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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121213
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/01 20060101AFI20220812BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B60C11/01 B
B60C11/13 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018441
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】谷口 英駿
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB03
3D131BC34
3D131BC35
3D131BC39
3D131EA10X
3D131EB19X
3D131EB20X
3D131EB26X
3D131EC04X
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ショルダー陸部の摩耗抑制効果を維持しつつ、発熱耐久性の悪化を抑制する空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】重荷重用空気入りタイヤであって、トレッド部は、一対のショルダー陸部20を含む。一対のショルダー陸部20の少なくとも一方は、タイヤ周方向に連続する細溝12が設けられることにより、タイヤ軸方向の内側の主部21と、主部21のタイヤ軸方向外側の犠牲リブ22とに区分される。犠牲リブ22は、タイヤ半径方向の根本部でのタイヤ軸方向の幅Wrと、タイヤ半径方向の外面でのタイヤ軸方向の幅Wsとの比(Wr/Ws)が1.0以上である。前記少なくとも一方のショルダー陸部20の側において、タイヤ内腔面30に対する法線方向で測定されるショルダー陸部20の最大厚さWmaxを規定する最大厚さラインLsと細溝12との間の最短距離Lwが5.0mm以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する重荷重用空気入りタイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続する一対のショルダー周方向溝と、前記一対のショルダー周方向溝のタイヤ軸方向外側に区分された一対のショルダー陸部とを含み、
前記一対のショルダー陸部の少なくとも一方は、タイヤ周方向に連続する細溝が設けられ、これにより、タイヤ軸方向内側の主部と、前記主部のタイヤ軸方向外側の犠牲リブとに区分されており、
前記犠牲リブは、タイヤ半径方向の根本部でのタイヤ軸方向の幅Wrと、タイヤ半径方向の外面でのタイヤ軸方向の幅Wsとの比(Wr/Ws)が1.0以上であり、
前記少なくとも一方のショルダー陸部の側において、前記細溝と、タイヤ内腔面に対する法線方向で測定される前記ショルダー陸部の最大厚さを規定する最大厚さラインとの間の最短距離Lwが5.0mm以下である、
重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記最短距離Lwが1.0mm以下である、請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記最大厚さラインが前記細溝と交差する、請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記比(Wr/Ws)が1.5~2.5の範囲である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記犠牲リブの前記外面は、前記主部のタイヤ半径方向の外面に対して、タイヤ半径方向の段差を形成するようにタイヤ半径方向内側に位置している、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記段差が2.0~3.0mmである、請求項5に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記細溝は、最も深い位置である溝底を含み、
前記細溝の横断面において、前記細溝は、タイヤ軸方向において、内側溝壁と外側溝壁とを含み、
前記内側溝壁は、前記溝底側でタイヤ軸方向内側に窪んだ内側凹部を含み、
