(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121099
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパ付き伝動装置及びトルクコンバータ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/134 20060101AFI20220812BHJP
F16H 45/02 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
F16F15/134 D
F16F15/134 A
F16H45/02 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018265
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000138521
【氏名又は名称】株式会社ユタカ技研
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】特許業務法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】野澤 洋一
(57)【要約】
【課題】動力伝達経路に付設したダイナミックダンパが、伝動回転部材に対し相対回転可能な慣性回転体と、伝動回転部材及び慣性回転体の相互間を接続可能なダイナミックダンパばねとを有するダイナミックダンパ付き伝動装置において、伝動回転部材に対する慣性回転体の相対回転限界を規定するストッパ機構の接触部の荷重負担を軽減し、早期の摩耗、損傷を抑制可能とする。
【解決手段】慣性回転体40は、ダイナミックダンパばねS3に対するばね受け40sを有してダイナミックダンパばねS3を相互間に保持する一対の保持板41,42を有し、少なくとも一方の保持板41と伝動回転部材70との相対向面の何れか一方にはストッパ凸部Stが、またその何れか他方には、ストッパ凸部Stと係合し得るストッパ凹部Soがそれぞれ設けられていて、前記係合により伝動回転部材70に対する慣性回転体40の相対回転限界が規定される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転体(60)から出力回転体(80)へ伝動可能な動力伝達経路(46)にダイナミックダンパ(DD)が付設され、前記ダイナミックダンパ(DD)は、前記動力伝達経路(46)の一部を構成する伝動回転部材(70)に対し相対回転可能な慣性回転体(40)と、前記伝動回転部材(70)及び前記慣性回転体(40)の相互間を接続可能なダイナミックダンパばね(S3)とを有するダイナミックダンパ付き伝動装置において、 前記慣性回転体(40)は、前記ダイナミックダンパばね(S3)に対するばね受け(40s)を有して該ダイナミックダンパばね(S3)を相互間に保持する一対の保持板(41,42)を有し、
少なくとも一方の前記保持板(41)と前記伝動回転部材(70)との相対向面の何れか一方にはストッパ凸部(St)が、またその何れか他方には、該ストッパ凸部(St)と係合し得るストッパ凹部(So)がそれぞれ設けられていて、前記係合により前記伝動回転部材(70)に対する前記慣性回転体(40)の相対回転限界が規定されることを特徴とするダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項2】
前記少なくとも一方の保持板(41)の外周部には、周方向に間隔をおいて配置した複数の結合具(48)を介して慣性重錘(W)が結合され、
前記少なくとも一方の保持板(41)の外周部内面には、周方向で前記結合具(48)を避ける位置に複数の前記ストッパ凹部(So)が形成され、前記複数のストッパ凹部(So)にそれぞれ対応して前記伝動回転部材(70)の外周部に複数の前記ストッパ凸部(St)が設けられることを特徴とする、請求項1に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項3】
前記結合具(48)と前記ストッパ凸部(St)とは、前記伝動回転部材(70)と同心の仮想円(90)上に配列されることを特徴とする、請求項2に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項4】
前記伝動回転部材(70)は、前記複数のダイナミックダンパばね(S3)をそれぞれ収容する複数の貫通孔(70o)を有して前記一対の保持板(41,42)間に摺動可能に挟持され、
前記貫通孔(70o)と周方向位置を同じくして前記伝動回転部材(70)の外周部に複数の前記ストッパ凸部(St)が設けられると共に、該複数のストッパ凸部(St)にそれぞれ対応して少なくとも一方の保持板(41)の外周部内面に複数の前記ストッパ凹部(So)が形成され、
前記貫通孔(70o)と、それに対応する前記ストッパ凸部(St)とは、各々の径方向位置が一部重なることを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項5】
前記ストッパ凹部(So)及び前記ストッパ凸部(St)は、各々が周方向に間隔をおいて複数配置され、
前記ストッパ凹部(So)の底面(Sof)と、前記ストッパ凸部(St)の先端面(Stf)とが摺動可能に当接し、その当接により、前記伝動回転部材(70)及び前記慣性回転体(40)の相互が径方向に位置決めされることを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項6】
前記伝動回転部材は、前記入力回転体(60)及び前記出力回転体(80)間に配置される中間回転体(70)であり、その中間回転体(70)及び前記入力回転体(60)間にはその間を接続する一次ダンパばね(S1)が介装されると共に、前記中間回転体(70)及び前記出力回転体(80)間にはその間を接続する二次ダンパばね(S2)が介装されることを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項7】
前記一次ダンパばね(S1)と前記二次ダンパばね(S2)とは、前記ダイナミックダンパばね(S3)よりも径方向で内方側において、前記中間回転体(70)の回転中心を中心とする同一の円周上に配置されることを特徴とする、請求項6に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置。
【請求項8】
ロックアップクラッチ(L)により流体伝動と機械伝動を切換え可能なトルクコンバータ(TC)であって、
請求項1~7の何れか1項に記載のダイナミックダンパ付き伝動装置を前記機械伝動のために内蔵していることを特徴とするトルクコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動装置、特に入力回転体から出力回転体へ伝動可能な動力伝達経路にダイナミックダンパが付設され、ダイナミックダンパは、前記動力伝達経路の一部を構成する伝動回転部材に対し相対回転可能な慣性回転体と、伝動回転部材及び慣性回転体の相互間を接続可能なダイナミックダンパばねとを有するダイナミックダンパ付き伝動装置、並びにその伝動装置を具備したトルクコンバータに関する。
【0002】
尚、本発明及び本明細書において、「径方向」とは、伝動回転部材(実施形態では中間回転体)の回転軸線を中心とした円弧の半径方向をいい、また「周方向」とは、同じく前記回転軸線を中心とした円弧の円周方向をいい、さらに「軸方向」とは、前記回転軸線に沿う方向をいう。
【背景技術】
【0003】
