHJP
H02P 9/00 20060101ALI20220812BHJP
H02P 9/10 20060101ALI20220812BHJP
H02P 9/14 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H02J3/18
H02P9/00 B
H02P9/10
H02P9/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018096
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 聡
【テーマコード(参考)】
5G066
5H590
【Fターム(参考)】
5G066AA09
5G066AD07
5G066FA02
5G066FB11
5G066FB15
5H590AA13
5H590AB20
5H590CA05
5H590CC01
5H590CD03
5H590CE01
5H590EB14
5H590EB15
5H590FA08
5H590FB02
5H590FB07
5H590GA06
5H590GA07
5H590HA06
5H590HA07
(57)【要約】
【課題】電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を、より確実に抑制することができる脱調抑制装置を提供する。
【解決手段】脱調抑制装置は、回転体を有する同期発電機を含む電力系統内において前記同期発電機と接続される送電線に接続される脱調抑制装置であって、インバータと、前記インバータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生した場合、前記インバータを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体を有する同期発電機を含む電力系統内において前記同期発電機と接続される送電線に接続される脱調抑制装置であって、
インバータと、
前記インバータを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生した場合、前記インバータを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う、
脱調抑制装置。
【請求項2】
前記有効電力制御は、前記送電線から有効電力を吸収する制御であり、
前記無効電力制御は、前記送電線から無効電力を吸収する制御である、
請求項1に記載の脱調抑制装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記短絡事故が発生した場合、前記有効電力制御と前記無効電力制御との少なくとも一方を行うことによって、前記回転体の加速エネルギーの大きさを、前記回転体の減速エネルギーの最大値よりも小さくする、
請求項1又は2に記載の脱調抑制装置。
【請求項4】
前記加速エネルギーは、前記短絡事故が発生した第1時刻から、前記短絡事故が発生した後に前記第1位置が前記同期発電機から分離される第2時刻までの間の第1期間において増大する前記回転体の回転エネルギーの総和であり、
前記減速エネルギーは、前記第2時刻の後の第2期間における前記同期発電機の出力の増大に応じて減少する前記回転体の回転エネルギーの総和であり、
前記減速エネルギーの最大値は、前記同期発電機が脱調を起こさずに前記減速エネルギーの大きさとして取り得る値のうちの最大の値である、
請求項3に記載の脱調抑制装置。
【請求項5】
前記加速エネルギーは、前記第1時刻から後の期間における前記同期発電機についてのP-δ曲線上の加速領域の面積によって表され、
前記減速エネルギーは、前記第1時刻から後の期間における前記同期発電機についてのP-δ曲線上の減速領域の面積によって表される、
請求項4に記載の脱調抑制装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1期間において前記無効電力制御を開始し、前記第2期間において前記無効電力制御を停止するとともに前記有効電力制御を開始する、
請求項4又は5に記載の脱調抑制装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1期間において、前記無効電力制御を開始した後、開始した前記無効電力制御の結果に基づいて、前記有効電力制御を行うか否かを判定し、前記有効電力制御を行うと判定した場合、前記無効電力制御を停止するとともに前記有効電力制御を開始し、前記有効電力制御を行わないと判定した場合、前記無効電力制御を継続する、
請求項6に記載の脱調抑制装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記第1期間において、前記無効電力制御を開始した後、前記無効電力制御によって変化した有効電力の変化分である第1変化量が、前記有効電力制御によって変化する有効電力の変化分である第2変化量以上である場合、前記有効電力制御を行わないと判定し、前記第1変化量が前記第2変化量未満である場合、前記有効電力制御を行うと判定する、
請求項7に記載の脱調抑制装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記第1期間において、前記無効電力制御を開始した後、前記同期発電機の出力電圧が所定値以下であるか否かを判定し、前記同期発電機の出力電圧が所定値以下であると判定した場合、前記無効電力制御を継続したまま前記有効電力制御を開始する、
請求項6に記載の脱調抑制装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1期間において前記無効電力制御と前記有効電力制御との両方を開始し、前記送電線の電圧の変化率に応じて、前記無効電力制御の稼働状態と、前記有効電力制御の稼働状態との比率を変化させる、
請求項4又は5に記載の脱調抑制装置。
【請求項11】
前記インバータは、前記同期発電機の近傍に接続される、
請求項1から10のうちいずれか一項に記載の脱調抑制装置。
【請求項12】
回転体を有する同期発電機を含む電力系統内において前記同期発電機と接続される送電線に接続される脱調抑制装置の制御方法であって、
前記脱調抑制装置は、インバータを備え、
前記制御方法は、前記送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生した場合、前記インバータを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う、
脱調抑制装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱調抑制装置、及び脱調抑制装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1つ以上の同期発電機を含む電力系統において当該1つ以上の同期発電機の同期安定性を改善する技術についての研究、開発が行われている。当該1つ以上の同期発電機のそれぞれは、気体、液体、磁力等により回転する回転体(例えば、タービン、発電機の回転子等)を有し、互いに同期発電して1つの系統周波数を作る発電機のことである。
【0003】
近年、電力系統には、電力系統内における再生可能エネルギーによる発電量を増大させるため、同期発電機に加えて、インバータベースの電源が接続されることが多い。ここで、同期発電機は、定格出力の5倍以上の電流を流すことができる。一方、インバータベースの電源は、定格出力の1.2倍程度の電流しか流すことができない。これは、インバータベースの電源が定格出力の1.2倍程度を越える電流を流すと、インバータベースの電源が備えるインバータのスイッチングデバイスに不具合が発生してしまうためである。このような事情から、インバータベースの電源が接続された電力系統では、電力系統内において短絡事故が発生した場合、電力系統に接続された発電機(すなわち、同期発電機、及び、インバータベースの電源)は、事故点に向かう短絡電流を十分に供給できないことがある。事故点に向かう短絡電流を十分に供給できない場合、電力系統内において短絡事故が発生した場合、且つ、短絡電流が事故点に十分に供給されない場合、電力系統内では、電力系統内の送電線の電圧が極端に低下する。その結果、同期発電機の電気出力が低下し、機械エネルギーとの間で発生する差分により、回転体に加速エネルギーが生じ、回転体を加速させる。回転体の加速による回転体の回転エネルギーの増大は、同期発電機の脱調を引き起こす可能性を増大させる。このような脱調は、最悪の場合、電力系統内において系統崩壊を引き起こす。このため、このような脱調は、電力系統内において1つ以上の同期発電機の同期安定性を維持させる観点から、抑制されなければならない。
【0004】
これに関し、電力系統内の送電線に制動抵抗を接続し、電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の回転体の加速を抑制する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「電力系統安定化システム工学」、電気学会、横山明彦、太田宏次監修
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載された方法では、電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の回転体の加速を十分に抑制することができない場合があった。例えば、制動抵抗の抵抗値が十分に小さくなかった場合、且つ、電力系統内において短絡事故が発生した場合、当該方法では、同期発電機の脱調を十分に抑制することができない場合があった。また、この抵抗値が極端に小さい場合、抵抗損失が増大し、冷却装置が必要以上に大きくなることが懸念された。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を、より確実に抑制することができる脱調抑制装置、及び脱調抑制装置の制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、回転体を有する同期発電機を含む電力系統内において前記同期発電機と接続される送電線に接続される脱調抑制装置であって、インバータと、前記インバータを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生した場合、前記インバータを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う、脱調抑制装置である。
【0009】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記有効電力制御は、前記送電線から有効電力を吸収する制御であり、前記無効電力制御は、前記送電線から無効電力を吸収する制御である、構成が用いられてもよい。
【0010】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記制御部は、前記短絡事故が発生した場合、前記有効電力制御と前記無効電力制御との少なくとも一方を行うことによって、前記回転体の加速エネルギーの大きさを、前記回転体の減速エネルギーの最大値よりも小さくする、構成が用いられてもよい。
