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特開2022-121378黒色アルミナ焼結体及びこれを用いた露光装置用保持盤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121378
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】黒色アルミナ焼結体及びこれを用いた露光装置用保持盤
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20220812BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220812BHJP
   H01L 21/683 20060101ALN20220812BHJP
【FI】
C04B35/117
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01L21/68 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021208836
(22)【出願日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2021017901
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】714010207
【氏名又は名称】株式会社レプトン
(74)【代理人】
【識別番号】100109793
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 惠理子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】山岸 直哉
(72)【発明者】
【氏名】星野 峰章
(72)【発明者】
【氏名】後藤 ▲鉄▼郎
(72)【発明者】
【氏名】井前 憲司
【テーマコード(参考)】
2H197
5F131
【Fターム(参考)】
2H197CA01
2H197CA05
2H197CA06
2H197CA08
2H197CD02
2H197CD06
2H197HA03
2H197HA04
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA32
5F131BA13
5F131BA39
5F131CA70
5F131EB02
5F131EB78
5F131EB85
(57)【要約】
【課題】 SiC程度の低抵抗率で、さらに反射率が低いアルミナ焼結体、及びこれを用いた半導体製造装置用のワーク保持盤、搬送用チャック、可動ステージを提供する。
【解決手段】 酸化物換算でAl:75~90重量%、CuO:5~20重量%、MnO、Fe、SiO、NiO又はこれらの2種以上の組合せを0超~20重量%含有する含有するアルミナ焼結体。体積抵抗率が1×10Ω・cm以上で1×10Ω・cm未満、360~550nmの光の全反射率を10%未満とすることができる。
【選択図】 図10


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算でAl:75~90重量%未満、CuO:5~20重量%未満含有し、さらに、酸化物換算でMnO、Fe、SiO、NiO又はこれらの2種以上の組合せを0超~20重量%含有する黒色アルミナ焼結体。
【請求項2】
体積抵抗率が1×10Ω・cm以上で1×10Ω・cm未満である請求項1に記載の黒色アルミナ焼結体。
【請求項3】
前記アルミナ焼結体は、酸化物換算でAl:80~90重量%未満、CuO:5~13重量%含有し、且つMnO、Fe、SiO、及びNiOからなる群より選択される2種以上の組合せを2~15重量%含有する請求項1又は2に記載の黒色アルミナ焼結体。
【請求項4】
前記アルミナ焼結体は、Co又はCrを含有しない請求項1~3のいずれか1項に記載の黒色アルミナ焼結体。
【請求項5】
360~550nmの光の全反射率が10%未満である請求項1~4のいずれか1項に記載の黒色アルミナ焼結体。
【請求項6】
400nmでの光の全反射率が9%以下である請求項5に記載の黒色アルミナ焼結体。
【請求項7】
Tiを含有しない請求項5又は6に記載の黒色アルミナ焼結体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体で構成される被露光処理体保持盤。
【請求項9】
前記被露光処理体は、300mm×400mm以上のガラス基板である請求項8に記載の被露光処理体保持盤。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載のアルミナ焼結体で構成された吸着面を備えた真空チャック。
【請求項11】
前記吸着面には、ワークを支持する多数のピンが形成されていて、且つ直径1~3mmの貫通孔が開設されている請求項10に記載の真空チャック。
【請求項12】
請求項8~10のいずれか1項に記載の被露光処理体保持盤を、X方向、Y方向の少なくともいずれか一方向に移動可能なように保持する、XYステージ又はエアスライダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップ、フラットパネルディスプレイなどの露光工程において、シリコンウエハーやマザーガラス基板などの保持固定・搬送に用いられるテーブル、ステージ、チャックに好適な黒色アルミナ焼結体、及び当該黒色アルミナ焼結体を用いた保持盤、真空チャック、XYステージ、リニアガイド、エアスライダーステージに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイや半導体チップの製造工程における露光処理、これらの工程前後に行われる検査は、シリコンウエハーやガラス基板等の薄くて平らなワークを保持盤上に載置した状態で行われる。これらのワークを着脱自在に保持し、さらには搬送できるように、保持盤(保持テーブル)は、真空チャックとして、さらにはX方向、Y方向に移動できるXYステージ、エアスライダーステージなどの一部として使用されている。
