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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121771
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】無電解めっき用触媒液
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/30 20060101AFI20220815BHJP
   H05K 3/18 20060101ALN20220815BHJP
【FI】
C23C18/30
H05K3/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018656
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永峯 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】吉川 純二
(72)【発明者】
【氏名】恒次 涼太
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(72)【発明者】
【氏名】草田 康平
【テーマコード(参考)】
4K022
5E343
【Fターム(参考)】
4K022AA14
4K022BA14
4K022CA02
4K022CA03
4K022CA06
4K022CA15
4K022CA19
4K022CA24
4K022DA01
4K022DB02
4K022DB26
5E343AA16
5E343CC71
5E343DD33
5E343DD43
5E343EE37
5E343ER02
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】低コストでありながら有用な無電解めっき用触媒液の提供。
【解決手段】無電解めっき用触媒液は、六方最密充填構造を有するニッケル合金ナノ粒子を含有する。前記ニッケル合金ナノ粒子がNi-B合金ナノ粒子及びNi-C合金ナノ粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方最密充填構造を有するニッケル合金ナノ粒子を含有する無電解めっき用触媒液。
【請求項2】
前記ニッケル合金ナノ粒子がNi-B合金ナノ粒子及びNi-C合金ナノ粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載の無電解めっき用触媒液。
【請求項3】
前記ニッケル合金ナノ粒子の平均粒子径が1~200nmである、請求項1又は2に記載の無電解めっき用触媒液。
【請求項4】
前記ニッケル合金ナノ粒子の含有量が、無電解めっき用触媒液100質量%に対して、0.1~80質量%である、請求項1~3のいずれかに記載の無電解めっき用触媒液。
【請求項5】
水、アルコール、グリコールエーテル、脂環式炭化水素、アミド、及びスルホキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の無電解めっき用触媒液。
【請求項6】
被めっき物を請求項1~5のいずれかに記載の無電解めっき用触媒液に接触させる工程を含む、無電解めっきの前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用触媒液等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車を軽量化する目的等から、自動車用部品として樹脂成形体が使用されている。この様な目的では、樹脂成形体として、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリカーボネート(PC)/ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリアミド樹脂等が用いられており、高級感や美観を付与するために、銅、ニッケル等のめっきが施されている。更に、樹脂基板に対して導電性を付与して導体回路を形成する場合にも、樹脂基板上に銅等のめっき皮膜を形成することが行われている。
【0003】
樹脂材料にめっき皮膜を形成する一般的な方法として、クロム酸によるエッチング処理によって樹脂材料の表面を粗化した後、必要に応じて、中和及びプリディップを行い、次いで、錫化合物及びパラジウム化合物を含有するコロイド溶液を用いて無電解めっき用触媒を付与し、その後錫を除去するための活性化処理(アクセレーター処理)を行い、無電解めっき及び電気めっきを順次行う方法が行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のめっき方法では、高価なパラジウム化合物を含有する無電解めっき用触媒液を使用するため、コストが高くなるという問題がある。
【0005】
本発明の主な課題は、低コストでありながら有用な無電解めっき用触媒液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、六方最密充填構造を有するニッケル合金ナノ粒子が、低コストでありながら無電解めっき用触媒として有用であることを見出した。本発明は当該知見に基づいて更に検討を重ねて完成したものである。
【0007】
本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
六方最密充填構造を有するニッケル合金ナノ粒子を含有する無電解めっき用触媒液。
項2.
前記ニッケル合金ナノ粒子がNi-B合金ナノ粒子及びNi-C合金ナノ粒子からなる群より選ばれる少なくとも一種である、項1に記載の無電解めっき用触媒液。
項3.
前記ニッケル合金ナノ粒子の平均粒子径が1~200nmである、項1又は2に記載の無電解めっき用触媒液。
項4.
前記ニッケル合金ナノ粒子の含有量が、無電解めっき用触媒液100質量%に対して、0.1~80質量%である、項1~3のいずれかに記載の無電解めっき用触媒液。
項5.
