(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121141
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】計測装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20220812BHJP
G01K 1/143 20210101ALI20220812BHJP
G01K 7/02 20210101ALI20220812BHJP
【FI】
G01H17/00 D
G01K1/143
G01K7/02 Q
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018322
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000137889
【氏名又は名称】株式会社ミヤワキ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成雄
【テーマコード(参考)】
2F056
2G064
【Fターム(参考)】
2F056CA01
2F056CA15
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
(57)【要約】
【課題】計測対象物の表面における略同一箇所で振動の強度と表面温度とを計測可能としながら、高い精度で振動の強度を計測することが可能な計測装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】計測装置は、振動プローブ111と温度プローブ117とを備える。振動プローブ111は、探触筒112と台座部113と振動センサ114とを有する。温度プローブ117は、ハウジング118と接触板122と2本の熱電対素線119,120とを有する。ハウジング118は、円筒形状を有し、探触筒112に対して非接触の状態で筒内中空部112aに収容されている。ハウジング118は、台座部113の小径部113cに対して締り嵌めにより固定されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の探触筒と、前記探触筒の一端が固定される台座部と、前記台座部における前記探触筒が固定される側とは反対側に固定される振動センサとを有し、前記探触筒の他端が計測対象物に当接される振動プローブと、
前記探触筒に対して非接触状態で当該探触筒の筒内に配置されるとともに、前記探触筒の筒軸方向に沿って延びる筒状のハウジングと、前記ハウジングにおける一端側の開口に対して出没可能な状態で配された接触板と、前記ハウジング内に配策され、前記接触板に接合された2本の熱電対素線とを有し、前記接触板が前記計測対象物に当接される温度プローブと、
を備え、
前記ハウジングは、締り嵌めまたは溶接により前記台座部に対して密着した状態で固定されている、
計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の計測装置において、
前記台座部と前記ハウジングとの固定部分において、前記台座部は柱状の凸部を有し、
前記ハウジングにおける前記接触板が出没可能となっている開口とは反対側の開口に対しては、前記凸部が圧入されてなり、
前記ハウジングと前記台座部とは、前記反対側の開口に対する前記凸部の圧入により、前記凸部の外周面と前記ハウジングの内周面とが密着した状態で締り嵌めされている、
計測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の計測装置において、
前記台座部における前記凸部は、前記ハウジングの筒内への圧入方向における先端部分に、前記振動センサが固定される側から当該振動センサが固定される側とは反対側へと行くのに従って縮径するように形成された台錐形状の凸部先端部を有する、
計測装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の計測装置において、
前記ハウジングは、外周面の横断面形状が円形に形成され、
前記台座部における前記凸部は、横断面形状が多角形に形成されている、
計測装置。
【請求項5】
筒状の探触筒と、前記探触筒の一端が固定される台座部と、前記台座部における前記探触筒が固定される側とは反対側に固定される振動センサとを有し、前記探触筒の他端が計測対象物に当接される振動プローブと、
前記探触筒に対して非接触状態で当該探触筒の筒内に配置されるとともに、前記探触筒の筒軸方向に沿って延びる筒状のハウジングと、前記ハウジングにおける一端側の開口に対して出没可能な状態で配された接触板と、前記ハウジング内に配策され、前記接触板に接合された2本の熱電対素線とを有し、前記接触板が前記計測対象物に当接される温度プローブと、
を備える計測装置の製造方法であって、
締り嵌めまたは溶接により、前記ハウジングを前記台座部に対して密着した状態で固定する固定ステップを備える、
