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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121800
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】航空機の姿勢制御システム
(51)【国際特許分類】
   B64C 13/06 20060101AFI20220815BHJP
   G05D 1/08 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B64C13/06
G05D1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018700
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】石坂 仁
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 光男
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA06
5H301CC04
5H301CC07
5H301CC08
5H301HH03
(57)【要約】
【課題】航空機の安全性を向上させる姿勢制御システムを提供する。
【解決手段】航空機10は、機体12の姿勢調整を行なう姿勢調整部材である補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602と、操縦士により機体12の姿勢調整操作を行うための姿勢調整操作部材である操縦桿31やラダーペダル32と、姿勢調整操作部材への操作量を検出する第1~第3検出部41~43と、第1~第3検出部41~43で検出された操作量を姿勢調整部材の移動量の指令値に変換する飛行制御部52と、姿勢調整部材の単位時間当たりの移動量の許容値である許容速度を設定し、指令値を実現するための部材移動速度である指令速度が許容速度を超える場合、姿勢調整部材の実際の部材移動速度を指令速度よりも遅くする移動制限を行う移動制限部54とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体の姿勢調整を行なう姿勢調整部材と、
操縦士により前記機体の姿勢調整操作を行うための姿勢調整操作部材と、
前記姿勢調整操作部材への操作量を検出する検出部と、
前記検出部で検出された前記操作量を前記姿勢調整部材の移動量の指令値に変換する飛行制御部と、
前記姿勢調整部材の単位時間当たりの移動量の許容値である許容速度を設定し、前記指令値を実現するための部材移動速度である指令速度が前記許容速度を超える場合、前記姿勢調整部材の実際の部材移動速度を前記指令速度よりも遅くする移動制限を行う移動制限部と、
を備えたことを特徴とする航空機の姿勢制御システム。
【請求項2】
前記移動制限部は、前記移動制限時には前記実際の単位時間当たりの部材移動速度を前記許容速度以下にする、
ことを特徴とする請求項1記載の航空機の姿勢制御システム。
【請求項3】
前記移動制限部は、前記航空機の飛行速度が速いほど前記許容速度を遅く設定する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の航空機の姿勢制御システム。
【請求項4】
前記移動制限部は、前記航空機の飛行高度が低いほど前記許容速度を遅く設定する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項2記載の航空機の姿勢制御システム。
【請求項5】
前記移動制限部は、前記移動制限実施後、前記指令値に対応する前記姿勢調整部材の移動を実現するまで前記姿勢調整部材の移動を継続する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の航空機の姿勢制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の姿勢制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機の操縦は、複数の操縦士(一般には機長および副操縦士の2名)が航空機に搭乗し、交代で操縦業務を行っている。
