(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121277
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】インバータモジュール
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220812BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018544
(22)【出願日】2021-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770BA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA10
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02W
5H770HA02Y
5H770JA11W
5H770PA22
5H770QA02
5H770QA06
5H770QA13
5H770QA27
5H770QA31
5H770QA33
(57)【要約】
【課題】インバータモジュールに設けられる電流センサにおける測定損失の低減を図る。
【解決手段】インバータモジュールは、入力される直流電力を交流電力へと変換して出力する。インバータモジュールは、上アームと下アームとの組をなして並列に設けられ、インバータモジュールから出力される交流電流が所望の交流電流となるように操作されるスイッチング素子と、上アーム又は下アームのいずれかにおいて、スイッチング素子と直流電力の供給母線との間に設けられ、インバータモジュールから出力される交流電流を測定するための電流センサと、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される直流電力を交流電力へと変換して出力するインバータモジュールであって、
上アームと下アームとの組をなして並列に設けられ、前記インバータモジュールから出力される交流電流が所望の交流電流となるように操作されるスイッチング素子と、
前記上アーム又は前記下アームのいずれかにおいて、前記スイッチング素子と前記直流電力の供給母線との間に設けられ、前記インバータモジュールから出力される交流電流を測定するための電流センサと、を備えるインバータモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータモジュールであって、
前記インバータモジュールは、前記交流電力をモータに供給するとともに、前記モータの回転軸方向の端部に設けられ、
前記スイッチング素子は、前記モータの内径側において前記モータと接続され、
前記電流センサは、前記スイッチング素子よりも前記モータの外径側に配置される、インバータモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
PWM(Pulse Width Modulation)方式により直流から交流への変換を行うインバータモジュールは、対をなして上アーム及び下アームを構成するスイッチング素子を備える。そして、一方のアームのスイッチング素子をオン、他方のアームのスイッチング素子をオフとする第1状態と、一方のアームのスイッチング素子をオフ、他方のアームのスイッチング素子をオンとする第2状態との切替を所定のタイミングで行うことで、直流電力は所望の周波数及び大きさの交流電力へと変換される。このようなスイッチング素子の操作タイミングは、インバータモジュールからの出力電流が所望の大きさとなるように定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術においては、インバータモジュールから出力される交流電流を測定するために、交流電力の出力端子に電流センサが設けられている。交流電力の出力端子においては上述の第1状態及び第2状態の双方において電力が出力されている。そのため、電流センサが測定のために有する内部抵抗に起因する電力損失が比較的大きくなるおそれがある。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、インバータモジュールに設けられる電流センサにおける電力損失の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様のインバータモジュールは、入力される直流電力を交流電力へと変換して出力する。インバータモジュールは、上アームと下アームとの組をなして並列に設けられ、インバータモジュールから出力される交流電流が所望の交流電流となるように操作されるスイッチング素子と、上アーム又は下アームのいずれかにおいて、スイッチング素子と直流電力の供給母線との間に設けられ、インバータモジュールから出力される交流電流を測定するための電流センサと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、電流センサにおける電力損失の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態のインバータ一体型モータの説明図である。
