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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121812
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】エレベーター制御装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/06 20060101AFI20220815BHJP
   B66B 3/02 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
B66B5/06 C
B66B3/02 Q
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018723
(22)【出願日】2021-02-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岡 俊平
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 努
【テーマコード(参考)】
3F303
3F304
【Fターム(参考)】
3F303CB11
3F304CA05
3F304CA13
3F304EA05
3F304EA18
3F304EB03
3F304EB17
(57)【要約】
【課題】かご存在区間の情報が無くなっていたりずれていたりする場合でも、実際のかご存在区間に応じた過速度基準を守りつつ、抑制した速度パターンをとることなく、かごを走行させることができるエレベーター制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るエレベーター制御装置は、昇降路に沿って設定される複数の区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、かご7の走行速度の上限を示す過速度基準が、かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、かごが当該区間の全長を所定の加速度で等加速度走行した場合でも、区間の過速度基準に達することがないように設定されており、終端階強制減速装置24は、移動検知手段による検知結果から求まるかごの走行加速度が、所定の加速度を上回った場合にかごを急停止させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の全長を所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の段階過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる、
ことを特徴とするエレベーター制御装置。
【請求項2】
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の全長を所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の段階過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
停電からの復旧後、前記かご存在区間情報が更新されるまでは、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度かご存在区間情報が示す区間に対応して定められた前記過速度基準を上回った場合に前記かごを急停止させる一方、
前記かご存在区間情報が更新された以降は、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行速度が、前記かご存在区間情報が示す区間に対応して定められた前記過速度基準を上回った場合に前記かごを急停止させる、
ことを特徴とするエレベーター制御装置。
【請求項3】
前記複数の区間の各々は、
区間の長さと前記所定の加速度との積の2倍がその区間における過速度基準の2乗よりも小さくなるように設定される、
請求項1又は請求項2に記載のエレベーター制御装置。
【請求項4】
前記移動検知手段は、前記かごの移動を検出するエンコーダーと、前記終端階強制減速装置を含む、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のエレベーター制御装置。
【請求項5】
前記区間検知手段は、前記かごの移動を検出するエンコーダーを含み、
前記昇降路に沿って前記複数の区間に対応する位置に一つずつ配置され、各々上方遮蔽部と下方遮蔽部との間に空隙部を有し、配置される位置毎に前記上方遮蔽部と前記空隙部と前記下方遮蔽部の夫々の長さが異なる複数のプレートと、
前記かごに配置されるセンサーであって、前記上方遮蔽部または前記下方遮蔽部と対向している遮光状態と、前記空隙部と対向している通光状態とで夫々異なる信号を出力するセンサーと、を含み、
前記センサーと前記エンコーダーによって前記かご走行中に測定された、前記かごの走行方向と、前記上方遮蔽部と前記空隙部と前記下方遮蔽部の夫々の長さに基づいて直近に通過した区間の境界を検知する、
請求項1乃至請求項4の何れかに記載のエレベーター制御装置。
【請求項6】
前記区間検知手段は、前記終端階強制減速装置を含む、
