(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121106
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20220812BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20220812BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220812BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220812BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220812BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/13
H01M4/587
H01M4/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018274
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】507317502
【氏名又は名称】エリーパワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】古谷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】原 富太郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM06
5H029AM07
5H029AM09
5H029BJ03
5H029BJ12
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ10
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050FA02
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れたハイレート充放電特性を有するリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、リチウム塩を含むイオン液体電解質とを含み、前記負極は、負極集電シートと、前記負極集電シート上に設けられた多孔質の負極活物質層とを有し、前記負極活物質層の厚さは、1μm以上90μm以下であり、前記イオン液体電解質中の前記リチウム塩の濃度は、1.6mol/L以上4.0mol/L以下であり、水銀圧入法により測定される前記負極活物質層の比表面積あたりの、前記負極活物質層の細孔の前記イオン液体電解質における前記リチウム塩の物質量は、31.0×10
-5mol/m
2以上78.0×10
-5mol/m
2以下であることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、リチウム塩を含むイオン液体電解質とを含み、
前記負極は、負極集電シートと、前記負極集電シート上に設けられた多孔質の負極活物質層とを有し、
前記負極活物質層の厚さは、1μm以上90μm以下であり、
前記イオン液体電解質中の前記リチウム塩の濃度は、1.6mol/L以上4.0mol/L以下であり、
水銀圧入法により測定される前記負極活物質層の比表面積あたりの、前記負極活物質層の細孔の前記イオン液体電解質における前記リチウム塩の物質量は、31.0×10-5mol/m2以上78.0×10-5mol/m2以下であることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記イオン液体電解質に含まれるイオン液体は、MPP-FSI又はEMI-FSIである請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記リチウム塩は、LiFSIである請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記負極活物質層は、負極活物質として炭素を含む請求項1~3のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記正極は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含む請求項1~4のいずれか1つに記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高いため、スマートフォン、ノートパソコンなどの電子・電気機器に幅広く搭載されている。リチウムイオン電池では一般的に電解液としてリチウム塩を非水溶媒に分散させた可燃性の非水電解液が用いられる。また、リチウムイオン電池では、過充電、正極-負極間の短絡などに起因して発熱する場合がある。さらに、正極活物質は、熱分解や過充電などにより結晶中の酸素を放出する場合がある。このため、リチウムイオン電池は、異常発熱や発火のおそれがある。
