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特開2022-121074さつま揚げ保存用混合ガス、さつま揚げの保存方法およびさつま揚げ入り包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121074
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】さつま揚げ保存用混合ガス、さつま揚げの保存方法およびさつま揚げ入り包装体
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20220812BHJP
   B65D 85/50 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
A23L17/00 101F
B65D85/50 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018230
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000141509
【氏名又は名称】株式会社紀文食品
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正明
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 俊隆
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿美
(72)【発明者】
【氏名】門倉 一成
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋平
(72)【発明者】
【氏名】駿河 康平
【テーマコード(参考)】
3E035
4B034
【Fターム(参考)】
3E035AA20
3E035AB01
3E035BA01
3E035BA02
3E035BA05
3E035BA06
3E035BA08
3E035BC02
3E035BD02
3E035DA02
4B034LB05
4B034LC01
4B034LE17
4B034LK04
4B034LK26
4B034LP18
(57)【要約】
【課題】さつま揚げの賞味期間をより長くできる、さつま揚げ保存用ガスを提供すること。
【解決手段】5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる、さつま揚げ保存用混合ガス。このさつま揚げ保存用混合ガスは、例えばさつま揚げを置換包装する際の封入ガスとして用いることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる、さつま揚げ保存用混合ガス。
【請求項2】
二酸化炭素の濃度が0.01容量%以上、0.04容量%未満である、請求項1に記載のさつま揚げ保存用混合ガス。
【請求項3】
好気性菌および嫌気性菌の増殖を抑制するために用いられる、請求項1または2に記載のさつま揚げ保存用混合ガス。
【請求項4】
5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる混合ガス中でさつま揚げを保存する、さつま揚げの保存方法。
【請求項5】
前記混合ガスが、二酸化炭素の濃度が0.01容量%以上、0.04容量%未満である、請求項4に記載のさつま揚げの保存方法。
【請求項6】
前記混合ガスが充填された密閉空間内で前記さつま揚げを保存する、請求項4または5に記載のさつま揚げの保存方法。
【請求項7】
前記密閉空間が容器の内部空間である、請求項6に記載のさつま揚げの保存方法。
【請求項8】
前記密閉空間内の残存酸素濃度を指標にしてさつま揚げの賞味期間を設定する、請求項6または7に記載のさつま揚げの保存方法。
【請求項9】
前記賞味期間満了時の前記密閉空間内の残存酸素濃度が1容量%以上である、請求項8に記載のさつま揚げの保存方法。
【請求項10】
前記賞味期間満了時の前記密閉空間内の残存酸素濃度が1~5容量%である、請求項9に記載のさつま揚げの保存方法。
【請求項11】
さつま揚げを収容する収容空間を有する容器を有し、
前記収容空間にさつま揚げを収容するとともに、5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる混合ガスを充填して前記容器を密封した、さつま揚げ入り包装体。