請求項5に記載のエレベーター制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのかごの走行速度が過大な速度になっていると判定した場合にかごを急停止させるエレベーター制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターには、終端階強制減速装置(ETS、Emergency Terminal Stopping)が設置される場合がある。終端階強制減速装置を用いることにより、かご用バッファ及び釣合おもり用バッファとして、終端階強制減速装置を用いない場合のバッファよりも短い、短縮バッファとすることができる利点からである。このような終端階強制減速装置への適用を想定した技術が、特許文献1と特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1には、かごの走行速度が過大な速度になっていると判定するための基準として、段階過速度基準を設ける点が記載されている。エレベーターの昇降路に沿って設定される複数の区間ごとに段階的に変化する過速度基準のことである。その基準値は、昇降路の中間部に近い区間ほど大きい値で、終端部に近い区間ほど小さい値である。
【0004】
特許文献2には、エレベーターの昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、かごの存在する区間(今どの区間にかごが存在しているか)を検知する手段が記載されている。検知方法は、かごが直近に通過した区間の境界を検知することによって、新たな区間に来たことを認知するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/068863
【特許文献2】特開2018-70338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
段階過速度基準を適用する期間について、特許文献1ではかご走行開始後の一定期間に限定しているが、かご走行の全期間に適用されることが望まれる。そして、段階過速度基準を設定する区間の検知について、特許文献2に開示の技術を適用することが考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示の技術を適用し、停電発生時にかご存在区間の情報が消えてしまう構成とした場合、停電復旧後はかご存在区間を見失うことになる。あるいは、停電中もこの情報を保持する構成としても、かご存在区間の情報が、実際のかご存在区間からずれる惧れがある。
【0008】
例えば、かごの走行中に停電が発生した場合、停止するまでの走行距離を終端階強制減速装置は認識することができず、かご存在区間の情報が、実際のかご存在区間からずれてしまう。また、停電によって階間に停まってしまったかごを、道具を使って電動機の制動機構を解放することによって、階床にまで移動させ、閉じ込められた乗客を救出する場合も、その移動距離を終端階強制減速装置は認識することができず、かご存在区間の情報が、実際のかご存在区間からずれてしまう。
【0009】
このように、かご存在区間を見失っていたり、実際のかご存在区間からずれている可能性があったりする場合、終端階強制減速装置は、運転制御部に対して警告を発する。すなわち、昇降路の終端部に最も近い区間にかごが存在する可能性があるとして、最低過速度基準で判定を行い、最低過速度基準を超過したら急停止するという警告である。これを受けた運転制御部は、最低過速度基準にかご走行速度が達することのないように、抑制した速度パターンで走行を制御することになる。
【0010】
本発明の目的は、かご存在区間の情報が無くなっていたりずれていたりする場合でも、実際のかご存在区間に応じた過速度基準を守りつつ、抑制した速度パターンをとることなく、かごを走行させることができるエレベーター制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るエレベーター制御装置は、
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の全長を所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる。
【0012】
また、本発明に係るエレベーター制御装置は、
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の全長を所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
停電からの復旧後、前記かご存在区間情報が更新されるまでは、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる一方、
前記かご存在区間情報が更新された以降は、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行速度が、前記かご存在区間情報が示す区間に対応して定められた前記過速度基準を上回った場合に前記かごを急停止させる構成とすることができる。
【0013】
前記複数の区間の各々は、
区間の長さと前記所定の加速度との積の2倍がその区間における過速度基準の2乗よりも小さくなるように設定することができる。
【0014】
前記移動検知手段は、前記かごの移動を検出するエンコーダーと、前記終端階強制減速装置を含む構成とすることができる。
