(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121043
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】熱電材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 35/22 20060101AFI20220812BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20220812BHJP
C01G 51/00 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H01L35/22
H01L35/34
C01G51/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018176
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 将樹
(72)【発明者】
【氏名】廣田 健
(72)【発明者】
【氏名】福原 雅博
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】熱電特性に優れた熱電材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Ca
3-xRb
xCo
4O
9(x=0.2~0.4)型構造を有する熱電材料で、上記xは0.25~0.35の範囲であることが好ましい。この熱電材料を製造する際には、CaCO
3、Rb
2CO
3及びCo
3O
4を、Ca:Rb:Co=3-x:x:4(x=0.2~0.4)のモル比となるように秤量し、混合を行い、混合粉末を調製し(工程A)、前記混合粉末を用いて加圧成形を行い、得られた成形体を大気中で加熱し、その後、粉砕を行って仮焼粉末を調製し(工程B)、その後、前記仮焼粉末を用いて成形を行い、所望の形状を有した成形体を得、得られた成形体を大気中で800~1000℃の温度にて12~48時間加熱する(工程C)。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca3-xRbxCo4O9(x=0.2~0.4)型構造を有することを特徴とする熱電材料。
【請求項2】
前記xが0.25~0.35の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
請求項1に記載の熱電材料を製造する方法であって、当該方法が、
工程A:CaCO3、Rb2CO3及びCo3O4を、Ca:Rb:Co=3-x:x:4(x=0.2~0.4)のモル比となるように秤量し、混合を行い、混合粉末を調製する工程と、
工程B:上記工程Aにより得られた混合粉末を用いて加圧成形を行い、得られた成形体を大気中で加熱し、その後、粉砕を行って仮焼粉末を調製する工程と、
工程C:上記工程Bにより得られた仮焼粉末を用いて成形を行い、所望の形状を有した成形体を得、得られた成形体を大気中で800~1000℃の温度にて12~48時間加熱する工程
を含むことを特徴とする熱電材料の製造方法。
【請求項4】
前記工程Bにおける加圧を50~200MPaの圧力で行い、その後の加熱を700~900℃、6~24時間の条件にて行い、前記工程Cにおける加圧を50~200MPaの圧力で行い、その後の加熱を800~1000℃、12~48時間の条件にて行うことを特徴とする請求項3に記載の熱電材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電特性に優れた熱電材料、特に、元素置換されたミスフィット型層状コバルト酸化物Ca3Co4O9、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー、低炭素社会を実現する為に、廃熱の高度利用が必要不可欠である。その高度利用の一つが熱電発電であり、中・高温度領域で環境に優しく低コストの熱電材料が求められている。熱電材料は、ゼーベック効果を利用して温度差を電力に変える特性を有しており、近年注目を集めている。
従来の熱電材料は、Bi,Pb,Te,Sbなどの重元素から構成される化合物半導体であり、重元素であるがゆえの低融点や毒性、高温での蒸発や、酸化による劣化などの課題があった。
【0003】
そこで、上記の課題を解決するための熱電材料として、一般的に高温大気中で安定であり、安価で無害なものが多い金属酸化物の中で特に優れたp型性能を示す層状コバルト酸化物であるNa0.7CoO2が報告された(下記の非特許文献1)。
層状コバルト酸化物のNa0.7CoO2は、低次元構造と電導性に由来する高い熱電特性を示すことが知られており、Na0.7CoO2の結晶構造において、Coイオンが三角格子構造を形成し、CoO2層の間にNaが挿入された積層構造をとる。このCoO2層内ではCo磁性イオンがスピンフラストレーションを示し、このスピンフラストレーションによる磁気ゆらぎが、熱電特性の向上をもたらすと考えられている。
【0004】
しかし、この非特許文献1は単結晶での報告であり、多結晶体では結晶子の配向性の問題などで報告されている物性値に幅があって、高い性能指数を示すことが困難であり、より高い無次元性能指数ZTを示す組成の改良については知られていない。
発電効率は、無次元性能指数ZT=S2σT/κ〔ここでSはゼーベック係数(V/K)、σは電気伝導率(S/m)、Tは絶対温度(K)、κは熱伝導率(W/m・K)〕で評価され、より大きな値であることが好ましい。
