(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121251
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】廃液中の有害有機化合物の分解方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/72 20060101AFI20220812BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
C02F1/72 Z
C02F1/58 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018507
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】521059848
【氏名又は名称】阿部 登壽男
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 登壽男
【テーマコード(参考)】
4D038
4D050
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB09
4D038AB14
4D038BB16
4D050AA12
4D050AB13
4D050AB19
4D050BB01
4D050BB06
4D050BB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】廃液中に含有する難分解性や悪臭成分の有害有機化合物を従来法と比べより簡便な方法で分解する方法を提供する。
【解決手段】有害有機化合物を含む廃水中に、過酸化ニッケルを主成分とする固形過酸化物を添加すること、並びに、廃水中の溶存酸素量を増加させること及び/又は次亜塩素酸ソーダを添加することで、廃液中の有機化合物の共有結合を簡単に解離・切断することができ、廃水中の有害有機化合物を分解することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害有機化合物を含む廃水中に、過酸化ニッケルを主成分とする固形過酸化物を添加すること、並びに、廃水中の溶存酸素量を増加させること及び/又は次亜塩素酸ソーダを添加すること、により廃水中の有害有機化合物を分解する方法。
【請求項2】
有害有機化合物が、難分解性有機化合物である請求項1記載の有害有機化合物を分解する方法。
【請求項3】
有害有機化合物が、悪臭性有機化合物である請求項3記載の有害有機化合物を分解する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種廃液中に含有する有害有機化合物、特に難分解性の有害有機化合物の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種廃液中に含有する有機化合物は、通常、酸化分解させることにより処理される。しかし、埋立地の地下水に含まれる1,4ジオキサンや、廃硫酸に含まれる1,2ジクロロエタン、あるいは毒性等価指数の高いダイオキシン類など難分解性有機化合物は、通常の曝気処理では分解できず、高温分解装置(特許文献1)や電気分解装置(特許文献2)などの高価な設備を必要とした。
また、常温における酸化処理においては、酸化ガスとしてオゾン含有ガスを使用し、さらに紫外線照射装置を必要とした(特許文献3)。
【0003】
さらに、メチルメルカプタンのような悪臭成分も、通常の曝気処理では完全に分解できず、微量でも残留すると悪臭源となるので、これを完全に分解するためには、高価な吸着剤(特許文献4)や多工程から成る設備(特許文献5)を必要とした。
【0004】
このように、廃液中に含まれる難分解性有機化合物や微量の悪臭成分を分解除去するより簡便な方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-057923号公報
【特許文献2】特開2014-014754号公報
【特許文献3】特開2008-126125号公報
【特許文献4】特開2018-083170号公報
【特許文献5】特開2007-319842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、各種廃液中に含有する難分解性や悪臭成分の有害有機化合物を従来法と比べより簡便な方法で分解する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、廃液中に含まれる有害有機化合物の共有結合を解離・切断できれば、どの様な難分解性有機化合物でも分解可能となるとの考えから、有機化合物の共有結合の解離・切断方法について鋭意検討を重ねた結果、固形過酸化物として過酸化ニッケルを使用すると共に、廃液中の溶存酸素量を増加させる、及び/又は次亜塩素酸ソーダを添加させる、ことで廃液中の有機化合物の共有結合が、簡単に解離・切断できることを見出し、本発明に至ったものである。本発明者の実験によれば、過酸化ニッケルを主成分とする固形過酸化材と、廃液中の溶存酸素量の増加、又は次亜塩素酸ソーダの添加により多くの有機化合物が分解できるが、これらの組合せで分解できなかった有機化合物も、過酸化ニッケルと、廃水中の溶存酸素量の増加、及び次亜塩素酸ソーダの添加を組み合わせることにより分解することができた。
【0008】
