(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121067
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】制御システム
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20220812BHJP
B60T 8/88 20060101ALI20220812BHJP
B60T 15/04 20060101ALI20220812BHJP
G06F 11/07 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/88
B60T15/04 B
G06F11/07 172
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018215
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510063502
【氏名又は名称】ナブテスコオートモーティブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 基大
(72)【発明者】
【氏名】塚田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】北村 毅史
【テーマコード(参考)】
3D049
3D246
5B042
【Fターム(参考)】
3D049AA04
3D049BB01
3D049BB02
3D049CC03
3D049HH03
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049HH52
3D246BA03
3D246DA01
3D246GA01
3D246KA15
3D246KA19
3D246MA07
3D246MA16
5B042GB08
5B042KK09
(57)【要約】
【課題】異常を伝達するための通信線を別途設けることなく異常を把握する制御システムを提供する。
【解決手段】制御システムの指令装置1は、動作指令圧を算出するとともに、動作指令圧を示す指令信号をバルブ制御装置2に送信するメインECU31と、メインECU31が正常である場合は、指令信号及び特定信号をバルブ制御装置2に送信し、メインECU31が異常である場合は、指令信号をバルブ制御装置2に送信し、特定信号をバルブ制御装置2に送信しない重畳回路41Cとを備える。制御システムのバルブ制御装置2は、指令装置1から受信した信号から特定信号を検出する重畳信号検出回路42Cと、特定信号が検出された場合は、受信された指令信号に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御し、特定信号が検出されない場合は、指令信号に従わずに吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御するサブECU32とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に制動力を発生させるためのブレーキ装置に送る圧縮空気を調整するバルブを制御するための制御システムであって、
前記バルブの動作指令圧を算出する指令装置と、
前記指令装置と通信線を介して接続され、算出された前記動作指令圧に従って前記バルブの動作を制御するバルブ制御装置と、を備え、
前記指令装置は、
前記動作指令圧を算出するとともに、前記動作指令圧を示す指令信号を前記バルブ制御装置に送信する指令送信部と、
前記指令送信部が正常である場合は、前記通信線を介して前記指令信号及び前記指令信号と異なる特定信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令送信部が異常である場合は、前記通信線を介して前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記特定信号を前記バルブ制御装置に送信しない信号送信回路と、を備え、
前記バルブ制御装置は、
前記指令装置から前記通信線を介して受信した信号から前記特定信号を検出する検出回路と、
前記特定信号が検出された場合は、受信された前記指令信号に従って前記バルブを制御し、前記特定信号が検出されない場合は、前記指令信号に従わずに前記バルブを制御するバルブ制御部と、を備える
制御システム。
【請求項2】
前記信号送信回路は、前記指令送信部が正常である場合には前記指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域を持つ前記特定信号を前記通信線に重畳し、前記指令送信部が異常である場合には前記特定信号を重畳せず、
前記検出回路は、前記通信線に重畳された前記特定信号を検出する
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記バルブ制御装置は、前記検出回路と前記バルブ制御部との間に、前記指令信号の周波数帯域以外の信号を除去するフィルタを備える
請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記信号送信回路を第1信号送信回路とし、
前記検出回路を第2検出回路とし、
前記バルブ制御装置は、前記バルブ制御部が正常である場合は、前記通信線を介して前記バルブの状態を示す状態信号及び前記状態信号と異なる特定信号を前記指令装置に送信し、前記バルブ制御部が異常である場合は、前記通信線を介して前記状態信号を前記指令装置に送信し、前記特定信号を前記指令装置に送信しない第2信号送信回路を備え、
前記指令装置は、前記バルブ制御装置から前記通信線を介して受信した信号から前記状態信号と異なる特定信号を検出する第1検出回路を備える
請求項1~3のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項5】
車両に制動力を発生させるためのブレーキ装置に送る圧縮空気を調整するバルブを制御するための制御システムであって、
前記バルブの動作指令圧を算出する指令装置と、
前記指令装置と通信線を介して接続され、算出された前記動作指令圧に従って前記バルブの動作を制御するバルブ制御装置と、を備え、
前記指令装置は、
前記動作指令圧を算出するとともに、前記動作指令圧を示す指令信号を前記バルブ制御装置に送信する指令送信部と、
前記指令送信部が正常である場合は、前記通信線を介して前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令信号と異なる特定信号を前記バルブ制御装置に送信せず、前記指令送信部が異常である場合は、前記通信線を介して前記特定信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信しない信号送信回路と、を備え、
前記バルブ制御装置は、
前記指令装置から前記通信線を介して受信した信号から前記特定信号を検出する検出回路と、
前記特定信号が検出されない場合は、受信された前記指令信号に従って前記バルブを制御するバルブ制御部と、を備える
制御システム。
【請求項6】
前記信号送信回路は、前記指令送信部が異常である場合には前記通信線の電圧を前記指令送信部が正常である場合とは異なる所定電圧に固定し、
前記検出回路は、前記通信線の電圧が所定電圧に固定されたことを検出することで前記特定信号を検出する
請求項5に記載の制御システム。
【請求項7】
前記信号送信回路は、前記指令送信部が異常である場合には、前記通信線を電源に短絡可能な回路、前記通信線をグランドに短絡可能な回路、及び前記通信線を開放可能な回路のいずれかである
請求項6に記載の制御システム。
【請求項8】
前記信号送信回路を第1信号送信回路とし、
前記検出回路を第2検出回路とし、
前記バルブ制御装置は、前記バルブ制御部が正常である場合は、前記通信線を介して前記バルブの状態を示す状態信号を前記指令装置に送信し、前記状態信号と異なる特定信号を前記指令装置に送信せず、前記バルブ制御部が異常である場合は、前記通信線を介して前記状態信号と異なる特定信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信しない第2信号送信回路を備え、
前記指令装置は、前記バルブ制御装置から前記通信線を介して受信した信号から前記状態信号と異なる特定信号を検出する第1検出回路を備える
請求項5~7のいずれか一項に記載の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数の機器が通信経路を介して接続された制御システムが記載されている。制御システムでは、各機器が自己以外の他の機器の状態を診断してその結果を通信経路を介して交換することでシステム全体の状態を把握している。また、機器は、自らの状態を診断する自己診断機能も備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載の制御システムでは、診断結果を通信経路を介して交換することでシステム全体の状態を把握しているため、通信を担うハードウェアの信頼性を高める必要があり、機器の異常を確実に伝達するには専用線が必要となる。この場合、当該専用線で通信を行うためのハードウェアが別途必要となるため、コストが増加する。そのため、異常を伝達するための通信線を別途設けることなく異常を把握することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する制御システムは、車両に制動力を発生させるためのブレーキ装置に送る圧縮空気を調整するバルブを制御するための制御システムであって、前記バルブの動作指令圧を算出する指令装置と、前記指令装置と通信線を介して接続され、算出された前記動作指令圧に従って前記バルブの動作を制御するバルブ制御装置と、を備え、前記指令装置は、前記動作指令圧を算出するとともに、前記動作指令圧を示す指令信号を前記バルブ制御装置に送信する指令送信部と、前記指令送信部が正常である場合は、前記通信線を介して前記指令信号及び前記指令信号と異なる特定信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令送信部が異常である場合は、前記通信線を介して前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記特定信号を前記バルブ制御装置に送信しない信号送信回路と、を備え、前記バルブ制御装置は、前記指令装置から前記通信線を介して受信した信号から前記特定信号を検出する検出回路と、前記特定信号が検出された場合は、受信された前記指令信号に従って前記バルブを制御し、前記特定信号が検出されない場合は、前記指令信号に従わずに前記バルブを制御するバルブ制御部と、を備える。
