IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋アルミニウム株式会社の特許一覧

特開2022-121214アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法
<>
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図1
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図2
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図3
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図4
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図5
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図6
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図7
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図8
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図9
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図10
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図11
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図12
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図13
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図14
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図15
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図16
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図17
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図18
  • 特開-アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121214
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/048 20060101AFI20220812BHJP
   H01G 9/052 20060101ALI20220812BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H01G9/048 G
H01G9/052 509
H01G9/00 290D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018442
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平 敏文
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和也
(72)【発明者】
【氏名】曾根 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中島 克己
(72)【発明者】
【氏名】和田 健
(57)【要約】
【課題】本発明は、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、折曲強度に優れるアルミニウム電解コンデンサ用電極材、及び、その製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の焼結体を有するアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、
(1)前記焼結体の合計厚みは50~900μmであり、
(2)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における10%粒子径D10は1.0~1.8μmであり、
(3)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における50%粒子径D50は2.0~3.5μmであり、
(4)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における90%粒子径D90は3.8~6.0μmである、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の焼結体を有するアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、
(1)前記焼結体の合計厚みは50~900μmであり、
(2)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における10%粒子径D10は1.0~1.8μmであり、
(3)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における50%粒子径D50は2.0~3.5μmであり、
(4)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における90%粒子径D90は3.8~6.0μmである、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項2】
前記焼結体の表面の100μm×115μmの任意の領域内の粒子径1μm以下の粉末の数が300個以下である、請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項3】
前記焼結体の表面に、更に、陽極酸化皮膜を有する、請求項1又は2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
【請求項4】
(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する第1工程、及び
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程を含み、