水、アルコール、グリコールエーテル、脂環式炭化水素、アミド、及びスルホキシドからなる群より選ばれる少なくとも一種の溶媒を含有する、項1~4のいずれかに記載の無電解めっき用触媒液。
項6.
被めっき物を項1~5のいずれかに記載の無電解めっき用触媒液に接触させる工程を含む、無電解めっきの前処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、低コストでありながら有用な無電解めっき用触媒液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は実施例1~3及び比較例1の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子のX線回折パターンを示す。六方最密充填(hcp)と面心立法格子(fcc)は共に最密充填構造であり、その構造は最密面の積層形態がABABAB..またはABCABC...と異なるだけである。hcp(002)及びfcc(111)はこの最密面を意味しており、最密面の積層間隔が同じであれば、この結晶面から得られる回折ピークは同位置に現れる。しかし、実施例1~3の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子のhcp(002)のピーク位置は、比較例1の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子fcc(111)のピーク位置よりも低角度に表れている。これは、実施例1~3の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子がホウ素や炭素などの軽元素の格子内の侵入により格子が膨張していることを意味する。
図2図2は実施例2の透過電子顕微鏡(TEM)観察結果を示す。図2では平均粒子径50nmのNi合金ナノ粒子が確認できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.無電解めっき用触媒液
本発明の無電解めっき用触媒液(以下、単に「触媒液」という。)は、六方最密充填(hcp)構造のニッケル合金ナノ粒子を含有する。
【0011】
ニッケル及びニッケル合金は、通常、面心立法格子(fcc)構造を有する。fcc構造を有するニッケル又はニッケル合金を無電解めっき用触媒として使用した場合、従来のパラジウムと比較して活性が低い。従って、当業者の間では、ニッケル及びニッケル合金は、無電解めっき用触媒として活性が低いものであると認識されていた。しかし、本発明者等は、鋭意検討の結果、hcp構造を有するニッケル合金ナノ粒子が、意外にも、従来のパラジウムと同等又はそれ以上の活性を示すことを見出した。
【0012】
(ニッケル合金ナノ粒子)
本明細書において、「ナノ粒子」とは、平均粒子径がnmオーダー、すなわち、1μm未満の粒子をいう。「平均粒子径」は、透過電子顕微鏡(TEM)写真において、50個の粒子をランダムで選択し、それらの粒子径を測定して平均することにより算出される値をいう。
【0013】
ニッケル合金ナノ粒子は、hcp構造を有する限り、特に制限されない。ニッケル合金ナノ粒子としては、例えば、Ni-B合金ナノ粒子、Ni-C合金ナノ粒子、Ni-N合金ナノ粒子、Ni-S合金ナノ粒子等が挙げられる。ニッケル合金ナノ粒子は1種単独であっても2種以上を組み合わせてもよい。
【0014】
ニッケル合金ナノ粒子の平均粒子径は、好ましくは1~200nmである。平均粒子径が当該範囲にあると、ナノ粒子同士の凝集を防止することができ触媒液の安定性に優れ、触媒活性もより一層優れる。ニッケル合金ナノ粒子の平均粒子径は、より好ましくは1~150nmであり、さらに好ましくは2~100nmであり、特に好ましくは5~50nmである。
【0015】
ニッケル合金ナノ粒子の製造方法としては、例えば、下記工程A及びB:
(A)塩化ニッケル水和物(例:6水和物、4水和物)及び必要により分散剤を溶媒に溶解する工程A、及び
(B)工程Aで得られる溶解液に合金形成用材料(例:Ni-B合金形成用の水素化ホウ素ナトリウム、Ni-C合金形成用のヒドラジン水和物)を添加する工程B
を含む方法が挙げられる。
【0016】
工程Aに用いられる溶媒及び分散剤としては特に限定されず、例えば、後述の触媒液に含有される溶媒及び分散剤と同じものが挙げられる。塩化ニッケル水和物の濃度は特に限定されないが、例えば1~50g/Lである。
【0017】
工程Bに用いられる合金形成用材料の添加量は特に限定されない。当該添加量は、例えば、濃度1~50g/Lになる量であってもよい。工程Bの条件は、合金を形成し得る限り特に制限されないが、溶解液の液温は、溶媒の種類、合金形成用材料の種類等に応じて、例えば1~250℃の範囲内から選択することができる。