【0003】
このようなチャック、ステージを構成するワーク保持盤は、耐熱性、耐食性に優れ、熱に対する寸法精度も優れるという点から、通常、アルミナ、コージェライト等のアルミナ系セラミックス、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のケイ素系セラミックスで構成されている。
【0004】
アルミナ焼結体は高絶縁材料として知られているように、一般に体積抵抗率が1013~1014Ω・cmと高く、帯電しやすい。
アルミナ焼結体で吸着面を構成した真空チャック(ピンチャック)の場合、真空チャックに静電気が発生すると、その静電気力によって周囲のホコリやゴミ等が吸着面に付着しやすくなる。近年の薄いマザーガラスなどのワーク(被露光処理体)と真空チャックとの間に、周囲のホコリや、コンタミネーション(摩耗による汚れ)、パーティクル(微少なゴミ)などの異物が挟まると、ステージ上に保持されるワークの平坦度に影響を及ぼす場合があり、また露光ムラの原因ともなる。さらに、真空チャックの吸着面が帯電すると、被露光処理体がピン上に載置されるとき、あるいは露光処理後にピンから離間される際に、静電気が流れ、形成された回路を絶縁破壊させてしまう場合がある。
真空チャック等の保持盤に用いられるセラミックス表面の帯電による回路への影響は、回路のサブミクロンオーダーまでの微細化、精密化に伴って、問題視されるようになり、保持盤を構成するセラミックについても、静電除去作用を有することが求められるようになっている。
【0005】
アルミナを主成分として用いた吸着用チャックにおいて、吸着面に異物が付着することを防止した吸着用チャックとして、特開2004-14603号(特許文献1)に、吸着面側に導電性DLCコーティング層を形成した吸着用チャックが提案されている。導電性DLCコーティング層は、セラミック部分に発生した静電気を逃すことができるので、チャックに静電気がたまらず、埃などの付着を回避できると説明されている。
【0006】
また、静電除去効果を有するアルミナ焼結体としては、例えば、特開2004-299267号(特許文献2)にアルミナ90~96重量%で、導電性付与材としてTiOを4~10重量%含有することにより、体積抵抗率を10~1010Ω・cmに低減できることが開示されている。
【0007】
ところで、液晶ディスプレイの露光処理において、マザーガラス基板を保持する保持テーブル兼用真空チャックでは、露光プロセスで照射された紫外線などの照射光がガラス基板を透過し、ワーク保持面で反射されて、レジストの不要部分が露光されると、回路のアライメントやフォーカス調整の精度を低下させる原因となる。このため、露光処理に用いられるワーク保持盤、真空チャックのワーク保持面(吸着面)は、反射率が低いセラミックス、とりわけ光を吸収する着色セラミックスが好ましく用いられる。安価で加工が容易なアルミナ系セラミックスは、一般に白色や乳白色を呈色していることから、着色剤を添加した黒色アルミナが種々提案されている。
【0008】
例えば、特開平5-238810号(特許文献3)では、Alを主成分とし、Mn、Fe、CoO、Crの成分を含有する黒色アルミナ焼結体を提案している。また、特許第4502746号(特許文献4)には、液晶基板保持盤として、アルミナの純度が90%以上で、TiO、CoO、MnO、またはFeのいずれか1種以上を含有したアルミナ基体が開示されている。
さらに、特許4761334号(特許文献5)では、55~75重量%のアルミナ(Al)と、酸化物(SiO)に換算して少なくとも3重量%のSiと、酸化物(CaO)に換算して少なくとも0.4重量%のCaと、酸化物(MgO)に換算して少なくとも0.4重量%のMgと、1%以下の不純物を含む着色セラミック焼結体を用いた真空チャックが提案されている。
【0009】
また、LCD用ガラス基板の真空チャックの保持面に用いられるセラミックスとして、表面の反射率を下げるために、保持面(アルミナセラミックス、ジルコニアセラミックス、炭化珪素質セラミックス、窒化珪素質セラミックス、窒化アルミニウム質セラミックス、アルミナ-炭化チタン系セラミックス)を非晶質硬質炭素膜(合成疑似ダイヤモンド薄膜、DLC膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、I-カーボン膜などと呼ばれる炭素膜)で被覆することも提案されている(例えば特開平9-45753号:特許文献6)。
【0010】
さらに、特開2006-210546号(特許文献7)では、面の仕上げ状態により反射率が変化するという知見(面粗度が大きくなるほど、全反射率が大きくなる)に基づき、面粗度Raが0.6μm以下とすることにより、基板保持側表面の光波長250~550nmの範囲における全反射率を13%以下としたセラミック保持盤を提案している。具体的には、Mg、Fe、Mn、Crを添加したアルミナ焼結体を使用し、面粗度0.12~0.52μmで反射率6.5~11%を達成できたことが示されている(実施例)。
【0011】