前記外側溝壁は、前記溝底側でタイヤ軸方向外側に窪んだ外側凹部を含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記溝底から前記内側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH1(mm)は、前記溝底から前記外側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH2(mm)以下である、請求項7に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記溝底から前記内側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH1(mm)は、前記溝底から前記外側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH2(mm)よりも低い、請求項7に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記細溝の溝深さをD(mm)としたときに、下式(1)を満足する、請求項8又は9に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
3.0mm≦H1≦H2≦0.50×D …(1)
【請求項11】
前記最大厚さラインが前記細溝の前記内側凹部又は前記外側凹部と交差する、請求項7ないし10のいずれか1項に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部のショルダー陸部に、細溝によって区分された犠牲リブを設けた重荷重用空気入りタイヤが提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。この犠牲リブは、自らに摩耗を集中させることによって、摩耗がショルダー陸部全体に広がるのを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-36817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ショルダー陸部の摩耗抑制効果を長期に亘って持続させるために、犠牲リブ自体の剛性を確保し、走行時の欠損等を防止する必要がある。このような観点では、犠牲リブにそれなりの幅ないしゴムボリュームを与えることが望ましい。
【0005】
一方、重荷重用空気入りタイヤのショルダー陸部は、ゴムボリュームが大きく、かつ、負荷走行時の変形量をも大きいことから、走行中に発熱しやすい。したがって、犠牲リブの大型化は、走行中のショルダー陸部のさらなる発熱の増加を招き、ひいてはタイヤの発熱耐久性を悪化させるという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、ショルダー陸部の摩耗抑制効果を維持しつつ、発熱耐久性を向上することができる重荷重用空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トレッド部を有する重荷重用空気入りタイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ周方向に連続する一対のショルダー周方向溝と、前記一対のショルダー周方向溝のタイヤ軸方向外側に区分された一対のショルダー陸部とを含み、前記一対のショルダー陸部の少なくとも一方は、タイヤ周方向に連続する細溝が設けられ、これにより、タイヤ軸方向内側の主部と、前記主部のタイヤ軸方向外側の犠牲リブとに区分されており、前記犠牲リブは、タイヤ半径方向の根本部でのタイヤ軸方向の幅Wrと、タイヤ半径方向の外面でのタイヤ軸方向の幅Wsとの比(Wr/Ws)が1.0以上であり、前記少なくとも一方のショルダー陸部の側において、前記細溝と、タイヤ内腔面に対する法線方向で測定される前記ショルダー陸部の最大厚さを規定する最大厚さラインとの間の最短距離Lwが5.0mm以下である、重荷重用空気入りタイヤである。
【0008】
本発明の他の態様では、前記最短距離Lwが1.0mm以下とされても良い。
【0009】
本発明の他の態様では、前記最大厚さラインが前記細溝と交差しても良い。
【0010】
本発明の他の態様では、前記比(Wr/Ws)が1.5~2.5の範囲であっても良い。
【0011】
本発明の他の態様では、前記犠牲リブの前記外面は、前記主部のタイヤ半径方向の外面に対して、タイヤ半径方向の段差を形成するようにタイヤ半径方向内側に位置していても良い。
【0012】
本発明の他の態様では、前記段差が2.0~3.0mmであっても良い。
【0013】
本発明の他の態様では、前記細溝は、最も深い位置である溝底を含み、前記細溝の横断面において、前記細溝は、タイヤ軸方向において、内側溝壁と外側溝壁とを含み、前記内側溝壁は、前記溝底側でタイヤ軸方向内側に窪んだ内側凹部を含み、前記外側溝壁は、前記溝底側でタイヤ軸方向外側に窪んだ外側凹部を含むことができる。
【0014】
本発明の他の態様では、前記溝底から前記内側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH1(mm)は、前記溝底から前記外側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH2(mm)以下であっても良い。
