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特開2022-121166肝臓表面に移植するための細胞シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121166
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】肝臓表面に移植するための細胞シート
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220812BHJP
   A61K 35/407 20150101ALI20220812BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20220812BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20220812BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220812BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20220812BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220812BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220812BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220812BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/407
A61K35/33
A61L27/36 100
A61L27/36 300
A61L27/38 100
A61L27/38 200
A61L27/38 300
A61L27/40
A61P1/16
A61P7/00
A61P3/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018360
(22)【出願日】2021-02-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ▲1▼令和2年2月20日 https://www.micenavi.jp/jsrm2020/search/detail_program/id:982 を通じて発表 ▲2▼令和2年5月18日 第19回日本再生医療学会総会 アプリケーションを通じて発表 ▲3▼令和2年10月8日 第16回広島肝臓プロジェクト研究センターシンポジウム 抄録にて発表 ▲4▼令和2年10月10日 第16回広島肝臓プロジェクト研究センターシンポジウム WEB(https://us02web.zoom.us/j/87002351236)及びTKPガーデンシティPREMIUM広島駅北口にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100125081
【弁理士】
【氏名又は名称】小合 宗一
(72)【発明者】
【氏名】江口 晋
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 匡章
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD50
4B065CA44
4C081AB11
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB52
4C087BB64
4C087CA04
4C087MA02
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA75
4C087ZB21
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】肝臓表面に移植するための、肝細胞を含む重層化された細胞シートであって、移植後8週間以上の長期間にわたって機能を発現可能な細胞シートを開発すること。
【解決手段】本発明は、肝臓表面に移植するための、肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む重層化された細胞シートを提供する。前記フィーダー細胞は線維芽細胞であってもよい。本発明の細胞シートにおいて、前記肝細胞は、ヒト肝細胞が生着した肝障害を有する免疫不全非ヒト動物から採取されたヒト肝細胞であってもよい。本発明は、本発明の細胞シートを含む、肝臓表面に移植するための医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び/又は治療用とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓表面に移植するための、肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む重層化された細胞シート。
【請求項2】
前記フィーダー細胞は線維芽細胞である、請求項1に記載の細胞シート。
【請求項3】
前記肝細胞は、ヒト肝細胞が生着した肝障害を有する免疫不全非ヒト動物から採取されたヒト肝細胞である、請求項1又は2に記載の細胞シート。
【請求項4】
前記非ヒト動物は遺伝的に肝障害を有する、請求項3に記載の細胞シート。
【請求項5】
前記非ヒト動物はuPA+/+/SCID+/+マウスである、請求項4に記載の細胞シート。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の細胞シートを含む、肝臓表面に移植するための医薬組成物。
【請求項7】
肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び/又は治療用である、請求項6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞を含む細胞シート、及び、該細胞シートを含む、肝臓疾患などの予防及び治療用医薬組成物に関し、具体的には、肝臓表面に移植するための肝細胞を含む細胞シート、及び、該細胞シートを含む、肝臓疾患などの予防及び治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓移植は、肝不全など肝臓自体の機能障害による肝臓疾患の他、肝臓が産生するタンパク質の異常が原因で発症する血友病などの血液疾患や尿素サイクル異常症などの代謝疾患でも、有効な治療として確立されている。しかし、生体肝臓移植には組織適合性その他の条件によるドナーの制約がある。そのため、肝細胞シートの異所移植による第二肝臓形成は、肝臓疾患に有効な治療の一つとして期待されている。
【0003】
特許文献1は、肝組織細胞の機能を長期維持可能な生体移植用肝組織細胞シートを開示する。特許文献1の発明の詳細な説明には、移植部位として、生体内の皮下組織、腹腔内組織、肝臓及び筋肉を列挙する。しかし特許文献1の実施例では、ヒト肝組織細胞シートを移植する部位は、あらかじめbFGFで血管網を誘導した皮下だけである。
【0004】
