(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121417
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】蓄熱ボードの製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/02 20060101AFI20220812BHJP
B27K 3/34 20060101ALI20220812BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20220812BHJP
C09K 5/06 20060101ALI20220812BHJP
【FI】
B27N3/02 B
B27K3/34 Z
F28D20/02 D
C09K5/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018152
(22)【出願日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021018348
(32)【優先日】2021-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000413
【氏名又は名称】永大産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】川端 文治
(72)【発明者】
【氏名】池内 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】高村 実秋
【テーマコード(参考)】
2B230
2B260
【Fターム(参考)】
2B230AA30
2B230BA01
2B230BA17
2B230CB01
2B230CB04
2B230EB02
2B260AA20
2B260BA01
2B260CB01
2B260CD02
2B260EB01
2B260EB21
(57)【要約】
【課題】蓄熱ボードの表面から蓄熱材の滲み出しが少ない蓄熱ボードの製造方法を提供する。
【解決手段】木質チップ11を加熱し、木質チップ11の木材に由来する導管11aの水分WAを除去する水分除去工程S2と、木質チップ11に、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料12を塗布し、導管11aに蓄熱材料12を導入する蓄熱材導入工程S3と、木質チップ11に接着剤13を塗布する接着剤塗布工程S4と、接着剤13を塗布した木質チップ11から、フォーミングマット10’を作製するマット作製工程S5と、フォーミングマット10’を熱圧することにより、蓄熱ボード10を成形するボード成形工程S6とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱性を有した蓄熱ボードを製造する製造方法であって、
木質チップを加熱し、前記木質チップの木材に由来する導管の水分を除去する水分除去工程と、
前記水分を除去した前記木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料を塗布し、前記導管に前記蓄熱材料を導入する蓄熱材導入工程と、
前記蓄熱材料を前記導管に導入した前記木質チップに接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、
前記接着剤を塗布した前記木質チップから、フォーミングマットを作製するマット作製工程と、
前記フォーミングマットを熱圧することにより、蓄熱ボードを成形するボード成形工程と、
を含むことを特徴とする蓄熱ボードの製造方法。
【請求項2】
蓄熱性を有した蓄熱ボードを製造する製造方法であって、
木質チップを加熱し、前記木質チップの木材に由来する導管の水分を除去する水分除去工程と、
前記水分を除去した前記木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料と接着剤とを塗布し、前記木質チップの表面の一部が露出するように前記木質チップに接着剤を少なくとも付着させ、かつ、露出した前記木質チップの表面から、前記蓄熱材料を、前記導管に導入する蓄熱材導入工程と、
前記蓄熱材料が導入された前記木質チップから、フォーミングマットを作製するマット作製工程と、
前記フォーミングマットを熱圧することにより、蓄熱ボードを成形するボード成形工程と、
を含むことを特徴とする蓄熱ボードの製造方法。
【請求項3】
前記蓄熱材導入工程において、前記接着剤の粘度よりも、前記蓄熱材料の粘度が低くなるように、前記蓄熱材料を加熱することを特徴とする請求項2に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項4】
前記蓄熱材導入工程において、前記接着剤の塗布と前記蓄熱材料の塗布を交互に繰り返すことを特徴とする請求項2または3に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項5】
前記蓄熱材導入工程において、前記木質チップの温度を、前記蓄熱材料の塗布時の前記蓄熱材料の温度以上の温度に調整し、温度を調整した状態の前記木質チップに、前記蓄熱材料を塗布し、前記蓄熱材料を前記導管に導入することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項6】
前記蓄熱材導入工程よりも後、かつ、前記ボード成形工程よりも前に、前記木質チップに水を塗布することを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項7】
前記水を塗布する際に、前記潜熱蓄熱材の相変化温度よりも高い温度に加熱された水を塗布することを特徴とする請求項6に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項8】
前記水の塗布を、前記フォーミングマットの表面を形成する木質チップに行うことを特徴とする請求項6または7に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項9】
前記蓄熱ボードの製造方法は、両面に配置された一対の表層と、前記一対の表層の間に配置された内部層と、を備えた蓄熱ボードを製造する方法であり、
前記水分除去工程において、前記木質チップとして、前記表層を構成する第1木質チップと、前記第1木質チップよりも大きく、前記内部層を構成する第2木質チップに対して、水分の除去を行い、
前記蓄熱材導入工程において、前記第1木質チップに対して、前記第2木質チップの方が、単位重量あたりの蓄熱材料の導入量が多くなるように、前記第1および第2木質チップに前記蓄熱材料を塗布し、
前記水を塗布する際に、前記第2木質チップに対して、前記第1木質チップの方が、単位重量あたりの水の塗布量が多くなるように、前記第1および第2木質チップに前記水を塗布することを特徴とする請求項6または7に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【請求項10】
前記蓄熱材料は、前記潜熱蓄熱材と常温硬化型樹脂とを混合した混合物であり、
前記蓄熱材導入工程から前記ボード成形工程が完了するまでの間、前記木質チップに含浸された前記混合物の潜熱蓄熱材を溶融させた状態を維持し、
前記ボード成形工程の完了後、前記潜熱蓄熱材が溶融した状態で、前記常温硬化型樹脂の硬化を完了させることを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の蓄熱ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱ボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光等の自然エネルギー、冷暖房装置等により発生する熱エネルギー、または、生活において発生する熱エネルギー等を潜熱蓄熱材に蓄熱し、外気温の変動に対して吸熱・放熱を行うことで室内の温度変化を極力小さくする提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、木質ボードなどの多孔質基材に硬化性蓄熱組成物を、硬化性蓄熱組成物中の蓄熱材の融点以上の温度で含浸させ、多孔質基材内に含浸した硬化性蓄熱組成物を硬化させる蓄熱ボードの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す蓄熱ボードの製造方法によれば、多孔質基材の空隙に、多くの蓄熱材が含まれてしまうため、蓄熱ボードの製造時および使用時に、蓄熱ボードの表面から、蓄熱材が滲み出すおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、蓄熱ボードの表面から蓄熱材の滲み出しが少ない蓄熱ボードの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を鑑みて、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、蓄熱ボードを形成する前の木質チップの状態で、木質チップの導管に潜熱蓄熱材を導入することができれば、木質チップ同士の隙間に存在する潜熱蓄熱材の量を減らし、蓄熱ボードから潜熱蓄熱材が滲み出すことを低減できるとの新たな知見を得た。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、第1の発明に係る蓄熱ボードの製造方法は、蓄熱性を有した蓄熱ボードを製造する製造方法であって、木質チップを加熱し、前記木質チップの木材に由来する導管の水分を除去する水分除去工程と、前記水分を除去した前記木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料を塗布し、前記導管に前記蓄熱材料を導入する蓄熱材導入工程と、前記蓄熱材料を前記導管に導入した前記木質チップに接着剤を塗布する接着剤塗布工程と、前記接着剤を塗布した前記木質チップから、フォーミングマットを作製するマット作製工程と、前記フォーミングマットを熱圧することにより、蓄熱ボードを成形するボード成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