【0006】
上記構成によれば、指令送信部が正常であるときに指令信号を送信するとともに特定信号を送信し、指令送信部が異常であるときに指令信号を送信し特定信号を送信しない信号送信回路を指令装置に備え、特定信号を検出する検出回路をバルブ制御装置に備える。そして、特定信号が検出される場合は、指令信号に従ってバルブを制御し、特定信号が検出されない場合は、指令信号に従わずにバルブを制御する。このため、異常を伝達するための通信線を別途設けることなく、バルブ制御装置が指令送信部の異常を把握することができる。
【0007】
上記制御システムについて、前記信号送信回路は、前記指令送信部が正常である場合には前記指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域を持つ前記特定信号を前記通信線に重畳し、前記指令送信部が異常である場合には前記特定信号を重畳せず、前記検出回路は、前記通信線に重畳された前記特定信号を検出することが好ましい。
【0008】
上記制御システムについて、前記バルブ制御装置は、前記検出回路と前記バルブ制御部との間に、前記指令信号の周波数帯域以外の信号を除去するフィルタを備えることが好ましい。
【0009】
上記制御システムについて、前記信号送信回路を第1信号送信回路とし、前記検出回路を第2検出回路とし、前記バルブ制御装置は、前記バルブ制御部が正常である場合は、前記通信線を介して前記バルブの状態を示す状態信号及び前記状態信号と異なる特定信号を前記指令装置に送信し、前記バルブ制御部が異常である場合は、前記通信線を介して前記状態信号を前記指令装置に送信し、前記特定信号を前記指令装置に送信しない第2信号送信回路を備え、前記指令装置は、前記バルブ制御装置から前記通信線を介して受信した信号から前記状態信号と異なる特定信号を検出する第1検出回路を備えることが好ましい。
【0010】
上記課題を解決する制御システムは、車両に制動力を発生させるためのブレーキ装置に送る圧縮空気を調整するバルブを制御するための制御システムであって、前記バルブの動作指令圧を算出する指令装置と、前記指令装置と通信線を介して接続され、算出された前記動作指令圧に従って前記バルブの動作を制御するバルブ制御装置と、を備え、前記指令装置は、前記動作指令圧を算出するとともに、前記動作指令圧を示す指令信号を前記バルブ制御装置に送信する指令送信部と、前記指令送信部が正常である場合は、前記通信線を介して前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令信号と異なる特定信号を前記バルブ制御装置に送信せず、前記指令送信部が異常である場合は、前記通信線を介して前記特定信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信しない信号送信回路と、を備え、前記バルブ制御装置は、前記指令装置から前記通信線を介して受信した信号から前記特定信号を検出する検出回路と、前記特定信号が検出されない場合は、受信された前記指令信号に従って前記バルブを制御するバルブ制御部と、を備える。
【0011】
上記構成によれば、指令送信部が正常であるときに指令信号を送信し、特定信号を送信せず、指令送信部が異常であるときに指令信号を送信せず、特定信号を送信する信号送信回路を指令装置に備え、特定信号を検出する検出回路をバルブ制御装置に備える。そして、特定信号が検出されない場合は、指令信号に従ってバルブを制御する。このため、異常を伝達するための通信線を別途設けることなく、バルブ制御装置が指令送信部の異常を把握することができる。
【0012】
上記制御システムについて、前記信号送信回路は、前記指令送信部が異常である場合には前記通信線の電圧を前記指令送信部が正常である場合とは異なる所定電圧に固定し、前記検出回路は、前記通信線の電圧が所定電圧に固定されたことを検出することで前記特定信号を検出することが好ましい。
【0013】
上記制御システムについて、前記信号送信回路は、前記指令送信部が異常である場合には、前記通信線を電源に短絡可能な回路、前記通信線をグランドに短絡可能な回路、及び前記通信線を開放可能な回路のいずれかであることが好ましい。
【0014】
上記制御システムについて、前記信号送信回路を第1信号送信回路とし、前記検出回路を第2検出回路とし、前記バルブ制御装置は、前記バルブ制御部が正常である場合は、前記通信線を介して前記バルブの状態を示す状態信号を前記指令装置に送信し、前記状態信号と異なる特定信号を前記指令装置に送信せず、前記バルブ制御部が異常である場合は、前記通信線を介して前記状態信号と異なる特定信号を前記バルブ制御装置に送信し、前記指令信号を前記バルブ制御装置に送信しない第2信号送信回路を備え、前記指令装置は、前記バルブ制御装置から前記通信線を介して受信した信号から前記状態信号と異なる特定信号を検出する第1検出回路を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異常を伝達するための通信線を別途設けることなく異常を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】空気圧ブレーキシステムの全体構成を示す概略図。
【
図2】空気圧回路を含むブレーキ制御システムの第1実施形態の概略図。
【
図3】同実施形態のブレーキ制御システムの構成を示す概略図。
【
図4】同実施形態の空気圧回路であって、ブレーキバルブとブレーキ機構とを連通する第1連通状態の回路図。
【
図5】同実施形態の空気圧回路であって、エアタンクとブレーキ機構とを連通する第2連通状態の回路図。
【
図6】同実施形態のブレーキ制御応システムの異常時対応処理を示すフローチャート。
【
図7】同実施形態のブレーキ制御システムの解除処理を示すフローチャート。
【
図8】同実施形態のブレーキ制御システムの正常時の通信を示すフローチャート。
【
図9】同実施形態のブレーキ制御システムの異常時の通信を示すフローチャート。
【
図10】第2実施形態のブレーキ制御システムの構成を示す概略図。
【
図11】同実施形態の通信遮断回路の構成を示す概略図。
【
図12】同実施形態の通信遮断回路の構成を示す概略図。
【
図13】同実施形態の通信遮断回路の構成を示す概略図。
【
図14】同実施形態のブレーキ制御システムの正常時の通信を示すフローチャート。
【
図15】同実施形態のブレーキ制御システムの異常時の通信を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、
図1~
図9を参照して、制御システムをブレーキ制御システムに具体化した第1実施形態について説明する。ブレーキ制御システムは、車両に制動力を発生させるためのブレーキ装置に送る圧縮空気を調整するバルブを制御する。なお、ブレーキ制御システムは、ドライバー異常時対応システムであって、バス等の車両に搭載された空気圧ブレーキシステムに後付けされている。ブレーキ制御装置は、既存の制御装置にドライバー異常時対応システムに係る制御プログラムが追加されることで後付けされる。
【0018】
図1に示すように、車両10に搭載された空気圧ブレーキシステム11は、ブレーキ機構の命令系統を空気圧で制御するとともに空気圧駆動式のブレーキ機構を備えるフルエアブレーキのシステムである。空気圧ブレーキシステム11は、コンプレッサ(図示略)が生成した圧縮空気を貯留するエアタンク12を備えている。エアタンク12は、第1タンク12Aと、第2タンク12Bと、第3タンク12Cとを有している。例えば、第1タンク12Aは、車両10の前輪に制動力を加えるための圧縮空気を貯留するタンクである。第2タンク12Bは、後輪に制動力を加えるための圧縮空気を貯留するタンクである。また、第3タンク12Cは、その他の用途で用いられる圧縮空気を貯留するタンクである。第1タンク12A及び第2タンク12Bは、ブレーキバルブ13の前方圧力室13A及び後方圧力室13Bに接続されている。また、第1タンク12A及び第2タンク12Bは、プロテクションバルブ14Aを介してエアホーン装置14Bに接続されている。
【0019】
