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特開2022-121181化粧シート及び化粧シートの製造方法
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  • 特開-化粧シート及び化粧シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121181
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】化粧シート及び化粧シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220812BHJP
   C09D 175/08 20060101ALI20220812BHJP
   C09D 123/10 20060101ALI20220812BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20220812BHJP
   C09D 7/42 20180101ALI20220812BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220812BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220812BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220812BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20220812BHJP
   B05D 7/02 20060101ALI20220812BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220812BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220812BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B32B27/00 E
C09D175/08
C09D123/10
C09D163/00
C09D7/42
C09D7/63
C09D7/65
C09D5/00 D
C09D5/02
B05D7/02
B05D7/24 301M
B05D7/24 302R
B05D7/24 302T
B05D3/00 F
B05D1/36 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018390
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】山崎 祥美
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AC02
4D075AC25
4D075AE03
4D075AE19
4D075BB05X
4D075BB05Z
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4J038PC02
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐湿熱性とともに耐水性に優れた化粧シート及びその化粧シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態に係る化粧シート10は、基材1と、基材1上に、水性の着色インキにより形成された絵柄層2と、絵柄層2上に、樹脂成分の主成分として、水酸基価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、NCO含有量5%以上の水性イソシアネート化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の範囲内であるアンカー層3と、アンカー層3上に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂により形成された透明樹脂層4と、透明樹脂層4上に、ウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより形成されたトップコート層5と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン基材と、
前記ポリオレフィン基材上に、水性の着色インキにより形成された絵柄層と、
前記絵柄層上に、樹脂成分として、水酸基価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、NCO含有量5%以上の水性イソシアネート化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の範囲内であるアンカーコート層と、
前記アンカーコート層上に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂により形成された透明樹脂層と、
前記透明樹脂層上に、ウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより形成されたトップコート層と、を備えたことを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
ポリオレフィン基材と、
前記ポリオレフィン基材上に、水性の着色インキにより形成された絵柄層と、
前記絵柄層上に、樹脂成分として、酸価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、エポキシ当量50以上のエポキシ化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の範囲内であるアンカーコート層と、
前記アンカーコート層上に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂により形成された透明樹脂層と、
前記透明樹脂層上に、ウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより形成されたトップコート層と、を備えたことを特徴とする化粧シート。
【請求項3】
前記絵柄層の前記アンカーコート層側の面の濡れ指数は、60dyne以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記アンカーコート層と前記透明樹脂層と間の剥離強度が15N/inch以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記化粧シートの105℃、100%RH環境下で24時間暴露後における前記アンカーコート層と前記透明樹脂層と間の剥離強度が5N/inch以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項6】