【0015】
前記区間検知手段は、前記かごの移動を検出するエンコーダーを含み、
前記昇降路に沿って前記複数の区間に対応する位置に一つずつ配置され、各々上方遮蔽部と下方遮蔽部の間に空隙部を有し、配置される位置毎に前記上方遮蔽部と前記空隙部と前記下方遮蔽部の夫々の長さの組合せが異なる複数のプレートと、
前記かごに配置されるセンサーであって、前記上方遮蔽部または前記下方遮蔽部と対向している遮光状態と、前記空隙部と対向している通光状態とで夫々異なる信号を出力するセンサーと、を含み、
前記センサーと前記エンコーダーによって前記かご走行中に測定された、前記かごの走行方向と、前記上方遮蔽部と前記空隙部と前記下方遮蔽部の夫々の長さに基づいて直近に通過した区間の境界を検知する構成とすることができる。
【0016】
前記区間検知手段は、前記終端階強制減速装置を含む構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のエレベーター制御装置によれば、昇降路の終端領域に設定された各区間において、所定の加速度でかごを走行させ続けたとしても、区間の境界に達するまでに、かごの走行速度がその区間の過速度基準に達しないように区間の長さが設定される。このため、かごの加速度が所定の加速度に達しなければ、区間全長をかごが走行しても、その区間の過速度基準にかごの走行速度が達することはない。つまり、かごの加速度が所定の加速度に達したという判定は、その区間の過速度基準にかごの走行速度が達したという判定と同等の効果をもっていることになる。従って、かご存在区間の情報が無くなっていたりずれていたりする場合には、最低過速度基準で判定を行ない、最低過速度基準にかご走行速度が達することのないように、抑制した速度パターンで走行を制御するという必要性があったのを、考慮しなくて済むようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るエレベーター装置を模式的に示す構成図である。
図2図2は、昇降路内におけるプレートの配置例を示す図である。
図3図3は、プレートの構成例を示す図である。
図4図4は、かごの上昇時の段階過速度基準の一例を示す図である。
図5図5は、かごの下降時の段階過速度基準の一例を示す図である。
図6図6は、かごの上昇時の過速度基準及び異常加速度基準の具体例を示す図である。
図7図7は、かごの下降時の過速度基準及び異常加速度基準の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明に係るエレベーター装置の一実施形態を説明する。
【0020】
1.実施形態
図1は、本発明の一実施形態によるエレベーター装置を模式的に示す構成図である。図において、符号1は昇降路1を示し、その上部には、駆動装置(巻上機)2及びそらせ車3が配置されている。駆動装置2は、駆動装置本体4と、駆動シーブ5とを有する。駆動装置本体4は、モーター及びブレーキを含む。駆動シーブ5は、モーターの回転軸に取り付けられる。モーターは駆動シーブ5を回転させる。また、モーターの回転軸には、制御用位置センサーである制御用エンコーダー19が取り付けられる。
【0021】
駆動シーブ5及びそらせ車3には、複数本(図では1本のみ示す)の主ロープ6が巻き掛けられている。主ロープ6の一端部には、かご7が接続される。主ロープ6の他端部には、釣合錘8が接続される。即ち、かご7及び釣合錘8は、主ロープ6により1:1ローピング方式で昇降路1内に吊り下げられる。かご7及び釣合錘8は、駆動装置2の駆動力により昇降路1内を昇降する。
【0022】
昇降路1の下部(底部)には、かご用バッファ9及び釣合錘用バッファ10が設置される。図1に示すように、かご用バッファ9はかご7の真下に配置され、釣合錘用バッファ10は釣合錘8の真下に配置される。かご用バッファ9及び釣合錘用バッファ10としては、油圧緩衝器が用いられる。
【0023】
昇降路1内には、図2に示すように、上部終端階付近から下部終端階付近に亘って上方から下方に向けてプレート11f、11e、11d、11c、11b及び11aがこの順に配置される。プレート11a、11b、11c、11d、11e及び11fは本開示における複数のプレートの一例である。以下、プレート11a、11b、11c、11d、11e及び11fの各々を区別する必要がない場合は、「プレート11」と表記する。
【0024】
図3は、プレート11の構成例を示す図である。図3に示すように、プレート11には、1つの空隙部SGが空けられ、空隙部SGの上下はプレート本体である遮蔽部S(Sa,Sb)となっている。遮蔽部Sはかご7に取り付けられた光電センサー15の光軸を遮断し、空隙部SGは光電センサー15の光軸が通過可能である。空隙部SGの長さと、一方の遮蔽部Saの長さはともに、Lであり、本実施形態ではこのLを基本単位長さとしている。
【0025】
前掲の図2に示すように、プレート11は遮蔽部Saを昇降路1の中央に向けるように配置される。遮蔽部Saは、プレート11が昇降路1の上部又は下部の何れに配置されているものかを判断するために使用される。すなわち、長さLの遮蔽部は、設置位置判断用の遮蔽部として利用される。他方の遮蔽部Sbの長さはプレート毎に異なる。例えば、図3の1段目のプレート11a及びプレート11fでは、遮蔽部Sbの長さは2Lとなっている。2段目のプレート11b及びプレート11eでは遮蔽部Sbの長さは3Lとなっている。そして、3段目のプレート11c及びプレート11dでは遮蔽部Sbの長さは4Lとなっている。つまり、本実施形態では、遮蔽部Sbの長さは(プレートの段数+1)×Lの長さになっている。すなわち、遮蔽部Sbは、段数判断用の遮蔽部として利用される。
