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特開2022-121032有機発光装置、表示装置、電子機器、車載ディスプレイ及び車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121032
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】有機発光装置、表示装置、電子機器、車載ディスプレイ及び車両
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220812BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20220812BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20220812BHJP
   B60R 1/00 20220101ALI20220812BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/22 D
H01L27/32
G09F9/30 365
G09F9/30 338
G09F9/30 349Z
B60R1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018159
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】518078142
【氏名又は名称】上海天馬微電子有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【弁理士】
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】濱田 継太
(72)【発明者】
【氏名】森 茂
【テーマコード(参考)】
3K107
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB08
3K107CC22
3K107DD53
3K107DD58
3K107DD68
3K107DD71
3K107DD78
3K107FF14
3K107FF19
5C094AA31
5C094BA27
5C094DA13
5C094EA04
5C094JA01
5C094JA02
(57)【要約】
【課題】高温環境下における寿命が長い有機発光装置、表示装置、電子機器、車載ディスプレイ及び車両を提供する。
【解決手段】有機発光装置は、対向配置されるアノード電極及びカソード電極と、アノード電極とカソード電極との間に配置される発光層と、アノード電極と発光層との間に、発光層に接して配置される正孔輸送層と、を備え、発光層は、第1のホスト材料と、第2のホスト材料とを含み、第1のホスト材料のHOMO準位14aHと正孔輸送層のHOMO準位13Hとのエネルギー差ΔE1は、第2のホスト材料のHOMO準位14bHと正孔輸送層のHOMO準位13Hとのエネルギー差ΔE2より小さく、正孔輸送層のHOMO準位13Hと第1のホスト材料のHOMO準位14aHとの差が0.37eV以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置されるアノード電極及びカソード電極と、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置される発光層と、
前記アノード電極と前記発光層との間に、前記発光層に接して配置される正孔輸送層と、
を備え、
前記発光層は、第1のホスト材料と、第2のホスト材料とを含み、
前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第1のホスト材料のHOMO準位との差は、前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第2のホスト材料のHOMO準位との差より小さく、
前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第1のホスト材料のHOMO準位との差が0.37eV以下である、
有機発光装置。
【請求項2】
前記第1のホスト材料のHOMO準位と前記第2のホスト材料のHOMO準位の差が0.3eV以下である、
請求項1に記載の有機発光装置。
【請求項3】
前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第1のホスト材料のHOMO準位との差が0.34eV以下である、
請求項1又は2に記載の有機発光装置。
【請求項4】
前記第1のホスト材料と前記第2のホスト材料との重量比は、20:80~75:25である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項5】
前記第1のホスト材料と前記第2のホスト材料との重量比は、45:55~70:30である、
請求項1から3のいずれか1項に記載の有機発光装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の有機発光装置を備えた表示装置。