上記したダイナミックダンパ付き伝動装置は、例えば特許文献1にも示されるように従来公知である。この特許文献1には、ロックアップクラッチにより流体伝動と機械伝動を切換え可能なトルクコンバータに、機械伝動のために上記伝動装置が内蔵されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の伝動装置では、ダイナミックダンパばねに対するばね受けを有してダイナミックダンパばねを相互間に保持する一対の保持板が、慣性回転体とは別個に設けられており、その慣性回転体の内周部に設けた切欠き状のストッパ凹部と、両保持板間を結合するリベットに嵌装したストッパカラーとの係合で、慣性回転体の保持板に対する相対回転限界が規定される。
【0006】
このようなストッパ機構の構造では、ストッパカラーとストッパ凹部との係合が線接触となって接触面圧が大きくなるため、ダイナミックダンパに過大トルクが入力されたときのストッパ凹部とストッパカラーとの接触部の荷重負担が大きくなって、接触部(例えばストッパカラーやこれを支持するリベット)が早期に摩耗、損傷する懸念がある。
【0007】
その上、前記ストッパ凹部は慣性回転体の内周部に在って、ストッパカラーに対し慣性回転体が径方向内寄りの部位でトルクの受け渡しがなされるため、レバー比の関係で前記接触部の荷重負担が更に増大し、前記懸念がより大きくなる。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、従来装置の上記不都合を簡単な構造で解決可能なダイナミックダンパ付き伝動装置、並びにその伝動装置を具備したトルクコンバータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、入力回転体から出力回転体へ伝動可能な動力伝達経路にダイナミックダンパが付設され、前記ダイナミックダンパは、前記動力伝達経路の一部を構成する伝動回転部材に対し相対回転可能な慣性回転体と、前記伝動回転部材及び前記慣性回転体の相互間を接続可能なダイナミックダンパばねとを有するダイナミックダンパ付き伝動装置において、前記慣性回転体は、前記ダイナミックダンパばねに対するばね受けを有して該ダイナミックダンパばねを相互間に保持する一対の保持板を有し、少なくとも一方の前記保持板と前記伝動回転部材との相対向面の何れか一方にはストッパ凸部が、またその何れか他方には、該ストッパ凸部と係合し得るストッパ凹部がそれぞれ設けられていて、前記係合により前記伝動回転部材に対する前記慣性回転体の相対回転限界が規定されることを第1の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記少なくとも一方の保持板の外周部には、周方向に間隔をおいて配置した複数の結合具を介して慣性重錘が結合され、前記少なくとも一方の保持板の外周部内面には、周方向で前記結合具を避ける位置に複数の前記ストッパ凹部が形成され、前記複数のストッパ凹部にそれぞれ対応して前記伝動回転部材の外周部に複数の前記ストッパ凸部が設けられることを第2の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記結合具と前記ストッパ凸部の先端とは、前記伝動回転部材と同心の仮想円上に配列されることを第3の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1~第3の何れかの特徴に加えて、前記伝動回転部材は、前記複数のダイナミックダンパばねをそれぞれ収容する複数の貫通孔を有して前記一対の保持板間に摺動可能に挟持され、少なくとも一部の前記貫通孔と周方向位置を同じくして前記伝動回転部材の外周部に複数の前記ストッパ凸部が設けられると共に、該複数のストッパ凸部にそれぞれ対応して少なくとも一方の保持板の外周部内面に複数の前記ストッパ凹部が形成され、前記貫通孔と、それに対応する前記ストッパ凸部とは、各々の径方向位置が一部重なることを第4の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記ストッパ凹部及び前記ストッパ凸部は、各々が周方向に間隔をおいて複数配置され、前記ストッパ凹部の底面と、前記ストッパ凸部の先端面とが摺動可能に当接し、その当接により、前記伝動回転部材及び前記慣性回転体の相互が径方向に位置決めされることを第5の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第6の何れかの特徴に加えて、前記伝動回転部材は、前記入力回転体及び前記出力回転体間に配置される中間回転体であり、その中間回転体及び前記入力回転体間にはその間を接続する一次ダンパばねが介装されると共に、前記中間回転体及び前記出力回転体間にはその間を接続する二次ダンパばねが介装されることを第6の特徴とする。
【0015】
また本発明は、第6の特徴に加えて、前記一次ダンパばねと前記二次ダンパばねとは、前記ダイナミックダンパばねよりも径方向で内方側において、前記中間回転体の回転中心を中心とする同一の円周上に配置されることを第7の特徴とする。
【0016】
また本発明は、ロックアップクラッチにより流体伝動と機械伝動を切換え可能なトルクコンバータであって、第1~第7の何れかの特徴を有するダイナミックダンパ付き伝動装置を前記機械伝動のために内蔵していることを第8の特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の特徴によれば、慣性回転体は、ダイナミックダンパばねに対するばね受けを有してダイナミックダンパばねを相互間に保持する一対の保持板を有し、少なくとも一方の保持板と伝動回転部材との相対向面の何れか一方にはストッパ凸部が、またその何れか他方には、該ストッパ凸部と係合し得るストッパ凹部がそれぞれ設けられていて、前記係合により伝動回転部材に対する慣性回転体の相対回転限界が規定されるので、ダイナミックダンパに過大トルクが入力されたときに保持板と伝動回転部材との直接接触(従って面接触)によりトルク受け渡しが行われ、これにより、接触部(ストッパ機構)の荷重負担が軽減され、早期の摩耗や損傷を効果的に抑制可能となる。
【0018】
また第2の特徴によれば、少なくとも一方の保持板の外周部には、周方向に間隔をおいて配置した複数の結合具を介して慣性重錘が結合され、その少なくとも一方の保持板の外周部内面には、周方向で結合具を避ける位置に複数のストッパ凹部が形成され、それらストッパ凹部に対応して伝動回転部材の外周部に複数のストッパ凸部が設けられるので、保持板(即ち慣性回転体)の径方向外寄りの部位に存するストッパ凹部と、ストッパ凸部との間でトルク受け渡しが可能となり、その間の接触部の荷重負担が更に軽減できて、接触部の早期の摩耗や損傷をより効果的に抑制可能となる。
【0019】
また第3の特徴によれば、結合具とストッパ凸部の先端とは、伝動回転部材と同心の仮想円上に配列されるので、ストッパ凸部は、これと結合具との干渉を回避しながら径方向位置を最大限外寄りに配置可能となる。これにより、ストッパ凸部とストッパ凹部との接触部(即ちトルク受け渡し部位)を更に径方向外寄りに配置できるから、レバー比の関係で接触部の荷重負担が一層軽減できて、接触部の早期の摩耗や損傷をより効果的に抑制可能となる。
【0020】
また第4の特徴によれば、伝動回転部材は、複数のダイナミックダンパばねをそれぞれ収容する複数の貫通孔を有して一対の保持板間に摺動可能に挟持され、前記貫通孔と周方向位置を同じくして伝動回転部材の外周部に複数のストッパ凸部が設けられ、前記貫通孔と、対応するストッパ凸部とは、各々の径方向位置が一部重なるので、伝動回転部材に前記貫通孔が特設されても、伝動回転部材の、貫通孔よりも径方向外側部分の径方向肉厚を、ストッパ凸部の先部にて十分に確保可能となる。これにより、伝動回転部材を特別に大径化しなくてもダイナミックダンパばねを、ストッパ凸部を利用して極力径方向外寄りに配備可能となるから、装置の径方向小型化に寄与することができる。