例えば、下記特許文献1は、航空機におけるパイロット・ワークロードを軽減することを目的とした情報伝達システムであり、伝達情報決定部、出力装置及び振動装置を有する。伝達情報決定部は、航空機のパイロットへの伝達情報を決定する。出力装置は、伝達情報をメッセージ、音声、音又は光として前記パイロットに伝達する。振動装置は、伝達情報がパイロットに伝達される際、パイロットに振動を伝播させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-038349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
航空機には様々な操縦部材が設けられており、これらを操縦士が操縦することにより航空機の各部(エンジンや補助翼等)が動作し、離陸や着陸に代表される各種の飛行動作を実施する。操縦士は航空機周辺の状況を総合的に判断して操縦部材の操作を行っているが、飛行状況によっては操縦士の操作通りに動作すると機体の動作が不安定になる可能性があり、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、航空機の安全性を向上させる姿勢制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、航空機の機体の姿勢調整を行なう姿勢調整部材と、操縦士により前記機体の姿勢調整操作を行うための姿勢調整操作部材と、前記姿勢調整操作部材への操作量を検出する検出部と、前記検出部で検出された前記操作量を前記姿勢調整部材の移動量の指令値に変換する飛行制御部と、前記姿勢調整部材の単位時間当たりの移動量の許容値である許容速度を設定し、前記指令値を実現するための部材移動速度である指令速度が前記許容速度を超える場合、前記姿勢調整部材の実際の部材移動速度を前記指令速度よりも遅くする移動制限を行う移動制限部と、を備えたことを特徴とする。
また、本発明は、前記移動制限部は、前記移動制限時には前記実際の単位時間当たりの部材移動速度を前記許容速度以下にする、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記移動制限部は、前記航空機の飛行速度が速いほど前記許容速度を遅く設定する、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記移動制限部は、前記航空機の飛行高度が低いほど前記許容速度を遅く設定する、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記移動制限部は、前記移動制限実施後、前記指令値に対応する前記姿勢調整部材の移動を実現するまで前記姿勢調整部材の移動を継続する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、姿勢調整操作部材への操作に対応する姿勢調整部材の移動速度(指令速度)が許容速度を超えている場合、姿勢調整部材の実際の部材移動速度を指令速度よりも遅くする移動制限を行う。これにより、航空機の機体姿勢が急変動し、飛行状態が不安定となる可能性を低減することができる。例えば操縦士が姿勢調整操作部材を急激に操作すると、姿勢調整部材が急激に動き、機体の姿勢が急激に変化する。機体の姿勢の急激な変化は、飛行高度の低下につながる可能性がある。一般に航空機の高度を下げるのは容易であるが、一旦下がった高度を回復するのは容易ではなく、高度の回復が遅くなった場合は墜落の可能性がある。本発明によれば、このような機体姿勢の急変動を防止し、航空機の安全性を向上させる上で有利となる。
また、本発明によれば、移動制限時には実際の部材移動速度を許容速度以下にするので、過剰な機体姿勢の変化を確実に防止することができる。
また、本発明によれば、航空機の飛行速度が速いほど許容速度を遅く設定するので、高速飛行時における航空機の安全性を向上させる上で有利となる。
また、本発明によれば、航空機の飛行高度が低いほど許容速度を遅く設定するので、低空飛行時における航空機の安全性を向上させる上で有利となる。
また、本発明によれば、移動制限実施後、指令値に対応するだけの姿勢調整部材の移動を実現するまで姿勢調整部材の移動を継続するので、機体姿勢の安定を図りながら最終的には当初の姿勢変化操作に対応する姿勢変化量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る航空機外観を示す図である。
図2】航空機のコックピット内の構成を示す図である。
