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  • 特開-タイヤ用ゴム組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022121848
(43)【公開日】2022-08-22
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 7/00 20060101AFI20220815BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220815BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220815BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20220815BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20220815BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220815BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L1/02
C08L45/00
C08K3/013
B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021018780
(22)【出願日】2021-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】張 迪
(72)【発明者】
【氏名】岡松 隆裕
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA03
3D131BA05
3D131BB11
3D131BC02
3D131BC18
3D131BC19
3D131LA28
4J002AB013
4J002AC011
4J002AC032
4J002BK004
4J002CE004
4J002DA036
4J002DJ016
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】表面粗さが付与されて氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数も維持されたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、無機充填剤と、を含み、ジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含み、且つジエン系ゴム100質量部のうちブタジエンゴムを30質量部以上含み、さらに、ジエン系ゴム100質量部に対して、無機充填剤を20質量部以上含有するタイヤ用ゴム組成物とすることにより、上記課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、無機充填剤と、を含むタイヤ用ゴム組成物であって、
前記ジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含み、且つ前記ジエン系ゴム100質量部のうち前記ブタジエンゴムを30質量部以上含み、
さらに、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記無機充填剤を20質量部以上含有する、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記結晶性ナノセルロースが、平均繊維長さが100~500nmのセルロースナノクリスタルである、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記セルロースナノクリスタルの平均繊維径が10~50nmであり、平均アスペクト比が2~50である、請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記結晶性ナノセルロースを0.1~40質量部含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記タイヤ用ゴム組成物が、さらに芳香族変性テルペン樹脂を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記芳香族変性テルペン樹脂を5~30質量部含む、請求項5に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、およびそのタイヤ用ゴム組成物を用いたスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路用のタイヤであるスタッドレスタイヤには、アイスバーンなどの氷上においても摩擦力が大きいという性能(氷上性能)が求められる。そして、このスタッドレスタイヤの氷上性能などを向上させるために様々なタイヤ用ゴム組成物が開発されているが、そのうちの1つとして、表面粗さが付与されたタイヤ用ゴム組成物が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ゴム成分と、所定量の粘着付与樹脂および/または液状ゴムと、所定量の卵殻粉とを含むキャップトレッド用ゴム組成物が開示され、卵殻粉による表面粗さのコントロール機能などにより、経時による氷上性能の劣化が抑制できるとともに、初期氷上性能も改善できる(優れた氷上性能が得られる)ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-031258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の車両等に求められる安全レベルの高まりに伴い、スタッドレスタイヤに対しても氷上性能のさらなる向上が求められている。また、このような氷上性能の向上だけでなく、環境への配慮などから、同時に低燃費性能も維持されることが求められている。
【0006】