【0018】
ニッケル合金ナノ粒子の含有量は、触媒液100質量%に対して、好ましくは0.1~80質量%であり、より好ましくは0.2~40質量%であり、さらに好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは1~20質量%である。前記含有量が増加するにつれて触媒吸着量も増加し、十分なめっき析出性を得ることができる。一方、前記含有量を低減するにつれて触媒使用量も低減し、コストを低減することができる。
【0019】
(溶媒)
触媒液は、通常、溶媒を含有する。溶媒は、ニッケル合金ナノ粒子を分散させることができる限り、特に制限されない。溶媒としては、例えば、水、アルコール、グリコール類、脂環式炭化水素、アミド、スルホキシド等が挙げられる。溶媒は1種単独であっても2種以上を組み合わせてもよい。
【0020】
アルコールとしては特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール等のC1-4アルコールが挙げられる。
【0021】
グリコール類としては特に限定されず、例えば、ポリアルキレングリコール又はそのアルキルエーテルが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等の(ポリ)C2-4アルキレングリコール又はそのモノC1-4アルキルエーテル等が挙げられる。
【0022】
脂環式炭化水素としては特に限定されず、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、ハウサン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、キュバン、バスケタン、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクチン等のC5-10シクロアルカン又はシクロアルケン等が挙げられる。
【0023】
アミドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアニリド等が挙げられる。
【0024】
スルホキシドとしては特に限定されず、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジエチルスルホキシド、ジスルホキシド、メチル-フェニル-スルホキシド、4-クロロフェニルスルホキシド等が挙げられる。
【0025】
(分散剤)
触媒液は、さらに分散剤を含有してもよい。分散剤としては特に限定されず、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン等が挙げられる。分散剤は1種単独であっても2種以上を組み合わせてもよい。分散剤の含有量は、触媒液100質量%に対して、好ましくは0.01~40質量%であり、より好ましくは0.02~20質量%であり、さらに好ましくは0.05~10質量%である。
【0026】
(pH)
触媒液の25℃でのpHは特に限定されず、通常2~9の範囲である。pHが高いほどニッケル合金ナノ粒子が溶解してイオン化する懸念がなく、pHが低いほど触媒液の浴安定性に優れる。
【0027】
2.無電解めっきの前処理方法
本発明の無電解めっきの前処理方法は、被めっき物を触媒液に接触させる工程(以下、「触媒付与工程」という。)を含む。
【0028】
(触媒液)
触媒液としては、上記1に記載の触媒液を使用することができる。
【0029】
(被めっき物)
被めっき物は、無電解めっきの対象となる限り、その形状、大きさ等について特に限定はない。被めっき物の典型例としては、樹脂成形体が挙げられる。本発明の触媒液で前処理することにより、表面積の大きい樹脂成形体に対しても、装飾性、物性等に優れた良好なめっき皮膜を形成することができる。このような樹脂成形体としては、例えば、ラジエターグリル、ホイールキャップ、中・小型のエンブレム、ドアーハンドル等の自動車関連部品;電気・電子分野での外装品;水廻り等で使用されている水栓金具;パチンコ部品等の遊技機関係品等が挙げられる。
【0030】
樹脂成形体の樹脂材料についても特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がアクリルゴム成分に置き換わった樹脂(AAS樹脂)、ABS樹脂のブタジエンゴム成分がエチレン-プロピレンゴム成分に置き換わった樹脂(AES樹脂)等のスチレン系樹脂が挙げられる。上記スチレン系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイ樹脂(例えば、上記スチレン系樹脂とPC樹脂との質量比が30/70~70/30程度であるアロイ樹脂)等も好適に使用することができる。更に、耐熱性、物性に優れたポリアミド樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリフェニレンオキサイド(PPO)樹脂等も同様に使用可能である。樹脂材料は1種単独であっても2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