特開平5-254922号(特許文献8)には、大型のセラミックス定盤に好適な黒色アルミナ系セラミックスとして、CuO、Fe、及びCoを添加混合した着色アルミナ系セラミックスを提案しており(請求項1)、これらの着色成分の合計添加量を4~10重量%とし、CuO、Fe、及びCoの混合比率を特定範囲(実施例では、Fe:3.0~4.8重量%、CuO:1.5~2.4重量%、Co:1.1~1.8重量%)とすることで黒色に着色できることが開示されている(〔0014〕、〔0015〕、表1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004-14603号公報
【特許文献2】特開2004-299267号公報
【特許文献3】特開平5-238810号公報
【特許文献4】特許第4502746号公報
【特許文献5】特許4761334号公報
【特許文献6】特開平9-45753号公報
【特許文献7】特開2006-210546号公報
【特許文献8】特開平5-254922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1,6で提案されているように、セラミックス表面を、導電コーティングや黒色の非晶質硬質炭素膜などで被覆することにより、表面の反射率、抵抗値を下げることは可能である。しかしながら、これらのコーティング膜、被膜は、チャッキングの繰り返しによって摩滅あるいは剥離するといった問題がある。このため、テーブルやチャック構成材料であるセラミックス自体の反射率が低い着色ないしは黒色アルミナ焼結体で、且つ静電気除去機能を有することが求められている。
【0014】
この点、特許文献3-5で提案されている着色ないしは黒色アルミナであれば、焼結体自体が着色されているので、着色耐久性に優れている。また、特許文献8では、スラリー成形体を大気中で焼成することができる大型の黒色アルミナが開示されている。しかしながら、これらの文献では、抵抗率に関する検討がなされておらず、導電率についての開示もなく、帯電防止のための教示もない。
【0015】
特許文献2で提案されているアルミナ焼結体は、体積抵抗率10~1010Ω・cmを達成できたとの開示があるが、着色成分が酸化チタンだけであることから、呈色が不十分で、マザーガラスなどの被露光処理体の保持盤に求められる低反射率の要求を満足できない。
【0016】
また、近年、酸化コバルト、酸化クロムが毒物指定され、作業環境改善の問題から、アルミナの着色成分として、これらの化合物の代替物の使用が求められるようになっている。
【0017】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、露光装置において、半導体ウエハーやフラットパネルディスプレイのマザーガラスの保持固定に用いられる保持盤、さらには搬送を兼用できるチャック、XYステージなどの構成材料となるアルミナ焼結体として、帯電しにくい黒色アルミナ焼結体、及びこれを用いた露光装置用のワーク保持盤、搬送用チャック、可動ステージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、作業環境改善の点から、Co,Crの酸化物以外で、アルミナを黒色に着色することができる着色成分について種々検討し、さらにアルミナ焼結体の抵抗率の低減も達成できる着色成分の組み合わせを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明の黒色アルミナ焼結体は、酸化物換算でAl:75~90重量%未満、CuO:5~20重量%未満、好ましくは5~15重量%含有する。さらに、酸化物換算でMnO、Fe、SiO、NiO又はこれらの2種以上の組合せを0超~20重量%含有する。好ましくはMnO、Fe、SiO、及びNiOからなる群より選択される2種以上を2~15重量%含有する。一方、Co又はCrを含有しないことが好ましい。さらに、Tiを含有しないことが好ましい。
【0020】
上記組成を有する本発明のアルミナ焼結体は、体積抵抗率が1×10Ω・cm以上で1×10Ω・cm未満を達成可能である。また、360~550nmの光の全反射率を10%未満とすることができる。さらに、400nmの光の全反射率を9%以下とすることができる。
【0021】
本発明は、上記本発明のアルミナ焼結体で構成される被露光処理体保持盤、アルミナ焼結体で構成された吸着面を備えた真空チャック、被露光処理体保持盤を、X方向、Y方向の少なくともいずれか一方向に移動可能なように保持する、XYステージ又はエアスライダーも包含する。
【発明の効果】
【0022】
本発明のアルミナ焼結体は、ワークの保持盤の影響による回路の静電破壊を回避できる体積抵抗率10Ω・cmオーダーから10Ω・cmオーダーであり、且つ露光処理で通常用いられる光である波長360~550nmでの全反射率が10%未満であることから、露光装置に備え付けられるワーク保持盤、真空チャック、XYステージ、エアスライダーに、好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】保持盤の一実施例を示す斜視図である。
図2】保持盤の他の実施例を示す模式断面図である。
図3】ピンチャックの構成例を示す模式図である。
図4】液晶ディスプレイのマザーガラス保持用チャックの構成例を示す模式図である。
図5】ウエハーステージとウエハーとの関係を説明するための模式図である。
図6】XYステージを説明するための模式図である。
図7】実施例で作成したアルミナ焼結体の表面粗度と400nmにおける全反射率との関係を示す散布図である。
図8】実施例で作成したアルミナ焼結体の表面粗度と体積抵抗率との関係を示す散布図である。
図9】実施例で作製したアルミナ焼結体No.1,6,8,11の全反射率を示すチャートである。
図10】実施例で作成したアルミナ焼結体のCuの含有率と体積抵抗率との関係を示すグラフである。
図11】実施例で作成したアルミナ焼結体のCuの含有率と曲げ強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