計測装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の計測装置の製造方法において、
前記ハウジングとの固定前の状態で、柱状であって、横断面形状が多角形の凸部を有する前記台座部を準備する台座部準備ステップと、
前記台座部との固定前の状態で、前記横断面における前記凸部の外接円に対して内径が小径に形成された円環状の横断面形状を有する前記ハウジングを準備するハウジング準備ステップと、
をさらに備え、
前記固定ステップでは、前記ハウジングおよび前記台座部の前記凸部の少なくとも一方が横断面方向に弾塑性変形を伴う状態で前記凸部を前記ハウジングにおける前記接触板が出没可能な開口とは反対側の開口から圧入し、前記反対側の開口に対する前記凸部の圧入により、前記凸部の外周面と前記ハウジングの内周面とが密着した状態で前記ハウジングと前記台座部とが締り嵌めされる、
計測装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測装置およびその製造方法に関し、特に蒸気や復水が流れるスチームトラップ等を計測対象とする計測装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気が流通する配管設備から復水(ドレン)のみを排出する用途に用いられるスチームトラップが知られている。また、当該スチームトラップやその入り口部分のスチーム配管の振動の強度および表面温度を計測し、それらの相互関係から蒸気漏れの有無を診断することが行われている。このような診断には、スチームトラップ等の振動の強度を計測するための振動プローブと、スチームトラップ等の表面温度を計測するための温度センサとを備える計測装置が用いられる。
【0003】
ここで、計測装置としては、作業者が携帯する可搬タイプのものと、スチームトラップ等に振動プローブや温度センサが固定された設置タイプのものとがある。特許文献1には、可搬タイプの計測装置が開示されている。特許文献1に開示の計測装置は、計測対象物の振動の強度を計測するための振動プローブと、この振動プローブが挿通される円環状の温測板と、温測板に接合された熱電対素線対(温度センサ)とを備えている。特許文献1に開示の計測装置を用いた計測においては、振動プローブの先端と、温測板との双方を計測対象物の表面に当接させる。これにより、計測対象物の振動の強度と表面温度とを同時に計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スチームトラップにおける蒸気漏れの有無の診断のように、その振動の強度と表面温度との相互関係から蒸気漏れの有無を診断するような場合には、振動プローブの軸心上で計測対象物の表面温度を計測できるようにすることが、高い計測精度を実現する上で望ましい。このように振動の強度と表面温度とを略同一箇所で計測できるようにしようとする場合には、振動プローブの探触筒に対して、当該探触筒の内側に配される筒状のハウジングを備える構造の温度プローブを採用することが考えられる。そして、振動プローブにおける探触筒または探触筒と温度プローブのハウジングとを共通の台座部に固定することでプローブをユニット化してコンパクト化を図り、計測対象物の略同一箇所で振動の強度と表面温度とを計測できる。
【0006】
ところで、温度プローブのハウジングと台座部との固定方法によっては、ハウジングと台座部との間の一部に隙間があいてしまうことが考えられる。例えば、ハウジングと台座部とをビスで固定しようとする場合には、周方向の少なくとも一部で嵌め合い公差による隙間が生じることが考えられる。このように温度プローブのハウジングと台座部との間に不所望の隙間があいてしまうと、振動プローブによる振動の強度の計測にも影響を及ぼす場合がある。即ち、振動の強度を計測する上では、所定の共振周波数付近での振動を計測することが必要となるが、温度プローブのハウジングと台座部との間に不所望の隙間があいた場合には、当該隙間によって共振周波数のズレを生じ得る。このように共振周波数にズレが生じると正確な振動の強度を計測することができない。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、計測対象物の表面における略同一箇所で振動の強度と表面温度とを計測可能としながら、高い精度で振動の強度を計測することが可能な計測装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る計測装置は、振動プローブと温度プローブとを備える。前記振動プローブは、筒状の探触筒と、前記探触筒の一端が固定される台座部と、前記台座部における前記探触筒が固定される側とは反対側に固定される振動センサとを有し、前記探触筒の他端が計測対象物に当接される。前記温度プローブは、前記探触筒に対して非接触状態で当該探触筒の筒内に配置されるとともに、前記探触筒の筒軸方向に沿って延びる筒状のハウジングと、前記ハウジングの一端側の開口に対して出没可能な状態で配された接触板と、前記ハウジング内に配策され、前記接触板に接合された2本の熱電対素線とを有し、前記接触板が前記計測対象物に当接される。そして、本態様に係る計測装置において、前記ハウジングは、締り嵌めまたは溶接により前記台座部に対して密着した状態で固定されている。