しかし疾患により弱った肝臓の機能を補助するためには、大量のヒト肝組織細胞シートを長期間生着させ機能を発現させなければならない。たしかに皮下は治療の侵襲度が低いので肝組織細胞シートの移植部位として魅力的ではあるが、大量のヒト肝組織細胞シートを移植するために全身の皮下に血管網を誘導することは、患者のQOLの観点から問題が多い。これに対し肝臓表面は、肝被膜の直下に肝細胞への血液循環のために高度に発達した類洞が存在し、類洞を介して栄養に富んだ消化管静脈血が利用できる。さらに、肝臓は最大の内臓臓器なので移植可能な表面が広い。そこで肝臓表面に移植するための肝細胞シートの開発には肝臓の再生医療の分野でニーズがある。
【0005】
特許文献2は、ヒト間葉系幹細胞由来の肝細胞様細胞シートの肝臓表面への移植を開示する。特許文献2の実施例では、移植後8日又は10日の間急性肝機能障害を抑制したことを開示する。ヒト間葉系幹細胞由来の肝細胞様細胞が産生した血清蛋白質のマーカー(例えばα1-アンチトリプシン(α1-AT)等)及びサイトカインが肝再生に有効に作用していることが示唆されている(特許文献2、第0182段落)。しかし特許文献2には、移植後8週間以上の長期間にわたって肝機能を発現可能な細胞シートを開示又は示唆する記載があるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2007/080990公報パンフレット
【特許文献2】特許第6008297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、肝臓表面に移植するための、肝細胞を含む重層化された細胞シートであって、移植後8週間以上の長期間にわたって機能を発現可能な細胞シートを開発することである。本発明の別の課題は、本発明の細胞シートを含む、肝臓表面に移植するための医薬組成物を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、肝臓表面に移植することにより、肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む細胞シートは12週間以上の長期間にわたって機能を発現可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)肝臓表面に移植するための、肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む重層化された細胞シート。
(2)前記フィーダー細胞は線維芽細胞である、(1)に記載の細胞シート。
(3)前記肝細胞は、ヒト肝細胞が生着した肝障害を有する免疫不全非ヒト動物から採取されたヒト肝細胞である、(1)又は(2)に記載の細胞シート。
(4)前記非ヒト動物は遺伝的に肝障害を有する、(3)に記載の細胞シート。
(5)前記非ヒト動物はuPA+/+/SCID+/+マウスである、(4)に記載の細胞シート。
(6)(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の細胞シートを含む、肝臓表面に移植するための医薬組成物。
(7)肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び/又は治療用である、(6)に記載の医薬組成物。
(8)(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の細胞シートの、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び治療のための使用。
(9)(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の細胞シートの、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び治療用医薬組成物の製造のための使用。
(10)(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の細胞シート又は(6)若しくは(7)の医薬組成物の有効量を、機能が低下した被験体の肝臓に移植することを含む、前記被験体における肝機能の改善方法。
(11)前記被験体は、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患を有する、(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明で提供する肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む重層化された細胞シートは、肝臓の表面に移植することによって、12週間以上の長期にわたって機能を発現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】上段は、6ウェルの温度応答性培養プレートにおけるPXBマウス由来のヒト肝細胞(以下、「PXB細胞」という。)のみ(PXB-only)の培養第1日目(Day 1)及び培養第3日目(Day 3)の位相差顕微鏡写真と、培養第3日目に室温で前記培養プレートから剥離したPXB細胞のみの細胞シートの顕微鏡写真及びヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色した前記細胞シートの組織切片写真。下段は、6ウェルの温度応答性培養プレートにヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞を播種して4日後にPXB細胞をさらに播種した共培養(PXB/TIG-118)の共培養第1日目(Day 1)及び共培養第3日目(Day 3)の位相差顕微鏡写真と、共培養第3日目に室温への温度シフトにより前記培養プレートから剥離した共培養細胞シートの顕微鏡写真及びヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色した前記共培養細胞シートの組織切片写真。
図2】PXB細胞のみの培養(PXB-only)と、ヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞を播種して4日後にPXB細胞をさらに播種した共培養(PXB/TIG-118)とをそれぞれマウスの皮下又はスクラッチ処理を施した肝臓表面(肝表)に移植後の経時的な体重量変化の折れ線グラフ。縦軸は、移植日のマウスの体重量の平均値を1とする、マウスの体重量の平均の相対値。横軸は移植期間(単位:週)。誤差棒は各4匹のマウスの測定結果の標準偏差を表す。
図3】PXB細胞のみの培養(PXB-only)と、ヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞を播種して4日後にPXB細胞をさらに播種した共培養(PXB/TIG-118)とを皮下又は肝臓表面(肝表)に移植後の経時的なヒトALB(アルブミン)濃度の変化の折れ線グラフ。縦軸は血中ヒトアルブミン濃度(対数目盛、単位:ng/mL)、横軸は移植期間(単位:週)。誤差棒は4匹のマウスの測定結果の標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1つの実施態様は、肝臓表面に移植するための、肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む重層化された細胞シートを提供する。
【0013】