第1の発明によれば、木質チップを加熱することで、木質チップに形成された導管から水分等を除去する。水分が除去された木質チップに蓄熱材料を塗布することにより、木質チップに形成された導管に蓄熱材料が導入され易くなるため、より多くの蓄熱材料を木質チップの内部に保持することができる。
【0010】
また、接着剤塗布工程の際に、接着剤を塗布したとしても、導管には蓄熱材料が入り込んでいるため、塗布された接着剤は木質チップの表面に付着し易い。したがって、このような木質チップから作製されたフォーミングマットを熱圧しても、木質チップに含浸された蓄熱材料は、滲み出し難いため、成形された蓄熱ボードに、潜熱蓄熱材を保持することができるとともに、木質チップ同士の接着性を高めることができる。
【0011】
第2の発明に係る蓄熱ボードの製造方法は、蓄熱性を有した蓄熱ボードを製造する製造方法であって、木質チップを加熱し、前記木質チップの木材に由来する導管の水分を除去する水分除去工程と、前記水分を除去した前記木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料と接着剤とを塗布し、前記木質チップの表面の一部が露出するように前記木質チップに接着剤を少なくとも付着させ、かつ、露出した前記木質チップの表面から、前記蓄熱材料を、前記導管に導入する蓄熱材導入工程と、前記蓄熱材料が導入された前記木質チップから、フォーミングマットを作製するマット作製工程と、前記フォーミングマットを熱圧することにより、蓄熱ボードを成形するボード成形工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
第1の発明と同様に、第2の発明も、木質チップを加熱することで、木質チップに形成された導管から水分等を除去する。水分が除去された木質チップに蓄熱材料を塗布することにより、木質チップに形成された導管に蓄熱材料が導入され易くなるため、より多くの蓄熱材料を木質チップの内部に保持することができる。
【0013】
ここで、第1の発明とは異なり、第2の発明では、蓄熱材導入工程と、接着剤塗布工程とを、分けて行わず、蓄熱材導入工程において、水分を除去した木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料と接着剤とを塗布する。この際に、木質チップの表面の一部が露出するように木質チップに接着剤を少なくとも付着させ、かつ、露出した木質チップの表面から、蓄熱材料を、導管に導入する。これにより、蓄熱材料を導管に導入される前に、接着剤が、木質チップに付着することもあるが、接着剤から木質チップの表面が露出しているため、露出した表面から、蓄熱材料を導管に導入することができる。さらに、木質チップの表面の一部に付着した接着剤は、木質チップに含浸されるので、接着剤の一部が木質チップの表層に含浸されるため、蓄熱ボードの成形時の木質チップ同士の接着性を向上させることができる。
【0014】
なお、第2の発明でいう、蓄熱材導入工程における「前記木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料と接着剤とを塗布する」とは、1つの木質チップに対して、蓄熱材料と接着剤とを同時に塗布する場合、または、時間差で、蓄熱材料と接着剤とを塗布する場合のいずれの塗布であってもよく、「木質チップの表面の一部が露出するように木質チップに接着剤を少なくとも付着させ、かつ、露出した木質チップの表面から、蓄熱材料を、前記導管に導入する」ことができるのであれば、特に限定されるものではない。
【0015】
ここで、第2の発明の蓄熱材導入工程において、接着剤を木質チップの表面に付着させ、かつ、木質チップの導管に、蓄熱材料を導入することができるのであれば、塗布される潜熱蓄熱材および接着剤の温度は、特に限定されない。
【0016】
しかしながら、第2の発明のより好ましい態様としては、前記蓄熱材導入工程において、前記接着剤の粘度よりも、前記蓄熱材料の粘度が低くなるように、前記蓄熱材料を加熱する。
【0017】
この態様によれば、接着剤の粘度よりも、蓄熱材料の粘度が低いため、木質チップに塗布された接着剤に比べて、木質チップに塗布された蓄熱材料がより導管に導入され易くなる。
【0018】
さらに、接着剤と蓄熱材との塗布の方法は、特に限定されるものではないが、第2の発明の好ましい態様としては、前記蓄熱材導入工程において、前記接着剤の塗布と前記蓄熱材の塗布を交互に繰り返す。
【0019】
この態様によれば、接着剤の塗布と蓄熱材の塗布とを交互に繰り返すことにより、一回の塗布で接着剤が木質チップに過度に浸み込むことを抑えつつ、蓄熱材を導管に導入でき、さらには、木質チップの表面に、接着剤をより均一に塗布することができる。
【0020】
ここで、第1および第2の発明の蓄熱材導入工程において、木質チップ内の導管に蓄熱材料が導入され、ボード成形工程後に蓄熱材料に含まれる潜熱蓄熱材が凝固するのであれば、蓄熱材導入工程における木質チップの温度条件は、特に限定されるものではない。
【0021】
しかしながら、第1および第2の発明において、より好ましい態様としては、前記蓄熱材導入工程において、前記木質チップの温度を、前記蓄熱材料の塗布時の前記蓄熱材料の温度以上の温度に調整し、温度を調整した状態の前記木質チップに、前記蓄熱材料を塗布し、前記蓄熱材料を前記導管に導入してもよい。
【0022】
この態様によれば、蓄熱材導入工程において、木質チップを、塗布時の蓄熱材料の温度以上(具体的には、溶融した状態の潜熱蓄熱材の温度以上)の温度まで加熱するなどして温度調整することにより、塗布された蓄熱材料には、木質チップの熱が入熱される。このような結果、木質チップの導管内に蓄熱材料が導入された際に、蓄熱材料の熱は奪われること無く、蓄熱材料の動粘度の上昇を抑えることができるため、木質チップのより内部の導管にまで、蓄熱材料をより短時間で導入することができる。
【0023】
ここで、第1および第2の発明の成形工程における、フォーミングマットへの熱圧により、蓄熱材料に含まれる潜熱蓄熱材が滲み出し難いのであれば、ボード成形工程までの間に、他の作業を行ってもよく、その作業内容は特に限定されるものではない。
【0024】
しかしながら、第1および第2の発明において、より好ましい態様としては、前記蓄熱材導入工程よりも後、かつ、前記ボード成形工程よりも前に、前記木質チップに水を塗布する。
【0025】
蓄熱材導入工程よりも後、かつ、ボード成形工程よりも前に、木質チップに水を塗布することにより、ボード成形工程時に、塗布した水は蒸気となる。この蒸気により、導管に導入された蓄熱材料を、導管の内部に押し込むことができる。また、ボード成形工程時に、木質チップの表面に付着した水分蒸発の圧力で、熱圧時に、蓄熱ボードの表面からの潜熱蓄熱材の滲み出しを抑えることができる。
【0026】
ここで、塗布する水は、水を蒸気にし、蓄熱ボードの表面からの潜熱蓄熱材の滲み出しを抑えることができるのであれば、常温であってもよく、加熱されていてもよい。しかしながら、第1および第2の発明において、より好ましい態様としては、前記水を塗布する際に、前記潜熱蓄熱材の相変化温度よりも高い温度に加熱された水を塗布する。
【0027】
この態様によれば、潜熱蓄熱材の相変化温度よりも高い温度に加熱された水を塗布することにより、潜熱蓄熱材が局所的に凝固して析出することを抑えることができる。これにより、木質チップの内部において、潜熱蓄熱材が分散した状態を確保することができる。
【0028】
さらに、このような水の塗布は、フォーミングマット作製前、蓄熱材料を導入した木質チップに行ってもよく、フォーミングマットの成形時に行ってもよい。第1および第2の発明において、より好ましい態様としては、前記水の塗布を、前記フォーミングマットの表面を形成する木質チップに行う。
【0029】
この態様によれば、フォーミングマットの表面は、熱圧装置(ホットプレス装置)により加熱されるところ、このタイミングで、フォーミングマットの表面の水が蒸気化し易い。生成された蒸気は、フォーミングマットの表面の木質チップの導管において、導入された蓄熱材料をさらに内部(導管の奥)に押し込むとともに、フォーミングマットの内部に流れ込む。これにより、蓄熱材料12に含まれた潜熱蓄熱材が、成形後の蓄熱ボードの表面から、滲み出すことを抑えることができる。
【0030】