そこで本発明は、表面粗さが付与されて氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数も維持されたタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、無機充填剤と、を含み、ジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含み、且つジエン系ゴム100質量部のうちブタジエンゴムを30質量部以上含み、さらに、ジエン系ゴム100質量部に対して、無機充填剤を20質量部以上含有するタイヤ用ゴム組成物が、結晶性ナノセルロースによって表面粗さが付与されて氷上性能が向上し、且つ転がり抵抗指数も維持されていることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<7>である。
<1>ジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、無機充填剤と、を含むタイヤ用ゴム組成物であって、前記ジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含み、且つ前記ジエン系ゴム100質量部のうち前記ブタジエンゴムを30質量部以上含み、さらに、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記無機充填剤を20質量部以上含有する、タイヤ用ゴム組成物。
<2>前記結晶性ナノセルロースが、平均繊維長さが100~500nmのセルロースナノクリスタルである、<1>に記載のタイヤ用ゴム組成物。
<3>前記セルロースナノクリスタルの平均繊維径が10~50nmであり、平均アスペクト比が2~50である、<2>に記載のタイヤ用ゴム組成物。
<4>前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記結晶性ナノセルロースを0.1~40質量部含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
<5>前記タイヤ用ゴム組成物が、さらに芳香族変性テルペン樹脂を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
<6>前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記芳香族変性テルペン樹脂を5~30質量部含む、<5>に記載のタイヤ用ゴム組成物。
<7><1>~<6>のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたスタッドレスタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面粗さが付与されて氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数も維持されたタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。そして、このタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いることにより、氷上性能がより向上し、且つ低燃費性能も維持されたスタッドレスタイヤを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のスタッドレスタイヤの実施形態の一例を表すタイヤの部分断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、ジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、無機充填剤と、を含み、ジエン系ゴムが天然ゴムおよびブタジエンゴムを含み、且つジエン系ゴム100質量部のうちブタジエンゴムを30質量部以上含み、さらに、ジエン系ゴム100質量部に対して、無機充填剤を20質量部以上含有するタイヤ用ゴム組成物、およびこのタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたスタッドレスタイヤである。以下においては、これらを「本発明のタイヤ用ゴム組成物」、および「本発明のスタッドレスタイヤ」ともいう。
【0012】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0013】
<ジエン系ゴム>
ジエン系ゴムは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であるが、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴムには、天然ゴム(NR)およびブタジエンゴム(BR)が必須成分として含まれ、且つ、このジエン系ゴム100質量部のうちブタジエンゴムが30質量部以上含まれる。つまり、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴムは、天然ゴムを含み、且つブタジエンゴムを30質量%以上含むものである。さらに、このブタジエンゴムの含有割合は、40質量%以上であるのがより好ましい。これにより、本発明のタイヤ用ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたスタッドレスタイヤは、氷上性能および低燃費性能が優れたものとなり、さらに、耐摩耗性能、ウェット性能、機械的特性、耐熱性、耐寒性、耐劣化性、耐汚染性、耐光性、操縦安定性なども優れたものとなる。
【0014】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴム中のブタジエンゴムの含有割合の上限は特に限定されないが、上記と同様の理由から、このジエン系ゴム100質量部のうち80質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましい。
【0015】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴム中の天然ゴムの含有割合も特に限定されないが、上記と同様の理由から、このジエン系ゴム100質量部のうち、天然ゴムが20質量部以上含まれるのが好ましく、30質量部以上含まれるのがより好ましく、40質量部以上含まれるのがさらに好ましく、50質量部以上含まれるのがさらに好ましい。また、上限は、70質量部以下であることがより好ましく、65質量部以下であることがさらに好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましい。