この異常発熱や発火による事故を防止するために、リチウムイオン電池の電解質溶媒にイオン液体を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。イオン液体は、アニオンとカチオンから構成される液体であり、一般的に蒸気圧が低く不燃性である。従って、イオン液体を電解質溶媒に用いることにより、リチウムイオン電池の安全性を向上させることができる。
一方、電気自動車用バッテリーやエンジン始動用バッテリーは大きな放電電流を出力する必要があるため、優れたハイレート放電特性を有するリチウムイオン電池が必要とされている。また、高速充電が求められるため、優れたハイレート充電特性を有するリチウムイオン電池が必要とされている。一般的に、Cレート(充電及び放電のスピードであり、定電流充放電測定の場合、電池の理論容量を1時間で完全充電(または放電)させる電流の大きさが1Cと定義される)が5C以上であれば、ハイレートであると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン液体電解質におけるリチウムイオンの伝導性は比較的低い。さらにイオン液体電解質の粘度は比較的高い。このため、充放電に伴う正極と負極との間のリチウムイオンの移動速度が律速(ボトルネック)となり、リチウムイオン電池のハイレート充放電特性が低下する場合がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れたハイレート充放電特性を有するリチウムイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、リチウム塩を含むイオン液体電解質とを含み、前記負極は、負極集電シートと、前記負極集電シート上に設けられた多孔質の負極活物質層とを有し、前記負極活物質層の厚さは、1μm以上90μm以下であり、前記イオン液体電解質中の前記リチウム塩の濃度は、1.6mol/L以上4.0mol/L以下であり、水銀圧入法により測定される前記負極活物質層の比表面積あたりの、前記負極活物質層の細孔の前記イオン液体電解質における前記リチウム塩の物質量は、31.0×10-5mol/m2以上78.0×10-5mol/m2以下であることを特徴とするリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のリチウムイオン電池は上記特徴を有することにより優れたハイレート充放電特性を有する。このことは、本願発明者等が行った実験により明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態のリチウムイオン電池に含まれる負極の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリチウムイオン電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、リチウム塩を含むイオン液体電解質とを含み、前記負極は、負極集電シートと、前記負極集電シート上に設けられた多孔質の負極活物質層とを有し、前記負極活物質層の厚さは、1μm以上90μm以下であり、前記イオン液体電解質中の前記リチウム塩の濃度は、1.6mol/L以上4.0mol/L以下であり、水銀圧入法により測定される前記負極活物質層の比表面積あたりの、前記負極活物質層の細孔の前記イオン液体電解質における前記リチウム塩の物質量は、31.0×10-5mol/m2以上78.0×10-5mol/m2以下であることを特徴とする。
【0009】
前記イオン液体電解質に含まれるイオン液体は、MPP-FSI又はEMI-FSIであることが好ましい。
前記リチウム塩は、LiFSIであることが好ましい。
前記負極活物質層は、負極活物質として炭素を含むことが好ましい。
前記正極は、正極活物質としてリン酸鉄リチウムを含むことが好ましい。
【0010】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0011】
図1は本実施形態のリチウムイオン電池の概略断面図であり、
図2は負極の部分断面図である。