前記粉末は、個数基準の粒度分布における10%粒子径D10が1.0~1.8μmであり、個数基準の粒度分布における50%粒子径D50が2.0~3.5μmであり、個数基準の粒度分布における90%粒子径D90が3.8~6.0μmである、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程の後に、更に、陽極酸化処理工程を有する、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電解コンデンサ用電極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム電解コンデンサは、安価で高容量を得ることができるため、エネルギー分野で広く使われている。一般に、アルミニウム電解コンデンサ用電極材としてはアルミニウム箔が使用されている。
【0003】
アルミニウム箔は、エッチング処理を行い、エッチングピットを形成することにより、表面積を増大させることができる。そして、その表面に陽極酸化処理を施すことにより、酸化皮膜を形成し、これが誘電体として機能する。このため、アルミニウム箔をエッチング処理し、その表面に使用電圧に応じた種々の電圧で陽極酸化皮膜を形成することにより、用途に適合する各種の電解コンデンサ用アルミニウム陽極用電極箔を製造することができる。
【0004】
エッチング処理で形成されるエッチングピットは、陽極酸化電圧に対応した形状に処理される。具体的には、中高圧用のコンデンサ用途には、厚い酸化皮膜を形成する必要がある。このため、そのような厚い酸化皮膜でエッチングピットが埋まらないように、中高圧陽極用アルミニウム箔では、主に直流エッチングを行うことによりエッチングピット形状をトンネルタイプとし、電圧に応じた太さに処理される。また、低圧用コンデンサ用途では、細かいエッチングピットが必要であり、主には交流エッチングによって海綿状のエッチングピットを形成させる。また、陰極用箔も同様にエッチングにより表面積を拡大させている。
【0005】
特許文献1には、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の焼結体からなることを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材が提案されている。上記電極材は、従来のエッチングピットを形成したアルミニウム箔よりも大きな表面積を有しており、上記電極材を用いたコンデンサの静電容量を大きくすることができる。さらに、平均粒径1~80μmアルミニウム粉末を用いると耐電圧および静電容量の点で優れたアルミニウム電解コンデンサ用電極材が得られることを開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるアルミニウム電解コンデンサ用電極材も、強度に関する課題が存在しており、特に陽極酸化処理の際には破断しやすい傾向がある。上述のように特許文献1に開示されるアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、アルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末を含むペースト組成物により構成される皮膜を焼結することにより得られる。ここで、アルミニウム電解コンデンサを製造する際には、アルミニウム陽極箔(材)はセパレータ、陰極箔(材)と共に、非常に小さな径で捲かれることが多い。その捲回に耐えるための特性として、アルミニウム陽極箔を構成するアルミニウム電解コンデンサ用電極材には、高い折曲強度が求められる。
【0007】
アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造に使用されるアルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末の粒子径を大きくすることにより、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の折曲強度を高めることは可能である。しかしこの場合、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の表面積が小さくなることから、当該アルミニウム電解コンデンサ用電極材を使用してアルミニウム電解コンデンサを製造した際に、コンデンサの静電容量が小さくなる。逆に、アルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末の粒子径を小さくしてアルミニウム電解コンデンサ用電極材の静電容量を高めると、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の折曲強度が不十分となる。
【0008】
また、特許文献2には、アルミニウム電解コンデンサ用電極材を形成する際、焼結体にエンボス加工を施して、焼結体の表面粗度を所定内に調整したアルミニウム電解コンデンサ用電極材とすることにより、陽極酸化処理工程において電極材が破断しにくくなることが開示されている。
【0009】
しかし、特許文献2に開示される方法においても、コンデンサの容量及び製造コストの面で改善の余地がある。特許文献2に開示される製造方法では、エンボス加工工程が必要であり、製造コストの増大を招くという問題がある。更にあまり深くエンボスをしてしまうと静電容量が低下する傾向があるという問題がある。
【0010】
特許文献3には、アルミニウム電解コンデンサ用電極材を形成する際、アルミニウム箔基材(基材としてのアルミニウム箔)にマンガン(Mn)を添加したものを使用してアルミニウム電解コンデンサ用電極材を製造することにより陽極酸化処理工程において、電極材が破断しにくくなることが開示されている。
【0011】
しかし、陽極酸化処理を行った電極材でコンデンサを製造するには、特許文献3に開示される製造方法によっても、捲回工程における電極材及び陽極酸化皮膜の破損を充分に抑制できるとは言い難く、より折曲強度に優れた電極材が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-98279号公報
【特許文献2】国際公開第2016/136804号
【特許文献3】国際公開第2015/098644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、折曲強度に優れるアルミニウム電解コンデンサ用電極材、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、焼結体の合計厚みを特定の範囲とし、且つ、個数基準の粒子径分布における、10%粒子径D10、50%粒子径D50、及び、90%粒子径D90を特定の範囲とすることにより、折曲強度と静電容量に優れた電極材を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、下記のアルミニウム電解コンデンサ用電極材およびその製造方法に関する。