【0009】
上記態様に係る計測装置では、振動プローブの探触筒と温度プローブのハウジングとを1つの台座部に対して固定することとし、探触筒の筒内に温度プローブのハウジングを収容した構成を採用している。このため、上記態様に係る計測装置では、計測対象物の略同一箇所に対して探触筒の一端と温度プローブの接触板とを当接させることができる。よって、上記態様に係る計測装置では、高い計測精度を実現することができる。
【0010】
また、上記態様に係る計測装置では、温度プローブのハウジングを台座部に対して締り嵌めまたは溶接により固定し、ハウジングと台座部との間に隙間を生じないように密着させている。よって、上記態様に係る計測装置では、振動プローブの探触筒と温度プローブのハウジングとを1つの台座部に対して固定しながら、ハウジングと台座部とを隙間なく密着固定することで、振動プローブでの振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレを抑制することができる。これによっても、上記態様に係る計測装置では、高い計測精度を実現することができる。
【0011】
上記態様に係る計測装置において、前記台座部と前記ハウジングとの固定部分で、前記台座部は柱状の凸部を有していてもよい。前記ハウジングにおける前記接触板が出没可能となっている開口とは反対側の開口に対しては、前記凸部が圧入されてなり、前記ハウジングと台座部とは、前記反対側の開口に対する前記凸部の圧入により、前記凸部の外周面と前記ハウジングの内周面とが密着した状態で締り嵌めされていてもよい。
【0012】
上記態様に係る計測装置では、台座部が柱状の凸部を有し、当該凸部がハウジングにおける上記開口に圧入されている。これにより、ハウジングと台座部とは、凸部の外周面とハウジングの内周面とが密着した状態で締り嵌めされている。よって、上記態様に係る計測装置では、ハウジングと台座部とをビスで固定する場合に比べて、振動プローブでの振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレを生じ難い。即ち、ハウジングと台座部とをビスで固定しようとする場合には、ハウジングの内径に対して嵌め合い公差分だけ台座部における凸部の外径を小径に形成することが必要となる。そして、ハウジングの開口から凸部を挿入し径方向外側からビスで固定しても、ハウジングの内周面と凸部の外周面との間に隙間があいてしまう。これにより、ビスで固定する方法を採用しようとすれば、振動プローブによる振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレを生じることになる。
【0013】
これに対して、上記態様に係る計測装置では、ハウジングの開口に対して凸部を圧入している。換言すれば、ハウジングの内径に対して大きな外径を有する凸部を圧入している。これにより、ハウジングと台座部とは、ハウジングの内周面と凸部の外周面との間に隙間を生じず、締り嵌めすることができる。よって、上記態様に係る計測装置では、振動プローブによる振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレを抑制することができる。
【0014】
上記態様に係る計測装置において、前記台座部における前記凸部は、前記ハウジングの筒内への圧入方向における先端部分に、前記振動センサが固定される側から当該振動センサが固定される側とは反対側へと行くのに従って縮径するように形成された台錐形状の凸部先端部を有していてもよい。
【0015】
上記態様に係る計測装置では、台座部における凸部の先端部分(ハウジングに圧入される側)に台錐形状の凸部先端部が設けられた構造としている。このように凸部先端部を設けることにより、ハウジングへの凸部の圧入に際して、該凸部先端部がガイドの役割を果たす。このため、ハウジングへの凸部の圧入を円滑に実行することができる。
【0016】
上記態様に係る計測装置において、前記ハウジングは、外周面の横断面形状が円形に形成され、前記台座部における前記凸部は、横断面形状が多角形に形成されていてもよい。
【0017】
上記態様に係る計測装置では、外周面の横断面形状が円形のハウジングに対して、横断面形状が多角形の凸部が締り嵌めされている。このような構造は、圧入前の状態で横断面形状が円環形のハウジングに対して、横断面形状が多角形の凸部を圧入することで形成される。よって、特殊な横断面形状を有さないハウジングを採用しても、ハウジングと台座部の凸部との締り嵌めによる固定を実現することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る計測装置の製造方法は、振動プローブと温度プローブとを備える計測装置を製造するための方法である。前記振動プローブは、筒状の探触筒と、前記探触筒の一端が固定される台座部と、前記台座部における前記探触筒が固定される側とは反対側に固定される振動センサとを有し、前記探触筒の他端が計測対象物に当接される。前記温度プローブは、前記探触筒に対して非接触状態で当該探触筒の筒内に配置されるとともに、前記探触筒の筒軸方向に沿って延びる筒状のハウジングと、前記ハウジングにおける一端側の開口に対して出没可能な状態で配された接触板と、前記ハウジング内に配策され、前記接触板に接合された2本の熱電対素線とを有し、前記接触板が前記計測対象物に当接される。本態様に係る製造方法は、締り嵌めまたは溶接により、前記ハウジングを前記台座部に対して密着した状態で固定する固定ステップを備える。