〔アルミナ焼結体〕
はじめに、本発明に係る黒色アルミナ焼結体について説明する。
本発明の黒色アルミナ焼結体は、着色成分として、Cuを含有するところに特徴がある。Cuは、アルミナ焼結体において、着色成分としてだけでなく、導電性成分として機能することができ、Cuの含有量増大にしたがって、アルミナ焼結体の体積抵抗率を低下させることができる。
【0025】
本発明の黒色アルミナ焼結体は、体積抵抗率(Ω・cm)が10オーダーから10オーダーの範囲である、いわゆる低抵抗性アルミナ焼結体である。
体積抵抗率(Ω・cm)が10オーダーから10オーダーの範囲にあるとは、1×10Ω・cm以上で1×10Ω・cm未満、好ましくは5×10~5×10Ω・cm(すなわち0.5~500×10Ω・cm)をいう。体積抵抗率をこの程度の範囲とすることにより、吸着面に静電気が発生しにくく(帯電しにくく)、発生した静電気を素早く逃すことができる。材料の体積抵抗率が低いほど、表面は帯電しにくくなるが、体積抵抗率が低くなりすぎると、吸着装置から被吸着物に大きなリーク電流が流れてウエハー上に形成された回路が破壊されるという問題を発生してしまう。よって、体積抵抗率を上記範囲内とすることにより、回路基板が直接載置されても回路に及ぼす影響がほとんどなく、且つ静電気が発生しにくく、被露光処理体が載置されていない面での埃付着防止、静電放電(Electro static discharge:ESD)対策が可能となる。
【0026】
本発明にかかる黒色アルミナ焼結体は、酸化物換算で、Cuの含有率が5重量%以上、好ましくは6重量%以上、より好ましくは7重量%以上、さらに好ましくは8重量%以上である。一方、Cuの含有率は、20重量%未満、好ましくは15重量%以下、より好ましくは13重量%以下である。5~20重量%未満、好ましくは5~15重量%程度含有することで、10~10Ω・cmオーダーにまで体積抵抗率を下げることが可能となる。一方、Cuの含有率が高くなりすぎると、強度が低下する傾向にあり保持盤としての強度確保の点からは、13重量%以下とすることが好ましい。
【0027】
上記範囲でCuを含有する本発明のアルミナ焼結体は、光の波長が360~550nmの範囲で全反射率が10%未満を達成できる。ここで、全反射率とは、正反射率に拡散反射率を加えた反射率をいう。
上記範囲のCuの含有、さらにはほかの着色成分との併用により、光の波長が360~550nmの範囲で全反射率が10%未満、9%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下にまで低減することが可能となる。特にg線、h線、i線に代表される400nm付近の全反射率は、9%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下である。一般に波長が高くなるほど、全反射率も高くなる傾向にあるが、360~550nmの範囲ではほぼ一定(反射率としての変動幅は±0.5%未満)である。
【0028】
主成分であるアルミナの含有率は、酸化物換算でアルミニウム(Al)75~90重量%未満、好ましくは78重量%以上、より好ましくは80重量%以上であり、88重量%以下である。アルミナの含有率が高いほど、反射率が高くなる傾向にあるため、アルミナの含有率上限を90重量%未満とする。
【0029】
本発明のアルミナ焼結体は、さらに、Si、Mn、Fe、Ni又はこれらの2種以上の組合せを含有することが好ましい。好ましくはMnO、Fe、又はこれらの組合せ、より好ましくはFeとMnOの組合せを、0超~20重量%、好ましくは2~18重量%、より好ましくは4~15重量%含有する。これらの成分をCuとともに含有することで、アルミナの体積抵抗率の増大を招くことなく、全反射率を低減することができる。
また、SiOは、反射率の増大を抑制しつつ、体積抵抗率を低下させることができるので、Cuの含有率を抑制したい場合に、Cuの一部をSiに置換してもよい。
【0030】
Si、Mn、Fe、Niは、それぞれ酸化物換算で、0超~10重量%、好ましくは2~8重量%、さらに好ましくは2~6%含有することが好ましい。また、2種類以上含有する場合には、総量として、2重量%以上、好ましくは4重量%以上で、20重量%以下、好ましくは18重量%、より好ましくは15重量%以下である。
【0031】
一方、本発明のアルミナ焼結体において、Cr、Coは含有しないことが好ましい。Cr、Coは、アルミナへの着色成分として知られているが、Co3、CrOは毒物指定されていることから、安全面から、Co、Cr化合物を使用せずに、所望の着色(黒色)を達成できることが望まれる。
【0032】
さらに、本発明のアルミナ焼結体を、被露光処理体保持盤、そのXYステージのように、特に低反射率が求められる用途に用いる場合には、TiOを含有しないことが好ましい。TiOを含有することで、Cu、その他の成分による反射率低減効果、着色効果が減じられる傾向にあるからである。
【0033】
上記組成を有するアルミナ焼結体は、従来より公知の方法(湿式法、乾式法)により製造することができる。乾式法では、各成分原料となる酸化物、すなわち、Al、CuO、MnO、Fe、SiO、NiOの粉末、あるいは必要に応じて成形用バインダー、分散剤を加えて混合により調製したスラリーのスプレードライ等により顆粒状とした顆粒混合物を、CIP成形、ホットプレス成形、金型プレス成形することにより作製される。湿式法としては、原料となる酸化物を、溶媒とともに所定割合で混合し泥漿鋳込み成形後、焼成、あるいは、必要に応じて成形用バインダー、分散剤を加えて混合により調製したスラリーを加圧成形後、焼成することにより得られる。
