(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121276
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】相間絶縁紙、モータ、及びモータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20220812BHJP
H02K 15/10 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
H02K3/34 Z
H02K15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018543
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 国朋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 睦
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA08
5H604BB01
5H604CC01
5H604DB15
5H604PB02
5H615AA01
5H615BB01
5H615PP01
5H615PP13
5H615PP16
5H615SS09
5H615SS15
(57)【要約】
【課題】ステータコアのスロットへの装着が容易となる相間絶縁紙、当該相間絶縁紙を用いたモータ、及びモータの製造方法を提供する。
【解決手段】ステータコア3において周方向に複数並べた状態で装着され、ステータコア3に備わる各相コイル(コイル4)の相間絶縁を行う相間絶縁紙1であって、互いに隣接する相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)の一部が互いに重なっており、当該重なる部位に相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)同士を接合する接合部26を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアにおいて周方向に複数並べた状態で装着され、前記ステータコアに備わる各相コイルの相間絶縁を行う相間絶縁紙であって、
互いに隣接する前記相間絶縁紙の一部が互いに重なっており、当該重なる部位に前記相間絶縁紙同士を接合する接合部を備える相間絶縁紙。
【請求項2】
前記相間絶縁紙は、
前記ステータコアのスロットに挿入される脚部と、
前記スロットの外部に配置され前記脚部に支持された帯部と、を備える請求項1に記載の相間絶縁紙。
【請求項3】
前記接合部は、前記帯部が互いに重なる位置であって前記脚部側に偏在して配置されている請求項2に記載の相間絶縁紙。
【請求項4】
前記相間絶縁紙は、前記ステータコアを周回するように円筒形状に接合され、その周長は前記ステータコアの内径の周長よりも長い請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の相間絶縁紙。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の相間絶縁紙が前記ステータコアに組み込まれ、前記ステータコアに備わる各相コイルの相間絶縁がなされたモータ。
【請求項6】
ステータコアに備わる各相コイルの相間絶縁を行う相間絶縁紙を前記ステータコアにおいて周方向に並ぶように複数装着するモータの製造方法であって、
前記ステータコアにおいて互いに隣接して組み込まれる一対の前記相間絶縁紙の一部を互いに重ねて接合し、一対の前記相間絶縁紙を前記ステータコアに同時に装着するモータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相間絶縁紙、モータ、及びモータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、三相モータにおいて、U相-V相間の絶縁性を確保するための相間絶縁紙、V相-W相間の絶縁性を確保するための相間絶縁紙、W相-U相間の絶縁性を確保するための相間絶縁紙を個別に設け、各相間絶縁紙を個別にステータコアのスロットに装着する内容を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、個別に設けた相間絶縁紙をステータコアのスロットに順次装着するので、先に装着した相間絶縁紙において後に装着する相間絶縁紙をステータコアの内周側に押し出す力が発生し、相間絶縁紙の装着が困難になる。
【0005】