【0016】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴムは、天然ゴムおよびブタジエンゴムからなるもの(天然ゴムおよびブタジエンゴム以外のジエン系ゴム成分を含まないもの)であってもよいが、天然ゴムおよびブタジエンゴム以外のジエン系ゴム成分を含んでいてもよい。具体的には、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどをさらに含んでいてもよい。このようなジエン系ゴム成分を、前述した含有量の天然ゴムおよびブタジエンゴムとともに、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれるジエン系ゴム中の天然ゴムおよびブタジエンゴム以外のジエン系ゴム成分の含有割合は、上記と同様の理由から、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
また、このジエン系ゴムの重量平均分子量は、50000~3000000であることが好ましく、100000~2000000であることがより好ましい。
ここで、この「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。
【0018】
さらに、限定されるものではないが、氷上性能をより向上させ易いことから、このジエン系ゴムの平均ガラス転移温度(平均Tg)は、-100~―50℃であるのが好ましい。ここで、このジエン系ゴムの平均ガラス転移温度は、ジエン系ゴム中に含まれる各成分のガラス転移温度に各成分の質量%をそれぞれ掛けて足し合わせた値である。なお、この計算時には各成分の質量%の合計を1.0とする。
また、各ジエン系ゴムのガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分の昇温速度条件によりサーモグラムを測定し、低温側のベースラインと転移域の傾き(傾斜直線)とのそれぞれの延長線の交点の温度とする。ジエン系ゴムが油展品であるときは、油展成分(オイル)を含まない状態におけるジエン系ゴムのガラス転移温度とする。
【0019】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物にはジエン系ゴム以外のゴム成分が含まれていてもよいが、含有するゴム成分の90質量%以上がジエン系ゴムであるのが好ましく、95質量%以上がジエン系ゴムであるのがより好ましく、含有するゴム成分がジエン系ゴムからなる(100質量%ジエン系ゴムである)のがさらに好ましい。
【0020】
<結晶性ナノセルロース>
本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる結晶性ナノセルロースは、セルロースミクロフィブリルからなる平均繊維径が1~1000nmの極細繊維(ナノセルロース)中における平均繊維長さが比較的短い微小な結晶部分が分離されて得られたものであり、セルロースナノクリスタル(CNC)が代表例として示される。なお、このセルロースナノクリスタルは、平均繊維長さが100~500nmの結晶性の(例えば針状結晶、あるいは球状結晶の)極細繊維である。また、このセルロースナノクリスタルの平均粒径(篩により分級して算出した平均粒径)は、20μm未満である。このような結晶性ナノセルロースを含むことにより、本発明のタイヤ用ゴム組成物に表面粗さが付与されて氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数は維持される。
【0021】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる結晶性ナノセルロースには、平均繊維長さが500nm超のアモルファスを含むナノセルロースであるセルロースナノファイバー(CNF)は包含されない。このセルロースナノファイバーは、タイヤ用ゴム組成物に含有させても表面粗さを付与する(表面粗さを大きくする)ことができないためその氷上性能を十分に向上させることができず、さらに、このセルロースナノファイバーは水分散液としてからゴム成分に混合する必要がある(粉体混合できない)ため、タイヤ用ゴム組成物の製造効率を低下させてしまう可能性がある。
【0022】
そして、この結晶性ナノセルロースが上記したセルロースナノクリスタルである場合、氷上性能の向上および転がり抵抗指数の維持という観点から、その平均繊維径は5~100nmであるとより好ましく、8~70nmであるとさらに好ましく、10~50nmであるとさらに好ましい。また、その平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は1~200であるとより好ましく、1~100であるとさらに好ましく、2~50であるとさらに好ましい。
【0023】
ここで、この「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0024】
なお、このセルロースナノクリスタルは、下記式(1)に表されるような、分子内の水酸基(OH基)が他の官能基に置換されていないセルロースナノクリスタルであってもよく、あるいは、分子内の1以上の水酸基が他の官能基に置換されている(水酸基に置換基が導入されている)セルロースナノクリスタルであってもよい。置換基が導入されている場合、その導入位置や単位構成分子(β-グルコース単位)当たりの導入数は限定されない。例えば、下記式(2)に表されるような、セルロースナノクリスタルを構成する単位構成分子中の少なくとも1つの水酸基に硫酸基が導入されたものなどであってよい。特に、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、分子内の水酸基が他の官能基に置換されていないセルロースナノクリスタルか、あるいは分子内の1以上の水酸基(さらには単位構成分子中の少なくとも1つの水酸基)が硫酸基に置換されたセルロースナノクリスタルを含むのが、氷上性能の向上および転がり抵抗指数の維持という点においてより好適である。なお、下記式(1)および式(2)中のnは10以上5000以下の整数を表す。
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる結晶性ナノセルロースの原料となるセルロースは、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでもよく、特段限定されないが、綿由来セルロースから得られた結晶性ナノセルロース(綿由来の結晶性ナノセルロース)は、結晶化度が高く熱安定性がより高いため好適である。
【0028】