本発明の「細胞シート」は、本発明の肝細胞か、本発明の肝細胞及びフィーダー細胞かを含むほぼ平面状の構造体を指す。肝細胞及びフィーダー細胞の培養では、フィーダー細胞は培養基質に伸展し、その上に肝細胞が載置されるので、細胞の層は少なくとも2層になる。そのうえ細胞が剥離すると、フィーダー細胞は伸展するための足場を失い、引き寄せられて収縮することがある。フィーダー細胞が収縮すると、伸展した扁平な形態のフィーダー細胞に載っていた肝細胞が、収縮して丸くなったフィーダー細胞に載りきらずに折り重なるために、細胞の層が3層以上になることがある。本発明の「重層化された細胞シート」は、フィーダー細胞の層と、肝細胞の層との少なくとも2つの細胞層からなる細胞シートを指す。本発明の「重層化された細胞シート」は、前記「フィーダー細胞の層と、肝細胞の層との少なくとも2つの細胞層からなる細胞シート」を2枚以上重ねたものであってもよい。
【0014】
Sakai,Y.ら、(PLoS ONE 8(7): e70970. doi:10.1371/journal.pone.0070970)によれば、本発明の「重層化された細胞シート」が「フィーダー細胞の層と、肝細胞の層との少なくとも2つの細胞層からなる細胞シート」1枚のとき、前記細胞シートの寸法は、例えば培養容器として6ウェル培養プレートの1個のウェルについて、例えば、7ないし20mmの直径に対し厚さが約10ないし25μmのことがある。
【0015】
本発明の重層化された細胞シートは、移植が必要な被験体の肝臓表面に移植して長期維持するために使用される。前記被験体は、ヒト又はヒト以外の動物であってもよい。前記被験体がヒト以外の動物の場合、細胞シートとして移植されるヒト細胞に対する免疫反応を回避するために、ヒト細胞に対して免疫反応を惹起しない動物を用いることが好ましい。ヒト細胞、好ましくはヒト肝臓細胞が生着している動物がより好ましい。好ましいヒト以外の動物の例は、肝障害(例えば、アルブミンエンハンサー/プロモーターの制御下でウロキナーゼ型のプラズミノーゲンアクチベーター(以下、「uPA」)を過剰発現するトランスジェニックマウス)、及び、重度免疫不全(例えば、SCIDマウス)の両方の形質を備えるuPA+/+/SCID+/+マウスの幼獣に、ヒト解凍肝細胞を移植したキメラマウスを含むが、これに限られない。本発明の細胞シートについて「長期間にわたって機能を発現可能」とは、少なくとも移植後8週間、10週間、12週間、15週間、18週間、21週間、24週間、27週間、30週間、33週間、36週間、39週間、42週間、45週間、48週間、52週間又はそれ以上の期間、あるいは、3月間、6月間、9月間、12月間、15月間、18月間、21月間、24月間又はそれ以上の期間にわたって継続的に、前記細胞シートが機能を発現しながら移植部位で生存することをいう。ここで本発明の細胞シートが「機能を発現」するとは、前記細胞シートに含まれる肝細胞が、タンパク質を産生し分泌すること、胆汁を合成し分泌すること、及び/又は、宿主にとって有害な物質を解毒し分解することを含むが、これらに限定されない、肝臓の機能の少なくとも1つを果たすことをいう。本発明の肝細胞が、外来遺伝子導入又はゲノム編集により前記ドナーの肝細胞が発現していなかった遺伝子を発現する場合には、該遺伝子の産物を産生することも、本発明の細胞シートが機能を発現することに含まれる。本発明の細胞シートが機能を発揮しているかどうかは、血液中の前記タンパク質、胆汁、有害物質などを、ELISA法、ウェスタンブロッティング法、その他の免疫学的又は生化学的手法により定量的又は定性的に検出することにより決定することができる。当該免疫学的又は生化学的手法は本発明の分野の当業者に周知である。
【0016】
本発明の「肝細胞」は、正常な肝臓の全部又は一部から単離可能な全ての細胞タイプを含み、肝実質細胞と、肝類洞内皮細胞、クッパー細胞、肝星細胞、ピット細胞、胆管上皮細胞、中皮細胞などの肝非実質細胞とを含む。本発明の細胞シートに含まれる肝細胞は、健康なヒトのドナーの肝臓から回収された新鮮な肝細胞(以下、「新鮮肝細胞」という。)のほか、該新鮮肝細胞を培養した肝細胞(以下、「培養肝細胞」という。)であってもよく、新鮮肝細胞又は培養肝細胞を凍結保存してから解凍した肝細胞(以下、「解凍肝細胞」という。)又は解凍肝細胞を培養した肝細胞(以下、「解凍培養肝細胞」という。)であってもよい。本発明の肝細胞、特に、前記培養肝細胞又は解凍培養肝細胞は、外来遺伝子導入又はゲノム編集により前記ドナーの肝細胞が発現していなかった遺伝子を発現していてもよい。本発明の「肝細胞」は、前記新鮮肝細胞に含まれる特定の1つ又は2つ以上の細胞タイプの細胞を選択的に濃縮及び/又は除去した細胞か、あるいは選択的に濃縮又は除去した後に培養した細胞か、選択的に濃縮又は除去した後に凍結し、その後解凍した細胞か、さらに該解凍した細胞を培養した細胞であってもよい。本発明の「肝細胞」は、前記新鮮肝細胞に含まれる特定の2つ以上の細胞タイプの細胞を選択的に濃縮した細胞を異なる配合比率で混合したものであっても、異なる配列又は配置で細胞シート上に並べたものであってもよい。本発明の肝細胞は、肝臓由来の肝細胞の他、iPS細胞、多能性幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、その他の肝細胞に分化することができる未分化細胞に由来することもできる。
【0017】
本発明の「フィーダー細胞」は、培養下及び/又は移植後の本発明の肝細胞の生存及び機能の発揮に必要な生理活性物質、成長因子その他を産生し、及び/又は、本発明の肝細胞の足場として機能するなど、本発明の肝細胞の生存及び機能の発揮を補助するために本発明の肝細胞と共培養される細胞をいう。本発明の「フィーダー細胞」は、本発明の肝細胞の培養に先立って同じ培養容器に播種されてもよい。本発明のフィーダー細胞は、本発明の肝細胞との共培養に先だって、細胞増殖阻害剤(例えば、マイトマイシンCなど)添加、放射線(例えばγ線など)照射その他の増殖能力を喪失させるための処理を施されてもかまわない。本発明の「フィーダー細胞」は、肝細胞を培養する培養容器に接着することができる細胞が望ましく、血管内皮細胞、線維芽細胞などの初代培養細胞か、継代可能ではあるが不死化細胞ではない培養細胞か、株化細胞かを含むが、これらに限定されない。
【0018】
肝臓は、横隔膜に接する部分を除いては、単層扁平上皮からなる漿膜と、その下の線維性結合組織とからなる肝被膜に覆われており、肝細胞は肝被膜の内側に存在する。本発明における「肝臓表面」とは、肝被膜がその下の肝細胞を完全に密封し、肝被膜の外側からは物理的に接触不可能な状態の肝臓表面(以下、「インタクトな肝臓表面」という。)と、肝被膜を部分的に除去して肝被膜に開口を形成することにより肝細胞が肝被膜の外側から物理的に接触可能な状態の肝臓表面(以下、「肝被膜に開口が形成された肝臓表面」という。)のいずれかを指す。本発明における「肝被膜に開口が形成された肝臓表面」は、長さ、幅、深さ及び方向が規則的又は不規則的なほぼ溝状の多数の開口が肝被膜に形成された肝臓表面であってもよい。本発明の細胞シートを移植する肝臓表面は、移植に支障がないことを条件として、肝臓のどの区域でも構わない。例えば、マウスであれば、外側左葉腹側面及び内側左葉の背側面(マウスの腹部を上向きに開腹するとき、それぞれ、外側左葉上面及び内側左葉の裏面)、ヒトであれば、開腹手術で細胞シートの移植が可能ないずれかの区域の肝臓表面、例えば、左葉外側区域の腹側表面及び左葉内側区域の背側表面とすることができる。前記肝被膜のほぼ溝状の開口は、例えば、綿棒その他の器具で肝被膜の外側を擦り剥く(スクラッチ)することにより形成することができる。あるいは本発明における「肝被膜に開口が形成された肝臓表面」は、前記多数のほぼ溝状の開口ではなく、円形、多角形及び/又は不定形の形状の1又は複数の開口が肝被膜に形成された肝臓表面であってもよい。