【0005】
このほか、スピンフラストレーションにより特異な物性が発現するNaCoO2の熱電特性が、下記の非特許文献2に報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】寺崎一郎、日本結晶学会、日本結晶学会誌、第46巻、第1号、p.27-31、2004年
【非特許文献2】I. Terasaki et al., Phys. Rev. B, 56, R12685 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、層状コバルト酸化物Ca3Co4O9も、高い熱電変換特性を示すことが知られている。Ca3Co4O9の組成式は平均的な単斜晶結晶構造に基づいており、実際はCa2CoO3層とCoO2層の2つの異なる層がb軸方向に互いに変調構造を構成するミスフィット型構造をとる。CoO2層内ではCoイオンが三角格子構造を形成し、Co磁性イオンがスピンフラストレーションを示し、このスピンフラストレーションによる磁気ゆらぎが、熱電変換特性の向上をもたらすと考えられている。
したがって、元素置換により層内の磁性や電導性を制御することにより、さらなる熱電変換特性の向上が期待される。さらに元素置換による変調構造の変化により、熱伝導率の低減等の物性変化が期待できる。
【0008】
よって、本発明は、優れた熱電特性を発揮し得る組成を有した層状コバルト酸化物系熱電材料を提供することを課題とする。
又、本発明の課題は、このような熱電材料の製造方法を提供することでもある。
本発明者等は、元素置換を行うことによって層内の磁性や電導性を制御すれば、さらなる熱電特性の向上が期待できると考え、層状コバルト酸化物であるCa3Co4O9化合物のCaサイトにRbをドープ(部分置換)した新規固溶体Ca3-xRbxCo4O9(x=0.2~0.4)を大気中で900℃/24h熱処理することで作製して、その物性を詳細に評価した。
その結果、CaサイトにRbをドープすることによって、x=0のCa3Co4O9よりも高いゼーベック係数S、高い電気伝導率σを示し、無次元性能指数ZTが大きくなって熱電特性が改善できることを見出し、本発明を完成した。特に、Ca3-xRbxCo4O9(x=0.3)は、Ca3Co4O9に比べて1100K(約827℃)でZTが約3倍に向上した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
優れた熱電特性を示す本発明の熱電材料は、Ca3-xRbxCo4O9(x=0.2~0.4)型構造を有することを特徴とし、前記xは0.25~0.35の範囲であることが好ましく、x=0.3が特に好ましい。
【0010】
又、上記の熱電材料を製造するための本発明の製造方法は、
工程A:CaCO3、Rb2CO3及びCo3O4を、Ca:Rb:Co=3-x:x:4(x=0.2~0.4)のモル比となるように秤量し、混合を行い、混合粉末を調製する工程と、
工程B:上記工程Aにより得られた混合粉末を用いて加圧成形を行い、得られた成形体を大気中で加熱し、その後、粉砕を行って仮焼粉末を調製する工程と、
工程C:上記工程Bにより得られた仮焼粉末を用いて成形を行い、所望の形状を有した成形体を得、得られた成形体を大気中で800~1000℃の温度にて12~48時間加熱する工程
を含むことを特徴とする。
【0011】
更に本発明は、上記の特徴を有した熱電材料の製造方法において、前記工程B(仮焼粉末調製工程)における加圧を50~200MPaの圧力で行い、その後の加熱を700~900℃、6~24時間の条件にて行い、前記工程C(熱処理工程)における加圧を50~200MPaの圧力で行い、その後の加熱を800~1000℃、12~48時間の条件にて行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
Ca3-xRbxCo4O9(x=0.2~0.4)型構造を有する本発明の熱電材料は、RbイオンがドープされていないCa3Co4O9(x=0)よりも、電気伝導率及びゼーベック係数が大きく、熱電材料の性能指数であるZTも大きく、高温での熱電特性の点で優れている。そして、本発明の熱電材料は、多結晶体で高い性能指数を示すことが可能であるため、作製が容易であり、排熱の効率的利用などへの展開が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の熱電材料を製造する際の、好ましい製造工程の一例を示すフローチャートである。
【
図2】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についてのXRDパターンである。
【
図3】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についてのXRDパターンであり、
図2の001ピークを拡大したものである。
【
図4】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についてのa軸長、b軸長、c軸長の変化を示すグラフである。
【
図5】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.3)についての磁化率χの温度変化を示すグラフであり、このグラフにはゼロ磁場中冷却(ZFC)の磁化率と磁場中冷却(FC)の磁化率が表されている。
【