1.アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の焼結体を有するアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、
(1)前記焼結体の合計厚みは50~900μmであり、
(2)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径分布における10%粒子径D10は1.0~1.8μmであり、
(3)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径分布における50%粒子径D50は2.0~3.5μmであり、
(4)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径分布における90%粒子径D90は3.8~6.0μmである、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
2.前記焼結体の表面の100μm×115μmの任意の領域内の粒子径1μm以下の粉末の数が300個以下である、項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
3.前記焼結体の表面に、更に、陽極酸化皮膜を有する、項1又は2に記載のアルミニウム電解コンデンサ用電極材。
4.(1)アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する第1工程、及び
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程を含み、
前記粉末は、個数基準の粒子径分布における10%粒子径D10が1.0~1.8μmであり、個数基準の粒子径分布における50%粒子径D50が2.0~3.5μmであり、個数基準の粒子径分布における90%粒子径D90が3.8~6.0μmである、
ことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法
5.前記第2工程の後に、更に、陽極酸化処理工程を有する、項4に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、折曲強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1及び比較例5で用いた粉末の個数基準の粒度分布を示す図である。
図2】実施例1及び比較例5で用いた粉末の体積基準の粒度分布を示す図である。
図3】実施例1により製造した電極材の焼結体の表面を、SEM(走査電子顕微鏡)で撮影し、画像解析ソフトで画像処理した画像である。
図4】実施例2により製造した電極材の焼結体の表面を、SEM(走査電子顕微鏡)で撮影し、画像解析ソフトで画像処理した画像である。
図5】比較例1により製造した電極材の焼結体の表面を、SEM(走査電子顕微鏡)で撮影し、画像解析ソフトで画像処理した画像である。
図6】比較例5により製造した電極材の焼結体の表面を、SEM(走査電子顕微鏡)で撮影し、画像解析ソフトで画像処理した画像である。
図7】折曲強度評価試験の試験方法を説明する図である。
図8】比較例1により製造し、折曲強度評価試験を行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図9】比較例1により製造し、折曲強度評価試験を行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図10】比較例1により製造し、折曲強度評価試験を行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図11】実施例1により製造した電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図12】実施例1により製造した電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図13】比較例1により製造した電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図14】比較例1により製造した電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図15】比較例4により製造した電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図16】比較例4により製造した電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図17】実施例1により製造し、折曲強度評価試験にて折り曲げを2回行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図18】比較例1により製造し、折曲強度評価試験にて折り曲げを2回行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
図19】比較例5により製造し、折曲強度評価試験にて折り曲げを2回行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.アルミニウム電解コンデンサ用電極材
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の焼結体を有するアルミニウム電解コンデンサ用電極材であって、(1)前記焼結体の合計厚みは50~900μmであり、(2)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径分布における10%粒子径D10は1.0~1.8μmであり、(3)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径分布における50%粒子径D50は2.0~3.5μmであり、(4)前記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径分布における90%粒子径D90は3.8~6.0μmであるアルミニウム電解コンデンサ用電極材である。
【0019】
