IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2022-121817リチウムイオン二次電池の容量回復方法および装置
<>
  • -リチウムイオン二次電池の容量回復方法および装置 図1
  • -リチウムイオン二次電池の容量回復方法および装置 図2
  • -リチウムイオン二次電池の容量回復方法および装置 図3
  • -リチウムイオン二次電池の容量回復方法および装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121817
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の容量回復方法および装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/44 20060101AFI20220815BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H01M10/48 P
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018732
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】永谷 勝彦
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA01
5H030AA10
5H030AS08
5H030BB01
5H030BB21
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】電池容量を回復させる観点において、不必要な領域まで放電され過ぎないこと
【解決手段】
リチウムイオン二次電池の容量回復方法は、使用済みリチウムイオン二次電池を用意する工程と、前記使用済みリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域に過放電させる過放電工程とを含む。過放電工程は、過放電領域の電圧と電流値に基づいて取得されるdQdV曲線が降下後に上昇したピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流値が降下後に上昇した電流ピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みリチウムイオン二次電池を用意する工程と、
前記使用済みリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域に過放電させる過放電工程と
を含み、
前記過放電工程は、前記過放電領域の電圧と電流値に基づいて取得されるdQdV曲線が降下後に上昇したピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流値が降下後に上昇した電流ピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させる、
リチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項2】
前記過放電が停止される前記タイミングは、前記dQdV曲線のピークまたは前記電流ピークを過放電方向に越えたピークの裾である、請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項3】
前記過放電が停止される前記タイミングは、前記dQdV曲線のピークまたは前記電流ピークの電圧から予め定められた電圧降下が生じたタイミングで設定された、請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項4】
前記過放電が停止される前記タイミングは、前記dQdV曲線のピークまたは前記電流ピークから0.3V以内に予め定められている、請求項3に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項5】
前記過放電工程において、過放電が停止された後で、前記使用済みリチウムイオン二次電池が、SOC0%以上の予め定められたSOCまで充電される、請求項1から4までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項6】
前記過放電工程は、当該リチウムイオン二次電池をSOC80%以上の予め定められたSOCとしてからSOC0%の以下の過放電領域まで連続して放電させる、請求項1から5までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項7】
用意される前記使用済みのリチウムイオン二次電池は、
正極シートと、前記正極シートに対向した負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在したセパレータシートとを備え、
前記正極シートは、正極活物質を含む正極活物質層を備え、
前記負極シートは、負極活物質を含む負極活物質層を備え、
前記負極活物質層は、前記正極シートと前記負極シートとが対向する方向において、前記正極活物質層に対向した対向部と、前記正極活物質層からはみ出た非対向部とを備えている、請求項1から6までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項8】
前記負極活物質が、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含む、請求項7に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復方法。
【請求項9】
使用済みのリチウムイオン二次電池を放電させる放電装置と、