【請求項12】
前記混合ガスが、二酸化炭素の濃度が0.01容量%以上、0.04容量%未満である、請求項11に記載のさつま揚げ入り包装体。
【請求項13】
前記さつま揚げが野菜入りさつま揚げである、請求項11または12に記載のさつま揚げ入り包装体。
【請求項14】
前記さつま揚げが静菌剤を含有する、請求項11~13いずれか1項に記載のさつま揚げ入り包装体。
【請求項15】
前記収容空間のうち、前記さつま揚げが占有する空間の割合が20~70%である、請求項11~14のいずれか1項に記載のさつま揚げ入り包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、さつま揚げのガス置換包装の封入ガスとして有用なさつま揚げ保存用混合ガス、その混合ガスを用いたさつま揚げの保存方法およびさつま揚げ入り包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の保存期間を延長する技術として、ガス置換包装(MAP:Modified Atmosphere Packaging)が知られている。ガス置換包装とは、包装容器内の空気を対象食品の保存に適した精製されたガス(保存用ガス)に置換して、食品を包装する方法である。ガス置換包装によれば、通常の大気包装に比べて食品の賞味期間を大幅に延長することができるため、世界的に問題視されている食品廃棄ロスの削減を図れることの他、遠方への販路拡大や生産計画の改善にも資することから、様々な食品メーカーでガス置換包装が導入されるようになっている。ここで、ガス置換包装を用いて、食品の品質劣化を効果的に遅らせるには、保存対象となる食品の種類や物性、初発菌数等の諸条件を踏まえ、その食品に適合した保存用ガスを選択することが重要になる。こうしたことから、食品添加物として認められている、窒素、二酸化炭素、酸素などの単体ガスおよび混合ガスについて、食品の品質保持に寄与する作用、その作用が発現する組成範囲、食品との組み合わせが詳細に検討されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、二酸化炭素が制菌効果により菌類の繁殖を抑制し、酸素が食肉等の色味やカット野菜の鮮度を保持する効果を示すことが記載されている。
非特許文献2には、蒲鉾や魚介類、惣菜などの各種食品に対して、二酸化炭素と窒素の混合ガスが微生物の増殖を抑制し、その食品の酸化を防止する効果を示すことが記載されている。
また、特許文献1には、窒素と二酸化炭素と酸素の混合ガスを包装容器内に封入した麻婆豆腐の置換包装において、酸素濃度が7容量%である場合、二酸化炭素濃度を20容量%以上にしないと、菌増殖抑制効果が大幅に低下することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「食品と開発」 2018年, Vol.53, No.8, p.12-15
【非特許文献2】「月刊フードケミカル」 2019年, 8月号, p.3-6
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-116159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、非特許文献2には、二酸化炭素と窒素の混合ガスが、蒲鉾における微生物増殖を抑制する効果を示すことが記載されている。しかし、本発明者らが、練り製品である点で蒲鉾と共通するさつま揚げを、包装容器内に収容して二酸化炭素と窒素の混合ガスを封入し、保存したところ、2週間を経過した時点で各種細菌の増殖が見られ、十分満足が行く賞味期間を確保できないことが判明した。
そこで、本発明者らが、保存対象をさつま揚げに絞り、保存中の微生物増殖を効果的に抑制する混合ガスを見出すべく、二酸化炭素と窒素の混合ガスに他のガスを追加し、組成比を様々に変えて微生物の増殖抑制作用を評価する実験を行った。その結果、二酸化炭素と窒素に加えて、酸素を混合した混合ガスが、微生物の増殖抑制に高い効果を示すことを見出した。さらに、この混合ガスの二酸化炭素濃度を低くしていくと、二酸化炭素濃度を20容量%とした場合よりも、微生物の増殖が抑制されるようになることも見出した。上記のように、特許文献1には、酸素と二酸化炭素と窒素の混合ガスが細菌増殖抑制作用を発現するには、20容量%以上の二酸化炭素濃度が必要であることが示されている。そのため、二酸化炭素濃度を低くすることで、細菌の増殖がより抑制されるようになることは意外な発見であった。
