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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121577
(43)【公開日】2022-08-19
(54)【発明の名称】波型鋼板製水路部材
(51)【国際特許分類】
   E02B 5/02 20060101AFI20220812BHJP
【FI】
E02B5/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104245
(22)【出願日】2022-06-29
(62)【分割の表示】P 2021097087の分割
【原出願日】2017-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001461
【氏名又は名称】弁理士法人きさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜原 京子
(72)【発明者】
【氏名】和田 浩
(72)【発明者】
【氏名】鎌崎 祐治
(57)【要約】
【課題】基本的に必要とされる2つの特性であるライフサイクルコストの低減および耐食性の向上が図れ、かつ、水路に用いた場合の板厚の低減が図れる波型鋼板製水路部材を得ることを目的とする。
【解決手段】波型鋼板製水路部材は、水路を形成するために用いられ、水路の流路方向に沿った断面が波形に形成された波付け鋼材からなる。波付け鋼材は、Moが添加されておらず、不可避的不純物であるMoが含有されたステンレスである。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路を形成するために用いられ、前記水路の流路方向に沿った断面が波形に形成された波付け鋼材からなる波型鋼板製水路部材であって、
前記波付け鋼材は、Moが添加されておらず、不可避的不純物であるMoが含有されたステンレスである、波型鋼板製水路部材。
【請求項2】
前記波付け鋼材は、表面に溶接された箇所を有さない構成である、請求項1に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項3】
前記波付け鋼材は、8.01(mass%)以下のNiを含有するステンレスである、請求項1又は2に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項4】
前記水路の流路方向に沿って配置された前記波付け鋼材は、上流側の前記波付け鋼材の下流端部が、下流側の前記波付け鋼材の上流端部の上側となるように、シール材を介在させて重ねられて、前記水路を形成する構成である、請求項1~3のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材。
【請求項5】
前記波付け鋼材は、mass%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、Cr:20.5%以上、22.5%以下、Cu:0.3%以上、0.8%以下、Ni:1.0%以下、Ti:4×(C%+N%)以上、0.35%以下、Nb:0.01%以下、N:0.03%以下、C+N:0.05%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレスであり、
[式(1)]240+35×(Cr%-20.5)+280×{Ti%-4×(C%+N%)}≧280
を満たす構成である、請求項1~4のいずれか一項に記載の波型鋼板製水路部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路を構成するために鋼材を用いる波型鋼板製水路部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水路の施工には、コンクリートによる施工が一般的に用いられる。しかし、近年、施工が容易な鋼板製水路部材を繋げて水路を構成する場合がある。特に軟弱な地盤に水路が施工される場合には、軽量で強度が得られる鋼板製水路部材を用いることが多い。
【0003】
鋼板製水路部材では、水が水路に常時流れたり溜まったりする場合に、鋼材の腐食が早い。このため、鋼板製水路部材には、溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板が用いられる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-121731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水路がコンクリートで施工される場合には、施工に時間と手間とがかかる。また、施工後も管理者が目地部あるいはひび入り部などの補修を定期的に実施し、維持管理する必要がある。
【0006】
一方、水路がめっき鋼板を用いた鋼板製水路部材で施工される場合には、めっきが鋼材の腐食を遅延し、鋼板製水路部材の長寿命化の効果が得られる。しかし、めっき鋼板のめっきが全て溶解した後では、管理者が鋼材の腐食を補修しながら維持管理する必要がある。または、寿命を終えためっき鋼板を用いた鋼板製水路部材を新品に交換する必要がある。このように、維持管理コストあるいは新品交換コストがかかり、波型鋼板製水路部材のライフサイクルコストが高かった。
また、水路がめっき鋼板を用いた鋼板製水路部材で施工される場合には、耐蝕性が低かった。
加えて、水路がめっき鋼板を用いた鋼板製水路部材で施工される場合には、水圧の影響を考慮して板厚が厚かった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためのものであり、基本的に必要とされる2つの特性であるライフサイクルコストの低減および耐食性の向上が図れ、かつ、水路に用いた場合の板厚の低減が図れる波型鋼板製水路部材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波型鋼板製水路部材は、水路を形成するために用いられ、前記水路の流路方向に沿った断面が波形に形成された波付け鋼材からなる波型鋼板製水路部材であって、前記波付け鋼材は、Moが添加されておらず、不可避的不純物であるMoが含有されたステンレスである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る波型鋼板製水路部材によれば、波付け鋼材は、ステンレスである。したがって、基本的に必要とされる2つの特性であるライフサイクルコストの低減および耐食性の向上が図れ、かつ、水路に用いた場合の板厚の低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材の施工状態を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材の施工状態の概略構成を示す斜視図である。
図3】本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材の概略構成を示す斜視図である。
図4】本発明の実施の形態1に係る溶接部を有する波型鋼板製水路部材の概略構成を示す斜視図である。
図5】本発明の実施の形態1に係るコーナー部用の波型鋼板製水路部材の概略構成を示す斜視図である。
図6】本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材の実施例および比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係る波型鋼板製水路部材の実施の形態について説明する。なお、図面の形態は一例であり、本発明を限定するものではない。また、各図において同一の符号を付したものは、同一のまたはこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。さらに、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0012】
実施の形態1.