【0015】
本発明の他の態様では、前記溝底から前記内側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH1(mm)は、前記溝底から前記外側凹部のタイヤ半径方向の外端までの高さH2(mm)よりも低くても良い。
【0016】
本発明の他の態様では、前記細溝の溝深さをD(mm)としたときに、下式(1)を満足することができる。
3.0mm≦H1≦H2≦0.50×D …(1)
【0017】
本発明の他の態様では、前記最大厚さラインが前記細溝の前記内側凹部又は前記外側凹部と交差しても良い。
【発明の効果】
【0018】
本発明の重荷重用空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことにより、ショルダー陸部の摩耗抑制効果を維持しつつ、発熱耐久性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態を示す重荷重用空気入りタイヤの断面図である。
図2図1のショルダー陸部の部分拡大図である。
図3図1のショルダー陸部の部分拡大図である。
図4】他の実施形態を示すショルダー陸部の部分拡大図である。
図5】他の実施形態を示すショルダー陸部の部分断面図である。
図6】他の実施形態を示すショルダー陸部の部分断面図である。
図7】他の実施形態を示すショルダー陸部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本明細書の実施形態全体を通して、同一又は共通する要素は、同じ参照番号で示され、その詳細な説明は繰り返されないことに留意されたい。
【0021】
図1は、本実施形態の重荷重用空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という場合がある。)1の断面図、図2は、そのショルダー陸部20の部分拡大図である。図1において、タイヤ1は正規状態とされている。
【0022】
本明細書において、正規状態とは、タイヤが正規リム(図示せず)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ1の各部の寸法等は、正規状態での値を意味する。
【0023】
本明細書において、「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0024】
本明細書において、「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、それぞれにビードコア5が埋設された一対のビード部4とを備える。本実施形態のタイヤ1は、タイヤ内腔面30に、空気非透過性のインナーライナーゴムが配された空気入りタイヤとして構成されている。
【0026】
また、タイヤ1は、一対のビードコア5、5を跨るように延びるカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側に配されたベルト層7とを備える。
【0027】
本実施形態のカーカス6は、例えば、複数のスチールコードがトッピングゴムで被覆された少なくとも1枚のカーカスプライ6Aを含む。カーカスコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して、例えば、80~90度の角度で配向されたラジアル構造を備える。
【0028】
カーカスプライ6Aは、例えば、一対のビードコア5の間を延びる本体部6aと、一対のビードコア5の周りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返された一対の折返し部6bとを含む。好ましい態様として、各ビード部4には、カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間に、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にテーパー状に延びる硬質ゴムからなるビードエーペックス8が配される。
【0029】
ベルト層7は、複数(本実施形態では4層)のベルトプライから構成されている。各ベルトプライは、タイヤ赤道Cに対して、例えば10~60度の角度で配向されたスチールコードを含む。このようなベルト層7は、カーカス6をタガ締めし、トレッド部2の剛性を高める。
【0030】
トレッド部2には、タイヤ周方向に連続して延びる複数の周方向溝が形成されている。本実施形態の周方向溝は、一対のショルダー周方向溝9と、それらの間に配された1又は複数のクラウン周方向溝10とを含む。タイヤ1が正規荷重を受けて地面に接地したときに、各周方向溝9及び10は、溝が閉じることがないように十分に大きな溝幅を備えている。なお、「正規荷重」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"とする。