【請求項7】
請求項6に記載の表示装置を備えた車載ディスプレイ。
【請求項8】
請求項6に記載の表示装置を備えた電子機器。
【請求項9】
請求項7に記載の車載ディスプレイを備えた車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機発光装置、表示装置、電子機器、車載ディスプレイ及び車両に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro-Luminescence)装置と呼ばれる有機発光装置がディスプレイ等に利用されている。有機EL装置は、有機発光材料を含む発光層と、発光層を挟むアノード電極及びカソード電極と、を含む。また、有機EL装置の発光効率を向上させるために、アノード電極と発光層との間には正孔輸送層又は正孔注入層が設けられ、カソード電極と発光層との間には電子輸送層又は電子注入層が設けられる(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-535266号公報
【特許文献2】特表2014-513418号公報
【特許文献3】特開2017-022369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機EL装置の寿命は、高温環境下で短くなることが知られている。種々の環境に曝される有機EL装置(例えば、車両に搭載される有機EL装置)では、高温環境下における寿命はより長いことが好ましい。
【0005】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高温環境下における寿命が長い有機発光装置、表示装置、電子機器、車載ディスプレイ及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の第1の実施態様に係る有機発光装置は、
対向配置されるアノード電極及びカソード電極と、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に配置される発光層と、
前記アノード電極と前記発光層との間に、前記発光層に接して配置される正孔輸送層と、
を備え、
前記発光層は、第1のホスト材料と、第2のホスト材料とを含み、
前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第1のホスト材料のHOMO準位との差は、前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第2のホスト材料のHOMO準位との差より小さく、
前記正孔輸送層のHOMO準位と前記第1のホスト材料のHOMO準位との差が0.37eV以下である。
【0007】
本開示の第2の実施態様に係る表示装置は、第1の実施態様に係る有機発光装置を備える。
【0008】
本開示の第3の実施態様に係る車載ディスプレイは、第2の態様に係る表示装置を備える。
【0009】
本開示の第4の実施態様に係る電子機器は、第2の態様に係る表示装置を備える。
【0010】
本開示の第5の実施態様に係る車両は、第3の態様に係る車載ディスプレイを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、有機発光装置、表示装置、電子機器、車載ディスプレイ及び車両の高温環境下における寿命を長くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る有機発光装置の構造を示す断面図である。
図2】実施形態1に係る有機発光装置の正孔輸送層と発光層の第1のホスト材料及び第2のホスト材料とのエネルギー状態図である。
図3】正孔輸送層のHOMO準位から発光層のHOMO準位を差し引いたエネルギー差ΔE1と、高温環境下における寿命(高温寿命)との関係を示すグラフである。
図4】発光層の第1のホスト材料のHOMO準位と第2のホスト材料のHOMO準位との差ΔE3と、高温環境下における寿命(高温寿命)との関係を示すグラフである。
図5】第1のホスト材料が含有される割合と高温環境下における寿命(高温寿命)との関係を示すグラフである。
図6】実施形態3に係る表示装置の構成例を模式的に示す図である。
図7】表示装置の表示領域の一部を示す平面図である。
図8】実施形態4に係る車載ディスプレイの構成例を示す図である。
図9】実施形態5に係る電子機器の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照して、本実施形態に係る有機発光装置10、表示装置20、電子機器、車載ディスプレイ30及び車両について説明する。
【0014】
(実施形態1)
有機発光装置10は、図1に示すように、基板11上に配置されるアノード電極12と、アノード電極12の上に配置される正孔輸送層13と、正孔輸送層13の上に配置される発光層14と、発光層14の上に配置される電子輸送層15と、電子輸送層15の上に配置される電子注入層16と、電子注入層16の上に配置されるカソード電極17と、を備える。有機発光装置10は、単色の発光装置として用いられてもよい。また、赤、緑、青といった色度の異なる画素を備える表示装置として使用することもでき、例えばスマートフォンやタブレット等のモバイル製品、車載ディスプレイ等に使用される。