【0019】
上記態様に係る製造方法では、固定ステップにおいて、振動プローブの探触筒と温度プローブのハウジングとを1つの台座部に対して固定することとし、探触筒の筒内に温度プローブのハウジングを収容した構成の計測装置を製造することができる。このため、上記態様に係る製造方法では、計測対象物の略同一箇所に対して探触筒の一端と温度プローブの接触板とを当接させることができ、高い計測精度を実現することができる計測装置の製造が可能である。
【0020】
また、上記態様に係る製造方法では、固定ステップにおいて、温度プローブのハウジングを台座部に対して締り嵌めまたは溶接により固定し、ハウジングと台座部との間に隙間を生じないように密着させている。よって、上記態様に係る製造方法では、振動プローブの探触筒と温度プローブのハウジングとが1つの台座部に対して固定され、ハウジングと台座部とを隙間なく密着固定された構造の計測装置を製造することができる。このため、上記態様に係る製造方法を用いて製造された計測装置では、振動プローブでの振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレを抑制することができる。
【0021】
上記態様に係る計測装置の製造方法において、台座部準備ステップとハウジング準備ステップとをさらに備えてもよい。前記台座部準備ステップでは、前記ハウジングとの固定前の状態で、柱状であって、横断面形状が多角形の凸部を有する前記台座部を準備してもよい。前記ハウジング準備ステップでは、前記台座部との固定前の状態で、前記横断面における前記凸部の外接円に対して内径が小径に形成された円環状の横断面形状を有する前記ハウジングを準備してもよい。そして、前記固定ステップでは、前記ハウジングおよび前記台座部の前記凸部の少なくとも一方が横断面方向に弾塑性変形を伴う状態で前記凸部を前記ハウジングにおける前記接触板が出没可能な開口とは反対側の開口から圧入し、前記反対側の開口に対する前記凸部の圧入により、前記凸部の外周面と前記ハウジングの内周面とが密着した状態で前記ハウジングと前記台座部とが締り嵌めされるようにしてもよい。
【0022】
上記態様に係る製造方法では、台座部準備ステップで横断面形状が多角形の凸部を有する台座部を準備し、ハウジング準備ステップで内径が上記のように横断面における凸部の外接円よりも小径に形成されたハウジングを準備する。そして、上記態様に係る製造方法では、固定ステップにおいてハウジングおよび凸部の少なくとも一方が横断面方向に弾塑性変形を伴う状態で圧入され、これによりハウジングと台座部とを締り嵌めする。このような方法を採用することにより、ハウジングの内周面と凸部の外周面との間に隙間を生じないように、ハウジングと台座部とが締り嵌めされた計測装置を製造することができる。よって、上記態様に係る製造方法では、振動プローブによる振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレが抑制可能な計測装置を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
上記の各態様では、計測対象物の表面における略同一箇所で振動の強度と表面温度とを計測可能としながら、高い精度で振動の強度を計測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る計測装置の構成を示す正面図である。
【
図3】
図2のIII-III線断面を示す断面図である。
【
図4】
図3のIV-IV線断面を示す断面図である。
【
図5】(a)は台座部の小径部が圧入される前の状態でのハウジングを示す断面図であり、(b)は台座部の小径部および台錐部の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明の一例であって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0026】
1.計測装置1の構成
本実施形態に係る計測装置1の構成について、
図1を用いて説明する。
【0027】
図1に示すように、計測装置1は、扁平直方体形状を有する筐体部10と、筐体部10の上面10aからY方向外向き(上向き)に突出形成されたプローブ11とを備える。なお、本実施形態に係る計測装置1は、蒸気や復水(ドレン)が流れるスチームトラップやスチーム配管等の計測対象物の状態を検出し、その結果を診断装置(図示を省略。)に無線送信するものである。そして、計測装置1は、計測対象物であるスチームトラップ等の振動の強度および表面温度を計測するための可搬タイプの装置である。