本実施形態のリチウムイオン電池20は、正極2と、負極3と、正極2と負極3との間に配置されたセパレータ4と、リチウム塩を含むイオン液体電解質5とを含み、負極3は、負極集電シート11と、負極集電シート11上に設けられた多孔質の負極活物質層12とを有し、負極活物質層12の厚さは、1μm以上90μm以下であり、イオン液体電解質5中の前記リチウム塩の濃度は、1.6mol/L以上4.0mol/L以下であり、水銀圧入法により測定される負極活物質層12の比表面積あたりの、負極活物質層12の細孔のイオン液体電解質5における前記リチウム塩の物質量は、31.0×10
-5mol/m
2以上78.0×10
-5mol/m
2以下であることを特徴とする。
リチウムイオン電池20は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。
【0012】
正極2は、正極集電シート6と、正極集電シート6上に設けられた多孔質の正極活物質層7とを有する。
正極集電シート6は、正極活物質層7を設けるための基材となるシートであり、正極電池端子(例えば、正極缶16)と正極活物質層7とを電気的に接続する導電体である。正極集電シート6は、例えば、アルミニウム箔である。
【0013】
正極活物質層7は、多孔質層であり、正極活物質を含む層である。正極活物質層7は、正極集電シート6の片面上に設けられてもよく、正極集電シート6の両面上にそれぞれ設けられてもよい。
正極活物質層7の厚さ(正極集電シート6と正極活物質層7との接触面から正極活物質層7の表面までの長さ)は、1μm以上100μm以下である。
正極活物質層7の厚さを1μm以上とすることにより、正極2に含まれる正極活物質の量を多くすることができ、リチウムイオン電池の容量を大きくすることができる。また、正極活物質層7を塗工により容易に形成することが可能になる。
正極活物質層7の厚さを100μm以下とすることにより、正極活物質層7と正極集電シート6との界面付近と、正極活物質層7の表面付近との間のリチウムイオンの移動距離(拡散距離)を短くすることができ、放電時に前記界面付近の細孔のイオン液体電解質においてリチウムイオンが不足すること及び充電時に前記界面付近の細孔のイオン液体電解質においてリチウムイオンが過剰になることを抑制することができる。
【0014】
正極活物質は、正極における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。正極活物質層7に含まれる正極活物質は、例えば、オリビン型のLiFePO4、LixFe1-yMyPO4(但し、0.05≦x≦1.2、0≦y≦0.8であり、MはMn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nbのうち少なくとも1種以上である)、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(x=0.01~0.99)、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoxMnyNizO2(x+y+z=1)などである。正極活物質層7は、これらの正極活物質を一種単独で又は複数種混合で含むことができる。また、正極活物質は、金属リチウムであってもよい。この場合、正極集電シート6を省略することができる。
【0015】
正極活物質層7は、正極活物質の粉体がバインダにより接着された多孔質構造を有することができる。このことにより、正極活物質層7は、正極活物質粒子間に細孔を有することができる。この細孔はイオン液体電解質5で満たされ、正極活物質粒子の表面において電極反応が進行する。
例えば、リチウムイオン電池20を充電する際には、正極活物質粒子に含まれるリチウム原子がリチウムイオン(Li+)としてイオン液体電解質5に放出され、リチウムイオン電池20が放電する際には、イオン液体電解質5のリチウムイオンがリチウム原子として正極活物質粒子中に挿入される。
【0016】
正極活物質層7に含まれる正極活物質粒子は、その表面に導電皮膜を有することができる。このことにより、電極反応が進行する粒子表面の導電性を向上させることができ、正極2の内部抵抗を低くすることができる。導電皮膜は、例えば、炭素皮膜である。
【0017】
正極活物質層7は、導電助剤を含むことができる。このことにより、正極活物質層7の導電性を向上させることができ、正極2の内部抵抗を低減することができる。導電助剤は、例えば、アセチレンブラックである。また、導電助剤は、易黒鉛化性炭素であるコークス系ソフトカーボンの微粒子であってもよい。
正極活物質層7は、バインダーを含むことができる。バインダーは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アクリロニトリルゴム、又はアクリロニトリルゴム-PTFE混合体などである。
【0018】
