(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121195
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】電気化学素子用保液部材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/409 20210101AFI20220812BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20220812BHJP
【FI】
H01M2/16 P
H01G11/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018409
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川野 明彦
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】村田 修一
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
5E078CA06
5E078CA09
5E078CA20
5H021CC02
5H021EE04
5H021HH00
5H021HH04
(57)【要約】
【課題】電気化学素子の電気抵抗が上昇しにくい、電気化学素子のセパレータや、電気化学素子の電気抵抗上昇を抑制する電解液保持を目的とした部材に用いる、電気化学素子用保液部材を提供すること。
【解決手段】本発明者らは、電気化学素子のセパレータや電気化学素子の電解液保持を目的とした部材に用いる、電気化学素子用保液部材において、1.3kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt1と、0.02kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt2の比(t1/t2)が0.65~0.80であることで、前記電気化学素子用保液部材を電気化学素子に組み込んだ際に、電気抵抗の低い電気化学素子が実現できることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布から構成された、電気化学素子用保液部材であり、
1.3kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt1と、0.02kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt2の比(t1/t2)が、0.65~0.80である、電気化学素子用保液部材。
【請求項2】
少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが5.0cN/dtex以上の複合高強度ポリオレフィン系繊維と、繊維径が4μm以下の極細繊維を含む不織布から構成された、請求項1に記載の電気化学素子用保液部材。
【請求項3】
繊維総表面積に対する繊維の接着面積(繊維総表面積-BET表面積)の割合が、20%以下である、請求項1または2に記載の電気化学素子用保液部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子のセパレータや電気化学素子の電解液保持を目的とした部材に用いる、電気化学素子用保液部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気化学素子の正極と負極とを分離して短絡を防止すると共に、電解液を保持して起電反応を円滑に行なうことができるように、正極と負極との間にセパレータが使用されている。また、電気化学素子の電気抵抗の上昇が抑えられるように、セパレータには、電解液の保持性が求められている。
【0003】
例えば、電解液の保持性に優れるセパレータとして、本願出願人は「少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが4.5cN/dtex以上の複合高強度ポリプロピレン系繊維を60mass%以上(100mass%を除く)と、繊維径が4μm以下の極細繊維を40mass%以下(0mass%を除く)とから構成され、前記複合高強度ポリプロピレン系繊維が融着した不織布からなり、平均5%モジュラス強度が30~100N/5cm幅であることを特徴とする電池用セパレータ。」(特許文献1)を提案した。
【0004】
また、セパレータの他に、電解液の保持性を要求される部材として、ニッケル亜鉛電池や、リチウムイオン二次電池などの電気化学素子に用いる電極やセパレータと組み合わせて用いる不織布製の保液部材が知られており、特許文献2には、ニッケル亜鉛電池の電極間に不織布製の保液部材を用いることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-335159号公報
【特許文献2】WO2017/110285号([請求項4]、[0015]など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のセパレータを組み込んだ電気化学素子は、電解液の保持性が十分であるにも関わらず、電気化学素子の充放電を繰り返した際に電気化学素子の電気抵抗が上昇することがあった。特許文献2の保液部材についても、同様に電気化学素子の電気抵抗が上昇することがあった。
【0007】
本発明はこのような状況においてなされたものであり、電気化学素子の電気抵抗が上昇しにくい、電気化学素子のセパレータや電気化学素子の電解液保持を目的とした部材に用いる、電気化学素子用保液部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明は、「不織布から構成された、電気化学素子用保液部材であり、1.3kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt1と、0.02kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt2の比(t1/t2)が、0.65~0.80である、電気化学素子用保液部材。」である。