なお、焼成条件は、通常、1400~1600℃で1~5時間である。これにより、気孔率ほぼ0%、最大でも2%以下のアルミナ焼結体を得ることができる。
【0034】
これらの粉末原料を混合する際には、各々の粉末原料が含有する金属元素が酸化物になったときの全酸化物中の各々の金属酸化物の割合(重量%)が、既述した数値範囲となるように、各々の粉末原料の混合量を設定すればよい。このとき、得られるアルミナ焼結体の体積抵抗率が、既述した範囲内の所望の値となるように、各々の粉末原料の具体的な混合割合を調節すればよい。なお、最終的に得られるアルミナ焼結体においては、含有する金属元素の割合(モル比)は、製造時に混合した粉末原料中の金属元素の割合と、実質的に同じとなる。
【0035】
原料として用いるAl、CuO、MnO、Fe、SiO、NiOは、特に限定しないが、平均粒子径(D50)として0.1~10μm、好ましくは0.5~5μmの粉末を用いることが好ましい。粒径が小さいほど、緻密な焼結体が得られるためか、焼結体の強度を高めることができる。強度の点からは、2μm以下、好ましくは1.5μm以下の粉末を用いる。
【0036】
焼成後、必要に応じて、表面研磨、表面加工処理して、表面粗度を0.6μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.4μm以下に調整する。なお、表面粗度の下限は、0.1μm以上、せいぜい0.2μm程度である。体積抵抗率は組成に依存し、表面粗度はほとんど影響しないのに対して、全反射率、特に拡散反射率は、表面粗度に依存して、大きくなる傾向にある。したがって、表面粗度を上記範囲に調整することにより、アルミナ焼結体の組成に基づく十分な反射率低減効果を得ることができる。
【0037】
以上のようにして得られるアルミナ焼結体は、表面粗度を上記範囲に調整することにより、光の波長が360~550nmの範囲で全反射率が10%未満、9%以下、好ましくは8%以下とすることができる。さらに、露光光源の平均的波長である400nmにおける全反射率として、9%以下、好ましくは8%以下とすることができる。これにより、上記露光処理時に用いられる光光源の反射光の、被露光処理体への影響を回避することが可能となる。
【0038】
〔半導体製造装置用部材の適用例〕
以下に、露光装置に用いられる、上記黒色アルミナ焼結体の部材例について説明する。
(1)保持盤
ワークが載置される保持面を有する保持盤である。
適用できるワークは、適用される半導体製造装置の種類に応じて、シリコンウエハー、ガラス基板等の基板、ウエハー表面に酸化膜、レジスト膜、エッチングにより回路形成された半導体のいずれにも適用できる。また、フラットパネルディスプレイ製造装置の場合には、マザーガラス、有機EL用フィルムなどであってもよい。
【0039】
保持盤のサイズは、保持するワークの種類、適用される半導体製造装置の種類に応じて適宜選択される。
ワークが半導体ウエハーの場合、一般に、直径50mm~450mm(2インチ~18インチサイズ)程度である。マザーガラスの場合には、300mm×400mm~3000mm×3000mm程度まで可能である。近年の大型ディスプレイに対応して、1000mm×1000mm~3000mm×3000mmであっても、一体的保持盤として作製可能である。この点、ESD除去機能を有するセラミックとして好ましく用いられているSiCは、近年の高精密な半導体チップ、液晶ディスプレイ回路作製用基板が直接載置される保持盤、真空チャックとしては、回路に影響を及ぼすおそれがあるが、本発明のアルミナ焼結体では、体積抵抗率が1×10~1×109Ω・cm未満であることから、回路作製用基板を直接載置する場合であっても回路に及ぼし得る影響は、SiCよりも少ないと考えられる。また、SiCでは、一般に、上記大型サイズのマザーガラスを一枚のセラミック板で保持できる保持盤を製造することは容易でないのに対して、本発明の低抵抗性アルミナ焼結体であれば、上記大型サイズの保持ステージも作成可能という点で有利である。
【0040】
本発明の保持盤が適用される半導体製造装置(製造工程)は、検査工程、露光処理、エッチングなどの種々の工程(又はその工程に用いられる装置)が挙げられる。好ましくは低反射率であることが求められる露光処理工程(半導体露光装置)で用いられる保持盤である。
なお、露光処理に用いられる光としては、水銀ランプを光源として用いるi線(365nm)、g線(436nm)、h線(405nm)や、エキシマレーザを光源として用いるKrF(248nm)、ArF(193nm)、F(157nm)などが挙げられる。
【0041】
これらの保持盤のワーク保持面は、例えば、図1に示す保持盤1のように、保持面Sに多数の凸部(ピン)2が突設されていることが好ましい。あるいは、図2に示す保持盤1′に示すように、ピンに代えて、保持面S′に凹部3が形成されていてもよい。ピン2または凹部3により、保持面S(S′)とワークWとの接触面積を減らすことで、ワークの保持固定・搬送をスムーズに行うことができる。
【0042】
図1及び図2中、Wはステージに載置されたワーク(例えば半導体ウエハー)である。なお、図1では、便宜上、ワークWの一部分を示しているが、半導体ウエハー用保持盤の場合、通常、ワークは保持盤と同形同サイズである。
【0043】
凸部2又は凹部3の形状は特に限定せず、円柱状、ドーム状、円錐台などが挙げられる。凸部2の高さ(又は凹部3の深さ)0.1~0.5mm、凸部の頂上部の直径0.15~0.5mm程度である。凸部2の頂上部の角部、凹部3の周縁部は、面取りが施されていることが好ましい。凸部、凹部の配設パターンも特に限定せず、規則正しく並列した複数列であってもよいし、格子状に整列していてもよいし、ランダムなパターンであってもよい。ワークWを安定的に保持できるように、一様に分布していればよく、通常、0.5~3mm程度の間隔(ピッチ)で配置されていることが好ましい。