また、ブレーキバルブ13は、空気配管18を介して、リレーバルブ15に接続されている。ブレーキバルブ13のブレーキペダル13Cがドライバーによって操作されると、ブレーキバルブ13からリレーバルブ15に空気圧信号が出力される。また、リレーバルブ15は図示しない空気配管によってエアタンク12に接続されている。リレーバルブ15がブレーキバルブ13から空気圧信号を受信すると、エアタンク12に貯留された多量の圧縮空気が、その空気配管を介してリレーバルブ15に供給される。リレーバルブ15に供給された多量の圧縮空気は、ABS(Anti-lock Brake System)コントロールバルブ16を介してブレーキチャンバー17に供給される。ブレーキチャンバー17は、空気が供給されることによって車輪に制動力を発生させる。ABSコントロールバルブ16及びブレーキチャンバー17は、空気圧駆動式のブレーキ機構を構成する。ブレーキペダル13Cへの操作がドライバーのブレーキ操作に相当する。
【0020】
使用過程車両(既存車両)10の空気圧ブレーキシステム11に、ドライバーに異常が発生してドライバー又はドライバー以外の乗員の操作により車両10を緊急停止させるドライバー異常時対応システム(EDSS:Emergency Driving Stop System)を搭載する。ドライバー異常時対応システムでは、ブレーキバルブ13とリレーバルブ15とを接続する命令系統の空気配管18の途中に、圧力制御モジュール(PCM:Pressure Control Module)20を設ける。圧力制御モジュール20は、エアタンク12(第3タンク12C)に接続する第1ポートP1、ブレーキバルブ13に接続する第2ポートP2、リレーバルブ15を含むブレーキ機構に接続する第3ポートP3を有している。なお、圧力制御モジュール20は、ブレーキバルブ13とリレーバルブ15との間に設けられるので、空気圧駆動式以外のブレーキ機構を有する空気圧ブレーキシステム11にも取り付けが可能である。
【0021】
図2を参照して、圧力制御モジュール20の空気圧回路について詳細に説明する。圧力制御モジュール20は、空気圧回路22及びサブECU(電子制御装置:Electronic Control Unit)32を備えている。圧力制御モジュール20は、メインECU31とともに、ドライバー異常時対応システム50を構成する。なお、メインECU31が指令装置に相当する。また、サブECU32がバルブ制御装置に相当する。
【0022】
メインECU31及びサブECU32は、演算部、通信インターフェース部、揮発性記憶部、不揮発性記憶部をそれぞれ備えている。演算部は、コンピュータプロセッサであって、不揮発性記憶部(記憶媒体)に記憶された制御プログラムにしたがって、空気圧ブレーキシステム11を制御する。演算部は、自身が実行する処理の少なくとも一部を、ASIC等の回路(circuitry)により実現してもよい。制御プログラムは、一つのコンピュータプロセッサによって実行されてもよいし、複数のコンピュータプロセッサによって実行されてもよい。また、メインECU31及びサブECU32は、車載ネットワークであるCAN(Controller Area Network)33に接続され、互いに各種情報を送受信する。
【0023】
メインECU31は、操作スイッチ51がオン操作された場合に、操作スイッチ51から送信され、車両10を緊急停止させる停止信号を受信する。メインECU31は、解除スイッチ52がオン操作された場合に、解除スイッチ52から送信される解除信号を受信する。操作スイッチ51及び解除スイッチ52は、ドライバーの操作が想定されたスイッチであって、運転席近傍に設けられている。操作スイッチ51がオン操作された場合には、ドライバー異常時対応システム50が作動する。解除スイッチ52は、ドライバー異常時対応システム50が誤って作動された場合に、その動作を停止するためのスイッチである。メインECU31は、操作スイッチ51がオン操作された場合に、空気圧ブレーキシステム11を制御して本制動を行う。本制動とは、車両10を緩制動よりも絶対値が大きい減速度で減速させ、最終的に停止させるための制動である。緩制動とは、減速度の絶対値が比較的小さい制動、又はブレーキのかかる時間が短い制動であって、直後に解除スイッチ52の操作が行われた場合に通常の走行に戻ることを可能とする制動である。
【0024】
また、メインECU31は、客席操作スイッチ53がオン操作された場合に、それらから送信され、車両10を緊急停止させる停止信号を受信する。客席操作スイッチ53は、ドライバー以外の乗員の操作が想定されたスイッチである。客席操作スイッチ53は、運転席以外の位置であって、ドライバー以外の乗員であっても操作可能な位置に設けられている。メインECU31は、客席操作スイッチ53がオン操作された場合に、空気圧ブレーキシステム11を制御して緩制動を行う。
【0025】
メインECU31は、空気圧ブレーキシステム11がドライバーのブレーキ操作によって制御されたときの実ブレーキ圧力と実ブレーキ圧力で車両10が制動されたときの車両10の減速度との相関関係を取得する取得部31Aを備える。メインECU31は、実ブレーキ圧力と減速度との相関関係に基づいて車両10を所望の減速度で減速させるための目標ブレーキ圧力を推定する推定部31Bを備える。メインECU31は、停止信号を受信した場合に、推定部31Bが推定した目標ブレーキ圧力に基づいて空気圧ブレーキシステム11を制御して車両10を停止させる制御部31Cを備える。取得部31Aは、CAN33を介して速度センサ55から速度情報を取得するとともに、CAN33及びサブECU32を介して第2圧力センサ39から実ブレーキ圧力を取得する。取得部31Aは、速度から得られる減速度とそのときの実ブレーキ圧力とを記憶部31Dに記憶し、実ブレーキ圧力と減速度との相関関係を取得する。推定部31Bは、推定した目標ブレーキ圧力を記憶部31Dに記憶する。なお、記憶部31Dには、推定が完了するまで使用する初期設定の目標ブレーキ圧力が記憶されている。
【0026】
メインECU31は、ドライバー異常時対応システム50が作動を開始する場合に、車両10の現在の走行速度から得られる減速度を目標値である目標減速度に近づけるように、推定部31Bで推定した空気圧ブレーキシステム11の目標ブレーキ圧力を含む動作指令を生成してサブECU32に指示する。この目標減速度は、メインECU31の記憶部31Dに記憶されたデータを更新することによって変更することができる。例えば、車両10が乗合バスである場合には、車内で立つ乗客が存在することが想定されるため、目標減速度の絶対値を小さくする。また、車両10が、乗客全員が着座する高速バスである場合には、乗合バスに比べ、目標減速度の絶対値を大きくしてもよい。また、車両10の重量や車長に応じて、目標減速度を変更することも可能である。
【0027】
さらに、メインECU31は、ドライバー異常時対応システム50が作動した場合に、車室内装置56及び車室外装置57に指示信号を出力する。車室内装置56は、例えばアクセルペダルの操作を不能にするアクセルインターロック機構である。メインECU31は、異常が発生した場合にはアクセルインターロック機構を作動させる。他にも、車室内装置56として、車室内に設けられた報知ブザー、車室内に設けられた報知ランプ等を設けてもよい。例えば、メインECU31は、異常が発生した場合には、報知ブザーから音を出力させ、報知ランプを点灯又は点滅させる。車室外装置57は、例えば、エアホーン装置14B、ハザードランプ、ブレーキランプ等である。例えば、メインECU31は、異常が発生した場合には、プロテクションバルブ14A等を駆動して、エアホーン装置14Bに空気を供給して警告音を発生させるとともに、ハザードランプ及びブレーキランプを点灯又は点滅させる。
【0028】
サブECU32は、圧力制御モジュール20内に収容され、圧力制御モジュール20の各種バルブを制御する。圧力制御モジュール20は、エアタンク12に接続する第1供給路23を有している。第1供給路23は、前方の車輪に設けられたブレーキチャンバー17にリレーバルブ15を介して接続する前方空気供給路37と、後方の車輪に設けられたブレーキチャンバー17に接続する後方空気供給路38とに接続されている。
【0029】
第1供給路23の途中には、リレーバルブ25が接続されている。リレーバルブ25は、排出口25Aを有し、排出口25Aは、サイレンサを有する排出部58に接続されている。また、リレーバルブ25は、パイロットポート25Bを有する。パイロットポート25Bは、第1供給路23から分岐する分岐路26に接続されている。分岐路26からパイロットポート25Bに印加される空気圧が大気圧等の所定圧の場合には、付勢ばね等の付勢力により、第1供給路23が遮断された排気状態となる。リレーバルブ25が排気状態となると、エアタンク12から前方空気供給路37及び後方空気供給路38への空気の流れが遮断される。また、リレーバルブ25が排気状態となると、第1供給路23のうちリレーバルブ25の下流側と排出部58とが連通されて、第1供給路23のうちリレーバルブ25の下流側の圧縮空気が排出され、大気圧等の所定圧になる。
【0030】
一方、分岐路26からパイロットポート25Bに印加される空気圧が大気圧等の所定圧よりも大きい駆動圧力に達している場合には、リレーバルブ25は、付勢ばね等の付勢力に抗して、第1供給路23を連通する供給状態となる。リレーバルブ25が供給状態となると、エアタンク12から前方空気供給路37及び後方空気供給路38への空気が供給される。リレーバルブ25が供給状態となると、第1供給路23と前方空気供給路37及び後方空気供給路38とが連通される。また、リレーバルブ25は、出口側(二次側)の圧力が過度に高くなると、第1供給路23の連通状態を遮断して排気状態となる。
【0031】