[波型鋼板製水路部材の施工状態]
図1は、本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材1の施工状態を示す斜視図である。
図1に示すように、波型鋼板製水路部材1は、連結されて大地に下半体を埋設された状態となり、水路を構成する。このため、波型鋼板製水路部材1は、草あるいは虫などの生息環境である大地の土に接触し、バクテリア腐食の起き易い環境下に設置されている。
【0013】
水路は、農業用水路、工業用水路、あるいは、土木工事用仮設水路などに用いられる。水路は、上方が開放された開水路であり、水が流れる。また、水路には、落ち葉あるいはゴミが流れ込む場合がある。また、水路には、泥が流れ込む場合がある。
【0014】
[波型鋼板製水路部材1の施工状態の構成]
図2は、本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材1の施工状態の概略構成を示す斜視図である。
図2に示すように、上流側の波型鋼板製水路部材1と下流側の波型鋼板製水路部材1とは、連結されている。上流側の波型鋼板製水路部材1の下流端部と下流側の波型鋼板製水路部材1の上流端部とは、それらの間に図示黒太線のシール材2を介在させて重ねられている。上流側の波型鋼板製水路部材1の下流端部が下流側の波型鋼板製水路部材1の上流端部よりも上側となるように重ねられる。これにより、水路を流れる泥などが水路の底に溜まることを抑制している。連結部分では、上流側の波型鋼板製水路部材1の下流端部と下流側の波型鋼板製水路部材1の上流端部とがボルト締めされて連結されている。
【0015】
波型鋼板製水路部材1には、補強のために、側壁部の上方に突出する上端縁に腹起し3が配置されている。腹起し3は、L形鋼で構成され、波型鋼板製水路部材1の側壁部1a、1bの上端縁上に流路方向に沿って設けられている。腹起し3は、波型鋼板製水路部材1にボルト締めされて固定されている。
【0016】
波型鋼板製水路部材1には、補強のために、流路方向に対して左右の両側壁部1a、1bの上方に突出する上端縁に固定された腹起しに橋渡しされて切梁4が配置されている。切梁4は、L形鋼で構成され、左右の両側壁部1a、1bの上端縁に固定された腹起し3に流路方向とは直交する幅方向にわたって設けられている。切梁4は、腹起し3にボルト締めされて固定されている。
【0017】
[波型鋼板製水路部材1の構成例1]
図3は、本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材1の概略構成を示す斜視図である。
図3に示すように、波型鋼板製水路部材1は、流路方向に沿った断面が波形を有する波付け鋼材からなる。波型鋼板製水路部材1は、流路方向である長手方向に山部と谷部とが交互に連続して流路方向に沿った断面が波形を有する波付け鋼材をU形溝に湾曲成形したものである。
【0018】
波型鋼板製水路部材1は、U形溝となるように、左右の両側壁部1a、1bと、下部の底壁部1cと、を有している。波型鋼板製水路部材1は、底壁部1cから左右両端部にそれぞれの側壁部1a、1bが起立したものである。底壁部1cと側壁部1a、1bとは、湾曲成形されて角部をR曲線に成形されて繋がっている。
波型鋼板製水路部材1には、上流端部、下流端部および上縁に連結用の図示しないボルト孔が形成されている。
【0019】
なお、波型鋼板製水路部材1は、U形溝の形状に限られない。波型鋼板製水路部材1は、流路方向に沿った断面が波形を有する波付け鋼材を曲げて形成できるものであれば、どのような形状でも良い。底壁部1cが全てR曲線で成形されても良い。また、波型鋼板製水路部材1は、両側壁部1a、1bの上縁部に左右それぞれの外側に突出し、流路方向に沿って設けられるフランジ部を有していても良い。
【0020】
[波型鋼板製水路部材1の構成例2]
図4は、本発明の実施の形態1に係る溶接部5を有する波型鋼板製水路部材1の概略構成を示す斜視図である。なお、波型鋼板製水路部材1の構成例2では、上述した波型鋼板製水路部材1の構成例1と同様な構成の説明は省略し、特徴部分のみ説明する。
【0021】
図4に示すように、波型鋼板製水路部材1には、側壁部1aの内側に、水路を流れる水の水深を検出する水深計6が取り付けられている。このため、波型鋼板製水路部材1は、水深計6を取り付ける取付部として図示黒色領域の溶接部5を有している。
