(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121248
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】接着剤組成物、積層フィルム、およびプリント配線板
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20220812BHJP
C09J 11/00 20060101ALI20220812BHJP
C09J 171/00 20060101ALI20220812BHJP
C09J 201/08 20060101ALI20220812BHJP
C09J 123/00 20060101ALI20220812BHJP
C09J 125/04 20060101ALI20220812BHJP
C09J 153/00 20060101ALI20220812BHJP
C09J 123/10 20060101ALI20220812BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20220812BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220812BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J11/00
C09J171/00
C09J201/08
C09J123/00
C09J125/04
C09J153/00
C09J123/10
B32B15/08 J
B32B27/00 M
H05K1/03 650
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018504
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大史
(72)【発明者】
【氏名】原田 龍
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB17
4F100AB17C
4F100AB33
4F100AB33C
4F100AK42
4F100AK42A
4F100AL09
4F100AL09B
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4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
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4F100GB43
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4J040DA001
4J040DA111
4J040DB021
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4J040EE031
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4J040KA23
4J040LA05
4J040MA02
4J040MA09
4J040MA10
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】低誘電率であり、貯蔵安定性に優れる接着剤組成物、当該接着剤組成物が硬化された硬化層を有する積層フィルム、および当該積層フィルムを備えたプリント配線板を提供する。
【解決手段】変性熱可塑性エラストマーと、硬化剤とを含有し、誘電率が2.0~3.0である接着剤組成物であって、上記変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5重量部以上200重量部未満含有することを特徴とする接着剤組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性熱可塑性エラストマーと、硬化剤とを含有し、誘電率が2.0~3.0である接着剤組成物であって、
上記変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5重量部以上200重量部未満含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記変性熱可塑性エラストマーが、カルボキシル基または酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5~100重量部含有することを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記変性熱可塑性エラストマーが、変性スチレン系熱可塑性エラストマーまたは変性ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
上記変性熱可塑性エラストマーが、変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、変性スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン、変性ポリプロピレン、または変性スチレン-イソプレン-スチレンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記オキセタン樹脂が、下記構造式(1)で示される少なくとも1種の化合物であり、
【化1】
上記構造式(1)中、Aは1,4-フェニレンまたは4,4′-ビフェニリレンであり、nは1~3の整数であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