前記リチウムイオン二次電池の電圧と電流値とを測定する測定装置と、
制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
使用済みのリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理と、
前記過放電領域で取得される電圧値と電流値に基づいて、dQdV曲線のピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させる処理と
を実行するように構成された、リチウムイオン二次電池の容量回復装置。
【請求項10】
前記SOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理は、当該リチウムイオン二次電池の電圧が1.8V~1.4Vの予め定められた電圧になったときに停止されるように構成された、請求項9に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復装置。
【請求項11】
前記制御装置は、
前記過放電領域まで放電させる処理が停止された後、当該リチウムイオン二次電池をSOC0%以上の予め定められたSOCまで充電する処理をさらに備えた、請求項9または10に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復装置。
【請求項12】
前記過放電領域まで放電させる処理は、当該リチウムイオン二次電池をSOC80%以上の予め定められたSOCとしてからSOC0%の以下の過放電領域まで連続して放電させる、請求項9から11までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池の容量回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の容量回復方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2005-327516号公報には、正極にNCM系の正極活物質が用いられ、負極に非晶質系炭素が用いられたリチウムイオン二次電池に関して、不可逆容量を削減し、放電容量を回復させる方法が開示されている。ここで開示される方法は、0.011C以上1C未満の放電電流値で放電終止電圧以下の放電電圧値、例えば、2.2~2.8Vまで過放電させる、ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-327516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際には、どの程度過放電すれば電池容量が回復するかは、個々の電池の状態で異なる場合がある。そして、電池容量を回復させる観点において、不必要な領域まで放電され過ぎないことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法は、使用済みリチウムイオン二次電池を用意する工程と、使用済みリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域に過放電させる過放電工程とを含んでいる。過放電工程は、過放電領域の電圧と電流値に基づいて取得されるdQdV曲線が降下後に上昇したピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流値が降下後に上昇した電流ピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させる。かかるリチウムイオン二次電池の容量回復方法によれば、より確実な容量回復が見込めるようになり、かつ、不必要な領域まで放電され過ぎることを抑止できる。
【0006】
過放電が停止されるタイミングは、dQdV曲線のピークまたは電流ピークを過放電方向に越えたピークの裾であってもよい。また、過放電が停止されるタイミングは、dQdV曲線のピークまたは電流ピークの電圧から予め定められた電圧降下が生じたタイミングで設定されていてもよい。また、過放電が停止されるタイミングは、dQdV曲線のピークまたは電流ピークから0.3V以内に予め定められていてもよい。
【0007】
また、過放電工程において、過放電が停止された後で、前記使用済みリチウムイオン二次電池が、SOC0%以上の予め定められたSOCまで充電されてもよい。また、過放電工程は、当該リチウムイオン二次電池をSOC80%以上の予め定められたSOCとしてからSOC0%の以下の過放電領域まで連続して放電させてもよい。
【0008】
ここで用意される使用済みのリチウムイオン二次電池は、例えば、正極シートと、正極シートに対向した負極シートと、正極シートと負極シートとの間に介在したセパレータシートとを備えている。正極シートは、正極活物質を含む正極活物質層を備えている。負極シートは、負極活物質を含む負極活物質層を備えている。負極活物質層は、正極シートと負極シートとが対向する方向において、正極活物質層に対向した対向部と、正極活物質層からはみ出た非対向部とを備えていてもよい。また、負極活物質は、例えば、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含んでいてもよい。
【0009】
リチウムイオン二次電池の容量回復方法を具現化するリチウムイオン二次電池の容量回復装置は、使用済みのリチウムイオン二次電池を放電させる放電装置と、リチウムイオン二次電池の電圧と電流値とを測定する測定装置と、制御装置とを備えていてもよい。制御装置は、使用済みのリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理と、過放電領域で取得される電圧値と電流値に基づいて、dQdV曲線のピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させる処理とを実行するように構成されているとよい。