なお、水深計6を取り付ける波型鋼板製水路部材1として、図3に示す直線部用の波型鋼板製水路部材1を例に挙げる。
また、溶接部5によって取り付けられる取付物品は、水深計に限られない。取付物品は、たとえば、水温計、気温計などの計器類、水位監視カメラ、周囲監視カメラ、情報通信端末あるいはそれらの複合機器などでも良い。
【0022】
溶接部5は、たとえば、TIG突合せ溶接などを用いている。TIG突合せ溶接では、母材同士を突合せ、非消耗性の電極と母材との間にアークを発生させる。そして、TIG突合せ溶接では、このアークを熱源とし、溶加棒および母材を溶融し、その溶融部の周辺に不活性ガスを流す。これにより、TIG突合せ溶接では、溶接部を周囲空気からシールドしつつ溶接する。
【0023】
なお、溶接部5に対する溶接は、TIG突合せ溶接に限られない。たとえば、被覆アーク溶接、TIG溶接、ミグ溶接、マグ溶接などを用いても良い。
【0024】
[波型鋼板製水路部材1の構成例3]
図5は、本発明の実施の形態1に係るコーナー部用の波型鋼板製水路部材1の概略構成を示す斜視図である。なお、波型鋼板製水路部材1の構成例3では、上述した波型鋼板製水路部材1の構成例1、2と同様な構成の説明は省略し、特徴部分のみ説明する。
【0025】
図5に示す波型鋼板製水路部材1は、コーナー部用である。コーナー部用の波型鋼板製水路部材1は、上流側部品1dと下流側部品1eとを有している。コーナー部用の波型鋼板製水路部材1は、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げるように溶接した溶接部5を有している。つまり、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げる溶接部5は、波型鋼板製水路部材1の流路方向に対して両側壁部1a、1bおよび底壁部1cにわたって両上端部まで長く溶接された溶接領域を有している。
【0026】
上流側部品1dには、図3に示す直線部用の波型鋼板製水路部材1の状態で、下流側部品1eと繋がる溶接部5となる部分に罫書き入れが行われる。また、下流側部品1eには、図3に示す直線部用の波型鋼板製水路部材1の状態で、上流側部品1dと繋がる溶接部5となる部分に罫書き入れが行われる。
上流側部品1dは、罫書き入れが行われた罫書き線に沿って切断され、切断面がサンダー掛けされて表面がならされる。また、下流側部品1eは、罫書き入れが行われた罫書き線に沿って切断され、切断面がサンダー掛けされて表面がならされる。
そして、上流側部品1dと下流側部品1eとは、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げる状態で、鋼板の波の形状を合わせるため打撃などで微調整される。その後、上流側部品1dと下流側部品1eとにおいて、両者の切断面を仮止め溶接で仮固定し、仮固定した両者の切断面をTIG突合せ溶接である本溶接で繋げる。
【0027】
[波型鋼板製水路部材1の成分組成]
波型鋼板製水路部材1の鋼材は、ステンレスである。また、鋼材は、ステンレスのうちフェライト系ステンレスであると好ましい。特に、鋼材は、フェライト系ステンレスのうちSUS443J1(JIS規格)であると最も好ましい。
【0028】
ここで、SUS443J1とは、mass%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5%以下、P:0.04%以下、S:0.02%以下、Al:0.1%以下、Cr:20.5%以上、22.5%以下、Cu:0.3%以上、0.8%以下、Ni:1.0%以下、Ti:4×(C%+N%)以上、0.35%以下、Nb:0.01%以下、N:0.03%以下、C+N:0.05%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記式(1)を満たす。
[式(1)]240+35×(Cr%-20.5)+280×{Ti%-4×(C%+N%)}≧280
ここで、C%、N%、Cr%、Ti%は、それぞれC、N、Cr、Tiの含有量(mass%)を表す。
【0029】
[実施例と比較例との対比]
図6は、本発明の実施の形態1に係る波型鋼板製水路部材1の実施例および比較例を示す図である。
本発明者らは、波型鋼板製水路部材1の鋼材がSUS443J1である実施例1-3、他のステンレスを含む鋼材である実施例4、SUS430である実施例5およびSUS304である実施例6の本発明例と、比較例1-3と、を対比する検証を行った。