【0007】
このような状況下において本発明者らは、さつま揚げの賞味期間をより長くできる保存用ガスを見出すことを目指してさらに研究を重ねた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、酸素と二酸化炭素と窒素からなる混合ガスを、酸素濃度を5~10容量%、二酸化炭素濃度を0.01~5容量%の低濃度としてさつま揚げと封入することにより、各種細菌の増殖が顕著に抑制されることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0009】
[1] 5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる、さつま揚げ保存用混合ガス。
[2] 二酸化炭素の濃度が0.01容量%以上、0.04容量%未満である、[1]に記載のさつま揚げ保存用混合ガス。
[3] 好気性菌および嫌気性菌の増殖を抑制するために用いられる、[1]または[2]に記載のさつま揚げ保存用混合ガス。
[4] 5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる混合ガス中でさつま揚げを保存する、さつま揚げの保存方法。
[5] 前記混合ガスが、二酸化炭素の濃度が0.01容量%以上、0.04容量%未満である、[4]に記載のさつま揚げの保存方法。
[6] 前記混合ガスが充填された密閉空間内で前記さつま揚げを保存する、[4]または[5]に記載のさつま揚げの保存方法。
[7] 前記密閉空間が容器の内部空間である、[6]に記載のさつま揚げの保存方法。
[8] 前記密閉空間内の残存酸素濃度を指標にしてさつま揚げの賞味期間を設定する、[6]または[7]に記載のさつま揚げの保存方法。
[9] 前記賞味期間満了時の前記密閉空間内の残存酸素濃度が1容量%以上である、[8]に記載のさつま揚げの保存方法。
[10] 前記賞味期間満了時の前記密閉空間内の残存酸素濃度が1~5容量%である、[9]に記載のさつま揚げの保存方法。
[11] さつま揚げを収容する収容空間を有する容器を有し、
前記収容空間にさつま揚げを収容するとともに、5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる混合ガスを充填して前記容器を密封した、さつま揚げ入り包装体。
[12] 前記混合ガスが、二酸化炭素の濃度が0.01容量%以上、0.04容量%未満である、[11]に記載のさつま揚げ入り包装体。
[13] 前記さつま揚げが野菜入りさつま揚げである、[11]または[12]に記載のさつま揚げ入り包装体。
[14] 前記さつま揚げが静菌剤を含有する、[11]~[13]いずれか1項に記載のさつま揚げ入り包装体。
[15] 前記収容空間のうち、前記さつま揚げが占有する空間の割合が20~70%である、[11]~[14]のいずれか1項に記載のさつま揚げ入り包装体。
【発明の効果】
【0010】
本発明のさつま揚げ保存用混合ガス中でさつま揚げを保存することにより、さつま揚げの品質劣化を効果的に遅らせることができる。本発明のさつま揚げ保存用混合ガスを包装容器に充填したさつま揚げ入り包装体は、さつま揚げの品質が長期間保持されるため、長い賞味期間を設定しうる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
[さつま揚げ保存用混合ガス]
本発明のさつま揚げ保存用混合ガスは、5~10容量%の酸素(O)、0.01~5容量%の二酸化炭素(CO)を含み、残部が窒素(N)からなる混合ガスである。「残部が窒素(N)からなる」とは、100容量%から酸素濃度と二酸化炭素濃度を引いた濃度が窒素濃度であることを意味する。ただし、本発明のさつま揚げ保存用混合ガスは、不可避的に混入する不純物ガスが含まれていてもよい。ここで、「不可避的に混入する不純物ガス」とは、その濃度が1容量%以下のガスのことをいう。また、以下の説明では、「さつま揚げ保存用混合ガス」を、単に「保存用混合ガス」ということがある。
本発明の保存用混合ガスの調製方法は特に制限されないが、例えば大気を濾過して無菌状態とした精製ガスを窒素ガスに混合して、酸素濃度および二酸化炭素濃度が所定濃度となるように調整する方法や、この精製ガスから酸素、二酸化炭素および窒素を分離して得た各単体ガスを、酸素濃度および二酸化炭素濃度が所定濃度となるように混合する方法により調製することができる。ここで、大気の濾過は、滅菌フィルターを用いて行うことができる。混合ガスの組成比は、市販のガス分析計(例えば、商品名「Check Mate3」PBI Dansensor社製)により測定することができる。