さらに、蓄熱ボードは、蓄熱性と機械的強度を確保することができるのであれば、単層構造で構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよい。しかしながら、第1および第2の発明において、より好ましい態様としては、前記蓄熱ボードの製造方法は、両面に配置された一対の表層と、前記一対の表層の間に配置された内部層と、を備えた蓄熱ボードを製造する方法であり、前記水分除去工程において、前記木質チップとして、前記表層を構成する第1木質チップと、前記第1木質チップよりも大きく、前記内部層を構成する第2木質チップに対して、水分除去を行い、前記蓄熱材導入工程において、前記第1木質チップに対して、前記第2木質チップの方が、単位重量あたりの蓄熱材料の導入量が多くなるように、前記第1および第2木質チップに前記蓄熱材料を塗布し、前記水を塗布する際に、前記第2木質チップに対して、前記第1木質チップの方が、単位重量あたりの水の塗布量が多くなるように、前記第1および第2木質チップに前記水を塗布する。
【0031】
この態様によれば、第1木質チップに対して、第2木質チップの方が、単位重量あたりの蓄熱材料の導入量が多いので、蓄熱ボードの内部層で蓄熱性を高め、蓄熱ボードの表層を構成する第1木質チップから潜熱蓄熱材が滲み出し難い。
【0032】
さらに、水を塗布する際に、第2木質チップに対して、第1木質チップの方が、単位重量あたりの水の塗布量が多くなるように、第1および第2木質チップに前記水を塗布する。これにより、ボード成形工程において、蓄熱ボードの表層に含まれた水が蒸発した蒸気が、表層よりも空隙が大きい内部層に送り込まれ、蓄熱ボードの側面から流出する。このような水蒸気の流れにより、蓄熱ボードの表面から潜熱蓄熱材が滲み出すことを抑えることができる。
【0033】
ここで、蓄熱ボードの蓄熱性を確保することができるのであれば、蓄熱材料(蓄熱組成物)は、潜熱蓄熱材のみで構成されていてもよく、その他の樹脂や溶媒などが混合した混合物であってもよく、その構成は、特に限定されるものではない。
【0034】
しかしながら、第1および第2の発明において、より好ましい態様としては、前記蓄熱材料は、前記潜熱蓄熱材と常温硬化型樹脂とを混合した混合物であり、前記蓄熱材導入工程から前記ボード成形工程が完了するまでの間、前記木質チップに含浸された前記混合物の潜熱蓄熱材を溶融させた状態を維持し、前記ボード成形工程の完了後、前記潜熱蓄熱材が溶融した状態で、前記常温硬化型樹脂の硬化を完了させる。
【0035】
この態様によれば、ボード成形工程の完了後に、常温硬化型樹脂が硬化するため、常温硬化型樹脂が細かい3次元網目構造を形成しながら硬化し、3次元網目構造の内部に潜熱蓄熱材が保持されて凝固する。このような結果、混合物から、潜熱蓄熱材が滲み出し難くすることができる。
【0036】
なお、常温硬化型接着剤は、加熱による重合反応または架橋反応により硬化が促進される熱硬化性樹脂からなる接着剤とは異なり、加熱温度により硬化が促進され難い。このため、常温硬化型接着剤の主成分および溶媒等の比率を調整し、潜熱蓄熱材の種類、加熱温度、および加熱時間を調整すれば、「成形工程の完了後、潜熱蓄熱材が溶融した状態で、常温硬化型樹脂の硬化を完了させる」ことを実施できることは、当業者であれば、自明である。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る蓄熱ボードによれば、蓄熱ボードの表面から蓄熱材の滲み出しが少ない蓄熱ボードの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】第1の発明の第1実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図2A】
図1に示す水分除去工程を説明するための模式的概念図である。
【
図2B】
図1に示す蓄熱材導入工程を説明するための模式的概念図である。
【
図2C】
図1に示す接着剤塗布工程を説明するための模式的概念図である。
【
図2D】
図1に示すマット作製工程とボード成形工程を説明するための模式的概念図である。
【
図2E】
図1に示す製造方法で製造された蓄熱ボードの模式的断面図である。
【
図3】第1の発明の第2実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図4A】
図3に示す水塗布工程を説明するための模式的概念図である。
【
図4B】
図3に示すボード成形工程における木質チップ内部に存在する蓄熱材料の状態を説明するための模式的概念図である。
【
図5】第1の発明の第3実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図6A】
図5に示すマット作製工程を説明するための模式的概念図であり、(a)は、表層に相当する第1表層マットを形成する工程を示した図であり、(b)は、表層に相当する第1表層マットに、内部層に相当する内部層マットを積層する工程を説明するための図であり、(c)は、内部層マットに、さらに表層に相当する第2表層マットを積層する工程を説明するための図である。
【
図6B】
図5に示す製造方法で製造された蓄熱ボードの模式的断面図である。
【
図7】第1の発明の第4実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図の一部であり、マット作製工程の詳細を説明するためのフロー図である。
【
図8】(a)~(c)は、
図7に示す第1~第3水塗布工程を説明するための模式図である。
【
図9】第1の発明の第4実施形態の変形例に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図10】第2の発明の第1実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図11】(a)~(c)は、
図10に示す蓄熱材導入工程の詳細を説明するための模式図である。
【
図12】
図11に示す蓄熱材導入工程の詳細を説明するための別の模式図である。
【
図13】第2の発明の第2実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図14】第2の発明の第3実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【
図15】第2の発明の第4実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図の一部であり、マット作製工程の詳細を説明するためのフロー図である。
【
図16】第2の発明の第4実施形態の変形例に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
A.第1発明の実施形態について
〔第1実施形態〕
以下に、
図1~
図2Eを参照しながら、第1の発明の第1実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を以下に説明する。
図1は、第1の発明の第1実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図であり、
図2A~
図2Dは、
図1に示す各工程の詳細を説明するための模式図であり、
図2Eは、
図1に示す製造方法で製造された蓄熱ボードの模式的断面図である。
【0040】
本実施形態では、
図2Eに示す蓄熱性を有した蓄熱ボード10を製造する。蓄熱ボード10は、たとえば、壁材、床材、天井材などの建材や、建具または収納家具などの基材として利用される板材である。蓄熱ボード10は、蓄熱材料を内部に有した木質チップ11を接着剤で接着するとともに熱圧成形したボードである。
【0041】
蓄熱ボード10を構成する木質チップ11は、接着剤で接着されており、木質チップ11の導管には、樹脂材料が充填されており、例えば、特許文献1に示す蓄熱ボードを構成する木質チップに比べて、木質チップ11の内部には蓄熱材料がより多く充填されている。蓄熱材料は、後述するように、潜熱蓄熱材を含む樹脂材料である。
【0042】
〔チップ作製工程S1〕
この製造方法では、まず、
図1に示すチップ作製工程S1を行う。この工程では、木材から木質チップを作製する。木質チップ11は、マツ、スギ、ヒノキ等の針葉樹、ラワン、カポール、ポプラ等の広葉樹で構成される木片である。木質チップ11は、木材等を破砕機や切削機によって破砕や切削して小片化してチップとしたものである。小片化したチプは、篩を用いて所望の大きさに分級されていてもよい。
【0043】
〔水分除去工程S2〕
準備された木質チップ11は、表面の乾燥がある程度行われるが、
図2Aの左図に示すように、木質チップ11の導管11aには、水分WAが残存している。そこで、本実施形態では、
図1に示す水分除去工程S2を行う。
【0044】
この工程では、
図2Aに示すように、木質チップ11を加熱し、加熱した熱H1により、木質チップ11の木材に由来する導管11aの水分を除去する。具体的には、木質チップ11を従来よりも長い時間加熱する。この際、加熱温度を従来の温度よりも高くしてもよい。なお、水分除去は、木質チップ11のすべての水分が除去されなくてもよい。
【0045】