結晶性ナノセルロースの作製方法としては、例えば、セルロース原料を酸(塩酸、硫酸等)などにより加水分解し、得られた結晶性のナノセルロースをアセトンやトルエンなどの低誘電率有機溶媒中に懸濁し、固形分を低誘電率有機溶媒中において粉砕し、粉砕後に低誘電率有機溶媒を乾燥除去して結晶性ナノセルロースの粉末を得る方法が示される。さらに、この得られた粉末をふるいなどによって分粒して、微粒子を得てもよい。また、この微粒子の表面を塩酸や硫酸などにより表面処理してもよい。
【0029】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前述したジエン系ゴム100質量部に対して、この結晶性ナノセルロースを好ましくは0.1~40質量部、より好ましくは0.5~30質量部、さらに好ましくは1~25質量部、さらに好ましくは3~20質量部含有させるのが好適である。ジエン系ゴムに対する結晶性ナノセルロースの量が少なすぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物の氷上性能が向上しにくい傾向がある。また、ジエン系ゴムに対する結晶性ナノセルロースの量が多すぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物のコストが高くなり易い傾向がある。
【0030】
なお、この結晶性ナノセルロースは、水分散液としてゴム成分に添加、混合する必要があるアモルファスを含むナノセルロースとは異なり、粉体状のままゴム成分に添加、混合できることが大きな特徴である。
【0031】
<無機充填剤>
本発明のタイヤ用ゴム組成物に含まれる無機充填剤は、特に限定されないが、例えば、シリカ、カーボンブラック、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられ、これらのうち1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。そして、この無機充填剤の含有量は、前述したジエン系ゴム100質量部に対して20質量部以上となるようにする。
【0032】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物における無機充填剤の含有量は、限定されるものではないが、氷上性能および低燃費性能がより優れたものとなり、さらに耐摩耗性能、ウェット性能、機械的特性、耐熱性、耐寒性、耐劣化性、耐汚染性、耐光性、操縦安定性などもより優れたものとなることから、前述したジエン系ゴム100質量部に対して、50質量部超であるのが好ましく、60質量部以上であるのがより好ましく、70質量部以上であるのがさらに好ましく、80質量部以上であるのがさらに好ましい。上限も特に限定されないが、同様の理由から、200質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0033】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記効果がより優れたものとなることから、無機充填剤としてシリカおよび/またはカーボンブラックを含有するのがより好ましい。
このシリカおよびカーボンブラックは特に限定されず、タイヤ等の用途でゴム組成物に配合されている公知の任意のシリカおよびカーボンブラックを用いることができる。例えば、シリカの具体例としては、湿式シリカ、乾式シリカ、ヒュームドシリカ、珪藻土などが挙げられ、なかでも、湿式シリカを用いるのが好ましい。また、カーボンブラックの具体例としては、SAF-HS、SAF、ISAF-HS、ISAF、ISAF-LS、IISAF-HS、HAF-HS、HAF、HAF-LS、FEF等の各種グレードのものを使用することができる。そして、このシリカおよびカーボンブラックは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。そして、このカーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、特に制限されないが、本発明の効果がより優れることから、50~200m2/gであることが好ましく、70~150m2/gであることがより好ましい。
【0034】
ここで、この「シリカ」とは、二酸化ケイ素(SiO2)からなる、あるいは二酸化ケイ素を主成分とする(例えば80質量%以上、さらには90質量%以上含む)粒子物質を意味し、「カーボンブラック」とは、工業的に品質制御して製造された直径3~500nm程度の炭素微粒子を意味する。
また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に従って測定した値である。
【0035】
<芳香族変性テルペン樹脂>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族変性テルペン樹脂をさらに含むとより好ましい。芳香族変性テルペン樹脂の配合により、ウェット性能や氷上性能などをより改良することができるからである。特に、プロセスオイルが配合されたタイヤ用ゴム組成物において芳香族変性テルペン樹脂を含むものとすると、上記効果がより発揮され易いため好適である。なお、この芳香族変性テルペン樹脂には、テルペンフェノール樹脂は包含されない。テルペンフェノール樹脂では、低温時のゴム硬度を柔軟に維持することができないからである。
【0036】
芳香族変性テルペン樹脂は、テルペンと、フェノールを除く芳香族化合物と、を重合することにより得られる。テルペンとしては、例えばα-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネンなどが例示される。芳香族化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、インデンなどが例示される。このような芳香族変性テルペン樹脂は、ジエン系ゴムとの相溶性が良好である。
【0037】
また、この芳香族変性テルペン樹脂の水酸基価は、限定されるものではないが、30mgKOH/g以下であるのが好ましく、25mgKOH/g以下であるのがさらに好ましく、20mgKOH/g未満であるのがさらに好ましい。さらに、この芳香族変性テルペン樹脂のガラス転移温度は、20℃以上であるのが好ましく、20~80℃であるのがさらに好ましい。なお、芳香族変性テルペン樹脂の水酸基価は、JIS K1557-1:2007に準拠して測定されるものである。また、芳香族変性テルペン樹脂のガラス転移温度は、前述したジエン系ゴムのガラス転移温度と同様の方法で測定されるものである。