例えば、正極活物質の粉末と、導電助剤と、バインダーとを混合してペーストを調製し、このペーストを正極集電シート6上に塗布する(例えば、ロールtoロール塗工方式)。その後、塗布層を乾燥させ、プレス処理することにより正極活物質層7を形成することができる。ペーストの調製に用いる溶媒としては、水、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等が挙げられる。
また、正極活物質の粉末と、導電助剤と、バインダーと、イオン液体電解質と、溶媒とを混合してペーストを調製し、このペーストを正極集電シート6上に塗布する。その後、塗布層を乾燥させ、プレス処理することにより正極活物質層7を形成することができる。この際、ゲル化したイオン液体電解質を用いてもよい。このことにより、正極活物質層7が正極活物質の近傍にイオン液体電解質を保持することができる。
【0019】
負極3は、負極活物質を有する電極である。負極活物質は、負極における電荷移動を伴う電子の受け渡しに直接関与する物質である。負極活物質は、例えば、炭素材料(ソフトカーボン、ハードカーボン、黒鉛など)、金属リチウム、チタン酸リチウム(LTO)、Sn合金などである。
【0020】
負極3は、負極集電シート11と、負極集電シート11上に設けられた多孔質の負極活物質層12とを備えることができる。負極集電シート11は、負極活物質層12を設けるための基材となるシートであり、負極電池端子(例えば負極缶17)と負極活物質層12とを電気的に接続する導電体である。負極集電シート11は、例えば、銅箔である。
負極活物質層12は、多孔質層であり、負極活物質を含む層である。負極活物質層12は、負極集電シート11の片面上に設けられてもよく、負極集電シート11の両面上にそれぞれ設けられてもよい。負極活物質層12は、例えば、負極活物質の微粒子を含むことができる。
負極活物質層12は、バインダーを含むことができる。バインダーは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリルゴム、又はアクリロニトリルゴム-PTFE混合体などである。
負極活物質層12は、増粘剤を含むことができる。増粘剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)である。
【0021】
負極活物質層12の厚さ(負極集電シート11と負極活物質層12との接触面から負極活物質層12の表面までの長さ)は、1μm以上90μm以下である。
負極活物質層12の厚さを1μm以上とすることにより、負極3に含まれる負極活物質の量を多くすることができ、リチウムイオン電池の容量を大きくすることができる。また、負極活物質層12を塗工により容易に形成することが可能になる。
負極活物質層12の厚さを90μm以下とすることにより、負極活物質層12と負極集電シート11との界面付近と、負極活物質層12の表面付近との間のリチウムイオンの移動距離(拡散距離)を短くすることができ、充電時に前記界面付近の細孔13のイオン液体電解質5においてリチウムイオンが不足すること及び放電時に前記界面付近の細孔13のイオン液体電解質5においてリチウムイオンが過剰になることを抑制することができる。
【0022】
負極活物質層12は、負極活物質の粉体がバインダにより接着された多孔質構造を有することができる。このことにより、負極活物質層12は、負極活物質粒子間に細孔を有することができる。この細孔13はイオン液体電解質5で満たされ、負極活物質粒子の表面において電極反応が進行する。
例えば、リチウムイオン電池20を充電する際には、イオン液体電解質5のリチウムイオンがリチウム原子として負極活物質粒子中に挿入され、リチウムイオン電池20が放電する際には、負極活物質粒子に含まれるリチウム原子がリチウムイオン(Li+)としてイオン液体電解質5に放出される。
【0023】
例えば、
図2に示したような負極活物質層12の負極活物質9の表面において充電に伴い電極反応が進行すると、細孔13を満たすイオン液体電解質5のリチウムイオンがリチウム原子として負極活物質9に挿入される。このため、細孔13を満たすイオン液体電解質5のリチウムイオン濃度が低下し、負極活物質層12の外部のイオン液体電解質5と、細孔13を満たすイオン液体電解質5との間にリチウムイオンの濃度差が生じる。この濃度差により、負極活物質層12の外部のイオン液体電解質5に含まれるリチウムイオンは細孔13のイオン液体電解質5へ拡散し、リチウムイオン濃度が低下した細孔13内のイオン液体電解質5にリチウムイオンが供給される。しかし、負極活物質層12の厚さが90μmにより厚いと、リチウムイオンの移動距離(拡散距離)が長くなり負極活物質層12と負極集電シート11との界面付近の細孔13内のイオン液体電解質5に十分なリチウムイオンが供給されず、電極反応の速度が低下する場合がある。