図3】航空機の全体構成を示すブロック図である。
図4】姿勢制御システムによる姿勢制御の手順を示すフローチャートである。
図5】操縦桿の構成を示す説明図である。
図6】操縦桿の構成を示す説明図である。
図7】ラダーペダルの構成を示す説明図である。
図8】レバー類の構成を示す説明図である。
図9】操縦部材の操作量と被操作部材の制御量との関係を模式的に示すグラフである。
図10】航空機の飛行状態と許容速度との関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、実施の形態に係る航空機の外観を示す図である。
図1に示すように、航空機10は、機体12と、主翼14と、垂直尾翼16と、水平尾翼18と、エンジン20と、コックピット30とを備える。
【0010】
機体12は、操縦士を含む乗員および乗客(または貨物)を収容する。
主翼14は、機体12の略中央部から機体12の左右方向に延び、機体12を上昇させる揚力を発生させる。主翼14は、機体12に対して固定されている。
主翼14の上面の中央部付近にはスポイラー1402が設けられている。スポイラー1402は、通常時は主翼14の表面と平行に伏した状態であるが、後述するスピードブレーキレバー34を操作すると、主翼14の表面に対して垂直方向に立ち上がり、空気抵抗により航空機10が減速する。スポイラー1402は、着陸時に急降下する際などに用いられる。
【0011】
また、主翼14の後縁のうち、主翼14の延在方向中央部には、フラップ1404が設けられている。フラップ1404は、通常時は主翼14の前後方向の延在方向に沿って伸びているが、後述するフラップレバー35を操作すると、フラップ1404が主翼14の前後方向の延在方向に対して下側(地表側)に傾き、機体12の揚力が増す。フラップ1404は、離着陸時など低速時において高い揚力を得られるように設けられた高揚力装置である。
【0012】
また、主翼14の後縁のうち、主翼14の延在方向先端部には、補助翼(エルロン)1406が設けられている。補助翼1406は、通常時は主翼14の前後方向の延在方向に沿って伸びているが、後述する操縦桿31を操作すると、左右の補助翼1406が主翼14の前後方向の延在方向に対して下側(地表側)または上側(上空側)にそれぞれ傾き、機体12がロール方向に変位する。
【0013】
垂直尾翼16は、機体12の後端部付近から垂直に立設し、機体12のヨー方向の姿勢を安定させる。垂直尾翼16は機体12に対して固定されている。
垂直尾翼16の後縁部には左右方向に移動可能なラダー1602が設けられている。ラダー1602は、通常時は垂直尾翼16の延在方向(≒機体12の延在方向)に沿って伸びているが、後述するラダーペダル32を操作すると、垂直尾翼16の延在方向に対して左右に傾き、機体12の進行方向が左右(ヨー方向)に変化する。
【0014】
水平尾翼18は、機体12の後端部付近から左右方向に延び、機体12のピッチ方向の姿勢を安定させる。水平尾翼18は機体12に対して固定されている。
水平尾翼18の後縁部には上下方向に移動可能なエレベータ1802が設けられている。エレベータ1802は、通常時は水平尾翼18の前後方向の延在方向に沿って伸びているが、後述する操縦桿31を前後方向に操作すると、水平尾翼18の延在方向に対して上下に傾き、機体12の先頭部(機首)が上下(ピッチ方向)に変位する。
【0015】
すなわち、本実地の形態では、補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602が航空機10の機体12の姿勢調整を行なう姿勢調整部材として設けられている。
【0016】
エンジン20は、航空機10の飛行に必要な推進力を発生させる。本実施の形態では、左右の主翼14に各1つ、合計2つのエンジン20が設けられている。
また、本実施の形態では、エンジン20は、燃料の熱エネルギーをピストンの往復運動に変換し、回転運動として出力するレシプロエンジンであるものとする。エンジン20の前方にはプロペラ22が配置されており、プロペラ22は、エンジン20から出力された回転運動により回転し、航空機10の飛行に必要な推進力を発生させる。
【0017】
これら航空機10の構成は、航空機制御部50によってその挙動が制御される。航空機制御部50は、航空機10全体の挙動を司るコンピュータであり、後述する操縦部材31、32、33、34、35に対する操作に基づいて、航空機10の各構成部の挙動を制御する。
