(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121108
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】レーザ電子光発生装置およびレーザ光源装置
(51)【国際特許分類】
H05G 2/00 20060101AFI20220812BHJP
G02F 1/37 20060101ALI20220812BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20220812BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H05G2/00 L
G02F1/37
H01S3/00 A
H01S3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018276
(22)【出願日】2021-02-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」委託研究、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】506161131
【氏名又は名称】スペクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】折井 庸亮
【テーマコード(参考)】
2K102
4C092
5F172
【Fターム(参考)】
2K102AA08
2K102AA32
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC02
2K102BD09
2K102DA01
2K102DC07
2K102DD06
4C092AA03
4C092AB27
5F172AE03
5F172AE09
5F172AF02
5F172AF06
5F172AM08
5F172DD01
5F172EE13
5F172EE19
5F172NN13
5F172NR22
5F172ZZ14
(57)【要約】
【課題】衝突タイミングの精度を向上させ、高い光量のレーザ電子光を得ることができるレーザ電子光発生装置およびレーザ光源装置を提供する。
【解決手段】レーザ電子光発生装置は、ゲインスイッチング法によりパルスレーザ光を生成する種光源を備えた光源部と、パルス電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、前記電子ビーム生成部で生成されたパルス電子ビームと、前記光源部で生成されたパルスレーザ光と、を衝突させて逆コンプトン散乱によるレーザ電子光を発生するレーザ電子光発生部と、前記レーザ電子光発生部における前記パルス電子ビームとの衝突タイミングを調節するトリガ信号であって、前記種光源を駆動するトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲインスイッチング法によりパルスレーザ光を生成する種光源を備えた光源部と、
パルス電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、
前記電子ビーム生成部で生成されたパルス電子ビームと、前記光源部で生成されたパルスレーザ光と、を衝突させて逆コンプトン散乱によるレーザ電子光を発生するレーザ電子光発生部と、
前記レーザ電子光発生部における前記パルス電子ビームとの衝突タイミングを調節するトリガ信号であって、前記種光源を駆動するトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、
を備えているレーザ電子光発生装置。
【請求項2】
前記光源部は、前記種光源から出力されたパルスレーザ光を増幅するハイブリッド光増幅器と、前記ハイブリッド光増幅器で増幅されたパルスレーザ光を波長変換する波長変換部を備えている請求項1記載のレーザ電子光発生装置。
【請求項3】
前記種光源から出力されるパルスレーザ光のパルス幅が0.1ピコ秒から100ピコ秒である請求項1または2記載のレーザ電子光発生装置。
【請求項4】
前記トリガ信号生成部は、パルス電子ビームの電子バンチとパルスレーザ光の衝突点が常にパルスレーザ光のレイリー長以内に収まるように前記トリガ信号を生成する請求項1から3の何れかに記載のレーザ電子光発生装置。
【請求項5】
前記電子ビーム生成部で生成されるパルス電子ビームの同期タイミングを検出するパルス電子ビーム検出部を備え、