従って、負極活物質層12の厚さを90μm以下とすることにより、このような電極反応の速度低下を抑制することができ、リチウムイオン電池20のハイレート充放電特性を向上させることができる。
【0024】
負極活物質層12の比表面積(水銀圧入法により測定される比表面積)は、1m2/g以上10m2/gとすることができる。このことにより、電極反応が進行する負極活物質9の表面を広くすることができ、リチウムイオン電池20の充放電特性を向上させることができる。
また、負極活物質層12の細孔体積(水銀圧入法により測定される細孔体積)は、0.05ml/g以上0.8ml/g以下とすることができる。このことにより、細孔を満たすイオン液体電解質5の量を多くすることができ、リチウムイオン電池20の充放電特性を向上させることができる。また、負極活物質層12が十分な物理的強度を有することができる。
【0025】
例えば、負極活物質の粉末と、バインダーと、増粘剤とを混合してペーストを調製し、このペーストを負極集電シート11上に塗布する。その後、塗布層を乾燥させ、プレス処理することにより負極活物質層12を形成することができる。ペーストの調製に用いる溶剤としては、例えば、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、イソプロパノール、トルエン等である。
また、負極活物質の粉末と、バインダーと、増粘剤と、イオン液体電解質と、溶媒とを混合してペーストを調製し、このペーストを負極集電シート11上に塗布する。その後、塗布層を乾燥させ、プレス処理することにより負極活物質層12を形成することができる。この際、ゲル化したイオン液体電解質を用いてもよい。このことにより、負極活物質層12が負極活物質の近傍にイオン液体電解質を保持することができる。
【0026】
負極活物質層12は、プレス処理が施されていないものであってもよい(未プレスの負極活物質層12)。このことにより、負極活物質層12内の細孔体積を大きくすることができ、細孔内のイオン液体電解質5においてリチウムイオンの不足や過剰が生じることを抑制することができる。
また、負極活物質層12は、2%以上24%以下の圧縮率でプレス処理が施されたものであってもよい。このことにより、負極活物質層12の負極活物質密度を高くすることができ、リチウムイオン電池の電池容量を大きくすることができる。
【0027】
セパレータ4は、シート状であり、正極2と負極3との間に配置される。また、セパレータ4は、正極2、負極3と共に
図1に示したような電極積層体を構成することができる。セパレータ4を設けることにより、正極2と負極3との間に短絡電流が流れることを防止することができる。
セパレータ4は、短絡電流が流れることを防止でき、正極-負極間を伝導するイオンが透過可能なものであれば特に限定されないが、例えばポリオレフィンの微多孔性フィルム、セルロースシート、ガラスフィルター、ポリオレフィン、セルロース等の繊維からなる不織布、織布とすることができる。
【0028】
イオン液体電解質5は、正極-負極間のイオン伝導媒体である。イオン液体電解質5は、アニオンとカチオンから構成されるイオン液体と、イオン液体に溶解したリチウム塩とを含む。
イオン液体は、アニオンとカチオンから構成される液体である。イオン液体は一般的に蒸気圧が低く燃えにくいため、イオン液体電解質5を用いることにより、リチウムイオン電池20の安全性を向上させることができる。
【0029】
イオン液体電解質5に含まれるイオン液体は、例えば、アニオンであるビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(以下、FSIイオンという)と、カチオンであるピロリジニウム系イオンとから構成される。具体的には、イオン液体は、FSIイオンと、メチルプロピルピロリジニウムイオン(以下、MPPイオンという)とから構成される(MPP-FSI又はMPP-FSA)。
また、イオン液体電解質5に含まれるイオン液体は、例えば、アニオンであるFSIイオンと、カチオンであるイミダゾリウム系イオンとから構成される。具体的には、イオン液体は、FSIイオンと、エチルメチルイミダゾリウムイオン(以下、EMIイオンという)とから構成される(EMI-FSI又はEMI-FSA)。
【0030】
イオン液体電解質5に含まれるリチウム塩(イオン液体に溶解したリチウム塩)は、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、LiFSIという)又はリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(以下、LiTFSIという)である。このようなリチウム塩を用いることにより、リチウム塩をイオン液体に比較的に高い濃度で溶解させることができる。
【0031】