【0011】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記加速エネルギーは、前記短絡事故が発生した第1時刻から、前記短絡事故が発生した後に前記第1位置が前記同期発電機から分離される第2時刻までの間の第1期間において増大する前記回転体の回転エネルギーの総和であり、前記減速エネルギーは、前記第2時刻の後の第2期間における前記同期発電機の出力の増大に応じて減少する前記回転体の回転エネルギーの総和であり、前記減速エネルギーの最大値は、前記同期発電機が脱調を起こさずに前記減速エネルギーの大きさとして取り得る値のうちの最大の値である、構成が用いられてもよい。
【0012】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記加速エネルギーは、前記第1時刻から後の期間における前記同期発電機についてのP-δ曲線上の加速領域の面積によって表され、前記減速エネルギーは、前記第1時刻から後の期間における前記同期発電機についてのP-δ曲線上の減速領域の面積によって表される、構成が用いられてもよい。
【0013】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記制御部は、前記第1期間において前記無効電力制御を開始し、前記第2期間において前記無効電力制御を停止するとともに前記有効電力制御を開始する、構成が用いられてもよい。
【0014】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記制御部は、前記第1期間において、前記無効電力制御を開始した後、開始した前記無効電力制御の結果に基づいて、前記有効電力制御を行うか否かを判定し、前記有効電力制御を行うと判定した場合、前記無効電力制御を停止するとともに前記有効電力制御を開始し、前記有効電力制御を行わないと判定した場合、前記無効電力制御を継続する、構成が用いられてもよい。
【0015】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記制御部は、前記第1期間において、前記無効電力制御を開始した後、前記無効電力制御によって変化した有効電力の変化分である第1変化量が、前記有効電力制御によって変化する有効電力の変化分である第2変化量以上である場合、前記有効電力制御を行わないと判定し、前記第1変化量が前記第2変化量未満である場合、前記有効電力制御を行うと判定する、構成が用いられてもよい。
【0016】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記制御部は、前記第1期間において、前記無効電力制御を開始した後、前記同期発電機の出力電圧が所定値以下であるか否かを判定し、前記同期発電機の出力電圧が所定値以下であると判定した場合、前記無効電力制御を継続したまま前記有効電力制御を開始する、構成が用いられてもよい。
【0017】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記制御部は、前記第1期間において前記無効電力制御と前記有効電力制御との両方を開始し、前記送電線の電圧の変化率に応じて、前記無効電力制御の稼働状態と、前記有効電力制御の稼働状態との比率を変化させる、構成が用いられてもよい。
【0018】
また、本発明の他の態様は、脱調抑制装置において、前記インバータは、前記同期発電機の近傍に接続される、構成が用いられてもよい。
【0019】
また、本発明の他の態様は、回転体を有する同期発電機を含む電力系統内において前記同期発電機と接続される送電線に接続される脱調抑制装置の制御方法であって、前記脱調抑制装置は、インバータを備え、前記制御方法は、前記送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生した場合、前記インバータを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う、脱調抑制装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を、より確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】脱調抑制システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】同期発電機PP3と無限大母線と脱調抑制システム1との接続態様の一例を示す図である。
【
図3】同期発電機PP3の出力と、同期発電機PP3の電気相差角との関係の一例を示す図である。
【
図4】
図2に示した送電線C22において短絡事故が発生した様子の一例を示す図である。
【
図5】位置P1において短絡事故が発生した後に、位置P1が同期発電機PP3から分離された様子の一例を示す図である。
【
図6】曲線F2と曲線F2’とを比較するための図である。
【
図7】曲線F2と曲線F2’’とを比較するための図である。
【
図9】脱調抑制装置20の機能構成の一例を示す図である。
【
図10】電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の流れの一例を示す図である。
【
図11】
図10に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図12】電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例1の流れの一例を示す図である。
【
図13】
図12に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図14】電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例2の流れの一例を示す図である。
【
図15】
図14に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図16】ステップS340の処理によって制御部20Aにより行われる有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの稼働状態を示すPQベクトル円の一例を示す図である。
【
図17】電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例3の流れの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
<脱調抑制システムの構成>
まず、実施形態に係る脱調抑制システム1の構成について説明する。
図1は、脱調抑制システム1の構成の一例を示す図である。
【0024】
脱調抑制システム1は、1つ以上の同期発電機を含む電力系統に接続される。脱調抑制システム1は、当該電力系統内において短絡事故が発生した場合に、当該電力系統内に含まれる1つ以上の同期発電機のうちの少なくとも1つの脱調を抑制する。
【0025】
ここで、電力系統は、1つ以上の同期発電機を含み、これら1つ以上の同期発電機による同期発電が行われる交流電力系統のことである。例えば、日本における中部、北陸、関西、中国、四国、九州から成る範囲の電力系統(中西系統と呼ばれることがある)は、電力系統の一例である。同期発電機は、回転体(例えば、タービン、発電機の回転子等)を有し、気体、液体、磁力等によって回転体を回転させることにより発電を行う発電機である。例えば、同期発電機は、火力発電を行う発電機、水力発電を行う発電機、原子力発電を行う発電機等である。なお、電力系統は、1つ以上のインバータ電源を含む構成であってもよく、インバータ電源を含まない構成であってもよい。インバータ電源は、インバータベースの電源のことであり、IBR(インバータベースリソース)と呼ばれることもある。インバータ電源は、例えば、太陽光等の再生可能エネルギーによる発電を行う電源である。
【0026】
以下では、一例として、脱調抑制システム1が、
図1に示した電力系統Rに接続されている場合について説明する。電力系統Rは、2つのインバータ電源と、1つの同期発電機とを含む交流電力系統のことである。この場合、脱調抑制システム1は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合、電力系統R内に含まれる1つの同期発電機の脱調を抑制する。なお、電力系統R内において発生する短絡事故は、地絡事故であってもよく、相間短絡事故であってもよい。
【0027】
電力系統Rは、より具体的には、上記の2つのインバータ電源として、インバータ電源PP1と、インバータ電源PP2を含む。また、電力系統Rは、上記の1つの同期発電機として、同期発電機PP3を含む。すなわち、電力系統Rでは、インバータ電源PP1、インバータ電源PP2、同期発電機PP3の3つの発電機による同期発電が行われる。なお、電力系統Rには、これら3つの発電機に加えて、変電所等の他の設備が含まれている。しかしながら、
図1では、図を簡略化するため、当該他の設備が省略されている。また、電力系統Rは、インバータ電源PP1とインバータ電源PP2との少なくとも一方を含まない構成であってもよい。また、電力系統Rは、インバータ電源PP1とインバータ電源PP2との少なくとも一方に代えて、1つ以上の他のインバータ電源を含む構成であってもよい。また、電力系統Rは、インバータ電源PP1とインバータ電源PP2とに加えて、1つ以上の他のインバータ電源を含む構成であってもよい。また、電力系統Rは、同期発電機PP3に加えて、1つ以上の他の同期発電機を含む構成であってもよい。
【0028】
インバータ電源PP1及びインバータ電源PP2は、例えば、太陽光発電を行うインバータ電源である。なお、インバータ電源PP1とインバータ電源PP2との少なくとも一方は、太陽光発電を行う電源に代えて、他の再生可能エネルギーによる発電を行うインバータ電源であってもよい。
【0029】
同期発電機PP3は、例えば、原子力発電を行う同期発電機である。なお、同期発電機PP3は、原子力発電を行う同期発電機に代えて、火力発電等の他の方式による発電を行う同期発電機であってもよい。
【0030】
脱調抑制システム1は、電力系統R内の送電線に接続される。これにより、脱調抑制システム1は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合、同期発電機PP3の脱調を抑制することができる。ここで、電力系統R内の送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生した場合、電力系統R内では、インバータ電源PP1、インバータ電源PP2、同期発電機PP3のそれぞれから、第1位置に向かって短絡電流が流れる。以下では、説明の便宜上、電力系統R内の送電線上の経路のうち、当該場合において同期発電機PP3が第1位置へ流す短絡電流の流れる経路を、対象経路と称して説明する。当該場合、且つ、対象経路上に脱調抑制システム1が接続されている場合、脱調抑制システム1は、電力系統R内の送電線上の経路のうち対象経路と異なる経路上に脱調抑制システム1が接続されている場合と比較して、同期発電機PP3の脱調を、より確実に抑制することができる。しかしながら、電力系統R内において短絡事故が発生する位置は、短絡事故が起こるまで不定である。このため、電力系統R内の送電線上の位置のうち脱調抑制システム1が接続される位置は、同期発電機PP3に近いほど望ましい。そこで、以下では、一例として、脱調抑制システム1が、電力系統R内の送電線のうち、同期発電機PP3の近傍に位置する送電線に接続される場合について説明する。同期発電機PP3の近傍は、例えば、同期発電機PP3を含む発電所の敷地内であってもよく、同期発電機PP3を含む所定の範囲内であってもよく、同期発電機PP3に応じた他の範囲内であってもよい。