【0015】
基板11は、絶縁性の基板であり、例えば、ガラス基板である。基板11上には、図1に示すように、アノード電極12、正孔輸送層13、発光層14等が積層される。基板11としては、例えば、ポリイミド、ポリカーボネート等から成るフレキシブル基板等の任意の基板を用いることができる。
【0016】
アノード電極12は、基板11上に配置され、図1に示すように、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15及び電子注入層16を介してカソード電極17と対向する。アノード電極12は、図示しない電源に接続され、正孔輸送層13に正孔を供給する。アノード電極12を形成する材料としては、透光性及び導電性を有する材料が用いられ、例えばインジウム錫酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)、酸化スズ(SnO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO:Indium Zinc Oxide)等を用いることができる。なお、有機発光装置10がトップエミッション構造を採る場合、基板11側で光を反射させてカソード電極17側に光を出射させる。この場合、アノード電極12として、銀(Ag)などの反射金属の表面にITOやIZOを配置させた電極を用いることができる。
【0017】
正孔輸送層13は、アノード電極12と発光層14との間に、発光層14に接して配置される。正孔輸送層13は、アノード電極12から注入される正孔を、効率的に発光層14に輸送する。一般に、正孔輸送層13のバンドギャップは、発光層14のバンドギャップよりも大きい。なお、バンドギャップとは、最低空軌道のエネルギー準位、つまりLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位と、最高被占軌道のエネルギー準位、つまりHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位と、のエネルギー差を言う。HOMO準位は、一般的に知られている大気中光電子収量分光法を用いて計測することができる。また、各層のバンドギャップは、一般的に知られている紫外可視近赤外分光法を用いて計測することができ、計測された各層のHOMO準位及びバンドギャップから、各層のLUMO準位を算定することができる。
【0018】
また、本実施形態において、正孔輸送層13を形成する材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、α―NPD(名称:2,2’-Dimethyl-N,N’-di-[(1-naphthyl)-N,N’-diphenyl]-1,1’-biphenyl-4,4’-diamine)、TAPC(名称:4,4’-Cyclohexylidenebis[N,N-bis(4-methylphenyl)benzenamine])、TPD(名称:N,N’-Bis(3-methylphenyl)-N,N’-diphenylbenzidine)等を用いて正孔輸送層13を形成することができる。正孔輸送層13は、単層である場合に限られず、複数の層を備えることができる。
【0019】
発光層14は、アノード電極12とカソード電極17との間に配置される。発光層14では、アノード電極12から注入される正孔と、カソード電極17から注入される電子と、が効率的に再結合し、当該再結合により光を放出する。発光層14は、第1のホスト材料及び第2のホスト材料の2種類のホスト材料と、発光材料とを含む。
【0020】
発光材料としては、蛍光材料、熱活性化遅延蛍光材料、りん光材料等の公知の材料を用いることができる。発光材料として、例えば、ビススチリルベンゼン誘導体、Alq3(名称:Tris-(8-hydroxyquinoline)aluminum)、ルブレン、ジメチルキナククリドン、FIrpic(名称:Bis[2-(4,6-difluorophenyl)pyridinato-C2,N](picolinato)iridium(III))、Ir(ppy)3(名称:Tris[2-phenylpyridinato-C2,N]iridium(III))、(ppy)2Ir(acac)(名称:Bis[2-(2-pyridinyl-N)phenyl-C](2,4-pentanedionato-O2,O4)iridium(III))等を用いることができる。
【0021】
第1のホスト材料としては、正孔輸送性又は電子輸送性の公知のホスト材料を用いることができる。第2のホスト材料も同様である。
【0022】
正孔輸送性のホスト材料は、ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ピラゾール、イミダゾール、チオフェン、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、又はそれらの誘導体、から選択される。
【0023】