イオン液体電解質5中のリチウム塩の濃度は、1.6mol/L以上4.0mol/L以下とすることができる。リチウム塩濃度を1.6mol/L以上とすることにより、ハイレートで充電する際に負極活物質層12の細孔13のイオン液体電解質5においてリチウムイオンが不足すること(濃度過電圧が大きくなること)を抑制することができ、リチウムイオン電池20のハイレート充放電特性を向上させることができる。また、リチウム塩濃度を4.0mol/L以下とすることによりリチウム塩が析出することを抑制することができる。また、リチウム塩濃度が4.0mol/Lより高くなるとリチウム塩がイオン液体に溶解しにくくなりイオン液体電解質5の調製が困難になる。
【0032】
水銀圧入法により測定される負極活物質層12の比表面積あたりの、負極活物質層12の細孔13のイオン液体電解質5におけるリチウム塩の物質量は、平衡状態において31.0×10-5mol/m2以上78.0×10-5mol/m2以下である。
電極反応は負極活物質9の表面において進行する。つまり、負極活物質層12の比表面積が広いほど細孔13のイオン液体電解質5におけるリチウムイオンの消費速度が速くなる。また、イオン液体電解質5は比較的粘度が高く、負極活物質層12の外部のイオン液体電解質5から細孔13のイオン液体電解質5へのリチウムイオンの供給速度が比較的遅い。このため、負極活物質層12の比表面積(つまり、負極活物質9とイオン液体電解質5との接触面積)あたりの細孔13のイオン液体電解質5におけるリチウム塩の物質量を31.0×10-5mol/m2以上とすることにより、ハイレートで充電する際に負極活物質層12の細孔13のイオン液体電解質5においてリチウムイオンが不足すること(濃度過電圧が大きくなること)を抑制することができ、ハイレート充電に伴う電極反応を速やかに進行させることができる。また、リチウム塩の物質量を78.0×10-5mol/m2以下とすることにより、負極活物質9の表面付近においてリチウムイオンが干渉することを抑制することができ、電極反応に要するエネルギーが増大すること(濃度過電圧が大きくなること)を抑制することができる。これらの結果、リチウムイオン電池20のハイレート充放電特性を向上させることができる。このことは、本願発明者等が行った実験により明らかになった。
【0033】
定電流充放電試験
CR2032コインセル(直径:20mm、高さ:3.2mm)を用いて表1~表6に示した試料1~27のリチウムイオン電池を作製し、定電流充放電試験を行った。充放電レートは10Cとした。
銅箔(負極集電シート)の片面上に負極活物質のペーストを塗工し乾燥させることにより負極活物質層を形成し負極を作製した。試料1~27のすべての電池で負極活物質にソフトカーボン(SC)を用いた。各試料の負極活物質の塗布質量、負極活物質層の厚さは表1、表3、表5に示した。また、試料15、16、18~20、22~24、26、27の電池に含まれる負極活物質層にはプレス処理を施している。各試料における圧縮率を表5に示している。
【0034】
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また、同じように形成した負極活物質層(プレス処理なし)の比表面積A(細孔面積)及び負極活物質層内の細孔体積Vを水銀圧入式ポロシメータを用いて測定した。試料1~27の負極活物質層では、同じように調製した負極活物質ペーストを用いて形成しているため、表2、4、6に示したように、単位質量あたりの比表面積は同じである。また、試料1~14、17、21、25の負極活物質層では、圧縮率が0%であるため、表2、4、6に示したように細孔体積Vは同じである。また、試料15、16、18~20、22~24、26、27では、プレス処理により比表面積は変化せずに空孔体積のみ変化すると仮定して圧縮率に基づき細孔体積Vを算出している。
【0041】
作製した負極、セパレータ(不織布)、リチウム箔(正極)及びイオン液体電解質を用いてコインセルを作製した。イオン液体電解質には、リチウム塩が溶解したイオン液体を用いた。イオン液体には、MPP-FSI(メチルプロピルピロリジニウム-ビス(フルオロスルホニル)イミド)又はEMI-FSI(エチルメチルイミダゾリウム-ビス(フルオロスルホニル)イミド)を用いた。また、リチウム塩には、Li-FSI(リチウム-ビス(フルオロスルホニル)イミド)を用いた。使用したイオン液体の種類やリチウム塩の濃度Cは、表1、3、5に示している。また、表2、4、6には、式:(リチウム塩の濃度C)×(負極活物質層内の細孔体積V)/(負極活物質層の比表面積A)で算出したa値も示している。このa値は、負極活物質層の比表面積あたりの、負極活物質層の細孔のイオン液体電解質におけるリチウム塩の物質量を示している。