【0013】
本発明の保存用混合ガスが適用される食品は「さつま揚げ」である。「さつま揚げ」とは、魚のすり身を含む材料を成形し、油で揚げた食品である。さつま揚げの材料は、魚のすり身のみであってもよいし、その他の食材や調味料、卵白、でんぷんなどのつなぎを含んでいてもよい。その他の食材として、玉ねぎ、キャベツ、にんじん、ごぼう、レンコン、じゃがいも、枝豆などの野菜類、タコ、イカ、つぶ貝などの魚介類が挙げられる。また、さつま揚げは、上記の材料の他に、静菌剤やpH調整剤などの食品添加物が添加されていてもよい。静菌剤の説明と具体例については、[さつま揚げの保存方法]の欄の記載を参照することができる。さつま揚げの体積および重量は特に制限されないが、通常45~50g/個、41~57cm/個である。
【0014】
上記のように、さつま揚げは多種類の食材を含むことがあり、また、油で揚げられていることから、蒲鉾とは物性や細菌増殖の状況が異なると考えられる。そのため、蒲鉾の保存に使用される二酸化炭素と窒素の混合ガスを、そのままさつま揚げに転用しても細菌増殖などの品質劣化を十分に遅らせることができない。これに対して、本発明の保存用混合ガス中でさつま揚げを保存すると、所定の濃度で含まれる酸素と二酸化炭素と窒素の作用が相俟って、さつま揚げの品質を劣化させる各種微生物の増殖が効果的に抑制されると考えられる。これにより、さつま揚げの品質が長期間保持され、賞味期間を大幅に延長することができる。その結果、世界的に問題視されている食品廃棄ロスの削減にも大いに貢献することができる。また、本発明のさつま揚げ保存用混合ガスは、各種微生物の増殖を効果的に抑制する作用を示すため、さつま揚げのための微生物増殖抑制用の混合ガスとしても有用である。ここで、本発明の保存用混合ガスが増殖抑制作用を示す細菌は、好気性菌および嫌気性菌の両方である。好気性菌として、黄色ブドウ球菌等のブドウ球菌属細菌、セレウス菌等のバシラス属細菌などを挙げることができる。また、本発明の保存用混合ガスはクロストリジウム属細菌などの偏性嫌気性芽胞菌、大腸菌群に対しても増殖抑制作用を発揮する。
【0015】
本発明の保存用混合ガスにおいて、酸素濃度は、好ましくは5~10容量%、より好ましくは6~10容量%、さらに好ましくは6~8容量%である。
また、本発明の保存用混合ガスにおいて、二酸化炭素濃度は、酸素濃度よりも低いことが好ましい。保存用混合ガスの二酸化炭素濃度は、より好ましくは0.01~5容量%、さらに好ましくは0.01~1容量%、特に好ましくは0.01容量%以上、0.04容量%未満である。
酸素濃度および二酸化炭素濃度が上記の範囲であることにより、より高い微生物増殖抑制作用を得ることができる。
【0016】
[さつま揚げの保存方法]
本発明のさつま揚げの保存方法は、5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる混合ガス中でさつま揚げを保存する、さつま揚げの保存方法である。
さつま揚げおよび混合ガスの説明については、上記の[さつま揚げ保存用混合ガス]の欄の記載を参照することができる。
本発明の保存方法で保存するさつま揚げは、油で揚げた直後のさつま揚げであってもよいし、油で揚げた後、中心温度-3~10℃まで冷却したさつま揚げであってもよいが、油で揚げてから 30分以内のものであることが好ましい。以下の説明では、さつま揚げが「油で揚げてから30分以内」であることを「調理して直ぐ」ということがある。
【0017】
混合ガス中でさつま揚げを保存する態様として、混合ガスが充填された密閉空間内でさつま揚げを保存する態様が挙げられる。ここで、以下の説明では、密閉空間のうち、さつま揚げが占有する空間を「さつま揚げ占有領域」といい、さつま揚げ占有領域以外の空間を「空き領域」ということがある。密閉空間に収容するさつま揚げの数は、1つであっても2つ以上であってもよい。密閉空間の容積は、さつま揚げを収容したときに、空き領域が生じる体積であればよく、さつま揚げの大きさや数に応じて適宜選択することができる。さつま揚げを収容する密閉空間の容積は、通常は200~350cm程度が適当である。
【0018】