前記トリガ信号生成部は、前記パルス電子ビーム検出部による同期タイミングに基づいて前記トリガ信号を生成する請求項1から4の何れかに記載のレーザ電子光発生装置。
【請求項6】
前記レーザ電子光発生部で生成されたレーザ電子光の強度を検出する強度検出部を備え、
前記トリガ信号生成部は、前記強度検出部によるレーザ電子光の強度に基づいて前記トリガ信号を生成する請求項1から5の何れかに記載のレーザ電子光発生装置。
【請求項7】
請求項1から7の何れかに記載のレーザ電子光発生装置に用いられるレーザ光源装置であって、
前記トリガ信号に基づいてゲインスイッチング法によりパルスレーザ光を生成する種光源と、
前記種光源から出力されたパルスレーザ光を増幅するハイブリッド光増幅器と、
前記ハイブリッド光増幅器で増幅されたパルスレーザ光を波長変換する波長変換部と、
を備えているレーザ光源装置。
【請求項8】
CW光を生成するCW光源と、
前記トリガ信号に基づいて前記CW光源を駆動して前記ハイブリッド光増幅器の励起状態を調節するCW光源制御部と、
をさらに備えている請求項7記載のレーザ光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ電子光発生装置およびレーザ光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビームとパルスレーザ光とを衝突させて逆コンプトン散乱によりX線またはγ線のようなレーザ電子光を生成するレーザ電子光発生装置が医療用途や分析用途として注目されている。そして、レーザ電子光発生装置の普及のために、小型化、高輝度化、高効率化が望まれている。
【0003】
図1に示すように、レーザ電子光ビームは発生点からコーン状に広がりながら伝搬する特徴を有するビームである。パルス電子ビームは光速(3×10
8m/s)で移動しており、パルスレーザ光との衝突タイミングがずれることでレーザ電子光ビームの発生点が大きくずれる。例えば、1ナノ秒ずれると衝突点が0.3mずれる。そのため、衝突タイミングに時間的なばらつきがあると輝度が低下する。
【0004】
レーザ逆コンプトン散乱によって散乱されるX線(散乱光子)の光子エネルギー(hν)は、レーザ(入射光子)の光子エネルギーをhν
0、電子ビームのエネルギーをγm
0c
2(ここでγはローレンツ因子、m
0は電子の静止質量、cは光速)、レーザとの衝突角をθ、散乱されるX線(散乱光子)の散乱角をφとすると、次式で表わすことができる。
【数1】
【0005】
[数1]に示すように、レーザ電子光ビームの光子エネルギーは、パルス電子ビームのエネルギー(γm0c2)とパルスレーザ光の光子エネルギー(hν0)によって決まる。
【0006】
また、レーザ電子光の強度は、短時間当たりの衝突回数f、トムソン散乱の散乱断面積σ
T、rをパルス電子ビームとパルスレーザ光のビーム径、電子の数ne、光子の数npとすると、次式で表わすことができる。
【数2】
【0007】
パルス電子ビームは加速器による加速過程で電子が空間的に密集した電子バンチが形成される。パルス電子ビームの時間幅は10ピコ秒程度である。レーザ電子光ビームの光量は上述した[数2]で与えられ、電子の数neに比例する。しかし、電子は自身が負の電荷をもっているため、neが増えると電子バンチ内での反発力が強まり電子バンチが広がる。そのため、光電子ビームの発生領域が拡大し輝度の低下を引き起こす。そのため、輝度を保ちつつ光量を上げるためには短時間当たりの衝突回数fを高める必要がある。
【0008】
特許文献1には、衝突タイミングの時間的なばらつきを抑制することを目的とする衝突タイミング調整装置として、電子ビームとレーザ光を衝突させて逆コンプトン散乱によりX線を発生させるX線発生装置における電子ビームとレーザ光の衝突タイミング調整装置が開示されている。
【0009】
当該衝突タイミング調整装置は、電子ビームの通過経路上に設けられ、電子ビームに影響を与えることなくその通過を検出する電子ビーム検出装置と、前記電子ビームの通過を検出後、所定の遅延時間経過後に、レーザ光の発生指令を出力するレーザ光指令遅延回路と、を備え、前記電子ビーム検出装置の設置位置は、電子ビームの通過時から該電子ビームが予定衝突点に到達するまでのビーム遅延時間が、レーザ光の発生指令から該レーザ光が予定衝突点に到達するまでのレーザ遅延時間よりも、前記遅延時間以上に長く設定されていることを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載されたような衝突タイミング調整装置を備えたレーザ電子光発生装置によれば、パルス電子ビームとパルスレーザ光との衝突タイミングを精度よく調整できるようになる。