【0018】
コックピット30は、機体12の内部前端部に設けられ、航空機10の操縦部材が設けられている。
図2は、コックピット内の構成を示す図である。
また、図3は、航空機の全体構成を示すブロック図である。
コックピット30には、操縦士が着席する操縦席300と、モニタや各種計器類等が設けられたコントロールパネル302と、複数の操縦部材を構成する操縦桿31、ラダーペダル32(32A,32B)、スラストレバー33、スピードブレーキレバー34、フラップレバー35が設けられている。
【0019】
複数の操縦部材31、32、33、34、35は、航空機10の被操縦部材の操縦を行なうために操縦士によって操縦される部材である。
なお、操縦席300、操縦桿31およびラダーペダル32は、機長および副操縦士用に2つずつ設けられている。
また、コックピット30には、図2に挙げた操縦部材の他にも、例えば車輪格納用レバーなど、様々な操縦部材が設けられているが、本実施の形態では代表的な操縦部材について説明する。
【0020】
図3に示すように、航空機10には、図1に示した被操縦部材である補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602、エンジン20、スポイラー1402、フラップ1404、図2に示した操縦部材である操縦桿31、ラダーペダル32(32A,32B)、スラストレバー33、スピードブレーキレバー34、フラップレバー35の他、各操縦部材に対する操縦士による操作量の検出する第1~第6検出部41~46および航空機制御部50を備える。
【0021】
操縦桿31は、航空機10の姿勢を操縦するための機構である。
図5および図6は、操縦桿の構成を示す図であり、図5は操縦席に着席した操縦士から見た正面視図、図6は右側面視図である。
操縦桿31は、床面Fから立設する揺動軸3100と、揺動軸3100の先端に取り付けられた被把持部3102と、揺動軸3100と被把持部3102とを接続する接続部3104とを備える。
被把持部3102は、接続部3104内の第1回転軸3106から左右に延びる第1アーム3102Aと、第1アーム3102Aから上方に延びる第2アーム3102Bとを備える。第2アーム3102Bは、円弧状を呈しており、より詳細には左右の第1アーム3102Aの合計長さを直径とする円の弧と一致する曲率を有する。操縦士が航空機10の操縦を行う際には、第2アーム3102Bを把持して操縦を行う。
【0022】
被把持部3102は、接続部3104内に設けられた第1回転軸3106を中心に回転可能である。すなわち、接続部3104は、被把持部3102を第1回転軸3106周りに回転可能とする回動部として機能し、被把持部3102を右方向(時計周り)または左方向(反時計周り)に回転可能である。被把持部3102の回転状態は、図3に示す第1検出部41(回転センサ)によって検出され、航空機制御部50に出力される。
【0023】
被把持部3102を右方向に回転させると、航空機制御部50は、航空機10の右側の主翼14の補助翼1406を上げるとともに、航空機10の左側の主翼14の補助翼1406を下げる。これにより、機体12は重心を中心として右側に傾き、航空機10は右旋回する。
また、被把持部3102を左方向させると、航空機制御部50は、航空機10の左側の主翼14の補助翼1406を上げるとともに、航空機10の右側の主翼14の補助翼1406を下げる。これにより、機体12は重心を中心として左側に傾き、航空機10は左旋回する。
すなわち、操縦桿31は、航空機10のロール方向の姿勢を調整する操縦部材として機能する。
【0024】
また、図6に示すように、操縦桿31の揺動軸3100は、床面Fから機体12の前後方向に揺動可能である。揺動軸3100の揺動状態は、図3に示す第2検出部42(揺動センサ)によって検出され、航空機制御部50に出力される。
被把持部3102を前方向に移動させて(押し出して)揺動軸3100を前側に傾けると、航空機制御部50は、エレベータ1802の後方側を下げる。これにより、航空機10の機首が下がる。また、被把持部3102を後ろ方向に移動させて(引き寄せて)揺動軸3100を後ろ側に傾けると、航空機制御部50は、エレベータ1802の前方側を下げる。これにより、航空機10の機首が上がる。
すなわち、操縦桿31は、航空機10のピッチ方向の姿勢を調整する操縦部材として機能する。
【0025】
