(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121228
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02F 1/10 20060101AFI20220812BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
F02F1/10 B
F02F1/10 E
F01P3/02 B
F01P3/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018471
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】岡林 大輔
(72)【発明者】
【氏名】卯内 雄太
【テーマコード(参考)】
3G024
【Fターム(参考)】
3G024AA06
3G024AA28
3G024AA36
3G024CA03
3G024CA05
3G024DA18
3G024FA03
3G024GA10
(57)【要約】
【課題】ボア間部を的確に冷却できる技術を提供する。
【解決手段】シリンダブロック1のボア間部8に、その上面に開口したスリット17が形成されている。シリンダヘッド3の下部に、シリンダヘッド3の下部ウォータジャケット11から冷却水をスリット17に向けて噴出する上吐出通路18が形成されている。下部ウォータジャケット11から圧力が高い冷却水がスリット17に向かって噴出するため、ボア間部8を的確に冷却できる。その結果、ノッキングを抑制できると共に、シリンダボア5の真円度を確保してメカロスの低減やブローバイガス低減に貢献できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとその上面に固定されたシリンダヘッドとを備えており、
前記シリンダブロックには、ボア間部を介して複数のシリンダボアがクランク軸線方向に並べて形成されていると共に、前記シリンダボアの群を囲うようにウォータジャケットが形成されており、前記ボア間部には、当該ボア間部をクランク軸線方向に二分するように上向き開口のスリットが形成されている構成であって、
前記シリンダヘッドに、当該シリンダヘッドに形成されたウォータジャケットから冷却水を前記ボア間部のスリットに向けて噴出させる吐出通路が形成されている、
内燃機関。
【請求項2】
前記吐出通路は、前記ボア間部を挟んで吸気側と排気側との両方に設けており、前記両吐出通路は、前記スリットの底面でかつ互いに離れた箇所に向くようにクランク軸線方向から見て逆ハ字の姿勢に設定されている、
請求項1に記載した内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は内燃機関に関するものであり、特に、シリンダブロックのボア間部の冷却性を向上させる点に特徴を有している。
【背景技術】
【0002】
内燃機関はシリンダブロックとその上面に固定されたシリンダヘッドとを備えており、シリンダブロックには、冷却のためのウォータジャケットがシリンダボアの群を囲うように形成されている。ここで問題は、気筒の昇温の程度は場所によって相違しており、このため、シリンダブロックのウォータジャケットに単純に冷却水を流しただけでは、シリンダブロックに冷却不足や過冷却が生じてしまうことである。
【0003】
特に、シリンダブロックのうちボア間部は、2つのシリンダボアに挟まれて受熱量が大きいため、冷却不足になりやすい。そこで、ボア間部の冷却性能を高めるための工夫が多々提案されている。
【0004】
その一例として特許文献1には、ボア間部に、シリンダブロックのウォータジャケットとシリンダヘッドのウォータジャケットとに連通したボア間冷却孔(ドリルパス)を設けるにおいて、シリンダヘッドに形成された上下のウォータジャケットのうち低圧となる上段のウォータジャケットにボア間冷却孔を連通させることにより、圧力差を利用して冷却水の流れを良くすることが開示されている。従って、特許文献1では、冷却水は、シリンダブロックのウォータジャケットからシリンダヘッドの上段ウォータジャケットに流れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、いわゆるドリルパスの改良技術であるが、流速を速くしてもドリルパスのみではボア間部の全体を均等に冷却することが難しい問題がある。また、特許文献1では、冷却水はシリンダブロックのウォータジャケットからシリンダヘッドのウォータジャケットに向けて送られるが、近年の内燃機関では、シリンダブロックのウォータジャケットへの送水は抑制気味であるため、ボア間冷却穴に強い水流を流せない場合も想定される。
【0007】
本願発明はこのような現状を改善すべく成されたものであり、ボア間部を的確に冷却できる技術を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、
「シリンダブロックとその上面に固定されたシリンダヘッドとを備えており、
前記シリンダブロックには、ボア間部を介して複数のシリンダボアがクランク軸線方向に並べて形成されていると共に、前記シリンダボアの群を囲うようにウォータジャケットが形成されており、前記ボア間部には、当該ボア間部をクランク軸線方向に二分するように上向き開口のスリットが形成されている」