一般に、粉末の粒度分布の測定方法としては、例えばレーザー回折・散乱法により体積基準で粒度分布を測定し、体積基準の平均粒子径D50を得ている。しかし、同じ体積基準の平均粒子径D50であってもその分布は様々であり、また体積基準で測定しているため、微細な粒子の存在(個数)が測定上顕れにくい。体積基準の粒度分布では顕れにくい粒子径1μm以下の粉末は、クラックの発生の原因となり、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の折曲強度を低下させる。
【0020】
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材(以下、単に「電極材」とも示す。)は、上記(2)~(4)の構成を備えることにより、微細な粉末が少なく、クラックの起点となる微細な粉末が凝集した二次粒子の発生が抑制され、上記(1)の要件を満たすこととあいまって、折曲強度を向上させることができる。また、本発明の電極材は、上記(2)~(4)の構成を備えることにより、粉末の粒子径が適度な範囲となり、高い静電容量を示すことができる。
【0021】
図1は、本発明の実施例1及び比較例5で用いた粉末の個数基準の粒度分布を示す図である。図1では、実施例1で用いた粉末の粒度分布は粒子径が小さい領域(2μm以下)にピークが殆どなく、粒子径が小さい粒子が少ないことが分かる。これに対し、比較例5で用いた粉末の粒度分布は0.81μmの箇所に大きなピークがあり、粒子径が小さい粒子が多いことが分かる。
【0022】
図2は、本発明の実施例1及び比較例5で用いた粉末の体積基準の粒度分布を示す図である。図2では、実施例1及び比較例5で用いた粉末は、両方とも粒子径が小さい領域(2μm以下)にピークが見られず、体積基準の粒度分布では粒子径が小さい粒子の存在は不明である。
【0023】
以下、本発明の電極材について詳細に説明する。
【0024】
(焼結体)
本発明の電極材は、アルミニウム箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末の焼結体を有する。
【0025】
焼結体は、アルミニウム箔基材の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成されていてもよい。電極材の静電容量がより一層向上する点で、両面に形成されていることが好ましい。
【0026】
焼結体は、上記粉末同士が空隙を維持しながら焼結して接合されることにより、三次元網目構造を有する多孔質焼結体であることが好ましい。当該構造を有することにより、焼結体の表面積が大きくなり、高い静電容量を示すアルミニウム電解コンデンサ(以下、単に「コンデンサ」とも示す。)を製造可能な電極材を得ることができる。
【0027】
アルミニウム粉末のアルミニウム含有量は、99.80質量%以上であることが好ましく、99.85質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましい。
【0028】
アルミニウム合金粉末は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等から選ばれる1種以上の元素を含んでもよい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましい。アルミニウム合金粉末中の上記元素の含有量が上記範囲であることにより、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の静電容量がより一層向上する。
【0029】
上記粉末は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
焼結体中の粉末の個数基準の粒度分布における50%粒子径D50(以下、「個数基準の粒子径D50」、「D50」とも示す。)は、2.0μm以上3.5μm以下である。個数基準の粒子径D50が2.0μm未満であるか、又は、3.5μmを超えると、電極材の静電容量が十分でない。上記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D50は2.2μm以上3.3μm以下が好ましく、2.3μm以上3.0μm以下がより好ましく、2.4μm以上2.8μm以下がより好ましい。
【0031】
本明細書において、焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D50は、焼結体の断面を、走査型電子顕微鏡で観察することによって測定することができる。具体的には、上記粉末を焼結して焼結体を形成すると、当該焼結体では粒子状の粉末の一部が焼結して、粉末同士が接合した状態となる。焼結体の断面において、接合した状態の各粉末の最大径(長径)をその粉末の粒子径とし、断面画像中の一定面積中の全粒子の粒子径と粒子数を求める。求めた全粒子を粒子径が小さい順にならべ、粒子数の50%となる順番目の粒子径を焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D50とする。また粒子数の10%、90%となる順番目の粒子径をそれぞれ下記の、焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D10、D90とする。
【0032】
焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D10は、1.0μm以上1.8μm以下である。個数基準の粒子径D10が1.0μm未満であると、焼結体中の粉末中の微細な粉末が多くなり、クラックの原因となるような二次粒子の数が増大し電極材の折り曲げ強度が低下する。個数基準の粒子径D10が1.8μmを超えると、材料のアルミニウム粉末の製造工程での収率が低下しコストが増大する。上記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D10は折曲強度やコストの点で1.3μm以上1.7μm以下が好ましく、1.4μm以上1.5μm以下がより好ましい。
【0033】
焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D90は、3.8μm以上6.0μm以下である。個数基準の粒子径D90が3.8μm未満であると、材料のアルミニウム粉末の製造工程での収率が低下しコストが増大する。個数基準の粒子径D90が6.0μmを超えると焼結体の表面積が十分でなく、コンデンサ用電極材とした際に静電容量が十分でない。上記焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D90はコンデンサ用電極材とした際の静電容量の点で3.9μm以上5.0μm以下が好ましく、3.9μm以上4.5μm以下がより好ましい。
【0034】