【0031】
各周方向溝9及び10の溝幅は、特に限定されるものではないが、例えば5mm以上、好ましくは6mm以上とされ、例えば15mm以下とされる。また、各周方向溝9及び10の溝深さは、例えば8mm以上、好ましくは10mm以上とされ、例えば18mm以下とされる。
【0032】
トレッド部2には、一対のショルダー周方向溝9のタイヤ軸方向の外側に、一対のショルダー陸部20が区分される。一対のショルダー陸部20は、それぞれトレッド接地端Teを含み、トレッド部2において最も外側の陸部を構成している。本明細書において、「トレッド接地端」とは、正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの接地面において、最もタイヤ軸方向外側の位置を意味する。
【0033】
一対のショルダー陸部20の少なくとも一方には、タイヤ周方向に連続して延びる細溝12が形成されている。本実施形態では、好ましい態様として、一対のショルダー陸部20の両方に細溝12が形成されている。
【0034】
細溝12は、ショルダー陸部20において、ショルダー周方向溝9よりもトレッド接地端Teの側に配されている。これにより、ショルダー陸部20は、タイヤ軸方向内側の主部21と、タイヤ軸方向外側の犠牲リブ22とに区分されている。
【0035】
図2に示されるように、犠牲リブ22は、トレッド接地端Teを含み、ショルダー陸部20の端部を構成している。また、犠牲リブ22は、主部21に比べてタイヤ軸方向の幅が小さいことから、主部21と比較して剛性も低い。このような犠牲リブ22は、タイヤ走行時に適度に動き、自らに摩耗を集中させることで、主部21に偏摩耗が伸展するのを抑制することができる。
【0036】
細溝12は、タイヤ1が正規荷重を受けて地面に接地したときに、一対の溝壁が接する程度の溝幅Gwを備えるのが望ましい。これにより、タイヤ走行時、犠牲リブ22の変形を確保しつつ、犠牲リブ22を主部21と接触させることができる。これにより、主部21に作用する摩耗エネルギーが軽減され、そこでの偏摩耗が抑制される。このような観点より、細溝12の溝幅Gwは、特に限定されるものではないが、例えば、0.3~6.0mmの範囲が望ましい。同様に、細溝12の溝深さDについては、例えば、10~18mmの範囲が望ましい。なお、本実施形態の細溝12は、実質的に一定の溝幅Gwを備える態様が示される。
【0037】
犠牲リブ22の剛性が小さくなると、タイヤの摩耗ライフが十分に残っているにも関わらず、犠牲リブ22に欠損やクラック等の損傷が生じることがある。したがって、ショルダー陸部20の摩耗抑制効果を長期に亘って持続させるためには、犠牲リブ22自体の剛性を確保する必要がある。このような課題の下、本実施形態の犠牲リブ22は、図2に示されるように、タイヤ半径方向の根本部22aでのタイヤ軸方向の幅Wrと、タイヤ半径方向の外面22bでのタイヤ軸方向の幅Wsとの比(Wr/Ws)が1.0以上とされる。これにより、犠牲リブ22の根本部22aの剛性が高められ、ひいては、意図しない早期の犠牲リブ22の損傷を抑制することが可能になる。これは、ショルダー陸部20の摩耗抑制効果を長期に亘って維持するのに役立つ。
【0038】
本明細書において、犠牲リブ22の根本部22aは、図2に示されるように、細溝12の最も深い位置である溝底12aからタイヤ軸方向外側に延びるタイヤ軸方向線によって画定される。また、犠牲リブ22の根本部22aの幅Wrは、細溝12の溝底12aからタイヤ1の外側面までのタイヤ軸方向の距離である。ただし、細溝12の溝底12aがタイヤ軸方向に連続するような場合、溝底12aは、その最もタイヤ軸方向外側の位置として特定される。また、犠牲リブ22の外面22bでのタイヤ軸方向の幅Wsは、細溝12のタイヤ軸方向の外側の溝縁からトレッド接地端Teまでのタイヤ軸方向の距離として特定される。
【0039】
上述の犠牲リブ22の作用をさらに高めるために、犠牲リブ22のタイヤ軸方向の幅は、根本部22aから外面22bに向かって漸減するのが望ましい。
【0040】
とりわけ、前記比(Wr/Ws)は、例えば、1.0よりも大きいことが望ましく、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上が望ましい。
【0041】
他方、前記比(Wr/Ws)が過度に大きくなると、犠牲リブ22の剛性は向上するが、タイヤ走行中における犠牲リブ22の本来の柔軟な変形による偏摩耗抑制効果が得られないおそれがある。このような観点では、前記比(Wr/Ws)は、例えば、2.5以下とされるのが望ましい。
【0042】
なお、特に限定されるものではないが、犠牲リブ22の外面22bでのタイヤ軸方向の幅Wsは、例えば、5~15mmの範囲とされるのが望ましい。
【0043】