本発明は、ステータコアのスロットへの装着が容易となる相間絶縁紙、当該相間絶縁紙を用いたモータ、及びモータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ステータコアにおいて周方向に複数並べた状態で装着され、ステータコアに備わる各相コイルの相間絶縁を行う相間絶縁紙であって、互いに隣接する相間絶縁紙の一部が互いに重なっており、当該重なる部位に相間絶縁紙同士を接合する接合部を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接合部により接合された一対の相間絶縁紙が形成され、一方の相間絶縁紙が他方の相間絶縁紙を保持する関係となる。このため、ステータコアのスロットに当該相間絶縁紙を装着する際に、いずれか相間絶縁紙がステータコアの内側に押し出されることはない。また、ステータコアのスロットに当該相間絶縁紙を装着する際に、相間絶縁紙は一対の相間絶縁紙全体で緩やかに撓むので、一対の相間絶縁紙のいずれの部分もステータコアの内側に押し出されることはない。以上より、ステータコアのスロットへの装着が容易な相間絶縁紙となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態の相間絶縁紙の模式図であり、
図1(a)は平面図、
図1(b)は
図1(a)のA-A線断面図、
図1(c)は
図1(a)のB-B線断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の相間絶縁紙をステータコアに装着した例を示す図であって、ステータコアを周方向の経路に関して直線状に展開した図と、その部分拡大図と、ステータコアに装着された相間絶縁紙を抽出した図を含む。
【
図3】
図3は、第1実施形態の相間絶縁紙の作用効果を説明するための図であり、
図3(a)は接合部の作用効果を説明するための図、
図3(b)は接合部及び非接合部の作用効果を説明するための図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の相間絶縁紙の作用効果を説明するための図(模写)であり、
図4(a)は接合部の作用効果を説明するための図(模写)、
図4(b)は接合部及び非接合部の作用効果を説明するための図(模写)である。
【
図5】
図5は、第1比較例の相間絶縁紙を説明するための図であり、
図5(a)は第1比較例の相間絶縁紙の平面図、
図5(b)は第1比較例の相間絶縁紙をステータコアに挿入する際に相間絶縁紙が自らスロットから飛び出す場合を示す図、
図5(c)は第1比較例の相間絶縁紙をステータコアに挿入する際に後から挿入した相間絶縁紙が先に挿入した相間絶縁紙からの力を受けてスロットから飛び出す場合を示す図である。
【
図6】
図6は、第1比較例の相間絶縁紙の装着態様を示す図(模写)である。
【
図7】
図7は、第2比較例の相間絶縁紙を説明するための図であり、
図7(a)は第2比較例の相間絶縁紙の平面図、
図7(b)は第2比較例の相間絶縁紙の実装態様を示す図(模写)である。
【
図8】
図8は、第2実施形態の相間絶縁紙を説明するための図であり、
図8(a)は第2実施形態の相間絶縁紙の平面図(展開図)、
図8(b)は第2実施形態の相間絶縁紙のステータコアのスロットへの装着時の形態を示す図、
図8(c)は、第2実施形態の相間絶縁紙とステータコアとの関係を示す図である。
【
図9】
図9は、接合部の第1変形例を説明するための図であり、
図9(a)は接合部の第1変形例の平面図(折り曲げ前)、
図9(b)は接合部の第1変形例の断面図(折り曲げ前)、
図9(c)は接合部の第1変形例の平面図(折り曲げ後)、
図9(d)は接合部の第1変形例の断面図(折り曲げ後)である。
【
図10】
図10は、接合部の第2変形例を説明するための図であり、
図10(a)は接合部の第2変形例の断面図(接合前)、
図10(b)は接合部の第2変形例の断面図(接合後)である。
【
図11】
図11は、接合部の第3変形例を説明するための断面図であり、
図11(a)は凸部のスリット挿入前(折り曲げ部の折り曲げ前)、
図11(b)は凸部のスリット挿入前(折り曲げ部の折り曲げ後)、
図11(c)は凸部のスリット挿入後(折り曲げ部の展開前)、
図11(d)は凸部のスリット挿入後(折り曲げ部の展開後)、
図11(e)は凸部の折り曲げ後を示す。
【
図12】
図12は、接合部の第3変形例を説明するための平面図であり、
図12(a)は凸部のスリット挿入前(
図11(a)又は
図11(b)に対応する)、
図12(b)は凸部をスリットに挿入して折り曲げた後(
図11(e)に対応する)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の相間絶縁紙1の模式図であり、
図1(a)は平面図、
図1(b)は