なお、上述の測定方法により測定される焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90は、焼結前の粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90から殆ど変化せず、略同一であるので、焼結前の粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90の測定値を、焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90とすることができる。本明細書において、上記焼結前の粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90は、マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)を使用し、レーザー回折・散乱法湿式測定により粒度分布を個数基準で測定し、D10値、D50値及びおよびD90値を算出することにより測定することができる。
【0035】
上記個数基準の粒度分布におけるD10、D50、90が上記範囲である粉末は、アトマイズしたアルミニウム粉末を、渦式分級や篩分級等の方法により分級することで得ることができる。具体的には、(1)D10が上記範囲となる分級機、D50が上記範囲となる分級機、及び、D90が上記範囲となる分級機を組み合わせて使用し、アトマイズしたアルミニウム粉末を分級する方法、(2)アトマイズしたアルミニウム粉末を渦式分級、篩分級等の方法により分級して、D10が上記範囲であるアルミニウム粉末、D50が上記範囲であるアルミニウム粉末90が上記範囲であるアルミニウム粉末をそれぞれ調製し、これらを混合する方法等により得ることができる。
【0036】
焼結体の合計厚みは50μm以上900μmである。焼結体の合計厚みが50μm未満であると、電極材の静電容量が十分でない。合計厚みが900μmを超える焼結体は、形成が困難である。焼結体の合計厚みは、70μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。また、焼結体の合計厚みは、875μm以下が好ましく、860μm以下がより好ましく、500μm以下が更に好ましく、300μm以下が特に好ましい。なお、本明細書において焼結体の合計厚みとは、本発明の電極材が焼結体をアルミニウム箔基材の両面に有する場合は、それぞれの面に形成された焼結体の厚みの合計の厚みである。本発明の電極材が焼結体をアルミニウム箔基材の片面のみに有する場合は、片面の焼結体の厚みが合計厚みとなる。
【0037】
焼結体の表面の100μm×115μmの任意の領域内の粒子径1μm以下の粉末の数は、300個以下が好ましく、250個以下がより好ましく、200個以下が更に好ましく、180個以下が特に好ましい。上記粒子径1μm以下の粉末の数の上限が上記範囲であることにより、焼結体中の粉末中の微細な粉末が少なくなり、クラックの原因となるような二次粒子の数の増大が抑制されて、本発明の電極材の折曲強度がより一層向上するため、電極材をコンデンサ用電極とする際の、陽極酸化処理ライン中や捲回工程での破断をより一層抑制することができる。また、上記粒子径1μm以下の粉末の数の下限は少ない程好ましいが、0個、50個以上、100個以上であってもよい。
【0038】
本明細書において、焼結体の表面の100μm×115μmの任意の領域内の粒子径1μm以下の粉末の数は、焼結体表面を、走査型電子顕微鏡で撮影した画像を画像解析ソフトで画像処理した後、解析し、焼結体の表面の100μm×115μmの任意の領域内の粒子径1μm以下の粉末の数を数えることにより測定することができる。以下、より具体的に説明する。
【0039】
走査型電子顕微鏡での撮影は、JEOL社製の走査電子顕微鏡(品番:JSM-5510)をい用いて、二次電子像、撮影倍率1500倍、加速電圧15kV、スポット径15、作動距離20mmの条件で行う。
【0040】
次いで、三谷商事株式会社製の画像解析ソフトWinROOF2015により焼結体層表面の粒子径1μm以下の粉末の個数を算出する。具体的には、走査電子顕微鏡で撮影した画像をJPEGイメージでソフトに取り込み、「モノクロ化」処理を行い、次いで「二値化」処理を行う。その後、画像内の任意の100μm×115μmの範囲内で、各粉末の円相当径をその粉末の粒子径とし、粒子径1μm以下の粉末の個数を数えることにより測定する。
【0041】
(アルミニウム箔基材、アルミニウム合金箔基材)
本発明の電極材は、アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材(以下、併せて「基材」とも示す。)を有する。
【0042】
アルミニウム箔基材を形成するアルミニウム箔としては、純アルミニウムからなるアルミニウム箔を使用することが好ましい。
【0043】
純アルミニウムからなるアルミニウム箔のアルミニウム含有量は、99.80質量%以上であることが好ましく、99.85質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましい。
【0044】
アルミニウム合金箔基材を形成するアルミニウム合金箔に用いられるアルミニウム合金は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を必要範囲内において、アルミニウムに添加したアルミニウム合金であってもよいし、上記元素を不可避的不純物的に含むアルミニウム合金であってもよい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましい。アルミニウム合金中の上記元素の含有量が上記範囲であることにより、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の静電容量がより一層向上する。
【0045】
基材の厚みは、電極材の強度がより一層向上する観点から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。また、アルミニウム箔基材の厚みは、コンデンサ用電極材とした際の体積あたりの容量がより一層向上する観点から、80μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、40μm以下が更に好ましい。
【0046】
(陽極酸化皮膜)
本発明の電極材は、上記焼結体の表面に、更に、陽極酸化皮膜を有していてもよい。焼結体の表面に陽極酸化皮膜を有することにより、当該陽極酸化皮膜が誘電体として機能することで、本発明の電極材をアルミニウム電解コンデンサ用電極材として有用に用いることができる。
【0047】
陽極酸化皮膜は、焼結体の表面を陽極酸化することにより作製することができる。上記陽極酸化皮膜は、誘電体皮膜としての機能を有する。