【0009】
本発明の請求項2にかかる発明は、「少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが5.0cN/dtex以上の複合高強度ポリオレフィン系繊維と、繊維径が4μm以下の極細繊維を含む不織布から構成された、請求項1に記載の電気化学素子用保液部材。」である。
【0010】
本発明の請求項3にかかる発明は、「繊維総表面積に対する繊維の接着面積(繊維総表面積-BET表面積)の割合が、20%以下である、請求項1または2に記載の電気化学素子用保液部材。」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、電気化学素子のセパレータや電気化学素子の電解液保持を目的とした部材に用いる、電気化学素子用保液部材において、1.3kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt1と、0.02kg/cm2荷重時の電気化学素子用保液部材の厚さt2の比(t1/t2)が0.65~0.80であることで、前記電気化学素子用保液部材を電気化学素子に組み込んだ際に、電気抵抗の低い電気化学素子が実現できることを見出した。これは、厚さの比(t1/t2)が前記範囲であることで、電気化学素子の充放電に伴って電極が膨張した際に、前記電気化学素子用保液部材に圧力が掛かっても厚さがつぶれすぎないことで、前記電気化学素子用保液部材の電解液の保持性が優れ、前記電気化学素子用保液部材の厚さがある程度つぶれやすいことで、前記電気化学素子用保液部材が、電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすく、電気化学素子の内部で電解液の存在しない空間が発生しにくくなることから、結果として電気化学素子の電気抵抗上昇が起こりにくいためと考えられる。
【0012】
これらの電気化学素子用保液部材は、少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが5.0cN/dtex以上の複合高強度ポリオレフィン系繊維と、繊維径が4μm以下の極細繊維を含む不織布から構成されていると、複合高強度ポリプロピレン系繊維により電気化学素子用保液部材の厚さがつぶれすぎず、また、繊維径が4μm以下の極細繊維により電気化学素子用保液部材が緻密な構造を取りやすいことから、電気化学素子用保液部材が電解液の保持性に優れ、好ましい。
【0013】
更に、電気化学素子用保液部材の繊維の接着面積(繊維総表面積-BET表面積)の割合が20%以下であると、繊維同士の接着点が少ないことから、電気化学素子用保液部材の厚さがある程度つぶれやすく、電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすい電気化学素子用保液部材が実現でき、好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電気化学素子のセパレータや電気化学素子の電解液保持を目的とした部材に用いる、電気化学素子用保液部材(以下、単に「保液部材」と表記することがある)は、1.3kg/cm2荷重時の保液部材の厚さt1と、0.02kg/cm2荷重時の保液部材の厚さt2の比(t1/t2)が、0.65~0.80である。これにより、前記保液部材を電気化学素子に組み込んだ際に、電気抵抗の低い電気化学素子が実現できる。その理由としては完全に解明されていないが、上述の厚さの比(t1/t2)が前記範囲であることで、電気化学素子の充放電に伴って電極が膨張した際に、保液部材に圧力が掛かっても厚さがつぶれすぎないことで、保液部材の電解液保持性が優れ、また、保液部材の厚さがある程度つぶれやすいことで、保液部材が電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすく、電気化学素子の内部で電解液の存在しない空間が発生しにくくなることから、結果として電気化学素子の電気抵抗上昇が起こりにくいためと考えられる。より電気抵抗の低い電気化学素子が実現できることから、上述の厚さの比(t1/t2)は、0.66~0.78がより好ましく、0.67~0.77が更に好ましい。なお、保液部材の厚さを、1.3kg/cm2荷重時及び0.02kg/cm2荷重時で測定している理由としては、1.3kg/cm2荷重時の厚さはセパレータなどの保液部材の厚さを測定するときに一般的に用いられている圧力で測定した時の厚さであり、0.02kg/cm2荷重時の厚さは保液部材になるべく圧力が掛かっていないときの厚さを測定するためである。
【0015】
本発明の保液部材は、不織布から構成されている。不織布は、例えば、カード法やエアレイ法などで製造する乾式不織布、抄紙することで製造する湿式不織布、あるいは直接紡糸(メルトブロー、スパンボンド)した繊維を集積することで製造する直接紡糸不織布が挙げられるが、これらの中でも保液部材中に繊維が均一に分散して電解液を均一に保持しやすく、結果として電気抵抗の低い電気化学素子が実現できる湿式不織布であるのが好ましい。
【0016】
本発明の保液部材には、保液部材を構成する不織布に、少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた、引張り強さが5.0cN/dtex以上の複合高強度ポリオレフィン系繊維を含んでいると、保液部材の厚さがつぶれすぎず、上述の厚さの比(t1/t2)が0.65~0.80になりやすく、電解液の保持性に優れることから、好ましい。なお、1.3kg/cm2荷重時の保液部材の厚さt1は、厚すぎると保液部材のイオン透過性が低下するおそれがあり、また、薄すぎると保液部材の保液性が低下するおそれがあることから、50~200μmが好ましく、80~160μmがより好ましく、100~140μmが更に好ましい。また、0.02kg/cm2荷重時の保液部材の厚さt2は、厚すぎると保液部材のイオン透過性が低下するおそれがあり、また、薄すぎると保液部材の保液性が低下するおそれがあることから、80~220μmが好ましく、100~200μmがより好ましく、120~180μmが更に好ましい。