分岐路26は、一方の端部が第1供給路23に接続され、他方の端部が排出部58に接続されている。この分岐路26の途中には、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28が設けられている。吸気用バルブ27及び排気用バルブ28は電磁弁であり、サブECU32によって駆動される。吸気用バルブ27は、分岐路26のうち排気用バルブ28よりも上流寄り(エアタンク12寄り)に設けられている。吸気用バルブ27は、サブECU32から配線27Aを介しての電源の入り切り(駆動/非駆動)で動作が切り換わる。吸気用バルブ27は、電源が切られた非駆動の状態で分岐路26を閉じる閉位置となる。また、吸気用バルブ27は、電源が入れられた駆動の状態で分岐路26を開く開位置となる。
【0032】
排気用バルブ28は、サブECU32から配線28Aを介しての電源の入り切り(駆動/非駆動)で動作が切り換わる電磁弁である。排気用バルブ28は、電源が切られた非駆動の状態で分岐路26を連通する開位置となる。また、排気用バルブ28は、電源が入れられた駆動の状態で分岐路26を閉塞する閉位置となる。つまり、排気用バルブ28は、吸気用バルブ27が非駆動の状態で閉位置になると吸気用バルブ27よりも下流及び信号供給路29を大気開放する。また、排気用バルブ28は、駆動状態で分岐路26のうち吸気用バルブ27の上流側及び第1供給路23のうちリレーバルブ25の上流側を大気圧とする。
【0033】
また、分岐路26のうち、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28の途中には、リレーバルブ25に空気圧信号を供給する信号供給路29と、第1圧力センサ35とが接続されている。第1圧力センサ35は、分岐路26のうち吸気用バルブ27及び排気用バルブ28の間の圧力を検知して、サブECU32に出力する。
【0034】
また、第1供給路23は、第3供給路30に接続されている。第3供給路30は、1対のダブルチェックバルブ36に接続されている。一方のダブルチェックバルブ36Aは、第3供給路30と、ブレーキバルブ13の前方圧力室13Aに接続する前方信号供給路24Aと、前方の車輪に制動力を発生させるための前方空気供給路37とに接続されている。このダブルチェックバルブ36Aは、第3供給路30及び前方信号供給路24Aのうち圧力が高い方からの圧縮空気の供給を許容し、低い方からの圧縮空気の供給を遮断する。前方空気供給路37には、第2圧力センサ39が接続されている。第2圧力センサ39は、検知した圧力をサブECU32に出力する。
【0035】
他方のダブルチェックバルブ36Bは、第3供給路30と、ブレーキバルブ13の後方圧力室13Bに接続する後方信号供給路24Bと、後方の車輪に制動力を加える後方空気供給路38とに接続されている。このダブルチェックバルブ36Bは、第3供給路30及び後方信号供給路24Bのうち圧力が高い方からの圧縮空気の供給を許容し、低い方からの圧縮空気の供給を遮断する。
【0036】
図3を参照して、ブレーキ制御システムのメインECU31とサブECU32との通信について説明する。ブレーキ制御システムは、メインECU31に異常があったとしても、サブECU32でメインECU31の異常を把握することができる。メインECU31は、自己診断を行う自己診断部31Eを備えている。自己診断部31Eは、メインECU31及び第1CANトランシーバ回路41Aが異常であるか否かを診断する。
【0037】
図3に示されるように、メインECU31とサブECU32とは、CAN33を介して接続されている。CAN33が通信線に相当する。メインECU31は、
図2では省略しているが、CAN通信を行う第1通信部41を備えている。メインECU31及び第1通信部41は、リレーバルブ25の動作指令圧を算出する指令装置1として機能する。同様に、サブECU32は、
図2では省略しているが、CAN通信を行う第2通信部42を備えている。サブECU32及び第2通信部42は、指令装置1と通信線を介して接続され、算出された動作指令圧に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28の動作を制御するバルブ制御装置2として機能する。CAN通信は、2線式差動方式であって、2本の通信線間の電位差があるかないかをビットに見立てて通信する。CAN通信は、通信線にノイズが入ったとしても電位差が変化しなければ通信が可能であるため、ノイズに強いことが特徴である。なお、動作指令圧は、リレーバルブ25から出力される空気圧であってもよいし、パイロットポート25Bに入力される圧力であってもよい。サブECU32は、リレーバルブ25から出力される空気圧又はパイロットポート25Bに入力される圧力が動作指令圧になるように吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動制御する。
【0038】
第1通信部41は、メインECU31から順に、第1CANトランシーバ回路41Aと、第1コモンモードノイズフィルタ(CMNF:Common Mode Noise Filter)41Bと、重畳回路41Cとを備えている。第1CANトランシーバ回路41Aと、第1CMNF41Bと、重畳回路41Cとは、直列に接続されている。
【0039】
第1CANトランシーバ回路41Aは、CANプロトコルにて通信線に信号を送るとともに、通信線の信号を受ける回路である。第1CMNF41Bは、通信線に含まれるコモンモードノイズを除去することで信号のずれを改善し、差動信号を通過させる回路である。重畳回路41Cは、通常時に使う周波数帯域と異なる周波数帯域を持つ特定信号を通信線に重畳し、異常時に通常時に使う周波数帯域と異なる周波数帯域を持つ特定信号の重畳を停止する回路である。すなわち、重畳回路41Cは、通信線に特定信号として交流信号(重畳信号)を重畳させる。ここで、交流信号の振幅及び周波数を変更可能であり、重畳信号がノイズ源とならないように回路に応じて決定する。なお、メインECU31及び第1CANトランシーバ回路41Aは、動作指令圧を算出するとともに、動作指令圧を示す指令信号をバルブ制御装置2に送信する指令送信部として機能する。
【0040】
重畳回路41Cは、指令送信部が正常である場合は、通信線を介して指令信号及び指令信号と異なる特定信号をバルブ制御装置2に送信し、指令送信部が異常である場合は、通信線を介して指令信号をバルブ制御装置に送信し、特定信号をバルブ制御装置2に送信しない信号送信回路として機能する。すなわち、重畳回路41Cは、指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域を持つ特定信号を通信線に重畳する。メインECU31は、自己診断部31Eによる自己診断にて異常がある、又は装置内のセンサが異常を検出すると、異常信号を重畳回路41Cに出力する。そして、重畳回路41Cは、異常信号を受けると、通信線に重畳信号を重畳させることを停止して、通信線を介して指令信号をバルブ制御装置2に送信する。よって、重畳回路41Cは、指令送信部が正常時には通信線に重畳信号を重畳させ、指令送信部が異常時には通信線に重畳信号を重畳させない。この結果、重畳回路41Cは、指令送信部の正常時と指令送信部の異常時とで異なる信号を生成する。
【0041】
第2通信部42は、サブECU32から順に、第2CANトランシーバ回路42Aと、第2コモンモードノイズフィルタ(CMNF:Common Mode Noise Filter)42Bと、重畳信号検出回路42Cとを備えている。第2CANトランシーバ回路42Aと、第2CMNF42Bと、重畳信号検出回路42Cとは、直列に接続されている。
【0042】
第2CANトランシーバ回路42Aは、CANプロトコルにて通信線に信号を送るとともに、通信線の信号を受ける回路である。第2CMNF42Bは、通信線に含まれるコモンモードノイズを除去することで信号のずれを改善し、差動信号を通過させる回路である。よって、第2CMNF42Bは、通信線に重畳された指令信号の周波数帯域以外の重畳信号を除去する。このため、重畳信号は、CAN通信に影響を与えない。重畳信号検出回路42Cは、通信線に重畳された交流信号である重畳信号を検出する回路である。
【0043】
重畳信号検出回路42Cは、指令装置1から通信線を介して受信した信号から特定信号を検出する検出回路として機能し、通信線に重畳された指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域の特定信号を検出する。具体的には、重畳信号検出回路42Cは、電圧検出回路42Dを備えている。電圧検出回路42Dは、電圧波形を検出することで重畳信号の有無を判定可能である。電圧検出回路42Dは、通信線に対してコンデンサが直列に接続されているため、直流成分がカットされた信号が入力される。なお、コンデンサに代えて、大きい抵抗を設けてもよい。また、電圧検出回路42Dは、ピークホールド、半波整流や全波整流後に検出して重畳信号の有無を判定してもよい。電圧検出回路42Dは、重畳信号が含まれていないと異常と判定して、サブECU32へ非常指令を出力する。サブECU32は、ドライバ回路32Aを介して圧力制御モジュール20の吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非常動作させる。ここで、非常動作とは、指令信号に関係なく動作することである。例えば、非常動作は、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動してリレーバルブ25から圧縮空気を供給することで車両10を停止させる動作である。なお、非常動作は、車両10を停止させず、所定速度以下に減速させる動作であってもよい。サブECU32は、特定信号が検出された場合は、受信された指令信号に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御する。サブECU32は、特定信号が検出されない場合は、指令信号に従わずに吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御するバルブ制御部として機能する。