【0048】
陽極酸化皮膜の厚みは0.2~1.1μmが好ましく、0.3~1.05μmがより好ましい。
【0049】
陽極酸化皮膜の皮膜耐電圧は250~800Vが好ましく、300~800Vがより好ましい。陽極酸化皮膜の皮膜耐電圧は、日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠した測定方法により測定することができる。
【0050】
2.アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法は、
(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する第1工程、及び
(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する第2工程を含み、
前記粉末は、個数基準の粒度分布における10%粒子径D10が1.0~1.8μmであり、個数基準の粒度分布における50%粒子径D50が2.0~3.5μmであり、個数基準の粒度分布における90%粒子径D90が3.8~6.0μmである製造方法である。以下、詳細に説明する。
【0051】
(第1工程)
第1工程は、(1)アルミニウム箔基材又はアルミニウム合金箔基材(以下、併せて「基材」とも示す。)の少なくとも片面に、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選択される少なくとも1種の粉末を含むペースト組成物の皮膜を形成する工程である。
【0052】
原料のアルミニウムの粉末としては、例えば、アルミニウム純度99.80質量%以上のアルミニウム粉末が好ましく、アルミニウム純度99.85質量%以上のアルミニウム粉末がより好ましく、アルミニウム純度99.99質量%以上のアルミニウム粉末が更に好ましい。また、原料のアルミニウム合金粉末としては、例えば、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等の元素のうち、1種又は2種以上を含む合金が好ましい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下、特に50質量ppm以下とすることが好ましい。
【0053】
上記粉末は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0054】
粉末の個数基準の粒度分布における50%粒子径D50は、2.0μm以上3.5μm以下である。個数基準の粒子径D50が2.0μm未満であるか、又は、3.5μmを超えると、製造される電極材の静電容量が十分でない。上記粉末の個数基準の粒子径D50は2.2μm以上3.3μm以下が好ましく、2.3μm以上3.0μm以下がより好ましく、2.4μm以上2.8μm以下がより好ましい。
【0055】
粉末の個数基準の粒子径D10は、1.0μm以上1.8μm以下である。個数基準の粒子径D10が1.0μm未満であると、粉末中の微細な粉末が多くなり、クラックの原因となるような二次粒子の数が増大し、製造される電極材の折り曲げ強度が低下する。個数基準の粒子径D10が1.8μmを超えると、材料のアルミニウム粉末の製造工程での収率が低下しコストが増大する。上記粉末の個数基準の粒子径D10は折曲強度やコストの点で1.3μm以上1.7μm以下が好ましく、1.4μm以上1.5μm以下がより好ましい。
【0056】
粉末の個数基準の粒子径D90は、3.8μm以上6.0μm以下である。個数基準の粒子径D90が3.8μm未満であると、材料のアルミニウム粉末の製造工程での収率が低下しコストが増大する。個数基準の粒子径D90が6.0μmを超えると焼結体の表面積が十分でなく、コンデンサ用電極材とした際に静電容量が十分でない。上記粉末の個数基準の粒子径D90はコンデンサ用電極材とした際の静電容量の点で3.9μm以上5.0μm以下が好ましく、3.9μm以上4.5μm以下がより好ましい。
【0057】
なお、粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90は、マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)を使用し、レーザー回折・散乱法湿式測定により粒度分布を個数基準で測定し、D10値、D50値及びおよびD90値を算出することにより測定することができる。
【0058】
上記個数基準の粒度分布におけるD10、D50、90が上記範囲である粉末は、アトマイズしたアルミニウム粉末を、渦式分級や篩分級等の方法により分級することで得ることができる。具体的には、(1)D10が上記範囲となる分級機、D50が上記範囲となる分級機、及び、D90が上記範囲となる分級機を組み合わせて使用し、アトマイズしたアルミニウム粉末を分級する方法、(2)アトマイズしたアルミニウム粉末を渦式分級、篩分級等の方法により分級して、D10が上記範囲であるアルミニウム粉末、D50が上記範囲であるアルミニウム粉末90が上記範囲であるアルミニウム粉末をそれぞれ調製し、これらを混合する方法等により得ることができる。
【0059】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の形状は、特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できるが、工業的生産には球状粒子からなる粉末が特に好ましい。
【0060】
ペースト組成物は、樹脂バインダーを含有していてもよい。樹脂バインダーについては、公知のものを広く採用することができ、例えば、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂、並びに、ワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂又はワックスが好適に使用できる。これらの樹脂バインダーは、分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあり、所望の静電容量等の電気特性に応じて使い分けることができる。
【0061】
ペースト組成物中の樹脂バインダーの含有量は、ペースト状組成物100質量%中に0.5~10質量%とすることが好ましく、0.75~5質量%とすることがより好ましい。ペースト組成物中の樹脂バインダー量が0.5質量%以上であることにより、基材と未焼結積層体との密着強度を向上できる。一方、樹脂バインダー量が10質量%以下であることにより、焼結工程及び脱脂工程において脱脂しやすく、樹脂バインダーが残留する事によって発生する不具合を抑制できる。
【0062】