【0012】
しかし、種光源としてQ-スイッチ方式のパルスレーザが用いられ、レーザ光の発生指令からパルスレーザが発生するまでの時間ジッタが数ナノ秒程度と大きい。また、パルスレーザ光のパルス幅(時間幅)が数ナノ秒と長いため、パルス幅(時間幅)が10ピコ秒程度のパルス電子ビームとの衝突ではパルスレーザ光のエネルギーが有効に活用されず、また繰返し周波数も一般的に数百kHzと低いため、短時間当たりの衝突回数fも十分に稼ぐことができないため、高輝度のレーザ電子光を得るという観点で不十分であった。
【0013】
また、種光源から出力されたパルスレーザ光をUV光に波長変換する場合に、ピークパワーを高めるべく波長変換素子へ入力するパルスレーザ光のビーム径を絞ると、波長変換効率の低下に加えて、波長変換素子に熱的な損傷を与えるという問題もあった。
【0014】
そこで、パルス幅(時間幅)が数ピコ秒と短いモード同期レーザを種光源に用いることが想定できるが、モード同期レーザからの出力光を所定のタイミングでパルスピッカーを用いて取り出す必要があり、その結果数十~数百ナノ秒程度のパルスレーザ光の時間的なばらつきの影響を受けて、衝突タイミングの精度が得られないという問題があった。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、衝突タイミングの精度を向上させ、高輝度高光量のレーザ電子光を得ることができるレーザ電子光発生装置およびレーザ光源装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーザ電子光発生装置の第一特徴構成は、ゲインスイッチング法によりパルスレーザ光を生成する種光源を備えた光源部と、パルス電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、前記電子ビーム生成部で生成されたパルス電子ビームと、前記光源部で生成されたパルスレーザ光と、を衝突させて逆コンプトン散乱によるレーザ電子光を発生するレーザ電子光発生部と、前記レーザ電子光発生部における前記パルス電子ビームとの衝突タイミングを調節するトリガ信号であって、前記種光源を駆動するトリガ信号を生成するトリガ信号生成部と、を備えている点にある。
【0017】
トリガ信号生成部により生成されたトリガ信号により種光源がゲインスイッチング法で駆動されることにより時間的なばらつきなくピコ秒のパルスレーザ光が得られ、パルス電子ビームと精度良く衝突させることができ、高輝度高光量のレーザ電子光ビームを得ることができるようになる。そして、種光源をゲインスイッチング法で駆動することで、高い繰返し周波数でパルスレーザ光を生成できるようになり、単位時間当たりの衝突回数を高めてさらに高い光量のレーザ電子光ビームを得ることができるようになる。
【0018】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記光源部は、前記種光源から出力されたパルスレーザ光を増幅するハイブリッド光増幅器と、前記ハイブリッド光増幅器で増幅されたパルスレーザ光を波長変換する波長変換部を備えている点にある。
【0019】
ハイブリッド増幅器によって種光源から出力されたパルスレーザ光を高ピークパワー化することができ、さらに波長変換部によって波長変換された高い光子エネルギーの高出力パルスレーザ光を得ることができる。
【0020】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記種光源から出力されるパルスレーザ光のパルス幅が0.1ピコ秒から100ピコ秒である点にある。
【0021】
高輝度のレーザ電子光ビームを得るために、パルス幅が0.1ピコ秒から100ピコ秒のパルスレーザ光を好適に用いることができる。
【0022】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記トリガ信号生成部は、パルス電子ビームの電子バンチとパルスレーザ光の衝突点が常にパルスレーザ光のレイリー長以内に収まるように前記トリガ信号を生成する点にある。
【0023】
パルス電子ビームのビーム径は概ね一定なのに対して、パルスレーザ光のビーム径は伝搬距離に対して大きく変化する。電子バンチとの衝突点が最適位置からずれるとレーザ光のビーム径が大きくなり、レーザ電子光の光量が劇的に低下する。しかし、パルスレーザ光のレイリー長以内でパルスレーザ光を電子バンチと衝突させることができ、高い光量のレーザ電子光ビームを得ることができる。