本発明の態様は以下の通りである。
(1)有害有機化合物を含む廃液中に、過酸化ニッケルを主成分とする固形過酸化物を添加すること、並びに、廃液中の溶存酸素量を増加させること及び/又は次亜塩素酸ソーダを添加すること、により廃液中の有害有機化合物を分解する方法。
(2)有害有機化合物が、難分解性有機化合物である(1)の有害有機化合物を分解する方法。
(3)有害有機化合物が、悪臭性有機化合物である(1)の有害有機化合物を分解する方法。
【0009】
本発明において「過酸化ニッケル」とは、三二酸化ニッケル、又は三二酸化ニッケル及び酸化ニッケル水和物の混合物のことをいう。また、「固形過酸化物」とは、前記過酸化ニッケルに、酸化マグネシウム及びアルミナシリカを固化成形剤として添加混合し固化成形したものである。
【0010】
本発明において、有害有機化合物を含む廃液中の溶存酸素を増加させるには、周知の曝気装置が使用でき、空気あるいは酸素富化気体を廃液中に曝気し、溶存酸素量を増加できるものであれば種類を問わない。
【0011】
本発明における固形過酸化材は、過酸化ニッケルを酸化マグネシウム及びアルミナシリカで固化したものであるが、固化剤の添加量は、固形過酸化材の使用態様により必要とされる強度が発現できる最低限の量とすることが望ましい。また、ガラス繊維などの無機繊維材を配合すれば、固形過酸化材の強度が向上するので固化剤の使用量も少なくて済む。
【0012】
本発明において推定される有害有機化合物の共有結合の解離・切断の機構を
図1の摸式図で説明する。(1)は、水中に、1,4ジオキサン、次亜塩素酸ソーダ、固形過酸化材が存在している状態を示す。図に示されるように、次亜塩素酸ソーダは固形過酸化材に接触する。(2)は、固形過酸化材に接触した次亜塩素酸ソーダが分解し、発生期の酸素を発生させ、この発生期の酸素が1,4ジオキサンの共有結合部へアタックしているところを示す。(3)は、発生期の酸素によりアタックされた1,4ジオキサンの共有結合部が解離・切断された状態を示す。
【0013】
次亜塩素酸ソーダに代えて、過酸化水素や次亜塩素酸ソーダ以外の塩素酸化物、過マンガン酸塩、クロム酸塩は、活性酸素を放出することができるが、過酸化ニッケルも還元され、還元された水酸化ニッケルを過酸化物に出来ない。一方、塩素水、塩素シアヌール酸、過硫酸塩などの酸性酸化材は、水酸化ニッケルを過酸化物に酸化出来るが、活性酸素を発生できない。
【0014】
過酸化ニッケルは、固化剤を混合して成型し、充填槽に充填し、次亜塩素酸ソーダを添加した廃液と接触させることが望ましい。次亜塩素酸ソーダは、時間がたつと被酸化物質に対し塩素付加反応を起こすことがあるので、反応槽の直前で廃液に添加することが望ましい。
【0015】
次亜塩素酸ソーダは添加後完全に分解して発生期の酸素を発生しつくすまでに若干の時間的ずれが生じるので、廃液のCODの変動に応じて次亜塩素酸ソーダの添加量を制御することが望ましい。また、CODの低下に応じて、酸素化合物溶液の添加量を段階的に減少させる『多段階添加法』による場合には、酸素化合物溶液の使用量を減少させることが出来るので有利である。
【0016】
さらに、次亜塩素酸ソーダ溶液を排水に混合した後、排水処理を行なうまでにあまり長時間を要する場合には、酸化以外の副反応、例えば被酸化物質に対する塩素付加反応を起こすことがあり、酸化反応に困難を来たす場合もあるので、排水が反応槽、又はリアクターに導入される前に添加を行なうことが望ましい。又、排水中にアミン塩類等の塩素付加反応を特に生じ易い被酸化物質が存在する場合には、苛性ソーダを酸素化合物溶液と共に、或いは、酸素化合物溶液の添加前、もしくは添加後に排水に加え、塩素付加反応を防止することが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、難分解性の1,4ジオキサン、1,2ジクロロエタン、あるいはダイオキシン類を比較的短時間で分解することができ、製油所で生産されるメチルメルカプタンのような悪臭成分も最短2時間で臭気指数9以下(人間の臭覚では感知不可能)に下げることができ、バイオマス発電設備で発生する窒素液の臭気成分も短時間で分解できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の方法による有機化合物の共有結合の切断状況の模式図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例0020】
<固形酸化材の製造1>
硫酸及び過マンガン酸カリで予め処理して有機物を除去した長さ3~5mm程度のガラス繊維を、濃度10~25%程度の硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケルなどのニッケル塩溶液にニッケル分の10~30wt%程度加え、次いで19~25%苛性ソーダ溶液によりニッケル分を水酸化ニッケル(Ni(OH)2)とし、さらにこれをNi(OH)3とするのに十分な次亜塩素酸ソーダ溶液を30℃以下で加える。次いで、水洗ろ過して水分含有量35~45%のケーキとし、これに固化剤としてニッケル分の25~50%の酸化マグネシウムやアルミナシリカを添加・混錬し、適宜形状に成型して過酸化材とした。この成形物の大きさは処理装置の容量等に応じ適宜決定すればよく、その大きさに応じてガラス繊維の長さも決定すればよい。成形物は、1~2日放置してから40℃で乾燥させる。