【0021】
また第5の特徴によれば、ストッパ凹部及びストッパ凸部は、各々が周方向に間隔をおいて複数配置され、ストッパ凹部の底面と、ストッパ凸部の先端面とが摺動可能に当接し、その当接により、伝動回転部材及び慣性回転体の相互が径方向に位置決めされるので、ストッパ凹部及びストッパ凸部の係合を利用して、伝動回転部材と保持板(即ち慣性回転体)との相互の径方向位置決めが可能となり、その位置決めのための専用部材やスペースが不要となることで、装置の構造簡素化と小型化に寄与することができる。
【0022】
また第6の特徴によれば、伝動回転部材は、入力回転体及び出力回転体間に配置される中間回転体であり、その中間回転体及び入力回転体間にはその間を接続する一次ダンパばねが介装されると共に、中間回転体及び出力回転体間にはその間を接続する二次ダンパばねが介装されるので、ダイナミックダンパに連係する伝動回転部材が、一次ダンパばねと二次ダンパばねとに対するばね受け手段も兼ねることとなり、それだけ装置の構造簡素化に寄与することができる。
【0023】
また第7の特徴によれば、一次ダンパばねと二次ダンパばねとは、ダイナミックダンパばねよりも径方向で内方側において、中間回転体の回転中心を中心とする同一の円周上に配置されるので、一次ダンパばねと二次ダンパばねとを、ダイナミックダンパばねよりも径方向内方側でコンパクトに配列可能となり、装置の径方向小型化に寄与することができる。
【0024】
また第8の特徴によれば、ロックアップクラッチにより流体伝動と機械伝動を切換え可能なトルクコンバータが、前記各特徴による効果を発揮するダイナミックダンパ付き伝動装置を機械伝動のために内蔵するので、このダイナミックダンパ付き伝動装置を含むトルクコンバータの構造簡素化や軽量且つ小型化、コスト節減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るダイナミックダンパ付き伝動装置を内蔵したトルクコンバータの縦断面図(
図2の1-1線に沿う拡大断面図)
【
図2】
図1の2-2線矢視方向で見た前記伝動装置の要部断面図
【
図3】(A)は
図2の3A-3A線に沿う拡大断面図、(B)は
図2の3B-3B線に沿う拡大断面図
【
図5】前記伝動装置の要部、特に一次・二次ダンパばね及びダイナミックダンパばねの支持部を示す拡大断面図(
図2の5A矢視部に対応する断面図)であって、そのうち(A)は第1実施形態を示し、また(B)は第2実施形態を示す
【
図6】加速時における伝動装置各部の動作変化態様を示す要部側面図であって、(1)は中間回転体が入力回転体・出力回転体に対し中立位置にある状態を示し、(2)は、中間回転体が出力回転体に対し相対回転限界に到達(即ち第2ストッパ機構がストッパ作動)して二次ダンパばねの弾性変形が終了した状態を示し、(3)は、入力回転体が中間回転体に対し相対回転限界に到達(即ち第1ストッパ機構がストッパ作動)して一次ダンパばねの弾性変形が終了した状態を示す
【
図7】減速時における伝動装置各部の動作変化態様を示す要部側面図であって、(1)は
図6(1)と同じく中間回転体が前記中立位置にある状態を示し、(2)は、入力回転体が中間回転体に対し相対回転限界に到達(即ち第1ストッパ機構がストッパ作動)して二次ダンパばねの弾性変形が終了した状態を示し、(3)は、中間回転体が出力回転体に対し相対回転限界に到達(即ち第2ストッパ機構がストッパ作動)して二次ダンパばねの弾性変形が終了した状態を示し、(4)は、入力回転体が中間回転体・出力回転体に対する相対回転を停止した状態のまま減速トルクが更に増大した状態を示す
【
図8】入力回転体の出力回転体に対する相対回転角度を横軸とし、且つ入力回転体が受けるトルクを縦軸とした実施形態の特性図であって、
図6及び
図7で各状態を示す小特性図を繋ぎ併せたものを示す(但し、
図8の点線は、中間回転体・出力回転体相互の、加速時における相対回転限界角度と減速時における相対回転限界角度とを同等に設定した比較例の、実施形態とは異なる特性部分を示す)
【
図9】第3実施形態に係る前記伝動装置の要部断面図(
図2の5A矢視部に対応する断面図)
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づき説明する。
【0027】
先ず、第1実施形態を、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
図1において、ロックアップ機構付きトルクコンバータTCは、ポンプインペラ11と、このポンプインペラ11に対向して配置されるタービンランナ12と、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の内周部間に配置されるステータ13とを備え、ポンプインペラ11、タービンランナ12およびステータ13間には、矢印14で示すように作動オイルを循環させる循環回路15が形成される。
【0028】
トルクコンバータTCは、後述するように、ロックアップクラッチLの断・接切換えに基づいて流体伝動と機械伝動を切換可能に構成されており、特に機械伝動を本発明に係る伝動装置Tが担う構造となっている。本明細書では、先ず、流体伝動のための構造例について説明する。
【0029】
前記ポンプインペラ11は、椀状のポンプシェル16と、ポンプシェル16の内面に設けられる複数のポンプブレード17と、それらのポンプブレード17を連結するポンプコアリング18と、ポンプシェル16の内周部に例えば溶接によって固定されるポンプハブ19とを有する。そのポンプハブ19には、トルクコンバータTCに作動オイルを供給するオイルポンプ(図示せず)が連動、連結される。
【0030】
またポンプシェル16の外周部には、タービンランナ12を外側から覆う椀状の伝動カバー20が溶接によって結合されており、この伝動カバー20の外周部にボス21が固着され、ボス21には駆動板22が締結される。また駆動板22には、車両用エンジンEのクランクシャフト23が同軸に締結されており、従って、ポンプインペラ11には、車両用エンジンEから回転動力が入力される。
【0031】
前記タービンランナ12は、椀状のタービンシェル24と、タービンシェル24の内面に設けられる複数のタービンブレード25と、それらのタービンブレード25を連結するタービンコアリング26とを有する。タービンシェル24の内周部は、後述するリング板状の出力回転体80を介して出力ハブ29に結合される。
【0032】
車両用エンジンEからの回転動力を図示しないミッションに伝達する出力軸27は、これの中心部を縦通する油路100を有しており、この油路100には、後述するロックアップクラッチLの作動油圧を油路100に対し給排制御可能な不図示の油圧制御回路が接続される。また出力軸27の先端部は、前記伝動カバー20の中心部に連設した有底円筒状の支持筒部20a内に環状空隙49を挟んで受容され、その環状空隙49は上記油路100に常時連通している。
【0033】
出力軸27の外周には、ポンプハブ19から離間し且つ出力回転体80の内周部に溶接した出力ハブ29がスプライン嵌合されると共に、出力ハブ29の側面にニードルスラストベアリング30を介して隣接する円環状のカバーハブ44が、軸受ブッシュ47を介して回転自在に嵌合、支持される。尚、軸受ブッシュ47は、カバーハブ44の内周に固定(例えば圧入)される。
【0034】
カバーハブ44は、放射状に延びる複数の油溝44aを外側面に有しており、その外側面の外周端が伝動カバー20の内周部内面に溶接される。したがって、出力軸27の先端部は、軸受ブッシュ47及びカバーハブ44を介して伝動カバー20に回転自在に支持される。
【0035】