前記トップコート層に光沢調整剤として、シリカフィラーを含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項7】
前記トップコート層に耐候剤として、トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤と、NOR型骨格を有する光安定剤とを含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項8】
前記トップコート層に滑剤として、ポリエチレン系ワックスを含むことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項9】
前記透明樹脂層の前記トップコート層側の面を濡れ指数は、60dyne以上であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項10】
前記トップコート層の85℃、85%RH環境下で500時間暴露前後の光沢度変化が5%以内であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項11】
前記ポリオレフィン基材の前記絵柄層側の面とは反対側の面である裏面に、前記着色インキに含まれるバインダー樹脂と同一成分からなり、且つ、膜厚が1μm以上5μm以下の範囲内であるプライマー層を備えたことを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項12】
前記ポリオレフィン基材の膜厚は、50μm以上100μm以下の範囲内であり、
前記絵柄層の膜厚は、1μm以上5μm以下の範囲内であり、
前記透明樹脂層の膜厚は、70μm以上100μm以下の範囲内であり、
前記トップコート層の膜厚は、3μm以上15μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の化粧シート。
【請求項13】
ポリオレフィン基材上に、水性の着色インキにより、絵柄層を形成し、この絵柄層上に、樹脂成分として、水酸基価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、NCO含有量5%以上の水性イソシアネート化合物を、それぞれ含む水性インキにより、アンカーコート層を1μm以上3μm以下の膜厚で形成し、このアンカーコート層上にポリプロピレンを主成分とする透明樹脂層を押し出し成型により形成し、この透明樹脂層上にウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより、トップコート層を形成することを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項14】
ポリオレフィン基材上に、水性の着色インキにより、絵柄層を形成し、この絵柄層上に、樹脂成分として、酸価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、エポキシ当量50以上のエポキシ化合物を、それぞれ含む水性インキにより、アンカーコート層を1μm以上3μm以下の膜厚で形成し、このアンカーコート層上にポリプロピレンを主成分とする透明樹脂層を押し出し成型により形成し、この透明樹脂層上にウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより、トップコート層を形成することを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項15】
前記絵柄層の前記アンカーコート層側の面の表面を濡れ指数が60dyne以上となるように表面処理することを特徴とする請求項13または請求項14に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項16】
前記アンカーコート層と前記透明樹脂層と間の剥離強度が15N/inch以上であることを特徴とする請求項13から請求項15のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項17】
前記化粧シートの105℃、100%RH環境下で24時間暴露後における前記アンカーコート層と前記透明樹脂層と間の剥離強度が5N/inch以上であることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項18】
前記トップコート層に光沢調整剤として、シリカフィラーを含むことを特徴とする請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項19】
前記トップコート層に耐候剤として、トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤と、NOR型骨格を有する光安定剤とを含むことを特徴とする請求項13から請求項18のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項20】
前記トップコート層に滑剤として、ポリエチレン系ワックスを含むことを特徴とする請求項13から請求項19のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項21】
前記透明樹脂層の前記トップコート層側の面を濡れ指数が60dyne以上となるように表面処理することを特徴とする請求項13から請求項20のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項22】
前記トップコート層の85℃、85%RH環境下で500時間暴露前後の光沢度変化が5%以内であることを特徴とする請求項13から請求項21のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項23】
前記ポリオレフィン基材の前記絵柄層側の面とは反対側の面である裏面に、前記着色インキに含まれるバインダー樹脂と同一成分からなり、且つ、膜厚が1μm以上5μm以下の範囲内であるプライマー層を形成することを特徴とする請求項13から請求項22のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【請求項24】
前記ポリオレフィン基材の膜厚は、50μm以上100μm以下の範囲内であり、
前記絵柄層の膜厚は、1μm以上5μm以下の範囲内であり、
前記透明樹脂層の膜厚は、70μm以上100μm以下の範囲内であり、