実施例1-3は、鋼材がSUS443J1の組成を満たす鋼材である。
実施例4は、鋼材がSUS443J1ではないステンレスである。実施例5は、鋼材がSUS430である。実施例6は、鋼材がSUS304である。比較例1は、鋼材が亜鉛めっき鋼板HDZ45である。比較例2は、鋼材が亜鉛めっき鋼板HDZ55である。比較例3は、鋼材が熱延鋼板である。
【0030】
図6において、各試験および検証の判定基準は、以下の通りである。
【0031】
(1)平板材における塩水噴霧試験:2mm×70mm×150mmの試験体をJIS K 5600-7-1に準拠し、5%NaClを35℃の槽内でスプレー噴霧する方法で5000時間試験を行った。試験後赤錆発生面率が10%未満であると◎(合格)、10%以上30%未満であると○(可)、30%以上50%未満であると△(不適)、50%以上であると×(不合格)と判定した。
【0032】
(2)溶接部を有する溶接材における塩水噴霧サイクル試験:2mm×35mm×150mmの試験体の2枚を長手方向にTIG溶接した。溶接部表面を#600表面研磨した後、試験に供した。5%NaClを2時間噴霧(35℃)→乾燥(60℃、RH30%)を4時間→湿潤(50℃、RH95%)を2時間を1サイクルとする試験を、30サイクル試験した。溶接部での赤錆発生面積率が10%未満であると◎(合格)、10%以上30%未満であると○(可)、30%以上50%未満であると△(不適)、50%以上であると×(不合格)と判定した。
【0033】
(3)磁性:通常のフェライト磁石15mmφを近づけ、吸着力があると○(可)、吸着力がないと×(不合格)と判定した。
【0034】
(4)初期導入コスト:購入費用として従来の亜鉛めっき鋼板HDZ45に対して、費用が同等以下であると◎(合格)、1倍超え1.75倍以下であると○(可)、1.75倍超え3倍以下であると△(不適)、3倍超えを×(不合格)と判定した。
【0035】
(5)ライフサイクルコスト(LCC):設置の初期費用を含め、補修、維持管理費を含めた更新までの一般的な期間40年間のトータル費用が従来の亜鉛めっき鋼板HDZ45に対して1/3以下であると◎(合格)、1/3超え0.8倍未満であると○(可)、0.8倍超え1倍未満であると△(不適)、1倍以上であると×(不合格)と判定した。
【0036】
図6に示すように、本発明の実施例1-3である本発明例では、波型鋼板製水路部材1の低廉な初期導入コスト、屋外暴露における耐食性の向上および水暴露下の部分的に行われる溶接部5での耐食性の向上が認められた。これらの効果により、相乗効果として基本的に必要とされる2つの特性である波型鋼板製水路部材1のライフサイクルコストがより顕著に低減できると共に、長期の耐久性に顕著に優れる。したがって、今後の水路設備に必要とされる特性の全てが向上できることが分かる。
【0037】
[実施の形態1の効果]
実施の形態1によれば、波型鋼板製水路部材1は、流路方向に沿った断面が波形に形成された波付け鋼材を用いたものである。波付け鋼材は、ステンレスである。
この構成によれば、波型鋼板製水路部材1の波付け鋼材がステンレスであるので、波型鋼板製水路部材1が大幅に長寿命化できる。また、波型鋼板製水路部材1は、従来の水路部材あるいはコンクリート製水路構造物で必須だった補修による維持管理が大幅に削減できる。その結果、波型鋼板製水路部材1のライフサイクルコストが低減できる。
また、波型鋼板製水路部材1の波付け鋼材がステンレスであるので、平板材の試験で証明されたように耐食性が向上できる。
したがって、基本的に必要とされる2つの特性であるライフサイクルコストの低減および耐食性の向上が図れる。
加えて、波型鋼板製水路部材1の波付け鋼材がステンレスであるので、素材強度が向上し、水圧がかかる水路に用いた場合に、めっき鋼板に比して板厚の低減が図れる。また、コンクリート製水路構造物などに比して波型鋼板製水路部材1が飛躍的に軽量化できる。その結果、軽量化された波型鋼板製水路部材1は、軟弱地盤への施工性が向上でき、輸送コストおよびハンドリング性も向上できる。
【0038】
実施の形態1によれば、波付け鋼材は、ステンレスのうちフェライト系ステンレスである。