図3には、細溝12が設けられたショルダー陸部20の部分拡大図が示される。図3に示されるように、本実施形態のタイヤ1では、細溝12と、タイヤ内腔面30に対する法線方向で測定されるショルダー陸部20の最大厚さWmaxを規定する最大厚さラインLsとの間の最短距離Lwが5.0mm以下とされる。本実施形態において、最大厚さラインLsは、トレッド接地端Teを通り、かつ、タイヤ内腔面30に直交する直線とされている。
【0044】
重荷重用空気入りタイヤ1は、ショルダー陸部20のゴムボリュームが大きく、かつ、タイヤの負荷走行時のショルダー陸部20の変形も大きいことから発熱しやすい。そして、ショルダー陸部20に蓄えられた熱は、カーカス6やベルト層7に影響を及ぼし、そこでのルースやセパレーション等を誘発する原因になる。本発明では、上述のように、細溝12にショルダー陸部20の最大厚さWmaxの部分を一定の距離で接近させることで、走行中のショルダー陸部20の熱を、細溝12を通じて効果的にタイヤ外部に散逸させることができる。したがって、本実施形態のタイヤ1は、発熱耐久性を向上することができる。
【0045】
上述の最短距離Lwが5.0mmを超える場合、ショルダー陸部20の熱が細溝12を通じて放出され難く、ひいては発熱耐久性の悪化を効果的に抑制することができない。
【0046】
好ましい態様では、最短距離Lwは1.0mm以下とされるのが望ましい。これによって、ショルダー陸部20の最大厚さWmaxの部分が、さらに細溝12に接近することから、タイヤ走行中のショルダー陸部20の放熱効果がより一層向上する。
【0047】
さらに好ましい態様では、図4に示されるように、ショルダー陸部20の最大厚さラインLsは、細溝12と交差することが望ましい。これによって、タイヤ走行中のショルダー陸部20の放熱効果がより一層向上する。
【0048】
図2に示されるように、犠牲リブ22のタイヤ半径方向の外面22bは、主部21のタイヤ半径方向の外面21bに対して、タイヤ半径方向の段差Sを形成するようにタイヤ半径方向内側に位置するのが望ましい。このような態様では、犠牲リブ22のタイヤ半径方向の高さが小さくなり、ひいては、犠牲リブ22の曲げ剛性等が向上する。これにより犠牲リブ22の耐クラック性や耐テア性が向上する。特に、このような態様では、犠牲リブ22のタイヤ軸方向の曲げ剛性が向上するため、タイヤ走行時に、犠牲リブ22は主部21と接触して主部21を支持し、主部21に作用する摩耗エネルギーを低減する。これは、ショルダー陸部20の主部21の偏摩耗をさらに抑制するのに役立つ。
【0049】
上述の作用をさらに高めるために、段差Sは、タイヤ半径方向の距離として、2.0mm以上とされるのが望ましい。他方、段差Sが過度に大きくなると、タイヤ走行時に犠牲リブ22が接地し難くなるため、直進走行時や旋回走行時に主部21を支持することができず、いわゆる犠牲摩耗の作用が低下するおそれがある。このような観点では、段差Sは、例えば、3.0mm以下であるのが望ましい。
【0050】
図5及び図6は、本発明の他の実施形態を示すショルダー陸部20の部分断面図である。この実施形態は、先の実施形態とは細溝12の形状が異なっており、それ以外は基本的に同一である。具体的に述べると、図5に示されるように、細溝12は、横断面において、溝底12a側に溝幅が拡大した部分を備える点が先の実施形態とは異なっている。
【0051】
より詳細には、細溝12は、タイヤ軸方向の内側溝壁12iと、外側溝壁12oとを含み、内側溝壁12iは、溝底12a側でタイヤ軸方向内側に窪んだ内側凹部13iを含み、外側溝壁12oは、溝底12a側でタイヤ軸方向外側に窪んだ外側凹部13oを含む。本実施形態において、内側凹部13i及び外側凹部13oは、いずれも円弧状の凹曲面とされており、溝底12aにおいて両者は滑らかに接続されている。
【0052】
このような細溝12は、その溝表面積が増大することから、ショルダー陸部20に蓄えられた熱をさらに効果的にタイヤ外部に散逸させることができ、ひいては、タイヤ1の発熱耐久性がさらに向上する。また、タイヤ走行時の細溝12に作用する歪は、内側凹部13i及び外側凹部13oで広く分散され、溝底12aへの集中が抑制される。したがって、この実施形態では、溝底12aでの耐クラック性能をさらに高めることができる。
【0053】
本実施形態の細溝12において、内側凹部13i及び外側凹部13oよりもタイヤ半径方向外側の部分は、溝幅Gwが相対的に小さく形成される。このため、タイヤ走行時の犠牲リブ22の過度の変形が抑制され、これまで通り主部21の偏摩耗の伸展が抑制される。
【0054】
好ましい態様では、溝底12aから内側凹部13iのタイヤ半径方向の外端までの高さH1(mm)は、溝底12aから外側凹部13oのタイヤ半径方向の外端までの高さH2(mm)以下とされるのが望ましい。このような構成により、荷重負荷時の細溝12の溝底12a付近での歪が緩和され、ひいては、細溝12の溝底12aでのクラック発生による犠牲リブ22の損傷を長期に亘って抑制することができる。