【0044】
保持面上の凹凸は、焼成前にエンボス加工することにより形成してもよいし、焼成後、加工により形成してもよい。保持面Sの表面粗度(凸部頂部の表面粗度、凸部、凹部以外の面の表面粗度)は、焼成後、研磨により調整することができる。
【0045】
図1に示す保持ステージは、ワークとしてシリコンウエハーの例であったが、ワークがガラス基板の場合には、通常、図3に示すマザーガラス用保持盤5のように、矩形である。矩形のサイズは、マザーガラスのサイズにしたがって大きくなる。図3に示すマザーガラス用保持盤5では、保持面にアヤメローレット加工が施されていて、さらに貫通孔6が形成されている。
【0046】
(2)ピンチャック(真空チャック)
半導体製造装置、液晶表示装置の製造装置などにおいて、シリコン等の半導体ウエハーや液晶表示装置用のマザーガラスの保持固定用ステージ(保持盤)だけでなく、搬送されてきた被露光処理体(ワーク)を安定的に吸着保持でき、かつ露光処理後にはスムーズに脱着できるように、保持盤を兼用した真空チャックが好ましく用いられる。
【0047】
真空チャックは、保持盤に減圧機構を取付けたもので、保持面に載置されたワークと保持面との間を真空引きすることで、ワークを保持面に吸着できるようになっている。真空チャックの場合、保持面には、反対側面から真空引きできる貫通孔が形成されていることが好ましい。貫通孔のサイズは、特に限定しないが、直径0.5~3mm(好ましくは直径1.5~3mm)程度である。
【0048】
図4は、大型の液晶パネルディスプレイ用のピンチャックの一実施例を示す模式図である。
基体11上に、貫通孔が設けられた矩形の黒色の低抵抗性アルミナ板からなる保持盤12が6枚所定間隔をあけて並設されている。保持盤12の上面(ワーク吸着面)Qは、保持盤の保持面Sと同様に、ピンと称される凸部が、多数、一様に分布形成されている。
6枚の保持盤12は、一体的に、大型ガラス板の保持ステージの吸着面Qを構成している。チャック基体11は、本発明に係る黒色アルミナ焼結体で構成されていてもよいし、一般的なアルミナで構成されていてもよい。チャック基体11と保持ステージ12とは一体的に接合されていることが好ましく、かかる点から同材質で構成されることは好ましい。チャック基体11は、隣接するアルミナ焼結板の保持盤との離間部15において、リフトピン(図示せず)が収納できるようになっている。リフトピンは、搬送されてきたワークを受け、搬送にあたって、吸着面から脱着する際にワークを支持する役割を有するもので、隣接する保持盤12の離間部15にて昇降できるようになっている。リフトピンは、ピンチャック吸着面Qに突設されている凸部の高さよりも高い位置にまで上昇させることで、搬送されてきたガラス基板を受け、リフトピンが降下することで、ピンチャック吸着面に突設しているピン上にワークが静かに載置され、これにより、搬送時の衝撃を和らげることができる。吸着面上のピンに載置された後、貫通孔から真空引きすることで、ワークであるガラス基板を平坦に保持固定できる。
【0049】
本発明に係る低抵抗性の黒色アルミナ焼結体で構成された吸着面Qは、光の波長が360~550nmの範囲で全反射率が10%未満、9%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下である。したがって、露光処理の照射光がチャックの吸着面Qでの反射が抑制されるので、露光ムラにより不要部分のレジスト露光、ウエハー周囲からの反射光の影響を回避できる。このことは、液晶パネルやシリコンウエハーに形成される回路パターンへの影響を小さくし、ひいては歩留まりが向上する。さらに、ウエハー上に形成するチップを、図5に示すように、円盤状保持盤に保持されたシリコンウエハー20の周縁近くまでチップ21を形成することが可能となるので、チップの生産性(1つのウエハーから得られるチップ数)を増加することができる。
【0050】
さらに、本発明の真空チャックは、低抵抗性の黒色アルミナ焼結体で構成される吸着面表面が帯電しにくく、ESD除去防止効果も期待できるので、リフトピンの昇降、搬送などの過程で静電気を発生しても、また真空チャックによるワーク脱着時においても、吸着されている被露光処理体上に形成された回路(ワークのパターン回路)に対する静電気の影響を抑制することができる。
【0051】
このことは、シリコンウエハーの保持固定・搬送に用いられる真空チャックの場合も同様に、回路が静電破壊に曝されるリスクが低減されるので、半導体チップの回路パターンの転写、露光を、シリコンウエハー周縁近くまで可能とし、結果として、半導体チップの生産性の増大に寄与できる。
【0052】
(3)可動ステージ
上記真空チャックは、X方向、Y方向へ移動できるリニアガイドステージ、XYステージ、エアスライダーステージと一体化した可動ステージであってもよく、さらに真空チャックや保持盤が、リニアガイドステージ、XYステージ、エアスライダーステージ上にセットされ、固定されたリニアガイドステージ、XYステージ、エアスライダーステージ上をXY方向に移動するものであってもよい。
【0053】
図6は、リニアガイドステージ、XYステージ、又はエアスライダーステージの一実施例を示している。これらのステージは、支持台17上に、ワーク保持盤16をセットしたもので、保持盤16は、支持台17のガイド部分に沿って、矢印方向に移動することができる。ワーク保持盤16は、真空チャックの吸着面を構成しており、支持台17にも設けられた流路17aには、真空チャックを駆動するための駆動機構、制御機構に接続される電気配線、真空引きライン、露光処理体(真空チャック)を冷却、加熱するための冷媒、加熱媒体を流入できるようになっている。