たとえば、木質チップ11の加熱温度は、50~200℃の範囲であり、加熱時間は、10~120分の範囲であり、この加熱条件の範囲において、木質チップ11の含水率を9質量%以下にすることが好ましく、より好ましくは、5質量%以下にする。
【0046】
〔蓄熱材導入工程S3〕
次に、
図1に示す蓄熱材導入工程S3を行う。この工程では、
図2Bに示すように、導管11aの水分を除去した木質チップ11に、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料12を塗布し、導管11aに蓄熱材料12を導入する。
【0047】
蓄熱材料12は、潜熱蓄熱材を含む樹脂組成物であり、蓄熱性を確保することができるのであれば、その構成は特に限定されるものではない。具体的には、有機溶媒、熱可塑性樹脂、または熱硬化性樹脂などがさらに混合された混合物であってもよい。
【0048】
潜熱蓄熱材の液相から固相への相変化温度(融点)は、18~35℃であることが好ましい。潜熱蓄熱材としては、n-ヘキサデカン、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、n-ノナデカン等或いはこれらの混合物で構成される、典型的には炭素数16~24の、n-パラフィンやパラフィンワックス等の飽和脂肪族炭化水素;1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン等或いはこれらの混合物で構成される、典型的には炭素数16~24の、直鎖α-オレフィン等の一価または多価不飽和脂肪族炭化水素;オクタン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸等或いはこれらの混合物で構成される長鎖脂肪酸;上記脂肪酸のエステル、ポリエチレングリコール等のポリエーテル化合物等を挙げることができる。例えば28℃で融解するものであれば、n-オクタデカンを選択し、18℃で融解するものであれば、n-ヘキサデカンを選択する。さらに、上述した融点の異なる複数の潜熱蓄熱材を混合して用いてもよい。
【0049】
蓄熱材料に熱硬化性樹脂を含む場合には、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型または熱硬化型の熱硬化性樹脂でよく、例えば、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、またはアルキド樹脂等を挙げることができる。本実施形態では、熱硬化性樹脂は、ポリオールとイソシアネートとを用いて得られる、2液性常温硬化型のポリウレタン樹脂などの常温硬化型の熱硬化性樹脂が好適である。
【0050】
なお、熱硬化性樹脂が、2液性常温硬化型のポリウレタン樹脂など常温硬化型の樹脂である場合には、樹脂に入熱される熱量以外に、これらの混合比や、反応触媒の種類またはその量等を調整することにより、硬化のタイミングが調整し易いことが一般的に知られている。したがって、後述するように、「潜熱蓄熱材が溶融した状態で、常温硬化型樹脂の硬化を完了させる」ように、調整することが容易となる。
【0051】
このようにして、混合物の形態で、潜熱蓄熱材を溶融させた状態を維持し、常温硬化型樹脂を硬化することができるため、常温硬化型樹脂が細かい3次元網目構造を形成しながら硬化し、3次元網目構造の内部に潜熱蓄熱材を保持した状態で凝固させることができる。このような結果、混合物から、潜熱蓄熱材が滲み出し難くすることができる。
【0052】
ここで、蓄熱材料12を塗布する際には、蓄熱材料12が液状であることが好ましく、少なくとも潜熱蓄熱材が溶融した状態の蓄熱材料12を塗布する。また、木質チップ11は、水分除去工程S2で加熱されており、放冷等により冷却されたものを用いてもよい。
【0053】
しかしながら、蓄熱材導入工程S3の好ましい態様としては、水分除去工程S2において、木質チップ11を加熱した状態を維持して(すなわち、継続して加熱した状態で)、蓄熱材料12を塗布することが好ましい。具体的には、
図2Bに示すように、木質チップ11の温度を、蓄熱材料12の塗布時の蓄熱材料12の温度以上の温度に調整し、温度を調整した状態の木質チップ11に、蓄熱材料12を塗布し、蓄熱材料12を導管11aに導入する。たとえば、木質チップ11の温度が、蓄熱材料12の塗布時の蓄熱材料12の温度よりも低い場合、
図2Bに示すように、温度調整装置(図示せず)からの熱H2により加熱し、加熱した状態の木質チップ11に、蓄熱材料12を塗布し、蓄熱材料12を導管11aに導入する。
【0054】
蓄熱材導入工程S3において、木質チップ11を、溶融した状態の潜熱蓄熱材の温度以上に加熱することにより、塗布された蓄熱材料12には、木質チップ11の熱が入熱される。このような結果、木質チップ11の導管11a内に蓄熱材料12が導入された際に、蓄熱材料12の熱は奪われること無く、蓄熱材料12の動粘度の上昇を抑えることができる。このため、木質チップ11のより内部の導管11aにまで、蓄熱材料12をより短時間で導入することができる。
【0055】
蓄熱材導入工程S3では、液状など流動可能な状態の蓄熱材料12をスプレーにより、木質チップ11に塗布してもよく、蓄熱材料12を刷毛により塗布してもよく、蓄熱材料12と共に木質チップ11を混ぜ合わせてもよく、その塗布方法は特に限定されるものではない。
【0056】
このように、水分除去工程S2において、水分が除去された木質チップ11に蓄熱材料12を塗布することにより、木質チップ11に形成された導管11aに蓄熱材料12が導入され易くなる。このため、より多くの蓄熱材料12を木質チップ11の内部に保持することができる。
【0057】
〔接着剤塗布工程S4〕
次に、
図1に示す接着剤塗布工程S4を行う。この工程では、蓄熱材料12を導管11aに導入した木質チップ11に接着剤13を塗布する。本実施形態では、蓄熱材導入工程S3において、木質チップ11の導管11aに蓄熱材料12が既に導入されているので、接着剤13は、木質チップ11の表面に付着しやすい。これにより、僅かな量の接着剤13で、木質チップ11、11同士の接着性を高めることができる。
【0058】
接着剤13は、特に限定されないが、本実施形態では、熱硬化性樹脂の接着剤であることが好ましい。熱硬化性樹脂の接着剤としては、例えば、ポリウレタン系接着剤、尿素樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、ユリア・メラミン共縮合樹脂接着剤、またはフェノール樹脂接着剤等を挙げることができる。
【0059】
この他にも、接着剤13としては、イソシアネート系接着剤であってもよい。イソシアネート系接着剤としては、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDIプレポリマー、TDIプレポリマー、およびこれらの2種以上混合したもの等のイソシアネート系接着剤である。
【0060】
イソシアネート系接着剤は、水分と反応し硬化する湿気硬化型の接着剤であるので、例えば、第2実施形態で示す水の塗布により、ボード成形のタイミングで、接着剤13の硬化を促進することができる。これにより、木質チップ11同士の接着性を高めることができる。
【0061】
接着剤塗布工程S4では、接着剤13をスプレーにより、木質チップ11に塗布してもよく、蓄熱材料12を刷毛により塗布してもよく、接着剤13と共に木質チップ11を混ぜ合わせてもよく、その塗布方法は特に限定されるものではない。また、後述するマット作製工程S5の際に、木質チップを層状に積層しながら、接着剤13の塗布を行ってもよい。
【0062】
〔マット作製工程S5〕
以下に、
図1に示すマット作製工程S5を行う。
図2Dに示すように、この工程では、接着剤13を塗布した木質チップ11から、フォーミングマット10’を作製する。本実施形態では、
図2Dに示すプレス装置の台座61の上に、木質チップ11を配置して、これをマット状に成形する(フォーミングマットに成形する)。この際に、フォーミングマット10’の厚さ方向に、層状に木質チップ11を敷き詰めながら、フォーミングマット10’を作製してもよい。
【0063】
〔ボード成形工程S6〕
以下に、
図1に示すボード成形工程S6を行う。
図2Dに示すように、この工程では、作製したフォーミングマット10’を熱圧することにより、蓄熱ボード10を成形する。具体的には、フォーミングマット10’に対してホットプレス装置の加熱された押圧部材62で、熱圧成形を行うことにより蓄熱ボード10を製造する。この際、台座61および押圧部材62の双方を加熱する。フォーミングマット10’をボード状に成形する温度(加熱温度)は、接着剤13の種類にもよるが、たとえば120~220℃の範囲であり、熱圧時の加圧力は、たとえば2~5MPa程度である。
【0064】
本実施形態では、上述した如く、接着剤塗布工程S4の際に、接着剤13を塗布したとしても、導管11aには蓄熱材料12が入り込んでいるため、塗布された接着剤13は木質チップ11の表面に付着し易い。したがって、このような木質チップ11から作製されたフォーミングマット10’を熱圧しても、木質チップ11に含浸された蓄熱材料12は、滲み出し難い。このため、成形された蓄熱ボード10の木質チップ11の内部に、潜熱蓄熱材を保持することができるとともに、木質チップ11、11同士の接着性を高め、蓄熱ボード10の強度を高めることができる。
【0065】