【0024】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記電子ビーム生成部で生成されるパルス電子ビームの同期タイミングを検出するパルス電子ビーム検出部を備え、前記トリガ信号生成部は、前記パルス電子ビーム検出部による同期タイミングに基づいて前記トリガ信号を生成する点にある。
【0025】
パルス電子ビーム検出部により検出されたパルス電子ビームの同期タイミングを基点にトリガ信号生成部がトリガ信号を生成することで、精度良くパルスレーザ光を電子バンチと衝突させることができるようになる。
【0026】
同第六の特徴構成は、上述した第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記レーザ電子光発生部で生成されたレーザ電子光の強度を検出する強度検出部を備え、前記トリガ信号生成部は、前記強度検出部によるレーザ電子光の強度に基づいて前記トリガ信号を生成する点にある。
【0027】
強度検出部により検出されたレーザ電子光の強度に基づいてトリガ信号生成部がトリガ信号を生成することで、精度良くパルスレーザ光を電子バンチと衝突させることができるようになる。
【0028】
本発明によるレーザ光源装置の第一の特徴構成は、上述した第一から第七の何れかの特徴構成を備えたレーザ電子光発生装置に用いられるレーザ光源装置であって、前記トリガ信号に基づいてゲインスイッチング法によりパルスレーザ光を生成する種光源と、前記種光源から出力されたパルスレーザ光を増幅するハイブリッド光増幅器と、前記ハイブリッド光増幅器で増幅されたパルスレーザ光を波長変換する波長変換部と、を備えている点にある。
【0029】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、CW光を生成するCW光源と、前記トリガ信号に基づいて前記CW光源を駆動して前記ハイブリッド光増幅器の励起状態を調節するCW光源制御部と、をさらに備えている点にある。
【0030】
例えば、トリガ信号の周期が長い場合に、ハイブリッド光増幅器を構成する各光増幅器が異常に高い励起状態となった状態で種光源からパルスレーザ光が出力されると、ハイブリッド光増幅器によりピークパワーが異常に高いパルスレーザ光が生成され、レーザ電子光ビームの強度が不安定になるばかりか、光増幅器や波長変換部の破損を招く虞がある。そのような場合でも、トリガ信号の発生状況に基づいてCW光源制御部がCW光源を駆動することでハイブリッド光増幅器の励起状態を調節して、レーザ電子光ビームの強度の安定を図り、光増幅器や波長変換部の破損を回避することができるようになる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明した通り、本発明によれば、衝突タイミングの精度を向上させ、高輝度高光量のレーザ電子光を得ることができるレーザ電子光発生装置およびレーザ光源装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図4】パルス電子ビームの電子バンチとパルスレーザ光の衝突点の関係説明図
【
図5】パルスレーザ光の平均出力に対するレーザ電子光の強度の特性図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明によるレーザ電子光発生装置およびレーザ光源装置の実施形態を説明する。
図2には、レーザ電子光発生装置の機能ブロック構成が示されている。
【0034】
レーザ電子光発生装置100は、ゲインスイッチング法によりパルスレーザ光を生成する種光源を備えた光源部1と、パルス電子ビームを生成する電子ビーム生成部2と、電子ビーム生成部2で生成されたパルス電子ビームと、光源部1で生成されたパルスレーザ光と、を衝突させて逆コンプトン散乱によるレーザ電子光を発生するレーザ電子光発生部3と、電子ビーム生成部2を制御するパルス電子ビーム制御部4と、レーザ電子光発生部3におけるパルス電子ビームとの衝突タイミングを調節するトリガ信号であって、種光源を駆動するトリガ信号を生成するトリガ信号生成部5と、を備えている。
【0035】
電子ビーム生成部2は、Xバンド(11.424GHz)の高周波電源により駆動されるRF電子銃と加速管等を備え、パルス電子ビーム制御部4により数十MeV程度の高エネルギーの電子ビームを生成する。
【0036】
電子ビーム生成部2はパルス電子ビーム制御部4により制御され、例えば、バンチ間隔が23.6ナノ秒の電子バンチがレーザ電子光発生部3に向けて放出される。