【0055】
より好ましい態様では、前記高さH1及びH2は、H1<H2の関係を満足するのが望ましい。このように、外側凹部13oを内側凹部13iよりもタイヤ半径方向に大きく形成することにより、犠牲リブ22の根本部22aの柔軟性がより一層向上する。したがって、細溝12の溝底12aでの耐クラック性能がさらに向上し、ひいては、犠牲リブ22の損傷がより一層抑制される。
【0056】
特に好ましい態様では、細溝12の溝深さをD(mm)としたときに、前記高さH1及びH2は、下式(1)を満足することが望ましい。
3.0mm≦H1≦H2≦0.50×D …(1)
【0057】
式(1)を満足することで、内側凹部13i及び外側凹部13oは、十分に大きな曲率半径(例えば、R≧3.0mm)の凹曲面で形成され、前記作用がより一層高められる。また、高さH1及びH2が、いずれも0.50×D以下とされることで、犠牲リブ22の剛性の著しい低下を抑制することができる。
【0058】
図7には、さらに好ましい態様が示される。この実施形態では、最大厚さラインLsが細溝12の内側凹部13i又は外側凹部13oと交差している。この実施形態では、最大厚さラインLsが、より放熱効果が期待できる細溝12の内側凹部13i及び外側凹部13oの双方と交差している。このような態様によれば、ショルダー陸部20に蓄えられた熱がより一層効果的にタイヤ外部に放出され、ひいては発熱耐久性がさらに向上する。
【0059】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例0060】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
図1の基本構造を有する重荷重用空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、各タイヤのショルダー陸部の耐偏摩耗性能、及び、発熱耐久性がテストされた。各試供タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
タイヤサイズ:295/75R22.5
リム:22.5×8.25
内圧:830kPa
【0061】
[ショルダー陸部の耐偏摩耗性能]
各試供タイヤを10トントラックの全輪に装着し、アスファルト路面のテストコースを20000km走行させた。その後、ショルダー陸部の主部の摩耗量と、そのタイヤ軸方向内側の陸部の摩耗量との比が算出された。結果は、摩耗比×100であり、数値が100に近いほど性能が優れていることを示す。
【0062】
[発熱耐久性]
各テストタイヤに正規荷重(27.5kN)を加え、ドラム試験機上を走行させた。速度は、40km/hから120分毎に10km/hずつ高め、タイヤが破壊するまでの走行時間が測定された。結果は、比較例1の走行時間を100とする指数であり、数値が大きいほど性能が優れていることを示す。
テストの結果が表1に示される。
【0063】
【表1】
【0064】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、ショルダー陸部の耐偏摩耗性能を同程度に維持しつつ、発熱耐久性を向上していることが確認できた。
【0065】
次に、実施例1をベースとして、主部と犠牲リブの段差や、細溝の溝壁の凹部を変化させ、犠牲リブの耐クラック・テア性能、細溝の耐溝底クラック性能についてもテストされた。テスト方法は、次の通りである。
【0066】
[犠牲リブの耐クラック・テア性能、細溝の耐溝底クラック性能]
各テストタイヤに正規荷重(27.5kN)を負荷し、走行面にアスファルト路面を再現したドラム試験機上を走行させた。走行速度は40km/hとし、走行時間は145時間とした。走行後、犠牲リブの損傷度合いや細溝の溝底のクラックの大きさ、熱による損傷の度合いが数値化された。結果は、実施例1を100とする指数であり、数値が大きいほど性能が優れていることを示す。なお、細溝の溝深さDは15mmとした。
テストの結果が表2に示される。
【0067】
【表2】
【0068】
主部と犠牲リブとの間に段差を最適化した態様や、細溝の溝底側に凹部を設けた態様では、犠牲リブの耐クラック・テア性能や細溝の耐溝底クラック性能が有意に向上することも確認できた。
【符号の説明】
【0069】
1 重荷重用空気入りタイヤ
2 トレッド部
9 ショルダー周方向溝
12 細溝
12a 溝底
12i 内側溝壁
12o 外側溝壁
13i 内側凹部
13o 外側凹部
20 ショルダー陸部
21 主部
21b 主部の外面
22 犠牲リブ
22a 犠牲リブの根本部
22b 犠牲リブの外面
Ls 最大厚さライン
Lw 最短距離
S 段差
Wmax ショルダー陸部の最大厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7