(脱脂工程)
本発明の無電解めっきの前処理方法は、触媒付与工程の前に、被めっき物を脱脂処理に供する工程(以下、単に「脱脂工程」という。)を含むことが好ましい。脱脂処理により被めっき物の表面の汚れを除去することができる。
【0032】
脱脂処理は、公知の方法、例えば、被めっき物を脱脂液に接触又は浸漬する方法により実施することができる。脱脂液としては特に限定されないが、例えば、水、アルカリ金属塩、及び界面活性剤を含有する脱脂液が挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、水酸化ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0033】
脱脂処理条件は、いずれの脱脂液を使用する場合も特に限定されない。処理温度(例えば、脱脂液の液温)は40~70℃程度であることができ、処理時間(例えば、脱脂液への接触又は浸漬時間)は1~20分程度であることができる。
【0034】
(エッチング工程)
本発明の無電解めっきの前処理方法は、触媒付与工程の前に、被めっき物をエッチングする工程(以下、単に「エッチング工程」という。)を含むことが好ましい。エッチングにより被めっき物の表面を適度に粗化することでめっき皮膜の密着性を向上することができる。
【0035】
エッチングは、公知の方法、例えば、被めっき物をエッチング液に接触又は浸漬する方法により実施することができる。エッチング液としては特に限定されないが、例えば、クロム酸及び硫酸を含有するエッチング液、過マンガン酸塩を含有するエッチング液が挙げられる。前者としては、例えば、無水クロム酸;400g/L、硫酸;400g/L、3価クロム;10g/Lの組成を有するエッチング溶液が挙げられる。後者としては、例えば、国際公開第2015/060196号に記載の過マンガン酸イオンが0.2mmol/L以上であり酸成分を合計濃度として10mol/L以上含有するエッチング液が挙げられる。
【0036】
エッチング処理条件は、いずれのエッチング液を使用する場合も特に限定されない。処理温度(例えば、エッチング液の液温)は30~80℃程度であることができ、処理時間(例えば、エッチング液への接触又は浸漬時間)は3~30分程度であることができる。
【0037】
(還元工程)
本発明の無電解めっきの前処理方法は、エッチング工程に加えて、被めっき物の表面上のエッチング残渣(クロム酸、過マンガン酸等)を除去するため、被めっき物を還元処理に供する工程(以下、単に「還元工程」という。)を含むことが好ましい。
【0038】
還元処理は、公知の方法、例えば、エッチング工程後の被めっき物を、還元剤を含有する水溶液に接触又は浸漬する方法により実施することができる。還元剤としては、還元性を有する無機酸、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン等が挙げられる。還元剤の濃度としては特に限定されないが、例えば、1~100g/L程度であることができる。
【0039】
還元処理条件は、特に限定されない。処理温度(例えば、還元剤を含有する水溶液の液温)は20~40℃程度であることができ、処理時間(例えば、還元剤を含有する水溶液への接触又は浸漬時間)は30秒~3分程度であることができる。
【0040】
(触媒付与工程)
触媒付与工程により被めっき物の表面にニッケル合金ナノ粒子を付与することができる。触媒を均一に付与するため、ポンプを用いた触媒液流動、触媒液中での被めっき物の揺動等を行ってもよい。
【0041】
触媒付与工程の処理条件は、特に限定されない。処理温度(例えば、触媒液の液温)は20~80℃であることが好ましい。温度が高いほど触媒吸着性が向上し、温度が低いほど液安定性が向上する。処理温度は、より好ましくは30~70℃であり、さらに好ましくは40~60℃である。処理時間(例えば、触媒液への浸漬時間)は1秒~60分であることが好ましい。処理時間が長いほど触媒吸着性が向上し、処理時間が短いほど触媒の使用量を抑えることができ、コストを低減することができる。処理時間は、より好ましくは1~30分であり、さらに好ましくは2~15分である。
【0042】
(無電解めっき)
無電解めっきは、公知の方法、例えば、触媒付与工程を含む前処理方法により前処理された被めっき物を無電解めっき液に接触又は浸漬することにより実施することができる。
【0043】