【0038】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前述したジエン系ゴム100質量部に対して、この芳香族変性テルペン樹脂を5~30重量部含むのが好ましく、8~20重量部含むのがより好ましい。芳香族変性テルペン樹脂の含有量が上記範囲外であると、ウェット性能や氷上性能などを十分に改良しにくい傾向がある。
【0039】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前述したジエン系ゴム100質量部に対する含有量の範囲内において、前述した結晶性ナノセルロースとこの芳香族変性テルペン樹脂との比率(質量比)を、結晶性ナノセルロース1質量部に対して、芳香族変性テルペン樹脂が0.2~20質量部となるようにするのがより好ましく、0.5~10質量部となるようにするのがさらに好ましく、0.8~5質量部となるようにするのがさらに好ましい。結晶性ナノセルロースの効果および芳香族変性テルペン樹脂の効果がいずれも十分に発揮され易いからである。
【0040】
<シランカップリング剤>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シランカップリング剤を含んでいてもよい。このシランカップリング剤は、加水分解性基および有機官能基を有するシラン化合物であれば特に限定されない。そして、この加水分解性基も限定されないが、例えば、アルコキシ基、フェノキシ基、カルボキシ基、アルケニルオキシ基などが挙げられ、アルコキシ基がケイ素原子と結合したアルコキシシリル基であることがより好ましい。加水分解性基がアルコキシシリル基である場合、そのアルコキシ基の炭素数は1~16であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などが挙げられる。
【0041】
また、有機官能基も限定されないが、有機化合物と化学結合を形成し得る基であればよく、例えば、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリル基、アミノ基、スルフィド基(特に、ポリスルフィド基(-Sn-:nは2以上の整数))、メルカプト基、ブロックメルカプト基(保護メルカプト基)(例えば、オクタノイルチオ基)などが挙げられ、なかでも、スルフィド基(特に、ジスルフィド基、テトラスルフィド基)、メルカプト基、ブロックメルカプト基が好ましい。
【0042】
そして、このようなシランカップリング剤を、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、このシランカップリング剤は、硫黄含有シランカップリング剤であることが好ましい。
【0043】
シランカップリング剤の具体例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル-メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル-メタクリレート-モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイル-テトラスルフィド、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0044】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、前述した無機充填剤100質量部に対して、このシランカップリング剤を2~20質量部含むことが好ましく、5~15質量部含むことがより好ましい。あるいは、前述した無機充填剤のうち、シリカ100質量部に対してシランカップリング剤を上記含有量としてもよい。
【0045】
<その他の成分>
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、プロセスオイル、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、レシチン、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤、加硫促進助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量含有させることができ、これらの添加剤を公知の方法で混練してタイヤ用ゴム組成物とすることができる。
【0046】
例えば、本発明のタイヤ用ゴム組成物におけるプロセスオイルの含有量は、前述したジエン系ゴム100質量部に対して10~50質量部であることが好ましく、15~45質量部であることがより好ましく、20~40質量部であることがさらに好ましい。これにより、ブタジエンゴムを所定量含む本発明のタイヤ用ゴム組成物の硬度を調整することができ、さらに、その加工性もより向上させることができる。また、加硫剤の含有量は、前述したジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.5質量部であることがより好ましい。さらに、加硫促進剤の含有量は、一次促進剤単独もしくは二次とのブレンドで前述したジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましい。
【0047】
<製造方法等>
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、常法にしたがえばよく、特段限定はされない。製造方法の一例としては、天然ゴムおよびブタジエンゴムを所定量含むジエン系ゴムと、結晶性ナノセルロースと、所定量の無機充填剤と、必要に応じて他の成分とを、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混錬機を用いて常温あるいは高温下で混練、混合することによりタイヤ用ゴム組成物を製造することができる。なお、加硫系成分(硫黄、加硫促進剤、加硫促進助剤など)を使用する場合には、これ以外の成分を先に高温下で混合し、冷却してから加硫系成分を混合するのが好ましい。
【0048】
以上のようにして得られた本発明のタイヤ用ゴム組成物は、結晶性ナノセルロースにより表面粗さが付与されて、氷上性能が非常に向上したものとなる。さらに、氷上性能が向上していながら、転がり抵抗指数が維持されており、低燃費性能も高いものとなる。これは、極細繊維ではないセルロース材料や、セルロースナノファイバーなどのアモルファスを含むナノセルロースを配合したタイヤ用ゴム組成物では、十分に得ることができない効果である。
【0049】