密閉空間のうち、さつま揚げ占有領域の割合(さつま揚げ占有率)は10~80%であることが好ましく、15~75%であることがより好ましく、20~70%であることがさらに好ましい。なお、密閉空間内に2つ以上のさつま揚げを収容する場合、さつま揚げ占有領域は、各さつま揚げが占有する領域を合わせた全体の領域であることとし、さつま揚げ占有率は、各さつま揚げが占有する領域を合わせた合計体積の密閉空間の全体積に対する割合であることとする。さつま揚げ占有率を上記範囲とすることにより、さつま揚げの食味や風味を損なうことなく、混合ガスがその作用を十分に発揮して、さつま揚げの品質劣化を効果的に遅らせることができる。
【0019】
密閉空間のうち、さつま揚げが占有する空間以外の空間(空き領域)は、混合ガスで満たされていることが好ましい。なお、密閉空間には、混合ガスの成分(酸素、二酸化炭素、窒素)の他に、微量ガスを存在させてもよい。密閉空間内に存在させてもよい微量ガスの例として、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスが挙げられる。ただし、微量ガスの割合は、混合ガスに対して1容量%以下であることが好ましい。
【0020】
密閉空間の具体例として、密封された包装容器の内部空間(収容空間)が挙げられる。包装容器の説明と具体例については、下記の[さつま揚げ入り包装体]の欄の記載を参照することができる。
【0021】
密閉空間内にさつま揚げと混合ガスを収容する方法として、収容空間に食品を入れた状態で該収容空間に元々存在するガス(例えば空気)を混合ガスで置換して密封する、ガス置換包装技術を用いることができる。ガス置換包装では、例えば(A)さつま揚げを収容した包装容器の収容空間に、混合ガスをフラッシュして該収容空間のガスと置換するガスフラッシュ置換法、(B)さつま揚げを収容した包装容器をチャンバー内に搬入して真空脱気した後、チャンバー内に混合ガスを導入して収容空間に充填するチャンバー置換法、または(C)さつま揚げを収容した包装容器内にノズルを入れて脱気した後、ノズルから混合ガスを導入するノズル置換法などのガス置換法により、収容空間内のガスを混合ガスで置換した後、包装容器を密封する。包装容器の密封には、ヒートシール等の公知の接着方法を用いることができる。また、包装容器が開放面を有する場合には、その開放面に蓋フィルムを被せて包装容器に接着することにより、容器を密封することができる。こうしたガス置換包装を自動で行えるガス置換包装機として、ムルチバック社製のトレーシーラー(トレーシーラーT700もしくはT800)を挙げることができる。
【0022】
混合ガス中でさつま揚げを保存する際、その保存環境の温度は、-10~10℃であることが好ましく、-5~10℃であることがより好ましく、チルド温度帯(0~10℃)であることがさらに好ましい。これにより、さつま揚げの品質を保持し易くなる。保存環境の温度は、保存している間一定であることが好ましいが、±2℃の範囲で変動しても構わない。
混合ガス中でのさつま揚げの保存期間は、さつま揚げの材料や調理条件、保存環境の温度によっても異なるが、例えば保存環境の温度をチルド温度帯とし、調理して直ぐにガス置換包装を行って保存を開始した場合、14~22日間に保存期間(賞味期間)を設定することができる。
【0023】
なお、混合ガス中でさつま揚げを保存すると、経時的に混合ガスの組成比が変化することがある。具体的には、日数経過とともに酸素濃度は低下し、二酸化炭素濃度は僅かであるが徐々に上昇する傾向があり、さらに残存酸素濃度が1容量%未満になると、微生物増殖抑制作用が十分に働かなくなる場合がある。そのため、本発明のさつま揚げの保存方法では、密閉空間の残存酸素濃度(密閉空間に残存するガス全量に対する酸素の割合)を指標に保存期間(賞味期間)や賞味期限日を設定することが好ましい。具体的には、保存期間満了時での残存酸素濃度が1容量%以上となるように賞味期限日(保存期間満了日)を設定することが好ましく、保存期間満了時での残存酸素濃度が1~5容量%となるように賞味期限日(保存期間満了日)を設定することがより好ましい。密閉空間の残存酸素濃度は、市販のガス分析計(例えば、商品名「Check Mate3」PBI Dansensor社製)により測定することができる。
【0024】