図1に示した点線によって囲まれた領域RRは、同期発電機PP3の近傍の一例を示す。
図1に示した送電線Cは、電力系統R内の送電線のうち、脱調抑制システム1が接続された送電線の一例を示す。
【0031】
また、脱調抑制システム1は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合、脱調抑制システム1が接続された送電線Cから、有効電力と無効電力との少なくとも一方を吸収する。これにより、脱調抑制システム1は、当該場合における同期発電機PP3の脱調を抑制することができる。以下では、説明の便宜上、脱調抑制システム1が送電線Cから有効電力の吸収を行う制御を、有効電力制御と称して説明する。また、以下では、説明の便宜上、脱調抑制システム1が送電線Cから無効電力の吸収を行う制御を、無効電力制御と称して説明する。なお、本実施形態において、有効電力の吸収は、蓄電池、フライホイール等を用いることにより、送電線Cから供給される有効電力を蓄積又は消費することを意味する。また、本実施形態において、無効電力の吸収は、インダクタ等を用いることにより、送電線Cの電圧の位相に対して、送電線Cを流れる電流の位相を遅らせることを意味する。
【0032】
脱調抑制システム1は、検出装置10と、脱調抑制装置20を備える。なお、脱調抑制装置20は、検出装置10と一体に構成されてもよい。
【0033】
検出装置10は、送電線Cを流れる電流と、送電線Cの電圧とのそれぞれを検出する。このため、検出装置10は、送電線Cと接続される。検出装置10は、例えば、PMU(Phasor Measurement Unit)である。なお、検出装置10は、PMUに代えて、当該電流と当該電圧との両方を検出可能な他の装置、回路、センサ等であってもよい。また、検出装置10は、同期発電機PP3の出力端の電流及び電圧のそれぞれを検出する構成であってもよい。
【0034】
検出装置10は、有線又は無線によって脱調抑制装置20と通信可能に接続される。検出装置10は、検出した電流を示す電流情報と、検出した電圧を示す電圧情報とを脱調抑制装置20に出力する。
【0035】
脱調抑制装置20は、
図1において図示しないインバータIVと、
図1において図示しない電力吸収装置とを備える。そして、インバータIVは、送電線Cと、電力吸収装置とのそれぞれに接続される。すなわち、電力吸収装置は、インバータIVを介して送電線Cと接続される。電力吸収装置は、有効電力の吸収、無効電力の吸収のそれぞれを行うことが可能な装置であり、例えば、蓄電池、インダクタ等を含む装置である。なお、電力吸収装置は、CAES(Compressed Air Energy Storage)を含む装置であってもよい。また、電力吸収装置は、有効電力の吸収、無効電力の吸収のそれぞれを行うことが可能な装置であれば、他の素子、他の部材等を含む装置であってもよい。なお、脱調抑制装置20は、電力吸収装置を備えず、脱調抑制装置20と別体の電力吸収装置と接続される構成であってもよい。
【0036】
インバータIVは、電力吸収装置に吸収させる有効電力の大きさを制御するスイッチングを行う。また、インバータIVは、電力吸収装置に吸収させる無効電力の大きさを制御するスイッチングを行う。インバータIVの構成は、これらのスイッチングを行うことが可能な構成であれば、如何なる構成であってもよい。インバータIVによって送電線Cから電力吸収装置に吸収させる有効電力の大きさを制御する方法は、既知の方法であってもよく、これから開発される方法であってもよい。また、インバータIVによって送電線Cから電力吸収装置に吸収させる無効電力の大きさを制御する方法は、既知の方法であってもよく、これから開発される方法であってもよい。なお、脱調抑制装置20は、インバータIVに代えて、これらのスイッチングを行うことが可能な他の素子、他の部材、他の装置等を備える構成であってもよい。
【0037】
脱調抑制装置20は、検出装置10から電流情報及び電圧情報を取得する。脱調抑制装置20は、取得した電流情報及び電圧情報に基づいて、電力系統R内において短絡事故が発生したか否かを判定する。
【0038】
ここで、脱調抑制装置20と異なる脱調抑制装置(例えば、従来の脱調抑制装置)X1が脱調抑制装置20に代えて送電線Cに接続されている場合、且つ、電力系統R内において短絡事故が発生した場合、脱調抑制装置X1は、制動抵抗を送電線Cに接続させることにより、同期発電機PP3の脱調を抑制する。しかしながら、この方法では、同期発電機PP3の脱調を十分に抑制することができない場合があった。例えば、制動抵抗の抵抗値が十分に大きくなかった場合、脱調抑制装置X1は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合、同期発電機PP3の脱調を十分に抑制することができない場合がある。また、この方法は、送電線Cに対して新たに脱調抑制装置X1を接続しなければならず、時間と手間と費用が掛かってしまうという問題があった。
【0039】
そこで、脱調抑制装置20は、電力系統R内において短絡事故が発生したと判定した場合、すなわち、電力系統R内において短絡事故が発生した場合、インバータIVを制御し、有効電力制御と、無効電力制御との少なくとも一方を行う。これにより、脱調抑制装置20は、当該場合における同期発電機PP3の脱調を抑制することができる。なお、有効電力制御による有効電力の吸収先は、脱調抑制装置20が備える電力吸収装置である。また、無効電力制御による無効電力の吸収も、当該電力吸収装置によって行われる。有効電力制御により脱調抑制装置20が吸収する有効電力の大きさと、無効電力制御により脱調抑制装置20が吸収する無効電力の大きさとは、脱調抑制装置20により必要に応じて変化させることができる。その結果、脱調抑制装置20は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を、上記の脱調抑制装置X1と比べて、より確実に抑制することができる。なお、無効電力制御による無効電力の吸収は、当該電力吸収装置と異なる装置により行われる構成であってもよい。また、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行うことにより同期発電機PP3の脱調を抑制する方法は、同期発電機PP3の近傍に接続される既存のインバータの制御方法を変更することにより実現することができる。すなわち、当該方法は、当該場合における同期発電機PP3の脱調の抑制の実現について、時間と手間と費用のうちの少なくとも1つを少なくすることができる。
【0040】
以下では、電力系統R内において短絡事故が発生した場合において脱調抑制装置20が同期発電機PP3の脱調を抑制する処理について詳しく説明する。
【0041】
<同期発電機の脱調を抑制する方法>
以下、電力系統R内において短絡事故が発生した場合において脱調抑制装置20が同期発電機PP3の脱調を抑制する方法について説明する。なお、以下では、一例として、電力系統R内の送電線上の位置のうちの第1位置において短絡事故が発生する場合について説明する。また、以下では、一例として、
図2に示したように、同期発電機PP3が、送電線C、送電線C2のそれぞれを介して無限大母線と接続されている場合について説明する。
【0042】
図2は、同期発電機PP3と無限大母線と脱調抑制システム1との接続態様の一例を示す図である。
図2に示した送電線Cは、同期発電機PP3と接続された1回線送電線の一例を示す。
図2に示した送電線C2は、送電線Cと無限大母線との間に接続された並行2回線送電線の一例を示す。
図2に示した送電線C21は、並行2回線送電線である送電線C2が有する2本の送電線のうちの一方である。
図2に示した送電線C22は、並行2回線送電線である送電線C2が有する2本の送電線のうちの他方である。
図2に示した例では、同期発電機PP3は、送電線C、送電線C2を順に介して、無限大母線と接続される。また、当該例では、脱調抑制システム1は、送電線Cに接続される。そして、当該例では、同期発電機PP3は、同期発電機PP3の出力として、電力P
eを無限大母線に供給している。
【0043】
ここで、
図3は、同期発電機PP3の出力と、同期発電機PP3の電気相差角との関係の一例を示す図である。すなわち、
図3に示したグラフは、当該関係の一例を示すP-δ曲線がプロットされたグラフである。
図3に示したグラフの横軸は、同期発電機PP3の電気相差角を示す。
図3に示したグラフの縦軸は、同期発電機PP3の出力を示す。また、当該グラフにおけるP
mは、同期発電機PP3への機械入力を示す。
【0044】
図3に示したグラフには、曲線F1~曲線F3の3つのP-δ曲線が描かれている。曲線F1は、期間TAにおけるP-δ曲線である。曲線F2は、期間TBにおけるP-δ曲線である。曲線F3は、期間TCにおけるP-δ曲線である。
【0045】
期間TAは、第1位置において短絡事故が発生するよりも前の期間のことである。すなわち、期間TAにおいて、同期発電機PP3は、
図2に示したように、送電線C、送電線C2を順に介して無限大母線と接続されている。
【0046】
期間TBは、第1位置において短絡事故が発生してから、第1位置が同期発電機PP3から分離されるまでの期間のことである。以下では、一例として、第1位置が、
図4に示したように、送電線C22上の位置である場合について説明する。
図4は、
図2に示した送電線C22において短絡事故が発生した様子の一例を示す図である。
図4に示した位置P1は、第1位置の一例である。
図4に示したような短絡事故が発生すると、同期発電機PP3は、事故点である位置P1へ短絡電流を流し始める。ここで、位置P1において短絡事故が発生した後、位置P1は、同期発電機PP3が位置P1へ短絡電流を流してしまうことを抑制するため、同期発電機PP3から分離される。
【0047】
期間TCは、位置P1が同期発電機PP3から分離された後の期間のことである。以下では、一例として、位置P1が、
図5に示したように、同期発電機PP3から分離される場合について説明する。
図5は、位置P1において短絡事故が発生した後に、位置P1が同期発電機PP3から分離された様子の一例を示す図である。例えば、位置P1は、位置P1を含む送電線C22の両端に設けられた遮断器により、同期発電機PP3から分離される。
【0048】
図3に戻る。
図3に示した時刻t
1は、位置P1において短絡事故が発生した時刻の一例であり、期間TAが終わる時刻であり、期間TBが始まる時刻である。
図3に示した時刻t
2は、位置P1が同期発電機PP3から分離された時刻の一例であり、期間TBが終わる時刻であり、期間TCが始まる時刻である。
【0049】
期間TAにおける同期発電機PP3は、曲線F1上の点aに対応する電気相差角δ
1で発電を行い、機械入力P
mの大きさと同じ大きさの電力、すなわち、曲線F1上の点aに対応する電力を出力している。そして、位置P1における短絡事故が時刻t
1で発生した場合、同期発電機PP3は、短絡電流を位置P1へ流し始める。その結果、同期発電機PP3は、時刻t
1において、出力を低下させる。
図3に示した例では、同期発電機PP3は、時刻t
1において、電気相差角を保ったまま、曲線F1上の点aに対応する電力から、曲線F2上の点bに対応する電力まで出力を低下させる。換言すると、同期発電機PP3の出力は、時刻t
1において、機械入力P
mよりも低くなる。
【0050】
同期発電機PP3の出力が機械入力P
mよりも低くなると、同期発電機PP3は、同期発電機PP3の出力と機械入力P