基材フィルムの少なくとも一方の面に、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤組成物が硬化された硬化層を有することを特徴とする積層フィルム。
【請求項8】
請求項7に記載の積層フィルムを備えることを特徴とするプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、積層フィルム、およびプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型パソコン、携帯電話等の電子機器の高性能化、小型化、多機能化が進んでいる。これに伴い、電子機器を構成する電子部品には、高密度化、小型化、薄型化が強く求められている。
【0003】
さらに、情報技術(IT)あるいは情報通信技術(ICT)の進展に伴って、大容量の情報を高速で処理することが要求されている。これに伴い、伝送信号の高周波化が進展しており、プリント配線板を構成する材料には低誘電率(ε)および低誘電正接(tanδ)が求められるようになっている。
【0004】
特許文献1には、低誘電率の材料として、変性ポリオレフィン系樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化促進剤とを含有する接着剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器の製造に用いられる接着剤組成物は、電子機器の製造工程における取扱いを容易にすることが望まれている。このため、例えば、接着剤組成物をフィルム状に塗工して形成した接着剤層を有する積層フィルムが、貯蔵安定性に優れ、貯蔵寿命(シェルフライフ;shelf life)が長いことが要求される。
【0007】
しかし、エポキシ樹脂を含有する接着剤組成物は、硬化速度が速い反面、貯蔵寿命が短くなる傾向がある。特許文献1に記載の接着剤組成物は、貯蔵安定性に改善がなされているものの不十分であり、さらなる改善が要求されている。
【0008】
本発明は、低誘電率であり、貯蔵安定性に優れる接着剤組成物、当該接着剤組成物が硬化された硬化層を有する積層フィルム、および当該積層フィルムを備えたプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、変性熱可塑性エラストマーと、硬化剤とを含有し、低誘電率の接着剤組成物において、オキセタン樹脂を用いることにより、接着剤組成物の貯蔵安定性が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第1の態様は、変性熱可塑性エラストマーと、硬化剤とを含有し、誘電率が2.0~3.0である接着剤組成物であって、上記変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5重量部以上200重量部未満含有することを特徴とする接着剤組成物である。
【0011】
第2の態様は、第1の態様の接着剤組成物において、上記変性熱可塑性エラストマーが、カルボキシル基または酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする。
【0012】
第3の態様は、第1または第2の態様の接着剤組成物において、上記変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5~100重量部含有することを特徴とする。
【0013】
第4の態様は、第1~3のいずれか1の態様の接着剤組成物において、上記変性熱可塑性エラストマーが、変性スチレン系熱可塑性エラストマーまたは変性ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
第5の態様は、第1~4のいずれか1の態様の接着剤組成物において、上記変性熱可塑性エラストマーが、変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、変性スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン、変性ポリプロピレン、または変性スチレン-イソプレン-スチレンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0015】
第6の態様は、第1~5のいずれか1の態様の接着剤組成物において、前記オキセタン樹脂が、下記構造式(1)で示される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする。
【0016】
【0017】
上記構造式(1)中、Aは1,4-フェニレンまたは4,4′-ビフェニリレンであり、nは1~3の整数である。
【0018】
第7の態様は、基材フィルムの少なくとも一方の面に、第1~6のいずれか1の態様の接着剤組成物が硬化された硬化層を有することを特徴とする積層フィルムである。
【0019】
第8の態様は、第7の態様の積層フィルムを備えることを特徴とするプリント配線板である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の接着剤組成物は、低誘電率であり、貯蔵安定性に優れる。このため、接着剤が硬化された硬化層を有する積層フィルム、および当該積層フィルムを備えたプリント配線板の接着剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
【0022】