図1(a)のA-A線断面図、
図1(c)は
図1(a)のB-B線断面図である。
図2は、第1実施形態の相間絶縁紙1をステータコア3に装着した例を示す図であって、ステータコア3を周方向の経路に関して直線状に展開した図と、その部分拡大図と、ステータコア3に装着された相間絶縁紙1を抽出した図を含む。
図3は、第1実施形態の相間絶縁紙1の作用効果を説明するための図であり、
図3(a)は接合部26の作用効果を説明するための図、
図3(b)は接合部26及び非接合部27の作用効果を説明するための図である。
図4は、第1実施形態の相間絶縁紙1の作用効果を説明するための図(模写)であり、
図4(a)は接合部26の作用効果を説明するための図(模写)、
図4(b)は接合部26及び非接合部27の作用効果を説明するための図(模写)である。
【0011】
図において、相間絶縁紙1(脚部25A、脚部25B)及び各相コイル(コイル4)のスロット31内に配置される部分をハッチングで表している。
図3(a)においてコイル4の図示を省略している。
【0012】
第1実施形態の相間絶縁紙1は、モータ(不図示)のステータコア3のスロット31に装着され、ステータコア3に装着される各相のコイル4との間で相間絶縁を行うものである。
【0013】
ここで、モータは、例えば、車両駆動用として用いられる。この場合には、モータは、バッテリ等の電源から電力の供給を受けて回転し、車両の車輪を駆動する電動機として機能する。また、モータは、外力により駆動されて発電する発電機としても機能する。すなわち、モータは、電動機及び発電機として機能する、いわゆるモータジェネレータとして構成される。なお、モータは、車両駆動用のモータではなく、車両以外のシステムの駆動源として用いられてもよい。
【0014】
本実施形態の相間絶縁紙1は、相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2Bを互いに重ねた形態を有している。相間絶縁紙2A(相間絶縁紙2Bも同様)は、矩形の絶縁紙に矩形の開口部21を設けた形状を有している。絶縁紙は、例えばポリエチレンテレフタレート(PEN)フィルムの両面にアラミド繊維紙を積層した3層ラミネート材が適用され、専用の金型を用いた打ち抜き加工により形成される。
【0015】
相間絶縁紙2Aの長手方向の両端部には帯部22Aが配置されている。帯部22Aは相間絶縁紙2Aの短辺方向を長手方向とする部材である。
【0016】
帯部22Aの長手方向の両端であって開口部21側の縁辺からは脚部25Aが延出している。脚部25Aは、相間絶縁紙2Aの長手方向に沿って伸びる部材であり帯部22Aを連結するものである。脚部25Aの幅は、相間絶縁紙2Aが到着されるステータコア3のスロット31の内径の溝の幅よりもやや広い幅に設計されている。また脚部25Aの長さは、スロット31の軸方向の長さと同一、又はやや長くなるように設定されている。
【0017】
脚部25Aは、スロット31内部に配置される複数のコイル4の間に配置され、同一のスロット31内で互いに隣接するコイル4の相間絶縁を行う。また帯部22Aは、脚部25Aに支持された状態でステータコア3から軸方向に突出するように配置され、コイル4の一部であってステータコア3から軸方向に突出して配置されたコイルエンド(リード側、及び反リード側)に隣接して配置される。そして、帯部22Aは互いに隣接するコイルエンドの相間絶縁を行う。
【0018】
帯部22Aの開口部21側の縁辺にはノッチ24(省略してもよい)が形成されている。ノッチ24は接合部26(接着剤)の位置決めに用いることができ、ノッチ24の先端に接合部26が配置されるように設定することができる。
【0019】
帯部22Aの開口部21側の縁辺には、凹型の円弧部23が形成されている。円弧部23は、ステータコア3に相間絶縁紙2Aを装着後にコイル4とともに成型する際に帯部22Aがステータコア3に干渉して破けることを防止するものである。
【0020】
相間絶縁紙2Bは、相間絶縁紙2Aと同じ形状を有し、開口部21、帯部22B、円弧部23、ノッチ24、脚部25Bを備える。
【0021】
相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bは、その一部を互い重ねた状態で接合部26により接合される。
図1(a)に示すように、相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bは、平面視でノッチ24が互いに重なるように配置され、ノッチ24の先端に隣接する位置において接合部26(接着剤)により接合されている。
【0022】