【0044】
次に
図4及び
図5を参照して、圧力制御モジュール20の動作について説明する。
図4は、操作スイッチ51及び客席操作スイッチ53がオン操作されていない場合の空気圧回路22を示す。
【0045】
図4に示すように、操作スイッチ51及び客席操作スイッチ53がオン操作されていない場合、サブECU32は、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非駆動とする。この場合、吸気用バルブ27は閉位置となり、排気用バルブ28は開位置となる。これにより、分岐路26のうち、吸気用バルブ27よりも下流は、排気用バルブ28が開位置となることにより大気圧等の所定圧となる。このため、パイロットポート25Bに加わる空気圧も所定圧となることから、リレーバルブ25が排気状態になる。リレーバルブ25が排気状態となると、第3供給路30及び第1供給路23のうちリレーバルブ25よりも下流の圧縮空気が排出部58から排出され、第3供給路30が所定圧となる。さらにブレーキペダル13Cに対し踏み込み操作等がなされると、前方信号供給路24A及び後方信号供給路24Bに空気圧信号が供給される。これにより、第3供給路30よりも前方信号供給路24A及び後方信号供給路24Bの圧力が高くなるため、ダブルチェックバルブ36A,36Bは、第3供給路30から前方空気供給路37及び後方空気供給路38への空気の流れをそれぞれ遮断する。そして、前方信号供給路24A及び後方信号供給路24Bから前方空気供給路37及び後方空気供給路38に空気圧信号を供給する。その結果、リレーバルブ15に空気圧信号が供給されることによって、エアタンク12からリレーバルブ15に多量の圧縮空気が供給される。リレーバルブ15がブレーキチャンバー17に圧縮空気を供給すると、車輪に制動力が加わる。なお、前方信号供給路24A及び後方信号供給路24Bを含む空気圧回路がブレーキ制御回路に対応する。
【0046】
図5は、操作スイッチ51及び客席操作スイッチ53の少なくとも一方がオン操作された場合の空気圧回路22を示す。操作スイッチ51及び客席操作スイッチ53の少なくとも一方がオン操作された場合、サブECU32は、メインECU31から送信された圧力指示を受信する。サブECU32は、圧力指示に基づいて、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動する。これにより、吸気用バルブ27は開位置、排気用バルブ28は閉位置となる。エアタンク12の圧縮空気は、第1供給路23を介して、吸気用バルブ27と排気用バルブ28の間の分岐路26に供給される。吸気用バルブ27と排気用バルブ28の間の分岐路26の圧力が駆動圧力に到達すると、この圧力がパイロットポート25Bを介してリレーバルブ25に加わることにより、リレーバルブ25は供給状態になる。これにより、第1供給路23、リレーバルブ25を介して第3供給路30に圧縮空気が供給される。
【0047】
第3供給路30に圧縮空気が供給されると、第3供給路30の圧力が、前方信号供給路24A及び後方信号供給路24Bよりも高くなる。このため、ダブルチェックバルブ36は、第3供給路30から、前方空気供給路37及び後方空気供給路38への空気の流れを許容し、前方信号供給路24A及び後方信号供給路24Bから前方空気供給路37及び後方空気供給路38への空気の流れを遮断する。なお、吸気用バルブ27、排気用バルブ28、及びリレーバルブ25を接続する流路(第1供給路23、分岐路26等)、第3供給路30を含む空気圧回路が、異常時ブレーキ制御回路に対応する。
【0048】
このように、ブレーキバルブ13とリレーバルブ15との間に圧力制御モジュール20を設けることにより、操作スイッチ51及び客席操作スイッチ53がオン操作された場合には、空気圧駆動式の命令系統が、ブレーキバルブ13を介する系統から、エアタンク12から直接的に空気が供給される系統に切り替わる。このため、ブレーキバルブ13からの空気圧信号を受信しなくても、ブレーキチャンバー17を動作させてブレーキ力を発生させることができる。
【0049】
また、サブECU32は、第1圧力センサ35及び第2圧力センサ39から所定のタイミングで検知圧力を取得する。例えば、サブECU32は、リレーバルブ25を供給状態に維持する場合には、第1圧力センサ35が検知した圧力が所定範囲となるように、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動又は非駆動にする。また、メインECU31が、車両10を緩やかに停止させるため段階的に圧力を上昇させるようにサブECU32に対して圧力指示を送信する場合には、サブECU32は、第2圧力センサ39が検知した圧力が第1圧力閾値に到達したか否かを判断する。サブECU32が、検知圧力が第1圧力閾値に到達していないと判断した場合には、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動してリレーバルブ25を供給状態に維持する。一方、サブECU32は、第2圧力センサ39が検知した圧力が第1圧力閾値に到達した場合には、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非駆動にしてリレーバルブ25を遮断状態とする。そして、メインECU31からの次の圧力指示を待機する。
【0050】
次に、
図6及び
図7を参照して、メインECU31が行う異常時対応の処理の手順について説明する。
図6に示す処理は、空気系統を制御する処理であって、操作スイッチ51又は客席操作スイッチ53が操作され、メインECU31がそれらのスイッチから送信された停止信号を受信することを契機に開始されるものとする。また、メインECU31は、所定のタイミングで速度センサ55から車両情報を取得していることを前提とする。
【0051】
図6に示すように、メインECU31は、停止信号を受信すると、客席操作スイッチ53が操作されたか否かを判定する(ステップS21)。すなわち、メインECU31は、受信した停止信号が、操作スイッチ51からの信号であるか又は客席操作スイッチ53からの信号であるかを判定する。そして、メインECU31は、操作スイッチ51が操作されたと判定すると(ステップS21:NO)、ステップS24に移行する。
【0052】
一方、メインECU31は、客席操作スイッチ53が操作されたと判定すると(ステップS21:YES)、緩制動に必要な目標ブレーキ圧力をサブECU32に指示する(ステップS22)。メインECU31は、自身の記憶部31Dに記憶された緩制動のための目標減速度を達成するための目標ブレーキ圧力をサブECU32に送信する。サブECU32は、目標ブレーキ圧力の指示に基づき、上述したように吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動する(
図4参照)。
【0053】
メインECU31は、サブECU32に目標ブレーキ圧力を送信した時点、車両10が減速を開始した時点又はサブECU32から所定の応答信号を受信した時点から所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS23)。この所定時間は、ドライバーが正常な状態であるにもかかわらず、客席操作スイッチ53が誤操作された場合に、ドライバーが解除スイッチ52を操作するために要する時間である。メインECU31は、所定時間が経過していない場合(ステップS23:NO)、目標ブレーキ圧力をサブECU32に指示しながら緩制動を継続する(ステップS22)。
【0054】
一方、メインECU31は、所定時間が経過したと判定すると(ステップS23:YES)、本制動に必要な圧力をサブECU32に指示する(ステップS24)。メインECU31は、自身の記憶部31Dに記憶された本制動のための目標減速度を達成するための目標ブレーキ圧力をサブECU32に送信する。制御部31Cは、車両10が停止するまで目標ブレーキ圧力を維持する。サブECU32は、メインECU31からの目標ブレーキ圧力の指示に基づき、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動する(
図4参照)。
【0055】
メインECU31は、本制動を実行すると、異常時対応が終了したか否かを判定する(ステップS25)。異常時対応は、車両10が停止しパーキングブレーキが作動した場合等に終了したと判定してもよいし、イグニッションスイッチがオフされた場合に終了したと判定してもよいし、その他のタイミングで終了したと判定してもよい。メインECU31は、異常時対応が終了していないと判定すると(ステップS25:NO)、目標ブレーキ圧力をサブECU32に指示しながら本制動を継続する(ステップS24)。メインECU31は、異常時対応が終了したと判定すると(ステップS25:YES)、異常時対応の処理を終了する。
【0056】
また、メインECU31は、空気系統の異常時対応とは別に、本制動を実行開始するタイミング等の所定のタイミングで、車室内装置56及び車室外装置57を作動させる。これにより、車両10の乗員に異常が発生したことを報知するとともに、車両10の周辺を走行する他車両にも注意喚起を促すことができる。
【0057】
次に、
図7にしたがって、解除スイッチ52が操作された場合の解除処理の手順について説明する。