そして、この本発明のタイヤ用ゴム組成物を少なくとも路面と接するタイヤトレッド部(例えば図1の符号3の部分)に用いることにより、氷上性能および低燃費性能が優れた本発明のスタッドレスタイヤを得ることができる。また、タイヤトレッド部以外の部材(例えば図1の符号2のサイドウォール部など)にも本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いても構わない。なお、本発明のスタッドレスタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、およびその他の気体を使用することができる。
【0050】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例0051】
(タイヤ用ゴム組成物の作製および評価)
下記表1に示す組成のタイヤ用ゴム組成物を作製した。
【0052】
具体的には、まず下記表1の上段に示す質量部の各成分を、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて150℃付近まで温度を上げてから5分間混合した後、ミキサーから放出し、室温まで冷却してマスターバッチを得た。さらに、上記バンバリーミキサーを用いて、得られた各マスターバッチに硫黄(四国化成工業社製,ミュークロン OT-20)および加硫促進剤(大内新興化学工業社製,ノクセラーNS-P)を所定量混合して混錬し、これを所定の金型中において170℃10分間プレス加硫して、標準例、比較例1~3、および実施例1~5のタイヤ用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)を作製した。
【0053】
そして、得られた標準例、比較例1~3、および実施例1~5のタイヤ用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)について、以下のようにして氷上性能および転がり抵抗指数の評価を行った。
【0054】
<氷上性能>
得られた各加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、インサイドドラム型氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-3.0℃ 、荷重5.5kg/cm3、ドラム回転速度25km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。
この結果を下記表1の下段に示した。なお、結果は標準例の値を100とする指数で表した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能が優れる(氷上で止まり易い)ことを意味する。
【0055】
<転がり抵抗指数>
得られた各加硫ゴム試験片について、JIS K6394:2007に準拠し、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)を用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件におけるtanδを測定した。
この結果も下記表1の下段に示した。なお、結果は標準例の値を100とする指数で表した。この指数が大きいほどtanδが小さく、つまり転がり抵抗が小さい(低燃費性能が高い)ことを意味する。
【0056】
【表1】
【0057】
上記表1中における各成分の詳細な内容は以下の通りである。
・NR:天然ゴム(TSR20、ガラス転移温度(Tg):-62℃)
・BR:ブタジエンゴム(Nipol BR1220、ガラス転移温度(Tg):-105℃、日本ゼオン社製)
・カーボンブラック:ショウブラックN339(ギャボットジャパン社製)
・シリカ:Zeosil 1165MP(CTAB吸着比表面積:159m2/g、ローディア社製)
・シランカップリング剤:Si69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサ社製)
・プロセスオイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・芳香族変性テルペン樹脂:YSレジンTO-125(ガラス転移温度(Tg):79℃、ヤスハラケミカル社製)
・カルボキシメチルセルロース:CMCダイセル1220(ダイセルファインケム社製)
・セルロース粒子:多孔性セルロース粒子(ビスコパールミニ:平均粒径300μm、レンゴー社製)
・CNC1:セルロースナノクリスタル(分子内の水酸基が他の官能基に置換されていないセルロースナノクリスタル、フィラーバンク社製)
・CNC2:セルロースナノクリスタル(単位構成分子中の1つの水酸基が硫酸基に置換されたセルロースナノクリスタル、北越コーポレーション社製)
・CNC3:セルロースナノクリスタル(単位構成分子中の1つの水酸基が硫酸基に置換されたセルロースナノクリスタル、CelluForce社製)
【0058】
この結果から、芳香族変性テルペン樹脂を含む標準例のタイヤ用ゴム組成物との比較においても、実施例1~5のタイヤ用ゴム組成物は、結晶性ナノセルロースであるセルロースナノクリスタルにより表面粗さが付与されて氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数は低下しない(転がり抵抗が大きくならない)ことが明らかとなった。一方、結晶性ナノセルロースではないカルボキシメチルセルロースや多孔性セルロース粒子を含む比較例1、2のタイヤ用ゴム組成物は、この標準例との比較において、氷上性能がほとんど向上せず、さらに転がり抵抗指数が低下してしまう(転がり抵抗が大きくなってしまう)ことが明らかとなり、また、結晶性ナノセルロースを含まず、無機充填剤のシリカが増量された比較例3のタイヤ用ゴム組成物も、同様に、氷上性能がほとんど向上せず、一方で転がり抵抗指数は低下してしまうことが明らかとなった。
【0059】
以上の結果より、ゴム成分として天然ゴムとブタジエンゴムとを所定量含み、表面粗さを付与することが可能な結晶性ナノセルロースを含み、さらに無機充填剤を所定量含むタイヤ用ゴム組成物とすることにより、氷上性能がより向上し、且つ転がり抵抗指数も維持されたものとなることが示された。
【符号の説明】
【0060】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 タイヤトレッド部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 リムクッション
図1