【0010】
ここで、SOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理は、当該リチウムイオン二次電池の電圧が1.8V~1.4Vの予め定められた電圧になったときに停止されるように構成されていてもよい。制御装置は、過放電領域まで放電させる処理が停止された後、当該リチウムイオン二次電池をSOC0%以上の予め定められたSOCまで充電する処理をさらに備えていてもよい。また、過放電領域まで放電させる処理は、当該リチウムイオン二次電池をSOC80%以上の予め定められたSOCとしてからSOC0%の以下の過放電領域まで連続して放電させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、リチウムイオン二次電池の容量回復装置の模式図である。
図2図2は、過放電工程の一例を示すフローチャートである。
図3図3は、dQ/dVの過放電領域をフォーカスしたdQdV曲線を示すグラフの一例である。
図4図4は、サイクリックボルタンメトリー測定で得られるグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法の一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。本発明は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、数値範囲を示す「X~Y」などの表記は、特に言及されない限りにおいて「X以上Y以下」を意味する。
【0013】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法には、使用済みリチウムイオン二次電池を用意する工程と、過放電工程とが含まれる。
【0014】
〈使用済みリチウムイオン二次電池を用意する工程〉
使用済みリチウムイオン二次電池を用意する工程は、文字通り、使用済みのリチウムイオン二次電池を用意する工程である。使用済みのリチウムイオン二次電池には、一度使用され使用中のリチウムイオン二次電池が含まれる。例えば、市中で使用されているリチウムイオン二次電池であって、充放電が可能なリチウムイオン二次電池が用意されるとよい。リチウムイオン二次電池は、ハイブリッド車や電気自動車などの電動車に搭載されている。このため、リチウムイオン二次電池が搭載された電動車が用意されてもよい。また、電動車から交換のため取り外された使用済みのリチウムイオン二次電池や、ハイブリッド車や電気自動車などの廃車される電動車から多量に回収されたリチウムイオン二次電池などでもよい。また、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法は、電動車に用いられているリチウムイオン二次電池に限らず、種々の用途に用いられたリチウムイオン二次電池に適用されうる。
【0015】
リチウムイオン二次電池には、種々の態様がある。図1は、リチウムイオン二次電池の容量回復装置の模式図である。リチウムイオン二次電池の容量回復装置は、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法を具現化する装置の一形態である。また、図1には、リチウムイオン二次電池の容量回復方法が適用されうるリチウムイオン二次電池10の一態様が示されている。
【0016】
リチウムイオン二次電池の一態様として、いわゆる密閉型電池がある。密閉型電池では、図1に示されているように、電極体20と電解液(図示省略)が外装体40に収容されている。外装体40は、略直方体や円筒型などの電池ケースで構成されうる。また、外装体は、ラミネートフィルムで構成された袋状の形態でもよい。外装体40には、正極端子42と負極端子44が取り付けられている。電解液には、例えば、リチウムイオンを含む支持塩が溶解した非水電解液が用いられうる。リチウムイオン二次電池の電解液には、種々提案されており、特に限定されない。
【0017】
電極体20は、絶縁フィルム46などで覆われた状態で、外装体40に収容されている。電極体20は、正極要素としての正極シート22と、負極要素としての負極シート24と、セパレータとしてのセパレータシート26とを備えている。ここで用意される使用済みリチウムイオン二次電池の一態様としては、例えば、負極シート24は、正極シート22に対向し、正極シート22と負極シート24との間にセパレータシート26が介在しているとよい。
【0018】
正極シート22は、正極集電箔22a(例えば、アルミニウム箔)に、正極活物質を含む正極活物質層22bが両面に形成されている。正極活物質は、例えば、リチウム遷移金属複合材料のように、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸収しうる材料である。リチウムイオン二次電池10の正極活物質として使用し得るリチウム遷移金属酸化物としては、例えば、層構造をもつLiCoO、LiNiO、LiMnOやLiNiCoMn(ここで、a+b+c=1を満たす)のようないわゆるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物などのリチウム遷移金属酸化物のほか、LiMn、LiNi0.5Mn1.5などのマンガン系のスピネル構造(Fd-3m)を有するリチウム遷移金属酸化物やオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)など、種々の態様がしられている。また、正極活物質は、一般的にリチウム遷移金属複合材料以外にも種々提案されており、特に限定されない。