前記肝被膜の円形、多角形及び/又は不定形の形状の1又は複数の開口は、例えば、ハサミその他の刃物で肝被膜を切除することにより形成することができる。あるいは前記肝被膜の開口は、前記多数のほぼ溝状の開口と、前記円形、多角形及び/又は不定形の形状の1又は複数の開口との組み合わせであってもよい。前記多数のほぼ溝状の開口が形成される肝被膜の面積と、前記円形、多角形及び/又は不定形の形状の1又は複数の開口の面積との合計は、本発明の細胞シートを貼りつける面積と同じかそれより狭い面積であってもよい。なお前記開口を前記肝被膜に形成する際は、肝被膜直下の毛細血管及び/又は肝細胞近傍の毛細血管からの出血を阻止するための止血剤を用いることがある。本発明の細胞シートの移植手術を終了する際には、前記出血が止まっていることを確認のうえ閉腹する。前記止血剤は、前記組織接着剤にも使用されるフィブリン糊系止血剤(例えば、タコシール(登録商標)組織接着用シート(CSLベーリング株式会社)及びボルヒール(登録商標、帝人ファーマ株式会社)の他に、コラーゲン系止血剤(例えば、ヘリスタット(株式会社白鵬))、植物デンプン系止血剤(例えば、バード アリスタAH(株式会社メディコン))を含むがこれらに限られない。
【0019】
本発明の1つの実施態様は、前記フィーダー細胞が線維芽細胞である、本発明の細胞シートを提供する。
【0020】
線維芽細胞は、皮膚その他の結合組織に由来し、コラーゲン、フィブロネクチン等の細胞外マトリクスの構成タンパク質を産生する細胞で、培養下では紡錘状に細長く伸長して培養容器の基質に接着している。本発明の線維芽細胞は、培養下でフィーダー細胞として機能し、フィーダー細胞層を形成して、肝細胞層ととともに重層化された細胞シートを構成することができるいずれかの線維芽細胞でかまわない。本発明の線維芽細胞は、初代培養細胞と、継代可能ではあるが不死化細胞ではない培養細胞と、株化細胞とのいずれであってもかまわない。線維芽細胞の初代培養細胞には、ヒト皮膚由来正常2倍体線維芽細胞のTIG-118細胞、Hs68細胞、ASF-4細胞、マウス胚皮膚由来の線維芽細胞のMEF細胞等があり、継代可能ではあるが不死化細胞ではない培養細胞にはマウス胚皮膚由来のSTO細胞等があり、株化細胞には、マウス胚皮膚由来のNIH3T3細胞、前記STO細胞由来のSNL76/7細胞等がある。被検体がヒトの場合には、フィーダー細胞として被験体由来の線維芽細胞を用いることが好ましい。
【0021】
線維芽細胞のうちTIG-118細胞は、肝細胞の機能発揮を補助するのに好ましいフィーダー細胞であることが知られている。Sakai,Y.ら(PLoS ONE 8(7): e70970. doi:10.1371/journal.pone.0070970)によると、細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材(UpCell(登録商標)、株式会社セルシード)を用いた培養システムにおいて、ヒト肝細胞前駆細胞株由来の最終分化した肝細胞であるHepaRG(登録商標)細胞とTIG118細胞とを2日間共培養した後低温処理して培養容器から剥離して得られる細胞シートは、HepaRG細胞単独で2日間培養して得られる細胞シートよりも縮むが、分厚くなって、HepaRG細胞が重なりあった3次元的な組織を形成する。このように共培養して得られる共培養細胞シートでは、播種したHepaRG細胞の細胞数あたりのアルブミン及びα1アンチトリプシンの産生量がHepaRG細胞単独よりも約1.2倍に増大した。
【0022】
本発明の細胞シートは、肝細胞及びフィーダー細胞の他に、細胞外マトリクスを含むことがある。該細胞外マトリクスは、肝細胞及び/又はフィーダー細胞が産生することもあるが、人為的に添加することもある。
【0023】
本発明の1つの実施態様は、前記肝細胞が、ヒト肝細胞が生着した肝障害を有する免疫不全非ヒト動物から採取されたヒト肝細胞である、発明の細胞シートを提供する。
【0024】
本発明における「ヒト肝細胞が生着した肝障害を有する免疫不全非ヒト動物」とは、当該非ヒト動物の肝細胞が死滅しているか、生存していても当該非ヒト動物の肝臓機能を十分に果たせないほど少数しか存在してない肝障害を発症しているヒト以外の動物にヒト肝細胞が生着し、当該非ヒト動物の肝細胞をヒト肝細胞が置換しているキメラ動物を指す。前記肝障害は当該非ヒト動物の肝細胞だけに異常がある、肝障害である。前記キメラ動物は、免疫不全も発症しているために、ヒト肝細胞が生着することができる。
【0025】
本発明の1つの実施態様は、前記非ヒト動物が遺伝的に肝障害を有する、本発明の細胞シートを提供する。
【0026】
本発明における肝障害は、肝細胞の細胞系譜が分化しないか、いったん肝細胞として分化しても、死滅するか、生存しても当該非ヒト動物の肝臓機能を十分に果たせないほど少数しか存在しないかである、いずれかの遺伝性肝障害である。本発明の遺伝的な肝障害は、自然発生又は変異原により誘発された突然変異動物であっても、遺伝子操作実験によって作出された突然変異動物であってもかまわない。遺伝子操作実験によって作出された突然変異動物は、例えば、肝細胞の分化及び/又は生存に必須な遺伝子をゲノム編集技術によって破壊したノックアウト動物の場合や、肝細胞特異的に発現する遺伝子の転写制御領域の制御下で自殺遺伝子を発現させるトランスジェニック動物の場合がある。前記肝細胞特異的に発現する遺伝子は、例えばアルブミンのプロモーター、エンハンサー等の転写調節配列を含むが、これらに限られない。前記自殺遺伝子は、例えば、毒素(例えばジフテリア毒素A鎖)と、無毒性のプロドラッグを毒性生成物に変換する酵素(例えばチミジンキナーゼ、カルボキシルエステラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、チトクロームP450アイソザイム、デオキシリボヌクレオチドキナーゼ、ニトロリダクターゼ等)とを含むが、これらに限られない。
【0027】
本発明の1つの実施態様は、前記非ヒト動物がuPA+/+/SCID+/+マウスである、本発明の細胞シートを提供する。
【0028】
前記uPA+/+マウスは、肝障害(例えば、アルブミンエンハンサー/プロモーターの制御下でウロキナーゼ型のプラズミノーゲンアクチベーターを過剰発現するトランスジーン(以下、「uPA」という。)が常染色体にインテグレーションされたトランスジェニックマウスのホモ個体である。SCID+/+マウスは、T細胞及びB細胞の両方の機能が欠如した自然発症の重度免疫不全突然変異(以下、「SCID」という。)のホモ個体である。したがって、uPA+/+/SCID+/+マウスは、uPA及びSCIDの両方のホモ接合体である。本発明の細胞シートに用いる肝細胞は、uPA+/+/SCID+/+マウスの肝障害が重篤になる前の幼獣に、ヒト肝細胞を移植したキメラマウスであってもよい。かかるキメラマウスは、例えば、株式会社フェニックスバイオからPXBマウスとして商業的に入手することができる。PXBマウスは、2ないし3週齢のuPA+/+/SCID+/+マウスに、インフォームドコンセントを得たドナー由来の正常ヒト肝細胞を脾臓経由で移植することによって作成されたキメラマウスである。12週齢以降でヒト肝細胞への置換率が70%以上となったPXBマウスから回収した肝細胞は、抗マウス抗体及び補体を用いてマウス由来の肝細胞を免疫外科処理により除去してヒト由来肝細胞を濃縮したうえで本発明の細胞シートを製造するために使用することができる(以下、「PXB細胞」という。)。
【0029】