【0017】
複合高強度ポリオレフィン系繊維の融着成分の繊維表面(両端部を除く)に占める割合は特に限定するものではないが、高ければ高い程、融着に関与できる融着成分が多く、保液部材の形態安定性に寄与できるため、融着成分は繊維表面(両端部を除く)の50%以上を占めているのが好ましく、70%以上を占めているのがより好ましく、90%以上を占めているのが更に好ましく、融着成分のみ(100%)が繊維表面(両端部を除く)を構成しているのが最も好ましい。
【0018】
このような複合高強度ポリオレフィン系繊維の融着成分と非融着成分の横断面における配置状態としては、例えば、芯鞘状、偏芯状、海島状、サイドバイサイド状、オレンジ状、多重積層状を挙げることができ、特に、融着成分のみ(100%)が繊維表面(両端部を除く)を構成できる、芯鞘状、偏芯状、又は海島状であるのが好ましい。
【0019】
なお、複合高強度ポリオレフィン系繊維における融着成分と非融着成分との体積比率は特に限定するものではないが、融着に関与できる融着成分が多く、保液部材の形態安定性に寄与でき、また、複合高強度ポリオレフィン系繊維自体の強度を維持できるように、(融着成分):(非融着成分)=15:85~85:15であるのが好ましく、(融着成分):(非融着成分)=20:80~70:30であるのがより好ましく、(融着成分):(非融着成分)=23:77~55:45であるのが更に好ましく、(融着成分):(非融着成分)=25:75~45:55であるのが更に好ましい。
【0020】
また、融着成分は非融着成分よりも融点が低ければ良いが、融着成分のみを融着させて、複合高強度ポリオレフィン系繊維の繊維形態を維持しやすいように、融着成分の融点は非融着成分の融点よりも10℃以上低いのが好ましく、20℃以上低いのがより好ましく、30℃以上低いのが更に好ましい。
【0021】
複合高強度ポリオレフィン系繊維は、ポリオレフィン系樹脂から構成されていればどのような樹脂成分から構成されていても良いが、例えば複合高強度ポリオレフィン系繊維が融着成分と非融着成分の2種類の樹脂成分から構成されている場合、ポリエチレン/ポリプロピレン、ポリエチレン/ポリメチルペンテン、ポリプロピレン/ポリメチルペンテン、プロピレン共重合体/ポリメチルペンテン、エチレン系共重合体/ポリメチルペンテン、エチレン系共重合体/ポリプロピレン、低密度ポリエチレン/高密度ポリエチレンなどを挙げることができる。
【0022】
複合高強度ポリオレフィン系繊維のヤング率は、高ければ高いほど、複合高強度ポリオレフィン系繊維が圧力によって変形しにくいため、保液部材が外力によって切断及び破断されにくい機械的強度を有し、また前記保液部材が圧力によって潰れにくく、結果として抵抗の低い電気化学素子が実現できることから、30N/dtex以上が好ましく、40cN/dtex以上がより好ましく、45cN/dtex以上が更に好ましい。ヤング率の上限は特に限定するものではないが、110cN/dtex程度が適当である。
【0023】
なお、本発明におけるヤング率は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.11項に規定されている方法により測定した初期引張抵抗度から算出した見掛ヤング率の値を意味する。なお、初期引張抵抗度は定速緊張形試験機によって測定した値をいう。
【0024】
複合高強度ポリオレフィン系繊維の引張り強さは、前述の通り5.0cN/dtex以上であるが、前記引張り強さが高ければ高いほど、より保液部材が機械的強度を有することから、5.3N/dtex以上がより好ましく、5.5cN/dtex以上が更に好ましく、5.7cN/dtex以上が更に好ましい。引張り強さの上限は特に限定するものではないが、50cN/dtex程度が適当である。
【0025】
更に、複合高強度ポリオレフィン系繊維の伸度は、高ければ高いほど、保液部材が外力によって引張られても適度に伸び、外力によって破断されにくい機械的強度を有することから、前記伸度は10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、18%以上が更に好ましい。一方、複合高強度ポリオレフィン系繊維の伸度が高すぎると、保液部材が伸びやすく、形態安定性が悪くなるおそれがあるため、35%以下が好ましく、32%以下がより好ましく、30%以下が更に好ましい。
【0026】
なお、本発明における繊維の引張り強さ及び伸度は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.7.1項に規定されている方法により測定される値を意味する。
【0027】
上述のようなヤング率、引張り強さ、及び/または伸度を満たす複合高強度ポリオレフィン系繊維は上述のようなポリオレフィン系樹脂から構成することができるが、比較的剛性が高く、圧力によって潰れにくく、保液部材の空隙を維持しやすいポリプロピレンを含んでいるのが好ましい。また、ポリプロピレンを融着させることなく融着しやすいポリエチレンを含んでいるのが好ましい。したがって、複合高強度ポリオレフィン系繊維はポリエチレン/ポリプロピレンから構成されているのが好ましい。
【0028】