図7に示す処理は、操作スイッチ51又は客席操作スイッチ53が操作され、メインECU31がその停止信号を受信することを契機に開始されるものとする。
【0058】
図7に示すように、メインECU31は、解除スイッチ52が操作されたか否かを判定する(ステップS31)。すなわち、メインECU31は、解除スイッチ52から操作信号を受信したか否かを判定する。そして、メインECU31は、解除スイッチ52から操作信号を受信していないと判定すると(ステップS31:NO)、ステップS33に移行する。
【0059】
一方、メインECU31は、解除スイッチ52から操作信号を受信したと判定すると(ステップS31:YES)、サブECU32に制動の解除指示を送信する(ステップS32)。解除指示を受信したサブECU32は、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非駆動として、エアタンク12からブレーキチャンバー17側への空気の供給を遮断する。
【0060】
続いて、メインECU31は、異常時対応が終了したか否かを判定する(ステップS33)。メインECU31は、異常時対応が終了していないと判定すると(ステップS33:YES)、ステップS31に移行する。一方、メインECU31は、異常時対応が終了したと判定すると(ステップS33:YES)、解除処理を終了する。
【0061】
次に、
図8及び
図9を参照して、指令送信部が正常又は異常であるときの処理の手順について説明する。
図8は、指令送信部が正常であるときの処理の手順である。
図9は、指令送信部が異常であるときの処理の手順である。
【0062】
図8に示すように、指令送信部が正常であるときは、指令装置1は、重畳信号を通信線に重畳する(ステップS41)。すなわち、重畳回路41Cは、指令送信部の異常が検出されるまで通信線に交流信号を重畳させる。よって、指令装置1から通信線を介してバルブ制御装置2には、重畳信号が含まれる信号が送信される。
【0063】
そして、バルブ制御装置2は、指令装置1から送信された信号に含まれる重畳信号を検出する(ステップS42)。すなわち、重畳信号検出回路42Cは、電圧検出回路42Dによって通信線に含まれる交流信号を検出することで重畳信号を検出する。電圧検出回路42Dは、重畳信号を検出すると、指令送信部が正常であると判定する(ステップS43)。指令送信部が正常であるときは、サブECU32は、メインECU31からの指令に従って圧力制御モジュール20を制御する。
【0064】
図9に示すように、指令装置は、指令送信部が異常であることを検出すると(ステップS51)、異常信号を重畳回路41Cに出力する(ステップS52)。すなわち、メインECU31は、自己診断部31Eによる自己診断にて異常がある、又は装置内のセンサが異常を検出すると、異常信号を重畳回路41Cに出力する。指令装置1は、重畳信号の重畳を停止する(ステップS53)。すなわち、重畳回路41Cは、通信線に交流信号を重畳させることを停止する。よって、指令装置1から通信線を介してバルブ制御装置2には、重畳信号が含まれない信号が送信される。
【0065】
そして、バルブ制御装置2は、指令装置1から通信線を介して送信された信号に重畳信号が含まれないので、重畳信号を検出しない(ステップS54)。すなわち、重畳信号検出回路42Cの電圧検出回路42Dは、通信線に交流信号が含まれていないので重畳信号を検出しない。電圧検出回路42Dは、重畳信号を検出しないので、指令送信部が異常であると判定する(ステップS55)。電圧検出回路42Dは、サブECU32に非常指令を出力する(ステップS56)。サブECU32は、指令信号に従わずにドライバ回路32Aを介して圧力制御モジュール20に非常動作を行わせる(ステップS57)。すなわち、圧力制御モジュール20の吸気用バルブ27は開位置、排気用バルブ28は閉位置となる。よって、空気圧駆動式の命令系統が、ブレーキバルブ13を介する系統から、エアタンク12から直接的に空気が供給される系統に切り替わる。このため、ブレーキバルブ13からの空気圧信号を受信しなくても、ブレーキチャンバー17を動作させてブレーキ力を発生させることができる。
【0066】
次に、第1実施形態の効果について説明する。
(1)指令送信部が正常であるときに指令信号を送信するとともに特定信号を送信し、指令送信部が異常であるときに指令信号を送信し特定信号を送信しない重畳回路41Cを指令装置1に備え、特定信号を検出する重畳信号検出回路42Cをバルブ制御装置2に備える。そして、特定信号が検出される場合は、指令信号に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御し、特定信号が検出されない場合は、指令信号に従わずに吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御する。このため、異常を伝達するための通信線を別途設けることなく、バルブ制御装置2が指令送信部の異常を把握することができる。また、ソフトウェアではなく回路によって異常を伝達するため、システムの信頼性を担保しやすい。
【0067】
(2)指令送信部が正常であるときには重畳回路41Cによって通信線に指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域を持つ特定信号が重畳され、指令送信部が異常であるときには通信線に指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域の特定信号が重畳されない。このため、重畳信号検出回路42Cが通信線に含まれる指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域の特定信号を検出しなくなることで指令送信部の異常を容易に検出することができる。
【0068】
(3)指令信号の周波数帯域以外の信号が第2CMNF42Bによって除去されるので、通信線に指令信号の周波数帯域と異なる周波数帯域の特定信号が重畳されていても、通信線に送信された指令信号を取得することができる。
【0069】
(第2実施形態)
以下、
図10~
図15を参照して、制御システムをブレーキ制御システムに具体化した第2実施形態について説明する。この実施形態の制御システムは、第1制御装置の通信部及び第2制御装置の通信部の構成が上記第1実施形態と異なっている。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0070】
図10に示すように、メインECU31は、
図2では省略しているが、CAN通信を行う第1通信部43を備えている。メインECU31及び第1通信部43は、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28の動作指令圧を算出する指令装置3として機能する。同様に、サブECU32は、
図2では省略しているが、CAN通信を行う第2通信部44を備えている。サブECU32及び第2通信部44は、指令装置1と通信線を介して接続され、算出された動作指令圧に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28の動作を制御するバルブ制御装置4として機能する。
【0071】
第1通信部43は、メインECU31から順に、第1CANトランシーバ回路43Aと、通信遮断回路43Bとを備えている。第1CANトランシーバ回路43Aと、通信遮断回路43Bとは、直列に接続されている。
【0072】
第1CANトランシーバ回路43Aは、第1CANトランシーバ回路41Aと同様である。なお、メインECU31及び第1CANトランシーバ回路43Aは、動作指令圧を算出するとともに、動作指令圧を示す指令信号をバルブ制御装置2に送信する指令送信部として機能する。
【0073】
通信遮断回路43Bは、指令送信部が異常時に通信線の電圧を指令送信部が正常であるときとは異なる所定電圧に固定する回路である。すなわち、
図11に示すように、通信遮断回路43Bは、電圧の高い側の通信線を所定電圧、例えば5Vの電源と短絡する回路である。なお、
図12に示すように、通信遮断回路43Cは、電圧の高い側の通信線をグランドに短絡する回路であってもよい。また、
図13に示すように、通信遮断回路43Dは、電圧の高い側の通信線を開放又は接続する回路であってもよい。
【0074】
図10に示すように、通信遮断回路43Bは、指令送信部が正常である場合は、通信線を介して指令信号をバルブ制御装置に送信し、指令信号と異なる特定信号をバルブ制御装置2に送信せず、指令送信部が異常である場合は、通信線を介して特定信号をバルブ制御装置2に送信し、指令信号をバルブ制御装置に送信しない信号送信回路として機能する。すなわち、通信遮断回路43Bは、指令送信部が正常時に電圧の高い側の通信線を所定電圧の電源と接続しないで、指令信号を、通信線を介してバルブ制御装置2に送信する。なお、所定電圧は通常では発生しない電圧である。メインECU31は、自己診断部31Eによる自己診断にて異常がある、又は装置内のセンサが異常を検出すると、異常信号を通信遮断回路43Bに出力する。そして、通信遮断回路43Bは、異常信号を受けると、電圧の高い側の通信線を所定電圧の電源と接続する。よって、通信遮断回路43Bは、メインECU31が通常時には通信線を所定電圧に固定せず、メインECU31が異常時には通信線を所定電圧に固定する。この結果、通信遮断回路43Bは、指令送信部の正常時と指令送信部の異常時とで異なる信号を生成する。
【0075】
第2通信部44は、サブECU32から順に、第2CANトランシーバ回路44Aと、遮断検知回路44Bとを備えている。第2CANトランシーバ回路44Aと、遮断検知回路44Bとは、直列に接続されている。