mとの差分のエネルギーを用いて回転体を加速させ、低下した出力を機械入力P
mと一致する出力まで戻そうとする。しかしながら、期間TBでは、同期発電機PP3の出力は、曲線F2上に沿って変化する。これは、期間TBにおいて同期発電機PP3が短絡電流を位置P1に流し続けているため、出力を増大させることができず、回転体を加速させるエネルギーの大半が、回転体の回転エネルギーとして回転体に蓄積されてしまうためである。すなわち、期間TBにおいて、同期発電機PP3の出力と同期発電機PP3の電気相差角とは、時刻t
1から時刻t
2までの間、曲線F2に沿って増大する。
図3に示したδ
1は、時刻t
1における同期発電機PP3の電気相差角の一例を示す。
図3に示したδ
2は、時刻t
2における同期発電機PP3の電気相差角の一例を示す。
【0051】
時刻t
2において位置P1が同期発電機PP3から分離されると、同期発電機PP3は、位置P1へ短絡電流を流さなくなる。しかしながら、この場合、位置P1を含む送電線C2は、実質上、1回線送電線となっている。その結果、位置P1が同期発電機PP3から分離された後の送電線C2のリアクタンスは、短絡事故が発生する前の送電線C2のリアクタンスの2倍になってしまう。これにより、同期発電機PP3の出力と同期発電機PP3の電気相差角とは、曲線F1に沿って変化するようにならず、曲線F3に沿って変化するようになる。すなわち、時刻t
2において、同期発電機PP3は、電気相差角を保ったまま、曲線F2上の点cに対応する電力から、曲線F3上の点dに対応する電力まで出力を増大させる。しかしながら、同期発電機PP3による回転体の加速は、慣性により、時刻t
2において瞬間的に終わらせることができない。このため、同期発電機PP3の回転体の加速は、期間TBにおいて回転体を加速させるために同期発電機PP3から回転体に与えられたエネルギーの大きさに応じて継続される。このエネルギーの大きさは、点aを通る2本の点線と、曲線F2に沿って点bと点cとを結ぶ点線と、点cを通る1本の点線とによって囲まれた領域、すなわち、加速領域RAの面積によって表される。以下では、説明の便宜上、このエネルギー、すなわち、加速領域RAの面積のことを、加速エネルギーと称して説明する。
図3では、加速エネルギーを、E
aによって示している。加速エネルギーは、換言すると、時刻t
1から時刻t
2までの間の期間TBにおいて増大する回転体の回転エネルギーの総和のことである。なお、点aを通る2本の点線のうちの一方は、点aを通り、X軸と平行な直線を示している。また、点aを通る2本の点線のうちの他方は、点aを通り、Y軸と平行な直線を示している。また、点cを通る1本の点線は、点cを通り、Y軸と平行な直線を示している。すなわち、加速領域は、時刻t
1から時刻t
2までの間の期間TBにおいて、機械入力P
mを示す直線と、曲線F2とによって囲まれた領域のことである。
【0052】
同期発電機PP3の脱調を防ぐためには、加速エネルギーを、減速エネルギー以下にしなければならないことが知られている。減速エネルギーは、時刻t
2の後の期間TCにおける同期発電機PP3の出力の増大に応じて減少する回転体の回転エネルギーの総和のことである。時刻t
2において位置P1が同期発電機PP3から分離された後の同期発電機PP3、すなわち、時刻t
2の後の同期発電機PP3は、加速エネルギーに応じた回転体の加速が止まるまで、電気相差角を増大させる。
図3では、加速エネルギーに応じた回転体の加速が止まった場合における同期発電機PP3の電気相差角を、δ
cによって示している。
図3に示した点fは、曲線F3上の点のうち、電気相差角δ
cに対応する点の一例である。すなわち、
図3では、同期発電機PP3の出力は、時刻t
2の後、曲線F3に沿って点dから点fに向かって変化する。ここで、前述の減速エネルギーは、曲線F3上の点fを通る2本の点線のうちX軸と平行な点線と、曲線F3上の点dを通る点線であってY軸と平行な点線と、曲線F3に沿って点dと点fとを結ぶ実線とによって囲まれた領域、すなわち、減速領域RBの面積によって表される。
【0053】
ここで、
図3に示した例では、点fに対応する出力が、機械入力P
mと一致している。点fに対応する出力が機械入力P
mよりも低くなると、加速エネルギーが減速エネルギーを超え、同期発電機PP3は、回転体を再び加速させることになる。これは、加速エネルギーの更なる増大を招き、結果として同期発電機PP3が脱調してしまう。すなわち、同期発電機PP3は、時刻t
2の後、点fに対応する出力が機械入力P
mと一致するまでであれば、電気相差角を増大させても脱調しない。従って、同期発電機PP3が脱調を起こさずに減速エネルギーの大きさとして取り得る値のうちの最大の値は、点fに対応する出力が機械入力P
mと一致している場合における減速領域RBの面積によって表される。以下では、説明の便宜上、当該面積を、減速エネルギーの最大値と称して説明する。
図3では、減速エネルギーの最大値を、E
dmaxによって示している。
【0054】
以上のような事情から、脱調抑制装置20は、位置P1において短絡事故が発生した場合、インバータIVを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う。これにより、脱調抑制装置20は、加速エネルギーの大きさを、減速エネルギーの大きさよりも小さくする(すなわち、Ea<Edmaxとする)。その結果、脱調抑制装置20は、電力系統R内において地絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0055】
なお、同期発電機PP3の出力Pは、送電端電圧Vs、受電端電圧Vr、電気相差角δ、送電線C2のリアクタンスXに基づいて、以下の式(1)によって表すことができる。送電端電圧Vsは、この一例において、同期発電機PP3の出力電圧である。受電端電圧Vrは、この一例において、送電線C2を介して無限大母線へ供給される電圧である。
【0056】
P=Vs・Vr・sin(δ)/X ・・・(1)
【0057】
有効電力制御は、送電線Cを介して同期発電機PP3から有効電力を吸収することにより、上記の式(1)における電気相差角δを増大させる制御であると換言することができる。有効電力制御の結果、期間TBにおけるP-δ曲線である曲線F2は、
図6に示した曲線F2’のように変化すると仮定する。
図6は、曲線F2と曲線F2’とを比較するための図である。送電線Cを介して同期発電機PP3から有効電力を吸収すると、曲線F2は、曲線F2’のように頂点の高さが僅かに低い曲線へと変化する。これは、送電線Cを介して同期発電機PP3から有効電力を吸収すると、僅かに送電端電圧Vsが小さくなるためであるとの仮定に基づく。また、送電線Cを介して同期発電機PP3から有効電力を吸収すると、電気相差角δが増大するため、曲線F2上の点bが曲線F2’上の点b’へと変化するとともに、曲線F2上の点cが曲線F2’上の点c’へと変化する。点b’は、
図6に示したグラフ上において、点bよりもX軸の正方向側に位置する点であり、且つ、点bよりもY軸の正方向側に位置する点である。また、点c’は、
図6に示したグラフ上において、点cよりもX軸の正方向側に位置する点であり、且つ、Y軸方向において点cとほぼ同じ位置に位置する点である。このため、加速領域の面積、すなわち、加速エネルギーE
aは、
図6に示したように、加速エネルギーE
aよりも小さい加速エネルギーE
a’へと変化する。すなわち、有効電力制御は、減速エネルギーの最大値に対して相対的に、加速エネルギーを小さくすることができる。
図6に示した例では、加速エネルギーE
aを、斜線のハッチングで表し、加速エネルギーE
a’を横線のハッチングによって表している。
【0058】
一方、無効電力制御は、同期発電機PP3から無効電力を吸収することにより、上記の式(1)における送電端電圧Vsを増大させる制御である。無効電力制御の結果、期間TBにおけるP-δ曲線である曲線F2は、
図7に示した曲線F2’’のように変化すると仮定する。
図7は、曲線F2と曲線F2’’とを比較するための図である。同期発電機PP3から無効電力を吸収すると、曲線F2は、曲線F2’’のように頂点の高さが高い曲線へと変化する。このため、曲線F2上の点bが曲線F2’’上の点b’’へと変化するとともに、曲線F2上の点cが曲線F2’’上の点c’’へと変化する。点b’’は、
図7に示したグラフ上において、X軸方向側において点bと同じ位置に位置する点であり、且つ、点bよりもY軸の正方向側に位置する点である。また、点c’’は、
図7に示したグラフ上において、X軸方向において点cと同じ位置に位置する点であり、且つ、点cよりもY軸の正方向側に位置する点である。このため、加速領域の面積、すなわち、加速エネルギーE
aは、
図7に示したように、加速エネルギーE
aよりも小さい加速エネルギーE
a’’へと変化する。すなわち、無効電力制御は、減速エネルギーの最大値に対して相対的に、加速エネルギーを小さくすることができる。
図7に示した例では、加速エネルギーE
aを、斜線のハッチングで表し、加速エネルギーE
a’’を横線のハッチングによって表している。
【0059】
以上のように、脱調抑制装置20は、インバータIVの制御によって有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行うことにより、加速エネルギーを小さくすることができる。より具体的には、脱調抑制装置20は、インバータIVの制御によって有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行うことにより、加速エネルギーを、減速エネルギーの最大値よりも小さくすることができる。その結果、脱調抑制装置20は、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0060】
<脱調抑制装置による有効電力制御と無効電力制御との関係>
以下、脱調抑制装置20による有効電力制御と無効電力制御との関係について説明する。また、以下では、脱調抑制装置20の有効電力制御によって単位時間あたりに吸収可能な有効電力の大きさを100分率によって表すとともに、当該大きさによって脱調抑制装置20の有効電力制御の稼働状態を表す。すなわち、脱調抑制装置20が有効電力制御によって単位時間あたりに吸収可能な有効電力の最大値を100%によって表し、100%の稼働状態で脱調抑制装置20が有効電力制御を行うと、脱調抑制装置20は、単位時間が経過する毎に、当該最大値の有効電力を吸収する。また、脱調抑制装置20が有効電力制御によって有効電力を吸収しない場合において脱調抑制装置20が単位時間あたりに吸収する有効電力の大きさを0%によって表し、0%の稼働状態で脱調抑制装置20が有効電力制御を行うと、脱調抑制装置20は、有効電力を吸収しない。また、以下では、脱調抑制装置20の無効電力制御によって吸収可能な無効電力の大きさ(すなわち、遅らせる位相の大きさ)を100分率によって表すとともに、当該大きさによって脱調抑制装置20の無効電力制御の稼働状態を表す。すなわち、脱調抑制装置20が無効電力制御によって吸収可能な無効電力の最大値(すなわち、遅らせる位相の大きさの最大値)を100%によって表し、100%の稼働状態で脱調抑制装置20が無効電力制御を行うと、脱調抑制装置20は、当該最大値の無効電力を吸収する。また、脱調抑制装置20が無効電力制御によって無効電力を吸収しない場合において脱調抑制装置20が吸収する無効電力の大きさを0%によって表し、0%の稼働状態で脱調抑制装置20が無効電力制御を行うと、脱調抑制装置20は、無効電力を吸収しない。