電子輸送性のホスト材料は、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物;フタロシアニン又はこれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8-キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等から選択される。
【0024】
第1のホスト材料と第2のホスト材料とは、両方が正孔輸送性のホスト材料から選択されてもよく、又は両方が電子輸送性のホスト材料から選択されてもよい。または、第1のホスト材料と第2のホスト材料との一方が正孔輸送性のホスト材料から選択され、他方が電子輸送性の材料から選択されてもよい。一例として、第1のホスト材料が正孔輸送性の材料から選択され、第2のホスト材料が電子輸送性の材料から選択される。また、発光層14では、第1のホスト材料と第2のホスト材料との全重量を100とする場合、第1のホスト材料と第2のホスト材料との重量比(第1のホスト材料:第2のホスト材料)は、10:90~90:10である。換言すると、発光層14中に、第1のホスト材料は、第1のホスト材料と第2のホスト材料との全重量に対し、10重量%~90重量%で含まれる。
【0025】
電子輸送層15は、電子注入層16から注入される電子を、効率的に発光層14に輸送する。本実施形態において、電子輸送層15を形成する材料としては、公知の材料を用いることができる。電子輸送層15は、例えば、Alq、BCP(名称:3-Benzidino-6-(4-chlorophenyl)pyridazine)、シロール誘導体等を用いて形成することができる。また、電子輸送層15は、単層である場合に限られず、複数の層を備えることができる。
【0026】
電子注入層16は、カソード電極17から注入される電子を、効率的に電子輸送層15に注入する。電子注入層16を形成する材料としては、例えば、フッ化リチウム(LiF)、イッテルビウム(Yb)、Liq(名称:8-Hydroxyquinolinolato-lithium)等を用いることができる。
【0027】
カソード電極17は、図示しない電源に接続され、電子注入層16に電子を供給する。カソード電極17を形成する材料としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム・銀合金、ITO、IZO等を用いることができる。
【0028】
次に、正孔輸送層13と、発光層14の第1のホスト材料及び第2のホスト材料と、のエネルギー状態を図2に示す。図2において、符号13Hは正孔輸送層13のHOMO準位を示し、符号13Lは正孔輸送層13のLUMO準位を示す。符号14aHは発光層14の第1のホスト材料のHOMO準位を示し、符号14aLは発光層14の第1のホスト材料のLUMO準位を示す。符号14bHは発光層14の第2のホスト材料のHOMO準位を示し、符号14bLは発光層14の第2のホスト材料のLUMO準位を示す。
【0029】
本実施形態において、正孔輸送層13と発光層14の第1のホスト材料及び第2のホスト材料とのエネルギー状態は、次の二つの点で特に顕著な特徴を有している。
【0030】
第1に、正孔輸送層13のHOMO準位13Hと発光層14の第1のホスト材料のHOMO準位14aHとの差が0.37eV以下である。なお、発光層14に接する正孔輸送層13のHOMO準位13Hは、発光層14の第1のホスト材料のHOMO準位14aHよりも高い。図2を参照すると、ΔE1は、正孔輸送層13のHOMO準位13Hから発光層14の第1のホスト材料のHOMO準位14aHを差し引いたエネルギー差であり、ΔE1は、0eVよりも大きく0.37eV以下の範囲である(0eV<ΔE1≦0.37eV)。また、エネルギー差ΔE1は、0eVよりも大きく0.34eV以下の範囲である(0eV<ΔE1≦0.34eV)ことが好ましく、0eVよりも大きく0.32eV以下の範囲である(0eV<ΔE1≦0.32eV)ことが更に好ましい。
【0031】
第2に、第1のホスト材料のHOMO準位と第2のホスト材料のHOMO準位との差の絶対値は、0.3eV以下である。また、第1のホスト材料のHOMO準位と正孔輸送層13のHOMO準位との差は、第2のホスト材料のHOMO準位と正孔輸送層13のHOMO準位との差より小さい。換言すると、第1のホスト材料のHOMO準位は、第2のホスト材料のHOMO準位と比較して、正孔輸送層13のHOMO準位に近い。図2を参照すると、ΔE1は、正孔輸送層13のHOMO準位13Hから発光層14の第1のホスト材料のHOMO準位14aHを差し引いたエネルギー差であり、ΔE2は、正孔輸送層13のHOMO準位13Hから発光層14の第2のホスト材料のHOMO準位14bHを差し引いたエネルギー差である。この場合、ΔE1は、ΔE2より小さい(ΔE1<ΔE2)。また、ΔE3は、第1のホスト材料のHOMO準位14aHから第2のホスト材料のHOMO準位14bHを差し引いたエネルギー差である。この場合、ΔE3は0.3eV以下(ΔE3≦0.3eV)である。
【0032】
次に、有機発光装置10の高温寿命特性を参照して、このような顕著な特徴を有することによって発揮される効果について説明する。
【0033】