無電解めっき液としては特に限定されず、例えば、自己触媒型無電解めっき液を用いることができる。当該無電解めっき液としては、例えば、無電解ニッケルめっき液、無電解ニッケル-銅合金めっき液、無電解ニッケル-コバルト合金めっき液、無電解コバルトめっき液、無電解金めっき液等が挙げられる。
【0044】
無電解めっき液は、還元剤を含有することが好ましい。還元剤としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。浴安定性の点から、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0045】
無電解めっき液中の還元剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.01~100g/Lであり、より好ましくは0.05~50g/Lであり、さらに好ましくは0.1~10g/Lである。還元剤の含有量の下限を上記値とすることで、めっきの析出性がより一層向上し、還元剤の含有量の上限を上記値とすることで、浴安定性がより一層向上する。
【0046】
無電解めっきの処理条件は、特に限定されない。処理温度(例えば、無電解めっき液の液温)は20~70℃程度であることができ、処理時間(例えば、無電解めっき液への接触又は浸漬時間)は3~30分程度であることができる。
【0047】
3.無電解めっき方法
本発明は、被めっき物を触媒液に接触させる工程(触媒付与工程)、及び当該工程を経た被めっき物を無電解めっき液に接触させる工程(無電解めっき工程)を含む、無電解めっき方法を包含する。
【0048】
触媒液としては、上記1に記載の触媒液を使用することができ、被めっき物としては、上記2の「被めっき物」に記載されたものを使用することができる。触媒付与工程及び無電解めっき工程は、それぞれ、上記2の「触媒付与工程」及び「無電解めっき」に記載の工程であることができる。
【0049】
本発明の無電解めっき方法は、上記2の「脱脂工程」、「エッチング工程」、及び「還元工程」を含むことが好ましい。
【0050】
本発明の無電解めっき方法は、無電解めっき工程を2回以上繰り返して行ってもよい。無電解めっき工程を2回以上繰り返すことにより、無電解めっき皮膜を2層以上形成することができる。
【0051】
4.めっき方法
本発明は、被めっき物を触媒液に接触させる工程(触媒付与工程)、当該工程を経た被めっき物を無電解めっき液に接触させる工程(無電解めっき工程)、及び当該工程を経た無電解めっき物を電気めっき液に接触させる工程(電気めっき工程)を含む、めっき方法を包含する。
【0052】
触媒液としては、上記1に記載の触媒液を使用することができ、被めっき物としては、上記2の「被めっき物」に記載されたものを使用することができる。触媒付与工程及び無電解めっき工程は、それぞれ、上記2の「触媒付与工程」及び「無電解めっき」に記載の工程であることができる。
【0053】
本発明のめっき方法は、上記2の「脱脂工程」、「エッチング工程」、及び「還元工程」を含むことが好ましい。
【0054】
本発明のめっき方法は、無電解めっき工程を2回以上繰り返して行ってもよい。無電解めっき工程を2回以上繰り返すことにより、無電解めっき皮膜を2層以上形成することができる。
【0055】
本発明のめっき方法は、電気めっき工程の前に、無電解めっき物を活性化する工程を含んでいてもよい。活性化方法としては、公知の方法、例えば、無電解めっき物を酸、アルカリ等の水溶液に接触又は浸漬させる方法が挙げられる。
【0056】
電気めっき工程は、公知の方法により実施することができる。
【実施例0057】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0058】
(無電解めっき皮膜の作製)
被めっき物である樹脂成形体として、ABS樹脂(UMG ABS(株)製、商標名:UMG ABS3001M)の平板(10cm×5cm×0.3cm、表面積約1dm)を用意し、以下の方法で無電解めっき皮膜を形成した。
【0059】
第1工程として、樹脂成形体を、アルカリ系脱脂液(奥野製薬工業(株)製、エースクリーンA-220浴)中に40℃で5分間浸漬し、水洗した。
【0060】
第2工程として、第1工程後の樹脂成形体を、無水クロム酸;400g/L、硫酸;400g/L、3価クロム;10g/Lの組成のエッチング液に67℃で10分間浸漬した。
【0061】
第3工程として、第2工程後の樹脂成形体を、表1及び2に示す配合で調製した触媒液に50℃で10分間浸漬した。
【0062】
実施例及び比較例の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子の製造方法は、次の通りである。