【0061】
脱調抑制装置20では、有効電力制御と無効電力制御との両方を行う場合、有効電力制御の稼働状態と、無効電力制御の稼働状態とは、相互に制約を受けながら変化させることができる。例えば、脱調抑制装置20が100%の稼働状態で有効電力制御を行う場合、脱調抑制装置20は、無効電力制御を行うことができない。すなわち、この場合、脱調抑制装置20による無効電力制御の稼働状態は、0%である。また、例えば、脱調抑制装置20が100%の稼働状態で無効電力制御を行う場合、脱調抑制装置20は、有効電力制御を行うことができない。すなわち、この場合、脱調抑制装置20による有効電力制御の稼働状態は、0%である。また、例えば、脱調抑制装置20が30%の稼働状態で有効電力制御を行う場合、脱調抑制装置20は、70%の稼働状態で無効電力制御を行うことができる。
【0062】
以上のような理由から、脱調抑制装置20による有効電力制御の稼働状態と、脱調抑制装置20による無効電力制御の稼働状態との比率は、
図8に示したPQベクトル円によって表すことができる。
図8は、PQベクトル円の一例を示す図である。PQベクトル円では、脱調抑制装置20による有効電力制御の稼働状態と、脱調抑制装置20による無効電力制御の稼働状態との比率は、PQベクトル円の中心からPQベクトル円の円周に向かって延びる矢印の先端の位置によって表される。この矢印の先端は、当該中心の周りに当該円周に沿ってのみ動くことができる。すなわち、この矢印の長さはPQベクトル円の半径のまま変わらない。一方、この矢印の向きは、脱調抑制装置20による有効電力制御の稼働状態と、脱調抑制装置20による無効電力制御の稼働状態との比率の変化に応じて変化する。
図8に示した矢印A1の先端は、脱調抑制装置20が100%の稼働状態で無効電力制御を行う場合における当該比率を示す。
図8に示した矢印A2の先端は、脱調抑制装置20が100%の稼働状態で有効電力制御を行う場合における当該比率を示す。
【0063】
<脱調抑制装置の機能構成>
以下、
図9を参照し、脱調抑制装置20の機能構成について説明する。
図9は、脱調抑制装置20の機能構成の一例を示す図である。
【0064】
脱調抑制装置20は、制御部20Aと、インバータIVと、インバータIVに接続される電力吸収装置を備える。そして、制御部20Aは、第1制御部21と、第2制御部22と、PWM(Pulse Width Modulation)制御部23を備える。なお、
図9では、図を簡略化するため、電力吸収装置が描かれていない。
【0065】
第1制御部21は、脱調抑制装置20の全体を制御する。例えば、第1制御部21は、以下のような処理を行う。第1制御部21は、検出装置10から電流情報及び電圧情報を取得する。第1制御部21は、取得した電流情報及び電圧情報に基づいて、送電線Cの有効電力を第1有効電力として算出するとともに、送電線Cの無効電力を第1無効電力として算出する。また、第1制御部21は、インバータIVの出力電流計測値を示す出力電流計測値情報と、インバータIVの連系電圧計測値を示す連系電圧計測値情報とをインバータIVから取得する。第1制御部21は、取得した出力電流計測値情報及び連系電圧計測値情報に基づいて、インバータIVによって吸収している有効電力を第2有効電力として算出するとともに、インバータIVによって吸収している無効電力を第2無効電力として算出する。また、第1制御部21は、算出した第1有効電力と第2有効電力との差分である差分有効電力を示す差分有効電力情報を第2制御部22に出力する。また、第1制御部21は、算出した第1無効電力と第2無効電力との差分である差分無効電力を示す差分無効電力情報を第2制御部22に出力する。なお、第1制御部21は、これらの処理に加えて、他の処理を行う構成であってもよい。
【0066】
第2制御部22は、第1制御部21から差分有効電力情報を取得した場合、取得した差分有効電力情報が示す差分有効電力に応じた有効電流を算出する。第2制御部22は、算出した有効電流に基づいて、U相、V相、W相それぞれに応じた有効電流を算出する。第2制御部22は、算出したU相に応じた有効電流を示すU相有効電流、算出したV相に応じた有効電流を示すV相有効電流情報、算出したW相に応じた有効電流を示すW相有効電流情報のそれぞれを、PWM制御部23に出力する。また、第2制御部22は、第1制御部21から差分無効電力情報を取得した場合、取得した差分無効電力情報が示す差分無効電力に応じた無効電流を算出する。第2制御部22は、算出した無効電流に基づいて、U相、V相、W相それぞれに応じた無効電流を算出する。第2制御部22は、算出したU相に応じた無効電流を示すU相無効電流、算出したV相に応じた無効電流を示すV相無効電流情報、算出したW相に応じた無効電流を示すW相無効電流情報のそれぞれを、PWM制御部23に出力する。
【0067】
PWM制御部23は、第2制御部22からU相有効電流情報、V相有効電流情報、W相有効電流情報、U相無効電流情報、V相無効電流情報、W相無効電流情報のそれぞれを取得した場合、取得したU相有効電流情報、V相有効電流情報、W相有効電流情報、U相無効電流情報、V相無効電流情報、W相無効電流情報に応じたPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータIVに出力する。
【0068】
インバータIVは、PWM制御部23から取得したPWM信号に応じて駆動し、有効電流と無効電流との少なくとも一方を、インバータIVに接続された電力吸収装置に吸収させる。
【0069】
<電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を脱調抑制装置が抑制する処理>
以下、
図10を参照し、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理について説明する。
図10は、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、
図10に示したステップS110の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、検出装置10からの電流情報及び電圧情報の取得を第1制御部21が開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、電流情報及び電圧情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、インバータIVからの出力電流計測値情報及び連系電圧計測値情報の取得を第1制御部21が開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、出力電流計測値情報及び連携電圧計測値情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、インバータIVに接続される電力吸収装置が、蓄電池である場合について説明する。
【0070】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生するまで待機する(ステップS110)。ここで、制御部20Aは、取得した最新の電流情報及び電圧情報に基づいて、電力系統R内において短絡事故が発生したか否かを判定する。
【0071】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生したと判定した場合(ステップS110-YES)、インバータIVを制御し、100%の稼働状態での無効電力制御を開始する(ステップS120)。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cを介して同期発電機PP3から無効電力を吸収し始める。そして、送電線Cの電圧の位相に対して、送電線Cを流れる電流の位相が遅れる。その結果、同期発電機PP3の回転体の加速が抑制され、回転体への加速エネルギーの蓄積が抑制される。
【0072】
次に、制御部20Aは、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が予め決められた系統電圧になるまで待機する(ステップS130)。
図10に示した例では、ステップS130の処理を、「電圧復帰?」によって示している。制御部20Aは、例えば、送電線Cの電圧が、系統電圧を中心値とする所定の電圧範囲に含まれる場合、送電線Cの電圧が系統電圧になったと判定する。一方、制御部20Aは、例えば、送電線Cの電圧が、当該電圧範囲に含まれていない場合、送電線Cの電圧が系統電圧になっていないと判定する。
【0073】
制御部20Aは、送電線Cの電圧が系統電圧になったと判定した場合(ステップS130-YES)、インバータIVを制御し、無効電力制御を停止する(ステップS140)。
【0074】
次に、制御部20Aは、インバータIVを制御し、100%の稼働状態での有効電力制御を開始する(ステップS150)。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cを介して同期発電機PP3から有効電力を吸収し始める。その結果、同期発電機PP3の回転体の加速が抑制され、回転体への加速エネルギーの蓄積が抑制される。
【0075】
次に、制御部20Aは、有効電力制御を停止するか否かを判定する(ステップS160)。例えば、制御部20Aは、所定の有効電力制御終了条件が満たされた場合、有効電力制御を停止すると判定する。有効電力制御終了条件は、例えば、電力相差角の変動が収まること、電力吸収装置の一例である蓄電池への充電が完了すること等であるが、これらに限られるわけではない。有効電力制御終了条件が、電力相差角に変動が収まることである場合、制御部20Aは、例えば、電力相差角の変化率が所定の閾値未満となることによって、電力相差角に変動が収まったと判定する。
【0076】
制御部20Aは、有効電力制御を停止しないと判定した場合(ステップS160-NO)、ステップS160に遷移し、有効電力制御を停止するか否かを再び判定する。
【0077】
一方、制御部20Aは、有効電力制御を停止すると判定した場合(ステップS160-YES)、インバータIVを制御し、有効電力制御を停止し(ステップS170)、
図10に示したフローチャートの処理を終了する。
【0078】
ここで、
図11は、
図10に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートの一例を示す図である。
図11に示した時刻TT1は、期間TAが終了する時刻であり、期間TBが開始する時刻である。
図11に示したように、
図10に示したフローチャートの処理では、無効電力制御は、時刻TT1に開始される。
図11に示した時刻TT2は、期間TBが終了する時刻であり、期間TCが開始する時刻である。
図11に示したように、
図10に示したフローチャートの処理では、無効電力制御は、時刻TT2に終了される。また、当該処理では、有効電力制御は、時刻TT2に開始される。そして、
図11に示した時刻TT3は、有効電力制御が終了される時刻、すなわち、有効電力制御終了条件が満たされた時刻である。
【0079】
以上のように、脱調抑制装置20は、
図10に示したフローチャートの処理によって、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を抑制する。換言すると、脱調抑制装置20は、期間TBにおいて100%の稼働状態での無効電力制御を開始し、期間TCにおいて無効電力制御を停止するとともに、100%の稼働状態での有効電力制御を開始する。これにより、脱調抑制装置20は、電力系統R内において地絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0080】