この複合高強度ポリオレフィン系繊維を構成できるポリプロピレンはプロピレンの単独重合体であってもよいし、プロピレンとα-オレフィン(例えばエチレン、1-ブテンなど)との共重合体であることができる。より具体的には、結晶性を有するアイソタクチックプロピレン単独重合体、エチレン単位の含有量の少ないエチレン-プロピレンランダム共重合体、プロピレン単独重合体からなるホモ部とエチレン単位の含有量の比較的多いエチレン-プロピレンランダム共重合体からなる共重合部とから構成されたプロピレンブロック共重合体、さらに前記プロピレンブロック共重合体における各ホモ部または共重合部が、さらに1-ブテンなどのα-オレフィンを共重合したものからなる結晶性プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体などを挙げることができる。これらの中でもアイソタクチックポリプロピレン単独重合体が強度の点から好適であり、このようなポリプロピレンは、チーグラー・ナッタ型触媒、あるいはメタロセン系触媒などを用いて、プロピレンを単独重合又はプロピレンと他のα-オレフィンとを共重合させて得ることができる。
【0029】
複合高強度ポリオレフィン系繊維の一方の成分であるポリエチレンは、例えば、高密度、中密度、低密度ポリエチレンや直鎖状低密度ポリエチレンなどのエチレン系重合体などを挙げることができる。これらの中でも、高密度ポリエチレンはある程度硬く、張りや腰のある保液部材とすることができ、取り扱い性に優れる保液部材とすることができるため好適である。
【0030】
このような本発明で用いることのできる複合高強度ポリオレフィン系繊維は、例えば、特開平11-350283号公報又は特開2002-180330号公報に記載されているように、未延伸糸を加圧飽和水蒸気中で延伸することにより得ることができる。
【0031】
複合高強度ポリオレフィン系繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、複合高強度ポリオレフィン系繊維が均一に分散し、また保液部材の機械的強度に優れるように、3~17μmが好ましく、5~15μmがより好ましく、7~13μmが更に好ましい。本発明における「平均繊維径」とは、無作為に選んだ50本の繊維の繊維径の数平均繊維径をいう。なお、「繊維径」は、繊維の横断面形状が円形である場合にはその直径をいい、円形以外の場合には、横断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0032】
また、複合高強度ポリオレフィン系繊維の繊維長は特に限定するものではないが、複合高強度ポリオレフィン系繊維が均一に分散し、また保液部材の機械的強度が優れるように、0.1~25mmであるのが好ましく、1~10mmであるのがより好ましく、2~5mmであるのが更に好ましい。なお、本発明における繊維長は、JIS L 1015(化学繊維ステープル試験法):2010、8.4項のB法(補正ステープルダイヤグラム法)に規定されている方法により測定される長さを意味する。
【0033】
なお、本発明の保液部材においては、複合高強度ポリオレフィン系繊維として、樹脂成分数、樹脂成分、ヤング率、引張り強さ、伸度、平均繊維径、繊維長など1点以上が異なる2種類以上の複合高強度ポリオレフィン系繊維を含んでいても良い。
【0034】
このような複合高強度ポリオレフィン系繊維は融着していることによって、不織布構造を維持できるように、保液部材中、20mass%以上の量で含まれているのが好ましく、50mass%以上の量で含まれていることがより好ましく、70mass%以上の量で含まれていることが更に好ましい。
【0035】
本発明の保液部材には、保液部材を構成する不織布に、繊維径が4μm以下の極細繊維を含んでいると、保液部材が緻密な構造をとることができ、電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能に優れることから好ましい。
【0036】
この極細繊維は繊維径が小さければ小さいほど、保液部材がより緻密な構造をとることができることから、極細繊維の繊維径は3μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましい。極細繊維の繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.1μm程度が適当である。
【0037】
なお、各極細繊維の繊維径は、ほぼ同じであるのが好ましい。各極細繊維の繊維径がほぼ同じであると、大きさの揃った空隙を形成しやすく、保液部材の電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能に優れるためである。具体的には、極細繊維の繊維径分布の標準偏差値(σ)を、極細繊維の平均繊維径(d)で除した値(σ/d)が0.2以下(好ましくは0.18以下)であるのが好ましい。なお、極細繊維の繊維径が全て同じである場合には標準偏差値(σ)が0になるため、前記値(σ/d)の下限値は0である。なお、極細繊維の標準偏差値(σ)は、計測したn本(100本)のそれぞれの極細繊維の繊維径(X)から、次の式によって算出した値である。
標準偏差={(nΣX2-(ΣX)2)/n(n-1)}1/2
【0038】
本発明の極細繊維を得る方法としては、例えば、2種類以上の樹脂成分からなり、外力によって分割可能な外力型分割繊維を分割することによって、又は2種類以上の樹脂成分からなり、化学的作用によって分割可能な化学型分割繊維を分割することによって得ることができる。前記外力型分割繊維を分割できる外力としては、例えば、水流などの流体流、カレンダー、リファイナー、パルパー、ミキサー、ビーターなどを挙げることができる。他方、化学的処理としては、例えば、溶剤による樹脂成分の除去や、溶剤による樹脂成分の膨潤などがある。これらの中でも、化学型分割繊維を分割して得た極細繊維は、長さ方向における繊維径がほぼ同じ、かつ複数の極細繊維間においても繊維径がほぼ同じで、保液部材中において均一に分散して、大きさの揃った空隙を形成しやすく、保液部材の電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能に優れるため好適である。
【0039】