また、より賞味期間を延長するため、本発明の保存方法で保存するさつま揚げには、静菌剤やpH調整剤などの食品添加物を添加してもよい。静菌剤として、有機酸塩やグリシン等のアミノ酸を挙げることができる。静菌剤となる有機酸塩として、例えば、酢酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸、リンゴ酸等の有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等を挙げることができる。これらの静菌剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
さつま揚げにおける有機酸塩の添加量は、さつま揚げの全質量に対して、好ましくは0.1~2質量%、より好ましくは0.1~1質量%、さらに好ましくは0.5~1質量%である。静菌剤を上記の添加量で添加することにより、さつま揚げ本来の食味や風味を損なうことなく、その静菌効果を十分に発揮させることができる。例えば、静菌剤として有機酸塩を0.5~1質量%添加したさつま揚げを、調理して直ぐに混合ガスで置換包装し、チルド温度帯(0~10℃)で保存・管理した場合、製造日から14日以上22日以下の賞味期限を設定することができる。この賞味期間は、通常の大気包装を施したさつま揚げの賞味期間の1.5~2.3倍程度の長さに相当する。
なお、さつま揚げに静菌剤を添加する場合、その添加時期は特に制限されず、油で揚げる前の材料に静菌剤を添加しておいてもよく、油で揚げた後の製品に静菌剤を添加してもよい。
【0025】
[さつま揚げ入り包装体]
本発明のさつま揚げ入り包装体は、さつま揚げを収容する収容空間を有する容器を有し、収容空間にさつま揚げを収容するとともに、5~10容量%の酸素、0.01~5容量%の二酸化炭素、および窒素からなる混合ガスを充填して容器を密封してなる包装体である。
さつま揚げおよび混合ガスの説明については、上記の[さつま揚げ保存用混合ガス]の欄の記載を参照することができ、さつま揚げに添加してもよい添加剤の説明については、上記の[さつま揚げの保存方法]の欄の記載を参照することができる。
【0026】
本発明のさつま揚げ入り包装体を構成する容器には、食品のガス置換包装に通常使用される包装容器、すなわちガスバリア性を有する樹脂や金属等で形成された包装容器を用いることができる。包装容器の材料の例として、ポリビニルアルコール(PVA)、ナイロン(NY)等のポリアミド系樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)などの樹脂素材、アルミラミネート(AL)、アルミ蒸着フィルム(VM)等の金属類を用いたフィルム、シリカ蒸着フィルム、PET/NY/ ポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)、PET/NY/AL/PP又はPE、PP/EVOH/PE、PP/PVA/PE等の多層積層フィルムを挙げることができる。
【0027】
包装容器は、保存対象となるさつま揚げと混合ガスを収容するに足る収容空間を有していればよく、その形状、寸法は特に制限されない。収容空間の容積は、通常は200~350cm程度が適当である。収容空間のさつま揚げ占有率の好ましい範囲については、上記の[さつま揚げ保存方法]の欄に記載した密閉空間のさつま揚げ占有率の好ましい範囲を参照することができる。
包装容器の形態として、例えばトレー状、カップ状、袋状、箱状、缶状等を挙げることができ、さつま揚げを収容し易いことからトレー状であることが好ましい。トレー状の包装容器として、底部と、底部の周囲から立ち上がって側面を構成する立ち上がり壁と、立ち上がり壁の上部から張り出したフランジ部が一体的に形成された容器が挙げられる。この容器の平面視形状は特に限定されず、略正方形状、略長方形状、円状、楕円状、長円状等のいずれであってもよい。ここで、容器の底部の内側面(底面)には、複数のリブが形成されていることが好ましい。これにより、底面にさつま揚げを載せたとき、さつま揚げの裏面とリブ溝の間に隙間が形成され、さつま揚げの裏面にも混合ガスを行き渡らせることができる。こうしたトレー状の包装容器は、開放面を蓋フィルムで覆い、フランジ部と蓋フィルムをヒートシール等の公知のシール方法で接着することにより密封することができる。蓋フィルムには、包装容器の材料として例示したガスバリア性樹脂のフィルムを用いることができる。
【0028】
さつま揚げは、包装容器の収容空間に直接収容してもよく、包装容器の底面にシートを敷き、そのシートの上に載せるというように、包装容器の収容空間に間接的に収容してもよい。