前記ステータ13は、ポンプハブ19および出力ハブ29間に配置されるステータハブ31と、このステータハブ31の外周に設けられる複数のステータブレード32と、それらのステータブレード32の外周を連結するステータコアリング33とを有する。ポンプハブ19とステータハブ31との間にはスラストベアリング34が介装され、また出力ハブ29(直接的にはタービンシェル24)とステータハブ31との間にはスラストベアリング35が介装される。
【0036】
ステータハブ31と、出力ハブ29とともに回転する出力軸27を相対回転自在に囲繞するステータシャフト36との間には、一方向クラッチ37が介設され、ステータシャフト36は、ミッションケース(図示せず)に回転不能に支持される。伝動カバー20およびタービンシェル24間には、前記した循環回路15に連通するクラッチ室38が形成される。そのクラッチ室38には、伝動カバー20の回転動力を入力側に受けるロックアップクラッチLと、このロックアップクラッチLの出力側と出力軸27間を機械的に伝動可能な動力伝達経路46を有するダンパ機能付き伝動装置Tとが配設される。
【0037】
ロックアップクラッチLは、前記したカバーハブ44に軸方向摺動可能且つ油密に嵌合、支持されて伝動カバー20の内面に近接、対向するクラッチピストン43と、伝動カバー20の内面に固着(溶接)したクラッチアウタLoと、クラッチアウタLoに同心状に囲繞され且つ後述する入力回転体60に固定されるクラッチインナLiと、クラッチアウタLo及びクラッチインナLi間に介設される摩擦連結機構Lmとを備える。クラッチアウタLoの内周面には、クラッチピストン43の外周部が軸方向摺動可能且つ油密に嵌合される。
【0038】
摩擦連結機構Lmは、従来周知の多板式摩擦クラッチ機構と同様、クラッチアウタLoに相対回転不能に且つ所定の制限された範囲で軸方向摺動可能に支持される複数の摩擦板及び受圧板と、クラッチインナLiに相対回転不能に且つ軸方向摺動可能に支持される複数の摩擦板とを有する。そして、クラッチピストン43をクラッチオン側、即ち摩擦連結機構Lm側に移動(
図1で右動)させることで、上記摩擦板相互が圧接されてロックアップクラッチLが接続状態となり、またクラッチピストン43を上記と反対側、即ちクラッチオフ側に移動(
図1で左動)させることで摩擦板相互の圧接力が解放されて、ロックアップクラッチLが非接続状態となる。
【0039】
尚、ロックアップクラッチLは、実施形態のような多板式摩擦クラッチに限定されず、種々の摩擦クラッチ、例えば単板式摩擦クラッチも実施可能である。
【0040】
ところで前記クラッチ室38内は、クラッチピストン43によって、タービンランナ12側に在って循環油路15に連通する内側室38aと、伝動カバー20側に在って循環油路15には連通しない外側室38bとに区画される。その内側室38aには、前記した摩擦連結機構Lm及びダンパ機能付き伝動装置Tが収容される。
【0041】
一方、外側室38bは、クラッチピストン43の受圧室として機能し、そこに不図示の油圧制御装置から前記油路100、環状空隙49及び油溝44aを経てクラッチ作動油が導入されると、その作動油でクラッチピストン43を前記クラッチオン側に駆動、保持可能であり、また、クラッチ作動油が外側室38b(クラッチ受圧室)より排出されると、クラッチピストン43は、内側室38aの油圧に押されて前記クラッチオフ側に後退可能となる。
【0042】
また出力軸27及びステータシャフト36間には入口油路101が画成され、この入口油路101は、ステータシャフト36の横孔から、ステータシャフト36と一方向クラッチ37のインナ部とのスプライン嵌合部(特にスプラインの欠歯部分)を経て、前記した循環油路15及び内側室38aの各内周部に通じる。一方、ポンプハブ19およびステータシャフト36間には、循環回路15の内周部に通じる出口油路102が画成される。それら入口油路101及び出口油路102は、不図示の油循環装置に接続されており、これにより、トルクコンバータTCの作動中は、入口油路101から内側室38a及び循環回路15を経て出口油路102に戻る油の流動が継続され、内側室38a及び循環回路15内は常に油で満たされる。
【0043】
例えば、車両用エンジンEのアイドリング時や極低速運転域では、外側室38b(クラッチ受圧室)にはクラッチ作動油が供給されず、クラッチピストン43は前記クラッチオフ側にある。従って、摩擦連結機構Lmの摩擦板相互が相対回転可能な非圧接状態にあり、ロックアップクラッチLは非接続状態となっている。この状態では、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の相対回転は許容されており、車両用エンジンEによってポンプインペラ11が回転駆動されることで、循環回路15内の作動油が、矢印14で示すように、ポンプインペラ11、タービンランナ12、ステータ13の順に循環回路15内を循環し、ポンプインペラ11の回転トルクがタービンランナ12、出力回転体80及び出力ハブ29を介して出力軸27に伝達される。
【0044】
一方、ポンプインペラ11およびタービンランナ12間でトルクの増幅作用が生じている状態では、それに伴う反力がステータ13で負担され、ステータ13は、一方向クラッチ37のロック作用によって固定される。またトルク増幅作用を終えたときに、ステータ13は、ステータ13が受けるトルク方向の反転によって一方向クラッチ37を空転させながらポンプインペラ11およびタービンランナ12とともに同一方向に回転する。
【0045】
このようにしてトルクコンバータTCがカップリング状態となったとき、もしくはカップリング状態に近づいたときには、その状態を検出したセンサの出力に基づいて作動する不図示の油圧制御回路から、クラッチ作動油が出力軸27内の油路100等を経て外側室38b(クラッチ受圧室)に導入される。これにより、クラッチピストン43が伝動カバー20から離れる側(即ち前記クラッチオン側)に押圧されて、摩擦連結機構Lmを摩擦結合状態に切換え、ロックアップクラッチLが接続状態となる。
【0046】
ロックアップクラッチLが接続状態となったときに、車両用エンジンEから伝動カバー20に伝わる回転動力は、ロックアップクラッチLからクラッチ室38(内側室38a)内のダンパ機能付き伝動装置Tを経て出力軸27に機械的に伝達される。
【0047】
そして、この伝動装置Tは、これの動力伝達経路46において、クラッチインナLiに固定される入力回転体60と、その入力回転体60に一次ダンパばねS1を介して接続される中間回転体70と、中間回転体70に二次ダンパばねS2を介して接続される出力回転体80とを備える。中間回転体70は、伝動回転部材の一例である。
【0048】
而して、入力回転体60、中間回転体70及び出力回転体80は、出力軸27に対し同心状に配置され且つ互いに相対回転可能に構成される。また第1,第2ダンパばねS1,S2は、出力軸27の軸線を中心とした(従って中間回転体70と同心の)同一仮想円上に交互に配列される。
【0049】
入力回転体60は、リング板状に形成される中間回転体70を相互間に回転摺動可能に挟む第1,第2支持板61,62をクラッチインナLiと共に固定(より具体的には複数のリベット63で結合)されて構成される。各リベット63には、第1,第2支持板61,62間のスペーサとして機能する円筒のカラー64が嵌合、固定され、そのカラー64は、これが入力回転体60と一体的に回転する際に、中間回転体70の円弧状内周面に沿って移動可能である。
【0050】
第1支持板61の内周端部は、径方向内方側に長く延びていて、出力ハブ29の外周に同心状に嵌合、支持される。また第1,第2支持板61,62の径方向中間部は、周方向に延びる円弧状の開口61o,62oを各々有する。そして、その開口61o,62oの径方向内,外周縁部がそれぞれ軸方向外側に切り起こされており、その切り起こし部が、第1,第2ダンパばねS1,S2を両側より抱持するばねホルダ部61h,62hを構成する。上記開口61o,62oの周方向両内端縁部は、第1,第2ダンパばねS1,S2の対応する一端部を当接、支持するばね受け60sとして機能する。