図6】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.3)についての有効磁気モーメント(μ
eff)の変化を示すグラフであり、Co
2+低スピン状態からCo
3+低スピン状態への理論値と、Co
3+低スピン状態からCo
4+低スピン状態への理論値が併記されている。
【
図7】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についての熱電特性を示すグラフであり、左上のグラフは、温度とゼーベック係数Sの関係を示すグラフであり、右上のグラフは、温度と電気伝導率σの関係を示すグラフであり、左下のグラフは、温度と出力因子S
2σ(パワーファクター)の関係を示すグラフであり、右下のグラフは、Rb置換量と熱伝導率κの関係をプロットしたものである。
【
図8】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についての、温度と無次元性能指数ZTの関係を示すグラフである。
【
図9】Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についての、Rb置換量と無次元性能指数ZTの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の熱電材料の製造方法における各工程について説明する。
図1は、本発明の製造方法における好ましい一例の手順を示すフローチャートである。
最初の工程Aにおいては、炭酸カルシウム(CaCO
3)と、炭酸ルビジウム(Rb
2CO
3)と、四酸化三コバルト(Co
3O
4)とを準備し、これらをCa:Rb:Co=3-x:x:4(x=0.2~0.4、好ましくはx=0.25~0.35、特に好ましくはx=0.3)のモル比となるように秤量し、混合を行って、Co
3O
4、Rb
2CO
3及びCaCO
3が均質に混合された混合粉末を調製する。
この際、CaCO
3、Rb
2CO
3及びCo
3O
4としてはいずれも高純度の市販品(粉末)をそのまま使用することができ、上記の混合は一般に乾燥状態にて行われ、混合装置としては一般的な粉体混合機がいずれも使用できる。
【0015】
次の工程Bでは、前記工程Aで得られた混合粉末を、例えば一軸加圧成形等により加圧(好ましくは50~200MPa程度、より好ましくは80~150MPa)して成形体とした後、この成形体を大気中で仮焼(700~900℃程度の温度にて6~24時間、より好ましくは750~850℃にて9~15時間)し、粉砕を行って仮焼粉末とする。
上記の粉砕を行う際、ボールミルによる粉砕が一般的であるが、これに限定されるものではない。
【0016】
さらに、最終の工程Cでは、上記工程Bにより得られた仮焼粉末を用いて成形(例えば一軸加圧成形)を行い、所望の形状を有した成形体を得、得られた成形体を大気中で800~1000℃(より好ましくは850~950℃)の温度にて12~48時間(より好ましくは20~30時間)加熱する。この工程Cにおいては、前記工程Bで得られた仮焼粉末を再びボールミル等により粉砕して混合を行うことが好ましく、成形を行う際の圧力は50~200MPa(より好ましくは80~150MPa)程度が好ましい。
【0017】
上記の工程A~Cを含む本発明の製造方法によって製造された、Ca3-xRbxCo4O9(x=0.2~0.4)型構造を有する熱電材料は、これまでに知られているCa3Co4O9と比べて、電気伝導率及びゼーベック係数が大きく、熱電材料の性能指数であるZTも大きく、高温での熱電特性に優れ、特にRb置換量x=0.25~0.35の範囲において大きなZTを示し、高温下で使用される製品の構成材料として好適である。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例0018】
[熱電材料の製造例]
Rb置換量を変化させた際の熱電特性の温度変化を調べるために、固相反応法を用いてCa
3-xRb
xCo
4O
9(0.0≦x≦0.4)の合成を行った。本発明の熱電材料の製造工程を示す
図1のフローチャートには、本実施例にて用いた加圧力、加熱温度、加熱時間等も記載されている。
【0019】
出発原料粉末であるCaCO3(純度99.99%、レアメタリック社製)、Rb2CO3(純度99.9%、レアメタリック社製)、Co3O4(純度99.9%、レアメタリック社製)をそれぞれ準備し、各粉末を所定比に秤量し、30分間乾燥混合した。
そして、得られた混合粉末を金型で一軸加圧成形(100MPa)し、得られた成形体を大気中にて800℃で12時間仮焼し、粉砕を行って仮焼粉末を得た。
その後、更にボールミル(800rpm/30分)による粉砕を行い、粉砕後の混合粉末を金型で一軸加圧成形(100MPa)し、得られた成形体を900℃の温度にて24時間大気中で熱処理した。
【0020】
得られた試料について、X線回折装置((株)リガク製、RINT2000)を用いて粉末X線回折(XRD)による相同定および構造解析を行った。さらに、熱電特性評価装置(オザワ科学(株)製、RZ2001i-S)により、電気伝導率(σ)、ゼーベック係数(S)の測定(T=300~1100K)を行い、熱伝導率測定装置(ネッチジャパン(株)製、LFA447 Nanoflash)を用いてレーザーフラッシュ法による熱伝導率(κ)の測定(T=298K)を行なった。又、超伝導量子干渉磁束計(SQUID)によってCa3-xRbxCo4O9試料の磁化率を測定した。
【0021】