本発明の細胞シートは、細胞シート剥離用薬剤を固定化した培養容器に肝細胞を播種する工程、及び、前記細胞シート剥離用薬剤を培養容器から離脱させる刺激を前記培養容器に与えることにより前記肝細胞を含む細胞シートを剥離する工程を含む製造方法によって製造されることがある。さらに本発明の細胞シートは、細胞シート剥離用薬剤を固定化した培養容器にフィーダー細胞を播種する工程、該フィーダー細胞を播種する工程の後に、前記培養容器に肝細胞を播種する工程、及び、前記細胞シート剥離用薬剤を培養容器から離脱させる刺激を前記培養容器に与えることにより前記肝細胞及びフィーダー細胞を含む細胞シートを剥離する工程を含む製造方法によって製造されることがある。
【0030】
前記肝細胞を播種する工程では、培養容器に所定の播種密度で肝細胞を播種する。前記所定の播種密度は、培養開始から2日ないし5日、好ましくは培養開始から3日ないし4日でコンフルエント状態になる細胞密度をいう。具体的には、6ウェルプレートの1個のウェルあたり5×10個ないし2×10個、あるいは、約1×10個の肝細胞を播種することをいう。肝細胞を培養する培地は、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地その他の基本培地に、L-グルタミン、EGF、ヒドロコルチゾン、インシュリン、トランスフェリン及びセレンからなるグループから選択される添加物と、ペニシリン及びストレプトマイシンの抗生物質と、10%ウシ胎仔血清とを含む培地か、商業的に入手可能なPXB-細胞用培地(株式会社フェニックスバイオ、広島県東広島市)、Medium 670(Biopredic International、株式会社ケー・エー・シー、京都市)などの肝細胞用培地か、同等の無血清培地かを含むが、これらに限られない。ヒトに移植する場合には、本発明の細胞シートをウシ胎仔血清その他の動物由来の成分に接触させないことが望ましい。肝細胞を培養する際は、これらの培地を用いて、37℃5%CO、飽和水蒸気条件下で培養する。なお、前記細胞シート剥離用薬剤として温度応答性ポリマーを用いる場合には、該温度応答性ポリマーの下限臨界溶液温度(T)より十分に高い温度に加温した培地及び培養容器を用いる。
【0031】
本発明の細胞シートの製造におけるフィーダー細胞を播種する工程は、培養容器に所定の播種密度で本発明のフィーダー細胞を播種する。フィーダー細胞として選択される細胞は、培養容器の表面に伸展する性質を有することが多いので、培養容器の表面積あたり前記肝細胞の10分の1ないし100分の1の数の播種密度が望ましい。培養容器の表面全体にフィーダー細胞が伸展してコンフルエントになるまでの期間が3日間ないし5日間、あるいは、約4日間であってもよい。例えば、ヒト皮膚由来線維芽細胞であるTIG118細胞をフィーダー細胞に選択する場合、具体的には、6ウェルプレートの1個のウェルあたり1×10個ないし2×10個、例えば、2.6×10個ないし1.5×10個のフィーダー細胞を播種することができる。フィーダー細胞を培養する培地は、例えば、TIG118細胞の場合、2mMのL-グルタミン及び10%のウシ胎仔血清を添加したイーグル最小必須培地を含むが、これに限られない。これらの培地を用いて、37℃5%CO、飽和水蒸気条件下で培養する。なお、前記細胞シート剥離用薬剤として温度応答性ポリマーを用いる場合には、該温度応答性ポリマーの下限臨界溶液温度(T)より十分に高い温度に加温した培地及び培養容器を用いる。さらに肝細胞を播種する工程でも同様に温度に注意する。
【0032】
本発明の細胞シートの製造における、フィーダー細胞を播種する工程の後に、前記培養容器に肝細胞を播種する工程は、フィーダー細胞を播種した後、培養容器の表面全体にフィーダー細胞が伸展してコンフルエントになるまでの期間が経過した後に、肝細胞を播種する。具体的には、フィーダー細胞を播種して3日ないし5日後、あるいは、約4日後に肝細胞を播種する。播種用の肝細胞としてPXB細胞を選択する場合には、6ウェルプレートの1個のウェルあたり1.0×10個のPXB細胞を播種することができる。肝細胞を播種するときには、フィーダー細胞用の培地を除去して、肝細胞用の培地に置き換えることができる。
【0033】
本発明の細胞シートを製造するとき、前記肝細胞及びフィーダー細胞をこれらの細胞の細胞-細胞間接着及び細胞-基質間接着を損なわずに培養容器から剥離するための薬剤(以下、「細胞シート剥離用薬剤」という。)を固定化した培養容器を用いることがある。前記薬剤は、所定の刺激に曝露されると、前記肝細胞及びフィーダー細胞が前記薬剤に結合した状態で前記培養容器から離脱するために、タンパク質分解酵素処理なしで肝細胞か、肝細胞及びフィーダー細胞かを培養容器から剥離することができる。前記細胞シート剥離用薬剤は、本発明の「細胞シート」が培養容器から剥離されたた後も、前記肝細胞か、前記肝細胞及びフィーダー細胞かと、これらの細胞が分泌する細胞外マトリクスとに結合していることがある。そこで本発明の「細胞シート」は前記細胞シート剥離用薬剤を含むことがある。
【0034】
前記細胞シート剥離用薬剤は、光や温度などの所定の刺激によって細胞に対する接着度合いが変化する刺激応答性ポリマーを含み、当該刺激が存在しない条件では、本発明の肝細胞及び/又はフィーダー細胞の培養容器表面への付着及び生存を妨げない。しかし当該刺激に曝露されるときには、本発明の肝細胞及び/又はフィーダー細胞と、これらの細胞が産生した細胞外マトリクスとともに培養容器から離脱するため、これらの細胞の細胞シートが培養容器から剥離する。刺激応答性ポリマーは、例えば、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー、光応答性ポリマーなどを含むが、これらに限られない。これらのうち、温度応答性ポリマーは、細胞シートの培養液組成に変更を加えずに刺激に曝露するので細胞シート剥離用薬剤として好ましい。
【0035】
前記細胞シート剥離用薬剤を培養容器から離脱させる刺激は、前記刺激応答性ポリマーが、温度応答性ポリマー、pH応答性ポリマー、イオン応答性ポリマー及び光応答性ポリマーのとき、それぞれ、温度、pH、培養液のイオン組成、培養容器を透過する光刺激である。
【0036】
前記温度応答性ポリマーとしては、例えば、細胞を培養する温度では細胞接着性を示し、形成した細胞シートを剥離する時の温度では細胞非接着性を示すものを用いることができる。例えば、温度応答性ポリマーは、下限臨界溶液温度未満の温度では周囲の水に対する親和性が向上し、ポリマーが水を取り込んで膨潤して表面に細胞を接着し難くする性質(細胞非接着性)を示し、下限臨界溶液温度以上の温度ではポリマーから水が脱離することでポリマーが収縮して表面に細胞を接着しやすくする性質(細胞接着性)を示す化合物が好ましく用いられる。下限臨界溶液温度(T)が0℃以上42℃以下、好ましくは4℃以上37℃以下である温度応答性ポリマーを用いることが好ましい。
【0037】
好適な温度応答性ポリマーは、例えば、アクリル系ポリマー又はメタクリル系ポリマーを含み、より具体的にはポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAAm)(T=32℃)、ポリ-N-n-プロピルアクリルアミド(T=21℃)、ポリ-N-n-プロピルメタクリルアミド(T=32℃)、ポリ-N-エトキシエチルアクリルアミド(T=約35℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(T=約28℃)、ポリ-N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(T=約35℃)、ポリ-N,N-ジエチルアクリルアミド(T=32℃)などを含む。また、これらのポリマーを形成するためのモノマーが2種以上組み合わされて重合された共重合体であってもよい。