前記トップコート層の膜厚は、3μm以上15μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項13から請求項23のいずれか1項に記載の化粧シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート及び化粧シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁、天井、床、玄関ドア等の建築物の内装材または外装用部材、窓枠、扉、手すり、幅木、廻り縁、モール等の建具または造作部材には、一般的に、鋼板等の金属部材、樹脂部材、木質部材を被着材とし、これら被着材に化粧シートを貼りあわせたものが用いられる。
化粧シートは積層体であるものが多く、特に建物外装や浴室等に用いられる化粧シートでは、化粧シートの端部から化粧シートの内部に向かって水分が浸入し層間剥離を起こすといった問題が生じることがある。
【0003】
また、一般的に上記積層体を貼りあわせて化粧シートを製造する時、接着層を設けることがある。この接着層は、一般的にアクリル樹脂やポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂が用いられることが多い(特許文献1)。その場合、接着層と透明樹脂層との間で層間剥離が発生することがある。
また、耐湿熱性が要求される用途において、加水分解を起こす官能基のないアクリル樹脂を用いることができるが、硬く脆い層となることがある。このため、化粧シートを建材の形態に加工する際にワレ(割れ)が生じ、白化や水分の浸入などの問題が生じ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4737722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の問題点に対し、耐湿熱性とともに耐水性に優れた化粧シート及びその化粧シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、接着層(アンカー層とも呼ばれる)に特定要素を含む水性インキを用いた化粧シートが上述の目標を達成することを見出し本発明に至った。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る化粧シートは、ポリオレフィン基材と、前記ポリオレフィン基材上に、水性の着色インキにより形成された絵柄層と、前記絵柄層上に、樹脂成分として、水酸基価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、NCO含有量5%以上の水性イソシアネート化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の範囲内であるアンカーコート層と、前記アンカーコート層上に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂により形成された透明樹脂層と、前記透明樹脂層上に、ウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより形成されたトップコート層と、を備えていることを要旨とする。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る化粧シートは、ポリオレフィン基材と、前記ポリオレフィン基材上に、水性の着色インキにより形成された絵柄層と、前記絵柄層上に、樹脂成分として、酸価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、エポキシ当量50以上のエポキシ化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の範囲内であるアンカーコート層と、前記アンカーコート層上に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂により形成された透明樹脂層と、前記透明樹脂層上に、ウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより形成されたトップコート層と、を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、耐湿熱性とともに耐水性に優れた化粧シート及びその化粧シートの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートの断面構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図1に示す構成は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率などは現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造などが下記のものに限定されるものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
[化粧シートの全体構成]
図1は、本実施形態に係る化粧シート10の構成を示す断面図である。化粧シート10は、基材1と、基材1上に形成された絵柄層2と、絵柄層2上に形成されたアンカー層(アンカーコート層)3と、アンカー層3上に形成された透明樹脂層4と、透明樹脂層4上に形成されたトップコート層5とを備えている。以下、本実施形態として、絵柄層2を印刷形成した基材1にアンカー層3を介して透明樹脂層4を接合し、さらにトップコート層5を設けた化粧シート10について図1を用いて説明する。
【0013】
(アンカー層)
アンカー層3は、樹脂成分と硬化成分とを含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含有する層である。ここで、「水性インキ」とは、石油系溶剤を使わない印刷インキであって、水溶性樹脂をビヒクルとしたインキをいう。水性インキを用いることで、生産工程での安全性が改善されるというメリットがある。また、水性インキは溶剤等を使用しないため、水性インキを用いることで、環境に配慮した化粧シート、所謂エコシートを提供できるというメリットがある。
【0014】
アンカー層3の形成に用いる水性インキ(以下、アンカー層形成用水性インキとも称する)に含まれる樹脂成分の主成分は、水酸基価(mgKOH/g)が10以上であるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルション、または、酸価(mgKOH/g)が10以上であるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションである。ここで、「主成分」とは、水性インキに含まれる樹脂成分全体の質量に占める割合が50質量%以上の成分をいう。ポリエーテル系ウレタンの水酸基価または酸価が10以上であるポリエーテル系ウレタンが有する親水性部位を、後述する硬化成分で反応させて架橋構造を有する樹脂を形成することができる。それにより、アンカー層3の硬度が高まり、アンカー層3と透明樹脂層4との間で発生する層間剥離が低減され、アンカー層3に優れた耐湿熱性と優れた耐水性とが備わる。なお、従来のアンカー層(接着層)は、樹脂成分が親水性部位を必ず有しており、その親水性部位を起点として種々の反応が進行し、耐湿熱性の低下、あるいは耐水性の低下を招いていたと考えられる。