その他、必要に応じて適宜、ペースト組成物中には溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていてもよい。これらはいずれも公知又は市販のものを使用することができる。これにより効率よく皮膜を形成することができる。
【0063】
溶剤としては、公知の溶剤を広く採用することがきる。例えば、水;トルエン、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を使用することができる。
【0064】
焼結助剤としても、公知の焼結助剤を広く使用することができる。例えば、アルミニウムフッ化物、カリウムフッ化物等を使用することができる。
【0065】
界面活性剤としても、公知の界面活性剤を広く使用することができる。例えば、ベタイン系、スルホベタイン系、アルキルベタイン系等の界面活性剤を使用することができる。
【0066】
上記のペースト組成物を、基材の片面又は両面に付着させてペースト組成物の皮膜を形成するに際し、皮膜の合計の厚みは、50μm以上900μm以下とすることが好ましい。また、皮膜の合計の厚みは、70μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。また、皮膜の合計厚みは、875μm以下が好ましく、860μm以下がより好ましく、500μm以下が更に好ましく、300μm以下が特に好ましい。なお、本明細書において皮膜の合計厚みとは、第1工程において皮膜を基材の両面に形成する場合は、それぞれの面に形成された皮膜の厚みの合計の厚みである。第1工程において皮膜を基材の片面のみに形成する場合は、片面の皮膜の厚みが合計厚みとなる。
【0067】
基材上に皮膜を形成する形成方法としては特に限定されず、ペースト組成物を、例えばダイコート、グラビアコート、ダイレクトコート、ローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法を用いて形成できるほか、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷方法により形成することもできる。
【0068】
また、必要に応じて基材上に付着させた皮膜を、基材と共に20~300℃の範囲内の温度で1~30分間乾燥させることも好ましい。
【0069】
(第2工程)
第2工程は、(2)前記皮膜を560℃以上660℃以下の温度で焼結する工程である。
【0070】
第2工程により皮膜中の粉末が焼結され、基材上に焼結体が形成される。焼結温度は560℃以上660℃以下である。焼結温度が560℃未満であると、焼結が進まず所望の静電容量が得られない。焼結温度が660℃を超えると、粉末が溶融して、電解コンデンサの電極材として使用した場合に十分な容量が得られない。焼結温度は、570℃以上650℃未満が好ましく、580℃以上620℃未満がより好ましい。
【0071】
焼結時間は焼結温度等にも影響されるが、通常は5~24時間程度の範囲内で適宜決定することができる。焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであってもよいが、特に真空雰囲気又は還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧又は加圧のいずれであってもよい。
【0072】
(脱脂工程)
本発明の製造方法は、第2工程に先立って、皮膜中の樹脂バインダーを気化する目的で脱脂工程を行うことが好ましい。脱脂工程としては、例えば、酸化性ガス雰囲気(大気)中で200~500℃で1~20時間加熱する工程が挙げられる。加熱温度の下限、または加熱時間の下限が上記範囲であることにより、皮膜中の樹脂バインダーがより気化して、皮膜中の樹脂バインダーの残留を抑制することができる。また、加熱温度の上限、または加熱時間の上限が上記範囲であることにより、皮膜中のアルミニウム粉末の焼結の進み過ぎを抑制することができ、電解コンデンサの電極材として使用した場合の容量がより一層十分となる。
【0073】
(陽極酸化処理工程)
本発明の製造方法は、第2工程の後に、更に、陽極酸化処理工程を有していてもよい。陽極酸化処理工程を有することにより、焼結体の表面に陽極酸化皮膜が形成され、当該陽極酸化皮膜が誘電体として機能することで、電極材をアルミニウム電解コンデンサ用電極材として有用に用いることができる。
【0074】
陽極酸化処理条件は特に限定されず、通常は第1工程及び第2工程を経た電極材に対し、濃度0.01モル以上5モル以下、温度30℃以上100℃以下のホウ酸水溶液又はアジピン酸アンモニウム水溶液中で、10mA/cm以上400mA/cm以下の電流を5分以上印加すればよい。上記のような陽極酸化処理は、製造ライン下においては、通常、一又は複数のロールによって電極材を送りつつ行われる。
【0075】
また、上記陽極酸化処理工程における電圧に関しては、250~800Vから選択されることが好ましい。アルミニウム電解コンデンサ電極として用いられた際のアルミニウム電解コンデンサの動作電圧に応じた処理電圧にするのが好ましい。
【0076】
本発明の電極材の製造方法によれば、エッチング処理を行わずして、優れた電極材を得ることができる。エッチング工程を含まないことにより、エッチングに用いる塩酸等の処理が不要となり、環境上、経済上の負担がより一層低減される。
【0077】
(電解コンデンサの製造方法)
本発明の電極材を用いて、電解コンデンサを製造することができる。上記電解コンデンサを製造する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、本発明の電極材を陽極箔として用い、当該陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層し、捲回してコンデンサ素子を形成する。当該コンデンサ素子を電解液に含浸させ、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体で外装ケースを封口する。
【0078】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0079】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0080】
(実施例1)
(第1工程)