【0051】
中間回転体70の内周部には、周方向に間隔をおいて複数の第1ばね受け突起71が径方向内向きに一体に突設される。そして、各々の第1ばね受け突起71の、周方向で両側端面が、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2の対応する各他端部を当接、支持するばね受け70sとなり、そのばね受け70sは第1ばね受け部の一例である。また第1ばね受け突起71の先部には、ばね受け70s(従って一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2)よりも径方向内方側に延びるストッパ突起部74が一体に連設される。
【0052】
また中間回転体70の内周部(より具体的には第1ばね受け突起71の根元部分)には、一部のリベット63の中間軸部63mにカラー64を介して係合可能な、対をなす凹状の軸部受け面73が設けられる。そして、その軸部受け面73にカラー64を介してリベット63の中間軸部63m係合させることで、入力回転体60に対する中間回転体70の相対回転角を所定の制限された範囲内に規制可能である。
【0053】
而して、軸部受け面73と、リベット63の中間軸部63m及びカラー64とは、互いに協働して入力回転体60に対する中間回転体70の相対回転角を規定値以下に規制(即ち相対回転限界を規定)する第1ストッパ機構ST1を構成し、この第1ストッパ機構ST1によれば、加速時には一次ダンパばねS1の過度の変形が抑制され、また減速時には二次ダンパばねS2の過度の変形が抑制される。
【0054】
尚、実施形態では、リベット63の中間軸部63mにスペーサとして機能するカラー64を嵌合、固定して、カラー64を介して中間軸部63mを軸部受け面73に係合させるものを例示したが、カラー64を省略して、リベット63の拡径した中間軸部63mを軸部受け面73に直接係合させてもよい。或いはまた、カラー64に代えて、ローラをリベット63の中間軸部63mに回転可能に嵌合、支持させてもよい。
【0055】
尚また、軸部受け面73は、実施形態では第1ばね受け突起71の根元部分(特に周方向両側面)に凹曲面状に形成したものを例示したが、第1ばね受け突起71の形態や位置によっては、第1ばね受け突起71とは独立した軸部受け面を中間回転体70の内周部に、カラー64(中間軸部63m)に対し係合可能として設けてもよい。
【0056】
出力回転体80の内周部には出力ハブ29が嵌合、固定(例えば溶接)され、またタービンシェル24の内周端寄り中間部が出力回転体80に複数のリベット53で固定される。また出力回転体80の外周部には、周方向に間隔をおいて複数の第2ばね受け突起82が径方向外向きに一体に突設されており、各々の第2ばね受け突起82の、周方向で両側端面が、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2の前記一端部を当接、支持するばね受け80sとなる。このばね受け80sは、第2ばね受け部の一例である。
【0057】
第2ばね受け突起82の径方向外端面は側面視で円弧状に形成され、その外端面に対し一部の前記カラー64が径方向で相互に近接又は当接するように配置される。
【0058】
更に出力回転体80の外周部には、周方向で隣り合う第2ばね受け突起82の中間位置で、第1ばね受け突起71先部のストッパ突起部74と係合可能な係合溝部83が形成される。そのストッパ突起部74と係合溝部83との係合により、出力回転体80に対する中間回転体70の相対回転角を所定の制限された範囲内に規制(即ち相対回転限界を規定)可能である。
【0059】
而して、ストッパ突起部74及び係合溝部83は、互いに協働して出力回転体80に対する中間回転体70の相対回転角を規定値以下に規制する第2ストッパ機構ST2を構成し、この第2ストッパ機構ST2によれば、加速時には二次ダンパばねS2の過度の変形が抑制され、また減速時には一次ダンパばねS1の過度の変形が抑制される。
【0060】
またストッパ突起部74の先端面と係合溝部83の底面とは摺動可能に当接する。その当接により、出力回転体80と中間回転体70の相互の径方向位置決めが行われ、かくして中間回転体70が出力回転体80に対し相対回転可能に且つ同心状に保持される。
【0061】
また実施形態の第1,第2ストッパ機構ST1,ST2は、後述するように、第1ストッパ機構ST1で規定される入力回転体60及び中間回転体70相互の、加速時における相対回転の限界角度θa(
図6(1)を参照)が、出力回転体80及び中間回転体70相互の、減速時における相対回転の限界角度θb(
図7(1)を参照)よりも大きくなるように設定される。
【0062】
ところで、実施形態のダンパ機能付き伝動装置Tには、中間回転体70に連動連結されるダイナミックダンパDDが付設される。このダイナミックダンパDDは、慣性回転体40と、慣性回転体40の外周部に周方向に間隔をおいて配置した複数の結合具(例えばリベット48)を介して慣性回転体40の外周部に結合される慣性重錘Wと、慣性回転体40及び中間回転体70間に介装されて周方向に間隔をおいて配置される複数のダイナミックダンパばねS3とを備える。ダイナミックダンパばねS3は、前述の如く同一円周上に交互に配列される一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2の配列位置よりも径方向外方側に配置される。
【0063】
慣性重錘Wは、実施形態では円環状に形成された単一のリング体で構成されるものを例示したが、慣性重錘Wを、周方向に配列される複数の重錘要素で分割構成してもよい。その場合、周方向に隣り合う重錘要素の相互間には隙間が有ってもよいし、或いは、隙間を無くして、重錘要素の相互間を直接当接させてもよい。また、個々の重錘要素は、結合具(例えばリベット48)を介して慣性回転体40の外周部に結合される。
【0064】
慣性回転体40は、中間回転体70を相互間に回転摺動可能に挟み且つ内周が入力回転体60の第1,第2支持板61,62外周に回転可能に同心嵌合する第1,第2保持板41,42を有する。第1,第2保持板41,42の外周部相互は、実施形態では慣性重錘W固定用の複数のリベット48で結合される。尚、第1,第2保持板41,42の相互間を、慣性重錘Wとは別個独立して結合してもよい。
【0065】
第1,第2保持板41,42は、慣性回転体40の周方向に延びる複数の円弧状開口41o,42oを周方向に間隔をおいて有する。そして、それら開口41o,42oの径方向外周縁部はそれぞれ軸方向外側に切り起こされて、ダイナミックダンパばねS3を両側より抱持するばねホルダ部41h,42hを構成する。
【0066】
各々の開口41o,42oの周方向両内端縁部は、ダイナミックダンパばねS3の対応する両端部を当接、支持する第1ばね受け面40sとして機能する。また開口41o,42oに対応して中間回転体70には、ダイナミックダンパばねS3を収容する複数の円弧状貫通孔70oが設けられ、その貫通孔70oの周方向両内端縁部は、ダイナミックダンパばねS3の対応する両端部を支持する第2ばね受け面72sとして機能する。
【0067】
また第1保持板41の内面には、中間回転体70の外周部に設けた径方向外向きの複数のストッパ凸部Stとそれぞれ係合可能な径方向内向きの複数のストッパ凹部Soが形成(例えばプレス成形)される。そのストッパ凸部Stをストッパ凹部Soに直接係合させることで、中間回転体70に対する慣性回転体40の相対回転角を所定の制限された範囲内に規制(即ち相対回転限界を規定)可能である。
【0068】