実施形態の接着剤組成物は、変性熱可塑性エラストマーと、硬化剤とを含有し、誘電率が2.0~3.0である接着剤組成物である。実施形態の接着剤組成物は、変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5重量部以上200重量部未満含有する。
【0023】
<変性熱可塑性エラストマー>
実施形態の接着剤組成物は、変性熱可塑性エラストマーを含有する。変性熱可塑性エラストマーは、熱可塑性を有する弾性高分子(エラストマー)であって、高分子が特定の官能基により変性されている材料である。熱可塑性エラストマーは、主に、接着剤組成物の低誘電特性、耐熱性、接着性向上、接着剤組成物をフィルム化した際の柔軟性向上に寄与する。
【0024】
熱可塑性樹脂にエラストマーとしての弾性を付与するには、例えば、分子構造にソフトセグメントおよびハードセグメントを設けてもよい。あるいは、常温(例えば5~35℃)では分子構造を架橋し、より高温では架橋性が低減して流動性が上昇する、物理的な架橋構造を設けてもよい。あるいは、樹脂成分にゴム成分を分散させたポリマーブレンドであってもよい。
【0025】
接着剤組成物の低誘電特性に寄与するためには、低極性の熱可塑性エラストマーを変性した変性熱可塑性エラストマーであることが好ましい。変性熱可塑性エラストマーが、変性スチレン系熱可塑性エラストマーまたは変性ポリオレフィン樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
変性スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーが、特定の官能基により変性されている材料である。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィンブロックと、ポリスチレンブロックとを有する共重合体が挙げられる。ポリオレフィンブロックのモノマーとして用いられるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン等から選択される少なくとも1種が挙げられる。ブタジエン、イソプレン等のジエンに由来する単位が、水素添加(水添)により、エチレン、プロピレン、ブチレン(ブテン)等の単位に変換されていてもよい。
【0027】
変性スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、変性スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン、変性スチレン-ブチレン-スチレン、変性スチレン-イソプレン-スチレンから選択される少なくとも1種が挙げられる。変性スチレン系熱可塑性エラストマーにおけるスチレン単位の重量比率は、変性スチレン系熱可塑性エラストマーの総重量に対して、10~40重量%が好ましく、10~30重量%がより好ましく、10~25重量%がさらに好ましい。
【0028】
変性ポリオレフィン樹脂は、熱可塑性エラストマーとなるポリオレフィン樹脂が、特定の官能基により変性されている材料である。ポリオレフィン樹脂が、オレフィン系熱可塑性エラストマーであってもよい。変性ポリオレフィン樹脂のモノマーとして用いられるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン等から選択される少なくとも1種が挙げられる。ポリオレフィン樹脂が1種のオレフィンを含む単独重合体でもよく、2種以上のオレフィンを含む共重合体であってもよい。
【0029】
変性ポリオレフィン樹脂の具体例としては、変性ポリプロピレン、変性ポリエチレン等が挙げられる。変性ポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体であってもよく、プロピレンとエチレン、ブテン、イソブテン、ブタジエン、イソプレン等との共重合体であってもよい。変性ポリプロピレンにおけるプロピレン単位の重量比率は、変性ポリプロピレンの総重量に対して、50~98重量%が好ましい。
【0030】
変性熱可塑性エラストマーが、変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン、変性スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン、変性ポリプロピレン、または変性スチレン-イソプレン-スチレンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
変性熱可塑性エラストマーの変性に用いられる官能基としては、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、ヒドロキシ基(水酸基)等が挙げられる。接着剤組成物の誘電率を低くする観点からは、変性熱可塑性エラストマーの変性に用いられる官能基が、カルボキシル基または酸無水物基であることが好ましい。変性熱可塑性エラストマーが、カルボキシル基または酸無水物基から選択される少なくとも1種の官能基を有する場合、カルボキシル基または酸無水物基が、オキセタン樹脂のオキセタン環と反応することで、接着剤組成物の接着性、耐熱性を向上することができる。
【0032】
熱可塑性エラストマーをカルボキシル基または酸無水物基で変性するために用いられる変性モノマーとしては、α,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、ノルボルネンジカルボン酸等の不飽和ジカルボン酸;アコニット酸等が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ノルボルネンジカルボン酸、無水アコニット酸等が挙げられる。