ここで、蓄熱材料12に、潜熱蓄熱材と常温硬化型樹脂とを混合した混合物を用いた場合には、蓄熱材導入工程S3からボード成形工程S6が完了するまでの間、木質チップ11に含浸された混合物の潜熱蓄熱材を溶融させた状態を維持することが好ましい。さらに、ボード成形工程S6の完了後、潜熱蓄熱材が溶融した状態で、常温硬化型樹脂の硬化を完了させる。その後、蓄熱ボード10を放冷することにより、潜熱蓄熱材を凝固させる。
【0066】
ボード成形工程S6の完了後に、常温硬化型樹脂が硬化するため、常温硬化型樹脂が細かい3次元網目構造を形成しながら硬化し、3次元網目構造の内部に潜熱蓄熱材が保持されて凝固する。このような結果、混合物から、潜熱蓄熱材が滲み出し難くすることができる。
【0067】
〔第2実施形態〕
以下に、
図3~
図4Bを参照しながら、第1の発明の第2実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明する。
図3は、第1の発明の第2実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明するためのフロー図である。
図4Aは、
図3に示す水塗布工程S70を説明するための模式的概念図である。
図4Bは、
図3に示すボード成形工程S6における木質チップ11内部に存在する蓄熱材料12の状態を説明するための模式的概念図である。
【0068】
本実施形態が、第1実施形態に係る製造方法と相違する点は、水塗布工程S70を新たに設けた点である。したがって、以下に、第1の発明の第1実施形態と同様の工程に関しては、その詳細な説明を省略し、相違する点のみを説明する。
【0069】
本実施形態では、蓄熱材導入工程S3よりも後、かつ、ボード成形工程S6よりも前に、木質チップ11に水を塗布する。具体的には、
図3に示すように、接着剤塗布工程S4後、マット作製工程S5前に、木質チップ11に水WBを塗布する。
【0070】
図4Aに示すように、導管11aに蓄熱材料12が導入され、表面に接着剤13が付着した木質チップ11に対して、水WBを塗布する。これにより、木質チップ11の表面に水WBを付着することができる。本実施形態では、接着剤13を予め塗布した後に、水WBを塗布しているので、木質チップ11に対する接着剤13の接着性に、水WBの塗布の影響を受け難い。しかしながら、接着剤13の接着性が確保できるのであれば、たとえば、水WBの塗布後に、接着剤13を塗布してもよく、接着剤13と水WBを同時に塗布(散布)してもよい。
【0071】
ここで、水WBは、例えば、スプレーなどにより噴霧してもよい。水WBを塗布する際に、蓄熱材料12の潜熱蓄熱材の相変化温度よりも高い温度に加熱された水WB(具体的には湯)を塗布してもよい。このような水の塗布により、蓄熱ボード10の成形前に、潜熱蓄熱材が局所的に凝固して析出する(混合物の場合には潜熱蓄熱材が偏析する)ことを抑えることができる。これにより、木質チップ11の内部において、潜熱蓄熱材が分散した状態を確保することができる。
【0072】
水の塗布後、マット作製工程S5を経て、ボード成形工程S6時に、台座61および押圧部材62からの熱により、
図4Bに示すように、塗布した水は蒸気Sとなる。この蒸気Sにより、
図4Bに示すように、導管11aに導入された蓄熱材料12を、導管11aの内部に押し込むことができる。また、ボード成形工程S6時に、木質チップ11の表面に付着した蒸気Sの圧力で、熱圧時に、蓄熱ボード10の表面からの潜熱蓄熱材の滲み出しを抑えることができる。
【0073】
なお、本実施形態では、マット作製工程S5前の蓄熱材料12が導入された木質チップ11に、水を塗布したが、例えば、マット作製工程S5において、水を塗布してもよい。たとえば、水の塗布を、フォーミングマット10’の表面を形成する木質チップ11の表面に行ってもよい。この場合、フォーミングマット10’を作製する段階で積層される木質チップ11に水を塗布してもよく、フォーミングマット10’の表面を形成する木質チップ11(蓄熱材料が導入された木質チップ)を予め準備し、これに水を塗布した後、フォーミングマット10’を作製してもよい。
【0074】
フォーミングマット10’の表面は、熱圧装置(ホットプレス装置)の台座61および押圧部材62により加熱されるところ、このタイミングで、木質チップ11に塗布された水WBが蒸気Sになる。この蒸気Sが、フォーミングマット10’の表面の木質チップの導管において、導入された蓄熱材料をさらに内部(導管の奥)に押し込むとともに、フォーミングマット10’の内部に流れ込む。これにより、蓄熱材料12に含まれた潜熱蓄熱材が、成形後の蓄熱ボード10の表面から滲み出すことを抑えることができ、さらに、内部に流れた蒸気により、接着剤13が、イソシアネート系接着剤の場合には、硬化を促進することができる。
【0075】
〔第3実施形態〕
以下に、
図5~
図6Bを参照しながら、第1の発明の第3実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明する。
図5は、第1の発明の第3実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明するためのフロー図である。
図6A(a)~(c)は、
図5に示すマット作製工程S5を説明するための模式的概念図である。
図6Bは、
図5に示す製造方法で製造された蓄熱ボード10の模式的断面図である。
【0076】
本実施形態が、第1実施形態に係る製造方法と相違する点は、蓄熱ボード10に、第1および第2木質チップ11A、11Bを用いた点である。したがって、以下に、第1実施形態と同様の工程に関しては、その詳細な説明を省略し、相違する点のみを説明する。
【0077】
本実施形態では、
図6Bに示すように、両面に配置された一対の表層10A、10Cと、一対の表層10A、10Cの間に配置された内部層10Bと、を備えた蓄熱ボード10を製造する。
【0078】
一対の表層10A、10Cは、内部層10Bの両面側から内部層10Bを挟み込むように形成されている。このような各表層10A(10C)には、各表層10A(10C)の基材となる第1木質チップ11A同士が第1接着剤を介して接着されている。本実施形態では、内部層10Bには、第2木質チップ11B同士が、第2接着剤を介して接着されている。表層10A(10C)および内部層10Bには、蓄熱材料が含まれており、表層10A(10C)の第1木質チップ11Aの単位重量当たりに含有する蓄熱材料に対して、内部層10Bの第2木質チップ11Bの単位重量が当たりに含有する蓄熱材料の方が多い。
【0079】
以下に、蓄熱ボード10の製造方法を説明する。なお、以下に示す第1チップ生成工程S11~第1接着剤塗布工程S14までの工程の順序が満たされ、第2チップ生成工程S21~第2接着剤塗布工程S24までの工程の順序が満たされていれば、第1および第2木質チップにおける各工程の順は特に制限されない。
【0080】
まず、本実施形態では、第1チップ生成工程S11と第2チップ生成工程S21と行う。第1チップ生成工程S11では、表層10Aを構成する第1木質チップ11Aを生成する。第2チップ生成工程S21では、第1木質チップ11Aよりも大きく、内部層10Bを構成する第2木質チップ11Bを生成する。
【0081】
第1木質チップ11Aと第2木質チップ11Bとの大きさは、例えば、所定の木材を破砕または切削する条件を変更するなど、一般的に知られた方法で、調整することができる。さらに、所定の目開きの篩を用いて、第1木質チップ11Aと第2木質チップ11Bを分級してもよい。
【0082】
次に、第1チップ水分除去工程S12において、第1木質チップ11Aの木材に由来する導管11aの水分を除去し、第2チップ水分除去工程S22において、第2木質チップ11Bの木材に由来する導管11aの水分を除去する。水分の除去は、
図2A等で示したように、第1実施形態で説明したものと同様の方法で行う。
【0083】
次に、第1蓄熱材導入工程S13において、第1木質チップ11Aに、蓄熱材料12を塗布し、導管11aに蓄熱材料12を導入する。同様に、第2蓄熱材導入工程S23において、第2木質チップ11Bに、蓄熱材料12を塗布し、導管11aに蓄熱材料12を導入する。これらの蓄熱材料12の塗布の方法は、
図2B等で示したように、第1実施形態で説明したものと同様の方法を行う。
【0084】
本実施形態は、第1木質チップ11Aに対して、第2木質チップ11Bの方が、単位重量あたりの蓄熱材料12の導入量が多くなるように、第1および第2木質チップ11A、11Bに蓄熱材料12を塗布する。これにより、第1木質チップ11Aに対して、第2木質チップ11Bの方が、単位重量あたりの蓄熱材料12の導入量を多くすることができる。したがって、蓄熱ボード10の内部層10Bで蓄熱性を高め、蓄熱ボード10の表層10A、10Cを構成する第1木質チップ11Aから潜熱蓄熱材が滲み出し難くなる。本実施形態では、第1木質チップ11Aと第2木質チップ11Bに塗布される蓄熱材料は、同じものであるが、上述した蓄熱材料の例示したものから、異なるものが選択されてもよい。
【0085】
次に、第1接着剤塗布工程S14において、蓄熱材料12を導管11aに導入した第1木質チップ11Aに接着剤(第1接着剤)を塗布し、第2接着剤塗布工程S24において、蓄熱材料12を導管11aに導入した第2木質チップ11Bに接着剤(第2接着剤)を塗布する。接着剤の塗布は、