【0026】
昇降路1の上部には、回転可能なガバナーシーブ16が設けられている。ガバナーシーブ16には、無端状のガバナーロープ17の上端部が巻き掛けられている。ガバナーロープ17の下端部は、ガバナーロープ17に張力を付与する張り車18に巻き掛けられている。張り車18は、昇降路1内の下部に配置されている。ガバナーロープ17は、かご7に接続されている。従って、ガバナーロープ17は、かご7の走行に伴って循環移動される。また、ガバナーシーブ16は、かご7の走行に伴って回転する。ガバナーシーブ16には、監視用位置センサーである監視用エンコーダー20が設けられる。
【0027】
昇降路1の上部には、エレベーター制御装置(制御盤)21が設けられる。エレベーター制御装置21には、運転制御部22、安全回路23、及び終端階強制減速装置24が設けられる。なお、図1では、終端階強制減速装置24はETSと表記されている。
【0028】
運転制御部22は、かご7の運転、即ち駆動装置2を制御する。運転制御部22には、制御用エンコーダー19からの信号が入力される。運転制御部22は、制御用エンコーダー19からの信号により、かご7の位置及び速度を検出する。
【0029】
終端階強制減速装置24には、監視用エンコーダー20からの信号が入力される。終端階強制減速装置24及び監視用エンコーダー20は、昇降路1におけるかご7の移動を検知する移動検知手段として機能し、移動の検知によって昇降速度を算出する。具体的には、終端階強制減速装置24は、予め設定された許容速度を超えた昇降速度でかご7が終端階付近に接近したときに、安全回路23を介してかご7を強制的に減速停止させる。終端階強制減速装置24を用いたことにより、かご用バッファ9及び釣合錘用バッファ10として、終端階強制減速装置24を用いない場合のバッファよりも短い短縮バッファが用いられている。
【0030】
本実施形態では、プレート11の上下端部を基準にして、昇降路1は複数の区間に区切られる。ただし、本実施形態では、基本単位長さLの空隙部SGとプレート11通過後の空間とを区別するため、かご7がプレートを通過後、基本単位長さLの倍である2L以上移動したことをもって、区間の情報の更新が行なわれる。
【0031】
昇降路1には、底部(かご用バッファにかごが衝突するときのかご位置)及び頂部(釣合おもり用バッファに釣合おもりが衝突するときのかご位置)のそれぞれに隣接する一対の終端領域と、各終端領域間に挟まれた中間領域とが設定されている。一方の終端領域は区間A~Cにより構成され、他方の終端領域は区間E~Gにより構成されている。また、中間領域は区間Dにより構成されている。本実施形態では、前掲の図2に示すように、かご7の上昇時の区間について、底部からプレート11aの上端より2L上までを区間A、プレート11aの上端より2L上からプレート11bの上端より2L上までを区間をB、以下同様にして、プレート11fの2L上から頂部までを区間Gとしている。
【0032】
また、本実施形態では、前掲の図2に示すように、かご7の下降時の区間について、頂部からプレート11fの下端より2L下までを区間G、プレート11fの下端より2L下からプレート11eの下端より2L下までを区間F、以下同様にして、プレート11aの下端より2L下から底部までを区間Aとしている。かご7が昇降路1内を下降するときの区間G~Aは、一方の終端領域が区間G~E、中間領域は区間D、他方の終端領域は区間C~Aに対応する。
【0033】
光電センサー15は、プレート11に対向していない場合及びプレート11の空隙部SGと対向している場合(通光)と、プレート11の遮蔽部Sと対向している場合(遮光)で異なる信号を出力する。
【0034】
終端階強制減速装置24は、光電センサー15により検知された通光、遮光状態と、監視用エンコーダー20から出力されるパルスをカウントすることによって、上側の遮蔽部Sa、空隙部SG、下側の遮蔽部Sbの長さを測定する。例えば、かご7が上昇中にプレート11aを通過し終った所で、終端階強制減速装置24は、かご7が区間Bに入ったと認識し、当該区間Bを示すデータをメモリに記憶させる。具体的には、かご7が「上昇」方向に移動中(以下単に「上昇」という)に、通光状態から長さ2Lだけ遮光され(遮蔽部Sbによる)、長さLの通光(空隙部SGによる)、さらに続いて長さLの遮光(遮蔽部Saによる)の後、再度通光(プレート11aを通過完了)した場合には、通過しているのがプレート11aであると判定できる。すなわち、「通光→長さ2Lの遮光→長さLの通光→長さLの遮光→通光」という経過である。逆に、かご7が「下降」方向に移動中(以下単に「下降」という)に、プレート11aを通過した場合には、「通光→長さLの遮光→長さLの通光→長さ2Lの遮光→通光」したことで、かご7が区間Aに入ったことを認識できる。このように、かご7の移動方向と、空隙部SGによる長さLの通光前後の遮蔽部SaとSbの遮光長さにより、かご7の存在する区間が判別できる。
【0035】