【0033】
変性モノマーは、熱可塑性エラストマーの主鎖に共重合されていてもよく、熱可塑性エラストマーの側鎖にグラフトされていてもよい。グラフトにおいては、例えば、ラジカル開始剤の存在下で、未変性の熱可塑性エラストマーと変性モノマーとを反応させてもよい。ラジカル開始剤としては、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等の芳香族ペルオキシド;ジラウロイルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド等の脂肪族ペルオキシド;クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシドが挙げられる。
【0034】
変性熱可塑性エラストマーにおける変性モノマー単位の重量比率は、変性熱可塑性エラストマーの総重量に対して、0.1~20重量%が好ましい。変性熱可塑性エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、例えば、1万~50万であり、より好ましくは、3万~25万が挙げられる。
【0035】
<オキセタン樹脂>
実施形態の接着剤組成物は、オキセタン樹脂を含有する。オキセタン樹脂は、エーテル結合を有する4員環であるオキセタン環をもつ化合物である。オキセタン環は、カチオン重合性を有し、エポキシ樹脂に含まれるエーテル結合を有する3員環であるオキシラン環に類似した硬化性を示す。実施形態の接着剤組成物がオキセタン樹脂を含有することにより、接着剤組成物の接着性、耐熱性を向上することができる。
【0036】
オキセタン樹脂は、1分子に1個のオキセタン環を有する単官能性オキセタン樹脂でもよく、1分子に2個以上のオキセタン環を有する多官能性オキセタン樹脂でもよい。1分子に2個のオキセタン環を有する2官能性オキセタン樹脂は、線状に重合し、変性熱可塑性エラストマーの柔軟性を阻害しにくいため、好ましい。
【0037】
オキセタン樹脂は、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族環を有する芳香族オキセタン樹脂でもよく、芳香族環を有しない脂肪族オキセタン樹脂でもよい。芳香族オキセタン樹脂は、芳香族環に由来して分子骨格が剛直となり、脂肪族鎖に比べて熱安定性が高い。このため、実施形態の接着剤組成物が芳香族オキセタン樹脂を含有することにより、接着剤組成物の耐熱性を一層向上することができる。
【0038】
オキセタン樹脂は、ヒドロキシ基(水酸基)、カルボニル基、エステル基等の官能基を有する化合物でもよく、分子中の酸素原子がエーテル結合のみを形成している化合物でもよい。接着剤組成物の低誘電特性の観点からは、ヒドロキシ基等の極性が高い官能基を含まないオキセタン樹脂が好ましい。オキセタン樹脂は、オキセタン環以外のエーテル結合を含んでもよい。
【0039】
エーテル結合としては、非環状のエーテル結合、5員環状のエーテル結合(テトラヒドロフラン環)等、6員環状のエーテル結合(テトラヒドロピラン環)等が挙げられる。オキセタン樹脂が、オキセタン環と異なる硬化性官能基として、3員環状のエーテル結合(エポキシ基またはオキシラン環)およびビニルエーテル基を有しないことが好ましい。
【0040】
オキセタン樹脂としては、下記構造式(1)で示される少なくとも1種の化合物を含有することが好ましい。
【0041】
【0042】
上記構造式(1)中、Aは2価の有機基であり、より好ましくは、2価の炭化水素基または2価のポリエーテル基であり、さらに好ましくは、2価の芳香族炭化水素基である。2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ビフェニリレン基、ナフチレン基、アントリレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。2価の芳香族炭化水素基が、アルキル基、フェニル基等の置換基を1以上有してもよい。
【0043】
Aが1,4-フェニレンである場合、上記構造式(1)で示される化合物は、下記構造式(2)で示される。
【0044】
【0045】
Aが4,4′-ビフェニリレンである場合、上記構造式(1)で示される化合物は、下記構造式(3)で示される。
【0046】
【0047】
Aが1,4-フェニレンまたは4,4′-ビフェニリレンである場合、Aで示される基が直線状の構造を有し、上記構造式(2)または(3)の左右に示される2個のオキシラン環に対して適度なスペーサーとなるため、好ましい。
【0048】
上記構造式(1)~(3)において、nは1以上の整数であり、好ましくは、1~3の整数である。上記構造式(1)~(3)で示される化合物は、n=1である化合物、n=2である化合物、またはn=3である化合物の少なくとも1種を含有することができ、nが異なる2種以上の化合物を含有してもよい。
【0049】
実施形態の接着剤組成物は、変性熱可塑性エラストマー100重量部に対してオキセタン樹脂を5重量部以上200重量部未満含有することが好ましい。これにより、接着剤組成物の耐熱性および貯蔵安定性を両立することができる。オキセタン樹脂の割合が5重量部未満の場合、耐熱性が低下するため、好ましくない。オキセタン樹脂の割合が200重量部以上の場合、接着性または貯蔵安定性が低下するため、好ましくない。
【0050】
接着剤組成物が、変性熱可塑性エラストマー100重量部に対して、オキセタン樹脂を5~100重量部含有することがより好ましく、オキセタン樹脂を10~100重量部含有することがさらに好ましく、オキセタン樹脂を50~100重量部含有することが特に好ましい。
【0051】