【0019】
負極シート24は、負極集電箔24a(例えば、銅箔)に、負極活物質を含む負極活物質層24bが形成されている。負極活物質は、例えば、天然黒鉛や人工黒鉛やグラファイトなどの炭素材料のように、充電時にリチウムイオンを吸蔵し、充電時に吸蔵したリチウムイオンを放電時に放出しうる材料である。負極活物質は、一般的に天然黒鉛以外にも種々提案されており、特に限定されない。
【0020】
セパレータシート26には、例えば、所要の耐熱性を有する電解質が通過しうる多孔質の樹脂シートが用いられる。セパレータシート26についても種々提案されており、その態様は特に限定されない。正極シート22と負極シート24が複数重ねられる場合には、セパレータシート26は適宜に複数用意されるとよい。
【0021】
このように正極シート22は、正極活物質を含む正極活物質層22bを備えているとよい。負極シート24は、負極活物質を含む負極活物質層24bを備えているとよい。負極活物質層24bの幅は、正極活物質層22bよりも広いとよい。また、セパレータシート26の幅は、負極活物質層24bよりも広いとよい。負極活物質層24bは、セパレータシート26を介在させた状態で正極活物質層22bを覆っているとよい。負極活物質層24bは、セパレータシートに覆われているとよい。このように、セパレータシート26が介在しているが、負極活物質層24bは、正極シート22と負極シート24とが対向する方向において、正極活物質層22bに対向した対向部と、正極活物質層22bからはみ出た非対向部とを備えているとよい。
【0022】
また、正極集電箔22aは、正極活物質層22bが形成されていない未形成部22a1を有しているとよい。正極集電箔22aの未形成部22a1の一部は、セパレータシート26からはみ出ているとよい。同様に、負極集電箔24aは、負極活物質層24bが形成されていない未形成部24a1を有しているとよい。負極集電箔24aの未形成部24a1の一部は、正極集電箔22aの未形成部22a1とは異なる位置において、セパレータシート26からはみ出ているとよい。セパレータシート26からはみ出た正極集電箔22aの未形成部22a1の一部は、正極端子42が取り付けられる集電部位になっている。負極集電箔24aの未形成部24a1の一部は、負極端子44が取り付けられる集電部位になっている。
【0023】
過放電工程は、使用済みリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域に過放電させる工程である。ここで、過放電工程は、過放電領域の電圧と電流値に基づいて取得されるdQdV曲線のピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させるように構成されているとよい。これによって、容量回復との観点において、過放電が不十分である事象や過放電が行き過ぎる事象などが抑制されうる。このため、より確実な容量回復が見込めるようになり、かつ、不必要な領域まで放電され過ぎることを抑止できる。また、このような基準で過放電が停止されても容量回復ができないリチウムイオン二次電池10は、過放電による容量回復ではない、他の手法による容量回復が試みられるか、容量回復が難しいものとも判断できる。
【0024】
過放電が停止されるタイミングは、例えば、dQdV曲線のピークまたは電流ピークを過放電方向に越えたピークの裾であってもよい。過放電が停止されるタイミングは、電流ピークから0.3V以内に予め定められていてもよい。本発明者の知見によれば、このように過放電が停止されるタイミングが設定されることによって、個々のリチウムイオン二次電池10の劣化状態に応じて、容量回復効果が十分に見込める適当なタイミングで過放電を停止させることができる。
【0025】
図2は、過放電工程の一例を示すフローチャートである。ここで、過放電工程では、図2に示されているように、電池を過放電する工程S1と、過放電カーブを取得する工程S2と、dQdV曲線を取得する工程S3とを有する。
【0026】
電池を過放電する工程S1では、使用済みリチウムイオン二次電池が放電され、予め定められたSOC0%以下の過放電領域まで放電されていく。ここで、SOC0%は、リチウムイオン二次電池に対して予め定められる使用領域の容量の下限である。例えば、正極活物質にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が用いられ、負極活物質に天然黒鉛が用いられている場合には、SOC0%は、例えば、リチウムイオン二次電池の開回路電圧を基準に設定され、例えば、3.0V程度に設定されうる。電池を過放電する工程S1では、定電流で放電してもよいし、定電流定電圧で放電してもよい。つまり、CC放電でもよいし、CC-CV放電でもよい。
【0027】
過放電カーブを取得する工程S2では、電池を過放電する工程S1において、放電中に過放電カーブを取得する。過放電カーブは、過放電領域で取得される放電カーブである。放電カーブは、例えば、横軸に容量、縦軸に電圧が取られたグラフとして取得されうる。無論、過放電カーブは、過放電領域以前の放電カーブと連続していてもよい。
【0028】
dQdV曲線を取得する工程S3では、dQdV曲線が取得される。dQdV曲線は、過放電カーブを変換することで取得されうる。dQdV曲線は、過放電カーブの横軸をdQ/dVに置き換えるとよい。ここで、dQ/dVは、電圧変化(dV)に対する容量変化(dQ)の割合として算出されうる。そして、過放電カーブの横軸、つまり、容量をdQ/dVに置き換えることによって、dQdV曲線が得られる。dQdV曲線は、過放電工程において放電中に逐次に取得されるとよい。図3は、dQ/dVの過放電領域をフォーカスしたdQdV曲線を示すグラフの一例である。図3では、縦軸に電圧、横軸にdQ/dVが設定されている。横軸のdQ/dVは、左側ほど大きく、右側ほど小さく設定されている。また、図3では、dQdV曲線の大きなトレンドを示すグラフが模式的に示されている。