【0015】
本実施形態において、ポリエーテル系ウレタンの水酸基価に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、100以下が好ましい。
本実施形態において、ポリエーテル系ウレタンの酸価に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、60以下が好ましい。
また、本実施形態において、ポリエーテル系ウレタンの分子量(Mw)に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、10万以下が好ましい。また、本実施形態において、ポリエーテル系ウレタンの分子量(Mw)に下限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、5万以上が好ましい。
【0016】
アンカー層形成用水性インキに含まれる硬化成分は、上述の樹脂成分として、水酸基価が10以上であるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを用いる場合には、NCO含有量が5%以上の水性イソシアネート化合物である。水性イソシアネート化合物のNCO含有量が5%以上であれば、上述のポリエーテル系ウレタンが有する親水性部位と水性イソシアネート化合物とが十分に反応し、架橋構造を有する樹脂の形成効率を高めることができる。
【0017】
また、アンカー層形成用水性インキに含まれる硬化成分は、上述の樹脂成分として、酸価が10以上であるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを用いる場合には、エポキシ当量が50以上のエポキシ化合物である。エポキシ当量が50以上のエポキシ化合物も同様に、上述のポリエーテル系ウレタンが有する親水性部位とエポキシ化合物とが十分に反応し、架橋構造を有する樹脂の形成効率を高めることができる。
なお、本実施形態において、水性イソシアネート化合物のNCO含有量に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、20%以下が好ましい。
また、本実施形態において、エポキシ化合物のエポキシ当量に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、600以下が好ましい。
【0018】
水性イソシアネート化合物としては、例えば、DIC社製の商品名「バーノックDNW-5000」、「バーノックDNW-5010」、「バーノックDNW-5100」、「バーノックDNW-5200」、「バーノックDNW-5500」、「バーノックDNW-6000」;日本ポリウレタン工業社製の商品名「アクアネート100」、「アクアネート105」、「アクアネート110」、「アクアネート120」、「アクアネート130」、「アクアネート200」、「アクアネート210」;三井化学ポリウレタン社製の商品名「タケネートWD-220」、「タケネートWD-240」、「タケネートWD-720」、「タケネートWD-725」、「タケネートWD-726」、「タケネートWD-730」、「タケネートWB-700」、「タケネートWB-720」、「タケネートWB-920」;第一工業製薬社製の商品名「エラストロンBN-04」、「エラストロンBN-11」、「エラストロンBN-27」、「エラストロンBN-69」、「エラストロンBN-77」等が挙げられる。
【0019】
また、エポキシ樹脂としては、分子内に2個以上のエポキシ基を含有する各種化合物を例示でき、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、芳香族系エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル系エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0020】
アンカー層形成用水性インキにおけるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量は、アンカー層形成用水性インキ全体の質量の15質量%以上35質量%以下が好ましく、21質量%以上35質量%以下がより好ましい。つまり、アンカー層3は、アンカー層3全体の質量に対してポリエーテル系ウレタンを15質量%以上35質量%以下の範囲内で含んだ樹脂で構成されていれば好ましく、21質量%以上35質量%以下の範囲内で含んだ樹脂で構成されていればより好ましい。
【0021】
また、アンカー層形成用水性インキ中におけるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションが有する官能基の数と、硬化成分が有する官能基の数との比(硬化成分が有する官能基の数/樹脂エマルションが有する官能基の数)は、1.0以上1.5以下の範囲内であれば好ましい。上記数値範囲内であれば、架橋反応に寄与しない硬化成分の量を低減することができる。
アンカー層3の膜厚は、1μm以上3μm以下の範囲内である。アンカー層3の膜厚が1μm以上であれば、絵柄層2と透明樹脂層4とを十分に密着させることができる。また、アンカー層3の膜厚が3μm以下であれば、アンカー層3の塗工時に発生する塗工ムラを低減することができる。
【0022】
本実施形態においてアンカー層形成用水性インキは、副成分として、水酸基価(mgKOH/g)が10以上であるポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションをさらに含んでいてもよい。ここで、「副成分」とは、水性インキに含まれる樹脂成分全体の質量に占める割合が50質量%未満の成分をいう。つまり、ポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量は、上述のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量よりも少ないことが好ましい。アンカー層形成用水性インキが上述のポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションをさらに含んでいれば、ポリカーボネート系ウレタンが有する親水性部位を、上述の硬化成分で反応させて架橋構造を有する樹脂を形成することができる。それによりアンカー層3の硬度がさらに高まり、アンカー層3にさらに優れた耐湿熱性とさらに優れた耐水性とが備わる。また、アンカー層形成用水性インキが上述のポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションをさらに含んでいれば、アンカー層3に優れた耐熱性が備わる。
【0023】