という基本構成である。
【0009】
そして、請求項1発明は、上記基本構成において、
「前記シリンダヘッドに、当該シリンダヘッドに形成されたウォータジャケットから冷却水を前記ボア間部のスリットに向けて噴出させる吐出通路が形成されている」
という特徴を備えている。
【0010】
本願発明は請求項2の構成も含んでおり、この発明は、請求項1において、
「前記吐出通路は、前記ボア間部を挟んで吸気側と排気側との両方に設けており、前記両吐出通路は、前記スリットの底面でかつ互いに離れた箇所に向くようにクランク軸線方向から見て逆ハ字の姿勢に設定されている」
という構成になっている。
【0011】
特許文献の1ように、シリンダヘッドに上下2段のウォータジャケットを形成することは広く行われているが、本願発明では、吐出通路は圧力が高い下段のウォータジャケットに連通させるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、ボア間部はスリットで二分されているため、スリットに通水することによってボア間部を均等に冷却できるが、シリンダヘッドのウォータジャケットは冷機時でも高い圧力で流れているため、吐出通路からスリットに向けて強い水流を噴出できる。従って、ボア間部の冷却性を高めることができる。
【0013】
その結果、混合気の過剰昇温を抑制してノッキングの抑制に貢献できる。また、シリンダボアの真円度を高く保持できるため、ピストンのフリクション低減による燃費の向上や、ブローバイガスの低減によるオイル消費の低減に貢献できる。
【0014】
請求項2のように吸気側と排気側との両方に吐出通路を設けると、ボア間部の冷却性を更に向上できる。また、請求項2では、吸気側の吐出通路から噴出した冷却水と、排気側の吐出通路から噴出した冷却水とがスリットの底面で反射して、互いに衝突しながら上向きに方向変換するため、スリットの内部で2つの渦流が生成される。このため、スリットの内面に対する冷却水の接触性が格段に向上して、ボア間部の冷却性能を更に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係るシリンダブロックの平面図である。
【
図4】吐出通路の別例を表示したシリンダブロックの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、前後方向はクランク軸線方向、左右方向はクランク軸線及びシリンダボア軸線と直交した方向である。前と後ろについては、タイミングチェーンが配置される側を前、変速機が配置される側を後ろとしている。
図1に方向を明示している。
【0017】
(1).基本構造
本実施形態は自動車用ガソリン内燃機関に適用しており、内燃機関は、シリンダブロック1と、その上面にガスケット2を介して固定されたシリンダヘッド3(
図2参照)、及び、シリンダブロック1とシリンダヘッド3との側面に重ね固定されたフロントカバー(タイミングチェーンカバー)4を備えている。
【0018】
本実施形態の内燃機関は3気筒であり、そこで、シリンダブロック1には、クランク軸線方向に3つのシリンダボア5が形成されており、かつ、シリンダボア5の群を囲うループ形状のウォータジャケット6が形成されている。従って、シリンダボア5の群とウォータジャケット6とによって3つの気筒7が形成されており、隣り合った気筒7はボア間部8を介して一体化している。
【0019】
シリンダブロック1のうちウォータジャケット6を挟んで吸気側に位置した部位に、クランク軸線方向に長く延びる(気筒7の群に沿って長く延びる)送水通路9が形成されている。送水通路9は上向きに開口した溝の形態になっており、ガスケット2で塞がれて通路になっている。
【0020】
送水通路9の前端部には流入口10が連通している。流入口10はシリンダブロック1の上面よりも下方に位置して吸気側面に開口している。流入口10には、図示しないウォータポンプから冷却水が圧送される。従って、ウォータポンプは、シリンダブロック1の吸気側面に固定されている。なお、ウォータポンプは電動式である。
【0021】
送水通路9からは、シリンダヘッド3に形成された下部ウォータジャケット11(
図3参照)に向けて冷却水が送られる。そこで、
図1に網かけして簡略表示しかつ
図2に実線で示すように、シリンダヘッド3の下面部に、下部ウォータジャケット11に冷却水を送る連通路12が形成されている。連通路12は、ガスケット2に穴を空けることによって送水通路9に開口しており、各気筒7に対応して前後2箇所ずつ形成されている。
【0022】
図示は省略しているが、シリンダヘッド3には、下部ウォータジャケット11として、吸気ポートの下方に位置した吸気側下部ジャケットと、概ねシリンダボア5の群の上方に位置してクランク軸線方向に広がる下部センタージャケットと、排気ポートの群の下方に位置した排気側下部ジャケットとが形成されており、更に、下部ウォータジャケット11の上方に、上部ウォータジャケットが形成されている。
【0023】
シリンダブロックの冷却水は、連通路12を介して下部ウォータジャケット11に送られ、下部ウォータジャケット11を構成する下部センタージャケットから上部ウォータジャケットに送られる。従って、下部ウォータジャケット11は上部ウォータジャケットよりも高い圧力になっている。