【0029】
過放電カーブでは、過放電領域において、放電が進むにつれて電圧が下がる。そして、電圧が下がるとともに容量が低下していく。過放電領域にフォーカスすると、電圧変化に対して容量低下が大きい領域と、電圧変化に対して容量低下が小さい領域とがある。電圧-電流のグラフで見ると、電圧変化に対して容量低下が大きい領域では、電流値が比較的高く放電が急激に進む。他方で、電圧変化に対して容量低下が小さい領域では、電流値が低く放電があまり進まない。ただし、過放電カーブでは、電圧降下と容量低下が徐々に進むため大凡一筋のグラフで表される。また、電圧-電流のグラフは、電流値が細かくかつ大きく変動する。このため、電圧-電流のグラフによって、電圧降下に対して電流値の変化の大きいトレンドは掴める。しかし、電圧-電流のグラフでは、電流値のトレンドが変化する変化点を見いだすのが難しい。
【0030】
これに対して、dQdV曲線では、図3に示されているように、電圧とdQ/dVとの関係で得られる。dQ/dVは、電流値に比べて電圧変化に対する変動が小さい。このため、dQdV曲線では、電圧変化に対する変化のトレンドが掴みやすい。なお、図3には、dQdV曲線が示されているが、dQ/dVの細かな変動は無視しており、電圧変化に対するdQ/dVの大きなトレンドが分かるグラフが模式的に示されている。実際に得られるdQdV曲線は、電圧に対してdQ/dVが細かく変化している。
【0031】
本発明者は、さらにdQdV曲線について、図3に示されているように、使用済みリチウムイオン二次電池の過放電領域についてフォーカスして観察した。この結果、過放電領域においても、電圧の降下量に対するdQ/dVの細かい変動はあるものの大凡無視できる大きなトレンドに沿ったdQdV曲線Aが得られる。過放電領域では、dQdV曲線Aは、図3に示されているように、電圧の降下量に対してdQ/dVが徐々に下がり、一度、dQ/dVが低くなったピークA1を迎える。その後、dQ/dVが立ち上がり、dQ/dVが上昇したピークA2を経てdQ/dVが再び下がる。その後、dQ/dVが立ち上がるピークが生じることなくdQ/dVが低い状態で徐々に低下し、dQ/dVが低い状態で安定していく(漸減領域A3)。
【0032】
本発明者は、このように、SOC0%以下の過放電領域で放電していくと、電圧の降下量に対してdQ/dVが徐々に下がり、一度、dQ/dVが低くなったピークA1を迎える。さらに放電していくと、その後にdQ/dVが上昇したピークA2を経て、漸減領域A3を示す傾向があることに気がついた。かかるピークA2は、漸減領域A3のdQ/dVを基に引かれる漸近線L1を基準としたベースラインを考慮したときに、dQ/dVの値が明確に上昇した傾向として見出される。
【0033】
このうち、dQ/dVが上昇したピークA2は、何らかの原因で放電が他の領域に比べて活発に行われたことを示している。つまり、かかるピークA2が生じる部分的な領域で、負極に定着していたリチウムイオンがより多く開放されたことを意味している。その後は、このようにdQ/dVが上昇するトレンドは見られない。開放されたリチウムイオンは、その後、充放電に寄与することが期待できる。このような知見から過放電によってリチウムイオン二次電池10の容量回復を図る場合、かかるdQ/dVが上昇するピークA2を越えて過放電することが適当と本発明者は考えた。また、dQ/dVが上昇するピークA2を過ぎると、その後は、放電してもdQ/dVが上昇するトレンドは表れない。このため、dQ/dVが上昇するピークA2を過ぎ、さらに放電することは、リチウムイオン二次電池10の容量回復に大きく寄与しないと知見を得た。このような傾向は、負極活物質が、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材を含む場合に、より顕著に表れる。リチウムイオンを吸蔵、放出可能な炭素材には、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイトなどが挙げられる。なお、本発明者の知見によれば、dQ/dVが降下した後、上昇に転じたピークA2は、例えば、リチウムイオン二次電池の開回路電圧において3.0V~2.0Vの領域に生じうる。ピークA2の裾A2-1は、例えば、2.8V~1.8Vの領域に生じうる。
【0034】
そこで、図2に示されているように、過放電工程で得られるdQ/dVを基に、過放電領域で細かい電流値の変動を無視したdQ/dVの変化のトレンドにおいて、dQ/dVが上昇したピークA2を越えたか否かを判定する(S4)。dQ/dVが上昇したピークA2を越えるまで、S4の判定処理を繰り返す。そして、dQ/dVが上昇したピークA2を越えたと判断された場合(Yes)には、さらに、dQ/dVが上昇したピークA2の裾(A2-1)を越えたかを判定する(S5)。そして、dQ/dVが上昇したピークA2の裾(A2-1)を越えたと判定されるまでは、リチウムイオン二次電池10の放電が継続される(S6)。dQ/dVが上昇したピークA2の裾(A2-1)を越えたと判定されると、リチウムイオン二次電池10の放電を停止するとよい(S7)。これにより、リチウムイオン二次電池10の容量を回復させるとの観点で、適切な放電を実施できる。
【0035】