そして、後述するとおり、通光長さと遮光長さの異なるプレート11a、11b、11c、11d、11e及び11fを、光電センサー15と監視用エンコーダー20で測定することで、通光、遮光のパターンを同定し、かご7の移動方向と合わせて、前述の区間A、区間B、区間C、区間D、区間E、区間F及び区間Gのうちかご7が存在する区間の検出する区間検知手段として機能する。詳細には、プレート11と光電センサー15に加え、後述する終端階強制減速装置24及び監視用エンコーダー20を含んだ構成により区間検知手段として機能する。
【0036】
本実施形態における終端階強制減速装置24は、原則的に、段階過速度基準によるかご7の急停止を行なう。
【0037】
図4はかご7の上昇時の段階過速度基準の一例を示す図であり、図5はかご7の下降時の段階過速度基準の一例を示す図である。なお、本実施形態では、前述したようにかご7の上昇時の区間A~Gとかご7の下降時の区間A~Gとは一致しない。図4及び図5におけるVA~VGは、区間A~Gにおける過速度基準の値を示す。昇降路1には、底部(かご用バッファにかごが衝突するときのかご位置)及び頂部(釣合おもり用バッファに釣合おもりが衝突するときのかご位置)のそれぞれに隣接する一対の終端領域と、各終端領域間に挟まれた中間領域とが設定されている。一方の終端領域は区間A~Cにより構成され、他方の終端領域は区間E~Gにより構成されている。また、中間領域は区間Dにより構成されている。
【0038】
図4に示すように、かご7の上昇時には、区間A~Dに関しては区間Dについての過速度基準VDが、区間Eに関しては過速度基準VEが、区間Fに関しては過速度基準VFが、区間Gに関しては過速度基準VGが夫々設定される。過速度基準VDは、定格速度を超えるレベルに設定され、最高過速度基準と称する。過速度基準VGは、最低過速度基準と称する。過速度基準VG~VEは、以下の点を満足するように設定される。
【0039】
過速度基準VGは、釣合錘8が釣合錘用バッファ10の上面に到達する時の許容速度に設定される。
【0040】
過速度基準VFは、区間Fにおいてかご7が上昇して「区間Gとの境界」に到達した時にかご7の走行速度が過速度基準VFに達してかご7の急停止がなされたとしても、釣合錘用バッファ10の上面に釣合錘8が到達した時のかご7の走行速度が許容速度以下となるように設定される。
【0041】
過速度基準VEは、区間Eにおいてかご7が上昇して「区間Fとの境界」に到達した時にかご7の走行速度が過速度基準VEに達してかご7の急停止がなされたとしても、釣合錘用バッファ10の上面に釣合錘8が到達した時のかご7の走行速度が許容速度以下となるように設定される。
【0042】
図5に示すように、かご7の下降には、区間G~Dに関しては区間Dについての過速度基準VDが、区間Cに関しては過速度基準VCが、区間Bに関しては過速度基準VBが、区間Aに関しては過速度基準VAが夫々設定される。過速度基準VAは、過速度基準VGと同じく最低過速度基準と称する。過速度基準VA~VCは、以下の点も満足するように設定される。
【0043】
過速度基準VAは、かご7がかご用バッファ9の上面に到達する時の許容速度に設定される。
【0044】
過速度基準VBは、区間Bにおいてかご7が下降して「区間Aとの境界」に到達した時にかご7の走行速度が過速度基準VBに達してかご7の急停止がなされたとしても、かご用バッファ9の上面にかご7が到達した時のかご7の走行速度が許容速度以下となるように設定される。
【0045】
過速度基準VCは、区間Cにおいてかご7が下降して、「区間Bとの境界」に到達した時にかご7の走行速度が過速度基準VCに達してかご7の急停止がなされたとしても、かご用バッファ9の上面にかご7が到達した時のかご7の走行速度が許容速度以下となるように設定される。
【0046】
<一律に最低過速度基準となることの回避>
前述したように本実施形態では、終端階強制減速装置24は、原則的に、段階過速度基準によるかご7の急停止を行なう。
【0047】
しかしながら、停電が発生した場合には問題が生じる。すなわち、停電発生時にかご存在区間の情報が消えてしまう構成とした場合、停電復旧後はかご存在区間を見失うことになる。
【0048】
あるいは、停電中もこの情報を保持する構成としても、かご存在区間の情報が、実際のかご存在区間からずれる惧れがある。例えば、かごの走行中に停電が発生した場合、停止するまでの走行距離を終端階強制減速装置は認識することができず、かご存在区間の情報が、実際のかご存在区間からずれてしまう。また、停電によって階間に停まってしまったかごを、道具を使って電動機の制動機構を解放することによって、階床にまで移動させ、閉じ込められた乗客を救出する場合も、その移動距離を終端階強制減速装置は認識することができず、かご存在区間の情報が、実際のかご存在区間からずれてしまう。
【0049】
このように、停電前の「かごが存在する区間」の情報が、停電復旧後に現実と一致しているとは必ずしも言えないからである。これは、停電復旧直後は、記憶した「かごが存在する区間」が必ずしも信用できないとして対処する必要があることを意味する。より具体的には、以下の(A)及び(B)について考慮する必要があることを意味する。
【0050】
(A)情報記憶内容に関係なく実際には「かごが存在する区間」が上昇時の区間E~Gの何れかであって、かご7が上昇しようとする場合
【0051】
(B)情報記憶内容に関係なく実際には「かごが存在する区間」が下降時の区間C~Aの何れかであって、かご7が下降しようとする場合
【0052】