好適である化学型分割繊維としては、2種類以上の樹脂成分からなり、繊維横断面における配置状態が海島状の繊維が挙げられる。このような海島状の繊維は混合紡糸法又は複合紡糸法によって製造することができるが、複合紡糸法によって製造した海島状の繊維の海成分を除去して発生させた島成分からなる個々の極細繊維は、長さ方向における繊維径がほぼ同じ、かつ複数の極細繊維間においても繊維径がほぼ同じで、大きさの揃った空隙を形成しやすく、保液部材の電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能に優れるため好適である。後述の通り、極細繊維はポリオレフィン系樹脂及び/又はナイロン系樹脂を含んでいるのが好ましいため、化学型分割繊維の島成分はポリオレフィン系樹脂及び/又はナイロン系樹脂を含んでいるのが好ましい。特に、耐薬品性に優れるように、ポリオレフィン系樹脂成分のみからなる島成分を有する化学型分割繊維が好ましい。
【0040】
この極細繊維を構成する樹脂成分は特に限定するものではないが、耐薬品性に優れているように、耐薬品性の樹脂成分から構成されているのが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などのナイロン系樹脂の、1種類又は2種類以上から構成されているのが好ましい。これらの中でも、特に耐薬品性に優れているポリオレフィン系樹脂を含んでいるのが好ましく、特に、ポリプロピレンは比較的剛性が高く、圧力によって潰れにくく、保液部材の空隙を維持しやすく、結果として電気抵抗の低い電気化学素子が実現できるため好適である。
【0041】
なお、極細繊維は1種類の樹脂成分から構成されている必要はなく、融点の相違する2種類以上の樹脂成分から構成されていても良い。融点の相違(好ましい融点差は10℃以上、より好ましくは20℃以上)する2種類以上の樹脂成分から構成された極細繊維が、低融点の樹脂成分によって接着していると、極細繊維のずれを防止し、極細繊維の分散状態を維持でき、保液部材の電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能に優れるため好適である。例えば、極細繊維はポリプロピレンとポリエチレンから構成することができる。
【0042】
なお、極細繊維は機械的強度に優れ、圧力によっても潰れにくく、不織布形態を維持しやすいように、延伸した状態にあるのが好ましい。この「延伸した状態」とは、繊維形成後に機械的に延伸されていることを意味し、メルトブロー法により形成された繊維は加熱エアによって延伸されているものの、機械的に延伸されていないため、延伸した状態にはない。なお、外力型分割繊維や化学型分割繊維が分割前の段階で機械的に延伸されていれば、これら分割繊維から発生した極細繊維は延伸した状態にある。
【0043】
本発明の極細繊維の繊維長は特に限定するものではないが、極細繊維が均一に分散して、大きさの揃った空隙を形成できるように、0.1~25mmであるのが好ましく、1~10mmであるのがより好ましく、2~5mmであるのが更に好ましい。なお、極細繊維の束が存在すると、極細繊維が均一に分散することができず、大きさの揃った空隙を形成できなくなる傾向があるため、極細繊維は束の状態で存在せず、個々の極細繊維が分散した状態にあるのが好ましい。
【0044】
このような極細繊維は均一に分散し、保液部材が緻密な構造を実現できるように、保液部材中、5mass%以上の量で含まれているのが好ましく、10mass%以上の量で含まれていることがより好ましく、15mass%以上の量で含まれていることが更に好ましい。一方で、極細繊維が多すぎると、複合高強度ポリオレフィン系繊維の融着によって保液部材の構造を維持するのが困難になり、また、保液部材の機械的強度が弱くなるおそれがあることから、80mass%以下の量で含まれているのが好ましく、50mass%以下の量で含まれているのがより好ましく、30mass%以下の量で含まれているのが更に好ましい。
【0045】
本発明の保液部材は、上述のような複合高強度ポリオレフィン系繊維と上述のような極細繊維の少なくとも一方を含んでいるのが好ましいが、これらの繊維以外の他の繊維を本発明の保液部材を構成する不織布に含むことができる。例えば、繊維径が4μmを超えるものの、融着に関与しない非融着繊維、繊維径が4μmを超え、融着に関与するものの、単一樹脂成分からなる単一融着繊維を含むことができる。なお、非融着繊維、単一融着繊維は保液部材中に均一に分散できるように、繊維径が4μmを超え17μm以下であるのが好ましい。また、非融着繊維は複合高強度ポリオレフィン系繊維の融着成分の融点よりも10℃以上高い融点を有する樹脂成分を繊維表面に備えているのが好ましく、単一融着繊維は複合高強度ポリオレフィン系繊維の融着成分の融点±10℃の融点を有する樹脂成分からなるのが好ましく、非融着繊維、単一融着繊維のいずれも、複合高強度ポリオレフィン系繊維と同様のポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。なお、非融着繊維は引張り強さが5.0cN/dtex以上のポリオレフィン系樹脂成分から構成することができる。更に、非融着繊維、単一融着繊維のいずれも、均一に分散できるように、繊維長は0.01~25mmであるのが好ましい。
【0046】
本発明の保液部材は、繊維(例えば複合高強度ポリオレフィン系繊維などの繊維表面の一部に融着成分を備えた繊維や、極細繊維など)の融着のみによって固定されているのが好ましい。このように繊維(特に繊維表面の一部に融着成分を備えた繊維)の融着のみによって固定されていると、保液部材中での繊維のバラつきが少なく、各種用途に使用した際に好適であるためである。例えば、融着以外に絡合によって固定されていると、絡合させるための作用(例えば、水流などの流体流)によって、保液部材の表面から裏面への貫通孔が形成される傾向があるが、融着のみによって固定されていれば、融着する際に繊維の配置が乱れないため貫通孔が形成されにくくなる。なお、保液部材を製造する際に、絡合処理を実施しなくても繊維が絡むことがある。例えば、乾式法又は湿式法により繊維ウエブを形成した場合に、繊維ウエブは形態をある程度保つことができるため、少なくとも繊維同士が絡んだ状態にある。しかしながら、この絡合は、上述の流体流による絡合のように、繊維の配置を乱す絡合ではないため、絡合していないものとみなす。このように、「繊維の融着のみ」とは、不織布を形成した後における繊維同士の固定が融着のみによってなされている状態をいう。