【0076】
第2CANトランシーバ回路44Aは、CANプロトコルにて通信線に信号を送るとともに、通信線の信号を受ける回路である。遮断検知回路44Bは、通信線の電圧が所定電圧に固定されたことを検知する回路である。
【0077】
遮断検知回路44Bは、指令装置1から通信線を介して受信した信号から特定信号を検出する検出回路として機能する。遮断検知回路44Bは、電圧検出回路44Cを備えている。電圧検出回路44Cは、電圧の高い側の通信線の電圧を検出する回路である。すなわち、電圧検出回路44Cは、所定電圧に固定されたことの有無を判定可能である。電圧検出回路44Cは、所定電圧に固定されていると異常と判定して、サブECU32へ非常指令を出力する。サブECU32は、ドライバ回路32Aを介して圧力制御モジュール20の吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非常動作させる。ここで、非常動作とは、指令信号に関係なく動作することである。例えば、非常動作は、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動してリレーバルブ25から圧縮空気を供給することで車両10を停止させる動作である。なお、非常動作は、車両10を停止させず、所定速度以下に減速させる動作であってもよい。サブECU32は、特定信号が検出されない場合は、受信された指令信号に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御するバルブ制御部として機能する。
【0078】
次に、
図14及び
図15を参照して、指令送信部が正常又は異常であるときの処理の手順について説明する。
図14は、指令送信部が正常であるときの処理の手順である。
図15は、指令送信部が異常であるときの処理の手順である。
【0079】
図14に示すように、指令送信部が正常であるときは、指令装置3は、通信遮断回路を停止する(ステップS61)。すなわち、通信遮断回路43Bは、所定電圧の電源と接続しない。なお、通信遮断回路43Cは、グランドと接続しない。また、通信遮断回路43Dは、接続状態である。よって、指令装置3からバルブ制御装置4には、通常電圧の信号が送信される。
【0080】
そして、バルブ制御装置4は、指令装置3から送信された信号の所定電圧を検出しない(ステップS62)。すなわち、遮断検知回路44Bは、電圧検出回路44Cによって通信線の所定電圧を検出しない。電圧検出回路44Cは、所定電圧を検出しないと、指令送信部が正常であると判定する(ステップS63)。指令送信部が正常であるときは、サブECU32は、メインECU31からの指令に従って圧力制御モジュール20を制御する。
【0081】
図15に示すように、指令装置3は、指令送信部が異常であることを検出すると(ステップS71)、異常信号を通信遮断回路43Bに出力する(ステップS72)。すなわち、メインECU31は、自己診断部31Eによる自己診断にて異常がある、又は装置内のセンサが異常を検出すると、異常信号を通信遮断回路43Bに出力する。指令装置3は、所定電圧に固定する(ステップS73)。すなわち、通信遮断回路43Bは、電圧の高い側の通信線を所定電圧の電源に接続する。なお、通信遮断回路43Cは、電圧の高い側の通信線をグランドに接続する。また、通信遮断回路43Dは、電圧の高い側の通信線を開放する。よって、指令装置3から通信線を介してバルブ制御装置4には、所定電圧に固定された信号が送信される。
【0082】
そして、バルブ制御装置4は、指令装置3から通信線を介して送信された信号の所定電圧を検出する(ステップS74)。すなわち、遮断検知回路44Bの電圧検出回路44Cは、通信線が所定電圧に固定されているので所定電圧を検出する。電圧検出回路42Dは、所定電圧を検出すると、指令送信部が異常であると判定する(ステップS75)。電圧検出回路42Dは、サブECU32に非常指令を出力する(ステップS76)。サブECU32は、メインECU31からの信号の有無に関係なく、ドライバ回路32Aを介して圧力制御モジュール20に非常動作を行わせる(ステップS77)。すなわち、圧力制御モジュール20の吸気用バルブ27は開位置、排気用バルブ28は閉位置となる。よって、空気圧駆動式の命令系統が、ブレーキバルブ13を介する系統から、エアタンク12から直接的に空気が供給される系統に切り替わる。このため、ブレーキバルブ13からの空気圧信号を受信しなくても、ブレーキチャンバー17を動作させてブレーキ力を発生させ、車両10を停止させることができる。
【0083】
次に、第2実施形態の効果について説明する。
(4)指令送信部が正常であるときに指令信号を送信し、特定信号を送信せず、指令送信部が異常であるときに指令信号を送信せず、特定信号を送信する信号送信回路を指令装置3に備え、特定信号を検出する検出回路をバルブ制御装置4に備える。そして、特定信号が検出されない場合は、指令信号に従って吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を制御する。このため、異常を伝達するための通信線を別途設けることなく、バルブ制御装置4が指令送信部の異常を把握することができる。また、ソフトウェアではなく回路によって異常を伝達するため、システムの信頼性を担保しやすい。
【0084】
(5)指令送信部が正常であるときには通信線の電圧が所定電圧に固定されず、指令送信部が異常であるときには通信遮断回路43Bによって通信線の電圧が所定電圧に固定される。このため、電圧検出回路44Cが通信線の電圧が所定電圧に固定されたことを検出することで指令送信部の異常を容易に検出することができる。
【0085】
(6)通信遮断回路43Bは、通信線を電源に短絡することで通信線の電圧を電源の電圧に固定することができる。また、通信遮断回路43Cは、通信線をグランドに短絡することで通信線の電圧をゼロに固定することができる。また、通信遮断回路43Dは、通信線を開放することで通信線の電圧をゼロに固定することができる。このため、基準電圧に応じて通信遮断回路を選定することができる。
【0086】
(他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0087】
・上各記実施形態では、エアタンク12を3つのタンクに分けたが、1つのタンクでもよく、2つ又は4つ以上のタンクであってもよい。また、エアタンク12と空気圧機器との接続関係は適宜変更可能である。例えば圧力制御モジュール20の第1ポートP1は、第3タンク12C以外のタンクに接続されてもよい。
【0088】
・上記各実施形態において、メインECU31は、操作スイッチ51、解除スイッチ52、客席操作スイッチ53から、CAN33等の車載ネットワークを介してオン信号などを受信してもよい。
【0089】
・上記各実施形態において、ドライバー異常時対応システム50は、当該システムの機能をオン/オフできる主スイッチ(図示略)を備えていてもよい。主スイッチに対して所定の操作を行うこと、又は主スイッチを所定の制御装置等により制御することで、例えば操作スイッチ51、解除スイッチ52及び客席操作スイッチ53の操作を無効にすることができる。
【0090】
・上記各実施形態では、空気圧回路22は、吸気用バルブ27及び排気用バルブ28によって空気圧駆動式のリレーバルブ25を駆動した。これに代えて、第1供給路23に電磁弁を設け、この電磁弁により、第1供給路23を開閉してもよい。この場合、サブECU32が動作指令圧に従って第1供給路23に設けた電磁弁を制御する。
【0091】
・上記各実施形態では、空気圧回路22は、空気圧によって空気の供給方向を切り替えるダブルチェックバルブ36を備えた。ダブルチェックバルブ36に代えて、サブECU32によって駆動及び非駆動とされる電磁弁を設けてもよい。操作スイッチ51又は客席操作スイッチ53がオン操作されると、サブECU32は、その電磁弁を駆動(又は非駆動)して、空気の供給方向を切り替える。
【0092】
・上記各実施形態では、操作スイッチ51及び客席操作スイッチ53のオン操作により異常時対応を実行した。これに代えて若しくは加えて、ドライバーの疲労状態又は健康状態を検知する生体検知装置を用いてもよい。生体検知装置は、ドライバーの顔や頭部の位置、姿勢、瞼、視線等の目の状態、脈拍数、心拍数、体温等、1又は複数のパラメータを用いてドライバーの運転状態を検知する。この態様においては、生体検知装置がドライバーの異常を検知した場合に停止信号を送信する。或いは、車両に搭載されたECUが、車速、アクセルペダルやブレーキペダルの操作の有無等の車両状態と道路情報とを比較して、運転の異常を検知した場合には停止信号を送信してもよい。
【0093】
・上記各実施形態では、ブレーキ制御装置は、ブレーキの命令系統を空気圧回路とする使用過程車両10に後付けされるものとして説明したが、EBSを搭載した車両に後付けされてもよい。また、後付けではなく、ドライバー異常時対応システムが予め搭載された車両でもよい。
【0094】
・上記各実施形態では、ドライバー異常時対応システムは、バス等の車両10に搭載されるものとして説明した。車両は、バスの他、トラック、建機等でもよい。また、これ以外の態様として、ドライバー異常時対応システムは、乗用車、鉄道車両等、他の車両に搭載されてもよい。
【0095】