ここで、dQ/dVが上昇したピークA2の裾(A2-1)を越えたと判定(S5)では、dQ/dVのトレンドが漸減領域A3に変化する変曲点が見いだされるとよい。ただし、dQdV曲線は、放電しつつ描かれるため、漸減領域A3に変化する変曲点を見いだすことが難しい。このため、代用的な方法として、過放電が停止されるタイミングは、dQdV曲線のピークA2を過放電方向に越えたピークの裾A2-1を見出すとよい。ピークの裾A2-1は、例えば、dQ/dVが上昇する前の、dQ/dVの降下のピークA1よりもdQ/dVが低くなった位置としてもよい。また、dQ/dVの変化量をさらに評価して、dQ/dVの変化量が予め定められた値よりも小さくなった時を、dQdV曲線のピークの裾A2-1のタイミングとして見出してもよい。このように見出されるピークの裾A2-1で、放電を停止させることによって、確実にdQ/dVのピークA2を越えた時に放電を停止させることができる。
【0036】
また、同種のリチウムイオン二次電池10の過放電工程を制御する場合には、dQdV曲線のピークの裾A2-1が発言するタイミングは概ね似通ってくる。このため、例えば、dQdV曲線が上昇したピークA2から予め定められた一定の電圧降下が生じたタイミングを、dQdV曲線が上昇したピークA2の裾A2-1としてもよい。例えば、このようなタイミングは、dQdV曲線のピークから0.3V以内に予め定められてもよい。例えば、dQdV曲線が上昇したピークA2から0.3V、0.25Vなどのように予め定められる適当なタイミングを定めてもよい。この場合、dQdV曲線が上昇したピークA2が見出されると、放電を停止させるタイミングが決まる。このため、放電を停止させるタイミングの設定が容易であり、停止制御の設定が簡単になる。
【0037】
なお、ここでは、dQdV曲線によって、dQdV曲線が降下後に上昇したピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させることを例示した。この場合、電流値のトレンドが変化する変化点を見いだすことが容易である。このため、例えば、上述したように、dQdV曲線が降下後に上昇したピークA2を越えた裾A2-1を見出すことが容易である。他方で、dQdV曲線を得るには、dQ/dVの算出などの処理が必要である。これに対して、例えば、dQdV曲線を得ることに代えて、サイクリックボルタンメトリー測定における電流値を基に、放電を停止させてもよい。ここで、サイクリックボルタンメトリーでは、電位掃引速度を一定とする条件で放電される。サイクリックボルタンメトリー測定では、例えば、電圧と電流値との関係が得られる。ここでは、サイクリックボルタンメトリーによってSOC0%以下の過放電領域にリチウムイオン二次電池が放電され、放電中の電圧と電流値との関係が得られる。
【0038】
図4は、サイクリックボルタンメトリー測定で得られるグラフの一例である。図4では、サイクリックボルタンメトリー測定で得られるグラフBが模式的に示されている。サイクリックボルタンメトリー測定では、図4に示されているように、縦軸に電圧、横軸に電流を取ったCV放電のグラフ(電流-電圧)が得られる。サイクリックボルタンメトリー測定における電圧値-電流値のグラフは、dQdV曲線と同様の傾向を示す。ただし、サイクリックボルタンメトリー測定では、dQdV曲線におけるdQ/dVよりも、電圧に対する電流値の変動が大きい。図4では、サイクリックボルタンメトリー測定で得られる電流値の上限に沿った線c1と下限に沿った線c2とがそれぞれ示されている。
【0039】
過放電領域で放電を停止させるタイミングは、例えば、サイクリックボルタンメトリー測定における電流値が降下した後、上昇に転じたピークを越えたタイミングにて放電を停止させるとよい。この場合、本発明者の知見によれば、サイクリックボルタンメトリー測定では、SOC0%を越えた過放電領域で電流値の変動が大きい。しかし、サイクリックボルタンメトリー測定における電流値は、図4に示されているように、電流値が降下し上昇に転じた後、ピークB2を打ち、再び降下に転じる。電流値のピークB2を経た後は、電流値の変動が収束する傾向を示し、漸減領域B3では、電流値の変動が大凡収束する。サイクリックボルタンメトリー測定におけるこのような傾向を観測し、電流値が降下し上昇に転じた後のピークB2を越えたタイミングにて放電を停止させるとよい。この場合も、容量回復との観点において、過放電が不十分である事象や過放電が行き過ぎる事象などが抑制されうる。このため、より確実な容量回復が見込めるようになり、かつ、不必要な領域まで放電され過ぎることを抑止できる。
【0040】
サイクリックボルタンメトリー測定において、過放電が停止されるタイミングは、過放電方向にピークB2を越えたピークB2の裾B2-1であってもよい。サイクリックボルタンメトリー測定において、上昇したピークB2は、電流値の上限に沿った線c1または下限に沿った線c2に基づいて見出されうる。ピークB2の裾B2-1は、サイクリックボルタンメトリー測定の電流値の変動が大凡収束したところとして見出される。例えば、電流値の上限c1と下限c2の差が予め定められた値よりも小さくなったタイミングをピークB2の裾B2-1として見出すことができる。このように見出されるピークB2の裾B2-1で、放電を停止させることによって、確実にピークB2を越えた時に放電を停止させることができる。
【0041】
サイクリックボルタンメトリー測定において、放電を停止させるタイミングは、電流値が降下し上昇に転じた後の電流ピークの電圧から予め定められた電圧降下が生じたタイミングで設定されていてもよい。また、サイクリックボルタンメトリー測定において、電流値が降下し上昇に転じた後の電流ピークから0.3V以内に予め定められていてもよい。この場合、サイクリックボルタンメトリー測定において、上昇したピークB2が見出されると、放電を停止させるタイミングが決まる。このため、放電を停止させるタイミングの設定が容易であり、停止制御の設定が簡単になる。
【0042】