【実施例0029】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0030】
本実施例では、野菜入りさつま揚げ(体積:49cm、重量:45g/個)を保存対象に用いて、混合ガスの細菌増殖抑制作用を評価した。この野菜入りさつま揚げは、魚のすり身、野菜(キャベツ、玉ねぎ、にんじん、ごぼう)、卵白、でんぷん、砂糖、食塩、大豆たんぱく、静菌剤(有機酸塩)を混ぜ合わせた材料を油で揚げたものである。静菌剤の添加量は、さつま揚げの全質量に対して0.85質量%である。
微生物試験は、以下の方法で「公定法」または「食品食品衛生検査指針微生物編」または「衛生試験法・注解 2010」に従い実施した。
検体をあらかじめ滅菌した器具を用いてストマッカー袋に無菌的に採取し、9倍量の希釈液を加え、均質化したものを試料液とした。試料液は必要に応じて希釈液で10倍段階希釈することにより、希釈試料液を調整した。その後、ペトリ皿や嫌気性パウチに試料液と寒天培地を混合し固める、液体培地に試料液と摂取する、またはあらかじめ平板として固めた培地表面に試料液0.1mlを滴下し、コンラージ棒で平板全面に塗抹するなどし、それぞれ定められた温度、時間で培養した。培養後、菌数は平板の集落数に希釈倍率を乗じ測定し、定性試験においては陰性、陽性の判定を行った。
検査方法は以下の通りである。
一般生菌数:標準寒天培地混釈培養法
大腸菌群:BGLB発酵管法
黄色ブドウ球菌:卵黄加マンニット食塩寒天平板塗抹法
セレウス菌:卵黄加NGKG寒天平板塗抹法
嫌気性菌:GAM寒天培地混釈培養法
クロストリジウム属菌(嫌気性芽胞形成菌):クロストリジウム培地嫌気培養法
【0031】
(1)細菌増殖抑制作用の評価
調理して直ぐの野菜入りさつま揚げ4個を、室温(25℃)の大気下でトレー状の包装容器(バリアPSP製、収容空間の容積:208cm)に入れ、チャンバー置換法によるトレーシーラー(ムルチバック社製:トレーシーラーT700もしくはT800)を用いて、収容空間内の空気を混合ガスで置換するとともに、蓋フィルム(NY/EVOH/NY/PE製、厚さ:22μm)を被せて包装容器を密封し、さつま揚げ入り包装体(包装体1~3、比較包装体1~3)とした。包装容器に封入した混合ガスの組成を表1に示す。混合ガスには、大気を濾過して無菌状態にした精製ガスを窒素ガスに混合し、酸素濃度および二酸化炭素濃度を調整したものを使用した。
作製した各包装体を10℃で15日間保管した後、微生物試験を行い、各混合ガスの細菌増殖抑制作用を評価した。その結果を表1に示す。表1中、「-」は当該細菌が陰性であることを示し、「+」は当該細菌が陽性であることを示す。
【0032】
【表1】
【0033】
表1に示すように、酸素を含まず、二酸化炭素濃度が20容量%である混合ガスを用いた比較包装体1では、嫌気性菌およびクロストリジウム属菌(嫌気性芽胞形成菌)の増殖が認められた。また、混合ガスの酸素濃度が1容量%または3容量%、二酸化炭素濃度が0.03容量%の比較包装体2、3では、クロストリジウム属菌の増殖は抑えられるものの、嫌気性菌の増殖が認められた。これに対して、混合ガスの酸素濃度が5~10容量%、二酸化炭素濃度が0.01~5容量%の範囲にある包装体1~3では、好気性菌、嫌気性菌および偏性嫌気性芽胞菌の全ての増殖が抑えられていた。このことから、酸素濃度が5~10容量%、二酸化炭素濃度が0.01~5容量%、残部が窒素である混合ガスをさつま揚げの保存用ガスに用いることにより、微生物の増殖が効果的に抑えられ、さつま揚げの保存性が大幅に改善されることが確認された。
また、包装体1~3について、保管期間満了日に、収容空間に残存するガスの組成を測定したところ、残存酸素濃度が1~5容量%、残存二酸化炭素濃度が2~4%であった。保管期間満了日に酸素がある程度残存していたことから、保管している間中、微生物増殖抑制作用が働いていたものと考えられる。なお、二酸化炭素濃度が初期の濃度よりも上昇しているのは、さつま揚げや包装容器内にわずかに残った微生物の呼吸作用によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のさつま揚げ保存用混合ガスによれば、さつま揚げの賞味期間を大幅に延長することができるため、さつま揚げの廃棄ロスの削減や遠方への販路拡大、生産計画の改善に大いに貢献することができる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。