上記において、本来急停止させるべきであるのに急停止をさせないケースがあり、問題となる。例えば、実際には上昇時の区間Fにかご7が存在している場合に、区間Eにいると認識して、かご速度がVFを超えるVEとなるまで急停止をさせない、或いは、区間A~Dにいると認識してかご速度がVDとなるまで急停止をさせないことになるためである。下降時については、実際には区間Bにかご7が存在している場合に、区間Cにいると認識して、かご速度がVBを超えるVCとなるまで急停止をさせない、或いは、区間D~Gにいると認識してかご速度がVDとなるまで急停止をさせないことになるためである。
【0053】
以上のように、終端階強制減速装置において、従来、急停止させるべき時に急停止させないという不都合があるために、区間A~Gに亘って一律に、上昇時はVG、下降時はVAと最低過速度基準を設定することとなり、運転制御部においては、最低過速度基準VGやVAに達しないように抑制した速度パターンとする必要があった。このような事態の発生を回避するため、本発明では、下記(α)(β)(γ)の工夫がなされている。
【0054】
(α)停電の復旧後、かご存在区間情報(かごが存在する区間の情報)が区間検知手段によって更新されるまでの期間については、区間A~Gに亘って一律に過速度基準VDが設定される。つまり、例外的に、段階過速度基準によるかご7の急停止は行なわない。それに代えて、移動検知手段による検知結果から求まるかご7の加速度が、予め設定された異常加速度基準α0を上回ったら、急停止する。異常加速度基準値α0は、通常の走行で出す加速度よりも大きい値であり、本開示における所定の加速度の一例である。
【0055】
(β)かご存在区間情報が区間検知手段によって更新された後の期間については、原則的に、段階過速度基準によるかご7の急停止を行なう。
【0056】
(γ)区間A~Gの各々の長さは以下のように設定する。
【0057】
区間の長さ×異常加速度基準α0×2<区間における過速度基準の2乗
すなわち、
「区間Aの長さ」 < VA/α0/2
「区間Bの長さ」 < VB/α0/2
「区間Cの長さ」 < VC/α0/2
「区間Eの長さ」 < VE/α0/2
「区間Fの長さ」 < VF/α0/2 … (1)
「区間Gの長さ」 < VG/α0/2
【0058】
上記のように各区間の長さを設定した理由は次の通りである。
【0059】
例えば、「実際にはかご存在区間がF」であるかご7が、「区間Dとの境界付近」から加速度α0で等加速度の上昇走行をしたとしても、区間Fの上方側の区間Gの境界(区間Gに突入したと判明する地点)に到達した時の走行速度が過速度基準VF未満であればよく、そのためには、区間Fの長さ(区間Eとの境界~区間Gとの境界)を、次の式(1)を満足するように決めればよい。
【0060】
「区間Fの長さ」<VF/α0/2…(1)
【0061】
何故ならば、時間経過Δtの等加速走行(加速度α0)において、速度増加Δv、走行距離Δxは以下の式(2)及び(3)を満足するからである。
【0062】
Δv=α0・Δt…(2)
Δx=α0・(Δt)/2…(3)
【0063】
式(2)を変形して「Δt=Δv/α0」とし、これを式(3)に代入すると、次の式(4)が得られる。
【0064】
Δx=Δv/α0/2…(4)
そして、「Δx=区間Fの長さ」としたときに「Δv<VF」であるから、式(1)を得ることができる。
【0065】
以上、(α)~(γ)の具体例として、図6及び図7を挙げる。図6は、かご7の最高速度を300m/分、かご7の最高加速度を0.9m/sとする場合のかご7の上昇時の過速度基準、異常加速度基準、及び区間E~Gの各々の区間長さの具体例を示す図である。図7は、かご7の最高速度を300m/分、かご7の最高加速度を0.9m/sとする場合のかご7の下降時の過速度基準、異常加速度基準、及び区間A~Cの各々の区間長さの具体例を示す図である。
【0066】
図6及び図7のように、停電の復旧後に、かご存在区間情報が区間検知手段によって更新された後でも、かご7の加速度が異常加速度基準α0を上回るかどうかの監視を続行することができる。この場合、かご7の加速度が異常加速度基準α0を上回っても急停止とはせず、上回ったという事象のデータをメモリに記憶させておく。このデータは、保守用のコンピュータで読み出したり、遠隔監視センターへ通報されたりする。
【0067】
<回避できている理由>
上記(α)~(γ)の工夫により、終端階強制減速装置において、区間A~Gに亘って一律に、上昇時はVG、下降時はVAと最低過速度基準を設定したり、運転制御部においては、最低過速度基準VGやVAに達しないように抑制した速度パターンとしたりする必要がなくなる。その点について以下に述べる。
【0068】
本実施形態では、停電からの復旧後、かご7が区間Eに居ることが分からずにかご7を上昇させる場合、かご7の加速度と異常加速度基準α0との比較により急停止させるか否かの判定が行なわれる。本実施形態では、区間Eの長さが上記のように設定されているので、かご7の加速度が異常加速度基準α0に達しなければ、区間Eと区間Fとの境界にかご7が到達する時点でかご7の走行速度が過速度基準VEに達することはない。これにより、段階過速度基準による制御と同等の効果を得ることができる。プレート11eをかご7が通過して区間Fに入ったことが検出されると、以降、前述した原則に戻り、過速度基準VFとかご7の走行速度との比較により過速度であるか否かの判定が行なわれる。
【0069】