なお、本実施形態において、ポリカーボネート系ウレタンの水酸基価に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、30以下が好ましい。
また、本実施形態において、ポリカーボネート系ウレタンの分子量(Mw)に上限値はないが、アンカー層形成用水性インキの取り扱い等を考慮すると、10万以下が好ましい。
また、アンカー層形成用水性インキ中におけるポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションが有する官能基の数と、硬化成分が有する官能基の数との比(硬化成分が有する官能基の数/樹脂エマルションが有する官能基の数)は、1.0以上1.5以下の範囲内であれば好ましい。上記数値範囲内であれば、架橋反応に寄与しない硬化成分の量を低減することができる。
【0024】
本実施形態においてアンカー層形成用水性インキは、水酸基価が10以上であるポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションと、水酸基価が10以上であるポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションとを含んでいてもよく、その場合には、ポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量を、ポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量よりも多くすればよい。このように調整したアンカー層形成用水性インキを用いることで、耐湿熱性と耐水性とに優れた、ポリエーテル系ウレタン成分とポリカーボネート系ウレタン成分とを含んだアンカー層3を形成することができる。
【0025】
ポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルション(主成分)の含有量と、ポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルション(副成分)の含有量との比(ポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量:ポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量)は、100:0~70:30の範囲内であれば好ましい。ポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションの含有量が、上記数値範囲内であれば、架橋構造が効果的に形成され、アンカー層3の硬度が高まり、アンカー層3に優れた耐湿熱性と優れた耐水性とが備わる。
アンカー層3は、上述の水性インキを、例えば、グラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなど通常の塗布方法を用いて塗工され形成される。
【0026】
(基材)
基材1を構成する樹脂、即ち樹脂成分は、ポリオレフィンまたはポリエステルが好適に用いられ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートなどの既存材料から任意に選択可能である。その中でも、ポリオレフィン基材、即ちポリオレフィンを含んだ基材、あるいはポリオレフィンのみを含む基材で構成された層が基材1としては好ましい。基材1を構成するポリオレフィンとしては、ポリエチレンが最も好ましい。基材1をポリオレフィン基材で構成された層とすることで、廃棄時における有害なガス等の発生を低減することができる。また、基材1を、ポリエチレンを含んだ基材、あるいはポリエチレンのみを含んだ基材で構成された層とすることで、廃棄時における有害なガス等の発生をさらに低減することができる。
基材1には、隣接する層との密着性を補うため、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理等の表面処理を施してもよい。
なお、基材1がポリオレフィンであれば、後述する絵柄層2との密着性が確実になる。
【0027】
(絵柄層)
絵柄層2は、例えば、基材1に対して水性の着色インキを用いて施された絵柄印刷を含む層である。絵柄層2の形成に用いられるインキは、例えば、バインダー樹脂を含んでいてもよい。絵柄層2の形成に用いられるインキに含まれるバインダー樹脂は、例えば、硝化綿、セルロース、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル系などの単独もしくは各変性物の中から適宜選定して用いることができる。また、それらは水性、溶剤系、エマルジョンタイプのいずれでもよく、また1液タイプでも硬化剤を使用した2液タイプでもよい。なお、絵柄層2の形成に用いられるインキとしては、上述のアンカー層3との接着性や基材1との接着性を考慮すると、水性の着色インキが最も好ましい。
【0028】
絵柄層2の形成に用いられるインキを硬化させる方法としては、例えば、紫外線や電子線などの照射によりインキを硬化させる方法が挙げられる。中でも最も一般的な方法は、ウレタン系のインキを用いるものであって、ポリイソシアネートによって硬化させる方法である。
絵柄層2の形成に用いられるインキは、上述したバインダー樹脂以外に、例えば、通常のインキに含まれている顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、光安定剤など各種添加剤などが添加されていてもよい。汎用性の高い顔料としては、例えば、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母などのパール顔料などが挙げられる。
【0029】
絵柄層2を設ける方法は特に限定さるものではなく、例えば、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インキジェット印刷など通常の印刷方法を用いることができる。
絵柄層2のアンカー層3側の面の濡れ指数は、60dyne以上であれば好ましい。絵柄層2のアンカー層3側の面の濡れ指数が60dyne以上であれば、絵柄層2上にアンカー層形成用水性インキが付着し易くなり、絵柄層2とアンカー層3との密着性が向上し、且つ、アンカー層3の表面平坦性も向上する。なお、絵柄層2の表面における濡れ指数は、所謂「濡れ試薬」を用いて確認することができる。
【0030】
(透明樹脂層)
本実施形態に係る化粧シート10は、透明樹脂層4と、透明樹脂層4の一方の面側、即ち透明樹脂層4の上層に形成されたトップコート層5と、を備えている。
透明樹脂層4は、アンカー層3上に、ポリプロピレンを主成分とする樹脂により形成された層である。つまり、透明樹脂層4は無溶剤で形成される層である。ここで、「主成分」とは、透明樹脂層4全体の質量に占めるポリプロピレンの質量が50質量%以上であることをいう。
【0031】