【
図3】
図3は、インバータ一体型モータの回路図である。
【
図4】
図4は、比較例のインバータ一体型モータの説明図である。
【
図5】
図5は、比較例のインバータ一体型モータの回路図である。
【
図6】
図6は、本実施形態及び比較例における電流センサの取得値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1及び
図2は、本発明の実施形態のインバータ一体型モータ100の説明図である。
図1は回転軸方向の断面図であり、
図2は、
図1のII-II断面図である。
【0011】
インバータ一体型モータ100は、モータ1と、モータ1の軸方向の端部(コイルエンド)に配置されたインバータユニット2とから構成される。インバータ一体型モータ100は、例えば車両に搭載され、モータ1の回転により車両を駆動する。
【0012】
モータ1は、回転軸であるモータシャフト11と、ロータ及びステータ(共に不図示)を備える。モータ1においては、インバータユニット2からの電力の供給を受けてロータが回転することにより、モータシャフト11が回転駆動する。
【0013】
モータ1の軸方向の端部には、モータ1とインバータユニット2とを電気的に接続するバスバー12が軸方向に起立、延設されている。また、モータ1は、UVWの3相の交流電力で駆動されるため、UVW相に相当する3つのバスバー12が並設されている。
【0014】
インバータユニット2は、直流電力と交流電力との間での相互変換を行う。インバータユニット2は、バッテリ(
図1、2において不図示)から供給される直流電力を交流電力に変換してモータ1に供給し、供給電力を制御することでモータ1を所望の回転数及びトルクで駆動させる。一方、車両の減速時には、インバータユニット2は、モータ1において回生により発電される交流電力を直流電力に変換してバッテリに充電する。
【0015】
インバータユニット2は、ケース20と、ケース20に収容される制御部品(冷却部材21、パワーモジュール22、電流センサ23、制御基板24、制御線25等)により構成される。
【0016】
インバータユニット2のケース20は、その外周がモータ1の外周に沿った円筒形状となっている。ケース20は、内周側がモータ1のモータシャフト11が貫通するように構成されている。すなわち、ケース20は、円環状(ドーナツ形状)に形成されている。
【0017】
冷却部材21は、例えば、放熱フィンである。冷却部材21は、熱伝導部材211を介して外部の冷却機(不図示)と接続された金属部材であって、上部がパワーモジュール22と接触されている。これにより、駆動中に発熱するパワーモジュール22が冷却される。
【0018】
パワーモジュール22は、バッテリから供給された直流電力をUVWの3相の高周波電力に変換してモータ1に供給する。パワーモジュール22は、3相のそれぞれに対応する複数のスイッチング素子を備えて構成される。
【0019】
パワーモジュール22は、モータ側バスバー221を備える。モータ側バスバー221は、モータ1のバスバー12にボルト留めや溶接等により結合され、バスバー12に交流電力を出力する。
【0020】
電流センサ23は、UVW相のそれぞれにおいて、パワーモジュール22の直流側の入力端とバッテリ側バスバー222との間に設けられる。バッテリ側バスバー222は、ボルト留め等や溶接により、バッテリと接続される。このような構成により、電流センサ23は、バッテリからパワーモジュール22へと供給される直流側の電流を取得する。なお、取得された電流値は、制御線25を介して制御基板24へと出力される。
【0021】
制御基板24は、マイコンや各種電気部品が実装されており、車両コントロールユニット(不図示)からの指示を受けて、パワーモジュール22の動作を制御することで、モータ1への供給電力を調整する。制御基板24は、内径側において制御線25を介してパワーモジュール22と電気的に接続されている。なお、制御基板24は、制御線25を介して、電流センサ23により取得される電流値や、不図示の温度センサにより取得される温度情報等を取得するように構成されてもよい。