【0024】
なお、
図2,3に示す符号13はヘッドボルト、
図2に示す符号14は、鋳造に際して中子を支持するために設けた足部の名残として形成された下向き穴である。また、
図2については、符号2aは燃焼室(凹所)を、符号2bは吸気ポートの終端を、符号2cは排気ポートの始端を、符号2dは点火プラグが配置されるプラグホールを示している。
【0025】
(2).気筒の冷却手段
シリンダブロック1に送水通路9を形成したことにより、シリンダブロック1には、ウォータジャケット6と送水通路9とで挟まれた壁部15が形成されている。そして、壁部15のうち平面視で各気筒7(或いはシリンダボア5)の中心から左右側方に位置した部位に、ウォータジャケット6を横切って冷却水を気筒7に向けて噴出させる下吐出通路16が形成されている。
【0026】
下吐出通路16は上向きに開口した半円状や角形等の断面形状の溝状(スリット状)に形成されており、ガスケット2で塞がれてトンネルの形態になっている。ウォータジャケット6は、全長に亙って等しい深さであってもよいし、例えば、気筒7の中心の側方において最も浅くなって、ボア間部8の側方で最も深くなるように深さを滑らかに変化させてもよい。
【0027】
シリンダブロック1において、各下吐出通路16から噴出して気筒を冷却した冷却水は、ウォータジャケット6を吸気側から排気側に向かって流れ、図示しない連通路を通ってシリンダヘッド3の下部ウォータジャケット11に排出される。従って、中央の気筒7に向けて噴出した冷却水は、前後両端の気筒7の側方を通って排気側に向かう。
【0028】
ボア間部8には、これをクランク軸線方向に二分するように上向きに開口したスリット17が形成されている。スリット17は、フライスカッターを下降させることによって形成されている。このため、スリット17の底面17aは、クランク軸線方向から見て下向きに膨れた(上向きに凹んだ)円弧形状になっている。
【0029】
そして、シリンダヘッド3の下端部のうちスリット17を挟んで左右両側に位置した部位に、シリンダヘッド3の下部ウォータジャケット11から冷却水をスリット17に向けて噴出させる上吐出通路18が形成されている。上吐出通路18は請求項に記載した吐出通路であり、スリット17に向かうように、クランク軸線方向から見てシリンダボア軸心に対して傾斜している。
【0030】
図3に示すように、左右の上吐出通路18の延長線18aはスリット17の底面17aに至っているが、左右の上吐出通路18はクランク軸線方向から見て逆ハ字の姿勢を成して、両上吐出通路18の延長線18aはスリット17の底面17aよりも上で交叉せずに、両延長線18aと底面17aとの交点は、スリット17の左右中間位置から左右方向にある程度離れている。
【0031】
従って、両上吐出通路18から噴出した水流は、スリット17の底面17aで反射して互いに衝突しながら上向きに方向変換し、ガスケット2に当たって互いに離反する。その結果、スリット17に2つの渦流が生成される。このため、スリット17の内面に対する冷却水の接触性は格段に向上して、スリット17の内側面から冷却水への熱交換が著しく向上する。
【0032】
そして、送水通路9の冷却水はその大半がシリンダヘッド3の下部ウォータジャケット11に流れるため、下部ウォータジャケット11の水圧は既述のように高くなっており、高い圧力の冷却水が上吐出通路18からスリット17に噴出する。従って、ボア間部8を的確に冷却できる。
【0033】
実施形態のようにシリンダブロック1に下吐出通路16を設けると、各気筒7の上端部のうち吸気側の部位がピンポイント的に冷却されため、吸気行程において混合気の過剰昇温を抑制してノッキングを抑制できる利点がある。また、シリンダボア5の真円度の維持にも貢献できる。
【0034】
上記の実施形態では、吸気側の上吐出通路18と排気側の上吐出通路18とが平面視で左右方向に一直線状に並んでいたが、
図4に示す変形例では、呼気側の上吐出通路18と排気側の上吐出通路18との向きを変えて、両上吐出通路18を、その延長線が交叉するような姿勢に配置している。このように構成すると、一方の上吐出通路18から噴出した水流がスリット17で反射して他方の上吐出通路18に向かう逆流現象を確実に防止できる。
【0035】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、対象になる内燃機関は3気筒に限らず、3気筒以外の多気筒内燃機関にも適用できる。
【0036】
また、上吐出通路は、吸気側又は排気側のうち片方のみに形成してもよい。両方に形成するにしても片方に形成するにしても、吸気側又は排気側に複数の上吐出通路を形成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明は、内燃機関に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダブロック
3 シリンダヘッド
5 シリンダボア
6 ウォータジャケット
7 気筒
8 ボア間部
9 送水通路
11 下部ウォータジャケット
12 連通路
17 スリット
18 上吐出通路(請求項の吐出通路)