ラダーペダル32は、航空機の進行方向を操縦するための機構である。
図7は、ラダーペダルの構成を示す図である。
ラダーペダル32は、操縦席300近傍の床面F近くに設けられる。ラダーペダル32は、操縦士の足裏が当節するペダル踏面部3200と、ペダル踏面部3200の裏面(足裏が当接する面と反対側の面)に一端を固定されたペダルアーム3202と、床面Fに固定された基台3206と、基台3206とペダルアーム3202の他端とを接続する回転軸3204とを備える。ラダーペダル32の踏み込み量は、回転軸3204の回転量として図3に示す第3検出部43(回転センサ)によって検出され、航空機制御部50に出力される。
【0026】
図1に示すように、ラダーペダル32は、操縦桿31の左右に一つずつ設けられている。操縦士から見て右側に位置する右側ラダーペダル32Aを踏み込むと、航空機制御部50は、垂直尾翼16のラダー1602に右側に傾ける。これにより、機体12が右側に旋回する。また、操縦士から見て左側に位置する右側ラダーペダル32Bを踏み込むと、航空機制御部50は、垂直尾翼16のラダー1602を左側に傾ける。これにより、機体12が左側に旋回する。
すなわち、ラダーペダル32は、航空機10のヨー方向の姿勢を調整する操縦部材として機能する。
【0027】
上述のように、操縦桿31を左右に傾けることによっても補助翼1406の作用により左右に旋回するが、操縦桿31またはラダーペダル32(ラダー1602)のいずれかのみを用いた旋回は、回転方向の加速度が大きくなり、搭乗者に不快を与えることになる。よって、旋回時には、操縦桿31の左右回転操作およびラダーペダル32の踏み込み操作をバランスよく組み合わせることが必要となる。
【0028】
すなわち、操縦桿31およびラダーペダル32は、操縦士により機体12の姿勢調整操作を行うための姿勢調整操作部材である。また、第1検出部41、第2検出部42、第3検出部43、は、姿勢調整操作部材への操作量を検出する検出部である。
【0029】
スラストレバー33は、エンジン20の出力を調整するための機構である。
一般に、スラストレバー33はエンジン20の数だけ設けられている。本実施の形態では、エンジン20が2つ設けられているため、スラストレバー33も2つ設けられている。操縦士から見て右側に位置するスラストレバー33Aは右側の主翼14に取り付けられたエンジン20用のスラストレバーであり、操縦士から見て左側に位置するスラストレバー33Bは左側の主翼14に取り付けられたエンジン20用のスラストレバーである。
【0030】
図8は、スラストレバーの構成を示す図である。
スラストレバー33は、左右の操縦席の間に設けられたセンターコンソール304に設けられている。スラストレバー33は、センターコンソール304に設けられた切り欠き304Aから露出し、機体12の前方向に揺動可能に設けられた揺動軸3300と、揺動軸3300の先端に設けられ手により把持される被把持部3302とを備えている。切り欠き304Aは、揺動軸3300の揺動方向に沿って設けられている。
【0031】
スラストレバー33は、中立位置から機体12の前方の範囲に傾倒可能に設けられている。スラストレバー33の揺動状態は、図3に示す第4検出部44(揺動センサ)によって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50は、スラストレバー33の前傾が大きくなるほど(基準位置からの揺動角度が大きくなるほど)、エンジン20の出力を大きくする。これにより、航空機10の飛行速度が速くなる。また、航空機制御部50は、スラストレバー33の前傾が小さくなるほど(基準位置からの揺動角度が小さくなるほど)、エンジン20の出力を小さくする。
【0032】
スピードブレーキレバー34は、スポイラー1402の姿勢を調整するための機構である。
スピードブレーキレバー34の構成は、スラストレバー33と略同一の機構であるため、図8を用いて説明する。
スピードブレーキレバー34は、スラストレバー33と同様にセンターコンソール304(操縦パネル)に設けられている。スピードブレーキレバー34は、センターコンソール304に設けられた切り欠き304Bから露出し、機体12の後方向に揺動可能に設けられた揺動軸3400と、揺動軸3400の先端に設けられ手により把持される被把持部3402とを備えている。切り欠き304Bは、揺動軸3400の揺動方向に沿って設けられている。