而して、ストッパ凸部St及びストッパ凹部Soは、互いに協働して中間回転体70に対する慣性回転体40の相対回転角を規定値以下に規制するストッパ機構としての第3ストッパ機構ST3を構成しており、これによりダイナミックダンパばねS3の過度の変形が抑制される。
【0069】
また実施形態のストッパ凸部Stは、中間回転体70の、ダイナミックダンパばねS3を収容する貫通孔70oと周方向位置を同じくして、中間回転体70の外周部に突設される。しかも各々の貫通孔70oと、それに対応するストッパ凸部Stとは、径方向位置が一部重なるように配置される。
【0070】
またストッパ凹部Soは、周方向でリベット48(従って第1,第2保持板41,42のリベット結合部)を避ける位置において、第1保持板41の外周部内面に形成される。しかもリベット48とストッパ凸部Stとは、中間回転体70と同心の仮想円90上に配列される。
【0071】
尚、ストッパ凹部Soは、第2保持板42の内面に設けてもよく、或いはまた、第1,第2保持板41,42の両方に跨がるように設けてもよい。
【0072】
また実施形態では、ストッパ凹部Soの底面Sofとストッパ凸部Stの先端面Stfとが摺動可能に当接しており、その当接により、中間回転体70及び慣性回転体40の相互が径方向に位置決めされる。尚、ストッパ凹部Soの底面Sofと、ストッパ凸部Stの先端面Stfとの相互間の隙間は、その相互間がスムーズに相対摺動し得る範囲で最小限の摺動間隙に設定されてもよいし、或いは、相互間の径方向位置決めを的確に行い得る範囲で多少広めのクリアランスに設定されてもよい。
【0073】
以上説明したダイナミックダンパDDのストッパ機構ST3によれば、次のような作用効果を達成可能である。即ち、第1保持板41と中間回転体70との相対向面の一方にはストッパ凸部Stが、またその他方には、ストッパ凸部Stと係合し得るストッパ凹部Soがそれぞれ設けられていて、前記係合により中間回転体70に対する慣性回転体40の相対回転限界が規定されるので、ダイナミックダンパDDに過大トルクが入力されたときに第1保持板41と中間回転体70との直接接触(従って面接触)によりトルク受け渡しが行われ、その接触部(ストッパ機構ST3)の荷重負担が軽減され、早期の摩耗や損傷を抑制可能となる。
【0074】
その上、第1保持板41の外周部には、周方向に間隔をおいて複数の慣性重錘Wがリベット48を介して結合され、第1保持板41の外周部内面には、周方向でリベット48(従って第1,第2保持板41,42のリベット結合部)を避ける位置に複数のストッパ凹部Soが形成される。これにより、第1保持板41(即ち慣性回転体40)の径方向外寄りの位置に存するストッパ凹部Soと、これに直接係合するストッパ凸部Stとの間でトルク受け渡しが可能となるから、ストッパ凹部Soとストッパ凸部Stとの接触部の荷重負担が更に軽減できて、接触部の早期の摩耗や損傷をより効果的に抑制可能となる。
【0075】
しかも実施形態では、上記リベット48とストッパ凸部Stの先端とが、中間回転体70と同心の仮想円90上に配列されるので、ストッパ凸部Stは、これとリベット48との干渉を回避しながら径方向位置を最大限外寄りに配置可能となる。これにより、ストッパ凸部Stとストッパ凹部Soとの接触部(即ちトルク受け渡し部位)を更に径方向外寄りに配して、上記接触部の荷重負担を一層軽減することができる。
【0076】
しかも中間回転体70は、ダイナミックダンパばねS3を各々収容する複数の貫通孔70oを有して第1,第2保持板41,42間に摺動可能に挟持され、その貫通孔70oと周方向位置を同じくして中間回転体70の外周部に複数のストッパ凸部Stが設けられ、貫通孔70oと、対応するストッパ凸部Stとは、各々の径方向位置が一部重なる配置とされる。これにより、中間回転体70に貫通孔70oが特設されても、中間回転体70の、貫通孔70oよりも径方向外側部分の径方向肉厚を、ストッパ凸部Stの先部にて十分に確保可能となるため、中間回転体70を特別に大径化しなくてもダイナミックダンパばねS3を、ストッパ凸部Stを利用して極力径方向外寄りに配備可能となり、装置の径方向小型化が図られる。
【0077】
またストッパ凹部So及びストッパ凸部Stは、各々が周方向に間隔をおいて複数配置され、ストッパ凹部Soの底面Sofと、ストッパ凸部Stの先端面Stfとが摺動可能に当接し、その当接により、中間回転体70及び慣性回転体40の相互が径方向に位置決めされる。これにより、ストッパ凹部So及びストッパ凸部St相互の係合を利用して、中間回転体70と慣性回転体40との径方向位置決めが可能となり、その位置決めのための専用部材やスペースが不要となることで、装置の構造簡素化と小型化が図られる。
【0078】
更にダイナミックダンパDDに連係する中間回転体70が、一次ダンパばねS1と二次ダンパばねS2とに対するばね受け手段も兼ねることとなり、それだけ装置の構造簡素化が図られる。
【0079】
また特に第1実施形態では、ロックアップクラッチLが非接続状態(即ち動力伝達経路46が非伝動状態)にある場合に、
図5(A)で明らかなように、ダイナミックダンパばねS3を圧縮した状態(即ちダイナミックダンパばねS3に対し所定のプリセット荷重、即ち予圧が付与された状態)で、ダイナミックダンパばねS3の両端部が前記した第1,第2ばね受け面40s,72sの何れとも当接(より具体的には圧接)状態にある。この場合、慣性回転体40の周方向で相対向する第1ばね受け面40sの相互間の長さをaとし、また相対向する第2ばね受け面72sの相互間の長さをbとし、ダイナミックダンパばねS3の自由状態での長さをsとすれば、s>a=bの関係を満たすように各々の長さa,b,sが設定される。この第1実施形態によれば、ダイナミックダンパばねS3に上記プリセット荷重を付与した効果によってダイナミックダンパDDの減衰領域を拡張可能となる利点がある。
【0080】
これに対し、
図5(B)に例示した第2実施形態では、ロックアップクラッチLが非接続状態にある場合に、ダイナミックダンパばねS3の両端部が前記第1,第2ばね受け面40s,72sの何れか一方(図示例では第2ばね受け面72s)に、ダイナミックダンパばねS3を圧縮した状態(即ちダイナミックダンパばねS3に対し所定のプリセット荷重、即ち予圧が付与された状態)で当接し、またその何れか他方(図示例では第1ばね受け面40s)と、ダイナミックダンパばねS3の両端部との間には、バックラッシュ即ち回転方向の所定の隙間C(即ち
図5(B)で、a-bに相当)が設定される。即ち、この第2実施形態では、上記した長さa,b,sが、s>a>bの関係を満たすように設定される。そして、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様、ダイナミックダンパDDの減衰領域を拡張可能となることは元より、上記バックラッシュ効果により、拡張した減衰領域の減衰ピークが入力トルクの大小で大きくずれ動いてばらつくのを抑制可能となる利点がある。
【0081】
また以上説明した第1,第2実施形態において、一次ダンパばねS1のばね定数をk1とし、二次ダンパばねS2のばね定数をk2としたときに、k1がk2よりも大きく設定(例えば、k1/k2で定義されるばね剛性比が1よりも大きく且つ5以下の範囲内に設定)される。
【0082】
次に第1実施形態の作用について、
図6~
図8も併せて参照して、説明する。
【0083】
トルクコンバータTCにおいて、ロックアップクラッチLが接続状態となった場合には、前述のようにエンジンEから伝動カバー20に伝わる回転動力が、ロックアップクラッチLから実施形態のダンパ機能付き伝動装置Tの動力伝達経路46を経て、出力軸27に機械的に伝達される。このとき、エンジンEの加速又は減速運転に伴い生じる回転変動や振動は、伝動装置Tが具備する一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2並びにダイナミックダンパDDで減衰、抑制される。