【0022】
制御基板24は、電流センサ23からの入力により、パワーモジュール22の直流側の電流値を取得し、測定された電流値からモータ1への供給電流を求める。そして、制御基板24は、当該供給電流が所望の電流となるようなパワーモジュール内スイッチング素子の制御タイミングを定める。同時に、制御基板24は、パワーモジュール22に対して、パワーモジュール内スイッチング素子への制御信号を出力する。
【0023】
次に、このように構成されたインバータ一体型モータ100の電気的な配置について説明する。
【0024】
図3は、インバータ一体型モータ100の回路図である。この図においては、インバータユニット2への電力を供給するバッテリ3が示されている。また、インバータユニット2とバッテリ3との間には、平滑コンデンサ4が設けられている。
【0025】
平滑コンデンサ4は、インバータユニット2に供給される直流電流のノイズやリップルを平滑化する。平滑コンデンサ4は、例えばフィルムコンデンサからなる複数のコンデンサ素子が収容されて構成される。
【0026】
また、インバータユニット2は、バッテリ3の正極と接続される正極母線26と、負極と接続される負極母線27とを有する。そして、正極母線26と負極母線27との間には、6つのスイッチング素子28が3相6アームで構成されている。
【0027】
スイッチング素子28は、UVWの3相のそれぞれにおいて、相毎に上(UP)下(DOWN)2アーム構成となっており、これらの上下アームのスイッチング素子28がバッテリ3に対して並列に設けられている。スイッチング素子28の符号には、サフィックスとしてUVW相のいずれかを示すアルファベットと、上下(UD)のいずれかを示すアルファベットとにより構成される符号(UU、VU、WU、UD、VD、WD)が付されている。また、これらのスイッチング素子28のゲート端子(制御端子)は、制御線25を介して制御基板24と接続されている。
【0028】
制御基板24を介して入力される制御信号に応じて、スイッチング素子28UU~28WDが制御されることにより、バッテリ3から供給される直流電力が所望の交流電力に変換されて、モータ1へと供給される。このような変換制御は、PWM(Pulse Width Modulation)変換制御と称される。
【0029】
詳細には、UVW相のそれぞれの相において上下アームの組となるスイッチング素子28(スイッチング素子28UUと28UD、スイッチング素子28VUと28VD、スイッチング素子28WUと28WD)は、PWM制御中においては一方がONとなる間、他方がOFFとなる。
【0030】
具体的にU相を用いて説明すれば、スイッチング素子28UUがオンであり、かつ、スイッチング素子28UDがオフである第1状態と、スイッチング素子28UUがオフであり、かつ、スイッチング素子28UDがオンである第2状態とが交互に繰り替えされる。スイッチング素子28UUがオンである第1状態においてバッテリ3の電圧がモータ1へと印加されるため、所定の繰り返しタイミングのうちのスイッチング素子28UUがオンとなる第1状態の時間の比率がデューティ比と称され、このデューティ比を制御することで所望の交流電流を得る。そして、UVW相のそれぞれにおいて、このような上下アームに対する制御を時間差(位相差)で行うことで、モータ1に対して複数の相の交流電力を印加することができる、
【0031】
また、負極母線27と、下アームを構成するスイッチング素子28UD、28VD、28WDとの間には、それぞれ、内部抵抗型の電流センサ23U、23V、23Wが設けられている。電流センサ23U、23V、23Wにより取得される電流値は、制御基板24へと出力されてPWM制御の指令値の算出に用いられる。
【0032】
ここで、電子部品を配置する際に、空気層や絶縁物を介した他の導電部材との間の絶縁距離(空間距離・沿面距離)を考慮する必要がある。例えば、空気層は導電性が比較的低い絶縁体であるが、空気層を隔てた他の導電部材との間において電位差が大きい場合や距離が短い場合には、電子部品と当該他の導電部材とが空気層を介して導電してしまうことがある。そのため、電子部品は、他の導電部材との間の空気層を介した距離(空間距離)が所定長以上となるように配置する必要がある。また、絶縁物は導電性が低いが表面を介して導電する可能性がある。そこで、電子部品は、電子部品と他の導電部材との間に設けられる絶縁物の表面において、他の導電部材までの表面上の経路長(沿面距離)が所定長以上となるように配置する必要がある。なお、これらの絶縁距離は、JISやIECなどの規格により定められている。