【0047】
本発明の保液部材は、繊維総表面積に対する繊維の接着面積(繊維総表面積-BET表面積)の割合が、20%以下であるのが好ましい。これにより、保液部材における繊維同士の接着点が少ないことから、保液部材の厚さがある程度つぶれやすく、電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすい保液部材が実現でき、好ましい。保液部材における、繊維総表面積に対する繊維の接着面積の割合は、低ければ低いほどより電気化学素子の充放電に伴う電極の膨潤収縮に追従しやすい保液部材であることができることから、19%以下がより好ましく、18%以下が更に好ましい。保液部材における、繊維総表面積に対する繊維の接着面積の割合の下限は、保液部材の強度が劣るおそれがあることから、10%以上が現実的である。
【0048】
繊維総表面積に対する繊維の接着面積の割合は、以下の式で求めることができる。
繊維総表面積に対する繊維の接着面積の割合(%)
={保液部材1m2あたりの繊維総表面積(m2/m2)-保液部材1m2あたりのBET表面積(m2/m2)}/保液部材1m2あたりの繊維総表面積(m2/m2)×100
【0049】
本発明における保液部材1m2あたりの繊維総表面積は、以下の方法で求めることができる。
【0050】
まず、以下の式で保液部材1m2に含まれる繊維の体積を繊維の種類ごとに求める。例えば、保液部材に2種類の繊維が含まれている場合、2種類の繊維それぞれの体積を求める。
保液部材1m2に含まれる繊維の体積(m3/m2)
={目付(g/m2)×保液部材に含まれる繊維の質量割合}/{保液部材に含まれる繊維を構成する樹脂の密度(g/cm3)×106}
なお、繊維が2種類以上の樹脂を含んでいる場合、もしくは繊維を構成する樹脂が不明な場合、繊維の密度を測定して、繊維の密度を樹脂の密度の代わりに用いる。
【0051】
次に、保液部材1m2に含まれるそれぞれの繊維の体積から、繊維が円柱形であると仮定して、以下の式で、保液部材1m2に含まれる繊維の総繊維長を繊維の種類ごとにそれぞれ求める。
保液部材1m2に含まれる繊維の総繊維長(m/m2)
=保液部材1m2に含まれる繊維の体積(m3/m2)/[{(繊維の繊維径(μm)×10-6)/2}2×3.14]
【0052】
次に、保液部材1m2に含まれる繊維の表面積を繊維の種類ごとに求める。
保液部材1m2に含まれる繊維の表面積(m2/m2)
=保液部材1m2に含まれる繊維の総繊維長(m/m2)×繊維の繊維径(μm)×10-6×3.14
【0053】
繊維の種類ごとにそれぞれ求めた保液部材1m2に含まれる繊維の表面積をすべて足すことで、保液部材1m2あたりの繊維総表面積を求めることができる。
【0054】
なお、保液部材1m2あたりのBET表面積(m2/m2)は、保液部材(試料)を真空中、温度70℃で4時間処理した後、室温冷却して1×10-3Torrまで真空引きした後、試料約0.5gを精秤し、ガス吸着測定装置[日本ベル(株)製、BELSORP 28A]を用い、JIS Z 8830(2013)「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に記載のBET法によりBET比表面積(m2/g)を測定し、前記BET比表面積に保液部材の目付(g/m2)を掛けることにより、保液部材1m2あたりに換算した値である。なお、吸着ガスとして、クリプトンを用いる。
【0055】
本発明の保液部材の目付は、目付が小さいほど結果として厚さが薄くなり、イオン透過性に優れることから、100g/m2以下が好ましく、80g/m2以下がより好ましく、60g/m2以下が更に好ましい。目付の下限は、保液部材がつぶれにくく、かつ、機械的強度に優れているように、3g/m2以上であるのが好ましく、5g/m2以上であるのがより好ましく、20g/m2以上であるのが更に好ましい。なお、この「目付」は、JIS P 8124(紙及び板紙-坪量測定方法):2011に規定する方法に基づいて得られる坪量をいう。
【0056】
本発明の保液部材は、保液部材の表面積が大きくなり、また保液部材の表面が緻密な構造にでき、電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能に優れることから、無機粒子が含まれていてもよい。
【0057】
保液部材に含まれる無機粒子の種類は、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、アルミナ-シリカ複合酸化物、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、チタン酸バリウム、スズ-インジウム酸化物などの無機酸化物が挙げられる。
【0058】
保液部材に含まれる無機粒子の形状は、例えば、球状(略球状や真球状)、繊維状、針状、平板状、多角形立方体状、羽毛状などから適宜選択することができる。
【0059】
保液部材に無機粒子が含まれている場合、無機粒子が含まれている保液部材全体に占める無機粒子の割合が大きければ大きいほど、保液部材表面が緻密な構造にでき、電解液の保液性、電気絶縁性などの各種性能により優れることから、無機粒子が含まれている保液部材全体に占める無機粒子の割合は10mass%以上含まれているのが好ましく、25mass%以上含まれていることがより好ましく、30mass%以上含まれていることが更に好ましい。一方、無機粒子が含まれている保液部材全体に占める無機粒子の割合が大きすぎると、保液部材の空隙を無機粒子がふさぐため、気体透過性、液体透過性が劣るおそれがあることから、無機粒子が含まれている保液部材全体に占める無機粒子の割合は80mass%以下の量で含まれていることが好ましく、70mass%以下の量で含まれていることがより好ましく、50mass%以下の量で含まれていることが更に好ましい。