接合部26(接着剤)は例えば樹脂が適用される。また接合部26は、帯部22Aと帯部22Bの間に挟み込まれ、帯部22A、接合部26、帯部22Bが重なった部分に超音波を印加することで帯部22A及び帯部22Bに溶着される。
【0023】
ここで、接合部26に隣接する相間絶縁紙2Aの脚部25Aと相間絶縁紙2Bの脚部25Bは、互いに隣接するスロット31(
図2参照)にそれぞれ装着され、脚部25Aと脚部25Bの間隔は、互いに隣接する2つのスロット31の間にあるティース32の幅程度に設定されている。
【0024】
ここで
図1(a)の拡大図に示すように、接合部26の直径をD1、接合部26の中心から開口部21の縁までの距離をD2、接合部26の中心と脚部25A(脚部25B)との帯部22Aの長辺方向の距離をD3、脚部25Aと脚部25Bとの距離をD4とすると、D1=D2=D3=D4/2とすることが好適であり、例えば、D1=D2=D3=4mm、D4=8mmとなる。また脚部25A及び脚部25Bの幅も4mmに設定される。一方、ステータコア3のスロット31の内径側の幅(スリット溝幅)は2.5mmに設定され、外径側の幅は8mmに設定されている。
【0025】
図1(a)に示すように、接合部26は、帯部22Aと帯部22Bが重なる領域において、脚部25A側及び脚部25B側に偏在して配置される。よって、帯部22Aと帯部22Bが重なる領域において接合部26より脚部25A及び脚部25Bから遠くなる位置には非接合部27が形成される。帯部22A及び帯部22Bの非接合部27となる部分は、それぞれ独立に変形可能となり、両者の相対位置も任意に変更可能となる(
図3(b)、及び
図4(b)参照)。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の相間絶縁紙1は、分布巻のコイル4が装着されたステータコア3を備えるモータに適用される。ステータコア3には、同相のコイル4が周方向に複数並んで同心状(リング状)に配置され、これが動径方向に三重に配置される。
【0027】
ステータコア3には、例えば48個のスロット31及びティース32が形成されている(
図6参照)。また、コイル4は、スロット31の6個分の幅を有し、一相あたり8個のコイル4がステータコア3を周回するように同心状に実装され、全部で24個のコイル4が実装される。例えば、径方向で最も外側を周回する8個のコイル4がU相コイル4Uに設定され、径方向で最も内側を周回するコイル4がW相コイル4Wに設定され、U相コイル4UとW相コイル4Wの間で周回する8個のコイル4がV相コイル4Vに設定される。また、V相コイル4VはU相コイル4Uからスロット31の1個分の間隔だけ周方向にずれて配置されている。そして、W相コイル4WはV相コイル4Vからスロット31の1個分の間隔、及びU相コイル4Uからスロット31の2個分の間隔だけ周方向にずれて配置される。
【0028】
本実施形態の相間絶縁紙1は、U相コイル4UとV相コイル4Vの間、V相コイル4VとW相コイル4Wの間に装着される。相間絶縁紙2A及び相間絶縁紙2Bは、スロット31の8個分の幅を有し、スロット31の1個分の長さを互いに重ねた状態で接合したものである。これにより相間絶縁紙1は1枚でスロット31の14個分の幅を有する。相間絶縁紙1は、U相コイル4UとV相コイル4Vの間、及びV相コイル4VとW相コイル4Wの間でそれぞれ4枚用いる。
【0029】
相間絶縁紙1に関して、接合部26に隣接する脚部25A及び脚部25Bが、コイル4が装着されるスロット31にそれぞれ挿入される態様でステータコア3に装着される。また、相間絶縁紙1と、周方向でその隣に装着される相間絶縁紙1とがスロット31の1個分の長さで互いに重なるように装着される。これにより、コイル4が装着されたスロット31の全てに脚部25A又は脚部25Bが挿入される。また相間絶縁紙1の帯部22A(帯部22B)と、その隣に装着される相間絶縁紙1の帯部22B(帯部22A)がスロット31の1個分の長さで互いに重なった状態でコイル4のステータコア3から突出した部分(コイルエンド)に隣接して配置される。
【0030】
よって、相間絶縁紙1の帯部22A及び帯部22Bは周方向でリング状に隙間なく配置され、コイルエンドの側面の全面に対向するので、互いに相が異なる2つのコイル4のコイルエンド間の絶縁を行うことができる。また、コイル4が装着された全てのスロット31に脚部25A又は脚部25Bが挿入され、スロット31内の互いに相が異なる2つのコイル4の間に脚部25A又は脚部25Bが配置される形となるので、スロット31内において複数配置されたコイル4の間の絶縁を行うことができる。
【0031】
装着手順としては、例えばステータコア3においてまず径方向で最も外側となるU相コイル4Uを8個装着するとともにU相コイル4Uのコイルエンドの形状をステータコア3の形状に合わせて円弧状に成型する。