透明樹脂層4の材料には、ポリオレフィンが好適に用いられ、上述のポリプロピレン以外の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリブテンや、各種αオレフィンコポリマ(プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどの共重合体)が用いられる。
透明樹脂層4は、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤および艶調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0032】
透明樹脂層4の作製方法は、特に限定されるものではなく、例えば、カレンダー成膜や押出成膜など通常の方法を用いることができる。
透明樹脂層4は、意匠性を付与するために表面凹凸、所謂エンボスを設けてもよい。凹凸を設ける方法としては、例えば、透明樹脂層4を押出成型した後に熱エンボス加工を施す方法や、押出形成時に凹凸を設けた冷却ロールを用い押出成型と同時にエンボス加工を施す方法がある。
【0033】
本実施形態において、アンカー層3と透明樹脂層4と間の剥離強度は、15N/inch以上であれば好ましい。アンカー層3と透明樹脂層4と間の剥離強度が15N/inch以上であれば、アンカー層3と透明樹脂層4と間の接着強度としては十分である。
また、本実施形態において、化粧シートの105℃、100%RH環境下で24時間暴露後におけるアンカー層3と透明樹脂層4と間の剥離強度は、5N/inch以上であれば好ましい。化粧シートの105℃、100%RH環境下で24時間暴露後におけるアンカー層3と透明樹脂層4と間の剥離強度が5N/inch以上であれば、アンカー層3と透明樹脂層4と間の接着強度としては十分である。
【0034】
透明樹脂層4のトップコート層5側の面を濡れ指数は、60dyne以上であれば好ましい。透明樹脂層4のトップコート層5側の面を濡れ指数が60dyne以上であれば、透明樹脂層4上にトップコート層形成用インキが付着し易くなり、透明樹脂層4とトップコート層5との密着性が向上し、且つ、トップコート層5の表面平坦性も向上する。なお、透明樹脂層4の表面における濡れ指数は、所謂「濡れ試薬」を用いて確認することができる。
【0035】
(トップコート層)
本実施形態に係るトップコート層5は、化粧シート10に、例えば、耐候性、耐傷性、耐汚染性、意匠性などの機能を付与するために設けられる層である。
トップコート層5を構成する材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、ウレタン系、アクリル系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系などの樹脂材料から適宜選択して用いることができる。それらの中でも、トップコート層5は、ウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより形成された層が好ましい。ここで、「主成分」とは、トップコート層5全体の質量に占めるウレタンポリマーの質量が50質量%以上であることをいう。
【0036】
トップコート層5は、必要に応じて、例えば、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤および艶調整剤などの各種添加剤を配合してもよい。
トップコート層5は、一般的に光沢調整剤としてフィラーを添加することが多く、例えば、アクリルビーズ、シリコーンビーズなどの有機材料、アルミナやシリカなどの無機材料のいずれも用いることができるが、耐傷性の点で無機材料からなるシリカ(シリカフィラー)が好ましい。シリカは他材料と比較し良好な耐傷性を示すが、これはシリカが適度な硬度を有することに起因すると考えられる。
【0037】
シリカは、その形状が球状であって、1mL/g以上の細孔容積を有することが好ましい。シリカは、細孔容積が大きい(具体的には1mL/g以上)と耐傷性に優れる傾向を示すが、これはバインダー樹脂成分がシリカ細孔へ含侵することが影響していると考えられる。また、細孔容積が大きいシリカは、艶を落とす機能も大きく、光沢調整剤の必要添加量を減ずる効果も大きい。なお、光沢調整剤の含有量は、トップコート層5全体の質量に対して、1質量%以上30質量%以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、2質量%以上20質量%以下の範囲内である。つまり、本実施形態では、光沢調整剤として、細孔容積が1mL/g以上のシリカ(シリカフィラー)を添加する場合には、そのシリカの含有量は、トップコート層5全体の質量に対して、1質量%以上30質量%以下の範囲内が好ましく、2質量%以上20質量%以下の範囲内がより好ましい。
【0038】
また、シリカは、その形状が球状であって、例えば、100mL~200mL/100gの給油量を有することが好ましい。シリカは、吸油量が大きい(具体的には100mL~200mL/100g)と耐傷性に優れる傾向を示すが、これはバインダー樹脂成分とシリカ表面との親和性が高まることが影響していると考えられる。また、給油量が大きいシリカは、艶を落とす機能も大きく、光沢調整剤の必要添加量を減ずる効果も大きい。そのため、本実施形態では、光沢調整剤として、給油量が100mL~200mL/100gであるシリカ(シリカフィラー)を添加する場合には、そのシリカの含有量は、トップコート層5全体の質量に対して、1質量%以上30質量%以下の範囲内が好ましく、より好ましくは、2質量%以上20質量%以下の範囲内である。
【0039】
また、必要に応じてトップコート層5に、耐候剤として紫外線吸収剤や光安定剤を添加することもできる。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系等、また、光安定剤としては、例えば、ヒンダードアミン系等、任意の組み合わせで添加するのが一般的である。つまり、トップコート層5は、耐候剤として、トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤と、NOR型骨格を有する光安定剤とを含んでいてもよい。トップコート層5におけるトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量は、トップコート層5全体の質量に対して、1質量%以上10質量%以下の範囲内が好ましく、3質量%以上6質量%以下の範囲内がより好ましい。また、トップコート層5におけるNOR型骨格を有する光安定剤の含有量は、トップコート層5全体の質量に対して、1質量%以上10質量%以下の範囲内が好ましく、3質量%以上6質量%以下の範囲内がより好ましい。トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量及びNOR型骨格を有する光安定剤の含有量が、上記数値範囲内であれば、耐傷性や耐汚染性等のトップコート層5が有する基本的機能を維持しつつ、耐候性をより向上させることができる。