【0038】
pH応答性ポリマー又はイオン応答性ポリマーは形成しようとする細胞シートに適したものを適宜選択することができる。
【0039】
前記細胞シート剥離用薬剤は、1種の刺激応答性ポリマーだけを用いてもよく、複数種の刺激応答性ポリマーを混合して用いてもよい。
【0040】
前記細胞シート剥離用薬剤は、培養される細胞が接する培養容器の表面の上に固定化されることが好ましい。また、前記細胞シート剥離用薬剤は、前記細胞培養容器の底部のほぼ全体に形成されていてもよく、また、前記細胞培養容器の底部の一部に形成されていてもよい。
【0041】
前記培養容器の表面に細胞シート剥離用薬剤を固定化する方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、スピンコート法等により培養容器表面にポリマー液を配置した後、溶媒を除去(乾燥)する方法を含むが、これらに限られない。ポリマー液は、均一性の観点から、バーコータを用いて塗布することが好ましい。あるいは、剥離する細胞シートの取り扱いのために、例えば、細胞シートが辺縁から徐々に剥離するように培養容器に所定のパターンで細胞シート剥離用薬剤を固定化することもできる。培養容器の表面に、UVオゾン処理、プラズマ処理、電子線処理、コロナ処理その他の処理を施すことができる。前記細胞シート剥離用薬剤の塗布量その他の条件は、本発明の細胞シートに用いる肝細胞及び/又はフィーダー細胞が所定の刺激によって培養容器から均一に剥離するものであれば特に限定されない。
【0042】
前記培養容器の材料は、例えば、ガラス又はプラスチックを用いることができるが、これらに限られない。プラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂を含むがこれらに限られない。アクリル樹脂としては、汎用性の観点から、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。
【0043】
前記細胞シート剥離用薬剤を固定化した培養容器の具体例は、細胞シート剥離用薬剤として温度応答性ポリマーを用いる、細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材UpCell(登録商標、株式会社セルシード)を含むが、これに限られない。
【0044】
また、本発明の細胞シートを製造するための培養容器は、本発明の肝細胞及びフィーダー細胞の細胞シート上での配列又は配置を操作するための薬剤(以下、「細胞配置制御用薬剤」という。)を前記細胞シート剥離用薬剤の表面に含むことがある。そこで、本発明の「細胞シート」は、培養容器から剥離された後も、前記肝細胞か、前記肝細胞及びフィーダー細胞かと、これらの細胞が分泌する細胞外マトリクスとに結合した前記細胞配置制御用薬剤を含むことがある。
【0045】
前記細胞配置制御用薬剤は、例えば、前記細胞シート剥離用薬剤をコーティングするリン脂質の二重膜と、該二重膜に埋め込まれた細胞特異的標識分子とを含むが、これらに限られない。例えば、Togo,S.ら(APL Bioeng. 4, 016103 (2020); doi:10.1063/1.5123749)は、リン脂質の二重膜として、1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(SOPC)を開示し、リン脂質の二重膜に埋め込まれた細胞特異的標識分子として、単鎖DNAと連結したポリエチレングリコール(PEG)又はその誘導体や、細胞接着分子(例えばE-カドヘリン)の細胞外ドメインとヒスチジンタグのような金属錯体結合性ペプチドタグとの融合タンパク質と、金属錯体のリン脂質誘導体(例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[(N-(5-アミノ-1-カルボキシペンチル)-イミノジ酢酸)スクシニル]ニッケル塩)とを開示する。細胞特異的標識分子の別の例は、本発明の細胞シートに含まれる細胞と特異的に結合する抗体と、前記抗体と結合する2次抗体との組み合わせ、あるいは、前記細胞と特異的に結合する抗体にビオチン又は糖鎖が結合したコンジュゲートと、前記ビオチンと特異的に結合するタンパク質(例えばアビジン又はストレプトアビジン)か、前記糖鎖と特異的に結合するレクチンかとの組み合わせを含むが、これらに限定されない。前記細胞配置制御用薬剤の塗布量その他の条件は、本発明の肝細胞及び/又はフィーダー細胞の細胞シート上での配列又は配置を操作することができるものであれば特に限定されない。
【0046】
本発明の細胞シートは、移植部位である肝臓表面に本発明の細胞シートを貼り付けて肝臓表面へ固定するためのフィブリン糊その他の組織接着剤(例えば、タコシール(登録商標)組織接着用シート(CSLベーリング株式会社)及びボルヒール(登録商標、帝人ファーマ株式会社)を含むことがある。前記組織接着剤の用量その他の条件は、肝臓表面に本発明の細胞シートを貼り付けて肝臓表面へ固定することができるものであれば特に限定されない。
【0047】
本発明の細胞シートは、培養容器から剥離する細胞シートをすくい上げて、移動させて、肝臓表面に貼り付ける操作のときに細胞シートを保護するため、及び/又は、肝臓表面に貼り付けた後の宿主体内の細胞シートを保護するための保護剤(例えば、ヒアルロン酸、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンを含むがこれらに限定されない、細胞外マトリクス成分、前記組織接着剤、ポリグリコール酸、及び/又は、ポリエチレングリコール)を含むことがある。前記保護剤の用量その他の条件は、培養容器から剥離する細胞シートをすくい上げて、移動させて、肝臓表面に貼り付ける操作のときに細胞シートを保護すること、及び/又は、肝臓表面に貼り付けた後の宿主体内の細胞シートを保護することができるものであれば特に限定されない。
【0048】
本発明の1つの実施態様は、本発明の細胞シートを含む、肝臓表面に移植するための医薬組成物を提供する。
【0049】
本発明の「医薬組成物」は、本発明のいずれかの細胞シートの有効量、及び、医薬として許容される担体を含む。本発明の医薬組成物は、肝被膜に開口が形成された肝臓表面に移植するためのシート剤として、移植医療に用いることができる。本発明の医薬組成物は、移植直前に培養容器から剥離する場合の他、移植時に薬効を発揮できることを条件として、細胞シートの状態で凍結保存することもできる。
【0050】
本発明の医薬組成物の有効成分は、肝細胞層とフィーダー細胞層とを含む重層化された細胞シートである。本発明の医薬組成物の有効量は、治療又は予防対象の疾患によって異なるが、剥離した細胞シートに含まれる細胞で約1×10個ないし約1×10個である。したがって、本発明の医薬組成物の1回の投与量、すなわち、移植される肝細胞の数は、約1×10個ないし約1×10個である。本発明の医薬組成物のうち有効成分である細胞シートは、肝細胞の他にフィーダー細胞を含む。さらに、前記細胞シートの周囲の培養液、保存液又は保護剤を含むことがある。前記細胞シートは、肝細胞の細胞数の約100分の1ないし約5分の1の細胞数のフィーダー細胞を含むことがある。前記細胞シートは、細胞外マトリクスと、前記細胞シートが培養容器から剥離したときに細胞シートに付着した細胞シート剥離用薬剤その他の薬剤とを含むことがある。しかし、肝臓表面に移植する時点では、有効成分である肝細胞の重量は、細胞シートという単位用量形態の重量の約0.1%ないし約50%であってもよい。本発明の医薬組成物は、好ましくは単位用量形態に配合されて、各用量は、典型的に約0.5mgないし約100mgの発明の化合物を含有する。「単位用量形態」という用語は、一般的には、適切な医薬品賦形剤と連合した、所定量の活性成分を含有する物理的不連続単位を指し、投与計画全体を通じて1つ又は複数が使用されて、所望の治療効果を生じる。しかし、本発明の医薬組成物では、1回の移植手術で移植される細胞シートは、肝被膜に開口が形成された肝臓表面に貼りつけて投与されることにより、長期維持される。