【0037】
電子ビーム生成部2から放出されたパルス電子ビームは、レーザ電子光発生部3に入力され、入力側の偏向磁石により直線経路を進むように偏向され、当該直線経路に設定された衝突部を通過した後に出力側の偏向磁石により外部に放出され、電子ビームダンパに吸収される。
【0038】
図3に示すように、光源部1は、種光源10と、CW光源20と、ハイブリッド光増幅器30と、波長変換部40と、種光源10を駆動するレーザドライバD1と、CW光源20を駆動するレーザドライバD2を備えている。光源部1は、本発明のレーザ光源装置として機能する。
【0039】
さらに、光源部1には、レーザドライバD1を駆動するトリガ信号生成部50と、レーザドライバD2を駆動するCW光源駆動部60を備えている。種光源10及びCW光源20は共に単一縦モードのレーザ光を出力する分布帰還型レーザダイオード(以下、「DFBレーザ」と記す。)が用いられる。
【0040】
レーザドライバD1を介してトリガ信号生成部50から出力される駆動信号1つについて、DFBレーザ10から1つのパルス幅が0.1ピコ秒から100ピコ秒のパルスレーザ光が出力される。光源部1は数百メガヘルツまでのトリガ信号に対して時間ばらつきなく応答し、複雑なトリガ信号パターンにも正確に応答する。
【0041】
ゲインスイッチング法を用いて種光源10を発光させるべく、トリガ信号生成部50からDFBレーザ10のドライバD1に所定パルス幅のトリガ信号が出力される。当該駆動回路からDFBレーザ10にトリガ信号に応じたパルス電流が印加されると緩和振動が発生し、緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光が出力される。ゲインスイッチング法とは、このような緩和振動を利用した短いパルス幅でピークパワーが大きいパルス光を発生させる方法をいう。
【0042】
ハイブリッド光増幅器20は、直列に接続された二段のファイバ増幅器と一段の固体増幅器を備え、種光源10から出力された波長1064nmのパルス光が二段のファイバ増幅器22,24で増幅され、さらに一段の固体増幅器で所望のレベルまで増幅される。
【0043】
ファイバ増幅器として、所定波長(例えば975nm)の励起用光源で励起されるイッテルビウム(Yb)添加ファイバ増幅器等の希土類添加光ファイバが用いられる。
【0044】
固体増幅器50としてNd:YVO4結晶やNd:YAG結晶等の固体レーザ媒体が好適に用いられる。発光波長808nmまたは888nmのレーザダイオードで構成される励起用光源から出力されコリメータによってビーム成形された励起光によって固体レーザ媒体が励起されるように構成されている。
【0045】
種光源10から出力された数ピコジュールから数百ピコジュールのパルスエネルギーのパルス光が、光増幅器20によって最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光に増幅される。
【0046】
尚、ファイバ増幅器及び固体増幅器の数は特に限定されることはなく、パルス光に対する所望の増幅率を得るために適宜設定すればよい。例えば三つのファイバ増幅器を縦続接続し、その後段に二つの固体増幅器を縦続接続してもよい。何れの場合も各光増幅器の励起用のレーザ光源は常時駆動されている。
【0047】
波長変換素子30として、LBO結晶(LiB3O5)と、CLBO結晶(CsLiB6O10)の2種類の非線形光学素子が用いられる。種光源10から出力され、光増幅器20で所定レベルに増幅された波長1064nmのパルス光が、LBO結晶(LiB3O5)で波長532nmに波長変換され、さらにCLBO結晶(CsLiB6O10)で波長266nmの深紫外線に波長変換される。なお、非線形光学素子の数や種類は、求める波長に従って適宜選択することが可能である。
【0048】
図1に戻って説明を続ける。光源部1から出力されたパルスレーザ光は、パルスレーザ光導入部6に入射し、入射側の偏向ミラー、集光レンズ、出射側の偏向ミラーを経由して、レーザ電子光発生部3に備えた衝突部に向けて、パルス電子ビームの進行方向と正反対の方向に向けて入射される。
【0049】
衝突部でパルス電子ビームとパルスレーザ光とを衝突させて発生する逆コンプトン散乱によるX線またはγ線でなるレーザ電子光が、ハーフミラーである出射側の偏向ミラーを透過して外部に出力される。衝突部を通過したパルスレーザ光は光ダンパにより減衰される。
【0050】