同様に、停電からの復旧後、かご7が区間Fに居ることが分からずにかご7を上昇させる場合、かご7の加速度と異常加速度基準α0との比較により過速度の判定が行なわれる。本実施形態では、区間Fの長さが上記のように設定されているので、かご7の加速度が異常加速度基準α0に達しなければ、区間Fと区間Gとの境界にかご7が到達する時点でかご7の走行速度が過速度基準VFに達することはない。これにより、段階過速度基準による制御と同等の効果を得ることができる。プレート11fをかご7が通過して区間Gに入ったことが検出されると、以降、前述した原則に戻り、過速度基準VGとかご7の走行速度との比較により過速度であるか否かの判定が行なわれる。
【0070】
また、停電からの復旧後、かご7が区間Gに居ることが分からずにかご7を上昇させる場合、かご7の加速度と異常加速度基準α0との比較により過速度の判定が行なわれる。本実施形態では、区間Gの長さが上記のように設定されているので、かご7の加速度が異常加速度基準α0に達しなければ、かご7の走行速度が過速度基準VGに達することはない。これにより、段階過速度基準による制御と同等の効果を得ることができる。
【0071】
また、停電からの復旧後、かご7が区間Cに居ることが分からずにかご7を下降させる場合、かご7の加速度と異常加速度基準α0との比較により過速度であるか否か判定が行なわれる。本実施形態では、区間Cの長さが上記のように設定されているので、かご7の加速度が異常加速度基準α0に達しなければ、区間Cと区間Bとの境界にかご7が到達する時点でかご7の走行速度が過速度基準VCに達することはない。これにより、段階過速度基準による制御と同等の効果を得ることができる。プレート11bをかご7が通過して区間Bに入ったことが検出されると、以降、前述した原則に戻り、過速度基準VBとかご7の走行速度との比較により過速度の判定が行なわれる。
【0072】
また、停電からの復旧後、かご7が区間Bに居ることが分からずにかご7を下降させる場合、かご7の加速度と異常加速度基準α0との比較により過速度であるか否かの判定が行なわれる。本実施形態では、区間Bの長さが上記のように設定されているので、かご7の加速度が異常加速度基準α0に達しなければ、区間Bと区間Aとの境界にかご7が到達する時点でかご7の走行速度が過速度基準VBに達することはない。これにより、段階過速度基準による制御と同等の効果を得ることができる。プレート11aをかご7が通過して区間Aに入ったことが検出されると、以降、前述した原則に戻り、過速度基準VAとかご7の走行速度との比較により過速度の判定が行なわれる。
【0073】
また、停電からの復旧後、かご7が区間Aに居ることが分からずにかご7を下降させる場合、かご7の加速度と異常加速度基準α0との比較により過速度であるか否かの判定が行なわれる。本実施形態では、区間Aの長さが上記のように設定されているので、かご7の加速度が異常加速度基準α0に達しなければ、かご7の走行速度が過速度基準VAに達することはない。これにより、段階過速度基準による制御と同等の効果を得ることができる。
【0074】
<本実施形態の総括>
以上説明したように本実施形態では、原則的には、昇降路1に沿って設定される区間A~Gの各々に対して設定された過速度基準とかご7の走行速度に基づいて、かご7の走行速度が過速度であるか否かの判定がなされる。かご7の走行速度が過速度基準を上回っていれば、過速度と判定され、かご7の急停止が行なわれる。ただし、停電の復旧後からかご存在区間情報が区間検知手段によって更新されるまでの期間は、例外的に、段階過速度基準によるかご7の急停止は行なわない。それに代えて、かご7の加速度が異常加速度基準α0を上回っていれば、かご7の急停止が行なわれる。
【0075】
本実施形態では、昇降路の終端領域に設定された各区間A~C及び区間E~Gにおいて、異常加速度基準α0でかご7を走行させ続けたとしても、区間の境界に達するまでに、かご7の走行速度がその区間の過速度基準に達しないように区間の長さが設定される。このため、かご7の加速度が所定の加速度に達しなければ、区間全長をかご7が走行しても、その区間の過速度基準にかご7の走行速度が達することはない。つまり、かご7の加速度が所定の加速度に達したという判定は、その区間の過速度基準にかご7の走行速度が達したという判定と同等の効果をもっていることになる。従って、かご存在区間の情報が無くなっていたりずれていたりする場合には、最低過速度基準で判定を行ない、最低過速度基準にかご走行速度が達することのないように、抑制した速度パターンで走行を制御するという必要性があったのを、考慮しなくて済むようになる。
【0076】
2.変形例
上記実施形態は以下のように変形されてもよい。
【0077】
(1)上記実施形態では、昇降路1が7個の区間に分割されたが、6個以下又は8個以上の区間に分割されてもよい。昇降路1の分割数は、昇降路1の長さ及びエレベーターの定格速度等のエレベーターの仕様に応じて定められればよい。
【0078】
(2)上記実施形態では、昇降路1に沿って配置されるプレート11a~11fと光電センサー15、監視用エンコーダー20及び終端階強制減速装置24とにより、かご7の位置する区間を特定する区間検知手段を形成している。しかし、昇降路1に沿って設定される複数の区間のうち、かご7が存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、かご7が直近に通過した区間の境界の検知に応じてかご存在区間情報を更新する区間検知手段であれば他の構成とすることもできる。