【0051】
本発明の1つの実施態様は、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び/又は治療用である、本発明の医薬組成物を提供する。
【0052】
本発明の1つの実施態様は、本発明の細胞シートの、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び治療のための使用を提供する。
【0053】
本発明の1つの実施態様は、本発明の細胞シートの、肝臓疾患、血液疾患及び代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患の予防及び治療用医薬組成物の製造のための使用を提供する。
【0054】
本発明において、「肝臓疾患」とは、急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝臓線維症、肝硬変、門脈圧亢進症、再生不全、アルコール性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝機能不全、肝血流量障害に伴う肝機能不全を含むが、これに限られない。
【0055】
本発明において、「血液疾患」とは、フォン・ヴィレブランド病及び血友病を含むが、これらに限られない、肝臓でのタンパク質産生異常など肝臓の機能の異常によって発症する血液疾患をいう。
【0056】
本発明において、「代謝疾患」とは、ウィルソン病、アルファ1抗トリプシン欠損症、チロシン血症、尿素回路不全(OTCD、CPS1D、アルギノコハク酸合成酵素不全症)、有機酸血症(メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症)を含むが、これらに限られない、肝臓での酵素その他のタンパク質産生異常など肝臓の機能の異常によって発症する代謝疾患をいう。
【0057】
本発明の1つの実施態様は、本発明の細胞シート又は本発明の医薬組成物の有効量を、肝機能が低下した被験体の肝臓に移植することを含む、前記被験体における肝機能の改善方法を提供する。
【0058】
本発明の1つの実施態様は、前記被験体が、肝臓疾患、血液疾患および代謝疾患から選択される少なくとも1つの疾患を有する、本発明の肝機能の改善方法を提供する。
【0059】
本明細書において、特記しない場合、数値について「約」という連体詞は、当該数値より10%少ない数値以上、かつ、当該数値より10%多い数値以下の数値範囲をいう。
【0060】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0061】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0062】
(1)材料及び方法
(1.1)ヒト肝細胞キメラマウス
培養に用いたヒト肝細胞は、ヒト肝細胞キメラマウスであるPXBマウス(株式会社フェニックスバイオ)に由来する。PXBマウスは、生後2~3週間のuPA+/+/SCID+/+マウスに、インフォームドコンセントを得たドナー由来の正常ヒト肝細胞を脾臓経由で移植したヒト肝細胞キメラマウスである。12週齢を超え、ヒト肝細胞への置換率が70%以上となったPXBマウスを入手した。
【0063】
(1.2)ヒト肝細胞キメラマウスからの肝細胞の回収
ヒト肝細胞キメラマウスからの肝細胞の単離は2段階コラーゲナーゼ潅流法を用いて実施された。前記キメラマウスの肝臓を、200mg/mLのエチレングリコールテトラ酢酸(EGTA)、1mg/mLのグルコース、10mMのN-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(HEPES)及び10μg/mLのジェンタマイシンを含むCa2+及びMg2+不含Hanks平衡塩溶液(CMF-HBSS)を38℃で毎分1.5mLの流速で潅流した。潅流液を、0.05%のコラーゲナーゼ(和光純薬)、0.6mg/mLのCaCl、10mMのHEPES及び10μg/mLのジェンタマイシンを含むCMF-HBSSに切り替えて、さらに17~23分間毎分1.5mLの流速で潅流した。肝臓を摘出して、ディッシュに移し、10%のウシアルブミン、10mMのHEPES及び10μg/mLのジェンタマイシンを含むCMF-HBSS中で穏やかに肝細胞を解離した。解離された細胞は遠心(50×g、2分間)を3回繰り返した後、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、10%のウシ胎仔血清(FBS)、20mMのHEPES、44mMのNaHCO及び抗生物質(100IU/mLのペニシリンG及び100μg/mLのストレプトマイシン)からなる培地にペレットを懸濁した。細胞数及び生存率をトリパンブルー排除試験を用いて評価した。
【0064】
(1.3)PXB細胞の濃縮
PXBマウスから単離されたヒト肝細胞にはマウス由来の肝細胞が混在しているので、ラット抗マウス肝細胞モノクローナル抗体66Zとインキュベーションし、10%FBSを含むDMEMで洗浄し、30分間氷上の試験管の中でヒツジ抗ラットIgG抗体をコンジュゲートしたDynabeads(Dynal Biotech)とインキュベーションした。前記試験管は磁石スタンドDynalMPC-1に1~2分間装着して66Zと結合するマウス肝細胞を除去した。濃縮されたヒト肝細胞は66Z陰性細胞として回収した。
【0065】
(1.4)PXB細胞の培養
前記濃縮されたヒト肝細胞をPXB-細胞用培地(株式会社フェニックスバイオ)に懸濁し、6ウェルの温度応答性培養プレート(Up Cell(登録商標)CS3004、株式会社セルシード)にウェルあたり1×10個を播種した。以下、細胞の培養条件は、95%飽和水蒸気、37℃、5%CO存在下であった。3日間の培養の後マウスへの移植に供した。
【0066】
(1.5)ヒト線維芽細胞及びPXB細胞の共培養
ヒト皮膚由来線維芽細胞であるTIG118細胞(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 JCRB細胞バンク、細胞番号:JCRB053)を10%のFBSを添加したイーグル最小必須培地に懸濁し、6ウェルの温度応答性培養プレート(Up Cell(登録商標)CS3004、株式会社セルシード)にウェルあたり1.5×10個を播種した。4日後に、前記濃縮されたPXB細胞をPXB-細胞用培地(株式会社フェニックスバイオ)に懸濁し、前記TIG118細胞が伸展した6ウェル温度応答性培養プレート(Up Cell(登録商標)CS3004)にウェルあたり1×10個を播種した。3日間の共培養の後細胞シートを回収した。
【0067】
(1.6)細胞シートの回収