この構成によれば、波付け鋼材がフェライト系ステンレスであるので、波型鋼板製水路部材1が磁性を有する。このため、波型鋼板製水路部材1がたとえばリフティングマグネット作業車などの電磁石重機を用いて磁力の作用で引き付けて移動あるいは設置できる。その結果、波型鋼板製水路部材1が水路に施工される作業のハンドリング性が向上できる。そのため、今後若い作業者の人数が少なくなるなかで、作業者が少人数、高齢者あるいは女性などである場合でも、波型鋼板製水路部材1の施工作業が容易に行え、昨今の人手不足に適合した特性が得られる。
また、波型鋼板製水路部材1が水路の大規模改修などでコンクリートあるいは樹脂部材などと混ざって廃棄される場合に、磁性を有する波型鋼板製水路部材1は、電磁石などを用いた分別器で磁力の作用で引き付けて簡単に分別できる。その結果、波型鋼板製水路部材1が他の物と分別してリサイクルでき、環境対応(分別廃棄リサイクル)に適合した特性が得られる。
【0039】
実施の形態1によれば、波付け鋼材は、フェライト系ステンレスのうちSUS443J1である。
この構成によれば、波付け鋼材がSUS443J1であるので、高価なMoなどが添加されておらず、材料の価格が安定しており、初期導入コストが比較的低廉である。また、波型鋼板製水路部材1が屋外暴露における耐食性に優れる。また、波型鋼板製水路部材1が部分的に行われる溶接部5での耐食性に優れる。その結果、波型鋼板製水路部材1の低廉な初期導入コスト、屋外暴露における耐食性の向上および溶接部5での耐食性の向上により、相乗効果として基本的に必要とされる2つの特性である波型鋼板製水路部材1のライフサイクルコストがより顕著に低減できると共に、長期の耐久性に顕著に優れる。したがって、今後の水路設備に必要とされる特性の全てが向上できる。
【0040】
実施の形態1によれば、波型鋼板製水路部材1は、取付物品を取り付ける溶接部5を有している。
この構成によれば、波型鋼板製水路部材1は、たとえば水深計などの取付物品を取り付ける取付部に溶接が施され、溶接部5を有している。ここで、めっき鋼板の場合には、溶接部が薄いめっき状態となり、腐食し易い傾向がある。また、鋼材がたとえばSUS430などのステンレスである場合には、溶接時に600℃~800℃に加熱された溶接部にCr炭化物が生成され、Crの含有率が12%を下回る欠乏層が生じ、応力腐食割れへの感受性が強くなる鋭敏化が発生する。このため、鋭敏化した溶接部が非溶接部よりも耐久性が劣化する傾向がある。一方、波付け鋼材がSUS443J1であると、波型鋼板製水路部材1がSUS443J1の成分としてTiを含有するので、溶接時においてもCrの含有率が12%を下回る欠乏層が生じ難く溶接部5の鋭敏化が抑制できる。その結果、波型鋼板製水路部材1が溶接部5での耐食性に優れ、長期の耐久性に優れる。
【0041】
実施の形態1によれば、波型鋼板製水路部材1は、コーナー部用である。波型鋼板製水路部材1は、上流側部品1dと下流側部品1eとを有している。波型鋼板製水路部材1は、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げる溶接部5を有している。
この構成によれば、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げる溶接部5は、波型鋼板製水路部材1の流路方向に対して両側壁部1a、1bおよび底壁部1cにわたって両上端部まで長く溶接された溶接領域を有している。そして、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げる溶接部5は、コーナー部用の波型鋼板製水路部材1を流れる水に直接接触する水暴露下で腐食し易い部分である。これに対し、コーナー部用の波型鋼板製水路部材1がSUS443J1の成分としてTiを含有するので、上流側部品1dと下流側部品1eとを繋げる溶接部5の鋭敏化が抑制できる。よって、溶接部5として長い溶接領域を有するコーナー部用の波型鋼板製水路部材1が水暴露下の溶接部5での耐食性に優れ、長期の耐久性に優れ、コーナー部用の波型鋼板製水路部材1のライフサイクルコストがより低減できる。
【0042】
なお、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0043】
1 波型鋼板製水路部材、1a 側壁部、1b 側壁部、1c 底壁部、1d 上流側部品、1e 下流側部品、2 シール材、3 腹起し、4 切梁、5 溶接部、6 水深計。
図1
図2
図3
図4
図5
図6