図2C等で示したように、第1実施形態で説明したものと同様の方法で行う。
【0086】
第1接着剤は、特に限定されないが、本実施形態では、熱硬化性樹脂の接着剤であることが好ましい。熱硬化性樹脂の接着剤としては、例えば、第1実施形態の接着剤13で例示した接着剤を挙げることができるが、これらの中でも、イソシアネート系接着剤、尿素樹脂接着剤、メラミン樹脂接着剤、ユリア・メラミン共縮合樹脂接着剤、またはフェノール樹脂接着剤等であることが好ましい。より好ましい第1接着剤は、尿素樹脂接着剤またはメラミン樹脂接着剤である。
【0087】
第2接着剤も、特に限定されるものではなく、第1実施形態の接着剤13で例示した接着剤を挙げることができるが、これらの中でも、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、TDI(トリレンジイソシアネート)、MDIプレポリマー、TDIプレポリマー、およびこれらの2種以上混合したもの等のイソシアネート系接着剤であることがより好ましい。
【0088】
次に、マット作製工程S5を行う。具体的には、
図5および
図6A(a)に示すように、第1表層形成工程S51において、台座61の上に、表層10Aに相当する第1表層マット10aを形成する。第1表層マット10aは、第1接着剤塗布工程S14により、第1接着剤が塗布された第1木質チップ11Aを用いる。
【0089】
次に、
図5および
図6A(b)に示すように、表層10Aに相当する第1表層マット10aに、内部層10Bに相当する内部層マット10bを積層する。内部層マット10bには、第2接着剤塗布工程S24により、第2接着剤が塗布された第2木質チップ11Bを用いる。
【0090】
最後に、
図5および
図6A(c)に示すように、内部層マット10bに、表層10Cに相当する第2表層マット10cを積層する。第2表層マット10cには、第1接着剤塗布工程S14により、第1接着剤が塗布された第1木質チップ11Aを用いる。
【0091】
このようにして、フォーミングマット10’を作製することができる。このフォーミングマット10’に対して、第1実施形態と同じようにして、ボード成形工程S6を行う。これにより、
図6Bに示す蓄熱ボード10を得ることができる。
【0092】
なお、本実施形態では、フォーミングマット10’の作製前に、第1および第2木質チップ11A、11Bに、第1および第2接着剤を塗布したが、第1および第2表層マット10a、10c、内部層マット10bを形成する際に、第1および第2木質チップ11A、11Bに、第1および第2接着剤を塗布してもよい。
【0093】
〔第4実施形態〕
以下に、
図7および
図8を参照しながら、第1の発明の第4実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明する。
図7は、第1の発明の第4実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図の一部であり、マット作製工程S5の詳細を説明するためのフロー図である。
図8(a)~(c)は、
図7に示す第1~第3水塗布工程S71~S73を説明するための模式図である。
【0094】
本実施形態が、第3実施形態に係る製造方法と相違する点は、マット作製工程S5において、第1~第3水塗布工程S71~S73を新たに行った点である。したがって、以下に、第3実施形態と同様の工程に関しては、その詳細な説明を省略し、相違する点のみを説明する。
【0095】
本実施形態では、
図7および
図8(a)に示すように、第1表層形成工程S51後に、第1水塗布工程S71を行う。この工程では、台座61の配置された表層10Aに相当する第1表層マット10aに、スプレイノズル41等を用いて、水WBを塗布する。水WBの塗布は、
図3に示す水塗布工程S70と同じようにして行う。
【0096】
次に、
図7および
図8(b)に示すように、内部層形成工程S52後に、第2水塗布工程S72を行う。この工程では、内部層マット10bに、スプレイノズル41等を用いて、水WBを塗布する。
【0097】
次に、
図7および
図8(c)に示すように、第2表層形成工程S53後に、第3水塗布工程S73を行う。この工程では、第2表層マット10cに、スプレイノズル41等を用いて、水WBを塗布する。ここで、水WBを塗布する際に、内部層マット10bの第2木質チップ11Bに対して、第1および第2表層マット10a、10cの第1木質チップ11Aの方が、単位重量あたりの水WBの塗布量が多くなるように、第1および第2木質チップ11A、11Bに水WBを塗布する。
【0098】
このようにして、ボード成形工程S6において、蓄熱ボード10の表層10A、10Cに含まれた水が蒸発した蒸気が、表層10A、10Cよりも空隙が大きい内部層10Bに送り込まれ、蓄熱ボード10の側面から流出する。このような水蒸気の流れにより、蓄熱ボード10の表面から潜熱蓄熱材が滲み出すことを抑えることができる。
【0099】
なお、本実施形態では、マット作製工程S5において、第1~第3水塗布工程S71~S73を行った。しかしながら、たとえば、
図9に示す変形例の如く、第1接着剤塗布工程S14後、マット作製工程S5の前に、第1水塗布工程S70Aを行うことにより、第1木質チップ11Aに水を塗布し、第2接着剤塗布工程S24後、マット作製工程S5の前に、第2水塗布工程S70Bを行うことにより、第2木質チップ11Bに水を塗布してもよい。
【0100】
B.第2発明の実施形態について
第2の発明の実施形態が、第1の発明に係る実施形態と相違する点は、第1の発明の実施形態では、蓄熱材導入工程と接着剤塗布工程との順で、これらの工程を個別に行ったが、以下の第2の発明の実施形態では、蓄熱材導入工程において、接着剤を塗布し、接着剤塗布工程を個別に設けなかった点が相違する。
【0101】
第2の発明に係る第1~第4実施形態を、以下に
図10~
図16を参照しながら説明するが、これらの実施形態では、木質チップ、潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料、接着剤、水等は、第1の発明に係る第1~第4実施形態において例示したものと同様のものである。したがって、以下に示す、第2の発明の各実施形態では、同様の工程および同様の材料に関しては、その詳細な説明を省略する。
【0102】
〔第1実施形態〕
以下に、
図10~
図12を参照しながら、第2の発明の第1実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を以下に説明する。
図10は、第2の発明の第1実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図であり、
図11の(a)~(c)は、
図10に示す蓄熱材導入工程の詳細を説明するための模式図であり、
図12は、
図11に示す蓄熱材導入工程の詳細を説明するための別の模式図である。
【0103】
まず、本実施形態でも、
図10に示すように、第1の発明の実施形態と同様に、チップ作製工程S1および水分除去工程S2を順次行う。水分除去工程S2では、
図2Aにおいて、すでに説明したように、木質チップ11を加熱し、木質チップ11の木材に由来する導管11aの水分WAを除去する。
【0104】
図10に示す蓄熱材導入工程S3Aでは、第1の発明に係る実施形態とは異なり、接着剤も塗布する。具体的には、蓄熱材導入工程S3Aでは、水分を除去した木質チップ11に、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料12と接着剤13とを塗布する(
図11(a)参照)。蓄熱材料12と、接着剤13の塗布量およびチップの搬送または撹拌方法などを調整し、
図11(a)に示すように、木質チップ11の表面の一部が露出するように木質チップ11に接着剤を少なくとも付着させ、かつ、
図11(b)、(c)に示すように露出した木質チップ11の表面から、蓄熱材料12を、導管11aに導入する。
【0105】
本実施形態では、蓄熱材料12と接着剤13との塗布を、1つの撹拌装置内に収容された木質チップ11の集合物に、蓄熱材料12と接着剤13とを投入しながら(具体的には塗布しながら)、蓄熱材料12を、導管11aに導入してもよい。この場合、接着剤13の塗布量を、蓄熱材料12の塗布量よりも少なくしたり、潜熱蓄熱材が溶融した蓄熱材料12の粘度を、接着剤13の粘度よりも低くなるように、蓄熱材料12を加熱したりするなど、材料の設定および塗布条件等を設定することにより、
図11(b)、(c)のような状態の木質チップ11を得ることができる。
【0106】
したがって、接着剤13が、木質チップ11の表面全体を覆い、蓄熱材料12を、木質チップ11の導管11aに導入することができないという現象が起こらないことを前提に、接着剤13を塗布後、続けて、蓄熱材料12を塗布してもよい。この場合、後述する
図12に示す撹拌装置90を用いて、
図12に示す供給方法とは異なるが、木質チップ11の搬送方向の上流側の隣接する2つの供給孔93、93から、接着剤13を供給し、下流側の隣接する2つの供給孔93、93から蓄熱材料12を供給してもよい。
【0107】