図2には、Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(0≦x≦0.4)についてのXRDパターンが示されており、このXRDパターンから、Rb置換量xが0≦x≦0.4の範囲において、不純物ピークは見られず単一相が得られたことがわかる。また、
図3に示されるように、
図2のXRDパターンの001ピークを拡大して比較したところ、置換量xの増加に伴って当該ピークが低角度側にシフトしており、Caの位置にRbが置き換わっていることが確認された。
【0022】
図4には、Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についてのa軸長、b軸長、c軸長の変化を示すグラフが示されており、左上のグラフからa軸長は、Rb置換量が変化しても大きく変化せず、理論値に近い値であることがわかり、右上のグラフからc軸長は、Rb置換量が大きくなるほど大きくなる(即ち、c軸方向に伸びる)ことがわかった。
又、
図4の左下と右下のグラフから、Ca
2CoO
3層におけるb軸長は、Rb置換量が大きくなるほど小さくなる(即ち、b軸方向に縮む)が、CoO
2層におけるb軸長は、Rb置換量が変化しても大きく変化せず、理論値に近い値であることがわかった。
【0023】
図5には、Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.30)についての磁化率χの温度変化(温度依存性)が示されている。
このグラフにおいて表されているのは、ゼロ磁場中冷却(ZFC)の磁化率と磁場中冷却(FC)の磁化率であり、20Kよりも低温(特に10Kよりも低温)においては、Rb置換量x=0.20、0.30の試料の方が、Rb置換量x=0.00、0.10の試料よりも磁場中冷却(FC)の磁化率が大きいことがわかった。
【0024】
以下の表1には、Rb置換量を変化させて得られたCa3-xRbxCo4O9(x=0~0.30)についての、100K~300Kにおけるキュリーワイス(Currie-Weiss)型関数を用いた最小二乗法によるフィッティングの結果が示されている。
【0025】
【0026】
又、
図6には、Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.3)についての有効磁気モーメント(μ
eff)の変化を示すグラフが示されており、Co
2+低スピン状態からCo
3+低スピン状態への理論値と、Co
3+低スピン状態からCo
4+低スピン状態への理論値も併記されている。
上記表1及び
図6の結果から、CaサイトをRbで置換した際のCoの形式価数からCo
3+、Co
4+イオンが低スピン状態であると仮定したときの平均有効磁気モーメント(μ
eff)の実測値は、置換量xの増加に伴って大きくなる傾向があることがわかった。
【0027】
図7には、Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についての熱電特性を示すグラフが示されており、左上の、温度とゼーベック係数Sの関係を示すグラフから、Rb置換量x=0.2、0.3、0.4の試料は、Rb置換量x=0.0、0.1の試料よりもゼーベック係数が大きいことがわかった。又、これらの試料は、温度が上昇(350K→1100K)するにつれて、ゼーベック係数が大きくなった。
さらに、温度と電気伝導率σの関係を示す
図7の右上のグラフから、Rb置換量x=0.0の試料よりも、Rb置換量x=0.1、0.2、0.3、0.4の試料の方が大きな電気伝導率を示し、x=0.3の試料が、最も大きな電気伝導率を示した。
【0028】
又、温度と出力因子S
2σ(パワーファクター)の関係を示す
図7の左下のグラフから、温度が高くなるほど出力因子S
2σの値は大きくなる傾向があり、Rb置換量x=0.2、0.3、0.4の試料の方が、Rb置換量x=0.0、0.1の試料よりも出力因子が大きく、Rb置換量x=0.3の試料が、最も大きな出力因子の値を示した。
又、Rb置換量と熱伝導率κの関係をプロットした
図7の右下のグラフから、Rb置換量x=0.30の場合に最も小さな熱伝導率となり、大きな無次元性能指数ZTを得るのに有利であることがわかった。
【0029】
図8は、Rb置換量を変化させて得られたCa
3-xRb
xCo
4O
9(x=0~0.4)についての、無次元性能指数ZT(=S
2σT/κ)の温度依存性を示すグラフであり、このグラフから、温度が上昇(350K→1100K)するにつれてZTの値が大きくなり、Rb置換量x=0.2、0.3、0.4の試料のZTの値は、Rb置換量x=0.0、0.1の試料のZTの値よりも大きくなることがわかった。
【0030】
最も大きなZTの値が得られたRb置換量x=0.30の場合、即ち、Ca2.7Rb0.3Co4O9の最大値ZTは、1100KでZT=0.514であり、この値を、置換量x=0.0の場合、即ち、Ca3Co4O9のZT(1100KでZT=0.154)と比較すると、Rb置換によりZTの値が約3倍に向上した。このようなZTの増加は、積層構造を有するCa3Co4O9における層間距離の変化(Ca2CoO3層におけるb軸長の変化)、およびCoの平均価数の変化(+3価から約0.1増加)によるものであると推測される。
【0031】
又、Rb置換量とZTの値の関係を示す
図9のグラフから、Rb置換量xが0.2~0.4の範囲、特にx=0.25~0.35の範囲において大きなZTの値が得られ、x=0.3の場合に最も大きなZTの値となることがわかった。