【0032】
次に、成型したU相コイル4Uの内側に相間絶縁紙1を4枚装着し、その内側にV相コイル4Vを8個装着し、V相コイル4Vのコイルエンド及び相間絶縁紙1の帯部22A及び帯部22Bをステータコア3の形状に合わせて成型する。
【0033】
次に、成型したV相コイル4Vの内側に相間絶縁紙1を4枚装着し、その内側にW相コイル4Wを8個装着し、W相コイル4Wのコイルエンド、及びV相コイル4VとW相コイル4Wの間に配置された相間絶縁紙1の帯部22A及び22Bをステータコア3の形状に合わせて成型する。
【0034】
なお、相間絶縁紙1において、相間絶縁紙2Aがステータコア3の内径側となり、相間絶縁紙2Bをステータコア3の外径側となるように配置してもよく、またその逆でもよい。またステータコア3に装着される互いに異なる複数の相間絶縁紙1の表裏の向きは全て同じ向きにしても良いし、個別に任意の向きにしてもよい。
【0035】
[第1比較例]
図5は、第1比較例の相間絶縁紙1Xを説明するための図であり、
図5(a)は第1比較例の相間絶縁紙1Xの平面図、
図5(b)は第1比較例の相間絶縁紙1Xをステータコア3に挿入する際に相間絶縁紙1が自らスロット31から飛び出す場合を示す図、
図5(c)は第1比較例の相間絶縁紙1Xをステータコア3に挿入する際に後から挿入した相間絶縁紙1Xが先に挿入した相間絶縁紙1Xからの力を受けてスロット31から飛び出す場合を示す図である。
図6は、第1比較例の相間絶縁紙1Xの装着態様を示す図(模写)である。
【0036】
図5(b)及び
図5(c)ではコイル4の図示を省略している。また、
図6は、V相コイル4Vを装着したのちに第1比較例の相間絶縁紙1Xを装着する場合を示している。
【0037】
図5(a)に示すように、第1比較例の相間絶縁紙1Xは、相間絶縁紙2A又は相間絶縁紙2Bと同じものである。
図6に示すように、相間絶縁紙1Xは
図2と同様の配置でステータコア3に装着するが、8枚の相間絶縁紙1Xにより周方向に関して全周を覆う態様となる。
【0038】
第1比較例の相間絶縁紙1Xは初期状態では平面であるが、成型後のコイルエンドは複雑に入れ込んだ形状を有しているので、コイルエンドと干渉する相間絶縁紙1X全体がステータコア3の周方向に留まることができずにステータコア3の内径側に動き得る(
図5(b)、及び
図6参照)。その結果、相間絶縁紙1Xの脚部25がステータコア3のスロット31の溝から飛び出ることで、次相のコイル4が挿入できないという問題が発生する(
図6(b)上拡大図参照)。
【0039】
第1比較例の相間絶縁紙1Xは、ステータコア3に挿入すると円弧状又はS字状に変形するため、相間絶縁紙1Xの脚部25が捻じれ、脚部25がスロット31の溝から飛び出しやすい方向に向き得る。このとき、後から挿入する相間絶縁紙1Xは、先に入れた相間絶縁紙1Xに押されるため、脚部25がスロット31の溝から飛び出し得る(
図5(c)、及び
図6下拡大図参照)という問題がある。
【0040】
また、上記の理由により、一度装着した相間絶縁紙1Xが次の工程でコイル4を挿入するまでにステータコア3の内径側に飛び出し、コイル4の間から相間絶縁紙1Xが離脱し或いは相間絶縁紙1Xの位置ずれが発生するという問題がある。
【0041】
上記のように相間絶縁紙1Xの内径側への飛び出しを防ぐためには、治具やテープで相間絶縁紙1Xを保持する必要があり、治工具費や作業工数がその分余計に必要となる問題がある。
【0042】
一方、第1実施形態の相間絶縁紙1では、
図3(a)及び
図4(a)に示すように、相間絶縁紙2A及び相間絶縁紙2Bが互いに支持する構造となり、ステータコア3に挿入しても相間絶縁紙2A及び相間絶縁紙2B全体で同一曲面を形成するように変形する。このため、相間絶縁紙2A(2B)及び相間絶縁紙2B(2A)について、いずれか一方が他方をステータコア3の内径側に向けて力を印加する関係にはならない。
【0043】
また、相間絶縁紙1をステータコア3に挿入すると相間絶縁紙1において幅方向の両端部と接合部26はステータコア3の外径側に突出し、幅方向の両端部と接合部26の間の領域はステータコア3の内径側に突出する形態になりやすい。このため、接合部26に隣接する脚部25A及び脚部25Bの少なくとも一方は捻じれない状態となり、スロット31の溝(例えば幅2.5mm)から見込む脚部25A又は脚部25Bの見かけ上の幅(例えば幅4mm)が、スロット31の溝よりも広くなる配置を維持するので脚部25A又は脚部25Bがスロット31の溝に係止された状態となる。
【0044】