<硬化剤>
実施形態の接着剤組成物は、硬化剤を含有する。硬化剤は、変性熱可塑性エラストマーの硬化、オキセタン樹脂の硬化、または、変性熱可塑性エラストマーとオキセタン樹脂との反応による硬化を促進し、または硬化に関与する物質であればよい。
【0052】
変性熱可塑性エラストマーを硬化させる硬化剤としては、例えば、ジイソシアネート、トリイソシアネート等のポリイソシアネートなどが挙げられる。オキセタン樹脂を硬化させる硬化剤としては、ジカルボン酸、酸無水物、ビスフェノール化合物などが挙げられる。オキセタン樹脂の硬化触媒として、トリアルキルスルホニウム塩等の脂肪族スルホニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等の芳香族スルホニウム塩、ジアリールヨードニウム塩等の芳香族ヨードニウム塩などが挙げられる。
【0053】
接着剤組成物が、硬化剤を含有する割合は特に限定されないが、例えば、変性熱可塑性エラストマー100重量部に対して、硬化剤0.01~10重量部が挙げられる。
【0054】
<接着剤組成物>
実施形態の接着剤組成物は、必須成分として、変性熱可塑性エラストマーと、オキセタン樹脂と、硬化剤とを含有する。接着剤組成物の任意成分としては、充填材、難燃剤、反応促進剤、架橋剤、重合禁止剤、カップリング剤、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0055】
実施形態の接着剤組成物は、エポキシ樹脂の含有量が少ないことが好ましく、エポキシ樹脂を含有しないことがより好ましい。接着剤組成物におけるエポキシ樹脂の割合が、変性熱可塑性エラストマー100重量部に対して、0.5重量部未満であることが好ましく、0.2重量部以下であることがより好ましく、0.05重量部以下であることがより好ましく、0.01重量部以下であることがより好ましく、0重量部が特に好ましい。
【0056】
実施形態の接着剤組成物は、低誘電特性を有する。接着剤組成物の誘電率(ε)が2.0~3.0であることが好ましく、2.0~2.5であることがより好ましい。さらに、接着剤組成物の誘電正接(tanδ)が、0.005以下であることが好ましい。接着剤組成物の誘電特性は、乾燥状態の接着剤組成物において測定してもよく、接着剤組成物を硬化させた後の硬化層において測定してもよい。硬化前の接着剤組成物は、A-ステージのような未硬化状態でもよく、B-ステージのような半硬化状態でもよい。
【0057】
実施形態の接着剤組成物は、各成分が溶媒に溶解または分散した液状の接着剤液から、塗布、乾燥等により、フィルム状に形成してもよい。接着剤液は、溶液でも分散液でもよいが、少なくとも変性熱可塑性エラストマーおよびオキセタン樹脂を溶解していることが好ましい。
【0058】
接着剤液の溶媒としては、特に限定されないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;エチレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の塩素系溶媒;等の1種または2種以上が挙げられる。
【0059】
接着剤液の調製方法としては、例えば、撹拌装置を備えた容器に、接着剤組成物の各成分と溶媒とを加えて撹拌する方法が挙げられる。溶解時間を短縮したい場合は、加熱してもよい。接着剤液の固形分は特に限定されないが、例えば、10~50重量%であり、好ましくは15~40重量%でもよい。
【0060】
接着剤液から接着剤組成物をフィルム化した接着フィルムを作製するには、接着剤液を塗工基材に塗布し、塗工基材上で接着剤液から溶媒を乾燥させる方法が挙げられる。塗工基材は、塗布される接着剤液を受容することができる面を有する材料であれば、特に限定されないが、プラスチックフィルム、金属箔、紙、織布、不織布、またはこれらを含む積層体が挙げられる。乾燥後の接着フィルムが塗工基材に積層一体化されてもよい。塗工基材の塗工される面に離型処理を施して、接着フィルムが塗工基材から剥離可能に形成されてもよい。
【0061】
接着剤液の塗布方法は、特に限定されないが、エアドクターコーティング、バーコーティング、ブレードコーティング、ナイフコーティング、リバースコーティング、トランスファーロールコーティング、グラビアロールコーティング、キスコーティング、キャストコーティング、スプレーコーティング、スロットオリフィスコーティング、カレンダーコーティング、ダムコーティング、ディップコーティング、ダイコーティング等のコーティング方式、グラビア印刷、凹版印刷、スクリーン印刷、孔版印刷等の印刷方式等が挙げられる。
【0062】
接着剤液の乾燥方法は、特に限定されないが、溶媒の種類、接着剤液の厚さ、面積等に応じて、適宜設定することが可能である。乾燥温度としては、例えば、60~150℃が挙げられる。乾燥時間としては、例えば、1~60分、より好ましくは1~30分、さらに好ましくは1~10分が挙げられる。乾燥時間が短いほど、生産性が高まり、好ましい。塗工基材は、平坦な面を有するシートでもよく、巻き取りが可能なロールでもよい。
【0063】
ロール状の塗工基材に接着剤液を塗布する場合は、塗工基材をロールから引き出して長さ方向に搬送しながら、塗工基材の平坦な箇所において接着剤液を連続的に塗布してもよい。塗工基材に塗布された接着剤液は、所定の乾燥温度に所定の乾燥時間かけて順次乾燥させた後、再びロール状に巻き取ってもよい。塗工基材の接着剤液が塗布された面と反対側の面が離型処理を施されていてもよい。乾燥後の接着フィルムの上に、離型処理を施された離型紙または離型フィルムを重ね合わせて、接着フィルムを保護してもよい。
【0064】