【0033】
スピードブレーキレバー34は、中立位置から機体12の後方の範囲に傾倒可能に設けられている。すなわち、スピードブレーキレバー34の傾倒方向はスラストレバー33と逆になる。スピードブレーキレバー34の揺動状態は、図3に示す第5検出部45(揺動センサ)によって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50は、スピードブレーキレバー34が引かれると、その傾斜角度に比例して、主翼14上に設けられたスポイラー1402を立ち上げる。これにより、航空機10にかかる空気抵抗が増し、航空機10の飛行速度が遅くなる。
【0034】
フラップレバー35は、フラップ1404の姿勢を調整するための機構である。
フラップレバー35の構成は、スラストレバー33と略同一の機構であるため、図8を用いて説明する。
フラップレバー35は、スラストレバー33と同様にセンターコンソール304に設けられている。フラップレバー35は、センターコンソールに設けられた切り欠き304Cから露出し、機体12の後方向に揺動可能に設けられた揺動軸3500と、揺動軸3500の先端に設けられ手により把持される被把持部3502とを備えている。切り欠き304Cは、揺動軸3500の揺動方向に沿って設けられている。
【0035】
フラップレバー35は、中立位置から機体12の後方の範囲に傾倒可能に設けられている。すなわち、フラップレバー35の傾倒方向はスラストレバー33と逆になる。フラップレバー35の揺動状態は、図3に示す第6検出部46(揺動センサ)によって検出され、航空機制御部50に出力される。
航空機制御部50は、フラップレバー35が引かれると、その傾斜角度に比例して主翼14の後端部に設けられたフラップ1404を地面方向に下げる。これにより、航空機10の揚力が増し、例えば着陸のために航空機10の飛行速度を落とした際にも揚力を維持することが可能となる。
【0036】
航空機制御部50は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、第1~第6検出部41~46および航空機各部とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
航空機制御部50は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、飛行制御部52および移動制限部54として機能する。
【0037】
飛行制御部52は、各検出部41~46で検出された各操縦部材の操作量に基づいて、被操縦部材を制御する。特に、飛行制御部52は、検出部41~43で検出された姿勢調整操作部材の操作量を、姿勢調整部材の移動量の指令値に変換する。
すなわち、飛行制御部52は、第1検出部41で検出された操縦桿31の被把持部3102の回転量に基づいて補助翼1406を上げ下げし、この結果、航空機10のロール方向の姿勢が調整される。
また、飛行制御部52は、第2検出部42で検出された操縦桿31の揺動軸3100の揺動量に基づいてエレベータ1802を上げ下げし、この結果、航空機10のピッチ方向の姿勢が調整される。
また、飛行制御部52は、第3検出部43で検出されたラダーペダル32の踏み込み量に基づいてラダー1602を左右に傾け、この結果、航空機10のヨー方向の姿勢が調整される。
また、飛行制御部52は、第4検出部44で検出されたスラストレバー33の揺動量に基づいてエンジン20の出力を増減させ、この結果、航空機10の飛行速度が調整される。
また、飛行制御部52は、第5検出部45で検出されたスピードブレーキレバー34の揺動量に基づいてスポイラー1402を上げ下げし、この結果、航空機10の飛行速度が調整される。
また、飛行制御部52は、第6検出部46で検出されたフラップレバー35の揺動量に基づいてフラップ1404を上げ下げし、この結果、航空機10の揚力が調整される。
【0038】
飛行制御部52による被操縦部材(姿勢調整部材)の制御量は、基本的には各検出部41~46で検出された各操縦部材の操作量に比例している。
図9は、操縦部材の操作量と被操作部材の制御量との関係を模式的に示すグラフである。
図9では、操縦部材としてラダーペダル32、被操縦部材としてラダー1602を上げている。図9の縦軸は、ラダーペダル32の操作量(踏み込み角度)を示し、横軸はラダー1602の角度(すなわち部材移動量)を示す。