<電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を脱調抑制装置が抑制する処理の変形例1>
以下、
図12を参照し、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例1について説明する。
図12は、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例1の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、
図12に示したステップS210の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、検出装置10からの電流情報及び電圧情報の取得を開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、電流情報及び電圧情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、インバータIVからの出力電流計測値情報及び連系電圧計測値情報の取得を第1制御部21が開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、出力電流計測値情報及び連携電圧計測値情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、インバータIVに接続される電力吸収装置が、蓄電池である場合について説明する。
【0081】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生するまで待機する(ステップS210)。ここで、制御部20Aは、取得した最新の電流情報及び電圧情報に基づいて、電力系統R内において短絡事故が発生したか否かを判定する。
【0082】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生したと判定した場合(ステップS210-YES)、インバータIVを制御し、100%の稼働状態での無効電力制御を開始する(ステップS220)。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cを介して同期発電機PP3から無効電力を吸収し始める。そして、送電線Cの電圧の位相に対して、送電線Cを流れる電流の位相が遅れる。その結果、同期発電機PP3の回転体の加速が抑制され、回転体への加速エネルギーの蓄積が抑制される。
【0083】
次に、制御部20Aは、ステップS220において開始した無効電力制御によって変化した有効電力の変化分を、第1変化量ΔP1として算出する(ステップS230)。ここで、制御部20Aは、以下に示した式(2)に基づいて、第1変化量ΔP1を算出する。
【0084】
ΔP1=(Vs2・Vr・sin(δ)/X)-(Vs1・Vr・sin(δ)/X) ・・・(2)
【0085】
上記の式(2)に示したVs1は、ステップS220において無効電力制御を行う前のタイミングにおける送電端電圧Vsを示す。式(2)に示したVs2は、ステップS220において無効電力制御を行った後のタイミングにおける送電端電圧Vsを示す。
【0086】
ステップS230の処理が行われた後、制御部20Aは、ステップS230において算出された第1変化量ΔP1が、予め算出された第2変化量ΔP2よりも小さいか否かを判定する(ステップS240)。ここで、第2変化量ΔP2は、有効電力制御を行った場合において変化する有効電力の変化分のことである。第2変化量ΔP2は、電力吸収装置が吸収可能な有効電力の大きさによって決まる量である。このため、第2変化量ΔP2は、予め算出可能な量である。この一例において、電力吸収装置は、蓄電池である。この場合、第2変化量ΔP2は、蓄電池に充電可能な電力量とほぼ等価である。脱調抑制装置20は、このような第2変化量ΔP2よりも第1変化量ΔP1が小さいか否かを判定することにより、同期発電機PP3の脱調を抑制するために有用な制御が、有効電力制御であるか無効電力制御であるかの判定を行うことができる。
【0087】
制御部20Aは、第1変化量ΔP1が第2変化量ΔP2よりも小さいと判定した場合(ステップS240-YES)、同期発電機PP3の脱調を抑制するために有用な制御が、有効電力制御であると判定する。そして、制御部20Aは、インバータIVを制御し、無効電力制御を停止する(ステップS250)。
【0088】
次に、制御部20Aは、インバータIVを制御し、有効電力制御を開始する(ステップS280)。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cを介して同期発電機PP3から有効電力を吸収し始める。その結果、同期発電機PP3の回転体の加速が抑制され、回転体への加速エネルギーの蓄積が抑制される。
【0089】
次に、制御部20Aは、有効電力制御を停止するか否かを判定する(ステップS290)。ステップS290の処理は、
図10に示したステップS160の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0090】
制御部20Aは、有効電力制御を停止しないと判定した場合(ステップS290-NO)、ステップS290に遷移し、有効電力制御を停止するか否かを再び判定する。
【0091】
一方、制御部20Aは、有効電力制御を停止すると判定した場合(ステップS290-YES)、インバータIVを制御し、有効電力制御を停止し(ステップS300)、
図12に示したフローチャートの処理を終了する。
【0092】
一方、制御部20Aは、第1変化量ΔP1が第2変化量ΔP2以上であると判定した場合(ステップS240-NO)、同期発電機PP3の脱調を抑制するために有用な制御が、無効電力制御であると判定する。そして、制御部20Aは、100%の稼働状態での無効電力制御を継続する。その後、制御部20Aは、100%の稼働状態での無効電力制御を継続したまま、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が系統電圧になるまで待機する(ステップS260)。
図12に示した例では、ステップS260の処理を、「電圧復帰?」によって示している。ステップS260の処理は、
図10に示したステップS130の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0093】
制御部20Aは、送電線Cの電圧が系統電圧になったと判定した場合(ステップS260-YES)、ステップS270に遷移し、インバータIVを制御し、無効電力制御を停止する。
【0094】
ここで、第1変化量ΔP1が第2変化量ΔP2以上であると脱調抑制装置20がステップS240において判定した場合、
図12に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートは、
図11に示したタイミングチャートと同じタイミングチャートになる。一方、第1変化量ΔP1が第2変化量ΔP2より小さいと脱調抑制装置20がステップS240において判定した場合、
図12に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートは、
図13に示したようなタイミングチャートとなる。
【0095】
図13は、
図12に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートの一例を示す図である。
図13に示した時刻TT4は、期間TAが終了する時刻であり、期間TBが開始する時刻である。
図13に示したように、
図12に示したフローチャートの処理では、無効電力制御は、時刻TT4に開始される。
図13に示した時刻TT5は、期間TBが終了する時刻であり、期間TCが開始する時刻である。
【0096】
図13に示した例では、時刻TT4において開始した無効電力制御は、時刻TT5よりも前の時刻において、終了される。そして、当該時刻において、有効電力制御が開始される。
図13に示した時刻TT6は、有効電力制御が終了される時刻、すなわち、有効電力制御終了条件が満たされた時刻である。
【0097】
以上のように、脱調抑制装置20は、
図12に示したフローチャートの処理によって、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を抑制する。換言すると、脱調抑制装置20は、期間TBにおいて、無効電力制御を開始した後、開始した無効電力制御の結果に基づいて、有効電力制御を行うか否かを判定し、有効電力制御を行うと判定した場合、無効電力制御を停止するとともに有効電力制御を開始し、有効電力制御を行わないと判定した場合、無効電力制御を継続する。より具体的には、脱調抑制装置20は、期間TBにおいて、無効電力制御を開始した後、無効電力制御によって変化した有効電力の変化分である第1変化量ΔP1が、有効電力制御によって変化する有効電力の変化分である第2変化量ΔP2以上である場合、有効電力制御を行わないと判定し、第1変化量ΔP1が第2変化量ΔP2未満である場合、有効電力制御を行うと判定する。これにより、脱調抑制装置20は、有効電力制御と無効電力制御とのうち同期発電機PP3の脱調の抑制に効果的な方の制御を選択的に行うことができる。その結果、脱調抑制装置20は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0098】
<電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を脱調抑制装置が抑制する処理の変形例2>
以下、
図14を参照し、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例2について説明する。
図14は、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例2の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、
図14に示したステップS310の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、検出装置10からの電流情報及び電圧情報の取得を開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、電流情報及び電圧情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、インバータIVからの出力電流計測値情報及び連系電圧計測値情報の取得を第1制御部21が開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、出力電流計測値情報及び連携電圧計測値情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、インバータIVに接続される電力吸収装置が、蓄電池である場合について説明する。
【0099】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生するまで待機する(ステップS310)。ここで、制御部20Aは、取得した最新の電流情報及び電圧情報に基づいて、電力系統R内において短絡事故が発生したか否かを判定する。