まず、エネルギー差ΔE1[eV](横軸)と、高温寿命[h](縦軸)と、の関係を表すグラフを、図3に示す。なお、本開示では、高温寿命は、85℃の環境下において有機発光装置10を10mA/cmの電流密度で駆動し続けたときに、有機発光装置10が出射する光の強度が初期の強度と比較し20%減少するまでにかかる時間(hour)をいう。また、HOMO準位は、大気中光電子収量分光法を用いて計測する。なお、図3では、第1のホスト材料と第2のホスト材料とは、第1のホスト材料のHOMO準位から第2のホスト材料のHOMO準位を差し引いたエネルギー差(ΔE3)が0.3eV以下である。
【0034】
図3に示すように、エネルギー差ΔE1が0.37eVより大きい範囲では、高温寿命は約200時間であるが、エネルギー差ΔE1が0.37eV~0.32eVの範囲では、エネルギー差ΔE1が減少するにしたがって、高温寿命が増加する。エネルギー差ΔE1が0.34eV以下では、高温寿命が500時間を超える。また、エネルギー差ΔEが0.32eV以下では、いずれも高温寿命は800時間を超える。加えて、図3に示すように、エネルギー差ΔE1は、0eVを下回る、つまり、発光層14に接する正孔輸送層13のHOMO準位13Hが、発光層14の第1のホスト材料のHOMO準位14aHよりも低い場合、高温寿命が200時間程度まで低下する。これはΔE1が0eV以下では正孔輸送層13を流れるホールが発光層14の障壁を超えることが困難になるためと予測される。そのため、エネルギー差ΔE1は、0eVよりも大きいことが好ましい。
【0035】
従って、エネルギー差ΔE1を0eVよりも大きく0.37eV以下の範囲(0eV<ΔE1≦0.37eV)とすることで高温寿命をより長くすることができる。また、エネルギー差ΔE1を0eV<ΔE1≦0.34eVとすると、高温寿命は500時間を超えるため好適である。更に、エネルギー差ΔE1を0eV<ΔE1≦0.32eVとすると、高温寿命を更に長くすることができ、特に好適である。
【0036】
次に、第1のホスト材料のHOMO準位14aHから第2のホスト材料のHOMO準位14bHを差し引いたエネルギー差ΔE3[eV](横軸)と、高温寿命[h](縦軸)と、の関係を表すグラフを、図4に示す。図4中の凡例は、各点のΔE1の値を示す。凡例に示すように、各点のエネルギー差ΔE1は全て0eV<ΔE1≦0.37eVを満たす。
【0037】
図4に示すように、エネルギー差ΔE3が0.3eV以下では、800時間を超える高温寿命が得られている。しかし、エネルギー差ΔE3が0.3eVを超えると、エネルギー差ΔE3の増加に伴い高温寿命が低下し、エネルギー差ΔE3が0.4eVでは、高温寿命は約250時間まで低下する。また、ΔE1が0.32eV以下であったとしても、ΔE3が0.3eVを上回ると、高温寿命が低下する。
【0038】
以上から、エネルギー差ΔE1を0eVよりも大きく0.37eV以下の範囲(0eV<ΔE1≦0.37eV)とし、加えてエネルギー差ΔE3を0.3eV以下とすることにより、有機発光装置10の高温寿命をより長くすることができる。
【0039】
本実施形態の有機発光装置10では、高温寿命を長くすることができるため、発光波長の短い素子、特に緑色の素子としての利用に利点を有する。一般にディスプレイの用途の広がりに伴って色度域を広げるために、より深い青色、深い緑色が求められるが、発光波長が短い素子は、寿命も短いという傾向があるためである。
【0040】
また、有機発光装置10は、次のような製造方法で作成することができる。
【0041】
まず、基板11を用意する。次に、基板11の表面に、スパッタリング法により、例えばITOからなるアノード電極12を形成する。続いて、例えば真空蒸着法により、アノード電極12の上に、正孔輸送層13を形成する。次に、ドライプロセス、例えば真空蒸着法により、正孔輸送層13上に発光層14を形成する。エネルギー差ΔE1が0eVよりも大きく0.37eV以下の範囲であるように、正孔輸送層13と発光層14の第1のホスト材料及び第2のホスト材料を選択する。加えて、エネルギー差ΔE3が0.3eV以下であるように正孔輸送層13と発光層14の第1のホスト材料及び第2のホスト材料を選択する。また、第1のホスト材料と第2のホスト材料との重量比は、10:90~90:10とする。
【0042】
次に、発光層14上に、電子輸送層15、電子注入層16及びカソード電極17を、真空蒸着法等の公知の方法で順番に形成する。
【0043】
なお、本開示は、赤、緑、青といった色度の異なる発光素子ごとに画素を備える有機発光装置にも適用できる。その場合、まず、トランジスタを形成した基板11上に、スパッタリング法でアノード電極12を形成する。その後に、有機膜を用いて画素規定層(Pixel Definition Layer)を形成する。その後、当該画素規定層の開口した領域内のアノード電極12の上に、真空蒸着法等により正孔輸送層13からカソード電極17までを順番に形成する。こうして赤、緑、青のそれぞれの発光素子を用いた画素で構成される有機発光装置を作製することができる。
【0044】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係る有機発光装置10について説明する。なお、実施形態2に係る有機発光装置10は、実施形態1に係る有機発光装置10と同じ構造(図1に示す構造)を有するため、実施形態1と共通する特徴については、詳細な説明を省略する。