図9では、ラダーペダル32の操作量とラダー1602の角度(基準位置からの変位量)とは比例関係にあり、ラダーペダル32が大きく操作されるほど、飛行制御部52はラダー1602の移動量を大きくし、この結果機体12の姿勢変化量が大きくなる。
【0039】
図3の説明に戻り、移動制限部54は、飛行制御部52による被操縦部材の制御量を制限する。本実施の形態では、移動制限部54は、特に機体12の姿勢を変化させる姿勢調整部材である補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602の移動(より詳細には単位時間当たりの移動量)を制限する。
上述のように、操縦部材の操作量と被操作部材の制御量とは、基本的には比例関係にある。しかしながら、操縦士が姿勢調整操作部材である操縦桿31やラダーペダル32を急激に操作すると、姿勢調整部材である補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602が急激に動き、機体12の姿勢が急激に変化する。機体12の姿勢の急激な変化は、飛行高度の低下につながる可能性がある。一般に航空機の高度を下げるのは容易であるが、一旦下がった高度を回復するのは容易ではなく、高度の回復が遅くなった場合は墜落の可能性がある。
【0040】
よって、移動制限部54は、姿勢調整部材(補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602)の単位時間当たりの移動量の許容値である許容速度を設定し、指令値(姿勢調整操作部材の操作に基づく姿勢調整部材の移動量)を実現するための部材移動速度である指令速度が許容速度を超える場合、姿勢調整部材の実際の部材移動速度を指令速度よりも遅くする移動制限を行う。
本実施の形態では、移動制限部54は、移動制限時には実際の単位時間当たりの部材移動速度を許容速度以下にする。
【0041】
上記許容速度は、姿勢調整部材ごとに個別に設定するのが好ましい。これは、各被操縦部材がどの程度移動すると、機体全体がどの程度姿勢変化を起こすのか、すなわち各被操縦部材の移動が機体全体に及ぼす影響は、姿勢調整部材ごとに異なると考えられるためである。
【0042】
また、移動制限部54において、上記許容速度を航空機10の飛行状態に基づいて都度設定するようにしてもよい。
例えば、移動制限部54は、航空機10の飛行速度が速いほど許容速度を遅く設定するようにしてもよい。これは、航空機10の飛行速度が速いほど機体12周辺の空気の流れが速く、姿勢調整部材の移動による機体12の姿勢変動が大きくなると考えられるためである。
また、例えば移動制限部54は、航空機10の飛行高度が低いほど許容速度を遅く設定するようにしてもよい。これは、姿勢調整部材の過度な移動により機体12が姿勢を崩し高度が低下した場合、航空機10の飛行高度が低い状態では地面との接触等のリスクが高くなるので、より慎重に姿勢調整部材を動かすのが好ましいためである。
【0043】
図10は、航空機の飛行状態と許容速度との関係を模式的に示すグラフである。より詳細には、図10Aは航空機の飛行状態として飛行速度を例にしたグラフであり、図10Bは航空機の飛行状態として飛行高度を例にしたグラフである。図10のようなグラフ(飛行状態と許容速度との対応マップ)が、姿勢調整部材ごとに設けられているものとする。
図10Aの縦軸は、許容速度を示し、横軸は航空機10の飛行速度を示す。図10Aでは、航空機10の飛行速度が速いほど許容速度が遅く、飛行速度が遅いほど許容速度が速く設定されている。
また、図10Bの縦軸は、許容速度を示し、横軸は航空機10の飛行高度を示す。図10Bでは、航空機10の飛行高度が高いほど許容速度が速く、飛行高度が低いほど許容速度が遅く設定されている。
【0044】
例えば、図10Aを参照して、航空機10の飛行速度がS1である場合、許容速度はS1である。この状態で、例えばラダーペダル32への操作に対応するラダー1602の移動量(指令値)を実現するための指令速度がSr2(>Sr1)の場合、すなわち点Aの状態となった場合、移動制限部54は、実際のラダー1602の移動速度をSr2以下(例えばSr1)とし、実際の部材移動速度を指令速度よりも遅くする(点A’、移動制限の実施)。
【0045】
なお、移動制限実施後、移動制限部54は、指令値に対応するだけの姿勢調整部材の移動を実現するまで姿勢調整部材の移動を継続するので、最終的には当初の姿勢変化操作に対応する姿勢変化量を得ることができる。すなわち、操縦士から見ると、飛行状態に応じて操作応答性が落ちるが、最終的には所望の姿勢まで機体12の姿勢を変動させることができる。