【0060】
本発明の保液部材は、機械的強度が優れるように、一層構造からなるのが好ましい。この「一層構造」とは、同一の繊維配合から構成されていることを意味する。
【0061】
本発明の保液部材は、電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすく、かつつぶれにくく、電気抵抗の低い電気化学素子を実現できることから、例えば、一次電池、二次電池(ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池など)、キャパシタなどの電気化学素子用のセパレータや、二次電池(リチウムイオン電池やニッケル亜鉛電池など)などの電気化学素子の電極やセパレータ(微多孔膜やセラミックスなど)に隣接して、セパレータのドライアウトを抑制する電解液保持を目的とした部材として好適に用いることができる。
【0062】
本発明の保液部材は、例えば次のようにして製造することができる。
【0063】
まず、繊維を配合して繊維ウエブを形成する。この時配合する繊維は、前述した複合高強度ポリオレフィン系繊維や、前述した繊維径が4μm以下の極細繊維を含んでいると、前述の厚さの比(t1/t2)が0.70~0.85になりやすく、好ましい。また、この繊維ウエブの形成方法は特に限定するものではないが、例えば、乾式法(例えば、カード法、エアレイ法など)や湿式法により形成することができる。これらの中でも繊維が均一に分散して繊維ムラの少ない保液部材を製造しやすい湿式法により形成するのが好ましい。この湿式法としては、従来公知の方法、例えば、水平長網方式、傾斜ワイヤー型短網方式、円網方式、又は長網・円網コンビネーション方式により形成できる。なお、二層以上を抄き合わせる場合には、一層構造の保液部材を製造できるように、同一の繊維配合からなる繊維ウエブを抄き合わせるのが好ましい。
【0064】
次いで、この繊維ウエブを構成する繊維を結合させ、不織布を得ることができる。このとき、繊維ウエブを構成する繊維を結合させる方法としては、繊維ウエブを構成する繊維に含まれる低融点の樹脂から構成された融着成分を融着させる方法や、繊維ウエブにバインダ樹脂を付与する方法などが挙げられるが、繊維ウエブを構成する繊維に含まれる低融点の樹脂から構成された融着成分を融着させて、繊維ウエブを構成する繊維を結合させるのが好ましく、繊維ウエブを構成する繊維に、少なくとも繊維表面の一部に融着成分を備えた繊維を含んでいるのがより好ましい。なお、繊維ウエブを構成する繊維に含まれる融着成分を融着させて繊維ウエブを結合させる場合は、繊維の配置が乱れて地合いを損なわないように、絡合等を実施することなく、繊維の融着成分の融着のみを実施するのが好ましい。また、繊維の融着成分を融着させる方法については特に限定するものではないが、例えば繊維ウエブをコンベアで支持し、熱風を吹き付けるエアースルー方法や、ヤンキードライヤーやカレンダーによって熱を繊維ウエブにかける方法等が挙げられるが、エアースルー方法により繊維の融着成分を融着させると、製造した不織布に圧力が掛かった際に厚さがある程度つぶれやすく、これにより電気化学素子に組み込んだ際に前記不織布から構成された保液部材が電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすく、電気化学素子の内部で電解液の存在しない空間が発生しにくく、電気抵抗の低い保液部材が実現できることから、エアースルー方法により繊維の融着成分を融着させるのが好ましい。
【0065】
製造した不織布はそのまま保液部材に用いてもよいが、不織布に親水化処理を施す場合は、続いて親水化処理を実施する。親水化方法としては、特に限定されるものではないが、例えばスルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合、界面活性剤処理、プラズマ処理、親水性樹脂付与処理などが挙げられる。
【0066】
なお、不織布の厚さが所望厚さでない場合には、適宜厚さを調整するのが好ましい。例えば、一対のロール間を通過させるなどの方法により、厚さを調整するのが好ましい。この厚さ調整は1回である必要はなく、何回でも実施することができる。例えば、融着処理後親水化処理前に1回、親水化処理後に1回実施することができる。
【実施例0067】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
(複合高強度ポリオレフィン系融着繊維)
ホモポリプロピレン(融点:168℃)を芯成分(非融着成分)とし、高密度ポリエチレン(融点:135℃)を鞘成分(融着成分)とする、引張り強さが6.0cN/dtex、ヤング率が47cN/dtex、伸度が20%の複合高強度ポリオレフィン系融着繊維(両端部を除いて高密度ポリエチレンが繊維表面を被覆、芯成分と鞘成分の体積比率=60:40、平均繊維径:10.5μm、繊維長:5mm、密度:0.94g/cm3)を用意した。
【0069】
(極細繊維)
共重合ポリエステルからなる海成分中に、ポリプロピレンからなる島成分が25個存在し、複合紡糸法により製造した海島型複合繊維(繊度:1.65dtex、繊維長:2mm)を、10mass%水酸化ナトリウム水溶液からなる浴(温度:80℃)中に30分間浸漬し、海島型複合繊維の海成分である共重合ポリエステルを抽出除去して、ポリプロピレン極細繊維(平均繊維径:2μm、融点:172℃、繊維長:2mm、横断面形状:円形、密度:0.91g/cm3)を得た。このポリプロピレン極細繊維は、フィブリル化しておらず、延伸した状態にあり、しかも各繊維が繊維軸方向において実質的に同じ直径を有していた。
【0070】
(実施例1)