実施形態の接着剤組成物が離型シートに積層された積層体は、ボンディングシートとして使用することができる。離型シートは、プラスチックフィルムを主体とした離型フィルムでもよく、紙を主体とした離型紙でもよい。離型シートの厚さは、特に限定されないが、厚さ10~100μmの離型フィルム、または厚さ50~200μmの離型紙であることが好ましい。
【0065】
離型フィルムの材質としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。離型紙の材質としては、特に限定されないが、ポリエチレンコート紙、ポリプロピレンコート紙等が挙げられる。離型シートが、シリコーン等の離型剤を用いて離型処理されていてもよい。ボンディングシートに用いられる接着フィルムの厚さは任意に設定できるが、乾燥状態で5~50μmが好ましく、5~25μmがより好ましい。
【0066】
離型シートが、接着フィルムの少なくとも片面に積層されていてもよい。離型シートを剥がした接着フィルムを被着体と重ね合わせ、接着フィルムを硬化させることにより、被着体を接着することができる。接着フィルムの片面に銅箔等の基材を積層して、基材付き接着フィルムを作製していてもよい。基材付き接着フィルムの基材と反対側の面に被着体を重ね合わせ、接着フィルムを硬化させることにより、基材と被着体とを接着することができる。
【0067】
基材付き接着フィルムのうち、基材として銅箔を使用したものは、銅箔付き接着フィルム(FRCC;Flexible Resin Coated Copper)として用いることができる。銅箔の厚さは、5~50μmが好ましく、9~25μmがより好ましい。FRCCに使用される接着フィルムの厚さは任意に設定できるが、乾燥状態で1~50μmが好ましく、1~25μmであることがさらに好ましい。
【0068】
基材付き接着フィルムのうち、基材として電気絶縁性フィルムを使用したものは、カバーレイフィルムとして用いることができる。電気絶縁性フィルムは、接着フィルムの熱硬化に対応可能な耐熱性を有することが好ましい。電気絶縁性フィルムの材質としては、特に限定されないが、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリパラバン酸、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー(LCP)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0069】
電気絶縁性フィルムの厚さは任意に設定できるが、例えば1~50μmであり、好ましくは3~38μm、特に好ましくは5~25μmである。接着剤組成物との接着をより高強度にする目的で、電気絶縁性フィルムの表面に、薬液処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。カバーレイフィルムに使用される接着フィルムの厚さは任意に設定できるが、乾燥状態で5~50μmが好ましく、5~38μmであることがより好ましく、5~25μmであることがさらに好ましい。
【0070】
基材付き接着フィルムのうち、基材として銅張積層板(CCL;Cupper Clad Laminate)を使用したものは、接着剤付き銅張積層板として用いることができる。例えば、上記電気絶縁性フィルムの一方の面に銅箔が積層され、上記電気絶縁性フィルムの他方の面に接着フィルムが積層されていてもよい。銅張積層板が可撓性を有する場合は、フレキシブルプリント配線板を作製するために用いることができる。
【0071】
実施形態の接着フィルムは、貯蔵安定性に優れ、貯蔵寿命(シェルフライフ)が長い接着剤組成物を得る観点から、接着フィルムを40℃×7日後保管した後のレジンフローが大きいことが好ましい。上記のレジンフローが大きいと、シェルフライフに優れ、配線等の凹凸部に対する埋め込みに優れる。しかし、レジンフローが大きすぎると、基材等の端から接着剤が溢れて、接着強度、半田耐熱性に必要な接着剤の厚みが確保されないおそれがある。レジンフローの適切な範囲は、0.15~1.0mmが好ましく、0.2~0.7mmがより好ましい。
【0072】
<積層フィルム>
実施形態の接着剤組成物を基材上で硬化させることにより、接着剤組成物の硬化層を有する積層フィルムを作製することができる。接着剤組成物の硬化方法としては、特に限定されないが、例えば、温度150~180℃に加熱する方法が挙げられる。加熱時間は、例えば20分~5時間であり、30分~2時間でもよい。加熱方法としては、例えば、熱風循環型オーブン、プレス機、オートクレーブ等が挙げられる。
【0073】
積層フィルムの基材としては、特に限定されないが、プラスチックフィルム、金属箔、紙、織布、不織布、またはこれらを含む積層体が挙げられる。プラスチックフィルムは、上記電気絶縁性フィルムであってもよい。金属箔は、上記銅箔であってもよい。積層フィルムの基材が、プラスチックフィルムまたはプラスチックを主体とする複合フィルムであってもよい。積層フィルムの基材が、上述の塗工基材として用いられてもよい。塗工基材と異なる基材に硬化層を積層する場合は、例えば硬化前の接着剤組成物から形成された接着フィルムを塗工基材から基材上に移し、基材上で接着フィルムを硬化させてもよい。
【0074】
<プリント配線板>
実施形態のプリント配線板は、上記接着剤組成物の硬化層または上記積層フィルムを備えて作製することができる。プリント配線板は、プリント部品や搭載部品等の回路部品により回路が接続されたプリント回路板であってもよい。回路部品が形成される前の配線を有するプリント配線板であってもよい。配線は、エッチング等により、上記積層フィルムの銅箔からパターン化して形成してもよい。銅箔は、配線と一体にアンテナ等の部品または機能を形成するために用いてもよい。