トリガ信号生成部5は、パルス電子ビーム制御部4から出力される同期信号、つまり電子ビーム生成部2で生成される電子バンチに同期し電子バンチが衝突位置に到る所定時間前のタイミング信号を基準に、上述した衝突部でパルス電子ビームと衝突するべく設定した遅延時間が経過した時点またはその前後の時点で種光源を駆動するトリガ信号を生成する。
【0051】
詳述すると、トリガ信号生成部5は、パルス電子ビーム制御部4から出力される同期信号を基準にして、パルス電子ビームの電子バンチとパルスレーザ光の衝突点が常にパルスレーザ光のレイリー長以内に収まるようにトリガ信号を生成する。
【0052】
パルス電子ビームのビーム径は一定なのに対して、パルスレーザ光のビーム径は伝搬距離に対して大きく変化する。電子バンチとの衝突点が最適位置からずれるとレーザ光のビーム径が大きくなり、レーザ電子光の光量が劇的に低下する。しかし、パルスレーザ光のレイリー長以内でパルスレーザ光を電子バンチと衝突させることができ、高輝度高光量のレーザ電子光ビームを得ることができる。
【0053】
図4(a)はパルスレーザ光のビーム径が最小となる地点でパルス電子ビームと衝突する理想的な態様を示し、
図4(b)はパルスレーザ光がレイリー長以内でとなる地点、つまり許容範囲内でパルス電子ビームと衝突する態様を示し、
図4(c)はパルスレーザ光がレイリー長を超えた地点でパルス電子ビームと衝突する態様を示す。
【0054】
上述したパルス電子ビーム制御部4が、電子ビーム生成部2で生成されるパルス電子ビームの同期タイミングを検出するパルス電子ビーム検出部として機能し、トリガ信号生成部5は、パルス電子ビーム制御部4から出力される同期信号に基づいてタイミングに基づいてトリガ信号を生成するように構成されている。
【0055】
なお、電子ビーム生成部2に備えた電子蓄積リングを通過する電子バンチの通過タイミングを検知するコイルを設け、当該コイルをパルス電子ビーム検出部として機能させてもよい。
【0056】
パルス電子ビーム検出部により検出されたパルス電子ビームの同期タイミングを基点にトリガ信号生成部がトリガ信号を生成することで、精度良くパルスレーザ光を電子バンチと衝突させることができるようになる。
【0057】
レーザ電子光発生部3で生成されたレーザ電子光の強度を検出する強度検出部をさらに備えて、トリガ信号生成部5は、強度検出部によるレーザ電子光の強度に基づいてトリガ信号を生成するように構成してもよい。
【0058】
このとき、パルス電子ビーム制御部4から出力される同期信号に基づいて生成したトリガ信号の出力タイミングを強度検出部によるレーザ電子光の強度に基づいて補正するように構成することも可能であり、さらに精度良くパルスレーザ光を電子バンチと衝突させることができるようになる。
【0059】
図5(a)には、電子ビーム生成部2に備えた電子蓄積リングを通過する電子バンチが23.6ナノ秒で周回している状態が示されている。
図5(b)には、電子ビーム生成部2からレーザ電子光発生部3に入射したこのような電子バンチの一つにパルスレーザ光を衝突させたときのレーザ電子光の強度特性が示されている。
【0060】
パルスレーザ光の平均出力を上昇させたときにレーザ電子光の強度は飽和することが確認される。そのため、パルスレーザ光の平均出力を然程上昇させることなく、飽和前の低い平均出力で駆動しながらパルスレーザ光の繰返し周期を短くすることで、短時間当たりの衝突回数を高めてさらに高光量のレーザ電子光ビームを得ることができる。
【0061】
なお、パルス電子ビーム制御部4から出力される同期信号の周期によっては、ハイブリッド光増幅器の励起状態が変動してパルスレーザ光の強度に影響を与え、レーザ電子光ビームの強度変動する虞がある。
【0062】
そのような場合に備えて、光源部1には、CW光を生成するCW光源20と、トリガ信号に基づいてCW光源20を駆動してハイブリッド光増幅器30の励起状態を調節するCW光源制御部60をさらに備えている。種光源10から出力されるパルスレーザ光とCW光は合波器を介して光路が一致するように構成されている。なお、CW光が波長変換部40に入射してもピークパワーが低いため、波長変換光は出力されることがない。
【0063】
CW光源制御部60は、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの回路ブロックで構成され、検知したトリガ信号の周期をモニタするとともに、トリガ信号の入力時点からの経過時間を計時し、次回のトリガ信号の入力時に種光源10で生成されるパルスレーザ光を増幅する際にハイブリッド光増幅器30の励起状態が所定値に保たれるように、CW光源を所定時間駆動するように構成されている。