さらに、脚部25A及び脚部25Bは接合部26を介して互いに固定されている。したがって、脚部25A及び脚部25Bのスロット31の溝からの飛び出しを防止できる。相間絶縁紙1の幅方向の両端にある脚部25A及び脚部25Bは上記の理由により、スロット31の外径側に配置されるので、相間絶縁紙1の幅方向の両端にある脚部25A及び脚部25Bもスロット31の溝から飛び出ることはない。また、2枚(2枚以上接合した場合は2枚以上)の相間絶縁紙1(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)を同時に組み付けるため、組み付け時間を短縮できる。
【0045】
[第2比較例]
図7は、第2比較例の相間絶縁紙1Yを説明するための図であり、
図7(a)は第2比較例の相間絶縁紙1Yの平面図、
図7(b)は第2比較例の相間絶縁紙1Yの実装態様を示す図(模写)である。
図7(a)に示すように、第2比較例の相間絶縁紙1Yの平面視した外径は第1実施形態と同様であるが、一枚のシートにより形成されている。よって、相間絶縁紙1Yにおいて互いに重なる部分はなく、第1実施形態の接合部26及び非接合部27はない。
【0046】
第2比較例の相間絶縁紙1Yは、第1実施形態の相間絶縁紙1Yと外形上は同様であるので、幅方向で中央に配置された脚部25がスロット31の溝から飛び出すことはない。しかし、相間絶縁紙1Yをステータコア3に挿入したのち、コイルエンドとともに成型しても、相間絶縁紙1Yはコイルエンドの形状に倣って周方向に広がることはない。このため、
図7(b)に示すように、コイルエンドをステータコア3の外径側に変形させた場合に相間絶縁紙1Yの帯部22の幅方向の中央部に周方向の張力が集中して亀裂221が入り、相間絶縁が不能となるおそれがある。
【0047】
一方、第1実施形態の相間絶縁紙1では、
図3(b)及び
図4(b)に示すように、相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bとを接合する接合部26は脚部25A及び脚部25Bに近接した位置に偏在して配置されている。また、帯部22A及び帯部22Bにおいて脚部25A及び脚部25Bの接合部26を挟んだ反対側となる領域について、帯部22Aと帯部22Bが互いに重なりつつも接合しない非接合部27を形成している。
【0048】
これにより、相間絶縁紙1の柔軟性を損なうことなく、コイル4の挿入時及びコイル4(コイルエンド)の成型時に非接合部27が周方向に広がるので、非接合部27において周方向の張力を吸収することで相間絶縁紙1における亀裂221等の発生を防止し、相間絶縁を維持できる。
【0049】
一方、帯部22A及び帯部22Bにおいて接合部26により接合された部分は、ステータコア3から離間しておらず、コイル4の挿入時及びコイル4(コイルエンド)の成型時でも周方向の張力をほとんど受けることはない。したがって、相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bの間で周方向の隙間が形成されることはなく、相間絶縁を維持できる。
【0050】
[第1実施形態の効果]
第1実施形態の相間絶縁紙1によれば、ステータコア3において周方向に複数並べた状態で装着され、ステータコア3に備わる各相コイル(コイル4)の相間絶縁を行う相間絶縁紙1であって、互いに隣接する相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)の一部が互いに重なっており、当該重なる部位に相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)同士を接合する接合部26を備える。
【0051】
また、第1実施形態のモータの製造方法によれば、ステータコア3に備わる各相コイル(コイル4)の相間絶縁を行う相間絶縁紙1をステータコア3において周方向に並ぶように複数装着するモータの製造方法であって、ステータコア3において互いに隣接して組み込まれる一対の相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)の一部を互いに重ねて接合し、一対の相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)をステータコア3に同時に装着する。
【0052】
上記構成及び方法により、接合部26により接合された一対の相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)が形成され、一方の相間絶縁紙2A(相間絶縁紙2B)が他方の相間絶縁紙2B(相間絶縁紙2A)を保持する関係となる。このため、ステータコア3のスロット31に相間絶縁紙1を装着する際に、相間絶縁紙1A及び相間絶縁紙1Bがステータコア3の内径側に押し出されることはない。また、ステータコア3のスロット31に相間絶縁紙1を装着する際に、相間絶縁紙1は一対の相間絶縁紙(相間絶縁紙2A,2B)全体で緩やかに撓むので、一対の相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)のいずれの部分もステータコア3の内径側に押し出されることはない。以上より、ステータコア3のスロット31への装着が容易な相間絶縁紙1となる。