【0075】
プリント配線板が、硬質の絶縁基板を有するリジッドプリント配線板であってもよい。プリント配線板が、柔軟な絶縁基板を有するフレキシブルプリント配線板であってもよい。絶縁基板が硬質の部分と柔軟な部分を有するフレックスリジッドプリント配線板であってもよい。柔軟な絶縁基板は、上記電気絶縁性フィルムであってもよい。硬質の部分と柔軟な部分を有する絶縁基板は、上記電気絶縁性フィルムの一部の領域に硬質の絶縁材料を積層することで、形成してもよい。
【0076】
実施形態の接着性組成物は、低誘電率であることから、高周波用プリント配線板の材料として好適である。実施形態の接着性組成物は、貯蔵安定性に優れることから、接着剤が硬化された硬化層を有する積層フィルム、および当該積層フィルムを備えたプリント配線板を作製するために用いられる接着剤として好適である。
【0077】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例0078】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。
【0079】
(接着剤溶液の調製)
下記表1に示す組成の各成分を容器に投入し、溶媒を用いてすべての成分を溶解した。得られた液状物をナイロンメッシュ(線径30μm、255メッシュ)を使って濾過し、接着剤溶液を得た。接着剤溶液の調製作業中は、液の温度が30℃を超えないように管理した。
【0080】
表1に示す「変性ポリオレフィン」は、カルボキシル基または酸無水物基で変性された変性ポリプロピレン(重量平均分子量10万)からなる熱可塑性エラストマーである。
表1に示す「変性TPS」は、カルボキシル基または酸無水物基で変性された変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(重量平均分子量15万)からなるスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)である。
表1に示す「オキセタン樹脂a」は、上記構造式(2)で示される化合物(n=1~3)である。
表1に示す「オキセタン樹脂b」は、上記構造式(3)で示される化合物(n=1~3)である。
表1に示す「エポキシ樹脂」は、ビフェニルアラルキルエポキシ樹脂(エポキシ価280~300g/eq)である。
表1に示す「硬化剤」は、スルホニウム塩系触媒硬化剤である。
【0081】
(接着フィルムの作製)
離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(シリコーン処理、厚さ38μm)に、アプリケータを用いて、乾燥後の厚さが25μmとなるように接着剤溶液を塗布した。次いで100℃に設定した通風オーブン内で5分間乾燥させ、厚さ25μmの接着フィルムを得た。
【0082】
(LCPに対する接着強度の測定)
ロールラミネータを使って、厚さ25μmのLCPフィルム(商品名:ベクスター(登録商標)CT-Z。株式会社クラレ製)に接着フィルムを積層した。作業条件は、ロール温度120℃、加圧30N/cm、速度0.5m/分とした。次いで、上記と同じLCPフィルムを積層し、2枚のLCPフィルムが接着フィルムを介して貼り合わされた積層体を得た。上記積層体を160℃×0.5MPa×2分の条件で熱プレス処理し、次いで通風オーブン内で180℃×1時間加熱硬化させたのち、10mm×100mmにカットしてLCPに対する接着強度の測定用サンプルを作製した。万能引張試験機(株式会社オリエンテック製)を用いて、測定用サンプルのLCPフィルムを引張速度50mm/分で90°方向に引き剥がし、接着強度を測定した。
【0083】
(Cuに対する接着強度の測定)
ロールラミネータを使って、厚さ18μmの銅箔(商品名:FQ-VLP。三井金属鉱業株式会社製)に接着フィルムを積層した。作業条件は、ロール温度120℃、加圧30N/cm、速度0.5m/分とした。次いで、上記と同じ銅箔を積層し、2枚の銅箔のシャイン面が接着フィルムを介して貼り合わされた積層体を得た。上記積層体を160℃×0.5MPa×2分の条件で熱プレス処理し、次いで通風オーブン内で180℃×1時間加熱硬化させたのち、10mm×100mmにカットしてCuに対する接着強度の測定用サンプルを作製した。万能引張試験機(株式会社オリエンテック製)を用いて、測定用サンプルの銅箔を引張速度50mm/分で90°方向に引き剥がし、接着強度を測定した。
【0084】
(半田耐熱性の測定)
測定用サンプルのカットするサイズを25mm×25mmとしたこと以外は、上記のLCPに対する接着強度の測定用サンプルと同様にして、LCPを用いた半田耐熱温度の測定用サンプルを作製した。また、測定用サンプルのカットするサイズを25mm×25mmとしたこと以外は、上記のCuに対する接着強度の測定用サンプルと同様にして、Cuを用いた半田耐熱温度の測定用サンプルを作製した。それぞれの測定用サンプルを20℃×65%RH×96時間の条件で調湿処理したのち、所定の温度の半田浴で60秒間フロートさせた。60秒間フロート中、LCPを用いた測定用サンプルおよびCuを用いた測定用サンプルの両方とも、膨れ、破れ、めくれ等の異状が発生しなかった場合は当該温度の半田耐熱性を有すると評価した。LCPまたはCuを用いたいずれかの測定用サンプルに異状が発生した場合は、当該温度の半田耐熱性を有しないと評価した。半田浴の温度は220℃または260℃とし、半田耐熱性を有する最高の温度を測定した。
【0085】
(誘電特性の測定)