・上記各実施形態では、フルエアブレーキの車両10に、ドライバー異常時対応システムを適用した。これに限らず、ドライバー異常時対応システムは、その他の形式のブレーキシステムを有する車両にも適用可能である。圧力制御モジュールをエアオーバーハイドロリック式のブレーキ機構を有する車両に適用することができる。このブレーキ機構は、圧力制御モジュールを、ABSコントロールバルブを介して複数のブレーキブースターに接続する。ブレーキブースターは、前輪用、後方左側の車輪用、後方右側の車輪用のブースターであり、空気圧を利用して液圧回路の液圧を高めることによって車輪に制動力を発生させる。また、圧力制御モジュールを前輪用のブレーキブースターと、後輪用のブレーキブースターと、液圧回路に設けられたABSコントロールバルブとを備えたブレーキ機構に適用してもよい。
【0096】
・上記各実施形態では、空気圧回路でブレーキ機構を制御する車両に適用した。しかしながら、油圧回路でブレーキ機構を制御する新車又は使用過程車両においてもドライバーの異常は発生し得るため、同様な課題が存在する。このため、上記各実施形態の圧力制御モジュール20を、ブレーキ機構への命令系統を油圧で行う車両に適用してもよい。油圧回路においても圧力制御モジュール20は上記実施形態と同様に作動する。この態様において、制御対象となるブレーキ機構は、ブレーキチャンバー以外の機構でもよい。なお、油圧回路及び空気圧回路は、流体の圧力によって駆動する回路としての一例である。
【0097】
・上記各実施形態では、メインECU31に自己診断部31Eを備えたが、メインECU31及び第1通信部41,43の外部に自己診断装置60を設けてもよい。第1実施形態において、自己診断装置60は、メインECU31、第1CANトランシーバ回路41A、第1CMNF41B、及び重畳回路41Cの少なくとも1つが異常であるか否かを診断する。第2実施形態において、自己診断装置60は、メインECU31、第1CANトランシーバ回路43A、及び通信遮断回路43Bの少なくとも1つが異常であるか否かを診断する。
【0098】
・上記第1実施形態において、バルブ制御部が正常である場合は、通信線を介してバルブの状態を示す状態信号を指令装置1に送信するとともに状態信号と異なる特定信号を指令装置1に送信し、バルブ制御部が異常である場合は、通信線を介して状態信号を指令装置1に送信し、特定信号を指令装置1に送信しない重畳回路(第2信号送信回路)を第2通信部42に設けるとともに、バルブ制御装置2から通信線を介して受信した信号から状態信号と異なる特定信号を検出する重畳信号検出回路(第1検出回路)を第1通信部41に設ける。そして、指令装置1とバルブ制御装置2との双方向で異常を把握することができるようにしてもよい。この場合、バルブ制御装置2は、バルブの状態を示す状態信号を送信するとともに、状態信号と異なる特定信号を送信する。サブECU32に自己診断部を備えるか、サブECU32の外部に自己診断装置を設けて、異常があるか否かを診断する。なお、指令装置1の信号送信回路を第1信号送信回路とし、バルブ制御装置2の検出回路を第2検出回路とする。
【0099】
・上記第2実施形態において、バルブ制御部が正常である場合は、通信線を介してバルブの状態を示す状態信号を指令装置1に送信し、状態信号と異なる特定信号を指令装置3に送信せず、バルブ制御部が異常である場合は、通信線を介して状態信号と異なる特定信号をバルブ制御装置4に送信し、指令信号をバルブ制御装置4に送信しない通信遮断回路(第2信号送信回路)を第2通信部44に設けるとともに、第1通信部43に遮断検知回路(第1検出回路)を設ける。そして、指令装置3とバルブ制御装置4との双方向で異常を把握することができるようにしてもよい。この場合、バルブ制御装置4は、バルブの状態を示す状態信号を送信するとともに、状態信号と異なる特定信号を送信する。サブECU32に自己診断部を備えるか、サブECU32の外部に自己診断装置を設けて、異常があるか否かを診断する。なお、指令装置3の信号送信回路を第1信号送信回路とし、バルブ制御装置4の検出回路を第2検出回路とする。
【0100】
・上記第1実施形態において、3個以上の制御装置同士において、各制御装置に重畳回路及び重畳信号検出回路を設けて、各重畳回路において重畳される信号の周波数を異ならせることで、いずれの制御装置が異常であるかを判別してもよい。
【0101】
・上記第2実施形態において、3個以上の制御装置同士において、各制御装置に通信遮断回路及び遮断検知回路を設けて、各通信遮断回路において固定される電圧を異ならせることで、いずれの制御装置が異常であるかを判別してもよい。
【0102】
・上記各実施形態では、指令装置とバルブ制御装置とを1対1とした、指令装置が1つあり、バルブ制御装置が複数あってもよい。この場合には、指令装置に重畳回路が設けられ、各バルブ制御装置に重畳信号検出回路が設けられ、指令装置に異常があったときに各バルブ制御装置が非常動作を行う。また、指令装置に通信遮断回路が設けられ、各バルブ制御装置に遮断検知回路が設けられ、指令装置に異常があったときに各バルブ制御装置が非常動作を行う。
【0103】
・上記第1実施形態では、重畳回路は、指令送信部が正常であるときに重畳信号を重畳し、指令送信部が異常であるときに重畳信号の重畳を停止した。しかしながら、重畳回路は、指令送信部が正常であるときに重畳信号の重畳を停止し、指令送信部が異常であるときに重畳信号を重畳させてもよい。また、このようにした場合には、重畳させる信号の周波数を変更することで、異常の種類を判別可能としてもよい。
【0104】
・上記第1実施形態において、第1CMNF41B及び第2CMNF42Bを省略してもよい。
・上記各実施形態において、通信プロトコルによっては第1CANトランシーバ回路41A(43A)及び第2CANトランシーバ回路42A(44A)を省略してもよい。
【0105】
・上記第1実施形態では、重畳信号の有無によって正常と異常の判定を行った後に、非常動作を行った。しかしながら、正常と異常との判定を省略して、重畳信号の有無によって非常動作を行ってもよい。
【0106】
・上記各実施形態では、サブECU32がドライバ回路32Aを介して吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非常動作させた。しかしながら、検出回路がドライバ回路32Aに直接出力して吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を非常動作させてもよい。
【0107】
・上記各実施形態では、サブECU32の外部に吸気用バルブ27及び排気用バルブ28を駆動するドライバ回路32Aを設けたが、サブECU32の内部にドライバ回路32Aを備えてもよい。
【0108】
・上記各実施形態において、車載ネットワークは、CAN33以外に、FlexRay(登録商標)、Ethernet(登録商標)等のネットワークを用いてもよい。このような場合にも、通信線に重畳信号を重畳させるか、所定電圧に固定することで異常を検知可能とする。
【0109】
・上記各実施形態では、車両のドライバー異常時対応システムに用いられる制御システムに本発明を適用した。しかしながら、鉄道車両のブレーキ装置を制御する制御システムや、鉄道車両のドアを制御する制御システムや、建機等の油圧ポンプを制御する制御システムや、ホームドア装置を制御する制御システム等に本発明を適用してもよい。
【0110】
・上記各実施形態において、複数の物体で構成されているものは、当該複数の物体を一体化してもよく、逆に一つの物体で構成されているものを複数の物体に分けることができる。一体化されているか否かにかかわらず、発明の目的を達成することができるように構成されていればよい。
【0111】
・上記各実施形態において、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けても良く、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成することができるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0112】
1 指令装置
2 バルブ制御装置
3 指令装置
4 バルブ制御装置
10 車両
11 空気圧ブレーキシステム
12 エアタンク
13 ブレーキバルブ
13A 前方圧力室
13B 後方圧力室
13C ブレーキペダル
14A プロテクションバルブ
14B エアホーン装置
15 リレーバルブ
16 ABSコントロールバルブ
17 ブレーキチャンバー
18 空気配管
20 圧力制御モジュール
21 ケース
21A ポート接続部
21D 突出部
22 空気圧回路
23 第1供給路
24A 前方信号供給路
24B 後方信号供給路
25 リレーバルブ
25A 排出口
25B パイロットポート
26 分岐路
27 吸気用バルブ
27A 配線
28 排気用バルブ
28A 配線
29 信号供給路
30 第3供給路
31 メインECU
31E 自己診断部
32 サブECU
32A ドライバ回路
33 CAN
35 第1圧力センサ
37 前方空気供給路
38 前方空気供給路
39 第2圧力センサ
41 第1通信部
41A 第1CANトランシーバ回路
41B 第1CMNF
41C 重畳回路
42 第2通信部
42A 第2CANトランシーバ回路
42B 第2CMNF
42C 重畳信号検出回路
42D 電圧検出回路
43 第1通信部
43A 第1CANトランシーバ回路
43B,43C,43D 通信遮断回路
44 第2通信部
44A 第2CANトランシーバ回路
44B 遮断検知回路
44C 電圧検出回路
50 ドライバー異常時対応システム
51 操作スイッチ
52 解除スイッチ
53 客席操作スイッチ
55 速度センサ
56 車室内装置
57 車室外装置
58 排出部
60 自己診断装置