【0028】
筐体部10は、計測時に作業者が把持する部位である。作業者は、計測時において、例えば、側面10bなどを把持する。筐体部10の前面(
図1の紙面手前側の面)には、上面10aに近い部分に表示部12が設けられ、表示部12が設けられた部分よりも下方の部分に各種スイッチ13~17および電源インジケータ18が設けられている。
【0029】
表示部12は、例えば、液晶ディスプレイパネル(LCDパネル)で構成されており、計測結果(振動の強度、表面温度)や、当該計測結果に基づく診断結果などの各種情報が表示される。
【0030】
各種スイッチ13~17は、計測装置1の電源をON/OFFするための電源スイッチ、各種コマンドを選択・実行するためのコマンドスイッチ、データ表示などの送り/戻しを行うためのスクロールスイッチなどである。
【0031】
また、筐体部10の内部には、コントローラを構成する回路基板が収容されている。コントローラは、MPU/CPU、ASIC、ROM,RAM等を含むマイクロプロセッサと、メモリとを有して構成されている。コントローラは、メモリに予め格納されたファームウェア等を実行することにより、プローブ11で検出された振動の強度および表面温度の各情報を演算処理する。演算処理された信号は、診断装置に送信される。また、コントローラは、診断装置からの診断結果を受信するとともに、当該診断結果を表示部12に表示させる機能も有する。
【0032】
2.プローブ11の構成
プローブ11の構成について、
図2および
図3を用いて説明する。
【0033】
図2および
図3に示すように、プローブ11は、計測対象物であるスチームトラップ等の振動の強度を検出するための振動プローブ111と、スチームトラップ等の表面温度を検出するための温度プローブ117とを有する。振動プローブ111は、スチームトラップ等からの振動の入力を受ける探触筒112と、探触筒112に入力された振動の強度に応じて信号を出力する振動センサ(例えば、圧電型加速度センサ)114と、探触筒112と振動センサ114との間に設けられ、探触筒112および振動センサ114が固定される台座部113とを有する。
【0034】
探触筒112は、筒軸に沿って延びる断面円環状の金属製パイプであって、例えば、ステンレス鋼からなるパイプで構成されている。探触筒112における開口112cの周りを囲む端面112bがスチームトラップ等の表面に押し当てられる部位である。探触筒112は、外径がD1、内径がD2、肉厚がt1で形成されている。
【0035】
台座部113は、振動センサ114が固定された側から順に、大径部113a、中径部113b、小径部113c、台錐部113dを有する。台座部113は、例えば、ステンレス鋼から形成されており、大径部113a、中径部113b、小径部113c、および台錐部113dが一体に形成されている。なお、
図3の拡大部分に示すように、台錐部113dは、小径部113cの側からその反対側へと行くのに従って縮径するように台錐形状に形成された部分である。そして、本実施形態における台錐部113dは、「凸部先端部」に該当し、小径部113cと台錐部113dとにより「凸部」が構成されている。
【0036】
台座部113における中径部113bの外径は、探触筒112の内径D2と略同等、または内径D2よりも若干大きく設定されている。探触筒112は、台座部113の中径部113bに外嵌され、当該探触筒112の筒端(
図3の右側端部)が台座部113における大径部113aの面(
図3の左側の面)に突き当てられた状態で、外側からビス115により固定されている。なお、台座部113における大径部113aおよび中径部113bは、筐体部10における上面10a(
図1を参照。)よりも筐体部10の内方に収容された状態となっている。
【0037】
振動センサ114は、圧電素子として圧電型セラミックスが使用された圧電型加速度センサにより構成されている。振動センサ114は、台座部113における大径部113aの後端面113eにビス116により固定されている。これにより、探触筒112の端面112bから入力されたスチームトラップ等の振動は、探触筒112および台座部113を介して振動センサ114に入力される。
図2に示すように、振動センサ114には、筐体部10の内方に収容された回路基板に対して配線123により接続されている。振動センサ114は、入力された振動の強度に応じた信号を生成し、配線123を通じて回路基板に信号を出力する。
【0038】
温度プローブ117は、振動プローブ111における探触筒112の筒内中空部112a内に配置されている。具体的に、温度プローブ117は、探触筒112の筒内中空部112aの径方向の略中心部に、探触筒112の内周面に対して非接触の状態で配置されている。温度プローブ117は、ハウジング118と、熱電対素線119,120と、接触板122とを有する。ハウジング118は、円筒形状を有し、筒軸が探触筒112と同軸となるように配されている。なお、本実施形態では、ハウジングは、例えば、ステンレス鋼からなるパイプで構成されている。