【0040】
また、トップコート層5において、トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量は、NOR型骨格を有する光安定剤の含有量よりも多いことが好ましく、1.5倍以上3倍以下の範囲内が好ましい。トリアジン骨格を有する紫外線吸収剤の含有量が、上記数値範囲内であれば、耐傷性や耐汚染性等のトップコート層5が有する基本的機能を維持しつつ、耐候性をさらに向上させることができる。
また、必要に応じてトップコート層5に、滑剤としてポリエチレン系ワックスを添加することもできる。ここで「ポリエチレン系ワックス」とは、分子量が数万以下の低分子量ポリエチレンを意味する。また、「ワックス」とは、「(1)常温で固体または半固体のもので、融点が40℃以上あり、(2)加熱すると分解することなく溶けて、粘度の低いもの」を意味する。
【0041】
ポリエチレン系ワックスとしては、例えば、三洋化成社製「サン.ワックス」シリーズや、三井化学社製「ハイワックス」シリーズを用いることができる。トップコート層5におけるポリエチレン系ワックスの含有量は、例えば、トップコート層5全体の質量に対して、1質量%以上10質量%以下の範囲内が好ましく、3質量%以上6質量%以下の範囲内がより好ましい。ポリエチレン系ワックスの含有量が、上記数値範囲内であれば、耐傷性等のトップコート層5が有する基本的機能を維持しつつ、耐汚染性をより向上させることができる。
トップコート層5の85℃、85%RH環境下で500時間暴露前後の光沢度変化は、5%以内であれば好ましい。トップコート層5の85℃、85%RH環境下で500時間暴露前後の光沢度変化が5%以内であれば、トップコート層5の耐候性としては十分である。
【0042】
トップコート層5の形成方法は、特に限定されるものではなく、前述の材料を塗液化したものを、例えば、グラビアコート、マイクログラビアコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコートなど通常の方法で塗布した後、熱硬化や紫外線硬化など材料に適合した方法で硬化させることでトップコート層5を形成してもよい。
また、トップコート層5は、基材1に形成された絵柄層2と、透明樹脂層4とをアンカー層3を介して接合した後に設けてもよい。
【0043】
(プライマー層)
本実施形態に係る化粧シート10は、基材1の絵柄層2側の面とは反対側の面である裏面にプライマー層6を備えていてもよい。
プライマー層6は、絵柄層2の形成に用いられる着色インキに含まれるバインダー樹脂と同一成分で形成された層であり、且つ、膜厚が1μm以上5μm以下の範囲内である層である。絵柄層2の形成に用いられる着色インキに含まれるバインダー樹脂は、基材1に付着し易い成分を含んでいるため、プライマー層6が着色インキに含まれるバインダー樹脂と同一成分で形成されていれば、プライマー層6も絵柄層2と同様に基材1に対する密着性が高まる。
【0044】
また、プライマー層6の膜厚が1μm以上であれば、プライマー層6が本来的に備えるプライマー機能(例えば、易接着性や平面平滑性)を発揮することができる。また、プライマー層6の膜厚が5μm以下であれば、プライマー層6の塗工時に発生する塗工ムラを低減することができる。
なお、プライマー層6の形成に用いられる材料としては、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリプロピレン樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂等であってもよい。
【0045】
また、プライマー層6は、例えば、アクリル変性ウレタン樹脂(アクリルウレタン系樹脂)等からなるウレタン樹脂系プライマー層、ウレタン-セルロース系樹脂(例えば、ウレタンと硝化綿の混合物にヘキサメチレンジイソシアネートを添加してなる樹脂)からなるプライマー層、アクリルとウレタンのブロック共重合体からなる樹脂系プライマー層等であってもよい。
また、プライマー層6は、ウエブ状で巻取りを行う際に発生し得るブロッキングを避けるために、プライマー層6には、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機充填剤を添加させてもよい。
【0046】
以下、本実施形態の化粧シート10を構成する各層の膜厚について説明する。印刷作業性、コストなどを考慮すると、基材1の膜厚は、20μm以上150μm以下の範囲内が好ましく、50μm以上100μm以下の範囲内がより好ましい。
同様に、印刷作業性、コストなどを考慮すると、絵柄層2の膜厚は、0.5μm以上10μm以下の範囲内が好ましく、1μm以上5μm以下の範囲内がより好ましい。
同様に、印刷作業性、コストなどを考慮すると、透明樹脂層4の膜厚は、20μm以上200μm以下の範囲内が好ましく、70μm以上100μm以下の範囲内がより好ましい。
【0047】
同様に、印刷作業性、コストなどを考慮すると、トップコート層5の膜厚は、3μm以上20μm以下の範囲内が好ましく、3μm以上15μm以下の範囲内がより好ましい。
また、化粧シート10の総厚は、45μm以上250μm以下の範囲内とすることが好適である。化粧シート10の総厚が45μmに満たないと、化粧シート10全体の強度が不足し、例えばインラインで化粧シート10を製造した場合に、製造中に化粧シート10が破損するおそれがある。化粧シート10の総厚が250μmを超えると、化粧シート10全体の柔軟性が低下し、化粧シート10に割れや白化が発生するおそれがある。
【0048】
[化粧シートの製造方法]
以下、本実施形態に係る化粧シート10の製造方法について、簡単に説明する。
まず、基材1上に、水性の着色インキにより、絵柄層2を形成する。
次に、絵柄層2上に、樹脂成分の主成分として、水酸基価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、NCO含有量5%以上の水性イソシアネート化合物を、それぞれ含む水性インキにより、アンカーコート層3を1μm以上3μm以下の膜厚で形成する。あるいは、絵柄層2上に、樹脂成分の主成分として、酸価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、エポキシ当量50以上のエポキシ化合物を、それぞれ含む水性インキにより、アンカーコート層3を1μm以上3μm以下の膜厚で形成する。
【0049】
次に、アンカーコート層3上にポリプロピレンを主成分とする透明樹脂層4を押し出し成型により形成する。
最後に、透明樹脂層4上にウレタンポリマーを主成分とする水性インキにより、トップコート層5を形成する。
こうして、本実施形態に係る化粧シート10を製造する。
また、絵柄層2及び透明樹脂層4を形成する各工程では、各表面の濡れ指数が60dyne以上となるように、絵柄層2及び透明樹脂層4の各表面を処理してもよい。