【0033】
ここで、電子部品は、他の導電部材との間における電位差が大きいほど、短い距離であっても導電するおそれがあるので、絶縁距離を長くする必要がある。そのため、電子部品を配置する場合には、比較的大きな電位差が生じる他の導電部との間において、その電位差に応じた絶縁距離が確保されるようにする必要がある。
【0034】
また、電流センサ23においては、電流測定に用いる内部抵抗の電圧降下が生じる。しかしながら、測定対象に対する影響を抑えるために、内部抵抗の抵抗値は比較的小さいので、一般に、電圧降下に起因する電流センサ23の両端の電圧差は数ボルト程度である。これに対して、バッテリ3により印加される電圧は数百ボルトであり比較的大きい。そのため、電流センサ23と他の導電部材との間の絶縁距離を検討する場合において、電流センサ23の両端の電圧差を無視することができる。
【0035】
以下では、電流センサ23Uの絶縁距離として、正極母線26(P線)、及び、負極母線27(N線)、及び、制御線25(C線)との間の距離について検討する。
【0036】
P線とN線との間にはバッテリ3の印加電圧に相当する電位差が生じる。しかしながら、電流センサ23Uと負極母線27とは接続されており両者は導通しているため、電流センサ23Uを配置する場合にN線との間の絶縁距離を考慮する必要はない。
【0037】
また、P線とN線とは、正極母線26及び負極母線27の設計において、バッテリ3の印加電圧に相当する比較的大きな絶縁距離が確保されている。そのため、N線と接続される電流センサ23Uと、P線との間においては、絶縁距離について別途検討する必要はない。
【0038】
なお、スイッチング素子28の制御線25は、比較的低電位ではあるが、ソース/ドレイン間の導通部位とは電気的に絶縁される必要がある。そのため、電流センサ23Uは、C線までの距離が絶縁距離を上回るように配置する必要がある。
【0039】
このように、電流センサ23Uは、正極母線26(P線)及び負極母線27(N線)との間の絶縁距離を考慮して配置する必要はなく、制御線25(C線)との間の絶縁距離を考慮して配置すればよい。
【0040】
ここで、比較例として、電流センサ23U、23V、23Wが、インバータユニット2からモータ1のバスバー12へのUVW相の電力出力端に設けられている場合について検討する。
【0041】
図4は、比較例におけるインバータ一体型モータ100の説明図である。
図1の本実施形態の構成と比較すると、電流センサ23がバッテリ側バスバー222ではなく、モータ側バスバー221と接続するように設けられている。
【0042】
図5は、
図4に示された比較例におけるインバータ一体型モータ100の回路図である。
図3の本実施形態の回路図と比較すると、電流センサ23U、23V、23Wがインバータユニット2からモータ1へのUVW相の交流電力の出力端に設けられている。
【0043】
ここで、当該比較例において電流センサ23Uを配置する際の、P線、N線、及びC線との間の絶縁距離について説明する。
【0044】
本比較例においては、
図3に示される本願の実施形態と比較すると、電流センサ23は、正極母線26及び負極母線27のいずれとも接続されていない。スイッチング素子28UUがオンであり、かつ、スイッチング素子28UDがオフである第1状態においては、電流センサ23にはバッテリ3の電圧が印加されるため、負極母線27(N線)との間において、バッテリ3の電圧に相当する絶縁距離を確保する必要がある。
【0045】
同様に、スイッチング素子28UUがオフであり、かつ、スイッチング素子28UDがオンである第2状態においては、電流センサ23はグラウンド電位に相当するため、正極母線26(P線)との間において、バッテリ3の電圧に相当する絶縁距離を確保する必要がある。
【0046】
なお、C線については、本実施形態と同様に、C線との間の距離が絶縁距離を上回るように、電流センサ23Uの配置を決定する必要がある。
【0047】
このように、比較例においては、電流センサ23Uは、正極母線26(P線)、負極母線27(N線)、及び、スイッチング素子28の制御ライン(C線)の全てとの間の絶縁距離を考慮して配置する必要がある。一方で、本実施形態の
図3の構成においては、電流センサ23Uは、正極母線26(P線)及び負極母線27(N線)との絶縁距離を考慮せずに配置することができる。
【0048】
また、本実施形態と比較例とにおける電流センサ23における消費電力について、
図6を用いて説明する。
【0049】
図6は、本実施形態及び比較例における電流センサ23における消費電力を示すグラフである。