【0039】
熱電対素線119,130は、ハウジング118の筒内中空部118aで配策されている。接触板122は、図示を省略する弾性部材により、ハウジング118の筒内中空部118a側から外側に向けて付勢されている。接触板122は、外部から力が付加されていない自然状態において、ハウジング118の開口および探触筒112の開口112cから外方に突出しており、外力を受けることで内方に押し込まれるように構成されている。
【0040】
なお、熱電対素線119,120は、例えば、一方がクロメル線であり、他方がアルメル線で構成されている。熱電対素線119,120は、それぞれがガラス繊維やフッ素樹脂等の被覆材によって被覆されている。熱電対素線119と熱電対素線120とは、各一端同士が接触板122の同じ位置で接合されている(接合部121)。これにより、接触板122によって熱電対素線119,120を含む熱電対の測温接点が構成されている。そして、接触板122の外側の主面122aがスチームトラップ等の表面に当接することで、スチームトラップ等の表面温度が検出される。そして、
図2および
図3に示すように、温度プローブ117において、熱電対素線119,120は、台座部113に形成された溝部113fを通り配線124に接続されている。温度プローブ117で検出されたスチームトラップ等の表面温度に関する信号は、当該配線124を通じて回路基板に出力される。
【0041】
ハウジング118は、接触板122が出没可能とされた開口とは反対側の開口に台座部113の小径部113cおよび台錐部113dが圧入され、当該小径部113cに対して締り嵌めにより台座部113に固定されている。これにより、温度プローブ117のハウジング118は、台座部113を介して探触筒112と一体に組付けられている。
【0042】
3.振動プローブ111の具体的構成
蒸気および復水(ドレン)の何れか一方が流れるスチームトラップ等の計測対象物においてその振動を計測した場合、計測対象物を流れる流体が蒸気であるか否かによって、特定の周波数成分の振動強度が大きく異なり、特に、10kHz付近の振動周波数を調べることで、計測対象物内を流れる流体が蒸気であるか否かを比較的高い精度で判別できることが知られている(特開2014-133948号公報)。
【0043】
そのため、スチームトラップ等の蒸気漏れの有無の診断を行う場合に使用する計測装置1の振動プローブ111については、10kHz付近の振動強度を高い精度をもって計測できるように振動プローブ111を構成することが重要となる。
【0044】
以上の知見を基に、振動プローブ111を次のような構成を有するようにすることが重要であることを見出した。
【0045】
図3に示す、振動プローブ111の各値について、次の関係式を満たすように設定することができる。
f=C×(D1/L2) ・・(式1)
上記の関係式において、fは共振周波数、Cは構成材料が有する振動加速度であり、D1、L1は
図3に示す各値である。
【0046】
また、本願発明者は、鋭意検討を重ね、
図3に示すように探触筒112が筒内中空部112aを有する円筒体であり、内径がD2である場合には、形状係数βを考慮して、上記関係式1を次のように変形することができるとの知見を得た。なお、形状係数βは、長さL1に占める中空部分の長さL2の割合に応じて設定される値である。
f=C×((D1-D2)/L1)×β ・・(式2)
本実施形態では、探触筒112を一例としてステンレス鋼で形成する場合に、細径化と強度とのバランスを確保しつつ共振周波数が10kHz付近となるように、上記の関係式2に基づいて、振動プローブ111の各値L1,L2,D1,D2を設定することができる。
【0047】
なお、振動プローブ111における探触筒112をステンレス鋼以外の金属材料で形成する場合にも、用いるCの値が異なることとなるが、上記の関係式2に基づいて各値L1,L2,D1,D2を設定することができる。
【0048】
4.台座部113へのハウジング118の固定
台座部113へのハウジング118の固定形態について、
図4および
図5を用いて説明する。なお、
図4は、台座部113にハウジング118が固定された状態を、ハウジング118の軸方向から正面視した図であり、
図5(a)は、台座部113への固定前の状態でのハウジング118の断面形状を示し、
図5(b)は、ハウジング118が固定される前の状態での台座部113の小径部113cおよび台錐部113dを正面視した図である。
【0049】
図4に示すように、台座部113の小径部113cは、溝部113fが形成された部分を除き、正面視で略正八角形状をもって構成されている。また、台座部113の台錐部113dの前端面(ハウジング118に圧入される側の面)は、小径部113cよりもサイズの小さな略正八角形状をもって構成されている。
【0050】
ハウジング118は、台座部113の小径部113cに締り嵌めにより固定されることにより、その内周面118bが小径部113cの外周面113hに対して略隙間なく密着している。