【0054】
ワーク保持盤16とガイド部とは、わずかな隙間をあけて高速で相対移動するため、互いの表面は帯電しやすく、帯電した電荷がワークの脱着時にパターン回路に影響を及ぼす場合がある。ガイド部分を本発明の黒色アルミナ焼結体で構成することにより、帯電を抑制し、真空チャックの脱着時、露光時のESDを防止することができる。
【0055】
特に、大型の液晶表示装置の真空チャック駆動用ガイドの場合、1500mm×1500mmといった大型のガイド部材となり、SiCで構成することは困難である。この点、本発明の黒色アルミナ焼結体であれば、かかる大型のガイド部材にも適応可能である。
また、ステップ露光方式の場合、ガイド部材からの反射光も防止できるので、かかる点からも、ガイド部材を本発明の反射率が低い黒色アルミナ焼結体で構成することは好ましい。
【0056】
(4)その他
上記部材の他、半導体製造装置に用いられる部材で、帯電抑制が求められる部材としては、例えば、搬送用アーム、ハンドリング治具、ウエハー搬送用ピンセット、ウエハーリフターピン等、プラズマチャンバ内で用いる部品が挙げられる。本発明の黒色アルミナ焼結体は、これらの部材の材料として用いてもよい。
【実施例0057】
〔評価測定方法〕
(1)表面粗さ(μm)
作製したアルミナ焼結板の表面粗度を、表面粗さ測定器(ミツトヨ製 サーフテストSV-400)を用いて測定した。
【0058】
(2)全反射率(%)
作製したアルミナ焼結板の全反射率を、コニカミノルタ製の分光測色器CM-2500dを用いて測定を行った。測定条件は次の通りである。測定は3回行い、平均値を採用した。
波長:360nm~740nm
測定径:8mm
光源:D65光源、観察視野:10°
【0059】
(3)表面抵抗率(Ω/sq)及び体積抵抗率(Ω・cm)
作製したアルミナ焼結板(厚さ5mm)について、測定部位50mm×50mmで、シムコジャパン製の表面抵抗計ST-4にて測定した(測定時間:15秒)。測定は室温にて行った。得られた測定値(表面抵抗率)を用いて、下記式に基づき、体積抵抗率を算出した。
体積抵抗率(Ω・cm)=表面抵抗率×0.5
【0060】
(4)曲げ強度(MPa)
作製したアルミナ焼結体(径6mm、長さ40mmの丸棒)について、JIS R1601に準じて、測定器(オリエンテック製テンシロン万能試験機RTM-500)を用いて、3点曲げ試験により破壊時の最大荷重を測定した。
【0061】
〔アルミナ焼結板の作製〕
作製方法1(Aタイプのアルミナ焼結板)
純度99.8%のAl(D50=0.5μm)、CuO(D50=5μm)、MnO(D50=1μm)、Fe(D50=0.5μm)、Cr(D50=5μm)、Co(D50=5μm)、NiO(D50=5μm)、SiO(D50=0.5μm)を、所定割合で混合し、精製水及びバインダーとしてポリビニルアルコール0.5重量%となる重量を加えてスラリーを調製し、スプレードライにより造粒した。得られた顆粒を成形型に充填し、加圧力200MPaでCIP成形した。得られた成形体を、1500℃で2~4時間、焼成することにより、60mm×50mm、厚み5mmのアルミナ焼結板を得た。気孔率は0~2%であった。
【0062】
作製方法2(Bタイプのアルミナ焼結板)
純度99.8%のAl(D50=0.4μm)、CuO(D50=1.0μm)、MnO(D50=0.7μm)、Fe(D50=0.1μm)を、所定割合で混合し、精製水及びバインダーとしてポリビニルアルコール0.5重量%となる重量を加えてスラリーを調製し、スプレードライにより造粒した。得られた顆粒を成形型に充填し、加圧力200MPaでCIP成形した。得られた成形体を、1400~1500℃で2~4時間、焼成することにより、60mm×50mm、厚み5mmのアルミナ焼結板を得た。
得られた焼結体の気孔率はほぼ0%であった。
【0063】
〔表面粗度と反射率、電気抵抗率との関係〕
上記Al、CuO、MnO、Feを、表1及び表2に示す割合で混合し、6種類の焼結体サンプル(セラミックシート)を製造した(作製方法1)。製造した各焼成体サンプルを、#140、#400、#1000の研磨用シートを用いて研磨し、表面粗さ0.19~0.4μmとした。
【0064】
作成したアルミナ焼結体サンプルについて、反射率及び抵抗率を測定した。測定結果を組成とともに表1及び表2に示す。また、表面粗さと全反射率の関係、表面粗さと体積抵抗率との関係を示すグラフを、図7及び図8に示す。
図中、黒三角、黒丸、黒四角はそれぞれCuOの含有率が6%、8%、10%の場合である。また、白三角、白丸、白四角はそれぞれアルミナの含有率が80%、85%、90%の場合を示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
図7からわかるように、全反射率は、表面粗さに依存する傾向にあることがわかる。しかしながら、図7(a)からわかるように、表面粗さが同程度の場合、Cuの含有率と反射率とは特段関係が認められなかったのに対して、アルミナの含有率は、80%、85%、90%の順で高くなる傾向にあった(図7(b))。
【0068】
一方、体積抵抗率については、図8からわかるように、表面粗さとの相関性は認められなかった。図8(a)から、Cuの含有率と体積抵抗率との関係は顕著であり、Cuの含有率が増大するほど、体積抵抗率を低下していた。一方、アルミナ含有率については、90%の場合は体積抵抗率が大きくなるが、80%と85%では、85%の体積抵抗率の方が低くなっており、体積抵抗率に対して、Cu以外の成分の影響が大きくなったためと考えられる。
【0069】
〔セラミックス組成と反射率、体積抵抗率との関係〕