【0045】
実施形態2に係る有機発光装置10では、発光層14は、実施形態1と同様に、発光材料と、第1のホスト材料及び第2のホスト材料とを含む。発光層14では、第1のホスト材料と第2のホスト材料との全重量を100とする場合、第1のホスト材料と第2のホスト材料との重量比(第1のホスト材料:第2のホスト材料)は、20:80~75:25であることが好適であり、45:55~70:30であることが更に好適である。換言すると、第1のホスト材料と第2のホスト材料との全重量に対し、第1のホスト材料は20重量%~75重量%で含まれることが好適であり、45重量%~70重量%で含まれることが更に好適である。なお、正孔輸送層のHOMO準位、第1のホスト材料のHOMO準位及び第2のホスト材料のHOMO準位とは、実施形態1と同様に、0<ΔE1≦0.37、ΔE3≦0.3を満たす。
【0046】
次に、有機発光装置10の高温寿命特性を参照して、このような顕著な特徴を有することによって発揮される効果について説明する。
【0047】
第1のホスト材料が含まれる割合[%](横軸)と、高温寿命[h](縦軸)と、の関係を表すグラフを、図5に示す。第1のホスト材料が含まれる割合[%]は、発光層14における第1のホスト材料と第2のホスト材料との全重量に対する第1のホスト材料の重量(重量%)である。図5に示すように、第1のホスト材料が含まれる割合が20%~75%である場合、高温寿命は500時間を超える。更に、第1のホスト材料が含まれる割合が45%~70%である場合、高温寿命が800時間を超える。
【0048】
以上から、発光層14において、第1のホスト材料と第2のホスト材料との重量比(第1のホスト材料:第2のホスト材料)を、20:80~75:25とすることにより、有機発光装置10の高温寿命をより長くすることができる。更に、第1のホスト材料と第2のホスト材料との重量比を、45:55~70:30とすることで、更に高温寿命を長くすることができる。
【0049】
(実施形態3)
次に、実施形態3を説明する。本実施形態は、上述した各実施形態に係る有機発光装置10を用いたOLED表示装置(表示装置)20に関する。本実施形態に係る表示装置20の構成例を、図6に模式的に示す。
【0050】
表示装置20は、TFT(Thin Film Transistor)基板100と、封止基板200と、接合部(ガラスフリットシール部)300とを備える。TFT基板100上にはOLED素子としての有機発光装置10が形成される。封止基板200はTFT基板100と対向して配置される。接合部300は、TFT基板100と封止基板200との間に設けられ、TFT基板100と封止基板200とを接合し、OLED素子を封止する。
【0051】
TFT基板100の表示領域125の外側のカソード電極形成領域114の周囲に、走査ドライバ131、エミッションドライバ132、保護回路133、ドライバIC(Integrated Circuit)134が配置されている。これらは、FPC(Flexible Printed Circuit)135を介して外部の機器と接続される。
【0052】
走査ドライバ131はTFT基板100の走査線を駆動する。エミッションドライバ132は、エミッション制御線を駆動して、各副画素の発光期間を制御する。ドライバIC134は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いて実装される。
【0053】
ドライバIC134は、走査ドライバ131及びエミッションドライバ132に電源及びタイミング信号(制御信号)を与え、さらに、データ線に映像データに対応するデータ電圧を与える。すなわち、ドライバIC134は、表示制御機能を有する。
【0054】
封止基板200は、透明な絶縁基板であって、例えばガラス基板である。封止基板200の光出射面(前面)に、λ/4位相差板と偏光板とが配置され、外部から入射した光の反射を抑制する。
【0055】
表示領域125には、複数の副画素が配置される。図7は、表示領域125の一部を示す平面図である。図7は、行列状に配置された複数の副画素を示す。少なくとも3つの副画素は、それぞれ異なる第1色~第3色を発光する副画素である。なお、第1色は例えば青色、第2色は例えば赤色、第3色は例えば緑色である。図7は、赤副画素(発光領域)251R、青副画素(発光領域)251B、及び緑副画素(発光領域)251Gを示す。また、各副画素(発光領域)の全領域は、同色の有機発光層で覆われている。具体的には、赤副画素251R、青副画素251B、緑副画素251Gは、それぞれ、有機発光層269R、青有機発光層269B、緑有機発光層269Gで完全に覆われている。図7における副画素のうち、赤、青、緑それぞれの一つの副画素のみが、符号で指示されている。各副画素は、赤、青、又は緑のいずれかの色を表示する。赤、青、及び緑副画素により一つの画素(主画素)が構成される。
【0056】
本実施形態では、各副画素は実施形態1又は2に係る有機発光装置10により構成されている。従って、実施形態1又は2で記載した構成の作用により、表示装置20の高温寿命を長くすることができる。