【0051】
なお、
図4では、台座部113にハウジング118が締り嵌めにより固定された状態において、ハウジング118の外周面118cを円形で描いているが、実際には締り嵌めに伴って変形している。
【0052】
次に、
図5(a)に示すように、台座部113に対して圧入される前の状態において、ハウジング118は、内周面118bおよび外周面118cがそれぞれ円形である円環形状を有する。
【0053】
次に、
図5(b)に示すように、台座部113の小径部113cは、上述のように正面視で略八角形状をもって構成されている。台錐部113dについても、正面視で八角形状をもって構成されている。
【0054】
ここで、
図5(a)に示すように、圧入前のハウジング118の内径をD3、外径をD4とする。そして、
図5(b)に示すように、小径部113cの外周面113hに仮定した外接円CC1の直径をD6、台錐部113dにおける前端面113gの外周辺113iに仮定した外接円CC2の直径をD5とする。このとき、次の関係を満たすように、台座部113およびハウジング118が準備される。
D6>D3>D5 ・・(式3)
上記関係式3を満足するように形成された台座部113およびハウジング118を準備し、ハウジング118に台座部113の小径部113cを圧入することにより、ハウジング118と台座部113の小径部113cとが締り嵌めにより固定される。また、圧入に際しては、台座部113における台錐部113dがハウジング118の筒内中空部118aへの案内の役割を果たす。
【0055】
ハウジング118の肉厚t2については、台座部113の小径部113cに対するハウジング118の圧入のし易さと、計測装置1の使用時におけるハウジング118の強度とのバランスを考慮した値に設定することができる。
【0056】
なお、
図5(a)に示すような断面形状を有するハウジング118を準備する段階が「ハウジング準備ステップ」であり、
図5(b)に示すような形状を有する台座部113を準備する段階が「台座部準備ステップ」である。
【0057】
5.効果
本実施形態に係る計測装置1では、振動プローブ111の探触筒112と温度プローブ117のハウジング118とを1つの台座部113に対して固定することとし、探触筒112の筒内中空部112a内に温度プローブ117のハウジング118を収容した構成を採用している。このため、計測装置1では、スチームトラップの略同一箇所に対して探触筒112の端面112bと温度プローブ117の接触板122の主面(当接面)122aとを当接させることができる。よって、計測装置1では、高い計測精度を実現することができる。
【0058】
また、計測装置1では、温度プローブ117のハウジング118を台座部113の小径部113cに対して締り嵌めにより固定し、ハウジング118の内周面118bと台座部113の小径部113cにおける外周面113hとの間に略隙間を生じないように密着させている。よって、計測装置1では、振動プローブ111の探触筒112と温度プローブ117のハウジング118とを1つの台座部113に対して固定しながら、ハウジング118の内周面118bと台座部113の小径部113cにおける外周面113hとを略隙間なく密着固定することで、振動プローブ111での振動の強度の計測に際しての共振周波数(10kHz付近の共振周波数)のズレを抑制することができる。これによっても、計測装置1では、高い計測精度を実現することができる。
【0059】
計測装置1では、台座部113が柱状の凸部(小径部113c、台錐部113d)を有し、小径部113cがハウジング118の開口に圧入されている。これにより、ハウジング118と台座部113とは、小径部113cの外周面113hとハウジング118の内周面118bとが略隙間なく密着した状態で締り嵌めされている。よって、計測装置1では、ハウジングと台座部とをビスで固定する場合に比べて、振動プローブ111での振動の強度の計測に際しての共振周波数(10kHz付近の共振周波数)のズレを生じ難い。即ち、ハウジングと台座部とをビスで固定しようとする場合には、ハウジングの内径に対して嵌め合い公差分だけ台座部における凸部の外径を小径に形成することが必要となる。そして、ハウジングの開口から凸部を挿入し径方向外側からビスで固定しても、ハウジングの内周面と凸部の外周面との間に隙間があいてしまう。これにより、ビスで固定する方法を採用しようとすれば、振動プローブによる振動の強度の計測に際しての共振周波数のズレを生じることになる。
【0060】
これに対して、本実施形態に係る計測装置1では、ハウジング118の開口に対して小径部113cを圧入している。換言すれば、ハウジング118の内径D3に対して大きな外径(外接円CC1の外径D6)を有する小径部113cを圧入している(固定ステップ)。これにより、ハウジング118と台座部113とは、ハウジング118の内周面118bと小径部113cの外周面113hとの間に略隙間を生じず、締り嵌めすることができる。よって、計測装置1では、振動プローブ111による振動の強度の計測に際しての共振周波数(10kHz付近の共振周波数)のズレを抑制することができる。