たとえば、本実施形態では、上述した如く、蓄熱材導入工程S3Aにおいて、接着剤13の粘度よりも、蓄熱材料12の粘度が低くなるように、蓄熱材料12を加熱する。具体的には、本実施形態では、上述したように、蓄熱ボードの蓄熱性能および木質チップ11の接着性を確保できることを前提として、上に示した材料を選定し、上に示した粘度を満たすように、蓄熱材料12を加熱装置(図示せず)で加熱する。これにより、接着剤13の粘度よりも、蓄熱材料12の粘度が低いため、木質チップ11に塗布された接着剤に比べて、木質チップ11に塗布された蓄熱材料12がより導管11aに導入され易くなる。
【0108】
本実施形態でも、第1の発明のものと同様に、木質チップ11を加熱した状態を維持して(すなわち、継続して加熱した状態で)、蓄熱材料12を塗布してもよい。具体的には、木質チップ11を、蓄熱材料12の塗布時の温度以上の温度に、熱源(図示せず)からの熱H2により加熱し、加熱した状態の木質チップ11に、蓄熱材料12を塗布し、蓄熱材料12を導管11aに導入する。
【0109】
このようにして、本実施形態も同様に、水分が除去された木質チップ11に蓄熱材料12を塗布することにより、木質チップ11に形成された導管11aに蓄熱材料12が導入され易くなる。このため、より多くの蓄熱材料12を木質チップ11の内部に保持することができる。
【0110】
本実施形態では、
図1に示すように、蓄熱材導入工程S3と、接着剤塗布工程S4とを、分けて行わず、蓄熱材導入工程S3Aにおいて、水分を除去した木質チップに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料12と接着剤13とを塗布する。この際に、塗布条件等を設定して、木質チップ11の表面の一部が露出するように木質チップ11に接着剤13を少なくとも付着させ、かつ、木質チップ11の露出した表面から、蓄熱材料12を、導管11aに導入する。
【0111】
これにより、蓄熱材料12を導管に導入される前に、接着剤13が、木質チップ11に付着することもあるが、接着剤13から木質チップ11の表面が露出しているため、露出した表面から、蓄熱材料12を導管に導入することができる。さらに、木質チップ11の表面の一部に付着した接着剤13は、木質チップ11に含浸されるので、接着剤13の一部が木質チップ11の表層に含浸されるため、蓄熱ボード10の成形時の木質チップ同士の接着性を向上させることができる。
【0112】
ここで、たとえば、
図12に示す撹拌装置90を用いて、蓄熱材導入工程S3Aを行ってもよい。
図12は、撹拌装置90の要部拡大図であり、撹拌装置90は、円筒状のハウジング91と、ハウジング91内に配置され、ハウジング91の軸方向に沿った回転軸を有する撹拌ロッド92と、を有している。撹拌ロッド92を回転させることにより、ハウジング91内に供給された木質チップ11が、周方向とともに軸方向にも移動する(螺旋状の移動をする)ことができる。
【0113】
撹拌装置90には、ハウジング91の内部に収容された木質チップ11に、蓄熱材料12と接着剤13とを個別に供給可能な供給孔93が設けられている。本実施形態では、供給孔93は、撹拌ロッド92の回転軸に沿って(具体的には搬送方向に沿って)、複数(具体的には、その一例として4つ)設けられている。
【0114】
本実施形態では、
図12に示すように、その一例として、搬送方向の上流側から搬送方向に沿って、搬送される木質チップ11に対して、接着剤13と蓄熱材料12が交互に供給されるように、複数の供給孔93、93、…に、これらの供給源(図示せず)に、接続されている。なお、撹拌装置90には、木質チップ11の温度を調整する温度調整装置(図示せず)が設けられていてもよく、蓄熱材料12を供給する供給源(図示せず)に、蓄熱材料12を加熱する加熱装置が設けられていてもよい。
【0115】
たとえば、木質チップ11の温度が、接着剤13の熱による硬化反応を開始する温度未満となり、蓄熱材料12の塗布時の蓄熱材料12の温度以上(具体的には潜熱蓄熱材の融点以上)の温度となるように、上述した温度調整装置により木質チップの11の温度を調整してもよい。この場合も同様に、温度を調整した状態の木質チップ11に、上述した加熱装置で潜熱蓄熱材の溶融まで加熱した蓄熱材料12を塗布し、蓄熱材料12が導管11aに導入される。
【0116】
この場合、より具体的には、蓄熱材料12の塗布時の蓄熱材料12の温度よりも、木質チップ11の温度が低い場合には、
図11(a)、(b)に示すように、接着剤13が硬化反応を開始する温度以下となる温度調整を前提として、温度調整装置(図示せず)からの熱H2により、蓄熱材料12の塗布時の温度以上に(具体的には潜熱蓄熱材の融点以上)に、木質チップ11を、加熱する。一方、塗布前の木質チップ11の温度が高すぎる場合(接着剤13の硬化開始温度よりも高い場合)には、温度調整装置により、塗布時の蓄熱材料の温度以上(具体的には潜熱蓄熱材の融点以上)、かつ、接着剤13の硬化開始温度未満となるように、温度調整装置により、木質チップ11をエア等で冷却する。
【0117】
図12に示す撹拌装置90を用いて、蓄熱材料12および接着剤13を、木質チップ11に塗布すると、蓄熱材導入工程S3Aにおいて、接着剤13の塗布と蓄熱材料12の塗布を交互に繰り返すことができる。接着剤13の塗布と蓄熱材料12の塗布とを交互に繰り返すことにより、一回の塗布で接着剤13が木質チップ11に過度に浸み込むことを抑えつつ、蓄熱材料12を導管に導入でき、さらに、蓄熱材料12と接着剤13とともにも、木質チップ11を撹拌しながら、木質チップ11は、搬送方向に搬送されるため、木質チップ11の表面に、接着剤13をより均一に塗布することができる。
【0118】
このようにして、導管11aに蓄熱材料12が導入された木質チップ11を用いて、マット作製工程S5と、ボード成形工程S6を、第1の発明で説明したものと同じようにして行う。マット作製工程S5では、上述した
図2Dの説明で示したように、蓄熱材料12が導入された木質チップ11から、フォーミングマット10’を作製し、ボード成形工程S6では、フォーミングマット10’を熱圧することにより、蓄熱ボード10を成形する。
【0119】
なお、上述した如く、蓄熱材料12に、潜熱蓄熱材と常温硬化型樹脂とを混合した混合物を用いた場合には、蓄熱材導入工程S3Aからボード成形工程S6が完了するまでの間、木質チップ11に含浸された混合物の潜熱蓄熱材を溶融させた状態を維持することが好ましい。その後、ボード成形工程S6の完了後、潜熱蓄熱材が溶融した状態で、常温硬化型樹脂の硬化を完了させる。その後、蓄熱ボード10を放冷することにより、潜熱蓄熱材を凝固させる。
【0120】
ボード成形工程S6の完了後に、常温硬化型樹脂が硬化するため、常温硬化型樹脂が細かい3次元網目構造を形成しながら硬化し、3次元網目構造の内部に潜熱蓄熱材が保持されて凝固する。このような結果、混合物から、潜熱蓄熱材が滲み出し難くすることができる。
【0121】
〔第2実施形態〕
以下に、
図13と、すでに説明した
図4A、
図4B等を参照しながら、第2の発明の第2実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明する。
図13は、第2の発明の第2実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図である。本実施形態が、第2の発明の第1実施形態に係る製造方法と相違する点は、水塗布工程S70を新たに設けた点であり、これは、第1発明の第2実施形態において、説明した内容と同様である。したがって、共通点に関しては、その説明を省略し、以下に、その内容を簡略的に説明する。
【0122】
本実施形態では、蓄熱材導入工程S3Aよりも後、かつ、ボード成形工程S6よりも前に、木質チップ11に水を塗布する。具体的には、
図13に示すように、蓄熱材導入工程S3A後、マット作製工程S5前に、木質チップ11に水WBを塗布する。
【0123】
図4Aを参照して既に説明したように、導管11aに蓄熱材料12が導入され、表面に接着剤13が付着した木質チップ11に対して、水WBを塗布する。これにより、木質チップ11の表面に水WBを付着することができる。水WBを塗布する際に、蓄熱材料12の潜熱蓄熱材の相変化温度よりも高い温度に加熱された水WB(具体的には湯)を塗布してもよい。このような水の塗布により、蓄熱ボード10の成形前に、潜熱蓄熱材が局所的に凝固して析出する(混合物の場合には潜熱蓄熱材が偏析する)ことを抑えることができる。これにより、木質チップ11の内部において、潜熱蓄熱材が分散した状態を確保することができる。
【0124】
なお、この他にも、第1の発明の実施形態で説明したように、水の塗布を、フォーミングマット10’の表面を形成する木質チップ11の表面に行ってもよい。この場合、フォーミングマット10’を作製する段階で積層される木質チップ11に水を塗布してもよく、フォーミングマット10’の表面を形成する木質チップ11(蓄熱材料が導入された木質チップ)を予め準備し、これに水を塗布した後、フォーミングマット10’を作製してもよい。
【0125】
第1の発明の第2実施形態で説明したものと同様の効果を期待することができる。より簡潔に述べると、以下のようになる。水の塗布後、マット作製工程S5を経て、ボード成形工程S6時に、台座61および押圧部材62からの熱により、塗布した水は蒸気Sとなる(