【0053】
第1実施形態において、相間絶縁紙1は、ステータコア3のスロット31に挿入される脚部(脚部25A、脚部25B)と、スロット31の外部に配置され脚部に支持された帯部(脚部25A、脚部25B)と、を備える。
【0054】
上記構成により、相間絶縁紙1をステータコア3に挿入すると相間絶縁紙1において幅方向の両端部と接合部26はステータコア3の外径側に突出し、幅方向の両端部と接合部26の間の領域はステータコア3の内径側に突出する形態になりやすい。このため、接合部26に隣接する脚部25A及び脚部25Bの少なくとも一方は捻じれない状態となり、スロット31の溝(例えば幅2.5mm)から見込む脚部25A又は脚部25Bの見かけ上の幅(例えば幅4mm)が、スロット31の溝よりも広くなる配置を維持するので脚部25A又は脚部25Bがスロット31の溝に係止された状態となる。
【0055】
さらに、脚部25A及び脚部25Bは接合部26を介して互いに固定されている。したがって、脚部25A及び脚部25Bのスロット31の溝からの飛び出しを防止できる。相間絶縁紙1の幅方向の両端にある脚部25A及び脚部25Bは上記の理由により、スロット31の外径側に配置されるので、相間絶縁紙1の幅方向の両端にある脚部25A及び脚部25Bもスロット31の溝から飛び出ることはない。また、2枚(2枚以上接合した場合は2枚以上)の相間絶縁紙1(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)を同時に組み付けるため、組み付け時間を短縮できる。
【0056】
第1実施形態において、接合部26は、帯部(帯部22A、帯部22B)が互いに重なる位置であって脚部(脚部25A、脚部25B)側に偏在して配置されている。
【0057】
これにより、帯部(帯部22A、帯部22B)において脚部(脚部25A、脚部25B)の接合部26を挟んだ反対側となる領域について、帯部(帯部22A、帯部22B)が互いに重なりつつも接合しない非接合部27が形成される。よって、相間絶縁紙1の柔軟性を損なうことなく、コイル4挿入時及びコイル4成型時に非接合部27が周方向に広がるので、非接合部27において周方向の張力を吸収することで、相間絶縁紙1における亀裂221等の発生を防止し、相間絶縁を維持できる。
【0058】
一方、帯部(帯部22A、22B)において接合部26により接合された部分は、ステータコア3から離間しておらず、コイル4挿入時及びコイル4成型時でも周方向の張力をほとんど受けることはない。したがって、相間絶縁紙(相間絶縁紙2A、相間絶縁紙2B)の間で周方向の隙間が形成されることはなく、相間絶縁を維持できる。
【0059】
第1実施形態のモータによれば、上記の相間絶縁紙1がステータコア3に組み込まれ、ステータコア3に備わる各相コイル(コイル4)の相間絶縁がなされている。これにより、相間絶縁を確保するとともに組み付け時間を短縮可能なモータとなる。
【0060】
[第2実施形態]
図8は、第2実施形態の相間絶縁紙1Aを説明するための図であり、
図8(a)は第2実施形態の相間絶縁紙1Aの平面図(展開図)、
図8(b)は第2実施形態の相間絶縁紙1Aのステータコア3のスロット31への装着時の形態を示す図、
図8(c)は、第2実施形態の相間絶縁紙1Aとステータコア3との関係を示す図である。
【0061】
第2実施形態の相間絶縁紙1Aは、相間絶縁紙2A(又は相間絶縁紙2B)を8枚用意し、円筒形状となるように接合部26により接合したものである。
図8(a)に示す両端にある相間絶縁紙2を接合部26により互いに接合することで、
図8(b)に示す相間絶縁紙1Yが形成される。ステータコア3においては、U相コイル4UとV相コイル4Vとの相間絶縁を行う円筒形状の相間絶縁紙1YとV相コイル4VとW相コイル4Wとの相間絶縁を行う円筒形状の相間絶縁紙1Yが適用される。
【0062】
ここで、相間絶縁紙1Yの周長はステータコア3の内径の周長よりも長く(相間絶縁紙1Yの径がステータコア3の内径よりも大きく)なるように設定されている。具体的には、
図8(c)に示すように、相間絶縁紙1Yの半径をD5、ステータコア3の内径の半径をD6、ステータコア3のスロット31の外周部の半径をD7とすると、相間絶縁紙1Yの直径D(周長)は、D6<D5≦D7の関係を満たすように設定される。
【0063】