なお、過放電工程において、過放電が停止された後で、使用済みリチウムイオン二次電池が、SOC0%以上の予め定められたSOCまで充電されてもよい。この場合、当該リチウムイオン二次電池が過放電状態で放置されず、通常の使用可能な状態に復帰することができる。SOC0%以上の予め定められたSOCまで充電する処理は、例えば、SOC0%、20%、30%、50%などと適当なSOCに充電させるとよい。また、過放電工程は、リチウムイオン二次電池をSOC80%以上の予め定められたSOCとしてからSOC0%の以下の過放電領域まで連続して放電させてもよい。これにより、容量回復の効果が特に得られやすい。
【0043】
ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復装置100は、図1に示されているように、放電装置101と、測定装置102と、制御装置103とを備えている。
【0044】
放電装置101は、使用済みのリチウムイオン二次電池10に電気的に接続され、使用済みのリチウムイオン二次電池10を放電する装置である。測定装置102は、リチウムイオン二次電池10の電圧値と電流値とを測定する装置である。測定装置102は、例えば、放電装置101の回路に取り付けられた電圧計と電流計に基づいて電圧値と電流値とを測定するように構成されているとよい。制御装置103は、使用済みのリチウムイオン二次電池を予め定められたSOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理と、過放電領域で取得される電圧と電流値に基づいて、dQdV曲線のピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークを越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させる処理とを実行させるように構成されている。
【0045】
かかる制御によれば、容量回復との観点において、過放電が不十分である事象や過放電が行き過ぎる事象などが抑制されうる。このため、より確実な容量回復が見込めるようになり、かつ、不必要な領域まで放電され過ぎることを抑止できる。
【0046】
なお、SOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理は、当該リチウムイオン二次電池の電圧が1.8V~1.4Vの予め定められた電圧になったときに停止されるように構成されていてもよい。例えば、dQdV曲線のピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークが検出されず、適当なタイミングで過放電が停止されない場合でも、少なくとも、当該リチウムイオン二次電池の電圧が1.8V~1.4Vの予め定められた電圧(例えば、1.5V)になったときに停止される。このため、dQdV曲線のピークまたはサイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークが検出されずに、リチウムイオン二次電池が放電されすぎてしまう事象が防止できる。
【0047】
さらに、制御装置103は、過放電領域まで放電させる処理が停止された後、当該リチウムイオン二次電池をSOC0%以上の予め定められたSOCまで充電する処理をさらに備えていてもよい。この場合、当該リチウムイオン二次電池が過放電状態で放置されず、通常の使用可能な状態に復帰することができる。SOC0%以上の予め定められたSOCまで充電する処理は、例えば、SOC0%、20%、30%、50%などと適当なSOCに充電させるとよい。また、SOC0%以下の過放電領域まで放電させる処理は、当該リチウムイオン二次電池を、例えば、SOC80%以上の予め定められたSOC、例えば、SOC100%や90%の状態、としてからSOC0%の以下の過放電領域まで連続して放電させてもよい。これにより、容量回復の効果が特に得られやすい。
【0048】
表1は、試験例を示す。
【表1】
【0049】
表1に示された試験例で用意された使用済みリチウムイオン二次電池は、正極活物質にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物が用いられ、負極活物質に天然黒鉛が用いられている。正極集電箔にアルミニウム箔が用いられ、負極集電箔に銅箔が用いられている。セパレータには、ポリプロピレン、ポリエチレンからなる複数層構造膜が用いられている。ここでは、正極負極とも集電箔の片面に活物質層が塗工されている。そして、セパレータを挟んで各活物質層を対向させた電極体が用意された。ここで、負極活物質層は、正極活物質層を覆いうるように、正極活物質層よりも大凡8%程度広い面積を有している。正極活物質層は、セパレータを介して、負極活物質層に全面が対向している。負極活物質層は、正極活物質層に対向していない未対向部を有している。
【0050】
電極体の各集電箔にはリードタブが溶接される。電極体は、外装体となるラミネートフィルムに収容され、リードタブの一部が外部に露出するように絶縁された状態でラミネートフィルムに組付けられる。このように電極体が外装体に収容された後、外装体の開口部より電解液が注入され、ラミネートフィルムの開口部が封止される。ここで、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを溶解させたものが用いられた。
【0051】
注液後、所定のコンディショニング処理を経て電池の初期容量を測定しておく。次に、電池を充放電した後、容量が劣化するように予め定められた耐久試験を実施する。そして、過放電処理前の電池の容量を初期容量で除して、容量維持率を算出しておく。次に、予め定められた耐久試験が実施された電池を充放電装置またはソーラトロンに接続し、電池SOC100%に調整した後、SOC0%以下の過放電領域まで放電処理を実施した。放電を停止させる条件は、それぞれ表1に示されているとおりである。その後、充電し、過放電処理後の電池容量を得る。このようにして得られた過放電処理後の電池容量を初期容量で除して、過放電処理後の容量維持率を得る。そして、過放電処理による回復量を評価した。