【0050】
図6において、(A1)には本実施形態の電流センサ23Uが取得する電流値が記載されて、(A2)には(A1)により取得される電流値の絶対値が示されている。また、(B1)には比較例の電流センサ23Uが取得する電流値が記載されて、(B2)には(B1)により取得される電流値の絶対値が示されている。
を用いて説明する。
【0051】
図6(A1)に示されるように、本実施形態の電流センサ23Uにより取得される電流値は、櫛歯状の正弦波となる。これは、上下アームで組をなすスイッチング素子28UUと28UDは、PWM制御中においては一方がONとなる間、他方がOFFとなるように制御されることに起因する。
【0052】
詳細には、スイッチング素子28UUがオンとなるとともにスイッチング素子28UDがオフとなる第1状態においては、バッテリ3からモータ1へと流れる電流は、スイッチング素子28UUを介して流れるため、電流センサ23Uには電流は流れない。一方、スイッチング素子28UUがオフとなるとともにスイッチング素子28UDがオンとなる第2状態においては、モータ1からバッテリ3へと流れる電流は、スイッチング素子28UDを介して流れるため、電流センサ23Uに電流が流れる。このように、スイッチング素子28UUがオンとなる第1状態の区間のみ電流センサ23Uには電流が流れるため、電流センサ23Uに流れる電流は、櫛歯状の正弦波となる。
【0053】
図6(A2)に示されるように、交流の消費電力の算出においては電流値の絶対値が影響する。この図に示されるように、電流センサ23Uの取得値の絶対値の平均値は、点線で示されるようなaとなる。
【0054】
一方、
図6(B1)に示されるように、比較例の電流センサ23Uにより取得される電流値は、櫛歯状ではない。これは、電流センサ23Uは、インバータユニット2からモータ1への出力端に設けられており、スイッチング素子28UUがオンとなるとともにスイッチング素子28UDがオフとなる第1状態と、スイッチング素子28UUがオフとなるとともにスイッチング素子28UDがオンとなる第2状態との双方において、バッテリ3とモータ1との間の電流が電流センサ23Uを流れるためである。
【0055】
その結果、
図6(B2)に示されるように、電流センサ23Uの取得値の絶対値の平均値は、点線で示されるようなbとなる。
【0056】
ここで、
図6(A2)に示される本実施形態における平均値aと
図6(B2)に示される比較例の平均値bとを比較すると、本実施形態においては非導通期間が存在するため、aはbよりも小さくなる。
【0057】
電流センサ23における電力損失は、電流値だけでなくPMW変換における変調率や制御方式によって変化する。しかしながら、電流センサ23は抵抗型電流検出器であるため、電流センサ23においては電流Iに比例した電位差Vが発生し、そこで発生する損失PはIとVとの積により求められるため、電流値を用いて電力損失の比較を行うことができる。
【0058】
本実施形態のように電流センサ23を負極母線27と接続するように配置する場合の平均電流値aは、比較例のように電流センサ23をインバータユニット2の交流電力の出力端に設ける場合の平均電流値bよりも小さい。そのため、本実施形態のような構成とすることで、電流センサ23における内部抵抗に起因する電力損失を低減できる。
【0059】
なお、
図1~3に示される本実施形態、及び、
図4、5に示される比較例の双方において、電流センサ23は、パワーモジュール22とは別体で設けられているが、これに限らない。電流センサ23とパワーモジュール22とを一体としてモールドして設けてもよい。比較例において両者がモールドされているような構成であっても、電流センサ23Uは、正極母線26(P線)、及び、負極母線27(N線)との間の絶縁距離を考慮する必要がある。その結果、電流センサ23内の電流測定用の内部抵抗の許容損失を小さくすることができるので、電流センサ23の小型化を図ることができる。
【0060】
また、本実施形態においては、電流センサ23U、23V、23Wを、負極母線27と、下アームのスイッチング素子28UD、VD、WDとの間に配置したがこれに限らない。電流センサ23U、23V、23Wを、正極母線26と、上アームのスイッチング素子28UU、VU、WUとの間に配置してもよい。このように配置しても、電流センサ23を配置する際に、P線(正極母線26)及びN線(負極母線27)との絶縁距離を考慮しなくてもよくなり、かつ、内部抵抗に起因する電力損失の低減を図ることができる。
【0061】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0062】