【0084】
この場合、特にダイナミックダンパDDでは、慣性回転体40がダイナミックダンパばねS3の弾性変形を伴って振動して、動力伝達経路46(即ちダイナミックダンパDDを除く主振動系)の振動エネルギを代替吸収できるため、その主振動系の振動に対する減衰効果が、ダイナミックダンパDD(即ち副振動系)の固有振動数に対応した減衰ピーク回転数付近で特に高められる。
【0085】
また特に
図6は、加速時における伝動装置Tの各部(即ち入力回転体60、中間回転体70及び出力回転体80、並びに一次・二次ダンパばねS1,S2、及び第1,第2ストッパ機構ST1,ST2)の動作変化態様を示しており、また
図7は、減速時における対応する伝動装置Tの各部の動作変化態様を示す。この場合、
図6,
図7において入力回転体60は出力回転体80に対し、加速時には相対的に右回りに、また減速時には相対的に左回りにそれぞれ回転しようとする。
【0086】
而して、
図6(1)及び
図7(1)は、入力回転体60が加速側にも減速側にも相対トルクを受けず、即ち中間回転体70が入力回転体60・出力回転体80に対し中立位置にある状態を示しており、この中立位置は、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2相互のバランス作用で規定される。
【0087】
そして、この
図6(1)の中立状態で入力回転体60が加速トルクを受けると、入力回転体60は、一次ダンパばねS1、中間回転体70及び二次ダンパばねS2を介して(即ち両ダンパばねS1,S2を各々撓ませつつ)出力回転体80に対し右回りに相対回転しようとするが、その際に低剛性の二次ダンパばねS2の方が一次ダンパばねS1よりも大きく圧縮変形する。次いで、その相対回転が限界に到達(即ち第2ストッパ機構ST2がストッパ作動、より具体的にはストッパ突起部74が係合溝部83の一方の内端に係合)すると、それ以降の二次ダンパばねS2の弾性変形が終了して、
図6(2)に示す状態となる。
【0088】
しかる後、入力回転体60が更に加速トルクを受けると、入力回転体60は、高剛性の一次ダンパばねS1を撓ませつつ、中間回転体70に対する相対回転限界に到達(即ち第1ストッパ機構ST1がストッパ作動、より具体的には中間軸部63mがカラー64を介して軸部受け面72に係合)すると、一次ダンパばねS1の弾性変形が終了して、
図6(3)に示す状態となる。
【0089】
これに対し、
図7(1)の中立状態で入力回転体60が減速トルクを受けると、入力回転体60は、二次ダンパばねS2、中間回転体70及び一次ダンパばねS1を介して(即ち両ダンパばねS1,S2を各々撓ませつつ)出力回転体80に対し左回りに相対回転しようとするが、その際に低剛性の二次ダンパばねS2の方が一次ダンパばねS1よりも大きく圧縮変形する。次いで、その相対回転が限界に到達(即ち第1ストッパ機構ST1がストッパ作動、より具体的には中間軸部63mがカラー64を介して軸部受け面72に係合)すると、二次ダンパばねS2の弾性変形が終了して
図7(2)に示す状態となる。
【0090】
しかる後、入力回転体60が更に減速トルクを受けると、入力回転体60は、高剛性の一次ダンパばねS1を撓ませつつ、中間回転体70に対する相対回転限界に到達(即ち第2ストッパ機構ST2がストッパ作動、より具体的にはストッパ突起部74が係合溝部83の他方の内端に係合)すると、それ以降の二次ダンパばねS2の弾性変形が終了して
図7(3)に示す状態となる。
【0091】
その後、入力回転体60が更に大きな減速トルクを受けても、入力回転体60は、第1,第2ストッパ機構ST1,ST2のストッパ作動により中間回転体70・出力回転体80に対する各相対回転を停止した状態のまま減速トルクが増大する形となり、この状態を
図7(4)に示す。
【0092】
以上説明した実施形態の加速時および減速時における入力回転体の出力回転体に対する相対回転角度(横軸)と、入力回転体60が受けるトルクとの関係は、
図8の実線で表される。
【0093】
尚、
図8の点線は、中間回転体70・出力回転体80相互の、減速時における相対回転限界角度θbを、加速時における相対回転限界角度θaと同等に設定した比較例の、減速時後半の特性ラインを示す。この比較例では、
図8の点線ラインからも明らかなように、減速時に第2ストッパ機構ST2がストッパ作動した時点で出力回転体80のばね受け部80sに作用する一次ダンパばねS1の圧縮変形量が、実施形態の圧縮変形量よりも大きくなるため、その変形荷重が実施例よりも増大することは明らかである。
【0094】
以上説明したように、実施形態のトルクコンバータTC、特にこれのロックアップクラッチLの接続状態で機械伝動を担うダンパ機能付き伝動装置Tは、入力回転体60及び出力回転体80間に介装された中間回転体70と、中間回転体70及び入力回転体60間を接続する一次ダンパばねS1と、中間回転体70及び出力回転体80間を接続する二次ダンパばねS2とを備える。そして、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2が、中間回転体70と同心の同一仮想円上に配列され、入力回転体60及び中間回転体70の相互間には、その相互間の加速時・減速時における各相対回転限界を規定する第1ストッパ機構ST1が介設され、出力回転体80及び中間回転体70の相互間には、その相互間の加速時・減速時における各相対回転限界を規定する第2ストッパ機構ST2が介設されるが、特に第2ストッパ機構ST2が、中間回転体70の、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2を受ける第2ばね受け部70sよりも径方向内方側に配置される。
【0095】
これにより、加速に伴い中間回転体70が出力回転体80に対し相対回転限界に達したときに第2ストッパ機構ST2で受け止めるトルク負荷が、出力回転体80の比較的内周寄りの部位に作用することになるから、そのトルク負荷に起因して出力回転体80に局部的に生じる応力を効果的に低減できる。その結果、出力回転体80は、荷重負担が軽減されて、特別な補強対策(例えば板厚増大等)が不要となるため、その分、伝動装置Tのコスト節減や重量軽減、小型化を達成可能となる。
【0096】
また一次ダンパばねS1・二次ダンパばねS2が同一仮想円上に配列されることで、一次ダンパばねS1を二次ダンパばねS2と同等の径方向位置に配置できるため、伝動装置Tの径方向大型化を抑制する上で有利となる。
【0097】
また実施形態の入力回転体60は、リング板状の中間回転体70を軸方向に挟む第1,第2支持板61,62と、その第1,第2支持板61,62間を結合する複数のリベット63とを備え、第1ストッパ機構ST1は、リベット63の中間軸部63mと、中間回転体70の内周部に設けられて、入力回転体60及び中間回転体70相互の加速時・減速時における各相対回転限界を規定するように中間軸部63mに係合可能な軸部受け面73とを有している。これにより、入力回転体60及び中間回転体70を、それらの板厚増大を抑えて軸方向にコンパクトな組立体として取り扱い可能となり、伝動装置Tの更なる小型化が達成可能となる。しかも入力回転体60の第1,第2支持板61,62間を結合する連結手段(リベット63)が第1ストッパ機構ST1の一部を兼ねるから、構造簡素化や部品点数の削減が図られる。
【0098】