【0052】
その結果、サンプル1のように、dQdV曲線を得て、dQ/dVが降下したピークA1を経て上昇に転じたピークA2を越えた裾A2-1(図3参照)まで放電して、放電を停止した。サンプル1での過放電処理は、0.1Cの電流値でのCC放電とした。この場合、過放電処理前の容量維持率が44.2%であったのに対して、過放電処理後の容量維持率が54.0%であった。そして、過放電処理による回復量が9.8%であった。サンプル1のように、かかる処理で効果的なリチウムイオン二次電池の容量回復が見込めることが確認できた。
【0053】
サンプル2では、過放電処理を、0.001Cの電流値でのCC放電とした。その余の点で、サンプル1と同じであった。サンプル2では、過放電処理前の容量維持率が68.0%であったのに対して、過放電処理後の容量維持率が81.9%であった。そして、過放電処理による回復量が13.9%であった。サンプル2では、サンプル1よりも回復量が大きく、過放電処理の電流値を0.001Cと小さくしたことが奏功していると考えられうる。なお、過放電処理の電流値は、小さいほど放電に時間がかかるとも言えるが、回復量を大きくするとの観点では、過放電処理の電流値は小さいほどよく、0.01C以下、より好ましくは0.005C以下、さらに好ましくは0.003C以下などと設定されるとよい。
【0054】
サンプル3では、サイクリックボルタンメトリー測定によって得られる電流ピークに基づいて放電停止を制御した、ここでは、サイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークB2の裾B2-1(図4参照)まで放電した。サイクリックボルタンメトリー測定では、CCCV放電とし、掃引速度は0.01mV/秒とした。その余の点では、サンプル1と同じであった。サンプル3では、過放電処理前の容量維持率が70.4%であったのに対して、過放電処理後の容量維持率が78.1%であった。そして、過放電処理による回復量が7.7%であった。サンプル1のように、サイクリックボルタンメトリー測定による電流ピークを基に、過放電処理を停止させる場合でも、効果的なリチウムイオン二次電池の容量回復が見込めることが確認できた。また、この場合も、過放電処理の電流値は小さいほどよいと考えられ、0.01mV/秒以下、より好ましくは0.005mV/秒以下、さらに好ましくは0.003mV/秒以下、0.001mV/秒以下などと設定されるとよい。
【0055】
なお、サンプル4は、0.1Cの電流値でCC放電により過放電処理を実施したものである。過放電処理は、dQ/dVが降下し、立ち上がる前、つまり、大凡、図3におけるdQ/dVが降下したピークA1付近で停止した。その余の点で、サンプルAで同じとした。この場合、過放電処理前の容量維持率が51.2%であったのに対して、過放電処理後の容量維持率が51.0%であった。そして、過放電処理による回復量が-0.2%であった。この場合、過放電処理において十分に放電されておらず、負極にトラップされたリチウムイオンが開放されず十分な回復量が得られなかったものと推察される。
【0056】
かかるリチウムイオン二次電池の容量回復方法によれば、表1に示されているように、使用済みリチウムイオン二次電池が、予め定められたSOC0%以下の過放電領域に過放電させる。この際、過放電領域の電圧と電流値に基づいて取得されるdQdV曲線のピークA2(図3参照)またはサイクリックボルタンメトリー測定における電流ピークB2(図4参照)を越えた、予め定められたタイミングで過放電を停止させるように構成されているとよい。これによって、容量回復との観点において、過放電が不十分である事象や過放電が行き過ぎる事象などが抑制され、リチウムイオン二次電池の容量を適切に回復させることができる。このため、より確実な容量回復が見込めるようになり、かつ、不必要な領域まで放電され過ぎることを抑止できる。なお、表1は、リチウムイオン二次電池の容量回復方法について一例が示されているに過ぎない。ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法は、表1に示される形態に限らず、過放電領域に電流ピークが見出されるリチウムイオン二次電池に関して広く適用されうる。
【0057】
以上、ここで開示されるリチウムイオン二次電池の容量回復方法について、種々説明した。特に言及されない限りにおいて、ここで挙げられた電池の実施形態などは本発明を限定しない。また、ここで開示される電池は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされうる。
【符号の説明】
【0058】
10 リチウムイオン二次電池
20 電極体
22 正極シート
22a 正極集電箔
22a1 未形成部
22b 正極活物質層
24 負極シート
24a 負極集電箔
24a1 未形成部
24b 負極活物質層
26 セパレータシート
40 外装体
42 正極端子
44 負極端子
46 絶縁フィルム
100 容量回復装置
101 放電装置
102 測定装置
103 制御装置
A dQdV曲線
A2 dQ/dVのピーク
A2-1 dQ/dVのピークA2の裾
A3 漸減領域
B サイクリックボルタンメトリー測定で得られるグラフ
B2 サイクリックボルタンメトリー測定の電流ピーク
B2-1 電流ピークB2の裾
B3 漸減領域
c1 サイクリックボルタンメトリー測定で得られる電流値の上限に沿った線
c2 サイクリックボルタンメトリー測定で得られる電流値の下限に沿った線
L1 漸近線
図1
図2
図3
図4