エチルセルロース系バインダー樹脂を、溶剤としての酢酸ブチルに5質量%となるように加えてバインダー樹脂溶液を調製した。バインダー樹脂溶液60質量部に対し、個数基準の粒度分布における粒子径が、D10値1.4μm、D50値2.5μm、D90値4.0μmのアルミニウム粉末(JIS A1080)100質量部を加え、混練してペースト組成物を調製した。得られたペースト組成物を、厚みが30μmのアルミニウム箔(アルミニウム99.99重量%)の両面にコンマダイレクトコーターを用いて塗工して50μmの厚さでアルミニウム箔の両面に付着させ、皮膜を形成した。次いで100℃で1.5分間乾燥させ、未焼結積層体を得た。なお、上記焼結前のアルミニウム粉末の個数基準の粒度分布における粒子径は、マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)を使用し、レーザー回折・散乱法湿式測定により粒度分布を個数基準で測定し、D10値、D50値及びおよびD90値を算出した。焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90は、上記焼結前の粉末の個数基準の粒子径D50から殆ど変化せず、略同一であるので、上記焼結前のアルミニウム粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90の測定値を、焼結体中のアルミニウム粉末の個数基準の粒子径D10、D50、D90とした。
【0081】
(第2工程)
第1工程で得られた未焼結積層体を、アルゴンガス雰囲気中で615℃で5時間加熱して組成物を焼結し、アルミニウム箔基材上に焼結体を形成して、電極材を製造した。焼結後の焼結体の厚みを測定したところ、焼結前の未焼結積層体のペースト組成物の厚みと変化はなかった。
【0082】
焼結体の断面において、接合した状態の各粉末の最大径(長径)をその粉末の粒子径とし、断面画像中の一定面積中の全粒子の粒子径と粒子数を求めた。求めた全粒子を粒子径が小さい順にならべ、粒子数の50%となる順番目の粒子径を焼結体中の粉末の個数基準の粒子径D50とした。また粒子数の10%、90%となる順番目の粒子径をそれぞれ下記の、焼結体中の粉末個数基準の粒子径D10、D90とした。上記測定方法により測定される粉末の粒子径D50は、焼結前の粉末の粒子径D50から殆ど変化せず、略同一であった。
【0083】
焼結体表面を、走査型電子顕微鏡で撮影した画像を画像解析ソフトで画像処理した後、解析し、焼結体の表面の100μm×115μmの任意の領域内の粒子径1μm以下の粉末の個数を数えることにより測定した。焼結体表面を、走査型電子顕微鏡で撮影し、画像解析ソフトで画像処理した画像を図3図6に示す。図3は実施例1、図4は実施例2、図5は比較例1、図6は比較例5の画像である。
【0084】
(第3の工程)
製造された電極材に、更に、陽極酸化処理を施した。陽極酸化処理は、化成電圧250~800Vで日本電子機械工業会規格RC-2364Aに従い行った。
【0085】
(実施例2~5、比較例1~7)
粉末を表1に示す粉末に変更し、焼結体の厚みを表1に示す厚みに変更した以外は実施1と同様にして電極材を製造し、陽極酸化処理を施した。
【0086】
【表1】
【0087】
なお、参考に、使用粉末A-1及びCの体積基準の粒子径を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
(静電容量評価試験)
日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠し、各実施例及び比較例の電極材を使用した際の静電容量評価試験を実施した。
【0090】
(折曲強度評価試験)
化成処理後の電極材の折り曲げ強度を、日本電子機械工業会規定のMIT型自動折り曲げ試験法(日本電子機械工業会規格RC-2364A)に従って測定した。MIT型自動折り曲げ試験装置はJIS P8115で規定された装置を使用し、折り曲げ回数は、各電極材が破断する折り曲げ回数とし、図7に示すように90°曲げて1回、元に戻して2回、反対方向に90°曲げて3回、元に戻して4回と数え、5回目以降は、1~4回目と同様に折り曲げ操作を、電極材が破断するまで繰り返した。尚、表3における「折曲強度」の欄には、上記操作を行い、電極材が破断するまでに繰り返した折り曲げ操作の回数(折り曲げ回数)を示す。
【0091】
結果を表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3の結果から、各実施例の電極材は、対応する各比較例の電極材と比べ、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、優れた折曲強度を有することが確認された。
【0094】
図1に、実施例1及び比較例5で用いた粉末の個数基準の粒度分布を示す。図1では、実施例1で用いた粉末の粒度分布は粒子径が小さい領域(2μm以下)にピークが殆どなく、粒子径が小さい粒子が少ないことが分かった。これに対し、比較例5で用いた粉末の粒度分布は0.81μmの箇所に大きなピークがあり、粒子径が小さい粒子が多いことが分かった。
【0095】
図8図10に、比較例1により製造し、折曲強度評価試験を行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像を示す。図8図10では、クラックが発生した箇所を撮影している。図8図10では、微細な粉末が凝集して二次粒子を形成しており、当該二次粒子がクラックの起点となっていることが分かった。また、図8から、二次粒子がクラックの分岐点に影響しているとも考えられる。
【0096】
図11及び図12に、実施例1により製造した電極材の焼結体の表面をSEMで撮影した画像を示す。図11及び図12では、焼結体中に微細な粉末が少ないことが分かった。
【0097】
図13及び図14に、比較例1により製造した電極材の焼結体の表面をSEMで撮影した画像を示す。また、図15及び図16に、比較例4により製造した電極材の焼結体の表面をSEMで撮影した画像を示す。図13図16では、焼結体中に微細な粉末多く見られることが分かった。
【0098】
図17に、実施例1により製造し、折曲強度評価試験にて折り曲げを2回行った後、すなわち、1回折り曲げて戻した後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像を示す。
【0099】
図18に、比較例1により製造し、折曲強度評価試験にて折り曲げを2回行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像を示す。
【0100】
図19に、比較例5により製造し、折曲強度評価試験にて折り曲げを2回行った後の電極材の焼結体の表面をSEM(走査電子顕微鏡)で撮影した画像を示す。
【0101】
図17図18及び図19の対比により、破断に至るまでの折曲回数に差があるだけでなく、折曲を1回行った時点でクラックの発生に差があり、同じ積層厚みの実施例と比較例とを比較した場合に、実施例は比較例に比べて優れた折曲強度を有していることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19