前記温度応答性培養プレートを室温下で2ないし3時間静置し、培養プレートから細胞シートを剥離した。剥離した細胞シートは、滅菌済みの円形ガラス板ですくい上げて、マウスへの移植に供した。
【0068】
(1.7)細胞シートのマウスへの移植
細胞シートを移植をする前に、uPA+/+/SCIDマウスに鎮痛剤(酒石酸ブトルファノール)を皮下投与した。肝臓表面移植の場合には、イソフルラン麻酔下で前記マウスの腹部を上向きに開腹して肝臓表面(外側左葉上面及び内側左葉の裏面)を綿棒でスクラッチし、止血した後に前記細胞シートを滅菌済みの丸型ガラス板ですくい上げて前記肝臓表面に貼り付けた。皮下移植の場合には、イソフルラン麻酔下で前記マウスの腹部を上向きに開腹して、皮膚の裏側(腹膜に接する側)に前記細胞シートを貼り付けた。施術後、止血が出来ていることを確認し閉腹した。
【0069】
(1.8)血中アルブミンの測定方法
麻酔下での眼窩静脈叢採血により血液を採取した。採取した2~60μLの血液を用いて、ELISA法(Human Albumin ELISA Quantitation Kit,Bethyl Laboratories, Montgomery, TX)、又は、ラテックス凝集免疫比濁法(LZテスト‘栄研’U-ALB,栄研化学株式会社)を用いて自動分析装置BioMajestyTM(JCA-BM6050、日本電子株式会社)で測定した。
【0070】
(2)結果
(2.1)PXB細胞を含む細胞シートの調製
図1の上段は、6ウェルの温度応答性培養プレートにおけるPXB細胞のみの培養(PXB-only)の培養第1日目(Day 1)及び培養第3日目(Day 3)の位相差顕微鏡写真と、培養第3日目に室温で培養プレートから剥離したPXB細胞のみの培養の細胞シートの顕微鏡写真及びヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色した該細胞シートの組織切片写真とを示す。図1の上段に示すとおり、PXB細胞のみを播種した場合には、培養第1日目では細胞は基質の上に伸展していないが、培養第3日目には基質上に伸展した細胞も認められるようになった。細胞を播種した温度応答性培養プレートを室温下で2ないし3時間静置すると、細胞が産生した細胞外マトリクスと細胞とが1枚の細胞シートとして剥離した。ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色した前記細胞シートの組織切片を鏡検すると、PXB細胞がほぼ単層の細胞シートを形成していた。
【0071】
(2.2)ヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞及びPXB細胞の共培養細胞シートの調製
図1の下段は6ウェルの温度応答性培養プレートにおけるヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞及びPXB細胞の共培養(PXB/TIG-118)の培養第1日目(Day 1)及び培養第3日目(Day 3)の位相差顕微鏡写真と、培養第3日目に室温で培養プレートから剥離した共培養細胞シートの顕微鏡写真及びヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色した前記共培養細胞シートの組織切片写真とを示す。図1の下段に示すとおり、TIG118細胞を播種して4日目にPXB細胞を播種した場合には、PXB細胞の播種後第1日目でも既に大半のPXB細胞はTIG118細胞の上に伸展しており、培養第3日目にはPXB細胞はコンフルエント状態に到達した。共培養した温度応答性培養プレートを室温下で2ないし3時間静置すると、TIG118細胞及びPXB細胞が1枚の細胞シートとして剥離した。剥離した共培養細胞シートは、PXB細胞のみの培養細胞シートよりも厚みがあった。ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色した共培養細胞シートの組織切片を鏡検すると、PXB細胞がTIG118細胞の上に重層しているだけでなく、PXB細胞の細胞質が増大し、肝細胞としてより成熟しており、TIG118細胞がフィーダー細胞としてPXB細胞の肝機能発揮をサポートしていることを示唆した。
【0072】
(2.3)PXB細胞のみの培養細胞シート及び共培養細胞シートの移植の効果
5週齢のuPA+/+/SCID+/+オスマウスの皮下又は肝臓表面(肝表)にPXB細胞のみの培養細胞シート(PXB-only)又は共培養細胞シート(PXB/TIG-118)を移植した後12週まで毎週マウスの体重量及び血中ヒトアルブミン濃度を経時的に測定した結果を、それぞれ、図2及び図3に示す。図2は、PXB細胞のみの培養(PXB-only)と、ヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞を播種後に前記PXB細胞を播種した共培養(PXB/TIG-118)とを皮下又は肝臓表面(肝表)に移植後の経時的な体重量変化の折れ線グラフである。縦軸は、移植日のマウスの体重量の平均値を1とするマウスの体重量の平均の相対値を表し、横軸は移植期間(単位:週)を表し、誤差棒は4匹のマウスの測定結果の標準偏差を表す。図3は、PXB細胞のみの培養(PXB-only)と、ヒト皮膚由来線維芽細胞TIG118細胞を播種後に前記PXB細胞を播種した共培養(PXB/TIG-118)を皮下又は肝臓表面(肝表)に移植後の経時的なヒトALB(アルブミン)濃度の変化の片対数折れ線グラフである。縦軸は血中ヒトアルブミン濃度(対数目盛、単位:ng/mL)、横軸は移植期間(単位:週)を表し、誤差棒は各4匹のマウスの測定結果の標準偏差を表す。
【0073】
図2に示すとおり、PXB細胞のみの培養細胞シート(PXB-only)又は共培養細胞シート(PXB/TIG-118)をuPA+/+/SCIDマウスの皮下又は肝臓表面(肝表)に移植しても、マウスの体重量の変化にはほとんど相違がなかった。しかし、図3に示すとおり、PXB細胞のみの培養細胞シートを皮下移植したマウスでは、移植2週目でヒトアルブミンの血中濃度が他の移植条件のマウスより低く、その後も低下しつづけた。TIG118細胞及びPXB細胞の共培養細胞シートを皮下移植したマウスでは、移植2~4週目では肝臓表面に移植したマウスとヒトアルブミンの血中濃度はほとんど相違がなかった。しかし、移植5週目から共培養細胞シートを皮下移植したマウスは肝臓表面に移植したマウスよりヒトアルブミン血中濃度が低くなり、その後も低下しつづけた。これに対し、肝臓表面に移植したマウスは、共培養細胞シートを移植したマウスのほうが肝細胞のみの培養細胞シートを移植したマウスよりヒトアルブミン血中濃度が移植5週目で低くなったが、ともに大きく変化することなくヒトアルブミンを血中に産生しつづけた。
【0074】
以上の図3の結果から、PXB細胞のみの培養細胞シートの肝臓表面移植が最も移植肝細胞の機能発現の成績が良く、TIG118細胞及びPXB細胞の共培養細胞シートの肝臓表面移植がこれに次ぐ成績であった。皮下移植では肝細胞のみの培養細胞シートでも、共培養細胞シートでも、経時的にヒトアルブミンの血中濃度が著しく低下した。すなわち、肝細胞の皮下移植はせいぜい一時的な効果しか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の細胞シートは、既知の肝臓表面に移植する肝細胞等の細胞シートよりはるかに長期の移植後12週間以上にわたって機能を発現可能である。したがって、本発明の細胞シート及び該細胞シートを含む医薬組成物は、肝臓の再生医療の分野で有用である。
図1
図2
図3