【0046】
一方で、同じく航空機10の飛行速度がS1であり、許容速度がPr1の状態で、ラダーペダル32への操作に対応するラダー1602の移動量(指令値)を実現するための指令速度がSr3(<Sr2)の場合、移動制限部54は、実際の部材移動速度をSr3(=指令速度)とし、出力制限は実施しない(点B)。
【0047】
図4は、姿勢制御システムによる姿勢制御の手順を示すフローチャートである。
姿勢調整操作部材(操縦桿31またはラダーペダル32)に対する操作が第1~3検出部41~43により検出されると(ステップS400)、飛行制御部52は、姿勢調整操作部材の操作量を姿勢調整部材(補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602)の移動量の指令値に変換するとともに、指令値を実現するための部材移動速度である指令速度を算出する(ステップS401)。また、移動制限部54は、現在の飛行速度や飛行高度に対応する部材移動速度の許容値、すなわち許容速度を決定する(ステップS402)。
指令速度が許容速度を超えている場合(ステップS404:Yes)、移動制限部54は、姿勢調整部材の部材移動速度を許容速度以下にして移動制限を実施する(ステップS406)。
一方、指令速度が許容速度以下の場合(ステップS404:No)、移動制限部54は、移動制限を実施せず、姿勢調整部材を指令速度通りに移動させる(ステップS408)。
【0048】
以上説明したように、実施の形態にかかる航空機10の姿勢制御システムによれば、姿勢調整操作部材(操縦桿31やラダーペダル32)への操作に対応する姿勢調整部材(補助翼1406、エレベータ1802、ラダー1602)の移動速度(指令速度)が許容速度を超えている場合、姿勢調整部材の実際の部材移動速度を指令速度よりも遅くする移動制限を行う。これにより、航空機10の機体姿勢が急変動し、飛行状態が不安定となる可能性を低減することができる。例えば操縦士が姿勢調整操作部材を急激に操作すると、姿勢調整部材が急激に動き、機体12の姿勢が急激に変化する。機体12の姿勢の急激な変化は、飛行高度の低下につながる可能性がある。一般に航空機10の高度を下げるのは容易であるが、一旦下がった高度を回復するのは容易ではなく、高度の回復が遅くなった場合は墜落の可能性がある。本発明によれば、このような機体姿勢の急変動を防止し、航空機10の安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる航空機10の姿勢制御システムにおいて、移動制限時には実際の部材移動速度を許容速度以下にするようにすれば、過剰な機体姿勢の変化を確実に防止することができる。
また、実施の形態にかかる航空機10の姿勢制御システムにおいて、航空機10の飛行速度が速いほど許容速度を遅く設定するようにすれば、高速飛行時における航空機10の安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる航空機10の姿勢制御システムにおいて、航空機10の飛行高度が低いほど許容速度を遅く設定するようにすれば、低空飛行時における航空機10の安全性を向上させる上で有利となる。
また、実施の形態にかかる航空機10の姿勢制御システムにおいて、移動制限実施後、指令値に対応するだけの姿勢調整部材の移動を実現するまで姿勢調整部材の移動を継続するようにすれば、機体姿勢の安定を図りながら最終的には当初の姿勢変化操作に対応する姿勢変化量を得ることができる。
【0049】
10 航空機
12 機体
14 主翼
1402 スポイラー
1404 フラップ
1406 補助翼(姿勢調整部材)
16 垂直尾翼
1602 ラダー(姿勢調整部材)
18 水平尾翼
1802 エレベータ(姿勢調整部材)
20 エンジン
22 プロペラ
30 コックピット
31 操縦桿(姿勢調整操作部材)
32(32A,32B) ラダーペダル(姿勢調整操作部材)
33(33A,33B) スラストレバー
34 スピードブレーキレバー
35 フラップレバー
41~46 検出部
50 航空機制御部
52 飛行制御部
54 移動制限部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10