【0042】
作製した試料1~27のリチウムイオン電池を用いて定電流充放電試験を行った(充電:CCCV、放電:CC)。充放電レートは10Cとした。測定結果から算出した10C放電容量を表2、4、6に示す。
【0043】
試料1~5のリチウムイオン電池では、表1に示したように、イオン液体電解質のリチウム塩濃度Cが異なっている。リチウム塩濃度が最も低い試料1では、表2に示したように、10C放電容量が67.6mAh/gとなり、試料2、3ではリチウム塩濃度が高くなるにつれ10C放電容量も大きくなっていった。しかし、試料4、5ではリチウム塩濃度が試料3よりも高いが、10C放電容量は試料3よりも小さくなった。また、特に、試料1の10C放電容量は試料2~5に比べ低くなった。
試料1では、リチウムイオンの不足による濃度過電圧が大きくなり10C放電容量が小さくなったと考えられる。また、試料4、5では、リチウムイオンの過多による濃度過電圧が試料3よりも大きくなったと考えられる。
また、リチウム塩濃度を1.6mol/L以上4.0mol/L以下とすると、充放電反応時のリチウムイオンの過不足が生じにくくハイレート充放電が可能であることがわかった。
【0044】
試料6~8のリチウムイオン電池では、表1に示したように、イオン液体電解質にEMI-FSIを用いている。試料6では、試料1と同様にリチウム塩濃度を0.8mol/Lとしており、表2に示したように、10C放電容量も試料1と同様に比較的小さかった。また、試料7では、試料3と同様にリチウム塩濃度を2.4mol/Lとしており、10C放電容量も試料3と同様に比較的大きかった。また、試料8では、リチウム塩濃度が試料7よりも高いが、10C放電容量は試料7よりも低くなった。従って、イオン液体にEMI-FSIを用いた試料6~8は、イオン液体にMPP-FSIを用いた試料1~5と同じようなリチウム塩濃度依存性を示すことがわかった。
【0045】
試料9~13のリチウムイオン電池では、表3に示したように、負極活物質層の厚さ(負極活物質の塗布質量)が異なっている。負極活物質層の厚さが最も厚い試料9では、表4に示したように、10C放電容量が27.5mAh/gとなり、試料10~13では負極活物質層の厚さが薄くなるにつれ(負極活物質の塗布質量が少なくなるにつれ)10C放電容量は大きくなっていった。特に、試料9、10の10C放電容量は他の試料に比べ低くなった。
試料9、10では、負極活物質層の厚さが厚いため、負極活物質層の深部に負極活物質層の外部のリチウムイオンが供給されてにくくなり、この深部においてリチウムイオンの不足による濃度過電圧が大きくなり10C放電容量が低くなったと考えられる。
また、試料の厚さを90μm以下とすることにより、充放電反応時のリチウムイオンの移動距離由来のリチウムイオンの過不足が生じ難く、リチウムイオン電池のハイレート充放電が可能であることがわかった。
【0046】
表5に示したように、試料14~16のリチウムイオン電池では負極活物質の塗布質量が1.17g/□であり、試料17~20のリチウムイオン電池では負極活物質の塗布質量が0.83g/□であり、試料21~24のリチウムイオン電池では負極活物質の塗布質量が0.62g/□であり、試料25~27のリチウムイオン電池では負極活物質の塗布質量が0.38g/□である。また、これらの試料では、負極活物質層の圧縮率を表5のように変化させた。
【0047】
これらの試料では、負極活物質の塗布量が少なくなるにつれ10C放電容量が大きくなっていった。これは、試料9~13と同様の傾向である。
また、負極活物質の塗布量が同じである試料の中では、圧縮率が大きい試料なるほど10C放電容量が小さくなった。これは、プレス処理により負極活物質層内の細孔体積Vが小さくなり、負極活物質層内のイオン液体電解質の量が少なくなり、その結果、リチウムイオンの不足による濃度過電圧が大きくなったためと考えられる。
また、表2、4、6に示した負極活物質層の比表面積Aあたりの、負極活物質層の細孔のイオン液体電解質におけるリチウム塩の物質量(a値=C×V/A)を31.0×10-5mol/m2以上78.0×10-5mol/m2以下とすると、充放電反応時のリチウムイオンの過不足が生じにくくハイレート充放電が可能であることがわかった。
また、a値が同じ場合、負極活物質層の厚みは薄いほうがよいことがわかった。これは、充放電反応時のリチウムイオンの移動距離が短くなりリチウムイオンが偏在し難くなるためと考えられる。
【符号の説明】
【0048】
2:正極 3:負極 4:セパレータ 5:イオン液体電解質 6:正極集電シート 7:正極活物質層 8:リチウムイオン 9:負極活物質 11:負極集電シート 12:負極活物質層 13:細孔 16:正極缶 17:負極缶 18:ガスケット 20:リチウムイオン電池