また、基材1の絵柄層2側の面とは反対側の面である裏面に、絵柄層2の形成に用いられる着色インキに含まれるバインダー樹脂と同一成分からなり、且つ、膜厚が1μm以上5μm以下の範囲内であるプライマー層6を形成してもよい。
【0050】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0051】
<実施例1>
基材1として、ポリプロピレン樹脂を押出し成形した厚さ70μmの基材を用いた。
次に、基材1の上に、バインダーとして2液型ウレタンインキ(V180;東洋インキ(株)製)を含む着色インキより、絵柄層2を2μmの膜厚で形成した。
次に、絵柄層2の上にアンカー層3を形成した。アンカー層3は、主剤として、水酸基価10以上、且つ酸価10以上のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルション(製品名:w5661;三井化学(株)製)を、硬化成分として、NCO含有量16.5%の水性イソシアネート化合物(製品名:WT-30-100;旭化成(株)製)を、それぞれ含んだ水性インキを2μmの厚さになるようにグラビアコーティング法により塗布し、乾燥後の膜厚が1μmとなるように形成した。なお、アンカー層3を形成するための水性インキにおいて、ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルションの含有量は25質量%であり、水性イソシアネート化合物の含有量は、30質量%であった。
【0052】
次に、アンカー層3の上に透明樹脂層4を形成した。透明樹脂層4はポリプロピレン樹脂を押出しラミネート法により厚さが70μmとなるように形成した。
更に透明樹脂層4の上にトップコート層5を設けた。トップコート層5は、ウレタンポリマー(製品名:w6010;三井化学(株)製)を主成分とする水性インキを用いてグラビアコーティング法により厚さ7μmとなるように形成した。
最後に、絵柄層2に用いたバインダーと同一成分からなるプライマー層6を、基材1の裏面側に2μmの厚さで形成した。
こうして、実施例1の化粧シートを作成した。
【0053】
<実施例2>
アンカー層3の膜厚を3μmとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の化粧シートを作成した。
<実施例3>
硬化成分をエポキシ当量50以上のエポキシ化合物(製品名:EX830)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3の化粧シートを作成した。
【0054】
<実施例4>
ポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルション(製品名:HA-207)をさらに添加した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の化粧シートを作成した。
なお、水性インキ(アンカー層3)において、ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルション(主成分)と、ポリカーボネート系ウレタンを含む樹脂エマルション(副成分)との成分比(質量)は、70:30とした。
<実施例5>
硬化成分をエポキシ当量50以上のエポキシ化合物(製品名:EX830)とした以外は、実施例4と同様にして、実施例5の化粧シートを作成した。
【0055】
<比較例1>
ポリエーテル系ウレタン樹脂エマルションを、水酸基価0(なし)、且つ酸価0(なし)のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルション(製品名:HA-15)とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1の化粧シートを作成した。
<比較例2>
硬化成分をエポキシ当量50以上のエポキシ化合物(製品名:EX830)とした以外は、比較例1と同様にして、比較例2の化粧シートを作成した。
<比較例3>
硬化成分を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例3の化粧シートを作成した。
【0056】
<比較例4>
アンカー層3の膜厚を0.8μmとした以外は、実施例1と同様にして、比較例4の化粧シートを作成した。
<比較例5>
アンカー層3の膜厚を3.2μmとした以外は、実施例1と同様にして、比較例5の化粧シートを作成した。
【0057】
<評価>
上記実施例及び上記比較例で得られた化粧シートについて、以下の方法で耐湿熱性と耐水性とを評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(a)耐湿熱性
化粧シートの湿熱処理をHASTチャンバーで実施し(105℃100%RH、24時間)、その後、アンカー層と透明樹脂層との間におけるT字剥離強度を測定した(試料幅:25mm、引張り速度:50mm/min)。
<評価基準>
合格:剥離強度が耐湿熱性試験前後で変化なし
不合格:剥離強度が耐湿熱性試験後に減少
【0059】
(b)耐水性
耐水性は、沸騰水に化粧シートを1時間浸漬し、その後、アンカー層と透明樹脂層との間におけるT字剥離強度を測定した(試料幅:25mm、引張り速度:50mm/min)。
<評価基準>
合格:試験後の剥離強度の数値が17N/inch以上
不合格:試験後の剥離強度の数値が17N/inch未満
【0060】
【表1】
【0061】
本実施例に示した化粧シートは、アンカー層3を、樹脂成分の主成分として、水酸基価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、NCO含有量5%以上の水性イソシアネート化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の層とすることで、アンカー層3と透明樹脂層4との間で発生する層間剥離が低減され、耐湿熱性と耐水性とが共に優れたものとなっている。
また、アンカー層3を、樹脂成分の主成分として、酸価10以上のポリエーテル系ウレタンを含む樹脂エマルションを、硬化成分として、エポキシ当量50以上のエポキシ化合物を、それぞれ含む水性インキにより形成された架橋構造を有する樹脂を含み、且つ、膜厚が1μm以上3μm以下の層とすることで、アンカー層3と透明樹脂層4との間で発生する層間剥離が低減され、耐湿熱性と耐水性とが共に優れたものとなっている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、建物外装や浴室などの高温多湿に対する耐久性が要求される化粧シートとして利用できるほか、建具の表面材や床材など屋内用シートとしても利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
10 化粧シート
1 基材
2 絵柄層
3 アンカー層
4 透明樹脂層
5 トップコート層
6 プライマー層
図1