【0079】
(3)上記実施形態では、終端階強制減速装置24が移動検知手段の役割を兼ねていたが、終端階強制減速装置24とは別個に移動検知手段をエレベーター制御装置21に設けてもよい。区間検知手段についても同様に終端階強制減速装置24とは別個にエレベーター制御装置21に設けてもよい。
【0080】
(4)監視用エンコーダー20を移動検知手段と区間検知手段で兼用するのではなく、それぞれ専用の監視用エンコーダーを設けることにしてもよい。また、監視用エンコーダー20は、ガバナーシーブ16に設けることに限定せず、張り車18等に設けるようにしてもよい。
【0081】
かご7及び釣合錘8のローピング方式は1:1に限定せず、他の比率としても構わない。
【0082】
(5)実際にかごが走行している時の加速度を算出し、その加速度が、所定の加速度に一度でも達したら、急停止させるという構成は、無条件で適用することも可能である。すなわち、停電からの復旧直後のようにかご存在区間の記憶が無くなっていたりずれていたりする場合に限定することなく、常時適用する構成としてもよい。
【0083】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
1 昇降路
2 駆動装置(巻上機)
7 かご
8 釣合錘
9 かご用バッファ
10 釣合錘用バッファ
11(11a-11f) プレート
15 光電センサー
19 制御用エンコーダー
20 監視用エンコーダー
21 エレベーター制御装置
24 終端階強制減速装置(ETS)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-04-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の長さを所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる、
ことを特徴とするエレベーター制御装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の長さを所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
停電からの復旧後、前記かご存在区間情報が更新されるまでは、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる一方、
前記かご存在区間情報が更新された以降は、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行速度が、前記かご存在区間情報が示す区間に対応して定められた前記過速度基準を上回った場合に前記かごを急停止させる、
ことを特徴とするエレベーター制御装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項3
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項3】
前記複数の区間の各々は、
前記区間の長さと前記所定の加速度との積の2倍がその区間における過速度基準の2乗よりも小さくなるように設定される、
請求項1又は請求項2に記載のエレベーター制御装置。

【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るエレベーター制御装置は、
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の長さを所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
また、本発明に係るエレベーター制御装置は、
エレベーターの昇降路におけるかごの移動を検知する移動検知手段と、
前記昇降路に沿って設定される複数の区間のうち、前記かごが存在する区間に関するかご存在区間情報を記憶し、前記かごが直近に通過した区間の境界の検知に応じて前記かご存在区間情報を更新する区間検知手段と、
前記かごの過速度を検知して前記かごを急停止させる終端階強制減速装置と、
を具えるエレベーター制御装置であって、
前記区間のうち前記昇降路の終端領域に設定される区間の各々について、前記かごの走行速度の上限を示す過速度基準が、前記かご存在区間情報が示す区間と対応して定められており、前記終端領域に設定される区間は、前記かごが当該区間の長さを所定の加速度で等加速度走行した場合でも、前記区間の過速度基準に達することがないように設定されており、
前記終端階強制減速装置は、
停電からの復旧後、前記かご存在区間情報が更新されるまでは、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行加速度が、前記所定の加速度を上回った場合に前記かごを急停止させる一方、
前記かご存在区間情報が更新された以降は、前記移動検知手段による検知結果から求まる前記かごの走行速度が、前記かご存在区間情報が示す区間に対応して定められた前記過速度基準を上回った場合に前記かごを急停止させる構成とすることができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
前記複数の区間の各々は、
前記区間の長さと前記所定の加速度との積の2倍がその区間における過速度基準の2乗よりも小さくなるように設定することができる。