表3、表4に示す比率で混合したスラリーを用いて、作製方法1に基づきアルミナ焼結板No.1-11(表3)、No.21-36(表4)を製造した。焼結板の表面粗さを測定したところ、0.45~0.6μmの範囲内であった。No.21-36については、#400で表面を研磨し、表面粗さを0.25~0.4μmとした。
【0070】
作製したアルミナ焼結板の全反射率及び表面抵抗率を測定した。得られた表面抵抗率に基づき、体積抵抗率を算出した。
表3に基づき、Cuの含有率と体積抵抗率の関係を示すグラフを、図10に示す。また、No.1、6、8、11の360~600nmの全反射率の変化チャートを、図9に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
表3及び図10から、アルミナの含有率が80重量%、85重量%、90重量%のいずれにおいても、Cuの含有率が増大するにしたがって、体積抵抗率が低下する傾向が確認できた。そして、酸化物換算でCuの含有率が5重量%程度から、Cuの含有率の減少にともない、急激に体積抵抗率が上昇する傾向(10の8乗オーダー以上)となることが認められた。
なお、CuOを5重量%以上含有するNo.1,6,8,11のアルミナ焼結板の反射率は、いずれも9%以下であった。しかしながら、Cuの含有率における差異は特段認められなかった。また、図9からわかるように、360~550nmでの全反射率はほぼ一定であった。
【0074】
表4のNo.21-23から、アルミナとCuOのみで構成される場合(CuO15重量%以上)では、Cuによる体積抵抗率の低下効果はほぼ飽和し、10オーダー程度にとどまると考えられる。
Cuを全く含有しない場合、アルミナ85重量%以上では、他の導電性付与成分(MnO、Fe、TiO)を添加しても、体積抵抗率は10~1011オーダー程度であり、Cuに匹敵する抵抗率の低減効果は認められなかった(No.25、26、32、33)。そして、SiOは、Cuほどではないが、導電性付与成分としても作用し、抵抗率低減効果に寄与することを確認できた(No.30)。
【0075】
また、反射率に関して、アルミナとCuOのみでは10%未満の黒色アルミナを得ることは困難であった。No.21は、全反射率が10%未満であるが、茶色を呈していた。黒色化を達成するためには、CuO以外の着色成分との併用が必要であった。
一方、Cuの含有率と反射率との特段の相関性は認められないものの、No.33から、Cuの含有は、反射率低減に寄与すると考えられる。
【0076】
なお、No.25,26から、着色成分として、MnO及びFeに加えてCr又はCoを用いた場合、400nmの全反射率は、7.8~10.9%であった。一方、Cr又はCoに代えてCuOを5重量%以上含有する場合には、400nmの全反射率は8.3~9.3%であった(表1,表2の#400参照)。したがって、着色成分として、Cr、Coに代えて、CuOを使用しても、黒色アルミナとして所望の反射率を達成できることがわかる。
【0077】
〔セラミック組成と強度、反射率、抵抗率の関係〕
Al、CuO、MnO、Feを、表5に示す割合で混合し、作製方法1に基づき、Aタイプのアルミナ焼結体No.41-52を作製した。各焼結体の密度は組成にもよるが、3.82-4.04であった。気孔率はほぼ0%であった。
得られたアルミナ焼結体の表面を#400の研磨用シートを用いて研磨し、表面粗さ0.25~0.4μmとした。
【0078】
作成したアルミナ焼結体サンプルについて、上記評価方法にしたがって、反射率(#400研磨表面)、抵抗率、曲げ強度を測定した。測定結果を組成ともに表5に示す。
参考のためのアルミナ100%の場合を、No.40として、併せて表5に示す。
さらに、作製方法2に基づき作製したBタイプのアルミナ焼結体No.53(気孔率0%)の結果も併せて表5に示す。
また、CuOの含有率と曲げ強度の関係を示すグラフを、図11に示す。図11中、白丸は、No.53の強度である。
【0079】
【表5】
【0080】
着色成分を含まないアルミナ(No.40)の全反射率は85%で白色ないしはアイボリーである。着色成分として、CuO(5重量%以上)、MnO、Feを含有させた場合には、反射率8.0~9.0%の範囲内で、Cuの含有率による顕著な差異は認められなかった。
なお、着色成分として、CuO、MnO、Feを含有させた場合でも、アルミナが90重量%以上で、CuOが5重量%未満の場合には、反射率は10%を超えていた(No.50)。
【0081】
図11から、CuOの添加により強度が低下する傾向にあることがわかる。保持盤の用途として好ましい強度230MPa以上を確保するためには、CuOの含有率を13重量%以下とすることが好ましい。一方、平均粒径(D50)1.5μm以下の微粉末を原料粉末として使用することで、CuOの含有率が等しい場合であっても、強度を10%程度高めることができた(No.53)。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の黒色アルミナ焼結体は、毒物指定のCr、Coの酸化物を含まなくても、400nmでの全反射率10%未満を達成でき、しかも体積抵抗率が10の5乗~8乗オーダーで帯電しにくい。したがって、半導体の露光処理や半導体の搬送など、静電放電、露光の反射光が問題となるような精密回路パターンの製造装置(露光装置)におけるワークの保持盤、可動ステージ、真空チャックなどの構成材料として好適である。
【符号の説明】
【0083】
1、1′ 保持盤
2 凸部(ピン)
3 凹部
5 保持盤
6 貫通孔
10 真空チャック
11 基体
12 保持盤
16 保持盤
17 支持台
S,S′ 保持面
Q 吸着面
W ワーク

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11