(1)実施例1、3、5、及び12の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、溶媒(水)1Lあたり、塩化ニッケル6水和物40.5g及びポリビニルピロリドン100gを溶解させ、液温を25℃±3℃に保持し、撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウム30gを一気に添加し、1時間撹拌後、遠心分離することにより得た。
(2)実施例7及び8の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、溶媒(水)1Lあたり、塩化ニッケル6水和物40.5g及びポリビニルピロリドン100gを溶解させ、液温を40℃±3℃に保持し、撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウム30gを一気に添加し、1時間撹拌後、遠心分離することにより得た。
(3)実施例10の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、溶媒(水)1Lあたり、塩化ニッケル6水和物40.5g及びポリビニルピロリドン100gを溶解させ、液温を7℃±3℃に保持し、撹拌しながら水素化ホウ素ナトリウム30gを一気に添加し、1時間撹拌後、遠心分離することにより得た。
(4)実施例2、4、及び6の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、溶媒(トリエチレングリコール)1Lあたり、塩化ニッケル4水和物4.5g、ポリビニルピロリドン2.5g、及びNaOH4gを溶解させ、液温を230℃±3℃に保持し、撹拌しながらヒドラジン・1水和物4.5gを一気に添加し、1時間撹拌後、遠心分離することにより得た。
(5)実施例9の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、溶媒(トリエチレングリコール)1Lあたり、塩化ニッケル4水和物4.5g、ポリビニルピロリドン2.5g、及びNaOH4gを溶解させ、液温を180℃±3℃に保持し、撹拌しながらヒドラジン・1水和物4.5gを一気に添加し、1時間撹拌後、遠心分離することにより得た。
(6)実施例11の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、溶媒(トリエチレングリコール)1Lあたり、塩化ニッケル4水和物4.5g、ポリビニルピロリドン0.5g、及びNaOH4gを溶解させ、液温を180℃±3℃に保持し、撹拌しながらヒドラジン・1水和物4.5gを一気に添加し、1時間撹拌後、遠心分離することにより得た。
(7)比較例1の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、実施例1、3、5、及び12のNi合金ナノ粒子を水素雰囲気下250℃で10分間焼成することにより得た。
(8)比較例2の触媒液に含まれるNi合金ナノ粒子は、実施例2、4、及び6のNi合金ナノ粒子を水素雰囲気下250℃で10分間焼成することにより得た。
【0063】
表1及び2に記載のEtOHはエタノールを表し、EGはエチレングリコールを表す。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
第4工程として、第3工程後の樹脂成形体を、次亜リン酸ナトリウムを還元剤とする無電解ニッケルめっき液(奥野製薬工業(株)製、化学ニッケルRS浴)中に40℃で5分間浸漬して、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した。
【0067】
以上の方法で形成された無電解ニッケルめっき皮膜の被覆率を下記の方法によって評価した。
【0068】
(被覆率)
樹脂成形体表面の無電解めっき皮膜が形成された面積の割合を被覆率として評価した。樹脂成形体表面の全面が被覆された場合を被覆率100%とした。
【0069】
また、表1及び2に示す配合で調製した触媒液の浴安定性を下記の方法で評価した。
【0070】
(浴安定性)
調製後の触媒液を室温で10日間放置し、放置後の液状を目視確認した。調製直後の状態と比較して変化が見られなければ〇、沈殿物や凝集物が生成した場合は×とした。
【0071】
被覆率及び浴安定性の結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3の結果から、hcp構造を有するニッケル合金ナノ粒子を含有する触媒液は浴安定性に優れ、被めっき物を当該触媒液に浸漬した後に、無電解めっき液に浸漬することにより形成される無電解めっき皮膜は、被覆率が高いことが分かった。これに対して、fcc構造の比較例1及び比較例2の触媒液を用いた場合には、形成される無電解めっき皮膜の被覆率が劣ることが分かった。
図1
図2