【0057】
(実施形態4)
次に、実施形態4を説明する。本実施形態は、第3実施形態に係る表示装置20を用いた車載ディスプレイ30に関する。図8は、本実施形態に係る車載ディスプレイを備える車両および車載ディスプレイの構成例を示す図である。
【0058】
車載ディスプレイ30は、図8に示す車両としての自動車35の車内に設けられて各種情報を表示するディスプレイである。車載ディスプレイ30は、例えば、図8に示す、CID(Center Information Display)301、クラスターディスプレイ302、及びサイドディスプレイ303である。本実施形態では、CID301、クラスターディスプレイ302、及びサイドディスプレイ303は、表示装置20を用いたディスプレイである。
【0059】
CID301は、自動車35のダッシュボードの中央に設けられ、オーディオやナビゲーションシステム、自動車状態管理システムなどの情報を表示する。クラスターディスプレイ302は、スピードメーター等を表示する。また、サイドディスプレイ303は、ダッシュボードの左右に設けられてカメラの画像を表示することでサイドミラーとして機能する。
【0060】
これらの車載ディスプレイ30が設けられる自動車35の車内は、日光の影響等により高温環境となることがある。車載ディスプレイ30は、有機発光装置10を備える表示装置20を用いることで、高温寿命を長くすることができる。従って、高温環境に晒される車載ディスプレイ30も長期間にわたって良好な表示を行うことができる。
【0061】
(実施形態5)
次に、第5実施形態を説明する。本実施の形態は、第3実施形態に係る表示装置を用いた電子機器に関する。図9は、電子機器としてのスマートフォン40の斜視図である。このスマートフォン40は、筐体401の内部に第3実施形態に係る表示装置20が設けられ、当該表示装置20の表示面側にカバーガラス402が設けられている。その他、これらの筐体には、送信・受信装置、各種の制御装置、記憶装置、スピーカ及びマイクを含む音声装置、バッテリー等、スマートフォンに求められる機能を持つ装置が設けられている。
【0062】
スマートフォン40は、屋外で使用されるなど高温環境で使用されることがある。スマートフォン40は、表示装置20を用いることで、高温寿命を長くすることができる。従って、高温環境に晒されるスマートフォン40も長期間にわたって良好な表示を行うことができる。
【0063】
各実施形態に沿って本開示を説明したが、本開示はこれらに限定されるものではない。種々の変更、改良、組合せ等が可能なことは当業者には自明である。
【0064】
有機発光装置10を構成する各層に用いられる材料は、上記実施形態で例示した材料に限られない。0eV<ΔE1≦0.37及びΔE3≦0.3の関係が成立する限り、正孔輸送層13、第1のホスト材料及び第2のホスト材料として用いる材料は、適宜選択できる。上述したように、正孔輸送層13、第1のホスト材料及び第2のホスト材料のHOMO準位は、大気中光電子収量分光法等を用いて計測することができる。このような計測方法を利用すれば、各層に用いる好適な材料を選定することができる。
【0065】
また、アノード電極12、電子輸送層15、電子注入層16及びカソード電極17も、単層構造に限らず、積層構造を有していても構わない。また、アノード電極12、電子輸送層15、電子注入層16及びカソード電極17として、用いる材料も上述した材料に限られず、任意に選択することができる。なお、電子注入層16は、形成されていなくてもよい。
【0066】
実施形態4では、車載ディスプレイ30の例として、CID301、クラスターディスプレイ302、及びサイドディスプレイ303を挙げたが、これらに限られない。車載ディスプレイ30は、車中に設けられる任意のディスプレイであることができる。
【0067】
実施形態5では、電子機器としてスマートフォンを例に挙げたが、本発明はこれにより限定されるものではなく、例えば、パーソナルコンピューター、PDA(Personal Digital Assistance)、タブレット端末、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタ、デジタル(ビデオ)カメラ等であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 有機発光装置
11 基板
12 アノード電極
13 正孔輸送層
14 発光層
15 電子輸送層
16 電子注入層
17 カソード電極
20 表示装置
30 車載ディスプレイ
35 自動車
40 スマートフォン
100 TFT基板
114 カソード電極形成領域
125 表示領域
131 走査ドライバ
132 エミッションドライバ
133 保護回路
134 ドライバIC
135 FPC
200 封止基板
251R 赤副画素
251G 緑副画素
251B 青副画素
269R 有機発光層
269B 青有機発光層
269G 緑有機発光層
300 接合部
301 CID
302 クラスターディスプレイ
303 サイドディスプレイ
401 筐体
402 カバーガラス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9