本実施形態のインバータモジュールにおいては、インバータユニット2から出力される交流電流を測定するための電流センサ23U、23V、23Wを、下アームにおいて、スイッチング素子28UD、VD、WDと、負極母線27との間に設ける。このような構成となることで、PWM制御において下アームのスイッチング素子28UD、VD、WDがオンとなる第1状態の区間のみ、モータ1とバッテリ3との間の電流が電流センサ23に流れる。
【0063】
これに対して、比較例のように、インバータユニット2の出力端子に電流センサ23U、23V、23Wが設けられる場合には、PWM制御において上アームのスイッチング素子28UU、VU、WUが第1状態においてオンとなり、下アームのスイッチング素子28UD、VD、WDは第2状態となる。すなわち、上アームと下アームとのいずれか一方のスイッチング素子23は常にオンとなるため、両区間においてモータ1とバッテリ3との間の電流が電流センサ23に流れる。
【0064】
その結果、
図6に示されるように、本実施形態において電流センサ23により取得される電流の平均値aは、比較例において電流センサ23により取得される電流の平均値bよりも小さくなる。その結果、電流センサ23における電力損失を低減することができる。また、電力損失が低減されることで、電流センサ23内の電流検出用の抵抗の許容損失を小さくすることができるので、電流センサ23の小型化を図ることができる。
【0065】
さらに、本実施形態においては、
図3に示されるように、電流センサ23が負極母線27と接続されるため、電流センサ23と負極母線27との間において絶縁距離を考慮する必要がなくなる。さらに、正極母線26と負極母線27との間においては、バッテリ3の電圧に相当する絶縁距離が確保されているため、電流センサ23と正極母線26との間においてさらに絶縁距離を考慮する必要はない。
【0066】
これに対して、比較例においては、
図5に示されるように、電流センサ23は、正極母線26及び負極母線27の双方との間において、絶縁距離を考慮して配置する必要がある。
【0067】
このように、本実施形態のように、電流センサ23U、23V、23Wを、バッテリ3の電力供給母線(正極母線26または負極母線27)と接続するように設ける。
図3に示される例においては、電流センサ23U、23V、23Wは、下アームにおいて、スイッチング素子28UD、VD、WDと、負極母線27との間に設けられている。これにより、電流センサ23U、23V、23Wを配置する際に、正極母線26及び負極母線27との間において絶縁距離を考慮する必要がなくなる。
【0068】
本実施形態のインバータモジュールによれば、インバータユニット2は、モータ1の回転軸方向の端部に設けられる。インバータユニット2は、モータ1の内径側において、モータ1と接続される。そして、電流センサ23は、モータ1の外径側に配置される。
【0069】
このように構成されることにより、電流センサ23を内径側に設ける必要がないため、内径側に配置される部品が少なくなる。その結果、モータシャフト11を大型化しやすくなる。
【0070】
以上、本発明の実施形態、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0071】
本実施形態のインバータ一体型モータ100は、車両に搭載されたバッテリの電力によりインバータ一体型モータ100を駆動して走行する電気自動車に搭載されるものであってもよいし、エンジンを備え、エンジンが発電した電力により、インバータ一体型モータ100を駆動するシリーズハイブリッド式の自動車に搭載されるものであってもよい。または、その他の駆動力源に用いるものであってもよい。
【0072】
また、本実施形態では、インバータユニット2の構成部材であるパワーモジュール22及び制御基板24を円環状となるように構成したが、これに限られない。径方向内側にバスバー12及び電流センサ23を配置できれば、どのような形状であってもよく、多角形であってもよいし曲面と多角形の組み合わせであってもよい。それぞれを構成する素子や配線等の形状に対応して、適切な形状であればよい。
【符号の説明】
【0073】
1 モータ
2 インバータユニット
3 バッテリ
11 モータシャフト
12 バスバー
20 ケース
21 冷却部材
22 パワーモジュール
23、23U、23V、23W 電流センサ
24 制御基板
25 制御線
26 正極母線
27 負極母線
28、28UU、28UD、28VU、28VD、28WU、28WD スイッチング素子
100 インバータ一体型モータ