また実施形態において、円環状の中間回転体70の内周部には、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2を受ける第1ばね受け部70sを有する複数の第1ばね受け突起71が径方向内向きに且つ周方向に間隔をおいて設けられると共に、その各々の第1ばね受け突起71に、第1ばね受け部70sよりも径方向内方側に延出するストッパ突起部74が連設される。一方、円環状の出力回転体80の外周部には、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2を受ける第2ばね受け部80sを有する複数の第2ばね受け突起82が径方向外向きに且つ周方向に複数の第1ばね受け突起71と交互に並ぶように設けられ、第2ストッパ機構ST2は、周方向で隣り合う第2ばね受け突起82の中間位置で出力回転体80の外周部に凹設される係合溝部83と、その係合溝部83内に周方向移動可能に受容されるストッパ突起部74とを有していて、中間回転体70及び出力回転体80相互の加速時・減速時における各相対回転限界を規定するようにストッパ突起部74が係合溝部83の周方向両内端部に係合可能である。これにより、第1ばね受け突起71に連設したストッパ突起部74は、これが係合溝部83内に受容されることで、出力回転体80と径方向に重なり合う配置となるため、伝動装置Tを径方向により小型化できる。
【0099】
しかも上記ストッパ突起部74の先部が係合溝部83の内底面に摺動可能に接触し、該接触により中間回転体70が出力回転体80に対し径方向に位置決め可能である。これにより、第2ストッパ機構ST2の一部であるストッパ突起部74が、中間回転体70の出力回転体80に対する径方向位置決め手段を兼ねることとなり、それだけ構造簡素化や部品点数の削減が図られる。
【0100】
また実施形態では、ダイナミックダンパDDが中間回転体70の外周部に接続されるため、ダイナミックダンパDDの特設に伴う軸方向寸法増を極力抑制しながら、そのダイナミックダンパDDを以て伝動装置Tの減衰性能をより高めることができる。
【0101】
更に実施形態では、一次ダンパばねS1のばね定数が、二次ダンパばねS2のばね定数よりも大きいので、加速に伴い中間回転体70が出力回転体80に対し
図6(2)に示す如く相対回転限界に達したときに、第2ストッパ機構ST2でトルク負荷が受け止められると共に、それまでに弾性変形した比較的低剛性の二次ダンパばねS2の変形荷重が出力回転体80のばね受け部80sで受け止められる。これにより、そのばね受け部80sと第2ストッパ機構ST2とで荷重分散が図られ、その上、二次ダンパばねS2の上記変形荷重も低減されることから、出力回転体80の発生応力の更なる低減が図られる。
【0102】
これに対し、減速時に第2ストッパ機構ST2が
図7(3)に示す如くストッパ作動する際に、出力回転体80のばね受け部80sに作用する一次ダンパばねS1の変形荷重は、同ばねS1の剛性が高い場合の方がより大きくなってダンパ強度上、不利となるが、一般的な自動車用トルクコンバータに含まれるダンパ装置で発生するトルクや頻度は、加速時の方が減速時よりも高いため、一次ダンパばねS1を比較的高剛性として特に加速時における出力回転体80の応力低減を達成可能とした本実施形態は、より優位となる。
【0103】
その上、実施形態では、第1ストッパ機構ST1で規定される入力回転体60及び中間回転体70相互の、加速時における相対回転の限界角度θa(
図6(1)を参照)が、出力回転体80及び中間回転体70相互の、減速時における相対回転の限界角度θb(
図7(1)を参照)よりも大きくなるように設定される。これにより、減速時には高剛性の一次ダンパばねS1の限界圧縮量を加速時よりも減らし、限界圧縮後の更なる荷重は第2ストッパ機構ST2で受け止めることにより、一次ダンパばねS1の圧縮荷重を受ける第2ばね受け突起82の根元部における応力を効果的に低減可能となる。従って、出力回転体80の発生応力の更なる低減が図られる。
【0104】
更にまた実施形態では、ロックアップクラッチLにより流体伝動と機械伝動を切換え可能なトルクコンバータTCが、上記した格別顕著な作用効果を発揮し得るダンパ機能付き伝動装置Tを機械伝動のために具備するので、この伝動装置Tを含むトルクコンバータTCの構造簡素化や軽量且つ小型化、コスト節減が達成可能となる。
【0105】
以上第1実施形態の作用を説明したが、第2実施形態においても、基本的に第1実施形態と同等の作用を達成可能である。
【0106】
また
図9には、第3実施形態が示される。第1,第2実施形態では、中間回転体70の外周に径方向外向きのストッパ凸部Stが、また第1保持板41(慣性回転体40)の外周部内面に径方向内向きのストッパ凹部Soがそれぞれ設けられるものを示したが、第3実施形態では、観点を変えて、第1,第2実施形態における中間回転体70の外周部のうち隣り合うストッパ凸部Stで挟まれた部分に形成される径方向外向き凹部を、第3実施形態のストッパ凹部Soとする。また第1,第2実施形態における第1保持板41(慣性回転体40)の外周部内面のうち隣り合うストッパ凹部Soで挟まれた部分に形成される径方向内向き凸部を、第3実施形態のストッパ凸部Stとする。
【0107】
そして、この第3実施形態では、中間回転体70の外周部の径方向外向きのストッパ凹部Soの底面Sofと、第1保持板41(慣性回転体40)の外周部内面の径方向内向きのストッパ凸部Stの先端面Stfとが摺動可能に当接し、その当接により、伝動回転部材70及び慣性回転体40の相互が径方向に位置決めされる。
【0108】
第3実施形態のその他の構成は、第1,第2実施形態と同様であるので、各構成要素に第1,第2実施形態の対応する構成要素の参照符号を付すにとどめ、これ以上の説明は省略する。而して、第3実施形態でも、第1,第2実施形態と同様の作用構成を達成可能である。
【0109】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0110】
例えば、前記実施形態では、本発明に係る伝動装置として、自動車用のロックアップ機構付きトルクコンバータTCに内蔵されてロックアップクラッチLの接続状態でエンジンEから出力軸27側への機械伝動を担う伝動装置Tを例示したが、本発明の伝動装置は、トルクコンバータTC以外の種々の機械装置の動力伝達装置に適用してもよい。
【0111】
また前記実施形態では、ロックアップクラッチLが非接続状態(即ち動力伝達経路46が非伝動状態)にある場合に、
図5で明らかなようにダイナミックダンパばねS3を圧縮状態(即ち同ばねS3に対し所定のプリセット荷重、即ち予圧が付与された状態)で、中間回転体70と慣性回転体40間にセットしたものを示したが、ダイナミックダンパばねS3を、これにプリセット荷重を付与しないで中間回転体70と慣性回転体40間にセットしてもよい。
【0112】
また前記実施形態では、ダイナミックダンパばねS3を除くダンパばねとして、一次ダンパばねS1及び二次ダンパばねS2を示したが、ダンパばねの数及び配列は、実施形態に限定されず、少なくとも動力伝達経路46内に配設されてダンパ機能を発揮可能なものであればよい。
【符号の説明】
【0113】
DD・・・・・ダイナミックダンパ
L・・・・・・ロックアップクラッチ
S1,S2・・一次ダンパばね,二次ダンパばね
S3・・・・・ダイナミックダンパばね
ST3・・・・ストッパ機構としての第3ストッパ機構
So・・・・・ストッパ凹部
Sof・・・・ストッパ凹部の底面
St・・・・・ストッパ凸部
Stf・・・・ストッパ凸部の先端面
T・・・・・・伝動装置
TC・・・・・トルクコンバータ
W・・・・・・慣性重錘
40・・・・・慣性回転体
40s・・・・ばね受け
41,42・・一対の保持板としての第1,第2保持板
41h,42h・・ばねホルダ部
46・・・・・動力伝達経路
48・・・・・結合具としてのリベット
60,80・・入力回転体,出力回転体
70・・・・・伝動回転部材としての中間回転体
70o・・・・貫通孔
90・・・・・仮想円