【0064】
例えば、トリガ信号の周期が長い場合に、ハイブリッド光増幅器30を構成する各光増幅器が異常に高い励起状態となった状態で種光源10からパルスレーザ光が出力されると、ハイブリッド光増幅器30によりピークパワーが異常に高いパルスレーザ光が生成され、レーザ電子光ビームの強度が不安定になるばかりか、光増幅器30や波長変換部40の破損を招く虞がある。そのような場合でも、トリガ信号の発生状況に基づいてCW光源制御部60がCW光源を駆動することでハイブリッド光増幅器30の励起状態を調節して、レーザ電子光ビームの強度の安定を図り、光増幅器や波長変換部の破損を回避することができるようになる。
【0065】
上述した光源部1は、波長変換部40により波長1064nmのパルス光が、LBO結晶(LiB3O5)で波長532nmに波長変換され、さらにCLBO結晶(CsLiB6O10)で波長266nmの深紫外線に波長変換される例を説明したが、変換される波長の値は特に限定するものではなく、使用する非線形光学素子も特に限定するものではない。また、光源部1に波長変換部40を備えず、種光源10から出力されるパルスレーザ光の波長を維持した状態でレーザ電子光発生部3に出力するように構成してもよい。
【0066】
以上説明したように、ゲインスイッチ法で発生させたパルスレーザ光を増幅したのちに衝突させることで、高い光量のレーザ電子光ビームが得ることができる。さらに、パルスレーザ光を波長変換部にて波長変換した後に衝突させることで、レーザ電子光のエネルギーを高めることができる。もしくは、レーザ電子光のエネルギーを下げることなく、電子ビームのエネルギーを下げることもできる。これにより電子ビーム生成部の小型化を図ることができる。
【0067】
パルスレーザ光のパルス幅(時間幅)をパルス電子ビームの時間幅と同等かそれ以下に調整することでレーザ電子光の輝度を高くできる。また、電子バンチの広がりを抑制し、小面積からのレーザ電子光を発生させることが可能になる。
【0068】
上述した[数2]で説明したように、電子の数neが増えるとバンチ内での反発力が強まり電子バンチが広がり、光電子ビームの発生領域が拡大し輝度の低下を引き起こす。そのため、輝度を保ちつつ光量を上げるためには繰り返し周波数fを高める必要がある。本レーザ光源装置を用いると、例えば毎秒6×109回までの高頻度の衝突が実現できるため、1バンチあたりの電子数を少なくすることができる。
【0069】
ゲインスイッチング法で生成されるパルスレーザ光を衝突用のレーザに用いることでパルス電子ビームとの精度の高い同期が実現できる。そのため、作用領域(衝突部)内を通過するパルス電子ビームにパルスレーザ光を確実にかつ最適な場所で衝突させることができ、無駄なく安定に発生させることができる。
【0070】
トリガ信号生成部50は外部から入力される同期信号に基づいて動作するため、衝突のタイミングを電気的に調整することが可能となる。特に電気的な遅延調整は光学的な遅延調整機構と比較して簡便かつ小型、安定、安価に実現できる。
【0071】
さらに、作用領域内を通過するすべてのパルス電子ビームに対してパルスレーザ光を衝突させることが可能となり、装置全体としてレーザ電子光ビームの発生効率を高めることができる。例えば、作用領域内を通過するパルス電子ビームの通過回数は毎秒1×108~5×108回であることに対して、従来のQ-スイッチレーザによるパルスレーザ光は発光回数が低かった。そのため、すべてのパルス電子ビームに対して衝突をさせることができず、効率的な発生ができなかったが、本発明のレーザ光源装置を用いることで毎秒当たりの発光回数をパルス電子ビームと一致させることができる。
【0072】
上述した複数の実施形態は、何れも本発明の一実施態様の説明であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的な回路構成や回路に使用する光学素子は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜選択し、或いは変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0073】
1:レーザ光源装置
2:電子ビーム生成部
3:レーザ電子光発生部
4:パルス電子ビーム制御部
5:トリガ信号生成部
6:パルスレーザ光導入部
10:種光源
20:CW光源
30:ハイブリッド光増幅器
40:波長変換部
50:トリガ信号生成部
60:CW光源制御部
100:レーザ電子光発生装置