図4B参照)。この蒸気Sにより、導管11aに導入された蓄熱材料12を、導管11aの内部に押し込むことができる。また、ボード成形工程S6時に、木質チップ11の表面に付着した蒸気Sの圧力で、熱圧時に、蓄熱ボード10の表面からの潜熱蓄熱材の滲み出しを抑えることができる。さらに、内部に流れた蒸気により、接着剤13が、イソシアネート系接着剤の場合には、硬化を促進することができる。
【0126】
〔第3実施形態〕
以下に、
図14と、すでに説明した
図6A、
図6B等を参照しながら、第2の発明の第3実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明する。
図14は、第2の発明の第3実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明するためのフロー図である。本実施形態が、第2の発明の第1実施形態に係る製造方法と相違する点は、蓄熱ボード10に、第1および第2木質チップ11A、11Bを用いた点である。したがって、以下に、第2実施形態と同様の工程に関しては、その詳細な説明を省略し、相違する点のみを説明する。
【0127】
本実施形態では、
図6Bに示すように、両面に配置された一対の表層10A、10Cと、一対の表層10A、10Cの間に配置された内部層10Bと、を備えた蓄熱ボード10を製造する。
【0128】
第1の発明の第2実施形態と同様に、本実施形態でも、一対の表層10A、10Cは、内部層10Bの両面側から内部層10Bを挟み込むように形成されている。このような各表層10A(10C)には、各表層10A(10C)の基材となる第1木質チップ11A同士が第1接着剤を介して接着されている。内部層10Bには、第2木質チップ11B同士が、第2接着剤を介して接着されている。表層10A(10C)および内部層10Bには、蓄熱材料が含まれており、表層10A(10C)の第1木質チップ11Aの単位重量当たりに含有する蓄熱材料に対して、内部層10Bの第2木質チップ11Bの単位重量が当たりに含有する蓄熱材料の方が多い。
【0129】
以下に、蓄熱ボード10の製造方法を説明する。なお、以下に示す第1チップ生成工程S11~第1蓄熱材導入工程S13Aまでの工程の順序が満たされ、第2チップ生成工程S21~第2蓄熱材導入工程S23Aまでの工程の順序が満たされていれば、第1および第2木質チップにおける各工程の順は特に制限されない。
【0130】
まず、第1チップ生成工程S11で、表層10Aを構成する第1木質チップ11Aを生成し、第2チップ生成工程S21で、第1木質チップ11Aよりも大きく、内部層10Bを構成する第2木質チップ11Bを生成する。第1木質チップ11Aと第2木質チップ11Bとの大きさは、第1の発明の第3実施形態で、既に説明したように、設定することができる。
【0131】
次に、第1チップ水分除去工程S12において、第1木質チップ11Aの木材に由来する導管11aの水分を除去し、第2チップ水分除去工程S22において、第2木質チップ11Bの木材に由来する導管11aの水分を除去する。水分の除去は、
図2A等で示したように、第1発明の第1実施形態で説明したものと同様の方法で行う。
【0132】
次に、第1蓄熱材導入工程S13Aにおいて、水分を除去した第1木質チップ11Aに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料12と接着剤(第1接着剤)13とを塗布する。この際に、塗布条件等を設定して、第1木質チップ11Aの表面の一部が露出するように第1木質チップ11Aに接着剤(第1接着剤)13を少なくとも付着させ、かつ、第1木質チップ11Aの露出した表面から、蓄熱材料12を、導管11aに導入する。
【0133】
同様に、第2蓄熱材導入工程S23Aにおいて、水分を除去した第2木質チップ11Bに、溶融した状態の潜熱蓄熱材を含む蓄熱材料12と接着剤(第2接着剤)13とを塗布する。この際に、塗布条件等を設定して、第2木質チップ11Bの表面の一部が露出するように第2木質チップ11Bに接着剤(第2接着剤)13を少なくとも付着させ、かつ、第2木質チップ11Bの露出した表面から、蓄熱材料12を、導管11aに導入する。これらの蓄熱材料12および接着剤13の塗布の方法は、
図11および
図12等で示したように、第1実施形態で説明したものと同様の方法を行う。
【0134】
第1の発明の第3実施形態と同様に、本実施形態は、第1木質チップ11Aに対して、第2木質チップ11Bの方が、単位重量あたりの蓄熱材料12の導入量が多くなるように、第1および第2木質チップ11A、11Bに蓄熱材料12と各接着剤13を塗布する。これにより、第1木質チップ11Aに対して、第2木質チップ11Bの方が、単位重量あたりの蓄熱材料12の導入量を多くすることができる。したがって、蓄熱ボード10の内部層10Bで蓄熱性を高め、蓄熱ボード10の表層10A、10Cを構成する第1木質チップ11Aから潜熱蓄熱材が滲み出し難くなる。
【0135】
なお、第1接着剤および第2接着剤は、同じ接着剤であってもよく、特に限定されず、第1の発明の第3実施形態で例示した接着剤と、同様の接着剤を用いればよい。また、第1木質チップ11Aと第2木質チップ11Bに塗布される蓄熱材料は、同じものであるが、上述した蓄熱材料の例示したものから、異なるものが選択されてもよい。
【0136】
次に、マット作製工程S5を行う。具体的には、
図14および
図6A(a)に示すように、第1表層形成工程S51において、台座61の上に、表層10Aに相当する第1表層マット10aを形成する。次に、
図14および
図6A(b)に示すように、表層10Aに相当する第1表層マット10aに、内部層10Bに相当する内部層マット10bを積層する。
【0137】
最後に、
図14および
図6A(c)に示すように、内部層マット10bに、表層10Cに相当する第2表層マット10cを積層する。第2表層マット10cは、第1接着剤塗布工程S14により、第1接着剤が塗布された第1木質チップ11Aを用いる。
【0138】
このようにして、フォーミングマット10’を作製することができる。このフォーミングマット10’に対して、第1実施形態と同じようにして、ボード成形工程S6を行う。これにより、
図6Bに示す蓄熱ボード10を得ることができる。
【0139】
〔第4実施形態〕
以下に、
図15と、すでに説明した
図8を参照しながら、第2の発明の第4実施形態に係る蓄熱ボード10の製造方法を説明する。
図15は、第2の発明の第4実施形態に係る蓄熱ボードの製造方法を説明するためのフロー図の一部であり、マット作製工程S5の詳細を説明するためのフロー図である。本実施形態が、第3実施形態に係る製造方法と相違する点は、マット作製工程S5において、第1~第3水塗布工程S71~S73を新たに行った点である。したがって、以下に、第3実施形態と同様の工程に関しては、その詳細な説明を省略し、相違する点のみを説明する。
【0140】
本実施形態では、
図15および
図8(a)に示すように、第1表層形成工程S51後に、第1水塗布工程S71を行う。この工程では、台座61の配置された表層10Aに相当する第1表層マット10aに、スプレイノズル41等を用いて、水WBを塗布する。水WBの塗布は、
図3に示す水塗布工程S70と同じようにして行う。
【0141】
次に、
図15および
図8(b)に示すように、内部層形成工程S52後に、第2水塗布工程S72を行う。この工程では、内部層マット10bに、スプレイノズル41等を用いて、水WBを塗布する。
【0142】
次に、
図14および
図8(c)に示すように、第2表層形成工程S53後に、第3水塗布工程S73を行う。この工程では、第2表層マット10cに、スプレイノズル41等を用いて、水WBを塗布する。ここで、水WBを塗布する際に、内部層マット10bの第2木質チップ11Bに対して、第1及び第2表層マット10a、10cの第1木質チップ11Aの方が、単位重量あたりの水WBの塗布量が多くなるように、第1および第2木質チップ11A、11Bに水WBを塗布する。
【0143】
このようにして、ボード成形工程S6において、蓄熱ボード10の表層10A、10Cに含まれた水が蒸発した蒸気が、表層10A、10Cよりも空隙が大きい内部層10Bに送り込まれ、蓄熱ボード10の側面から流出する。このような水蒸気の流れにより、蓄熱ボード10の表面から潜熱蓄熱材が滲み出すことを抑えることができる。
【0144】
なお、本実施形態では、マット作製工程S5において、第1~第3水塗布工程S71~S73を行った。しかしながら、たとえば、
図16に示す変形例の如く、第1蓄熱材導入工程S13A後、マット作製工程S5の前に、第1水塗布工程S70Aを行うことにより、第1木質チップ11Aに水を塗布し、第2蓄熱材導入工程S23A後、マット作製工程S5の前に、第2水塗布工程S70Bを行うことにより、第2木質チップ11Bに水を塗布してもよい。
【0145】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0146】
10:蓄熱ボード、10A、10C:表層、10B:内部層、10’:フォーミングマット、11:木質チップ、11A:第1木質チップ、11B:第2木質チップ、11a:導管、12:蓄熱材料、13:接着剤、WA:水分、WB:水、S2:水分除去工程、S3,S3A:蓄熱材導入工程、S4:接着剤塗布工程、S5:マット作製工程、S6:ボード成形工程