【0100】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生したと判定した場合(ステップS310-YES)、インバータIVを制御し、100%の稼働状態での無効電力制御を開始する(ステップS320)。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cを介して同期発電機PP3から無効電力を吸収し始める。そして、送電線Cの電圧の位相に対して、送電線Cを流れる電流の位相が遅れる。その結果、同期発電機PP3の回転体の加速が抑制され、回転体への加速エネルギーの蓄積が抑制される。
【0101】
次に、制御部20Aは、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が所定値以下であるか否かを判定する(ステップS330)。所定値は、系統電圧よりも低い電圧であれば、如何なる電圧であってもよい。
【0102】
制御部20Aは、送電線Cの電圧が所定値以下であると判定した場合(ステップS330-YES)、無効電力制御を継続したまま、有効電力制御を開始する(ステップS340)。前述した通り、無効電力制御と有効電力制御との両方を脱調抑制装置20が行う場合、制御部20Aは、無効電力制御の稼働状態と、有効電力制御の稼働状態とを独立に変えることができない。このため、制御部20Aは、例えば、ステップS340において、無効電力制御の稼働状態を50%に低下させるとともに、50%の稼働状態で有効電力制御を開始する。なお、ステップS340において制御部20Aが有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれに割り当てる稼働状態の大きさの比率は、他の比率であってもよい。
【0103】
次に、制御部20Aは、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が系統電圧になるまで待機する(ステップS350)。
図14に示した例では、ステップS350の処理を、「電圧復帰?」によって示している。ステップS350の処理は、
図10に示したステップS130の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0104】
制御部20Aは、送電線Cの電圧が系統電圧になったと判定した場合(ステップS350-YES)、インバータIVを制御し、無効電力制御を停止する(ステップS360)。
【0105】
次に、制御部20Aは、有効電力制御を停止するか否かを判定する(ステップS370)。ステップS370の処理は、
図10に示したステップS160の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0106】
制御部20Aは、有効電力制御を停止しないと判定した場合(ステップS370-NO)、ステップS370に遷移し、有効電力制御を停止するか否かを再び判定する。
【0107】
一方、制御部20Aは、有効電力制御を停止すると判定した場合(ステップS370-YES)、インバータIVを制御し、有効電力制御を停止し(ステップS380)、
図14に示したフローチャートの処理を終了する。
【0108】
一方、制御部20Aは、送電線Cの電圧が所定値より大きいと判定した場合(ステップS330-NO)、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が系統電圧になるまで待機する(ステップS390)。
図14に示した例では、ステップS390の処理を、「電圧復帰?」によって示している。ステップS350の処理は、
図10に示したステップS130の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。ここで、制御部20Aは、ステップS350の処理を行う場合と異なり、無効電力制御を継続し、且つ、有効電力制御を開始しないまま、ステップS390の処理を行う。
【0109】
制御部20Aは、送電線Cの電圧が系統電圧になったと判定した場合(ステップS390-YES)、インバータIVを制御し、無効電力制御を停止する(ステップS400)。
【0110】
次に、制御部20Aは、インバータIVを制御し、100%の稼働状態で有効電力制御を開始する(ステップS410)。その後、制御部20Aは、ステップS370に遷移し、有効電力制御を停止するか否かを判定する。
【0111】
ここで、送電線Cの電圧が所定値より大きいと制御部20AがステップS330において判定した場合、
図14に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートは、
図11に示したタイミングチャートと同じタイミングチャートになる。一方、送電線Cの電圧が所定値以下であると制御部20AがステップS330において判定した場合、
図14に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートは、
図15に示したようなタイミングチャートとなる。
【0112】
図15は、
図14に示したフローチャートの処理が行われる場合における有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの開始時刻と終了時刻とを示すタイミングチャートの一例を示す図である。
図15に示した時刻TT7は、期間TAが終了する時刻であり、期間TBが開始する時刻である。
図15に示したように、
図14に示したフローチャートの処理では、無効電力制御は、時刻TT7に開始される。
図15に示した時刻TT8は、期間TBが終了する時刻であり、期間TCが開始する時刻である。
【0113】
図15に示した例では、時刻TT7において開始した無効電力制御は、時刻TT8よりも前の時刻TT9において、終了される。これは、送電線Cの電圧が、時刻TT9において所定値Vthよりも小さいためである。そして、時刻TT9では、無効電力制御が継続されたまま、有効電力制御が開始される。ただし、当該例では、時刻TT9において、無効電力制御の稼働状態が50%に低下し、50%の稼働状態で有効電力制御が開始される。その後、時刻TT8において、無効電力制御が終了され、100%の稼働状態で有効電力制御が行われ始める。なお、
図15に示した時刻TT10は、有効電力制御が終了される時刻、すなわち、有効電力制御終了条件が満たされた時刻である。
【0114】
また、時刻TT7から時刻TT9を経て時刻TT8に至るまでの間に変化する有効電力制御及び無効電力制御それぞれの稼働状態の比率の変化は、
図16に示したように、PQベクトル円によって表される。
【0115】
図16は、ステップS340の処理によって制御部20Aにより行われる有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれの稼働状態を示すPQベクトル円の一例を示す図である。
図16に示したPQベクトル円の中心からPQベクトル円の円周に向かって延びる矢印A11は、制御部20Aによる有効電力制御の稼働状態と、制御部20Aによる無効電力制御の稼働状態との時刻TT7における比率を示す。すなわち、制御部20Aは、時刻TT7において、100%の稼働状態で無効電力制御を行っている。
図16に示したPQベクトル円の中心からPQベクトル円の円周に向かって延びる矢印A12は、制御部20Aによる有効電力制御の稼働状態と、制御部20Aによる無効電力制御の稼働状態との時刻TT9における比率を示す。すなわち、制御部20Aは、時刻TT9において、50%の稼働状態で無効電力制御を行いながら、50%の稼働状態で有効電力制御を行っている。そして、
図16に示したPQベクトル円の中心からPQベクトル円の円周に向かって延びる矢印A13は、制御部20Aによる有効電力制御の稼働状態と、制御部20Aによる無効電力制御の稼働状態との時刻TT8における比率を示す。すなわち、制御部20Aは、時刻TT8において、100%の稼働状態で有効電力制御を行っている。
【0116】
以上のように、脱調抑制装置20は、
図14に示したフローチャートの処理によって、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を抑制する。換言すると、脱調抑制装置20は、期間TBにおいて、無効電力制御を開始した後、同期発電機PP3の出力電圧が所定値以下であるか否かを判定し、同期発電機PP3の出力電圧が所定値以下であると判定した場合、無効電力制御を継続したまま有効電力制御を開始する。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cの電圧の無効電力制御による増大が十分ではなかった場合において、無効電力制御とともに有効電力制御を行うことができる。その結果、脱調抑制装置20は、電力系統R内において短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0117】
<電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を脱調抑制装置が抑制する処理の変形例3>
以下、
図17を参照し、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例3について説明する。
図17は、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を脱調抑制装置20が抑制する処理の変形例3の流れの一例を示す図である。以下では、一例として、
図17に示したステップS510の処理が行われるよりも前のタイミングにおいて、検出装置10からの電流情報及び電圧情報の取得を開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、電流情報及び電圧情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、当該タイミングにおいて、インバータIVからの出力電流計測値情報及び連系電圧計測値情報の取得を第1制御部21が開始している場合について説明する。この場合、第1制御部21は、所定のサンプリング時間が経過する毎に、出力電流計測値情報及び連携電圧計測値情報を検出装置10から取得する。また、以下では、一例として、インバータIVに接続される電力吸収装置が、蓄電池である場合について説明する。
【0118】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生するまで待機する(ステップS510)。ここで、制御部20Aは、取得した最新の電流情報及び電圧情報に基づいて、電力系統R内において短絡事故が発生したか否かを判定する。
【0119】
制御部20Aは、電力系統Rにおいて短絡事故が発生したと判定した場合(ステップS510-YES)、インバータIVを制御し、無効電力制御と有効電力制御との両方を開始する(ステップS520)。