複合高強度ポリオレフィン系融着繊維のみをスラリー中に分散させ、湿式法(水平長網方式)により、複合高強度ポリオレフィン系融着繊維が分散した繊維ウエブを形成した。
次いで、前記繊維ウエブをコンベアで支持し、コンベアの下方から吸引して繊維ウエブをコンベアと密着させて搬送しながら繊維ウエブに対して温度137℃、風速8m/sの熱風を10秒間吹き付け、十分な量の熱風を通過させる無圧下での熱処理を実施するエアースルー方法により行い、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリオレフィン系融着繊維の高密度ポリエチレンのみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
次いで、融着繊維ウエブを、温度60℃の発煙硫酸(15%SO3溶液)によるスルホン化処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0071】
(実施例2)
複合高強度ポリオレフィン系融着繊維80mass%、及びポリプロピレン極細繊維20mass%をスラリー中に分散させ、湿式法(水平長網方式)により、複合高強度ポリオレフィン系融着繊維及びポリプロピレン極細繊維が分散した繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同じエアースルー方法により繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリオレフィン系融着繊維の高密度ポリエチレンのみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
次いで、融着繊維ウエブを、プラズマ処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0072】
(比較例1)
まず、実施例1と同じ方法で繊維ウエブを形成した。
次いで、前記繊維ウエブを139℃に設定された熱板圧着方式であるヤンキードライヤーに供し、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリオレフィン系融着繊維の高密度ポリエチレンのみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
次いで、融着繊維ウエブを、実施例1と同じスルホン化処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0073】
(比較例2)
まず、実施例2と同じ方法で繊維ウエブを形成した。
次いで、前記繊維ウエブを比較例1と同じヤンキードライヤーに供し、繊維ウエブの乾燥と同時に複合高強度ポリオレフィン系融着繊維の高密度ポリエチレンのみを融着させて、融着繊維ウエブを形成した。
次いで、融着繊維ウエブを、実施例2と同じプラズマ処理へ供することで、親水化処理した不織布を形成した。
【0074】
実施例及び比較例の不織布の繊維組成、親水化処理方法、繊維の融着方法、目付、厚さ(1.3kg/cm2荷重時の厚さt1、0.02kg/cm2荷重時の厚さt2)、厚さの比(t1/t2)を、以下の表1に示す。なお、1.3kg/cm2荷重時の不織布の厚さ測定は、測定力可変式デジマチックマイクロメータCLM2-15QM(株式会社ミツトヨ製)で行い、0.02kg/cm2荷重時の厚さ測定はライトマチック(株式会社ミツトヨ製)で行った。
【0075】
【0076】
また、上述の方法により、不織布の繊維総表面積に対する繊維の接着面積(繊維総表面積-BET表面積)の割合を求め、以下の方法により、加圧保液率及び電気抵抗の測定を行い、不織布の物性を評価した。
【0077】
(加圧保液率の測定)
(1)実施例及び比較例の不織布を直径30mmにそれぞれ裁断して試験片を調製し、温度20℃、相対湿度65%の状態下で、水分平衡に至らせた後、質量(M0)をそれぞれ測定した。
(2)試験片の空気を水酸化カリウム溶液で置換するように、比重1.3(20℃)の水酸化カリウム溶液中に1時間浸漬し、水酸化カリウム溶液を保持させた。
(3)これらの試験片を上下3枚ずつのろ紙(直径:30mm)で挟み、加圧ポンプにより、5.7MPaの圧力を30秒間作用させた後、試験片の質量(M1)を測定した。
(4)次の式により、加圧保液率を求めた。なお、この測定は1つの不織布の4枚の試験片について行い、その算術平均を加圧保液率(Rp、単位:%)とした。
Rp=[(M1-M0)/M0]×100
【0078】
(電気抵抗の測定)
(1)各不織布を35mm角に切断して試験片を作製した。
(2)比重1.3(20℃)の水酸化カリウム水溶液を各試験片に、各試験片の質量と同じ質量分だけ吸収させた後、35mm角のニッケル板で挟み、45N荷重時における電気抵抗(単位:Ω)を測定した。
【0079】
【0080】
実施例1と比較例1との比較、及び、実施例2と比較例2との比較から、繊維配合及び親水化処理方法が同一であるにもかかわらず、1.3kg/cm2荷重時の厚さt1、0.02kg/cm2荷重時の厚さt2の比であるt1/t2の値が0.65~0.80である実施例1、2の不織布は、加圧保液率が高く、また、電気抵抗が低いものであった。このことから、実施例1及び2の不織布は、保液部材として用いた際に電気抵抗の低い電気化学素子が実現できるものであることがわかった。
本発明の保液部材は、電気化学素子の充放電に伴う電極の膨張収縮に追従しやすく、かつつぶれにくく、電気抵抗の低い電気化学素子を実現できることから、例えば、一次電池、二次電池(ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池など)、キャパシタなどの電気化学素子用のセパレータや、二次電池(リチウムイオン電池やニッケル亜鉛電池など)などの電気化学素子の電極やセパレータ(微多孔膜やセラミックスなど)に隣接して、セパレータのドライアウトなどが原因で発生する電気化学素子の電気抵抗上昇を抑制する電解液保持を目的とした部材として好適に用いることができる。