ロールラミネータを使って厚さ25μmの接着フィルムを順次積層し、厚さ200μmの接着剤積層体を得た。接着剤積層体の両面に上記の離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを重ね合わせた状態で、通風オーブン内で180℃×1時間加熱硬化させたのち、2mm×50mmにカットして誘電特性の測定用サンプルを作製した。上記の離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを測定の直前に除去し、接着剤積層体に対して、空洞共振器摂動法により、10GHzにおける誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)を測定した。
【0086】
(レジンフローの測定)
上記の離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム上に接着フィルムが積層された積層体を40℃の環境下に7日間保管した。40℃×7日間の保管後の積層体に対して、パンチ孔径6mmφの打ち抜きパンチを用いて孔をあけ、ロールラミネータを使って、厚さ25μmのLCPフィルム(商品名:ベクスター(登録商標)CT-Z。株式会社クラレ製)と積層した。ロールラミネータの作業条件は、ロール温度120℃、加圧30N/cm、速度0.5m/分とした。次いで、接着フィルムから上記の離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを剥がした面に、ロールラミネータを使って、厚さ18μmの銅箔(商品名:FQ-VLP。三井金属鉱業株式会社製)を積層し、パンチ孔を有する接着フィルムを介してLCPフィルムと銅箔とが貼り合わされた積層体からなるレジンフローの測定用サンプルを得た。測定用サンプルのパンチ孔部分の中心に印を付けて十字線を引き、パンチ孔の直径(熱プレス前の直径:d0)をマイクロスコープにて測定した。測定用サンプルを160℃×0.5MPa×2分の条件で熱プレス処理した後、測定用サンプルのパンチ孔の直径(熱プレス後の直径:d1)をマイクロスコープにて測定した。熱プレス前の直径(d0)から熱プレス後の直径(d1)を差し引いた値の半分{(d0-d1)/2}の値をレジンフロー(mm)とした。
【0087】
(測定結果)
表1に、上記の各項目の測定結果を示す。
【0088】
【0089】
実施例1~7の接着フィルムは、プリント配線板の電気絶縁性フィルムとして好適に使用されるLCPフィルム、および配線の材料として好適に使用される銅箔のいずれに対しても、7N/cm以上の高い接着強度を示し、260℃の半田耐熱性を有し、低誘電特性を有していた。また、接着剤組成物の貯蔵安定性に関して、実施例1~7の接着フィルムは、40℃×7日間の保管後であっても、レジンフローが0.15~1.0mmと、適切な範囲であり、長い貯蔵寿命を有することが示された。
【0090】
接着フィルムにパンチ孔をあけ、基材等と積層した状態で熱プレスしたときのレジンフローは、プリント配線板等の製造工程における接着剤組成物の流動性を表す。熱プレス時のレジンフローの値が大きいことにより、配線等の凹凸部に対する埋め込みに優れることが示される。しかし、レジンフローが大きすぎると、基材等の端から接着剤が溢れて、接着強度、半田耐熱性に必要な接着剤の厚みが確保されないおそれがある。熱プレスにおける加工性の観点から、レジンフローが適切な範囲であることが求められる。
【0091】
接着フィルムを40℃で長期間保管した後に測定されるレジンフローの値は、硬化前の接着剤組成物を常温(5~35℃)で保管しても硬化が進行しにくく、十分な貯蔵寿命(シェルフライフ)を備えるかどうかを示す。熱硬化性の接着剤は、熱プレス等の加工条件より低温でも、硬化反応が徐々に進行し、レジンフローの値が低下する場合がある。したがって、接着剤組成物を40℃で長期間保管した後でも、レジンフローが適切な範囲であれば、貯蔵安定性に優れることが示される。
【0092】
実施例4の接着フィルムについては、40℃×14日間の保管後のレジンフローを測定したところ、40℃×7日間の測定値より若干小さくなったものの、14日経過後でも約0.49mm程度で、レジンフローが適切な範囲であった。
【0093】
比較例1の接着フィルムは、LCPフィルムおよび銅箔に対する接着強度が低い上に、レジンフローが大きすぎて、接着性、加工性が低かった。これは、オキセタン樹脂の割合が多すぎたためと考えられる。
比較例2の接着フィルムは、260℃の半田耐熱性を有せず、耐熱性が低かった。これは、オキセタン樹脂の割合が少なすぎたためと考えられる。
【0094】
比較例3の接着フィルムは、40℃×7日間の保管後のレジンフローが小さいことから、貯蔵寿命が短いことが分かった。40℃で保管する経過時間を0日~14日の範囲で変えてレジンフローを測定すると、比較例3の接着フィルムは、初期のレジンフローが約0.43mm、2日経過後のレジンフローが約0.23mmと、適切な範囲であったが、4日経過後のレジンフローが約0.08mm、14日経過後のレジンフローが約0.04mmと、適切な範囲より低下していた。
【0095】
比較例4の接着フィルムは、40℃×7日間の保管後のレジンフローがやや小さいことから、貯蔵寿命がやや短いことが分かった。40℃で保管する経過時間を0日~14日の範囲で変えてレジンフローを測定すると、比較例4の接着フィルムは、初期のレジンフローが約0.54mm、2日経過後のレジンフローが約0.38mm、4日経過後のレジンフローが約0.24mmと、適切な範囲であったが、7日経過後のレジンフローが約0.13mm(表1参照)、14日経過後のレジンフローが約0.10mmと、適切な範囲より低下していた。