図17では、ステップS520の処理を、「電力制御開始」によって示している。前述した通り、無効電力制御と有効電力制御との両方を脱調抑制装置20が行う場合、制御部20Aは、無効電力制御の稼働状態と、有効電力制御の稼働状態とを独立に変えることができない。このため、制御部20Aは、例えば、ステップS520において、無効電力制御の稼働状態を50%に低下させるとともに、50%の稼働状態で有効電力制御を開始する。なお、ステップS520において制御部20Aが有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれに割り当てる稼働状態の大きさの比率は、他の比率であってもよい。これにより、脱調抑制装置20は、送電線Cを介して同期発電機PP3から無効電力及び有効電力のそれぞれを吸収し始める。その結果、同期発電機PP3の回転体の加速が抑制され、回転体への加速エネルギーの蓄積が抑制される。
【0120】
次に、制御部20Aは、第1調整処理を行う(ステップS530)。ここで、第1調整処理は、無効電力制御の稼働状態を所定の大きさを小さくするとともに、有効電力制御の稼働状態を所定の大きさを大きくする処理のことである。すなわち、第1調整処理は、有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれに割り当てる稼働状態の大きさの比率を所定の大きさ変化させる処理である。所定の大きさは、例えば、1%であるが、1%より大きくてもよく、1%より小さくてもよい。
【0121】
次に、制御部20Aは、取得した電圧情報の履歴に基づいて、ステップS530において行われた第1調整処理によって送電線Cの電圧の変化率が増大したか否かを判定する(ステップS540)。
図17では、ステップS540の処理を、「変化率増大?」によって示している。
【0122】
制御部20Aは、ステップS530において行われた第1調整処理によって送電線Cの電圧の変化率が増大したと判定した場合(ステップS540-YES)、第1調整処理を再び行う(ステップS550)。
【0123】
次に、制御部20Aは、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が系統電圧になったか否かを判定する(ステップS560)。
図17に示した例では、ステップS560の処理を、「電圧復帰?」によって示している。ステップS560の処理は、
図10に示したステップS130の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0124】
制御部20Aは、送電線Cの電圧が系統電圧になっていないと判定した場合(ステップS560-NO)、ステップS540に遷移し、取得した電流情報及び電圧情報の履歴に基づいて、ステップS530において行われた第1調整処理によって送電線Cの電力の変化率が増大したか否かを再び判定する。
【0125】
一方、制御部20Aは、送電線Cの電圧が系統電圧になったと判定した場合(ステップS560-YES)、インバータIVを制御し、無効電力制御を停止する(ステップS570)。
【0126】
次に、制御部20Aは、有効電力制御を停止するか否かを判定する(ステップS580)。ステップS580の処理は、
図10に示したステップS160の処理と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0127】
制御部20Aは、有効電力制御を停止しないと判定した場合(ステップS580-NO)、ステップS580に遷移し、有効電力制御を停止するか否かを再び判定する。
【0128】
一方、制御部20Aは、有効電力制御を停止すると判定した場合(ステップS580-YES)、インバータIVを制御し、有効電力制御を停止し(ステップS590)、
図17に示したフローチャートの処理を終了する。
【0129】
一方、制御部20Aは、ステップS530において行われた第1調整処理によって送電線Cの電圧の変化率が増大していないと判定した場合(ステップS540-NO)、第2調整処理を行う(ステップS600)。ここで、第2調整処理は、無効電力制御の稼働状態を所定の大きさを大きくするとともに、有効電力制御の稼働状態を所定の大きさを小さくする処理のことである。すなわち、第2調整処理は、第1調整処理と同様に、有効電力制御と無効電力制御とのそれぞれに割り当てる稼働状態の大きさの比率を所定の大きさ変化させる処理である。ステップS600の処理が行われた後、制御部20Aは、ステップS560に遷移し、取得した最新の電圧情報に基づいて、送電線Cの電圧が系統電圧になるまで待機する。
【0130】
以上のように、脱調抑制装置20は、
図17に示したフローチャートの処理によって、電力系統Rにおいて短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を抑制する。換言すると、脱調抑制装置20は、期間TBにおいて無効電力制御と有効電力制御との両方を開始し、送電線Cの電圧の変化率に応じて、無効電力制御の稼働状態と、有効電力制御の稼働状態との比率を変化させる。これにより、脱調抑制装置20は、無効電力制御の稼働状態と、有効電力制御の稼働状態との比率を、適切な比率に近づけることができ、その結果、電力系統R内において短絡事故が発生した場合における同期発電機PP3の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0131】
なお、上記において説明した第1調整処理は、無効電力制御の稼働状態を所定の大きさを大きくするとともに、有効電力制御の稼働状態を所定の大きさを小さくする処理であってもよい。この場合、第2調整処理は、無効電力制御の稼働状態を所定の大きさを小さくするとともに、有効電力制御の稼働状態を所定の大きさを大きくする処理である。
【0132】
以上のように、実施形態に係る脱調抑制装置(上記において説明した例では、脱調抑制装置20)は、回転体を有する同期発電機(上記において説明した例では、同期発電機PP3)を含む電力系統(上記において説明した例では、電力系統R)内において同期発電機と接続される送電線(上記において説明した例では、送電線C)に接続される脱調抑制装置であって、インバータ(上記において説明した例では、インバータIV)と、インバータを制御する制御部(上記において説明した例では、制御部20A)と、を備え、制御部は、送電線上の位置のうちの第1位置(上記において説明した例では、位置P1)において短絡事故が発生した場合、インバータを制御し、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行う。これにより、脱調抑制装置は、電力系統内において短絡事故が発生した場合における同期発電機の脱調を、より確実に抑制することができる。
【0133】
また、脱調抑制装置では、有効電力制御は、送電線から有効電力を吸収する制御であり、無効電力制御は、送電線から無効電力を吸収する制御である、構成が用いられてもよい。
【0134】
また、脱調抑制装置では、制御部は、短絡事故が発生した場合、有効電力制御と無効電力制御との少なくとも一方を行うことによって、回転体の加速エネルギーの大きさを、回転体の減速エネルギーの最大値よりも小さくする、構成が用いられてもよい。
【0135】
また、脱調抑制装置では、加速エネルギーは、短絡事故が発生した第1時刻から、短絡事故が発生した後に第1位置が同期発電機から分離される第2時刻までの間の第1期間において増大する回転体の回転エネルギーの総和であり、減速エネルギーは、第2時刻の後の第2期間における同期発電機の出力の増大に応じて減少する回転体の回転エネルギーの総和であり、減速エネルギーの最大値は、同期発電機が脱調を起こさずに減速エネルギーの大きさとして取り得る値のうちの最大の値である、構成が用いられてもよい。
【0136】
また、脱調抑制装置では、加速エネルギーは、第1時刻から後の期間における同期発電機についてのP-δ曲線上の加速領域の面積によって表され、減速エネルギーは、第1時刻から後の期間における同期発電機についてのP-δ曲線上の減速領域の面積によって表される、構成が用いられてもよい。
【0137】
また、脱調抑制装置では、制御部は、第1期間(上記において説明した例では、期間TB)において無効電力制御を開始し、第2期間(上記において説明した例では、期間TC)において無効電力制御を停止するとともに有効電力制御を開始する、構成が用いられてもよい。
【0138】
また、脱調抑制装置では、制御部は、第1期間において、無効電力制御を開始した後、開始した無効電力制御の結果に基づいて、有効電力制御を行うか否かを判定し、有効電力制御を行うと判定した場合、無効電力制御を停止するとともに有効電力制御を開始し、有効電力制御を行わないと判定した場合、無効電力制御を継続する、構成が用いられてもよい。
【0139】
また、脱調抑制装置では、制御部は、第1期間において、無効電力制御を開始した後、無効電力制御によって変化した有効電力の変化分である第1変化量が、有効電力制御によって変化する有効電力の変化分である第2変化量以上である場合、有効電力制御を行わないと判定し、第1変化量が第2変化量未満である場合、有効電力制御を行うと判定する、構成が用いられてもよい。
【0140】
また、脱調抑制装置では、制御部は、第1期間において、無効電力制御を開始した後、同期発電機の出力電圧が所定値以下であるか否かを判定し、同期発電機の出力電圧が所定値以下であると判定した場合、無効電力制御を継続したまま有効電力制御を開始する、構成が用いられてもよい。
【0141】
また、脱調抑制装置では、制御部は、第1期間において無効電力制御と有効電力制御との両方を開始し、送電線の電圧の変化率に応じて、無効電力制御の稼働状態と、有効電力制御の稼働状態との比率を変化させる、構成が用いられてもよい。
【0142】
また、脱調抑制装置では、インバータは、同期発電機の近傍に接続される、構成が用いられてもよい。
【0143】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0144】
また、以上に説明した装置における任意の構成部の機能を実現するためのプログラムを、コンピューター読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピューターシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。ここで、当該装置は、例えば、検出装置10、脱調抑制装置20等である。なお、ここでいう「コンピューターシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD(Compact Disk)-ROM等の可搬媒体、コンピューターシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピューター読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバーやクライアントとなるコンピューターシステム内部の揮発性メモリーのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0145】
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピューターシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピューターシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル又は差分プログラムであってもよい。
【符号の説明】
【0146】
1…脱調抑制システム、10…検出装置、20、X1…脱調抑制装置、20A…制御部、21…第1制御部、22…第2制御部、23…PWM制御部、C、C2、C21、C22…送電線、IV…インバータ、PP1、PP2…インバータ電源、PP3…同期発電機、R…電力系統