第2実施形態の相間絶縁紙1Yによれば、1周分接合した相間絶縁紙1Yの周長がステータコア3の内径の周長よりも大きいため、ステータコア3の内径側に相間絶縁紙1Yが飛び出しにくくなり、特にスロット31の溝から脚部25が飛び出すことを防止できる。また、1相分の相間絶縁紙2(8枚)を一緒に組み付けるため、組み付け時間を短縮できる。
【0064】
[接合部26の第1変形例]
図9は、接合部26の第1変形例を説明するための図であり、
図9(a)は接合部26の第1変形例の平面図(折り曲げ前)、
図9(b)は接合部26の第1変形例の断面図(折り曲げ前)、
図9(c)は接合部26の第1変形例の平面図(折り曲げ後)、
図9(d)は接合部26の第1変形例の断面図(折り曲げ後)である。
【0065】
接合部26の第1変形例では、第1実施形態(又は第2実施形態)の相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bの配置において接合部26を配置する位置に、例えば
図9(a)及び
図9(b)に示すように、半島形状に切り込みを入れて切片261を形成する。切片261は相間絶縁紙2A(帯部22A)の一部と相間絶縁紙2B(帯部22B)の一部が重なったものである。そして、
図9(c)及び
図9(d)に示すように切片261を折り曲げることにより、相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bとを接合している。
【0066】
[接合部26の第2変形例]
図10は、接合部26の第2変形例を説明するための図であり、
図10(a)は接合部26の第2変形例の断面図(接合前)、
図10(b)は接合部26の第2変形例の断面図(接合後)である。
【0067】
接合部26の第2変形例では、
図10(a)及び
図10(b)に示すように、絶縁性のステープル262を用意する。
図10(a)に示すように、第1実施形態(又は第2実施形態)の相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bの配置において接合部26を配置する位置に、ステープル262の差し込み部2621を挿通する挿通孔263を形成する。そして、
図10(b)に示すように、差し込み部2621を挿通孔263に差し込んだ後に差し込み部2621を折り曲げることにより、相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bとを接合している。
【0068】
[接合部26の第3変形例]
図11は、接合部26の第3変形例を説明するための断面図であり、
図11(a)は凸部264のスリット265挿入前(折り曲げ部2641の折り曲げ前)、
図11(b)は凸部264のスリット265挿入前(折り曲げ部2641の折り曲げ後)、
図11(c)は凸部264のスリット265挿入後(折り曲げ部2641の展開前)、
図11(d)は凸部264のスリット265挿入後(折り曲げ部2641の展開後)、
図11(e)は凸部264の折り曲げ後を示す。
図12は、接合部26の第3変形例を説明するための平面図であり、
図12(a)は凸部264のスリット265挿入前(
図11(a)又は
図11(b)に対応する)、
図12(b)は凸部264をスリット265に挿入して折り曲げた後(
図11(e)に対応する)を示す。
【0069】
接合部26の第3変形例では、一方の相間絶縁紙2A(相間絶縁紙2B)の接合部26の配置位置に切り込みを入れ、例えばノッチ24を包含するように凸部264を形成し、他方の相間絶縁紙2B(相間絶縁紙2A)の接合部26の配置位置にスリット265を形成する。
【0070】
図11(a)及び
図12(a)に示すように、凸部264は、例えば帯部22A(帯部22B)の開口部21側の縁辺を上底とし、下底において上低に対向する部分を残して台形形状に切り込み、下底の部分で直角に折り曲げることにより形成される。スリット265は、凸部264の上底の長さと同程度の長さで切り込んで形成される。
【0071】
図11(b)に示すように、凸部264の折り曲げ部2641を幅方向に折り曲げることで、凸部264を上底の幅に折り畳み、
図11(c)に示すように折り畳んだ凸部264をスリット265に挿通する。
【0072】
図11(d)に示すように折り曲げ部2641をもとの位置に展開する。
【0073】
最後に
図11(e)及び
図12(b)に示すように凸部264全体を
図12(a)に示す状態に戻すように折り込むことで、相間絶縁紙2Aと相間絶縁紙2Bを接合している。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0075】
1 相間絶縁紙
2A,2B 相間絶縁紙
22A,22B 帯部
25A,25B 脚部
3 ステータコア