【0061】
計測装置1では、台座部113における小径部113cの先端部分(ハウジング118に圧入される側)に台錐形状の台錐部113dが設けられた構造としている。このように台錐部113dを設けることにより、ハウジング118への小径部113cの圧入に際して、該台錐部113dがガイドの役割を果たし、ハウジング118への小径部113cの圧入を円滑に実行することができる。
【0062】
また、本実施形態に係る計測装置1の製造方法では、固定ステップにおいて、振動プローブ111の探触筒112と温度プローブ117のハウジング118とを1つの台座部113に対して固定することとし、探触筒112の筒内中空部112a内に温度プローブ117のハウジング118が収容された構成の計測装置1を製造することができる。このため、本実施形態に係る製造方法では、スチームトラップ等の計測対象物の略同一箇所に対して探触筒112の端面112bと温度プローブ117の接触板122の主面122aとを当接させることができ、高い計測精度を実現することができる計測装置1の製造が可能である。
【0063】
また、本実施形態に係る製造方法では、固定ステップにおいて、温度プローブ117のハウジング118を台座部113に対して締り嵌めにより固定し、ハウジング118と台座部113の小径部113cとの間に略隙間を生じないように密着させている。よって、本実施形態に係る製造方法では、振動プローブ111の探触筒112と温度プローブ117のハウジング118とが1つの台座部113に対して固定され、ハウジング118の内周面118bと台座部113における小径部113cの外周面113hとを略隙間なく密着固定された構造の計測装置1を製造することができる。このため、本実施形態に係る製造方法を用いて製造された計測装置1では、振動プローブ111での振動の強度の計測に際しての共振周波数(10kHz付近の共振周波数)のズレを抑制することができる。
【0064】
本実施形態に係る製造方法では、台座部準備ステップで
図5(b)に示すような横断面形状が正八角形(多角形)をもって構成された小径部113cを有する台座部113を準備し、ハウジング準備ステップで
図5(a)に示すような内径D3が小径部113cの外接円CC1よりも小径に形成されたハウジング118を準備する。そして、固定ステップにおいて、ハウジング118および小径部113cの少なくとも一方が横断面方向に弾塑性変形を伴う状態で圧入され、これによりハウジング118と台座部113の小径部113cとを締り嵌めする。このような方法を採用することにより、ハウジング118の内周面118bと小径部113cの外周面113hとの間に略隙間を生じないように、ハウジング118と台座部113とが締り嵌めされた計測装置1を製造することができる。よって、本実施形態に係る製造方法では、振動プローブ111による振動の強度の計測に際しての共振周波数(10kHz付近のきゅお新周波数)のズレが抑制可能な計測装置1を製造することができる。
【0065】
以上のように、本実施形態では、スチームトラップ等の計測対象物の表面における略同一箇所で振動の強度と表面温度とを計測可能としながら、高い精度で振動の強度を計測することが可能である。
【0066】
[変形例]
上記実施形態では、ハウジング118の開口に対して台座部113の小径部113cを圧入することで、ハウジング118と台座部113の小径部113cとを締り嵌めにより固定することとしたが、本発明では、焼き嵌めによりハウジングと台座部の小径部とを固定することとしてもよい。
【0067】
また、本発明では、ハウジングと台座部の小径部とを溶接により固定することもできる。なお、ハウジングの内周面と小径部の外周面との間に略隙間を生じないようにするために、全周に亘って溶接することが望ましい。
【0068】
上記実施形態では、台座部113における小径部113cの正面視形状を正八角形としたが、本発明は、これに限定を受けるものではない。例えば、四角形や六角形、さらには角丸の多角形とすることも可能である。また、小径部の正面視形状については、必ずしも多角形に限定されるものではなく、楕円形や長円形などとすることもできる。
【0069】
上記実施形態では、温度プローブ117におけるハウジング118と台座部113の小径部113cとの固定に締り嵌めを採用したが、本発明は、振動プローブの探触筒と台座部の中径部との固定に締り嵌めや溶接を採用することも可能である。これによっても、探触筒と台座部の中径部との間に略隙間が生じないようにすることができ、高い計測精度を確保するのに望ましい。
【0070】
上記実施形態では、台座部113における小径部113cの先端側に台錐部113dを設けることとしたが、本発明では、台錐部113dは必須の構成ではない。
【符号の説明】
【0071】
1 計測装置
11 プローブ
111 振動プローブ
112 探触筒
113 台座部
113c 小径部
113d 台錐部(凸部先端部)
114 振動センサ
117 温度プローブ
118 ハウジング